説明

両面記録可能な画像形成装置

【課題】 共通の駆動源から定着ローラ、搬送ローラ、排紙ローラ、反転ローラなど複数のローラを駆動するとき、駆動速度の違いから発生する記録用紙のループを制御し、品質のよい画像を形成できる両面記録可能な画像形成装置の記録用紙搬送装置を提供する。
【解決手段】 定着ローラ15、搬送ローラ19、排紙ローラ17、反転ローラ18など複数ローラを単1ユニットに組立てた共通の駆動源で駆動する。使用可能な最大記録用紙(最長用紙)の先端が定着ローラ15に到達するまでループ制御は必要ない。定着装置FXによる定着処理開始後、最長用紙後端が搬送ローラ19を抜けるまで最長用紙のループ制御を行う。レジストローラ対13と搬送ローラ19との間で生じる搬送量の差ΔL1 は搬送路内でループとして保持される。搬送路内で記録用紙に紙折れ等の支障が生じないようにループLP1 を保持するため、ループLP1 を搬送量の差ΔL1 以下に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子複写機、プリンタやその複合機などの両面記録可能な画像形成装置に関し、特にその記録用紙搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では、帯電させた感光体上に画像信号で変調されたレーザ光を投射して画像の静電潜像を形成し、形成された静電潜像をトナーで現像して感光体上にトナー像を形成する。次に、このトナー像を記録用紙に転写し、記録用紙に転写されたトナー像を定着処理し、排紙トレイに排出する工程をとる。トナー像の定着処理は、加熱ローラと加圧ローラとを圧接し、その間をトナー像が転写された記録用紙を通過させ、記録用紙上のトナーを熱溶融して圧接する定着装置が広く使用されている。
【0003】
このような画像形成装置においては、記録用紙の両面に画像を形成する両面記録可能な画像形成装置があり、まず記録用紙の第1面に画像を形成し、定着処理されて排出された記録用紙を、画像形成装置内部の反転経路に搬送して記録用紙の第2面に画像を形成し、定着処理する構成を備えている。
【0004】
このため、画像形成装置には動作中は常に正転する定着ローラ、正逆転を繰り返す搬送ローラ、作像のタイミングに応じて起動停止を繰り返す搬送ローラ等が備えられており、それぞれの動作に応じた制御が行われている。
【0005】
これ等の各種ローラの駆動にはそれぞれ専用のモータを使用して正逆転を行うもの(特許文献1参照)、定着ローラと排紙ローラでは一方向クラッチを使用してモータを正逆転しながら、定着ローラを一方向に回転駆動するもの(特許文献2参照)、排紙ローラと搬送ローラを専用のモータで駆動するもの(特許文献3参照)等が知られている。この他、定着速度を可変にし、定着装置の入力側の記録用紙ループ量を調整するようにしたもの等がある(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002−154727号公報。
【特許文献2】特開2002−169403号公報。
【特許文献3】特開平09−26677号公報。
【特許文献4】特開2003−345150号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の両面記録可能な画像形成装置では、排紙ローラと定着装置の定着ローラを共通のモータから駆動するものや反転ローラと搬送ローラを共通のモータから駆動するものは知られているが、排紙ローラ、定着ローラ、反転ローラを共通の駆動源から駆動するものではない。
【0007】
両面記録可能な画像形成装置では、定着ローラ、反転ローラ(排紙ローラと兼用する場合もある)、反転経路内の搬送ローラは、両面記録装置内部において位置的に接近していながら、定着ローラは常に正転し、反転ローラは正逆回転を繰り返し、搬送ローラは作像タイミングに合わせて起動停止を繰り返すから、共通の駆動源から駆動することが困難であった。このため、複数モータの使用を余儀なくされ、騒音の発生や製造コストを上昇させるという不都合が発生していた。
【0008】
