説明

加熱用窒化アルミニウム基板、加熱装置および加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法

【課題】簡単な構成で電極部の温度上昇を防止することが可能な加熱用窒化アルミニウム基板、加熱装置および加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法を提供する。
【解決手段】加熱用窒化アルミニウム基板100は、相対的に高い熱伝導率を有する高熱伝導部分110と、相対的に低い熱伝導率を有する低熱伝導部分120とを備える。高熱伝導部分110は、少なくとも発熱体の一部が形成されるべき平面領域に配置されている。低熱伝導部分120は、少なくとも電極の一部が形成されるべき平面領域に配置されている。セラミックヒーター1は、加熱用窒化アルミニウム基板10と、高熱伝導部分11に形成された発熱層20と、低熱伝導部分12に形成された電極層30とを備える。酸化雰囲気中で窒化アルミニウム基板を部分的に酸化して、酸化アルミニウムを含む部分を窒化アルミニウム基板内に形成することによって低熱伝導部分120を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には加熱用窒化アルミニウム基板、加熱装置および加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法に関し、特定的には、複写機、プリンタなどで用いられる、紙等の転写材の表面上に形成されたトナー画像を定着させるための加熱装置、その加熱装置に用いられる加熱用窒化アルミニウム基板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トナー画像を定着させるための加熱装置として板状のヒーターが用いられている。
【0003】
たとえば、特開平9−197861号公報(特許文献1)には、耐熱性フィルムと加圧ローラとの間に挟まれて移動する転写材の表面上に形成されたトナー画像を定着させる加熱定着装置に設けられるヒーターの構成が記載されている。このヒーターは、窒化アルミニウム焼結体からなるセラミック基板と、セラミック基板の表面上に形成された発熱体とを備える。発熱体の端部に接続するように電極部が形成されている。
【0004】
また、たとえば、特開平11−174875号公報(特許文献2)には、上記と同種の加熱定着装置に設けられるセラミックヒーターの構成が記載されている。このセラミックヒーターは、窒化アルミニウム系セラミックスからなる基板上に発熱体を付与したセラミックヒーターで、上記の基板の少なくとも一面上に高熱伝導物質を含む熱バイパスを付与したものである。
【特許文献1】特開平9−197861号公報
【特許文献2】特開平11−174875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように構成されたヒーターにおいては、紙等の転写材が通過する領域では、発熱体による熱は転写材に奪われる。電極部は、転写材が通過しない領域に形成され、発熱体に通電するために基板の端部に配置されている。ヒーターの基板は高熱伝導性の窒化アルミニウムからなるので、転写材が通過しない領域では、発熱体による熱は電極部に伝達されるが、転写材に奪われることがない。このため、電極部の温度が上昇する。このとき、電極部はバネ式のクリップ端子で挟まれて通電されるように構成されているので、クリップ端子の温度も上昇する。クリップ端子は、一般的に銅で形成されている。クリップ端子の温度が上昇すると、クリップ端子のバネ力が低下する。これにより、接触不良が生じる可能性がある。
【0006】
この問題を解消するために電極部を耐熱性の高い金属材料で形成することが考えられる。しかし、耐熱性の高い金属材料で電極部を形成すると、製造コストが高くなるという問題がある。
【0007】
また、特開平11−174875号公報(特許文献2)に記載されたセラミックヒーターでは、熱バイパス部分の熱伝導率が基板よりも大きく設定されているので、熱バイパス部分に選択的に熱が流れる。基板端部に配置された電極部の温度が上がりやすくなるが、この電極部の温度上昇を緩和するために、熱バイパス部分が電極部の裏側領域に配置されない形態のセラミックヒーターが上記の公報に記載されている。
【0008】
しかしながら、電極部の温度上昇を緩和するためには、上記のセラミックヒーターでは窒化アルミニウム以外に高熱伝導性物質を含む熱バイパス部分を付与する必要がある。また、その高熱伝導性物質が導電性を有するものであれば、絶縁対策等を施す必要がある。したがって、電極部の温度上昇を緩和するためにセラミックヒーターを複雑な構造にする必要があるので、製造コストが高くなるという問題がある。
