説明

光伝導素子、レンズ、テラヘルツ放射顕微鏡及びデバイスの製造方法

【課題】テラヘルツ電磁波の検出精度を向上させることができるテラヘルツ放射顕微鏡、これに用いられる、光伝導素子、レンズ及びデバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】光伝導素子は、基材と、電極と、膜材とを具備する。前記基材は、光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面を有する。前記電極は、前記基材に形成され、前記基材の入射面に入射された前記テラヘルツ電磁波を検出する。前記膜材は、前記基材の前記入射面に形成され、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、テラヘルツの電磁波を利用したテラヘルツ放射顕微鏡、これに用いられる、光伝導素子及びレンズに関し、また、テラヘルツ放射顕微鏡によりデバイスを観察する工程を含む、そのデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2及び3に記載の半導体デバイスの検査方法は、テラヘルツ電磁波を利用して、非接触で半導体デバイスを検査する方法である。これらの検査方法は、検査対象である半導体デバイスに、例えば超短パルスレーザー等、励起用のパルスレーザーを照射することにより発生するテラヘルツ電磁波が、その半導体デバイスの内部の電界分布や配線欠陥の影響を受けることを利用し、半導体デバイスの欠陥を検査する(例えば、特許文献1、2及び3)。
【0003】
半導体デバイス内には、無バイアス電圧下においてもMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタを構成するpn接合部や金属半導体表面等にビルトイン電界が発生している。したがって、これらのようなテラヘルツ電磁波を利用した検査装置は、無バイアス状態即ち非接触で欠陥の検査を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4744604号
【特許文献2】特許第4001373号
【特許文献3】特許第4683869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば励起用のパルスレーザーがデバイスで反射、散乱、または透過等することにより、そのパルスレーザーが、テラヘルツ電磁波を検出する検出素子に照射される場合がある。この検出素子が半導体材料を含む場合、この検出素子にパルスレーザーが照射されると、この検出素子からもテラヘルツ電磁波が発生してしまう。例えば、検査対象となるデバイスの種類によっては、そのデバイスから発生するテラヘルツ電磁波のパワーが微弱なデバイスもある。このようなデバイスの場合、デバイスから発生するテラヘルツ電磁波と上記検出素子から発生するテラヘルツ電磁波との分離が困難になり、デバイスから発生するテラヘルツ電磁波の検出精度が低下する。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、テラヘルツ電磁波の検出精度を向上させることができるテラヘルツ放射顕微鏡、これに用いられる、光伝導素子、レンズ及びデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本技術に係る光伝導素子は、基材と、電極と、膜材とを具備する。
前記基材は、光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面を有する。
前記電極は、前記基材に形成され、前記基材の入射面に入射された前記テラヘルツ電磁波を検出する。
前記膜材は、前記基材の前記入射面に形成され、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる。
【0008】
基材の入射面には、テラヘルツ電磁波を透過させ、パルスレーザーを反射させる膜材が形成されているので、パルスレーザーが基材の入射面に入射することにより起こるテラヘルツ電磁波の発生を抑制することができる。これにより、観察対象となるデバイスで発生するテラヘルツ電磁波の検出精度を向上させることができる。
【0009】
前記基材は、前記基材のうち前記電極が形成された面とは異なる面を、前記入射面として有していてもよい。基板のうち電極が形成された面には、例えば、光伝導素子がテラヘルツ電磁波を所定のタイミングで検出するためのサンプリングパルスレーザーが入射される。したがって、その電極が形成された面とは異なる面に、テラヘルツ電磁波を入射させることにより、テラヘルツ電磁波の検出精度を高めることができる。
【0010】
前記膜材は、絶縁体膜、半導体膜及び導電体膜のうち少なくとも1つの膜を含んでもよい。
【0011】
本技術に係るレンズは、レンズ領域と、膜材とを具備する。
