説明

出力制限制御装置、ハイブリッド自動車および出力制限制御方法、並びにプログラム

【課題】出力制限を行いながら運転者のドライバビリティを向上させること。
【解決手段】運転者の所定の操作に応じて出力制限を解除または復帰させ、この出力制限の解除または復帰には、それぞれ所定の解除レートまたは所定の復帰レートが設定可能である出力制限制御部を有するハイブリッド自動車を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力制限制御装置、ハイブリッド自動車および出力制限制御方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスを低減させるための一つの方策として運転者の要求トルクに対してエンジンのトルクを制限する出力制限方法がある。これによれば運転者がアクセルペダルを最大に踏み込んでもエンジンのトルクは一定の制限を与えられており、最大トルク未満の出力しか出さないように制御される(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−280049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した出力制限方法によれば、運転者の要求トルクが制限されるが、自車が他車を追い越す際などには、運転者の要求トルクを満足させることが好ましい。そこで、従来は、所定のアクセル開度を超える運転者の急峻なアクセル操作が行われた際には、一時的に出力制限を解除するようになっている。
【0005】
このとき、急峻なアクセル操作からの復帰時には、再び出力制限が開始されるため、運転者は、急制動がかかったような運転感覚を覚えることになる。これはドライバビリティの観点から好ましくない。
【0006】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、出力制限を行いながら運転者のドライバビリティを向上させることができる出力制限制御装置、ハイブリッド自動車および出力制限制御方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点は、出力制限制御装置としての観点である。本発明の出力制限制御装置は、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能なハイブリッド自動車に搭載され、エンジンおよび/または電動機から出力されるトルクに制限を加える出力制限手段を有する出力制限制御装置において、出力制限手段は、運転者の所定の操作に応じて出力制限を解除または復帰させ、この出力制限の解除または復帰には、それぞれ所定の解除レートまたは所定の復帰レートが設定可能であるものである。
【0008】
たとえば、所定の操作は、アクセル操作および方向指示器の操作であり、出力制限手段は、所定のアクセル開度を超える運転者の急峻なアクセル操作に対しては、出力制限を即座に解除すると共に、急峻なアクセル操作からの復帰時には、所定の復帰レートに基づいて出力制限を緩やかに復帰させ、運転者の方向指示器の操作に対しては、出力制限を所定の解除レートに基づいて緩やかに解除すると共に、方向指示器の操作の終了時には、所定の復帰レートに基づいて出力制限を緩やかに復帰させることができる。
【0009】
このとき、アクセル操作に起因する出力制限の解除から復帰までの一連の制御と、方向指示器の操作に起因する出力制限の解除から復帰までの一連の制御とが、少なくともその一部が並行に行われるときには、制御の結果のトルクの値の大きい方が採用されるようにできる。
【0010】
あるいは、アクセル操作に起因する出力制限の解除から復帰までの一連の制御と方向指示器の操作に起因する出力制限の解除から復帰までの一連の制御のいずれか一方の制御が行われているときには、他方の制御は行われないようにできる。
【0011】
さらに出力制限手段が出力制限の解除を行っていることを表示する出力制限解除表示部を有することができる。
【0012】
本発明の他の観点は、ハイブリッド自動車としての観点である。本発明のハイブリッド自動車は、本発明の出力制限制御装置を有するものである。
【0013】
本発明のさらに他の観点は、出力制限制御方法としての観点である。本発明の出力制限制御方法は、エンジンと電動機とを有し、エンジンもしくは電動機、またはエンジンと電動機とが協働して走行可能なハイブリッド自動車に搭載され、エンジンおよび/または電動機から出力されるトルクに制限を加える出力制限手段を有する出力制限制御装置の出力制限制御方法において、運転者の所定の操作に応じて出力制限を解除または復帰させ、この出力制限の解除または復帰には、それぞれ所定の解除レートまたは所定の復帰レートが設定可能である出力制限制御ステップを有するものである。
