内燃機関の制御装置
【課題】エンジンの点火タイミングよりも前に混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出して早期に抑制できるようにする。
【解決手段】自着火燃焼の発生時には正常燃焼時よりも筒内温度が高くなることに着目して、所定の筒内温度推定期間中にイオン電流検出回路22から出力されるイオン電流信号に基づいて筒内温度を推定し、その筒内温度推定値が所定の判定値を越えたか否かによって、初期段階の自着火燃焼(燃焼エネルギが比較的小さい自着火燃焼)が発生しているか否かを判定する。そして、初期段階の自着火燃焼が発生していると判定されたときに、その自着火燃焼を抑制するようにエンジン11を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する。この自着火燃焼抑制制御では、例えば、吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正することで、混合気の実圧縮比を低下させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させる。
【解決手段】自着火燃焼の発生時には正常燃焼時よりも筒内温度が高くなることに着目して、所定の筒内温度推定期間中にイオン電流検出回路22から出力されるイオン電流信号に基づいて筒内温度を推定し、その筒内温度推定値が所定の判定値を越えたか否かによって、初期段階の自着火燃焼(燃焼エネルギが比較的小さい自着火燃焼)が発生しているか否かを判定する。そして、初期段階の自着火燃焼が発生していると判定されたときに、その自着火燃焼を抑制するようにエンジン11を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する。この自着火燃焼抑制制御では、例えば、吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正することで、混合気の実圧縮比を低下させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグの火花放電により点火して混合気を燃焼させる火花点火式の内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
火花点火式の内燃機関においては、近年、燃費向上等を目的として高圧縮比となるように設計されたものがあるが、このような高圧縮比の内燃機関は、点火プラグによる点火よりも早いタイミングで筒内の混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼の発生が懸念される。この懸念に対して、特許文献1に記載されているように、筒内圧の最大値(ピーク値)が設定値(点火燃焼時の最大筒内圧)よりも大きいか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定し、自着火燃焼が発生していると判定された場合に、燃料噴射を禁止するなどの制御により自着火燃焼を抑制するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−8235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高圧縮比の内燃機関では、点火プラグの点火タイミングよりも前に筒内温度(燃焼室内の温度)が自着火可能な温度領域まで上昇することによって、点火プラグの点火タイミングよりも前に筒内の混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生すると考えられる。また、本発明者らの実験結果によれば、自着火燃焼は、自着火が発生しない正常燃焼(点火プラグの点火による燃焼)よりも燃焼温度が高いため、自着火燃焼が発生すると、筒内温度が更に上昇する。このため、図2に示すように、自着火燃焼が一旦発生すると、それ以降、前回よりも燃焼エネルギが大きい自着火燃焼が発生して前回よりも更に燃焼温度が高くなって筒内温度が上昇することが繰り返されて、より燃焼エネルギが大きい自着火燃焼へと成長していくことが判明した。成長が進んだ自着火燃焼(燃焼エネルギが比較的大きい自着火燃焼)が発生すると、内燃機関に過度の負担が掛かり、内燃機関の故障を招くおそれがあるため、自着火燃焼が発生した場合には、その自着火燃焼をできるだけ早期に検出して抑制する必要がある。
【0005】
しかし、上記特許文献1の技術では、自着火燃焼の原因である筒内温度の上昇を全く考慮しておらず、単に筒内圧の最大値が設定値(点火燃焼時の最大筒内圧)よりも大きいか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定するだけであるため、自着火燃焼が発生しているか否かを精度良く判定することができず、自着火燃焼を早期に検出することが困難である。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出することができて、自着火燃焼を早期に抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、点火プラグの火花放電により点火して混合気を燃焼させる火花点火式の内燃機関の制御装置において、内燃機関の全ての気筒又は少なくとも1つの気筒の筒内温度を検出又は推定する筒内温度取得手段と、この筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度に基づいて、混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生しているか否かを判定する自着火燃焼判定手段と、この自着火燃焼判定手段により自着火燃焼が発生していると判定されたときに該自着火燃焼を抑制するように内燃機関を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する自着火燃焼抑制手段とを備えた構成としたものである。
【0008】
この構成では、検出又は推定した筒内温度に基づいて自着火燃焼が発生しているか否かを判定するため、自着火燃焼の原因である筒内温度の上昇を評価して、自着火燃焼が発生しているか否かを精度良く判定することができ、自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出することができる。更に、自着火燃焼が発生していると判定されたときに該自着火燃焼を抑制するように内燃機関を制御する自着火燃焼抑制制御を実行するため、自着火燃焼を早期に抑制することができる。
【0009】
この場合、請求項2のように、筒内の燃焼状態に応じて変化するイオン電流を検出するイオン電流検出手段を備え、このイオン電流検出手段で検出したイオン電流に基づいて筒内温度を推定するようにしても良い。燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じてイオン電流が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、イオン電流と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、自着火燃焼が発生する領域では、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほどイオン電流が大きくなるという関係がある)。従って、イオン電流を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0010】
或は、請求項3のように、筒内の燃焼状態に応じて変化する筒内圧力を検出する筒内圧力検出手段を備え、この筒内圧力検出手段で検出した筒内圧力に基づいて筒内温度を推定するようにしても良い。燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じて筒内圧力が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、筒内圧力と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほど筒内圧力が大きくなるという関係がある)。従って、筒内圧力を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0011】
更に、請求項4のように、筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度が所定の判定値を越えたか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定するようにしても良い。このようにすれば、検出又は推定した筒内温度を判定値と比較するという簡単な方法で自着火燃焼が発生しているか否かを判定することができる。ここで、判定値は、予め設定した固定値としても良いが、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度や吸入空気量等)に応じて変化させるようにしても良い。
【0012】
また、請求項5のように、自着火燃焼抑制制御として、燃料噴射量を増量する制御、吸気バルブの閉弁時期を遅角する制御、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角する制御、排出ガス還流量を増量する制御、燃料噴射を停止する制御のうちの少なくとも1つを実行するようにしても良い。
【0013】
この場合、燃料噴射量を増量すれば、燃料の気化熱を増加させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、吸気バルブの閉弁時期を遅角すれば、混合気の実圧縮比を低下させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角すれば、混合気の燃焼を緩慢にして燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、排出ガス還流量を増量すれば、還流された排出ガスで燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、燃料噴射を停止すれば、自着火燃焼を速やかに停止させることができ、更に、筒内温度を低下させて、燃料噴射再開後の自着火燃焼を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は自着火燃焼の成長を説明する図である。
