説明

光学的情報読取装置

【課題】簡単な構成で液体レンズによるフォーカス機能とズーム機能を備えた光学的情報読取装置を提供する。
【解決手段】光学的情報読取装置1は、電圧の印加で境界面の形状が変化する液体レンズ20A,20Bが、境界面の形状を変化させることで焦点距離が変化し得る所定の間隔を開けて配置されると共に、少なくとも1個の光学レンズ27が配置されたレンズモジュール2と、レンズモジュール2を透過した光信号を光電変換するイメージセンサ30と、各液体レンズ20A,20Bの温度を検知するサーミスタ26A,26Bと、コード記号5までの距離を測定する測距部31と、測距部31で測定された距離情報と、サーミスタ26A,26Bで検知された温度情報に基づき、フォーカス制御及びズーム制御を行うASIC40を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体レンズによるフォーカス機能とズーム機能を備えた光学的情報読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商品管理、在庫管理等を目的として1次元のコード情報であるバーコードが良く知られている。また、より情報密度の高いコードとして2次元コードが知られている。2次元コードを読み取る装置として、CMOSイメージセンサやCCDイメージセンサ等の固体撮像素子で2次元コードを撮影し、その画像に様々な処理を施した上で2値化し、デコードする方法が知られている。
【0003】
2次元コードは搭載できる情報量が多いので、価格、商品名、仕入れ先等、管理する側及び販売する側に必要な情報だけでなく、産地、成分、簡単な注意事項、使用法等も情報に埋め込み、顧客に商品を販売する際のサービスとなる情報を提供することもできる。
【0004】
このようなコード情報を読み取る装置に使用されるCMOSイメージセンサは、デジタルカメラ等に搭載されているものと機能的に何ら変わらないことから、普通に物体や風景などを撮影する写真機としての機能を併せ持つことが求められる。例えば、在庫管理等の場合、対象物品と共にその物品が格納されている位置を撮像し、コード情報と共にデータベースに記憶する場合に使用されるものである。
【0005】
また、携帯電話機には、上述したCMOSイメージセンサを使用した小型カメラが搭載さている。携帯電話機のカメラ機能には、通常のデジタルカメラのように、風景や人物を撮像する他に、バーコード/2次元コードスキャナ及びOCR(光学式文字読取装置)を内蔵しているものが大半である。
【0006】
固体撮像素子で撮像を行う装置では、焦点を合わせる構成及び画像の大きさを調整する構成が必要であり、自動的に焦点位置を合わせる構成、いわゆるオートフォーカス機能と、焦点距離を変える構成、いわゆるズーム機能が必要である。オートフォーカス機能とズーム機能は、レンズの位置を機械的に光軸に沿って移動させる方法が知られているが、携帯電話等の小型の装置では、このような機構を搭載するのが困難である。そこで、レンズ自体がオートフォーカス機構とズームを持つような構成のものが求められている。その1つに液体レンズというものが知られている。
【0007】
従来、ズーム機能を液体レンズで実現した技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、風景や人物などを撮影するカメラに液体レンズを適用した技術が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−128084号公報
【特許文献2】特開2008−158247号公報
【特許文献3】特開2006−201639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
固体撮像素子を実装した一般的なカメラでは、画像を連像的に捕捉して、ピントの合った画像に対してのみデコードを施すという技術が提案されているが、画像を捕捉してデコードするまでに時間が掛かってしまい、商品や物品の管理を行うコードスキャナには適用できない。また、コードスキャナでは、デコード可能な所定の大きさで鮮明な画像を取得する必要があり、液体レンズを利用した構成では、温度による補償が必要となる。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、簡単な構成で液体レンズによるフォーカス機能とズーム機能を備えた光学的情報読取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明は、異なる光屈折率を有し、互いに混和すること無く境界面が形成される第1の液体と第2の液体が容器に封止され、第1の液体と第2の液体の境界面の形状を制御する電圧が印加される液体レンズが、境界面の形状を変化させることで焦点距離が変化し得る所定の間隔を開けて2個以上配置されると共に、少なくとも1個の光学レンズが配置されたレンズモジュールと、レンズモジュールを透過した光信号を光電変換する固体撮像素子を有した撮像部と、各液体レンズの温度を検知する温度検知手段と、読取対象物までの距離を測定する距離測定手段と、距離測定手段で測定された読取対象物までの距離情報と、温度検知手段で検知された温度情報に基づき、フォーカス制御及びズーム制御を行う制御手段とを備えた光学的情報読取装置である。
