説明

内燃機関の点火時期制御装置

【課題】排気還流率の大小にかかわらず、点火時期を、出力トルクの低下、ノッキングの発生、失火の発生等を安定して抑制し得る時期に決定すること。
【解決手段】燃焼室内に吸入される新気の量をMaとし、外部及び内部還流機構により燃焼室内に還流される排ガスの量をそれぞれMegre,Megriとすると、排気還流率Regrは、(Megre+Megri)/(Ma+Megre+Megri)と定義される。内燃機関の運転状態に基づいてRegr=0の場合において適合された基本点火時期が決定される。Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が「下に凸」となるようにIGadが決定される。最終的な点火時期が、基本点火時期を進角量IGadだけ進角した時期に決定される。排気還流率Regrが特に大きい運転領域での進角量の不足と排気還流率Regrが特に小さい運転領域での進角量の過剰とを同時に解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火時期制御装置に関する。以下、内燃機関を「機関」と称呼することもある。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃焼室から排出された排ガスを吸気側(従って、燃焼室内)に還流させる排気還流機構を備えた内燃機関が広く知られている。排気還流機構としては、例えば、吸気通路と排気通路とを連通する排気還流通路に介装された排気還流弁の開度を制御して排気還流通路を介して排気通路から吸気通路へと還流される排ガスの量を制御する外部還流機構と、吸気弁及び排気弁が共に開状態に維持される期間(オーバーラップ期間)の長さを制御して燃焼室を介して排気通路から吸気通路へと還流される排ガスの量を制御する内部還流機構と、が知られている。排気還流機構により排ガスを燃焼室内に還流させることで、燃焼温度の低下により窒素酸化物(NOx)の排出を抑制し、並びに、所謂ポンピングロスの低減等により燃費を向上させることができる。
【0003】
排ガスを燃焼室内に還流させる場合、燃焼温度の低下等により、燃焼室内での燃料の燃焼速度(燃焼伝搬)が小さくなり、且つ、点火プラグの点火から燃料の着火までの時間(着火遅れ時間)が長くなる。この結果、燃焼に起因する燃焼室圧力のピークに対応する時期が遅れて出力トルクが低下する、或いは、失火が発生する等の問題が生じ得る。これらの問題に対処するため、点火時期(燃焼室内の混合気に点火指示する時期)を進角させることが考えられる。加えて、燃焼温度の低下により、点火時期を進角させてもノッキングが発生し難い。以上のことから、排ガスを燃焼室内に還流させる場合、点火時期を進角させる技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−16609号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、排ガスを燃焼室内に還流させる場合において点火時期を進角させる場合、進角量をどのように決定するかが重要である。以下、燃焼室内に(1吸気行程あたりに)充填されるガスの全量を「全ガス量」と称呼し、排気還流機構により燃焼室内に(1吸気行程あたりに)還流される排ガスの全量を「全排ガス還流量」と称呼し、「全ガス量」に対する「全排ガス還流量」の割合を「排気還流率」と称呼する。
【0005】
一般には、排気還流率と進角量とが比例するように進角量を決定することが考えられる。この場合、排気還流率の増加に対する進角量の増加勾配が排気還流率にかかわらず一定となるように進角量が決定される。この場合、進角量の増加勾配(一定)が小さいと、排気還流率が特に大きい運転領域において進角量が不足し、この結果、失火の発生等の問題が発生し得ることが判明した。これは、排気還流率が特に大きい運転領域では、燃料の燃焼速度が急激に小さくなり、且つ、着火遅れ時間が急激に長くなること等に起因するものと考えられる。
【0006】
一方、これに対処するため、進角量の増加勾配(一定)を大きくすると、排気還流率が特に小さい運転領域において進角量が過剰となり、この結果、出力トルクの低下、ノッキングの発生等の問題が発生し得ることも判明した。換言すれば、排気還流率の増加に対する進角量の増加勾配が排気還流率にかかわらず一定の場合、進角量の増加勾配(一定)をどのように設定しても、排気還流率が特に大きい運転領域での進角量の不足と排気還流率が特に小さい運転領域での進角量の過剰とを同時に解消することはできない。
【0007】
以上より、本発明の目的は、排ガスを燃焼室内に還流させる場合において、点火時期を、出力トルクの低下、ノッキングの発生、失火の発生等を排気還流率の大小にかかわらず安定して抑制し得る時期に決定できる内燃機関の点火時期制御装置を提供することにある。
【0008】
本発明に係る内燃機関の点火時期制御装置では、前記排気還流機構と、前記内燃機関の運転状態に基づいて点火時期を決定する点火時期決定手段とが備えられる。ここにおいて、前記排気還流機構は、外部還流機構及び内部還流機構の何れか一方のみを備えていても、両方を備えていてもよい。
【0009】
この点火時期制御装置の特徴は、前記点火時期決定手段により、排気還流率の増加に対する点火時期の進角側への移動量の増加勾配が排気還流率の増加に伴って増大するように点火時期が決定されることにある。
【0010】
より具体的には、前記点火時期決定手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて(排気還流率がゼロの場合に対応する)点火時期である基本点火時期を決定する基本点火時期決定手段と、前記排気還流率の増加に対する前記点火時期の進角量の増加勾配が前記排気還流率の増加に伴って増大するように前記進角量を決定する進角量決定手段と、を備え、前記点火時期を、前記基本点火時期から前記進角量だけ進角した時期に決定するように構成され得る。
【0011】
これによれば、排気還流率の増加に対する進角量の増大特性が、所謂「下に凸」の特性となる。従って、上述のように排気還流率の増加に対する進角量の増加勾配が一定の場合と異なり、排気還流率の増加に対する進角量の増大特性を、排気還流率が特に大きい運転領域での進角量の不足と排気還流率が特に小さい運転領域での進角量の過剰とを同時に解消できるように設定することが可能となる。この結果、排気還流率の大小にかかわらず、点火時期を、出力トルクの低下、ノッキングの発生、失火の発生等を安定して抑制し得る時期に決定することができる。
【0012】
