説明

半導体ウエハからの物質除去方法並びに除去装置

【課題】
【解決手段】非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を液相で保持するのに充分な圧力を、半導体ウエハが存在する容積内で維持する。前駆物質流体を液相で保持しつつ、半導体ウエハから除去するべき物質の近傍に前駆物質流体を供給する。半導体ウエハが存在する所定の容積内を減圧することにより、ウエハ上に位置する前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される。非ニュートン流体への変換の際における前駆物質流体の膨張の作用と、ウエハに対する前駆物質流体の相対的な移動の作用とにより、変換後の非ニュートン流体が半導体ウエハから物質を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体工程では、シリコン等の物質から構成される半導体ウエハ(以下、「ウエハ」)上に集積回路が形成される。ウエハ上に集積回路を形成するためには、様々な種類の抵抗やダイオード、コンデンサーやトランジスター等、数多くの(例えば、数百万の)電子機器の製作が必要となる。このような電子機器の製作は、ウエハ上の正確な位置に材料を蒸着し、除去し、埋め込むことにより行われる。フォトリソグラフィーとよばれる手法が通常用いられ、ウエハの正確な位置に容易に材料を蒸着し、除去し、埋め込むことができる。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィー工程では、まずウエハ上にフォトレジスト材を載せ、レチクルを通した光をフォトレジスト材に照射する。レチクルは、所望の構成配列パターンを設けたガラス板で、光は形成されたパターン部分を透過することができない。レチクルを通った光は、フォトレジスト材の表面に達して、フォトレジスト材の感光部分の化学組成を変化させる。ポジ型フォトレジスト材の場合には、光を照射することにより、フォトレジスト材の感光部分が現像液に不溶となる。逆に、ネガ型フォトレジスト材の場合には、光を照射することにより、フォトレジスト材の感光部分が現像液に可溶となる。露光後、フォトレジスト材の可溶部分を除去することにより、フォトレジストパターン層が形成される。
【0003】
次に、ウエハを処理し、フォトレジストパターン層で被覆されていないウエハ領域で材料の除去、蒸着、埋め込みを行う。このようなウエハ処理により、フォトレジスト層が改変され、フォトレジストの除去が難しくなる場合がある。例えば、プラズマエッチング処理の場合、フォトレジストの外層が、下部層のフォトレジストと比べて反応性の低い、硬い皮膜に変換される。ウエハ処理後、フォトレジスト除去処理により、フォトレジストパターン層やその残渣及びプラズマエッチング後に残った他の高分子残渣をウエハから除去する必要がある。ウエハ表面上に残ったフォトレジストや高分子物質が集積回路の不具合の原因となる可能性があるため、フォトレジスト除去処理では、フォトレジストや高分子物質を完全に除去することが重要である。また、ウエハ上の基部材の化学組成を改変したり物理的な損傷を与えたりすることのないように、フォトレジスト除去処理は、注意深く行う必要がある。ウエハの基部材の化学組成改変及び/または基部材の損傷を起こすことなく、フォトレジスト及び高分子物質の完全な除去を実現するようなフォトレジスト除去処理の改良が望まれている。
【発明の開示】
【0004】
本発明の一つの態様は、半導体ウエハから物質を除去する方法である。本発明の方法は、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を液相で保持するのに充分な圧力を、半導体ウエハが存在する容積内で維持する工程と、前駆物質流体を液相で保持しつつ、前駆物質流体を半導体ウエハ上に供給する工程とを含む。ここで、半導体ウエハから除去するべき物質の近傍に前駆物質流体が位置するように、前駆物質流体を半導体ウエハ上に供給する。本発明の方法は、さらに、半導体ウエハが存在する容積内を減圧する工程を含む。減圧することにより前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される。非ニュートン流体に変換される際の前駆物質流体の膨張の作用により、変換後の非ニュートン流体が半導体ウエハから物質を除去する。
【0005】
本発明の別の態様は、半導体ウエハからフォトレジストと高分子物質とを除去する方法である。本発明の方法は、溶液を半導体ウエハ上に供給して、バルクフォトレジスト材を除去する工程を含む。この溶液は、フォトレジスト材に浸透して、バルクフォトレジスト材を除去すると共に、フォトレジスト皮膜を残す。バルクフォトレジスト材の除去後、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を液相で保持した状態で、前駆物質流体を半導体ウエハ上に供給する。前駆物質流体がフォトレジスト皮膜を透過してフォトレジスト皮膜の下に広がる中空領域に浸透するように、前駆物質流体の半導体ウエハ上への供給を行う。本発明の方法は、さらに、半導体ウエハ周囲を減圧して、前駆物質流体を非ニュートン流体に変換させる工程を含む。非ニュートン流体に変換される際の前駆物質流体の膨張の作用により、変換後の非ニュートン流体がフォトレジスト皮膜と高分子物質とを除去する
