レーザ照射装置及びレーザ照射方法
【課題】出力安定性、保守性に優れ、かつ、省スペース化、低ランニングコスト化が実現可能なレーザ照射装置及びレーザ照射方法を提供する。
【解決手段】レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置。
【解決手段】レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットディスプレイの製造システムに好適なレーザ照射装置及びレーザ照射方法及び改質された照射対象物の製造方法に関し、特に、絶縁基板上に形成したアモルファスシリコン(非結晶質)やポリシリコン(多結晶質)にレーザ光を照射してシリコン膜の改質を行うフラットディスプレイの製造システムに好適なレーザ照射装置及びレーザ照射方法並びに改質された照射対象物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のディスプレイ装置は、表示素子として液晶素子を使用し、この液晶素子(画素素子)や該液晶素子のドライバ回路は薄膜トランジスター(Thin Film Transistor。以下、「TFT」と呼ぶ。)により構成されている。このTFTは、製造過程においてガラス基板上に形成したアモルファスシリコンをポリシリコンに改質する工程が必要である。尚、本明細書において「改質」とは、アモルファスシリコンをポリシリコンに変化させることに限られるものではなく、ある物質の物理的特性を変化させることを言う。
【0003】
この改質工程は、レーザ照射によるシリコン膜の改質を行うものであり、図11に示す如く、石英ガラスや無アルカリガラスの絶縁基板(マザーガラス)72上に、絶縁基板72からの不純物の混入を阻止するアンダーコート膜(SiO2)73を形成する工程と、アンダーコート膜73上にアモルファスシリコン膜面74を形成する工程と、高出力レーザを光源とし、アモルファスシリコン膜面74に線状レーザビーム75を照射する工程と、レーザビーム75をその短手方向に走査74Aさせることによりアモルファスシリコン膜面74をポリシリコン74Bに改質する工程と、TFTを構成する位置のみポリシリコンを切り出す工程と、その上にゲート酸化膜(SiO2)を形成し最上部にゲート電極を取り付ける工程と、酸化膜(SiO2)に所定の不純物イオンを注入してソース/ドレインを形成する工程と、ソース/ドレインにアルミ電極を立て全体を保護膜で被うことによりTFTを形成する工程からなる。尚、絶縁基板72とアンダーコート膜73の間にSiN又はSiONを挟み込んでもよい
ここで、線状レーザビームとは、照射面上に縦横比が相当大きい略長方形状、楕円形状又は長円形状のレーザスポットを形成するレーザビームのことをいう。
【0004】
前記レーザ照射によるシリコン膜の改質工程は、エキシマレーザを用いるエキシマレーザアニールが一般的であり、シリコン膜に光吸収率の高い波長308nmでパルス幅が数十nsのXeClエキシマレーザを照射し、160mJ/cm2の比較的低いエネルギー注入によりシリコン膜を一気に融点まで加熱することによりポリシリコン膜を形成している。前記エキシマレーザは、数百Wの大出力を持ち、長方形マザーガラスの一辺以上の幅を持つ大型線状レーザスポットを形成させることができ、マザーガラス上に形成したシリコン膜全面を一括で効率よく改質できるといった特徴をもつ。このエキシマレーザによるシリコン改質では、TFTの性能に強く影響を与えるポリシリコンの結晶粒径が100nmから500nmと小さく、TFT性能の指標である電界効果移動度は150cm2/V・s程度に留まることができる。
【0005】
近年、フラットディスプレイ上の画素子やドライバ回路以外に、コントロール回路やインタフェース回路、更には演算回路など高機能回路を搭載するシステム・オン・ガラスが提案され、一部実現している。このような高機能回路を形成するTFTは高性能なものが要求され、良質(大型結晶粒)なポリシリコン改質が必須である。この良質なポリシリコン改質に関する技術が記載された文献としては下記特許文献が挙げられる。
特許文献1には、光源に半導体励起用の固体レーザを用いて連続発光(CW;Continuous Wave)しながらシリコン膜上に照射したレーザビームを走査させることにより、走査方向に細長い大型結晶粒をもつ良質なアモルファスシリコン膜を形成することや、高性能TFTが必要な箇所に予めアモルファスシリコンを線状(リボン状)又は島状(アイランド状)にパターニングしておくことにより、300cm2/V・s以上の電界効果移動度が得られ、高性能TFTを形成することが記載されている。
特許文献2には、半導体励起用連続発光固体レーザを用いて走査方向に細長い大型結晶粒を形成する方法として、シリコン膜上に形成した線状レーザスポットの走査方向幅と走査速度の関係を規定したものが記載されている。特許文献2に記載されている主な固体レーザは、波長が532nmのNd:YVO4レーザ又はYAGレーザの第二高調波固体レーザである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−86505号公報
【特許文献2】特開2005−217214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したエキシマレーザアニールでは、光源となるエキシマレーザ発振器がガスレーザであるが故、レーザ出力に不安定性が生じやすく、基板上シリコン膜に対し均一な改質が困難となり、局所的にTFT性能の偏りが生じ易くなるという問題点があった。また、レーザ発振を重ねるごとにレーザ発振管及び光学部品や充填ガス等の劣化が進み、改質のむらである改質班が生じ易いため、これを防止すべく短期的なメンテナンスが必要となり、ランニングコストの上昇や保守性・生産性の低下は避けられないという問題点もあった。さらには、エキシマレーザ照射装置は装置サイズが大きく高価であるという問題点もあった。
【0008】
一方、上記の特許文献に記載された半導体励起用の固体レーザを用いた装置は、上記の通り第二高調波を利用しているため、装置投入パワーに対し光出力パワーが小さく光変換効率が十分でないと言う不具合があった。さらに、固体レーザを用いた装置は、出力レーザ波長が532nmであり、シリコンの光吸収ピーク値(300nm付近)から大きく離れているため、シリコン膜の光エネルギー吸収率が大きくなく、したがって、装置投入エネルギーに対しシリコン改質エネルギーが小さくなり、エネルギー変換効率が低くなってしまうという問題点もあった。さらに、上記装置において、シリコン膜が結晶化すると光吸収が大幅に減少するため、結晶化が不完全になりやすく、広範囲照射のために照射位置を動かして照射する場合、光スポットのエッジ部分で結晶状態が異なり、特性が異なるという問題点があった。
【0009】
本発明は、前述の従来技術によるレーザ照射装置が有する問題点に鑑みてなされたものであり、照射効果の面内均一性、出力安定性、保守性に優れ、かつ、省スペース化、低ランニングコスト化が実現可能なレーザ照射装置及びレーザ照射方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者らは、厚さ数十nm〜百nmのシリコン膜にレーザ光を照射する場合、波長450nm付近で多重反射が生じ得るという知見に基づき、分光光度計を用いて所定波長範囲における吸光度を測定する実験を行うことにより、シリコン膜が結晶化しても光吸収が小さくなり過ぎず最も照射効果の高いレーザ波長範囲を特定することに成功し、以下に詳述する本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射装置であって、レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を提供するものである。
【0012】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子は、レーザ波長が445nmのレーザ光を発光することを特徴とする。また、前記レーザ発光素子は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする。あるいは、前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であってもよい。
【0013】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子の各々から発光されるレーザ光を導光する光ファイバと、当該光ファイバを平行に整列させて保持する直線バンドルと、前記光ファイバのレーザ発光素子群とは反対側の端から出射されるレーザ光を線状スポット光となるよう整形し、光強度分布を平滑化して出射する光補整器と、当該光補整器から出射されたレーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズとを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のレーザ照射装置において、前記光補整器及び前記対物レンズは、短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットが照射対象物の照射面上に形成されるようレーザ光を整形及び集光することを特徴とする。
【0015】
本発明のレーザ照射装置において、照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整する焦点調整手段とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明のレーザ照射装置において、前記フォーカスエラー検出手段が、波長400nm〜900nmのレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とする。
【0017】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする。
【0018】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明のレーザ照射装置において、照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを、照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させるスポット回転手段を有することを特徴とする。
【0020】
本発明は、また、レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子又は素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射方法であって、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながら照射対象物にレーザ照射を行うレーザ照射方法を提供するものである。
【0021】
本発明のレーザ照射方法において、レーザ波長が445nmのレーザ光を用いて照射対象物にレーザ照射を行うことを特徴とする。
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする。
【0022】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であることを特徴とする。
【0023】
本発明のレーザ照射方法において、基板上に薄膜状に形成された厚さ30nm〜80nmのシリコン膜にレーザ照射を行うことを特徴とする。
短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットを照射対象物に照射することを特徴とする。
【0024】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ照射装置は、照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、レーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズと、前記対物レンズを照射面に対して近接又は離隔する方向に移動させる手段とを有しており、前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整することにより前記線状レーザスポットの焦点調整を行うことを特徴とする。
【0025】
本発明のレーザ照射方法において、前記フォーカスエラー検出手段が、波長400nm〜900nmのレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とすることを特徴とする。
【0026】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ照射装置は、前記レーザ素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする。
【0027】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする。
【0028】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子制御手段は、照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを回転させるスポット回転手段を有しており、線状レーザスポットを照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させることを特徴とする。
【0029】
本発明は、また、上記した本発明のレーザ照射装置又はレーザ照射方法を用いて、アモルファスシリコン膜を改質する方法であって、厚さ30nm〜80nmのアモルファスシリコン膜に対して、当該アモルファスシリコン膜の膜厚と同一の光侵入長又は当該膜厚の50%〜150%の光侵入長を有するレーザ波長のレーザ光を照射することによりアモルファスシリコン膜を改質する方法を提供するものである。
【0030】
本発明は、また、非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化装置であって、レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子又は素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するシリコン結晶化装置を提供するものである。
【0031】
本発明のシリコン結晶化装置において、前記レーザ発光素子群と、前記集光手段を含む光ヘッド部とを分離して配置し、前記レーザ発光素子群の各レーザ発光素子から発光されるレーザ光を前記光ヘッド部に導光する屈曲性を有する光ファイバ有していることを特徴とする。
【0032】
