説明

低誘電率シリカ系被膜の形成方法および被膜付基材

【課題】 金属配線の抵抗値の経時変化が小さく、金属配線の断線の原因となる膜収縮が小さい低誘電率シリカ系被膜を基材上に形成する。
【解決手段】 (a)基材上に特定のポリシラザンと、アルコールおよびアルコール以外の有機溶媒とを含んでなり、アルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)が0.0001〜0.005の範囲にあるシリカ系被膜形成用塗布液を塗布する工程、および、(c)次いで飽和水蒸気を供給しながら、過熱水蒸気の存在下、塗布膜を180〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率シリカ系被膜の形成方法および該低誘電率シリカ系被膜が形成された基材に関する。
さらに詳しくは、ポリシラザンと少量のアルコールを含有するシリカ系被膜形成用塗布液を塗布した後、過熱水蒸気の存在下で加熱処理することによって、基材上に低誘電率シリカ系被膜を形成する方法および該被膜付基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高集積化に伴い、多層配線を有する0.25ミクロンルール以下の半導体装置においては、金属配線間隔が狭くなるため、静電誘導による金属配線のインピーダンスが増大し、応答速度の遅れや消費電力の増大などが懸念されている。このため、半導体基板とアルミニウム配線層などの金属配線層との間、あるいは金属配線層間等に設けられる層間絶縁膜の誘電率をできるだけ小さくすることが必要とされている。
上記のような目的で設けられる層間絶縁膜は、一般にCVD法(Chemical Vapor Deposition Method)などの気相成長法やスピンコート法などの塗布法を用いて半導体基板上に形成されている。
【0003】
しかしながら、CVD法の最新技術を用いて得られるシリカ系被膜(特許文献1などに記載)では、比誘電率が3以下のものが得られるものの、2.5前後の比誘電率を有する被膜を形成することが限界であると言われており、また従来の塗布法の場合と同様、比誘電率の低下に伴って被膜の膜強度も低下するという欠点がある。また、ポリアリール樹脂、フッ素添加ポリイミド樹脂やフッ素樹脂などのCVD被膜、あるいはこれらの塗布液を用いて形成される被膜では、比誘電率が2前後となるが、基板表面との密着性が悪く、また微細加工に用いるレジスト材料との密着性も悪く、さらには耐薬品性や耐酸素プラズマ性に劣るなどの問題がある。
【0004】
また、従来から広く用いられているアルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランの部分加水分解物またはこれらの加水分解物を含むシリカ系被膜形成用塗布液を用いて得られる被膜では、比誘電率が3以下のものが得られるものの、2.5以下の比誘電率を達成することは困難であり、しかも被塗布面との密着性が悪いなどの問題がある。
【0005】
本願発明者らは、これらの問題を解決するため鋭意研究を行ったところ、a)アルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランまたはこれらの加水分解物とシリカ微粒子との反応物であるポリシロキサンを含む低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(特許文献2などに記載)、b)アルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランまたはこれらの加水分解物と、500℃以下の温度で分解または揮散する易分解性樹脂とを含む低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(特許文献3などに記載)、c)アルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランまたはこれらの加水分解物とシリカ微粒子との反応物であるポリシロキサンと、500℃以下の温度で分解または揮散する易分解性樹脂とを含む低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(特許文献4などに記載)、d)アルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランまたはこれらの加水分解物と有機テンプレート材を含む低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(特許文献5などに記載)などを用いれば、比誘電率が3以下と小さく、しかも被塗布面との密着性、被膜強度、耐アルカリ性などの耐薬品性や耐クラック性および被膜表面の平滑性に優れ、さらには耐酸素プラズマ性やエッチング加工性などのプロセス適合性にも優れた被膜を形成できることを開示している。
【0006】
しかしながら、これらの塗布液を用いて得られる低誘電率シリカ系被膜は前記の特性を有しているものの、2.5以下の比誘電率を有する被膜を形成しようとすると被膜強度が低下し、6.0 GPa(ギガパスカル)以上のヤング弾性率(Young’s Modulus)を有するものを安定的に得ることは困難であった。
すなわち、従来のシラン系低誘電率シリカ系被膜は、誘電率等には優れるものの被膜強度が不充分であった。
【0007】
一方、近年、ポリシラザンを用いた低誘電率シリカ膜が知られており、例えば、特開平10−194719号公報(特許文献7)には、ポリシラザン薄膜に無機酸または有機酸単独、あるいは無機酸または有機酸と水(水蒸気)、あるいはアミン単独、あるいはアミンと水(水蒸気)とを接触させ、引き続き加熱焼成(キュアー)することによって、比誘電率が2.0〜4.0の低誘電率膜が得られることが開示されている。
しかしながら、このポリシラザンを用いた低誘電率シリカ膜を層間絶縁膜に用いると、膜形成時に収縮を伴い、金属配線にストレスが掛かって配線が断線したり、膜にNが残存するために時間の経過とともにアミン系ガスの脱ガスが発生する等の問題があった。
【0008】
また、本願発明者等は、特定の繰り返し単位を少なくとも有する1種または2種以上のポリシラザンと、アルコール化合物とを反応させて得られる改質ポリシラザンを含有するシリカ系被膜形成用塗布液を用いて形成されたシリカ系被膜は、被膜中の残存Nが抑制でき、緻密な絶縁膜、平坦化された絶縁膜付基材が得られることを開示している(特開平7−82528号公報:特許文献8)。
しかしながら、この場合も、改善はされるものの膜収縮により金属配線等にストレスを生じ、金属配線が断線する場合があった。また、微量の水分、ハロゲン(Cl)等の存在により金属配線の抵抗値が経時的に大きく上昇する等の問題があった。