また、前記した定着装置の定着ローラの回転速度を制御するものでは、その速度の変動が反転ローラや搬送ローラの速度変動となって表れ、画像形成装置の中の転写部に求められる速度の安定性が阻害され、反転経路内での記録用紙の速度変動を吸収しきれず、画像ノイズが発生するという不都合が発生する。この発明は、上記した課題を解決し、安定した画像形成ができ、画像ノイズが発生することのない両面記録可能な画像形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、作像装置、転写装置、定着装置、排紙装置、記録用紙反転装置及びレジストローラを備え、作像手段により感光体上に形成された静電潜像をトナーで現像してトナー像を作成し、得られたトナー像を転写手段により記録用紙に転写し、記録用紙上のトナー像を定着装置により定着処理して排紙し、両面記録を行う場合は、第1面に画像が形成されて排紙された記録用紙を記録用紙反転装置により反転し、第2面にも画像を形成する両面記録可能な画像形成装置において、前記両面記録可能な画像形成装置は、前記定着装置の定着ローラ、記録用紙反転装置の反転ローラ及び記録用紙反転装置内の搬送路中に配置された搬送ローラ、及び排紙装置の排紙ローラを、単一の駆動源で駆動する駆動機構を備えたことを特徴とする両面記録可能な画像形成装置である。
【0010】
そして、前記単一の駆動源で駆動する駆動機構は、単一のユニットに組立てられて画像形成装置に装着されるように構成するとよい。
【0011】
また、前記単一の駆動源で駆動する駆動機構は、定着ローラの駆動速度変更機構を備え、当該駆動速度変更機構により定着ローラ駆動速度を変更して定着ローラに到達する前の記録用紙のループ量を制御するものとする。
【0012】
そして、前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラとレジストローラとの間に記録用紙のループが形成され、当該記録用紙のループ量LP1 は、以下の式(1)の関係が維持されるものとする。
【0013】
LP1 ≧(L−M)・{(Vmax −Vmin )/V0 }・・・・・・(1)
但し、LP1 :記録用紙のループ量
L:使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度V0
Vmax :定着ローラの搬送速度の最大値
Vmin :定着ローラの搬送速度の最小値。
【0014】
また、前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラとレジストローラとの間に記録用紙のループが形成され、当該記録用紙のループ量LP1 は、以下の式(2)の関係が維持されてもよい。
【0015】
LP1 ≧(L−M)・{(Vmax −V0 )/V0 }・・・・・・(2)
但し、LP1 :記録用紙のループ量
L:使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度V0
Vmax :定着ローラの搬送速度の最大値。
【0016】
そして、前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラ駆動軸と搬送ローラとの間に駆動遊びFが設けられ、駆動遊びFの量は、以下の式(3)の関係が維持されるものとする。
【0017】
F≧(L−M)・{(Vmax −Vmin )/V0 }・・・・・・(3)
但し、 F:搬送ローラ駆動軸と搬送ローラとの間の駆動遊び
L:使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度V0
Vmax :定着ローラの搬送速度の最大値
Vmin :定着ローラの搬送速度の最小値。
【0018】
また、前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラから定着装置までの記録用紙搬送路の長さが、使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ以上とするとよい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、定着装置の定着ローラ、記録用紙反転装置の反転ローラ及び記録用紙反転装置内の搬送路中に配置された搬送ローラ、及び排紙装置の排紙ローラを単一の駆動源で駆動することができ、駆動機構を単一のユニットに組立てるときは、組立て及び装着が容易となる。そして、単一の駆動源で駆動できるので、複数モータを使用する場合よりも騒音の発生を減らすことができ、また製造コストを低減することが可能となる。
【0020】
さらに、前記単一の駆動源で駆動する駆動機構は、定着ローラの駆動速度変更機構により定着ローラ駆動速度を変更して定着ローラに到達する前の記録用紙のループ量を制御するから、定着ローラ駆動速度の変更がその他の反転ローラ、搬送ローラや排紙ローラの駆動速度に影響を与えることなしに記録用紙のループ量を制御し、画像品質のよい画像形成ができる両面記録可能な画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態について説明する。図1はこの発明の実施の形態の画像形成装置の記録用紙搬送装置10の要部の構成を説明する断面図である。