上記点火時期制御装置において、前記排気還流機構として前記外部還流機構と前記内部還流機構とを共に備えている場合を考える。前記外部還流機構により前記燃焼室内に(1吸気行程あたりに)還流される排ガスの量を「外部排ガス還流量」と称呼し、前記内部還流機構により前記燃焼室内に(1吸気行程あたりに)還流される排ガスの量を「内部排ガス還流量」と称呼し、「外部排ガス還流量」と「内部排ガス還流量」との和(前記全排ガス還流量)に対する「外部排ガス還流量」の割合を「外部排気還流率」と称呼するものとする。また、外部還流機構により燃焼室内に還流される排ガスを「外部還流ガス」と称呼し、内部還流機構により燃焼室内に還流される排ガスを「内部還流ガス」と称呼するものとする。
【0013】
この場合、前記外部排気還流率が大きいほど前記点火時期がより進角側の時期に決定されることが好適である。より具体的には、前記外部排気還流率が大きいほど前記進角量がより大きい値に決定され得る。
【0014】
外部還流ガスは、比較的温度が低い排気還流通路(クーラー等が介装されている場合もある)を介して排気通路から吸気通路(従って、燃焼室)へと還流されるガスであり、内部還流ガスは、高温の燃焼室を介して排気通路から吸気通路(従って、燃焼室)へと還流されるガスである。従って、一般に、外部還流ガスの温度は内部還流ガスの温度よりも低い。よって、(排気還流率が一定の場合において)外部排気還流率が大きいほど、圧縮上死点での未燃状態での燃焼室内のガス温度(以下、「圧縮端温度」と称呼する。)が低くなる。この結果、燃焼温度が低くなるから、上述のように、燃焼速度が小さくなり、且つ着火遅れ時間が長くなる。
【0015】
以上のことから、(排気還流率が一定の場合において)外部排気還流率が大きいほど、点火時期をより進角側の時期に決定すること(具体的には、前記進角量をより大きい値に決定すること)が好ましいと考えられる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、外部排気還流率が特に大きい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0016】
また、上記点火時期制御装置において、前記全ガス量が小さいほど前記点火時期がより進角側の時期に決定されることが好適である。より具体的には、前記全ガス量が小さいほど前記進角量がより大きい値に決定され得る。
【0017】
一般に、(排気還流率が一定の場合において)全ガス量が小さいほど、圧縮端温度が低くなる。従って、(排気還流率が一定の場合において)全ガス量が小さいほど、点火時期をより進角側の時期に決定すること(具体的には、前記進角量をより大きい値に決定すること)が好ましいと考えられる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、全ガス量が特に小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0018】
また、上記点火時期制御装置において、機関の運転速度が小さいほど前記点火時期がより進角側の時期に決定されることが好適である。より具体的には、運転速度が小さいほど前記進角量がより大きい値に決定され得る。
【0019】
運転速度が小さいほど、圧縮行程に要する時間が長くなり、圧縮された燃焼室内のガスが有する熱の燃焼室壁を介する外部へ損失が大きくなる。従って、(排気還流率が一定の場合において)運転速度が小さいほど、圧縮端温度が低くなる。従って、(排気還流率が一定の場合において)運転速度が小さいほど、点火時期をより進角側の時期に決定すること(具体的には、前記進角量をより大きい値に決定すること)が好ましいと考えられる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、運転速度が特に小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0020】
また、上記点火時期制御装置において、前記内燃機関の運転状態に基づいて吸気弁の閉弁時期を変更する吸気弁閉弁時期制御機構を備えている場合を考える。この場合、吸気弁の閉弁時期が遅角側であるほど前記点火時期がより進角側の時期に決定されることが好適である。より具体的には、吸気弁の閉弁時期が遅角側であるほど前記進角量がより大きい値に決定され得る。
【0021】
吸気弁の閉弁時期が遅角側であるほど、圧縮行程において燃焼室内のガスの圧縮が開始される時期(クランク角度)が遅くなり、実質的な圧縮比が小さくなる。この結果、(排気還流率が一定の場合において)吸気弁の閉弁時期が遅角側であるほど、圧縮端温度が低くなる。従って、(排気還流率が一定の場合において)吸気弁の閉弁時期が遅角側であるほど、点火時期をより進角側の時期に決定すること(具体的には、前記進角量をより大きい値に決定すること)が好ましいと考えられる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、吸気弁の閉弁時期が特に遅角側である場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0022】
また、上記点火時期制御装置において、前記内燃機関の運転状態に基づいて機械圧縮比(圧縮下死点での燃焼室の容積を圧縮上死点での燃焼室の容積で除した値)を変更する機械圧縮比制御機構を備えている場合を考える。この場合、機械圧縮比が小さいほど前記点火時期がより進角側の時期に決定されることが好適である。より具体的には、機械圧縮比が小さいほど前記進角量がより大きい値に決定され得る。
【0023】
機械圧縮比が小さいほど、圧縮端温度が低くなる。従って、(排気還流率が一定の場合において)機械圧縮比が小さいほど、点火時期をより進角側の時期に決定すること(具体的には、前記進角量をより大きい値に決定すること)が好ましいと考えられる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、機械圧縮比が特に小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0024】
また、上記点火時期制御装置において、前記内燃機関の運転状態に基づいて吸気通路から前記燃焼室に流入するガスの流速(或いは、吸気通路の最少開口面積)を変更する流速制御機構を備えている場合を考える。この場合、ガス流速が小さい(吸気通路の最小開口面積が大きい)ほど前記点火時期がより進角側の時期に決定されることが好適である。より具体的には、ガス流速が小さい(吸気通路の最小開口面積が大きい)ほど前記進角量がより大きい値に決定され得る。
【0025】