【0014】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、情報処理装置に、本発明の出力制限制御装置の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、出力制限を行いながら運転者のドライバビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態のハイブリッド自動車の構成の例を示すブロック図である。
【図2】図1のハイブリッドECUにおいて実現される機能の構成の例を示すブロック図である。
【図3】図2の出力制限制御部の出力制限制御における制限加速度とギア段との関係および変速時のトルクの変化を示す図である。
【図4】図2の出力制限制御部の処理(その1)を示すフローチャートである。
【図5】図2の出力制限制御部の処理(その2)を示すフローチャートである。
【図6】図2の出力制限制御部の出力制限制御におけるアクセル開度とトルクとの関係を示す図である。
【図7】図2の出力制限制御部の出力制限制御における方向指示器の操作とトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態のハイブリッド自動車について、図1〜図7を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、ハイブリッド自動車1の構成の例を示すブロック図である。ハイブリッド自動車1は、車両の一例である。ハイブリッド自動車1は、半自動トランスミッションの変速機を介したエンジン(内燃機関)10および/または電動機13によって駆動され、エンジン10および/または電動機13から出力されるトルクに制限を加える出力制限を実施することができる。なお、半自動トランスミッションとは、マニュアルトランスミッションと同じ構成を有しながら変速操作を自動的に行うことができるトランスミッションである。
【0019】
ハイブリッド自動車1は、エンジン10、エンジンECU(Electronic Control Unit)11、クラッチ12、電動機13、インバータ14、バッテリ15、トランスミッション16、モータECU17、ハイブリッドECU18、車輪19、出力制限解除表示部20、キースイッチ21、およびシフト部22を有して構成される。なお、トランスミッション16は、上述した半自動トランスミッションを有し、ドライブレンジ(以下では、D(Drive)レンジと記す)を有するシフト部22により操作される。
【0020】
エンジン10は、内燃機関の一例であり、エンジンECU11によって制御され、ガソリン、軽油、CNG(Compressed Natural Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)、または代替燃料等を内部で燃焼させて、軸を回転させる動力を発生させ、発生した動力をクラッチ12に伝達する。
【0021】
エンジンECU11は、ハイブリッドECU18からの指示に従うことにより、モータECU17と連携動作するコンピュータであり、燃料噴射量やバルブタイミングなど、エンジン10を制御する。たとえば、エンジンECU11は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/O(Input/Output)ポートなどを有する。
【0022】
クラッチ12は、ハイブリッドECU18によって制御され、エンジン10からの軸出力を、電動機13およびトランスミッション16を介して車輪19に伝達する。すなわち、クラッチ12は、ハイブリッドECU18の制御によって、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸とを機械的に接続することにより、エンジン10の軸出力を電動機13に伝達させたり、または、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸との機械的な接続を切断することにより、エンジン10の軸と、電動機13の回転軸とが互いに異なる回転速度で回転できるようにする。
【0023】
たとえば、クラッチ12は、エンジン10の動力によってハイブリッド自動車1が走行し、これにより電動機13に発電させる場合、電動機13の駆動力によってエンジン10がアシストされる場合、および電動機13によってエンジン10を始動させる場合などに、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸とを機械的に接続する。