【0022】
図1において、記録用紙搬送装置10は、給紙トレイ11、給紙ローラ12、レジストローラ対13、転写ローラ14、定着ローラ15、搬送ローラ16、排紙ローラ17、反転ローラ18、搬送ローラ19等を備えて構成されている。図1において、定着ローラ15、搬送ローラ16、排紙ローラ17、反転ローラ18及び搬送ローラ19が同一の駆動源により駆動されるローラである。
【0023】
排紙ローラ17の搬送方向下流側に配置された反転ローラ18は、片面記録の場合は排紙ローラとして機能するが、両面記録を行う場合は、第1面に画像が記録された記録用紙Pを反転経路20に搬送させるものであり、反転経路20の下側に配置された搬送ローラ19は、反転経路20から搬送された記録用紙Pをレジストローラ対13まで搬送するものである。
【0024】
所定の給紙タイミングで回転する給紙ローラ12により給紙トレイ11から給紙された記録用紙Pは、レジストローラ対13で一旦停止する。図1では一部のみが示されている作像部IMにおける作像タイミングに合わせて駆動回転を開始するレジストローラ対13により記録用紙Pの搬送が開始される。作像部IMでは転写ベルト21上に第1の画像に対応する第1のトナー像が形成され、転写ベルト21上のトナー像が転写ローラ14が配置された転写部TRに到達すると、転写ローラ14の作用により記録用紙Pの第1面に転写される。第1のトナー像が転写された記録用紙Pは、定着装置FXの定着ローラ15により搬送及び定着処理され、搬送ローラ16、排紙ローラ17、反転ローラ18を経て機外の排紙トレイに排紙される。片面記録の場合は、以上の処理で記録用紙Pの第1面に第1の画像が形成され、1枚の記録用紙の片面記録処理が終了する。
【0025】
両面記録の場合は、上記した片面記録処理が終了し、第1面に画像が形成された記録用紙Pの後端が反転切替爪22を通過すると反転ローラ18が逆回転を開始し、記録用紙Pは、その後端を先にして反転経路20に搬送される。反転経路20の下側に配置された搬送ローラ19により、記録用紙Pは後端を先頭にしてレジストローラ対13まで搬送されて一旦停止する。
【0026】
作像部IMの作像タイミングに合わせて駆動回転を開始するレジストローラ対13により記録用紙Pの搬送が開始され、作像部IMでは転写ベルト21上に第2の画像に対応する第2のトナー像が形成され、転写ベルト21上のトナー像が転写ローラ14が配置された転写部TRに到達すると、転写ローラ14の作用により記録用紙Pの第2面に転写される。第2のトナー像が転写された記録用紙Pは、定着装置FXの定着ローラ15により搬送及び定着処理され、搬送ローラ16、排紙ローラ17、反転ローラ18を経て機外の排紙トレイに排紙される。
【0027】
以上の処理で記録用紙Pの第1面に第1の画像、第2面に第2の画像が形成され、1枚の記録用紙Pの両面記録処理が終了する。
【0028】
図2は、図1に示す記録用紙搬送装置10の動力伝達歯車列を説明する斜視図で、定着ローラ15(図1参照、図2では図示を省略)が、モータ30から動力伝達歯車列31、32を経て駆動される。回転方向の正逆転の切換えや起動・停止は行われない。
【0029】
反転ローラ18は、動力伝達歯車列31、32、33、34、電磁クラッチ35、36、歯車列37、38、39、軸40を経て駆動される。ここでは2つの電磁クラッチ35、36を使用して反転ローラ18の正逆転の切換えを行っているが、1つの電磁クラッチとトルクリミッタにより正逆転の切換えを行うこともできる。
【0030】
また、搬送ローラ19は、動力伝達歯車列31、32、33、41、42、電磁クラッチ43、歯車列44、45を経て駆動される。搬送ローラ19の起動・停止は動力伝達歯車列の途中に配置された電磁クラッチ43により達成される。
【0031】
図3は、図2に示す動力伝達歯車列において、鎖線で示した動力伝達歯車列を1つのユニット50に纏めた構成を説明する斜視図である。動力伝達歯車列の構成は図2を参照した説明と同じであるから、ここでは説明を省略する。動力伝達歯車列を1つのユニットに纏めることで、組み立て、調整、保守管理等を容易に行うことができる。
【0032】