【0012】
本発明の光学的情報読取装置では、各液体レンズにおいて境界面の曲率を変化させると、焦点距離を連続的に変えることができると共に、任意の距離に焦点位置を合わせることができる。そして、読取対象物までの距離情報に基づいて、液体レンズに印加すべき電圧情報が設定され、焦点位置を合わせるフォーカス制御と、デコードに適するような大きさの画像を得るズーム制御が行われる。液体レンズに印加すべき電圧情報は、温度情報により補償され、温度が変動しても、最適なフォーカス制御及びズーム制御が行われる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学的情報読取装置によれば、レンズを可動させることなく、フォーカス制御とズーム制御を行うことができ、簡単な構成でフォーカス機能とズーム機能を実現できる。これにより、小型の装置に組み込むことが可能となる。また、距離情報及び温度情報に基づいてフォーカス制御とズーム制御が行われるので、短時間で鮮明な画像を取得できると共に、温度が変動しても、鮮明な画像を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態の光学的情報読取装置の一例を示す機能ブロック図である。
【図2】本実施の形態のレンズモジュールを構成する液体レンズの一例を示す内部構成図である。
【図3】温度と液体レンズの応答時間の関係を示すグラフである。
【図4】サーミスタで測定された温度と待機時間の関係を示すグラフである。
【図5】コード記号までの距離と画角の関係を示すグラフである。
【図6】本実施の形態のレンズモジュールにおいて各レンズの配置を示す構成図である。
【図7】ズーム時の液体レンズの曲率の変化を示すグラフである。
【図8】液体レンズの間隔と画角の関係を示すグラフである。
【図9】レンズモジュールの具体例を示す構成図である。
【図10】レンズモジュールの具体例を示す構成図である。
【図11】レンズモジュールの具体例を示す構成図である。
【図12】本実施の形態の光学的情報読取装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【図13】液体レンズの動作説明図である。
【図14】液体レンズの動作説明図である。
【図15】液体レンズの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明のレンズモジュールを備えた光学的情報読取装置の実施の形態について説明する。
【0016】
<本実施の形態の光学的情報読取装置の構成例>
図1は、本実施の形態の光学的情報読取装置の一例を示す機能ブロック図、図2は、本実施の形態のレンズモジュールを構成する液体レンズの一例を示す内部構成図である。
【0017】
本実施の形態の光学的情報読取装置1は、レンズモジュール2を有したカメラモジュール3と、デコーダ4を備える。レンズモジュール2は、複数の液体レンズ、本例では2個の液体レンズ20A,20Bを備える。
【0018】
液体レンズ20Aと液体レンズ20Bは、所定の波長の光が透過する透明な材質で入射面21aと出射面21bが形成された例えば円筒形状の容器21に、第1の液体の一例である導電性の高い水溶液22と、第2の液体の一例である絶縁体の油23が封止される。
【0019】
水溶液22と油23は、液体レンズ20A及び液体レンズ20Bの光軸Oに沿った方向に分離して、互いに混和することなく光が透過する境界面24が形成される。液体レンズ20A及び液体レンズ20Bに封止される水溶液22と油23は異なる光屈折率を有し、入射面21aから出射面21bへ透過する光が、水溶液22と油23の境界面24で屈折される。
【0020】
液体レンズ20Aと液体レンズ20Bは、水溶液22と接する電極25aと、絶縁部を介して水溶液22と油23の両方と接する電極25bを備える。電極25a及び電極25bから電気を流し、水溶液22に電圧を印加すると、水溶液22と油23との境界面24の形状を変化させることができる。このような現象をエレクトロウエッティング現象と称す。
【0021】
2個の液体レンズ20Aと液体レンズ20Bを光軸Oに沿って直列に配置し、液体レンズ20A,20Bにおいて、水溶液22と油23との境界面24の曲率R1,R2を変えることで、ズームと称される焦点距離を連続的に変える機能と、フォーカスと称される焦点位置を合わせる機能を実現することができる。
