説明

動力伝達装置

【課題】非走行用ポジションから走行用ポジションへシフト操作された際に走行の開始をスムーズに行なえるようにする。
【解決手段】シフトレバーがN(ニュートラル)ポジションのときにクラッチC1内の作動油をマニュアルバルブ40を介してドレンする油圧回路30が組み込まれた動力伝達装置を備える車両において、エンジンが自動停止されている状態でシフトレバーがNポジションから解除されたときには、その直後に電磁ポンプ70の駆動を開始し、シフトレバーがDポジションを確定したときには、エンジンを自動始動すると共にエンジンが完爆したときに電磁ポンプ70の駆動を停止する。これにより、エンジンの自動始動に伴って機械式オイルポンプ32が駆動を開始したときにクラッチC1を迅速に係合して車両を発進させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間欠運転が可能な原動機を備える車両に搭載され、前記原動機からの動力を摩擦係合要素を介して車軸に伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置としては、エンジンからの動力を摩擦係合装置を介して車両の車軸に伝達する装置において、エンジンの動力により駆動する油圧ポンプと、マニュアルシフトバルブと、油圧ポンプからマニュアルシフトバルブを介して出力された油圧を調圧して摩擦係合装置に出力するソレノイドバルブと、ソレノイドバルブと摩擦係合装置とを接続する油路に介在しこの油路の連通と遮断とを選択的に切り替える選択バルブと、選択バルブと摩擦係合装置とを接続する油路に逆止弁を介して接続され電磁コイルの励磁と非励磁との繰り返しにより作動油を摩擦係合装置に供給する電磁ポンプとを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−180303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シフトレバーをニュートラルポジションなどの非走行用ポジションに操作したときにはエンジンを自動停止することにより、燃費を向上させることができるが、シフトレバーを非走行用ポジションからドライブポジションなどの走行用ポジションに切り替えられたときには直ちにエンジンを再始動すると共に摩擦係合装置を係合して迅速に走行を開始できるようにする必要がある。エンジンからの動力により摩擦係合装置に供給する油圧を発生させる油圧ポンプを備える動力伝達装置では、エンジンが停止しているときには油圧ポンプが作動しないから、エンジンが再始動して摩擦係合要素が係合されるまでに遅れが生じてしまう。
【0005】
本発明の動力伝達装置は、非走行用ポジションから走行用ポジションへシフト操作された際に走行の開始をスムーズに行なえるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の動力伝達装置は、
間欠運転が可能な原動機を備える車両に搭載され、前記原動機からの動力を摩擦係合要素を介して車軸に伝達する動力伝達装置であって、
前記原動機からの動力により作動して流体圧を発生させる第1のポンプと、
ポジション間の物理的な移動を伴ってシフトポジションを切替可能なシフト操作部と、
前記シフト操作部が走行用ポジションにあるときには前記第1のポンプからの流体圧を前記摩擦係合要素の流体圧サーボに接続された供給用流路に出力し、前記シフト操作部が非走行用ポジションにあるときには前記摩擦係合要素の流体圧サーボに接続されたドレン用流路から作動流体を入力してドレンするシフト用バルブと、
前記供給用流路を開放すると共に前記ドレン用流路を遮断する状態と、前記供給用流路を遮断すると共に前記ドレン用流路を開放する状態とを切り替える切替バルブと、
電力により作動して前記供給用流路が遮断されている状態で前記摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧を供給する第2のポンプと、
前記原動機が停止されて前記供給用流路が遮断されている最中に前記シフト操作部により前記非走行用ポジションが解除されたときには、前記走行用ポジションまでの前記シフト操作部の移動が完了する前の第1のタイミングで作動が開始されるよう前記第2のポンプを制御し、前記シフト操作部の移動が完了した以降の第2のタイミングで始動されるよう前記原動機を制御する制御装置と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の動力伝達装置では、原動機が停止されて切替バルブによりシフト用バルブと摩擦係合要素の流体圧サーボとを接続する供給用流路が遮断されている最中に、シフト操作部により非走行ポジションが解除されたときには、走行用ポジションまでのシフト操作部の移動が完了する前の第1のタイミングで供給用流路が遮断されている状態で摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧を供給する第2のポンプの作動を開始し、シフト操作部の移動が完了した以降の第2のタイミングで原動機を始動する。このように、早いタイミングで第2のポンプの作動を開始しておくことにより、原動機の再始動に伴って第1のポンプが作動を開始したときに摩擦係合要素の係合を迅速に完了させることができるから、非走行用ポジションから走行用ポジションへシフト操作された際に走行の開始をスムーズに行なうことができる。ここで、「非走行用ポジション」は、中立ポジションが含まれる他、駐車ポジションも含まれる。また、「第2のポンプ」は、電磁力により作動流体を圧送する電磁ポンプが含まれる他、モータからの動力により作動流体を圧送する電動ポンプも含まれる。さらに、「原動機」は、内燃機関が含まれる。