次に、記録用紙搬送装置10における記録用紙Pのループ制御について説明する。先に背景技術において説明したように、定着装置における記録用紙Pの搬送速度と転写部における記録用紙の搬送速度とは同一でなく、その速度差は部品の寸法誤差、温度変化による寸法変化、記録用紙の厚みの違い、付着したトナー量の差によるすべり率の差等の様々の要因により変動する。
【0033】
定着装置FXと転写部TRとの間に記録用紙Pのループ(たるみ)が無い状態では、定着装置FXの搬送速度が転写部TRの搬送速度よりも速いと、記録用紙Pが無理に引張られ、トナー像が乱れる転写ずれが発生し、またカラー画像の場合は色ずれが発生する。
【0034】
一方、定着装置FXの搬送速度が転写部TRの搬送速度よりも遅いと記録用紙Pのループが拡大し、極端な場合は通紙ガイドに記録用紙Pが張り付いて、先と逆方向に転写ずれや色ずれが発生する。また、通紙ガイドに記録用紙Pが接触して擦れると画像ノイズが発生することもある。
【0035】
このため、記録用紙Pのループを適度維持することが必要となる。通紙経路に十分なゆとりがある場合はループ制御は特に必要で無かったが、装置の小型化が進む中では、ループの許容量が小さくなり、記録用紙Pのループ量を検出して記録用紙Pの搬送速度を制御する方法が採用されるようになった。
【0036】
記録用紙Pのループ制御では、レジストローラ対や転写部TRにおいて記録用紙Pの搬送速度を制御することはできないので、転写部TRよりも上流側で記録用紙Pの搬送速度を制御する。搬送速度を変える方法として、モータ速度を2段階、或いは3段階等複数段階の切換えによるものとする。このため記録用紙Pの搬送速度が変動するが、その速度変動が画像形成に悪影響を及ぼさないように各種ローラを配置し、ループ制御を行う。
【0037】
まず、反転経路20内の搬送ローラ19とレジストローラ対13付近に配置されたUターンガイドUGでの記録用紙Pのループ量について説明する。
【0038】
図4は、記録用紙Pが湾曲していないときと、湾曲したときの搬送方向の長さの差を説明する図で、P1 は記録用紙が湾曲していない状態を示し、P2 は記録用紙Pが湾曲した状態を示している、記録用紙Pが湾曲(P2 )すると、湾曲しない場合(P1 )に比べて搬送方向の長さがΔLだけ短くなる。
【0039】
図5は、レジストローラ13付近に配置されたUターンガイドUGにおける記録用紙Pの状態を説明する図である。記録用紙PはUターンガイドUGの点AとBで姿勢が決定され、下部のRで示した部分に突入する。点AとB、及びR部分で支持された記録用紙Pは、その剛性(紙の腰、強さ)により、図5で太線で示すようなループを描く。搬送される記録用紙Pの先端側に抵抗(記録用紙の搬送を遅らせる要素)があればループは外側に膨らみ、先端側が速く搬送されればループは縮む。図5で太線で示すループの両側にある領域SP(SP1及びSP2)は、ループの変動による記録用紙への負荷を吸収する領域として作用し、記録用紙Pの速度変動で発生する転写ずれや倍率誤差などの画像ノイズの発生を防止する。
【0040】
図6は、レジストローラ13付近における記録用紙Pの状態を説明する図である。図6で太線の実線Paは、記録用紙Pの先端が停止状態のレジストローラ13のニップ部に到達した状態を示している。記録用紙Pの傾きを補正するため、搬送ローラ19は僅かに紙送りをした状態で停止する。記録用紙Pは、図6で太線の破線Pbで示す状態となる。
【0041】
画像形成のタイミングに合わせ、レジストローラ13及び搬送ローラ19が回転を開始する。レジストローラ13は標準速度で回転するが、搬送ローラ19はループ制御が開始されると、その影響を受け、標準速度とは異なる速度で回転を開始する。
【0042】
仮にレジストローラ13の回転が搬送ローラ19の回転よりも速いと、記録用紙Pのループは膨らむ。膨らみによる紙折れや紙の押し込みによるレジストローラ13の回転むらが生じない記録用紙Pのループの膨らみ限界が、図6で太線の一点破線Pcで示されている。図6で太線の破線Pbで示した状態と、太線の一点破線Pcで示した状態との差が、先に図4を参照して説明した記録用紙Pが湾曲していないときP1 と湾曲したときP2 の搬送方向の長さの差ΔL1 となる。
【0043】
また、仮にレジストローラの回転が搬送ローラの回転よりも遅いと記録用紙は引っ張られてループは小さくなり、図7で太線の一点破線で示した状態がループが小さくなる限界となる。図6で太線の破線Pbで示したレジストローラ13が回転する前の状態と、記録用紙が引っ張られて図7で太線の一点破線Pdで示した状態との搬送方向の長さの差が許容量であって、搬送方向の長さの差ΔL2 である。
【0044】
