説明

刈取変速装置

【課題】 刈取部への動力伝達系に、出力用プーリの大型化を避けながら簡単な構造でワンウェイクラッチを設ける。
【解決手段】 高低変速用の被シフト部材22と、その被シフト部材22のスライド方向の端部に形成されている歯部22aと係合する歯部23aを有した出力用回転体23,24とを備え、被シフト部材22と出力用回転体23,24とのそれぞれの対向面に形成されている歯部22a,23a,24aに、原動側の一方向回転を従動側へ伝える係合接当面22b,23b,24bと、原動側の逆方向の回転が従動側へ伝わらないように逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面22c,23c,24cとを形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインなどの刈取作業機において、ミッションケースから刈取搬送装置への伝動系で、刈取速度を高低に変速するために備えた刈取変速装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したコンバインにおいては、従来より下記[1]及び[2]に示す構造を備えたものが知られている。
[1] エンジンからの出力をHST(静油圧式無段変速装置)で変速してミッションケース内に導入し、ミッションケース内で走行駆動系と刈取部駆動系とに分岐し、走行駆動系の動力はミッションケース内でギヤ変速して走行部へ伝達し、刈取部駆動系の動力は、ワンウェイクラッチを介して刈取部へ伝達するように構成したもの(特許文献1参照)。
[2] エンジンからの出力をHST(静油圧式無段変速装置)で変速してミッションケース内に導入し、ミッションケース内で走行駆動系と刈取部駆動系とに分岐し、走行駆動系の動力はミッションケース内でギヤ変速して走行部へ伝達し、刈取部駆動系の動力も高低にギヤ変速し、かつワンウェイクラッチを介して刈取部へ伝達するように構成したもの(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−274204号公報(段落〔0014〕、〔0015〕、〔0017〕、図2、図3、図4、図5)
【特許文献2】特開平11−32557号公報(段落〔0039〕、〔0040〕、図2、図22)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に示されるように、エンジンからの出力をHST(静油圧式無段変速装置)で変速してミッションケース内に導入し、ミッションケース内で走行駆動系と刈取部駆動系とに分岐して伝動する構造のものでは、走行速度に応じて刈取速度も変速して駆動することができるものである。
しかしながら、この種のコンバインにおいては、機体を後進作動させたときに、刈取部駆動系にも前進時とは逆方向の回転動力が伝達されることになるため、この逆回転を刈取部駆動系には伝達しないようにする必要がある。このため、上記特許文献1及び2に記載のものでは、刈取部への出力軸に設けた出力用プーリ内にワンウェイクラッチを設けていた。
このように、ミッションケースから突出させた出力軸に取り付けた出力用プーリ内にワンウェイクラッチを設けようとすれば、出力用プーリ自体の軸方向長さが長くなって、出力用プーリが大型化するという不具合があり、また、そのための配置スペースも大きくなって、各種伝動部材が錯綜するコンバイン内部の配置スペースを削減するという不都合がある。
【0005】
本発明の目的は、刈取部への動力伝達系にワンウェイクラッチを設けるにあたり、出力用プーリの大型化を避けながら簡単な構造でワンウェイクラッチを設けた刈取変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、請求項1に記載のように、刈取搬送装置への出力軸上でスライド操作自在に設けられた高低変速用の被シフト部材と、その被シフト部材のスライド方向の端部に形成されている歯部と係合する歯部を有した出力用回転体とを備え、
前記被シフト部材と出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成されている歯部に、原動側の一方向回転を従動側へ伝えるように前記回転方向で互いに係合する係合接当面を形成するとともに、前記原動側の逆方向の回転が従動側へ伝わらないように、互いの歯部の対向面に前記逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面を形成してあることを特徴とする。