ガス流速が小さいほど、燃焼室内に充填されたガスの乱れが小さい。ガスの乱れが小さいほど、ガス内の酸素と燃料とが出会う機会が少なくなって燃焼速度が小さくなり、且つ、着火遅れ時間が長くなる。以上のことから、(排気還流率が一定の場合において)ガス流速が小さい(吸気通路の最小開口面積が大きい)ほど、点火時期をより進角側の時期に決定すること(具体的には、前記進角量をより大きい値に決定すること)が好ましいと考えられる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、ガス流速が小さい(吸気通路の最小開口面積が大きい)場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明による内燃機関の点火時期制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る点火時期制御装置(以下、「本装置」とも称呼する。)を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。この内燃機関10は、シリンダブロック、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排気ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
【0028】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
【0029】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに吸気弁32の開閉タイミングを連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び燃料を吸気ポート31内にて噴射する燃料噴射弁39を備えている。
【0030】
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁43、スロットル弁43を駆動するスロットル弁アクチュエータ43a、吸気通路から燃焼室25に流入する吸気の流速を可変とするスワールコントロール弁(SC弁)44、及び、SC弁44を駆動するSC弁アクチュエータ44aを備えている。
【0031】
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51(実際には、各排気ポート34に連通したそれぞれのエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に接続されたエキゾーストパイプ(排気管)52、エキゾーストパイプ52に配設(介装)された三元触媒53、EGRガス通路54を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
【0032】
EGRガス通路54は、三元触媒53よりも上流の排気通路と、スロットル弁43よりも下流の吸気通路とを連通するように構成されている。EGRガス通路54には、EGRガスクーラ55、EGR弁56、EGR弁56のアクチュエータ56aが介装されている。EGR弁56のアクチュエータ56aにより、EGR弁56の開口面積が調整可能となっている。
【0033】
一方、このシステムは、エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、カムポジションセンサ63、クランクポジションセンサ64、水温センサ65、三元触媒53の上流の排気通路(本例では、上記各々のエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に配設された空燃比センサ66、EGR弁開度センサ67、アクセル開度センサ68を備えている。
【0034】
エアフローメータ61は、吸気通路を流れる新気の流量(質量流量)を検出し、新気流量Gaを表す信号を出力するようになっている。スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁43の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。カムポジションセンサ63は、吸気弁32の開閉タイミングを検出し、開閉タイミングVVTを表す信号を出力するようになっている。クランクポジションセンサ64は、クランク軸24の回転速度を検出し、エンジン回転速度NEを表す信号を出力するようになっている。水温センサ65は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。空燃比センサ66は、排ガスの空燃比を検出し、空燃比を表す信号を出力するようになっている。EGR弁開度センサ67は、EGR弁56の開度を検出し、EGR弁開度Aegrを表す信号を出力するようになっている。アクセル開度センサ68は、運転者によって操作されるアクセルペダル81の操作量を検出し、アクセルペダル81の操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
【0035】
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、CPU71が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(マップ)、及び定数等を予め記憶したROM72、RAM73、バックアップRAM74、並びにADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。
【0036】
インターフェース75は、前記センサ61〜68に接続され、CPU71にセンサ61〜68からの信号を供給するとともに、同CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、燃料噴射弁39、スロットル弁アクチュエータ43a、SC弁アクチュエータ44a、及びEGR弁56のアクチュエータ56aへ駆動信号を送出するようになっている。
【0037】
これにより、吸気弁32の開閉タイミング、EGR弁56の開度、及びSC弁44の開度が、運転状態(アクセルペダル操作量Accp、及びエンジン回転速度NE)に基づいて調整されるようになっている。運転状態として、アクセルペダル操作量Accpに代えて、(1吸気行程あたりに)燃焼室内に吸入される新気の量(吸入新気量Ma)が採用されてもよいし、吸入新気量Maから算出される負荷率KLが採用されてもよい。また、スロットル弁開度が、運転状態(アクセルペダル操作量Accp)に基づいて調整されるようになっている。また、吸入新気量Maに応じた量の燃料が所定のタイミング(例えば、排気行程の後期)で燃料噴射弁39から噴射されるようになっている。点火時期(CPU71によりイグナイタ38に点火指示がなされる時期)の調整については後述する。