【0009】
さらに、特開2006−253310号公報(特許文献9)には、素子分離特性の良好な半導体装置の製造に用いる過水素化ポリシラザン溶液として、ブタノール濃度が30ppm以下のジブチルエーテルと、前記ジブチルエーテルに溶解された過水素化ポリシラザンとを含有する過水素化ポリシラザン溶液が開示されている。当該公報記載の発明では、半導体装置において溝に素子分離膜を形成する際、素子分離特性を向上させるためにアルコール濃度を可及的に低減し(ブタノール濃度30ppm以下)、収縮率の小さいポリシラザン溶液を使用して体積収縮、クラック発生の問題を解決しようとしている。
【0010】
【特許文献1】特開2000−349083号公報
【特許文献2】特開平9−315812号公報
【特許文献3】国際公開WO 00/18847号公報
【特許文献4】国際公開WO00/12640号公報
【特許文献5】特開2002−30249号公報
【特許文献6】米国特許公開公報US 2000/0060364 A1
【非特許文献1】Advanced Material 2001, 13, No.19, October 2, Page 1453−1466
【特許文献7】特開平10−194719号公報
【特許文献8】特開平7−82528号公報
【特許文献9】特開2006−253310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、上記の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、ポリシラザンに対し少量のアルコールを含有させた塗布液を塗布し、過熱水蒸気の存在下で加熱処理すると、膜の収縮が抑制され、経時変化による金属配線の抵抗値の上昇、さらには断線等が抑制できることを見出して本発明を完成するに至った。
本発明は、比誘電率が低く、この低比誘電率を長期にわたって維持することができ、金属配線の抵抗値の経時変化が小さく、金属配線の断線の原因となる膜収縮が小さく、耐クラック性、耐薬品性、耐熱性、低脱ガス性等に優れた低誘電率シリカ系被膜を基材上に形成する方法、および該被膜付基材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の低誘電率シリカ系被膜の形成方法は、下記の工程(a)および(c)からなることを特徴とする。
(a)基材上に下記一般式[I]
【化2】

(式中、R1 、R2 およびR3 は、それぞれ独立して水素原子および炭素数1〜8のアルキル基から選ばれる基であり、nは1以上の整数である。)で表わされる繰り返し単位を有する1種または2種以上のポリシラザンと、アルコールおよびアルコール以外の有機溶媒とを含んでなり、アルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)が0.0001〜0.005の範囲にあるシリカ系被膜形成用塗布液を塗布する工程
(c)次いで飽和水蒸気を供給しながら、過熱水蒸気の存在下、塗布膜を180〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程
【0013】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、アリルアルコール、オクタノールからなる飽和または不飽和の脂肪族1価アルコール群、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンからなる多価アルコール群、ベンジルアルコールからなる芳香族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、フルフリルアルコールからなる脂環式または複素環式アルコール群から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
また、前記有機溶媒はヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレンからなる炭化水素群、エチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランからなるエーテル群から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0014】
前記工程(a)と工程(c)の間において、更に、塗布膜を50〜350℃の温度で加熱処理する工程(b)を含むことが好ましい。
前記シリカ系被膜形成用塗布液中の塩素原子濃度が5ppm未満であることが好ましい。
前記低誘電率シリカ系被膜の比誘電率は3.9〜5.5の範囲にあり、該比誘電率の経時変化による上昇率が0.36%/日以下、特に、0.32%/日以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の低誘電率シリカ系被膜付基材は、基材と、基材上に形成された低誘電率シリカ系被膜とからなる低誘電率シリカ系被膜付基材であって、該低誘電率シリカ系被膜が前記低誘電率シリカ系被膜の形成方法によって形成されたことを特徴とするものである。
前記基材が半導体基板であり、前記低誘電率シリカ系被膜が層間絶縁膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比誘電率が低く、この低比誘電率を長期にわたって維持することができ、金属配線の断線の原因となる膜収縮が小さく、耐クラック性、耐薬品性、耐熱性、低脱ガス性等に優れた低誘電率シリカ系被膜を基材上に形成することができ、該被膜付基材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[低誘電率シリカ系被膜の形成方法]
本発明に係る低誘電率シリカ系被膜の形成方法は、下記の工程(a)および(c)からなることを特徴としている。
(a)基材上に下記一般式[I]
【化3】

(式中、R1 、R2 およびR3 は、それぞれ独立して水素原子および炭素数1〜8のアルキル基から選ばれる基であり、nは1以上の整数である。)で表わされる繰り返し単位を有する1種または2種以上のポリシラザンと、アルコールおよびアルコール以外の有機溶媒とを含んでなり、アルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)が0.0001〜0.005の範囲にあるシリカ系被膜形成用塗布液を塗布する工程
(c)次いで飽和水蒸気を供給しながら、過熱水蒸気の存在下、塗布膜を180〜500℃の温度条件下で加熱処理する工程
【0018】
工程(a)
