説明

位置決め装置及び工作機械装置

【課題】電源投入時に現在座標を許容誤差範囲の精度で検出し、所定位置への復帰動作をすることなく電源投入時の位置から動作を開始できる位置決め装置を提供する。
【解決手段】固定部12に対する可動部8の相対位置を検出するためのインクリメンタルエンコーダ23とアブソリュートエンコーダ21とを備え、制御装置19は、インクリメンタルエンコーダ23及びアブソリュートエンコーダ21の信号データの対応データを記憶した記憶手段と、電源投入時に読み取られた前記アブソリュートエンコーダ21の信号データから可動部8の初期座標を求める初期座標読取手段25と、電源投入時以後に読み取られたインクリメンタルエンコーダ23の信号データを基に可動部8の現在座標を求める現在座標読取手段25と、対応データによりインクリメンタルエンコーダ23の信号データに変換する信号変換手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超精密加工機における加工位置を精密に検出して決定する位置決め装置及びその位置決め装置を備えた工作機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信などの情報通信機器、デジタルカメラ、カメラ付携帯電話などの撮像装置、DVD・CDなどのAV機器、内視鏡などの医療機器において高性能なレンズが用いられている。これらのレンズを成形する金型には形状精度100nm以下、表面粗さ10nm以下の厳しい精度が要求されるようになった。そして、これらの光学レンズ等、非軸対称非球面を精密加工するため、複数の移動軸と複数の回転軸とを同時に制御してミクロンオーダ以下の分解能で加工できる工作機械が製作されるようになった。そのため、加工位置を検出するリニアエンコーダとして極めて高い分解能を備えたインクリメンタル型リニアエンコーダが採用されている。
【0003】
しかし、従来のインクリメンタル型リニアエンコーダでは、電源投入時に可動部の現在位置(絶対位置)を直接検出することができないため、可動部を動かすことにより所定の原点を探すいわゆる「原点合わせ」をおこなう必要もある。そのため、リニアモータを用いた場合のストロークエンドの信号を得るため、低分解能アブソリュート型リニアエンコーダを並列して使用することが考えられた。このような、インクリメンタル型リニアエンコーダとアブソリュート型リニアエンコーダとを併用した特許文献1によると、固定部と可動部との相対位置を検出する位置検出装置において、一方に位置情報要素(光反射ピット)他方に読取り手段(光反射ピックアップ)を備え、前記位置情報要素(信号データ)は、インクリメンタル型位置情報要素(信号データ)とアブソリュート型位置情報要素(信号データ)とを備えている。そして、前記可動部の動作時にはインクリメンタル型位置情報を、前記可動部が停止している時にはアブソリュート型位置情報(信号データ)を選択的に読み取らせることで、可動部の動作時と停止時とのそれぞれに適合した位置情報を得ることができるというものである。
【0004】
このようにインクリメンタル型リニアエンコーダとアブソリュート型リニアエンコーダとを併用したものは、インクリメンタル型リニアエンコーダのパルス信号で制御して可動部を移動後に電源を落とし、再度電源投入した場合、アブソリュートエンコーダの最も近い読み取り値の値を現在座標として認識し、以後インクリメンタル型リニアエンコーダを読み取って動作させる。例えばアブソリュート型リニアエンコーダの単位読み取り値を1とし、インクリメンタル型リニアエンコーダの単位読み取り値を0.1とする。可動部はインクリメンタル型リニアエンコーダのパルス信号により0.1単位で移動し、9.5や10.4の位置に可動部があるときに電源を落としたとすると、再度電源を投入した場合、アブソリュート型リニアエンコーダの最も近い読み取り値である10を読み取って、現在座標が10であると認識する。実際には電源を落としたときの座標が10.4であった場合には、電源投入時に電源投入前と比較して0.4ずれた値となっているが、これは許容誤差範囲であり問題としない。
【0005】
しかし、インクリメンタル型リニアエンコーダは絶対位置が検出できないため、基準座標からのトータル移動距離が大きくなると、インクリメンタル型リニアエンコーダとアブソリュート型リニアエンコーダとの読み取り値のずれが大きくなる。例えばインクリメンタル型リニアエンコーダのパルス信号で可動部の座標が100.4にあるときに電源を落とした場合、再度電源を入れたときにアブソリュート型リニアエンコーダでの読み取り値は100となっていないといけないところ、アブソリュート型リニアエンコーダとインクリメンタル型リニアエンコーダの精度の差より、最も近いアブソリュート型リニアエンコーダの読み取り値が105等許容誤差範囲を超えた値となる。この場合、電源投入前と同じ位置に移動させる指令を出しても、元の位置と5ずれた位置に移動してしまい、作業者が想定した通りの動作とならないため、加工精度を低下させる問題が起きていた。そこで、従来は電源投入時に常に可動部を基準座標位置に移動させ(復帰動作)、常に同じ位置から移動を開始させることで、アブソリュート型リニアエンコーダとインクリメンタル型リニアエンコーダの精度差に起因するずれに対応していた。
