説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】触媒の温度を所定値以下に抑制する内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃料を噴射する噴射バルブ118と、排気通路125に設けられ排気を浄化する排気浄化触媒127とを備え、高負荷運転領域にて燃料噴射量を増量させる内燃機関の燃料噴射制御装置において、排気浄化触媒127の触媒温度を推定する触媒温度推定手段と、排気浄化触媒127に吸着する酸素の吸着量を検出する酸素吸着量検出手段と、触媒温度推定手段により推定された触媒温度が閾値温度より高い場合に、噴射バルブ118を制御し燃料噴射量を増量する制御手段とを有し、制御手段は、酸素吸着量検出手段により検出された酸素の吸着量に応じて閾値温度を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの運転状態が所定の燃料増量領域にある時に燃料制御手段による燃料供給の制御に増量補正をかける燃料増量手段と、エンジンの運転状態が所定の燃料カット領域にある時に燃料制御手段による燃料供給を停止させる燃料カット手段とを備えたエンジンの制御手段であって、エンジンの運転状態が前記燃料カット領域から前記燃料増量領域へ移行した時を検出し、その移行時から所定期間作動して前記燃料増量手段による燃料の増量補正を制限することで、エンジンの排気通路に設けられた触媒の過熱を抑えるエンジンの制御装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−171972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料カット直後の燃料増量ほど急激な触媒温度上昇は無いものの前記所定期間の間に、燃料の増量が制限される分、触媒の温度が所定値より上昇する可能性があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、触媒の温度を所定値以下に抑制する内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、排気浄化触媒の内部に吸着する酸素の吸着量に応じて閾値温度を設定し、触媒温度が当該閾値温度より高くなった場合に、噴射バルブを制御して燃料噴射量を増量することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、触媒に酸素が吸着している状態で、燃料噴射量を増量させることによって触媒温度が上昇した場合でも、当該触媒温度は酸素の吸着量に応じた温度から上昇するため、触媒温度を所定値以下に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態を適用した内燃機関を示すブロック図である。
【図2】図1の内燃機関において、(a)は時間に対する運転領域の変化を示すグラフであり、(b)は時間に対する排気浄化触媒の入口温度及び触媒内部温度の特性を示すグラフであり、(c)は時間に対する燃料噴射量の増量率の特性を示すグラフである。
【図3】図1のエンジンコントロールユニットにおける制御手順を示すフローチャートである。
【図4】図1の内燃機関において、酸素吸着量に対するオーバーシュートの温度上昇の特性を示すグラフである。
【図5】図1の内燃機関において、オーバーシュートの温度上昇に対する燃料増量閾値温度の特性を示すグラフである。
【図6】図1の内燃機関において、酸素吸着量に対するオーバーシュートの温度上昇の特性を示すグラフである。
【図7】図1の内燃機関において、オーバーシュートによる温度上昇に対する燃料増量閾値温度の特性を示すグラフである。
【図8】図1の内燃機関において、検出空燃比に排気ガス量を乗じた値に対するオーバーシュートによる温度上昇の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
《第1実施形態》
図1は、本例に係る燃料噴射制御装置を適用したエンジンを示すブロック図であり、エンジンの吸気通路111には、エアークリーナ112、吸入空気量を検出するエアフローメータ113、吸入空気流量を制御するスロットルバルブ114およびコレクタ115が設けられている。
【0011】
