説明

内燃機関の制御装置

【課題】予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を適切に実行することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置40は、クランク角センサ50の信号に基づきクランク位置を把握するとともに、同機関の停止時におけるクランク位置を停止クランク位置として記憶して、この予め記憶した停止クランク位置に応じた始動制御を同機関の始動時に実行する。また、内燃機関1が搭載された車両100の傾斜状態、及び同車両100の変速機30のシフト位置を把握するとともに、この把握されたシフト位置と把握された車両100の傾斜状態とに基づき、同機関1の停止中における車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向を判定し、クランク角センサ50の出力信号が検出されるときに、判定した回転方向に応じて停止クランク位置を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を内燃機関の始動時に実行する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費効率及び排気エミッションの向上等を図るべく、内燃機関において所定の自動停止条件が成立したときに同機関を自動停止し、所定の自動始動条件が成立したときに同機関を自動始動させる自動停止始動制御を実行するようにした内燃機関の制御装置が実用化されている。
【0003】
一般に、内燃機関では、同機関のクランク軸の回転を検出するクランク角センサの出力信号に基づきクランク軸の位置(クランク位置)が把握されている。そして、上述した自動停止始動制御を実行する内燃機関の制御装置にあっては、自動始動時における機関始動を早期に完了させるべく、自動停止時におけるクランク位置(停止クランク位置)が記憶されるとともに、この記憶された停止クランク位置に応じた燃料噴射や点火を実行する始動制御、いわゆる早期始動制御を自動始動時に実行する構成が知られている。
【0004】
ここで、停止クランク位置に応じた始動制御を自動始動時に実行する構成にあっては、自動停止中においてクランク軸に不測の回転が生じると、始動時におけるクランク軸の位置が記憶された停止クランク位置と異なるため、内燃機関の始動が良好に完了しなかったり、排気エミッションが悪化したりするおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献1に記載される構成では、内燃機関を搭載した車両が坂道に停車している場合等に、停止時に記憶された停止クランク位置が次の始動時におけるクランク位置と異なる旨判定された場合には、上記停止クランク位置を用いずに、機関始動時においてクランク位置を特定した後に、この特定したクランク位置に基づいて始動を実行するようにしている。
【特許文献1】特開2005−351210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の構成のように、機関始動時においてクランク位置を特定した後に、この特定したクランク位置に基づいて始動を実行する構成にあっては、この始動時においては早期始動制御を実行することができないため、早期に機関始動を完了させる点において、改善すべき余地がある。
【0007】
なお、このような問題は、自動停止始動制御が実行される内燃機関における自動停止中に限られず、停止クランク位置に応じた始動制御が実行される構成であれば、運転者の操作によって内燃機関の停止及び始動操作が行われる場合であっても同様に生じるおそれがある。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を適切に実行することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関のクランク軸の回転に伴い出力されるクランク角センサの信号に基づき同機関のクランク位置を把握するクランク位置把握手段と、前記機関の停止時における前記クランク位置を停止クランク位置として記憶する停止クランク位置記憶手段とを備え、同停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を前記機関の始動時に実行する内燃機関の制御装置において、前記機関が搭載された車両の傾斜状態を把握する傾斜状態把握手段と、前記車両に設けられた変速機の前記機関の停止中におけるシフト位置について、前記クランク軸の回転が同車両の車輪側に伝達されないニュートラル位置と、前記クランク軸の回転が変速されて前記車輪側に伝達される前進変速位置と、前記クランク軸の回転が逆回転にされて前記車輪側に伝達される後進位置のいずれであるかを把握するシフト位置把握手段と、前記シフト位置把握手段により把握された前記シフト位置が前進変速位置又は後進位置であることを条件として、この把握された前記シフト位置と前記傾斜状態把握手段により把握された前記傾斜状態とに基づき、前記機関の停止中における前記車輪の回転に伴う前記クランク軸の回転方向を判定する回転方向判定手段と、前記機関の停止中において前記クランク角センサの出力信号が検出されるときに、前記停止クランク位置記憶手段に記憶されている前記停止クランク位置を前記回転方向判定手段により判定された回転方向に応じて更新する停止クランク位置更新手段とを備えることを要旨とする。
【0010】
ここで、内燃機関の停止中において同機関が搭載される車両の車輪の回転に伴いクランク軸が回転する場合には、クランク軸の回転に伴いクランク角センサから信号が出力されるため、このクランク角センサの出力信号に基づきクランク軸が回転したことを把握することができる。しかしながら、こうしたクランク角センサの出力信号のみに基づいて、クランク軸の回転方向を把握することはできない。
【0011】
この点、上記構成によれば、機関が搭載された車両の傾斜状態を把握する傾斜状態把握手段と、車両に設けられた変速機の機関の停止中におけるシフト位置について、クランク軸の回転が同車両の車輪側に伝達されないニュートラル位置と、クランク軸の回転が変速されて車輪側に伝達される前進変速位置と、クランク軸の回転が逆回転にされて車輪側に伝達される後進位置のいずれであるかを把握するシフト位置把握手段と、把握されたシフト位置が前進変速位置又は後進位置であることを条件として、この把握されたシフト位置と傾斜状態把握手段により把握された傾斜状態とに基づき、機関の停止中における車輪の回転に伴うクランク軸の回転方向を判定する回転方向判定手段とを備えるため、機関停止中におけるクランク軸の回転方向を判定することができる。すなわち、機関停止中において同機関を搭載する車両の車輪の回転に伴うクランク軸の回転方向は、変速機のシフト位置と車輪の回転方向に応じて変化し、この車輪の回転方向は、車両の傾斜状態に応じて変化するため、変速機のシフト位置と車両の傾斜状態とを把握することによって、クランク軸の回転方向を把握することができる。さらに、上記構成によれば、機関の停止中においてクランク角センサの出力信号が検出されるときに、停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置を回転方向判定手段により判定された回転方向に応じて更新する停止クランク位置更新手段を備えるため、機関停止中においてクランク軸が回転した場合には、その回転方向に応じて停止クランク位置を正確に更新することができる。すなわち、上記構成によれば、機関停止中におけるクランク軸の回転方向を判定した上で停止クランク位置を正確に更新することができ、この更新された停止クランク位置に応じた始動制御が実行されるようになる。したがって、こうして予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を適切に実行することができるようになる。