【特許文献1】特開平2−74823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電源投入のたびに基準座標位置(所定位置)まで可動部を移動させるのは煩雑な作業であり生産効率の低下を招いていた。また、リニアモータの場合、モータを動作させるには電源投入時にコイルに流される電流の位相と、該コイル及び磁極の相対位置とを合わせる磁極合わせを行う必要がある。この磁極合わせにはホール効果により磁極の位置を求めるホール素子を使用するが、ホール素子は高価であり、ホール素子の大きさ分だけ装置全体が大きくなるという問題があった。
【0007】
本発明は係る従来の問題点に鑑みてなされたものであり、電源投入時に現在座標を許容誤差範囲の精度で検出し、所定位置への復帰動作をすることなく電源投入時の位置から動作を開始することができる位置決め装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、同期モータの駆動により固定部に対して可動部が移動する移動機構と、前記同期モータの駆動を制御する制御装置とを有する位置決め装置において、前記移動機構は、前記固定部に対する前記可動部の相対位置を検出するためのインクリメンタル型エンコーダとアブソリュート型エンコーダとを備え、前記制御装置は、前記アブソリュート型エンコーダの信号データ及び前記インクリメンタル型エンコーダの信号データの対応データを記憶した記憶手段と、電源投入時に読み取られた前記アブソリュート型エンコーダの信号データから前記可動部の初期座標を求める初期座標読取手段と、電源投入時以後に読み取られたインクリメンタル型エンコーダの信号データを基に前記可動部の現在座標を求める現在座標読取手段とを備え、 前記現在座標読取手段は、電源投入時に読み取った前記アブソリュート型エンコーダの信号データから前記記憶手段の対応データに基づいて前記インクリメンタル型エンコーダの信号データに変換して前記可動部の現在座標を求める信号変換手段を備えていることである。
【0009】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、 請求項1において、前記移動機構は、固定部に対して可動部が直線移動する移動機構であり、前記同期モータは、同期リニアモータであり、前記インクリメンタル型エンコーダは、インクリメンタル型リニアエンコーダであり、前記アブソリュート型エンコーダは、アブソリュート型リニアエンコーダであり、前記制御装置は、電源投入時に読み取られた前記アブソリュート型リニアエンコーダの信号データから、前記記憶手段の対応データに基づいて、前記インクリメンタル型リニアエンコーダの信号データに変換されたデータにより前記同期リニアモータの磁極合わせを行う磁極合わせ実施手段を備えていることである。
【0010】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記制御装置は、前記可動部が前記記憶手段の対応データに記載されていない相対位置にあるときに電源投入された場合に、前記記憶手段の対応データに基づく直線補間により新たな対応データを作成するデータ作成手段を備えることである。
【0011】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記制御装置は、前記可動部の移動時において前記アブソリュート型リニアエンコーダの信号データとインクリメンタル型リニアエンコーダの信号データとを読み取り、両者の対応データを記録していくデータ記録手段を備えたことである。
