説明

光偏向装置の製造方法

【課題】基板の上面と可動部の下面が対向しており、基板の上面が可動部の揺動軸に近い側で高く、遠い側で低くなる向きに傾斜している光偏向装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 上面の高さを高くする部分ではエッチングホールが小さく、上面の高さを低くする部分ではエッチングホールが大きいという規則に従っている複数のエッチングホールを有するエッチング用マスクを材料ウェハの上面に形成するエッチング用マスク形成工程と、エッチングホールを通して材料ウェハを異方性エッチング処理する異方性エッチング工程と、異方性エッチング工程の後にエッチングホールを通して材料ウェハを等方性エッチング処理し、材料ウェハの上面に傾斜面を形成する等方性エッチング工程と、材料ウェハの傾斜面に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、犠牲層の上面に可動部およびミラーを形成する可動部形成工程と、可動部形成工程の後に犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力によってミラーを揺動させることによって、光ビームの反射方向を変化させる光偏向装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板と可動部を備えており、可動部が基板に対して揺動可能となっている光偏向装置が開発されている。可動部の上面にはミラーが設置されており、可動部を基板に対して揺動させることによって、ミラーを所定の角度に傾けることができる。
【0003】
静電駆動式の光偏向装置では、可動部に設置された可動電極と、可動電極と対向する位置の基板に設置された固定電極との間に駆動電圧を印加し、両電極間に作用する静電力によって可動部の一部を基板側に向けて吸引することによって、可動部を揺動させる。
【0004】
静電駆動式の光偏向装置には、可動部と基板間の距離を小さくして大きな静電力を得たいとする要請と、可動部と基板間の距離を大きくして大きな揺動角を得たいとする要請がある。背反する要請に応えるために、基板の上面や可動部の下面に、傾斜や段差を形成する方法が提案されている。特許文献1には、光偏向装置の可動部の下面側(基板側)を傾斜させ、揺動軸に近い側ほど可動部を厚くし、揺動軸から遠い側ほど可動部を薄くする技術が開示されている。特許文献1には、可動部の下面に対して、段階的にリソグラフィとエッチング技術を繰返すことによって、可動部の下面を階段形状に形成できる旨の記載があるが、その具体的な方法は開示されていない。可動部の下面にリソグラフィ等の処理を行う必要上、基板の上面と可動部の下面が対向した状態で可動部の下面を加工することは不可能である。階段形状に形成されている可動部が形成されている層と、基板とを別々に準備し、可動部が形成されている層を基板に貼り合わせて固定する必要がある。
【0005】
また、特許文献2には、光偏向装置の基板の上面側(可動部側)を、可動部の揺動軸から近い側で高くし、揺動軸から遠い側で低くした傾斜面とする技術が開示されている。この光偏向装置は、上面に傾斜面を形成した基板に、可動部が形成されている層を取付けることによって製造される。尚、特許文献2には、基板の上面に傾斜面を形成する具体的な方法については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−13443号公報
【特許文献2】特開2004−133249号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】電気学会センサ・マイクロマシン部門主催 第26回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム論文集(2009)、pp.328−331
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に記載されているように、光偏向装置の基板の上面や可動部の下面を傾斜させる場合には、可動部が形成された層と、基板とを別々に形成した上で、可動部が形成された層を基板に貼り付ける必要があった。可動部が形成された層を基板に貼り付ける際に位置ずれが発生したり、製造工程が複雑となったりしていた。
【0009】
本願は、光偏向装置の基板の上面や可動部の下面に傾斜面を形成する際に、半導体プロセスを用いて、基板と可動部を一体的に形成することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、大きさの異なる複数のエッチングホールが形成されているエッチング用マスクをウェハの表面に形成して異方性エッチング処理を行い、ウェハを略垂直に掘り下げると、大きいエッチングホールの下方ではウェハが深くエッチングされ、小さいエッチングホールの下方ではウェハが浅くエッチングされる現象(非特許文献1を参照)を利用することによって、基板の上面や可動部の下面に傾斜面を有する光偏向装置の基板と可動部を一体的に形成することができることを見出した。
【0011】
本発明は、基板と、基板に対して揺動可能に支持されている可動部と、可動部の上面に固定されているミラーと、可動部の下面に対向する位置の基板に設けられている固定電極と、可動部に設けられている可動電極とを備えており、可動部の下面に対向する範囲における基板の上面が、可動部の揺動軸に近い側で高く、揺動軸から遠い側で低くなる向きに傾斜している光偏向装置の製造方法(第1の製造方法)を提供する。この第1の製造方法は、基板の上面の高さを高くする部分ではエッチングホールが小さく、基板の上面の高さを低くする部分ではエッチングホールが大きいという規則に従っている複数のエッチングホールを有するエッチング用マスクを光偏向装置の基板となる材料ウェハの上面に形成するエッチング用マスク形成工程と、その複数のエッチングホールを通して材料ウェハを異方性エッチング処理する異方性エッチング工程と、異方性エッチング工程の後に、複数のエッチングホールを通して材料ウェハを等方性エッチング処理し、材料ウェハの上面に傾斜面を形成する等方性エッチング工程と、材料ウェハの傾斜面に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、犠牲層の上面に可動部およびミラーを形成する可動部形成工程と、可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含んでいる。
【0012】
上記の光偏向装置の製造方法では、材料ウェハの上面に形成されたエッチング用マスクを介して、異方性エッチング工程と等方性エッチング工程が行われる。このエッチング用マスクには、基板の上面の高さを高くする部分(可動部の揺動軸に近い側)で小さく、基板の上面の高さを低くする部分(可動部の揺動軸から遠い側)で大きいエッチングホールが形成されている。このエッチング用マスクを介して、異方性エッチング処理を行うことによって、エッチングホールが大きい部分の材料ウェハほど、深く掘り下げることができる。その後、このエッチング用マスクを介して等方性エッチング処理を行うことによって、材料ウェハの上面に、可動部の揺動軸に近い側で高く、揺動軸から遠い側で低くなる向きに傾斜する傾斜面を形成することができる。さらに、犠牲層形成工程等の犠牲層プロセスを利用することによって、上面が傾斜した状態の基板と、可動部とを、半導体プロセスを用いて一体的に形成することができる。本発明によれば、可動部を形成しておいて基板に貼り付ける方法では不可避な位置ずれが発生することを防止するとともに、製造工程を簡略化することが可能となる。