【0022】
レンズモジュール2は、液体レンズ20Aの温度を検知するサーミスタ26Aと、液体レンズ20Bの温度を検知するサーミスタ26Bを備える。サーミスタ26A,26Bは温度検知手段の一例で、サーミスタ26Aは、例えば、液体レンズ20Aの電極と接続される図示しないフレキシブル基板に実装されることで、液体レンズ20Aの周辺の温度を的確に検知できるようにする。また、サーミスタ26Bは、例えば、液体レンズ20Bの電極と接続される図示しないフレキシブル基板に実装されることで、液体レンズ20Bの周辺の温度を的確に検知できるようにする。
【0023】
レンズモジュール2は、少なくとも1つの光学レンズ27を備える。光学レンズ27は、例えば凸レンズで構成され、液体レンズ20Bの後段に配置される。液体レンズ20A及び液体レンズ20Bと光学レンズ27は、光軸を合わせて図示しないレンズハウジングに取り付けられる。なお、光学レンズ27は、所定の波長の光を透過するガラス、プラスチック等で構成される単一の光学レンズであっても良いし、複数の光学レンズを組み合わせたものでも良い。
【0024】
カメラモジュール3は、上述したレンズモジュール2と、撮像部を構成するイメージセンサ30と、測距部31を備える。イメージセンサ30は固体撮像素子の一例で、入力された光信号を光電変換して、電気信号を出力する。イメージセンサ30としては、例えば、CMOSイメージセンサまたはCCDイメージセンサが用いられる。イメージセンサ30は、レンズモジュール2を透過する光が、液体レンズ20A及び液体レンズ20Bと、光学レンズ27の機能で結像する位置に配置される。
【0025】
測距部31は距離測定手段の一例で、例えば、レーザ光の受発光部等を備え、読取対象物であるコード記号5との距離を測定する。なお、カメラモジュール3は、読取対象物のコード記号5を示すガイド光を照射する照明用LED32を備えても良い。この照明用LED32は適宜備えるものであり、装置の形状、使用目的によっては搭載しなくても良い。
【0026】
デコーダ4は信号処理部の一例で、レンズモジュール2で行われるズーム及びフォーカス調整と、イメージセンサ30で行われる撮像と、イメージセンサ30から出力される信号のデコード及びデータ転送等の制御を行う制御手段としてのASIC (Application Specific Integrated Circuit)40を備える。また、デコーダ4は、ASIC40で実行されるプログラム及び各種テーブル等が格納されるRAM41及びROM42を備える。
【0027】
更に、デコーダ4は、信号の入出力部として、レンズモジュール2及びカメラモジュール3と接続されて信号の授受を行うI/O43と、図示しない外部のホストコンピュータ等の情報処理装置と接続されて信号の授受を行うI/O44を備える。
【0028】
光学的情報読取装置1は、撮像対象物であるコード記号5の種類を識別する識別情報を取得するため、設定手段としての操作部45を備えても良い。操作部45は、例えば、図示しないディスプレイとキーボード等により構成され、ディスプレイの表示に従って情報の入力または選択等が行われる。また、操作部45を備えずに、図示しない外部の情報処理装置よりコード記号5の識別情報を取得して、RAM41に格納するようにしても良い。
【0029】
光学的情報読取装置1は、例えば図示しない筐体に上述した構成要素が実装され、使用者が手に持って撮像が可能な構成である。なお、光学的情報読取装置1は、バーコード及び2次元コード等のコード記号5を読み取ることができるスキャナであるが、OCRソフトウエアを搭載すれば、文字を読み取ることも可能である。また、ASIC40は、CPUとFPGA(Field Programmable Gate Array)等のLSIとの組み合わせでもかまわない。
【0030】
次に、光学的情報読取装置1において焦点位置を合わせるフォーカス機能について説明する。光学的情報読取装置1は、任意の距離にあるコード記号5からの反射光がイメージセンサ30に結像したとき、いわゆるフォーカスがあったときに撮像を行う。これは、画像が鮮明に捕捉されなければ、コード記号5の内容をデコードできないためである。
【0031】
光学的情報読取装置1では、撮像するコード記号5との距離を測定し、測定した距離に焦点位置が合うようにレンズモジュール2の液体レンズ20A,20Bを制御する。このため、カメラモジュール3にレーザを利用した測距部31を備えている。レーザによる測距技術は2つの方法が良く知られている。1つはパルシング技術であり、レーザパルスの始動と反射の戻りとの間の遅れ時間を計測して距離を求める。もう1つはパララックス(視差)技術であり、撮像対象物にスポットを形成するためにビームを照射し、撮像対象物上の検出スポット位置を計測する。撮像対象物の距離は、検出スポット位置から決定される。測距方法は、これらの例に限るものではないが、ASIC40では、例えばこれらの何れかの方法で測距を行うようプログラムされている。
