説明

ロボット制御装置の補正パラメータ同定装置

【課題】減速機角度伝達誤差によるうねりを補正する。
【解決手段】ロボットの手先部に発生するうねりの振幅を求める手段と、複数の関節の所定の関節Jiに対応するうねりの振幅値Diを求める手段と、所定の関節Jiをモータの位置指令θrefiで単軸動作させた際に、関節の軸に現れる位置フィードバック信号Biを計測する手段と、関節Jiに対する位置指令値θrefiに振幅Cのうねりを重畳的に加え、更に、他の軸Jxに位置指令θrefxが加えたと仮定した場合に、手先位置において発生するうねりC’iを計算する手段と、Ai=(Ci/C’i)×Diという式に従って、Biに対応するAiを求める手段と複数のロボットに対して、以上の各手段を用いて、Biに対応するAiを求める手段とを備える、ロボット制御装置の補正パラメータ同定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施例は、例えばロボット制御装置の補正パラメータ同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアーク溶接やレーザカット用途ロボットに用いられるロボット制御装置においては、動作時にロボットの手先位置が重力方向にうねるように振動し、加工精度が悪化する現象が発生することがある(例えば特許文献1参照)。このうねりはロボット各軸に取り付けられた減速機の角度伝達誤差により発生すると考えられている。
【0003】
この減速機の角度伝達誤差に対処するために、通常のロボット制御装置は、各軸のうねりを打ち消す正弦波指令を与えて作業対象物の位置の補正をしている。
図9に従来技術におけるロボット制御装置の位置補正技術を示す。ここでは、減速機のうねりは正弦波の補正信号θcomで打ち消される。この正弦波θcomの振幅Aと位相Δθは、予め調整され、適正値が求められる。
【0004】
この適正値は、振幅設定部19、位相設定部20により設定される。正弦波生成部24は、設定された振幅A、位相Δθおよび指令生成部53が出力する位置指令ベース信号θrbに基づいて、補正信号θcomを算出する。
【0005】
算出された補正信号θcomは、位置指令ベース信号θrbに加算され、補正後の位置指令信号θrefとなる。この位置指令信号θrefは、角度検出部51が検出したモータの回転角度θfbと比較され、その比較結果の偏差に基づきサーボ制御部52がモータ11を駆動し、ロボットアーム14は位置決め制御される。
【0006】
従来の減速機角度伝達誤差の補正パラメータ同定方法は、ロボット外界センサを使用し、手先うねりが最小になるように補正パラメータである振幅・位相を調整し、同定している(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
また、ねじれトルクによるモータへの反力に減速比を考慮することで、より正確な制御対象モデルを同定することができ、現代制御理論の導入によりロボット手先位置軌跡精度を向上しているものもある。この場合、補正パラメータである位相は、ロボット内界センサ(モータを駆動する電流、モータ回転速度)により取得したデータを用いて同定している(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
このように、従来のロボット制御装置では、減速機角度伝達誤差を補正する補正信号のパラメータである振幅・位相共にロボット外界センサで同定する手順、または、位相のみロボット内界センサで同定する手順がとられていた。つまり、補正信号のパラメータである振幅を内界センサで同定する技術は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2577713号公報
【特許文献2】特開平7−129251号公報
【特許文献3】特許第3239789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
減速機の角度伝達誤差の補正パラメータは同枠番の減速機であっても個体差があり、個体毎に同定する必要がある。つまりロボット出荷時の調整工程や、出荷後の故障などによる減速機交換の際には都度補正パラメータ同定が必要となる。