【0013】
本発明は、可動部の揺動軸に近い側で可動部が厚く、揺動軸から遠い側で可動部が薄くなる向きに可動部の下面が傾斜している光偏向装置の製造方法(第2の製造方法)をも提供する。この第2の製造方法は、基板となる材料ウェハの上面に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、可動部を厚くする部分ではエッチングホールが大きく、可動部を薄くする部分でエッチングホールが小さいという規則に従っている複数のエッチングホールを有するエッチング用マスクを犠牲層の上面に形成するエッチング用マスク形成工程と、複数のエッチングホールを通して犠牲層を異方性エッチング処理する異方性エッチング工程と、異方性エッチング工程の後に、複数のエッチングホールを通して犠牲層を等方性エッチング処理し、犠牲層の上面に傾斜面を形成する等方性エッチング工程と、犠牲層の傾斜面に可動部およびミラーを形成する可動部形成工程と、可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含んでいる。
【0014】
この製造方法によれば、犠牲層の上面に、可動部の揺動軸に近い側で低く、揺動軸から遠い側で高い傾斜面を形成することができる。その傾斜した上面を持つ犠牲層の上に、可動部とミラーを形成することができる。傾斜した犠牲層の上面を鋳型として、可動部の下面を傾斜した状態にすることができる。犠牲層形成工程等の犠牲層プロセスを利用して、基板と下面が傾斜した可動部を、半導体プロセスを用いて一体的に形成することができる。第2の製造方法によっても、第1の製造方法と同様に、可動部を形成しておいて基板に貼り付ける方法では不可避な位置ずれが発生することを防止するとともに、製造工程を簡略化することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光偏向装置の基板の上面や可動部の下面を傾斜させる場合にも、半導体プロセスを用いて基板と可動部を一体的に形成することができる。これによって、可動部を形成しておいて基板に貼り付ける方法では不可避な位置ずれが発生することを防止するとともに、製造工程を簡略化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で製造する光偏向装置の平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図4】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図5】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図6】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図7】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図8】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図9】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図10】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図11】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図12】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図13】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図14】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図15】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図16】実施例1の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図17】実施例2で製造する光偏向装置の平面図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII線断面図である。
【図19】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図20】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図21】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図22】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図23】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図24】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図25】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図26】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図27】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図28】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図29】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図30】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図31】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図32】実施例2の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図33】変形例の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図34】変形例の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図35】変形例の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図36】変形例の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【図37】変形例の光偏向装置の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る好ましい実施形態は、例えば、下記に列挙する特徴を備えた実施例によって具現化される。
(特徴1)光偏向装置は、半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用した製造方法によって製造される。
【実施例1】
【0018】
(第1の光偏向装置)