前記レンズ領域は、入射面と、出射面と、内部領域とを有する。前記入射面には、光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する。前記出射面は、前記入射面に入射した前記テラヘルツ電磁波を出射する。前記内部領域は、前記入射面及び前記出射面の間で前記テラヘルツ電磁波を導く。
【0012】
レンズ領域の入射面には、テラヘルツ電磁波を透過させ、パルスレーザーを反射させる膜材が形成されているので、パルスレーザーが入射面に入射することにより起こるテラヘルツ電磁波の発生を抑制することができる。これにより、観察対象となるデバイスで発生するテラヘルツ電磁波の検出精度を向上させることができる。
【0013】
前記レンズ領域は、前記入射面としての曲面部と、前記出射面としての平面部とを有してもよい。このような形状のレンズ領域が設けられることにより、テラヘルツ電磁波が集光またはコリメートされ、レンズ領域の出射面側に配置された光伝送素子が、テラヘルツ電磁波を効率良く検出することができる。
【0014】
本技術に係るテラヘルツ放射顕微鏡は、光源と、検出素子とを具備する。
前記光源は、パルスレーザーを発生する。
前記検出素子は、観察対象となるデバイスに前記パルスレーザーが照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波を検出する検出素子であって、入射面と、膜材とを有する。前記入射面には、前記発生したテラヘルツ電磁波が入射する。前記膜材は、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる、前記入射面に形成されている。
【0015】
検出素子の入射面には、テラヘルツ電磁波を透過させ、パルスレーザーを反射させる膜材が形成されているので、パルスレーザーが検出素子の入射面に入射することにより起こるテラヘルツ電磁波の発生を抑制することができる。これにより、観察対象となるデバイスで発生するテラヘルツ電磁波の検出精度を向上させることができる。
【0016】
前記光源は、前記デバイスに前記パルスレーザーを照射することにより、1010(Hz)〜1014(Hz)の周波数を有するテラヘルツ電磁波を発生させてもよい。
【0017】
前記光源は、2μm以下の波長及び100ps以下のパルス幅を有するパルスレーザーを発生してもよい。
【0018】
本技術に係るデバイスの製造方法は、テラヘルツ放射顕微鏡を利用してデバイスの欠陥を検査する工程を含むデバイスの製造方法であって、光源によりパルスレーザーを発生させることを含む。
観察対象であるデバイスに前記パルスレーザーが照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる、前記入射面に形成された膜材とを有する検出素子により、前記テラヘルツ電磁波が検出される。
【0019】
この製造方法によれば、上述のように検出素子の検出精度が向上するので、本製造方法は製品の品質の向上に寄与する。
【発明の効果】
【0020】
以上、本技術によれば、テラヘルツ電磁波の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本技術の一実施形態に係るテラヘルツ放射顕微鏡の主に光学系を概略的に示す図である。
【図2】図2は、検出素子を示す側面図である。
【図3】図3は、他の実施形態に係る検出素子を示す側面図である。
【図4】図4は、さらに別の実施形態に係る検出素子を示す側面図である。
【図5】図5は、膜材が形成されていないレンズを有する検出素子の検出信号を示すグラフである。
【図6】図6は、本技術に係る検出素子が用いられた場合の、検出素子の予想される検出信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本技術の実施形態を説明する。
【0023】
[テラヘルツ放射顕微鏡の構成]
【0024】
図1は、本技術の一実施形態に係るテラヘルツ放射顕微鏡の主に光学系を概略的に示す図である。
【0025】
テラヘルツ放射顕微鏡100は、励起光源21、ハーフミラー23、集光レンズ29、光学遅延路22、反射ミラー25、検出素子30、一対の放物面ミラー27及び28、及び、ステージ24等を備える。
【0026】
励起光源21は、ステージ24上に配置された観察対象、ここでは検査対象となるデバイス(以下、対象デバイスSという。)を励起する励起用のパルスレーザーを発生する光源である。励起光源21は、パルスレーザーとして、例えば、2μm以下の波長及び100ps以下のパルス幅を有する、超短パルスレーザーが用いられる。
【0027】
ハーフミラー23は、励起光源21から発生したパルスレーザーL1の一部を反射させてその反射光を集光レンズ29に導く。また、ハーフミラー23を透過したパルスレーザーは、光学遅延路22に入射する。
【0028】
集光レンズ29は、ハーフミラー23からの反射光を、ステージ24上の対象デバイスSに導く。対象デバイスSとしては、典型的には、主に半導体材料を用いた半導体デバイスであり、例えば半導体レーザーや発光ダイオード等の発光デバイスである。