【0007】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明の刈取変速装置では、出力用プーリの内部にワンウェイクラッチを設けるのではなく、ミッションケース内に装備されている高低変速用の変速装置を有効利用して、一方向回転機構を小型なものに構成している。
つまり、高低変速用の変速装置が必然的に備えているところの被シフト部材と、その被シフト部材のスライド方向の端部に形成されている歯部と係合する歯部を有した出力用回転体とを有効利用して、その歯部形状を変更する程度の簡単な構造改良によって、装置の大型化を招くことなく、コンパクトな一方向回転機構を構成し得たものである。
したがって、機体後進時の逆転駆動を避けながらの刈取搬送装置への動力伝達に必要な出力用プーリの小型化と配置スペースの削減とを、刈取変速装置自体の簡単な構造改良によって達成できる利点がある。
【0008】
〔解決手段2〕
本発明の刈取変速装置における第2の解決手段は、請求項2の記載のように、刈取搬送装置への出力軸上に低速側出力用回転体と高速側出力用回転体とを配備するとともに、前記低速側出力用回転体と高速側出力用回転体との間における出力軸上にスライド操作自在な高低変速用の被シフト部材を設け、
前記被シフト部材と、前記低速側出力用回転体及び高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に動力伝達用の歯部を形成し、
前記被シフト部材と高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成されている歯部に、原動側の一方向回転を従動側へ伝えるように前記回転方向で互いに係合する係合接当面を形成するとともに、前記原動側の逆方向の回転が従動側へ伝わらないように、互いの歯部の対向面に前記逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面を形成してあることを特徴とする。
【0009】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段2にかかる本発明の刈取変速装置では、出力用プーリの内部にワンウェイクラッチを設けるのではなく、ミッションケース内に装備されている高低変速用の変速装置を有効利用して、一方向回転機構を小型なものに構成している。
つまり、高低変速用の変速装置が必然的に備えているところの低速側出力用回転体と高速側出力用回転体との間の出力軸上にスライド操作自在に配置した高低変速用の被シフト部材を有効利用して、その被シフト部材と高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成されている歯部の歯部形状を変更する程度の簡単な構造改良によって、装置の大型化を招くことなく、コンパクトな一方向回転機構を構成し得たものである。
したがって、機体後進時の逆転駆動を避けながらの刈取搬送装置への動力伝達に必要な出力用プーリの小型化と配置スペースの削減とを、刈取変速装置自体の簡単な構造改良によって達成できる利点がある。
【0010】
〔解決手段3〕
本発明の刈取変速装置における第3の解決手段は、請求項3の記載のように、出力軸と低速側出力用回転体との間に、被シフト部材と高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成された歯部によって伝達される回転方向と同方向の回転を伝達するワンウェイクラッチを介装してある点に特徴がある。
【0011】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段3にかかる本発明の刈取変速装置では、前記解決手段2にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、刈取対象茎稈が極端に倒伏していて、大きく引き起こす必要がある場合、機体の走行速度に対する引き起こし速度の割合を高めるために、刈取変速装置を高速側へ切換操作するのであるが、このとき、被シフト部材が低速側出力用回転体との係合を解き、高速側出力用回転体に係合するまでの間では、被シフト部材には高低何れの側からも動力が伝達されない状態が生じる。
したがって、被シフト部材のみを介して出力軸に動力を伝える構造であれば、上記の係合がされていない間だけ動力が伝達されない状態が生じるおそれがあるが、本発明では、出力軸と低速側出力用回転体との間においても、被シフト部材と高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成された歯部によって伝達される回転方向と同方向の回転を伝達するワンウェイクラッチを介装してあるので、動力切れのない状態で出力軸に動力を伝達し続けることができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