スロットルバルブ114には、当該スロットルバルブ114の開度を調整するDCモータ等のアクチュエータ116が設けられている。このスロットルバルブアクチュエータ116は、運転者のアクセルペダル操作量等に基づき演算される要求トルクを達成するように、エンジンコントロールユニット11からの駆動信号に基づき、スロットルバルブ114の開度を電子制御する。また、スロットルバルブ114の開度を検出するスロットルセンサ117が設けられて、その検出信号をエンジンコントロールユニット11へ出力する。なお、スロットルセンサ117はアイドルスイッチとしても機能させることができる。
【0012】
また、コレクタ115から各気筒に分岐した吸気通路111aに臨ませて、燃料噴射バルブ118が設けられている。燃料噴射バルブ118は、エンジンコントロールユニット11において設定される駆動パルス信号によって開弁駆動され、図外の燃料ポンプから圧送されてプレッシャレギュレータにより所定圧力に制御された燃料を吸気通路111a内に噴射する。燃料噴射方式は、シリンダ119内に直接燃料を噴射する方式でもよい。
【0013】
シリンダ119と、当該シリンダ内を往復移動するピストン120の冠面と、吸気バルブ121及び排気バルブ122が設けられたシリンダヘッドとで囲まれる空間が燃焼室123を構成する。点火プラグ124は、各気筒の燃焼室123に臨んで装着され、エンジンコントロールユニット11からの点火信号に基づいて吸入混合気に対して点火を行う。
【0014】
一方、排気通路125には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出することにより排気、ひいては吸入混合気の空燃比を検出する空燃比センサ126が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。そして、エンジンコントロールユニット11は、当該検出信号に基づき空燃比フィードバック制御を行う。なお、この空燃比センサ126は、リッチ・リーン出力する酸素センサであっても良いし、空燃比をリニアに広域に亘って検出する広域空燃比センサであってもよい。
【0015】
また、排気通路125には、排気を浄化するための排気浄化触媒127が設けられている。この排気浄化触媒127としては、ストイキ(理論空燃比,λ=1、空気重量/燃料重量=14.7)近傍において排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCを酸化するとともに、窒素酸化物NOxの還元を行って排気を浄化することができる三元触媒、或いは排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCの酸化を行う酸化触媒を用いることができる。
【0016】
エンジンコントロールユニット11には、排気浄化触媒127を高温から保護するために、限界閾値温度(T)が設定されている。当該限界閾値温度(T)は、排気通路125に設けられる触媒127に応じて予め設定される温度であり、例えば触媒の耐熱許容温度に基づいて設定される。すなわち、本例では、後述するように、排気浄化触媒127の温度が限界閾値温度を超えないような制御を行う。比較例として、例えば、増量を行なう運転領域を予め余裕を持たせて広めに設定し、運転領域が高負荷運転領域になった時点で噴射燃料を増量する制御を行うとすると、排気浄化触媒127の触媒内部温度が低い時にも、高負荷運転領域における噴射燃料の増量が行われて、噴射燃料の増量による燃費性能が悪くなる可能性があるのに対し、ここでは、排気浄化触媒127の触媒内部温度に対する燃料増量閾値温度を設定し、噴射燃料の増量を制御するため、不必要な増量を削減し燃費性能を高めることができる。 排気通路125の排気浄化触媒127の上流側であり、排気浄化触媒127の入口部分には、排気ガスの温度を検出する排気温度センサ132が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。
【0017】
排気通路125の排気浄化触媒127の下流側には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出し、リッチ・リーン出力する酸素センサ128が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。なお、図1において129はマフラである。
【0018】
エンジンEGのクランク軸130にはクランク角センサ131が設けられ、エンジンコントロールユニット11は、クランク角センサ131から機関回転と同期して出力されるクランク単位角信号を一定時間カウントすることで、又は、クランク基準角信号の周期を計測することで、機関回転速度を検出することができる。
