説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】内燃機関の燃料カットや内燃機関の停止による燃費の改善効果を損なわず、かつエミッションを悪化させることなく、排気中のNOxを効率良く浄化できる排気浄化装置を提供すること。
【解決手段】エンジン2の排気管4に設けられ、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを捕捉可能なNOx捕捉触媒42と、排気管4のうちNOx捕捉触媒42の下流側に設けられ、排気中のNOxを浄化可能な三元触媒43と、排気の空燃比を制御する排気空燃比制御手段と、を備え、NOx捕捉触媒42は、少なくともAgを含みかつ酸化物からなる担体を含んで構成され、排気空燃比制御手段は、所定の条件を満たすときには、エンジン2への燃料の供給を停止する燃料カット復帰後の所定時間の間、またはエンジン2の再始動後の所定時間の間、排気の空燃比をリーンに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。より詳しくは、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを捕捉可能なNOx捕捉触媒と、排気中のNOxを浄化可能な三元触媒と、を備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関から排出される排気中に含まれる有害物質を浄化するための技術として、排気通路に三元触媒(以下、「TWC」という)を設置して排気の空燃比を制御する技術が知られている。
また、排気中に含まれる有害物質のうち、特にNOxの浄化率の向上を目的として、TWCに加えて、NOx吸着触媒などを排気通路に併設する技術が知られている。
【0003】
例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含むNOx吸着触媒を排気通路の上流側に配置し、貴金属を含むTWCを下流側に配置する技術が提案されている(特許文献1参照)。
この技術によれば、上流側に配置されたNOx吸着触媒中に貴金属が含まれていないため、排気中のSOxによる触媒の被毒を抑制でき、NOx吸着能の低下を抑制できるとされている。また、下流側に配置されたTWC中には貴金属が含まれているため、排気中に含まれるHC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)を還元剤として、NOxを効率良く還元浄化できるとされている。
【0004】
また、例えば、排気通路の上流側から順に、NOx吸着触媒とTWCを配置するとともに、排気の空燃比を制御することによりNOxを浄化する技術が提案されている(特許文献2参照)。
この技術によれば、排気の空燃比がリーンのときに、排気中のNOxをニトロイルイオンとしてNOx吸着触媒にて吸着し、排気の空燃比がストイキまたはリッチのときに、吸着したNOxを放出してTWCにて還元浄化する。これにより、酸素過剰雰囲気の排気中に含まれるNOxを効率良く浄化できるとされている。
【0005】
ところで、近年では、車両停止中に内燃機関を停止させたり、電動モーターなどの内燃機関以外の駆動手段を備え、所定の運転状態において内燃機関を停止させることによって、有害物質のさらなる低減と燃費の改善を図る技術が検討されている。
【0006】
上述のTWCは、通常、酸素吸蔵能力(以下、「OSC」という)を有し、OSC材を含んで構成されるため、車両減速時や下り坂走行時などの場合に、燃料噴射を一時的に停止(以下、「燃料カット」という)したり、内燃機関を一時停止したりすると、酸素を多量に含んだ排気がTWCに流入する。その結果、OSC材の結晶格子中に酸素が多量に取り込まれ、TWCのOSC材が酸素過剰状態となる。NOxは還元されて浄化されるところ、TWCのOSC材が酸素過剰状態のときに燃料噴射を再開したり内燃機関を再始動したりすると、NOx浄化率が一時的に低下する不具合が生じる。
【0007】
そこで、上述のような一時的なNOx浄化率の低下を回避するため、内燃機関の燃料カット復帰直後や内燃機関の再始動直後において、燃料噴射量を増量するとともに排気の空燃比をリッチに制御する技術が提案されている(特許文献3参照)。
