説明

乗員保護装置

【課題】 乗員の車外への放出を防ぎ、損傷を受けることを未然に防止する乗員保護装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明によれば、車両のシートに着座する乗員を積極的に保護領域に移動させ、保護部材のサポート部とシートにより拘束することにより、乗員の車外への放出を防ぐことができる。また、サポート部と乗員の頭部とのクリアランスを一定量以下にすること、若しくは頭部をサポート部に当接させロールオーバ時の車両の動きと同期させることにより、衝撃の入力を軽減することができる。これにより、より保護性能が向上し、かつ傷害を未然に防止することが可能な乗員保護装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両においてロールオーバ発生時の衝撃に対して座席に着座した乗員を保護する乗員保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両がロールオーバした時、乗員は上下方向に大きな衝撃を受け、その結果、頭部を車内天井部やサイドガラス、ピラー等に打ち付けるケースがあった。特に、オープンエアタイプの車両においては、屋根がないため安全領域を脱し易く、乗員の頭部が道路等より直接衝撃を受ける可能性があった。
【0003】
このようなロールオーバへの対策として、従来より、3点式シートベルトやエアバッグ装置等の乗員保護装置を作動させて、車両のロールオーバから生じる衝撃から乗員を保護する乗員保護装置が種々提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの装置は、主に衝突に対する乗員の保護を図っているものであるため、ロールオーバ発生時に必ずしも十分な保護性能を発揮していなかった。例えば、3点式シートベルトは、前後方向及び左右方向の衝撃に対しては有効に乗員拘束作用を発揮するが、ロールオーバ発生時などの上下方向の衝撃に対しては、十分に乗員拘束作用を発揮できない可能性があった。これは、前方衝突を意図して装備された通常のエアバッグ装置の場合も同様である。
【0005】
また、側方、つまり、左右方向に対する衝撃に対しては、サイドガラスの内面に展開するカーテン式エアバッグやサイドエアバッグ等を装備することも提案されているが、この場合でも、乗員のシートからの脱落に対して直接対応するものではなかった。
【0006】
このような状況の中で、シートと一体に配置されるアクティブロールバーを有する乗員保護装置に関する発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1による乗員保護装置は、ロールオーバ発生時に、U字型のロールバーがシート後方から車両外に延びるように構成されているものである。
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許第19838989号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような構成からなる乗員保護装置は、ロールオーバ発生時に一意的に展開されるのみであり、乗員を積極的に保護拘束する性能は持っていなかった。そのため、乗員がシートベルトを着用していない場合は、車両外に放出されてしまうおそれがあった。また、乗員がロールバーの保護領域からはみ出してしまう可能性も大きかった。このように、ロールオーバ発生時、特にオープンエアタイプの車両においては乗員を積極的に保護拘束する性能が求められていた。
【0009】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、保護部材に乗員の頭部を保護するサポート部を設け、積極的に乗員を保護部材の備える保護領域へと移動させ、拘束することにより乗員の車両外への放出を防ぎ、損傷を受けることを未然に防止する乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 車両のロールオーバ発生時に前記車両のシートに着座する乗員を保護する保護部材と、前記シートを前記保護部材に向けて移動させるアクチュエータと、を備える乗員保護装置であって、前記保護部材は、前記乗員の頭部上方を保護するサポート部を有し、前記アクチュエータは、前記ロールオーバの判定手段により、前記ロールオーバを予測又は判定したとき作動し、前記アクチュエータは、前記シートのヘッドレスト前端を前記サポート部に対して近づくように移動することを特徴とする車両の乗員保護装置。
【0011】