【0019】
次に、エンジンコントロールニット11の制御について、説明する。エンジンコントロールユニット11は、アクセル開度及びクランク角センサ出力に基づくエンジン回転速度から、エンジン負荷に応じた運転状態を検出し、検出された運転状態毎に噴射バルブ118から噴射される燃料噴射量を制御する。通常の運転状態の時には、エンジンコントロールユニット11は、空燃比フィードバック制御に基づく燃料噴射量を噴射するように燃料噴射バルブ118を制御する。通常の運転状態の時と比べ高負荷である高負荷運転領域の場合には、エンジンコントロールユニット11は、(同じ運転条件下の)空燃比フィードバック制御に基づく燃料噴射量よりも増量させることで、未燃の燃料により排気浄化触媒127を冷却する。高負荷運転領域に相当するエンジン回転速度及びアクセル開度を超える燃料カット領域の場合には、エンジンコントロールユニット11は燃料をカットする。
【0020】
エンジンコントロールユニット11は、制御機能の一部として、触媒温度推定部11aと酸素吸着量検出部11bとを有している。触媒温度推定部11aは、排気温度センサ132の検出信号から触媒入口の温度を検出し、触媒入口の温度から排気浄化触媒127の内部温度として推定する。触媒入口の温度の推移と排気浄化触媒127の内部温度の推移とが完全に一致することはないが、ある程度の相関性があるため、触媒温度推定部11aは、排気温度センサ132の検出信号から排気浄化触媒127の触媒内部温度を推定する。触媒内部温度の推定は、触媒上流に設けられた排気温度センサの検出信号に基づくものに限らず、既に知られた方法のいずれかを採用することができる。
【0021】
また酸素吸着量検出部11bは、空燃比センサ126の検出信号から空燃比を検出し、検出空燃比と理論空燃比との比較結果から、排気浄化触媒127に吸着している酸素吸着量を、例えば積算演算等によって検出する。すなわち、空燃比がリーンな場合には、排気浄化触媒127に供給される酸素量も多くなるため、酸素吸着量検出部11bは、理論空燃比に対する検出空燃比から、排気浄化触媒127の酸素吸着量の増加分を検出する。酸素吸着量の検出は、触媒上流に設けられた空燃比センサの検出信号に基づくものに限らず、既に知られた方法のいずれかを採用することができる。
【0022】
エンジンコントロールユニット11には、上記の限界閾値温度(T)の他に、限界閾値温度(T)より低い温度である燃料増量閾値温度(T)及び燃料増量閾値温度(T)が予め設定されている。燃料増量閾値温度(T)は燃料増量閾値温度(T)より低い閾値温度である。
【0023】
ここで、排気浄化触媒127の触媒温度、排気浄化触媒127の触媒入口温度及び閾値温度(T、T及びT)と、酸素吸着量との関係について説明する。例えば燃料カット後、排気浄化触媒127には、多くの酸素が吸着し、排気浄化触媒127の酸素吸着量が多い状態にある。かかる状態で、燃料噴射量を増量させると、増量された燃料が吸着酸素と急激に反応するため、排気浄化触媒127の内部温度が上昇する(以下、本例では、触媒内部温度のオーバーシュートとも称する)。そして、この現象は、排気浄化触媒127の酸素吸着量が多いほど、排気浄化触媒127の内部温度の上昇、言い換えると、オーバーシュートによる温度上昇が大きくなる。
【0024】
燃料カット後でなくても、触媒に酸素が吸着されている状態から燃料増量が行なわれると、オーバーシュートが生じる。オーバーシュートが起こった場合に、排気浄化触媒127の内部の触媒温度が限界閾値温度(T)となった時点で燃料増量を開始しても、排気浄化触媒127の内部の触媒温度は限界閾値温度(T)より高くなる可能性がある。そこで、オーバーシュートが起きても排気浄化触媒127の内部の触媒温度が限界閾値温度(T)を越えることが無いように、限界閾値温度(T)より低い温度の燃料増量閾値温度を設定し、排気浄化触媒127の内部の触媒温度が閾値温度に達した時点で燃料増量を開始することにしている。
【0025】