【0013】
〔コンバインの全体構成〕
まず、本発明の刈取変速装置を適用したコンバイン全体の構造について説明する。
図1には自脱形コンバインの全体側面が、図2にはその全体平面が示されている。このコンバインは、角パイプ材などによって枠状に形成した機体フレーム1を備え、機体フレーム1の下部に左右一対のクローラ式走行装置10を装備している。機体フレーム1の前方及び左前部には昇降揺動可能に連結した刈取搬送装置3が設けられ、機体フレーム1の左後部に脱穀装置4を搭載し、機体フレーム1の右後部に穀粒貯留装置5を搭載し、さらに、機体フレーム1の右前部に設けた原動部6、原動部6の上方側に形成した搭乗運転部11などを備えている。
図2に示すように、前記搭乗運転部11では、機体の前後進変速操作を行う変速レバー11A、ならびに機体の操向操作を行う操向操作レバー11Bを備えるとともに、刈取変速装置2の高低変速操作などを指令するための操作盤11Cを備えている。
【0014】
〔伝動系の構成〕
前記原動部6に備えられるエンジン60は、その出力軸60Aの軸心方向が左右向きになる姿勢で機体フレーム1に搭載されている。そのエンジン60から左右の各クローラ式走行装置10への伝動は、図3に示すように、機体の左右中央部に向けて突出するエンジン60の出力軸60Aの左端部から、左右の各クローラ式走行装置10の駆動輪10Aにわたる走行用の伝動系を介して行われる。走行用の伝動系は、ベルト式の伝動装置12、主変速装置として備えた静油圧式無段変速装置13、及び、ミッションケース14に副変速装置として内装したギヤ式変速装置(図示せず)、などによって構成されている。
【0015】
左右の各クローラ式走行装置10は、搭乗運転部11に装備した変速レバー11Aを前後方向に揺動操作することで、静油圧式無段変速装置13による無段階の変速操作と前後進の切り換え操作とを行うことができ、又、搭乗運転部11に装備した操向操作レバー11Bを左右方向に揺動操作することで、ミッションケース14内のギヤ式変速装置による直進状態、左右の緩旋回状態、及び左右の急旋回状態の切り換えを行えるように構成されている。
【0016】
刈取搬送装置3は、静油圧式無段変速装置13による変速後の動力が、後述する刈取変速装置2やベルトテンション式の刈取クラッチ30などを介して伝達されることで、複数の引起し装置32、バリカン形の刈取装置33、及び穀稈搬送装置34などが駆動され、機体の走行に伴って、その前端に装備された複数の分草具35が倒伏した植立穀稈を分草し、各引起し装置32が分草後の植立穀稈を引き起こし、刈取装置33が引き起こされた植立穀稈の株元側を切断し、穀稈搬送装置34が刈取穀稈を起立姿勢から横倒し姿勢に切り換えながら後方の脱穀装置4に向けて搬送するように構成され、又、操向操作レバー11Bを前後方向に揺動操作することで、リフトシリンダ16の作動により刈取搬送装置3の昇降操作を行えるようになっている。
【0017】
脱穀装置4は、ベルトテンション式の脱穀クラッチ40を介して伝達されるエンジン60からの動力で、扱胴41などが駆動され、後述のフィードチェーン42で株元側を挟持搬送される穀稈の穂先側を扱き処理し、かつ選別処理して得られた穀粒を、一番回収スクリュー(図外)などを介して穀粒貯留装置5のグレンタンク51に供給搬送する周知の構造によって構成されている。
【0018】
フィードチェーン42は、前記脱穀装置4への伝動系から伝動ベルト43で分岐された伝動系によって、かつテンションクラッチ式のフィードチェーンクラッチ44を介してエンジン60からの動力が伝達されるように構成してある。そして、前記フィードチェーンクラッチ44を任意に操作することにより、脱穀装置4の駆動開始あるいは終了時点とタイミングをずらして駆動できるように構成されている。
【0019】
穀粒貯留装置5は、グレンタンク51と穀粒排出用オーガ52とを備え、この穀粒排出用オーガ52に対してエンジン60の動力が伝達されるように構成してある。つまり、前記エンジン60の出力軸60Aのうち、右側横側方から機体外側に向けて突出させた部分から穀粒貯留装置5の入力部53にわたって伝動ベルト54を掛張し、その伝動ベルト54による動力伝達を入り切り操作するベルトテンション式の穀粒排出用クラッチ50を備えたものである。
【0020】
前記グレンタンク51は、その後部に備えた縦軸心y周りに、その全体がエンジン60の後方に位置する作業位置と、その前部側が機体フレーム1の右外方に張り出してエンジン60の後方を開放するメンテナンス位置とにわたって揺動変位可能に、かつ、図外のロック機構によって作業位置及びメンテナンス位置での位置保持が可能となるように構成されている。