(1)の発明によると、保護部材に乗員の頭部を保護するサポート部を設け、アクチュエータによりヘッドレッスト前端部をサポート部方向に移動させる。これにより、サポート部とシートの間に拘束された乗員の車両外への放出を防ぐことができる。また、サポート部と乗員の頭部とのクリアランスを一定量以下にすることにより、ロールオーバ発生時のサポート部と頭部との間の衝撃の入力を軽減することができる。さらに、サポート部と頭部を予め当接させておいた場合には、ロールオーバ発生時の頭部と保護部材との二次衝突も防ぐことができる。これにより、頭部への瞬間的な荷重の入力が低減される。したがって、より保護性能が向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0012】
(2) 前記アクチュエータは、前記シートを車体に対して揺動させることを特徴とする請求項1記載の車両の乗員保護装置。
【0013】
(2)の発明によると、シートが車体に対して揺動するように構成する。これにより、シートを直線的に移動させる場合に比して小さな力で移動させることができる。また、乗員と保護装置との前後方向及び上下方向の距離を同時に調整することができる。したがって、より保護性能が向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0014】
(3) 前記サポート部は、前記乗員の頭部上方が当接する部位に衝撃吸収部材を用いることを特徴とする(1)または(2)に記載の車両の乗員保護装置。
【0015】
(3)の発明によると、上記に加え、サポート部に衝撃吸収部材を用いる。これにより、ロールオーバ発生時に乗員の頭部がサポート部に衝突した場合においても、乗員の頭部に対する衝撃の入力をさらに軽減することができる。したがって、より保護性能が向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0016】
(4) 前記サポート部は、ロールオーバ時に膨張展開するエアバッグを備えることを特徴とする(1)または(2)に記載の車両の乗員保護装置。
【0017】
(4)の発明によると、上記に加え、サポート部にエアバッグを設ける。これにより、さらに衝撃吸収能力を高めることができる。また、エアバッグによりサポート部の隙間から乗員の頭部が逸脱することを防止することができる。したがって、より保護性能が向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0018】
(5) 前記アクチュエータはシートクッションの前端部及び後端部に設けられ、前記前端部に設けられたアクチュエータと前記後端部に設けられたアクチュエータとは、前記シートを移動させる移動量が異なることを特徴とする(1)から(4)のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【0019】
(5)の発明によると、上記に加え、シートクッションの前端部の移動量を後端部の移動量と異ならせる構成とした。これにより、車体に対してシートを揺動させて移動することができ、より適切に乗員の頭部をサポート部に近づけることができる。また、左右方向への移動量も小さくすることができる。したがって、より保護性能が向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0020】
(6) 前記保護部材は、前記シートと一体に形成されることを特徴とする(1)から(5)のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【0021】
(6)の発明によると、上記に加え、保護部材をシートの一部とすることにより、保護部材の取付け及び交換を容易にすることができる。また、保護部材のフレームをシートバックに隠れるように一体化することもでき、車両の意匠性を損なうこともなく安全性を高めることができる。したがって、より保護性能が向上し、かつメンテナンス性の向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0022】
(7) 前記保護部材は、前記車体の一部からなることを特徴とする(1)から(5)のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【0023】
(7)の発明によると、上記に加え、保護部材を車体の一部とすることで、乗員の保護領域をより強固に保持することができる。また、車体構造を利用して用いることにより、オープンエアタイプのみならず、タルガトップルーフ、若しくは通常のクローズドトップを備えた車両においても適用可能となる。これにより、車両の意匠性を損なうことなく保護性能が向上した乗員保護装置を提供することができる。
【0024】
(8) 前記車両のロールオーバを予測し、前記アクチュエータが作動した場合において、その後、ロールオーバが回避されたときには、前記アクチュエータは、初期位置に戻ることを特徴とする(1)から(7)のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【0025】
