説明

半導体ウェハ及び半導体装置

【課題】クラックの発生を抑制しつつ厚膜化され、且つ導電性を有する窒化物半導体層を有する半導体ウェハ及び半導体装置を提供する。
【解決手段】ノンドープの第1の窒化物半導体層とその第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第2の窒化物半導体層とが交互に積層された構造を有する多層膜と、多層膜上に配置された、第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第3の窒化物半導体層とを備え、膜厚方向に導電性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体層を有する半導体ウェハ及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体層は安価なシリコン基板上やサファイア基板上に形成されることが一般的である。しかし、これらの半導体基板の格子定数と窒化物半導体層の格子定数は大きく異なり、また、熱膨張係数も異なる。このため、サファイア基板上やシリコン基板上にエピタキシャル成長によって形成された窒化物半導体層に、大きな歪みエネルギーが発生する。その結果、窒化物半導体層ではクラックの発生や結晶品質の低下が生じやすい。特に、サファイア基板に比べシリコン基板は、窒化物半導体層との格子不整合が大きいため、クラックの発生が大きな問題となる。
【0003】
また、導電性の窒化物半導体層を得るためには、窒化物半導体層に不純物をドーピングして導電キャリアを発生させる方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−235709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、不純物ドーピングによって窒化物半導体層の結晶が硬くなり、クラックが発生しやすくなる。したがって、シリコン基板上やサファイア基板上に形成された窒化物半導体層に不純物ドーピングを行うと、結晶の硬化や結晶品質低下により、更にデバイス設計が困難である。
【0006】
また、素子特性を向上させるために、動作電流が流れるヘテロ接合を形成する窒化物半導体層や発光機能を有する窒化物半導体層などの半導体機能層を厚膜化する必要がある。厚膜化によって半導体機能層の結晶品質は向上する。しかしながら、半導体機能層を厚膜化するためには、半導体機能層と半導体基板間に配置されるバッファ層も厚膜化する必要がある。このため、クラックの発生が更に大きな問題になっている。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、クラックの発生を抑制しつつ厚膜化され、且つ導電性を有する窒化物半導体層を有する半導体ウェハ及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、(イ)ノンドープの第1の窒化物半導体層とその第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第2の窒化物半導体層とが交互に積層された構造を有する多層膜と、(ロ)多層膜上に配置された、第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第3の窒化物半導体層とを備え、膜厚方向に導電性を有する半導体ウェハが提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、(イ)第1主面とその第1主面に対向する第2主面とで両面を定義された、窒化物半導体からなる半導体機能層と、(ロ)第2主面上に配置された、ノンドープの第1の窒化物半導体層とその第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第2の窒化物半導体層とが交互に積層された多層膜、及び、多層膜上に配置された第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第3の窒化物半導体層を有し、膜厚方向に導電性を有する積層体と、(ハ)半導体機能層及び積層体を挟んで対向して配置された一対の電極とを備える半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クラックの発生を抑制しつつ厚膜化され、且つ導電性を有する窒化物半導体層を有する半導体ウェハ及び半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体装置の積層体の構造を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る半導体装置の多層膜のエネルギーバンド図の例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る半導体装置の積層体のエネルギーバンド図の例を示す模式図である。