【0029】
検出素子30は、対象デバイスSで発生したテラヘルツ電磁波(以下、テラヘルツ波Tという。)を検出する素子である。
【0030】
光学遅延路22は、ハーフミラー23を透過したパルスレーザーが入射し、検出素子30によりテラヘルツ波Tを任意のタイミングで検出するためのサンプリングパルスレーザーL2を生成する。また、光学遅延路22は、生成したサンプリングパルスレーザーL2を反射ミラー25で反射させて検出素子30に入射させる。
【0031】
典型的には、光学遅延路22は、図示しないミラーを移動させる移動機構(例えば移動ステージ)等を用いて、一定間隔のパルスレーザーの光路長を可変に制御する。レーザーパルスの、検出素子30への到達時刻もその光路長に応じて変わるので、その結果、光学遅延路22は、所定のタイミングでサンプリングパルスレーザーL2を出力することができる。
【0032】
一対の放物面ミラー27及び28は、対象デバイスSで発生したテラヘルツ波Tを検出素子30へ導くミラーである。放物面ミラー27及び28のうち一方の放物面ミラー27には穴27aが形成されており、集光レンズ29で集光されたパルスレーザーがこの穴27aを通るようになっている。
【0033】
[検出素子の構成]
【0034】
図2は、検出素子30を示す側面図である。
【0035】
検出素子30は、光伝導素子(光伝導アンテナ(PCA:Photoconductive Antenna))32と、これに装着されたレンズ31とを備えている。
【0036】
光伝導素子32は公知の構造を有しており、例えば基材となる基板34と、基板34上に形成された電極34cとを含む。これら電極34cは、電極34c間に微小な間隙が設けられるように離間して配置され、アンテナを形成するように配置されている。また、基板34上には、図示しない光伝導膜が形成され、光伝導膜に励起光が照射されると光キャリアが発生する。基板34は、典型的にはGaAs系の半導体材料でなるが、この材料に限られない。この基板34の、電極34cが形成されている面34bに、上述のサンプリングパルスレーザーL2が入射し、その面34bとは異なる面、本実施形態ではその反対側であるレンズ31側の面34aに、対象デバイスSからのテラヘルツ波Tが、レンズ31を介して入射する。
【0037】
レンズ31は、例えば曲面状に形成された入射面(曲面部)31aと、平面状に形成された出射面(平面部)31bと、これら入射面31a及び出射面31bの間でテラヘルツ波Tを導く内部領域31cとを有する。すなわち、このレンズ31は、凸レンズであり、典型的には半球形状を有している。入射面31a、内部領域31c及び出射面31bによりレンズ領域が形成される。レンズ31の出射面31bに基板34が貼り付けられ、具体的には、その基板34の面34aが、そのレンズ31の出射面31bに貼り付けられている。
【0038】
なお、レンズ31は、半球形状を有する形態に限られず、半球の一部の形状、非球面形状、フレネルレンズ等の形状を有していてもよい。つまり、光伝導素子32が効率良くテラヘルツ波Tを検出できれば、レンズ31はどのような形状を有していてもよい。
【0039】
対象デバイスSで発生したテラヘルツ波Tの振幅に応じて、その電極34c間に流れる電流(またはその電極34c間の電圧)が変化する。テラヘルツ放射顕微鏡100は、テラヘルツ波Tがレンズ31を介して基板34上の電極34c間に入射している時に、サンプリングパルスレーザーL2が検出素子30に入射されるタイミングで電極34c間の電流(または電圧)を測定する。これにより、テラヘルツ放射顕微鏡100は、そのタイミングごとのテラヘルツ波Tの振幅値を、波形として得ることができる。
【0040】
レンズ31の入射面31aには、膜材33が形成されている。この膜材33は、対象デバイスSで発生したテラヘルツ波Tを透過させてレンズ31の入射面31aにこれを導き、かつ、対象デバイスSで反射、散乱、透過等したパルスレーザーL1を反射するように設計されている。このパルスレーザーが、光伝導素子32に照射されると、光伝導素子32も半導体材料や導電材料でなるため、光デンバー効果などによりテラヘルツ波Tが発生する。
【0041】
特に、対象デバイスSが、半導体レーザーあるいは発光ダイオード等の、発光デバイスである場合には、そのデバイスのpn接合の内部電界の方向と同じまたはそれに近くなるように、そのデバイスの厚さ方向が設計されている場合が多く、次のような問題が生じる。すなわち、テラヘルツ波の元となる双極子モーメントの方向がデバイス厚み方向となるため、そこから放射されるテラヘルツ波のほとんどが基板34の内部に全反射により閉じ込められてしまう。そのためこれらのデバイスから放射されるテラヘルツ波は、双極子モーメントがデバイス表面と平行方向になるデバイスから放射されるテラヘルツ波Tと比べて、非常に小さくなる。したがって、対象デバイスSで発生するテラヘルツ波Tと、光伝導素子32(あるいはレンズ31がシリコンレンズである場合は、検出素子30)で発生するテラヘルツ波との分離が困難になり、対象デバイスSで発生するテラヘルツ波Tの検出精度が低下し、つまり、S/N比が低いという問題がある。