【0009】
そこで、この発明の目的は、簡単な構成で電極部の温度上昇を防止することが可能な加熱用窒化アルミニウム基板、加熱装置および加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の一つの局面に従った加熱用窒化アルミニウム基板は、相対的に高い熱伝導率を有する高熱伝導部分と、相対的に低い熱伝導率を有する低熱伝導部分とを備える。高熱伝導部分は、少なくとも発熱体の一部が形成されるべき平面領域に配置されている。低熱伝導部分は、少なくとも電極の一部が形成されるべき平面領域に配置されている。
【0011】
このように、少なくとも電極の一部が形成されるべき平面領域の熱伝導率を部分的に低くすることにより、発熱体による熱が電極部に伝達されにくくなり、電極部の温度上昇を緩和することができる。このため、電極部の温度上昇を緩和するために、耐熱性の高い金属材料を使用する必要がなく、また加熱装置を複雑な構造にする必要がない。これにより、製造コストを低減することができる。
【0012】
この発明の加熱用窒化アルミニウム基板の最大長さが285mm以上、厚みが2mm以下であるのが好ましい。
【0013】
このようにすることにより、複写機、プリンタなどで用いられる、紙等の転写材の表面上に形成されたトナー画像を定着させるための加熱装置に本発明の加熱用窒化アルミニウム基板を適用することができる。
【0014】
また、この発明の加熱用窒化アルミニウム基板においては、高熱伝導部分の熱伝導率が80W/mK以上200W/mK以下であり、低熱伝導部分の熱伝導率が50W/mK以下であるのが好ましい。
【0015】
このようにすることにより、本発明の加熱用窒化アルミニウム基板を上記の加熱装置に適用した場合に、高熱伝導部分にて被加熱体としての紙等を有効に加熱することができ、被加熱体としての紙等が通過しない低熱伝導部分にて断熱作用をもたらすことができる。
【0016】
さらに、この発明の加熱用窒化アルミニウム基板においては、低熱伝導部分の平面積は、クリップ等で挟むこと等によって通電するための電極を形成し、かつ、その電極部の温度上昇を緩和するための面積として、0.5cm以上であるのが好ましい。
【0017】
この発明のもう一つの局面に従った加熱装置は、上述のいずれかの加熱用窒化アルミニウム基板と、高熱伝導部分に形成された少なくとも発熱層の一部と、低熱伝導部分に形成された少なくとも電極層の一部とを備える。
【0018】
このようにすることにより、複写機、プリンタなどで用いられる、紙等の転写材の表面上に形成されたトナー画像を定着させるための加熱装置に本発明の加熱装置を適用した場合に、低熱伝導部分にて断熱作用をもたらすことができるので、その低熱伝導部分に形成された電極層の温度上昇を緩和することができ、電極層に接続されるクリップ端子等のリード部材やその周辺部材に高い耐熱性を有する材料を用いる必要がなくなる。
【0019】
この発明に従った加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法は、上述のいずれかの加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法であって、酸化雰囲気中で窒化アルミニウム基板を部分的に酸化して、酸化アルミニウムを含む部分を窒化アルミニウム基板内に形成することによって低熱伝導部分を形成するものである。
【0020】
この発明の加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法では、成形工程等の前工程で部分的に材料組成を変更する必要がなく、焼結後に窒化アルミニウム基板を部分的に酸化するだけで低熱伝導部分を形成することができる。したがって、簡単な製造工程を付加するだけで本発明の加熱用窒化アルミニウム基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のようにこの発明によれば、簡単な構成で電極部の温度上昇を防止することが可能な加熱用窒化アルミニウム基板と加熱装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
図1は、この発明の一つの実施の形態として加熱用窒化アルミニウム基板を示す平面図である。
【0024】