【0012】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至4のいずれか1項における位置決め装置を備えている工作機械装置であることである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、予めアブソリュート型エンコーダの信号データに対するインクリメンタル型エンコーダの信号データの対応が記憶手段に記憶されている。電源投入時の初期座標は、アブソリュート型エンコーダにより読み取られるが、アブソリュート型エンコーダの信号データで捉えた機械原点や絶対位置としての位置座標を、記憶手段により記憶された対応データから信号変換手段により、インクリメンタル型エンコーダの信号データに変換されたデータとして捉えることができ、電源投入時の座標は電源投入前の座標と比較して許容誤差範囲内のずれにとどまる。そして、電源投入時以後に読み取られるインクリメンタル型エンコーダの信号データも、ずれが許容誤差範囲内の前記変換されたデータの絶対位置を基準に読み取られるので、電源投入時の位置から機械を動作させた場合でも、作業者のほぼ想定していた通りの動作をさせることができ、電源投入のたびにインクリメンタル型エンコーダとアブソリュート型エンコーダの精度差に起因する位置ずれの発生に対処するために行っていた所定位置への復帰動作が不要にとなるので、作業性を向上させることができる。
【0014】
請求項2に係る発明によると、電源投入時に読み取ったアブソリュート型リニアエンコーダの信号データ又は信号変換部によりインクリメンタル型リニアエンコーダの信号データに変換されたデータをもとにして、同期リニアモータの磁極合わせを行うことができるので、従来のように高価なホール素子を使用しないで、安価に可動部の磁極合わせを行うことができ、装置の小型化を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によると、可動部が記憶手段の対応データにない位置にあるときであっても、直線補間によって可動部の現在位置座標を求めることができる。このように対応データにない位置においても柔軟に対応が可能となることから、位置決めの作業性を著しく向上させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明によると、新たな対応データを作成したり、既にある対応データの修正をしたりすることができる。このように位置決め機能の向上を自動的に図ることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、位置決め装置によって、正確かつ精密に作動する工作機械装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る位置決め装置をNC加工機に実施した実施形態を図面に基づいて以下に説明する。図1はNC加工機の構造を示した平面概要図であり、図2は、NC加工機の一部に組み付けられた位置決め装置3を示す概要図である。このNC加工機2は特許請求の範囲における工作機械装置に対応する。
【0019】
NC加工機2は、該加工機2の正面より加工工具と被加工物の相対運動が左右方向となる移動軸をX軸とし、同じく加工工具と被加工物の相対運動が上下方向になる移動軸をY軸とし、同じく加工工具と被加工物の相対運動が前後方向になる移動軸をZ軸とする。そして、Y軸回りの回転軸としてB軸、Z軸回りの回転軸としてC軸を加えた5軸を制御する同時5軸制御加工装置である。また、X・Y・Zの3軸は夫々直交している。
【0020】
このNC加工機2は、図1に示すように、主軸4をC軸回りに回転させるスピンドルモータ6を組み込んだ主軸台8と、主軸4の長手方向であるZ軸方向に移動可能なZ軸テーブル10と、後述するX軸方向及びZ軸方向に直交するY軸方向(垂直方向)に沿って主軸台8を移動可能に支持する縦支持部材12と、主軸4の先端に設けられたチャック14と、チャック14に保持される工作物Wと対向する位置に設置され、Z軸方向及びY軸方向に直交するX軸方向(図1において左右方向)に移動可能なX軸テーブル15と、X軸テーブル15に載置され、Y軸方向(垂直方向)に平行なB軸回りに回動可能なターンテーブル16と、ターンテーブル16に設けられた刃物台18と、直交する前記X・Y・Zの3軸とB・C2つの回転軸の動作を制御する制御装置19から構成されている。
【0021】
主軸台8は背面にY軸方向(垂直方向)の一対のスライダ7が設けられ、スライダ7は縦支持部材12に設けられた一対のガイドレール9に摺動可能に嵌合されている。図2に示すように、アブソリュート型リニアエンコーダ21とインクリメンタル型リニアエンコーダ23とが設けられ、Y軸リニアモータ5の固定部(縦支持部材12)に対する可動部(主軸台8)の位置を検知可能に構成されている。なお、スライダ7、ガイドレール9及びY軸リニアモータ5により移動機構を構成する。
【0022】