本例では、エンジンコントロールユニット11は、酸素吸着量検出部11bにより検出された酸素吸着量が所定の吸着量より多い場合に、燃料増量閾値温度(T)を設定する。酸素吸着量は触媒上流の空燃比と相関が強く、一般に触媒上流の空燃比が理論空燃比より高い(リーンである)ときには酸素吸着量が多くなっているので、ここでは簡易的に、燃料増量前に空燃比センサ126により検出される空燃比が理論空燃比より高い場合、オーバーシュートが生じても触媒温度が限界閾値温度(T)を超えることがないように燃料増量閾値温度(T)を設定する。そして、エンジンコントロールユニット11は、触媒温度推定部11aにより推定された触媒温度が燃料増量閾値温度(T)より高くなった場合に、燃料噴射量を所定の量だけ増量する。また、エンジンコントロールユニット11は、酸素吸着量検出部11bにより検出された酸素吸着量が当該所定の吸着量より少ない場合に、燃料増量閾値温度(T)を設定する。一般に触媒上流の空燃比が理論空燃比より低い(リッチである)ときには酸素吸着量が少なくなっているので、ここでは簡易的に、燃料増量前に空燃比センサ126により検出される空燃比が理論空燃比より低い場合、オーバーシュートが生じても触媒温度が限界閾値温度(T)を超えることがないように燃料増量閾値温度(T)を設定する。そして、エンジンコントロールユニット11は、触媒温度推定部11aにより推定された触媒温度が燃料増量閾値温度(T)より高くなった場合に、燃料噴射量を所定の量だけ増量する。
【0026】
これにより、高負荷増量領域において、排気浄化触媒127の吸着酸素量が多い場合には、早めに燃料が増量されるため、オーバーシュートが発生しても、排気浄化触媒127のピーク温度を限界閾値温度(T)より低く抑えることができる。すなわち、本例は、排気浄化触媒127の酸素吸着量とオーバーシュートによる温度上昇との関係に着目し、酸素吸着量に応じて燃料増量閾値温度を設定することで、酸素吸着量に応じて噴射燃料の増量のタイミングを設定する。
【0027】
次に、図2を用いて、排気浄化触媒127に多くの酸素が吸着している状態において、運転状態が通常の運転状態から高負荷運転状態に推移した場合の、触媒温度の推移を説明する。図2(a)は時間に対する運転領域の変化を説明するグラフを示す。図2(b)は時間に対する排気浄化触媒127の入口温度及び触媒内部温度の特性を示す。図2(b)において、グラフa及びbは、触媒温度推定部11aによる推定触媒温度が燃料増量閾値温度(T)より高くなった時に燃料の増量を行った場合(本例)の、排気浄化触媒127の入口温度特性及び触媒内部温度特性をそれぞれ示し、グラフc及びdは、触媒温度推定部11aによる推定触媒温度が、酸素吸着量に依らずに一定値として設定した燃料増量閾値温度(TCONST)より高くなった時に燃料の増量を行った場合(比較例)の、排気浄化触媒127の入口温度特性及び触媒内部温度特性をそれぞれ示す。図2(c)は時間に対する燃料噴射量の増加率の特性を示す。
【0028】
運転領域について、通常の運転領域から始まり、アクセルペダルを踏込むことでエンジンの負荷が時間(t)の時点から徐々に大きくなり、時間(t)の時点で運転領域が高負荷運転領域に入る。排気浄化触媒127については、時間(t)の時点からエンジン負荷が大きくなるため、排気浄化触媒127の入口温度及び触媒内部温度が上昇し始める。
【0029】
排気浄化触媒127に多くの酸素が吸着している状態において、燃料増量閾値温度(TCONST)より低い温度である燃料増量閾値温度(T)に基づいて燃料噴射量を制御する本例の場合には、排気浄化触媒127の入口温度は時間(t)の時点で燃料増量閾値温度(T)に達するため、エンジンコントロールユニット11は、燃料噴射量の増量率を増量率(C)に設定することで、燃料噴射量を増量する。これにより、排気浄化触媒127の入口温度は下がるが、排気浄化触媒127の触媒内部温度はオーバーシュートにより上昇し続ける。そして、時間(t)の時点までに排気浄化触媒127に吸着していた多くの酸素が燃料と反応し、時間(t)の時点で排気浄化触媒127の触媒内部温度がピークに達し、それ以降、下がり始める。排気浄化触媒127の触媒内部温度のピーク温度は、限界閾値温度(T)より低い温度である。その後、時間(t7)の時点でエンジンの負荷が下がり、通常の運転領域に戻り、エンジンコントロールユニット11は、燃料噴射量の増量率を元に戻す。
【0030】
一方、排気浄化触媒127に多くの酸素が吸着している状態において、燃料増量閾値温度(TCONST)に基づいて燃料噴射量を制御する比較例の場合には、排気浄化触媒127の入口温度は時間(t)の時点で初めて燃料増量閾値温度(TCONST)に達するため、エンジンコントロールユニット11は、燃料噴射量の増量率を増量率(C)に設定することで、燃料噴射量を増量する。排気浄化触媒127の入口温度は下がるが、排気浄化触媒127の触媒内部温度はオーバーシュートにより上昇し続ける。そして、排気浄化触媒127に吸着していた酸素が燃料と反応し終わる前に、排気浄化触媒127の触媒内部温度は、時間(t)の時点で限界閾値温度(T)に達し、排気浄化触媒127の触媒内部温度のピーク温度は、限界閾値温度(T)より高い温度になってしまう。すなわち、時間(t)の時点で、排気浄化触媒127の触媒内部温度は既に高くなっているため、この時点で、燃料の増量開始したとても、排気浄化触媒127に多くの酸素が吸着している状態では、増量された燃料が吸着酸素と急激に反応するため、オーバーシュートによる温度上昇分によって、排気浄化触媒127の触媒内部温度のピーク温度は、限界閾値温度(T)より高くなってしまう。