この技術によれば、燃料カット復帰直後や内燃機関の再始動直後において、排気中のNOxを確実に浄化できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−144343号公報
【特許文献2】特開2003−343252号公報
【特許文献3】特開2003−172176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の技術では、内燃機関の燃料カット復帰直後や内燃機関の再始動直後において、排気の空燃比をリッチにすべく燃料噴射量を増量するため、燃費の悪化の問題が生じ、燃料カットや内燃機関の停止による燃費の改善効果が小さくなる。また、燃料噴射量の増量により、排気中のHC量が増加してエミッションの悪化を招く。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の燃料カットや内燃機関の停止による燃費の改善効果を損なわず、かつエミッションを悪化させることなく、排気中のNOxを効率良く浄化できる排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明に係る内燃機関(例えば、後述のエンジン2)の排気浄化装置(例えば、後述の排気浄化装置1)は、内燃機関の排気通路(例えば、後述の排気管4)に設けられ、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを捕捉可能なNOx捕捉触媒(例えば、後述のNOx捕捉触媒42)と、前記排気通路のうち前記NOx捕捉触媒の下流側に設けられ、排気中のNOxを浄化可能な三元触媒(例えば、後述のTWC43)と、排気の空燃比を制御する排気空燃比制御手段(例えば、後述のECU7)と、を備え、前記NOx捕捉触媒は、少なくともAgを含みかつ酸化物からなる担体を含んで構成され、前記排気空燃比制御手段は、所定の条件を満たすときには、前記内燃機関への燃料の供給を停止する燃料カット復帰後の所定時間の間、または前記内燃機関の再始動後の所定時間の間、排気の空燃比をリーンに制御することを特徴とする。
【0012】
本発明では、少なくともAgを含むNOx捕捉触媒と、三元触媒と、を排気通路の上流側から順次配置し、所定の条件を満たすときには、燃料カット復帰後の所定時間の間、または内燃機関の再始動後の所定時間の間、排気空燃比をリーンに制御する。
これにより、燃料カット復帰直後やエンジン再始動直後において、三元触媒に含まれるOSC材が酸素過剰状態となってNOxを効率良く浄化することができない状態になった場合には、三元触媒の上流側に配置されたNOx捕捉触媒によってNOxを捕捉できる。特に、本発明では、燃料カット復帰直後や内燃機関の再始動直後において、従来とは異なり、排気の空燃比をリッチではなくリーンに制御して排気中の酸素濃度を高めることにより、少なくともAgを含むNOx捕捉触媒のNOx捕捉能を向上させることができ、NOx捕捉触媒でNOxを効率良く捕捉できる。
従って、本発明によれば、内燃機関の燃料カットや内燃機関の停止による燃費の改善効果を損なわず、かつHCなどのエミッションを悪化させることなく、排気中のNOxを効率良く浄化できる。
【0013】
ここで、少なくともAgを含むNOx捕捉触媒が、酸素濃度を高めることによりNOx捕捉能が向上する理由について説明する。
少なくともAgを含むNOx捕捉触媒にNOxを含む排気が流入すると、下記式(1)で示されるNOの酸化反応が進行する。
[化1]

2NO+O→2NO …(1)

即ち、排気中に含まれるNOxの大部分を占めるNOが、上記式(1)に従って酸化されてNOに変換される。次いで、生成したNOは、NOx捕捉触媒の近傍に存在する余剰酸素によりNOに変換された後、NOx捕捉触媒に捕捉される。具体的には、NOx捕捉触媒中に含まれるAgが、NOx捕捉能が非常に高い還元銀の状態となる際に、NOx捕捉触媒の近傍に存在する余剰酸素に電子を供与し、この電子供与された酸素を通じてNOがNOに変換され、NOx捕捉触媒に捕捉される。
従って、NOx捕捉触媒の近傍に、ある程度の余剰酸素が存在していることがNOxの捕捉には重要であることから、排気中の酸素濃度を高めることによって、NOx捕捉触媒のNOx捕捉能を向上させることが可能となるのである。
【0014】
