説明

保持歪み測定方法および装置

【課題】フォトマスク等の板状の被検体を所定の保持状態で保持した際に、その保持状態に起因して被検体に生じる保持歪みを被検面の形状とは別に測定し得るようにする。
【解決手段】所定の保持状態で保持された被検体40の表面41の形状を測定する第1測定と、同状態で保持された被検体40の裏面42の形状を測定する第2測定と、逆歪みが生じるように保持された被検体40の裏面42の形状を測定する第3測定とを行なう。第1測定により得られた表面形状データと、第2測定により得られた裏面形状データとに基づき第1のデータを得るとともに、第1測定により得られた表面形状データと、第3測定により得られた裏面形状データとに基づき第2のデータを得、これら第1、第2のデータに基づき保持歪みを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計等を用いて光学部材等の表面形状等を測定する方法および装置に関し、特に、板状の被検体を所定の保持状態で保持した際に、その保持状態に起因して被検体に生じる歪みを測定する保持歪み測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体を製造する過程においては、半導体ウエハ上に所定の回路パターンを露光転写するためのフォトマスクが使用されている。この種のフォトマスクは、露光時においては、そのマスク面が略水平となるように(マスク面の法線が略重力方向を向くように)保持されて使用されるのが一般的であるため、正確な転写を可能とするためには、重力の影響等によりマスク面が撓まないように配慮しなければならない。このような事情から従来、露光時においてフォトマスクの平面性を維持するための保持方法については、種々の提案がなされている(下記特許文献1、2参照)。
【0003】
一方、フォトマスクの面精度や屈折率分布等の光学性能を測定する場合には、重力の影響をなるべく受けないようにフォトマスクを立てた状態(マスク面の法線が重力方向と略直角となる状態)に配置するとともに、このように配置されたフォトマスクを静止させるためにフォトマスクに作用させなければならない荷重を極力抑えて、被検体に歪みが生じないようにすることが望ましい。
【0004】
【特許文献1】特開平9−306832号公報
【特許文献2】特開2000−223414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フォトマスクをどのような姿勢で保持しようとも、重力や保持するための荷重がフォトマスクに作用する限り、フォトマスクにはその保持状態に起因した撓み等の歪みが生じる虞がある。
【0006】
このような保持状態に起因して生じる歪みを完全に排除することは技術的に極めて困難である。また、このような歪みをフォトマスクの表面形状とは分離して測定する技術はこれまで知られていない。このため従来の測定技術においては、フォトマスクの表面形状等の測定結果に、保持状態に起因して生じる歪みの分が重畳されることが避けられず、このような歪みが無い状態の表面形状を高精度に測定することは極めて困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、フォトマスク等の板状の被検体を所定の保持状態で保持した際に、その保持状態に起因して被検体に生じる歪みを被検面の形状とは分離して測定することが可能な保持歪み測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明では、被検体の保持状態を変えて被検体に、所定の保持状態に起因して被検体に生じる歪み、すなわち、歪み、変形、撓み(本発明では「保持歪み」と称する)とは逆向きで略同等の変形量となる歪み(本発明では「逆歪み」と称する)が生じるようにして行なう測定を含めて複数回の測定を行ない、得られた測定データに基づき、保持歪みを被検面の形状とは別に測定し得るようにしている。
【0009】
すなわち、本発明に係る保持歪み測定方法は、板状の被検体を所定の保持状態で保持した際に、該所定の保持状態に起因して該被検体に生じる歪みを測定する方法であって、
前記所定の保持状態で保持された前記被検体の表面の形状を測定する第1測定と、
前記所定の保持状態で保持された前記被検体の裏面の形状を測定する第2測定と、
前記歪みに対して変形の向きが前記被検体の表裏逆向きで変形量が略同等の逆歪みが該被検体に生じるように該被検体を保持し、前記表面または前記裏面の形状を測定する第3測定とを行ない、前記第1測定により得られた表面形状データと、前記第2測定により得られた裏面形状データとに基づき、前記被検体の厚みむらに係る第1のデータを得るとともに、
前記第1測定により得られた前記表面形状データと、前記第3測定により得られた裏面形状データとに基づき、または前記第2測定により得られた前記裏面形状データと、前記第3測定により得られた表面形状データとに基づき、前記厚みむらに前記歪みおよび前記逆歪みの分が重畳されてなる第2のデータを得、
前記第1のデータと前記第2のデータとに基づき、前記所定の保持状態に起因して前記被検体に生じる保持歪みを求めることを特徴とする。
【0010】
上記「前記歪みに対して変形の向きが前記被検体の表裏逆向きで変形量が略同等となる逆歪み」とは、前記歪み(保持歪み)と前記逆歪みとの関係が、例えば、一方が、被検体の表面側を凹状に裏面側を凸状に変形させるものであると仮定した場合に、他方が、表面側を凸状に裏面側を凹状に変形させるものであり、かつ変形の大きさ(絶対値)は互いに略同じという関係にあることを意味する。
【0011】
また、本発明において上記「表面」と上記「裏面」とは、被検体の互いに対向する2面の一方の面と他方の面とを意味する。
さらに、上記「第1測定」、上記「第2測定」および上記「第3測定」の各々に付した数字は単にこれらを区別するためのものであり、これらの測定を実施する順番を示すものではない。すなわち、これらの測定を実施する順番については任意の順番を選択することができる。