実施例1に係る第1の製造方法によって製造する第1の光偏向装置について説明する。図1は、光偏向装置10の平面図であり、図2は図1のII−II線断面図である。図2に示すように、光偏向装置10は、基板下層100と、基板下層100の上面側に積層されている基板上層110を備えている。可動部120を利用して、可動部120を基板下層100に対して揺動可能に支持する1対の可撓梁141a,141b(図1参照)が形成されている。基板下層100と基板上層110は、別々に用意して張り合わせたものでなく、半導体プロセスを利用して基板下層100の上に複数層を積層することで、基板上層110が形成されている。可動部120の上面にはミラー126が形成されている。尚、図1では、ミラー126の図示を省略している。
【0019】
可動部120は、可動電極125と、可動電極125の周囲に形成された絶縁層123,124とを含んでいる。絶縁層123の上面に平面状の可動電極125が形成されており、可動電極125の上面および側面に絶縁層124が形成されている。可動電極125は、外部端子132に電気的に接続されている。図1に示すように、基板上層110は可動部120の周囲を取り囲む枠状部分を備えており、基板上層110の枠状部分の内側から可撓梁141a,141bが伸びており、可動部120に連結されている。可動部120は、可撓梁141a,141bの両側に延びる部分を有しており、平面視すると、H字形状となっている。H字形状の可動部120の上面のほぼ全面にH字形状のミラー126が設置されている。図2には図示していないが、1対の可撓梁141a,141bは、絶縁層123,124を備えている。
【0020】
図1に示すように、可撓梁141a,141bは細長く形成されており、その長手方向を軸として捩れ易い。可撓梁141a,141bがその長手方向軸の周りに捩れることによって、可動部120がこの長手方向軸の周りに揺動する。可撓梁141a,141bの長手方向軸が、可動部120の揺動軸となる。
【0021】
基板下層100は、ウェハ層101と、絶縁層102,103と、固定電極104a,104bを含んでいる。ウェハ層101の上面は、光偏向装置10を平面視したときに、可動部120の周囲を取り囲んでいる基板上層110の枠状部分とほぼ同じ形状に形成されている平面部と、その枠状の平面部の内側に形成されている傾斜部とを有している。ウェハ層101の傾斜部は、図2に示すように、可動部120の中央位置(揺動軸の位置)に頂点部分を有し、可動部120の端部(揺動軸に垂直な方向の端部)に谷を有する略W字形状の傾斜面を有している。ウェハ層101の略W字形状の傾斜面は、揺動軸に平行であり、図2に示す断面形状が揺動軸に沿って(図2の紙面に垂直な方向に沿って)延びている。可動部120の下方に位置する範囲では、ウェハ層101の上面が、可動部120の揺動軸に近い側で高く、遠い側で低くなる向きに傾斜している。可動部120の揺動軸の下方は、ウェハ層101の傾斜部における最も高い部分(頂点部分)である。ウェハ層101の上面全体に形成されている絶縁層102は、ウェハ層101の上面の形状に沿って傾斜している。固定電極104a,104bは、絶縁層102の上面の一部に、可動部120の揺動軸に対して対称に形成されており、絶縁層102の形状に沿って傾斜している。固定電極104a,104bは、可動部120の下面に対向する範囲の絶縁層102の上面に形成されている。ただし、ウェハ層101の頂点部分およびその近傍には、固定電極104a,104bが形成されていない。固定電極104a,104bは、ウェハ層101の頂点部分よりも低い位置に設置されている。固定電極104a,104bは互いに絶縁されており、固定電極104aは外部端子131aと電気的に接続されており、固定電極104bは外部端子131bと電気的に接続されている。固定電極104a,104bおよび絶縁層102の上面の形状に沿って、絶縁層103が形成されている。このように、基板下層100の形状はウェハ層101とほぼ同じ形状であり、可動部120の周囲に枠状に形成されている平面部と、枠状の平面部の内側に形成されている傾斜部とを有する形状となっている。基板下層100は、可動部120の下方に位置する範囲では、可動部120の揺動軸に近い側で高く、遠い側で低く傾斜した状態となっている。
【0022】
基板上層110は、絶縁層113,114によって形成されている。絶縁層103の平面部の上面に絶縁層113,114が積層されている。絶縁層113は平面状に延びており、可動部120の絶縁層123と同一の絶縁層である。絶縁層114は平面状に延びており、可動部120の絶縁層124と同一の絶縁層である。絶縁層103の枠状の平面部に積層されている基板上層110の絶縁層113と、可動部120の絶縁層123は、可撓梁141a,14bの絶縁層123によって連続しており、絶縁層103の枠状の平面部に積層されている基板上層110の絶縁層114と、可動部120の絶縁層124は、可撓梁141a,141bの絶縁層124によって連続している。外部端子131a,131bは、絶縁層113,114を貫通している。
【0023】
基板上層110は、基板下層100の平面部分と一体に形成されており、1対の可撓梁141a,141bと、可動部120とは、基板下層100の傾斜部から離反した高さに支持されている。
【0024】
光偏向装置10は、静電駆動式であり、固定電極104aに印加する駆動電圧と固定電極104bに印加する駆動電圧とを制御することによって、可動部120を揺動軸の周りに揺動させる。外部端子131a,131bを駆動信号生成器等に接続することによって、固定電極104a,104bに印加する駆動電圧等を制御することができる。
【0025】
例えば、可動電極125に接続する外部端子132を接地し、固定電極104a,104bに接続する外部端子131a,131bを駆動信号生成器(図示しない)に接続する。駆動信号生成器を用いて、固定電極104aに駆動電圧を印加すると、接地されている可動電極125と固定電極104aとの間に静電引力が発生し、固定電極104aに対向する位置の可動部120が基板下層100側に吸引される。逆に、固定電極104bに駆動電圧を印加すると、接地されている可動電極125と固定電極104bとの間に静電引力が発生し、固定電極104bに対向する位置の可動部120が基板下層101側に吸引される。
【0026】
静電駆動式の光偏向装置では、可動部に設置された可動電極と、可動電極の下方に位置する基板に固定された固定電極との間に静電引力を作用させて、可動部を揺動させる。この静電引力によって、可撓梁が下方に撓み、可動部の揺動軸が基板に向けて下方に変位してしまうことがある。この現象を可動部の沈み込みという。可動部が基板に対して接近し過ぎて、可動電極と固定電極との距離が小さくなりすぎると、可動電極と固定電極が絶縁層を介して接触し、可動部が基板に張り付いてしまうことがある。この現象をスティッキングという。スティッキングを防止するためには、可動電極と固定電極が近づき過ぎないように、可動部を揺動させる角度範囲を制御する必要がある。可動部の沈み込みが発生すると、可動部の揺動軸が基板に向かって下降するため、可動部が揺動することができる角度の範囲が小さくなってしまう。可撓梁の剛性を高くして下方に撓み難くすれば、沈み込みは抑制できるが、可撓梁が捩れにくくなる。可撓梁が捩れにくくなると、可動部を揺動させるために必要な駆動電圧が大きくなり、可動部の応答性が損なわれる。
【0027】