【0012】
具体的には、請求項2に記載されるように、傾斜状態把握手段は、車両が上り坂または下り坂のいずれに位置する状態であるかを傾斜状態として把握し、回転方向判定手段は、傾斜状態把握手段により車両が上り坂に位置する状態である旨把握され且つシフト位置把握手段により把握されたシフト位置が前進変速位置であるとき、並びに傾斜状態把握手段により車両が下り坂に位置する状態である旨把握され且つシフト位置把握手段により把握されたシフト位置が後進位置であるときに車輪の回転に伴うクランク軸の回転方向を逆方向と判定する構成や、請求項3に記載されるように、回転方向判定手段は、傾斜状態把握手段により車両が上り坂に位置する状態である旨把握され且つシフト位置把握手段により把握されたシフト位置が後進位置であるときに車輪の回転に伴うクランク軸の回転方向を正方向と判定する構成を採用することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載される内燃機関の制御装置において、前記車両は、同車両の加速度を検出する加速度検出手段を備え、前記傾斜状態把握手段は、前記加速度検出手段により検出される加速度に基づき前記車両の傾斜状態を把握することを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、車両は、同車両の加速度を検出する加速度検出手段を備え、傾斜状態把握手段は、加速度検出手段により検出される加速度に基づき車両の傾斜状態を把握するため、車輪の回転に伴うクランク軸の回転方向を検出するために専用のセンサを設ける必要がない。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載される内燃機関の制御装置において、前記車両は、道路の傾斜状態のデータが記憶された道路データ記憶手段と、前記車両の位置を検出するGPS衛星からの信号を受信するGPS受信手段と、前記車両の向きを検知する方向検知手段とを有するナビゲーションシステムを備え、前記傾斜状態把握手段は、前記GPS受信手段により受信された信号に対応する前記車両の位置及び前記方向検知手段により把握された前記車両の向きの情報に基づき、前記道路データ記憶手段に記憶された前記データを参照することにより前記車両の傾斜状態を把握することを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、車両は、道路の傾斜状態のデータが記憶された道路データ記憶手段と、車両の位置を検出するGPS衛星からの信号を受信するGPS受信手段と、車両の向きを検知する方向検知手段とを有するナビゲーションシステムを備え、傾斜状態把握手段は、GPS受信手段により受信された信号に対応する車両の位置及び方向検知手段により把握された車両の向きの情報に基づき、道路データ記憶手段に記憶されたデータを参照することにより車両の傾斜状態を把握するため、ナビゲーションシステムに設けられる道路データ記憶手段とGPS受信手段と方向検知手段とを利用することにより、車両の傾斜状態を把握することができる。
【0017】
ここで、請求項6に記載されるように変速機が有段式の手動変速機である場合には、機関停止中において変速機のシフト位置が前進変速位置又は後進位置であるときに車輪が回転すると、内燃機関のクランク軸の回転がトルクコンバータを介して変速機に入力される自動変速機と比較して、この車輪の回転によってクランク軸が容易に回転する。この点、同構成に請求項1〜5のいずれか1項の構成が適用されることにより、機関停止中においてクランク軸が回転した場合には、その回転方向に応じて停止クランク位置を正確に更新することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関は、トルクを発生するスタータモータと、同スタータモータのトルクを伝達する駆動ギヤと、同駆動ギヤと常に噛み合うとともに前記トルクを前記クランク軸に伝達する被駆動ギヤと、前記スタータモータと前記クランク軸との間に設けられて前記駆動ギヤが前記被駆動ギヤに対して正回転方向に相対回転しようとするときにのみ同スタータモータと同クランク軸との間でトルクを伝達するワンウェイクラッチとを備えることを要旨とする。
【0019】
上記構成のように、内燃機関が、トルクを発生するスタータモータと、同スタータモータのトルクを伝達する駆動ギヤと、同駆動ギヤと常に噛み合うとともにトルクをクランク軸に伝達する被駆動ギヤと、スタータモータとクランク軸との間に設けられて駆動ギヤが被駆動ギヤに対して正回転方向に相対回転しようとするときにのみ同スタータモータと同クランク軸との間でトルクを伝達するワンウェイクラッチとを備える場合には、機関停止の際にクランク軸が逆回転することが抑制される。したがって、上記構成によれば、停止クランク位置記憶手段において機関停止時における停止クランク位置をより正確に記憶することができるため、停止クランク位置に応じた始動制御をより適切に実行することができるようになる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関の運転中に所定の自動停止条件が成立したときに前記機関を自動停止し、前記機関の自動停止中に所定の自動始動条件が成立したときに前記機関を自動始動する自動停止始動手段を更に備え、前記自動始動において、前記停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御が実行されることを要旨とする。
【0021】
上記構成のように、機関の運転中に所定の自動停止条件が成立したときに機関を自動停止し、機関の自動停止中に所定の自動始動条件が成立したときに機関を自動始動する自動停止始動手段を更に備える構成では、停止クランク位置に応じた始動制御を自動始動時において適切に実行することにより、早期に機関始動を完了することが望ましい。
【0022】
この点、請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置を同構成に適用することにより、自動始動時において、予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を適切に実行することができ、機関始動を早期に完了することができるようになる。
【0023】
具体的には、請求項9に記載されるように、停止クランク位置に応じた始動制御は、停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置に応じて燃料を噴射する燃料噴射制御および点火する点火制御であるとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる内燃機関の制御装置を具体化した第1の実施形態について図1〜図5を参照して説明する。図1は、本発明が適用された車両100の概略構成図である。この車両100に搭載される内燃機関1は、直列に4つの気筒(#1〜#4)を有するとともに、車両100を走行させる回転力をクランク軸2に出力する。このクランク軸2は、同クランク軸2の端部に固定されたフライホイール3と、運転者によるクラッチペダル(図示略)の操作に応じて同フライホイール3と変速機30との接続を断接するクラッチ20とを介して変速機30に連結されている。また、変速機30の出力軸であるプロペラシャフト31は、ディファレンシャルギヤ32を介して、車輪34が装着されたドライブシャフト33に接続されている。