【0038】
(排気還流と点火時期)
本装置は、外部還流機構と内部還流機構を備える。外部還流機構では、EGR弁56の開度を調整することで、排気通路から吸気通路(従って、燃焼室25)へと還流される排ガス(外部還流ガス)が(1吸気行程あたりに)燃焼室内に還流される量(外部排ガス還流量Megre)が調整される。内部還流機構では、吸気弁32の開閉タイミング(従って、吸排気弁が共に開状態となるオーバーラップ期間OL)を調整することで、排気通路から吸気通路(従って、燃焼室25)へと還流される排ガス(内部還流ガス)が(1吸気行程あたりに)燃焼室内に還流される量(内部排ガス還流量Megri)が調整される。
【0039】
排ガスを燃焼室内に還流させると、燃焼温度が低下する。従って、燃焼室内での燃料の燃焼速度が小さくなり、且つ、点火プラグ37による点火から燃料の着火までの時間(着火遅れ時間)が長くなる。この結果、燃焼室25内の圧力のピークに対応する時期が遅れて出力トルクが低下する、或いは、失火が発生する等の問題が生じ得る。
【0040】
ここで、燃焼室25内に(1吸気行程あたりに)充填されるガスの全量を「全ガス量Mc」と称呼し、外部及び内部排気還流機構により燃焼室25内に(1吸気行程あたりに)還流される排ガスの全量を「全排ガス還流量Megrt」と称呼し、全ガス量Mcに対する全排ガス還流量Megrtの割合を「排気還流率Regr」と称呼する。Megrt=Megre+Megri、Mc=Ma+Megrtが成立する。
【0041】
排気還流率Regrが大きいほど、燃焼温度が低下する程度が大きくなって失火発生等の問題が発生し易くなる。従って、本装置では、排気還流率Regrが大きいほど、点火時期がより進角側へ調整される。以下、係る点火時期の制御について図2にフローチャートにて示したルーチンを参照しながら説明する。図2に示したルーチンは、CPU71により吸気行程毎に実行される。なお、以下、MapX(a,b,…)は、a,b,…を引数とする、Xを求めるための予め作製されたテーブル(マップ)を意味する。
【0042】
(点火時期制御)
先ず、ステップ205では、現在のエンジン回転速度NE及び新気流量Gaと、MapMa(NE,Ga)とに基づいて、今回の吸気行程において燃焼室25内に吸入された新気の量である上記吸入新気量Maが取得される。
【0043】
次に、ステップ210では、現在のEGR弁開度Aegr、吸気通路内の圧力Pm、排気通路内の圧力Pe、及びエンジン回転速度NEと、MapMegre(Aegr,Pm,Pe,NE)とに基づいて、今回の吸気行程において燃焼室25内に還流された外部還流ガスの量である上記外部排ガス還流量Megreが取得される。
【0044】
次に、ステップ215では、現在のオーバーラップ期間OL、吸気通路内の圧力Pm、排気通路内の圧力Pe、及びエンジン回転速度NEと、MapMegri(OL,Pm,Pe,NE)とに基づいて、今回の吸気行程において燃焼室25内に還流された内部還流ガスの量である上記内部排ガス還流量Megriが取得される。ここで、PM,PEは、例えば、図示しないセンサにより直接検出されてもよいし、公知の計算手法(モデル等)を利用して計算により推定されてもよい。
【0045】
次に、ステップ220では、上述のように取得されたMa,Megre,Megriを足し合わせて全ガス量Mcが算出される。続くステップ225では、上述のように取得されたMegre,Megriを足し合わせて全排ガス還流量Megrtが算出される。続くステップ230では、上述のように取得されたMegrtをMcで除することで排気還流率Regrが算出される。
【0046】
次に、ステップ235では、エンジン回転速度NE及び吸入新気量Maと、MapIGbase(NE,Ma)とに基づいて、基本点火時期IGbaseが決定される。基本点火時期IGbaseとは、排気還流率Regr=0の場合において適合された点火時期である。
【0047】
次に、ステップ240では、排気還流率Regrと、MapIGad(Regr)とに基づいて、進角量IGadが決定される。図3に示すように、MapIGad(Regr)では、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増加勾配が排気還流率Regrの増加に伴って徐々に増大するように進角量IGadが決定される。換言すれば、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が、所謂「下に凸」の特性となる。進角量IGadとは、排気還流率Regr>0の場合において点火時期を基本点火時期IGbaseから進角させる際の進角量である。Regr=0では、IGad=0となる。
【0048】
即ち、次のステップ245では、最終的な点火時期IGがIGbaseからIGadだけ進角した時期に決定される。そして、ステップ250では、点火時期IGにて燃焼室25内の混合気に点火するように点火プラグ37(イグナイタ38)が指示される。
【0049】
以上より、排気還流率Regrの増加に対する、基本点火時期IGbaseからの進角側への点火時期IGの移動量の増加勾配が、排気還流率Regrの増加に伴って増大するように、点火時期IGが決定される。以下、このように点火時期IGが決定されることにより作用・効果について説明する。
【0050】
一般に、排気還流率が大きいほど、燃焼速度が小さくなり且つ着火遅れ時間が長くなる。しかしながら、排気還流率が特に大きい運転領域では、排気還流率の増大につれて、燃料の燃焼速度が急激に小さくなり、且つ、着火遅れ時間が急激に長くなる傾向がある。従って、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増加勾配が排気還流率Regrにかかわらず一定となるように進角量IGadが設定されると(即ち、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が直線で表わされるように進角量IGadが設定されると)、進角量IGadの増加勾配(一定)をどのように設定しても、排気還流率が特に大きい運転領域で発生する進角量の不足と、排気還流率が特に小さい運転領域で発生する進角量の過剰と、を同時に解消することはできない。
【0051】