しかしながら、前述のように従来の補正パラメータ同定方法では、補正パラメータである振幅・位相の両方をロボット内界センサのみで同定することができず、ロボット外界センサや周辺機器をロボット付近に設置しなければならない。さらに出荷後の減速機交換では、ロボットの稼動現場までロボット外界センサや周辺機器を運搬する手間が生じることもある。
このように、従来の補正パラメータ同定方法では補正パラメータを簡易に同定できないという問題があった(なお、簡易でない同定方法というのは、同定時にロボット外界センサや周辺機器を必要とすることをいう)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、出願時の本願発明は、以下の各発明を提供する。
なお、本願出願時の明細書の記載を基礎として、特許請求の範囲の記載が補正され得ることは勿論であるが、その際に、以下の各「発明」の内容を訂正することは予定しない(以下の各「発明」は、本願明細書における開示の要点としての意味を持つ)。
[発明1]
モータにより、減速機を介して複数の関節J1-nが駆動されるロボットと、
前記各関節1-nにおいて前記モータの角度B1-n[rad]を検出する角度検出部と、
前記各関節J1-n(1からnは整数)に対する、前記モータの位置指令θref1〜n[rad]を生成する指令生成部と、
前記位置指令θref1〜n[rad]と、当該位置指令θref1〜n[rad]に対して実際に検出された前記モータ角度θfb1〜n[rad]との誤差である、減速機角度伝達誤差を補正するための補正信号A1〜n[rad]を生成する補正信号生成部であって、当該補正信号A1〜n[rad]が、前記位置指定θref1〜n[rad]に当該補正信号A1〜n[rad]を加算することによって、前記減速機角度伝達誤差を解消するためのものであるものと、
を備えたロボット制御装置の補正パラメータ同定装置であって、
前記ロボットの手先部を直交動作させた際に発生する、前記複数の関節の少なくとも2つの前記減速機角度伝達誤差に起因する、当該手先部に発生する、Z軸方向、即ち地表面と垂直な方向、のうねりの振幅Z[mm]を求める手段と、
前記うねりの振幅Z[mm]をフーリエ変換して、前記複数の関節の所定の関節Jiに対応するうねりの振幅値Di[mm](iは1からnのうちの所定の数)を求める手段と、
前記所定の関節Ji(iは1からnのうちの所定の数)をモータの位置指令θrefi[rad]で単軸動作させた際に、前記所定の関節の軸に現れる位置フィードバック信号Bi[rad]を計測する手段と、
前記所定の関節Jiに対する位置指令値θrefiに更に外部から振幅C[rad]のうねりを重畳的に加えたと仮定し、これらに加えて更に、他の軸Jx(xは、i以外の所定の数)に位置指令θrefx[rad]が加えられたと仮定した場合に、順運動学によって、手先位置においてZ方向に発生することとなる仮想的うねりC’i[mm]を計算する手段と、
Ai[rad]=(Ci[rad]/C’i[mm])×Di[mm]
という式に従って、前記Bi[rad]に対応するAi[rad]を求める手段と、
同一機種であるが、その動作可能重量が異なる複数のロボットに対して、以上の各手段を用いて、それぞれのロボットに対する、Bi[rad]に対応するAi[rad]を求める手段と、
を備える、ロボット制御装置の補正パラメータ同定装置。
【0012】
このように構成することによって、補正信号のパラメータである振幅を内界センサで同定することが可能となる。
[発明2]
前記補正パラメータ同定装置における、減速機角度伝達誤差を補償する装置であって、
所定の関節Jj(jは1からnのうちの任意の数)を単軸動作させる手段と、
前記単軸動作のために所定の位置指令θrefj[rad]を与える手段と、
前記単軸動作された関節Jjにおいて測定された位置フィードバックθfbj[rad]を得る手段と、
前記位置フィードバックθfbj[rad]の、前記位置指令θrefj[rad]からの遅れ時間ΔTdj[sec]を求める手段と、
前記位置フィードバックθfbj[rad]を前記ΔTdj[sec]だけ進めた信号θfb’ j[rad]を得る手段と、
