説明

内燃機関の過給システム

【課題】高圧空気源の状態にかかわらずバイパス弁の開度を変化させることができる内燃機関の過給システムを提供する。
【解決手段】過給システムが適用された内燃機関1は、内燃機関1の吸気圧及び油圧がそれぞれ供給され、吸気圧及び油圧の大きさに応じてウエストゲートバルブ20の開度を変化させることができるアクチュエータ22と、アクチュエータ22に供給される油圧を変化させることができるバルブ44、46と、ウエストゲートバルブ20の開度が変化するようにバルブ44、46の動作を制御するECU47と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機のタービンの上流と下流とを接続するバイパス通路を備えた内燃機関の過給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ウエストゲートバルブの開度を、吸気側過給圧及びオイルポンプの吐出圧に応じて調整するアクチュエータを備えたウエストゲートバルブの作動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【0003】
【特許文献1】実開平1−69135号公報
【特許文献2】実開平3−59428号公報
【特許文献3】特開2008−121510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、吸気側過給圧によってウエストゲートバルブの開度を調整することにより過給機による必要以上の加圧を抑制することができる。しかし、吸気側過給圧を利用した正圧タイプのアクチュエータでは高圧空気源がない状態においてウエストゲートバルブを開くことができない。また、特許文献1の装置では、オイルポンプ吐出圧によってもウエストゲートバルブの開度が調整されるが、オイルポンプ吐出圧は、吸気側過給圧により開かれたウエストゲートバルブの開度を内燃機関の回転数に応じて調整するために使用されるにすぎない。
【0005】
そこで、本発明は、高圧空気源の状態にかかわらずバイパス弁の開度を変化させることができる内燃機関の過給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の過給システムは、内燃機関の排気通路に設けられたタービンと前記内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサとを有する過給機と、前記排気通路において前記タービンの上流と下流とを接続するバイパス通路と、前記バイパス通路に設けられ前記バイパス通路を全開する位置から全閉する位置までの間で動作可能なバイパス弁と、を備えた内燃機関の過給システムにおいて、前記内燃機関の吸気圧及び油圧がそれぞれ供給され、前記吸気圧及び前記油圧の大きさに応じて前記バイパス弁の開度を変化させることができるアクチュエータと、前記アクチュエータに供給される前記油圧を変化させることができる油圧操作手段と、前記バイパス弁の開度が変化するように前記油圧操作手段の動作を制御する制御手段と、を備えている(請求項1)。
【0007】
この過給システムによれば、油圧によってアクチュエータがバイパス弁の開度を変化させるように制御手段によって油圧操作手段の動作が制御される。このため、高圧空気源の状態にかかわらず油圧によってバイパス弁の開度を変化させることができる。
【0008】
本発明の過給システムの一態様において、前記排気通路において前記タービンの下流に接続された前記バイパス通路の接続口の更に下流には、触媒が設けられ、前記制御手段は、前記排気通路の下流に設けられた前記触媒が活性化する所定温度以下の場合に、前記バイパス弁の開度が開き側に変化するように前記油圧操作手段の動作を制御してもよい(請求項2)。この場合、排気通路に設けられた触媒が活性化する所定温度以下の場合に制御手段によってバイパス通路が開放されるように油圧操作手段の動作が制御される。パイパス通路が開放されるとバイパス通路によって排気がタービンを迂回して触媒に導かれる。このため、内燃機関の始動時等、触媒の温度が低く活性化していない場合に、タービンを迂回した排気によって触媒が早期に暖機されるので、触媒が早期に活性化し、排気エミッションを低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、油圧によってアクチュエータがバイパス弁の開度を変化させるように制御手段によって油圧操作手段の動作が制御される。このため、高圧空気源の状態にかかわらずバイパス弁の開度を変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の一形態に係る過給システムが適用された内燃機関の要部を模式的に示している。内燃機関1は不図示の車両に走行用動力源として搭載され、4つの気筒2が一列に並べられた直列4気筒型の内燃機関として構成される。各気筒2には吸気通路3及び排気通路4がそれぞれ接続されている。吸気通路3は、各気筒2に吸気を分配する吸気マニホールド5を有している。また、吸気通路3には、その上流から下流に向かって、過給機6のコンプレッサ7と、吸気を冷却するインタークーラ8と、吸気量を調整可能なスロットル10と、が設けられている。