図1に示すように、たとえば、加熱用窒化アルミニウム基板100は、複写機、プリンタなどに組み込まれる加熱装置として、紙等の転写材の表面上に形成されたトナー画像を定着させるためのセラミックヒーターを製造するために用いられる基板である。加熱用窒化アルミニウム基板100において二点鎖線で囲まれた平面領域は、相対的に低い熱伝導率を有する低熱伝導部分120である。低熱伝導部分120以外の平面領域は、相対的に高い熱伝導率を有する高熱伝導部分110である。高熱伝導部分110は、80〜200W/mKの熱伝導率を有し、好ましくは80〜100W/mKの熱伝導率を有し、窒化アルミニウムを主成分として含む窒化アルミニウム焼結体からなる。低熱伝導部分120は、10〜50W/mKの熱伝導率を有し、好ましくは10〜40W/mKの熱伝導率を有し、酸化アルミニウムを一部分に含む窒化アルミニウム焼結体からなる。低熱伝導部分120において、(酸化アルミニウム)/(酸化アルミニウム+窒化アルミニウム)の比率は90%以上、好ましくは95%以上である。図示していないが、高熱伝導部分110と低熱伝導部分120との間には、熱伝導率が高熱伝導部分の範囲から低熱伝導部分の範囲に変化する平面領域が存在する。この領域の幅は0〜2mm程度であり、好ましくは0.5〜1.0mm程度である。高熱伝導部分110は少なくとも発熱体の一部が形成されるべき平面領域に配置され、低熱伝導部分120は少なくとも電極の一部が形成されるべき平面領域に配置される。
【0025】
このように、少なくとも電極の一部が形成されるべき平面領域の熱伝導率を部分的に低くすることにより、発熱体による熱が電極部に伝達されにくくなり、電極部の温度上昇を緩和することができる。このため、電極部の温度上昇を緩和するために、耐熱性の高い金属材料を使用する必要がなく、また加熱装置を複雑な構造にする必要がない。これにより、製造コストを低減することができる。
【0026】
なお、本発明の加熱用窒化アルミニウム基板は、その一部において基板を構成していた材質自体を変質させることにより、低熱伝導部を形成したものである。基板に低熱伝導部材を接合すること、低熱伝導材料の薄膜または厚膜を基板の上に積層すること等の他の低熱伝導部材または低熱伝導材料を基板に付加することによって、本発明の加熱用窒化アルミニウム基板は構成されるものではない。
【0027】
また、本発明の加熱用窒化アルミニウム基板100を上記のセラミックヒーターに適用した場合に、上記の範囲の熱伝導率を有する高熱伝導部分110にて被加熱体としての紙等を有効に加熱することができ、被加熱体としての紙等が通過しない、上記の範囲の熱伝導率を有する低熱伝導部分120にて断熱作用をもたらすことができる。
【0028】
低熱伝導部分120は、窒化アルミニウム基板100の一部表面に大気中で加熱用バーナーを当て窒化アルミニウムを部分的に酸化させることにより形成される。このとき、加熱用バーナーとしては、酸素‐アセチレンガスを燃焼ガスとしたバーナーが用いられるが、液化天然ガス(LNG)または液化石油ガス(LPG)を燃焼ガスとしたバーナーを用いてもよい。
【0029】
また、加熱用バーナーを用いないで、酸化雰囲気中で窒化アルミニウム基板を部分的に酸化して低熱伝導部分を窒化アルミニウム基板内に形成してもよい。たとえば、蒸着法、溶射法等によって窒化アルミニウム基板の一部表面上にシリカまたはアルミナ粉末を付着させて、その基板の一部表面を被覆した状態で、酸化雰囲気の炉内で窒化アルミニウム基板を加熱して、窒化アルミニウムを部分的に酸化させることによって低熱伝導部分を形成してもよい。この場合、後処理として、窒化アルミニウム基板の一部表面を被覆している付着物を機械加工等で除去する。
【0030】
図2は本発明の一つの実施の形態として加熱用窒化アルミニウム基板の製造工程を模式的に示す部分斜視図、図3は図2のIII−III線における断面図である。
【0031】
図2と図3に示すように、窒化アルミニウム基板100の一部表面を酸化アルミニウム板200で被覆し、酸化アルミニウム板200から露出した一部表面に、300mm程度離れたところから加熱用バーナー300を当てて、窒化アルミニウムを部分的に酸化させることにより低熱伝導部分を形成してもよい。加熱用バーナーによる加熱条件は、加熱後に形成された低熱伝導部分をX線回折によって分析して得られる六方晶系アルミナと六方晶系窒化アルミニウムのピーク強度比として、α‐Al(113)/(h‐AlN(100)+α‐Al(113))が0.9以上になるように制御することが好ましい。
【0032】
上記の加熱用窒化アルミニウム基板100の製造方法では、成形工程等の前工程で部分的に材料組成を変更する必要がなく、焼結後に窒化アルミニウム基板を部分的に加熱するだけで低熱伝導部分120を形成することができる。したがって、簡単な製造工程を付加するだけで本発明の加熱用窒化アルミニウム基板100を製造することができる。
【0033】