シリカ系被膜形成用塗布液
ポリシラザンは、上記式[I]中のR1、R2およびR3は、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基から選ばれる基であり、炭素原子数1〜8のアルキル基、特にメチル基、エチル基またはプロピル基が好ましい。
なかでも、本発明で用いられるポリシラザンとしては、上記式[I]でR1、R2およびR3がすべて水素原子であり、1分子中にケイ素原子が55〜65重量%、窒素原子が20〜30重量%、水素原子が10〜15重量%であるような量で存在している無機ポリシラザンが特に好ましい。このようなポリシラザンを用いると、シリカ系被膜中にカーボンなどの不純分が残存せず、緻密で、絶縁性に優れた低誘電率のシリカ系被膜を得ることができる。
【0019】
また、ポリシラザン中のSi原子とN原子との比(Si/N比)は、1.0〜1.3であることが好ましい。このような無機ポリシラザンは、たとえば、ジハロシランと塩基とを反応させてジハロシランのアダクツを形成させたのち、アンモニアと反応させる方法(特公昭63−16325号公報)、メチルフェニルジクロロシランやジメチルジクロロシランなどとアンモニアを反応させる方法(特開昭62−88327号公報)などの公知の方法に従って製造することができる。
【0020】
上記式[I]で表される繰り返し単位を有するポリシラザンは、直鎖状であっても、環状であってもよく、直鎖状のポリシラザンと環状のポリシラザンとの混合物でもよい。
これらのポリシラザンのポリスチレンに換算した数平均分子量は500〜10000、好ましくは1000〜4000であることが望ましい。数平均分子量が500未満の場合は低誘電率シリカ系被膜を形成する場合に、後述する工程(b)あるいは工程(c)で低分子量のポリシラザンが揮発したり、シリカ系被膜が大きく収縮する場合がある。また、10000を越える場合は、塗布液の流動性が低下することから塗布性が低下し、平坦性、均一な膜厚の低誘電率のシリカ系被膜が得られない場合がある。
【0021】
さらに、数平均分子量が1000以下である低分子量ポリシラザンは、ポリシラザン全体に対し、10〜40重量%、好ましくは15〜40重量%であることが望ましい。低分子量ポリシラサンが、ポリシラザン全体に対し、このような範囲にあれば、配線による段差を平滑に被覆し、平坦性に優れた膜表面を得ることができる。数平均分子量が1000以下である低分子量ポリシラザンの量が40重量%以上あると、乾燥から焼成間での膜収縮が大きく、平坦性が悪い、ストレスが高くクラックが入り易いなどの問題が生じる。
【0022】
本発明に用いる低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液は、上記ポリシラザンが、固形分濃度3〜40重量%、好ましくは5〜30重量%で、有機溶媒に溶解している。有機溶媒としては上記のポリシラザンを分散または溶解し、塗布液に流動性を付与するものであれば特に制限はないが、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレンからなる炭化水素群、エチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランからなるエーテル群から選ばれる1種または2種以上でことが好ましい。
これらの有機溶媒は単独でもしくは2種以上を混合して用いられる。この有機溶媒のうち、水の溶解度が0.5重量%以下であるような有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒を塗布液に用いると、塗布液の吸湿によるポリシラザンの加水分解が防止され、ポットライフの長い塗布液を得ることができる。
【0023】
塗布液中のポリシラザンの濃度が固形分として3重量%未満の場合は、得られる膜厚が薄くなるため、配線などの段差上に成膜した場合、充分な平坦性が得られない場合があり、40重量%を越えると、塗布液の保存安定性が不充分となることがある。
また、塗布液中の塩素原子濃度は5ppm未満であることが好ましい。塩素原子濃度が5ppmを越えると、加熱処理時に塩素がポリシラザン骨格から遊離し、ポリシラザンが酸化されてシリカ系被膜に変化するときに発生するアンモニアと反応し、塩化アンモニウムの結晶粒が生成する。この結晶粒により、得られる被膜は緻密性が低下するとともに平坦性が低下する問題がある。
【0024】
アルコール
塗布液を構成するアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、アリルアルコール、オクタノールからなる飽和または不飽和の脂肪族1価アルコール群、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンからなる多価アルコール群、ベンジルアルコールからなる芳香族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、フルフリルアルコールからなる脂環式または複素環式アルコール群から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0025】
塗布液中のアルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)は、0.0001〜0.005の範囲にあることが必要である。また、重量比(WAL)/(WPS)は、0.0002〜0.0015の範囲にあることが好ましい。
重量比(WAL)/(WPS)が0.0002未満、(特に0.0001未満の場合は、)膜の酸化が進まず、膜中に残存するNやHのため、緻密性は低下する。また膜が経時的に吸湿することによる経時変化が大きく、誘電率が上昇する問題が生じる。同時に金属配線の抵抗値が大きく上昇したり、断線する場合がある。
一方、重量比(WAL)/(WPS)が0.0015を越えると、(特に0.005を越えると、)シラザン骨格の分解が進み、大量にSi−ORが焼成時に架橋することにより、緻密な膜が得られるが、膜の収縮率が高くなり、ストレスが高くなってクラックが入ったり、金属配線が断線する場合がある。
【0026】
シリカ系被膜形成用塗布液の調製
本発明に用いるシリカ系被膜形成用塗布液は、前記のようにして調製したポリシラザンを、あらかじめアルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)が前記範囲となるように調整した有機溶媒に溶解させ、ついで、必要に応じて塩化アンモニウムの結晶を濾別し、塗布液中の塩素原子濃度を5ppm未満とすることによって調製することができる。
【0027】