【図3】図3は自着火燃焼判定を説明するタイムチャートである。
【図4】図4はイオン電流と燃焼温度(筒内温度)との関係を説明する図である。
【図5】図5は基本処理ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図6】図6は筒内温度推定ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図7】図7は自着火燃焼判定ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図8】図8は自着火燃焼抑制ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図9】図9は実施例1の自着火燃焼判定及び自着火燃焼抑制制御の実行例を説明するタイムチャートである。
【図10】図10は実施例2のエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図11】図11は筒内圧力と燃焼温度(筒内温度)との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図1乃至図9に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ(図示せず)が設けられ、このエアクリーナの下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ13が設けられている。このエアフローメータ13の下流側には、DCモータ等のスロットルアクチュエータ14によって開度調節されるスロットルバルブ15が設けられ、このスロットルバルブ15の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ(図示せず)がスロットルアクチュエータ14に内蔵されている。
【0017】
更に、スロットルバルブ15の下流側には、サージタンク16が設けられ、このサージタンク16には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド17が設けられている。各気筒の吸気マニホールド17の吸気ポート近傍に、それぞれ吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁18が取り付けられている。更に、エンジン11の各気筒には、それぞれ筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0018】
エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ20が取り付けられている。点火プラグ20には、点火装置21で発生した高電圧が印加されて火花放電が発生し、各気筒の点火プラグ20の火花放電により点火して混合気を燃焼させるようになっている。更に、点火装置21の内部又は外部(若しくは内部と外部の両方)には、筒内で混合気が燃焼する際に発生するイオンによって点火プラグ20の電極間に流れるイオン電流を検出するイオン電流検出回路22(イオン電流検出手段)が設けられている。このイオン電流検出回路22は、イオン電流に応じた電圧のイオン電流信号を出力するようになっている。尚、イオン電流検出回路22は、全ての気筒のイオン電流を検出するようにしても良いし、特定の1つの気筒又は2つ以上の気筒のイオン電流を検出するようにしても良い。
【0019】
エンジン11の吸気ポートと排気ポートには、それぞれ吸気バルブ23と排気バルブ24が設けられている。また、エンジン11には、吸気バルブ23のバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる可変バルブタイミング装置25が設けられている。この可変バルブタイミング装置25は、油圧アクチュエータ26によってクランク軸27に対するカム軸28の回転位相を変化させることで、カム軸28によって開閉駆動される吸気バルブ23の開閉タイミングを変化させるようになっている。
【0020】
エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ29が取り付けられている。また、クランク軸27の外周側には、クランク軸27が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ30が取り付けられ、このクランク角センサ30の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0021】
これら各種センサの出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)31に入力される。このECU31は、マイクロコンピュータ32を主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御すると共に、吸気バルブタイミング(吸気バルブ23の開閉タイミング)の実進角量が目標進角量に一致するように可変バルブタイミング装置25を制御する。
【0022】
ところで、エンジン11は、高圧縮比となるように設計されており、このような高圧縮比のエンジン11では、点火プラグ20の点火タイミングよりも前に筒内温度(燃焼室内の温度)が自着火可能な温度領域まで上昇することによって、点火プラグ20の点火タイミングよりも前に筒内の混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生すると考えられる。また、本発明者らの実験結果によれば、自着火燃焼は、自着火が発生しない正常燃焼(点火プラグ20の点火による燃焼)よりも燃焼温度が高いため、自着火燃焼が発生すると、筒内温度が更に上昇する。このため、図2に示すように、自着火燃焼が一旦発生すると、それ以降、前回よりも燃焼エネルギが大きい自着火燃焼が発生して前回よりも更に燃焼温度が高くなって筒内温度が上昇することが繰り返されて、より燃焼エネルギが大きい自着火燃焼へと成長していくことが判明した。成長が進んだ自着火燃焼(燃焼エネルギが比較的大きい自着火燃焼)が発生すると、エンジン11に過度の負担が掛かり、エンジン11の故障を招くおそれがあるため、自着火燃焼が発生した場合には、その自着火燃焼をできるだけ早期に検出して抑制する必要がある。
【0023】
そこで、本実施例1では、自着火燃焼の発生時には正常燃焼時よりも筒内温度が高くなることに着目して、ECU31により後述する図5乃至図8の各ルーチンを実行することで、図3のタイムチャートに示すように、所定の筒内温度推定期間中にイオン電流信号IONCYに基づいて筒内温度THCYを推定し、その筒内温度推定値THCYが所定の自着火燃焼判定値TH1を越えたか否かによって初期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL2〜L3で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定する。そして、初期段階の自着火燃焼が発生していると判定されたときに、その自着火燃焼を抑制するようにエンジン11を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0024】
本実施例1では、イオン電流に基づいて筒内温度を推定しているが、燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じてイオン電流が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、図4に示すように、イオン電流と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、自着火燃焼が発生する領域では、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほどイオン電流が大きくなるという関係がある)。従って、イオン電流を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0025】
また、本実施例1では、自着火燃焼抑制制御として、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミング(吸気バルブ23の開閉タイミング)を遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する制御を実行する。吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正すれば、混合気の実圧縮比を低下させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。
以下、ECU31が実行する図5乃至図8の各ルーチンの処理内容を説明する。
【0026】
[基本処理ルーチン]
図5に示す基本処理ルーチンは、ECU31の電源オン中に実行される。本ルーチンが起動されると、ステップ101で、プログラムの初期化処理を行った後、ステップ102〜104の処理を所定周期で繰り返し実行する。
【0027】
まず、ステップ102で、後述する図6の筒内温度推定ルーチンを実行することで、所定の筒内温度推定期間中にイオン電流信号IONCYに基づいて筒内温度推定値THCYを算出した後、ステップ103に進み、後述する図7の自着火燃焼判定ルーチンを実行することで、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1を越えたか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定する。
【0028】
この後、ステップ104に進み、後述する図8の自着火燃焼抑制ルーチンを実行することで、自着火燃焼が発生していると判定されたときに、自着火燃焼抑制制御を実行する。この自着火燃焼抑制制御では、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する。