【0009】
こうした本発明の動力伝達装置において、前記制御装置は、前記第2のタイミングとして前記走行用ポジションへの前記シフト操作部の移動が完了した直後のタイミングで再始動されるよう前記原動機を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、摩擦係合要素の係合を迅速に行なうことができる。
【0010】
また、本発明の動力伝達装置において、前記制御装置は、前記第1のタイミングとして前記シフト操作部が前記非走行用ポジションから解除された直後のタイミングで作動が開始されるよう前記第2のポンプを制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、摩擦係合要素の係合を迅速に行なうことができる。
【0011】
さらに、本発明の動力伝達装置において、前記供給用流路に取り付けられ、前記第1のポンプからの流体圧を入力し調圧を伴って出力する調圧バルブを備え、前記切替バルブと前記調圧バルブは、前記シフト用バルブからの作動流体が前記調圧バルブ,前記切替バルブ,前記摩擦係合要素の流体圧サーボの順に流れるよう配置されてなるものとすることもできる。
【0012】
また、本発明の動力伝達装置において、前記シフト用バルブは、入力ポートと前記供給用流路が接続された走行ポジション用出力ポートを含む出力ポートと前記ドレン用流路に接続されたドレン用入力ポートが形成され、走行ポジションにシフト操作されたときには前記第1のポンプにより発生した流体圧を前記入力ポートから入力して前記走行ポジション用出力ポートから出力すると共に前記ドレン用入力ポートを遮断し、前記非走行ポジションにシフト操作されたときには前記入力ポートと前記出力ポートとの流路を遮断すると共に前記ドレン用入力ポートを開放するバルブであるものとすることもできる。
【0013】
また、本発明の動力伝達装置において、前記切替バルブは、前記第1のポンプからの流体圧により作動し、前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには前記走行ポジション用出力ポートと前記摩擦係合要素の流体圧サーボとを流路により接続し、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには前記走行ポジション用出力ポートと前記摩擦係合要素の流体圧サーボとの接続を遮断するバルブであるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】自動変速機構の作動表を示す説明図である。
【図3】自動変速機構の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。
【図4】油圧回路30の構成の概略を示す構成図である。
【図5】マニュアルバルブ40の作動機構の一例を示す説明図である。
【図6】ATECU29により実行されるN−Dシフト時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】マニュアルシャフトの回転角θとアイドルストップフラグFstopとエンジン回転速度NeとクラッチC1圧とポンプ駆動指令の時間変化の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図であり、図2は自動変速機構28の作動表である。
【0017】
実施例の動力伝達装置20は、図示するように、例えば、FF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両10に搭載されるものとして構成されており、EGECU16による制御を受けて運転するエンジン12からの動力をトルクの増幅を伴って伝達するロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ26と、トルクコンバータ26からの動力を変速を伴って車輪18a,18bに伝達する自動変速機構28と、装置全体をコントロールするATECU29とを備える。実施例の車両10は、エンジン12と動力伝達装置20とを含む車両全体をコントロールするメインECU90を備えており、EGECU16やATECU29に対して通信により互いに制御信号やエンジン12,動力伝達装置20の運転状態に関するデータのやり取りを行なっている。このメインECU90には、シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPやアクセルペダル93の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込みを検出するブレーキスイッチ96からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ98からの車速Vなどが入力されている。