また、この発明では、前記NOx捕捉触媒の温度を検出または推定するNOx捕捉触媒温度検出手段(例えば、後述の排気温度センサ91、ECU7)をさらに備え、前記排気空燃比制御手段は、前記NOx捕捉触媒温度検出手段により検出または推定された前記NOx捕捉触媒の温度が所定温度を超えたときには、前記内燃機関への燃料の供給を停止する燃料カット復帰後の所定時間の間、または前記内燃機関の再始動後の所定時間の間、排気の空燃比をストイキに制御することが好ましい。
【0015】
この発明では、NOx捕捉触媒の温度が所定温度を超えたときには、燃料カット復帰後の所定時間の間、または内燃機関の再始動後の所定時間の間、排気空燃比をストイキに制御する。
NOx捕捉触媒が捕捉可能なNOxの量は、温度に依存しており、温度が上昇するにつれて一旦増大した後は、温度の上昇とともに、捕捉可能なNOx量、即ちNOx最大捕捉量は減少する。このため、NOx捕捉触媒の温度が、最低限必要なNOx最大捕捉量が得られる温度を超えたときには、排気の空燃比をリーンに制御したところで、NOx捕捉能の向上は望めない。
そこで、本発明では、NOx捕捉触媒の温度が所定温度を超えたときに、排気の空燃比をストイキに制御することにより、三元触媒のNOx浄化能を早期に回復させ、三元触媒によるNOxの還元浄化を促進する。これにより、NOxをより効率良く浄化でき、NOx排出量をより軽減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内燃機関の燃料カットや内燃機関の停止による燃費の改善効果を損なわず、かつエミッションを悪化させることなく、排気中のNOxを効率良く浄化できる内燃機関の排気浄化装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るNOx浄化処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】NOx捕捉触媒温度とNOx最大捕捉量ΣNOx_maxとの関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るNOx浄化処理を説明するためのタイムチャートである。
【図5】NOx捕捉触媒のNOx捕捉率と排気中の酸素濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置1の構成を示す図である。内燃機関(以下、「エンジン」という)2は、多気筒(例えば4気筒)を有するガソリンエンジンであり、図示しないインジェクタからの燃料噴射量QINJは、後述する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)7によって設定される。また、このインジェクタの開弁時間は、設定された燃料噴射量QINJが得られるように、ECU7からの駆動信号により制御される。
【0020】
エンジン2には、吸気が流通する吸気管3と、排気が流通する排気管4と、が設けられている。吸気管3は、図示しない吸気マニホールドの複数の分岐部を介してエンジン2の各気筒の吸気ポートに接続されている。排気管4は、図示しない排気マニホールドの複数の分岐部を介してエンジン2の各気筒の排気ポートに接続されている。
【0021】
吸気管3の上流側には、エンジン2の吸入空気量QAIRを制御する図示しないスロットルバルブが設けられている。このスロットルバルブは、アクチュエータを介してECU7に接続されており、その開度はECU7により電磁的に制御される。
【0022】
排気管4には、上流側から順に、NOx捕捉触媒42と、TWC43とが設けられている。排気管4のうち、NOx捕捉触媒42の上流側には、排気の温度を検出する排気温度センサ91が設けられている。
【0023】
NOx捕捉触媒42は、排気の空燃比がリーンのときに、排気中のNOxを捕捉可能な触媒である。ここで、「リーン」とは、完全燃焼反応における化学量論比であるストイキに対して、空燃比が大きい(燃料濃度が希薄)状態を意味し、「リッチ」とは、空燃比が小さい(燃料濃度が高い)状態を意味する。また、本実施形態において「捕捉」とは、吸着、吸収、吸蔵のいずれも含むことを意味する。
【0024】
NOx捕捉触媒42は、活性種として少なくともAgを含む。また、酸化物からなる担体を含んで構成される。好ましくは、NOx捕捉触媒42は、Agに加えて、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、およびゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を含んで構成される。