本発明は、また、レーザ波長が430nm〜470nmのレーザ光を発光する単一又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子又は素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化方法であって、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うシリコン結晶化方法を提供するものである。
【0033】
本発明のシリコン結晶化方法において、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
以上、説明したように、本発明によれば、出力安定性、保守性に優れ、かつ、省スペース化、低ランニングコスト化が実現可能なレーザ照射装置及びレーザ照射方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態にかかるレーザ照射装置の基本構成を説明するための図である。
【図2】図1に示すレーザ照射装置において用いるフォーカス制御系を説明するための概略図である。
【図3】図1に示すレーザ照射装置におけるスポット回転を説明するための模式図である。
【図4】図1に示すレーザ照射装置においてレーザ強度分布検出とレーザ出力制御を行う方法を説明するための概略図である。
【図5】図4に示すレーザ照射装置におけるレーザ強度分布制御方法の具体例を説明するための図である。
【図6】図1に示すレーザ照射装置を用いて液晶ディスプレイのガラス基板上に形成したアモルファスシリコンをポリシリコンに改質することにより液晶ディスプレイを製造する工程におけるレーザ照射方法について説明するための図である。
【図7】ディスプレイとレーザ走査位置の関係を説明するための図であり、図中(a)にディスプレイ、(b)にマザーガラスを示している。
【図8】システム・オン・ガラスディスプレイを説明するための図である。
【図9】本発明の実施例におけるシリコン膜面の吸光度測定の実験の測定結果から得られた波長ごとの光吸収率を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例におけるシリコン膜面の吸光度測定の実験の測定結果から得られた波長ごとの光吸収率を示す表である。
【図11】レーザ照射によるシリコン膜の改質工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0037】
1.レーザ照射装置の基本構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるレーザ照射装置の基本構成を説明するための図である。
図1において、本実施形態のレーザ照射装置は、複数の半導体レーザ素子1からなるレーザ発光素子群1Aと、各半導体レーザ素子1から出射されたレーザ光をガイドする複数の光ファイバ2と、各光ファイバ2を平行に整列させる直線バンドル3と、各光ファイバ2から出射されるレーザ光を補整する光補整器4と、光補整器4から出射されるレーザ光を集光する対物レンズ5とから構成されている。尚、単一の半導体レーザ素子1を用いてもよい。
【0038】
各半導体レーザ素子1は、レーザ波長が390nm〜470nmで、出力数が百mW〜数Wの青色レーザ光を発光する青色半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子1は小型であるため多数配置することができ、その配置数に応じて所望の出力を得ることができる。
【0039】
光ファイバ2は、波長370nm〜480nm(より好ましくは390nm〜470nm)のレーザ波長を効率よく伝送する特性を持ち、コア半径が細い方が好ましく、φ50um以下がより好ましい。
図示しないが、各光ファイバ2は、レーザ光を絞り込むためのレセプタクルモジュール(コネクタ)を有している。レセプタクルモジュールは、半導体レーザ素子1の照射部近傍に取り付けられており、光ファイバ2にレーザ光を絞り込み、カップリング効率を高めるものが好ましい。
【0040】
前記直線バンドル3は、光ファイバ2の半導体レーザ素子1側と反対側の端を一列に直線的に並べるためのものであり、隣り合う光ファイバ2を接近させて又は隙間なく配置する機能と、各光ファイバ2の中心軸の平行度を高精度で合わせる機能と、各光ファイバ2の中心軸と垂直な面において、各光ファイバ2の前記反対側の端面を凸凹なく高精度で揃える機能とを有する。
【0041】
光補整器4は、直線バンドル3内の光ファイバ2群の前記反対側の端面から略直線状に出射されるレーザ光6に対し、長手方向レーザ強度分布のトップフラット化を行う機能と、対物レンズ5が照射対象物(図示せず)のシリコン膜面上に形成するレーザスポットの短手方向幅dが所定値になるようビーム形状を整形する機能とを有するものである。光補整器4は、複数のシリンドリカルレンズを配置したいわゆるホモジナイザーで構成してもよい。
対物レンズ5は、光補整器4をから出射されるレーザ光7を照射対象物のシリコン膜面上に強く絞り込むものである。
【0042】
以上のように構成された本実施形態のレーザ照射装置は、比較的微弱な出力の青色半導体レーザ素子1を多数連ねることにより、青色波長(波長370nm〜480nm、特に390nm〜470nm)において高パワー密度で、かつ、長手方向レーザ強度分布がトップフラットな線状レーザスポット8を照射対象物のシリコン膜面上に形成することができる。この線状レーザスポット8の形状は、主に光補整器4及び対物レンズ5により調整されるものであり、短手方向幅dが1um〜30um、長手方向幅Lが0.2mm〜30mmとすることが好ましい。
【0043】
本実施形態のレーザ照射装置は、シリコン膜面上で線状レーザスポット8を短手方向に走査することにより照射を行うものであるが、線状レーザスポット8の短手幅dを長くするとシリコン膜面に対する照射時間が長くなり、シリコン膜を剥離させたりダメージを与えたり、あるいは、レーザパワー密度が低下して良好な改質ができなくなることとなる。このため、線状レーザスポット8の短手幅dは、1um〜30umとするのが好ましい。長手幅Lは、照射対象物である高機能回路等の幅に応じて設定すればよいが、近年の長方形マザーガラスの大型化により、実用的には0.2mm〜30mmとするのが好ましい。
【0044】
上記したように、本実施形態のレーザ照射装置において、レーザ光の総照射パワーは半導体レーザ素子1の配置数によって調整されるが、6W〜200Wの総照射パワーとするのが好ましい。本実施形態のレーザ照射装置では、青色半導体レーザ素子が発光するレーザ光の390nm〜470nmにおいてアモルファスシリコンの光吸収率が極めて高い(例えば、波長が532nmの固体グリーンレーザを用いた場合の約6倍の光吸収率)ことから、固体グリーンレーザやエキシマレーザを用いる場合に比べてエネルギー効率が高く、総照射パワーの下限値を6Wまで下げることが可能となっている。一方で、投入レーザパワーが過剰に高いとシリコン膜表面が粗くなったり、シリコン膜の剥離やアンダーコート膜へ熱的ダメージを与えたりすることとなるが、近年の長方形マザーガラス大型化によりレーザスポット寸法形状を上記範囲とする場合には、総照射パワーの上限値は200Wとするのが好ましい。
【0045】
本実施形態のレーザ照射装置において、レーザ波長の上限として480nmを選択した理由は、一般にガラス基板上に形成するシリコン膜の厚さは典型的には約50nm(実際には30〜80nmの範囲)であり、一方で、アモルファスシリコンが光吸収特性として波長480nm付近での光侵入長(光強度が1/eに減衰する表面からの距離)が50nmであることから、シリコン膜の加熱効率(シリコン結晶化効率)を考慮して、照射対象であるシリコン膜厚と同等の光侵入長をレーザ波長の上限として選定している。これにより、本実施形態のレーザ照射装置では、シリコン膜の深さ方向の結晶成長を抑制(微結晶成長阻止)しつつ、横方向(シリコン膜の面方向)の結晶成長を促進することができ、結果として、大粒径の結晶生成を効率よく行うことができる。すなわち、シリコン膜に効率よく光吸収させながら大粒径の結晶生成を行うことができる。
【0046】
もしレーザ波長を481nm以上を選択した場合、照射光がシリコン膜を透過し、シリコン膜の加熱効率(シリコン結晶効率)が急激に低下すると考えられるが、シリコン膜の厚さに応じてレーザ波長を調整してもよい。即ち、シリコン膜の厚さが約50nmの場合のレーザ波長が480nmであることを基準とした場合、該シリコン膜の厚さが50nmより薄い場合はレーザ波長の上限を480nmより低くし、シリコン膜の厚さが50nmより厚い場合はレーザ波長の上限を480nmより高くすることとしてもよい。
【0047】
このように、本実施形態のレーザ照射装置において用いるレーザ光の波長は、シリコン膜厚に応じて任意に選択することができ、例えば膜厚が17nm程度のシリコン薄膜に対しては370nm程度のレーザ波長が膜厚と同等であるため特に有効である。ここで、「同等」とは、光侵入長と膜厚とが同一の場合からプラスマイナス50%の範囲を含み、この範囲においては、少なくともレーザ光が膜厚の底面付近まで達し、シリコン膜の深さ方向の結晶成長を抑制(微結晶成長阻止)しつつ、横方向(シリコン膜の面方向)の結晶成長を促進することが確認されている。
【0048】
尚、後述するように、シリコン膜に対するレーザ光照射実験を行うことにより、本実施形態のレーザ照射装置において膜厚50nmのシリコン膜に対しては特に390nm〜470nmのレーザ波長においてシリコン膜のレーザ光吸収率が極めて高く、効率のよい照射を行うことができることが発見されている。
【0049】
2.レーザ照射装置のフォーカス制御系
図2は、本実施形態のレーザ照射装置において用いるフォーカス制御系を説明するための概略図である。
図2において、レーザ照射装置は、複数の半導体レーザ素子9からなるレーザ発光素子群9Aと、各半導体レーザ素子9から出射されたレーザ光をガイドする複数の光ファイバ10と、各光ファイバ10を平行に整列させる直線バンドル11と、各光ファイバ10から出射されるレーザ光を補整する光補整器12と、光補整器12から出射されるレーザ光を集光する対物レンズ13とから構成されている。これら構成部品は図1に示したレーザ照射装置のものと同様の構成及び機能を有する。
【0050】
このレーザ照射装置に用いられるフォーカス制御系は、フォーカス制御用半導体レーザ素子14と、フォーカス制御用半導体レーザ素子14から発光されるレーザ光23を平行光24に整形するコリメートレンズ15と、コリメートレンズ15を通じて受光される平行光24を透過し、レーザ照射装置からの戻り光を分離する偏光ビームスプリッタ16と、通過するレーザ光を波長に応じて分離する波長分離板24Aと、フォーカス制御用のレーザ光24及び照射用のメインレーザ光26を透過/反射させるビームスプリッタ17と、フォーカス制御用のレーザ光24及び照射用のメインレーザ光26を照射対象物の照射面上に集光する対物レンズ13と、偏光ビームスプリッタ16により分離された戻り光を通過させる凸レンズ18と、凸レンズ18を通じて受光される戻り光に基づいてフォーカス信号を生成するフォーカス信号生成器19と、位相補償回路20と、対物レンズ13を照射対象物の照射面に対して近接及び離隔する方向(矢印25方向)に駆動するボイスコイルモータ(以下VCM)22と、VCM22を駆動するVCMドライバ21とから構成されている。
【0051】
フォーカス制御系におけるビームスプリッタ17及び対物レンズ13は、レーザ照射装置内に設けられた照射用の構成部品を共用するものとする。また、図示しないが、フォーカス制御系は、1/4波長板等の光学部品を必要に応じて必要な箇所に備えているものとする。
【0052】
本実施形態のレーザ照射装置に用いるフォーカス用制御系において、フォーカス制御用半導体レーザ素子14は、メインレーザ光26の青色(波長370nm〜480nm)とは異なる波長のレーザとするため、波長が650nmの半導体レーザ素子を用いることが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、波長が350nm〜900nmのメインレーザ光波長より波長の短いバイオレットや、メインレーザ光波長より波長が長いグリーン/レッド波長を発する半導体レーザ素子を用いてもよい。
【0053】
前記波長分離版24Aは、赤色波長(波長650nm)のレーザを透過させ、青色波長(波長370nm〜480nm)を反射させる特性をもつが、これに限られるものではなく、前記フォーカス制御用半導体レーザ素子14の波長のみを透過させ、前記青色波長(波長370nm〜480nm)のレーザ光を反射させる特性を持つものを選定すればよい。即ち、メイン系のレーザ波長からずらしたレーザ波長を用いることにより、一旦メイン光と交じり合ったフォーカス用ビームを再度、分離抽出することができることを利用し、メイン/フォーカス系の波長色を選定すればよい。
【0054】
前記フォーカス信号生成器19は、照射対象物のシリコン膜面(図示せず)に照射したフォーカスビーム(波長650nm)27が、シリコン膜面にて反射され、対物レンズ13、ビームスプリッタ17、波長分離版24A、1/4波長板(図示せず)、偏光ビームスプリッタ16、凸レンズ18を通じて戻ってきたレーザ光29を受光し、これに基づいてフォーカスエラー信号23を生成する。このフォーカスエラー信号23により、照射対象物シリコン膜面上に形成したメイン系の線状レーザビーム28の焦点ぼけが検出できるようになっている。
【0055】
上述のフォーカス制御用半導体レーザ素子14のレーザ波長をメインレーザ系26の青色(波長370nm〜480nm)とは異なる波長のレーザとしたが、本発明はこれに限ることなく、フォーカス制御用半導体レーザ素子14のレーザ波長をメインレーザ系26と同一波長とし、シリコン膜面にて反射した反射成分のみ抽出し同様の方法で、フォーカス信号を生成してもよい。この場合、波長分離版24Aは不要となる。
【0056】
また、上述の如くフォーカス制御用半導体レーザ素子14を設けたが、メインレーザ系26のレーザ光のみ照射しシリコン膜面からの反射成分のみ抽出し、フォーカス信号を生成してもよく、この場合はフォーカス制御用半導体レーザ素子14は不要となる。
【0057】
VCMドライバ21は、VCM22に取り付けられた対物レンズ13を容易に矢印25方向に高速駆動できる能力を持ち、前記位相補償回路20は、フォーカス信号生成器19から出力したフォーカスエラー信号特性(フォーカス感度)とVCMのf−特性から、所定のフォーカスサーボ特性でかつ安定系が得られるように調整することにより、安定したオートフォーカス制御を行うことができ、シリコン膜と装置の間隔が相対的に変化した場合でも、前記線状レーザビーム28の形状変化を抑止できシリコン改質の安定化を図ることができる。本実施形態では対物レンズ13を矢印25方向に駆動する手段としてVCM22を用いる例を説明したが、対物レンズ13の駆動手段はこれに限られることはなく、例えば、電圧の印加により力を発生する圧電素子(ピエゾ素子)を用いてもよい。
【0058】
3.スポット回転
図2に示すレーザ照射装置において、光補整器12はレーザスポットを回転させるためのスポット回転器30を有している。図3は、このスポット回転器30によるスポット回転を説明するための模式図である。