【0025】
変速機30は、同変速機30のシフト位置が運転者によるシフトレバー35の操作によって切換可能な有段式の手動変速機である。具体的には、クランク軸2の回転が車輪34側に伝達されないニュートラル(N)位置と、クランク軸2の回転が変速されて車輪34側に伝達される前進変速位置(1速〜5速)と、クランク軸2の回転が逆回転にされて車輪34側に伝達される後進位置のいずれかのシフト位置が、運転者によるシフトレバー35の操作によって選択される。
【0026】
そして、車両100を走行させるべく内燃機関1により回転力がクランク軸2に出力されて且つ変速機30のシフト位置が前進変速位置又は後進位置であるときには、フライホイール3と変速機30とがクラッチ20により連結されることにより、このクランク軸2の回転力が、クラッチ20を介して変速機30、プロペラシャフト31、ディファレンシャルギヤ32、ドライブシャフト33を順に経て、最終的に車輪34に伝達される。
【0027】
内燃機関1には、同機関1を始動するための常時噛み合い式始動装置10が設けられている。具体的には、この常時噛み合い式始動装置10は、トルクを発生するスタータモータ11と、同スタータモータのトルクを伝達するピニオンギヤ12と、フライホイール3の外周に設けられてピニオンギヤ12と常に噛み合うとともにトルクをクランク軸2に伝達するリングギヤ13と、スタータモータ11とクランク軸2との間に設けられてピニオンギヤ12がリングギヤ13に対して正回転方向に相対回転しようとするときにのみ同スタータモータ11と同クランク軸2との間でトルクを伝達するワンウェイクラッチ14とを備えて構成されている。そして、内燃機関1の始動時にはスタータモータ11が駆動されて、その回転力がリングギヤ13及びフライホイール3を介してクランク軸2に伝達されることにより、機関1が始動する。なお、ピニオンギヤ12が駆動ギヤに相当するとともに、リングギヤ13が被駆動ギヤに相当する。
【0028】
車両100及び内燃機関1の各部には、同車両100の走行状態、同機関1の運転状態、並びに運転者による操作を検出するための各種センサが設けられている。こうした各種センサとしては、車輪34の近傍に設けられて車両100の速度を検出する車速センサ52、運転者により操作されるシフトレバー35の位置(シフト位置)を検出するシフト位置センサ53、クラッチペダル(図示略)が運転者により踏み込まれていることを検出するクラッチスイッチ54、ブレーキペダル(図示略)が運転者により踏み込まれていることを検出するブレーキスイッチ55、運転者によるアクセルペダル(図示略)の踏込量を検出するアクセルペダル位置センサ56、機関1の始動を開始させるべく運転者により操作されるイグニッションスイッチ57、車両100の加速度を検出するための加速度センサ58等が挙げられる。
【0029】
ここで、クランク軸2の端部には、図2(a)に示すタイミングロータ61が同クランク軸2と一体回転可能に設けられている。このタイミングロータ61は鉄等の磁性体で形成され、その外周には、複数の歯62が所定角度(10°CA)毎に設けられるとともに、その一部には、基準角度を検知するべく2枚の歯62を欠損させた欠歯部63が形成されている。そして、クランク軸2の回転に伴い信号を出力するクランク角センサ50が、このタイミングロータ61の上記歯62と対向できる位置において内燃機関1に取り付けられている。
【0030】
クランク角センサ50は、公知の電磁ピックアップ方式のセンサであって、鉄心と、この鉄心の周囲に設けられたコイルと、このコイルを貫く磁束を発生する磁石(いずれも図示略)とを備えて構成されている。
【0031】
そして、クランク軸2とともにタイミングロータ61が回転すると、同ロータ61の外周に沿って歯62により形成された凹凸とクランク角センサ50の鉄心との対向位置が変化し、これに伴い同センサ50のコイルを通る磁力線の量が変化して電磁誘導作用によりこのコイルに起電力(電圧)が発生する。これにより、タイミングロータ61の回転速度に比例した周波数の交流電圧がクランク角センサ50から出力されるとともに、この出力された電圧が整流されて、図3に示される矩形波のクランク角信号に変換される。
【0032】
さらに、内燃機関1には、カム軸(図示略)の位置を検出するカム角センサ51が取り付けられている。カム軸は上記クランク軸2が一回転する間に1/2回転する。このカム軸の端部には、図2(b)に示すタイミングロータ71が同カム軸と一体回転可能に設けられているとともに、このタイミングロータ71の外周には、1個の歯72が設けられている。そして、カム角センサ51は、上記クランク角センサ50と同様に、公知の電磁ピックアップ方式のセンサであって、このタイミングロータ71の上記歯72と対向できる位置に取り付けられている。
【0033】
そして、カム軸とともにタイミングロータ71が回転すると、同ロータ71の外周に沿って歯72により形成された凹凸とカム角センサ51の鉄心との対向位置が変化し、これに伴い同センサ51のコイルを通る磁力線の量が変化して電磁誘導作用によりこのコイルに起電力(電圧)が発生するとともに、この出力された電圧が整流される。これにより、図3に示されるように、タイミングロータ71が一回転する間(720°CA)に1つの矩形状のカム角信号が出力される。
【0034】
車両100には、同車両100に搭載される内燃機関1を含む各種装置を総括的に制御する電子制御装置40が設けられて、この電子制御装置40に上記各種センサから出力された信号がそれぞれ入力される。電子制御装置40は、図示しない演算ユニット(CPU)の他に、各種制御プログラムや演算マップ及び制御の実行に際して算出されるデータ等を記憶保持するメモリ41等が設けられている。そして、電子制御装置40は、上記各種センサから出力される信号に基づき車両100の走行状態及び機関1の運転状態等を把握して、各種制御を実行する。例えば、電子制御装置40は、把握された機関1の状態に基づき、同機関1に燃料を噴射する燃料噴射制御や、このように供給される燃料と空気との混合気を点火する点火時期制御等を実行する。より詳細には、燃料噴射制御として機関1に噴射する燃料の量や時期を制御するとともに、点火時期制御として混合気を点火する時期を制御する。
【0035】
さらに、電子制御装置40は、クランク角センサ50の出力信号に基づき、クランク軸2の位置、すなわちクランク位置を把握する「クランク位置把握処理」を実行する。この「クランク位置把握処理」がクランク位置把握手段としての処理に相当する。
【0036】
ここで、図3に示されるように、クランク角センサ50によって、欠歯部63に対応したクランク角信号が360°CA毎に一回出力されるために、同クランク角信号を用いてクランク軸2のクランク角(CA)を把握することができる。ただし、内燃機関1の燃焼サイクルは720°CAを周期とするために、この360°CA毎の上記欠歯部63に対応した信号から、気筒(#1〜#4)毎の例えば燃焼行程に対応するピストン上死点等を直接的には把握することはできない。このため、本実施形態では、同図に示されるように、上記カム角センサ51の出力信号に基づくカム角信号により、720°CA毎の周期を把握している。