これに対し、本装置では、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が所謂「下に凸」の特性(図3を参照)となる。この結果、排気還流率の増加に対する進角量の増大特性を、排気還流率が特に大きい領域は進角量が十分に大きく、且つ、排気還流率が特に小さい領域では進角量が十分に小さくなるように設定することが可能となる。従って、排気還流率が特に大きい運転領域での進角量の不足と排気還流率が特に小さい運転領域での進角量の過剰とを同時に解消できる。
【0052】
以上、上記実施形態に係る内燃機関の点火時期制御装置によれば、排気還流率Regrの大小にかかわらず、進角量IGadが過不足なき適切な値に設定され得る。従って、排気還流率Regrの大小にかかわらず、出力トルクの低下、ノッキングの発生、失火の発生等が安定して抑制され得るように、点火時期IGが決定され得る。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、図4に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ405、410で置き換えてもよい。「Megre/Megrt」を「外部排気還流率」と称呼する。
【0054】
ステップ405では、図5に示したMapK1(Megre/Megrt)を用いて係数K1(>0)が取得される。図5から理解できるように、外部排気還流率が大きいほど係数K1がより大きい値に決定される。ここで、値aは、図3に示したMapIGad(Regr)を作製するために行われた進角量IGadの適合実験中に亘って外部排気還流率が一定に維持された値である。
【0055】
ステップ410では、最終的な点火時期IGが、IGbaseから「IGad・K1」だけ進角した時期に決定される。即ち、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K1」が使用される。この結果、排気還流率Regrが一定の場合において、外部排気還流率が大きいほど、進角量がより大きい値に決定されて点火時期IGがより進角側の時期に決定される。このように係数K1を用いて点火時期IGを補正するのは以下の理由に基づく。
【0056】
外部還流ガスと内部還流ガスとの温度を比較する。外部還流ガスは、EGRガスクーラ55が介装されたEGRガス通路54を介して排気通路から吸気通路(従って、燃焼室25)へと還流されるガスである。従って、外部還流ガスの温度は比較的低い。一方、内部還流ガスは、高温の燃焼室25を介して排気通路から吸気通路(従って、燃焼室)へと還流されるガスである。従って、内部還流ガスの温度は比較的高い。即ち、外部還流ガスの温度は内部還流ガスの温度よりも低い。よって、(排気還流率Regrが一定の場合において)外部排気還流率が大きいほど、圧縮端温度が低くなる。圧縮端温度が低下すると、燃焼温度が低くなるから、燃焼速度が小さくなり、且つ着火遅れ時間が長くなる。
【0057】
従って、(排気還流率Regrが一定の場合において)外部排気還流率が大きいほど、点火時期をより進角側の時期に決定することが好ましい。以上のことから、係数K1を用いて点火時期IGが補正される。これにより、外部排気還流率が特に大きい場合において、失火の発生等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0058】
図4に示した変形例では、図3に示したMapIGad(Regr)を用いて進角量IGadを求め、この進角量IGadを、図5に示したMapK1(Megre/Megrt)を用いて求めた係数K1で補正して最終的な進角量(=IGad・K1)が決定されているが、MapIGad(Regr,Megre/Megrt)を用いて「IGad・K1」に相当する最終的な進角量IGadを一時に決定してもよい。
【0059】
また、図6に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ605、610で置き換えてもよい。
【0060】
ステップ605では、図7に示したMapK2(Mc)を用いて係数K2(>0)が取得される。図7から理解できるように、全ガス量Mcが小さいほど係数K2がより大きい値に決定される。ここで、値bは、図3に示したMapIGad(Regr)を作製するために行われた進角量IGadの適合実験中に亘って全ガス量Mcが一定に維持された値である。
【0061】
ステップ610では、最終的な点火時期IGが、IGbaseから「IGad・K2」だけ進角した時期に決定される。即ち、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K2」が使用される。この結果、排気還流率Regrが一定の場合において、全ガス量Mcが小さいほど、進角量がより大きい値に決定されて点火時期IGがより進角側の時期に決定される。このように係数K2を用いて点火時期IGを補正するのは以下の理由に基づく。
【0062】
一般に、全ガス量Mcが小さいほど、圧縮端温度が低くなる傾向がある。従って、(排気還流率Regrが一定の場合において)全ガス量Mcが小さいほど、点火時期をより進角側の時期に決定することが好ましい。以上のことから、係数K2を用いて点火時期IGが補正される。これにより、全ガス量Mcが特に小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0063】
図6に示した変形例では、図3に示したMapIGad(Regr)を用いて進角量IGadを求め、この進角量IGadを、図7に示したMapK2(Mc)を用いて求めた係数K2で補正して最終的な進角量(=IGad・K2)が決定されているが、MapIGad(Regr,Mc)を用いて「IGad・K2」に相当する最終的な進角量IGadを一時に決定してもよい。
【0064】
また、図8に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ805、810で置き換えてもよい。
【0065】
ステップ805では、図9に示したMapK3(NE)を用いて係数K3(>0)が取得される。図9から理解できるように、エンジン回転速度NEが小さいほど係数K3がより大きい値に決定される。ここで、値cは、図3に示したMapIGad(Regr)を作製するために行われた進角量IGadの適合実験中に亘ってエンジン回転速度NEが一定に維持された値である。
【0066】
ステップ810では、最終的な点火時期IGが、IGbaseから「IGad・K3」だけ進角した時期に決定される。即ち、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K3」が使用される。この結果、排気還流率Regrが一定の場合において、エンジン回転速度NEが小さいほど、進角量がより大きい値に決定されて点火時期IGがより進角側の時期に決定される。このように係数K3を用いて点火時期IGを補正するのは以下の理由に基づく。