【0029】
[筒内温度推定ルーチン]
図6に示す筒内温度推定ルーチンは、前記図5の基本処理ルーチンのステップ102で実行されるサブルーチンであり、クランク角センサ30の信号出力毎(例えば6℃A毎)に実行され、特許請求の範囲でいう筒内温度取得手段としての役割を果たす。
【0030】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、筒内温度推定期間中であるか否かを判定する。ここで、筒内温度推定期間(図3参照)は、例えば、圧縮TDC(圧縮上死点)から所定クランク角度区間の範囲に設定されている。
【0031】
このステップ201で、筒内温度推定期間中ではないと判定された場合には、ステップ202以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0032】
一方、上記ステップ201で、筒内温度推定期間中であると判定された場合には、ステップ202に進み、クランク角センサ30の検出信号に基づいて算出したエンジン回転速度Neと、エアフロメータ13の検出信号に基づいて算出した吸入空気量Gaを読み込んだ後、ステップ203に進み、冷却水温センサ29の検出信号に基づいて算出した冷却水温THWを読み込む。
【0033】
この後、ステップ204に進み、冷却水温THWが所定水温αよりも高いか否かを判定する。このステップ204で、冷却水温THWが所定水温α以下であると判定された場合には、エンジン11の暖機状態が不十分であるため、燃焼も緩慢であり、自着火燃焼が発生する可能性は極めて低いと考えられる。従って、冷却水温THWが所定水温α以下の低温領域にあるときには、自着火燃焼を検出するための筒内温度推定を行う必要がないと判断して、ステップ205以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0034】
一方、上記ステップ204で、冷却水温THWが所定温度αよりも高いと判定された場合には、ステップ205以降の処理を次のようにして実行する。まず、ステップ205で、イオン電流から筒内温度を算出するための相関係数KIONのマップM1を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた相関係数KIONを算出する。この相関係数KIONのマップM1は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0035】
この後、ステップ206に進み、イオン電流検出回路22から出力されるイオン電流信号IONCYを読み込んだ後、ステップ207に進み、イオン電流信号IONCYに相関係数KIONを乗算して筒内温度推定値THCYを求める。
THCY=KION×IONCY
【0036】
このように、エンジン運転状態(エンジン回転速度Neと吸入空気量Ga)に応じた相関係数KIONを用いて筒内温度推定値THCYを求めることで、エンジン運転状態に応じてイオン電流と筒内温度との関係が変化にするのに対応して、相関係数KIONを変化させて筒内温度推定値THCYを精度良く求めることができる。
【0037】
[自着火燃焼判定ルーチン]
図7に示す自着火燃焼判定ルーチンは、前記図5の基本処理ルーチンのステップ103で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう自着火燃焼判定手段としての役割を果たす。
【0038】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、自着火燃焼判定期間中であるか否かを判定する。ここで、自着火燃焼判定期間は、例えば、筒内温度推定期間及びその後の所定クランク角度区間の範囲に設定されている。
このステップ301で、自着火燃焼判定期間中ではないと判定された場合には、ステップ302以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0039】
一方、上記ステップ301で、自着火燃焼判定期間中であると判定された場合には、ステップ302に進み、筒内温度推定期間中の筒内温度推定値THCYを読み込んだ後、ステップ303に進み、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高いか否かを判定する。ここで、自着火燃焼判定値TH1は、初期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL2〜L3で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するための閾値であり、予め設定した固定値としても良いが、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度Neや吸入空気量Ga等)に応じて変化させるようにしても良い。
【0040】
このステップ303で、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1以下であると判定された場合には、ステップ304に進み、自着火燃焼無し(初期段階の自着火燃焼が発生していない)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを自着火燃焼無しを意味する「0」にリセットする。
【0041】
一方、上記ステップ303で、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高いと判定された場合には、ステップ305に進み、自着火燃焼有り(初期段階の自着火燃焼が発生している)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを自着火燃焼有りを意味する「1」にセットする。
【0042】
[自着火燃焼抑制ルーチン]
図8に示す自着火燃焼抑制ルーチンは、前記図5の基本処理ルーチンのステップ104で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう自着火燃焼抑制手段としての役割を果たす。
【0043】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ401で、本処理の実行タイミングであるか否かを判定する。ここで、本処理の実行タイミングは、吸気バルブタイミング(吸気バルブ23の開閉タイミング)の目標進角量VVTAを算出するタイミングであり、例えば、TDCとなるタイミングである。
このステップ401で、実行タイミングではないと判定された場合には、ステップ402〜408の処理を飛ばして、ステップ409に進む。
【0044】
一方、上記ステップ401で、実行タイミングであると判定された場合には、ステップ402に進み、吸気バルブタイミングの基本目標進角量TVVTABSEのマップM2を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた基本目標進角量TVVTABSEを算出する。この基本目標進角量TVVTABSEのマップM2は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0045】
この後、ステップ403に進み、自着火燃焼判定フラグXCIが「1」であるか否かを判定する。
このステップ403で、自着火燃焼判定フラグXCIが「1」であると判定された場合、つまり、自着火燃焼有り(初期段階の自着火燃焼が発生している)と判定された場合には、ステップ404に進み、吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正するための遅角側変更量TVVTAAを算出する。この場合、遅角側変更量TVVTAAのマップM3を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた遅角側変更量TVVTAAを算出する。この遅角側変更量TVVTAAのマップM3は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0046】
この後、ステップ405に進み、前回の補正量TVVTATI(i-1) と遅角側変更量TVVTAAを用いて、次式により今回の補正量TVVTATI(i) を求める。
TVVTATI(i) =TVVTATI(i-1) +TVVTAA
【0047】
一方、上記ステップ403で、自着火燃焼判定フラグXCIが「0」であると判定された場合、つまり、自着火燃焼無し(初期段階の自着火燃焼が発生していない)と判定された場合には、ステップ406に進み、吸気バルブ23の閉弁時期を進角補正するための進角側変更量TVVTASを算出する。この場合、進角側変更量TVVTASのマップM4を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた進角側変更量TVVTASを算出する。この進角側変更量TVVTASのマップM4は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0048】
この後、ステップ407に進み、前回の補正量TVVTATI(i-1) と進角側変更量TVVTASを用いて、次式により今回の補正量TVVTATI(i) を求める。
TVVTATI(i) =TVVTATI(i-1) −TVVTAS
【0049】
この後、ステップ408に進み、基本目標進角量TVVTABSEと補正量TVVTATIとを用いて、次式により目標進角量VVTAを求める。
VVTA=TVVTABSE−TVVTATI
【0050】
この後、ステップ409に進み、目標進角量VVTAの上下限ガード処理を行う。具体的には、上限ガード値VVTAMAXのマップM5を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた上限ガード値VVTAMAXを算出すると共に、下限ガード値VVTAMINのマップM6を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた下限ガード値VVTAMINを算出する。これらの上限ガード値VVTAMAXのマップM5と下限ガード値VVTAMINのマップM6は、それぞれ予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。そして、目標進角量VVTAが上限ガード値VVTAMAXを越えた場合には、目標進角量VVTAを上限ガード値VVTAMAXでガード処理してVVTA=VVTAMAXとする。一方、目標進角量VVTAが下限ガード値VVTAMINを越えた場合には、目標進角量VVTAを下限ガード値VVTAMINでガード処理してVVTA=VVTAMINとする。