図1に示すように、加熱用窒化アルミニウム基板100の長さLは、50〜600mmの範囲内で必要に応じて選択すればよく、好ましくは285mm以上である。加熱用窒化アルミニウム基板100の幅Wは、5〜300mmの範囲内で必要に応じて選択すればよい。加熱用窒化アルミニウム基板100の最大長さMLは、50〜680mmの範囲内で必要に応じて選択すればよい。低熱伝導部分120の寸法Xは5〜70mmの範囲内で必要に応じて選択すればよく、寸法Yは10〜200mmの範囲内で必要に応じて選択すればよい。低熱伝導部分120が加熱用窒化アルミニウム基板100を占める平面積の割合は1〜50%、低熱伝導部分120の平面積は0.5cm以上であるのが好ましい。低熱伝導部分120の平面積の割合が1%未満、または、低熱伝導部分120の平面積が0.5cm未満では、電極部の断熱作用が十分でなく、低熱伝導部分120の平面積の割合が50%を超えると、低熱伝導部分の平面積が高熱伝導部分の平面積より大きくなるため、無駄が生じ、経済的でない。
【0034】
加熱用窒化アルミニウム基板100の厚みは2mm以下であるのが好ましい。加熱用窒化アルミニウム基板100の最大長さが285mm以上、厚みが2mm以下であれば、複写機、プリンタなどで用いられる、紙等の転写材の表面上に形成されたトナー画像を定着させるための加熱装置としてのセラミックヒーターに本発明の加熱用窒化アルミニウム基板を適用することができる。加熱用窒化アルミニウム基板100の厚みは1mm以下であるのがさらに好ましい。加熱用窒化アルミニウム基板100の厚みが1mm以下であれば、基板の厚み方向の内部まで窒化アルミニウムを確実に酸化することができ、これにより低熱伝導部分を形成することによって電極部の温度上昇を確実に抑制することができる。
【0035】
加熱用窒化アルミニウム基板100の原板としての窒化アルミニウム基板は、以下に説明されるように、順次行われる原料準備工程、混合工程、成形工程、乾燥工程、脱バインダ工程、焼結工程および研磨工程によって製造されるのが好ましい。
【0036】
まず、原料準備工程を実施する。原料準備工程においては、基板を構成する主原料である窒化アルミニウムの粉末、さらに助剤(焼結助剤)やバインダなど必要な原料を準備する。窒化アルミニウムの粉末としては、市販の窒化アルミニウム粉末を利用できる。たとえば、原料として用いる窒化アルミニウム粉末の平均粒径は0.1μm以上5μm以下であってもよい。また、原料としての窒化アルミニウム粉末の酸素含有率は0.1%以上2.0%以下であってもよく、炭素含有率は1000ppm以下であってもよい。また、原料として用いる窒化アルミニウム粉末の比表面積は1.0m/g以上5.0m/g以下であってもよい。
【0037】
助剤(焼結助剤)としては、周期律表の2A族または3A族の元素のうちの少なくとも1つ以上を含む材料を用いることができる。たとえば、Y、Yb、Nd、CaOなどを用いることができる。助剤の配合量については、形成される基板において上述の2A族または3A族の元素の含有率が0.1質量%以上10質量%以下となるように助剤の配合量を決定することが好ましい。
【0038】
このような助剤を用いれば、焼結温度を低減することができるとともに、形成される基板における窒化アルミニウムの平均粒径を小さくすることができ、基板をヒーターとして用いる場合に、基板の表面に金属などの発熱体を形成する際、基板の表面に対する発熱体の濡れ性を向上させる作用がある。この場合、発熱体の材料としては、たとえばタングステン、モリブデン、銀、または、銀(Ag)−パラジウム(Pd)等の銀合金を用いることが好ましい。
【0039】
また、助剤の成分としてケイ素(Si)やアルミニウム(Al)を含んでもよい。このような成分を有する助剤を用いることにより、形成された基板にアルミニウムの酸化物やケイ素あるいはケイ素化合物が含まれることになる。これらのアルミニウム酸化物などは、基板の表面にメタライズ層などを形成する場合、このメタライズ層と基板との密着性を向上させる効果がある。また、基板における色むらを低減するために、助剤の成分として、遷移元素のうちの少なくとも1種を含んでもよい。
【0040】
バインダとしては、有機溶剤を分散媒に用いるものとして、アクリル系、ポリビニルブチラール系、セルロース系バインダなどを用いることができる。
【0041】
また、水を分散媒として用いるバインダとしては、ポリビニルアルコール系、アクリル系、ウレタン系、酢酸ビニル系バインダなどを用いることができる。なお、この他にもスラリー(上述した原料や溶媒などを混合した液体)の安定性や、セラミック粒子(窒化アルミニウムなど)の分散性を向上させたり、スラリーから形成されるグリーンシートの柔軟性を向上させるため、分散剤や可塑剤などを原料に添加してもよい。
【0042】
次に、混合工程を実施する。この混合工程では、上述した原料と助剤、溶媒、可塑剤さらには分散剤などを混合してスラリー等の原料混合物を作製する。混合方法としては、一般的な混合方法(たとえば、ボールミル混合など)を用いることができる。