前記信号θfb’ j[rad]と前記位置指令θrefj[rad]の差Difj[rad]を求める手段と、
前記Difj[rad]の振幅Bj[rad]を求める手段と、
発明1に記載の各手段により、前記振幅Bj[rad]に対応するAj[rad]を求める手段と、
を備える装置。
【0013】
このように構成することによって、各ロボット毎に異なる減速機の角度伝達誤差を補償することが可能となる。
以下に、本願明細書中で使用する用語の意義を列挙する。
・ロボット→人の代わりに何等かの作業を行う装置。本発明では、主に、ある程度自律的に連続した自動作業を行う、産業用ロボットが代表例だが、これに限定されない。将来開発される「ロボット(人の代わりに何等かの作業を行う装置)」であって、本願特許請求の範囲の技術的範囲に含まれる発明を利用可能な全ての「ロボット」が含まれる。
・エンコーダ→モータの位置(回転角度)を測定するためのセンサ。エンコーダの出力を微分するとモータの回転(角)速度が得られる。
・順運動学→ロボット制御の場合は各軸を駆動するモータにエンコーダが設けられており、エンコーダで測定した各軸の位置(回転角度)と、ロボットの各リンクの長さ(既知)とからロボットの手先の位置・姿勢を求めることができる。このロボットの手先の位置・姿勢を求めることを順運動学(順変換)と言う。
・逆運動学(逆変換)→あるロボットの手先の位置・姿勢を実現するために、ロボットの各軸の位置(回転角度)をどのようにすればよいかを求めることを言う。
・外界センサ→元来のロボット制御系とは別に外部に設けられ、ロボットの動き(本発明の実施例の場合、手先のうねり)を外部から測定するセンサ。特許文献2の振動検出器がこれに相当する。
・内界センサ→ロボットのモータの位置を測定するエンコーダや、モータに流れる電流値、電圧値を測定するセンサのように、ロボットの制御系の内部に設けられたサンサ。
・同定(する)→計算すること。制御系や機構系のモデルを確定するためのパラメータを求める、という意味。
・PC→パソコン
・単軸動作→1軸のみの動作(ロボットの関節のうち1軸を動作させる)
・直交動作→例えばX軸方向にロボットの手先を移動させること。
・ハーモニック減速機→ロボットの各関節を駆動させるモータと組み合わせて用いられる減速機の一種。なお、減速機の代表例はギアである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施例は、例えば、減速機角度伝達誤差によるうねりを補正する際に必要となる補正信号のパラメータである振幅をロボット内界センサにより同定することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1−A】本発明の実施例の全体的説明。
【図1−B】本発明の実施例の技術を示すフローチャート
【図2】本発明の実施例の技術を適用するロボット制御装置の構成を示す図
【図3】補正振幅と位置フィードバックの関係式を導出するために用いるシステム図
【図4】補正振幅と位置フィードバックの関係式を導出するための手順を示すフローチャート
【図5】補正振幅と位置フィードバックの関係式を導出するための手順を補足する図
【図6】補正振幅と位置フィードバックの関係式を示すグラフ
【図7】補正振幅を同定する手順を示すフローチャート
【図8】補正振幅を同定する手順を補足する図
【図9】従来技術のロボット制御装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例では、ロボットの手先位置が重力方向にうねる際の、当該うねりとは逆方向の補正用の位置指令A(振幅値:rad)を与える装置において、当該逆方向の位置指令の値Aを求める、新規な技術を開示する。
【0017】
この技術においては、図1−Aを参照すると、
(1)まず、直交動作を行い、各機種のロボット1台毎の、各軸毎への位置指令θref[rad]と、当該指令に対して実際に得られた(うねりを含む)手先位置Z[mm]を測定する(図4:S42)。
(2)次に、手先位置Z[mm]をフーリエ変換して、周波数軸上の、ロボット各軸(例えば軸Ji)に対応する周波数における振幅D[mm](時間軸上では、うねりの振幅に相当)を得る(1回のフーリエ変換で、各軸毎の値が一挙に求まる理由は後述)。(図4:S44)