両リニアエンコーダ21,23の信号はCNC装置25にフィードバックされ、CNC装置25からの指令信号に対する誤差に比例した電力をサーボアンプ27がY軸リニアモータ5に供給することで可動部(主軸台8)の位置制御を行うようになっている。また、サーボアンプ27とY軸リニアモータ5の間にスィッチング素子としてFET(Field Effect Transistor)35を設けることで、高電圧の通電を可能にしている。また、CNC装置25の記憶部(記憶手段)には図5に示すように、アブソリュート型リニアエンコーダ21の信号による読み取り値(信号データ)をインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データに補正する補正テーブル(対応データ)29が記憶されている。この補正テーブル29は全てのアブソリュート型リニアエンコーダ21の信号に対してインクリメンタル型リニアエンコーダ23の対応表を作成するとデータ量が膨大となるため、例えば機械原点0から機械エンドまで移動させながら、アブソリュート型エンコーダ21の信号で一定間隔毎に後述するデータ記録部を用いてインクリメンタル型エンコーダ23の対応データを記録していく。この作業は機械組付け段階などで予め行っておく。その際、よく使用する領域についてはデータ間隔を短くして記録しておくとさらに良い。
【0023】
また、CNC装置25は、アブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データから得た機械原点0を、インクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データに与えるとともに、分解能が低いアブソリュート型リニアエンコーダ21による信号データ(読み取り値)を、前記補正テーブル29の補正データに基づいて分解能の高いインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データに変換する信号変換部(初期座標読み取り手段、現在座標読み取り手段及び信号変換手段に対応する)を有している。また、CNC装置25は、前記補正テーブル29の補正データに記載されていない位置にY軸リニアモータ5の可動部(主軸台8)があるときに、電源投入された場合に、前記補正データに基づく直線補間によって新たな補正データを作成可能なデータ作成部(データ作成手段)を有している。この新たな補正データは、例えば以下の方法でデータ作成部によって作成される。まず、図6に示すように、アブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データとインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データはJ点とN点において、対応するデータが存在しているとする。そして、J点での、アブソリュート型リニアエンコーダ21の読み取り値をx(J)、インクリメンタル型リニアエンコーダ23の読み取り値をX(J)とし、N点でのアブソリュート型リニアエンコーダ21の読み取り値をx(N)、インクリメンタル型リニアエンコーダ23の読み取り値をX(N)とする。次に電源投入点DPでは、アブソリュート型リニアエンコーダ21によって、投入位置が読み取られるため、最も近似するK点において電源が投入されたと読み取られる。そして、K点におけるアブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データによる読み取り値をx(K)とした場合に、インクリメンタル型リニアエンコーダ23の読み取り値(推定)X(K)を、K点をはさむ対応データが存在する2点(J点とN点)を用いて直線補間により求める。
【0024】
まず、(X(K)-X(J))/ (X(N)-X(J))=(x(K)-x(J)) / (x(N)-x(J))の関係より、X(K)=(x(K)-x(J))(X(N)-X(J))/(x(N)-x(J))+X(J)が演算され、X(K)が求められる。そして、このX(K)は、K点に置けるアブソリュート型リニアエンコーダ21の読み取り値x(K)に対する新たな補正データとされる。
【0025】
また、CNC装置25は、前記可動部8の移動時に、アブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データとインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データとを読み取って、両者の対応データを記録していくデータ記録部(データ記録手段)を有している。上記データ作成部によって作成された新たな補正データも、このデータ記録部に記録される。なお、CNC装置25及びサーボアンプ27によって制御装置19を構成する。また、アブソリュート型リニアエンコーダ21、インクリメンタル型リニアエンコーダ23、CNC装置25及びサーボアンプ27により位置決め装置3を構成する。
【0026】