【0043】
その後、成形工程を実施する。成形工程においては、基板となるべきシート状の成形体を作製する。ここで、成形体の作製方法としては、ドクターブレード法、押出法、ロールコンパクション法などの一般的なシート成形法を用いることができる。
【0044】
次に、作製した成形体を表面が平坦なステンレス鋼製のメッシュトレイ上に搭載して自然乾燥させる乾燥工程を実施する。ここで乾燥工程における自然乾燥を行なう時間は1時間以上である。なお、自然乾燥する時間は、好ましくは10時間以上、より好ましくは20時間以上である。また、自然乾燥を行なう際の雰囲気の条件としては、雰囲気温度が0℃以上40℃以下、より好ましくは15℃以上25℃以下である。
【0045】
このようにすれば、成形体に含まれる溶剤や水分が、比較的低い速度で成形体全体から十分に揮発する。この結果、成形体の乾燥に伴う収縮を、成形体全体において均一化することができる。したがって、シート状の成形体内において歪みの発生がほとんどないので、後工程である脱バインダ工程および焼結工程において、成形体や焼結後の基板に反りやうねりが発生する危険性を低減できる。
【0046】
次に、脱バインダ工程を実施する。脱バインダ工程においては、上述の乾燥工程において自然乾燥させた成形体を、後述する焼結工程において用いる治具の凹部に1枚づつ搭載した状態で、所定時間加熱する。この結果、成形体からバインダを揮発させて除去できる。加熱条件としては、加熱温度を400℃以上900℃以下とし、加熱時間を5時間以上200時間以下とすることができる。
【0047】
その後、焼結工程を実施する。ここで、焼結工程に用いる加熱炉としては、オールカーボン炉やオールメタル炉またはこれらの組合せを用いることができる。加熱炉として、好ましくはオールメタル炉を用いる。なお、ここでオールメタル炉とは、ヒーターや加熱炉の加熱チャンバ内の構成材などをモリブデン(Mo)やタングステン(W)などの高融点金属材料によって構成した加熱炉を意味する。このようなオールメタル炉を用いれば、焼結中に加熱チャンバ内の雰囲気が炭素を過度に含む雰囲気となることを防止できる。一方、オールカーボン炉(ヒーターや加熱チャンバ内の構成材料として炭素系材料を用いた炉)を使って焼結を行なうと、焼結時の加熱チャンバ内の雰囲気が炭素を含む雰囲気となる。そして、焼結される成形体に由来する酸素が加熱チャンバ内で上記炭素雰囲気中の炭素と反応することにより、一酸化炭素や二酸化炭素が生成される。このような場合、焼結体において反りなどの変形や色むらが生じ易いが、オールメタル炉を用いて焼結を行なうことにより、上記のような問題の発生を抑制できる。
【0048】
なお、焼結工程における焼結条件としては、焼結温度を1600℃以上1900℃以下とし、雰囲気を常圧の窒素雰囲気として、焼結時間を3時間以上100時間以下とすることができる。
【0049】
次に、研磨工程を実施する。この研磨工程においては、焼結工程において得られた窒化アルミニウムの焼結体からなる基板の表面を所定の厚みだけ研磨することにより除去する。このようにして図1に示したような加熱用窒化アルミニウム基板100の原板を得ることができる。
【0050】
なお、基板の製造方法において、焼結工程後の基板の反りやうねりが小さい場合には、研磨工程における基板の表面研磨代(削り代)を一方の表面につき10μm以下とすることができる。すなわち、この場合、基板は焼結工程直後においても十分小さな反りやうねりの値を示すため、必要な平坦性(反りやうねり高さの値)を有する基板を得るための削り代を十分小さくすることができる。
【0051】
一方、焼結工程直後における反りやうねりが相対的に大きい基板においては、必要な平坦性を実現するため、予め基板の厚みを厚くした状態で焼結工程を行ない、必要な平坦性を実現するために削り代を多くするといった手法をとる必要がある。
【0052】
また、研磨工程においては、たとえば砥粒を含有した変形可能な円柱状や円盤状の回転体の円周部によって、焼結された基板の表面を研磨してもよい。回転体は、砥粒を保持できかつ変形可能であるものであれば、どのようなものを用いてもよい。たとえば、回転体として織布あるいは不織布、プラスチックフォーム(発泡プラスチックあるいはスポンジ)、ラバーフォーム(スポンジゴム)などを用いることができる。このような回転体を構成する物質は、従来の研磨砥石やバレル研磨の研磨剤と比較して圧力に対して極めて変形しやすいような物質である。また、回転体に保持する砥粒としては、従来から用いられているアルミナや炭化ケイ素などの砥粒を用いることができる。
【0053】