【0024】
また、たとえば、クラッチ12は、エンジン10が停止またはアイドリング状態にあり、電動機13の駆動力によってハイブリッド自動車1が走行している場合、およびエンジン10が停止またはアイドリング状態にあり、ハイブリッド自動車1が減速中または下り坂を走行中であり、電動機13が発電している(電力回生している)場合、エンジン10の回転軸と電動機13の回転軸との機械的な接続を切断する。
【0025】
なお、クラッチ12は、運転者がクラッチペダルを操作して動作しているクラッチとは異なるものであり、ハイブリッドECU18の制御によって動作する。
【0026】
電動機13は、いわゆる、モータジェネレータであり、インバータ14から供給された電力により、軸を回転させる動力を発生させて、その軸出力をトランスミッション16に供給するか、またはトランスミッション16から供給された軸を回転させる動力によって発電し、その電力をインバータ14に供給する。たとえば、ハイブリッド自動車1が加速しているときまたは定速で走行しているときにおいて、電動機13は、軸を回転させる動力を発生させて、その軸出力をトランスミッション16に供給し、エンジン10と協働してハイブリッド自動車1を走行させる。また、たとえば、電動機13がエンジン10によって駆動されているとき、またはハイブリッド自動車1が減速しているとき、若しくは下り坂を走行しているときなど、無動力で走行しているときにおいて、電動機13は、発電機として動作し、この場合、トランスミッション16から供給された軸を回転させる動力によって発電して、電力をインバータ14に供給し、バッテリ15が充電される。
【0027】
インバータ14は、モータECU17によって制御され、バッテリ15からの直流電圧を交流電圧に変換するか、または電動機13からの交流電圧を直流電圧に変換する。電動機13が動力を発生させる場合、インバータ14は、バッテリ15の直流電圧を交流電圧に変換して、電動機13に電力を供給する。電動機13が発電する場合、インバータ14は、電動機13からの交流電圧を直流電圧に変換する。すなわち、この場合、インバータ14は、バッテリ15に直流電圧を供給するための整流器および電圧調整装置としての役割を果たす。
【0028】
バッテリ15は、充放電可能な二次電池であり、電動機13が動力を発生させるとき、電動機13にインバータ14を介して電力を供給するか、または電動機13が発電しているとき、電動機13が発電する電力によって充電される。
【0029】
トランスミッション16は、ハイブリッドECU18からの変速指示信号に従って、複数のギア比(変速比)のいずれかを選択する半自動トランスミッション(図示せず)を有し、変速比を切り換えて、変速されたエンジン10の動力および/または電動機13の動力を車輪19に伝達する。また、減速しているとき、もしくは下り坂を走行しているときなど、トランスミッション16は、車輪19からの動力を電動機13に伝達する。なお、半自動トランスミッションは、シフト部22を操作して運転者が手動で任意のギア段にギア位置を変更することもできる。
【0030】
モータECU17は、ハイブリッドECU18からの指示に従うことにより、エンジンECU11と連携動作するコンピュータであり、インバータ14を制御することによって電動機13を制御する。たとえば、モータECU17は、CPU、ASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。
【0031】
ハイブリッドECU18は、コンピュータの一例であり、ハイブリッド走行のために、アクセル開度情報、ブレーキ操作情報、車速情報、方向指示器操作情報およびトランスミッション16から取得したギア位置情報、エンジンECU11から取得したエンジン回転速度情報を取得して、これを参照して、クラッチ12を制御すると共に、変速指示信号を供給することでトランスミッション16を制御する。また、ハイブリッドECU18は、ハイブリッド走行のために、取得したバッテリ15のSOC情報その他の情報に基づきモータECU17に対して電動機13およびインバータ14の制御指示を与え、エンジンECU11に対してエンジン10の制御指示を与える。さらにハイブリッドECU18は、ハイブリッドECU18が後述する出力制限を解除していることを外部に表示するための出力制限解除表示部20の表示を制御する。たとえば、ハイブリッドECU18は、CPU、ASIC、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSPなどにより構成され、内部に、演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。