具体的には、以下のような方法で調製される。
先ず、アルコールと有機溶媒をアルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)が前記範囲となるように混合する。
ついで、上記のポリシラザンを固形分濃度が3〜40重量%になるように有機溶媒に溶解する。
ポリシラザン溶液を、攪拌しながら、所定温度で所定時間保持して、ポリシラザン骨格中に残存する未反応のSi−Cl基と、ポリシラザン中のNH基またはNH2基とのアンモノリシス反応により塩化アンモニウムとして析出させ、析出した塩化アンモニウムを濾過する。
【0028】
有機溶媒としては、上記で例示した溶媒が使用される。ポリシラザン溶液を保持する温度は、150℃以下、好ましくは0〜80℃、さらに好ましくは20〜80℃の範囲であることが望ましい。このような温度範囲であれば、短時間で残存塩素を5ppm未満に下げることができ、ポリシラザンの架橋または重合が進むことがない。
生成した塩化アンモニウムは、濾過することにより取り除かれる。濾材としては、濾紙、セラミックフィルターなどが用いられ、特に、0.1〜1μm程度の口径のメンブランフィルターが好ましい。
【0029】
上記したシリカ系被膜形成用塗布液を用いると、従来のポリシラザン系塗布液を用いて低誘電率シリカ系被膜を形成した場合に比べて、緻密性に優れ、かつ収縮ストレス、ボイド、金属配線の断線等の少ない、平坦性に優れた低誘電率シリカ系被膜を形成することができる。
【0030】
塗布
このようなシリカ系被膜形成用塗布液を基材上に塗布する。
基材としては、半導体基板、電極基板、プリント回路基板、ハイブリッドIC、アルミナ基板、半導体装置、液晶表示装置、発光ダイオード(LED)素子、センサ等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等が挙げられる。
塗布する方法としては、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法、スプレー法等を採用することができるが、本発明では少量の塗布液でシリカ膜を形成できることからスピンコート法が好適に採用される。
【0031】
工程(b)
本発明では、前記工程(a)と後述する工程(c)の間において、塗布膜を50〜350℃の温度で加熱処理する工程(b)を含むことが好ましい。
工程(b)では、塗布膜を50〜350℃、好ましくは80〜300℃の温度で加熱処理し、乾燥、硬化させる。
加熱処理温度が50℃未満の場合は、塗布液中に含まれる溶媒を十分に除去することができず、その後の加熱工程で、全体的に均質に硬化しない場合がある。他方、加熱処理温度が350℃を越えると、溶媒が急激に揮発し、同時に膜が硬化するため、例えばボイドが生成することがあり、均一な膜が得られない場合がある。
加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、通常1分〜10分である。
【0032】
本発明において工程(b)は任意の工程である。また、工程(b)では、水蒸気の存在下、加熱処理することもでき、このときの温度は105〜350℃の範囲が好ましい。水蒸気の存在下で加熱処理するとポリシラザン膜の酸化が進み、工程(c)の加熱温度を低くすることができる場合があり、高温処理による基板へのダメージを低減することができる。
【0033】
工程(c)
工程(c)では、飽和水蒸気を供給しながら、過熱水蒸気雰囲気中、塗布膜を180〜450℃、好ましくは250〜420℃の温度条件下で加熱処理する。
過熱水蒸気処理装置としては、加熱下、飽和水蒸気を供給し、水蒸気他の排気ガスを排気できる密閉系の装置を使用することが好ましい。
飽和蒸気としては、水の沸点(通常、100℃)での飽和蒸気を供給することが好ましい。
これを、温度が200〜450℃に調整された過熱水蒸気処理装置に導入する。このとき、導入した飽和蒸気は過熱水蒸気となる。
【0034】
なお、過熱水蒸気については、「過熱水蒸気技術集成」(株式会社エヌ・ティー・エス(NTS社発行:2005年)に解説されているが、過熱水蒸気とは、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全に気体状態の水を意味し、乾いた気体であり、酸素含有量も数ppmと少ない特徴がある。また、大熱容量気体であり、熱伝達特性に優れている。過熱水蒸気が物質に接触すると直ちに凝縮し、物質に凝縮水が付着するとともに、凝縮熱による大量の熱が伝達され、その後、水分が蒸発し始め、物質の乾燥が始まる、といった特性を有していることが知られている。
【0035】
過熱水蒸気処理温度が180℃未満の場合は、逆転点(1気圧では170℃前後)と同程度であり、過熱水蒸気中での蒸発速度は、乾燥空気よりも低く、高い乾燥効率は期待できない。また、被膜に与える熱エネルギーも低く、膜中にNやHが多く残存し、低い比誘電率が得られない場合がある。
過熱水蒸気処理温度が450℃を越えると、金属配線が変質したり、基板が歪んだり、このためストレスによるクラックが発生する場合がある。
【0036】
過熱水蒸気処理時間は、温度によっても異なるが、通常、10分〜120分である。
過熱水蒸気処理は、過熱水蒸気処理条件が前記範囲にあると膜中に残存するNやHが少なく、低誘電率が低く、吸湿性が低いために低誘電率を長期維持することができ、特に処理時に膜の収縮が少ないために多層配線構造を有するLSI素子およびプリント回路基板等の基板上に設けた場合に金属配線を断線することが無いので好適に採用することができる。
【0037】
形成される低誘電率シリカ系被膜
このようにして低誘電率シリカ系被膜を形成することができるが、比誘電率は3.9〜5.5、好ましくは4〜5.0の範囲にある。
低誘電率シリカ系被膜の比誘電率が3.9未満のものは、純粋にシリカのみからなるものでは得ることが困難で、例えば、カーボンなどの不純分を含む場合があり、また、多孔質なシリカ膜では充分な膜強度が得られない場合がある。低誘電率シリカ系被膜の比誘電率が5.5を越えると、充分な絶縁性が得られない場合がある。
【0038】
低誘電率シリカ系被膜の比誘電率の経時変化による上昇が0.36%/日以下であることが必要である。比誘電率の経時変化による上昇率が0.36%/日を越えると、長期にわたって使用した場合に絶縁性が不十分となる場合がある。
低誘電率シリカ系被膜の比誘電率の経時変化による上昇は、好ましくは0.32%/日以下、特に好ましくは0.18%/日以下である。
【0039】
また、得られる低誘電率シリカ系被膜の平均膜厚は、基板の凹凸の有無によっても異なるが、通常、薄くても0.05μm以上であり、厚くても2μm以下、好ましくは0.1〜1μm程度である。