このような研磨工程を行なうことにより、基板の表面粗さをRaで1.0μm以下とすることができる。また、好ましくは基板の表面粗さはRaで0.4μm以下とする。このようにすれば、セラミックヒーターなどの加熱用基板として基板を用いる場合に、基板の表面上に形成される発熱体と基板の表面との間の密着性を向上させることができる。
【0054】
以上のようにして得られた加熱用窒化アルミニウム基板100の上に発熱体、電極等を形成した後、所定の幅に切断することによって、加熱装置としてのセラミックヒーターを作製する。
【0055】
図1に示す加熱用窒化アルミニウム基板100の表面上で、高熱伝導部分110の平面領域に、複数本の線状の形態で発熱体を形成することにより、あるいは、面状の形態で発熱体を形成することにより、ヒーター全体の温度をより均一にすることができる。
【0056】
基板の表面に形成される発熱体は、線状の場合、面状の場合ともに、その成分としてたとえば、銀、白金、パラジウム、ルテニウム等の貴金属およびそれらの合金からなる群から選ばれた金属の少なくとも1種を含む複合体か、またはSiの炭化物、周期律表4a、5aおよび6a族に属する各元素単体、それらの各元素の炭化物、窒化物、硼化物および珪化物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む複合体から構成される。
【0057】
図1に示す加熱用窒化アルミニウム基板100の表面上で、低熱伝導部分120の平面領域には、上記の発熱体に接続するように電極が形成される。電極は、酸化し難い金属、すなわち、銀、金、白金等の貴金属あるいはそれらの合金で形成するのが好ましい。
【0058】
最終的に長尺のセラミックヒーターを製造するためには基板は、スクライブカットで切断されるのが好ましい。具体的には、ローラー刃等を基板の表面上に走行させることによって、基板の内部にクラックを進行させた後、手、機械等により基板を折ることによって所定の幅、たとえば、8mm以上の幅に切断する。
【0059】
図4は本発明の加熱装置の一つの実施の形態としてのセラミックヒーターを示す平面図、図5は図4のV−V線における断面図である。
【0060】
図4と図5に示すように、セラミックヒーター1は、加熱用窒化アルミニウム基板10の高熱伝導部分11に形成された線状の発熱層20と、発熱層20の両端部に接続するように低熱伝導部分12に形成された電極層30と、発熱層20を覆うように形成された保護層40とから構成される。
【0061】
保護層40は、電気絶縁性のガラス層からなる。このガラス層は亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)、鉛(Pb)およびマンガン(Mn)の各酸化物を含有していてもよい。また、このガラス層に含まれる亜鉛、ケイ素、鉛およびマンガンの含有率は、亜鉛がZnOに換算して50質量%以上85質量%以下、ケイ素がSiOに換算して5.0質量%以上30質量%以下、鉛がPbOに換算して3.0質量%以上15質量%以下、およびマンガンがMnOに換算して1.0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0062】
上述した亜鉛、ケイ素、鉛およびマンガンのそれぞれの酸化物は、いずれも2A族元素および/または3A族元素の各化合物を含有する窒化アルミニウム焼結体に対して良好な濡れ性を示す。そのため、上述の酸化物を保護層40に適用した場合、保護層40と窒化アルミニウム焼結体からなる基板との良好な密着性を実現することができる。
【0063】
このようにして得られたセラミックヒーターは、たとえば、複写機、プリンタなどで用いられる加熱定着装置に組み込まれる。複写機、プリンタなどに組み込まれる加熱定着装置に上記のセラミックヒーター1を適用した場合に、低熱伝導部分にて断熱作用をもたらすことができるので、その低熱伝導部分に形成された電極層の温度上昇を緩和することができ、電極層に接続されるクリップ端子等のリード部材やその周辺部材に高い耐熱性を有する材料を用いる必要がなくなる。
【0064】
図6は、セラミックヒーターが組み込まれた加熱定着装置の概略的な構成を示す模式図である。
【0065】
図6に示すように、加熱定着装置は、耐熱性樹脂フィルム、たとえばポリイミド樹脂から形成されたポリイミドフィルム2と加圧ローラ3とを備えている。ポリイミドフィルム2と加圧ローラ3が矢印Rで示す方向に回転する。トナー画像が形成された用紙4はポリイミドフィルム2と加圧ローラ3との間に挟まれて矢印Pで示す方向に移動する。回転するポリイミドフィルム2の内側には、紙面に垂直な方向に延びるように板状のセラミックヒーター1が固定されている。板状のセラミックヒーター1からポリイミドフィルム2を通じて用紙4に熱が伝わる。このようにして、用紙4の表面上に形成されたトナー画像を定着させるために板状のセラミックヒーター1が用いられる。