【0018】
トルクコンバータ26は、エンジン12のクランクシャフト14に接続されたポンプインペラ26aと、自動変速機構28の入力軸22に接続されポンプインペラ26aに対向配置されたタービンランナ26bとを備え、ポンプインペラ26aによりエンジントルクを作動油の流れに変換すると共にこの作動油の流れをタービンランナ26bが入力軸22上のトルクに変換することによりトルクの伝達を行なう。また、トルクコンバータ26は、ロックアップクラッチ26cを内蔵しており、ロックアップクラッチ26cを係合することによりエンジンのクランクシャフト14と自動変速機構28の入力軸22とを直結して直接にエンジントルクを伝達する。
【0019】
自動変速機構28は、プラネタリギヤユニットPUと三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。プラネタリギヤユニットPUは、ラビニヨ式の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車の二つのサンギヤS1,S2と、内歯歯車のリングギヤRと、サンギヤS1に噛合する複数のショートピニオンギヤPSと、サンギヤS2および複数のショートピニオンギヤPSに噛合すると共にリングギヤRに噛合する複数のロングピニオンギヤPLと、複数のショートピニオンギヤPSおよび複数のロングピニオンギヤPLとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリアCRと、を備え、サンギヤS1はクラッチC1を介して入力軸22に接続されており、サンギヤS2はクラッチC3を介して入力軸22に接続されると共にブレーキB1によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっており、リングギヤRは出力軸24に接続されており、キャリアCRはクラッチC2を介して入力軸22に接続されている。また、キャリアCRは、ワンウェイクラッチF1によりその回転が一方向に規制されると共にワンウェイクラッチF1に対して並列的に設けられたブレーキB2によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっている。なお、出力軸24に出力された動力は、図示しないカウンタギヤやデファレンシャルギヤを介して車輪18a,18bに伝達される。
【0020】
また、自動変速機構28は、図2の作動表に示すように、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のオンオフの組み合わせにより前進1速〜4速と後進とを切り替えることができるようになっている。なお、図3に、自動変速機構28の各変速段におけるサンギヤS1,S2とリングギヤRとキャリアCRの回転速度の関係を示す共線図を示す。
【0021】
自動変速機構28におけるクラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1,B2のオンオフは、油圧回路30により行なわれる。図4は、油圧回路30の構成の概略を示す構成図である。油圧回路30は、図示するように、エンジンからの動力によりストレーナ31を介して作動油を圧送する機械式オイルポンプ32と、機械式オイルポンプ32から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するレギュレータバルブ33と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して生成されるモジュレータ圧PMODを調圧して信号圧として出力することによりレギュレータバルブ33を駆動するリニアソレノイドSLTと、ライン圧PLを入力する入力ポート42aとドライブポジション用出力ポート(Dポート)42bとリバースポジション用出力ポート(Rポート)42cなどが形成されシフトレバー91の操作に連動して入力ポート42aと出力ポート42b,42cとの間の連通と遮断とを行なうマニュアルバルブ40と、マニュアルバルブ40のDポート42bから出力された作動油を入力ポート52aから入力すると共に調圧して出力ポート52bから出力するリニアソレノイドSLC1と、シリンダ72内を摺動するピストン73に吸入用逆止弁74と吐出用逆止弁76とを内蔵し機械式オイルポンプ32を介さずにストレーナ31に吸入ポート72aが接続されソレノイド部71をオンからオフしたときには吐出用逆止弁76が閉弁すると共に吸入用逆止弁74が開弁して作動油を吸入ポート72aから吸入しソレノイド部71がオフからオンしたときには吸入用逆止弁74が閉弁すると共に吐出用逆止弁76が開弁して吸入した作動油を吐出ポート72bから吐出する電磁ポンプ70と、リニアソレノイドSLC1の出力ポート52b(出力ポート用油路34)と前進1速用(発進用)のクラッチC1(クラッチ用油路38)とを接続すると共に電磁ポンプ70の吐出ポート72b(吐出ポート用油路35)とクラッチC1(クラッチ用油路38)との接続を遮断する状態と出力ポート用油路34とクラッチ用油路38との接続を遮断すると共に吐出ポート用油路35とクラッチ用油路38とを接続する状態とを切り替える切替バルブ60と、クラッチ用油路38に接続されたアキュムレータ39などにより構成されている。なお、図4では、クラッチC1以外のクラッチC2,C3やブレーキB1,B2の油圧系については本発明の中核をなさないから省略しているが、これらの油圧系については周知のリニアソレノイドなどを用いて構成することができる。
