説明

光学式表面検査装置

【課題】
光学的な表面を有する基板の検査方法において、特に、原器あるいはマスターから複製される基板の適切な表面検査方法が開発されていないため、高密度化する記録媒体や光学素子の量産化が遅れている。
【解決手段】
原器あるいはマスターとそれから複製される基板とをそれぞれ反射ミラーとするような構成のマイケルソン型干渉計あるいは、マッハツェンダー型干渉計を構築することにより、原器あるいはマスターから反射する位相情報を含む光と、検査対象から反射する光とが干渉し干渉縞を観測する。干渉縞を解析することにより、原器あるいはマスターの表面が有する特定の光学的構造と、検査対象の表面構造との差異を観測することができ、検査対象の表面状態を検知することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス、電子デバイスなどにおいて、マスターとなる基板からレプリカとし複製することで量産するデバイス基板において、光学的反射面を有する基板の表面状態を検査する装置に関するものであり、この装置により、表面の状態が清浄、かつ均一であることを必要とする光学、電子デバイス等の複製された基板の表面の傷や表面の凹凸状態、均一性などの表面状態を数値として提供する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー装置を構成する光学デバイスや、情報を書き込む電子デバイスなど、材料の種類を問わず、表面の状態はそのデバイスの性能を決定付ける有用な検査対象である。これまでに、タングステンランプの光を検査対象表面に照射し、その散乱光を計測することで、表面の傷等を検査する装置などが開発されている。
【0003】
しかし、情報記録密度の増大などに伴い、特に、記録媒体の表面は、単純な平面から複雑な構造を有するようになり、単純な散乱計測ではその表面状態を適切に評価できなくなりつつある。今後、情報記録媒体の変化のように光学素子デバイスにおいても、単純な構造から複雑な構造を有する表面に発展することが予想され、デバイスの表面構造の発展に合わせて、その表面検査方法も新しい計測原理に基づく検査手法が望まれている。
【特許文献1】特開平10−132535
【特許文献2】特開2008−14935
【特許文献3】特開2004−144648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの表面検査方法は、特に光学式検査方法では、被検査対象の表面は理想状態では完全な平面が前提とされて、その平面が、現実的には、研磨作業による研磨傷、あるいは、洗浄作業による洗浄剤の残留、あるいは、研磨剤等の粒隗の付着、など、均一な平面からの差異を光学的に検知することが行われていた。
【0005】
例えば、光学的に計測している表面を拡大することで、数ミクロン程度の粒子を画像で検知する装置や、または、光学的な拡大と計測した画像データーの数学的な処理により拡大することにより、1ミクロン以下の粒子の検知などにより表面の計測が行われている。
【0006】
光学デバイスにおいては、短波長化が進行し、磁気記録デバイスでは高密度記録化が急速に進んでいる。その進歩に並行して、表面検査の分解能もサブミクロンでは不十分となり、さらに分解能を向上させる必要があり、その主な解決手法として、検査用光源の短波長化が行われている。 検査用光源の波長が可視領域から、紫外線領域に置き換わることで、照射する光の波長に依存して検知する粒子のサイズが決まるような計測手法においては、効果的に分解能を向上させる手法となっている。
【0007】
しかし、最近のデバイスの表面は、平面を前提とした均一表面ではなく、複雑ではあるが周期性を持つ立体的な構造を有している。表面を立体的な構造にすることで、表面積を増大させることができ、単位面積当たりの記録密度を増やすことができる。このような複雑ではあるが周期的な構造を有する表面の計測には、従来の単純な散乱計測の手法は適用できない。
【0008】
さらに、短波長化による課題も指摘されている。たとえば、紫外線レーザー加工機において実用化されているように、波長が250nm以下の真空紫外領域の波長を有するレーザーでは、レーザー加工機と同様に、アブレーション効果により表面を加工する可能性もあり、分解能の向上と相反する課題に直面している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、サブミクロンの領域の分解能を実現するために、検査用の光源の波長を短波長化することも可能である。すなわち、短波長化で表面を改質するという可能性はある物の、ビーム径を拡げ対象物の加工閾値より格段に小さいエネルギーで評価するので表満開室には至らないからである。したがって、表面検査用光源の波長は、紫外領域あるいは可視領域あるいは近赤外領域の光を用いることができる。
【0010】
そして、その光が照射された物体からの反射光、および散乱光は、物体の表面の凹凸状態を、反射光および散乱光の位相情報に反映しているものとする。さらに、この位相状態を強調して観測する場合には、光源として単一縦モードの特長を有するレーザーを使用することとする。