【0032】
なお、ハイブリッドECU18によって実行されるプログラムは、ハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリにあらかじめ記憶しておくことで、コンピュータであるハイブリッドECU18にあらかじめインストールしておくことができる。
【0033】
エンジンECU11、モータECU17、およびハイブリッドECU18は、CAN(Control Area Network)などの規格に準拠したバスなどにより相互に接続されている。
【0034】
車輪19は、路面に駆動力を伝達する駆動輪である。なお、図1において、1つの車輪19のみが図示されているが、実際には、ハイブリッド自動車1は、複数の車輪19を有する。
【0035】
出力制限解除表示部20は、後述する出力制限を解除していることを外部に表示するためのものである。たとえば出力制限解除表示部20は、赤色などのパイロットランプであり、出力制限が解除されると点灯または点滅する。あるいは、出力制限解除表示部20は、画像情報やテキスト情報を表示するディスプレイであり、出力制限が解除されるとその旨を図形、記号、またはアニメーションあるいは文字などで表示する。あるいは、出力制限解除表示部20は、音声情報を出力するスピーカであり、出力制限が解除されるとその旨を音声情報または警報音などで通知する。あるいは、出力制限解除表示部20は、これらの各種情報の全てまたは一部を組み合わせて表示または出力するものでもよい。
【0036】
キースイッチ21は、運転を開始するときにユーザにより、たとえばキーが差し込まれてON/OFFされるスイッチであり、これがON状態になることによってハイブリッド自動車1の各部は起動し、キースイッチ21がOFF状態になることによってハイブリッド自動車1の各部は停止する。
【0037】
図2は、プログラムを実行するハイブリッドECU18において実現される機能の構成の例を示すブロック図である。すなわち、ハイブリッドECU18がプログラムを実行すると、出力制限制御部30が実現される。
【0038】
出力制限制御部30は、ギア段毎に許可する加速度を設定する制御を実施する。具体的には、出力制限制御部30は、ギア段毎に運転者の要求トルクに対してそれよりも低いトルクを実際のトルクとするように制御を実施する。また、出力制限制御部30は、出力制限中であってもアクセル開度情報または方向指示器操作情報に基づき一時的に出力制限を解除する。
【0039】
次に、出力制限制御部30の出力制限制御における制限加速度とギア段との関係および変速時のエンジン10のトルクの変化を、図3を参照して説明する。図3の上段は、ギア段が2速、3速、4速における制限加速度を破線で示し、ハイブリッド自動車1の加速度を実線で示している。図3の下段は、ハイブリッド自動車1のエンジン10のトルクの変化を上段の図に対応させて示している。
【0040】
図3の上段に示すように、ハイブリッド自動車1が発進段の2速で加速し、(期間T1)、やがて2速の制限加速度に達すると、2速の制限加速度に達している間は、加速はその制限加速度に抑えられる(期間T2)。ここで変速が実施されると(期間T3)、ギア段はニュートラルになると共に、エンジン10のトルクはいったん絞られる。変速が完了するとエンジン10のトルクは復帰し、3速の制限加速度まで加速する。
【0041】
ハイブリッド自動車1は、3速の制限加速度で走行を続けて車速がさらに上昇すると(期間T4)、再び変速を実施する(期間T5)。ここで変速が実施されると(期間T5)、ギア段はニュートラルになると共に、エンジン10のトルクはいったん絞られる。変速が完了するとエンジン10のトルクは復帰し、4速の制限加速度まで達する。その後、ハイブリッド自動車1は、4速の制限加速度で走行する(期間T6)。
【0042】
次に、図4のフローチャートを参照して、プログラムを実行するハイブリッドECU18において行われる、出力制限中の出力制限一時解除制御の処理(その1)を説明する。なお、図4のフローは1周期分の処理であり、キースイッチ20がON状態である限り処理は繰り返し実行されるものとする。
【0043】
図4のフローチャートでは、ステップS1〜S4の手続きからなるフロー♯1の処理(アクセル操作側の処理)と、ステップS5〜S8の手続きからなるフロー♯2の処理(方向指示器操作側の処理)とが並行に行われているので、これらを個別に説明する。
【0044】
(フロー♯1の処理)
図4の「START」では、キースイッチ21がON状態であり、ハイブリッドECU18がプログラムを実行し、ハイブリッドECU18に出力制限制御部30が実現されている状態であり、手続きはステップS1に進む。なお、「START」では、ハイブリッド自動車1は、出力制限実施中の状態である。