【0051】
以上の処理により、自着火燃焼が発生していると判定されたとき(つまり自着火燃焼判定フラグXCI=1のとき)に、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0052】
以上説明した本実施例1の自着火燃焼判定及び自着火燃焼抑制制御の実行例を図9のタイムチャートを用いて説明する。
イオン電流信号IONCYに基づいて算出した筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高くなった時点t1 で、自着火燃焼有り(初期段階の自着火燃焼が発生している)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを「1」にセットする。
【0053】
自着火燃焼判定フラグXCI=1の期間は、所定の実行タイミング毎(例えばTDC毎)に、補正量TVVTATIを遅角側変更量TVVTAAだけ増量補正して、目標進角量VVTAを補正量TVVTATIだけ遅角側に補正する処理を繰り返す。これにより、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを徐々に遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を徐々に遅角補正する自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0054】
この自着火燃焼抑制制御によって自着火燃焼が抑制されて筒内温度が低下する。その後、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1以下になった時点t2 で、自着火燃焼無し(初期段階の自着火燃焼が発生していない)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを「0」にリセットする。
【0055】
自着火燃焼判定フラグXCI=0の期間は、所定の実行タイミング毎(例えばTDC毎)に、補正量TVVTATIを進角側変更量TVVTASだけ減量補正して、目標進角量VVTAを補正量TVVTATIだけ進角側に補正する処理を繰り返す。これにより、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを徐々に進角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を徐々に進角補正する。
【0056】
その後、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高くなった時点t3 で、再び、自着火燃焼有りと判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを「1」にセットして、自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0057】
以上説明した本実施例1では、イオン電流に基づいて筒内温度を推定し、その推定した筒内温度に基づいて自着火燃焼が発生しているか否かを判定するようにしたので、自着火燃焼の原因である筒内温度の上昇を評価して、自着火燃焼が発生しているか否かを精度良く判定することができ、自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出することができる。更に、自着火燃焼が発生していると判定されたときに、その自着火燃焼を抑制するようにエンジン11を制御する自着火燃焼抑制制御(吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する制御)を実行するようにしたので、自着火燃焼を早期に抑制することができる。
【実施例2】
【0058】
次に、図10及び図11を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0059】
本実施例2では、図10に示すように、エンジン11のシリンダブロックに、筒内圧力を検出する筒内圧力センサ33(筒内圧力検出手段)が設けられ、イオン電流検出回路22が省略されている。尚、筒内圧力センサ33は、全ての気筒にそれぞれ設けるようにしても良いし、特定の1つの気筒又は2つ以上の気筒に設けるようにしても良い。また、筒内圧力センサ33は、点火プラグ20と一体化したタイプのものを用いても良い。
【0060】
そして、筒内温度に基づいて自着火燃焼が発生しているか否かを判定する際に、所定の筒内温度推定期間中に筒内圧力センサ33で検出した筒内圧力に基づいて筒内温度を推定するようにしている。燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じて筒内圧力が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、図11に示すように、筒内圧力と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほど筒内圧力が大きくなるという関係がある)。従って、筒内圧力を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0061】
尚、上記各実施例1,2では、筒内温度を推定するようにしたが、これに限定されず、温度センサで筒内温度を検出するようにしても良い。
また、上記各実施例1,2では、自着火燃焼抑制制御として、吸気バルブ23の閉弁時期を遅角する制御を実行するようにしたが、これに限定されず、例えば、燃料噴射量を増量する制御、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角する制御、EGR量(排出ガス還流量)を増量する制御、燃料カット(燃料噴射を停止する制御)等を実行するようにしても良い。
【0062】
この場合、燃料噴射量を増量すれば、燃料の気化熱を増加させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角すれば、混合気の燃焼を緩慢にして燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、EGR量を増量すれば、還流された排出ガスで燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、燃料カットすれば、自着火燃焼を速やかに停止させることができ、更に、筒内温度を低下させて、燃料カット復帰後(燃料噴射再開後)の自着火燃焼を抑制することができる。
【0063】
また、上記各実施例1,2では、筒内温度が所定の判定値を越えたか否かによって初期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL2〜L3で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するようにしたが、これに限定されず、例えば、判定値を変更して、初期段階の自着火燃焼よりも燃焼エネルギが大きい中期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL4〜L5で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するようにしたり、或は、中期段階の自着火燃焼よりも燃焼エネルギが大きい後期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL6〜L7で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するようにしても良い。
【0064】
その他、本発明は、図1及び図10に示すような吸気ポート噴射用の燃料噴射弁18と筒内噴射用の燃料噴射弁19の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンに限定されず、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁のみを備えた吸気ポート噴射式エンジンや、筒内噴射用の燃料噴射弁のみを備えた筒内噴射式エンジンにも適用して実施できる。
【符号の説明】
【0065】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、13…エアフローメータ、15…スロットルバルブ、18,19…燃料噴射弁、20…点火プラグ、22…イオン電流検出回路(イオン電流検出手段)、23…吸気バルブ、25…可変バルブタイミング装置、29…冷却水温センサ、30…クランク角センサ、31…ECU(筒内温度取得手段,自着火燃焼判定手段,自着火燃焼抑制手段)、33…筒内圧力センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグの火花放電により点火して混合気を燃焼させる火花点火式の内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