【0032】
液体レンズ20A及び液体レンズ20Bにおいて、水溶液22と油23の境界面24の曲率R1,R2は、印加電圧に応じて変化する。液体レンズ20A,20Bの曲率R1,R2が変化すると、液体レンズ20A,20Bが持つ屈折力が変化することから、任意の距離にある読取対象物にフォーカスするために必要な印加電圧が一意に決められる。
【0033】
そこで、読取対象物であるコード記号5までの距離情報Lと、距離情報Lで特定される位置にあるコード記号5にフォーカスするために、各液体レンズ20A,20Bに印加すべき電圧情報V1の関係を計測して距離−電圧テーブルTB1を作成し、ASIC40に格納しておく。これにより、測距部31で測定したコード記号5までの距離に応じた電圧情報V1を取得することが可能となる。
【0034】
一方、液体レンズ20A,20Bは、電圧が印加された後に、印加電圧に応じた曲率R1,R2となって撮像可能となるまでの待機時間が必要である。この撮像待機時間は、液体レンズ20A,20Bの周辺温度によって変動する。
【0035】
図3は、温度と液体レンズの応答時間の関係を示すグラフである。図3では、撮像対象物にフォーカスし得る所定の電圧を液体レンズに印加したときに、液体レンズを透過して得られる画像の鮮明度の変化を、所定の温度毎にグラフ301〜303で示す。例えば、ASIC40でデコードが可能となる画像の鮮明度を閾値Thとしたときに、閾値Thに達するまでの時間を撮像待機時間とすると、一般的に高温である方が撮像待機時間は少なく、グラフ301とグラフ302に示すように、60℃における撮像待機時間は、25℃の撮像待機時間より遥かに短い。
【0036】
そこで、液体レンズ20A,20Bの温度情報Tpと、撮像待機時間情報Tmの関係を測定して温度−待機時間テーブルTB2を作成し、ASIC40に格納しておく。液体レンズ20A,20Bには、それぞれサーミスタ26A,26Bが備えられているので、それぞれの液体レンズ20A,20Bの周辺温度と撮像待機時間を計測しておく。
【0037】
図4は、サーミスタで測定された温度と待機時間の関係を示すグラフである。図4では、サーミスタ26A,26Bで測定された温度に対して、ASIC40でデコードが可能な鮮明度の画像を取り込めるような最小の撮像待機時間を示す。これにより、サーミスタ26Aで測定した液体レンズ20Aの温度と、サーミスタ26Bで測定した液体レンズ20Bの温度に応じた撮像待機時間情報Tmを取得することが可能となる。
【0038】
このように、コード記号5までの距離情報Lと各液体レンズ20A,20Bに印加すべき電圧情報V1との関係を示す距離−電圧テーブルTB1と、各液体レンズ20A,20Bの温度情報Tpと撮像待機時間情報Tmとの関係を示す温度−待機時間テーブルTB2によって、最適なフォーカス調整がされ、コード記号5の鮮明な画像を取り込むことができる。
【0039】
次に、光学的情報読取装置1において、焦点距離を連続的に変化させるズーム機能について説明する。光学的情報読取装置1では、イメージセンサ30に結像したコード記号5の画像をASIC40でデコードするために、イメージセンサ30の分解能等に応じて所定の大きさの画像が必要である。
【0040】
イメージセンサ30に結像する画像の大きさは、光学的情報読取装置1から読取対象物であるコード記号5までの距離と、コード記号5の大きさで決まる。そこで、コード記号5までの距離情報Lと、撮像するコード記号5の大きさ情報Wとから推測される画角ωの関係を計測して距離−画角テーブルTB3を作成し、ASIC40に格納しておく。
【0041】
図5は、コード記号までの距離と画角の関係を示すグラフである。図5では、一般的な1次元コードであるCode39(ピッチ0.254、幅70mm)における距離に対する画角を示す。コード記号5の大きさとコード記号5までの距離が判れば、所望の大きさの画像を取得するために必要な画角を予測することができる。これにより、読取対象物として頻繁に使用されるPDF417コードや2次元コード等の距離−画角テーブルTB3を作っておけば、距離情報から画角を取得することができる。
【0042】
イメージセンサ30に結像される画像を所定の大きさとする画角は、レンズモジュール2の焦点距離で決まり、レンズモジュール2の焦点距離は、液体レンズ20A,20Bの曲率R1,R2の組み合わせにより決まるので、レンズモジュール2の焦点距離と印加電圧の関係が一意に決められる。
【0043】