このように揺動変位するグレンタンク51の底部に備えられたスクリューコンベヤ55や前記穀粒排出用オーガ52に対する入力部53は、グレンタンク51の前記縦軸心y周りでの揺動を許容するための係脱構造を備えている。
【0021】
すなわち、図3に示すように、伝動ベルト54が掛張される入力プーリ56、及びその入力プーリ56に対して一体回転可能に、かつ相対摺動可能にスプライン嵌合される伝動軸57は機体フレーム1側に設けた軸受けブラケット1aに支持されている。
前記伝動軸57に伝えられた動力は、その伝動軸57に対して軸端側を係脱される入力伝動軸58に伝えられ、かつ、その入力伝動軸58のベベルギヤ58aと前記スクリューコンベヤ55の軸端側に設けられたベベルギヤ55aを介して前記スクリューコンベヤ55や前記穀粒排出用オーガ52伝達されるように構成されている。
前記入力伝動軸58は、グレンタンク51側に支持されていて、前記伝動軸57に対して抜き差し可能な凹入係合部58bを備えていて、伝動軸57からの回転動力は伝達されながら、軸線方向での抜き差しは可能に構成されているので、前記縦軸心y周りでのグレンタンク51の揺動に伴なう係脱を許容することができる。
図中の符号59は、伝動軸57を入力伝動軸58側へ押しつけ付勢するための押圧用スプリングである。
【0022】
〔刈取変速装置の構成〕
前記刈取搬送装置3における刈取速度は、前記静油圧式無段変速装置13による無段階での変速のみならず、ミッションケース14内に装備させた高低2段の変速操作が可能な刈取変速装置2によっても変速することができる。
この刈取変速装置2について詳述する。
【0023】
前記刈取変速装置2は、図4乃至図8に示すように、ミッションケース14の上部横側部に設けた刈取用出力プーリ31を支承する刈取出力軸21に対して、伝動上手側からの動力と高速で刈取搬送装置3へ出力させる状態と、低速で出力させる状態とに切り換えられる変速段切換機構2Aと、その変速段切換機構2Aの変速操作を行う変速操作機構2Bとで構成されている。
【0024】
前記変速段切換機構2Aは、刈取出力軸21にスプライン嵌合させてスライド操作自在に構成してある被シフト部材22と、その被シフト部材22のスライド方向の一端部に対向して係脱自在な出力用回転体の一例である高速側出力ギヤ23と、前記被シフト部材22のスライド方向の前記一端部とは逆方向の端部に対向して係脱自在な出力用回転体の一例である低速側出力ギヤ24とから構成されている。
前記高速側出力ギヤ23、及び低速側出力ギヤ24は、それぞれ、前記被シフト部材22よりも伝動方向上手側に位置する原動側の回転体に相当するものであり、その高速側出力ギヤ23、及び低速側出力ギヤ24に係脱される被シフト部材22が従動側の回転体となり、被シフト部材22を介して刈取出力軸21にエンジン側の動力が伝達される。
つまり、図4乃至図8に示すように、ミッションケース14の上部横側部に設けた刈取用出力プーリ31を支承する出力軸21にスプライン嵌合させた被シフト部材22を、ミッションケース14内で前記出力軸21に遊嵌された高速側出力ギヤ23に係合させる状態と、低速側出力ギヤ24に係合させる状態とにシフト操作自在に構成してある。
【0025】
前記被シフト部材22のスライド方向の両端部と、その各端部に対向する前記高速側出力ギヤ23、及び低速側出力ギヤ24の各対向面は、それぞれ係合用の歯部22a,23a,24aが形成されている。
これらの歯部22a,23a,24aのうち、前記被シフト部材22と高速側出力ギヤ23との間の歯部22a,23aでは、図6乃至図8に示すように、互いの歯部22a,23aが係合するように噛み合うと、互いに逆方向への回転を阻止する状態に係合する係合接当面22b,23bを有している。そして、互いに同方向の回転で速度差があると係合を解除するように、互いの歯部22a,23aの対向面に前記逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面22c,23cを形成して、原動側の逆方向の回転が従動側へ伝わらないように構成してある。
この場合、被シフト部材22側では、その歯部22aが係合方向に突出して、前記係合接当面22bと傾斜面22cとを形成しているが、高速側出力ギヤ23側では、係合方向で凹入する部分円弧状の孔部の周方向端部に、前記係合接当面23bと傾斜面23cとを形成して、その歯部23aを構成している。
したがって、図8に示すように互いの歯部22a,23aが噛み合っていて、機体前進方向の回転(図8における矢印f方向)で、かつ原動側である高速側出力ギヤ23の歯部23aの回転速度が、従動側である被シフト部材22の歯部22aよりも高速であれば、高速側出力ギヤ23から被シフト部材22への動力が伝達され、刈取搬送装置3は高速で駆動される。この回転方向で、従動側である被シフト部材22の回転速度が高速側出力ギヤ23の回転速度を上回れば、同方向回転で被シフト部材22の先行回転を許すことになるが、現実の使用形態では、そのような現象を生じることはない。