図3に示すように、スポット回転器30を用いて照射対象物のシリコン膜面上に形成した線状レーザスポット32を90°回転させて線状レーザスポット33とすることができる。また、スポット回転器30は、線状レーザスポット32を0°から90°の範囲で任意の角度に回転させることができる。このスポット回転による作用効果については後述する。
【0059】
4.レーザ強度分布検出とレーザ出力制御
【0060】
図4は、本実施形態のレーザ照射装置においてレーザ強度分布検出とレーザ出力制御を行う方法を説明するための概略図である。
図4において、レーザ照射装置は、複数の半導体レーザ素子34からなるレーザ発光素子群34Aと、各半導体レーザ素子34から出射されたレーザ光をガイドする複数の光ファイバ35と、各光ファイバ35を平行に整列させる直線バンドル36と、各光ファイバ35から出射されるレーザ光を補整する光補整器37と、光補整器37から出射されるレーザ光を集光する対物レンズ38とから構成されている。これら構成部品は図1に示したレーザ照射装置のものと同様の構成及び機能を有する。
また、レーザ照射装置は、レーザ強度分布検出手段及びレーザ出力制御手段として、ビームスプリッタ39と、集光レンズ40と、ラインセンサ41と、マイクロプロセッサ42とを備える。
【0061】
ビームスプリッタ39は、対物レンズ38に向かうメインビームの光量に対し数%の光量を集光レンズ40側に反射させ、ラインセンサ41は、寸法数十um程度の光量検出器が直線状に複数個配列し、集光レンズ40により集光した線状レーザビームの長手方向のレーザ強度分布を検出できるように配置してある。ラインセンサ41は、検出したレーザ強度分布を電気信号に変換し、マイクロプロセッサ42に出力する。マイクロプロセッサ42は、ラインセンサ41から入力された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換機能と、変換されたデジタルデータを所定のデータと比較する比較演算機能と、この比較演算結果に応じて各半導体レーザ素子34の出力を制御する機能とを有する。
【0062】
レーザドライバ43は、各半導体レーザ素子34とマイクロプロセッサ42と接続線上に設けられ、マイクロプロセッサ42からの制御信号に基づいて、各半導体レーザ素子34の動作を制御する。尚、ラインセンサ41がAD変換機能を有し、デジタルデータをマイクロプロセッサ42に出力するようにしてもよい。
【0063】
ラインセンサ41が検出する線状レーザスポットの長手強度分布は、対物レンズ38を透過してシリコン膜面上に形成される線状レーザスポットの長手強度分布と一致するのが好ましいが、完全に一致しなくてもよい。本実施形態のレーザ照射装置では1次元ラインセンサを用いたが、これに限られることはなく、例えば2次元CCDであってもよい。
【0064】
5.レーザ強度分布制御方法
図5は、図4に示すレーザ照射装置におけるレーザ強度分布制御方法の具体例を説明するための図である。図5に示すグラフは、ラインセンサ41において検出されるレーザ強度分布を示すものであり、横軸は線状レーザスポット長手方向位置を示し、縦軸はレーザ出力を示している。
図5の(a)は、シリコン膜面上に形成する線状レーザスポット強度分布が最良の場合を示し、(b)はシリコン膜面上に形成する線状レーザスポット強度分布が悪化した場合を示す。線状レーザスポット強度分布が最良とは強度分布のトップ部がフラットで広いことである。線状レーザスポット強度分布が最良状態であれば、シリコン膜に均一なレーザビームを照射でき、シリコンの改質斑を低減することができる。
【0065】
次いで、本実施形態のレーザ照射装置におけるレーザ強度分布の制御方法を説明する。まず、マイクロプロセッサ42が、図5(a)のレーザ強度分布44を予めメモリに格納し記憶しておき、ラインセンサ41が検出したレーザ強度分布をレーザ強度分布44と比較演算し、レーザ強度分布44と同じになるよう各々の半導体レーザ素子34の出力(パワー)を制御する。また同時に、レーザ光の総パワーはレーザ強度分布の面積に比例するため、マイクロプロセッサ42は予め設定されたレーザ出力に対応した面積になるよう各々の半導体レーザ素子34の出力を制御する。
【0066】
本実施形態のレーザ照射装置においては、上記のようなレーザ強度分布制御方法を用いることにより、一部の半導体レーザ素子34が特性変化した場合でも安定したレーザ強度分布が得られる。また、レーザ強度分布44からの補正値に所定閾値を設けておけば半導体レーザ素子34の劣化を検出することもできる。
【0067】
6.レーザ出力制御
本実施形態のレーザ照射装置におけるマイクロプロセッサ42は、半導体レーザ素子34によるレーザ光の出力値を時間的に継続して一定値に保つように出力制御を行うものである。しかしながら、本実施形態のレーザ照射装置におけるマイクロプロセッサ42は、各半導体レーザ素子34によるレーザ光の出力値を時間的に断続して出力するパルス出力制御機能を有してもよい。
このパルス出力制御機能を有するマイクロプロセッサ42は、レーザドライバ43が、発振周波数を0.1MHz〜5MHz、パルスデューティを10%〜90%、パルストップパワー(Pt)とパルスボトムパワー(Pb)の比率(Pb/Pt×100)を50%以下の条件においてパルス発光するように半導体レーザ素子34を駆動制御することが望ましい。
【0068】
ここでパルスデューティとは、パルス出力を停止する時間であるパルストップ出力時間(Tt)とパルス周期(T)の比率(Tt/T×100)である。このパルス出力制御機能は、現在のエキシマレーザ素子や固体レーザ素子を用いた技術では不可能であり、本実施形態のレーザ照射装置において半導体レーザを用いるがゆえに容易に実現できるものである。
【0069】
また、前記発振周波数を0.1MHz〜5MHzとする理由は、レーザスポットの短手方向にレーザスポットを100mm/s〜3m/sの線速度にてシリコン膜面上を走査するとき、レーザスポットの短手方向の幅が1um〜30umにおいても照射スポット(パルストップパワー)が重なり合い、隙間無くレーザ照射を行うためである。また、前記パルスデューティを10%〜90%とした理由は、シリコン膜への照射投入エネルギーを調整できるようにするためである。さらに、パルストップパワー(Pt)とパルスボトムパワー(Pb)の比率(Pb/Pt×100)を50%以下とした理由は、パルストップパワー(Pt)にてシリコン膜が溶融しパルスボトムパワー(Pb)にてシリコンが溶融しないことが好ましく、この熔解を防止するためには50%以下とするのが確実であるからである。
【0070】
このパルス出力制御機能を有するマイクロプロセッサ42は、シリコン膜面上をレーザスポットをパルス照射させながら走査させることにより、シリコン膜へ投入する照射エネルギーを緩和して、シリコン膜のダメージの軽減、及びシリコン膜の過剰過熱や昇華を抑止することができる。また、本実施形態のレーザ照射装置におけるマイクロプロセッサ42は、レーザスポットの走査速度や、レーザ発振周波数や、パルスデューティや、パルストップ出力とパルスボトム出力などの各種条件を調整することにより、結晶成長をコントロールでき、結果として所望の結晶サイズの結晶を得ることができる。
【0071】
7.液晶ディスプレイ製造のためのレーザ照射方法
次いで、本実施形態のレーザ照射装置を用いて液晶ディスプレイのガラス基板上に形成したアモルファスシリコンをポリシリコンに改質することにより液晶ディスプレイを製造する工程におけるレーザ照射方法について説明する。図6は、このレーザ照射方法を説明するための図である。
【0072】
本レーザ照射方法は、まず、シリコン膜が形成してある絶縁基板46をX−Yステージ47上に搭載する。X−Yステージ47はX方向およびY方向の任意の位置へ位置決めが可能であり、X方向およびY方向に任意速度で移動させることができる。前記図1乃至図4のいずれかのレーザ照射装置48を用いてレーザ光を照射し、シリコン膜面上に線状レーザスポット50を形成する。線状レーザスポット50の短手方向に線状レーザスポット50が所定走査速度で走査するようにX−Yステージ47を制御する。
【0073】
次いで、レーザ照射方法は、線状レーザスポット50の長手方向がX方向と平行になるように配置してY方向に走査51を行う。X方向に所定走査速度で走査する場合は、上述した図3に示す方法によりスポット回転させる。この様に本実施形態によるレーザ照射方法は、レーザ照射装置48全体を回転させる必要はなく、容易にスポット回転させることができる。
【0074】
尚、本レーザ照射方法においては、シリコン膜が形成してある絶縁基板46が移動し線状レーザスポット50を走査51させているが、これに限ることなくレーザ照射装置48をX方向、Y方向に移動させ相対的に線状レーザスポット50を走査51してもよい。この場合、前記図1乃至図4のいずれかのレーザ照射装置48において、レーザ発光素子群1A、9A、34Aを離れた場所に独立に固定設置しておき直線バンドル以下の光学系のみを移動させてもよい。光ファイバ2、10、35は一般に屈曲性を持つため可能となる。また、レーザ照射装置48とシリコン膜が形成してある絶縁基板46の両方を移動させ相対的に線状レーザスポット50を走査51してもよい。
【0075】
8.ディスプレイとレーザ走査位置の関係
【0076】
図7は、ディスプレイとレーザ走査位置の関係を説明するための図であり、図中(a)にディスプレイ、(b)にマザーガラスを示している。マザーガラス上には複数のディスプレイが形成されるものとする。
【0077】
本実施形態のレーザ照射装置を用いたレーザ照射によるディスプレイ製造工程において用いられるディスプレイ53は、画素部53Aと、X方向の(液晶)画素を駆動するXドライバ回路55と、Y方向の(液晶)画素を駆動するYドライバ回路56とを有している。Xドライバ回路55とYドライバ回路56は、前述したように液晶ディスプレイ装置においては高性能TFTにより構成する必要があり、高品質なポリシリコンが形成されていることが要求される。
【0078】
本実施形態のレーザ照射装置によるレーザ照射方法は、Xドライバ回路55とYドライバ回路56のシリコン改質に適用できる。具体的には、線状レーザスポット57,58をXドライバ回路55及びYドライバ回路56を形成する位置に合わせて走査59,60する。1つのドライバ回路形成部分に対して必要に応じ複数回に分けて走査してもよい。また、ディスプレイ53を切り出す前のマザーガラス52に対して、線状レーザスポットを走査62、63、64、65させてシリコン改質処理を行うのが効率的である。
【0079】
9.システム・オン・ガラスディスプレイ
【0080】
図8は、システム・オン・ガラスディスプレイを説明するための図である。
図8において、システム・オン・ガラスディスプレイ上には、Xドライバ回路67、Yドライバ回路68の他に、コントロール回路69やインタフェース回路70、さらにはメモリ回路(図示せず)や演算回路71などの高機能集積回路が形成されている。このような高機能集積回路は高品質なポリシリコンが形成されていることが要求されるが、図7に示すXドライバ回路とYドライバ回路のレーザ照射によるシリコン改質方法と同様の方法を用いることにより、システム・オン・ガラスディスプレイ上に高品質のポリシリコンを形成することができる。
【0081】
本実施形態では、絶縁基板として石英ガラスや無アルカリガラスを例にあげたが、これらに限られることはなく、プラスチック基板や屈曲可能なプラスチックシートであってもよい。また、本実施形態では、液晶ディスプレイを製造する例を説明したが、この例に限られることはなく、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどの製造にも適用することができる。
【0082】
以上述べたように、本実施形態のレーザ照射装置は、低出力の複数の青色半導体レーザ素子から出力したレーザ光を光ファイバにより効率よく1箇所に集中でき、レーザ光のパワーの高密度化を図ることができる。光ファイバのレーザ光出力側とは反対側の端を直線的にバンドル配置しているので、直線的な高密度レーザ出力が容易に得られた後、光補整器と対物レンズを通しているので、シリコン膜面上にトップ部がフラットなレーザ強度分布で且つ高密度な線状レーザスポットを形成することが可能となる。
【0083】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置では、照射対象物のシリコン薄膜上に形成する線状レーザスポットの短手方向幅を1um〜30umとし、かつ、長手方向幅を1mm〜30mmとすることができるが、これは良好な改質が可能であり、かつ、実用的な線状レーザスポットである。また、レーザ照射装置と照射対象物のシリコン膜との間隔が変化した場合でも、線状レーザスポットの形状変化を抑止できシリコン改質の安定化を図ることが可能である。
【0084】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置は、シリコン改質のためのメインビーム系(レーザ波長:370nm〜480nm、好ましくは390nm〜470nm)とフォーカス信号を得るフォーカス系の光の分離が容易であり、オートフォーカス制御を確実に行うとともに、線状レーザスポットの長手方向のレーザ強度分布変化を監視・制御することができる。また、検出される戻り光に応じて各々のレーザ出力を制御するため、レーザ強度分布変化を補整することができる。結果として、経時変化が小さくトップ部がフラットなレーザ強度分布を長時間に渡り維持することができ、信頼性の高い安定したシリコン改質を行うことができる。
【0085】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置は、システム・オン・ガラスディスプレイなどの製造工程においては、マザーガラス上の所望の位置、所望の走査速度、所望の方向に前記線状レーザスポットを所望のレーザ出力にて走査させることができ、良質なシリコン膜を比較的安価で得ることができる。
【実施例1】
【0086】
本発明者らは、実際にレーザ照射装置を用いて照射対象物のシリコン膜に様々な波長のレーザ光を照射し、その光吸収率を測定することにより、シリコン膜の光吸収率の波長依存性を明らかにする目的で実験を行った。
【0087】
本実験においては、平板なガラス基板上に50nm厚のシリコン膜を形成したものを照射対象物として用いた。シリコン膜は、結晶化前のアモルファス状態、微結晶化(〜100nm)した状態、大粒径結晶化(〜500nm)した状態、ラテラル結晶化(500nm〜数um)した状態のものをそれぞれ用いた。
光吸収率の測定については、(株)日立ハイテクノロジーズ社製U−4100型分光光度計を用いて、300〜600nmの波長域を波長走査しながら単色光を照射し、シリコン膜面の反射率(Er)及び透過率(Et)を測定し、これらの測定値から光吸収率(Eabs=1−Er−Et)を求めた。
【0088】
図9は、上記の実験の測定結果から得られた波長ごとの光吸収率を示すグラフである。尚、このグラフの各曲線は、波長400nm付近で光吸収率が低い順に、ラテラル結晶、大粒径結晶、微結晶、アモルファスのシリコン膜の光吸収率を示している。