火花点火式の内燃機関においては、近年、燃費向上等を目的として高圧縮比となるように設計されたものがあるが、このような高圧縮比の内燃機関は、点火プラグによる点火よりも早いタイミングで筒内の混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼の発生が懸念される。この懸念に対して、特許文献1に記載されているように、筒内圧の最大値(ピーク値)が設定値(点火燃焼時の最大筒内圧)よりも大きいか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定し、自着火燃焼が発生していると判定された場合に、燃料噴射を禁止するなどの制御により自着火燃焼を抑制するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−8235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高圧縮比の内燃機関では、点火プラグの点火タイミングよりも前に筒内温度(燃焼室内の温度)が自着火可能な温度領域まで上昇することによって、点火プラグの点火タイミングよりも前に筒内の混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生すると考えられる。また、本発明者らの実験結果によれば、自着火燃焼は、自着火が発生しない正常燃焼(点火プラグの点火による燃焼)よりも燃焼温度が高いため、自着火燃焼が発生すると、筒内温度が更に上昇する。このため、図2に示すように、自着火燃焼が一旦発生すると、それ以降、前回よりも燃焼エネルギが大きい自着火燃焼が発生して前回よりも更に燃焼温度が高くなって筒内温度が上昇することが繰り返されて、より燃焼エネルギが大きい自着火燃焼へと成長していくことが判明した。成長が進んだ自着火燃焼(燃焼エネルギが比較的大きい自着火燃焼)が発生すると、内燃機関に過度の負担が掛かり、内燃機関の故障を招くおそれがあるため、自着火燃焼が発生した場合には、その自着火燃焼をできるだけ早期に検出して抑制する必要がある。
【0005】
しかし、上記特許文献1の技術では、自着火燃焼の原因である筒内温度の上昇を全く考慮しておらず、単に筒内圧の最大値が設定値(点火燃焼時の最大筒内圧)よりも大きいか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定するだけであるため、自着火燃焼が発生しているか否かを精度良く判定することができず、自着火燃焼を早期に検出することが困難である。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出することができて、自着火燃焼を早期に抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、点火プラグの火花放電により点火して混合気を燃焼させる火花点火式の内燃機関の制御装置において、内燃機関の全ての気筒又は少なくとも1つの気筒の筒内温度を検出又は推定する筒内温度取得手段と、この筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度に基づいて、混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生しているか否かを判定する自着火燃焼判定手段と、この自着火燃焼判定手段により自着火燃焼が発生していると判定されたときに該自着火燃焼を抑制するように内燃機関を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する自着火燃焼抑制手段とを備えた構成としたものである。
【0008】
この構成では、検出又は推定した筒内温度に基づいて自着火燃焼が発生しているか否かを判定するため、自着火燃焼の原因である筒内温度の上昇を評価して、自着火燃焼が発生しているか否かを精度良く判定することができ、自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出することができる。更に、自着火燃焼が発生していると判定されたときに該自着火燃焼を抑制するように内燃機関を制御する自着火燃焼抑制制御を実行するため、自着火燃焼を早期に抑制することができる。
【0009】
この場合、請求項2のように、筒内の燃焼状態に応じて変化するイオン電流を検出するイオン電流検出手段を備え、このイオン電流検出手段で検出したイオン電流に基づいて筒内温度を推定するようにしても良い。燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じてイオン電流が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、イオン電流と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、自着火燃焼が発生する領域では、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほどイオン電流が大きくなるという関係がある)。従って、イオン電流を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0010】
或は、請求項3のように、筒内の燃焼状態に応じて変化する筒内圧力を検出する筒内圧力検出手段を備え、この筒内圧力検出手段で検出した筒内圧力に基づいて筒内温度を推定するようにしても良い。燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じて筒内圧力が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、筒内圧力と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほど筒内圧力が大きくなるという関係がある)。従って、筒内圧力を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0011】
更に、請求項4のように、筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度が所定の判定値を越えたか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定するようにしても良い。このようにすれば、検出又は推定した筒内温度を判定値と比較するという簡単な方法で自着火燃焼が発生しているか否かを判定することができる。ここで、判定値は、予め設定した固定値としても良いが、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度や吸入空気量等)に応じて変化させるようにしても良い。
【0012】
また、請求項5のように、自着火燃焼抑制制御として、燃料噴射量を増量する制御、吸気バルブの閉弁時期を遅角する制御、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角する制御、排出ガス還流量を増量する制御、燃料噴射を停止する制御のうちの少なくとも1つを実行するようにしても良い。
【0013】
この場合、燃料噴射量を増量すれば、燃料の気化熱を増加させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、吸気バルブの閉弁時期を遅角すれば、混合気の実圧縮比を低下させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角すれば、混合気の燃焼を緩慢にして燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、排出ガス還流量を増量すれば、還流された排出ガスで燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、燃料噴射を停止すれば、自着火燃焼を速やかに停止させることができ、更に、筒内温度を低下させて、燃料噴射再開後の自着火燃焼を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は自着火燃焼の成長を説明する図である。
【図3】図3は自着火燃焼判定を説明するタイムチャートである。
【図4】図4はイオン電流と燃焼温度(筒内温度)との関係を説明する図である。
【図5】図5は基本処理ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図6】図6は筒内温度推定ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図7】図7は自着火燃焼判定ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図8】図8は自着火燃焼抑制ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図9】図9は実施例1の自着火燃焼判定及び自着火燃焼抑制制御の実行例を説明するタイムチャートである。
【図10】図10は実施例2のエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図11】図11は筒内圧力と燃焼温度(筒内温度)との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図1乃至図9に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ(図示せず)が設けられ、このエアクリーナの下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ13が設けられている。このエアフローメータ13の下流側には、DCモータ等のスロットルアクチュエータ14によって開度調節されるスロットルバルブ15が設けられ、このスロットルバルブ15の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ(図示せず)がスロットルアクチュエータ14に内蔵されている。
【0017】
更に、スロットルバルブ15の下流側には、サージタンク16が設けられ、このサージタンク16には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド17が設けられている。各気筒の吸気マニホールド17の吸気ポート近傍に、それぞれ吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁18が取り付けられている。更に、エンジン11の各気筒には、それぞれ筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0018】
エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ20が取り付けられている。点火プラグ20には、点火装置21で発生した高電圧が印加されて火花放電が発生し、各気筒の点火プラグ20の火花放電により点火して混合気を燃焼させるようになっている。更に、点火装置21の内部又は外部(若しくは内部と外部の両方)には、筒内で混合気が燃焼する際に発生するイオンによって点火プラグ20の電極間に流れるイオン電流を検出するイオン電流検出回路22(イオン電流検出手段)が設けられている。このイオン電流検出回路22は、イオン電流に応じた電圧のイオン電流信号を出力するようになっている。尚、イオン電流検出回路22は、全ての気筒のイオン電流を検出するようにしても良いし、特定の1つの気筒又は2つ以上の気筒のイオン電流を検出するようにしても良い。
【0019】
エンジン11の吸気ポートと排気ポートには、それぞれ吸気バルブ23と排気バルブ24が設けられている。また、エンジン11には、吸気バルブ23のバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる可変バルブタイミング装置25が設けられている。この可変バルブタイミング装置25は、油圧アクチュエータ26によってクランク軸27に対するカム軸28の回転位相を変化させることで、カム軸28によって開閉駆動される吸気バルブ23の開閉タイミングを変化させるようになっている。
【0020】
エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ29が取り付けられている。また、クランク軸27の外周側には、クランク軸27が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ30が取り付けられ、このクランク角センサ30の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0021】
これら各種センサの出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)31に入力される。このECU31は、マイクロコンピュータ32を主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御すると共に、吸気バルブタイミング(吸気バルブ23の開閉タイミング)の実進角量が目標進角量に一致するように可変バルブタイミング装置25を制御する。
【0022】
ところで、エンジン11は、高圧縮比となるように設計されており、このような高圧縮比のエンジン11では、点火プラグ20の点火タイミングよりも前に筒内温度(燃焼室内の温度)が自着火可能な温度領域まで上昇することによって、点火プラグ20の点火タイミングよりも前に筒内の混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生すると考えられる。また、本発明者らの実験結果によれば、自着火燃焼は、自着火が発生しない正常燃焼(点火プラグ20の点火による燃焼)よりも燃焼温度が高いため、自着火燃焼が発生すると、筒内温度が更に上昇する。このため、図2に示すように、自着火燃焼が一旦発生すると、それ以降、前回よりも燃焼エネルギが大きい自着火燃焼が発生して前回よりも更に燃焼温度が高くなって筒内温度が上昇することが繰り返されて、より燃焼エネルギが大きい自着火燃焼へと成長していくことが判明した。成長が進んだ自着火燃焼(燃焼エネルギが比較的大きい自着火燃焼)が発生すると、エンジン11に過度の負担が掛かり、エンジン11の故障を招くおそれがあるため、自着火燃焼が発生した場合には、その自着火燃焼をできるだけ早期に検出して抑制する必要がある。
【0023】
そこで、本実施例1では、自着火燃焼の発生時には正常燃焼時よりも筒内温度が高くなることに着目して、ECU31により後述する図5乃至図8の各ルーチンを実行することで、図3のタイムチャートに示すように、所定の筒内温度推定期間中にイオン電流信号IONCYに基づいて筒内温度THCYを推定し、その筒内温度推定値THCYが所定の自着火燃焼判定値TH1を越えたか否かによって初期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL2〜L3で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定する。そして、初期段階の自着火燃焼が発生していると判定されたときに、その自着火燃焼を抑制するようにエンジン11を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0024】
本実施例1では、イオン電流に基づいて筒内温度を推定しているが、燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じてイオン電流が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、図4に示すように、イオン電流と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、自着火燃焼が発生する領域では、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほどイオン電流が大きくなるという関係がある)。従って、イオン電流を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0025】
また、本実施例1では、自着火燃焼抑制制御として、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミング(吸気バルブ23の開閉タイミング)を遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する制御を実行する。吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正すれば、混合気の実圧縮比を低下させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。
以下、ECU31が実行する図5乃至図8の各ルーチンの処理内容を説明する。
【0026】
[基本処理ルーチン]
図5に示す基本処理ルーチンは、ECU31の電源オン中に実行される。本ルーチンが起動されると、ステップ101で、プログラムの初期化処理を行った後、ステップ102〜104の処理を所定周期で繰り返し実行する。
【0027】
まず、ステップ102で、後述する図6の筒内温度推定ルーチンを実行することで、所定の筒内温度推定期間中にイオン電流信号IONCYに基づいて筒内温度推定値THCYを算出した後、ステップ103に進み、後述する図7の自着火燃焼判定ルーチンを実行することで、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1を越えたか否かによって自着火燃焼が発生しているか否かを判定する。
【0028】
この後、ステップ104に進み、後述する図8の自着火燃焼抑制ルーチンを実行することで、自着火燃焼が発生していると判定されたときに、自着火燃焼抑制制御を実行する。この自着火燃焼抑制制御では、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する。
【0029】
[筒内温度推定ルーチン]
図6に示す筒内温度推定ルーチンは、前記図5の基本処理ルーチンのステップ102で実行されるサブルーチンであり、クランク角センサ30の信号出力毎(例えば6℃A毎)に実行され、特許請求の範囲でいう筒内温度取得手段としての役割を果たす。
【0030】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、筒内温度推定期間中であるか否かを判定する。ここで、筒内温度推定期間(図3参照)は、例えば、圧縮TDC(圧縮上死点)から所定クランク角度区間の範囲に設定されている。
【0031】
このステップ201で、筒内温度推定期間中ではないと判定された場合には、ステップ202以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0032】
一方、上記ステップ201で、筒内温度推定期間中であると判定された場合には、ステップ202に進み、クランク角センサ30の検出信号に基づいて算出したエンジン回転速度Neと、エアフロメータ13の検出信号に基づいて算出した吸入空気量Gaを読み込んだ後、ステップ203に進み、冷却水温センサ29の検出信号に基づいて算出した冷却水温THWを読み込む。
【0033】
この後、ステップ204に進み、冷却水温THWが所定水温αよりも高いか否かを判定する。このステップ204で、冷却水温THWが所定水温α以下であると判定された場合には、エンジン11の暖機状態が不十分であるため、燃焼も緩慢であり、自着火燃焼が発生する可能性は極めて低いと考えられる。従って、冷却水温THWが所定水温α以下の低温領域にあるときには、自着火燃焼を検出するための筒内温度推定を行う必要がないと判断して、ステップ205以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0034】
一方、上記ステップ204で、冷却水温THWが所定温度αよりも高いと判定された場合には、ステップ205以降の処理を次のようにして実行する。まず、ステップ205で、イオン電流から筒内温度を算出するための相関係数KIONのマップM1を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた相関係数KIONを算出する。この相関係数KIONのマップM1は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0035】
この後、ステップ206に進み、イオン電流検出回路22から出力されるイオン電流信号IONCYを読み込んだ後、ステップ207に進み、イオン電流信号IONCYに相関係数KIONを乗算して筒内温度推定値THCYを求める。
THCY=KION×IONCY
【0036】
このように、エンジン運転状態(エンジン回転速度Neと吸入空気量Ga)に応じた相関係数KIONを用いて筒内温度推定値THCYを求めることで、エンジン運転状態に応じてイオン電流と筒内温度との関係が変化にするのに対応して、相関係数KIONを変化させて筒内温度推定値THCYを精度良く求めることができる。