【0037】
具体的には、カム角センサ51の出力信号に対応付けられて初期値が「0」であるクランクカウンタccrnkが、クランク角信号の出力毎に「1」ずつインクリメントされるとともに、720°CA毎にリセットされる。これにより、同図に示すように気筒(#1〜#4)毎の各行程を把握することができるようになる。すなわち、本実施形態における「クランク位置把握処理」では、こうしたクランク角センサ50の出力信号に加えてカム角センサ51の出力信号を参照することにより、内燃機関1の各気筒(#1〜#4)の燃焼サイクルの行程(吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程)を含めたクランク位置を把握するようにしている。なお、内燃機関1においては、圧縮行程で混合気の点火が実行されて、膨張行程へと移行する。
【0038】
また、電子制御装置40は、内燃機関1の運転中に所定の自動停止条件が成立したときに同機関1を自動停止し、機関1の自動停止中に所定の自動始動条件が成立したときに機関1を自動始動する「自動停止始動処理」を実行する。そして、このように機関1が自動停止されるときには、この停止時におけるクランク位置、すなわち停止クランク位置を把握して記憶するとともに、機関1の自動始動時には、記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御、いわゆる早期始動制御を実行する。具体的には、この早期始動制御として、停止クランク位置に応じて燃料を噴射する燃料噴射制御や、この停止クランク位置に応じて点火する点火制御が実行される。なお、このように電子制御装置40により実行される「自動停止始動処理」が自動停止始動手段としての処理に相当する。
【0039】
以下、図4及び図5を参照して、電子制御装置40によって実行される一連の処理の実行手順について説明する。図4に示されるフローチャートに示される一連の処理は、運転者によるイグニッションスイッチ57のオン操作に基づく内燃機関1の始動後において、電子制御装置40により所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0040】
この一連の処理では、まず、内燃機関1が自動停止中であるか否かが判定される(ステップS101)。そして、自動停止中ではない旨判定された場合には(ステップS101:NO)、自動停止条件が成立したか否かが判定される(ステップS102)。具体的には、車両100の速度が0km/hであること、ブレーキペダルが踏み込まれていること、アクセルペダルが踏み込まれていないことの条件がすべて成立することを上記自動停止条件とし、この自動停止条件が成立しているか否かが判定される。なお、車両100の速度は車速センサ52の出力信号に基づき把握され、運転者によるブレーキペダルの踏み込み状況はブレーキスイッチ55の出力信号に基づき把握され、運転者によるアクセルペダルの踏み込み状況はアクセルペダル位置センサ56の出力信号に基づき把握される。
【0041】
この判定処理を通じて、自動停止条件が成立していない旨判定された場合には(ステップS102:NO)、本処理を一旦終了する。一方、自動停止条件が成立した旨判定された場合には(ステップS102:YES)、機関停止が実行される(ステップS103)。具体的には、内燃機関1への燃料供給を停止するとともに混合気の点火を停止することによって同機関1を停止させる。そして、この機関1の停止時におけるクランク位置、すなわち停止クランク位置が記憶される(ステップS104)。具体的には、上述した電子制御装置40による「クランク位置把握処理」に基づき把握されているクランク位置を、停止クランク位置としてメモリ41において記憶する。このメモリ41が、停止クランク位置記憶手段に相当する。
【0042】
そして、図5に示す「回転方向判定処理」が実行されて(ステップS105)、機関1の停止中における車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向について正回転および逆回転のいずれであるかが判定される。
【0043】
ここで、図5を参照して、このステップS105において実行される「回転方向判定処理」の詳細について説明する。この処理では、まずシフト位置が把握される(ステップS200)。具体的には、シフト位置センサ53の出力信号に基づき、変速機30のシフトレバー35の位置、すなわちシフト位置がニュートラル位置、前進変速位置、後進位置のいずれであるかが把握される。このステップS200の処理がシフト位置把握手段としての処理に相当する。
【0044】
そして、把握されたシフト位置が前進変速位置又は後進位置であるか否かが判定され(ステップS201)、シフト位置が前進変速位置又は後進位置である旨判定された場合には(ステップS201:YES)、機関停止中において車輪34が回転すると、この車輪34の回転が変速機30及びクラッチ20等を介してクランク軸2に伝達されると判断することができる。
【0045】
ここで、こうしたクランク軸2の回転は、変速機30のシフト位置と車両100の傾斜状態とに基づき判定することができる。具体的には、この車両100の傾斜状態として、同車両100の位置する道路が、重力方向と直交する平面に対して所定角α以上の傾斜を有する上り坂または下り坂であるかが把握される。この所定角αは、車両100が上り坂または下り坂に位置すると判断するために適する道路の傾斜角(重力方向と直交する平面に対する傾斜角)として予め設定されている。そして、同車両100が上り坂または下り坂のいずれに位置するかを把握することにより、機関停止中において車両100が移動するときの移動方向を推定することができる。具体的には、車両100が上り坂に停車している場合には、機関停止中における同車両100の移動方向は後進であると推定することができ、同車両100が下り坂に停車している場合には、機関停止中における同車両100の移動方向は前進であると推定することができる。そして、この車両100の移動方向に応じて車輪34の回転方向が変化し、この車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向は、こうした車輪34の回転方向に加えて、変速機30のシフト位置に応じて変化する。
【0046】
そこで、まず、車両100が上り坂停止中であるか否かが判定される(ステップS202)。具体的には、加速度センサ58の出力信号に基づき、車両100の位置する道路が所定角α以上の傾斜を有する上り坂であるか否かが判定される。
【0047】
この判定処理を通じて、車両100が上り坂停止中である旨判定された場合には(ステップS202:YES)、上述したように、機関1の停止中における車両100の移動方向は、後進であると推定することができる。
【0048】
そこで、シフト位置が前進変速位置であるか否かが判定される(ステップS203)。この判定処理は、上記ステップS200において把握されたシフト位置に基づいて判定される。そして、シフト位置が前進変速位置である旨判定された場合には(ステップS203:YES)、クランク軸2の回転方向は逆方向と判定し(ステップS204)、シフト位置が前進変速位置ではない旨、すなわち後進位置である旨判定された場合には(ステップS203:NO)、クランク軸2の回転方向は正方向と判定(ステップS205)する。
【0049】