低誘電率シリカ系被膜の平均膜厚が0.05μm未満の場合は、基板全面にわたって平坦性に優れた膜を得ることができない場合がある。
低誘電率シリカ系被膜の平均膜厚が2μmを越えると、クラックが生じる場合がある。
【0040】
[低誘電率シリカ系被膜付基材]
本発明に係る低誘電率シリカ系被膜付基材は、基材と、基材上に形成された低誘電率シリカ系被膜とからなる低誘電率シリカ系被膜付基材であって、該低誘電率シリカ系被膜が前記低誘電率シリカ系被膜の形成方法によって形成されたことを特徴としている。
基材としては前記基材が用いられる。また、基材上の低誘電率シリカ系被膜は前記低誘電率シリカ系被膜の形成方法によって形成されている。従って、この低誘電率シリカ系被膜は、前記した低誘電率シリカ系被膜で述べた特性を持つ。
【0041】
このような低誘電率シリカ系被膜は半導体基板と金属配線層との間、金属配線層間等に設けられた層間絶縁膜として好適である。
また、半導体基板とトランジスタや抵抗素子、容量素子などの半導体素子を電気的に絶縁・分離するために設けられる素子分離膜としても好適である。
【実施例1】
【0042】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(1)の調製
温度0℃の恒温槽内に設置された反応器内にピリジン600ミリリットルを入れ、攪拌しながらジクロロシラン28.3gを加えて錯体(ピリジンアダクツ)を形成させた。次いでこのピリジンアダクツを含む液中にアンモニアを2時間吹き込んで反応生成物と沈殿物とを含む液を得た。この液中に含まれている沈殿物を濾過して除去した後、濾液を80℃で10時間加熱し、次いで減圧して濾液からピリジンを除去することにより、樹脂状のポリシラザンAを得た。ポリシラザンAのポリスチレン換算数平均分子量は2,000であった。
ポリシラザンAを、ブタノール濃度が300ppm((WAL)/(WPS)=0.0006)になるように調整したジブチルエーテルに溶解させて得られた濃度20重量%の溶液を、攪拌しながら、40℃で240時間保持した。保持後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(1)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(1)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0043】
シリカ系被膜付基材(1)の作成
半導体基板(8インチシリコンウェハー:L/S=1の条件で、幅0.25μm、高さ0.5μmのアルミニウム配線を有する)上に低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(1)をスピンコート法で塗布し、ついで、塗布膜を200℃で2分間加熱した。この時、膜厚(1)を後述の方法で測定した。ついで、100℃飽和蒸気を供給しながら、過熱水蒸気中、400℃で1時間過熱水蒸気処理してシリカ系被膜付基材(1)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(1)について、膜厚(2)、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮率、エッチングレート、信頼性(断線の有無)について以下の方法で測定し、結果を表に示した。
【0044】
膜厚
シリカ系被膜の断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を撮影し、配線間の中央部での厚みを測定して、膜厚(1)および膜厚(2)とした。
【0045】
比誘電率(1)
別途、低抵抗シリコンウェハー上にシリカ系被膜形成用塗布液(1)を塗布し、シリカ系被膜付基材(1)と同条件で処理した後、水銀プローバー(SSM社製)で測定した。
【0046】
比誘電率維持特性
上記についで、温度23℃、湿度45%のクリーンルーム内に2週間保管した後、同様に比誘電率(2)を測定し、比誘電率(1)に対する比誘電率の上昇率(%/日)を求めた。なお、比誘電率維持特性の良いことは水分子を脱離したり、吸着しないこと(低脱ガス性)も意味している。
【0047】
耐クラック性
シリカ系被膜付基材(1)について、シリカ系被膜表面を顕微鏡観察し、クラックの有無を観察し、以下の基準で評価し、結果を表に示した。
クラックが全く認められない : ○
微細なクラックが僅かに認められる : △
明らかにクラックが認められる : X
【0048】
収縮率
シリカ系被膜付基材(1)について、乾燥工程終了時の平均膜厚(1)と、焼成終了時の平均膜厚(2)とを測定し、[(平均膜厚(1)−平均膜厚(2))/平均膜厚(1)]×100を算出し、結果を表に示した。
【0049】
エッチングレート
焼成終了時のシリカ系被膜付基材(1)を濃度0.5重量%のHF水溶液(25℃)に10分間浸漬して、浸漬前後の膜厚差を測定し、1分間あたりの膜厚減少量とした。
【0050】
信頼性
配線構造の信頼性(断線の有無)を評価するために、シリカ系被膜付基材(1)に直径0.09μmのヴィア孔を形成し、ついで第2層目のアルミ配線を形成して、ヴィア孔が10,000,000 個、直列に接続されたヴィアチェーンを有する試料を作成した。
この試料について、150℃で5,000時間の高温保管試験を行い、不良発生率(断線発生率)を調べ、以下の基準で評価し、結果を表に示した。
不良発生率が1%未満 : ○
不良発生率が1〜10% : △
不良発生率が10%以上 : ×

【実施例2】
【0051】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(2)の調製
実施例1において、ブタノール濃度が100ppm((WAL)/(WPS)=0.0002)のジブチルエーテルを使用した以外は同様にして低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(2)を調製した。
シリカ系被膜付基材(2)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(2)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(2)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(2)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例3】
【0052】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(3)の調製