この反射光、および散乱光に含まれる位相情報は、光学系をマイケルソン型干渉計あるいは、マッハツェンダー型干渉計にすることにより検出する。マイケルソン型干渉計の一方の腕は検査対象となる量産製品デバイスで反射鏡を構成し、他方の腕には検査対象を製造するときの基準となる表面構造を有する原器あるいはマスターを用いて反射鏡を構成するものとする。マッハツェンダー型干渉計の場合は、ミラー対称となっている45度反射ミラーのそれぞれの位置に、原器あるいはマスターと検査対象が配置される。
【0011】
このような構成のマイケルソン型干渉計あるいは、マッハツェンダー型干渉計を構築することにより、原器あるいはマスターから反射する位相情報を含む光と、検査対象から反射する光が干渉し、その結果、原器あるいはマスターの表面が有する特定の光学的構造と、検査対象の表面が有する光学的構造との差異に起因する干渉縞を観測することができ、検査対象の表面状態を検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の装置およびシステムを用いることにより、分解能向上のために光源を短波長化することが、一方では表面には表面改質を付与するという課題を解決して、紫外光あるいは可視光あるいは近赤外光を適用することができだけでなく、レーザーの位相情報を検知することで、数十ナノメートルの分解能を有する検査機を実現することができ、光学素子の品質の向上や、次世代の高密度情報記録媒体の検査や、高密度半導体向けウエハの検査品質の向上など、電子機器産業への効果は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図を用いて本発明の詳細について説明する。図1に示すように、いわゆるマイケルソン型の干渉計が光学系の基本となる。タングステンランプ等の電球、あるいはレーザーからのビームは、ビームを平行に拡大する光学系を通過させ、さらに、平行にしたビームの波面を均一にする光学系を通過させてから干渉計に導入する。このとき、ビームの直径は、検査対象の計測面より大きくなるようにする。
【0014】
導入されたビームは、ハーフミラーにより2つに分割され、一方のビームは、原器あるいはマスターを反射鏡として配置し、他方のビームは検査対象を反射鏡として配置する。それぞれの反射鏡からのビームは、ふたたびハーフミラーに戻り、重ねあわされ、干渉を含むビームとなり、カメラに干渉像を導く光学系を経て、干渉縞を電気信号に変換するためのカメラに入射する。干渉縞に関しては、図4、図5を用いて後述する。
【0015】
図2にマッハツェンダー型干渉計を光学系として用いた場合の実施例を示す。この例では、光源は図1の場合と同様であり、ビームを平行に拡大する光学系および、波面を均一にする光学系も同様である。また、ビームの直径は、45度に傾けて配置された原器あるいはマスターおよび検査対象の表面全域をカバーするように拡大されている。
【0016】
原器あるいはマスターと検査対象は、図1の場合と同様に反射鏡として機能し、光源から導入されたビームを反射し、ハーフミラー2に導く。ハーフミラー2を通過したビームは、干渉縞を含んだビームとなり、干渉縞をカメラに導くための光学系を経て、電気信号に変換するためのカメラに入射する。干渉縞に関しては、図4、図5を用いて後述する。
【0017】
図3にマイケルソン型干渉計を用いた表面検査装置において、検査の計測分解能を向上させた場合の実施例を示す。光学系の基本は図1の場合と同様にマイケルソン型干渉計である。光源にはレーザーを用いる。光源から発生したビームは、一旦拡大し、次に、ビームを集光する光学系を経て、ハーフミラーに入射する。
【0018】
ビームを集光する光学系では、ビームの焦点位置を原器あるいはマスター、および検査対象のそれぞれの表面位置に至るよう光学系を配置する。このように配置することで、レンズによる集光の基本特性である集光点において波面が平坦となる原理を生かすことができ、波面の乱れによる検査エラーを最小限にすることができる。
【0019】
さらに、集光点からの反射光は広がるビームとなるため、原器あるいはマスターおよび検査対象からの反射ビームで作られる干渉縞は、集光点における表面の微小部分を拡大して観測することになり、測定の分解能を向上させる。
【0020】
図1から図3において、原器あるいはマスターまたは検査対象のいずれかは、基板がビームに対して回転する微動機構、およびビームと反射鏡で構成される干渉計の腕の長さを可変できる微動機構を有する保持装置に配置されているものとする。特に図3における原器あるいはマスターおよび検査対象の保持装置には、集光点が基板の前面を走査できるような走査機構を必要とする。
【0021】
図4、および図5を用いて、上述の実施例で述べた干渉縞の特性を説明する。図4には、原器あるいはマスターから反射した波面、および、検査対象から反射した波面の強度変化を示している。
【0022】
原器あるいはマスターと検査対象が鏡像関係にある場合、それぞれの面は位相が一致しているため、光の位相を180度シフトさせて空間的に重ね合わせると、光の強部分と弱い部分が相殺し空間的に光を観測できない。このような、光を観測できない状態を作る干渉計のそれぞれの腕の長さを計測装置の基準位置とする。
【0023】
他方、図5に示すように、上述のような基準位置に、原器あるいはマスターおよび検査対象を配置しても、検査対象の表面が、原器あるいはマスターの表面と異なる場合は検査対象からの反射光には位相のずれが生じる。このような状態で、それぞれの腕からのビームを重ね合わせると、波面を相殺することが出来ず、空間に光る部分が現れる。
【0024】