光偏向装置10のように、基板下層100が、可動部120の下方に位置する範囲で、可動部120の揺動軸に近い側で高く、遠い側で低く傾斜した状態であり、可動部120の揺動軸の下方に基板下層100の頂点部分が位置していれば、可動部120の沈み込みが発生した場合には、基板下層100の頂点部分が可動部120と接触して、それ以上に可動部120が沈み込むことを抑制することができる。ウェハ層101の頂点部分およびその近傍には、固定電極104a,104bが形成されていないため、可動部120の沈み込みが発生して可動部120が基板下層100に接触する際に、薄い絶縁膜のみを介して固定電極104a,104bに接触することはない。この頂点部分によって可動部120のそれ以上の沈み込みが抑制されるから、可撓梁141a,141bの剛性を低くすることができ、低い駆動電圧で、応答性よく、可動部120を揺動軸の周りに揺動させることができる。
【0028】
(第1の製造方法)
次に、実施例1に係る第1の製造方法について、図3〜図16を用いて説明する。第1の製造方法は、光偏向装置10を半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用して製造する方法である。
【0029】
実施例1に係る第1の製造方法は、エッチング用マスク形成工程、異方性エッチング工程、等方性エッチング工程、犠牲層形成工程、可動部形成工程、犠牲層除去工程をこの順序で含んでいる。ウェハ層101となる材料ウェハを準備し、エッチング用マスク形成工程、異方性エッチング工程、等方性エッチング工程を行うことによって、材料ウェハを図2に示すウェハ層101の形状に形成することができる。すなわち、可動部120の下方に位置する範囲において、可動部220の揺動軸に近い側で高く、遠い側で低く傾斜している傾斜面を有するウェハ層101を形成することができる。犠牲層形成工程では、基板下層100に相当する積層体の傾斜面の上面に、可動部120の下面と同じ高さの犠牲層を形成する。可動部形成工程では、犠牲層の上面に可動部120、可撓梁141a,141bを形成すると同時に、基板下層100の平面部の上面に基板上層110を形成する。犠牲層除去工程では、基板下層100と可動部120との間の犠牲層を除去する。図3〜図16は、光偏向装置10の製造工程の各工程における材料ウェハ、または材料ウェハの上面に絶縁層等を積層した積層体の状態を図2と同じ断面で図示している。
【0030】
(エッチング用マスク形成工程)
図3に示すような材料ウェハ901を準備する。材料ウェハ901の材料には、例えば単結晶シリコンを用いることができる。次に、熱酸化等を行い、材料ウェハ901の上面に酸化膜から成るエッチング用マスクを成膜し、この酸化膜上に塗布したレジストをフォトリソグラフィーによりパターニング処理することによって成膜したエッチング用マスクをフォトエッチング(フォトリソグラフィーからRIE等のエッチングまでの一連の処理を意味する)処理して、図4に示すような、複数のエッチングホールを有する、酸化膜からなるエッチング用マスク902を形成する。
【0031】
エッチング用マスク形成工程では、材料ウェハの上面に複数のエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成する。この複数のエッチングホールは、図2に示す基板下層100の傾斜部を形成する範囲に形成する。基板下層100の平面部にはエッチングホールを形成しない。ウェハ層101の上面の高さを高くする部分では小さいエッチングホールを形成し、ウェハ層101の上面の高さを低くする部分では大きいエッチングホールを形成する。すなわち、図4の左右方向の中央位置側で小さいエッチングホールを形成し、中央位置から左右方向の両端に向かってエッチングホールが徐々に大きくなり、図2の最深部を形成する位置で最大となり、さらに左右方向の両端に進むと再び小さくなっている。図4の左右方向の中央位置は、図2に示す可動部120の左右方向の中央位置と一致しており、可動部120の揺動軸となる可撓梁141a,141bの長手方向軸と一致している。複数のエッチングホールの位置および大きさは、揺動軸に沿う方向では同じであり、揺動軸に垂直な方向において異なっており、揺動軸について対称である。複数のエッチングホールの大きさは、可動部120の下方に位置する範囲において、揺動軸に近い側ほど小さく、遠い側ほど大きい。
【0032】
(異方性エッチング工程)
異方性エッチング工程では、エッチング用マスク902のエッチングホールを通して材料ウェハ901を異方性エッチング処理し、略垂直に掘り下げる。図4に示す積層体に対して、材料ウェハ901を垂直に掘り下げるエッチング処理を行うと、図5に示すように、エッチング用マスク902に形成されたエッチングホールが大きい部分ほど、材料ウェハ901が深く掘り下げられる。これによって、図5の左右方向の中央位置側で浅く、中央位置から左右方向の両端に向かって進むに従って深くなり、さらに左右方向の両端に進むと再び浅くなっている、複数のトレンチを形成することができる。複数のトレンチの深さは、図2に示す可動部120の下方に位置する範囲において、中央位置から左右方向の両端に向かって進むに従って深くなっている。複数のトレンチは、それぞれ揺動軸に沿って(図5の紙面に垂直な方向に沿って)伸びている。複数のトレンチの位置および大きさは、揺動軸に沿う方向では同じであり、揺動軸に垂直な方向において異なっており、揺動軸について対称である。複数のトレンチの深さは、可動部120の下方に位置する範囲において、揺動軸に近い側ほど浅く、遠い側ほど深い。
【0033】
(等方性エッチング工程)
異方性エッチング工程の後に、等方性エッチング工程を行う。等方性エッチング工程では、エッチングホールを通して材料ウェハ901を等方性エッチング処理する。これによって、図5において複数のトレンチを区画していたトレンチの壁部分の材料ウェハ901と、トレンチの壁部分の上面のエッチング用マスク902が除去され、図6のように、傾斜面91を有する材料ウェハ901を形成することができる。
【0034】
(基板下層の形成工程)
ウェハ層901の形状に形成した材料ウェハ901の上面に、さらに、基板下層100を構成する、絶縁層102,103、固定電極104a,104bとなる層を形成する。
【0035】
まず、図7に示すように、熱酸化等を行い、材料ウェハ901の上面全体に酸化膜から成る絶縁層903を形成する。次に、絶縁層903の上面にポリシリコン等を材料とする導電層を成膜し、フォトエッチングを行ってパターニングして、図8に示す導電層904a,904bを形成する。さらに、図9に示すように、熱酸化等を行い、絶縁層903および導電層904a,904bの上面に絶縁層905を形成する。絶縁層903,905は、それぞれ絶縁層102,103となる層であり、導電層904a,904bは固定電極104a,104bとなる層である。以上の工程により、図9に示すような基板下層を構成する層を備えた積層体を形成することができる。
【0036】
(犠牲層形成工程)
犠牲層形成工程では、図9に示す積層体の材料ウェハ901の傾斜面91の上面側に位置する範囲に犠牲層906を形成する。材料ウェハ901の上面には、絶縁層903、導電層904a,904b、絶縁層905がこの順で積層されているため、絶縁層905の上面に接する犠牲層906を形成する。図9に示す積層体の上面にポリシリコン等を材料とする犠牲層を成膜し、その上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)等によって平坦化することによって、図10に示す犠牲層906を形成することができる。犠牲層906は、図6に示す材料ウェハ901の傾斜面の上面側に位置する範囲のみが残存している。犠牲層906の上面は、平面状であり、材料ウェハ901の上面側に積層された絶縁層905の平面部の上面と一致している。