ここで、定着装置FXの速度誤差と記録用紙Pのループ制御について説明する。定着装置FXの定着ローラ15は、ローラ外径やゴム厚の公差、温度上昇による寸法変化、トナーの介在率、記録用紙の種類や湿度による滑り率の変化、記録用紙の厚みなどの様々な要因が作用するので、定着装置FXにおける記録用紙Pの搬送速度は安定しにくく、±2%程度の速度公差をもつ場合がある。例えば、±2%程度の速度公差が想定される場合は、それよりも大きい±3%の搬送速度Vを設定して搬送速度Vを+3%、−3%に切換えながら、その平均搬送速度Vm が標準搬送速度V0 に近付けるように制御する。
【0045】
図8は、定着装置FXの定着ローラ15を駆動するモータ30の駆動速度を2段階に切換えて、記録用紙の平均搬送速度Vm を標準値に近付ける例を説明する図で、横軸は時間、縦軸は標準搬送速度V0 と搬送速度Vとの差(%)である。
【0046】
前記したような様々な要因を考慮して設定した定着装置FXにおける記録用紙Pの搬送速度Vが、標準搬送速度V0 よりも+2%速い搬送速度Vであったとする。この場合、+2%の速度誤差を打ち消すように、モータ駆動速度を+3%と−3%の2段階に切換えて、平均搬送速度Vm が−2%になるように制御する。ここで定着装置FXにおける記録用紙Pの平均搬送速度Vm を直接検出することはできないので、搬送速度の変化によって発生する記録用紙Pのループ量(撓み量)から搬送速度を推定するものとする。
【0047】
次に、搬送方向長さが最長の記録用紙(以下、最長用紙)Pmax を使用した場合の定着装置FXにおける最長用紙Pmax の搬送速度制御について説明する。
【0048】
図9は、定着装置FXの定着ローラ15のニップ部に最長用紙Pmax の先端が到達した状態を示す図である。使用可能な最大記録用紙(最長用紙)Pmax の先端が定着ローラ15のニップ部に到達するまでは、最長用紙Pmax のループ制御は必要がないから、レジストローラ13及び搬送ローラ19は共に標準搬送速度V0 で回転させる。
【0049】
次に、レジストローラ13が回転を開始し、定着装置FXによる定着処理が開始されると、最長用紙Pmax の後端が搬送ローラ19を抜けるまで、図9でAとして示した距離だけ搬送される間、最長用紙Pmax のループ制御が必要となる。
【0050】
図9でAとして示した距離は、最長用紙Pmax の搬送方向長さLと記録用紙反転装置内の搬送路20中の最下流に配置された搬送ローラ19と定着ローラ15のニップ部との間の距離Mの差であって、距離Aは(A=L−M)で表される。
【0051】
搬送ローラ19による最長用紙Pmax の搬送速度が定着ローラ15の標準搬送速度V0からずれる最大値は、定着ローラ15の最大速度Vmax と最小速度Vmin との差であるから、距離Aに定着ローラ15の搬送速度の最大値Vmax と搬送速度の最小値Vmin との差ΔVを乗算し、標準搬送速度V0 で除算すると、最長用紙Pmax のループ制御が開始されてから最長用紙Pmax の後端が搬送ローラ19を抜けるまでの間にレジストローラ13と搬送ローラ19との間で生じる搬送量の差ΔL1 は、以下の式(a)で表わされる。
【0052】
ΔL1 =(L−M)・(Vmax −Vmin )/V0 ・・・・・・(a)
=A・ΔV/V0
搬送量の差ΔL1 は、搬送路内で最長用紙Pmax に生じるループLP1 として保持されるが、搬送路内で記録用紙に紙折れ等の支障が生じないようにループLP1 を保持するには、ループLP1 を搬送量の差ΔL1 以下に維持することが必要となる。
【0053】
即ち、ループ量LP1 を、先に図4を参照して説明した、記録用紙Pが湾曲していないときと湾曲したときの搬送方向の長さの差ΔL1 よりも小さく設定(LP1 <ΔL1 )する。
【0054】
以上の事項を整理すれば、ループLP1 は以下の式(1)で表わされる。
【0055】
LP1 ≧(L−M)・({Vmax −Vmin )/V0 }・・・・・・(1)
但し、LP1 :記録用紙に生じるループ量
L:使用可能な最大記録用紙の搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度
Vmax :定着ローラの最大搬送速度
Vmin :定着ローラの最小搬送速度。
【0056】
また、上記した定着装置FXにおける最長用紙Pmax の搬送速度制御に関する式(1)において、定着ローラの最小搬送速度Vmin に代えて、定着ローラの標準搬送速度V0 としてもよい。この場合、ループLP1 は以下の式(2)で表わされる。
【0057】
LP1 ≧(L−M)・{(Vmax −V0 )/V0 }・・・・・・(2)