【0006】
本発明のさらに別の態様は、半導体ウエハから物質を除去する装置である。本発明の装置は、連結された流体供給口を有するチャンバを備える。流体供給口は、チャンバ内に保持される半導体ウエハ上に、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を供給する。本発明の装置は、また、チャンバ内の圧力を制御する加圧装置を備える。加圧装置は、圧力を制御することにより、半導体ウエハ上で前駆物質流体を液相で保持する。本発明の装置は、さらに、チャンバ内を減圧することにより低圧力環境を形成する減圧装置を備える。チャンバ内の減圧は、前駆物質流体を液相から非ニュートン流体に変換させるのに充分なだけ行う。非ニュートン流体に変換される際の前駆物質流体の膨張は、変換後の非ニュートン流体が半導体ウエハから物質を除去するのに十分な程度である。
【0007】
上述の、あるいは、それ以外の本発明の特徴や利点に関しては、添付の図面を参照した以下の本発明の実施例の説明からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の更なる理解のために、以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、当業者には周知のことであるが、本発明は、以下の実施形態の一部あるいは全部を変形・変更した形態でも実施可能である。また、本発明の特徴を明確に説明するために、周知の処理操作に関しては詳細な説明を省く。
【0009】
図1Aはフォトレジストパターン層103がその上部に形成された半導体ウエハ101を示す説明図である。半導体ウエハ101には、ここまでの半導体工程に応じて、様々な幾何学的配置で種々の物質が積層されている。フォトレジストパターン層103は、通常のフォトリソグラフィー工程により半導体ウエハ101上に形成される。本実施例では、フォトレジストパターン層103をマスクとして用いて、プラズマエッチング処理を行う際にプラズマから半導体ウエハ101の被覆部を保護する。従って、フォトレジストパターン層103により、半導体ウエハ101にエッチングされるパターンが決まる。
【0010】
プラズマエッチング処理等のウエハ処理の過程で、フォトレジストパターン層の或る厚みがプラズマに暴露されることにより、フォトレジスト皮膜が形成される。図1Bは、プラズマエッチング処理後の図1Aの半導体ウエハ101とフォトレジストパターン層103とを示す説明図である。図1Bに示すように、プラズマエッチング処理により、フォトレジストパターン層103は、バルクフォトレジスト部103aと、バルクフォトレジスト部103aの上部を覆うフォトレジスト皮膜103bとに分かれる。
【0011】
プラズマエッチング処理により形成されるバルクフォトレジスト部103aのフォトレジスト材は、基本的に、プラズマエッチング処理前のフォトレジストパターン層103のフォトレジスト材と同じである。一方、フォトレジスト皮膜103bのフォトレジスト材は、バルクフォトレジスト部103aのフォトレジスト材と明らかに異なる。例えば、バルクフォトレジスト部103aと比べて、フォトレジスト皮膜103bは、より硬く、かつ、多孔性も高く、半導体ウエハ101の表面に対してより強固に固着する。
【0012】
プラズマエッチング処理により、半導体ウエハ101の表面には、さらに、高分子物質104が堆積する。エッチング処理の際に、プラズマ内部の化学種とエッチング処理の副生成物とが反応し、高分子物質104が形成される。ここで、高分子物質104としては、例えば、基板由来の化学種を含むフッ化炭素系物質が挙げられる。
【0013】
プラズマエッチング処理後、バルクフォトレジスト部103aとフォトレジスト皮膜103bと高分子物質104とを完全に取り除く必要がある。また、半導体ウエハ101の基部構造に化学的又は物理的損傷を与えることなく、フォトレジスト材と高分子物質との除去を行う必要がある。バルクフォトレジスト部103aを除去する方法としては、例えば、湿式除去処理が挙げられる。湿式除去処理では、半導体ウエハ101とフォトレジスト材とを覆うように湿式除去用化学物質を供給する。湿式除去用化学物質は、多孔性のフォトレジスト皮膜103bを浸透し、バルクフォトレジスト部103aを溶解・除去する。湿式除去用化学物質としては、様々なものを利用可能であるが、例えば、ATMI社製のAP902やエアープロダクツ・アンド・ケミカルズ社製のEZStrip523が挙げられる。通常用いられている湿式除去用化学物質の多くは、半導体ウエハ101の基部構造に損傷を与えることなく、バルクフォトレジスト部103aを迅速に除去するように構成された水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)系溶液である。