実施例1において、ブタノール濃度が750ppm((WAL)/(WPS)=0.0015)のジブチルエーテルを使用した以外は同様にして低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(3)を調製した。
シリカ系被膜付基材(3)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(3)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(3)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(3)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例4】
【0053】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(4)の調製
実施例1において、ブタノール濃度が500ppm((WAL)/(WPS)=0.001)のジブチルエーテルを使用した以外は同様にして低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(4)を調製した。
シリカ系被膜付基材(4)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(4)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(4)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(4)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例5】
【0054】
シリカ系被膜付基材(5)の作成
実施例1において、塗布膜を200℃で2分間加熱した後、過熱水蒸気中、350℃で1時間過熱水蒸気処理した以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(5)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(5)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例6】
【0055】
シリカ系被膜付基材(6)の作成
実施例1において、塗布膜を200℃で2分間加熱した後、過熱水蒸気中、450℃で1時間過熱水蒸気処理した以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(6)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(6)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例7】
【0056】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(5)の調製
温度0℃の恒温槽内に設置された反応器内にピリジン600ミリリットルを入れ、攪拌しながらジクロロシラン28.3gを加えて錯体(ピリジンアダクツ)を形成させた。次いでこのピリジンアダクツを含む液中にアンモニアを2時間吹き込んで反応生成物と沈殿物とを含む液を得た。この液中に含まれている沈殿物を濾過して除去した後、濾液を60℃で10時間加熱し、次いで減圧して濾液からピリジンを除去することにより、樹脂状のポリシラザンBを得た。ポリシラザンBのポリスチレン換算数平均分子量は1,500であった。
ポリシラザンBをブタノール濃度が300ppm((WAL)/(WPS)=0.0006)になるように調整したジブチルエーテルに溶解させて得られた濃度20重量%の溶液を、攪拌しながら、40℃で240時間保持した。保持後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(5)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(5)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0057】
シリカ系被膜付基材(7)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(5)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(7)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(7)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例8】
【0058】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(6)の調製
温度0℃の恒温槽内に設置された反応器内にピリジン600ミリリットルを入れ、攪拌しながらジクロロシラン28.3gを加えて錯体(ピリジンアダクツ)を形成させた。次いでこのピリジンアダクツを含む液中にアンモニアを2時間吹き込んで反応生成物と沈殿物とを含む液を得た。この液中に含まれている沈殿物を濾過して除去した後、濾液を90℃で10時間加熱し、次いで減圧して濾液からピリジンを除去することにより、樹脂状のポリシラザンCを得た。ポリシラザンCのポリスチレン換算数平均分子量は2,500であった。
ポリシラザンCをブタノール濃度が300ppm((WAL)/(WPS)=0.0006)になるように調整したジブチルエーテルに溶解させて得られた濃度20重量%の溶液を、攪拌しながら、40℃で240時間保持した。保持後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(6)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(6)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0059】
シリカ系被膜付基材(8)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(6)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(8)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(8)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例9】