【0045】
ステップS1において、出力制限制御部30は、所定の開度を超えるアクセル操作の有無を判定する。所定の開度を超えるアクセル操作が有ったと判定された場合、手続きはステップS2に進む。一方、所定の開度を超えるアクセル操作が無いと判定された場合、手続きはステップS1を繰り返す。
【0046】
ステップS2において、出力制限制御部30は、即座に出力制限を解除する。このとき出力制限解除表示部20は制限が解除されたことを表示または出力する。なお、即座に出力制限を解除するとは、出力制限を解除する際のレートを設定することなく出力制限を解除することである。この場合、それまで出力制限を受けていた被制御対象がそれぞれの特性に応じて成り行きで出力制限を解除することになる。
【0047】
ステップS3において、出力制限制御部30は、アクセル操作が所定の開度以下まで復帰(すなわちアクセル開度が所定の開度以下に戻る。)したか否かを判定する。アクセル操作が復帰したと判定された場合、手続きはステップS4に進む。
【0048】
ステップS4において、出力制限制御部30は、復帰レートAで制限復帰して1周期分の処理は終了する。なお、復帰レートAについては後述する。このとき出力制限解除表示部20の表示または出力は停止する。
【0049】
(フロー♯2の処理)
「START」の条件は、フロー♯1と同じであり、手続きはステップS5に進む。
【0050】
ステップS5において、出力制限制御部30は、方向指示器の操作の有無を判定する。ステップS5において、方向指示器の操作が有ったと判定されると手続きはステップS6に進む。一方、ステップS5において、方向指示器の操作が無いと判定されると手続きはステップS5を繰り返す。
【0051】
ステップS6において、出力制限制御部30は、所定の解除レートで制限解除して手続きはステップS7に進む。このとき出力制限解除表示部20は制限が解除されたことを表示または出力する。なお、解除レートについては後述する。
【0052】
ステップS7において、出力制限制御部30は、方向指示器の操作が終了したか否かを判定する。ステップS7において、方向指示器の操作が終了したと判定されると手続きはステップS8に進む。
【0053】
ステップS8において、出力制限制御部30は、復帰レートBで制限復帰して1周期分の処理は終了する。このとき出力制限解除表示部20の表示または出力は停止する。なお、復帰レートBについては後述する。
【0054】
(制限解除の処理の競合制御について)
以上説明したフロー♯1および♯2の処理において、フロー♯1および♯2の処理が少なくともその一部が並行に行われるとき(これを処理の競合と称する)の処理について以下に説明する。
【0055】
ステップS9において、出力制限制御部30は、フロー♯1および♯2のトルクの制限解除の処理が競合しているか否かを判定する。ステップS9において、フロー♯1および♯2のトルクの制限解除の処理が競合していると判定されると手続きはステップS10に進む。ステップS9において、フロー♯1および♯2のトルクの制限解除の処理が競合していないと判定されると1周期分の処理は終了する。
【0056】
ステップS10において、出力制限制御部30は、フロー♯1および♯2のトルクの制限解除の処理において、制限解除した結果のトルクの値が大きい方のトルクを採用して1周期分の処理は終了する。
【0057】
たとえばハイブリッド自動車1が追い越しのために進路変更するような場合、方向指示器が操作されてからアクセル操作が全開になる場合がある。図4の処理では、このような場合は、既に方向指示器操作側の処理(フロー♯2)が開始されており、アクセル操作側の処理(フロー♯1)はその後に行われる。このとき、アクセル操作側の処理(フロー♯1)では、急峻にトルクが大きくなるため、後から行われたアクセル操作側の処理(フロー♯1)の結果のトルクの値が先に行われていた方向指示器操作側の処理(フロー♯2)の結果のトルクの値よりも大きくなる場合がある。このような場合には、出力制限制御部30は、後から行われたアクセル操作側の処理(フロー♯1)の結果のトルクの値を反映して出力制限を実施する。
【0058】
次に、図5のフローチャートを参照して、プログラムを実行するハイブリッドECU18において行われる、出力制限中の出力制限一時解除制御の処理(その2)を説明する。なお、図5のフローは1周期分の処理であり、キースイッチ20がON状態である限り処理は繰り返し実行されるものとする。
【0059】