(8)の発明によると、上記に加え、車両の傾斜角が著しく大きくなるロールオーバ予測時において、車両の体制変化による乗員の姿勢の変化を抑制することができる。また、アクチュエータを可逆の構成にすることで、ロールオーバが回避されたときは初期位置に戻すことができ、通常の運転を再開することができる。したがって、より保護性能が向上し、かつより安全な乗員保護装置を提供することができる。
【0026】
(9) 前記車両のロールオーバ又はロールオーバを予測したときに、前記アクチュエータの作動前にシートベルトプリテンショナー装置を作動させることを特徴とする(1)から(8)のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【0027】
(9)の発明によると、乗員保護装置の作動に加え、シートベルト装置を用いて乗員をシートに拘束する。アクチュエータの作動と同時にシートベルトを作動させる場合、シートの移動に対して乗員の上体は慣性により静止し続けようとする。したがって、座面のみが移動して上体が相対的にシートから浮き上がる可能性がある。これに対し、シートの移動前に乗員をシートベルトによって拘束することによって、乗員の上体がシートから離れるのを抑止できるため、より短時間で乗員を拘束状態にできると共に、シートベルトの拘束力と合わせて確実に保持状態を維持することができる。これにより、適切に乗員を保護領域に移動することができる。したがって、より保護性能が向上し、かつより安全な乗員保護装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、車両のシートに着座する乗員を積極的に保護領域に移動させ、保護部材のサポート部とシートにより拘束することにより、乗員の車両外への放出を防ぐことができる。また、サポート部と乗員の頭部とのクリアランスを一定量以下にすること、若しくは頭部をサポート部に当接させロールオーバ時の車両の動きと同期させることにより、衝撃の入力を軽減することができる。これにより、より保護性能が向上し、かつ傷害を未然に防止することが可能な乗員保護装置を提供することができる。
【0029】
また、上記に加え、シートベルト装置及びエアバッグ装置を併用することにより、一層効果的になり、さらに保護性能が向上することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明の実施形態は、下記の実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0031】
図1は、本発明の一実施例に係る乗員保護装置を装着した車両の外観図である。図2は、本発明の一実施例に係る乗員保護装置を装着した車両のロールオーバ発生時の外観図である。図3は、本発明の一実施例に係るロールバーを装着したシートを示す構成図である。図4は、本発明の一実施例に係るサポート部にエアバッグ装置を装着したロールバーの部分拡大図である。図5は、本発明の他の実施例に係る乗員保護装置を装着した車両の外観図である。図6は、本発明の一実施例に係るアクチュエータによるシートの動作を示す外観図である。図7は、本発明の一実施例に係る機械式のアクチュエータの構成を示す構成図である。図8は、本発明の一実施例に係る乗員保護装置のブロック図である。
【0032】
まず、本実施例に係る乗員保護装置100の構成について説明する。図1は、本発明の一実施例に係る乗員保護装置100を装着した車両1であり、車両1は、座席が運転席と助手席の2座のタイプのもので、屋根を有しないオープンカーの形態をとることができるようになっている。図1に示すように、乗員保護装置100には、車両1のシート5の後方において、サポート部3aを有するロールバー3が設けられている。また、乗員保護装置100は、ロールオーバ予測又はロールオーバが判定されると、トリガー機構4a(図示せず)を介してシート5に取り付けられたアクチュエータ4が伸長する。これにより、シート5がサポート部3aに近づき、シート5に着座する乗員6をシート5とサポート部3aで保護拘束する。
【0033】
シート5は、シートクッション5a、シートバック5b及びヘッドレスト5cからなり、ヘッドレスト5cは、シートバック5bと一体をなす構成であってもよい。
【0034】
ロールバー3は、丸パイプがシートバック5bの右端後部及び左端後部に沿った形でそれぞれシートクッション5aの下端からヘッドレスト5c上方まで延びており、ヘッドレスト5c上方から車両1の内側に屈曲し、略台形形状をなしてサポート部3aを構成する(図3及び図4参照)。つまり、サポート部3aは、シート5に着座した乗員6の頭部よりも高い位置に配設されている。なお、サポート部3aの形状は、上記に限られるものではなく、乗員6の頭部を保護できる形状であればよい。
【0035】
また、サポート部3aには、衝撃吸収材として、図4に示すようなエアバッグ装置40が備えられる。エアバッグ装置40には、エアバッグ装置40を制御するエアバッグECU20aが接続されている。なお、衝撃吸収材としては、エアバッグ装置40に限られず、例えば、乗員6の頭部と当接する部位にハニカム構造体等の衝撃吸収部材を用いてもよい。