【0012】
なお、求められた前記保持歪みと、前記第1測定により得られた前記表面形状データとに基づき、該保持歪みが無い状態の前記表面の形状を求めるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明に係る保持歪み測定装置は、所定の保持状態で保持された板状の被検体に該所定の保持状態に起因して生じる歪みを測定する装置であって、
前記所定の保持状態で測定光軸上に保持された前記被検体の表面形状を測定する第1測定、前記所定の保持状態で前記測定光軸上に保持された該被検体の裏面形状を測定する第2測定、および前記歪みに対して変形の向きが該被検体の表裏逆向きで変形量が略同等となる逆歪みが生ぜしめられるように前記測定光軸上に保持された該被検体の表面形状または裏面形状を測定する第3測定を行なう形状測定手段と、
前記第1測定により得られた表面形状データと前記第2測定により得られた裏面形状データとに基づき、前記被検体の厚みむらに係る第1のデータを得るとともに、前記第1測定により得られた前記表面形状データと前記第3測定により得られた裏面形状データとに基づき、または前記第2測定により得られた前記裏面形状データと、前記第3測定により得られた表面形状データとに基づき、前記厚みむらに前記歪みおよび前記逆歪みの分が重畳されてなる第2のデータを得、前記第1のデータと前記第2のデータとに基づき、前記所定の保持状態に起因して前記被検体に生じる保持歪みを求める解析手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る保持歪み測定装置において、前記測定光軸上において前記被検体を保持可能に、かつ保持した該被検体の前記形状測定手段に対する向きを該被検体の保持状態を維持したまま反転可能に構成された保持手段を備えるようにすることができる。
【0015】
また、前記形状測定手段は、光源からの出射光束を基準面および前記測定光軸上に保持された前記被検体の被検面に照射し、該基準面および該被検面からの各々の戻り光を互いに干渉させることにより、前記被検面の波面情報を担持した干渉縞を得る干渉光学系を備えてなるものとすることができる。
【0016】
その際、被検体がフォトマスクのように透明な平行平板である場合には、被検面以外から反射される光に起因するノイズを除去し得るように、前記光源としては、前記出射光束が前記被検体の表裏面間の光学距離の2倍よりも短い可干渉距離を有する低可干渉光源を用い、前記形状測定手段としては、前記光源からの前記出射光束を2光束に分岐するとともに、該2光束の一方を他方に対して所定の光学光路長分だけ迂回させた後に1光束に再合波して出力するパスマッチ経路部を備えているものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る保持歪み測定方法および装置では、所定の保持状態で保持された被検体の表面および裏面の形状をそれぞれ測定する第1測定および第2測定と、逆歪みが被検体に生じるように被検体を保持して表面または裏面の形状を測定する第3測定とを行なう。
【0018】
第1測定により、表面形状に保持歪みの分が重畳された表面形状データが得られ、第2測定により、裏面形状に保持歪みの分が重畳された裏面形状データが得られ、また、第3測定により、表面形状に逆歪みの分が重畳された表面形状データ、または裏面形状に逆歪みの分が重畳された裏面形状データが得られる。
【0019】
さらに、第1測定により得られた表面形状データと第2測定により得られた裏面形状データとに基づき、被検体の厚みむらに係る第1のデータが得られるとともに、第1測定により得られた表面形状データと第3測定により得られた裏面形状データとに基づき、または第2測定により得られた裏面形状データと、第3測定により得られた表面形状データとに基づき、厚みむらに保持歪みと逆歪みの分が重畳されてなる第2のデータが得られる。
【0020】
逆歪みは、所定の保持状態に起因して被検体に生じる保持歪みに対して変形の向きが逆向きで大きさは略同等であるので、保持歪みとは向きだけが異なる歪み量のデータとして扱うことが可能である。したがって、第1のデータおよび第2のデータに基づき、保持歪みを被検体の表裏面形状とは分離して求めることが可能となり、求められた保持歪みの測定データに基づき、保持歪みが無い状態の被検体の表裏面形状等を高精度に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る保持歪み測定装置の概略構成図、図2は図1に示す被検体保持装置の概略構成図であり、同図(a)はその正面図、同図(b)は側面図である。
【0022】
〈装置構成〉
図1に示す保持歪み測定装置は、クリーンルーム等においてフォトマスク等の被検体40の表面形状や内部屈折率分布等の測定を行なうためのもので、形状測定手段を構成する干渉計装置10と、透過型基準板19および反射型基準板20と、保持手段としての被検体保持装置30と、解析手段としてのコンピュータ装置50とから構成されている。
【0023】
上記干渉計装置10は、測定光束の光路長を調整するパスマッチ経路部10aと、干渉縞を得るための干渉光学系10bと、得られた干渉縞を撮像するための撮像系10cとを備えている。パスマッチ経路部10aは、ビームスプリッタ12と、2つのミラー13,14とを備えており、光源11から出力された光束が、ビームスプリッタ12のハーフミラー面12aにおいて2光束に分岐され、分岐された2光束はミラー13,14においてそれぞれ逆向きに反射されてビームスプリッタ12に戻り、ハーフミラー面12aにおいてそれぞれの一部が1光束に合波され、測定光束として干渉光学系10bに向けて射出されるように構成されている。
【0024】