一方、上記ステップS202において上り坂停止中ではない旨判定された場合には(ステップS202:NO)、車両100が下り坂停止中であるか否かが判定される(ステップS206)。具体的には、上記ステップS202における判定処理と同様に、加速度センサ58の出力信号に基づき、車両100の位置する道路が所定角α以上の傾斜を有する下り坂であるか否かが判定される。
【0050】
この判定処理を通じて、車両100が下り坂停止中である旨判定された場合には(ステップS206:YES)、上述したように、機関1の停止中における車両100が移動方向は、前進であると推定することができる。
【0051】
そこで、シフト位置が前進変速位置であるか否かが判定される(ステップS207)。この判定処理は、上記ステップS200において把握されたシフト位置に基づいて判定される。
【0052】
この判定処理を通じて、シフト位置が前進変速位置である旨判定された場合には(ステップS207:YES)、クランク軸2の回転方向は正方向と判定し(ステップS208)、シフト位置が前進変速位置ではない旨、すなわち後進位置である旨判定された場合には(ステップS207:NO)、クランク軸2の回転方向は逆方向と判定(ステップS209)する。なお、ステップS202及びステップS206における処理が傾斜状態把握手段としての処理に相当する。また、この「回転方向判定処理」のステップS201〜ステップS209において実行される回転方向の判定処理が回転方向判定手段としての処理に相当する。
【0053】
こうして、車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向が判定されると、次に、図4のステップS106において、クランク角信号が入力されたか否かが判定される(ステップS106)。具体的には、予め設定された所定期間においてクランク角センサ50からクランク角信号が入力されるか否かに基づき判定される。そして、クランク角信号が入力された旨判定された場合には(ステップS106:YES)、車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転によって上記タイミングロータ61が回転し、これによってクランク角センサ50からクランク角信号が出力されたと判断することができる。
【0054】
そこで、停止クランク位置をクランク軸2の回転方向に応じて更新するべく、クランク軸2の回転方向は正回転であるか否かが判定される(ステップS107)。具体的には、ステップS105において実行した「回転方向判定処理」によって正回転である旨判定されたか否かによって判定される。
【0055】
この判定処理を通じて、回転方向が正回転である旨判定された場合には(ステップS107:YES)、停止クランク位置を正回転側に更新する(ステップS108)。具体的には、クランクカウンタccrnkをクランク角信号の1回の入力につき「1」インクリメントすることにより、停止クランク位置を正方向側に更新する。
【0056】
一方、回転方向が正回転ではない旨、すなわち逆回転である旨判定された場合には(ステップS107:NO)、停止クランク位置を逆回転側に更新する(ステップS109)。具体的には、クランクカウンタccrnkをクランク角信号の1回の入力につき「1」デクリメントすることにより、停止クランク位置を逆回転側に更新する。なお、ステップS106〜ステップS109の処理が停止クランク位置更新手段としての処理に相当する。
【0057】
このように、クランク軸2の回転方向に応じた方向に停止クランク位置を更新すると、続いて、自動始動条件が成立したか否かが判定される(ステップS110)。具体的には、運転者がブレーキペダルの踏み込み操作を解除したことを上記自動始動条件とし、この自動始動条件が成立したか否かが判定される。この運転者によるブレーキペダルの踏み込み状況は、ブレーキスイッチ55の出力信号に基づき把握される。なお、上記ステップS106においてクランク信号が入力されなった場合(ステップS106:NO)、すなわち予め設定された所定期間においてクランク角センサ50からクランク角信号が入力されなかった場合には、クランク軸2が回転しなかったと判断して、停止クランク位置を更新せず、そのままステップS110に移行して自動始動条件が成立したか否かが判定される。
【0058】
ところで、図5の「回転方向判定処理」のステップS201において否定判定がされた場合には(ステップS201:NO)、変速機30のシフト位置がニュートラル位置であると判断することができる。また、図5の「回転方向判定処理」のステップS206において否定判定がされた場合(ステップS206:NO)には、車両100が上り坂、下り坂のいずれにも位置していないと判断することができる。すなわち、車両100の停止している道路の傾斜角(重力方向と直交する平面に対する傾斜角)が、上記所定角α未満であって、機関1の停止中において車両100が移動するおそれが低いと判断することができる。したがって、これらの場合には、車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向を判定することなく、図4のステップS110に移行して自動始動条件が成立したか否かが判定される。
【0059】
こうした判定処理を通じて、自動始動条件が成立した旨判定された場合には(ステップS110:YES)、停止クランク位置に応じた早期始動制御が開始される(ステップS111)。この停止クランク位置は、自動始動条件が成立したときにメモリ41に記憶されている停止クランク位置であって、具体的には、上記ステップS104において記憶された停止クランク位置、又はクランク角信号が入力されたことに基づき上記ステップS108、ステップS109において更新されてメモリ41において記憶されている停止クランク位置に相当する。また、上述したように、この早期始動制御として、停止クランク位置に応じて燃料を噴射する燃料噴射制御や点火する点火制御が実行される。例えば、停止クランク位置が180°CA〜360°CAの間である場合には、図3に示されるように、自動始動の開始時において気筒#1が圧縮行程にあると判断することができる。そして、始動開始後に最初に圧縮行程を迎える気筒#1、又は次に圧縮行程を迎える気筒#3において混合気の点火が適切に実行されるように早期始動制御を実行することにより、早期に機関始動を完了することができる。
【0060】
なお、上記ステップS110の判定処理において、自動始動条件が成立していない旨判定された場合には(ステップS110:NO)、この一連の処理が一旦終了されて、ステップS101からの処理が再び実行される。この場合には、未だ自動停止中であるためにステップS101において肯定判定がなされ(ステップS101:YES)、ステップS105以降の処理が実行される。こうして、自動始動条件が成立した旨の判定結果(ステップS110:YES)が得られるまで、ステップS105以降の処理が所定周期毎に繰り返し実行され、クランク角信号が入力された旨の判定結果が得られたときには(ステップS106:YES)、クランク軸2の回転方向に応じた回転側に停止クランク位置が繰り返し更新される(ステップS108,ステップS109)。