【0037】
[自着火燃焼判定ルーチン]
図7に示す自着火燃焼判定ルーチンは、前記図5の基本処理ルーチンのステップ103で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう自着火燃焼判定手段としての役割を果たす。
【0038】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、自着火燃焼判定期間中であるか否かを判定する。ここで、自着火燃焼判定期間は、例えば、筒内温度推定期間及びその後の所定クランク角度区間の範囲に設定されている。
このステップ301で、自着火燃焼判定期間中ではないと判定された場合には、ステップ302以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0039】
一方、上記ステップ301で、自着火燃焼判定期間中であると判定された場合には、ステップ302に進み、筒内温度推定期間中の筒内温度推定値THCYを読み込んだ後、ステップ303に進み、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高いか否かを判定する。ここで、自着火燃焼判定値TH1は、初期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL2〜L3で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するための閾値であり、予め設定した固定値としても良いが、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度Neや吸入空気量Ga等)に応じて変化させるようにしても良い。
【0040】
このステップ303で、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1以下であると判定された場合には、ステップ304に進み、自着火燃焼無し(初期段階の自着火燃焼が発生していない)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを自着火燃焼無しを意味する「0」にリセットする。
【0041】
一方、上記ステップ303で、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高いと判定された場合には、ステップ305に進み、自着火燃焼有り(初期段階の自着火燃焼が発生している)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを自着火燃焼有りを意味する「1」にセットする。
【0042】
[自着火燃焼抑制ルーチン]
図8に示す自着火燃焼抑制ルーチンは、前記図5の基本処理ルーチンのステップ104で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう自着火燃焼抑制手段としての役割を果たす。
【0043】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ401で、本処理の実行タイミングであるか否かを判定する。ここで、本処理の実行タイミングは、吸気バルブタイミング(吸気バルブ23の開閉タイミング)の目標進角量VVTAを算出するタイミングであり、例えば、TDCとなるタイミングである。
このステップ401で、実行タイミングではないと判定された場合には、ステップ402〜408の処理を飛ばして、ステップ409に進む。
【0044】
一方、上記ステップ401で、実行タイミングであると判定された場合には、ステップ402に進み、吸気バルブタイミングの基本目標進角量TVVTABSEのマップM2を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた基本目標進角量TVVTABSEを算出する。この基本目標進角量TVVTABSEのマップM2は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0045】
この後、ステップ403に進み、自着火燃焼判定フラグXCIが「1」であるか否かを判定する。
このステップ403で、自着火燃焼判定フラグXCIが「1」であると判定された場合、つまり、自着火燃焼有り(初期段階の自着火燃焼が発生している)と判定された場合には、ステップ404に進み、吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正するための遅角側変更量TVVTAAを算出する。この場合、遅角側変更量TVVTAAのマップM3を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた遅角側変更量TVVTAAを算出する。この遅角側変更量TVVTAAのマップM3は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0046】
この後、ステップ405に進み、前回の補正量TVVTATI(i-1) と遅角側変更量TVVTAAを用いて、次式により今回の補正量TVVTATI(i) を求める。
TVVTATI(i) =TVVTATI(i-1) +TVVTAA
【0047】
一方、上記ステップ403で、自着火燃焼判定フラグXCIが「0」であると判定された場合、つまり、自着火燃焼無し(初期段階の自着火燃焼が発生していない)と判定された場合には、ステップ406に進み、吸気バルブ23の閉弁時期を進角補正するための進角側変更量TVVTASを算出する。この場合、進角側変更量TVVTASのマップM4を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた進角側変更量TVVTASを算出する。この進角側変更量TVVTASのマップM4は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。
【0048】
この後、ステップ407に進み、前回の補正量TVVTATI(i-1) と進角側変更量TVVTASを用いて、次式により今回の補正量TVVTATI(i) を求める。
TVVTATI(i) =TVVTATI(i-1) −TVVTAS
【0049】
この後、ステップ408に進み、基本目標進角量TVVTABSEと補正量TVVTATIとを用いて、次式により目標進角量VVTAを求める。
VVTA=TVVTABSE−TVVTATI
【0050】
この後、ステップ409に進み、目標進角量VVTAの上下限ガード処理を行う。具体的には、上限ガード値VVTAMAXのマップM5を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた上限ガード値VVTAMAXを算出すると共に、下限ガード値VVTAMINのマップM6を参照して、エンジン回転速度Neと吸入空気量Gaに応じた下限ガード値VVTAMINを算出する。これらの上限ガード値VVTAMAXのマップM5と下限ガード値VVTAMINのマップM6は、それぞれ予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU31のROMに記憶されている。そして、目標進角量VVTAが上限ガード値VVTAMAXを越えた場合には、目標進角量VVTAを上限ガード値VVTAMAXでガード処理してVVTA=VVTAMAXとする。一方、目標進角量VVTAが下限ガード値VVTAMINを越えた場合には、目標進角量VVTAを下限ガード値VVTAMINでガード処理してVVTA=VVTAMINとする。
【0051】
以上の処理により、自着火燃焼が発生していると判定されたとき(つまり自着火燃焼判定フラグXCI=1のとき)に、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0052】
以上説明した本実施例1の自着火燃焼判定及び自着火燃焼抑制制御の実行例を図9のタイムチャートを用いて説明する。
イオン電流信号IONCYに基づいて算出した筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高くなった時点t1 で、自着火燃焼有り(初期段階の自着火燃焼が発生している)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを「1」にセットする。
【0053】
自着火燃焼判定フラグXCI=1の期間は、所定の実行タイミング毎(例えばTDC毎)に、補正量TVVTATIを遅角側変更量TVVTAAだけ増量補正して、目標進角量VVTAを補正量TVVTATIだけ遅角側に補正する処理を繰り返す。これにより、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを徐々に遅角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を徐々に遅角補正する自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0054】
この自着火燃焼抑制制御によって自着火燃焼が抑制されて筒内温度が低下する。その後、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1以下になった時点t2 で、自着火燃焼無し(初期段階の自着火燃焼が発生していない)と判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを「0」にリセットする。
【0055】
自着火燃焼判定フラグXCI=0の期間は、所定の実行タイミング毎(例えばTDC毎)に、補正量TVVTATIを進角側変更量TVVTASだけ減量補正して、目標進角量VVTAを補正量TVVTATIだけ進角側に補正する処理を繰り返す。これにより、可変バルブタイミング装置25により吸気バルブタイミングを徐々に進角補正して吸気バルブ23の閉弁時期を徐々に進角補正する。
【0056】
その後、筒内温度推定値THCYが自着火燃焼判定値TH1よりも高くなった時点t3 で、再び、自着火燃焼有りと判定して、自着火燃焼判定フラグXCIを「1」にセットして、自着火燃焼抑制制御を実行する。
【0057】