(3)単軸動作を行い、ロボット各軸のエンコーダの値から、各軸(例えば軸Ji)の、位置フィードバックθfb[rad]の振幅B[rad]を求める(図4:S45)。
(4)次に、上記補正用の位置指令Aを求めたい軸Jiに、人工的に振幅C[rad]の振幅のうねりを与えたと仮定した場合(図4:S46)に、
(4-1)軸Jiへの位置指令値に当該C[rad]が重畳された信号(C+θref)[rad]@Ji[図4のS46のデータ”3”]、及び、
(4-2)他の軸Jyにおける位置指令θref[rad]@Jy、
の2つが指令値として与えられたと仮定した場合に、順運動学を用いて得られる、Z方向手先位置の仮想的うねりC’[mm]を計算する(図4:S47)。
(5)軸Jiへ人工的に与えたと仮定されるC[rad]と、Z方向手先位置の仮想的うねりC’[mm]の比が、軸Jiに与えるべき補正振幅A[rad]と、Z方向手先位置のうねりの振幅D[mm]の比に等しいことを利用して、既知となった、C[rad],C’[mm]、及び、D[mm]から、A[rad]を求める(図4:S48)。
これ以降の説明では、補正信号のパラメータである振幅を「補正振幅」と記載することにする。
【0018】
複数の同一仕様のロボットに対して以上の手順を実行することで、図6に相当する、BとA[rad]の関係が得られ、当該ロボットにおいて、手先位置θfbのうねりの振幅B[rad]と、当該Bに対して必要な補正振幅A[rad]の対応関係、A=f(B)(式5)(後述)が得られる。
ここで、「複数の同一仕様のロボットに対して以上の手順を実行」とは、同じ機種のロボット数機について測定してA=f(B)の関係を得ることをいう。次に、出荷段階では、このようにして得られたA=f(B)の関係を利用しつつ、各ロボット毎に異なる減速機角度伝達誤差を補償するため、次のような処理を行う。
【0019】
つまり、
(6)上記各軸毎への位置指令θrefと、当該指令に対して実際に得られた(うねりを含む)手先位置θfbとの間に、存在する時間差の影響を除去して、実際に与えられる位置指令がθrefであり、実際に得られる手先位置がθfbである場合に、当該時間差の影響を除去して、正確な補正振幅Aを得る(図8を用いて後述)。
以下、本発明のロボット制御装置の具体的実施例について、図1−Bから図8に基づいて説明する。
【0020】
図1−Bは、本発明の実施例の補正パラメータ同定方法を示すフローチャートである。
まず、複数ロボットにおいて単軸動作で位置指令と位置フィードバックを、直交動作で手先位置と位置指令を計測する(S11)(上記(1)から(3)に相当)。
次に、位置フィードバックの振幅と補正信号のパラメータである振幅の関係式を導出する(S12)(上記(4)から(5)に相当)。
そして、個体毎の補正振幅の調整を行う(S13)(上記(6)に相当)。(S11)、(S12)は、位置フィードバックの振幅と補正信号のパラメータである振幅の関係式を導出するための手順である。事前準備であり、1機種につき1回のみ行えばよい。1機種に1回というのは、ロボットの大きさが変わると、その機種で測定しないといけないということである。(例えば、10kg、20kg、30kg可搬のロボットがあれば、その3機種分測定する必要がある)
【0021】
ステップS13は、個体毎に補正パラメータを同定する手順であり、出荷時や、ロボット稼動現場での減速機交換に伴う調整時に行う。事前準備で位置フィードバックの振幅と補正振幅の関係式を導出しているため、ロボット外界センサなしで簡易に同定することができる。
【0022】
図2は、本発明の実施例の技術を実施するロボット制御装置の構成を示すシステム図である。
ロボット1は、一般的な6軸の産業用ロボットである。ただし、本発明の実施例は一般的な6軸の産業用ロボットに限らず、任意のロボットについて実施できる。本実施例では、図2に示すようにロボットの各軸をS軸、L軸、U軸、R軸、B軸、T軸と呼称する。
【0023】
ロボット制御装置5は、角度検出部51、サーボ制御部52、指令生成部53、補正信号生成部54、振幅同定部55、位相同定部56を備えている。