図5の「START」では、キースイッチ21がON状態であり、ハイブリッドECU18がプログラムを実行し、ハイブリッドECU18に出力制限制御部30が実現されている状態であり、手続きはステップS11に進む。なお、「START」では、ハイブリッド自動車1は、出力制限実施中の状態である。
【0060】
ステップS11において、出力制限制御部30は、所定の開度を超えるアクセル操作の有無を判定する。所定の開度を超えるアクセル操作が有ったと判定された場合、手続きはステップS12に進む。一方、所定の開度を超えるアクセル操作が無いと判定された場合、手続きはステップS15に進む。
【0061】
ステップS12において、出力制限制御部30は、出力制限を解除する。このとき出力制限解除表示部20は制限が解除されたことを表示または出力する。
【0062】
ステップS13において、出力制限制御部30は、アクセル操作が所定の開度以下まで復帰(すなわちアクセル開度が所定の開度以下に戻る。)したか否かを判定する。アクセル操作が復帰したと判定された場合、手続きはステップS14に進む。
【0063】
ステップS14において、出力制限制御部30は、復帰レートAで制限復帰して1周期分の処理は終了する。なお、復帰レートAについては後述する。このとき出力制限解除表示部20の表示または出力は停止する。
【0064】
ステップS15において、出力制限制御部30は、方向指示器の操作の有無を判定する。ステップS15において、方向指示器の操作が有ったと判定されると手続きはステップS16に進む。一方、ステップS5において、方向指示器の操作が無いと判定されると手続きはステップS11に戻る。
【0065】
ステップS16において、出力制限制御部30は、所定の解除レートで制限解除して手続きはステップS17に進む。このとき出力制限解除表示部20は制限が解除されたことを表示または出力する。なお、解除レートについては後述する。
【0066】
ステップS17において、出力制限制御部30は、方向指示器の操作が終了したか否かを判定する。ステップS17において、方向指示器の操作が終了したと判定されると手続きはステップS18に進む。
【0067】
ステップS18において、出力制限制御部30は、復帰レートBで制限復帰して1周期分の処理は終了する。このとき出力制限解除表示部20の表示または出力は停止する。なお、復帰レートBについては後述する。
【0068】
たとえばハイブリッド自動車1が追い越しのために進路変更するような場合、方向指示器が操作されてからアクセル操作が全開になる場合がある。図5の処理では、このような場合は、既に方向指示器操作側の処理(S15→S16→S17→S18)が開始されており、アクセル操作側の処理(S11→S12→S13→S14)は行われない。このように、図5の処理では、アクセル操作側または方向指示器操作側のいずれか一方の処理が先に開始されると他方の処理は行われない。なお、図5のフローチャートにおけるステップS11〜S14(アクセル操作側の処理)とステップS15〜S18(方向指示器操作側の処理)の位置関係を入れ替えてもよい。
【0069】
次に、出力制限制御部30の出力制限制御におけるアクセル開度とトルクとの関係を、図6を参照して説明する。図6の上段は、アクセル開度の変化を時間の経過に伴って示している。図6の中段は、出力制限制御部30が出力制限制御を行っているときのトルクの変化を時間の経過に伴って示している。図6の下段は、比較例として従来のトルクの変化を時間の経過に伴って示している。
【0070】
図6の時刻T10より前の時刻では、アクセル開度が通常の範囲内であり出力制限中である。時刻T10で運転者による急峻なアクセル操作が行われ、アクセル開度は、全開に達している。これにより出力制限制御部30は、出力制限を解除する。その後、時刻T11で運転者がアクセルペダルを緩め始め、アクセルの開度がたとえば80%付近になるまでは、出力制限制御部30は、図6の中段に示すように、復帰レートA1で、実トルクが目標トルクに近づくように出力制限を復帰させる。さらに運転者がアクセルペダルを緩め、アクセルの開度が80%以下になると、出力制限制御部30は、図6の中段に示すように、復帰レートA2で、実トルクが目標トルクに近づくように出力制限を復帰させる。時刻T12でアクセル開度は通常の範囲内に復帰し、出力制限も復帰する。
【0071】
図6の最下段に示した比較例では、時刻T11と時刻T12との間における出力制限の復帰におけるレートは設定されていない。したがって、比較例では、運転者がアクセルペダルを全開から少しでも緩めると急に出力制限が復帰し(実トルクが目標トルクになり)、運転者は急制動を感じることになる。
【0072】
次に、出力制限制御部30の出力制限制御における方向指示器の操作とトルクとの関係を、図7参照して説明する。図6と同様。図7の上段は、方向指示器の操作を時間の経過に伴って示している。図7の下段は、出力制限制御部30が出力制限制御を行っているときのトルクの変化を時間の経過に伴って示している。