【0011】
排気通路4は、各気筒2から排出された排気を集合させる排気マニホールド15を有しており、その排気マニホールド15の下流には、過給機6のタービン16と、排気浄化触媒17と、が設けられている。排気浄化触媒17は三元触媒として構成される。また、排気通路4には、タービン16の上流と下流とを接続するバイパス通路18が設けられている。バイパス通路18の出口側は排気浄化触媒17の上流に接続されている。過給機6のタービン16は排気によって駆動され、これによりタービン16と同軸に接続されたコンプレッサ7が駆動する。
【0012】
バイパス通路18の上流側接続口にはバイパス弁としてのウエストゲートバルブ20が設けられている。ウエストゲートバルブ20は、バイパス通路18を全開する位置から全閉する位置までの間で動作することができる。ウエストゲートバルブ20によってバイパス通路18が開放されると排気の一部はバイパス通路18を通りタービン16を迂回して排気浄化触媒17の上流まで導かれる。ウエスゲートバルブ20の開閉動作はアクチュエータ22によって行われる。
【0013】
アクチュエータ22は、ケーシング24内にダイヤフラム25と、スプール26とを有している。ダイヤフラム25及びスプール26は、ケーシング24内を移動可能である。図2は、アクチュエータ22の拡大図である。アクチュエータ22には、ケーシング24内にスプール26によって区分された油圧室28と、スプール26とダイヤフラム25とによって区分された吸気圧室29とが形成されている。吸気圧室29にはケーシング24の上下から突出したストッパ30が設けられている。このストッパ30によりスプール26の移動が制限される。
【0014】
ダイヤフラム25の吸気圧室29側の側面には、凸部32が設けられ、他方の側面には連結ロッド33の一端が接続されている。連結ロッド33の他端は、所定のリンク機構を介してウエストゲートバルブ20に接続されている。このため、アクチュエータ22は、ダイヤフラム25がケーシング24内を移動することにより連結ロッド33を介してウエストゲートバルブ20をバイパス通路18が全開される位置から全閉される位置までの間で変化させることができる。
【0015】
連結ロッド33は、ウエストゲートバルブ20がバイパス通路18を閉じる方向、つまり、ダイヤフラム25がスプール26に接近する方向にバネ35によって付勢されている。このため、ウエストゲートバルブ20はバネ35の弾性力により通常はバイパス通路18を閉じる位置にあり、ダイヤフラム25の移動によりバネ35が圧縮されることによってバイパス通路18を開放する位置に変化する。凸部32は、スプール26がダイヤフラム25側に移動することによりスプール26に突き当たる。スプール26は凸部32を介してダイヤフラム25を押して移動させることができる。凸部32は、スプール26がストッパ30の位置まで移動した状態において、ウエストゲートバルブ20がバイパス通路18を全開する位置に変化するまでダイヤフラム25を移動させることができる程度にスプール26側に突出している。
【0016】
吸気圧室29には、吸気圧管40の一端が接続されている。吸気圧管40の他端は吸気通路5に接続されており、その接続位置はコンプレッサ7が設けられている位置よりも下流側に設定されている。このため、吸気圧室29には、吸気圧管40を通してコンプレッサ7により加圧された吸気が導入される。吸気圧室29内の吸気が一定の圧力以上になると吸気圧によってダイヤフラム25が押され、ダイヤフラム25がバネ35を圧縮する方向に移動する。ダイヤフラム25は、バネ35の圧縮とともに連結ロッド33を移動させてウエストゲートバルブ20をバイパス通路18が開放される位置に変化させる。バイパス通路18の開放にともない排気の一部がタービン16を迂回するので、タービン16の駆動が低下し、コンプレッサ7による吸気の加圧が弱まる。このため、吸気圧室29内の圧力も減少し、バネ35の付勢によってダイヤフラム25は押し戻され、ウエストゲートバルブ20は再びバイパス通路18を閉じる位置に変化する。排気によるタービン16の駆動に応じた吸気圧によってアクチュエータ22は動作を制御される。