【0036】
また、ロールバー3は、シートクッション5aの下端から車両1の内側に向けて屈曲した土台部3bを備える。土台部3bは、図3に示すように車体の床面に固定されたシートレール5dとシートクッション5aのシートフレーム5eの間に介装され、シートレール5dに固定されている。なお、ロールバー3の土台部3bは、上記場所に限らず、例えば、車両1の床面に直接取り付けられ、車体の一部として構成されるものであってもよい。ロールバー3を車体の一部として構成した場合には、ロールバー3を車体と直接溶接する構成となるため、ロールバー3の強度を増すことができる。
【0037】
ロールバー3は、シート5と一体をなす構成をとってもよい。ここで、図3(b)に、シート5と一体をなす構成を採ったロールバー3を示す。また、図3(c)は、図3(b)の内部構造を省略したA−A断面図である。図3(c)に示すように、ロールバー3は、シートバック5bの背面に溝5b1を設け、溝5b1に沿った形で配置されている。シートバック5bと一体をなした構成で配置した場合には、ロールバー3は、ロールバー3の一部がシートバック5bに埋め込まれシートカバーによって隠れるため、車両1、又はシート5の意匠を損なうことなく設けることができる。また、シート5とロールバー3とを一体とすることで交換等のメンテナンス性が向上する。ロールバー3の丸パイプの断面形状は、様々な形状が考えられるが、図3(c)に示すような楕円形状若しくは円形状が好ましい。さらには、ロールバー3は、シート5の内部に設けられているシートフレーム5eと直接接続し、一体とする構成としてもよい。
【0038】
シート5は、シートクッション5aの下部に伸縮自在のアクチュエータ4を備える。アクチュエータ4は、シートクッション5aの前端部と後端部に設けられる。図3に示すように、アクチュエータ4は、シートクッション5aのシートフレーム5eとロールバーの土台部3bとの間に介装される。また、シートフレーム5eには、前端部と後端部の各フレームの中央にアクチュエータ4と結合するための支持フレームを設け、アクチュエータ4の駆動力を伝達する。
【0039】
なお、アクチュエータ4は、シートクッション5aと車両1の間に介装されていればよく、例えば、シートクッション5aのシートフレーム上段とシートフレーム下段の間に介装されてもよい。また、アクチュエータ4は、本実施例ではシートクッション5aの前端部と後端部に各2個ずつ設けられているが、アクチュエータ4の構成は特にこれに限られることなく、シートクッション5aの中央部に1つ設ける構成としてもよい。
【0040】
アクチュエータ4は、図6及び図7に示すように、圧縮したバネ4bの展開力を固定するとともにバネ4bの固定を解除しアクチュエータ4を作動させるトリガー機構4aと、展開位置で展開状態を保持するロック機構4cを備える。アクチュエータ4は、通常、圧縮した状態でシートクッション5aの下部に備えられている(図6(a)参照)。アクチュエータ4は、車両1のロールオーバ予測時又はロールオーバ発生時には、バネ4bの展開力により伸長してシート5を押上げる(図6(c)参照)。
【0041】
トリガー機構4aは、例えば、係止ロック部とソレノイドピンを有する。ソレノイドピンが係止ロック部をピンで固定し、圧縮したバネ4bの展開力を固定する構造となっている。トリガー機構4aは、上記支持フレームとロールバーの土台部3bの間に介装される。また、トリガー機構4aは、ECU20に接続されており、係止ロック部の解除は、ECU20によって制御される。
【0042】
また、ロック機構4cは、例えば、ラチェット機構を用いる。ラチェット機構は、伸張したアクチュエータ4を展開位置で保持するパウルとこのパウルと嵌合するクラッチギアを有する構成となっている。ロック機構4cは、上記支持フレームとロールバーの土台部3bの間に介装される。また、ロック機構4cは、ECU20に接続されており、ラチェット機構の解除は、ECU20によって制御される。なお、ロック機構4cは、上記構成に限らず、例えば、ソレノイドピンを用いて展開位置で固定する構成としてもよい。
【0043】
アクチュエータ4は、上記機械式のものに限られず、例えば、ガスを爆発させてシート5を押上げる火薬式のものも用いることができる。火薬式のアクチュエータを用いる場合には、ロールオーバの判定をトリガーとして、アクチュエータを作動させ、ロック機構4cを用いて展開位置で固定する。ロールオーバの判定をトリガーとしたのは、火薬式アクチュエータは、非可逆式であるためロールオーバ予測時に作動してしまうと、ロールオーバを回避したときに戻すことが出来ないためである。
【0044】
図8は、上記実施例に係る乗員保護装置100のブロック図である。図8に示すように、乗員保護装置100は、傾斜角速度を検出する角速度センサ21及び傾斜角を検出する傾斜角センサ22を有するECU20と電源部23を備える。ECU20が車両1のロールオーバを予測及び判定して、上記トリガー機構4aに通電してアクチュエータ4を作動させるものである。なお、ロールオーバを予測及び判定には、角速度センサ21及び傾斜角センサ22を用いる。