主軸台8はY軸リニアモータ5により、縦支持部材12に対してY軸方向(垂直方向)に移動可能に構成されている。Y軸リニアモータ5は、図2及び図3に示すように、固定部(縦支持部材)12側にN極S極が交互に並ぶよう配列された複数のマグネット31と、可動部(主軸台)8側に設けられ、前記マグネット31と複数個所で磁気的空隙を介して対向する複数のコイル33とから構成されている。各コイル33に流される電流の方向及び大きさはCNC装置25によって制御されサーボアンプ27を介して付加される。本実施形態では、図3に示すように、u相、v相、w相の互いに120度ずつ位相差が設けられた3相交流電流が流入され、同期リニアモータであるY軸リニアモータ5は、並んだコイル33により形成される移動磁界に同期して可動部(主軸台8)が移動する。また、例えばコイル33aにはu相、33bにはv相、33cにはw相の電流が夫々流入されるようになっている。ここでCNC装置25は、電源投入時にアブソリュート型リニアエンコーダ21から検知される信号データにより、固定部(縦支持部材12)に配された複数のマグネット31に対する可動部(主軸台8)のコイル33の相対位置を座標上で捉えて、各相のコイル33に流入させる電流位相を定める磁極合わせ手段を構成する。
【0027】
また、前記縦支持部材12はZ軸テーブル10上に固定され、Z軸テーブル10は、図略のリニアモータによりベース1上にZ軸方向に配設されたZ軸ガイド13に沿って移動するようになっている。
【0028】
X軸テーブル15は、図略のリニアモータによりベース1上にX軸方向に設置されたX軸ガイド11に沿って移動する。X軸テーブル15上に載置されたターンテーブル16にはそのテーブル16の周囲にターンテーブルリニアモータ17がリング状に配置されている。このターンテーブルリニアモータ17は、X軸テーブル15にターンテーブル16を囲うように設けられた図略の複数のマグネットと、該コイルに複数個所で磁気的空隙を介して対向するようターンテーブル16の外周に設けられた図略の複数のコイルとから構成されている。
【0029】
また、前記主軸台8のチャック14は、工作物Wを保持して前記スピンドルモータ6によりZ軸に平行なC軸回りに回転するようになっている。また、図略のリニアエンコーダにより主軸台8のY軸方向の移動位置、X軸テーブル15及びZ軸テーブル10の移動位置が検知され、また、図略のロータリエンコーダにより主軸4及びターンテーブル16の回転位置が検知される。これらの移動位置及び回転位置の信号データに基づき制御装置19によって前記リニアモータ、スピンドルモータ6及びターンテーブルリニアモータ17の作動が制御される。
【0030】
刃物台18は、ターンテーブル16上に固定された基枠(図略)に囲まれたスライダベース(図略)に対してZ軸方向に摺動可能に配設されたスライダ(図略)と、スライダの先端側に組み付けられる工具ホルダ20と、スライダの基端側に配設される(図略)光学式リニアスケールと、前記スライダと前記スライダベースの間に配設されたリニアモータ22とから構成される。工具ホルダ20には、工具としてのバイト24がZ軸方向に平行に保持されている。
【0031】
上記のように構成されたNC加工機2及び位置決め装置3の作動について以下に説明する。まず、工作物Wをチャック14に保持し、刃物台18の工具ホルダ20には、バイト24をZ軸に平行に保持する。そして、主軸台8の高さ位置(Y軸方向)をバイト24の高さ位置にあわせるとともに、Z軸テーブル10をZ軸方向移動させて刃物台18に工作物Wを接近させる。その際、リニアモータを駆動させて行うが、各リニアモータの駆動は同様なので、Y軸リニアモータ5を代表として説明する。先ず、Y軸リニアモータ5の電源をONにする。図4のグラフに示すように、このときの可動部(主軸台8)の機械原点0に対する座標位置X及びその座標位置における電流値U(X)は、例えば数式(1)Rsin{2π(X+α)/T}(図4参照)で表わされる。なお、電源としては、三相交流のうちu相を代表して説明するものとし、A点は電流の正弦波が0を示すアブソリュート型リニアエンコーダ21の基準点であり、B点は基準点Aより1サイクル後の位置を示す点である。αは機械原点0に対する基準点Aの距離を示し、βはB点に対するP点の距離を示す。P点は電源投入時の可動部(主軸台8)の位置を示す点である。また、Rは電流の正弦波の振幅(電流値)を示し、Tは電流の正弦波の1サイクルの長さを示すとともに隣接する1対の磁石の幅(例えば30mm)(図3参照)に対応する値である。
【0032】
まず、前記数式(1)で、前記αの値は初期切片として予め求めておく。そして、電源投入時のアブソリュート型エンコーダ21の信号データから、機械原点0からのP点の位置座標(初期座標)mを求める。このときの位相はsin{2π(m+α)/T }で表されるので、このP点におけるu相の位相に合致するRsin{2π(m+α)/T }の電流値をCNC装置25で演算し、通電するタイミングを計って、指令電流として流すことで、磁極合わせ(位相合わせ)を行う。
【0033】