【0022】
切替バルブ60は、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート62aとリニアソレノイドSLC1の出力ポート52b(出力ポート用油路34)に接続された入力ポート62bとクラッチC1(クラッチ用油路38)に接続された出力ポート62cと電磁ポンプ70の吐出ポート72b(吐出ポート用油路35)および後述するドレン用油路36が接続された入力ポート62dの各種ポートが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。この切替バルブ60は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されているときにはスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとを連通すると共に入力ポート62dと出力ポート62cとの連通を遮断することにより出力ポート用油路34とクラッチ用油路38とを連通すると共に吐出用ポート35とクラッチ用油路38との連通を遮断し、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されていないときにはスプリング66の付勢力によりスプール64が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとの連通を遮断すると共に入力ポート62dと出力ポート62cとを連通することにより出力ポート用油路34とクラッチ用油路38との連通を遮断すると共に吐出ポート用油路35とクラッチ用油路38とを連通する。
【0023】
マニュアルバルブ40は、油圧回路30のバルブボディ内に形成された略円柱状の空間に連通するよう入力ポート42aとDポジション用出力ポート42bとRポジション用出力ポート42cが形成されており、その空間内を二つのランド44a,44bを備えるスプール44が摺動することにより、入力ポート42aと出力ポート42b,42cとの間の連通と遮断とを行なう。また、マニュアルバルブ40は、入力ポート42aや出力ポート42b、42cの他に、ドレン用入力ポート42dが形成されており、このドレン用入力ポート42dは入力ポート42aや出力ポート42b,42cに対してランド44bで隔てられている。マニュアルバルブ40は、シフトレバー91がD(ドライブ)ポジションに操作されているときには、ドレン用入力ポート42dがランド44bの外壁で閉塞され、シフトレバー91がN(ニュートラル)ポジションに操作されると、ランド44bが図中左側に移動してドレン用入力ポート42dを解放し、ドレン用油路36の作動油をドレン用入力ポート42dを介して入力してドレンする。
【0024】
いま、シフトレバー91がNポジションに操作されている状態でエンジン12が停止している場合を考える。この場合、機械式オイルポンプ32は停止し、切替バルブ60は出力ポート用油路34が接続された入力ポート62bとクラッチ用油路38が接続された出力ポート62cとを遮断すると共にドレン用油路36が接続された入力ポート62dと出力ポート62cとを接続するから、クラッチC1に作用する油圧であるC1圧はクラッチ用油路38,切替バルブ60の出力ポート62cおよび入力ポート62d,ドレン用油路36,マニュアルバルブ40のドレン用入力ポート42dを順に介してドレンされることになる。
【0025】
マニュアルバルブ40は、図5に示すように、マニュアルシャフト80に取り付けられたマニュアルプレート82と、マニュアルプレート82上のマニュアルシャフト80の回転軸に対して偏心した位置(端部)の長孔82aに引っ掛けられるL字状のフック44aが先端に形成されたスプール44と、を備え、マニュアルシャフト80を回転駆動することにより、マニュアルシャフト80の回転運動をスプール44の直線運動に変換する。ここで、シフトレバー91は、図示しないが、ワイヤーによりマニュアルシャフト80に取り付けられたアウターレバーに接続されており、シフトレバー91の操作によるワイヤーの押し引きによりアウターレバーを揺動させることにより、マニュアルシャフト80を回転駆動できるようになっている。なお、マニュアルプレート82には、基端がボルトにより自動変速機構28のケースに固定された板状のディテントスプリング86と、マニュアルプレート82の端面に山部および谷部が交互に形成されたカム面82bに圧接するようディテントスプリング86の先端に取り付けられたローラ88とからなるディテント機構85が設けられている。