角度検出部51は、ロボット1の各軸モータの角度を検出する。また、サーボ制御部52は、各軸のモータを制御する。指令生成部53は、各軸のモータへの指令を生成する。補正信号生成部54は、各軸のうねりを補正するための補正信号を生成する。振幅同定部55、位相同定部56は、それぞれ補正信号の振幅、位相を同定する。振幅同定部55は、後述する本発明の技術を用い、位相同定部56は、従来技術(例えば上記特許文献1)のロボット内界センサで同定する際の技術を用いることができる。
【0024】
補正信号生成部54は、振幅設定部19、位相設定部20、正弦波生成部24を備えている。正弦波生成部24は、補正信号となる正弦波を生成する。また、振幅設定部19および位相設定部20は、正弦波生成部24で生成する正弦波の振幅と位相を設定するものである。振幅同定部55、位相同定部56により同定された値が振幅設定部19、位相設定部20に設定される。
【0025】
図3は、本発明の実施例において、上述の(1)から(5)のようにして、補正振幅A[rad]と位置フィードバックθfbの振幅B[rad]の関係式を導出するために用いるシステム図である。
【0026】
レーザ距離計測センサ2は、後述する反射板3との距離を計測することで、反射板3を基準とした相対的なロボット1の手先位置を計測するための反射型レーザ距離計測センサである。
反射板3は、反射型レーザ距離計測センサが出力するレーザを反射して、Z方向(地表面に垂直方向)の手先位置を計測するための部材である。
【0027】
ロボット座標系6は、ロボット本体に固定された座標系であり、ロボットを動作される際の基準座標系である。ロボット座標系6では、ロボット1の前後方向にX軸、左右方向にY軸、上下方向にZ軸が設けられている。
【0028】
関係式導出部4では、Z方向手先位置Zと各軸の位置指令値θref、位置フィードバックθfbを取得する。これらの情報を用いて、補正振幅Aと位置フィードバックθfbの振幅Bの関係式を導出する。関係式導出部4は、例えばPCなどで構成される。
【0029】
図4のフローチャートは、図1−BのステップS11、ステップS12に対応(上記(1)から(5)に対応)するものであり、後述の式(5)の関係式を導出するための手順(事前準備)を示すフローチャートである。
【0030】
同一仕様のロボット数機(少なくとも3機以上、例えば5機)に対してステップS41〜ステップS48を行い、式(5)の関係式(補正振幅Aと位置フィードバックの振幅Bとの関係式)を求める。
ここでは、図3のシステムを用いる。
まず、ロボットを直交動作させる(S41)。
次に、下記2つのデータを計測する(S42)。
【0031】
(i)Z方向手先位置
(ii)各軸の位置指令θref[rad]
ロボットが停止するのを待つ(S43) 。
次に、(i)のデータからフーリエ変換により各軸のZ方向手先位置の振幅D[mm]を求める(S44)。
【0032】
フーリエ変換することによって、周波数軸上に、低い周波数から高くなる方向に、例えば図5のL軸の周波数における振幅、及び、U軸の周波数における振幅が得られる。(なお、この「振幅」は、軸の回転方向の「振幅」[rad]ではなく、手先での振動の振幅[mm]に対応する、各軸の回転方向の振幅[rad]を手先での振動振幅[mm]に換算した物理量に対応する)
ここで、フーリエ変換後に、周波数軸上に現れる、複数のピーク値が、それぞれ、ロボットのどの軸の振動(うねり)に対応するかは、次のようにして知ることができる。
【0033】
各軸の減速機角度伝達誤差による手先に現れるうねりの周波数は、モータ速度と減速機の構造による。例えば、L軸減速機の構造によって1周にN個うねりが現れるとする。L軸のモータ速度がω、L軸減速比dとする。すると、うねりの周波数は、(ω×N)/(2π×d)と分かる(図5を参照した、後述の図4のS44についての「各軸のZ方向手先位置のDの求め方」参照)。
【0034】
位置フィードバックには、減速機角度伝達誤差に起因するうねりが現れる。このうねりの周波数は、例えばRV減速機の場合、一つの減速機にRVギア2枚が逆位相で付いているため、噛合うピン数の2倍に比例することとなる。また、例えば、ハーモニック減速機の場合、モータ1回転あたり2周期であることが知られている。このように、減速機の構造によってうねりの周期が決まる。