【0061】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)内燃機関1の停止中において車輪34の回転に伴いクランク軸2が回転する場合には、クランク軸2の回転に伴いクランク角センサ50から信号が出力されるため、このクランク角センサ50の出力信号に基づきクランク軸2が回転したことを把握することができる。しかしながら、こうしたクランク角センサ50の出力信号のみに基づいて、クランク軸の回転方向を把握することはできない。この点、本実施形態によれば、「回転方向判定処理」において、機関1の停止中における車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向を判定するとともに、クランク角信号が入力されたときには、この判定された回転方向に応じて更新する(ステップS108、ステップS109)ため、機関1の停止中においてクランク軸2が回転した場合には、その回転方向に応じて停止クランク位置を正確に更新することができる。すなわち、機関停止中におけるクランク軸2の回転方向を判定した上で停止クランク位置を正確に更新することができ、この更新された停止クランク位置に応じた始動制御が実行されるようになる。したがって、こうして予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を適切に実行することができるようになる。
【0062】
(2)加速度センサ58の出力信号に基づき車両100の傾斜状態が把握されるため、車輪34の回転に伴うクランク軸2の回転方向を検出するために専用のセンサを設ける必要がない。
【0063】
(3)内燃機関1には、トルクを発生するスタータモータ11と、同スタータモータのトルクを伝達するピニオンギヤ12と、フライホイール3の外周に設けられてピニオンギヤ12と常に噛み合うとともにトルクをクランク軸2に伝達するリングギヤ13と、スタータモータ11とクランク軸2との間に設けられてピニオンギヤ12がリングギヤ13に対して正回転方向に相対回転しようとするときにのみ同スタータモータ11と同クランク軸2との間でトルクを伝達するワンウェイクラッチ14とを備える常時噛み合い式始動装置10が設けられているため、機関1の停止の際にクランク軸2が逆回転することが抑制される。したがって、本実施形態によれば、機関1の停止時におけるクランク軸2の位置、すなわち停止クランク位置をより正確にメモリ41に記憶することができるため、停止クランク位置に応じた始動制御をより適切に実行することができるようになる。
【0064】
(4)内燃機関1は、同機関1の運転中に所定の自動停止条件が成立したときに機関1を自動停止し、機関1の自動停止中に所定の自動始動条件が成立したときに機関を自動始動する「自動停止始動処理」を実行するため、自動始動時において早期始動制御を適切に実行することにより、早期に機関始動を完了することがより好ましい。この点、本実施形態によれば、自動停止中におけるクランク軸2の回転に伴って、その回転方向を把握した上で正確にメモリ41に記憶されている停止クランク位置を更新することができる。したがって、予め記憶されている停止クランク位置に応じた早期始動制御を、自動始動時において適切に実行することができ、機関始動を早期に完了することができるようになる。
【0065】
(5)内燃機関1の常時噛み合い式始動装置10は、ピニオンギヤ12がリングギヤ13から離脱することはなく常時噛み合わされているため、始動時にピニオンギヤ12とリングギヤ13が噛み合う従来の始動装置と比較して、「自動停止始動処理」で内燃機関1を自動始動する際に、同機関1の自動始動を早期に実行することができる。
【0066】
(6)変速機30は、有段式の手動変速機であるため、クランク軸2の回転がトルクコンバータを介して変速機に入力される自動変速機と比較して、機関1の停止中において変速機30のシフト位置が前進変速位置又は後進位置であるときに車輪34が回転すると、この車輪34の回転によってクランク軸2が容易に回転する。この点、本実施形態によれば、こうした変速機30を備えた車両100に搭載される内燃機関1の停止中においてクランク軸2が回転した場合には、その回転方向に応じて停止クランク位置を正確に更新することができる。
【0067】
(第2の実施形態)
以下、本発明にかかる内燃機関の制御装置を具体化した第2の実施形態について図6を併せ参照して説明する。本実施形態と上記第1の実施形態では、次の点において異なる。すなわち、上記第1の実施形態では、加速度センサ58の出力信号に基づいて車両100の傾斜状態を把握していたが、本実施形態では、ナビゲーションシステム80を利用することにより車両100の傾斜状態を把握している。なお、上記第1の実施形態と同様の処理については詳細な説明を省略する。
【0068】
図1の一点鎖線に示すように、本実施形態における車両100には、ナビゲーションシステム80が搭載されている。このナビゲーションシステム80は、図6に示すように、本システム80の各種処理を総括するナビECU81と、車両100の位置を検出するGPS衛星からの信号を受信するGPS受信装置82と、車両100の角速度を検出するジャイロセンサ83と、道路の傾斜状態のデータが記憶された道路データ記憶装置84と、目的地等の設定条件についての情報が運転者の操作により入力される入力装置85と、ナビECU81から出力された現在位置や目的地までの経路等の情報が表示される表示装置86等を備えて構成されている。
【0069】
道路データ記憶装置84は、ハードディスクやCD−ROM、DVD−ROM等で構成され、道路網や交差点などの道路地図情報が、緯度及び経度に対応づけて格納されている。また、この道路データ記憶装置84には、道路の傾斜状態、すなわち重力方向と直交する平面に対する傾斜角の情報が記憶されている。
【0070】
ナビECU81は、演算処理を実行するCPU、目的地までの走行経路探索や誘導処理、渋滞回避情報の案内等に関する処理を実現するためのプログラムを記憶するROM、処理データを一時的に記憶するRAM等を有している。このナビECU81には、GPS受信装置82、ジャイロセンサ83、その他の各種センサ90からの出力信号が入力されて、これら出力信号に基づき各種処理が実行される。また、このナビECU81において方向検知手段としての処理が実行されて、ジャイロセンサ83の出力信号に基づき車両100の向きが把握される。なお、上記各種センサ90としては、例えば、車速センサ52及び加速度センサ58等が挙げられる。
【0071】
ところで、本実施形態において図5の「回転方向判定処理」が実行されるときには、車両100の傾斜状態を判定するステップS202及びステップS206において、上記ナビゲーションシステム80を利用することにより同車両100の傾斜状態が把握される。具体的には、GPS受信装置82によって受信された信号に対応する前記車両100の位置、及びジャイロセンサ83の出力信号により把握された同車両100の向きの情報に基づき、道路データ記憶装置84に記憶された道路の傾斜状態のデータを参照することによって車両100の傾斜状態が把握される。すなわち、車両100の位置及び同車両100向きに基づき、車両100が上り坂または下り坂のいずれの道路に位置しているかが把握される。
【0072】
以上説明した第2の実施形態によれば、上記(1)及び(3)〜(6)に示す作用効果に加え、以下に示す作用効果を奏することができる。