但し、LP1 :記録用紙に生じるループ量
L:使用可能な最大記録用紙の搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度
Vmax :定着ローラの最大搬送速度
図10は、搬送ローラ19とレジストローラ13とに接触して搬送される記録用紙Pのループ制御を説明する図である。図9を参照した記録用紙Pのループ制御は、記録用紙搬送装置内の記録用紙Pの後端側についての説明であるが、レジストローラ13と転写ローラ15とに接触して搬送される記録用紙Pのループ制御も必要となる。ループ制御が必要となる区間Bは、レジストローラ13と転写ローラ14との間の距離S1 から先行する記録用紙Padの後端と後行する記録用紙Ptrの先端との距離(記録用紙相互間の距離)D1を減算した距離で、B=(S1 −D1)となる。
【0058】
搬送ローラ19による最長用紙Pmax の搬送速度がレジストローラの標準搬送速度V0からずれる最大値は、レジストローラの最大搬送速度と最小搬送速度との差であるから、距離Bにレジストローラの搬送速度の最大値Vmax と最小値Vmin との差ΔVを乗算し、標準搬送速度V0 で除算すると、最長用紙Pmax のループ制御が開始されてから最長用紙Pmax の後端が搬送ローラ19を抜けるまでの間にレジストローラ13と搬送ローラ19との間で生じる搬送量の差ΔL2 が、最長用紙Pmax に生じるループ量LP2 となる。
【0059】
ΔL2 =B・{(Vmax −Vmin )/V0 }
=B・ΔV/V0
但し、ΔL2 :レジストローラ13と搬送ローラ19との間で生じる
搬送量の差
B:レジストローラと転写ローラとの間の距離S1 から、先行
する最長用紙の後端と後行する最長用紙の先端との距離
(記録用紙相互間の距離)D1を減算した値(S1 −D1)
V0 :レジストローラの標準搬送速度
Vmax :レジストローラの最大搬送速度
Vmin :レジストローラの最小搬送速度。
【0060】
ΔV:レジストローラ搬送速度の最大値Vmax と最小値Vmin の差
=(Vmax −Vmin )
搬送量の差ΔL2 は、搬送路内で最長用紙Pmax に生じるループLP2 として保持されるが、搬送路内で記録用紙に紙折れ等の支障が生じないようにループLP2 を保持するには、ループLP2 を搬送量の差ΔL2 以下に維持することが必要となる。従って、前記したΔL1 の条件も考慮し、以下の条件が成立することが必要条件となる。
【0061】
B・{(Vmax −Vmin )/V0 }≦ΔL1 、且つ
B・{(Vmax −Vmin )/V0 }≦ΔL2 。
【0062】
図11は、先に図4を参照して説明した、記録用紙Pの湾曲により搬送方向長さがΔLだけ短くなる影響を回避するため、搬送ローラ19の駆動伝達系に設けられた「駆動遊び」機構の一例を説明する図で、図11(a)は伝達ピン51と扇形カム52で構成した機構、図11(b)は一方向クラッチ56で構成した機構を示す。
【0063】
図11(a)に示すピン51と扇形カム52で構成した機構では、搬送ローラ19の軸上に伝達ピン51が植えられており、一方、ギア54には伝達ピン51に係合する凹部を備えた扇形カム52が形成されており、ギア54が反時計方向に回転するとき、記録用紙Pの搬送が行われるものとする。
【0064】
駆動軸53が反時計方向に回転すると、伝達ピン51が扇形カム52の凹部の反時計方向端面に当接して、ギア54を反時計方向に回転させる。駆動軸53が時計方向に回転すると、伝達ピン51は扇形カム52の凹部の時計方向端面に当接するまでギア54を回転させることがない。扇形カム52の凹部の反時計方向端面と時計方向端面との間を「駆動遊びF」と呼ぶ。
【0065】
駆動軸53の回転によっても伝達ピン51は扇形カム52の凹部の駆動遊びFの量の分だけ記録用紙Pは搬送されないから、ループ制御において搬送ローラ19の回転が遅くなって記録用紙が引っ張られても、駆動遊びFにより記録用紙に加わる引張力を軽減でき、前記したΔL2 を設けなくとも画像ノイズの発生を防止することができる。駆動遊びFの量は記録用紙の後端が搬送ローラを抜けるに必要な量とするとよい。これにより、記録用紙の湾曲による搬送方向長さがΔLだけ短くなる影響を回避することがでできる。
【0066】
駆動遊びFと、最長用紙Pmax 、記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラ19と定着ローラ15の間の距離M、定着ローラ15の標準搬送速度V0 、定着ローラ15の搬送速度の最大値Vmax と最小値Vmin との間には、以下の式(3)の関係を設定する。