【0089】
図9に示すグラフから、いずれの状態のシリコン膜においても、波長450nm付近で光吸収率がピークとなっており、特に390〜470nmの範囲で光吸収率が顕著に高いということが明らかとなった。これは、光入射表面からと奥の界面からの反射光の干渉により光反射が抑制されているためである。
【0090】
図10は、上記の測定結果を基に特定の3波長における光吸収率を示す表である。ここで示す、波長308nm、445nm、532nmは、それぞれ、エキシマレーザ、青色半導体レーザ、固体グリーンレーザに対応する。シリコン膜の膜厚は省資源などのため10%は薄くしても特性を保つことができ、その場合光干渉の原理から光吸収のピークは短波長側に移動し、光源波長は最短390nmでも良いことになる。グリーンレーザではますます不利である。
この表によれば、波長445nmの青色半導体レーザを用いることにより、レーザ照射装置において現在主流であるエキシマレーザ(波長308nm)と同等以上の光吸収率が得られることがわかる。また、固体グリーンレーザと比較すると、格段に高い光吸収性が得られることがわかる。さらには、波長445nmでは、結晶化前(アモルファス)に比べて結晶化後の光吸収率が低下していることがわかる。すなわち、波長445nmの青色半導体レーザを用いることにより、重ね照射による影響を低減でき、より均一なシリコン改質を行うことができることになる。
前記レーザ素子は、波長405nm付近の半導体レーザや、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子(例えば波長810nmの半導体レーザとSHG素子との組み合わせ)で、波長390nm〜470nmのものの、単一又は複数素子であってもよい。赤色半導体レーザは、ガスレーザや個体レーザと比較しても出力安定性高くパルス等出力制御性も優れている。更に近年、赤色半導体レーザの単位出力当りの単価が安価になり、基本波長として用いSHG素子を通し波長390nm〜470nmレーザ光を生成することによりコストパフォーマンス向上が達成できる。
【0091】
以上、本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態におけるレーザ発光器、光学系、フォーカス制御系、フォーカスエラー検出手段、対物レンズ駆動手段、レーザ強度分布制御手段などの構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法は、上記したTFTを搭載したフラットディスプレイの製造に好適であるほか、相変化光ディスク、太陽電池などの製造にも適用することができるものであり、産業上利用することができるものである。
【符号の説明】
【0093】
1:半導体レーザ素子、2:光ファイバ、3:直線バンドル、4:光補整器、5:対物レンズ、6:レーザ光、7:レーザ光、8:線状レーザスポット、9:半導体レーザ素子、10:光ファイバ、11:直線バンドル、12:光補整器、13:対物レンズ、14:フォーカス制御用半導体レーザ素子、15:コリメートレンズ、16:偏光ビームスプリッタ、17:ビームスプリッタ、18:凸レンズ、19:フォーカス信号生成器、20:位相補償回路、21:ドライバ、23:レーザ光、23:フォーカスエラー信号、24:平行光、24A:波長分離板、24A:波長分離版、26:メインレーザ系、28:線状レーザビーム、29:レーザ光、30:スポット回転器、31:光軸、32:線状レーザスポット、33:角度、34:半導体レーザ素子、35:光ファイバ、36:直線バンドル、37:光補整器、38:対物レンズ、39:ビームスプリッタ、40:集光レンズ、41:ラインセンサ、42:マイクロプロセッサ、43:レーザドライバ、44:レーザ強度分布、45:レーザ強度分布、46:絶縁基板、47:ステージ、48:レーザ照射装置、50:線状レーザスポット、52:マザーガラス、53:ディスプレイ、53A:画素部、55:Xドライバ回路、Y56:ドライバ回路、57:線状レーザスポット、67:ドライバ回路、68:ドライバ回路、69:コントロール回路、70:インタフェース回路、71:演算回路、72:絶縁基板上、72:絶縁基板、73:アンダーコート膜、75:線状レーザビーム、74:アモルファスシリコン膜面、74B:ポリシリコン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットディスプレイの製造システムに好適なレーザ照射装置及びレーザ照射方法及び改質された照射対象物の製造方法に関し、特に、絶縁基板上に形成したアモルファスシリコン(非結晶質)やポリシリコン(多結晶質)にレーザ光を照射してシリコン膜の改質を行うフラットディスプレイの製造システムに好適なレーザ照射装置及びレーザ照射方法並びに改質された照射対象物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のディスプレイ装置は、表示素子として液晶素子を使用し、この液晶素子(画素素子)や該液晶素子のドライバ回路は薄膜トランジスター(Thin Film Transistor。以下、「TFT」と呼ぶ。)により構成されている。このTFTは、製造過程においてガラス基板上に形成したアモルファスシリコンをポリシリコンに改質する工程が必要である。尚、本明細書において「改質」とは、アモルファスシリコンをポリシリコンに変化させることに限られるものではなく、ある物質の物理的特性を変化させることを言う。
【0003】
この改質工程は、レーザ照射によるシリコン膜の改質を行うものであり、図11に示す如く、石英ガラスや無アルカリガラスの絶縁基板(マザーガラス)72上に、絶縁基板72からの不純物の混入を阻止するアンダーコート膜(SiO2)73を形成する工程と、アンダーコート膜73上にアモルファスシリコン膜面74を形成する工程と、高出力レーザを光源とし、アモルファスシリコン膜面74に線状レーザビーム75を照射する工程と、レーザビーム75をその短手方向に走査74Aさせることによりアモルファスシリコン膜面74をポリシリコン74Bに改質する工程と、TFTを構成する位置のみポリシリコンを切り出す工程と、その上にゲート酸化膜(SiO2)を形成し最上部にゲート電極を取り付ける工程と、酸化膜(SiO2)に所定の不純物イオンを注入してソース/ドレインを形成する工程と、ソース/ドレインにアルミ電極を立て全体を保護膜で被うことによりTFTを形成する工程からなる。尚、絶縁基板72とアンダーコート膜73の間にSiN又はSiONを挟み込んでもよい
ここで、線状レーザビームとは、照射面上に縦横比が相当大きい略長方形状、楕円形状又は長円形状のレーザスポットを形成するレーザビームのことをいう。
【0004】
前記レーザ照射によるシリコン膜の改質工程は、エキシマレーザを用いるエキシマレーザアニールが一般的であり、シリコン膜に光吸収率の高い波長308nmでパルス幅が数十nsのXeClエキシマレーザを照射し、160mJ/cm2の比較的低いエネルギー注入によりシリコン膜を一気に融点まで加熱することによりポリシリコン膜を形成している。前記エキシマレーザは、数百Wの大出力を持ち、長方形マザーガラスの一辺以上の幅を持つ大型線状レーザスポットを形成させることができ、マザーガラス上に形成したシリコン膜全面を一括で効率よく改質できるといった特徴をもつ。このエキシマレーザによるシリコン改質では、TFTの性能に強く影響を与えるポリシリコンの結晶粒径が100nmから500nmと小さく、TFT性能の指標である電界効果移動度は150cm2/V・s程度に留まることができる。
【0005】
近年、フラットディスプレイ上の画素子やドライバ回路以外に、コントロール回路やインタフェース回路、更には演算回路など高機能回路を搭載するシステム・オン・ガラスが提案され、一部実現している。このような高機能回路を形成するTFTは高性能なものが要求され、良質(大型結晶粒)なポリシリコン改質が必須である。この良質なポリシリコン改質に関する技術が記載された文献としては下記特許文献が挙げられる。
特許文献1には、光源に半導体励起用の固体レーザを用いて連続発光(CW;Continuous Wave)しながらシリコン膜上に照射したレーザビームを走査させることにより、走査方向に細長い大型結晶粒をもつ良質なアモルファスシリコン膜を形成することや、高性能TFTが必要な箇所に予めアモルファスシリコンを線状(リボン状)又は島状(アイランド状)にパターニングしておくことにより、300cm2/V・s以上の電界効果移動度が得られ、高性能TFTを形成することが記載されている。
特許文献2には、半導体励起用連続発光固体レーザを用いて走査方向に細長い大型結晶粒を形成する方法として、シリコン膜上に形成した線状レーザスポットの走査方向幅と走査速度の関係を規定したものが記載されている。特許文献2に記載されている主な固体レーザは、波長が532nmのNd:YVO4レーザ又はYAGレーザの第二高調波固体レーザである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−86505号公報
【特許文献2】特開2005−217214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したエキシマレーザアニールでは、光源となるエキシマレーザ発振器がガスレーザであるが故、レーザ出力に不安定性が生じやすく、基板上シリコン膜に対し均一な改質が困難となり、局所的にTFT性能の偏りが生じ易くなるという問題点があった。また、レーザ発振を重ねるごとにレーザ発振管及び光学部品や充填ガス等の劣化が進み、改質のむらである改質班が生じ易いため、これを防止すべく短期的なメンテナンスが必要となり、ランニングコストの上昇や保守性・生産性の低下は避けられないという問題点もあった。さらには、エキシマレーザ照射装置は装置サイズが大きく高価であるという問題点もあった。
【0008】
一方、上記の特許文献に記載された半導体励起用の固体レーザを用いた装置は、上記の通り第二高調波を利用しているため、装置投入パワーに対し光出力パワーが小さく光変換効率が十分でないと言う不具合があった。さらに、固体レーザを用いた装置は、出力レーザ波長が532nmであり、シリコンの光吸収ピーク値(300nm付近)から大きく離れているため、シリコン膜の光エネルギー吸収率が大きくなく、したがって、装置投入エネルギーに対しシリコン改質エネルギーが小さくなり、エネルギー変換効率が低くなってしまうという問題点もあった。さらに、上記装置において、シリコン膜が結晶化すると光吸収が大幅に減少するため、結晶化が不完全になりやすく、広範囲照射のために照射位置を動かして照射する場合、光スポットのエッジ部分で結晶状態が異なり、特性が異なるという問題点があった。
【0009】
本発明は、前述の従来技術によるレーザ照射装置が有する問題点に鑑みてなされたものであり、照射効果の面内均一性、出力安定性、保守性に優れ、かつ、省スペース化、低ランニングコスト化が実現可能なレーザ照射装置及びレーザ照射方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者らは、厚さ数十nm〜百nmのシリコン膜にレーザ光を照射する場合、波長450nm付近で多重反射が生じ得るという知見に基づき、分光光度計を用いて所定波長範囲における吸光度を測定する実験を行うことにより、シリコン膜が結晶化しても光吸収が小さくなり過ぎず最も照射効果の高いレーザ波長範囲を特定することに成功し、以下に詳述する本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射装置であって、レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を提供するものである。
【0012】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子は、レーザ波長が445nmのレーザ光を発光することを特徴とする。また、前記レーザ発光素子は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする。あるいは、前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であってもよい。
【0013】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子の各々から発光されるレーザ光を導光する光ファイバと、当該光ファイバを平行に整列させて保持する直線バンドルと、前記光ファイバのレーザ発光素子群とは反対側の端から出射されるレーザ光を線状スポット光となるよう整形し、光強度分布を平滑化して出射する光補整器と、当該光補整器から出射されたレーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズとを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のレーザ照射装置において、前記光補整器及び前記対物レンズは、短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットが照射対象物の照射面上に形成されるようレーザ光を整形及び集光することを特徴とする。
【0015】
本発明のレーザ照射装置において、照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整する焦点調整手段とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明のレーザ照射装置において、前記フォーカスエラー検出手段が、波長400nm〜900nmのレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とする。
【0017】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする。
【0018】
本発明のレーザ照射装置において、前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明のレーザ照射装置において、照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを、照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させるスポット回転手段を有することを特徴とする。
【0020】
本発明は、また、レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子又は素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射方法であって、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながら照射対象物にレーザ照射を行うレーザ照射方法を提供するものである。
【0021】