【0067】
エンジン回転速度NEが小さいほど、圧縮行程に要する時間が長くなる。このことは、圧縮された燃焼室内のガスが有する熱が燃焼室壁を介して外部へ逃げる程度が大きくなることを意味する。従って、エンジン回転速度NEが小さいほど、圧縮端温度が低くなる。従って、(排気還流率Regrが一定の場合において)エンジン回転速度NEが小さいほど、点火時期をより進角側の時期に決定することが好ましい。以上のことから、係数K3を用いて点火時期IGが補正される。これにより、エンジン回転速度NEが特に小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0068】
図8に示した変形例では、図3に示したMapIGad(Regr)を用いて進角量IGadを求め、この進角量IGadを、図9に示したMapK3(NE)を用いて求めた係数K3で補正して最終的な進角量(=IGad・K3)が決定されているが、MapIGad(Regr,NE)を用いて「IGad・K3」に相当する最終的な進角量IGadを一時に決定してもよい。
【0069】
また、図10に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ1005、1010で置き換えてもよい。吸気弁32の閉弁時期を「IVC」と称呼する。
【0070】
ステップ1005では、図11に示したMapK4(IVC)を用いて係数K4(>0)が取得される。図11から理解できるように、IVCが遅角側であるほど係数K4がより大きい値に決定される。ここで、値dは、図3に示したMapIGad(Regr)を作製するために行われた進角量IGadの適合実験中に亘ってIVCが一定に維持された値(時期)である。
【0071】
ステップ1010では、最終的な点火時期IGが、IGbaseから「IGad・K4」だけ進角した時期に決定される。即ち、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K4」が使用される。この結果、排気還流率Regrが一定の場合において、IVCが遅角側であるほど、進角量がより大きい値に決定されて点火時期IGがより進角側の時期に決定される。このように係数K4を用いて点火時期IGを補正するのは以下の理由に基づく。
【0072】
IVCが遅角側であるほど、圧縮行程において燃焼室内のガスの圧縮が開始される時期(クランク角度)が遅くなる。このことは、実質的な圧縮比が小さくなることを意味する。従って、IVCが遅角側であるほど、圧縮端温度が低くなる。よって、(排気還流率Regrが一定の場合において)IVCが遅角側であるほど、点火時期をより進角側の時期に決定することが好ましい。以上のことから、係数K4を用いて点火時期IGが補正される。これにより、IVCが特に遅角側である場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0073】
図10に示した変形例では、図3に示したMapIGad(Regr)を用いて進角量IGadを求め、この進角量IGadを、図11に示したMapK4(IVC)を用いて求めた係数K4で補正して最終的な進角量(=IGad・K4)が決定されているが、MapIGad(Regr,IVC)を用いて「IGad・K4」に相当する最終的な進角量IGadを一時に決定してもよい。
【0074】
また、内燃機関が、運転状態に応じて機械圧縮比εを変更する機械圧縮比制御機構を備えている場合、図12に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ1205、1210で置き換えてもよい。機械圧縮比εとは、圧縮下死点での燃焼室25の容積を圧縮上死点25での燃焼室の容積で除した値である。この機械圧縮比制御機構としては、ピストン22のストロークを変更する形式のもの、燃焼室25の形状を変更するもの等、周知のものが使用される。これらの構成については周知であるから詳細な説明を省略する。
【0075】
ステップ1205では、図13に示したMapK5(ε)を用いて係数K5(>0)が取得される。図13から理解できるように、εが小さいほど、係数K5がより大きい値に決定される。ここで、値eは、図3に示したMapIGad(Regr)を作製するために行われた進角量IGadの適合実験中に亘ってεが一定に維持された値である。
【0076】
ステップ1210では、最終的な点火時期IGが、IGbaseから「IGad・K5」だけ進角した時期に決定される。即ち、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K5」が使用される。この結果、排気還流率Regrが一定の場合において、εが小さいほど、進角量がより大きい値に決定されて点火時期IGがより進角側の時期に決定される。このように係数K5を用いて点火時期IGを補正するのは以下の理由に基づく。
【0077】
機械圧縮比εが小さいほど、圧縮端温度が低くなる。従って、(排気還流率Regrが一定の場合において)εが小さいほど、点火時期をより進角側の時期に決定することが好ましい。以上のことから、係数K5を用いて点火時期IGが補正される。これにより、機械圧縮比εが特に小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0078】
図12に示した変形例では、図3に示したMapIGad(Regr)を用いて進角量IGadを求め、この進角量IGadを、図13に示したMapK5(ε)を用いて求めた係数K5で補正して最終的な進角量(=IGad・K5)が決定されているが、MapIGad(Regr,ε)を用いて「IGad・K5」に相当する最終的な進角量IGadを一時に決定してもよい。
【0079】
また、図14に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ1405、1410で置き換えてもよい。本例では、各気筒について、2つの吸気弁32が設けられ、吸気通路における吸気弁32に近い部分において、吸気通路を各吸気弁32にそれぞれ通じる2つの通路に仕切るための隔壁が吸気通路に沿って形成されている。SC弁44として、「閉」状態と「開」状態の何れかが運転状態に応じて選択的に採られる形式のものが使用される。「閉」状態とは、2つの吸気弁32にそれぞれ通じる2つの通路の一方のみが塞がれている状態を指し、「開」状態とは、2つの吸気弁32にそれぞれ通じる2つの通路が共に塞がれていない状態を指す。即ち、「開」状態では、(スロットル弁43の下流側の)吸気通路の最小開口面積が大きくて吸気通路から燃焼室25に流入する吸気の流速が小さい。一方、「閉」状態では、(スロットル弁43の下流側の)吸気通路の最小開口面積が小さくて吸気通路から燃焼室25に流入する吸気の流速が大きい。