【0067】
F≧(L−M)・{(Vmax −Vmin )/V0 }・・・・・・(3)
但し、 F:駆動遊び
L:使用可能な最大記録用紙の搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度
Vmax :定着ローラの最大搬送速度
Vmin :定着ローラの最小搬送速度。
【0068】

図11(b)に示す一方向クラッチで構成した機構では、駆動軸とギアとの間に一方向クラッチが56配置される。この構成では、搬送ローラ19の回転が遅くなって記録用紙が引っ張られても、一方向クラッチ56により搬送ローラ19の引っ張り側の回転がフリーとなって記録用紙Pに加わる引張力を軽減でき、前記したΔL2 を設けなくとも画像ノイズの発生を防止することができる。
【0069】
以上説明した構成では、記録用紙Pの先端側が定着装置FXの定着ローラ15のニップ部にあり、記録用紙Pの後端側が搬送ローラ19に接触している状態を想定して説明した。しかし、記録用紙Pが定着ローラ15と搬送ローラ19との間に入ってしまえば、少なくとも記録用紙の後端側が受ける制約は無くなる。記録用紙の先端側の制約は搬送される記録用紙の間隔を調整することで回避することができるから、前記したΔL1 、ΔL2 など記録用紙搬送路の余裕を少なくすることができる。
【0070】
図12は、記録用紙Pが定着ローラ15と搬送ローラ19との間に入っている状態、即ち、記録用紙反転装置内の搬送路の長さが、使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ以上の場合を示すもので、記録用紙の後端側が受ける制約が無くなる。
【0071】
小型の画像形成装置であって、処理可能な最大の記録用紙サイズがA4であれば、A4サイズの記録用紙は搬送方向長さが297mmであるから、定着装置FXの定着ローラ15のニップ部から搬送ローラ19までの記録用紙搬送路の距離Mを297mmよりも僅かに長い300mmに設定すれば、A4サイズ及びそれ以下の用紙サイズの記録用紙を、前記した記録用紙の後端側が受ける制約を受けること無しに使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
両面記録可能な画像形成装置の記録用紙搬送装置であって、共通の駆動源から定着装置の定着ローラの他、搬送ローラ、排紙ローラ、反転ローラなど複数のローラを駆動し、安定して一定速度で駆動される画像形成装置中の転写部の転写ローラや定着ローラに対してその他のローラの駆動速度を調整し、搬送路中の記録用紙に発生する異常な弛みや緊張を発生させることなく、安定した画像形成ができる両面記録可能な画像形成装置の記録用紙搬送装置である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】画像形成装置の記録用紙搬送装置の要部の構成を説明する断面図。
【図2】図1に示す記録用紙搬送装置の動力伝達歯車列を説明する斜視図。
【図3】図2に示す動力伝達歯車列において、鎖線で示した動力伝達歯車列を1つのユニットに纏めた構成を説明する斜視図。
【図4】記録用紙が湾曲していないときと湾曲したときの搬送方向の長さの差を説明する図。
【図5】レジストローラ付近のUターンガイドにおける記録用紙の状態を説明する図。
【図6】レジストローラ付近における記録用紙の状態を説明する図
【図7】レジストローラ付近のループの小さくなる限界を説明する図。
【図8】定着装置の定着ローラの駆動速度を2段階に切換え、平均搬送速度を標準値に近付ける例を説明する図。
【図9】定着装置の定着ローラのニップ部に最長用紙の先端が到達した状態を示す図。
【図10】搬送ローラとレジストローラとに接触して搬送される記録用紙のループ制御を説明する図。
【図11】搬送ローラの駆動伝達系に設けられた「駆動遊び」機構の一例を説明する図。
【図12】記録用紙が定着ローラと搬送ローラとの間に入り、記録用紙の後端側が受ける制約が無くなった画像形成装置の記録用紙搬送装置を説明する図。
【符号の説明】
【0074】
10 記録用紙搬送装置
11 給紙トレイ
12 給紙ローラ
13 レジストローラ対
14 転写ローラ
15 定着ローラ
16 搬送ローラ
17 排紙ローラ
18 反転ローラ
19 搬送ローラ
20 反転経路
21 転写ベルト
22 反転切替爪
IM 作像部
FX 定着装置
TR 転写部
UG Uターンガイド