【0045】
また、ECU20は、ロールオーバを予測又は判定すると、車内ネットワーク(Controllre Area Network。以下、CANという。)で繋がる他のECU20a、20bと連動してシートベルト装置30及びエアバッグ装置40を作動させる。
【0046】
角速度センサ21は、車両1の傾斜角速度を計測するものであり、例えば、振動ジャイロ、ピエゾ素子が使用できる。本実施例では車両1の横方向の傾斜角であるロール角を計測する。但し、これに限るものではなく、車両1の前後方向の傾斜角であるピッチ角を計測するようにしても良い。
【0047】
傾斜角センサ22は、車両1の水平からの傾斜角を計測するものであり、本実施例では車両1の横方向の傾斜角であるロール角を計測する。但し、これに限るものではなく、車両1の前後方向の傾斜角であるピッチ角を計測するようにしても良い。電源部23は、上記各部及びアクチュエータ4の作動電源を供給するものである。
【0048】
なお、本実施例においては、ロールオーバの判定及びロールオーバ予測は、角速度センサ及び傾斜角センサを用いてロール角により判定したが、本願発明においてはこれに限られることなく、従来周知の種々の判定手段を用いることができる。また、判定手段を用いることなく手動で乗員保護装置を作動させることができるように構成してもよい。
【0049】
次に本実施例に係る乗員保護装置100の作用について説明する。上述した判定手段により、ロールオーバ予測であると判定されると、ECU20は、トリガー機構4aへ電源部23からトリガー電流を供給する。トリガー電流の供給されたトリガー機構4aは、係止ロック部からソレノイドピンを抜きバネ4bの圧縮状態を解除する。これにより、アクチュエータ4が伸張し、シート5が押上げられる(図7(b)参照)。
【0050】
シート5が押上げられると、ロック機構4cのクラッチギアがアクチュエータ4とともに上昇し、所定位置でパウルと嵌合し下降が制限される。
【0051】
このように、アクチュエータ4は、通常時は図7(a)に示すように縮小した状態にあるが、トリガー機構4aが作動すると、図7(b)に示すようにバネ4bの復元力によりが瞬時に伸長することになる。
【0052】
従って、通常時は、アクチュエータ4が縮小しているため、アクチュエータ4は図6(a)で示すようにシートクッション5aの下部に格納された姿勢にあるが、車両1のロールオーバが予測されると、トリガー機構4aが作動してバネ4bが復元力により伸長し、アクチュエータ4は図6(c)で示すように、略垂直方向にして立ち上がり展開した姿勢となる。この状態で、ロック機構4cによりアクチュエータ4が収縮方向にロックされるため、横転時の荷重に耐えてシート5の押上げられた状態が維持されることになる。
【0053】
なお、本実施例においては、アクチュエータ4は、シートクッション5aの前端部と後端部に設けられ、前端部と後端部のアクチュエータ4は、伸張時の長さが異なる構成をとる。つまり、シートクッション5aの前端部は、シートクッション5aの後端部よりも押上げ量が多く、シート5は車体に対して揺動する動作をとることになる。
【0054】
このように、アクチュエータ4の作動によりシート5が揺動移動されると、ヘッドレストの前端部が乗員の頭部上方に位置するロールバーのサポート部3aに近づく。
【0055】
また、ロールオーバ予測が判定されると、アクチュエータ4が作動する前に、ECU20とCANで繋がる他のECU(例えば、モータECU)20aにより、シートベルト装置30が作動し、シートベルトプリテンショナー機構が作動する。ここで、シートベルトプリテンショナー機構とは、モータや火薬の駆動力によってウェビングの引き込みを行うプリテンショナ機能を備えたシートベルト装置をいう。
【0056】
さらに、ロールオーバであると判定されると、シートベルト装置30に加え、ECU20とCANで繋がる他のECU20b(例えば、エアバッグECU)により、ロールバーに内蔵されたエアバッグ装置40を作動する。また、通常のエアバッグ装置を作動させることも有効である。
【0057】
ロールオーバと判定されなかった場合には、ECU20は、アクチュエータ4によるシート5の押し上げの解除の指示を出し、シート5を通常の状態に戻す。そして、他のECU20aは、シートベルト装置30のシートベルトプリテンショナー機構によるシートベルトの締め付けの指示を解除し、シートベルトを通常の状態に戻す。
【0058】