このような組成からなるNOx捕捉触媒42は、例えば、約100℃の低温領域から、NOxを酸化して捕捉することが可能である。
【0025】
NOx捕捉触媒42の調製方法については特に限定されず、従来公知の方法により調製される。例えば、所定量の硝酸銀に蒸留水を加えて撹拌し、完全に溶解させた後、所定量のベーマイトを加えて撹拌した後、所定の条件で乾燥させる。乾燥後、所定の条件で焼成を行うと、ベーマイトがアルミナに転移する。このようにして得られた触媒を粉砕することにより、目的のNOx捕捉触媒粉末が得られる。
【0026】
TWC43は、排気中に含まれるCOおよびHCを酸化して浄化するとともに、排気中に含まれるNOxを還元して浄化する。
好ましくは、TWC43は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、およびゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物からなる担体に、PtやRhなどの貴金属を担持させたものが用いられる。
【0027】
また、TWC43は、排気の雰囲気変動を緩和する目的で、上記の担体に加えて、OSC材としてCeOを含んで構成される。好ましくは、CeOのOSC耐久性を向上させる目的で、CeOとZrOとの複合酸化物が用いられる。
【0028】
TWC43の調製方法については特に限定されず、従来公知のスラリー法などにより調製される。具体的には、上記の酸化物、貴金属、OSC材などを含むスラリーを調製後、調製したスラリーをコージェライト製ハニカム支持体にコートして焼成することにより調製される。
【0029】
ECU7には、排気温度センサ91および図示しないエアフローセンサが接続されている。
排気温度センサ91は、排気管4のうちNOx捕捉触媒42の上流側に設けられており、NOx捕捉触媒42に流入する排気の温度を検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。NOx捕捉触媒42の温度は、排気温度センサ91の検出値に基づいて、ECU7により算出される。
エアフローセンサは、エンジン2に吸入される吸入空気量QAIRを検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。排気流量は、エアフローセンサの検出値に基づいて、ECU7により算出される。
【0030】
この他、ECU7には、図示しないクランク角センサ、アクセル開度センサ、およびイグニッションスイッチが接続されている。
【0031】
クランク角センサは、エンジン2のクランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号をECU7に送信する。このCRK信号は、所定のクランク角(例えば30°)ごとに送信される。アクセル開度センサは、図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)APを検出し、検出値に略比例した信号をECU7に送信する。イグニッションスイッチは、図示しない車両の運転席に設けられ、車両の起動または停止を指令する信号をECU7に送信する。
【0032】
ここで、エンジン2の回転数(以下、「エンジン回転数」という)NEは、クランク角センサから送信されたCRK信号に基づいて、ECU7により算出される。要求トルクTRQは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、予め格納されている所定のマップ(図示せず)を検索することによって、ECU7により算出される。
【0033】
ECU7は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下、「CPU」という)とを備える。この他、ECU7は、CPUで実行される各種演算プログラムおよび演算結果などを記憶する記憶回路と、インジェクタやスロットルバルブなどに制御信号を出力する出力回路と、を備える。以上のようなハードウェア構成により、ECU7には、以下に示すNOx浄化処理を実行するモジュールが構成される。
【0034】
次に、本実施形態に係るNOx浄化処理の手順について説明する。