【0037】
(可動部形成工程)
可動部形成工程では、犠牲層906の上面に可動部120、可撓梁141a,141bとなる層を形成すると同時に、基板上層110を構成する絶縁層113,114となる層を形成する。
【0038】
そのために、図10に示す積層体に熱酸化処理を行い、図11に示すように、犠牲層906の上面および絶縁層905の平面部の上面に、絶縁層907を形成する。絶縁層907は、図2に示す絶縁層113,123となる層である。このように、絶縁層113,123は同一の絶縁層として形成される。熱処理によって絶縁層905の平面部の上面に直接成膜されるため、絶縁層907と絶縁層905とはその接触部分において強固に結合される。
【0039】
次に、絶縁層907の上面にポリシリコン等の導電層を形成し、図12に示すように、可動電極125の大きさおよび形状にあわせてパターニングし、導電層908とする。図12に示す積層体に熱酸化処理を行って、絶縁層907、導電層908の上面に図13に示す絶縁層909を形成する。導電層908は可動電極125となる層であり、絶縁層909は、絶縁層114,124となる層である。このように、絶縁層114,124は同一の絶縁層として形成される。さらに、図13に示すように、絶縁層907,909の平面部に、絶縁層907,909を貫通し、導電層904a,904bに達するコンタクトホールを形成する。
【0040】
次に、スパッタリング等の方法を用いて、図13に示す積層体の上面にAl等の金属を材料として金属層を成膜した後、フォトエッチングを行ってパターニングし、金属層910a,910bおよび金属層911を形成する。金属層911はミラー126となる層であり、その形状および大きさにパターニングされている。金属層910a,910bは、それぞれ外部端子131a,131bとなる層であり、その形状および大きさにパターニングされている。金属層910a,910bは、絶縁層907,909のコンタクトホールを貫通して導電層904a,904bと電気的に接続している。尚、金属層910a,910bと、金属層911とは、それぞれ別工程によって形成してもよい。
【0041】
さらに、図15に示すように、絶縁層907,909の一部をエッチングによって除去する。これによって、絶縁層907,909は、図2に示す基板上層110と、可動部120と、可撓梁141a,141bの形状および大きさにパターニングされるとともに、エッチングによって除去された絶縁層907,909の下層に形成されている犠牲層906の上面の一部を露出させる。
【0042】
(犠牲層除去工程)
可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程を行う。犠牲層除去工程では、基板下層100に相当する層と可動部120に相当する層との間の犠牲層906を除去する。図15に示す積層体に対して、XeFガスによる等方性エッチング等を行うと、犠牲層906が露出している部分を通して犠牲層906が除去される。これによって、図16に示すように、可動部120となる層を基板下層100となる部分から離反させることができる。図16に示す光偏向装置は、図2に示す光偏向装置10に相当する。
【0043】
上記の製造方法によれば、エッチング用マスク形成工程において、可動部120の揺動軸に近い側で小さく可動部120の揺動軸から遠い側で大きいエッチングホールが形成されているエッチング用マスク902を材料ウェハ901の上面に形成し、エッチング用マスク902を介して、異方性エッチング処理を行い(異方性エッチング工程)、その後、等方性エッチング処理を行う(等方性エッチング工程)ことによって、材料ウェハ901の上面に、可動部の揺動軸に近い側で高く、揺動軸から遠い側で低く傾斜する傾斜面91を形成することができる。その後、材料ウェハ901の傾斜面91の上面側に、犠牲層工程によって犠牲層906を形成し、可動部形成工程によって可動部120、可撓梁141a,141b、基板上層110となる層(絶縁層907,909および導電層908)およびミラー126となる金属層911を形成することによって、基板下層100、基板上層110、可動部120等を半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用した製造方法によって一体的に形成することができる。従来のように別々に形成した層と基板とを貼り合わせる工程を行うことがないため、貼り付ける際に位置ずれが発生することを防止するとともに、製造工程を簡略化することが可能となる。さらに犠牲層除去工程を行って、可動部120となる層と基板下層100となる層との間(絶縁層905と絶縁層907の間)の犠牲層906を除去することによって、1対の可撓梁141a,141bおよび可動部120が、基板下層100から離反した高さに支持されている光偏向装置10を得ることができる。
【実施例2】
【0044】
(第2の光偏向装置)
実施例2に係る第2の製造方法によって製造する第2の光偏向装置について説明する。図17は、光偏向装置20の平面図であり、図18は図17のXVIII−XVIII線断面図である。図18に示すように、光偏向装置20は、基板下層200と、基板下層200の上面側に積層された基板上層210を備えている。可動部220を利用して、可動部220を基板下層200に対して揺動可能に支持する1対の可撓梁241a,241b(図17参照)が形成されている。基板下層200と基板上層210は、別々に用意して張り合わせたものでなく、半導体プロセスを利用して基板下層200の上に複数層を積層することで、基板上層210が形成されている。可動部220の上面にはミラー226が形成されている。尚、図17では、ミラー226の図示を省略している。
【0045】
可動部220は、可動電極225と、可動電極225の周囲に形成された絶縁層223,224とを含んでいる。絶縁層223は、可動部220の揺動軸に近い側で低く、遠い側で高く傾斜している。絶縁層223の上面全体に形成されている可動電極225は、その下面側が絶縁層223に沿って傾斜しており、上面側は平面状である。可動電極225は、可動部220の揺動軸に近い側で厚く、遠い側で薄くなっている。可動部220の揺動軸の下方は可動部220が最も厚い部分であり、可動部220の下面が最も基板下層200に近い部分(頂点部分)である。可動電極225の傾斜面は、揺動軸に平行であり、図18に示す断面形状が揺動軸に沿って(図18の紙面に垂直な方向に沿って)延びている。可動電極225の上面および側面に絶縁層224が形成されている。可動電極225は、外部端子232に電気的に接続されている。図17に示すように、基板上層210は可動部220の周囲を取り囲む枠状部分を備えており、基板上層210の枠状部分の内側から可撓梁241a,241bが伸びており、可動部220に連結されている。可動部220は、可撓梁241a,241bの両側に延びる部分を有しており、平面視すると、H字形状となっている。H字形状の可動部220の上面のほぼ全面にH字形状のミラー226が設置されている。
【0046】
1対の可撓梁241a,241bは、絶縁層223,224を備えており(図18には図示していない)、基板上層210と可動部220とを接続している。図17に示すように、可撓梁241a,241bは細長く形成されており、その長手方向を軸として捩れ易い。可撓梁241a,241bがその長手方向軸の周りに捩れることによって、可動部220がこの長手方向軸の周りに揺動する。可撓梁241a,241bの長手方向軸が、可動部220の揺動軸となる。