以上説明した本実施例1では、イオン電流に基づいて筒内温度を推定し、その推定した筒内温度に基づいて自着火燃焼が発生しているか否かを判定するようにしたので、自着火燃焼の原因である筒内温度の上昇を評価して、自着火燃焼が発生しているか否かを精度良く判定することができ、自着火燃焼が発生した場合に、その自着火燃焼を早期に検出することができる。更に、自着火燃焼が発生していると判定されたときに、その自着火燃焼を抑制するようにエンジン11を制御する自着火燃焼抑制制御(吸気バルブ23の閉弁時期を遅角補正する制御)を実行するようにしたので、自着火燃焼を早期に抑制することができる。
【実施例2】
【0058】
次に、図10及び図11を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0059】
本実施例2では、図10に示すように、エンジン11のシリンダブロックに、筒内圧力を検出する筒内圧力センサ33(筒内圧力検出手段)が設けられ、イオン電流検出回路22が省略されている。尚、筒内圧力センサ33は、全ての気筒にそれぞれ設けるようにしても良いし、特定の1つの気筒又は2つ以上の気筒に設けるようにしても良い。また、筒内圧力センサ33は、点火プラグ20と一体化したタイプのものを用いても良い。
【0060】
そして、筒内温度に基づいて自着火燃焼が発生しているか否かを判定する際に、所定の筒内温度推定期間中に筒内圧力センサ33で検出した筒内圧力に基づいて筒内温度を推定するようにしている。燃焼状態(例えば燃焼密度)に応じて筒内圧力が変化すると共に、燃焼状態に応じて燃焼温度が変化して筒内温度が変化するため、図11に示すように、筒内圧力と筒内温度との間には相関関係がある(例えば、燃焼温度が高くなって筒内温度が高くなるほど筒内圧力が大きくなるという関係がある)。従って、筒内圧力を用いれば、筒内温度を精度良く推定することができる。
【0061】
尚、上記各実施例1,2では、筒内温度を推定するようにしたが、これに限定されず、温度センサで筒内温度を検出するようにしても良い。
また、上記各実施例1,2では、自着火燃焼抑制制御として、吸気バルブ23の閉弁時期を遅角する制御を実行するようにしたが、これに限定されず、例えば、燃料噴射量を増量する制御、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角する制御、EGR量(排出ガス還流量)を増量する制御、燃料カット(燃料噴射を停止する制御)等を実行するようにしても良い。
【0062】
この場合、燃料噴射量を増量すれば、燃料の気化熱を増加させて燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角すれば、混合気の燃焼を緩慢にして燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、EGR量を増量すれば、還流された排出ガスで燃焼温度を低下させて筒内温度を低下させることができ、自着火燃焼を抑制することができる。また、燃料カットすれば、自着火燃焼を速やかに停止させることができ、更に、筒内温度を低下させて、燃料カット復帰後(燃料噴射再開後)の自着火燃焼を抑制することができる。
【0063】
また、上記各実施例1,2では、筒内温度が所定の判定値を越えたか否かによって初期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL2〜L3で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するようにしたが、これに限定されず、例えば、判定値を変更して、初期段階の自着火燃焼よりも燃焼エネルギが大きい中期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL4〜L5で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するようにしたり、或は、中期段階の自着火燃焼よりも燃焼エネルギが大きい後期段階の自着火燃焼(例えば、図2にL6〜L7で示す自着火燃焼)が発生しているか否かを判定するようにしても良い。
【0064】
その他、本発明は、図1及び図10に示すような吸気ポート噴射用の燃料噴射弁18と筒内噴射用の燃料噴射弁19の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンに限定されず、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁のみを備えた吸気ポート噴射式エンジンや、筒内噴射用の燃料噴射弁のみを備えた筒内噴射式エンジンにも適用して実施できる。
【符号の説明】
【0065】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、13…エアフローメータ、15…スロットルバルブ、18,19…燃料噴射弁、20…点火プラグ、22…イオン電流検出回路(イオン電流検出手段)、23…吸気バルブ、25…可変バルブタイミング装置、29…冷却水温センサ、30…クランク角センサ、31…ECU(筒内温度取得手段,自着火燃焼判定手段,自着火燃焼抑制手段)、33…筒内圧力センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグの火花放電により点火して混合気を燃焼させる火花点火式の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の全ての気筒又は少なくとも1つの気筒の筒内温度を検出又は推定する筒内温度取得手段と、
前記筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度に基づいて、混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生しているか否かを判定する自着火燃焼判定手段と、
前記自着火燃焼判定手段により前記自着火燃焼が発生していると判定されたときに該自着火燃焼を抑制するように前記内燃機関を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する自着火燃焼抑制手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
筒内の燃焼状態に応じて変化するイオン電流を検出するイオン電流検出手段を備え、
前記筒内温度取得手段は、前記イオン電流検出手段で検出したイオン電流に基づいて筒内温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
筒内の燃焼状態に応じて変化する筒内圧力を検出する筒内圧力検出手段を備え、
前記筒内温度取得手段は、前記筒内圧力検出手段で検出した筒内圧力に基づいて筒内温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記自着火燃焼判定手段は、前記筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度が所定の判定値を越えたか否かによって前記自着火燃焼が発生しているか否かを判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記自着火燃焼抑制手段は、前記自着火燃焼抑制制御として、燃料噴射量を増量する制御、吸気バルブの閉弁時期を遅角する制御、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角する制御、排出ガス還流量を増量する制御、燃料噴射を停止する制御のうちの少なくとも1つを実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
点火プラグの火花放電により点火して混合気を燃焼させる火花点火式の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の全ての気筒又は少なくとも1つの気筒の筒内温度を検出又は推定する筒内温度取得手段と、
前記筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度に基づいて、混合気が自着火して燃焼する自着火燃焼が発生しているか否かを判定する自着火燃焼判定手段と、
前記自着火燃焼判定手段により前記自着火燃焼が発生していると判定されたときに該自着火燃焼を抑制するように前記内燃機関を制御する自着火燃焼抑制制御を実行する自着火燃焼抑制手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
筒内の燃焼状態に応じて変化するイオン電流を検出するイオン電流検出手段を備え、
前記筒内温度取得手段は、前記イオン電流検出手段で検出したイオン電流に基づいて筒内温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
筒内の燃焼状態に応じて変化する筒内圧力を検出する筒内圧力検出手段を備え、
前記筒内温度取得手段は、前記筒内圧力検出手段で検出した筒内圧力に基づいて筒内温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記自着火燃焼判定手段は、前記筒内温度取得手段で検出又は推定した筒内温度が所定の判定値を越えたか否かによって前記自着火燃焼が発生しているか否かを判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記自着火燃焼抑制手段は、前記自着火燃焼抑制制御として、燃料噴射量を増量する制御、吸気バルブの閉弁時期を遅角する制御、筒内に燃料を直接噴射する場合の燃料噴射時期を遅角する制御、排出ガス還流量を増量する制御、燃料噴射を停止する制御のうちの少なくとも1つを実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−41902(P2012−41902A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185792(P2010−185792)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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