【図4】図1に示した積層体を用いた発光ダイオードの構造を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係る半導体装置の第3の窒化物半導体層の膜厚と発光ダイオードの順方向電圧との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る半導体装置の多層膜のペア数と発光ダイオードの順方向電圧との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る半導体装置の多層膜のペア数と第3の窒化物半導体層の転位密度との関係を示すグラフである。
【図8】図1に示した積層体を用いた発光ダイオードの他の構造を示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態に係る半導体装置の他の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の長さの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0013】
又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係る半導体装置は、図1に示すように、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212とが交互に積層された構造を有する多層膜21と、多層膜21上に配置された第3の窒化物半導体層22とを備える。
【0015】
第1の窒化物半導体層211、第2の窒化物半導体層212、及び第3の窒化物半導体層22は、AlxGayIn1-x-yN(0≦x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)で表される窒化物半導体からなる。
【0016】
第1の窒化物半導体層211及び第2の窒化物半導体層212は、ノンドープの窒化物半導体層であり、第2の窒化物半導体層212の格子定数は、第1の窒化物半導体層211の格子定数よりも大きい。また、多層膜21は膜厚方向に導電性を有する。第3の窒化物半導体層22は、第1の窒化物半導体層211よりも格子定数が大きいノンドープの窒化物半導体層であり、膜厚方向に導電性を有する。ここでノンドープとは、不純物が意図的に添加されていないことを意味する。
【0017】
なお、図1では、第3の窒化物半導体層22の上方と下方とにそれぞれ多層膜21を配置した例を示したが、多層膜21と第3の窒化物半導体層22とが1層ずつで積層体20を形成してもよい。或いは、積層体20が第3の窒化物半導体層22を複数有し、各第3の窒化物半導体層22間にそれぞれ多層膜21を配置してもよい。複数の第3の窒化物半導体層22と複数の多層膜21を交互に積層することによって、導電層である積層体20の膜厚を厚くすることができる。
【0018】
図1に示した例では、多層膜21と第3の窒化物半導体層22とを積層した積層体20が、半導体基板10と半導体機能層30との間に配置されるバッファ層として使用されている。以下では、積層体20をバッファ層として使用する場合について例示的に説明する。
【0019】
第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212はいずれもノンドープである。しかし、格子定数が異なる組成に起因するシャープな界面に生じるバンドオフセットにより、図2に示すエネルギーバンド図のように、伝導帯EcとフェルミレベルEfが交差する。その結果、フェルミレベルEfよりも伝導帯Ecが低いハッチングで示した領域において、多層膜21内にキャリアが発生する。図2でEvは価電子帯を示す。なお、図2は第1の窒化物半導体層211がAlN膜からなり、第2の窒化物半導体層212がGaN膜からなる場合を示している。
【0020】
上記のように多層膜21内に発生したキャリアは、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212との界面に沿って平面方向に移動できる。つまり、多層膜21は横方向、即ち平面方向に導電性を有する。
【0021】
また、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212の膜厚は、トンネル効果によってキャリアが膜厚方向に通過できる厚みに設定される。具体的には、第1の窒化物半導体層211の膜厚は1nm〜8nm程度であり、第2の窒化物半導体層212の膜厚は2nm〜25nm程度である。膜厚が十分に薄いため、多層膜21内に発生したキャリアは、トンネル効果によって第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212を膜厚方向に通過できる。このため、多層膜21は縦方向、即ち膜厚方向に導電性を有する。
【0022】
したがって、多層膜21は平面方向及び膜厚方向に導電性を有する。
【0023】
第3の窒化物半導体層22の格子定数が第1の窒化物半導体層211よりも大きいため、第3の窒化物半導体層22の格子定数は、多層膜21を構成する各層の格子定数の平均値よりも大きい。このため、第3の窒化物半導体層22のバンドギャップエネルギーは、多層膜21を構成する各層のバンドギャップエネルギーの平均値よりも小さい。