【0073】
図7の時刻T20よりも前の時刻では、方向指示器の操作が無く出力制限中である。時刻T20で運転者による方向指示器の操作が行われる。これにより出力制限制御部30は、解除レートにより一時的に出力制限を解除する。時刻T21では、引き続き方向指示器の操作が継続しており、出力制限は解除中であり、実トルクは要求トルクとほぼ一致している。時刻T22で、方向指示器の操作は終了する。これにより出力制限制御部30は、復帰レートBにより実トルクが目標トルクに近づくように出力制限を復帰させる。ここで復帰レートBは、たとえば解除レートと同じである。時刻T23で出力制限は復帰する。
【0074】
(効果について)
ハイブリッド自動車1は、出力制限制御部30は、所定のアクセル開度を超える運転者の急峻なアクセル操作に対しては、出力制限を即座に解除すると共に、急峻なアクセル操作からの復帰時には、所定の復帰レートに基づいて出力制限を緩やかに復帰させる。すなわち運転者が急峻で大きなアクセル操作を行う状況は、運転者が大きな加速度を要求している状態である。そこで運転者の要求を満たすべく即座に出力制限を解除する。一方、運転者のアクセル操作が通常に復帰したら所定のレートで出力制限を復帰させる。これにより運転者に急制動のショックを与えることなく出力制限を復帰させることができる。このようにして出力制限を行いながら運転者のドライバビリティを向上させることができる。
【0075】
また、運転者の方向指示器の操作に対しては、出力制限を所定の解除レートに基づいて緩やかに解除すると共に、方向指示器の操作の終了時には、所定の復帰レートに基づいて出力制限を緩やかに復帰させる。すなわち運転者が方向指示器を操作する状況は、進路変更あるいは交差点などでの右左折のためである。このような状況では、ハイブリッド自動車1の素早い動きが必要であるため、一時的に出力制限を解除し、運転者の要求トルクを満たすように制御する。ただし、進路変更や交差点などの右左折の場合、方向指示器の操作は先立って行われる。よって、この場合の出力制限の解除は、所定のレートで行い、急峻なドライバビリティの変化の感覚を運転者に与えないようにする。方向指示器の操作が終了したら出力制限を復帰させるがこのときも出力制限の復帰は所定のレートで行い、急峻なドライバビリティの変化の感覚を運転者に与えないようにする。このようにして出力制限を行いながら運転者のドライバビリティを向上させることができる。
【0076】
なお、進路変更や交差点などの右左折の場合、方向指示器の操作はアクセル操作に先立って行われる。したがって、実際には、図4で説明した処理(その1)によれば、方向指示器の操作により図7に示した解除レートでトルクが立ち上がり、少し遅れてアクセル操作によりトルクがさらに大きくなり、続いてアクセル操作の復帰により復帰レートA1,A2で復帰するケースが多い。このようなケースでは、トルクがゆっくりと立ち上がり、さらにトルクが大きくなり、その後ゆっくりと復帰するためドライバビリティは良好である。
【0077】
また、図5で説明した処理(その2)によれば、方向指示器の操作により図7に示した解除レートでトルクが立ち上がり、図6に示したアクセル操作の復帰により復帰レートA1,A2で復帰するケースが多い。これによってもトルクがゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと復帰するためドライバビリティは良好である。
【0078】
また、出力制限の解除の状態を出力制限解除表示部20の表示によって運転者が認識できる。これにより運転者は、なるべく出力制限が解除されないような運転を心がけるなど、低燃費運転を意識することができる。
【0079】
(その他の実施の形態)
エンジン10は、内燃機関であると説明したが、外燃機関を含む熱機関であってもよい。
【0080】
また、ハイブリッドECU18によって実行されるプログラムは、ハイブリッドECU18にあらかじめインストールされると説明したが、プログラムが記録されている(プログラムを記憶している)リムーバブルメディアを図示せぬドライブなどに装着し、リムーバブルメディアから読み出したプログラムをハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリに記憶することにより、または、有線または無線の伝送媒体を介して送信されてきたプログラムを、図示せぬ通信部で受信し、ハイブリッドECU18の内部の不揮発性のメモリに記憶することで、コンピュータであるハイブリッドECU18にインストールすることができる。