【0031】
すなわち、本例では、排気浄化触媒127の酸素吸着量に応じて、噴射燃料の増量を行うための温度閾値を設定するため、排気浄化触媒127の触媒内部温度が高くなる前に、燃料噴射量を増量させ、オーバーシュートにより触媒内部温度が上昇しても、触媒内部温度のピーク温度を限界閾値温度(T)より低く抑えることができる。
【0032】
次に、図3を用いて、エンジンコントロールユニット11の制御手順を説明する。図3は、エンジンコントロールユニット11の制御手順のフローチャートである。
【0033】
エンジンコントロールユニット11は、図3にステップを所定の周期で繰り返し行っている。まず、ステップS1にて、エンジンコントロールユニット11は、アクセル開度及びエンジン回転速度から運転状態を検出し、検出した運転状態が高負荷運転領域内にあるか否かを判定する。検出した運転状態が高負荷運転領域内でない場合には、ステップS82に遷移する。一方、検出した運転状態が高負荷運転領域内である場合には、ステップS2にて、エンジンコントロールユニット11は、燃料噴射量を増量中であるか否かを判定する。燃料噴射量を増量中である場合には、エンジンコントロールユニット11は、制御を終了する。一方、燃料噴射量を増量していない場合には、ステップS3にて、エンジンコントロールユニット11の酸素吸着量検出部11bは、空燃比センサ126から現在の空燃比を検出することにより、排気浄化触媒127に吸着している酸素吸着量を検出する。
【0034】
ステップS4にて、エンジンコントロールユニット11は、検出した空燃比が理論空燃比以上であるか否かを判定する。検出した空燃比が理論空燃以上である場合には、ステップS51にて、エンジンコントロールユニット11は、燃料増量閾値温度をTに設定する。一方、検出した空燃比が理論空燃未満である場合には、ステップS52にて、エンジンコントロールユニット11は、燃料増量閾値温度をTに設定する。ステップS6にて、エンジンコントロールユニット11の触媒温度推定部11aは、排気温度センサ132により検出される温度を、排気浄化触媒の触媒温度として推定する。ステップS7にて、エンジンコントロールユニット11は、推定された触媒温度と、ステップS51またはステップS52で設定された燃料増量閾値温度とを比較する。
【0035】
推定された触媒温度がステップS51またはステップS52で設定された燃料増量閾値温度以上である場合には、ステップS81にて、エンジンコントロールユニット11は燃料噴射量の増量率をCに設定し、増量を行なう運転条件が継続する間は増量率をCに維持する。そして、エンジンコントロールユニット11は噴射バルブ118を制御し、設定した増量率で増量して燃料を噴射する。一方、推定された触媒温度がステップS51またはステップS52で設定された燃料増量閾値温度未満である場合には、ステップS82に遷移する。ステップS82にて、エンジンコントロールユニット11は、燃料噴射量の増量率をゼロに設定し、燃料噴射量を増量せず、所定の空燃比による運転を継続させる。
【0036】
上記のように、本例は、排気浄化触媒127の内部に吸着する酸素の吸着量を検出し、検出された酸素の吸着量に応じて、燃料増量閾値温度(T、T)を設定し、排気浄化触媒127の内部の推定触媒温度が設定された燃料増量閾値温度より高い場合には、燃料噴射量を増量する。これにより、本例は、燃料増量時に、排気浄化触媒127に吸着された酸素によって生じるオーバーシュートの温度上昇に応じて、増量を開始する触媒温度が調整されるため、触媒内部温度のピーク温度を限界閾値温度(T)より低く抑えつつ、噴射燃料を増加させることができる。
【0037】
また、本例は、空燃比センサ126により検出される空燃比から排気浄化触媒127の酸素の吸着量を検出し、検出された吸着量が所定の吸着量より高い場合に、燃料増量閾値温度(T)より低い燃料増量閾値温度(T)に設定する。これにより、酸素吸着量が多くオーバーシュートによる温度上昇が大きい場合には、触媒温度が低温である時点から燃料の増量を開始することができ、酸素吸着量が少なくオーバーシュートによる温度上昇が小さい場合には、触媒温度が高温である時点から燃料の増量を開始することができる。その結果として、排気浄化触媒127の保護と、排気及び燃費性能の向上とを両立させることができる。