【0042】
このため、テラヘルツ波を反射し、超短パルスレーザーを透過する透明導電膜コーティング基板を、テラヘルツ放射顕微鏡100の光学系内に配置することで、超短パルスレーザーが検出素子30に照射されるのを防ぐことも考えられる。しかしながら、透明導電膜コーティング基板による超短パルスレーザーの反射損失が生じるために、利用可能なレーザー出力が限られている場合には、結局S/N比が低下するという問題がある。
【0043】
本技術は、このような問題を解決するために、レンズ31の入射面31aに膜材33のコーティングを施し、光伝導素子32からのテラヘルツ波の発生の原因となるパルスレーザーをその膜材33で反射させている。その結果、本来検出したい、対象デバイスSで発生するテラヘルツ波Tの検出精度を向上させることができる。
【0044】
例えば膜材33は、SiO2、SiNなどの誘電体膜、Si、GaAsなどの半導体膜、Al、Cuなどの金属膜のうち少なくとも1つの膜を含む。つまり、膜材33は単層膜または多層膜のどちらでもよい。もちろん、膜材33の材料は、これらの材料に限られない。
【0045】
膜材33の形成方法としては、例えば蒸着、スパッタリング等の成膜プロセスが用いられる。例えば設計者は、反射させたいパルスレーザーの波長及び所望の反射率に基づいて、光学多層薄膜のシミュレーションを行い、膜材33の膜厚、膜数及び材質を設計する。膜材33でのパルスレーザーによるテラヘルツ波の発生を回避するためには、全ての材料を誘電体とすることが理想的ではあるが、そこでのテラヘルツ波Tの発生量が少なければ良いので、必ずしも誘電体には限られない。すなわち、本来検出したい、対象デバイスSからのテラヘルツ波Tを問題なく検出できる程度に、検出素子30で検出される信号のS/N比を得られていればよい。
【0046】
[テラヘルツ放射顕微鏡の作用]
【0047】
励起光源21は、上記のように2μm以下の波長及び100ps以下のパルス幅を有する超短パルスレーザーを発生する。このパルスレーザーが対象デバイスSに照射されることにより、対象デバイスSは、例えば1010(Hz)〜1014(Hz)の周波数を有するテラヘルツ波Tを発生する。
【0048】
具体的には、対象デバイスSにパルスレーザーが入射すると、対象デバイスSの内部で自由電子が発生し、その自由電子が対象デバイスSの内部電界で加速されることにより過渡電流が生じる。この過渡電流が双極子放射を起こすことにより、テラヘルツ波Tが放射される。
【0049】
テラヘルツ放射顕微鏡100は、対象デバイスSの正常時の、検出素子30で検出されるテラヘルツ波に関する情報を記憶しておき、検査時の対象デバイスSが発生したテラヘルツ波Tに関する情報と比較することにより、欠陥の有無(異常の有無)の検査を行うことができる。例えば、対象デバイスSの内部電界が正常でない場合や、対象デバイスSの配線の欠陥があった場合、その時に得られるテラヘルツ波Tは、正常値から変化する。例えば、対象デバイスSの配線はアンテナとして作用するため、配線の欠陥があった場合には、正常時から異なるテラヘルツ波Tが放射される。
【0050】
対象デバイスSで吸収されないパルスレーザーの一部は、対象デバイスSに対して反射し(散乱及び透過もする)、検出素子30へ向かう。しかしながら、本技術では、検出素子30のレンズ31の入射面31aに膜材33が形成されているので、その検出素子30でのテラヘルツ波の発生を抑制することができる。これにより、検出素子30によるS/N比を高めることができ、対象デバイスSで発生するテラヘルツ波Tの検出精度を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように超短パルスレーザーを透過する透明導電膜コーティング基板を設ける必要がなくなるため、部品点数の削減による、テラヘルツ放射顕微鏡の小型化を実現することができる。
【0052】
[他の実施形態に係る検出素子]
【0053】
(他の実施形態1)
図3は、他の実施形態に係る検出素子を示す側面図である。これ以降の説明では、図1及び2に示した実施形態に係る部材や機能等について同様のものは説明を簡略化または省略し、異なる点を中心に説明する。
【0054】
本実施形態に係る検出素子130は、図2に示した光伝導素子132を備え、図2に示したレンズ31を有していない。レンズは、光伝導素子へ入射するテラヘルツ波を集光したり、コリメートしたりして、効率良くテラヘルツ波を検出する機能を主に有するため、このレンズは必須であるというわけではない。
【0055】
本実施形態では、この光伝導素子132の基板134の、電極134cの形成面134bと反対側には、テラヘルツ波Tが入射する入射面134aが形成されている。この入射面134aに、テラヘルツ波Tを透過し、パルスレーザーを反射する膜材133が形成されている。膜材133の材料は、上述のように適宜選択され得る。
【0056】
(他の実施形態2)