本発明のレーザ照射方法において、レーザ波長が445nmのレーザ光を用いて照射対象物にレーザ照射を行うことを特徴とする。
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする。
【0022】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であることを特徴とする。
【0023】
本発明のレーザ照射方法において、基板上に薄膜状に形成された厚さ30nm〜80nmのシリコン膜にレーザ照射を行うことを特徴とする。
短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットを照射対象物に照射することを特徴とする。
【0024】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ照射装置は、照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、レーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズと、前記対物レンズを照射面に対して近接又は離隔する方向に移動させる手段とを有しており、前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整することにより前記線状レーザスポットの焦点調整を行うことを特徴とする。
【0025】
本発明のレーザ照射方法において、前記フォーカスエラー検出手段が、波長400nm〜900nmのレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とすることを特徴とする。
【0026】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ照射装置は、前記レーザ素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする。
【0027】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする。
【0028】
本発明のレーザ照射方法において、前記レーザ発光素子制御手段は、照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを回転させるスポット回転手段を有しており、線状レーザスポットを照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させることを特徴とする。
【0029】
本発明は、また、上記した本発明のレーザ照射装置又はレーザ照射方法を用いて、アモルファスシリコン膜を改質する方法であって、厚さ30nm〜80nmのアモルファスシリコン膜に対して、当該アモルファスシリコン膜の膜厚と同一の光侵入長又は当該膜厚の50%〜150%の光侵入長を有するレーザ波長のレーザ光を照射することによりアモルファスシリコン膜を改質する方法を提供するものである。
【0030】
本発明は、また、非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化装置であって、レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子又は素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するシリコン結晶化装置を提供するものである。
【0031】
本発明のシリコン結晶化装置において、前記レーザ発光素子群と、前記集光手段を含む光ヘッド部とを分離して配置し、前記レーザ発光素子群の各レーザ発光素子から発光されるレーザ光を前記光ヘッド部に導光する屈曲性を有する光ファイバ有していることを特徴とする。
【0032】
本発明は、また、レーザ波長が430nm〜470nmのレーザ光を発光する単一又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子又は素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化方法であって、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うシリコン結晶化方法を提供するものである。
【0033】
本発明のシリコン結晶化方法において、前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
以上、説明したように、本発明によれば、出力安定性、保守性に優れ、かつ、省スペース化、低ランニングコスト化が実現可能なレーザ照射装置及びレーザ照射方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態にかかるレーザ照射装置の基本構成を説明するための図である。
【図2】図1に示すレーザ照射装置において用いるフォーカス制御系を説明するための概略図である。
【図3】図1に示すレーザ照射装置におけるスポット回転を説明するための模式図である。
【図4】図1に示すレーザ照射装置においてレーザ強度分布検出とレーザ出力制御を行う方法を説明するための概略図である。
【図5】図4に示すレーザ照射装置におけるレーザ強度分布制御方法の具体例を説明するための図である。
【図6】図1に示すレーザ照射装置を用いて液晶ディスプレイのガラス基板上に形成したアモルファスシリコンをポリシリコンに改質することにより液晶ディスプレイを製造する工程におけるレーザ照射方法について説明するための図である。
【図7】ディスプレイとレーザ走査位置の関係を説明するための図であり、図中(a)にディスプレイ、(b)にマザーガラスを示している。
【図8】システム・オン・ガラスディスプレイを説明するための図である。
【図9】本発明の実施例におけるシリコン膜面の吸光度測定の実験の測定結果から得られた波長ごとの光吸収率を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例におけるシリコン膜面の吸光度測定の実験の測定結果から得られた波長ごとの光吸収率を示す表である。
【図11】レーザ照射によるシリコン膜の改質工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0037】
1.レーザ照射装置の基本構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるレーザ照射装置の基本構成を説明するための図である。
図1において、本実施形態のレーザ照射装置は、複数の半導体レーザ素子1からなるレーザ発光素子群1Aと、各半導体レーザ素子1から出射されたレーザ光をガイドする複数の光ファイバ2と、各光ファイバ2を平行に整列させる直線バンドル3と、各光ファイバ2から出射されるレーザ光を補整する光補整器4と、光補整器4から出射されるレーザ光を集光する対物レンズ5とから構成されている。尚、単一の半導体レーザ素子1を用いてもよい。
【0038】
各半導体レーザ素子1は、レーザ波長が390nm〜470nmで、出力数が百mW〜数Wの青色レーザ光を発光する青色半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子1は小型であるため多数配置することができ、その配置数に応じて所望の出力を得ることができる。
【0039】
光ファイバ2は、波長370nm〜480nm(より好ましくは390nm〜470nm)のレーザ波長を効率よく伝送する特性を持ち、コア半径が細い方が好ましく、φ50um以下がより好ましい。
図示しないが、各光ファイバ2は、レーザ光を絞り込むためのレセプタクルモジュール(コネクタ)を有している。レセプタクルモジュールは、半導体レーザ素子1の照射部近傍に取り付けられており、光ファイバ2にレーザ光を絞り込み、カップリング効率を高めるものが好ましい。
【0040】
前記直線バンドル3は、光ファイバ2の半導体レーザ素子1側と反対側の端を一列に直線的に並べるためのものであり、隣り合う光ファイバ2を接近させて又は隙間なく配置する機能と、各光ファイバ2の中心軸の平行度を高精度で合わせる機能と、各光ファイバ2の中心軸と垂直な面において、各光ファイバ2の前記反対側の端面を凸凹なく高精度で揃える機能とを有する。
【0041】
光補整器4は、直線バンドル3内の光ファイバ2群の前記反対側の端面から略直線状に出射されるレーザ光6に対し、長手方向レーザ強度分布のトップフラット化を行う機能と、対物レンズ5が照射対象物(図示せず)のシリコン膜面上に形成するレーザスポットの短手方向幅dが所定値になるようビーム形状を整形する機能とを有するものである。光補整器4は、複数のシリンドリカルレンズを配置したいわゆるホモジナイザーで構成してもよい。
対物レンズ5は、光補整器4をから出射されるレーザ光7を照射対象物のシリコン膜面上に強く絞り込むものである。
【0042】
以上のように構成された本実施形態のレーザ照射装置は、比較的微弱な出力の青色半導体レーザ素子1を多数連ねることにより、青色波長(波長370nm〜480nm、特に390nm〜470nm)において高パワー密度で、かつ、長手方向レーザ強度分布がトップフラットな線状レーザスポット8を照射対象物のシリコン膜面上に形成することができる。この線状レーザスポット8の形状は、主に光補整器4及び対物レンズ5により調整されるものであり、短手方向幅dが1um〜30um、長手方向幅Lが0.2mm〜30mmとすることが好ましい。
【0043】
本実施形態のレーザ照射装置は、シリコン膜面上で線状レーザスポット8を短手方向に走査することにより照射を行うものであるが、線状レーザスポット8の短手幅dを長くするとシリコン膜面に対する照射時間が長くなり、シリコン膜を剥離させたりダメージを与えたり、あるいは、レーザパワー密度が低下して良好な改質ができなくなることとなる。このため、線状レーザスポット8の短手幅dは、1um〜30umとするのが好ましい。長手幅Lは、照射対象物である高機能回路等の幅に応じて設定すればよいが、近年の長方形マザーガラスの大型化により、実用的には0.2mm〜30mmとするのが好ましい。
【0044】
上記したように、本実施形態のレーザ照射装置において、レーザ光の総照射パワーは半導体レーザ素子1の配置数によって調整されるが、6W〜200Wの総照射パワーとするのが好ましい。本実施形態のレーザ照射装置では、青色半導体レーザ素子が発光するレーザ光の390nm〜470nmにおいてアモルファスシリコンの光吸収率が極めて高い(例えば、波長が532nmの固体グリーンレーザを用いた場合の約6倍の光吸収率)ことから、固体グリーンレーザやエキシマレーザを用いる場合に比べてエネルギー効率が高く、総照射パワーの下限値を6Wまで下げることが可能となっている。一方で、投入レーザパワーが過剰に高いとシリコン膜表面が粗くなったり、シリコン膜の剥離やアンダーコート膜へ熱的ダメージを与えたりすることとなるが、近年の長方形マザーガラス大型化によりレーザスポット寸法形状を上記範囲とする場合には、総照射パワーの上限値は200Wとするのが好ましい。
【0045】
本実施形態のレーザ照射装置において、レーザ波長の上限として480nmを選択した理由は、一般にガラス基板上に形成するシリコン膜の厚さは典型的には約50nm(実際には30〜80nmの範囲)であり、一方で、アモルファスシリコンが光吸収特性として波長480nm付近での光侵入長(光強度が1/eに減衰する表面からの距離)が50nmであることから、シリコン膜の加熱効率(シリコン結晶化効率)を考慮して、照射対象であるシリコン膜厚と同等の光侵入長をレーザ波長の上限として選定している。これにより、本実施形態のレーザ照射装置では、シリコン膜の深さ方向の結晶成長を抑制(微結晶成長阻止)しつつ、横方向(シリコン膜の面方向)の結晶成長を促進することができ、結果として、大粒径の結晶生成を効率よく行うことができる。すなわち、シリコン膜に効率よく光吸収させながら大粒径の結晶生成を行うことができる。
【0046】
もしレーザ波長を481nm以上を選択した場合、照射光がシリコン膜を透過し、シリコン膜の加熱効率(シリコン結晶効率)が急激に低下すると考えられるが、シリコン膜の厚さに応じてレーザ波長を調整してもよい。即ち、シリコン膜の厚さが約50nmの場合のレーザ波長が480nmであることを基準とした場合、該シリコン膜の厚さが50nmより薄い場合はレーザ波長の上限を480nmより低くし、シリコン膜の厚さが50nmより厚い場合はレーザ波長の上限を480nmより高くすることとしてもよい。
【0047】
このように、本実施形態のレーザ照射装置において用いるレーザ光の波長は、シリコン膜厚に応じて任意に選択することができ、例えば膜厚が17nm程度のシリコン薄膜に対しては370nm程度のレーザ波長が膜厚と同等であるため特に有効である。ここで、「同等」とは、光侵入長と膜厚とが同一の場合からプラスマイナス50%の範囲を含み、この範囲においては、少なくともレーザ光が膜厚の底面付近まで達し、シリコン膜の深さ方向の結晶成長を抑制(微結晶成長阻止)しつつ、横方向(シリコン膜の面方向)の結晶成長を促進することが確認されている。
【0048】
尚、後述するように、シリコン膜に対するレーザ光照射実験を行うことにより、本実施形態のレーザ照射装置において膜厚50nmのシリコン膜に対しては特に390nm〜470nmのレーザ波長においてシリコン膜のレーザ光吸収率が極めて高く、効率のよい照射を行うことができることが発見されている。
【0049】
2.レーザ照射装置のフォーカス制御系
図2は、本実施形態のレーザ照射装置において用いるフォーカス制御系を説明するための概略図である。
図2において、レーザ照射装置は、複数の半導体レーザ素子9からなるレーザ発光素子群9Aと、各半導体レーザ素子9から出射されたレーザ光をガイドする複数の光ファイバ10と、各光ファイバ10を平行に整列させる直線バンドル11と、各光ファイバ10から出射されるレーザ光を補整する光補整器12と、光補整器12から出射されるレーザ光を集光する対物レンズ13とから構成されている。これら構成部品は図1に示したレーザ照射装置のものと同様の構成及び機能を有する。
【0050】
このレーザ照射装置に用いられるフォーカス制御系は、フォーカス制御用半導体レーザ素子14と、フォーカス制御用半導体レーザ素子14から発光されるレーザ光23を平行光24に整形するコリメートレンズ15と、コリメートレンズ15を通じて受光される平行光24を透過し、レーザ照射装置からの戻り光を分離する偏光ビームスプリッタ16と、通過するレーザ光を波長に応じて分離する波長分離板24Aと、フォーカス制御用のレーザ光24及び照射用のメインレーザ光26を透過/反射させるビームスプリッタ17と、フォーカス制御用のレーザ光24及び照射用のメインレーザ光26を照射対象物の照射面上に集光する対物レンズ13と、偏光ビームスプリッタ16により分離された戻り光を通過させる凸レンズ18と、凸レンズ18を通じて受光される戻り光に基づいてフォーカス信号を生成するフォーカス信号生成器19と、位相補償回路20と、対物レンズ13を照射対象物の照射面に対して近接及び離隔する方向(矢印25方向)に駆動するボイスコイルモータ(以下VCM)22と、VCM22を駆動するVCMドライバ21とから構成されている。