図2は、本実施形態に係るNOx浄化処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態に係るNOx浄化処理は、エンジンの燃料カット復帰後の所定時間の間、NOx捕捉触媒の温度に応じて排気の空燃比をリーンまたはストイキに制御することにより、NOxを浄化する処理である。このNOx浄化処理は、イグニッションスイッチがONにされた後、ECUにより所定の周期で繰り返し実行される。
【0035】
ステップS1では、エンジンの燃料カットを実行中であるか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS2に進み、NOの場合には、ステップS3に進む。
ここで、エンジンの燃料カットは、例えば、車両が減速運転時や下り坂走行時において、アクセル開度APが所定の開度(例えば、0゜)にほぼ等しく、かつエンジン回転数NEが所定の回転数(例えば、1000rpm)よりも高いときに、ECU7により燃料噴射量QINJの値を0に制御して燃料の供給を停止することにより実行される。
【0036】
ステップS2では、後述する排気空燃比のリーン制御のため、リーンタイマをセットする。リーンタイマをセット後、本処理を終了する。このように、車両走行中は、燃料カット実行中であるか否かを所定の周期で判別する。
【0037】
ステップS3では、NOx捕捉触媒の温度が所定温度を超えたか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS4に進み、NOの場合には、ステップS5に進む。
具体的には、NOx捕捉触媒の温度は、NOx捕捉触媒の上流側の排気管に設けられた排気温度センサにより検出された排気温度に基づいて、ECUにより算出される。
また、所定温度は、予め実験により求めた図3に示すNOx捕捉触媒温度TLNTとNOx最大捕捉量ΣNOx_maxとの関係に基づいて、温度の上昇に伴ってNOx最大捕捉量がピークを超えた後に徐々に減少して最低限必要なNOx最大捕捉量ΣNOx_max_LMLとなるときのNOx捕捉触媒温度TLNT_THに設定される。
【0038】
ステップS4では、排気の空燃比をストイキに制御し、ステップS7に進む。即ち、本ステップでは、ステップS3でNOx捕捉触媒の温度が所定温度を超えたと判別され、最低限必要なNOx最大捕捉量ΣNOx_max_LMLが得られない場合であるため、排気の空燃比をリーンに制御することなく、ストイキに制御する。これにより、TWCでのNOx浄化能が早期に回復し、TWCによるNOxの還元浄化が促進される。
具体的には、インジェクタの開弁時間を制御して燃料噴射量QINJを調整するとともに、スロットルバルブの開度を制御して吸入空気量QAIRを調整するなどして、排気の空燃比をストイキに制御する。
【0039】
ステップS5では、リーンタイマが「0」であるか否かを判別する。この判別がNOの場合には、ステップS6に進み、YESの場合には、ステップS4に進んで、排気の空燃比をストイキに制御する。
【0040】
ステップS6では、排気の空燃比をリーンに制御した後、ステップS7に進む。
具体的には、インジェクタの開弁時間を制御して燃料噴射量QINJを減量し、スロットルバルブの開度を制御して吸入空気量QAIRを増量するなどして、排気の空燃比をリーンに制御する。
【0041】
ステップS7では、リーンタイマを減算し、減算後は本処理を終了する。本ステップにより、排気空燃比のリーン制御中において、リーンタイマが減算される。予め設定されたリーンタイマの減算中は、排気空燃比のリーン制御を継続し、リーンタイマが「0」になったときに、リーン制御を終了して本処理を終了する。
【0042】
なお、リーン制御終了後はストイキ制御に移行する。ここで、本実施形態では、NOx捕捉触媒はエンジン直下の排気管に配置されているため、エンジンの運転条件によっては、排気の温度が例えば350℃以上の所定温度以上に達し、このとき、NOx捕捉触媒に捕捉されたNOxは脱離する。従って、リーン制御からストイキ制御へ移行した後に、NOx捕捉触媒の温度がNOx脱離温度に達するように制御することで、下流側に配置されたTWCのNOx浄化作用を十分に発揮できる。
【0043】
図4は、本実施形態に係るNOx浄化処理を説明するためのタイムチャートである。