上記パスマッチ経路部10aにおいては、ミラー14が1軸ステージ23に保持されて図中左右方向に移動可能とされており、アクチュエータ24により1軸ステージ23を駆動させてミラー14の位置を変えることにより、ハーフミラー面12a上の分岐点とミラー14との間の往復経路(以下「第1の経路」と称する)と、この分岐点とミラー13との間の往復経路(以下「第2の経路」と称する)との間の経路長差を調整し得るようになっている。なお、本実施形態では、上記第1の経路を通過する一方の光束は、上記第2の経路を通過する他方の光束に対して所定の光学光路長分だけ迂回(遠回り)するように構成されている。
【0025】
上記光源11は、測定光束として出力される出射光束の可干渉距離が被検体40の表裏面間の光学距離の2倍よりも短くなるように設定された低可干渉光源で構成されている。このような低可干渉光源としては、LED、SLD、ハロゲンランプ、高圧水銀ランプ等の一般的な低可干渉光源や、干渉縞の像を撮像素子で取り込んだ際に、上記低可干渉光源が有する可干渉距離と等価の可干渉距離となるように調整された波長変調光源を用いることができる。この種の波長変調光源は、撮像素子の応答時間(光蓄積時間)よりも短い時間内で、光源(一般的には半導体レーザ光源(LD)が用いられる)から射出される光の波長を変調し、撮像素子の応答時間において時間平均的に干渉縞を撮像することにより、スペクトル幅が広く可干渉距離が短い光を出射する光源を用いた場合と等価の結果が得られるようにしたもので、例えば、1995年5月光波センシング予稿集75〜82頁にコヒーレンス関数を合成する手法が示されている。また、その手法を改良した技術も開示されている(特開2004−37165号公報)。
【0026】
上記干渉光学系10bは、パスマッチ経路部10aから射出された測定光束の進む順に配置された、ビームエキスパンダ15、収束レンズ16、ビームスプリッタ17、およびコリメータレンズ18を備えており、上記撮像系10cは、ビームスプリッタ17の図中下方に配置された結像レンズ21および撮像カメラ22を備えている。また、干渉光学系10bは、上記透過型基準板19と上記反射型基準板20と共にフィゾータイプの光学系配置を構成しており、透過型基準板19の基準面19aで反射された参照光と、基準面19aを透過した後に上記被検体40から戻る被検光との光干渉により生じる干渉縞を、ビームスプリッタ17のハーフミラー面17aおよび結像レンズ21を介して撮像カメラ22内のCCD,CMOS等の撮像素子上に結像させるように構成されている。
【0027】
なお、図示されていないが上記透過型基準板19には、フリンジスキャン計測を実施する際に該透過型基準板19を光軸Lの方向に微動させるフリンジスキャンアダプタと、上記被検体保持装置30に保持された被検体40と基準面19aとの間の傾きを微調整するための傾き調整機構が設けられており、上記反射型基準板20には、同様の傾き調整機構が設けられている。
【0028】
一方、上記被検体保持装置30は、図2に示すように、透過波面測定用の開口部31aが形成された背板部31と、被検体40を支持する上下一対の支持部材(上側の支持部材32と下側の支持部材33)と、被検体40に作用する荷重を検出する左右一対のロードセル34,34と、支持された被検体40に所定の荷重を作用せしめるための荷重付与機構とを備えており、この荷重付与機構は、可動板35と、左右一対のリニアガイド部36,36と、固定板37と、図1に示す駆動ドライバ55により駆動されるリニアアクチュエータ38とからなる。また、被検体保持装置30は反転機構39(便宜上、上下に分離した支柱部のみを示している;図2でも同じ)を備えており、この反転機構39により、被検体40を保持したまま軸線Bの回りに180度反転し得るように構成されている。
【0029】
図2に示す上記支持部材32,33は、被検体40の面法線Cを挟む上下両側より被検体40に当接して、被検体40を上記面法線Cが重力方向(図中上下方向)に対して略直角となるような状態で支持するように構成されている。また、図示を省略しているが、支持部材32,33には、被検体40が倒れるのを防止するために被検体40の表裏面や側面の近傍位置に配設される押え部材が設けられている。なお、これら支持部材32,33や押さえ部材には発塵し難い材質、例えばピーク材(PEEK:ポリエーテルエーテルケトン)等を用いることが好ましい。
【0030】
上記固定板37は上記背板部31に固定されており、上記一対のリニアガイド部36,36および上記リニアアクチュエータ38は、この固定板37に保持されている。一対のリニアガイド部36,36はそれぞれ、上記可動板35の下面に設けられた一対のピン部材35a,35aの各々と摺接係合する筒状の形状をなし、可動板35を上下方向に往復移動可能にガイドするように構成されている。
【0031】
上記リニアアクチュエータ38は、直線的に往復移動するように駆動される先端部38aが、図2(b)に示す作用線Dに沿って上記可動板35を押圧するように構成されている。また、本実施形態ではこの作用線Dが、上記支持部材33と被検体40との当接位置から上記面法線Cに沿った方向(図中右方)に所定距離離れた位置を通り、かつ該面法線Cと略垂直となるように、リニアアクチュエータ38が配置されている。これにより、リニアアクチュエータ38の先端部38aが作用線Dに沿って可動板35を押圧すると上記被検体40には、可動板35、一対のロードセル34,34および一対の支持部材32,33を介して被検体40を上下方向両側から押圧する力と、被検体40に所定の歪み(好ましくは、反転の上記軸線Bに対し対称な歪み(曲げによる変形))を生じさせるモーメントとが作用するようになっている。
【0032】
上記一対のロードセル34,34は、上記下側の支持部材33と上記可動板35との間に配設されており、上記リニアアクチュエータ38より上記被検体40に作用せしめられる上下方向の荷重を検出し、その検出信号を図1に示す荷重検出部53に出力するように構成されている。なお、図2に示すように、リニアアクチュエータ38および一対のロードセル34,34を被検体40の下方に配置することにより、これらの作動により生じる塵埃等が被検面に付着する可能性を低減し得るようになっている。