【0051】
フォーカス制御系におけるビームスプリッタ17及び対物レンズ13は、レーザ照射装置内に設けられた照射用の構成部品を共用するものとする。また、図示しないが、フォーカス制御系は、1/4波長板等の光学部品を必要に応じて必要な箇所に備えているものとする。
【0052】
本実施形態のレーザ照射装置に用いるフォーカス用制御系において、フォーカス制御用半導体レーザ素子14は、メインレーザ光26の青色(波長370nm〜480nm)とは異なる波長のレーザとするため、波長が650nmの半導体レーザ素子を用いることが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、波長が350nm〜900nmのメインレーザ光波長より波長の短いバイオレットや、メインレーザ光波長より波長が長いグリーン/レッド波長を発する半導体レーザ素子を用いてもよい。
【0053】
前記波長分離版24Aは、赤色波長(波長650nm)のレーザを透過させ、青色波長(波長370nm〜480nm)を反射させる特性をもつが、これに限られるものではなく、前記フォーカス制御用半導体レーザ素子14の波長のみを透過させ、前記青色波長(波長370nm〜480nm)のレーザ光を反射させる特性を持つものを選定すればよい。即ち、メイン系のレーザ波長からずらしたレーザ波長を用いることにより、一旦メイン光と交じり合ったフォーカス用ビームを再度、分離抽出することができることを利用し、メイン/フォーカス系の波長色を選定すればよい。
【0054】
前記フォーカス信号生成器19は、照射対象物のシリコン膜面(図示せず)に照射したフォーカスビーム(波長650nm)27が、シリコン膜面にて反射され、対物レンズ13、ビームスプリッタ17、波長分離版24A、1/4波長板(図示せず)、偏光ビームスプリッタ16、凸レンズ18を通じて戻ってきたレーザ光29を受光し、これに基づいてフォーカスエラー信号23を生成する。このフォーカスエラー信号23により、照射対象物シリコン膜面上に形成したメイン系の線状レーザビーム28の焦点ぼけが検出できるようになっている。
【0055】
上述のフォーカス制御用半導体レーザ素子14のレーザ波長をメインレーザ系26の青色(波長370nm〜480nm)とは異なる波長のレーザとしたが、本発明はこれに限ることなく、フォーカス制御用半導体レーザ素子14のレーザ波長をメインレーザ系26と同一波長とし、シリコン膜面にて反射した反射成分のみ抽出し同様の方法で、フォーカス信号を生成してもよい。この場合、波長分離版24Aは不要となる。
【0056】
また、上述の如くフォーカス制御用半導体レーザ素子14を設けたが、メインレーザ系26のレーザ光のみ照射しシリコン膜面からの反射成分のみ抽出し、フォーカス信号を生成してもよく、この場合はフォーカス制御用半導体レーザ素子14は不要となる。
【0057】
VCMドライバ21は、VCM22に取り付けられた対物レンズ13を容易に矢印25方向に高速駆動できる能力を持ち、前記位相補償回路20は、フォーカス信号生成器19から出力したフォーカスエラー信号特性(フォーカス感度)とVCMのf−特性から、所定のフォーカスサーボ特性でかつ安定系が得られるように調整することにより、安定したオートフォーカス制御を行うことができ、シリコン膜と装置の間隔が相対的に変化した場合でも、前記線状レーザビーム28の形状変化を抑止できシリコン改質の安定化を図ることができる。本実施形態では対物レンズ13を矢印25方向に駆動する手段としてVCM22を用いる例を説明したが、対物レンズ13の駆動手段はこれに限られることはなく、例えば、電圧の印加により力を発生する圧電素子(ピエゾ素子)を用いてもよい。
【0058】
3.スポット回転
図2に示すレーザ照射装置において、光補整器12はレーザスポットを回転させるためのスポット回転器30を有している。図3は、このスポット回転器30によるスポット回転を説明するための模式図である。
図3に示すように、スポット回転器30を用いて照射対象物のシリコン膜面上に形成した線状レーザスポット32を90°回転させて線状レーザスポット33とすることができる。また、スポット回転器30は、線状レーザスポット32を0°から90°の範囲で任意の角度に回転させることができる。このスポット回転による作用効果については後述する。
【0059】
4.レーザ強度分布検出とレーザ出力制御
【0060】
図4は、本実施形態のレーザ照射装置においてレーザ強度分布検出とレーザ出力制御を行う方法を説明するための概略図である。
図4において、レーザ照射装置は、複数の半導体レーザ素子34からなるレーザ発光素子群34Aと、各半導体レーザ素子34から出射されたレーザ光をガイドする複数の光ファイバ35と、各光ファイバ35を平行に整列させる直線バンドル36と、各光ファイバ35から出射されるレーザ光を補整する光補整器37と、光補整器37から出射されるレーザ光を集光する対物レンズ38とから構成されている。これら構成部品は図1に示したレーザ照射装置のものと同様の構成及び機能を有する。
また、レーザ照射装置は、レーザ強度分布検出手段及びレーザ出力制御手段として、ビームスプリッタ39と、集光レンズ40と、ラインセンサ41と、マイクロプロセッサ42とを備える。
【0061】
ビームスプリッタ39は、対物レンズ38に向かうメインビームの光量に対し数%の光量を集光レンズ40側に反射させ、ラインセンサ41は、寸法数十um程度の光量検出器が直線状に複数個配列し、集光レンズ40により集光した線状レーザビームの長手方向のレーザ強度分布を検出できるように配置してある。ラインセンサ41は、検出したレーザ強度分布を電気信号に変換し、マイクロプロセッサ42に出力する。マイクロプロセッサ42は、ラインセンサ41から入力された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換機能と、変換されたデジタルデータを所定のデータと比較する比較演算機能と、この比較演算結果に応じて各半導体レーザ素子34の出力を制御する機能とを有する。
【0062】
レーザドライバ43は、各半導体レーザ素子34とマイクロプロセッサ42と接続線上に設けられ、マイクロプロセッサ42からの制御信号に基づいて、各半導体レーザ素子34の動作を制御する。尚、ラインセンサ41がAD変換機能を有し、デジタルデータをマイクロプロセッサ42に出力するようにしてもよい。
【0063】
ラインセンサ41が検出する線状レーザスポットの長手強度分布は、対物レンズ38を透過してシリコン膜面上に形成される線状レーザスポットの長手強度分布と一致するのが好ましいが、完全に一致しなくてもよい。本実施形態のレーザ照射装置では1次元ラインセンサを用いたが、これに限られることはなく、例えば2次元CCDであってもよい。
【0064】
5.レーザ強度分布制御方法
図5は、図4に示すレーザ照射装置におけるレーザ強度分布制御方法の具体例を説明するための図である。図5に示すグラフは、ラインセンサ41において検出されるレーザ強度分布を示すものであり、横軸は線状レーザスポット長手方向位置を示し、縦軸はレーザ出力を示している。
図5の(a)は、シリコン膜面上に形成する線状レーザスポット強度分布が最良の場合を示し、(b)はシリコン膜面上に形成する線状レーザスポット強度分布が悪化した場合を示す。線状レーザスポット強度分布が最良とは強度分布のトップ部がフラットで広いことである。線状レーザスポット強度分布が最良状態であれば、シリコン膜に均一なレーザビームを照射でき、シリコンの改質斑を低減することができる。
【0065】
次いで、本実施形態のレーザ照射装置におけるレーザ強度分布の制御方法を説明する。まず、マイクロプロセッサ42が、図5(a)のレーザ強度分布44を予めメモリに格納し記憶しておき、ラインセンサ41が検出したレーザ強度分布をレーザ強度分布44と比較演算し、レーザ強度分布44と同じになるよう各々の半導体レーザ素子34の出力(パワー)を制御する。また同時に、レーザ光の総パワーはレーザ強度分布の面積に比例するため、マイクロプロセッサ42は予め設定されたレーザ出力に対応した面積になるよう各々の半導体レーザ素子34の出力を制御する。
【0066】
本実施形態のレーザ照射装置においては、上記のようなレーザ強度分布制御方法を用いることにより、一部の半導体レーザ素子34が特性変化した場合でも安定したレーザ強度分布が得られる。また、レーザ強度分布44からの補正値に所定閾値を設けておけば半導体レーザ素子34の劣化を検出することもできる。
【0067】
6.レーザ出力制御
本実施形態のレーザ照射装置におけるマイクロプロセッサ42は、半導体レーザ素子34によるレーザ光の出力値を時間的に継続して一定値に保つように出力制御を行うものである。しかしながら、本実施形態のレーザ照射装置におけるマイクロプロセッサ42は、各半導体レーザ素子34によるレーザ光の出力値を時間的に断続して出力するパルス出力制御機能を有してもよい。
このパルス出力制御機能を有するマイクロプロセッサ42は、レーザドライバ43が、発振周波数を0.1MHz〜5MHz、パルスデューティを10%〜90%、パルストップパワー(Pt)とパルスボトムパワー(Pb)の比率(Pb/Pt×100)を50%以下の条件においてパルス発光するように半導体レーザ素子34を駆動制御することが望ましい。
【0068】
ここでパルスデューティとは、パルス出力を停止する時間であるパルストップ出力時間(Tt)とパルス周期(T)の比率(Tt/T×100)である。このパルス出力制御機能は、現在のエキシマレーザ素子や固体レーザ素子を用いた技術では不可能であり、本実施形態のレーザ照射装置において半導体レーザを用いるがゆえに容易に実現できるものである。
【0069】
また、前記発振周波数を0.1MHz〜5MHzとする理由は、レーザスポットの短手方向にレーザスポットを100mm/s〜3m/sの線速度にてシリコン膜面上を走査するとき、レーザスポットの短手方向の幅が1um〜30umにおいても照射スポット(パルストップパワー)が重なり合い、隙間無くレーザ照射を行うためである。また、前記パルスデューティを10%〜90%とした理由は、シリコン膜への照射投入エネルギーを調整できるようにするためである。さらに、パルストップパワー(Pt)とパルスボトムパワー(Pb)の比率(Pb/Pt×100)を50%以下とした理由は、パルストップパワー(Pt)にてシリコン膜が溶融しパルスボトムパワー(Pb)にてシリコンが溶融しないことが好ましく、この熔解を防止するためには50%以下とするのが確実であるからである。
【0070】
このパルス出力制御機能を有するマイクロプロセッサ42は、シリコン膜面上をレーザスポットをパルス照射させながら走査させることにより、シリコン膜へ投入する照射エネルギーを緩和して、シリコン膜のダメージの軽減、及びシリコン膜の過剰過熱や昇華を抑止することができる。また、本実施形態のレーザ照射装置におけるマイクロプロセッサ42は、レーザスポットの走査速度や、レーザ発振周波数や、パルスデューティや、パルストップ出力とパルスボトム出力などの各種条件を調整することにより、結晶成長をコントロールでき、結果として所望の結晶サイズの結晶を得ることができる。
【0071】
7.液晶ディスプレイ製造のためのレーザ照射方法
次いで、本実施形態のレーザ照射装置を用いて液晶ディスプレイのガラス基板上に形成したアモルファスシリコンをポリシリコンに改質することにより液晶ディスプレイを製造する工程におけるレーザ照射方法について説明する。図6は、このレーザ照射方法を説明するための図である。
【0072】
本レーザ照射方法は、まず、シリコン膜が形成してある絶縁基板46をX−Yステージ47上に搭載する。X−Yステージ47はX方向およびY方向の任意の位置へ位置決めが可能であり、X方向およびY方向に任意速度で移動させることができる。前記図1乃至図4のいずれかのレーザ照射装置48を用いてレーザ光を照射し、シリコン膜面上に線状レーザスポット50を形成する。線状レーザスポット50の短手方向に線状レーザスポット50が所定走査速度で走査するようにX−Yステージ47を制御する。
【0073】
次いで、レーザ照射方法は、線状レーザスポット50の長手方向がX方向と平行になるように配置してY方向に走査51を行う。X方向に所定走査速度で走査する場合は、上述した図3に示す方法によりスポット回転させる。この様に本実施形態によるレーザ照射方法は、レーザ照射装置48全体を回転させる必要はなく、容易にスポット回転させることができる。
【0074】
尚、本レーザ照射方法においては、シリコン膜が形成してある絶縁基板46が移動し線状レーザスポット50を走査51させているが、これに限ることなくレーザ照射装置48をX方向、Y方向に移動させ相対的に線状レーザスポット50を走査51してもよい。この場合、前記図1乃至図4のいずれかのレーザ照射装置48において、レーザ発光素子群1A、9A、34Aを離れた場所に独立に固定設置しておき直線バンドル以下の光学系のみを移動させてもよい。光ファイバ2、10、35は一般に屈曲性を持つため可能となる。また、レーザ照射装置48とシリコン膜が形成してある絶縁基板46の両方を移動させ相対的に線状レーザスポット50を走査51してもよい。
【0075】
8.ディスプレイとレーザ走査位置の関係
【0076】
図7は、ディスプレイとレーザ走査位置の関係を説明するための図であり、図中(a)にディスプレイ、(b)にマザーガラスを示している。マザーガラス上には複数のディスプレイが形成されるものとする。
【0077】
本実施形態のレーザ照射装置を用いたレーザ照射によるディスプレイ製造工程において用いられるディスプレイ53は、画素部53Aと、X方向の(液晶)画素を駆動するXドライバ回路55と、Y方向の(液晶)画素を駆動するYドライバ回路56とを有している。Xドライバ回路55とYドライバ回路56は、前述したように液晶ディスプレイ装置においては高性能TFTにより構成する必要があり、高品質なポリシリコンが形成されていることが要求される。
【0078】
本実施形態のレーザ照射装置によるレーザ照射方法は、Xドライバ回路55とYドライバ回路56のシリコン改質に適用できる。具体的には、線状レーザスポット57,58をXドライバ回路55及びYドライバ回路56を形成する位置に合わせて走査59,60する。1つのドライバ回路形成部分に対して必要に応じ複数回に分けて走査してもよい。また、ディスプレイ53を切り出す前のマザーガラス52に対して、線状レーザスポットを走査62、63、64、65させてシリコン改質処理を行うのが効率的である。
【0079】
9.システム・オン・ガラスディスプレイ
【0080】
図8は、システム・オン・ガラスディスプレイを説明するための図である。
図8において、システム・オン・ガラスディスプレイ上には、Xドライバ回路67、Yドライバ回路68の他に、コントロール回路69やインタフェース回路70、さらにはメモリ回路(図示せず)や演算回路71などの高機能集積回路が形成されている。このような高機能集積回路は高品質なポリシリコンが形成されていることが要求されるが、図7に示すXドライバ回路とYドライバ回路のレーザ照射によるシリコン改質方法と同様の方法を用いることにより、システム・オン・ガラスディスプレイ上に高品質のポリシリコンを形成することができる。