図4は、イグニッションスイッチをONにしてエンジンを始動させた後の車両走行時の例を示している。本実施形態では、通常、ストイキ運転が行われるため、排気の空燃比も通常はストイキの状態である。また、NOx捕捉触媒温度は、時間の経過とともに上昇する。
【0044】
先ず、時刻t1において、燃料カットの実行を開始する。このとき、リーンタイマをセットする(ステップS1〜2参照)。
【0045】
次いで、時刻t2において、燃料カットの実行を停止して復帰し、リーンタイマの減算を開始する。このとき、NOx捕捉触媒温度は、最低限必要な最大NOx捕捉量ΣNOx_max_LMLが得られるNOx捕捉触媒温度TLNT_THに達していないため、タイマ減算中は、排気の空燃比をリーンに制御する(ステップS3、6〜7参照)。
【0046】
次いで、時刻t3において、リーンタイマが「0」になると、排気の空燃比をリーン制御から通常のストイキ制御に移行する(ステップS5参照)。
【0047】
次いで、時刻t4になると、NOx捕捉触媒温度が、最低限必要な最大NOx捕捉量ΣNOx_max_LMLが得られるNOx捕捉触媒温度TLNT_THに達する。
【0048】
次いで、時刻t5において、燃料カットの実行を再開する。このとき、リーンタイマをセットする(ステップS1〜2参照)。
【0049】
次いで、時刻t6において、燃料カットの実行を停止して復帰し、リーンタイマの減算を開始する。このとき、NOx捕捉触媒温度は、最低限必要な最大NOx捕捉量ΣNOx_max_LMLが得られるNOx捕捉触媒温度TLNT_THを既に超えているため、タイマに関わらず、排気の空燃比をストイキに制御する(ステップS3〜4参照)。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、少なくともAgを含むNOx捕捉触媒42と、TWC43と、を排気管4の上流側から順次配置し、所定の条件を満たすときには、エンジン2の燃料カット復帰後の所定時間の間、排気空燃比をリーンに制御する。
これにより、燃料カット復帰直後において、TWC43に含まれるOSC材が酸素過剰状態となってNOxを効率良く浄化することができない状態になった場合には、TWC43の上流側に配置されたNOx捕捉触媒42によってNOxを捕捉できる。特に、本実施形態では、燃料カット復帰直後において、従来とは異なり、排気の空燃比をリッチではなくリーンに制御して排気中の酸素濃度を高めることにより、少なくともAgを含むNOx捕捉触媒42のNOx捕捉能を向上させることができ、NOx捕捉触媒42でNOxを効率良く捕捉できる。
従って、本実施形態によれば、エンジン2の燃料カットによる燃費の改善効果を損なわず、かつHCなどのエミッションを悪化させることなく、排気中のNOxを効率良く浄化できる。
【0051】
ここで、少なくともAgを含むNOx捕捉触媒42が、酸素濃度を高めることによりNOx捕捉能が向上する理由について説明する。
図5は、NOx捕捉触媒42のNOx捕捉率と排気中の酸素濃度との関係を示す図である。ここで、NOx捕捉率は、NOx捕捉触媒42を通過したNOxのうち、NOx捕捉触媒42に捕捉されたNOxの割合を意味する。図5に示すように、NOx捕捉触媒42のNOx捕捉率は、酸素濃度依存性を有する。具体的には、排気中の酸素濃度が0ppmの場合には、NOx捕捉触媒42のNOx捕捉率はほぼ0%であり、排気中の酸素濃度が5000ppm、10%、20%と高くなるに従って、NOx捕捉率が向上していることが分かる。
【0052】
少なくともAgを含むNOx捕捉触媒42にNOxを含む排気が流入すると、下記式(1)で示されるNOの酸化反応が進行する。
[化2]

2NO+O→2NO …(1)

即ち、排気中に含まれるNOxの大部分を占めるNOが、上記式(1)に従って酸化されてNOに変換される。次いで、生成したNOは、NOx捕捉触媒42の近傍に存在する余剰酸素によりNOに変換された後、NOx捕捉触媒42に捕捉される。具体的には、NOx捕捉触媒42中に含まれるAgが、NOx捕捉能が非常に高い還元銀の状態となる際に、NOx捕捉触媒42の近傍に存在する余剰酸素に電子を供与し、この電子供与された酸素を通じてNOがNOに変換され、NOx捕捉触媒42に捕捉される。
従って、NOx捕捉触媒42の近傍に、ある程度の余剰酸素が存在していることがNOxの捕捉には重要であることから、排気中の酸素濃度を高めることによって、NOx捕捉触媒42のNOx捕捉能を向上させることが可能となるのである。