【0038】
なお、本例は、触媒温度推定部11aによる推定触媒温度に応じて、燃料増量閾値温度(T)又は燃料増量閾値温度(T)のいずれか一方を選択するが、必ずしも二つの閾値温度にする必要はなく、また、触媒温度推定部11aによる推定触媒温度に応じて、以下のように、連続的に閾値温度を設定してもよい。
【0039】
図4及び図6は酸素吸着量に対するオーバーシュートによる温度上昇の特性を示し、図5及び図7はオーバーシュートによる温度上昇に対する燃料増量閾値温度の特性を示す。例えば図4に示すように、排気浄化触媒127において、オーバーシュートによる温度上昇が酸素吸着量に比例して大きくなる場合には、エンジンコントロールユニット11は、図5に示すように、オーバーシュートによる温度上昇に対して燃料増量温度閾値を負の傾きで比例して下がるように設定する。すなわち、エンジンコントロールユニット11は、検出された酸素吸着量に対する燃料増量温度閾値が負の傾きで比例の関係となるように燃料増量温度閾値を設定することで、検出された酸素吸着量が多いほど燃料増量温度閾値を低くする。
【0040】
また、例えば図6に示すように、排気浄化触媒127において、オーバーシュートによる温度上昇が酸素吸着量の増量に伴い上昇し、ある酸素吸着量から急に上昇する場合には、エンジンコントロールユニット11は、図7に示すように、オーバーシュートによる温度上昇に対する燃料増量温度閾値を、あるオーバーシュートの温度上昇までは小さな変化で下げて、当該あるオーバーシュートの温度上昇から変化を大きくして下がるように設定する。すなわち、エンジンコントロールユニット11は、検出された酸素吸着量に対する燃料増量温度閾値が、所定の酸素吸着量に増加するまでは小さな変化で徐々に下げて、当該所定の酸素吸着量を越えて増加するにつれて大きな変化で急に下がるように、燃料増量温度閾値を設定することで、検出された酸素吸着量が多いほど燃料増量温度閾値を低くする。
【0041】
これにより、酸素吸着量が多くオーバーシュートによる温度上昇が大きいほど、触媒温度が低い時点から燃料の増量を開始することができ、酸素吸着量が少なくオーバーシュートによる温度上昇が小さいほど、触媒温度が高温である時点から燃料の増量を開始することができる。その結果として、排気浄化触媒127の保護と、排気及び燃費性能の向上とを両立させることができる。
【0042】
なお、酸素吸着量検出部11bは、酸素センサ128により検出される酸素濃度を用いて、排気浄化触媒127の吸着酸素量を検出してもよい。すなわち、酸素吸着量検出部11bは、排気浄化触媒127の上流側に設けられた空燃比センサ126により検出された空燃比から排気浄化触媒127に供給される酸素量を検出し、排気浄化触媒127の下流側に設けられた酸素センサ128により検出された酸素濃度から排気浄化触媒127から排出される酸素量を検出することができるため、これらの検出値から排気浄化触媒127に吸着された酸素量を検出すればよい。
【0043】
また、本例において、排気浄化触媒127の上流側に酸素センサを設け、酸素吸着量検出部11bは、当該酸素センサの検出値から排気浄化触媒127の酸素吸着量を検出してもよく、または、排気浄化触媒127の下流側に空燃比センサを設け、酸素吸着量検出部11bは、当該空燃比センサの検出値から排気浄化触媒127の酸素吸着量を検出してもよい。
【0044】
また本例において、酸素吸着量検出部11bは、空燃比センサ126により検出される空燃比とエアフローメータ113により検出される吸入空気量とを用いて、酸素吸着量を検出してもよい。図8は、検出空燃比に排気ガス量を乗じた値に対するオーバーシュートによる温度上昇の特性を示す。
【0045】
排気浄化触媒127に吸着する酸素量は、触媒に供給される酸素量と相関性を持ち、供給酸素量は、触媒を通過する排気ガス量に現在の空燃比を乗じた値から算出される。排気浄化触媒127を通過する排気ガス量は、エアフローメータ113により検出される吸気空気量とみなせることができる。酸素吸着量検出部11bは、エアフローメータ113により検出された吸気空気量に、空燃比センサ126により検出された空燃比を乗じた値から排気浄化触媒127への酸素供給量を算出し、算出された供給酸素量を酸素吸着量とする。
【0046】