図4は、さらに別の実施形態に係る検出素子を示す側面図である。この検出素子230では、レンズ231の平面部側である出射面231bに、テラヘルツ波Tを透過し、パルスレーザーを反射する上記した膜材233が形成されている。これにより、レンズ231の出射面231bでパルスレーザーが反射される。
【0057】
[実施例]
【0058】
図5は、膜材が形成されていない半球レンズを有する検出素子の検出信号を示すグラフである。本発明者は、膜材が形成されていない半球レンズを有する検出素子(図2において膜材33を有していない検出素子)を用いて、テラヘルツ波の検出を行った。実施例では、1つの検査対象製品内のうち対象デバイスが実装されていない箇所にレーザーパルスを照射するようにして、対象デバイスからのテラヘルツ放射が起こらない条件で測定が行われた。すなわち、図5に示すグラフは、対象デバイスからのテラヘルツ波ではなく、実質的に検出素子のみで発生するテラヘルツ波を示している。
【0059】
本実施例では、励起光源21により発生される超短パルスレーザーとして、繰り返し周波数80MHz、中心波長800nm、パルス幅100 fsのチタンサファイアフェムト秒レーザーが用いられた。また、膜材が形成されていない検出素子の光伝導素子として、0.1THzから5THzの周波数の電磁波に感度を持つボウタイアンテナ型光伝導素子を用いられた。
【0060】
これに対し、例えば図2に示した実施形態のように、膜材33が形成されている検出素子30が用いられる場合、この検出素子30は、図6に示すように、その検査対象製品からのテラヘルツ波をほとんど検出しないと予想される。検出素子30は、すなわち実質的にこの検出素子30で発生するテラヘルツ波を検出しないと予想される。
【0061】
[その他の実施形態]
【0062】
本技術は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0063】
図1に示した実施形態に係るテラヘルツ放射顕微鏡100は、対象デバイスSのパルスレーザーが入射側(表面側)で発生したテラヘルツ波Tが、放物面ミラー27及び28で検出素子30へ導かれるような光学系を備えていた。しかし、対象デバイスSへ入射したパルスレーザーによって、テラヘルツ波Tは、対象デバイスSの裏面側でも発生し(実際には360°全方位に発生する)、裏面側で発生したこのテラヘルツ波はステージ24を透過する。したがって、対象デバイスSの裏面側に、検出素子30、132、または230を含む光学系が配置されてもよい。
【0064】
例えば、図2及び4に示した形態を組み合わせて、レンズの実質的に全面に膜材が形成されるようにしてもよい。
【0065】
上記実施形態では、光伝導素子32の基材として基板が用いられたが、基材は、基板のように薄い板状の要素に限られず、直方体、立方体、角柱、円柱等、その他任意の形状を有していてもよい。その場合、その基材の、テラヘルツ電磁波が入射する入射面は、基材の電極形成面の反対側の面に限られず、電極形成面とは異なる任意の面でよい。
【0066】
そのほか、以上説明した各形態の特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。
【0067】
本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面を有する基材と、
前記基材に形成され、前記基材の入射面に入射された前記テラヘルツ電磁波を検出するための電極と、
前記基材の前記入射面に形成され、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる膜材と
を具備する光伝導素子。
(2)(1)に記載の光伝導素子であって、
前記基材は、前記基材のうち前記電極が形成された面とは異なる面を、前記入射面として有する
光伝導素子。
(3)(1)または(2)に記載の光伝導素子であって、
前記膜材は、絶縁体膜、半導体膜及び導電体膜のうち少なくとも1つの膜を含む
光伝導素子。
(4)光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記入射面に入射した前記テラヘルツ電磁波を出射する出射面と、前記入射面及び前記出射面の間で前記テラヘルツ電磁波を導く内部領域とを有するレンズ領域と、
前記入射面及び前記出射面のうち少なくとも一方に形成され、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる膜材と
を具備するレンズ。
(5)(4)に記載のレンズであって、
前記レンズ領域は、前記入射面としての曲面部と、前記出射面としての平面部とを有する
レンズ。
(6)パルスレーザーを発生する光源と、
観察対象となるデバイスに前記パルスレーザーが照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波を検出する検出素子であって、前記発生したテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる、前記入射面に形成された膜材とを有する検出素子と