【0024】
第3の窒化物半導体層22はノンドープであり、図3に示すエネルギーバンド図において伝導帯Ecに大きなエネルギー障壁が生じる。このため、第3の窒化物半導体層22は高抵抗になるはずである。
【0025】
しかし、第3の窒化物半導体層22を多層膜21と接触させることにより、多層膜21内で発生した多量の転位が第3の窒化物半導体層22に導入される。そして、第3の窒化物半導体層22内の転位近傍に発生する連続した結晶欠陥が、縮退したディープレベルEdを形成する(図3参照。)。ディープレベルEdを経由してキャリアの移動が可能であるため、第3の窒化物半導体層22は膜厚方向に高い導電性を示す。なお、図3でEvは価電子帯を示す。また、多層膜21の伝導帯Ecはミニバンドである。
【0026】
ただし、第3の窒化物半導体層22の膜厚が薄いと結晶中にクラックが発生し、厚膜の積層体20を形成することができない。一方、第3の窒化物半導体層22の膜厚が厚くなるほど内部の転位が減少し、第3の窒化物半導体層22は次第に高抵抗になる。
【0027】
このため、後述するように、1の第3の窒化物半導体層22の膜厚は例えば20nm〜500nmであり、積層体20に含まれる第3の窒化物半導体層22の層数は、バッファ層の所望の膜厚に応じて設定される。結晶品質の良好な厚膜の半導体機能層30を形成するためには、バッファ層も厚膜化する必要がある。
【0028】
半導体基板10上に上記の積層体20が形成された構造を有する半導体ウェハを用意し、積層体20上に半導体機能層30などを配置することによって、所望の機能を有する半導体装置が製造される。以下では、図1に示した多層膜21と第3の窒化物半導体層22とを積層した積層体20をバッファ層として、図4に示す発光ダイオード(LED)100の製造に使用する場合について説明する。
【0029】
図4に示したLED100は、導電性を有する支持基板40上に発光機能を有する半導体機能層30が配置され、半導体機能層30上にバッファ層として形成された積層体20が配置された構造である。支持基板40と半導体機能層30との間に、導電性を有する反射膜35が配置されている。更に、支持基板40の裏面に第1の電極51が配置され、積層体20の最上層の上面に第2の電極52が配置されている。
【0030】
図4に示したLED100は、以下のように製造される。まず、半導体基板10上に、多層膜21と第3の窒化物半導体層22とを交互に配置した構造の積層体20を形成する。多層膜21を構成する第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212からなるペアの数(以下において、単に「ペア数」という。)は、5ペア程度とする。例えば、第1の窒化物半導体層211は膜厚4nmのAlN膜であり、第2の窒化物半導体層212は膜厚4nmのGaN膜である。第3の窒化物半導体層22は、膜厚300nm程度のGaN膜である。第2の窒化物半導体層212と第3の窒化物半導体層22が同一材料である場合、第3の窒化物半導体層22は第1の窒化物半導体層211と接する構成である。
【0031】
次いで、積層体20上に半導体機能層30を形成する。更に、半導体機能層30上に反射膜35を形成した後、反射膜35上に支持基板40を張り合わせる。その後、半導体基板10を除去する。そして、第1の電極51及び第2の電極52を形成して、図4に示すLED100が得られる。
【0032】
なお、図4では、積層体20が、4つの多層膜21と3つの第3の窒化物半導体層22を交互に積層した構造である場合を示した。しかし、積層体20を構成する多層膜21の層数と第3の窒化物半導体層22の層数が上記に限られないのはもちろんである。
【0033】
半導体機能層30は窒化物半導体層が積層された構造であり、ダブルへテロ接合構造の発光ダイオードを構成するために、第1導電型の第1導電層31と第2導電型の第2導電層33によって、発光層32を挟んだ構造である。
【0034】
例えば、第1導電層31はn型窒化物半導体層であり、第2導電層33はp型窒化物半導体層である。この場合、第1導電層31はn型クラッド層と呼ばれ、例えばn型不純物がドーピングされた膜厚500nm程度のGaN膜などである。一方、第2導電層33はp型クラッド層と呼ばれ、例えばp型不純物がドーピングされた膜厚200nm程度のAlGaN膜である。
【0035】
発光層32は、例えばノンドープの膜厚50nm程度のInGaN膜である。図4では発光層32を単層として図示しているが、発光層32はバリア層とそのバリア層よりバンドギャップが小さい井戸層が交互に配置された多重量子井戸(MWQ)構造を有する。ただし、発光層32を1つの層で構成することもできる。また、発光層32を省いて、p型の第1導電層31とn型の第2導電層33を直接接触させた構成にすることもできる。また、発光層32に、p型或いはn型の導電型不純物をドーピングしてもよい。
【0036】