(7)車両100は、道路の傾斜状態のデータが記憶された道路データ記憶装置84と、車両100の位置を検出するGPS衛星からの信号を受信するGPS受信装置82と、車両100の向きを検知するジャイロセンサ83とを有するナビゲーションシステム80を備え、GPS受信装置82により受信された信号に対応する車両100の位置及びジャイロセンサ83の出力信号に把握された車両100の向きの情報に基づき、道路データ記憶装置84に記憶されたデータが参照されることにより、車両100の傾斜状態が把握される。したがって、ナビゲーションシステム80に設けられる道路データ記憶装置84とGPS受信装置82とジャイロセンサ83とを利用することにより、車両100の傾斜状態を把握することができる。
【0073】
(その他の実施形態)
なお、この発明にかかる内燃機関の制御装置は、上記各実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、同実施形態を適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0074】
・上記各実施形態において実行される図5の「回転方向判定処理」については、回転方向を判定するための処理手順の一例であって、車両の傾斜状態やシフト位置の判定順序等は適宜変更することができる。
【0075】
・第1の実施形態では、加速度センサ58の出力信号に基づき、第2の実施形態では、ナビゲーションシステム80を利用することにより、車両100の傾斜状態を把握する例を示したが、車両の傾斜状態を把握することのできる態様であれば、他の例を採用してもよい。すなわち、道路の傾斜状態を検知することのできる他のセンサを設けることにより、車両の傾斜状態を把握するようにしてもよい。また、トンネル内に位置する等によってGPS受信装置82の受信状態が悪化するときには他のセンサの出力信号に基づき把握する等、各構成の組合せによって車両の傾斜状態を把握するようにしてもよい。
【0076】
・上記各実施形態では、内燃機関1が直列4気筒型の機関である例を示したが、内燃機関における気筒の数や配置についてはこの例に限られない。この場合であっても、クランク角センサ50及びカム角センサ51の出力信号に基づき燃焼サイクルにおける各気筒の行程を把握することができ、上記(1)〜(7)の作用効果を奏することができる。
【0077】
・内燃機関1は、その気筒内に直接燃料を噴射供給する直噴型の機関であっても、吸気通路に燃料を噴射供給するポート型の機関であってもよい。こうした機関の種類に応じて、予め記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御の実行態様も適宜変更してもよい。
【0078】
・上記各実施形態では、クランク角センサが公知の電磁ピックアップ方式である例を示した。しかし、クランク軸2の回転に伴い信号を出力することのできるセンサであればこの例に限られない。例えば、他の磁気センサとして、ホール素子を用いたセンサや、磁気ベクトルの変化によって抵抗値が変化する磁気抵抗素子(MRE)を用いたセンサ等を用いることができる。この場合であっても、上記(1)〜(7)に示す作用効果を奏することができる。なお、磁気抵抗素子(MRE)を用いたセンサでは、電磁ピックアップ方式のセンサと比較して、クランク軸2が低回転領域であっても、より高い精度で同クランク軸2の回転を検出することができるという利点がある。
【0079】
・さらに、クランク角センサとして、発光ダイオードとフォトトランジスタとを対向させてスリットを切った円盤がその間を回転することによりクランク軸2の回転を検出する光電式センサを採用してもよい。
【0080】
・上記各実施形態では、変速機30が有段式の手動変速機である例を示したが、クランク軸2の回転が車輪34側に伝達されないニュートラル位置と、クランク軸2の回転が車輪34側に伝達される前進変速位置又は後進位置とに、シフト位置を切換可能な変速機であれば、他の方式の変速機を採用してもよい。すなわち、クランク軸の回転が車輪側に伝達される前進変速位置又は後進位置において、車輪側からの回転力がクランク軸へとある程度伝達される変速機であれば、変速比が自動的に変更される有段式の自動変速機(AT)や無段変速機(CVT)を採用してもよい。この場合であっても、上記(1)〜(5),(7)の作用効果を奏することができる。
【0081】
・上記各実施形態では、内燃機関1の始動装置として、常時噛み合い式始動装置10を備える態様を示したが、始動装置についてはこの例に限られず、始動時にピニオンギヤとリングギヤとが噛み合うとともに、スタータによりトルクを発生させる始動装置を採用してもよい。この場合であっても、上記(3)及び(5)を除く作用効果を奏することができる。
【0082】
・上記示した「自動停止始動処理」の実行態様については一例であって、自動停止条件や自動始動条件、自動停止や自動始動の実行方法等については、適宜変更することができる。例えば、運転者によりクラッチペダルが踏み込まれたことを自動始動条件とする態様を採用することもできる。なお、運転者によるクラッチペダルの踏み込み状況は、クラッチスイッチ54の出力信号に基づき把握することができる。
【0083】
・上記各実施形態における「クランク位置把握処理」では、クランク角センサ50の出力信号に基づきクランク軸2の位置(クランク角)を把握するとともに、カム角センサ51の出力信号を考慮することにより、気筒(#1〜#4)毎の各行程を把握することにより、各気筒の燃焼サイクルの行程を含めたクランク位置を把握する例を示したが、カム角センサ51の出力信号に依拠せず気筒毎の各工程を把握することができる場合には、気筒毎の各工程を把握するためにカム角センサ51を使用しなくてもよい。
【0084】
・上記各実施形態では、シフト位置がニュートラル位置であると判断された場合には(ステップS201:NO)、機関停止時において記憶された停止クランク位置に応じた始動制御を実行する例を示したが、この例に限られず、他のルーチン処理によって推定した停止クランク位置に応じた始動制御を実行するようにしてもよい。
【0085】
・上記各実施形態では、内燃機関1において「自動停止始動処理」が実行される例を示したが、こうした「自動停止始動処理」を実行しない内燃機関であっても、本発明は適用可能である。すなわち、内燃機関の停止後(イグニッションスイッチのオフ後)も、機関停止中におけるクランク軸の回転に伴いクランク角信号が入力されたときに停止クランク位置を更新し、イグニッションスイッチのオン操作に伴う内燃機関の初期始動時に、予め記憶されている停止クランク位置に応じて早期始動制御を実行することにより、上記(1)の作用効果を奏することができる。なお、内燃機関の停止後(イグニッションスイッチのオフ後)において予め設定された所定期間が経過するまでは、クランク角センサの出力信号を監視して停止クランク位置を実行するとともに、この所定期間が経過する前に再度運転者によりイグニッションスイッチのオン操作がなされたときには、こうして予め記憶されている停止クランク位置に応じた早期始動制御を実行する一方、所定期間が経過した後に運転者によりイグニッションスイッチのオン操作がなされたときには、通常の燃料噴射制御及び点火制御を実行するようにしても良い。この通常の燃料噴射制御及び点火時期制御とは、内燃機関1の始動開始時にクランク角センサ50及びカム角センサ51の出力信号に基づきクランク軸2の位置を確定してこの確定された位置に基づき各制御を実行するものである。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明にかかる内燃機関の制御装置を具体化した第1の実施形態における車両の概略構成図。
【図2】(a)はクランク軸に設けられたタイミングロータ及びクランク角センサを示す図、(b)はカム軸に設けられたタイミングロータ及びカム角センサを示す図。