【0035】
このように、フーリエ変換を用いることによって、1回の測定で、関係する全ての軸の振動の振幅を求めることができる。
続いて、図3に概説した方法を用いて各軸の位置フィードバックθfbの振幅B[rad]を求める(S45)。
【0036】
(なお、S45で得られるBは、以降の処理で次のように用いられる。即ち、事前準備として複数ロボットで、S11とS12でAとBの関係式(A=f(B)[式5])が求まっている。その後はS13でBさえ求めれば、Aが求まる(内界センサであるエンコーダがあればAを求めることができる。事前準備が終わってからは手先位置を計測する必要はない)。すなわち、Bを求めることによって、当該Bに対応するAを求めるためにBの値を用いるのである。)
更に、同定したい軸の(ii)のデータに振幅C[rad]の正弦波を加算したデータ(iii)を作成する(S46)。
【0037】
そして、(iii)のデータと同定したい軸以外の(ii)のデータから順運動学によりZ方向手先位置の振幅C´[mm]を計算する(S47)。
最後に、C:C´=A:Dの関係から補正振幅A[rad]を求める(S48)。
【0038】
図5は、図4のステップS44、ステップS46、ステップS47の手順を図式化したものである。
図5を用いて、 図4のステップS44における、各軸のZ方向手先位置の振幅Dの求め方について補足説明する。
【0039】
レーザ距離計測センサ2で計測したZ方向手先位置をP(t)とする。すると、式(1)〜(4)により各軸のZ方向手先位置の振幅Dを求めることができる。
ただし、T0[sec]は各軸のうねりの周期、ΔtはZ方向手先位置データを計測したサンプリング周期、dは減速比、ωは角速度、AnとBnはフーリエ係数である。角速度は計測した位置フィードバックθfbの時系列データから算出する。
【0040】
【数1】

【0041】
【数2】

【0042】
【数3】

【0043】
【数4】

【0044】
図6は、後述の式(5)の関係式を導出するために、同一仕様のロボット数機(少なくとも3機以上)に対して図4の事前準備の手順を行い、補正振幅Aと位置フィードバックθfbの振幅Bをプロットしたグラフである。このグラフから関係式(5)を導出する。例えば、最小二乗法により関係式を求めるが、最小二乗法には限定されない。
【0045】
【数5】

【0046】
図7は、図1−BのステップS13に係る、出荷時にロボット制御装置において補正振幅Aを同定する処理手順を示すフローチャートである。この図を用いて本発明実施例における技術を順を追って説明する。ハードウェアとしては図2のシステムを用いる。
まず、同定したい軸を単軸動作させる(S71)。
次に、位置指令θrefと位置フィードバックθfbを計測する(S72)。
ロボットが停止するのを待つ(S73)。
次に、位置フィードバックθfbと位置指令θrefからの遅れΔTdを求める(S74)。
そして、位置フィードバックθfbを(S74)で求めた遅れΔTd進める(得られたデータをθfb´とする)(S75)。
次に、位置指令θrefと(S75)で求めたデータθfb´との差を求める(S76)。
このようにして、各ロボット毎に異なる減速機角度伝達誤差を補償することが可能となる。
引き続き、ステップS76で求めたデータの振幅B[rad]を求める(S77)。
式(5)より補正振幅A[rad]を算出する(S78)。式(5)の関係式は、上述のようにして既に求められている(図4のフローチャート参照)。
【0047】
上記手順により振幅同定部55は、角度検出部51から得た位置フィードバックの振幅Bと式(5)から補正振幅Aを同定し、その値を振幅設定部19により設定する。
図8は、図7のステップS74〜ステップS77を図式化したものである。
【0048】
このように、ロボットの同定したい軸を単軸動作させ、ロボット内界センサであるエンコーダにより位置フィードバック信号の減速機角度伝達誤差に起因するうねりの振幅を求め、各関節軸の減速機角度伝達誤差を補正する補正振幅と位置フィードバック信号の振幅との事前に得られた関係式を用いて位置フィードバック信号の振幅から補正振幅を同定するので、製品出荷工程や減速機交換時に補正パラメータ同定のために新たな周辺機器を必要とせず、簡易に短時間で補正パラメータを同定することができる。