そこで、レンズモジュール2の画角ωを決める焦点距離情報fdと、各液体レンズ20A,20Bに印加すべき電圧情報V2の関係を計測して焦点距離−電圧テーブルTB4を作成し、ASIC40に格納しておく。なお、ズームを行う場合も、上述した温度−待機時間テーブルTB2が必要である。これにより、距離−画角テーブルTB3と焦点距離−電圧テーブルTB4によって、測距部31で測定したコード記号5までの距離とコード記号の大きさに応じた電圧情報V2を取得することが可能となる。
【0044】
<本実施の形態のレンズモジュールの構成例>
図6は、本実施の形態のレンズモジュールにおいて各レンズの配置を示す構成図である。液体レンズを利用してズーム機能を実現するためには、レンズモジュール2は、上述したように、少なくとも2枚の液体レンズ20A,20Bと、1枚の光学レンズ27を備える。
【0045】
液体レンズ20A及び液体レンズ20Bにおいて、水溶液22と油23の境界面24の曲率R1,R2を変化させると、各レンズの曲率及び配置で決まる主点からの焦点距離fが変化する。なお、図6では、便宜的に光学レンズ27に主点があるものとして図示している。また、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leを変えることでも、焦点距離fが変化する。
【0046】
図6に示す構成では、像側の液体レンズ20Aと像までの距離を100mmとし、イメージセンサ30側の液体レンズ20Bと光学レンズ27までの距離を3mmとする。このような条件で、液体レンズ20Aの曲率R1と、液体レンズ20Bの曲率R2と、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leを変えたときの画角の変化を測定する。なお、光学レンズ27のみの画角(半値)を16°としている。
【0047】
図7は、ズーム時の液体レンズの曲率の変化を示すグラフ、図8は、液体レンズの間隔と画角の関係を示すグラフである。図8の結果から、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離を離すほど、レンズモジュール2のズーム倍率を上げることができることが判る。
【0048】
図9〜図11は、レンズモジュールの具体例を示す構成図である。図9に示す2枚の液体レンズ20A,20Bと1枚の光学レンズ27を備えた構成では、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leを離すほど、ズーム倍率が高くなる。一方、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leを離して行くと、周辺光が液体レンズ間で鏡筒にぶつかってイメージセンサ30に届かなくなり、光量不足やいわゆるケラレが生じる。
【0049】
このため、図9に示す構成では、液体レンズ20A,20Bの中心にアパーチャーを設定すると、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leは、最大で約9.6mmであった。このとき、画角ωは14.329°〜17.843°まで変化させることが可能で、ズーム倍率は1.26倍となった。
【0050】
液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leを10mm以上に離しても、周辺光量が低下しない構成としては、例えば、図10に示すような構成が考えられる。図10では、2枚の液体レンズ20A,20Bと1枚の光学レンズ27を備えた構成で、レンズ群の一番先頭に凹メニスカスレンズ28を追加して光を絞る。
【0051】
これにより、凹メニスカスレンズを備えていない図9の構成と比較して、周辺光量を低下させること無く、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leを離して、ズーム倍率を上げることができる。図10に示す構成では、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bとの間の距離Leは、最大で約17mmであった。このとき、画角ωは13.003°〜17.924°まで変化させることが可能で、ズーム倍率は1.4倍となった。
【0052】
図9及び図10では、2枚の液体レンズ20A,20Bを備える構成としたが、シミュレーションの結果、液体レンズの枚数を2枚以上にすると、ズーム倍率を更に上げられることが判った。そこで、図11では、4枚の液体レンズ20A,20B,20C,20Dを備えると共に、液体レンズ群の前段に凹メニスカスレンズ28を備え、後段に光学レンズ27を備える構成としたものである。図11の構成では、両端の液体レンズ20Aと液体レンズ20Dとの間の距離Leは、最大で約30mmであった。このとき、画角ωは9.8°〜21.95°まで変化させることが可能で、ズーム倍率は2.3倍となった。
【0053】
<本実施の形態の光学的情報読取装置の動作例>