支持基板40は、例えば5×1018cm-3〜5×1019cm-3のn型不純物濃度を有するシリコン基板などが採用可能である。支持基板40の抵抗率は0.0001〜0.01Ω・cm程度であり、第1の電極51と第2の電極52間の電流通路として機能する。支持基板40は、積層体20及び半導体機能層30を機械的に支持するために、好ましくは300〜1000μm程度の厚みを有する。
【0037】
積層体20、半導体機能層30、反射膜35及び支持基板40を介して第1の電極51と第2の電極52間に電流が流れると、n型の第1導電層31から供給された電子とp型の第2導電層33から供給された正孔(ホール)が発光層32で再結合して、光が発生する。半導体機能層30から積層体20方向に出射された光は、積層体20を透過してLED100の外部に出力される。半導体機能層30から支持基板40方向に出射された光は、反射膜35で反射され、半導体機能層30及び積層体20を透過してLED100の外部に出力される。
【0038】
図5に、第3の窒化物半導体層22の膜厚と、膜厚方向に順電流が流れる発光ダイオードの順方向電圧Vfとの関係を示す。図5において、白抜きの四角で示した値は、積層体20が多層膜21上に第3の窒化物半導体層22を配置した構造である場合の測定値である。また、黒いひし形で示した値は、積層体20が第3の窒化物半導体層22の上方及び下方にそれぞれ多層膜21を配置した構造である場合の測定値である。
【0039】
図5に示すように、多層膜21上に第3の窒化物半導体層22を配置することにより、第3の窒化物半導体層22の膜厚が20nm〜300nmの範囲で順方向電圧Vfは低くなる。また、第3の窒化物半導体層22を多層膜21で挟むことによって、第3の窒化物半導体層22の膜厚が20nm〜500nmの範囲で順方向電圧Vfは低くなり、20nm〜250nmの範囲で順方向電圧Vfは更に低くなる。したがって、第3の窒化物半導体層22の膜厚は、20nm〜500nm程度であることが好ましく、更に好ましくは20nm〜250nmである。
【0040】
第3の窒化物半導体層22の導電性を高めるためには、多層膜21において多量の転位を発生させることが有効である。多層膜21において多量の転位を発生させるためには、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212との格子定数の差が1%以上あることが好ましい。更に好ましくは、格子定数の差が2%以上である。更に、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212の一方が成膜時の平坦性が悪く、他方が成膜時の平坦性がよいことが好ましい。
【0041】
したがって、例えば、第1の窒化物半導体層211の組成がAlxGayIn1-x-yN(0.7<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)であり、第2の窒化物半導体層212の組成がAlxGayIn1-x-yN(0≦x<0.2、0≦y≦1、0≦x+y≦1)であることが好ましい。更に好ましくは、第1の窒化物半導体層211がAlN膜からなり、第2の窒化物半導体層212がGaN膜からなる。このような場合には、第1の窒化物半導体層211は成膜時の平坦性が悪く、凹凸部分で転位が多量に発生する。ただし、上記の第1の窒化物半導体層211における平坦性の悪さは、第2の窒化物半導体層212の成膜時に平坦性を改善できる程度である。このため、多量の転位を発生しつつ、多層膜21の平坦性を保持することができる。
【0042】
更に、適度な凹凸が形成されるように、AlxGayIn1-x-yN(0.7<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)からなる第1の窒化物半導体層211の成膜温度は、1200℃以下であることが好ましい。また、多層膜21の平坦性を保持するために、AlxGayIn1-x-yN(0≦x<0.2、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる第2の窒化物半導体層212の成膜温度は、900℃以上であることが好ましい。生産性を考慮すると、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212は同じ温度で成膜されることが有効である。このため、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212の成膜温度は、900℃〜1200℃が好ましく、更に好ましくは1000℃〜1100℃である。
【0043】
また、図6に示すように、順方向電圧Vfを低くするためには、第1の窒化物半導体層211と第2の窒化物半導体層212のペア数は、最低でも3ペア以上が必要である。ペア数は、好ましくは5〜15ペアであり、更に好ましくは8〜12ペアである。図6は、積層体20として、多層膜21上に膜厚200nmの第3の窒化物半導体層22を配置した構造を採用した場合の測定値である。
【0044】