【0049】
また、経年変化で補正振幅が変化しても、位置フィードバック信号の振幅を計測し直せば、経年変化した後の補正振幅を同定できる。
本明細書に説明される特定の実施形態が説明された。他の実施形態は、特許請求の範囲内にある。例えば、特許請求の範囲に挙げられた動作は、異なる順番で実行し、依然として望ましい結果を実現することができる。一例として、添付図面に示されるプロセスは、望ましい結果を実現するために、必ずしも、示される特定の順番又は逐次的な順番を必要とするものではない。
【0050】
また、1つの構成要素が有する機能が2つ以上の物理的構成によって実現されてもよく、2つ以上の構成要素が有する機能が1つの物理的構成によって実現されてもよい。システムの発明は、それぞれの構成要素の有する機能が逐次的に実行される方法の発明として把握することもできるし、その逆も成り立つ。方法の発明においては、各ステップは記載された順序に実行されるものに限定されるものではなく、全体としての機能が矛盾なく実行され得る限りにおいて、自由な順序でそれを実行することができる。これらの発明は、所定のハードウェアと協働して所定の機能を実現させるプログラムとしても成立し、それを記録した記録媒体としても成立する。また本発明は、搬送波上に具現化されたコンピュータ・データ信号であって、そのプログラムのコードを備えたものとしても成立しうる。
【0051】
本態様の他の実施形態は、対応するシステム、装置、デバイス、コンピュータプログラム製品、及びコンピュータ可読媒体を含む。
審査中の手続補正によって、及び、特許後の訂正審判又は訂正請求において、法的な制限の範囲内で、本発明は、以上の種々の態様に訂正され得る。
【0052】
なお、特許後の訂正審判又は訂正請求における「実質上特許請求の範囲を変更」の判断は、特許時の請求項に新たな構成要素が追加されたか否か(即ち、いわゆる外的付加が為されたか否か)、又は、特許時の請求項の1つ又はそれより多いいずれかの構成要素を更に限定するものか(即ち、いわゆる内的付加が為されたか)によって判断されるべきでなく、訂正の前後の請求項に係る発明の効果が類似するか否かの観点から為されるべきである。
【0053】
本明細書は、多数の特定のものを含むが、これらは、特許請求される又は特許請求されることができる範囲に対する制限として解釈されるべきではなく、特定の実施形態に特有の特徴の説明として解釈されるべきである。
【0054】
別個の実施形態の内容において、本明細書に説明される特定の特徴は、さらに、単一の実施形態において組み合わせて実施することができる。
対照的に、単一の実施形態の内容において説明される種々の特徴は、さらに、多数の実施形態において、又はあらゆる好適な小結合において実施することができる。
【0055】
さらに、特徴は、特定の組み合わせにおいて作用するように上述され、さらに最初に、そのように特許請求されることがあるが、特許請求される組み合わせからの1つ又はそれ以上の特徴は、幾つかの場合においては、その組み合わせから実行されることができ、特許請求される組み合わせは、小結合又は様々な小結合に向けられることができる。
【0056】
同様に、動作は、特定の順番で図示されるが、このことは、望ましい結果を実現するために、こうした動作が、示される特定の順番で又は逐次的な順番で実行され、又は、それらのすべての図示される動作が実行されることを必要とするように理解されるべきではない。
【符号の説明】
【0057】
1 ロボット
11 モータ
12 エンコーダ
13 減速機
14 ロボットアーム
15 負荷
19 振幅設定部
2 レーザ距離計測センサ
20 位相設定部
24 正弦波生成部
3 反射板
4 関係式導出部
5 ロボット制御装置
51 角度検出部
52 サーボ制御部
53 指令生成部
54 補正信号生成部
55 振幅同定部
56 位相同定部
6 ロボット座標系