【0026】
ATECU29は、図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートおよび通信ポートとを備える。このATECU29には、マニュアルシャフト80の回転軸に取り付けられた回転角センサ99からの回転角θが入力ポートを介して入力されている。
【0027】
こうして構成された実施例の車両10では、シフトレバー91をD(ドライブ)の走行ポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。また、上述した自動停止条件の他に、ブレーキスイッチ信号BSWがオンしている状態でシフトレバー91がN(ニュートラル)ポジションに操作されてもエンジン12を自動停止するようになっており、この状態でシフトレバー91がNポジションからDポジションやR(リバース)ポジションなどの走行用ポジションに操作されると、エンジン12を自動始動する。
【0028】
次に、こうして構成された実施例の車両10の動作、特に、シフトレバー91がNポジションに操作されてエンジン12が自動停止されている状態からシフトレバー91がDポジションに移動されてエンジン12を自動始動する際の動作について説明する。図6は、ATECU29により実行されるN−Dシフト時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPがNポジションにあるときに実行される。
【0029】
N−Dシフト時制御ルーチンが実行されると、ATECU29は、まず、回転角センサ99からのマニュアルシャフト80の回転角θを入力する(ステップS100)。続いて、値0のときには電磁ポンプ70が停止状態を示し値1のときには電磁ポンプ70が作動状態を示すポンプ状態フラグFの値を調べる(ステップS110)。ポンプ状態フラグFが値0のときには入力したマニュアルシャフト80の回転角θがNポジションに相当するNポジション用回転角θNとは異なる回転角であるか否か即ちシフトレバー91がNポジションから解除されたか否かを判定する(ステップS120)。マニュアルシャフト80の回転角θがNポジション用回転角θNのときにはシフトレバー91はNポジションのままであるからステップS100に戻って処理を繰り返し、マニュアルシャフト80の回転角θがNポジション用回転角θNではないときには電磁ポンプ70の駆動を開始すると共にポンプ状態フラグFを値1に設定する(ステップS130)。この処理は、運転者がシフトレバー91をNポジションから解除した直後に電磁ポンプ70の駆動を開始する処理となる。
【0030】
電磁ポンプ70の駆動を開始すると、ステップS110ではポンプ状態フラグFが値1と判定されるから、マニュアルシャフト80の回転角θがDポジションに相当するDポジション用回転角θDに一致するまでステップS100に戻ってマニュアルシャフト80の回転角θを入力して回転角θとDポジション用回転角θDとを比較する処理を繰り返し(ステップS140)、マニュアルシャフト80の回転角θがDポジション用回転角θDに一致したときに、シフトポジションセンサ92により検出されメインECU90から通信により受信したシフトポジションSPを入力すると共に(ステップS150)、入力したシフトポジションSPがDポジションとなるのを待って(ステップS160)、エンジン12が自動始動されるようメインECU90を介してEGECU16にエンジン始動指令を送信し(ステップS170)、エンジン12が完爆したときに(ステップS180)、電磁ポンプ70を駆動停止して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0031】
図7に、マニュアルシャフトの回転角θとアイドルストップフラグFstopとエンジン回転速度NeとクラッチC1圧とポンプ駆動指令の時間変化の様子を示す。図示するように、シフトレバー91のNポジションからの解除に伴ってマニュアルシャフト80の回転角θがNポジション用回転角θNからDポジション用回転角θDに向けて動き始める時刻t1に、電磁ポンプ70の駆動を開始し、シフトレバー91が移動してマニュアルシャフト80の回転角θがDポジション用回転角θDに到達しDポジションが確定すると、アイドルストップフラグFstopが値1から値0にされてエンジン12の自動始動を開始し(時刻t2)、エンジン12が完爆したときに(時刻t3)、電磁ポンプ70の駆動を停止する。
【0032】
いま、ブレーキペダル95が踏み込まれている状態でシフトレバー91がNポジションに操作されている場合を考える。この場合、エンジン12は自動停止され、クラッチC1に作用しているC1圧はマニュアルバルブ40を介してドレンされるから、シフトレバー91をDポジションに操作して車両を発進させようとした際には、エンジン12の自動始動により機械式オイルポンプ32が駆動を開始してからクラッチC1を係合するまでに時間を要し、発進にモタツキが生じる場合がある。実施例では、シフトレバー91がNポジションを解除された直後に電磁ポンプ70の駆動を開始して電磁ポンプ70からクラッチC1に作動油を圧送するから、その後にシフトレバー91がDポジションを確定しエンジン12の自動始動により機械式オイルポンプ32が駆動を開始したときにクラッチC1を迅速に係合して発進することができる。電磁ポンプ70は、その駆動を開始しても油圧が発生するまでに比較的時間を要するが、シフトレバー91がDポジションを確定する前のNポジションを解除された直後に駆動を開始するから、電磁ポンプ70からクラッチC1に作動油が供給されるまでに遅れは生じない。