【0080】
ステップ1405では、図15に示したMapK6(SC弁:開or閉)を用いて係数K6(>0)が取得される。図15から理解できるように、「閉」状態では、係数K6は「1」に決定される一方、「開」状態では、係数K6は「1」より大きい値に決定される。図3に示したMapIGad(Regr)を作製するために行われた進角量IGadの適合実験中に亘って、SC弁44は「閉」状態に維持されている。
【0081】
ステップ1410では、最終的な点火時期IGが、IGbaseから「IGad・K6」だけ進角した時期に決定される。即ち、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K6」が使用される。この結果、排気還流率Regrが一定の場合において、SC弁44が「開」状態になると、進角量がより大きい値に決定されて点火時期IGがより進角側の時期に決定される。このように係数K6を用いて点火時期IGを補正するのは以下の理由に基づく。
【0082】
吸気の流速が小さいほど、燃焼室内に充填されたガスの乱れが小さくなる。ガスの乱れが小さいほど、燃焼室内において酸素と燃料とが出会う機会が少なくなって燃焼速度が小さくなり、且つ、着火遅れ時間が長くなる。従って、(排気還流率Regrが一定の場合において)SC弁44が「開」状態の場合、点火時期をより進角側の時期に決定することが好ましい。以上のことから、係数K6を用いて点火時期IGが補正される。これにより、SC弁44が「開」状態にあって吸気の流速が小さい場合において、失火が発生する等の問題の発生をより一層抑制することができる。
【0083】
図14に示した変形例では、図3に示したMapIGad(Regr)を用いて進角量IGadを求め、この進角量IGadを、図15に示したMapK6(SC弁:開or閉)を用いて求めた係数K6で補正して最終的な進角量(=IGad・K6)が決定されているが、MapIGad(Regr,SC弁:開or閉)を用いて「IGad・K6」に相当する最終的な進角量IGadを一時に決定してもよい。
【0084】
また、上記変形例では、SC弁44として、「閉」状態と「開」状態の何れかが運転状態に応じて選択的に採られる形式のものが使用されているが、運転状態に応じて吸気通路の最少開口面積を徐々に変更し得る形式のものが採用されてもよい。この場合、図15に示したMapK6(SC弁:開or閉)に代えて、前記最小開口面積の増大に従って係数K6が徐々に大きくなるように係数K6(>0)を決定するテーブルが使用される。
【0085】
また、図16に示すように、図2に示したルーチンにおけるステップ245を、ステップ1605〜1635で置き換えてもよい。即ち、上述した係数K1〜K6を全て考慮して、基本点火時期IGbaseに対する進角量として、IGadに代えて「IGad・K1・K2・K3・K4・K5・K6」が使用されてもよい。また、係数K1〜K6のうち2〜5個の係数を考慮して基本点火時期IGbaseに対する進角量を算出してもよい。
【0086】
また、上記各変形例では、前記係数を進角量IGadに乗じることで最終的な進角量を算出して点火時期IGを補正しているが、前記係数と等価な補正量を進角量IGadに加えることで最終的な進角量を算出して点火時期IGを補正してもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、図2のステップ235にて基本点火時期IGbaseを求め、最終的な点火時期IGが、基本点火時期IGbaseを進角量IGadだけ進角した時期に決定されているが、MapIG(NE,Ma,Regr)を用いて、基本点火時期IGbase及び進角量IGadが考慮された最終的な点火時期IGが一時に決定されてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、図3に示すように、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増加勾配が排気還流率Regrの増加に伴って徐々に増大するように進角量IGadが決定される。換言すれば、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が、所謂「下に凸」の特性となっている。これに代えて、Regrが第1所定値以下では進角量IGadの増加勾配が第1勾配で一定となり、Regrが第1所定値よりも大きいときに進角量IGadの増加勾配が第1勾配よりも大きい第2勾配で一定となるように、進角量IGadが決定されてもよい。即ち、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が、図3に示す「下に凸」の特性を近似するような2本の線分からなる折れ線で表わされる特性となっていてもよい。また、排気還流率Regrの増加に対する進角量IGadの増大特性が、図3に示す「下に凸」の特性を近似するような3本以上の線分からなる折れ線で表わされる特性となっていてもよい。
【0089】
加えて、上記実施形態では、外部還流機構と内部還流機構とが共に備えられているが、本発明は、外部還流機構及び内部還流機構の何れか一方のみを備えた内燃機関にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態に係る点火時期制御装置を火花点火式多気筒内燃機関に適用したシステムの概略構成図である。