図7に、多層膜21のペア数と第3の窒化物半導体層22の転位密度との関係を示す。図7は、図6の場合と同様に、多層膜21上に膜厚200nmの第3の窒化物半導体層22を配置した構造を採用した場合の測定値である。図6に示したように、ペア数は好ましくは5〜15ペアであり、更に好ましくは8〜12ペアであるため、図7に示した関係から、良好な導電性を得るための第3の窒化物半導体層22の転位密度は、1×108cm-2以上、好ましくは1×109cm-2以上である。更に好ましくは、1×1010cm-2以上である。第3の窒化物半導体層22の転位密度が上記の範囲であれば、多層膜21で発生した多量の転位が第3の窒化物半導体層22に良好に引き継がれる。
【0045】
上記のように積層体20を形成することにより、ノンドープの導電層を実現することができる。このため、不純物ドーピングによる結晶の品質低下やクラックの発生が抑制される。例えば3μm以上の厚いエピタキシャル層を形成してもクラックの発生が抑制されるため、高品質な電子デバイスを製造可能である。
【0046】
例えば、多層膜21と第3の窒化物半導体層22を交互に積層することにより、バッファ層の膜厚が2μm以上の、クラックの発生が少ない導電層を実現できる。積層体20によれば、エピタキシャル成長により形成される窒化物半導体層全体として、3μm以上でも反りが抑制され、クラックの発生なく形成可能である。
【0047】
図4では、張り合わせ反射構造のLED100について説明した。しかし、図8に示すように、例えばシリコン基板である半導体基板10上にバッファ層として積層体20が配置され、積層体20上に発光機能を有する半導体機能層30が配置された構造にしてもよい。図8に示したLED110においても、積層体20及び半導体機能層30を介して、第1の電極51と第2の電極52間に電流が流れる。これにより、発光層32で光が発生し、第2導電層33を透過して光が外部に出射される。
【0048】
ただし、図8に示したLED110では、発光層32から第1導電層31側に出力された光が半導体基板10などに吸収される。このため、図4に示したLED100に比べて発光効率は劣る。
【0049】
以上の説明では、半導体機能層30が発光機能を有する半導体装置であって、膜厚方向(縦方向)に電流が流れる例を示した。半導体機能層30が発光機能以外の機能を有する例を、図9に示す。図9は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)のバッファ層に積層体20を使用した例である。
【0050】
図9の半導体機能層30は、キャリア走行層310、及びキャリア走行層310と異なるバンドギャップエネルギーを有するキャリア供給層320を有する。キャリア走行層310とキャリア供給層320間のヘテロ接合面近傍のキャリア走行層310に、電流通路(チャネル)としての二次元キャリアガス層330が形成される。
【0051】
キャリア走行層310は、例えば不純物が添加されていないノンドープGaNを2000nm程度の厚みに、MOCVD法等によりエピタキシャル成長させて形成する。
【0052】
キャリア供給層320は、キャリア走行層310よりもバンドギャップが大きく、且つキャリア走行層310と格子定数の異なる窒化物半導体からなる。キャリア供給層320は、例えばAlxGay1-x-yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y≦1、Mはインジウム(In)或いはボロン(B)等)で表される窒化物半導体である。また、キャリア供給層320としてノンドープのAlxGa1-xNも採用可能である。更に、n型不純物を添加したAlxGa1-xNからなる窒化物半導体もキャリア供給層320に採用可能である。キャリア供給層320の膜厚は10〜50nm程度、例えば20nm程度である。キャリア供給層320上に、ソース電極61、ドレイン電極62、ゲート電極63が配置されている。
【0053】
半導体基板10は導電性を有する基板であり、例えばシリコン基板である。半導体基板10と半導体機能層30間に配置された積層体20が導電性を有するため、半導体基板10の裏面に配置された電界制御用電極64によって、半導体基板10を所望の電位に設定できる。例えば、半導体基板10をソース電極61若しくはゲート電極63と同電位に設定できる。或いは、半導体基板10をフローティング電位にすることもできる。
【0054】
なお、半導体基板10としてシリコン基板を使用する場合は、シリコン基板と接する積層体20などのエピタキシャル層の導電型に応じて、シリコン基板の導電型を決定することが好ましい。例えば、シリコン基板上にn型の窒化物半導体層を形成する場合、p型シリコン基板を用いると、以下のようにシリコン基板と窒化物半導体層との接続抵抗が低減される。
【0055】
p型のシリコン基板上にn型の窒化物半導体層を形成した場合に、シリコン基板と窒化物半導体層とのヘテロ接合界面に界面準位が存在する。また、シリコン基板と窒化物半導体層間に量子力学的トンネル効果を有する層(以下において「介在層」という。)が形成される場合には、介在層を介してp型シリコン基板とn型窒化物半導体層との間に界面準位が存在する。この界面準位はn型窒化物半導体層とp型シリコン基板との間の電気伝導に寄与するエネルギー準位である。界面準位が存在することによって、p型シリコン基板内のキャリア(電子)が界面準位を経由してn型窒化物半導体層に良好に注入される。その結果、p型シリコン基板とn型窒化物半導体層との間のヘテロ接合の電位障壁、又は、量子力学的トンネル効果を有する介在層を介したp型シリコン基板とn型窒化物半導体層との界面の電位障壁が小さくなる。これにより、シリコン基板と窒化物半導体層との接続抵抗が低減される。