【0053】
また、本実施形態では、NOx捕捉触媒42の温度が所定温度を超えたときには、エンジン2の燃料カット復帰後の所定時間の間、排気空燃比をストイキに制御する。
NOx捕捉触媒42が捕捉可能なNOxの量は、温度に依存しており、温度が上昇するにつれて増大してピークを超えた後は、温度の上昇とともに、捕捉可能なNOx量、即ちNOx最大捕捉量ΣNOx_maxは減少する(図3参照)。このため、NOx捕捉触媒42の温度が、最低限必要なNOx最大捕捉量ΣNOx_max_LMLが得られるNOx捕捉触媒温度TLNT_THを超えたときには、排気の空燃比をリーンに制御したところで、NOx捕捉能の向上は望めない。
そこで、本実施形態では、NOx捕捉触媒42の温度が所定のTLNT_THを超えたときに、排気の空燃比をストイキに制御することにより、TWC43のNOx浄化能を早期に回復させ、TWC43によるNOxの還元浄化を促進する。これにより、NOxをより効率良く浄化でき、NOx排出量をより軽減できる。
【0054】
本実施形態では、ECU7が、排気空燃比制御手段を構成する。また、図2のステップS1〜7の実行に係る手段が排気空燃比制御手段に相当する。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0056】
例えば、上記実施形態では、エンジンの燃料カット復帰後の所定時間の間、NOx捕捉触媒の温度に応じて排気の空燃比をリーンまたはストイキに制御するものであるが、これを、エンジンを停止してから再始動後の所定時間の間に適用してもよい。これは、電動モーターなどのエンジン以外の駆動手段を備えたハイブリッド車において、エンジンと他の駆動手段との切替え時に好ましく適用できる。
この場合には、上記実施形態に係るNOx浄化処理のステップS3において、エンジンが停止中であるか否かを判別すればよい。ここで、エンジンが停止中であるか否かは、例えば、イグニッションスイッチのON/OFF状態から推定でき、また、クランク角センサの検出信号からECUで算出されるエンジン回転数NEに基づいて判別することもできる。これにより、上記実施形態と同様の効果が奏され、特に、ハイブリッド車の利用によるエミッションのさらなる改善が期待できる。
【0057】
また、上記実施形態では、ガソリンエンジンに適用したが、これに限られず、ディーゼルエンジンに適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 排気浄化装置
2 エンジン(内燃機関)
4 排気管(排気通路)
42 NOx捕捉触媒
43 TWC(三元触媒)
7 ECU(排気空燃比制御手段、NOx捕捉触媒温度検出手段)
91 排気温度センサ(NOx捕捉触媒温度検出手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを捕捉可能なNOx捕捉触媒と、
前記排気通路のうち前記NOx捕捉触媒の下流側に設けられ、排気中のNOxを浄化可能な三元触媒と、
排気の空燃比を制御する排気空燃比制御手段と、を備え、
前記NOx捕捉触媒は、少なくともAgを含みかつ酸化物からなる担体を含んで構成され、
前記排気空燃比制御手段は、所定の条件を満たすときには、前記内燃機関への燃料の供給を停止する燃料カット復帰後の所定時間の間、または前記内燃機関の再始動後の所定時間の間、排気の空燃比をリーンに制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記NOx捕捉触媒の温度を検出または推定するNOx捕捉触媒温度検出手段をさらに備え、
前記排気空燃比制御手段は、前記NOx捕捉触媒温度検出手段により検出または推定された前記NOx捕捉触媒の温度が所定温度を超えたときには、前記内燃機関への燃料の供給を停止する燃料カット復帰後の所定時間の間、または前記内燃機関の再始動後の所定時間の間、排気の空燃比をストイキに制御することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−106383(P2011−106383A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263993(P2009−263993)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】