【0047】
基板下層200は、ウェハ層201と、絶縁層202,203と、固定電極204a,204bとを含んでいる。ウェハ層201と、ウェハ層201の上面全体に形成されている絶縁層202と、固定電極204a,204bとは、平面状である。固定電極204a,204bは、絶縁層202の上面の一部に、可動部220の揺動軸に対して対称に形成されている。可動部220の下面の頂点部分およびその近傍には、固定電極204a,204bは形成されていない。固定電極204a,204bは互いに絶縁されており、固定電極204aは外部端子231aと電気的に接続されており、固定電極204bは外部端子231bと電気的に接続されている。固定電極204a,204bおよび絶縁層202の上面に、絶縁層203が形成されている。基板下層200は、その全体が平面状となっている。
【0048】
基板上層210のうち、可動部220と可撓梁241a,241bの外側に位置している部分は、絶縁層213,214と、絶縁層213と絶縁層214との間に形成されている中間層(図18には図示していない)とを備えている。絶縁層213は、外部端子231a、231bが設置されている側から可動部220に向かって、下平面部210d、傾斜部210m、上平面部210uを備えている。下平面部210dおよび上平面部210uは平面状であり、下平面部210dと上平面部210uとの間を接続する傾斜部210mは、可動部220の端部に向かって上昇している。基板上層210の最も高い部分は上平面部210uであり、上平面部210uの上面は、可動部220の上面と高さが一致している。絶縁層213は、可動部220の絶縁層223と同一の絶縁層であり、絶縁層214は、可動部220の絶縁層224と同一の絶縁層である。基板上層210の絶縁層213と、可動部220の絶縁層223は、可撓梁241a,241bの絶縁層223によって連続しており、基板上層210の絶縁層214と、可動部220の絶縁層224は、可撓梁241a,241bの絶縁層224によって連続している。外部端子231a,231bは、絶縁層213,214を貫通している。
【0049】
基板上層210は、基板下層200の平面部分に一体に形成されており、1対の可撓梁241a,241bと、可動部220とは、基板下層200から離反した高さに支持されている。
【0050】
光偏向装置20は、静電駆動式であり、固定電極204aに印加する駆動電圧と固定電極204bに印加する駆動電圧とを制御することによって、可動部220を揺動軸の周りに揺動させる。実施例1と同様に、例えば、可動電極225に接続する外部端子232を接地し、固定電極204a,204bに接続する外部端子231a,231bを駆動信号生成器(図示しない)に接続する。駆動信号生成器を用いて、固定電極204a,204bのいずれか一方に駆動電圧を印加すると、接地されている可動電極225と、固定電極204aまたは固定電極204bとの間に静電引力が発生し、可動部220を揺動軸の周りに揺動させることができる。可撓梁241a,241bは剛性が低く、低い駆動電圧で、可動部220を揺動軸の周りに揺動させることができる。
【0051】
光偏向装置20のように、可動部220が揺動軸に近い側で厚く、遠い側で薄くなっており、可動部220の揺動軸の下方が頂点部分であれば、可動部220の沈み込みが発生した場合には、基板下層200が可動部220の下面の頂点部分と接触して、それ以上に可動部220が沈み込むことを抑制することができる。可動部220の下面の頂点部分およびその近傍の下方となる位置の基板下層200には、固定電極204a,204bが形成されていないため、可動部220の沈み込みが発生して可動部220が基板下層200に接触する際に、薄い絶縁膜のみを介して固定電極204a,204bに接触することはない。この可動部220の下面の頂点部分によって可動部220のそれ以上の沈み込みが抑制されるから、可撓梁241a,241bの剛性を低くすることができ、低い駆動電圧で、応答性よく、可動部220を揺動軸の周りに揺動させることができる。
【0052】
(第2の製造方法)
次に、実施例2に係る第2の製造方法について、図19〜図32を用いて説明する。第2の製造方法は、光偏向装置20を半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用して製造する方法である。
【0053】
実施例2に係る第2の製造方法は、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、異方性エッチング工程、等方性エッチング工程、可動部形成工程、犠牲層除去工程をこの順序で含んでいる。ウェハ層201となる材料ウェハ層を準備して、基板下層に含まれる構成を形成した後で、犠牲層形成工程、エッチング用マスク形成工程、異方性エッチング工程、等方性エッチング工程を行うことによって、可動部220の下面を図18に示すような形状に形成するための鋳型として用いる犠牲層を形成することができる。すなわち、可動部220の下方に位置する範囲において、可動部220の揺動軸に近い側で低く、遠い側で高く傾斜している傾斜面を有する犠牲層を形成することができる。可動部形成工程では、犠牲層の傾斜面の上面に可動部220、を形成すると同時に、可撓梁241a,241b、基板上層210を形成する。犠牲層除去工程では、基板下層200と可動部220との間の犠牲層を除去する。図19〜図32は、光偏向装置20の製造工程の各工程における材料ウェハ、または材料ウェハの上面に絶縁層等を積層した積層体の状態を図18と同じ断面で図示している。
【0054】
(基板下層の形成工程)
第2の製造方法では、最初に基板下層200を構成する各層を形成する。まず、図19に示すような材料ウェハ931を準備する。材料ウェハ931の材料には、例えば単結晶シリコン基板を用いることができる。次に、熱酸化等を行い、材料ウェハ931の上面に酸化膜から成る絶縁層932を形成する。次に、絶縁層932の上面にポリシリコン等を材料とする導電層を成膜し、フォトエッチングを行ってパターニングして、図21に示す導電層933a,933bを形成する。さらに、図22に示すように、熱酸化等を行い、絶縁層932および導電層933a,933bの上面に絶縁層934を形成する。絶縁層932,934は、それぞれ絶縁層202,203となる層であり、導電層933a,933bは固定電極204a,204bとなる層である。以上の工程により、基板下層200を形成することができる。
【0055】
(犠牲層形成工程)
犠牲層形成工程では、図23に示すように、絶縁層934の上面にポリシリコン等を材料とする犠牲層935を形成する。
【0056】
(エッチング用マスク形成工程)