【0033】
また、上記コンピュータ装置50は、図1に示すように、マイクロプロセッサや各種メモリ、メモリ等に格納された演算処理プログラム等によりそれぞれ構成される、縞画像解析部51、保持歪み導出部52、荷重検出部53、および制御部54を備えるとともに、得られた干渉縞画像等を表示するモニタ装置と、コンピュータ装置50に対する各種入力を行なうための入力装置と(いずれも不図示)が接続されている。なお、上記制御部54は、上記駆動ドライバ56を介して上記アクチュエータ24の駆動量を制御することにより、上記ミラー14の位置を調整するとともに、上記荷重検出部53によりフィードバックされる荷重値に応じて、上記駆動ドライバ55を介して上記リニアアクチュエータ38の駆動量を制御することにより、上記被検体40に作用せしめられる荷重の大きさを調整するように構成されている。
【0034】
〈保持歪み測定方法〉
次に、本発明の一実施形態に係る保持歪み測定方法(以下「第1実施形態方法」と称する)について説明する。図3はこの第1実施形態方法を概略的に示す図であり、同図(a)は本発明の第1測定および第2測定の実施状態を示し、同図(b)は本発明の第3測定の実施状態を示している。
【0035】
この第1実施形態方法では、上述した保持歪み測定装置を用いて、本発明の第1測定、第2測定および第3測定が行なわれるが、以下の理由により各測定が実施される際には、図1に示すパスマッチ経路部10aにおいて、測定光束の経路長調整が行なわれる。
【0036】
すなわち、上記被検体40は、測定光束に対して透明な物質で構成されており、またその表面41と裏面42とが互いに略平行な平行平板状に形成されている。このため、被検体40から上記基準面19aに戻る光には、この基準面19aを透過した後に被検体40の表面41で反射される第1の戻り光と、この表面41から被検体40の内部に入射した後に裏面42で反射される第2の戻り光と、被検体40を透過して上記反射型基準板20の反射基準面20aで反射された後に再び被検体40を透過する第3の戻り光とが含まれることになる。
【0037】
後述するように、第1測定では被検体40の表面41が被検面とされるため上記第1の戻り光が被検光とされ、第2測定および第3測定では被検体40の裏面42が被検面とされるため上記第2の戻り光が被検光とされる。また、この第1実施形態方法では、被検体40の透過波面の測定も行なわれるが、その測定では上記第3の戻り光が被検光とされる。その際、例えば第1測定において必要となるのは、第1の戻り光と参照光との干渉により生じる干渉縞情報であり、参照光と第2、第3の戻り光との間や各戻り光同士の間で干渉が生じた場合には、それらがノイズとなり測定精度に悪影響を及ぼすことになる。
【0038】
そこで、上記各測定を行なう際に、図1に示すパスマッチ経路部10aにおいて、上述した第1の経路と第2の経路との光学光路長差が、干渉光学系10b内における参照光と被検光との光学光路長差に対して、光源11の有する可干渉距離の範囲内で一致するように調整される。これにより、必要となる干渉のみが生じ、不要な干渉は生じないようにしている。なお、上記第3の戻り光が被検光とされない場合には、反射型基準板20を傾けたり、反射型基準板20と被検体40との間にシャッタを配しておき、このシャッタにより反射型基準板20と被検体40との間の光路を遮断したりすることにより、第3の戻り光が透過型基準板19の方向に反射されないようにしてもよい。
【0039】
以下、上述した経路長調整が各測定を行なう際に行なわれることを前提として、この第1実施形態方法の手順を説明する。
【0040】
(ステップS1)図2に示す被検体保持装置30を用いて、被検体40の面法線Cを挟む上下方向両側より被検体40に一対の支持部材32,33を当接させ、該被検体40を面法線Cが重力方向に対して略直角となるように配置する。なお、このとき、図示せぬ傾き調整機構を用いて、透過型基準板19の基準面19aと被検体40の表面41とが互いに略平行となるように調整する。
【0041】
(ステップS2)リニアアクチュエータ38を駆動させて、可動部材35、一対のロードセル34,34を介して支持部材32,33に所定の荷重を作用せしめることにより、被検体40を所定の保持状態に保持する。このとき被検体40には、この所定の保持状態に起因する保持歪み(図3(a)では便宜的に、被検体40の表面41側が凹状で、裏面42側が凸状となるように示されている)が生じる。
【0042】
(ステップS3)本発明の第1測定、すなわち所定の保持状態に保持された被検体40の表面41の形状測定を、図1に示す干渉計装置10およびコンピュータ装置50を用いて行ない、被検体40の表面形状データΦ(x,y)(以下、単に「Φ」と記載する)を求める(測定結果の一例を図7に示す。なお、図中の数値は画素数を表している。このことは以下の図8〜図11においても同様である)。この表面形状データΦには、被検体40の表面41の形状情報P(x,y)(以下、単に「P」と記載する)に、上記保持歪みU(x,y)(以下、単に「U」と記載する)の分が重畳されているので、表面形状データΦは、下式(1)で表すことができる。
Φ=P+U …(1)
【0043】
(ステップS4)被検体40の保持状態を維持しつつ、本発明の第2測定、すなわち所定の保持状態に保持された被検体40の裏面42の形状測定を行ない、被検体40の裏面42を表面41側から見た状態での裏面形状データΦ(x,y)(以下、単に「Φ」と記載する)を求める。この裏面形状データΦには、被検体40の裏面42を表面41の側から見た状態での形状情報Q(x,y)(以下、単に「Q」と記載する)に、上記保持歪みU(x,y)(以下、単に「U」と記載する)の分と、被検体40の屈折率分布等を示す透過波面情報R(x,y)(以下、単に「R」と記載する)の分とが重畳されているので、裏面形状データΦは、下式(2)で表すことができる。