図12は、本実施の形態の光学的情報読取装置の処理の一例を示すフローチャート、図13〜図15は、液体レンズの動作説明図であり、次に、本実施の形態の光学的情報読取装置1で、コード記号5を読み取る動作について説明する。
【0054】
光学的情報読取装置1では、まず、図12のステップS1で、操作部45を操作して、読取対象となるコード記号5の種別を設定する。例えば、ROM42には、予めコード記号5の種別等を特定する識別情報が格納されており、操作部45での操作で読取対象となるコード記号5の識別情報が選択される。
【0055】
光学的情報読取装置1では、ASIC40は、ステップS2で、測距部31の出力からコード記号5までの距離を測定して距離情報Lを取得すると共に、サーミスタ26A,26Bの出力から液体レンズ20A,20Bの温度情報Tpを取得する。
【0056】
ASIC40は、ステップS3で、操作部45で設定されたコード記号5の識別情報と、測距部31で検出したコード記号5までの距離情報Lから、コード記号5までの距離が、ズームが必要な一定値以上であるか否かを判断する。
【0057】
ASIC40は、ステップS3でコード記号5までの距離が一体値以上であると判断すると、ステップS4で、操作部45で設定されたコード記号5の識別情報に応じた距離−画角テーブルTB3を選択する。そして、距離−画角テーブルTB3及び焦点距離−電圧テーブルTB4と、温度−待機時間テーブルTB2を参照して、測距部31で検出したコード記号5までの距離情報Lと、サーミスタ26A,26Bで検出した液体レンズ20A,20Bの温度情報Tpに応じた電圧情報V2及び撮像待機時間情報Tmを取得する。
【0058】
ここで、電圧情報V2は、液体レンズ20A,20B毎に設定されており、コード記号5までの距離が遠い場合は、イメージセンサ30に結像する画像の大きさが大きくなるような電圧が印加される。例えば、図13に示すように、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bの曲率R1,R2が、互いに凹となるような電圧が印加される。
【0059】
なお、以上の例では、コード記号5までの距離が一定値以上である場合に、イメージセンサ30に結像する画像の大きさが大きくなるようなズームを行うこととしたが、コード記号5までの距離が別の一定値以下である場合には、イメージセンサ30に結像する画像の大きさが小さくなるようなズームを行うこととしても良い。コード記号5までの距離が近い場合は、例えば、図14に示すように、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bの曲率R1,R2が、互いに凸となるような電圧が印加される。
【0060】
ASIC40は、上述したステップS3でコード記号5までの距離が一体値より小さいと判断すると、ステップS5で、距離−電圧テーブルTB1と、温度−待機時間テーブルTB2を参照して、測距部31で検出したコード記号5までの距離情報Lと、サーミスタ26A,26Bで検出した液体レンズ20A,20Bの温度情報Tpに応じた電圧情報V1及び撮像待機時間情報Tmを取得する。
【0061】
ここで、電圧情報V1は、液体レンズ20A,20B毎に設定されており、距離情報Lで特定される位置にあるコード記号5の像がイメージセンサ30に結像するような電圧が印加される。例えば。図14に示すように、液体レンズ20Aと液体レンズ20Bの曲率R1,R2が平面となる状態から、距離情報Lに応じた電圧が印加される。
【0062】
ASIC40は、ステップS6で、コード記号5の識別情報及びコード記号5までの距離情報Lに応じたズーム制御と、コード記号5までの距離情報Lに応じたフォーカス制御を行い、かつ、サーミスタ26A,26Bで検出した液体レンズ20A,20Bの温度情報Tpに応じた撮像待機時間が経過した後、イメージセンサ30でコード記号5を撮像する。
【0063】
ASIC40は、ステップS7で、撮像したコード記号5の大きさが、デコードに適切な大きさであるか否か判断する。上述したステップS3,S4の処理で、コード記号5の識別情報及びコード記号5までの距離情報Lに基づき、距離−画角テーブルTB3及び焦点距離−電圧テーブルTB4を参照してズーム制御を行っている。光学的情報読取装置1では、予め読取対象のコード記号5の識別情報が設定されることで、読取対象のコード記号5の想定される大きさは認識できる。このため、通常は、距離−画角テーブルTB3及び焦点距離−電圧テーブルTB4を参照してズーム制御を行うことで、所望の大きさの画像を取得できる。
【0064】
但し、種別が同じコード記号5であっても、大きさが複数種類ある場合があり、距離−画角テーブルTB3及び焦点距離−電圧テーブルTB4では適切な大きさの画像を取得できない場合が考えられる。そこで、ステップS7で、撮像したコード記号5の大きさが、デコードに適切な大きさであるか否か判断する。