【図2】図1に示したCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図3】図1に示したCPUが参照する、排気還流率と点火時期の進角量との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図4】本発明の実施形態の第1変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態の第1変形例に係る点火時期制御装置のCPUが参照する、外部排気還流率と進角量を補正するための係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図6】本発明の実施形態の第2変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態の第2変形例に係る点火時期制御装置のCPUが参照する、全ガス量と進角量を補正するための係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態の第3変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態の第3変形例に係る点火時期制御装置のCPUが参照する、エンジン回転速度と進角量を補正するための係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態の第4変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態の第4変形例に係る点火時期制御装置のCPUが参照する、吸気弁の閉弁時期と進角量を補正するための係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図12】本発明の実施形態の第5変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態の第5変形例に係る点火時期制御装置のCPUが参照する、機械圧縮比と進角量を補正するための係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図14】本発明の実施形態の第6変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【図15】本発明の実施形態の第6変形例に係る点火時期制御装置のCPUが参照する、スワールコントロール弁の状態と進角量を補正するための係数との関係を規定したテーブルを示したグラフである。
【図16】本発明の実施形態の第7変形例に係る点火時期制御装置のCPUが実行する、点火時期制御の実行のためのルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
10…火花点火式多気筒内燃機関、25…燃焼室、32…吸気弁、33…可変吸気タイミング装置、39…燃料噴射弁、54…EGRガス通路、56…EGR弁、70…電気制御装置、71…CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室から排出された排ガスを前記燃焼室内に還流させる排気還流機構と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記燃焼室内の混合気に点火する時期である点火時期を決定する点火時期決定手段と、
を備えた内燃機関の点火時期制御装置において、
前記点火時期決定手段は、
前記燃焼室内に充填されるガスの全量である全ガス量に対する前記排気還流機構により前記燃焼室内に還流される排ガスの全量である全排ガス還流量の割合である排気還流率を算出する排気還流率算出手段を備え、
前記排気還流率の増加に対する前記点火時期の進角側への移動量の増加勾配が前記排気還流率の増加に伴って増大するように前記点火時期を決定するよう構成された、内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、
前記排気還流機構は、
前記内燃機関の吸気通路と排気通路とを連通する排気還流通路に介装された排気還流弁の開度を制御して前記排気還流通路を介して前記排気通路から前記吸気通路へと還流される排ガスの量を制御する外部還流機構と、
前記内燃機関の吸気弁及び排気弁が共に開状態に維持される期間の長さを制御して前記燃焼室を介して前記排気通路から前記吸気通路へと還流される排ガスの量を制御する内部還流機構と、
を備え、
前記点火時期決定手段は、
前記外部還流機構により前記燃焼室内に還流される排ガスの量である外部排ガス還流量と前記内部還流機構により前記燃焼室内に還流される排ガスの量である内部排ガス還流量との和に対する前記外部排ガス還流量の割合である外部排気還流率を算出する外部排気還流率算出手段を備え、
前記外部排気還流率が大きいほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成された内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、
前記点火時期決定手段は、
前記全ガス量が小さいほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成された内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置において、
前記点火時期決定手段は、
前記内燃機関の運転速度を取得する運転速度取得手段を備え、
前記運転速度が小さいほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成された内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態に基づいて吸気弁の閉弁時期を変更する吸気弁閉弁時期制御機構を備え、
前記点火時期決定手段は、
前記吸気弁の閉弁時期が遅角側であるほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成された内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態に基づいて圧縮下死点での前記燃焼室の容積を圧縮上死点での前記燃焼室の容積で除した値である機械圧縮比を変更する機械圧縮比制御機構を備え、
前記点火時期決定手段は、
前記圧縮比が小さいほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成された内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態に基づいて吸気通路から前記燃焼室に流入するガスの流速を変更する流速制御機構を備え、
前記点火時期決定手段は、
前記流速が小さいほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成された内燃機関の点火時期制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−90872(P2010−90872A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264449(P2008−264449)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】