【0056】
以上に説明したように、本発明の実施形態によれば、ノンドープの多層膜21とノンドープの第3の窒化物半導体層22を積層した積層体20を形成することによって、クラックの発生を抑制しつつ厚膜化され、且つ導電性を有する窒化物半導体層である積層体20を有する半導体ウェハを実現できる。
【0057】
また、上記半導体ウェハの積層体20上に半導体機能層30などを形成し、更に、積層体20及び半導体機能層30を挟んで対向する一対の電極を配置することによって、クラックの発生を抑制しつつ厚膜化され、且つ導電性を有する窒化物半導体層である積層体20を有する半導体装置が得られる。この半導体装置は、上記ウェハをチップ化することによって得られ、半導体機能層30及び積層体20を介して電極間で膜厚方向に電流を流すことが可能である。
【0058】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0059】
例えば、第3の窒化物半導体層22が単層である場合を示したが、第3の窒化物半導体層22が複数の層で構成されていてもよい。この場合、第3の窒化物半導体層22を互いに格子定数の異なる複数の層によって構成してもよいが、層間を転位が良好に引き継がれるように、第3の窒化物半導体層22を構成する各層の材料を選択する。
【0060】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0061】
10…半導体基板
20…積層体
21…多層膜
211…第1の窒化物半導体層
212…第2の窒化物半導体層
22…第3の窒化物半導体層
30…半導体機能層
31…第1導電層
32…発光層
33…第2導電層
35…反射膜
40…支持基板
51…第1の電極
52…第2の電極
61…ソース電極
62…ドレイン電極
63…ゲート電極
64…電界制御用電極
310…キャリア走行層
320…キャリア供給層
330…二次元キャリアガス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンドープの第1の窒化物半導体層と該第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第2の窒化物半導体層とが交互に積層された構造を有する多層膜と、
前記多層膜上に配置された、前記第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第3の窒化物半導体層と
を備え、膜厚方向に導電性を有することを特徴とする半導体ウェハ。
【請求項2】
前記多層膜において、前記第1の窒化物半導体層と前記第2の窒化物半導体層とが少なくとも3層以上ずつ積層されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェハ。
【請求項3】
前記第3の窒化物半導体層の上方及び下方に前記多層膜がそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ウェハ。
【請求項4】
前記第3の窒化物半導体層を複数有することを特徴とする請求項3に記載の半導体ウェハ。
【請求項5】
前記第1の窒化物半導体層と前記第2の窒化物半導体層の膜厚が、トンネル効果によってキャリアが膜厚方向に通過できる厚みであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体ウェハ。
【請求項6】
第1主面と該第1主面に対向する第2主面とで両面を定義された、窒化物半導体からなる半導体機能層と、
前記第2主面上に配置された、ノンドープの第1の窒化物半導体層と該第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第2の窒化物半導体層とが交互に積層された多層膜、及び、前記多層膜上に配置された前記第1の窒化物半導体層よりも格子定数が大きいノンドープの第3の窒化物半導体層を有し、膜厚方向に導電性を有する積層体と、
前記半導体機能層及び前記積層体を挟んで対向して配置された一対の電極と
を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
前記半導体機能層及び前記積層体を介して、前記一対の電極間を膜厚方向に電流が流れることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−146908(P2012−146908A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5832(P2011−5832)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】