【0065】
ステップS7で、撮像したコード記号5の大きさが、デコードに適切な大きさであると判断すると、ステップS8で、撮像した画像データをデコードして、コード記号5の内容を示すデータを出力する。これに対し、ステップS7で、撮像したコード記号5の大きさが、デコードに適切な大きさではないと判断すると、ステップS4に戻り、コード記号5の大きさ情報Wに応じたズーム制御を行い、再度コード記号5の撮像及びデコードを行う。
【0066】
なお、以上の動作例では、予めコード記号5の識別情報を取得することとしたが、コード記号5をイメージセンサ30で撮像し、特徴点を検出してコード記号を識別しても良い。また、コード記号の大きさから識別しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、バーコードリーダや2次元コードリーダ等に利用することができ、小型の装置でオートフォーカス及びズームを実現できる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・光学的情報読取装置、2・・・レンズモジュール、3・・・カメラモジュール、4・・・デコーダ、20A,20B・・・液体レンズ、26A,26B・・・サーミスタ、27・・・光学レンズ、30・・・イメージセンサ、31・・・測距部、40・・・ASIC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる光屈折率を有し、互いに混和すること無く境界面が形成される第1の液体と第2の液体が容器に封止され、前記第1の液体と前記第2の液体の境界面の形状を制御する電圧が印加される液体レンズが、前記境界面の形状を変化させることで焦点距離が変化し得る所定の間隔を開けて2個以上配置されると共に、少なくとも1個の光学レンズが配置されたレンズモジュールと、
前記レンズモジュールを透過した光信号を光電変換する固体撮像素子を有した撮像部と、
前記各液体レンズの温度を検知する温度検知手段と、
読取対象物までの距離を測定する距離測定手段と、
前記距離測定手段で測定された読取対象物までの距離情報と、前記温度検知手段で検知された温度情報に基づき、フォーカス制御及びズーム制御を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする光学的情報読取装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記距離測定手段で測定された読取対象物までの距離情報に基づいて、読取対象物までの距離が、ズームが必要な距離であるか否かを判断し、ズームが必要な距離であると判断すると、前記距離測定手段で測定された読取対象物までの距離情報と、前記温度検知手段で検知された温度情報に基づき、フォーカス制御及びズーム制御を行い、ズームが不必要な距離であると判断すると、前記距離測定手段で測定された読取対象物までの距離情報と、前記温度検知手段で検知された温度情報に基づき、フォーカス制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の光学的情報読取装置。
【請求項3】
読取対象物を識別する識別情報が設定される設定手段を備え、
前記制御手段は、前記設定手段で設定される識別情報に基づいて特定される読取対象物の想定される大きさと、前記距離測定手段で測定された読取対象物までの距離情報に基づきズーム制御を行う
ことを特徴とする請求項1または2記載の光学的情報読取装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記撮像部で撮像した読取対象物の大きさ情報から、ズームが必要な大きさであるか否かを判断し、ズームが必要な大きさであると判断すると、大きさ情報に基づきズーム制御を行う
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の光学的情報読取装置。
【請求項5】
前記レンズモジュールは、前記光学レンズとして、前記各液体レンズの前段に凹メニスカスレンズが配置されると共に、後段に凸レンズが配置される
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の光学的情報読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−286740(P2010−286740A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141659(P2009−141659)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(391062872)株式会社オプトエレクトロニクス (70)
【Fターム(参考)】