【0014】
しかし、当業者には周知であるが、従来の化学的湿式除去手法は、バルクフォトレジスト部103aの除去には有効である一方、半導体ウエハ101の基部構造に損傷を与えることなくフォトレジスト皮膜103bを有効に除去することはできない。すなわち、フォトレジスト皮膜103bの除去が可能と喧伝されている従来の化学的湿式除去手法は、非常に攻撃的なものであり、半導体ウエハ101の基部構造を損傷してしまう。
【0015】
図1Cは、従来の化学的湿式除去手法を用いてバルクフォトレジスト部103aを除去した後の半導体ウエハ101とフォトレジスト皮膜103bと高分子物質104とを示す説明図である。従来の化学的湿式除去手法ではバルクフォトレジスト部103aは除去できるものの、フォトレジスト皮膜103bは除去できないため、従来の化学的湿式除去処理後も、フォトレジスト皮膜103bは半導体ウエハ101上に残る。フォトレジスト皮膜103bは多孔性であるため、従来の湿式除去用化学物質は、フォトレジスト皮膜103bに浸透して、フォトレジスト皮膜103bの下に広がるバルクフォトレジスト部103aを除去する。従って、従来の湿式除去処理後は、半導体ウエハ101の各基部構造にフォトレジスト皮膜103bが外殻となって残る。さらに、フォトレジスト皮膜103bの化学的特性により、フォトレジスト皮膜103bと半導体ウエハ101とは、両者の界面105において固着する。このため、半導体ウエハ101の基部構造に損傷を与えることなく、フォトレジスト皮膜103bと高分子物質104とを除去する方法が求められている。
【0016】
図2は、本発明の一実施例において、半導体ウエハから物質を除去する方法を示すフローチャートである。この方法では、まず、処理ステップ201で、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を液相で保持するのに充分な圧力を、半導体ウエハが存在する容積内で維持する。例えば、この容積の内圧を1気圧(1atm)よりも高く加圧した場合に、前駆物質流体が液相で保持されるものでもよい。あるいは、この容積の内圧を1気圧(1atm)とした場合に、前駆物質流体が液相で保持されるものでもよい。またあるいは、この容積の内圧を1気圧(1atm)未満とした場合に、前駆物質流体が液相で保持されるものでもよい。前駆物質流体の詳細は後述する。次の処理ステップ203では、前駆物質流体を液相で保持しつつ、半導体ウエハ上に前駆物質流体を供給する。液相の前駆物質流体は、半導体ウエハ上に形成されたビアホール内及び隣接する高アスペクト比構造体間に流入可能である。また、液相の前駆物質流体は、多孔性のフォトレジスト皮膜を透過して、フォトレジスト皮膜の下に広がる中空領域に浸透する。従って、処理ステップ203では、半導体ウエハから取り除くべき対象物質近傍に前駆物質流体が位置するように、前駆物質流体を半導体ウエハ上に供給する。半導体ウエハから除去するべき対象物質の例としては、フォトレジスト、フォトレジスト皮膜、高分子物質、その他、任意の不要な残留物質が挙げられる。
【0017】
処理ステップ203の後、処理ステップ205に進み、半導体ウエハが存在する容積内を減圧することにより、前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される。非ニュートン流体とは、せん断力を加えることにより粘度が変化する流体である。非ニュートン流体は、例えば、固相と液相との中間の形態である軟凝縮物質である。軟凝縮物質は、外部応力により簡単に変形する。非ニュートン流体の具体例としては、液体マトリックス内に形成される気体バブルのような泡状体が挙げられる。ただし、本発明の非ニュートン流体は特定の種類の泡状体に限定されるものではない。
【0018】
非ニュートン流体に変換される際における前駆物質流体の体積の膨張の作用により、変換後の非ニュートン流体が、半導体ウエハからフォトレジスト皮膜や高分子物質等の不要な物質を除去する。前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される際に、前駆物質流体が膨張して、半導体ウエハ等の基板に対して非ニュートン流体が相対的に移動する。この結果、非ニュートン流体によりフォトレジスト皮膜や高分子物質に対して機械的な力が加えられ、半導体ウエハからフォトレジスト皮膜及び高分子物質が除去される。不要な物質の下や近傍に位置する前駆物質流体が液相から非ニュートン流体に変換されることにより、半導体ウエハから不要な物質が機械的に除去される。
【0019】