を具備するテラヘルツ放射顕微鏡。
(7)(6)に記載のテラヘルツ放射顕微鏡であって、
前記光源は、前記デバイスに前記パルスレーザーを照射することにより、1010(Hz)〜1014(Hz)の周波数を有するテラヘルツ電磁波を発生させる
テラヘルツ放射顕微鏡。
(8)(6)または(7)に記載のテラヘルツ放射顕微鏡であって、
前記光源は、2μm以下の波長及び100ps以下のパルス幅を有するパルスレーザーを発生する
テラヘルツ放射顕微鏡。
(9)テラヘルツ放射顕微鏡を利用してデバイスの欠陥を検査する工程を含むデバイスの製造方法であって、
光源によりパルスレーザーを発生させ、
観察対象であるデバイスに前記パルスレーザーが照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる、前記入射面に形成された膜材とを有する検出素子により、前記テラヘルツ電磁波を検出させる
デバイスの製造方法。
【符号の説明】
【0068】
1…パルスレーザーL1
21…励起光源
30、130、230…検出素子
31、231…レンズ
31a…入射面
31b、231b…出射面
31c…内部領域
32、132…光伝導素子
33、133、233…膜材
34、134…基板
34c、134c…電極
100…テラヘルツ放射顕微鏡
134a…入射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面を有する基材と、
前記基材に形成され、前記基材の入射面に入射された前記テラヘルツ電磁波を検出するための電極と、
前記基材の前記入射面に形成され、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる膜材と
を具備する光伝導素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光伝導素子であって、
前記基材は、前記基材のうち前記電極が形成された面とは異なる面を、前記入射面として有する
光伝導素子。
【請求項3】
請求項1に記載の光伝導素子であって、
前記膜材は、絶縁体膜、半導体膜及び導電体膜のうち少なくとも1つの膜を含む
光伝導素子。
【請求項4】
光源から発生したパルスレーザーが、観察対象であるデバイスに照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記入射面に入射した前記テラヘルツ電磁波を出射する出射面と、前記入射面及び前記出射面の間で前記テラヘルツ電磁波を導く内部領域とを有するレンズ領域と、
前記入射面及び前記出射面のうち少なくとも一方に形成され、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる膜材と
を具備するレンズ。
【請求項5】
請求項4に記載のレンズであって、
前記レンズ領域は、前記入射面としての曲面部と、前記出射面としての平面部とを有する
レンズ。
【請求項6】
パルスレーザーを発生する光源と、
観察対象となるデバイスに前記パルスレーザーが照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波を検出する検出素子であって、前記発生したテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる、前記入射面に形成された膜材とを有する検出素子と
を具備するテラヘルツ放射顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載のテラヘルツ放射顕微鏡であって、
前記光源は、前記デバイスに前記パルスレーザーを照射することにより、1010(Hz)〜1014(Hz)の周波数を有するテラヘルツ電磁波を発生させる
テラヘルツ放射顕微鏡。
【請求項8】
請求項6に記載のテラヘルツ放射顕微鏡であって、
前記光源は、2μm以下の波長及び100ps以下のパルス幅を有するパルスレーザーを発生する
テラヘルツ放射顕微鏡。
【請求項9】
テラヘルツ放射顕微鏡を利用してデバイスの欠陥を検査する工程を含むデバイスの製造方法であって、
光源によりパルスレーザーを発生させ、
観察対象であるデバイスに前記パルスレーザーが照射されることにより発生するテラヘルツ電磁波が入射する入射面と、前記テラヘルツ電磁波を透過させ、前記パルスレーザーを反射させる、前記入射面に形成された膜材とを有する検出素子により、前記テラヘルツ電磁波を検出させる
デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76618(P2013−76618A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216164(P2011−216164)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】