図4、図5に示したように、光る干渉縞を観測した場合は、検査対象からの反射光の位相に乱れがあることを示しており、このことは、原器あるいはマスターから正しく複製されなかった検査対象であることを意味する。
【0025】
図6に上述の原理に基づく表面検査の一例を示す。例えば格子状の表面を有する原器あるいはマスターがあり、それから複製された検査対象があり、かつ、検査対象の表面にいくつかの複製ミス(欠陥)がある場合、この検査対象が上述の実施例における反射ミラーとして設置されると、カメラから得られる画像は、図6に示すように、位相のずれに起因した輝点が画像上に現れる。この輝点の数は欠陥の数と相関があり、輝点の数を評価することにより、複製された検査対象の良否判定を実施することが可能となる。
【0026】
上記、実施例は、原器あるいはマスターと検査対象との凹凸形状が鏡像関係にある場合を説明した。これが、鏡像関係に無い場合を次に説明する。
【0027】
原器あるいはマスターの凹凸形状を写し取った検査対象は、原器あるいはマスターとは凹凸の2次元的パターンは鏡像関係になっている。しかし、凹凸は逆転する形になる。これを上記同様、それぞれに設置し、ハーフミラーからの腕の長さを基準位置からずらして設置する。このずらし方は、凸の部分、凹の部分いずれもが、干渉して重ね合わさった結果、同じ輝度を示すようにずらせばよい。このようにすると、欠陥部分だけが、この輝度よりも明るくあるいは暗くなるので、欠陥部分を検出することができる。
【0028】
さらに、原器あるいはマスターと検査対象が、鏡像関係になく、まったく同一形状の場合は、次のように装置に変更を加える。例えば、図1において、ハーフミラーと原器あるいはマスターとの間、あるいは、ハーフミラーと検査対象との間のいずれか一方に、平面度の高いミラーを1枚おき、原器あるいはマスター、または、検査対象を鏡像にして、ハーフミラーに返すようにすれば良い。この方法をもちいることで、あとは(0025)で説明したとおりの測定が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の活用例として、レーザー機器に使用するレーザー反射ミラーの表面、コンパクトディスクなどの表面検査、ハードディスク基板の表面検査、半導体ウエハの表面検査、など高密度化と高精度化を続けている電子デバイス産業における有用な検査装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明によるシステムのマイケルソン型光学系構成例を示す図。
【図2】この発明によるシステムのマッハツェンダー型光学系構成例を示す図。
【図3】この発明によるシステムの高分解能型光学系構成例を示す図。
【図4】位相ずれのない波面の概念図を示す。
【図5】位相ずれを生じている波面の概念図を示す。
【図6】この発明によるシステムの基板と処理画像の関係を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的反射面を有する機能デバイスにおいて、基準面を有する原器あるいはマスターと呼ばれるデバイスを複製することにより量産製品デバイスを得る製造過程において、量産製品デバイスの表面と原器あるいはマスターの表面とをそれぞれ反射ミラーとし、光源と画像検知装置を含む干渉光学系を構成することを特徴とし、その干渉縞から原器あるいはマスターと量産製品デバイスの表面凹凸の差異を抽出することにより、量産製品デバイスの表面検査を迅速に実施することを特徴とする光学式表面検査装置。
【請求項2】
上記光学式表面検査システムにおいて、干渉縞を強調して抽出するために、干渉光学系の光源として、単一縦モードレーザーを利用することを含む請求項1の装置。
【請求項3】
上記光学式表面検査システムにおいて、干渉計としてマイケルソン型の干渉計を利用することを特徴とする請求項1および請求項2の装置。
【請求項4】
上記光学式表面検査システムにおいて、干渉計としてマッハツェンダー型の干渉計を利用することを特徴とする請求項1および請求項2の装置。
【請求項5】
上記光学式表面検査システムにおいて、光源からのビームを広げて平行光にし、量産製品デバイス表面全域および原器あるいはマスターの表面全域にそれぞれビームを照射できるようにした請求項1および請求項2の装置。
【請求項6】
上記光学式表面検査システムにおいて、光源からのビームを原器あるいはマスターの表面および量産製品デバイスの表面に集光点がくるように集光するビームを利用することにより、分解能を向上させることを特徴とする請求項1および請求項2の装置。
【請求項7】
上記光学式表面検査システムにおいて、ハーフミラーと原器あるいはマスターとの間、あるいは、ハーフミラーと量産製品デバイスとの間のいずれか一方に、原器以上の表面平面度をもったミラーを置くことにより、原器あるいはマスターと量産製品デバイスとの間で鏡像関係でなくても検査できるようした請求項1から請求項6の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−66020(P2010−66020A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230095(P2008−230095)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(504049730)株式会社光フィジクス研究所 (20)
【Fターム(参考)】