そして、図8に示すように、排気浄化触媒127において、オーバーシュートによる温度上昇が、排気ガス量に現在の空燃比を乗じた値の増量に伴い上昇し、ある値から急に上昇する場合には、エンジンコントロールユニット11は、酸素吸着量に対する燃料増量温度閾値が、所定の酸素吸着量に増加するまでは小さな変化で徐々に下げて、当該所定の酸素吸着量を越えて増加するにつれて大きな変化で下がるように、燃料増量温度閾値を設定することで、検出された酸素吸着量が多いほど燃料増量温度閾値を低くする。
【0047】
これにより、酸素吸着量が多くオーバーシュートによる温度上昇が大きいほど、触媒温度が低い時点から燃料の増量を開始することができ、酸素吸着量が少なくオーバーシュートによる温度上昇が小さいほど、触媒温度が高温である時点から燃料の増量を開始することができる。その結果として、排気浄化触媒127の保護と、排気及び燃費性能の向上とを両立させることができる。また、本例は、酸素吸着量を直接、センサ等により検出しなくてもよいため、燃料制御装置の構造の複雑化及び制御の複雑化を防ぐことができる。
【0048】
上記において、図2を用いて、運転状態が通常の運転状態から高負荷運転状態に推移した場合における制御を説明したが、本例は必ずしも通常の運転状態から高負荷運転状態に推移した場合のみの制御に限らず、燃料カット領域から高負荷運転状態に推移した場合においても、上記の制御を行ってもよい。
【0049】
上記エンジンコントロールユニット11は本発明にかかる「制御手段」に相当し、上記触媒温度推定部11aが「触媒温度推定手段」に、上記酸素吸着量検出部11bが「酸素吸着量検出手段」に、燃料増量閾値温度(T)及び燃料増量閾値温度(T)が「閾値温度」に相当する。
【符号の説明】
【0050】
11…エンジンコントロールユニット
11a…触媒温度推定部
11b…酸素吸着量検出部
111,111a…吸気通路
112…エアーフィルタ
113…エアフローメータ
114…スロットルバルブ
115…コレクタ
116…スロットルバルブアクチュエータ
117…スロットルセンサ
118…燃料噴射バルブ
119…シリンダ
120…ピストン
121…吸気バルブ
122…排気バルブ
123…燃焼室
124…点火プラグ
125…排気通路
126…空燃比センサ
127…排気浄化触媒
128…酸素センサ
129…マフラ
130…クランク軸
131…クランク角センサ
132…排気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を噴射する噴射バルブと、排気通路に設けられ排気を浄化する排気浄化触媒とを備え、高負荷運転領域にて燃料噴射量を増量させる内燃機関の、燃料噴射制御装置において、
前記排気浄化触媒の触媒温度を推定する触媒温度推定手段と、
前記排気浄化触媒に吸着する酸素の吸着量を検出する酸素吸着量検出手段と、
前記触媒温度推定手段により推定された前記触媒温度が閾値温度より高い場合に、前記噴射バルブを制御し前記燃料噴射量を増量する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、
前記酸素吸着量検出手段により検出された酸素の吸着量に応じて前記閾値温度を設定する
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記酸素の吸着量が多いときに、酸素の吸着量が少ないときと比べ、前記閾値温度を低くする
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記内燃機関の空燃比を測定する空燃比センサをさらに備え、
前記制御手段は
前記空燃比センサにより検出された空燃比が所定の空燃比より高い場合に、前記閾値温度を低く設定する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記内燃機関の空燃比を測定する空燃比センサと、
前記内燃機関の吸入空気量を測定する吸入空気量センサと、をさらに備え、
前記酸素吸着量検出手段は、
前記空燃比センサにより測定される前記空燃比及び前記吸入空気量センサにより測定される前記吸入空気量を用いて前記酸素の吸着量を検出する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251429(P2012−251429A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122123(P2011−122123)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】