電流が流されることで、Y軸リニアモータ5の可動部(主軸台8)は移動するが、図5に示すように、電源投入時のアブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データ(読み取り値として例えば0.000200mm)はCNC装置25の記憶部に記憶された補正テーブル29に基づいて、インクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データ(0.0002105mm)に変換されて、機械原点0からの絶対座標として可動部(主軸台8)の位置制御に使用される。そして、電源投入後にインクリメンタル型リニアエンコーダ23により検知される信号データより現在座標が求められ、この現在座標の位置がCNC装置25にフィードバックされ、CNC装置25からの指令信号に対する誤差に比例した電力をサーボアンプ27がY軸リニアモータ5のコイル33に供給する。このように分解能の高いインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データを使用して可動部(主軸台8)の現在座標の位置制御が可能になるところから、高精度の加工を行うことができる。
【0034】
なお、X軸テーブル15をX軸方向に移動させるリニアモータ(図略)、Z軸テーブル10をZ軸方向に移動させるリニアモータ(図略)、及びターンテーブル16をB軸回りに回転させるターンテーブルリニアモータ17についても、同様に電源投入時にアブソリュート型リニアエンコーダ(図略)により初期座標が求められ、電源投入後はインクリメンタル型リニアエンコーダ(図略)によって現在座標が求められるので、説明を省略する。
【0035】
また、工作物Wの実際の加工においては、スピンドルモータ6を回転させることにより工作物WをC軸回りに回転させながら、X軸、Y軸及びZ軸の直交3軸と、B軸回り及びC軸回りの同時5軸制御を、制御装置19でおこなうことにより極めて精密な加工を実現させる。
【0036】
上記実施形態における位置決め装置3によると、アブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データをもとにして同期リニアモータ(Y軸リニアモータ5等)の磁極合わせを行うことができるので、従来のように高価なホール素子を使用しないで、安価に可動部(主軸台8)の位置決めを行うことができ、装置全体の小型化も図ることができる。また、予めアブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データに対するインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データの対応が記憶部(CNC装置25)に記憶されており、電源投入時の初期座標は、アブソリュート型リニアエンコーダ21により読み取られるが、アブソリュート型リニアエンコーダ21の信号データで捉えた機械原点や絶対位置としての位置座標を、前記記憶データに基づいて信号変換部(CNC装置25)により、インクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データに変換されたデータとして捉えることができ、電源投入時の座標は電源投入前の座標と比較して許容誤差範囲内のずれにとどまる。そして、電源投入時以後に以後に読み取られるインクリメンタル型リニアエンコーダ23の信号データも、許容誤差範囲内の前記変換されたデータの絶対位置を基準に読み取られるので、電源投入時の位置から機械(可動部)を動作させた場合でも、作業者のほぼ想定していた通りの動作をさせることができ、電源投入のたびにインクリメンタル型リニアエンコーダとアブソリュート型リニアエンコーダの精度差に起因する位置ずれの発生に対処するために行っていた所定位置への復帰動作が不要となるので、作業性を飛躍的に向上させることができる。また、可動部(主軸台8)が記憶部(CNC装置25)の対応データにない位置にあるときであっても、データ作成部(CNC装置25)にて直線補間によって可動部(主軸台8)の現在位置座標を求めることができる。このように対応データにない位置においても柔軟に対応が可能となることから、位置決めの作業性を著しく向上させることができる。また、データ記録部(CNC装置25)によって新たな対応データを作成したり、既にある対応データの修正をしたりすることができる。このように位置決め機能の向上を自動的に図ることができる。そして、このような位置決め装置3を備えることによって、正確かつ精密に作動するNC加工機2を提供することができる。
【0037】
なお、上記実施形態においては、工作機械装置として同時5軸制御が可能なNC加工機としたが、これに限定されず、例えば制御装置によってリニアモータが駆動する工作機械であればよい。
【0038】