エッチング用マスク形成工程では、犠牲層935の上面に複数のエッチングホールを有するエッチング用マスク936(酸化膜を材料とする)を形成する。この複数のエッチングホールは、図18に示す可動部220の下面を形成する範囲と、基板上層210を傾斜させる範囲に形成する。犠牲層935の上面の高さを高くする部分では小さいエッチングホールを形成し、犠牲層935の上面の高さを低くする部分では大きいエッチングホールを形成する。すなわち、図24の左右方向の中央位置側で大きいエッチングホールを形成し、中央位置から左右方向の両端に向かってエッチングホールが徐々に小さくなり、さらに左右方向の両端に進むと再び大きくなっている。図24の左右方向の中央位置は、図18に示す可動部220の左右方向の中央位置と一致しており、可動部220の揺動軸となる可撓梁241a,241bの長手方向軸と一致している。すなわち、この複数のエッチングホールは、図18に示す可動部220の厚さが厚い部分で大きく、可動部220の厚さが薄い部分で小さくなるように形成される。同様に、この複数のエッチングホールは、図18に示す基板上層210の傾斜部210mの高さが低い部分で大きく、傾斜部210mの高さが高い部分で小さくなるように形成される。複数のエッチングホールの位置および大きさは、揺動軸に沿う方向では同じであり、揺動軸に垂直な方向において異なっており、揺動軸について対称である。複数のエッチングホールの大きさは、可動部220の下方に位置する範囲において、揺動軸に近い側ほど大きく、遠い側ほど小さい。
【0057】
(異方性エッチング工程)
異方性エッチング工程では、エッチング用マスク936のエッチングホールを通して犠牲層935を異方性エッチング処理し、略垂直に掘り下げる。図24に示す積層体に対して、犠牲層935を垂直に掘り下げるエッチング処理を行うと、図25に示すように、エッチング用マスク936に形成されたエッチングホールが大きい部分ほど、犠牲層935が深く掘り下げられる。これによって、図18に示す可動部220の厚さが厚い部分で深く、可動部220の厚さが薄い部分で浅い、複数のトレンチを形成することができる。複数のトレンチは、それぞれ揺動軸に沿って(図25の紙面に垂直な方向に沿って)伸びている。複数のトレンチの位置および大きさは、揺動軸に沿う方向では同じであり、揺動軸に垂直な方向において異なっており、揺動軸について対称である。複数のトレンチの深さは、可動部220の下方に位置する範囲において、揺動軸に近い側ほど深く、遠い側ほど浅い。
【0058】
(等方性エッチング工程)
異方性エッチング工程の後に、等方性エッチング工程を行う。等方性エッチング工程では、エッチングホールを通して犠牲層935を等方性エッチング処理する。これによって、図25において複数のトレンチを区画していたトレンチの壁部分の犠牲層935と、トレンチの壁部分の上面のエッチング用マスク936が除去され、図26のように、略M字形状の傾斜面93を有する犠牲層935を形成することができる。
【0059】
(可動部形成工程)
可動部形成工程では、犠牲層935の傾斜面93の上面に可動部220となる層を形成すると同時に、可撓梁241a,241b、基板上層210となる絶縁層213層を形成する。
【0060】
そのために、図26に示す積層体に熱酸化処理を行い、図27に示すように、犠牲層935の上面および絶縁層934の平面部の上面に、絶縁層937を形成する。絶縁層937は、図18に示す絶縁層213,223となる層である。熱処理によって絶縁層934の平面部の上面に直接成膜されるため、絶縁層937と絶縁層934とはその接触部分において強固に結合される。
【0061】
次に、絶縁層937の上面にポリシリコン等の導電層を成膜し、その上面をCMP等によって平坦化し、さらに、可動電極225の大きさおよび形状にあわせてパターニングすることによって、図28に示すように導電層938を形成する。次に、図28に示す積層体に熱酸化処理を行って、絶縁層937、導電層938の上面に図29に示す絶縁層939を形成する。導電層938は可動電極225となる層であり、絶縁層939は、絶縁層214,224となる層である。さらに、図29に示すように、絶縁層937,939の平面部に、絶縁層937,939を貫通し、導電層933a,933bに達するコンタクトホールを形成する。
【0062】
次に、スパッタリング等の方法を用いて、図29に示す積層体の上面にAl等の金属を材料として金属層を成膜した後、フォトエッチングを行ってパターニングし、金属層940a,940bおよび金属層941を形成する。金属層941はミラー226となる層であり、その形状および大きさにパターニングされている。金属層940a,940bは、それぞれ外部端子231a,231bとなる層であり、その形状および大きさにパターニングされている。金属層940a,940bは、絶縁層937,939のコンタクトホールを貫通して導電層933a,933bと電気的に接続している。尚、金属層940a,940bと、金属層941とは、それぞれ別工程によって形成してもよい。
【0063】
さらに、図31に示すように、絶縁層937,939の一部をエッチングによって除去する。これによって、絶縁層937,939は、図17,図18に示す基板上層210と可動部220と可撓梁241a,241bの形状および大きさにパターニングされるとともに、エッチングによって除去された絶縁層937,939の下層に形成されている犠牲層935の上面の一部を露出させる。
【0064】
(犠牲層除去工程)
可動部形成工程の後に、犠牲層を除去する犠牲層除去工程を行う。犠牲層除去工程では、絶縁層934と絶縁層937との間の犠牲層935を除去する。図31に示す積層体に対して、XeFガスによる等方性エッチング等を行うと、犠牲層935が露出している部分を通して犠牲層935が除去される。これによって、図32に示すように、可動部220に相当する層を基板下層200に相当する層から離反させることができる。図32に示す光偏向装置は、図17,図18に示す光偏向装置20に相当する。
【0065】
上記の製造方法によれば、犠牲層935の上面を、可動部120の揺動軸に近い側で低く、揺動軸から遠い側で高く傾斜した状態とした上で、この犠牲層935の上面側に、可動部形成工程によって可動部120、ミラー126を形成することができる。犠牲層935の上面を鋳型として、可動部120の下面を傾斜した状態にすることができる。また、基板下層200、基板上層210、可動部220等を半導体プロセス(犠牲層プロセスを含む)を利用した製造方法によって一体的に形成することができる。従来のように、別々に形成した層と基板とを貼り合わせる工程を行うことがないため、貼り付ける際に位置ずれが発生することを防止するとともに、製造工程を簡略化することが可能となる。さらに犠牲層除去工程を行って、可動部220となる層と基板下層200となる層との間(絶縁層934と絶縁層937の間)との間の犠牲層935を除去することによって、1対の可撓梁241a,241bおよび可動部220が、基板下層200から離反した高さに支持されている光偏向装置20を得ることができる。
【0066】
(変形例)
基板下層の上面もしくは可動部の下面に形成される傾斜面は、実施例1、実施例2において例示して説明した形態に限られない。例えば、図33〜図35に示すように、傾斜面の一部に突起部分を形成してもよい。図33は、図5と同様に、異方性エッチング工程を行った後の材料ウェハ801を模式的に図示している。この材料ウェハ801はシリコン基板であり、シリコン結晶の(100)面が上面となっている。この材料ウェハ801の上面に、図34に示すように、材料ウェハ801の最も高い面の一部が露出するようにエッチングホールが形成されているエッチング用マスク802を形成し、さらに、シリコン結晶の(111)面に沿ってエッチングする異方性エッチング処理を行えば、図35に示すように、平面に対して約55°の角度で材料ウェハ801の一部をエッチングすることができる。これによって、図35に示すように、材料ウェハ801の傾斜面に突起部分を形成することができる。すなわち、基板下層の上面に突起部分を形成することができる。可動部が大きく傾いても、可動部の下面は突起部分と接触し、可動部の下面と基板下層の上面との接触面積が小さくなるため、可動部の下面と基板下層の上面が面と面で接触して張り付いてしまうことを抑制することができる。図33〜図35に示す方法を実施例2に係る犠牲層935に対して適用すれば、可動部の下面に突起部分を形成することができる。