【0081】
本実施形態では、絶縁基板として石英ガラスや無アルカリガラスを例にあげたが、これらに限られることはなく、プラスチック基板や屈曲可能なプラスチックシートであってもよい。また、本実施形態では、液晶ディスプレイを製造する例を説明したが、この例に限られることはなく、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどの製造にも適用することができる。
【0082】
以上述べたように、本実施形態のレーザ照射装置は、低出力の複数の青色半導体レーザ素子から出力したレーザ光を光ファイバにより効率よく1箇所に集中でき、レーザ光のパワーの高密度化を図ることができる。光ファイバのレーザ光出力側とは反対側の端を直線的にバンドル配置しているので、直線的な高密度レーザ出力が容易に得られた後、光補整器と対物レンズを通しているので、シリコン膜面上にトップ部がフラットなレーザ強度分布で且つ高密度な線状レーザスポットを形成することが可能となる。
【0083】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置では、照射対象物のシリコン薄膜上に形成する線状レーザスポットの短手方向幅を1um〜30umとし、かつ、長手方向幅を1mm〜30mmとすることができるが、これは良好な改質が可能であり、かつ、実用的な線状レーザスポットである。また、レーザ照射装置と照射対象物のシリコン膜との間隔が変化した場合でも、線状レーザスポットの形状変化を抑止できシリコン改質の安定化を図ることが可能である。
【0084】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置は、シリコン改質のためのメインビーム系(レーザ波長:370nm〜480nm、好ましくは390nm〜470nm)とフォーカス信号を得るフォーカス系の光の分離が容易であり、オートフォーカス制御を確実に行うとともに、線状レーザスポットの長手方向のレーザ強度分布変化を監視・制御することができる。また、検出される戻り光に応じて各々のレーザ出力を制御するため、レーザ強度分布変化を補整することができる。結果として、経時変化が小さくトップ部がフラットなレーザ強度分布を長時間に渡り維持することができ、信頼性の高い安定したシリコン改質を行うことができる。
【0085】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置は、システム・オン・ガラスディスプレイなどの製造工程においては、マザーガラス上の所望の位置、所望の走査速度、所望の方向に前記線状レーザスポットを所望のレーザ出力にて走査させることができ、良質なシリコン膜を比較的安価で得ることができる。
【実施例1】
【0086】
本発明者らは、実際にレーザ照射装置を用いて照射対象物のシリコン膜に様々な波長のレーザ光を照射し、その光吸収率を測定することにより、シリコン膜の光吸収率の波長依存性を明らかにする目的で実験を行った。
【0087】
本実験においては、平板なガラス基板上に50nm厚のシリコン膜を形成したものを照射対象物として用いた。シリコン膜は、結晶化前のアモルファス状態、微結晶化(〜100nm)した状態、大粒径結晶化(〜500nm)した状態、ラテラル結晶化(500nm〜数um)した状態のものをそれぞれ用いた。
光吸収率の測定については、(株)日立ハイテクノロジーズ社製U−4100型分光光度計を用いて、300〜600nmの波長域を波長走査しながら単色光を照射し、シリコン膜面の反射率(Er)及び透過率(Et)を測定し、これらの測定値から光吸収率(Eabs=1−Er−Et)を求めた。
【0088】
図9は、上記の実験の測定結果から得られた波長ごとの光吸収率を示すグラフである。尚、このグラフの各曲線は、波長400nm付近で光吸収率が低い順に、ラテラル結晶、大粒径結晶、微結晶、アモルファスのシリコン膜の光吸収率を示している。
【0089】
図9に示すグラフから、いずれの状態のシリコン膜においても、波長450nm付近で光吸収率がピークとなっており、特に390〜470nmの範囲で光吸収率が顕著に高いということが明らかとなった。これは、光入射表面からと奥の界面からの反射光の干渉により光反射が抑制されているためである。
【0090】
図10は、上記の測定結果を基に特定の3波長における光吸収率を示す表である。ここで示す、波長308nm、445nm、532nmは、それぞれ、エキシマレーザ、青色半導体レーザ、固体グリーンレーザに対応する。シリコン膜の膜厚は省資源などのため10%は薄くしても特性を保つことができ、その場合光干渉の原理から光吸収のピークは短波長側に移動し、光源波長は最短390nmでも良いことになる。グリーンレーザではますます不利である。
この表によれば、波長445nmの青色半導体レーザを用いることにより、レーザ照射装置において現在主流であるエキシマレーザ(波長308nm)と同等以上の光吸収率が得られることがわかる。また、固体グリーンレーザと比較すると、格段に高い光吸収性が得られることがわかる。さらには、波長445nmでは、結晶化前(アモルファス)に比べて結晶化後の光吸収率が低下していることがわかる。すなわち、波長445nmの青色半導体レーザを用いることにより、重ね照射による影響を低減でき、より均一なシリコン改質を行うことができることになる。
前記レーザ素子は、波長405nm付近の半導体レーザや、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子(例えば波長810nmの半導体レーザとSHG素子との組み合わせ)で、波長390nm〜470nmのものの、単一又は複数素子であってもよい。赤色半導体レーザは、ガスレーザや個体レーザと比較しても出力安定性高くパルス等出力制御性も優れている。更に近年、赤色半導体レーザの単位出力当りの単価が安価になり、基本波長として用いSHG素子を通し波長390nm〜470nmレーザ光を生成することによりコストパフォーマンス向上が達成できる。
【0091】
以上、本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態におけるレーザ発光器、光学系、フォーカス制御系、フォーカスエラー検出手段、対物レンズ駆動手段、レーザ強度分布制御手段などの構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のレーザ照射装置及びレーザ照射方法は、上記したTFTを搭載したフラットディスプレイの製造に好適であるほか、相変化光ディスク、太陽電池などの製造にも適用することができるものであり、産業上利用することができるものである。
【符号の説明】
【0093】
1:半導体レーザ素子、2:光ファイバ、3:直線バンドル、4:光補整器、5:対物レンズ、6:レーザ光、7:レーザ光、8:線状レーザスポット、9:半導体レーザ素子、10:光ファイバ、11:直線バンドル、12:光補整器、13:対物レンズ、14:フォーカス制御用半導体レーザ素子、15:コリメートレンズ、16:偏光ビームスプリッタ、17:ビームスプリッタ、18:凸レンズ、19:フォーカス信号生成器、20:位相補償回路、21:ドライバ、23:レーザ光、23:フォーカスエラー信号、24:平行光、24A:波長分離板、24A:波長分離版、26:メインレーザ系、28:線状レーザビーム、29:レーザ光、30:スポット回転器、31:光軸、32:線状レーザスポット、33:角度、34:半導体レーザ素子、35:光ファイバ、36:直線バンドル、37:光補整器、38:対物レンズ、39:ビームスプリッタ、40:集光レンズ、41:ラインセンサ、42:マイクロプロセッサ、43:レーザドライバ、44:レーザ強度分布、45:レーザ強度分布、46:絶縁基板、47:ステージ、48:レーザ照射装置、50:線状レーザスポット、52:マザーガラス、53:ディスプレイ、53A:画素部、55:Xドライバ回路、Y56:ドライバ回路、57:線状レーザスポット、67:ドライバ回路、68:ドライバ回路、69:コントロール回路、70:インタフェース回路、71:演算回路、72:絶縁基板上、72:絶縁基板、73:アンダーコート膜、75:線状レーザビーム、74:アモルファスシリコン膜面、74B:ポリシリコン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射装置であって、
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、
前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置。
【請求項2】
前記レーザ発光素子又は素子群は、レーザ波長が445nmのレーザ光を発光することを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記レーザ発光素子又は素子群は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記レーザ発光素子の各々から発光されるレーザ光を導光する光ファイバと、当該光ファイバを平行に整列させて保持する直線バンドルと、前記光ファイバのレーザ発光素子群とは反対側の端から出射されるレーザ光を線状スポット光となるよう整形し、光強度分布を平滑化して出射する光補整器と、当該光補整器から出射されたレーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズとを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記光補整器及び前記対物レンズは、短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットが照射対象物の照射面上に形成されるようレーザ光を整形及び集光することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、
前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整する焦点調整手段とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記フォーカスエラー検出手段が、波長350nm〜900nmの範囲で、かつ請求項1に記載のレーザ発光素子の発光波長とは異なる波長のレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項9】
前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、
前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項10】
前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子又は素子群の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、
前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを、照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させるスポット回転手段を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項12】
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一レーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射方法であって、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながら照射対象物にレーザ照射を行うレーザ照射方法。
【請求項13】
レーザ波長が445nmのレーザ光を用いて照射対象物にレーザ照射を行うことを特徴とする請求項12に記載のレーザ照射方法。
【請求項14】
前記レーザ発光素子又は素子群は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする請求項12又は13に記載のレーザ照射方法。
【請求項15】
前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であることを特徴とする請求項12に記載のレーザ照射方法。
【請求項16】
基板上に薄膜状に形成された厚さ30nm〜80nmのシリコン膜にレーザ照射を行うことを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項17】
短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットを照射対象物に照射することを特徴とする請求項11から16のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項18】
前記レーザ照射装置は、照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、レーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズと、前記対物レンズを照射面に対して近接又は離隔する方向に移動させる手段とを有しており、
前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整することにより前記線状レーザスポットの焦点調整を行うことを特徴とする請求項12から17のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項19】
前記フォーカスエラー検出手段が、波長350nm〜900nmのレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とすることを特徴とする請求項12から18のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項20】
前記レーザ照射装置は、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、
前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項21】
前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、
前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする請求項12から20のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項22】