Φ=Q+R+U …(2)
【0044】
(ステップS5)被検体40の保持状態を維持しつつ、反射基準面20aからの上記第3の戻り光を被検光とする、被検体40の透過波面情報Rを求める。
(ステップS6)上記ステップS3で得られた表面形状データΦと、上記ステップS4で得られた裏面形状データΦと、上記ステップS5で得られた透過波面情報Rとに基づき、下式(3)より被検体40の厚みむら(P−Q)(x,y)(以下、単に「P−Q」と記載する)に係る第1のデータD(x,y)(以下、単に「D」と記載する)を求める(測定結果の一例を図8に示す)。
=Φ−Φ+R=P−Q …(3)
【0045】
(ステップS7)被検体40の保持を一旦解除し、被検体40を表裏反転させた状態に配置し直した後、図2に示す被検体保持装置30を用いて、被検体40に上記ステップS2のときと同様の荷重を作用せしめて被検体40を保持する。このとき被検体40には、上記保持歪みに対して変形の向きが被検体40の表裏逆向きで変形量が略同等の逆歪み(図3(b)では便宜的に、被検体40の裏面42側が凹状で、表面41側が凸状となるように示されている)が生じる。
【0046】
(ステップS8)本発明の第3測定、すなわち上記逆歪みが生じるように保持された被検体40の裏面42の形状測定を行ない、被検体40の裏面形状データΦ(x,y)(以下、単に「Φ」と記載する)を求める。この裏面形状データΦには、被検体40の裏面42を裏面42側から見た状態での形状情報Q´(x,y)(以下、単に「Q´」と記載する)に、上記逆歪みU(x,y)(以下、単に「U」と記載する)の分が重畳されているので、裏面形状データΦは、下式(4)で表すことができる。
Φ=Q´+U …(4)
【0047】
(ステップS9)上記ステップS8で得られた裏面形状データΦに対し、被検体40を表裏反転させた状態となるような座標変換処理を施し、反転させた裏面形状データrΦ(x,y)(以下、単に「rΦ」と記載する。rは反転させたことを示す;以下同じ)を求める(測定結果の一例を図9に示す)。上記形状情報Q´は反転させることにより上記形状情報Qと略等しくなり(rQ´=Q)、上記逆歪みUは反転させることにより上記保持歪みUを正負逆にしたものと略等しくなる(rU=−U)ので、反転させた裏面形状データrΦは、下式(5)で表すことができる。
rΦ=rQ´+rU=Q−U …(5)
【0048】
(ステップS10)上記ステップS3で得られた表面形状データΦと、上記ステップS9で得られた裏面形状データrΦとに基づき、下式(6)より被検体40の厚みむらP−Qに上記保持歪みUの2倍の分が重畳されてなる第2のデータD(x,y)(以下、単に「D」と記載する)を求める(測定結果の一例を図10に示す)。
=Φ−rΦ=P−Q+2U …(6)
【0049】
(ステップS11)上記ステップS6で得られた第1のデータDと、上記ステップS10で得られた第2のデータDとに基づき、下式(7)より上記保持歪みUを求める(測定結果の一例を図11に示す)。
=(D−D)÷2 …(7)
(ステップS12)上記ステップS11で得られた保持歪みUと、上記ステップS3で得られた表面形状データΦとに基づき、下式(8)より保持歪みUが無い状態の被検体40の表面41の形状Pを求める。
P=Φ−U …(8)
なお、上記保持歪みUと、上記ステップS4で得られた裏面形状データΦとに基づき、保持歪みUが無い状態の被検体40の裏面42の形状Qを求めることも可能である。
【0050】
このように第1実施形態方法によれば、測定光束に対して透明な平行平板状の被検体40を被検体保持装置30により所定の保持状態で保持した際に、該保持状態に起因して被検体40に生じる保持歪みUを、被検体40の表裏面形状とは分離して求めることが可能である。また、求められた保持歪みUの測定データに基づき、保持歪みUが無い状態の被検体40の表裏面形状P,Qを高精度に測定することが可能となる。
【0051】
〈態様の変更〉
次に、本発明の他の実施形態に係る保持歪み測定方法(以下「第2実施形態方法」と称する)について説明する。図4はこの第2実施形態方法を概略的に示す図であり、同図(a)は本発明の第1測定の実施状態を示し、同図(b)は本発明の第2測定の実施状態を示し、同図(c)は本発明の第3測定の実施状態を示している。
【0052】
この第2実施形態方法は、上述した保持歪み測定装置を用いて、本発明の第1測定、第2測定および第3測定を行なう点については、上記第1実施形態方法と同様である。ただし、被検体40Aが測定光束に対して不透明であり、このため、上記第1実施形態方法では実施された被検体40Aの透過波面測定が行なわれない点などが異なっている。なお、被検体40Aが不透明であるので、レーザ光源等の高可干渉光源を用いることが可能であり、その場合には上記第1実施形態方法において各測定の際に実施された経路長調整を行なう必要はない。また、この第2実施形態方法により、測定光束に対して透明な被検体40を測定することも可能である。その場合には、上記第1実施形態方法と同様に、低可干渉光源が用いられ、各測定の際の経路長調整および被検体40の透過波面測定が実施されることになる。以下、この第2実施形態方法の手順を説明する。
【0053】
(ステップT1)第1実施形態方法のステップS1,S2と同様に、図2に示す被検体保持装置30を用いて被検体40Aに所定の荷重を作用せしめることにより、被検体40Aを所定の保持状態に保持する。このとき被検体40Aには、この所定の保持状態に起因する保持歪み(図4(a)では便宜的に、被検体40Aの表面41A側が凹状で、裏面42A側が凸状となるように示されている)が生じる。
【0054】