【0026】
高速側出力ギヤ23に機体後進方向の回転が伝えられると、高速側出力ギヤ23の歯部23aは、図8における矢印r方向へ移動し、被シフト部材22の歯部22aの傾斜面との協働で互いに離れる方向に移動し、高速側出力ギヤ23の後進方向の回転が被シフト部材22に伝達されることを避け、刈取搬送装置3の逆転駆動を回避できるようにしてある。
つまり、前記被シフト部材22に形成された歯部22aと高速側出力ギヤ23に形成された歯部23aとで、一方向の回転だけを伝え、逆方向の回転は傾斜面22c,23cの乗り上げによりジャンプして外れるジャンプクラッチ形式のワンウェイクラッチ20を構成している。
【0027】
前記被シフト部材22と低速側出力ギヤ24との間においても、図示しないが、前記被シフト部材22と高速側出力ギヤ23との間での歯部形状と同様の歯部22a,24aが形成されており、それぞれの歯部22a,24aに形成される係合接当面22b,23bで機体前進側の動力を伝え、逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面22c,24cによって後進側の動力が伝達されるのを回避できるように構成してある。
したがって、低速側出力ギヤ24に機体後進方向の回転が伝えられると、低速側出力ギヤ24の歯部24aは、図8における矢印r方向へ移動し、被シフト部材22の歯部22aの傾斜面との協働で互いに離れる方向に移動し、低速側出力ギヤ24の後進方向の回転が被シフト部材22に伝達されることを避け、刈取搬送装置3の逆転駆動を回避できるようにしてある。
【0028】
前記被シフト部材22を高低変速操作する変速操作機構2Bは、ミッションケース14を貫通する状態で枢支されたシフト軸25と、ミッションケース14の外側で前記シフト軸25を回動操作するアーム部材26と、そのアーム部材26を回動操作するための電動モータ27、及び操作ワイヤー27aで構成してある。
前記アーム部材26の一端側に連結された操作ワイヤー27aの引き操作(図4中、時計回り方向へ回動させる引き操作)で、被シフト部材22を高速側へ操作し(図4(a))、アーム部材26の他端側に連結された戻しバネ28の付勢力によって低速側(図4中、反時計回り方向へ回動させる戻し付勢)へ常時付勢されている(図4(b))。
上記電動モータ27の起動は、搭乗運転部11に設けた操作盤11Cの操作ボタンBを押し操作することによって、刈取高速と低速とを交互に切換操作できるように構成されている。
【0029】
前記刈取用出力プーリ31の出力軸21と低速側出力ギヤ24との間には、図5に示すように、ローラを用いた周知のワンウェイクラッチ29が介装してあり、機体前進方向の回転動力のみを刈取出力軸刈取用出力プーリ31から出力させるようにしてある。このワンウェイクラッチ29は、シフト操作手段を操作して、被シフト部材22を低速側出力ギヤ24との係合を外し、高速側出力ギヤ23に噛み合わせるまでの間での刈取用出力プーリ31からの出力が一時的に消失することを避けるために、低速側出力ギヤ24からの動力伝達を、被シフト部材22と高速側出力ギヤ23との噛み合い開始時点まで持続させるためのものである。
【0030】
〔別実施形態の1〕
上記「発明を実施するための最良の形態」では、刈取用出力プーリ31の出力軸21と低速側出力ギヤ24との間に、ローラを用いた周知のワンウェイクラッチ29を介装して、被シフト部材22を低速側出力ギヤ24との係合を外し、高速側出力ギヤ23に噛み合わせるまでの間での刈取用出力プーリ31からの出力が一時的に消失することを避ける構造のものを示したが、このワンウェイクラッチ29は省略して実施することもできる。つまり、刈取用出力プーリ31の出力軸21と低速側出力ギヤ24との間では相対回転自在に構成してあってもよい。
【0031】
〔別実施形態の2〕
この刈取変速装置2において、前記戻しバネ28は、両端部に引っかけ用のフック部分を形成して用いる引っ張りバネで構成したものに限らず、例えば、コイルバネを端部プレート間に挟み込んで、圧縮付勢力が生じるようにして用いてもよい。このようにすれば、引っ張りバネの端部を屈曲させて形成するフック部分を形成する必要がないので、機体後進時にジャンプクラッチ形式の前記ワンウェイクラッチ28がジャンプ動作を繰り返すようにガタついても、そのフック部分に割れなどが生じるおそれを回避する上で有効である。
【0032】
〔別実施形態の3〕