【0067】
また、基板下層の上面もしくは可動部の下面に形成される傾斜面は、図36に示すような曲面92や、図37に示すような階段面94に形成することもできる。本発明に係る製造方法におけるエッチング用マスク形成工程において、エッチングホールのパターニングを調整することによって、図36、図37に示す曲面92や階段面94を形成することができる。基板下層の上面もしくは可動部の下面が曲面や階段面である場合には、可動部が大きく傾いても、可動部の下面と基板下層との接触面積が小さくなるため、可動部の下面と基板下層の上面が面と面で接触して張り付いてしまうことを抑制することができる。このように、上記の実施例および変形例に係る製造方法では、エッチング用マスクに形成するエッチングホールのパターニングを調整することによって、基板下層の上面や可動部の下面の形状や粗さを調整できる。このため、例えば、可動部の下面が、基板下層の上面の傾斜面に接触した状態で傾くように設計し、この傾斜面の傾きを調整することによって可動部の傾きを調整するようにすることもできる。可動部ひいてはミラーの傾き角は、基板下層の上面の傾斜面の傾きに依存するから、ミラーの傾き角の精度を向上させることができる(可動部の下面が傾斜している場合も同様である)。また、光偏向装置をアレイ化して用いる場合等には、それぞれの光偏向装置の傾き角のばらつきを低減することが可能となる。
【0068】
上記の実施例においては、1対の可撓梁を備えた1軸駆動型の光偏向装置を例示して説明したが、2対の可撓梁を備えており、互いに直交する2軸を揺動軸として可動部を揺動させることが可能な、2軸駆動型の光偏向装置に対しても、本発明に係る第1、第2の製造方法を適用することが可能である。エッチング用マスク形成工程において、エッチングホールのパターニングを調整することによって、2軸駆動型の光偏向装置においても、基板の上面もしくは可動部の下面を傾斜させた構造を容易に形成することができ、また、基板と可動部とを半導体プロセスを利用した製造方法によって一体的に形成することができる。また、上記の実施例においては、ミラーは、可動部と同様にH字形状に形成されているが、これに限定されない。例えば、可動部が、その上面側に傘状のミラー設置部を備えており、このミラー設置部にミラーが設置されてもよい。可動部のH字形状部分の上面側のみならず、可撓梁の上面側にもミラーを設置することができるため、開口率(光偏向装置を平面視したときに、光偏向装置が占有する面積に対して、ミラーの面積が占める割合)を向上させることができる。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0070】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0071】
10,20 光偏向装置
91,93 傾斜面
92 曲面
94 階段面
100,200 基板下層
101,201 ウェハ層
102,103,113,114,123,124,202,203,213,214,223,224 絶縁層
104a,104b,204a,204b 固定電極
110,210 基板上層
120,220 可動部
125,225 可動電極
126,226 ミラー
131a,131b,132,231a,231b,232 外部端子
141a,141b 可撓梁
210d 下平面部
210m 傾斜部
210u 上平面部
801,901,931 材料ウェハ
802,902,936 エッチング用マスク
903,905,907,909,932,934,935,937,939 絶縁層
904a,904b,908,933a,933b,938 導電層
906,935 犠牲層
910a,910b,911,940a,940b,941 金属層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に対して揺動可能に支持されている可動部と、
前記可動部の上面に固定されているミラーと、
前記可動部の下面に対向する位置において前記基板に設けられている固定電極と、
前記可動部に設けられている可動電極とを備えており、
前記可動部の下面に対向する範囲における前記基板の上面が、前記可動部の揺動軸に近い側で高く、前記揺動軸から遠い側で低くなる向きに傾斜している光偏向装置の製造方法であって、
前記基板となる材料ウェハの上面に、前記基板の上面の高さを高くする部分ではエッチングホールが小さく、前記基板の上面の高さを低くする部分ではエッチングホールが大きいという規則に従っている複数のエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成するエッチング用マスク形成工程と、
前記複数のエッチングホールを通して前記材料ウェハを異方性エッチング処理する異方性エッチング工程と、
前記異方性エッチング工程の後に、前記複数のエッチングホールを通して前記材料ウェハを等方性エッチング処理し、前記材料ウェハの上面に傾斜面を形成する等方性エッチング工程と、
前記材料ウェハの傾斜面に、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層の上面に、前記可動部および前記ミラーを形成する可動部形成工程と、
前記可動部形成工程の後に、前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、
を含む光偏向装置の製造方法。
【請求項2】
基板と、
前記基板に対して揺動可能に支持されている可動部と、
前記可動部の上面に固定されているミラーと、
前記可動部の下面に対向する位置において前記基板に設けられている固定電極と、
前記可動部に設けられている可動電極とを備えており、
前記可動部の下面が、前記可動部の揺動軸に近い側で前記可動部が厚く、前記揺動軸から遠い側で前記可動部が薄くなる向きに傾斜している光偏向装置の製造方法であって、
前記基板となる材料ウェハの上面に、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層の上面に、前記可動部を厚くする部分ではエッチングホールが大きく、前記可動部を薄くする部分でエッチングホールが小さいという規則に従っている複数のエッチングホールを有するエッチング用マスクを形成するエッチング用マスク形成工程と、
前記複数のエッチングホールを通して前記犠牲層を異方性エッチング処理する異方性エッチング工程と、
前記異方性エッチング工程の後に、前記複数のエッチングホールを通して前記犠牲層を等方性エッチング処理し、前記犠牲層の上面に傾斜面を形成する等方性エッチング工程と、
前記犠牲層の傾斜面に、前記可動部および前記ミラーを形成する可動部形成工程と、
前記可動部形成工程の後に、前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程と、
を含む光偏向装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2011−203412(P2011−203412A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69519(P2010−69519)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】