前記レーザ発光素子制御手段は、照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを回転させるスポット回転手段を有しており、
線状レーザスポットを照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させることを特徴とする請求項12から21のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項23】
請求項1から11のいずれか1項に記載のレーザ照射装置を用いて、アモルファスシリコン膜を改質する方法であって、
厚さ30nm〜80nmのアモルファスシリコン膜に対して、当該アモルファスシリコン膜の膜厚と同一の光侵入長又は当該膜厚の50%〜150%の光侵入長を有するレーザ波長のレーザ光を照射することによりアモルファスシリコン膜を改質する方法。
【請求項24】
請求項12から22のいずれか1項に記載のレーザ照射方法を用いて、アモルファスシリコン膜を改質する方法であって、
厚さ30nm〜80nmのアモルファスシリコン膜に対して、当該アモルファスシリコン膜の膜厚と同一の光侵入長又は当該膜厚の50%〜150%の光侵入長を有するレーザ波長のレーザ光を照射することによりアモルファスシリコン膜を改質する方法。
【請求項25】
非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化装置であって、
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、
前記レーザ発光素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するシリコン結晶化装置。
【請求項26】
前記レーザ発光素子群と、前記集光手段を含む光ヘッド部とを分離して配置し、前記レーザ発光素子群の各レーザ発光素子から発光されるレーザ光を前記光ヘッド部に導光する屈曲性を有する光ファイバ有していることを特徴とする請求項25に記載のシリコン結晶化装置。
【請求項27】
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化方法であって、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うシリコン結晶化方法。
【請求項28】
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うことを特徴とする請求項25に記載のシリコン結晶化方法。
【請求項1】
照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射装置であって、
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、
前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置。
【請求項2】
前記レーザ発光素子又は素子群は、レーザ波長が445nmのレーザ光を発光することを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記レーザ発光素子又は素子群は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記レーザ発光素子の各々から発光されるレーザ光を導光する光ファイバと、当該光ファイバを平行に整列させて保持する直線バンドルと、前記光ファイバのレーザ発光素子群とは反対側の端から出射されるレーザ光を線状スポット光となるよう整形し、光強度分布を平滑化して出射する光補整器と、当該光補整器から出射されたレーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズとを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記光補整器及び前記対物レンズは、短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットが照射対象物の照射面上に形成されるようレーザ光を整形及び集光することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、
前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整する焦点調整手段とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記フォーカスエラー検出手段が、波長350nm〜900nmの範囲で、かつ請求項1に記載のレーザ発光素子の発光波長とは異なる波長のレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項9】
前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、
前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項10】
前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子又は素子群の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、
前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを、照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させるスポット回転手段を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項12】
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一レーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、照射対象物をレーザ照射により改質するレーザ照射方法であって、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながら照射対象物にレーザ照射を行うレーザ照射方法。
【請求項13】
レーザ波長が445nmのレーザ光を用いて照射対象物にレーザ照射を行うことを特徴とする請求項12に記載のレーザ照射方法。
【請求項14】
前記レーザ発光素子又は素子群は、半導体レーザ又は固体レーザであることを特徴とする請求項12又は13に記載のレーザ照射方法。
【請求項15】
前記レーザ発光素子又は素子群は、波長780nm以上の赤外半導体レーザと高調波発生素子との組み合わせ素子であることを特徴とする請求項12に記載のレーザ照射方法。
【請求項16】
基板上に薄膜状に形成された厚さ30nm〜80nmのシリコン膜にレーザ照射を行うことを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項17】
短手方向幅が1um〜30um、長手方向幅が0.2mm〜30mmの寸法を有する線状レーザスポットを照射対象物に照射することを特徴とする請求項11から16のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項18】
前記レーザ照射装置は、照射対象物に反射される戻り光を受光し、当該戻り光の光量に基づいてフォーカスエラーを検出し、フォーカスエラー信号を出力するフォーカスエラー検出手段と、レーザ光を照射対象物の照射面上に線状レーザスポットとして集光する対物レンズと、前記対物レンズを照射面に対して近接又は離隔する方向に移動させる手段とを有しており、
前記フォーカスエラー信号に基づいて、前記対物レンズの位置を照射面に対して近接又は離隔する方向に調整することにより前記線状レーザスポットの焦点調整を行うことを特徴とする請求項12から17のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項19】
前記フォーカスエラー検出手段が、波長350nm〜900nmのレーザ光を発光するフォーカス用レーザ発光素子を有することを特徴とすることを特徴とする請求項12から18のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項20】
前記レーザ照射装置は、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光が照射対象物に到達するまでの光路上に前記レーザ発光素子の各々の光強度分布を検出するレーザ光強度分布検出手段を有し、
前記レーザ発光素子制御手段が、前記レーザ光強度分布検出手段の検出結果に基づいて、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御することにより、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光のレーザ光強度分布が所定の範囲内に収まるように調整することを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項21】
前記レーザ発光素子制御手段は、前記レーザ発光素子の各々に対して断続的に制御用パルスを出力することにより、前記レーザ発光素子の各々の発光量を制御するものであり、
前記制御用パルスは、発振周波数が0.1MHz〜5MHz、パルスデューティが10%〜90%、パルストップパワー値(Pt)とパルスボトムパワー値(Pb)との比率(Pb/Pt×100)が50%以下であることを特徴とする請求項12から20のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項22】
前記レーザ発光素子制御手段は、照射対象物の照射面上に形成される線状レーザスポットを回転させるスポット回転手段を有しており、
線状レーザスポットを照射面内において0°〜90°の角度範囲で回転させることを特徴とする請求項12から21のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項23】
請求項1から11のいずれか1項に記載のレーザ照射装置を用いて、アモルファスシリコン膜を改質する方法であって、
厚さ30nm〜80nmのアモルファスシリコン膜に対して、当該アモルファスシリコン膜の膜厚と同一の光侵入長又は当該膜厚の50%〜150%の光侵入長を有するレーザ波長のレーザ光を照射することによりアモルファスシリコン膜を改質する方法。
【請求項24】
請求項12から22のいずれか1項に記載のレーザ照射方法を用いて、アモルファスシリコン膜を改質する方法であって、
厚さ30nm〜80nmのアモルファスシリコン膜に対して、当該アモルファスシリコン膜の膜厚と同一の光侵入長又は当該膜厚の50%〜150%の光侵入長を有するレーザ波長のレーザ光を照射することによりアモルファスシリコン膜を改質する方法。
【請求項25】
非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化装置であって、
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、
前記レーザ発光素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するシリコン結晶化装置。
【請求項26】
前記レーザ発光素子群と、前記集光手段を含む光ヘッド部とを分離して配置し、前記レーザ発光素子群の各レーザ発光素子から発光されるレーザ光を前記光ヘッド部に導光する屈曲性を有する光ファイバ有していることを特徴とする請求項25に記載のシリコン結晶化装置。
【請求項27】
レーザ波長が390nm〜470nmのレーザ光を発光する単一のレーザ発光素子又は複数のレーザ発光素子を配置したレーザ発光素子群と、前記レーザ発光素子又は素子群から発光されるレーザ光を線状レーザスポットに集光する集光手段と、前記集光した線状レーザスポットを照射対象物に照射する手段と、前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整するレーザ発光素子制御手段とを有するレーザ照射装置を用いた、非結晶質又は多結晶質のシリコンをレーザ照射により結晶化するシリコン結晶化方法であって、
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うシリコン結晶化方法。
【請求項28】
前記集光手段により集光された線状レーザスポットの総照射パワー値が6W〜200Wとなるよう前記レーザ発光素子の各々の発光量を調整しながらシリコンにレーザ照射を行うことを特徴とする請求項25に記載のシリコン結晶化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【公開番号】特開2011−71351(P2011−71351A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221555(P2009−221555)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼研究集会名:2009年春季 第56回応用物理学関係連合講演会 主催者:社団法人応用物理学会 開催日:平成21年3月30日〜4月2日 発表日:平成21年3月31日 予稿集発行日:平成21年3月30日 ▲2▼研究集会名:THE SIXTEENTH INTERNATIONAL WORKSHOP ON ACTIV−MATRIX FLATPANEL DISPLAYS AND DEVICES(第16回アクティブマトリクスフラットパネルディスプレイ 国際会議) 主催者:THE JAPAN SOCIETY OF APPLIED PHYSICS(社団法人応用物理学会) 開催日:平成21年7月1日〜3日 発表日:平成21年7月3日 講演予稿集発行日:2009年7月1日
【出願人】(000233033)日立コンピュータ機器株式会社 (253)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼研究集会名:2009年春季 第56回応用物理学関係連合講演会 主催者:社団法人応用物理学会 開催日:平成21年3月30日〜4月2日 発表日:平成21年3月31日 予稿集発行日:平成21年3月30日 ▲2▼研究集会名:THE SIXTEENTH INTERNATIONAL WORKSHOP ON ACTIV−MATRIX FLATPANEL DISPLAYS AND DEVICES(第16回アクティブマトリクスフラットパネルディスプレイ 国際会議) 主催者:THE JAPAN SOCIETY OF APPLIED PHYSICS(社団法人応用物理学会) 開催日:平成21年7月1日〜3日 発表日:平成21年7月3日 講演予稿集発行日:2009年7月1日
【出願人】(000233033)日立コンピュータ機器株式会社 (253)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]