【0033】
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、エンジン12が自動停止されている状態でシフトレバー91がNポジションから解除されたときには、その直後に電磁ポンプ70の駆動を開始し、シフトレバー91がDポジションを確定したときには、エンジン12を自動始動すると共にエンジン12が完爆したときに電磁ポンプ70の駆動を停止するから、エンジン12の自動始動に伴って機械式オイルポンプ32が駆動を開始したときにクラッチC1を迅速に係合して車両を発進させることができる。
【0034】
実施例の動力伝達装置20では、シフトレバー91がNポジションから解除された直後のタイミングで電磁ポンプ70の駆動を開始するものとしたが、シフトレバー91がNポジションから解除された以降で且つDポジションを確定する前のタイミングであれば、如何なるタイミングで電磁ポンプ70の駆動を開始するものとしてもよい。ただし、エンジン12が自動始動した後にクラッチC1の係合をより迅速にするためには、できる限り早いタイミングで電磁ポンプ70の駆動を開始することが望ましい。また、電磁ポンプ70の駆動を停止するタイミングも、エンジン12が完爆したときに限られず、エンジン12の自動始動が開始されてから所定時間が経過したタイミングなどとするものとしてもよい。
【0035】
実施例の動力伝達装置20では、電磁ポンプ70の吐出ポート72b(吐出ポート用油路35)とクラッチC1(クラッチ用油路38)とを切替バルブ60(入力ポート62d,出力ポート62c)を介して接続するものとしたが、切替バルブ60を介さずに直接に接続するものとしても構わない。
【0036】
実施例の動力伝達装置20では、前進1速〜4速の4段変速の自動変速機構28を備えるものとしたが、自動変速機構としては、これに限定されるものではなく、2段変速や3段変速や5段以上の変速段とするなど如何なる段数のものを用いるものとしてもよい。
【0037】
実施例では、本発明をシフトレバー91をNポジションからDポジションに変更する場合に例に説明したが、シフトレバーがNポジションからR(リバース)ポジションに変更する場合や、P(パーキング)ポジションからDポジションに変更する場合、PポジションからRポジションに変更する場合など、シフトレバーを非走行用ポジションから走行用ポジションに変更するものであれば本発明に適用することができる。
【0038】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン12が「原動機」に相当し、クラッチC1が「摩擦係合要素」に相当し、機械式オイルポンプ32が「第1のポンプ」に相当し、シフトレバー91が「シフト操作部」に相当し、マニュアルバルブ40が「シフト用バルブ」に相当し、切替バルブ60が「開放遮断部」に相当し、電磁ポンプ70が「第2のポンプ」に相当し、図6のN−Dシフト時制御ルーチンを実行するATECU29やEGECU16が「制御装置」に相当する。ここで、「原動機」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わないし、内燃機関以外の電動機など、動力を出力可能なものであれば如何なるタイプの原動機であっても構わない。「第2のポンプ」としては、電磁力により作動油を圧送する電磁ポンプに限定されるものではなく、電動機からの動力により作動油を圧送する電動ポンプなど、電力により駆動して流体圧を発生させるものであれば如何なるタイプのポンプであっても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、動力伝達装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 車両、12 エンジン、14 クランクシャフト、16 EGECU、20 動力伝達装置、22 入力軸、24 出力軸、26 トルクコンバータ、26a ポンプインペラ、26b タービンランナ、26c ロックアップクラッチ、28 自動変速機構、29 ATECU、30 油圧回路、31 ストレーナ、32 機械式オイルポンプ、33 レギュレータバルブ、34 出力ポート圧用油路、35 吐出ポート用油路、36 ドレン用油路、38 クラッチ用油路、39 アキュムレータ、40 マニュアルバルブ、42a 入力ポート、42b Dポジション用出力ポート、42c Rポジション用出力ポート、42d ドレン用入力ポート、44 スプール、44a,44b ランド、52a 入力ポート、52b 出力ポート、60 切替バルブ、62 スリーブ、62a 信号圧用入力ポート、62b 入力ポート、62c 