また、前記移動機構は、直線移動に限定されず、固定部に対して可動部が相対回転するものでもよく、前記インクリメンタル型エンコーダ及びアブソリュート型エンコーダは、リニアエンコーダに限定されず、例えばインクリメンタル型ロータリエンコーダ及びアブソリュート型ロータリエンコーダでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る実施形態に使用するNC加工機の平面概要図。
【図2】NC加工機の一部に設けられた位置決め装置を示す概要図。
【図3】同期リニアモータを示す概要図。
【図4】u相に通電される正弦波を示すグラフ。
【図5】アブソリュート型リニアエンコーダの信号データとインクリメンタル型リニアエンコーダの信号データの対応例を示す図。
【図6】直線補間により対応データを求める方法を示す図。
【符号の説明】
【0040】
2…工作機械装置(NC加工機)、3…位置決め装置、5…移動機構(Y軸リニアモータ)、7…移動機構(スライダ)、8…可動部(主軸台)、9…移動機構(ガイドレール)、12…固定部(縦支持部材)、19…制御装置、21…アブソリュート型リニアエンコーダ、23…インクリメンタル型リニアエンコーダ、25…制御装置・初期座標読取手段・磁極合わせ手段・現在座標読取手段・記憶手段・信号変換手段・データ作成手段・データ記録手段(CNC装置)、27…制御装置(サーボアンプ)、29…信号変換手段(補正テーブル)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期モータの駆動により固定部に対して可動部が移動する移動機構と、前記同期モータの駆動を制御する制御装置とを有する位置決め装置において、
前記移動機構は、前記固定部に対する前記可動部の相対位置を検出するためのインクリメンタル型エンコーダとアブソリュート型エンコーダとを備え、
前記制御装置は、
前記アブソリュート型エンコーダの信号データ及び前記インクリメンタル型エンコーダの信号データの対応データを記憶した記憶手段と、
電源投入時に読み取られた前記アブソリュート型エンコーダの信号データから前記可動部の初期座標を求める初期座標読取手段と、
電源投入時以後に読み取られたインクリメンタル型エンコーダの信号データを基に前記可動部の現在座標を求める現在座標読取手段とを備え、
前記現在座標読取手段は、電源投入時に読み取った前記アブソリュート型エンコーダの信号データから前記記憶手段の対応データに基づいて前記インクリメンタル型エンコーダの信号データに変換して前記可動部の現在座標を求める信号変換手段を備えていることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
請求項1において、前記移動機構は、固定部に対して可動部が直線移動する移動機構であり、
前記同期モータは、同期リニアモータであり、
前記インクリメンタル型エンコーダは、インクリメンタル型リニアエンコーダであり、
前記アブソリュート型エンコーダは、アブソリュート型リニアエンコーダであり、
前記制御装置は、電源投入時に読み取られた前記アブソリュート型リニアエンコーダの信号データから、前記記憶手段の対応データに基づいて、前記インクリメンタル型リニアエンコーダの信号データに変換されたデータにより前記同期リニアモータの磁極合わせを行う磁極合わせ実施手段を備えていることを特徴とする位置決め装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記制御装置は、前記可動部が前記記憶手段の対応データに記載されていない相対位置にあるときに電源投入された場合に、前記記憶手段の対応データに基づく直線補間により新たな対応データを作成するデータ作成手段を備えることを特徴とする位置決め装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記制御装置は、前記可動部の移動時において前記アブソリュート型リニアエンコーダの信号データとインクリメンタル型リニアエンコーダの信号データとを読み取り、両者の対応データを記録していくデータ記録手段を備えたことを特徴とする位置決め装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項における位置決め装置を備えていることを特徴とする工作機械装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−284662(P2009−284662A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134467(P2008−134467)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】