【0017】
内燃機関本体には不図示のオイルポンプによって潤滑油が供給されている。このオイルポンプは内燃機関1にて駆動される周知の機械式ポンプとして構成されている。油圧室28には、内燃機関本体の潤滑油を導入するための油圧サプライ管41と、油圧室28の潤滑油を内燃機関本体に戻すための油圧リターン管42とが接続されている。油圧サプライ管41には、バルブ44が設けられ、バルブ44の開閉により油圧室28への潤滑油の導入と停止とを切り替えることができる。また、油圧リターン管42にもバルブ46が設けられ、バルブ46の開閉により油圧室28から内燃機関本体への潤滑油の戻しと、その停止とを切り替えることができる。バルブ44、46は本発明に係る油圧操作手段として機能する。バルブ44、46は、ともにエンジンコントロールユニット(ECU)47により開閉動作が制御されている。
【0018】
油圧サプライ管41が開かれると不図示のオイルポンプからの供給圧によって内燃機関本体の潤滑油が油圧室28に導入される。そのため、油圧リターン管42を閉じた状態で油圧サプライ管41を開くことによって、油圧サプライ管41から導入された潤滑油が油圧室28に留まるので、油圧室28の油圧が上昇する。油圧室28内の圧力が上昇すると油圧によってスプール26が押され、スプール26がダイヤフラム25方向に移動する。スプール26の移動により、スプール26はダイヤフラム25の凸部32に突き当たり、凸部32を介してダイヤフラム25をバネ35が圧縮される方向に移動させる。スプール26は、ダイヤフラム25とともにバネ35を圧縮し、連結ロッド33を移動させてウエストゲートバルブ20をバイパス通路18が開かれる位置に変化させる。スプール26がストッパ30の位置まで移動するとバイパス通路18は全開となる。一方、油圧サプライ管41を閉じた状態で油圧リターン管42を開くと圧力差によって油圧室28の潤滑油が内燃機関本体に戻されるので、油圧室28の圧力が下がる。このため、ダイヤフラム25の凸部32を介してバネ35の付勢によってスプール26が押し戻される。バネ35により連結ロッド33も付勢されるため、ウエストゲートバルブ20がパイパス通路8を閉じる位置に変化する。
【0019】
ECU47は、不図示の各種センサから出力された信号を参照しつつ所定のプログラムに従ってバルブ44、46の動作の制御を実行する。図3は、ECU47が実行するバルブ制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0020】
図3の制御ルーチンでは、ステップS1において、ECU47は、不図示のセンサにより排気通路4に設けられた排気浄化触媒17の温度情報を取得する。取得した温度情報に基づき排気浄化触媒17の温度が活性化するために必要な所定値以下か否かを判定する。肯定的判定の場合は、ステップS2に進み内燃機関2が暖機アイドリング状態よりも回転数の高いファーストアイドリング状態に維持されるようにスロットル10の動作を制御する。続くステップS3では、油圧リターン管42が閉じられる位置にバルブ46を動作させる。続くステップS4では、油圧サプライ管41が開かれる位置にバルブ44を動作させて、今回のルーチンを終了する。
【0021】
一方、ステップS1において、否定的判定の場合は、ステップS5に進み油圧サプライ管41が閉じられる位置にバルブ44を動作させる。続くステップS6では、油圧リターン管42が開かれる位置にバルブ46を動作させる。続くステップS7では、吸気圧によってアクチュエータ22の動作が制御されるようにして今回のルーチンを終了する。
【0022】
排気浄化触媒17の温度が所定値を超えた後は、上述のように吸気圧によってアクチュエータ22の動作が制御され、これによりウエストゲートバルブ20がバイパス通路18を全開する位置から全閉する位置までの間で変化する。
【0023】