(ステップT2)本発明の第1測定、すなわち所定の保持状態に保持された被検体40Aの表面41Aの形状測定を行ない、被検体40Aの表面形状データΨ(x,y)(以下、単に「Ψ」と記載する)を求める。この表面形状データΨには、被検体40Aの表面41Aの形状情報K(x,y)(以下、単に「K」と記載する)に、保持歪みW(x,y)(以下、単に「W」と記載する)分が重畳されているので、表面形状データΨは、下式(9)で表すことができる。
Ψ=K+W …(9)
【0055】
(ステップT3)被検体保持装置30による被検体40Aの保持状態を維持しつつ、図4(b)に示すように、被検体保持装置30を軸線Bの回りに回転させて被検体40Aを反転させる。この状態で、本発明の第2測定、すなわち所定の保持状態に保持された被検体40Aの裏面42Aの形状測定を行ない、被検体40Aの裏面42Aを裏面42A側から見た状態での裏面形状データΨ(x,y)(以下、単に「Ψ」と記載する)を求める。この裏面形状データΨには、被検体40Aの裏面42Aを裏面42A側から見た状態での形状情報J´に、保持歪みWを反転させた分rWが重畳されているので、裏面形状データΨは、下式(10)で表すことができる。
Ψ=J´+rW …(10)
【0056】
(ステップT4)上記ステップT3で得られた裏面形状データΨに対し、被検体40Aを表裏反転させた状態となるような座標変換処理を施し、反転させた裏面形状データrΨ(x,y)(以下、単に「rΨ」と記載する)を求める。上記形状情報J´は反転させることにより、被検体40Aの裏面42Aを表面42A側から見た状態での形状情報J(x,y)(以下、単に「J」と記載する)と略等しくなり(rJ´=J)、上記保持歪みWを反転させた分rWをさらに反転させるとWに等しくなる(rrW=W)ので、反転させた裏面形状データΨは、下式(11)で表すことができる。
rΨ=rJ´+rrW=J+W …(11)
【0057】
(ステップT5)上記ステップT2で得られた表面形状データΨと、上記ステップT4で得られた裏面形状データrΨとに基づき、下式(12)より被検体40Aの厚みむら(K−J)(x,y)(以下、単に「K−J」と記載する)に係る第1のデータE(x,y)(以下、単に「E」と記載する)を求める。
=Ψ−rΨ=K−J …(12)
【0058】
(ステップT6)図2に示す被検体保持装置30を軸線Bの回りに回転させて元の位置に戻すとともに、被検体40Aの保持を一旦解除し、被検体40を表裏反転させた状態に配置し直した後、被検体40Aに上記ステップT1のときと同様の荷重を作用せしめて被検体40Aを保持する。このとき被検体40Aには、上記保持歪みに対して変形の向きが被検体40Aの表裏逆向きで変形量が略同等の逆歪み(図4(c)では便宜的に、被検体40Aの裏面42A側が凹状で、表面41A側が凸状となるように示されている)が生じる。
【0059】
(ステップT7)本発明の第3測定、すなわち上記逆歪みが生じるように保持された被検体40Aの裏面42Aの形状測定を行ない、被検体40Aの裏面形状データΨ(x,y)(以下、単に「Ψ」と記載する)を求める。この裏面形状データΨには、被検体40Aの裏面42Aを裏面42A側から見た状態での形状情報J´に、上記逆歪みW(x,y)(以下、単に「W」と記載する)の分が重畳されているので、裏面形状データΨは、下式(13)で表すことができる。
Ψ=J´+W …(13)
【0060】
(ステップT8)上記ステップT7で得られた裏面形状データΨに対し、被検体40Aを表裏反転させた状態となるような座標変換処理を施し、反転させた裏面形状データrΨ(x,y)(以下、単に「rΨ」と記載する)を求める。上記形状情報J´は反転させることにより上記形状情報Jと略等しくなり(rJ´=J)、上記逆歪みWは反転させることにより上記保持歪みWを正負逆にしたものと略等しくなる(rW=−W)ので、反転させた裏面形状データrΨは、下式(14)で表すことができる。
rΨ=rJ´+rW=J−W …(14)
【0061】
(ステップT9)上記ステップT2で得られた表面形状データΨと、上記ステップT8で得られた裏面形状データrΨとに基づき、下式(15)より被検体40Aの厚みむらK−Jに上記保持歪みWの2倍の分が重畳されてなる第2のデータE(x,y)(以下、単に「E」と記載する)を求める。
=Ψ−rΨ=K−J+2W …(15)
(ステップT10)上記ステップT5で得られた第1のデータEと、上記ステップT9で得られた第2のデータEとに基づき、下式(16)より上記保持歪みWを求める。
=(E−E)÷2 …(16)
【0062】
(ステップT11)上記ステップT10で得られた保持歪みWと、上記ステップT2で得られた表面形状データΨとに基づき、下式(17)より保持歪みWが無い状態の被検体40Aの表面41Aの形状Kを求める。
K=Ψ−W …(17)
なお、上記保持歪みWと、上記ステップT3で得られた裏面形状データΨとに基づき、保持歪みWが無い状態の被検体40Aの裏面42Aの形状Jを求めることも可能である。
【0063】
このように第2実施形態方法によれば、測定光束に対して不透明な平行平板状の被検体40Aを被検体保持装置30により所定の保持状態で保持した際に、該保持状態に起因して被検体40Aに生じる保持歪みWを、被検体40Aの表裏面形状とは分離して求めることが可能である。また、求められた保持歪みWの測定データに基づき、保持歪みWが無い状態の被検体40Aの表裏面形状K,Jを高精度に測定することが可能となる。
【0064】
次に、本発明の他の実施形態に係る保持歪み測定装置について説明する。図5は本発明の他の実施形態に係る保持歪み測定装置の概略構成図である。なお、図5において、図1に示す装置と同様の構成部材については、図1で用いたものと同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0065】