【0060】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(7)の調製
実施例1において、ジブチルエーテルに代えてキシレンを使用した以外は同様にして低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(7)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(7)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0061】
シリカ系被膜付基材(9)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(7)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(9)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(9)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【実施例10】
【0062】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(8)の調製
実施例1において、ジブチルエーテルに代えてメシチレンを使用した以外は同様にして低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(8)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(8)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0063】
シリカ系被膜付基材(10)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(8)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(10)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(10)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【比較例1】
【0064】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R1)の調製
実施例1と同様にして調製したポリシラザンAをジブチルエーテルに溶解させて得られた濃度20重量%の溶液を、攪拌しながら、40℃で240時間保持した。保持後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して除去して低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R1)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R1)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0065】
シリカ系被膜付基材(R1)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R1)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(R1)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(R1)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【比較例2】
【0066】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R2)の調製
実施例1と同様にして調製したポリシラザンAをブタノール濃度が30ppm((WAL)/(WPS)=0.00006)になるように調整したジブチルエーテルに溶解させて得られた濃度20重量%の溶液を、攪拌しながら、40℃で240時間保持した。保持後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R2)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R2)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0067】
シリカ系被膜付基材(R2)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R2)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(R2)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(R2)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【比較例3】
【0068】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R3)の調製
実施例1と同様にして調製したポリシラザンAをブタノール濃度が5000ppm((WAL)/(WPS)=0.1)になるように調整したジブチルエーテルに溶解させて得られた濃度20重量%の溶液を、攪拌しながら、40℃で240時間保持した。保持後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R3)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R3)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0069】
シリカ系被膜付基材(R3)の作成
実施例1において、低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R3)を用いた以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(R3)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(R3)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【比較例4】
【0070】
シリカ系被膜付基材(R4)の作成