出力ポート、62d 入力ポート、64 スプール、66 スプリング、70 電磁ポンプ、71 ソレノイド部、72 シリンダ、72a 吸入ポート、72b 吐出ポート、73 ピストン、74 吸入用逆止弁、76 吐出用逆止弁、90 メインECU、91 シフトレバー、92 シフトポジションセンサ、93 アクセルペダル、94 アクセルペダルポジションセンサ、95 ブレーキペダル、96 ブレーキスイッチ、98 車速センサ、99 回転角センサ、SLT,SLC1 リニアソレノイド、S1,S2 サンギヤ、R リングギヤ、PS ショートピニオンギヤ、PL ロングピニオンギヤ、CR キャリア、C1〜C3 クラッチ、B1,B2 ブレーキ、F1 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠運転が可能な原動機を備える車両に搭載され、前記原動機からの動力を摩擦係合要素を介して車軸に伝達する動力伝達装置であって、
前記原動機からの動力により作動して流体圧を発生させる第1のポンプと、
ポジション間の物理的な移動を伴ってシフトポジションを切替可能なシフト操作部と、
前記シフト操作部が走行用ポジションにあるときには前記第1のポンプからの流体圧を前記摩擦係合要素の流体圧サーボに接続された供給用流路に出力し、前記シフト操作部が非走行用ポジションにあるときには前記摩擦係合要素の流体圧サーボに接続されたドレン用流路から作動流体を入力してドレンするシフト用バルブと、
前記供給用流路を開放すると共に前記ドレン用流路を遮断する状態と、前記供給用流路を遮断すると共に前記ドレン用流路を開放する状態とを切り替える切替バルブと、
電力により作動して前記供給用流路が遮断されている状態で前記摩擦係合要素の流体圧サーボに流体圧を供給する第2のポンプと、
前記原動機が停止されて前記供給用流路が遮断されている最中に前記シフト操作部により前記非走行用ポジションが解除されたときには、前記走行用ポジションまでの前記シフト操作部の移動が完了する前の第1のタイミングで作動が開始されるよう前記第2のポンプを制御し、前記シフト操作部の移動が完了した以降の第2のタイミングで始動されるよう前記原動機を制御する制御装置と、
を備える動力伝達装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2のタイミングとして前記走行用ポジションへの前記シフト操作部の移動が完了した直後のタイミングで始動されるよう前記原動機を制御する請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1のタイミングとして前記シフト操作部が前記非走行用ポジションから解除された直後のタイミングで作動が開始されるよう前記第2のポンプを制御する請求項1または2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記非走行用ポジションは、中立ポジションである請求項1ないし3いずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記供給用流路に取り付けられ、前記第1のポンプからの流体圧を入力し調圧を伴って出力する調圧バルブを備え、
前記切替バルブと前記調圧バルブは、前記シフト用バルブからの作動流体が前記調圧バルブ,前記切替バルブ,前記摩擦係合要素の流体圧サーボの順に流れるよう配置されてなる
動力伝達装置。
【請求項6】
前記シフト用バルブは、入力ポートと前記供給用流路が接続された走行ポジション用出力ポートを含む出力ポートと前記ドレン用流路に接続されたドレン用入力ポートが形成され、走行ポジションにシフト操作されたときには前記第1のポンプにより発生した流体圧を前記入力ポートから入力して前記走行ポジション用出力ポートから出力すると共に前記ドレン用入力ポートを遮断し、前記非走行ポジションにシフト操作されたときには前記入力ポートと前記出力ポートとの流路を遮断すると共に前記ドレン用入力ポートを開放するバルブである請求項1ないし5いずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記切替バルブは、前記第1のポンプからの流体圧により作動し、前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには前記走行ポジション用出力ポートと前記摩擦係合要素の流体圧サーボとを流路により接続し、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには前記走行ポジション用出力ポートと前記摩擦係合要素の流体圧サーボとの接続を遮断するバルブである請求項1ないし6いずれか1項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−69409(P2011−69409A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219353(P2009−219353)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】