図5に示す保持歪み測定装置は、クリーンルーム等においてフォトマスク等の被検体40Bの表面形状や内部屈折率分布等の測定を行なうためのもので、形状測定手段を構成する干渉計装置10と、透過型基準板19および反射型基準板20と、被検体40Bを所定の保持状態で保持する被検体保持台61と、コンピュータ装置50Aとから構成されている。
【0066】
なお、図示されていないが上記透過型基準板19には、フリンジスキャン計測を実施する際に該透過型基準板19を光軸Lの方向に微動させるフリンジスキャンアダプタと、上記被検体保持台61に保持された被検体40Bと基準面19aとの間の傾きを微調整するための傾き調整機構が設けられており、上記反射型基準板20は、同様の傾き調整機構を介して光学定盤62の上に配置されている。また、上記被検体保持台61には、保持した被検体40Bの傾きを調整するための傾き調整機構が設けられている。
【0067】
上記干渉計装置10は、図1において横置きに配置されていたものを縦置きに配置したものであり、その内部の構成は図1に示すものと同じである。また、上記コンピュータ装置50Aは、図1に示すコンピュータ装置50と同様に、マイクロプロセッサや各種メモリ、メモリ等に格納された演算処理プログラム等によりそれぞれ構成される、縞画像解析部および保持歪み導出部(図示略)を備えるとともに、得られた干渉縞画像等を表示するモニタ装置と、コンピュータ装置50Aに対する各種入力を行なうための入力装置と(いずれも不図示)が接続されている。
【0068】
一方、上記被検体保持台61は、図5に示すように、被検体40Bを略水平に保持するとともに、この保持状態に起因して被検体40Bに、重力の作用による所定の歪みを生ぜしめるように構成されている。
【0069】
図6に、図5に示す保持歪み測定装置を用いて行なう保持歪み測定方法(以下「第3実施形態方法」と称する)の概略を示す。図6(a)は本発明の第1測定および第2測定の実施状態を示し、同図(b)は本発明の第3測定の実施状態を示している。
【0070】
この第3実施形態方法では、図5に示す保持歪み測定装置を用いて、本発明の第1測定、第2測定および第3測定が行なわれるが、その手順は、上述の第1実施形態方法と同様である。すなわち、第1実施形態方法との主な相違点は、第1実施形態方法では図2に示す被検体保持装置30を用いて被検体40を立てた状態で保持するのに対し、この第3実施形態方法では図5に示す被検体保持台61を用いて被検体40Bを水平状態で保持する点にある。この保持状態の相違の他には、被検体40Bをその表面41Bを上にして保持したときに被検体40Bに生じる歪みと、被検体40Bをその裏面42Bを上にして保持したときに被検体40Bに生じる歪みとが、上述した保持歪みと逆歪みの関係にあることを考慮すれば、測定手順そのものは第1実施形態方法と同様とみなせるので、その詳細な説明は省略する。
【0071】
なお、上述した実施形態においては、測定装置の系統誤差については触れていない。このような系統誤差としては、基準板誤差や分岐光学系誤差等があり、これらの誤差は通常、校正用基準板を用いて校正されている。また、校正用基準板自体の誤差についても、校正用基準板をいわゆる3面合わせ方法(特開平9−203619号公報参照)等により絶対精度測定を行ない値付けをすることで、コンピュータにより取り除くことが可能である。
【0072】
以上、本発明に係る保持歪み測定方法および装置の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0073】
例えば上述した保持歪み測定方法では、第3測定において被検体の裏面形状を測定しているが、第3測定において被検体の表面形状を測定するようにしてもよい。この場合には、第2測定により得られた裏面形状データと、第3測定により得られた表面形状データとに基づき、第2のデータが得られることになる。
【0074】
また、上述した保持歪み測定装置では、形状測定手段として干渉計装置を備えているが、干渉計装置に替えて、いわゆるモアレ装置や光切断測定装置を備えるようにすることも可能である。
【0075】
また、形状測定手段として干渉計装置を用いる場合でも、干渉光学系の配置がフィゾー型のものに限られるものではなく、マイケルソン型やアブラムソン型斜入射干渉計等の他の光学系配置を有する干渉計装置にも適用することが可能である。
【0076】
また、上記実施形態において示したパスマッチ経路部の光学系配置は、マイケルソン干渉計の光学系配置と類似したものとされているが、特開平9−21606号公報に記載されているような、一方の経路が他方の経路に対してコの字状に迂回するような態様とすることも可能である。
【0077】
また、測定光束に対して透明な平行平板状の被検体を測定する場合には、パスマッチ経路部を備えることにより、高精度な測定が可能となるので好ましいが、測定光束に対して不透明な被検体を測定する場合にはパスマッチ経路部は不要である。なお、パスマッチ経路部を備えていない干渉計装置により、測定光束に対して透明な平行平板状の被検体を測定する場合でも、本発明を適用することは可能である。
【0078】
さらに、測定光束に対して透明な被検体と不透明な被検体を1つの干渉計装置を用いて測定する場合には、測定光束の光源として、上述した低可干渉光源とレーザ光源等の高可干渉光源とを切替え可能に配設しておき、透明な被検体を測定する場合は低可干渉光源を用いて測定を行ない、不透明な被検体を測定する場合は高可干渉光源を用いて測定を行なうようにしてもよい。
【0079】
また、特表2004−510958号公報に記載されている周波数変換位相シフト干渉計測法を用いて測定を行なうことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る保持歪み測定装置の一実施形態を示す概略図
【図2】図1に示す被検体保持装置の構成を示す図
【図3】本発明に係る保持歪み測定方法の第1実施形態を示す概略図