7 振幅算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより、減速機を介して複数の関節J1-nが駆動されるロボットと、
前記各関節1-nにおいて前記モータの角度B1-n[rad]を検出する角度検出部と、
前記各関節J1-n(1からnは整数)に対する、前記モータの位置指令θref1〜n[rad]を生成する指令生成部と、
前記位置指令θref1〜n[rad]と、当該位置指令θref1〜n[rad]に対して実際に検出された前記モータ角度θfb1〜n[rad]との誤差である、減速機角度伝達誤差を補正するための補正信号A1〜n[rad]を生成する補正信号生成部であって、当該補正信号A1〜n[rad]が、前記位置指定θref1〜n[rad]に当該補正信号A1〜n[rad]を加算することによって、前記減速機角度伝達誤差を解消するためのものであるものと、
を備えたロボット制御装置の補正パラメータ同定装置であって、
前記ロボットの手先部を直交動作させた際に発生する、前記複数の関節の少なくとも2つの前記減速機角度伝達誤差に起因する、当該手先部に発生する、Z軸方向、即ち地表面と垂直な方向、のうねりの振幅Z[mm]を求める手段と、
前記うねりの振幅Z[mm]をフーリエ変換して、前記複数の関節の所定の関節Jiに対応するうねりの振幅値Di[mm](iは1からnのうちの所定の数)を求める手段と、
前記所定の関節Ji(iは1からnのうちの所定の数)をモータの位置指令θrefi[rad]で単軸動作させた際に、前記所定の関節の軸に現れる位置フィードバック信号Bi[rad]を計測する手段と、
前記所定の関節Jiに対する位置指令値θrefiに更に外部から振幅C[rad]のうねりを重畳的に加えたと仮定し、これらに加えて更に、他の軸Jx(xは、i以外の所定の数)に位置指令θrefx[rad]が加えられたと仮定した場合に、順運動学によって、手先位置においてZ方向に発生することとなる仮想的うねりC’i[mm]を計算する手段と、
Ai[rad]=(Ci[rad]/C’i[mm])×Di[mm]
という式に従って、前記Bi[rad]に対応するAi[rad]を求める手段と、
同一機種であるが、その動作可能重量が異なる複数のロボットに対して、以上の各手段を用いて、それぞれのロボットに対する、Bi[rad]に対応するAi[rad]を求める手段と、
を備える、ロボット制御装置の補正パラメータ同定装置。
【請求項2】
前記補正パラメータ同定装置における、減速機角度伝達誤差を補償する装置であって、
所定の関節Jj(jは1からnのうちの任意の数)を単軸動作させる手段と、
前記単軸動作のために所定の位置指令θrefj[rad]を与える手段と、
前記単軸動作された関節Jjにおいて測定された位置フィードバックθfbj[rad]を得る手段と、
前記位置フィードバックθfbj[rad]の、前記位置指令θrefj[rad]からの遅れ時間ΔTdj[sec]を求める手段と、
前記位置フィードバックθfbj[rad]を前記ΔTdj[sec]だけ進めた信号θfb’ j[rad]を得る手段と、
前記信号θfb’ j[rad]と前記位置指令θrefj[rad]の差Difj[rad]を求める手段と、
前記Difj[rad]の振幅Bj[rad]を求める手段と、
請求項1に記載の各手段により、前記振幅Bj[rad]に対応するAj[rad]を求める手段と、
を備える装置。

【図3】
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【図6】
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【図1−A】
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【図1−B】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−224662(P2011−224662A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93634(P2010−93634)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】