上記構成からなる乗員保護装置は、例えば、ロールバー3を運転席と助手席ごとに単独に設けるだけでなく、例えば、ロールバー3が複数の座席を跨るような構成としてもよい(図5(b)参照)。また、タルガトップルーフを備えた車両では、ボディと連続するルーフを用いて、このルーフに向かってシート5を移動する構成するものであってもよい(図5(a)参照)。また、通常のハードトップを備えたクローズドボディの車両においてもBピラー又はCピラーとルーフからなる領域へ乗員6を移動させることにより、保護拘束させる構成をとることも可能である。
【0059】
このように、車両の保護部材に乗員の頭部を保護するサポート部を設け、積極的に乗員を保護部材の備える保護領域へと移動させ、拘束することにより乗員の車両外への放出を防ぎ、乗員への衝撃入力を軽減することができる。また、シートベルト装置及びエアバッグ装置を併用することにより、一層効果的になり、さらに保護性能が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例に係る乗員保護装置を装着した車両の外観図である。
【図2】本発明の一実施例に係る乗員保護装置を装着した車両のロールオーバ発生時の外観図である。
【図3】本発明の一実施例に係るロールバーを装着したシートの外観図である。
【図4】本発明の一実施例に係るサポート部にエアバッグ装置を装着したロールバーの部分拡大図である。
【図5】本発明の他の実施例に係る乗員保護装置を装着した車両の外観図である。
【図6】本発明の一実施例に係るアクチュエータによるシートの動作を示す外観図である。
【図7】本発明の一実施例に係る機械式のアクチュエータの構成を示す構成図である。
【図8】本発明の一実施例に係る乗員保護装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
1 車両
3 ロールバー
3a サポート部
4 アクチュエータ
5 シート
6 乗員
20 ECU
21 角速度センサ
22 傾斜角センサ
23 電源部
30 シートベルト装置
40 エアバック装置
100 乗員保護装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のロールオーバ発生時に前記車両のシートに着座する乗員を保護する保護部材と、前記シートを前記保護部材に向けて移動させるアクチュエータと、を備える乗員保護装置であって、
前記保護部材は、前記乗員の頭部上方を保護するサポート部を有し、
前記アクチュエータは、前記ロールオーバの判定手段により、前記ロールオーバを予測又は判定したとき作動し、
前記アクチュエータは、前記シートのヘッドレスト前端を前記サポート部に対して近づくように移動することを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記シートを車体に対して揺動させることを特徴とする請求項1記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記サポート部は、前記乗員の頭部上方が当接する部位に衝撃吸収部材を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記サポート部は、ロールオーバ時に膨張展開するエアバッグを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記アクチュエータはシートクッションの前端部及び後端部に設けられ、前記前端部に設けられたアクチュエータと前記後端部に設けられたアクチュエータとは、前記シートを移動させる移動量が異なることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【請求項6】
前記保護部材は、前記シートと一体に形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【請求項7】
前記保護部材は、前記車体の一部からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【請求項8】
前記車両のロールオーバを予測し、前記アクチュエータが作動した場合において、その後、ロールオーバが回避されたときには、前記アクチュエータは、初期位置に戻ることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか記載の車両の乗員保護装置。
【請求項9】
前記車両のロールオーバ又はロールオーバを予測したときに、前記アクチュエータの作動前にシートベルトプリテンショナー装置を作動させることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか記載の車両の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−38934(P2007−38934A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227134(P2005−227134)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】