【図4】本発明に係る保持歪み測定方法の第2実施形態を示す概略図
【図5】本発明に係る保持歪み測定装置の他の実施形態を示す概略図
【図6】本発明に係る保持歪み測定方法の第3実施形態を示す概略図
【図7】被検体の表面形状データに係る測定結果の一例を示す図
【図8】第1のデータに係る測定結果の一例を示す図
【図9】被検体の裏面形状データに係る測定結果の一例を示す図
【図10】第2のデータに係る測定結果の一例を示す図
【図11】保持歪みに係る測定結果の一例を示す図
【符号の説明】
【0081】
10 干渉計装置(形状測定装置)
10a パスマッチ経路部
10b 干渉光学系
10c 撮像系
11 光源
12,17 ビームスプリッタ
12a,17a ハーフミラー面
13,14 ミラー
15 ビームエキスパンダ
16 収束レンズ
18 コリメータレンズ
19 透過型基準板
19a 基準面
20 反射型基準板
20a 反射基準面
21 結像レンズ
22 撮像カメラ
23 1軸ステージ
24 アクチュエータ
30 被検体保持装置(保持手段)
31 背板部
31a 開口部
32 (上側の)支持部材
33 (下側の)支持部材
34 ロードセル
35 可動板
35a ピン部材
36 リニアガイド
37 固定板
38 リニアアクチュエータ
38a 先端部
39 反転機構
40,40A,40B 被検体
41,41A,41B (被検体の)表面
42,42A,42B (被検体の)裏面
50,50A コンピュータ装置(解析手段)
51 縞画像解析部
52 保持歪み導出部
53 荷重検出部
54 制御部
55,56 駆動ドライバ
61 被検体保持台
62 光学定盤
L 光軸
B 軸線
C 面法線
D 作用線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被検体を所定の保持状態で保持した際に、該所定の保持状態に起因して該被検体に生じる歪みを測定する方法であって、
前記所定の保持状態で保持された前記被検体の表面の形状を測定する第1測定と、
前記所定の保持状態で保持された前記被検体の裏面の形状を測定する第2測定と、
前記歪みに対して変形の向きが前記被検体の表裏逆向きで変形量が略同等の逆歪みが、該被検体に生じるように該被検体を保持し、前記表面または前記裏面の形状を測定する第3測定とを行ない、
前記第1測定により得られた表面形状データと、前記第2測定により得られた裏面形状データとに基づき、前記被検体の厚みむらに係る第1のデータを得るとともに、
前記第1測定により得られた前記表面形状データと、前記第3測定により得られた裏面形状データとに基づき、または前記第2測定により得られた前記裏面形状データと、前記第3測定により得られた表面形状データとに基づき、前記厚みむらに前記歪みおよび前記逆歪みの分が重畳されてなる第2のデータを得、
前記第1のデータと前記第2のデータとに基づき、前記所定の保持状態に起因して前記被検体に生じる保持歪みを求めることを特徴とする保持歪み測定方法。
【請求項2】
求められた前記保持歪みと、前記第1測定により得られた前記表面形状データとに基づき、該保持歪みが無い状態の前記表面の形状を求めることを特徴とする請求項1記載の保持歪み測定方法。
【請求項3】
所定の保持状態で保持された板状の被検体に該所定の保持状態に起因して生じる歪みを測定する装置であって、
前記所定の保持状態で測定光軸上に保持された前記被検体の表面形状を測定する第1測定、前記所定の保持状態で前記測定光軸上に保持された該被検体の裏面形状を測定する第2測定、および前記歪みに対して変形の向きが該被検体の表裏逆向きで変形量が略同等の逆歪みが生ぜしめられるように前記測定光軸上に保持された該被検体の表面形状または裏面形状を測定する第3測定を行なう形状測定手段と、
前記第1測定により得られた表面形状データと前記第2測定により得られた裏面形状データとに基づき、前記被検体の厚みむらに係る第1のデータを得るとともに、前記第1測定により得られた前記表面形状データと前記第3測定により得られた裏面形状データとに基づき、または前記第2測定により得られた前記裏面形状データと、前記第3測定により得られた表面形状データとに基づき、前記厚みむらに前記歪みおよび前記逆歪みの分が重畳されてなる第2のデータを得、前記第1のデータと前記第2のデータとに基づき、前記所定の保持状態に起因して前記被検体に生じる保持歪みを求める解析手段と、を備えてなることを特徴とする保持歪み測定装置。
【請求項4】
前記測定光軸上において前記被検体を保持可能に、かつ保持した該被検体の前記形状測定手段に対する向きを該被検体の保持状態を維持したまま反転可能に構成された保持手段を備えていることを特徴とする請求項3記載の保持歪み測定装置。
【請求項5】
前記形状測定手段は、光源からの出射光束を基準面および前記測定光軸上に保持された前記被検体の被検面に照射し、該基準面および該被検面からの各々の戻り光を互いに干渉させることにより、前記被検面の波面情報を担持した干渉縞を得る干渉光学系を備えてなることを特徴とする請求項3または4記載の保持歪み測定装置。
【請求項6】
前記光源は、前記出射光束が前記被検体の表裏面間の光学距離の2倍よりも短い可干渉距離を有する低可干渉光源であり、
前記形状測定手段は、前記光源からの前記出射光束を2光束に分岐するとともに、該2光束の一方を他方に対して所定の光学光路長分だけ迂回させた後に1光束に再合波して出力するパスマッチ経路部を備えていることを特徴とする請求項5記載の保持歪み測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−126082(P2006−126082A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316788(P2004−316788)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】