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作像装置、転写装置、定着装置、排紙装置、記録用紙反転装置及びレジストローラを備え、作像手段により感光体上に形成された静電潜像をトナーで現像してトナー像を作成し、得られたトナー像を転写手段により記録用紙に転写し、記録用紙上のトナー像を定着装置により定着処理して排紙し、両面記録を行う場合は、第1面に画像が形成されて排紙された記録用紙を記録用紙反転装置により反転し、第2面にも画像を形成する両面記録可能な画像形成装置において、
前記両面記録可能な画像形成装置は、前記定着装置の定着ローラ、記録用紙反転装置の反転ローラ及び記録用紙反転装置内の搬送路中に配置された搬送ローラ、及び排紙装置の排紙ローラを、単一の駆動源で駆動する駆動機構を備えたこと
を特徴とする両面記録可能な画像形成装置。
【請求項2】
前記単一の駆動源で駆動する駆動機構は、単一のユニットに組立てられて画像形成装置に装着されること
を特徴とする請求項1に記載の両面記録可能な画像形成装置。
【請求項3】
前記単一の駆動源で駆動する駆動機構は、定着ローラの駆動速度変更機構を備え、当該駆動速度変更機構により定着ローラ駆動速度を変更して定着ローラに到達する前の記録用紙のループ量を制御すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の両面記録可能な画像形成装置。
【請求項4】
前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラとレジストローラとの間に記録用紙のループが形成され、当該記録用紙のループ量LP1 は、以下の式(1)の関係が維持されること
LP1 ≧(L−M)・{(Vmax −Vmin )/V0 }・・・・・・(1)
但し、LP1 :記録用紙のループ量
L:使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度V0
Vmax :定着ローラの搬送速度の最大値
Vmin :定着ローラの搬送速度の最小値
を特徴とする請求項3に記載の両面記録可能な画像形成装置。
【請求項5】
前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラとレジストローラとの間に記録用紙のループが形成され、当該記録用紙のループ量LP1 は、以下の式(2)の関係が維持されること
LP1 ≧(L−M)・{(Vmax −V0 )/V0 }・・・・・・(2)
但し、LP1 :記録用紙のループ量
L:使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度V0
Vmax :定着ローラの搬送速度の最大値
を特徴とする請求項3に記載の両面記録可能な画像形成装置。
【請求項6】
前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラ駆動軸と搬送ローラとの間に駆動遊びFが設けられ、駆動遊びFの量は、以下の式(3)の関係が維持されること
F≧(L−M)・{(Vmax −Vmin )/V0 }・・・・・・(3)
但し、 F:搬送ローラ駆動軸と搬送ローラとの間の駆動遊びの量
L:使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ
M:記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された
搬送ローラと定着ローラの間の距離
V0 :定着ローラの標準搬送速度V0
Vmax :定着ローラの搬送速度の最大値
Vmin :定着ローラの搬送速度の最小値
を特徴とする請求項3に記載の両面記録可能な画像形成装置。
【請求項7】
前記両面記録可能な画像形成装置は、前記記録用紙反転装置内の搬送路中の最下流に配置された搬送ローラから定着装置までの記録用紙搬送路の長さが、使用可能な最大記録用紙サイズの搬送方向長さ以上であること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の両面記録可能な画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−209624(P2008−209624A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45740(P2007−45740)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】