【実施例】
【0066】
主原料粉末として窒化アルミニウム粉末を96.80質量%、焼結助剤としてNdを0.90質量%、Ybを1.00質量%、Alを0.90質量%、SiOを0.20質量%、CaOを0.20質量%含む原料粉末を準備した。
【0067】
上記の原料粉末に、バインダーとしてポリビニルブチラール、溶媒としてイソプロピルアルコール、可塑剤としてフタル酸ジブチルとを混合した。そして、得られた混合粉末から成形することにより、表1に示す試料No.1〜4の仕上がり寸法(厚みt、図1に示すL、W、MLの寸法)となるシート状の成形体を作製した。なお、厚みが1mm未満の成形体についてはドクターブレード法により、また、厚みが1mm以上の成形体については押出法により成形体を作製した。
【0068】
次に、乾燥工程として、各試料となるべき成形体について、20時間だけ自然乾燥を行った。そして、各試料に対して、閉空間体積比率(凹部の空間の体積に対する成形体の体積の比率)として50%を満足するような凹部が形成された窒化ホウ素(BN)製の治具を準備し、その治具にそれぞれ成形体を配置した。その後、脱バインダ工程として、加熱温度850℃、窒素雰囲気という条件で脱バインダ工程を行った。
【0069】
さらに焼結工程として、脱バインダ工程を行った各成形体に対して、加熱温度1700℃、雰囲気圧力を常圧とし、雰囲気を窒素雰囲気として、10時間焼結を行った。
【0070】
最後に、研磨工程として、得られた焼結体の表面に研磨加工を施した。この研磨加工において除去された部分の厚み(削り代)は3μm以下であった。
【0071】
このようにして得られたそれぞれの試料について、反りおよびうねりを測定した。反りは0.12μ/mm、うねりは19μmであった。
【0072】
以上のようにして得られた試料のうち、試料No.1〜3について、図2と図3に示すように、窒化アルミニウム基板100の一部表面を酸化アルミニウム板200で被覆し、酸化アルミニウム板200から露出した一部表面に、300mm程度離れたところから、酸素−アセチレンガスを燃焼ガスとした加熱用バーナー300を当てて、窒化アルミニウムを部分的に酸化させることにより低熱伝導部分120を形成した。加熱用バーナーによる加熱条件は、加熱後に形成された低熱伝導部分120をX線回折(XRD)によって分析して得られる六方晶系アルミナと六方晶系窒化アルミニウムのピーク強度比として、α‐Al(113)/(h‐AlN(100)+α‐Al(113))が0.9以上になるように制御した。
【0073】
ここで、X線回折(XRD)による分析は、以下の装置、測定条件で行なわれた。
【0074】
装置:RINT−1500(リガク製)
使用管球:Cu
励起条件:50kV、200mA
光学系:集中ビーム法
スリット:発散スリット1°、受光スリット0.15mm
モノクロメーター:使用
走査速度:6°/min
ステップ幅:0.02°
測定法:θ/2θ法
このようにして、試料No.1〜3の低熱伝導部分120は、図1に示すようにX=10mm、Y=80mmの矩形状の平面領域(8cm)が窒化アルミニウム基板100の両端部に1箇所ずつ形成された。
【0075】
そして、図4に示すセラミックヒーター1を7本ずつ、試料No.1〜3のそれぞれから採取できるように、図1に示す加熱用窒化アルミニウム基板100の高熱伝導部分110(熱伝導率:90W/mK)に発熱層20、低熱伝導部分120(熱伝導率:40W/mK)に電極層30を形成した。
【0076】
具体的には、スクリーン印刷法を用いて各試料の表面に発熱層20と電極層30を作製した。発熱層20が形成されるべき領域には銀−パラジウム(Ag−Pd)ペーストを、電極層30が形成されるべき領域には銀−白金(Ag−Pt)ペーストをスクリーン印刷法により図4に示すように配置した。その後、所定の熱処理を行なうことにより、各試料の表面に発熱層20と電極層30を形成した。なお、発熱層20を覆うように保護層40を50μm程度の厚みのガラス層、具体的には亜鉛と鉛を含む硼珪酸ガラスからなるガラス層をスクリーン印刷で形成した。
【0077】
具体的な寸法は、図4に示す1本のセラミックヒーター1において、発熱層20においてはa=220mm、b=4mm、電極層30の平面領域は5mmx5mmの正方形であった。発熱層20と電極層30の厚みは20μmであった。
【0078】
なお、比較例として試料No.4については、低熱伝導部分を形成せずに、上記と同様にして発熱層20と電極層30とを試料の表面に形成した。
【0079】