被シフト部材22のスライド方向の両端部と、その各端部に対向する高速側出力ギヤ23、及び低速側出力ギヤ24の各対向面のそれぞれに形成される係合用の歯部22a,23a,24aは、「発明を実施するための最良の形態」で示したように、被シフト部材22側の歯部22aと、高速側出力ギヤ23、及び低速側出力ギヤ24の歯部23a,24aとのそれぞれが、原動側の一方向回転を従動側へ伝えるように前記回転方向で互いに係合する係合接当面22b,23b,24bと傾斜面22c,23c,24cを備えたものである必要はなく、例えば、被シフト部材22側の両端部の歯部22aにのみ、前記係合接当面22bと傾斜面22cとを形成し、高速側出力ギヤ23、及び低速側出力ギヤ24の各対向面のそれぞれに形成される歯部23a,24aは単なる貫通孔で形成するなどしてもよい。
【0033】
〔別実施形態の4〕
刈取変速装置2における高速状態への切換操作を行うために、操作盤11Cに備える操作具としては、前述した押しボタンBに限らず、ダイヤルスイッチや、操作レバーなどの操作具を用いて、その操作位置の検出によって指令作業を検出するなど、適宜の構成を採用することができる。
【0034】
〔別実施形態の5〕
刈取変速装置2における高速状態への切換操作を行うための手段としては、電動モータ27を使用して行うものに限らず、別途設けた手動操作レバーに連係して手動操作で行えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】自脱形コンバインの全体側面図
【図2】自脱形コンバインの全体平面図
【図3】伝動系を示す説明図
【図4】刈取変速装置の操作機構を示す平面図
【図5】刈取変速装置部分を示す断面図
【図6】被シフト部材を示し、(a)が正面図、(b)が断面図、(c)が背面図
【図7】高速側シフトギヤを示し、(a)が正面図、(b)が断面図
【図8】被シフト部材と高速側出力ギヤとの歯部部分を示す断面図
【符号の説明】
【0036】
1 機体フレーム
2 刈取変速装置
2A 変速段切換機構
2B 変速操作機構
3 刈取搬送装置
4 脱穀装置
5 穀粒貯留装置
20 ワンウェイクラッチ
21 刈取出力軸
22 被シフト部材
23 高速側出力回転体
24 低速側出力回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取搬送装置への出力軸上でスライド操作自在に設けられた高低変速用の被シフト部材と、その被シフト部材のスライド方向の端部に形成されている歯部と係合する歯部を有した出力用回転体とを備え、
前記被シフト部材と出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成されている歯部に、原動側の一方向回転を従動側へ伝えるように前記回転方向で互いに係合する係合接当面を形成するとともに、前記原動側の逆方向の回転が従動側へ伝わらないように、互いの歯部の対向面に前記逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面を形成してある刈取変速装置。
【請求項2】
刈取搬送装置への出力軸上に低速側出力用回転体と高速側出力用回転体とを配備するとともに、前記低速側出力用回転体と高速側出力用回転体との間における出力軸上にスライド操作自在な高低変速用の被シフト部材を設け、
前記被シフト部材と、前記低速側出力用回転体及び高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に動力伝達用の歯部を形成し、
前記被シフト部材と高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成されている歯部に、原動側の一方向回転を従動側へ伝えるように前記回転方向で互いに係合する係合接当面を形成するとともに、前記原動側の逆方向の回転が従動側へ伝わらないように、互いの歯部の対向面に前記逆方向の回転に伴って乗り上げ可能な傾斜面を形成してある刈取変速装置。
【請求項3】
出力軸と低速側出力用回転体との間に、被シフト部材と高速側出力用回転体とのそれぞれの対向面に形成された歯部によって伝達される回転方向と同方向の回転を伝達するワンウェイクラッチを介装してある請求項2記載の刈取変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−232784(P2009−232784A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84558(P2008−84558)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】