図3の制御ルーチンを実行することにより、排気通路4に設けられた排気浄化触媒17の温度が所定値以下の場合、ECU47によってバイパス通路18が開放されるようにバルブ44、46の動作が制御される。このため、油圧によってアクチュエータ22が動作するので、高圧空気源の状態にかかわらずウエストゲートバルブ20の開度を変化させることができる。従って、例えば、内燃機関始動時に回転数が低く、吸気側過給圧によってウエストゲートバルブ20の開度を変化させられるほど十分に高圧空気源がない状態であってもバイパス通路18を開放することができる。バイパス通路18の開放により、タービン16を迂回した排気が排気浄化触媒17に導かれる。このため、内燃機関始動時等、排気浄化触媒17の温度が低い場合においてタービン16を迂回した排気によって排気浄化触媒17が早期に暖機されるので、排気浄化触媒17が早期に活性化し、排気エミッションを低減することができる。また、負圧アクチュエータを利用しないことから、アクチュエータ外径が大きくなることもなく車両搭載上の不利もない。そして、負圧ポンプ、負圧タンク等も不要なため、これらによって付加コストが発生することもない。一方、排気浄化触媒17が活性化した後には、吸気圧によってアクチュエータ22を動作させ、ウエストゲートバルブ20の開度を変化させることができる。このため、過給機6による必要以上の加圧を抑制することもできる。
【0024】
但し、本発明は上述の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態にて実施できる。図3の制御ルーチンでは、排気浄化触媒17の温度が所定値以下の場合に油圧によってアクチュエータ22を動作させて、ウエストゲートバルブ20の開度を変化させているが、これに限定されるものではない。例えば、高圧空気圧源が確保できる回転数よりも低い回転数の場合にアクチュエータ22を動作させる構成でもよい。
【0025】
また、内燃機関の構成は直列型4気筒に限定されるものではない。また、排気浄化触媒も三元触媒に限定されるものではなく、吸蔵還元型NOx触媒、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)、SCR(選択還元触媒)など排気を浄化できるものであればよい。また、バイパス弁はバイパス通路18の上流側接続口に設けられたウエストゲートバルブ20に限定されるものではなく、バイパス弁としてバイパス通路の何処に設けられていてもよい。また、油圧操作手段も油圧サプライ管及び油圧リターン管に設けられたバルブに限定されるものではなく、例えば、ポンプであってもよい。また、アクチュエータ22も上述のダイヤフラム式の構成に限定されるものではなく、吸気圧及び油圧によってバイパス弁を動作させることができる限りにおいて種々の構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一形態に係る過給システムが適用された内燃機関の要部を示す模式図。
【図2】図1におけるアクチュエータの拡大図。
【図3】本発明に係るECUが実行するバルブ制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0027】
1 内燃機関
3 吸気通路
4 排気通路
6 過給機
7 コンプレッサ
16 タービン
18 バイパス通路
20 ウエストゲートバルブ(バイパス弁)
22 アクチュエータ
44 バルブ(油圧操作手段)
46 バルブ(油圧操作手段)
47 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたタービンと前記内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサとを有する過給機と、前記排気通路において前記タービンの上流と下流とを接続するバイパス通路と、前記バイパス通路に設けられ前記バイパス通路を全開する位置から全閉する位置までの間で動作可能なバイパス弁と、を備えた内燃機関の過給システムにおいて、
前記内燃機関の吸気圧及び油圧がそれぞれ供給され、前記吸気圧及び前記油圧の大きさに応じて前記バイパス弁の開度を変化させることができるアクチュエータと、
前記アクチュエータに供給される前記油圧を変化させることができる油圧操作手段と、
前記バイパス弁の開度が変化するように前記油圧操作手段の動作を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の過給システム。
【請求項2】
前記排気通路において前記タービンの下流に接続された前記バイパス通路の接続口の更に下流には、触媒が設けられ、
前記制御手段は、前記排気通路の下流に設けられた前記触媒が活性化する所定温度以下の場合に、前記バイパス弁の開度が開き側に変化するように前記油圧操作手段の動作を制御する請求項1に記載の過給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−59846(P2010−59846A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225874(P2008−225874)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】