【0081】
また、各ECUは、これらの機能の一部または全部を1つにまとめたECUにより実現してもよいし、あるいは、各ECUの機能をさらに細分化したECUを新たに設けてもよい。
【0082】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0083】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1…ハイブリッド自動車、10…エンジン、11…エンジンECU、12…クラッチ、13…電動機、14…インバータ、15…バッテリ、16…トランスミッション、17…モータECU、18…ハイブリッドECU、19…車輪、20…出力制限解除表示部、21…キースイッチ、30…出力制限制御部(出力制限手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機とを有し、前記エンジンもしくは前記電動機、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能なハイブリッド自動車に搭載され、前記エンジンおよび/または前記電動機から出力されるトルクに制限を加える出力制限手段を有する出力制限制御装置において、
前記出力制限手段は、運転者の所定の操作に応じて出力制限を解除または復帰させ、この出力制限の解除または復帰には、それぞれ所定の解除レートまたは所定の復帰レートが設定可能である、
ことを特徴とする出力制限制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の出力制限制御装置であって、
前記所定の操作は、アクセル操作および方向指示器の操作であり、
前記出力制限手段は、所定のアクセル開度を超える運転者の急峻なアクセル操作に対しては、出力制限を即座に解除すると共に、前記急峻なアクセル操作からの復帰時には、所定の復帰レートに基づいて出力制限を緩やかに復帰させ、運転者の方向指示器の操作に対しては、出力制限を所定の解除レートに基づいて緩やかに解除すると共に、前記方向指示器の操作の終了時には、所定の復帰レートに基づいて出力制限を緩やかに復帰させる、
ことを特徴とする出力制限制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の出力制限制御装置であって、
アクセル操作に起因する前記出力制限の解除から復帰までの一連の制御と、方向指示器の操作に起因する前記出力制限の解除から復帰までの一連の制御とが、少なくともその一部が並行に行われるときには、制御の結果のトルクの値の大きい方が採用される、
ことを特徴とする出力制限制御装置。
【請求項4】
請求項2記載の出力制限制御装置であって、
アクセル操作に起因する前記出力制限の解除から復帰までの一連の制御と方向指示器の操作に起因する前記出力制限の解除から復帰までの一連の制御のいずれか一方の制御が行われているときには、他方の制御は行われない、
ことを特徴とする出力制限制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の出力制限制御装置であって、
前記出力制限手段が出力制限の解除を行っていることを表示する出力制限解除表示部を有する、
ことを特徴とする出力制限制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項記載の出力制限制御装置を有することを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項7】
エンジンと電動機とを有し、前記エンジンもしくは前記電動機、または前記エンジンと前記電動機とが協働して走行可能なハイブリッド自動車に搭載され、前記エンジンおよび/または前記電動機から出力されるトルクに制限を加える出力制限手段を有する出力制限制御装置の出力制限制御方法において、
運転者の所定の操作に応じて出力制限を解除または復帰させ、この出力制限の解除または復帰には、それぞれ所定の解除レートまたは所定の復帰レートが設定可能である出力制限制御ステップを有する、
ことを特徴とする出力制限制御方法。
【請求項8】
情報処理装置に、請求項1から5のいずれか1項記載の出力制限制御装置の機能を実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86743(P2012−86743A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236613(P2010−236613)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】