実施例1において、塗布膜を200℃で2分間加熱した後、空気中、400℃で1時間加熱処理した以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(R4)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(R4)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【比較例5】
【0071】
シリカ系被膜付基材(R5)の作成
実施例1において、塗布膜を200℃で2分間加熱した後、湿度80%と同量の水蒸気を含む酸素ガスを供給しながら、空気中、400℃で1時間加熱処理した以外は同様にしてシリカ系被膜付基材(R5)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(R5)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【比較例6】
【0072】
低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R4)の調製
実施例1と同様にして調製したポリシラザンAをキシレンに溶解させて得られた濃度10重量%の溶液100gにメタノール7.11gを混合した。このときの(WAL)/(WPS)は0.7であり、メタノール/ポリシラザンAのモル比は1である。
次いで、溶媒をピリジンで置換し、窒素雰囲気下で乾燥窒素を吹き込みながら、90℃の温度で20時間反応させた。
反応後、溶液中に白濁している塩化アンモニウムの沈殿をメンブランフィルターで濾過して除去し、ポリシラザンとメタノールの反応物である改質ポリシラザンを得た。改質ポリシラザンの重量平均分子量は1,500であった。
ついで、溶媒をキシレンに置換し、固形分濃度が20重量%の低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R4)を調製した。低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R4)中の塩素濃度は1.5ppmであった。
【0073】
シリカ系被膜付基材(R6)の作成
半導体基板(8インチシリコンウェハー:L/S=1の条件で、幅0.25μm、高さ0.5μmのアルミニウム配線を有する)上に低誘電率シリカ系被膜形成用塗布液(R6)をスピンコート法で塗布し、ついで、塗布膜を200℃で2分間加熱した後、100℃飽和蒸気を供給しながら、過熱水蒸気中、400℃で1時間処理してシリカ系被膜付基材(R6)を作成した。
得られたシリカ系被膜付基材(R6)について、実施例1と同様に、平均膜厚、比誘電率、比誘電率維持特性、耐クラック性、収縮性、エッチングレート、信頼性(断線の有無)をそれぞれ測定した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)および(c)からなることを特徴とする低誘電率シリカ系被膜の形成方法。
(a)基材上に下記一般式[I]
【化1】

(式中、R1 、R2 およびR3 は、それぞれ独立して水素原子および炭素数1〜8のアルキル基から選ばれる基であり、nは1以上の整数である。)で表わされる繰り返し単位を有する1種または2種以上のポリシラザンと、アルコールおよびアルコール以外の有機溶媒とを含んでなり、アルコールの重量(WAL)とポリシラザンの固形分としての重量(WPS)との重量比(WAL)/(WPS)が0.0001〜0.005の範囲にあるシリカ系被膜形成用塗布液を塗布する工程
(c)次いで飽和水蒸気を供給しながら、過熱水蒸気の存在下、塗布膜を180〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程
【請求項2】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、アリルアルコール、オクタノールからなる飽和または不飽和の脂肪族1価アルコール群、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンからなる多価アルコール群、ベンジルアルコールからなる芳香族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、フルフリルアルコールからなる脂環式または複素環式アルコール群から選ばれる1種または2種以上であり、前記有機溶媒がヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレンからなる炭化水素群、エチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランからなるエーテル群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の低誘電率シリカ系被膜の形成方法。
【請求項3】
前記工程(a)と工程(c)の間において、塗布膜を50〜350℃の温度で加熱処理する工程(b)を含む請求項1または2に記載の低誘電率シリカ系被膜の形成方法。
【請求項4】
前記シリカ系被膜形成用塗布液中の塩素原子濃度が5ppm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低誘電率シリカ系被膜の形成方法。
【請求項5】
前記低誘電率シリカ系被膜の比誘電率が3.9〜5.5の範囲にあり、該比誘電率の経時変化による上昇率が0.36%/日以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低誘電率シリカ系被膜の形成方法。
【請求項6】
前記比誘電率の経時変化による上昇率が0.32%/日以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の低誘電率シリカ系被膜の形成方法。
【請求項7】
基材と、基材上に形成された低誘電率シリカ系被膜とからなる低誘電率シリカ系被膜付基材であって、該低誘電率シリカ系被膜が請求項1〜6に記載の低誘電率シリカ系被膜の形成方法によって形成されたことを特徴とする低誘電率シリカ系被膜付基材。
【請求項8】
前記基材が半導体基板であり、前記低誘電率シリカ系被膜が層間絶縁膜であることを特徴とする請求項7に記載の低誘電率シリカ系被膜付基材。

【公開番号】特開2009−290048(P2009−290048A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142046(P2008−142046)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】