【図3】クランク角信号とカム角信号の信号形態と気筒毎の工程とを示すタイミングチャート。
【図4】同実施形態にかかる制御について、その処理手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態における「回転方向判定処理」について、その処理手順を示すフローチャート。
【図6】本発明にかかる内燃機関の制御装置を具体化した第2の実施形態に設けられるナビゲーションシステムの概略構成図。
【符号の説明】
【0087】
100…車両、1…内燃機関、2…クランク軸、3…フライホイール、10…常時噛み合い式始動装置、11…スタータモータ、12…ピニオンギヤ、13…リングギヤ、14…ワンウェイクラッチ、20…クラッチ、30…変速機、31…プロペラシャフト、32…ディファレンシャルギヤ、33…ドライブシャフト、34…車輪、35…シフトレバー、40…電子制御装置、41…メモリ、50…クランク角センサ、51…カム角センサ、52…車速センサ、53…シフト位置センサ、54…クラッチスイッチ、55…ブレーキスイッチ、56…アクセルペダル位置センサ、57…イグニッションスイッチ、58…加速度センサ(加速度検出手段)、61…タイミングロータ、62…歯、63…欠歯部、71…タイミングロータ、72…歯、80…ナビゲーションシステム、81…ナビECU、82…GPS受信装置(GPS受信手段)、83…ジャイロセンサ、84…道路データ記憶装置(道路データ記憶手段)、85…入力装置、86…表示装置、90…各種センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の回転に伴い出力されるクランク角センサの信号に基づき同機関のクランク位置を把握するクランク位置把握手段と、前記機関の停止時における前記クランク位置を停止クランク位置として記憶する停止クランク位置記憶手段とを備え、同停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御を前記機関の始動時に実行する内燃機関の制御装置において、
前記機関が搭載された車両の傾斜状態を把握する傾斜状態把握手段と、
前記車両に設けられた変速機の前記機関の停止中におけるシフト位置について、前記クランク軸の回転が同車両の車輪側に伝達されないニュートラル位置と、前記クランク軸の回転が変速されて前記車輪側に伝達される前進変速位置と、前記クランク軸の回転が逆回転にされて前記車輪側に伝達される後進位置のいずれであるかを把握するシフト位置把握手段と、
前記シフト位置把握手段により把握された前記シフト位置が前進変速位置又は後進位置であることを条件として、この把握された前記シフト位置と前記傾斜状態把握手段により把握された前記傾斜状態とに基づき、前記機関の停止中における前記車輪の回転に伴う前記クランク軸の回転方向を判定する回転方向判定手段と、
前記機関の停止中において前記クランク角センサの出力信号が検出されるときに、前記停止クランク位置記憶手段に記憶されている前記停止クランク位置を前記回転方向判定手段により判定された回転方向に応じて更新する停止クランク位置更新手段とを備える
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載される内燃機関の制御装置において、
前記傾斜状態把握手段は、前記車両が上り坂または下り坂のいずれに位置する状態であるかを前記傾斜状態として把握し、
前記回転方向判定手段は、前記傾斜状態把握手段により前記車両が上り坂に位置する状態である旨把握され且つ前記シフト位置把握手段により把握された前記シフト位置が前進変速位置であるとき、並びに前記傾斜状態把握手段により前記車両が下り坂に位置する状態である旨把握され且つ前記シフト位置把握手段により把握された前記シフト位置が後進位置であるときに前記車輪の回転に伴う前記クランク軸の回転方向を逆方向と判定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される内燃機関の制御装置において、
前記傾斜状態把握手段は、前記車両が上り坂または下り坂のいずれに位置する状態であるかを前記傾斜状態として把握し、
前記回転方向判定手段は、前記傾斜状態把握手段により前記車両が上り坂に位置する状態である旨把握され且つ前記シフト位置把握手段により把握された前記シフト位置が後進位置であるときに前記車輪の回転に伴う前記クランク軸の回転方向を正方向と判定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載される内燃機関の制御装置において、
前記車両は、同車両の加速度を検出する加速度検出手段を備え、
前記傾斜状態把握手段は、前記加速度検出手段により検出される加速度に基づき前記車両の傾斜状態を把握する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載される内燃機関の制御装置において、
前記車両は、道路の傾斜状態のデータが記憶された道路データ記憶手段と、前記車両の位置を検出するGPS衛星からの信号を受信するGPS受信手段と、前記車両の向きを検知する方向検知手段とを有するナビゲーションシステムを備え、
前記傾斜状態把握手段は、前記GPS受信手段により受信された信号に対応する前記車両の位置及び前記方向検知手段により把握された前記車両の向きの情報に基づき、前記道路データ記憶手段に記憶された前記データを参照することにより前記車両の傾斜状態を把握する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記変速機は、有段式の手動変速機である
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記機関は、トルクを発生するスタータモータと、同スタータモータのトルクを伝達する駆動ギヤと、同駆動ギヤと常に噛み合うとともに前記トルクを前記クランク軸に伝達する被駆動ギヤと、前記スタータモータと前記クランク軸との間に設けられて前記駆動ギヤが前記被駆動ギヤに対して正回転方向に相対回転しようとするときにのみ同スタータモータと同クランク軸との間でトルクを伝達するワンウェイクラッチとを備える
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記機関の運転中に所定の自動停止条件が成立したときに前記機関を自動停止し、前記機関の自動停止中に所定の自動始動条件が成立したときに前記機関を自動始動する自動停止始動手段を更に備え、
前記自動始動において、前記停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置に応じた始動制御が実行される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記停止クランク位置に応じた始動制御は、停止クランク位置記憶手段に記憶されている停止クランク位置に応じて燃料を噴射する燃料噴射制御および点火する点火制御である
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−14096(P2010−14096A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177195(P2008−177195)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】