以上のようにして、各試料の加熱用窒化アルミニウム基板100の上に発熱層20と電極層30を形成した後、所定の長さA=285mmと所定の幅B=12mmにスクライブカットで加熱用窒化アルミニウム基板100を切断することによって、図4に示されるように加熱装置としてのセラミックヒーター1を作製した。
【0080】
得られた各試料のセラミックヒーター1を図6に示すような加熱定着装置に組み込んだ。各試料の発熱層20に通電するために銅製のクリップ端子で電極層30を挟んだ。
【0081】
市販のレーザープリンターに組み込んで定着試験を行った。日本工業規格A列4番の用紙にトナーを一面に塗布し、定着速度として1分間に16枚の用紙を送り込む場合(16ppm)と、1分間に24枚の用紙を送り込む場合(24ppm)とで評価した。定着温度は180〜190℃で安定するように設定した。
【0082】
得られた評価の結果を表1に示す。
【0083】
なお、評価の判断基準は「◎:定着不良発生せず、○:印刷10,000枚以内で定着不良発生、△:印刷1,000枚以内で定着不良発生、×:印刷100枚以内で定着不良発生」とした。ここで、「定着不良」とは、印刷面を手で擦るとトナーが剥がれることをいう。
【0084】
【表1】

【0085】
表1から、本発明の実施例では、定着速度が16ppmの場合、印刷枚数が10,000枚以上でも定着不良が発生せず、電極部の接触不良が生じていないことがわかる。
【0086】
今回開示された実施の形態や実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態や実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものであることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明の一つの実施の形態として加熱用窒化アルミニウム基板を示す平面図である。
【図2】本発明の一つの実施の形態として加熱用窒化アルミニウム基板の製造工程を模式的に示す部分斜視図である。
【図3】図2のIII−III線における断面図である。
【図4】本発明の加熱装置の一つの実施の形態としてのセラミックヒーターを示す平面図である。
【図5】図4のV−V線における断面図である。
【図6】セラミックヒーターが組み込まれた加熱定着装置の概略的な構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1:セラミックヒーター、10,100:加熱用窒化アルミニウム基板、11,110:高熱伝導部分、12,120:低熱伝導部分、20:発熱層、30:電極層、200:酸化アルミニウム板、300:加熱用バーナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発熱体の一部が形成されるべき平面領域に配置された、相対的に高い熱伝導率を有する高熱伝導部分と、
少なくとも電極の一部が形成されるべき平面領域に配置された、相対的に低い熱伝導率を有する低熱伝導部分とを備えた、加熱用窒化アルミニウム基板。
【請求項2】
最大長さが285mm以上、厚みが2mm以下である、請求項1に記載の加熱用窒化アルミニウム基板。
【請求項3】
前記高熱伝導部分の熱伝導率が80W/mK以上200W/mK以下であり、前記低熱伝導部分の熱伝導率が50W/mK以下である、請求項1または請求項2に記載の加熱用窒化アルミニウム基板。
【請求項4】
前記低熱伝導部分の平面積が0.5cm以上である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の加熱用窒化アルミニウム基板。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の加熱用窒化アルミニウム基板と、
前記高熱伝導部分に形成された少なくとも発熱層の一部と、
前記低熱伝導部分に形成された少なくとも電極層の一部とを備えた、加熱装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法であって、
酸化雰囲気中で窒化アルミニウム基板を部分的に酸化して、酸化アルミニウムを含む部分を前記窒化アルミニウム基板内に形成することによって前記低熱伝導部分を形成する、加熱用窒化アルミニウム基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−10223(P2008−10223A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177502(P2006−177502)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】