前駆物質流体は、半導体ウエハ上に形成された構造体間の空間で均一に作用するため、前駆物質流体が膨張を伴って非ニュートン流体に変換される際に、半導体ウエハ上に形成された構造体の各面にほぼ均一に静水圧が加えられる。非ニュートン流体が半導体ウエハ上の構造体に加える力はほぼ一定であるため、構造体への損傷を避けることができる。また、非ニュートン流体は、半導体ウエハから除去された物質を内部に取り込む作用がある。従って、フォトレジスト皮膜や高分子物質等の除去された物質が半導体ウエハ上に再び堆積したり再固着したりすることがない。
【0020】
前述したように、前駆物質流体は、所定の圧力以上では液相を保持し、充分低圧になると、非ニュートン流体に変換される。以下、説明の便宜上、前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される所定の圧力上限値を、前駆物質流体の変換圧力と称する。前駆物質流体の一例として、溶解、混合、乳化等種々の方法のいずれかで推進剤を含有させた液体が挙げられる。変換圧力以下に減圧すると、前駆物質流体内に含有される推進剤は膨張して、前駆物質流体を非ニュートン流体に変換する。
【0021】
前駆物質流体内に含有される推進剤は、変換圧力以上では液相を保持し、変換圧力未満で気相に変化する。例えば、プロパン(C38)を推進材として用いることができる。ただし、推進剤は、何らプロパンに限定されるものではなく、変換圧力に対する物理的な状態要件を満たし、さらに、前駆物質流体と半導体ウエハと処理環境/構造とに化学的に適合するものならばいかなる物質を推進剤として用いてもよい。変換圧力以上の圧力で、液相の推進剤を前駆物質流体に加える。一実施例において、前駆物質流体に加えられる推進剤の量は、推進剤を加えた後の前駆物質流体の量の約5重量%から約20重量%の範囲である。前駆物質流体に溶解できる推進剤の最大量は、通常、前駆物質への(液相の)推進剤の溶解度により決まる。
【0022】
本発明の一実施例では、前駆物質流体から非ニュートン流体への変換は、変換圧力以上の圧力から変換圧力未満の圧力に迅速に減圧することにより行われる。例えば、約0.01秒から約2秒の時間内に前駆物質流体が液相から非ニュートン流体に変換されるような速度で、前駆物質流体周囲を減圧することが望ましい。ここで用いた「約」という表現は、或る値のプラスマイナス20パーセント以内を意味する。望ましくは、約0.05秒から約0.2秒の時間内に前駆物質流体が液相から非ニュートン流体に変換されるような速度で、前駆物質流体周囲を減圧してもよい。さらに望ましくは、約0.01秒の時間内に前駆物質流体が液相から非ニュートン流体に変換されるような速度で、前駆物質流体周囲を減圧してもよい。
【0023】
非ニュートン流体によりフォトレジスト皮膜及び高分子物質に充分な力を加えて半導体ウエハからフォトレジスト皮膜及び高分子物質を除去するために、前駆物質流体に対する非ニュートン流体の体積比は充分大きなものとする。例えば、前駆物質流体に含有された推進剤膨張後の非ニュートン流体の体積が、液相の前駆物質流体の体積の約2倍から約100倍の範囲内であることが望ましい。さらに望ましくは、前駆物質流体に含有された推進剤膨張後の非ニュートン流体の体積が、液相の前駆物質流体の体積の約5倍から約20倍の範囲内でもよい。
【0024】
前駆物質流体ベース、すなわち、前駆物質流体の推進剤以外の部分は、種々の成分を脱イオン水に加えることにより作成される。例えば、前駆物質流体ベースに、表面張力を低下させるための界面活性剤と、前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される際に形成されるバブルを安定させるための添加剤とを含有するように調製してもよい。このような添加剤としては、種々のものを用いることができるが、例えば、脂肪酸、セルロース、オイルやタンパク質を用いることができる。前駆物質流体ベースに、さらに、洗剤及び/又はせっけんを含有させてもよい。また、前駆物質流体ベースにハイドロトロープを含有させて、ミセル表面に強固に結合させて、ミセル径を制御するものでもよい。あるいは、フォトレジスト皮膜と半導体ウエハとの界面における密着性を低下させる添加剤を前駆物質流体ベースに含有させるようにしてもよい。さらに、バルクフォトレジスト材の除去に用いた湿式除去用の化学物質を前駆物質流体に加えて、フォトレジスト皮膜除去の際に、継続して、残ったバルクフォトレジスト材が除去されるようにしてもよい。
【0025】
図2の方法を参照して説明すると、処理ステップ201及び203の間、半導体ウエハに対する周辺圧力がちょうど変換圧力以上になるように維持してもよい。ただし、処理ステップ201及び203の間、前駆物質流体の観点からは、周辺圧力の範囲は特に限定されない。また、前駆物質流体に含有される推進剤は、推進剤の完全液化圧力に近い圧力で部分的に液化するものでもよい。この場合、前駆物質流体が、完全液化圧力の場合に想定される推進剤の量よりも少ない量の推進剤を含有するようにしてもよい。これらの場合には、処理ステップ201及び203の間、半導体ウエハに対する周辺圧力を、推進剤の完全液化圧力に近いがこれよりも低い圧力に維持してもよい。
【0026】
変換圧力以下に減圧されて、前駆物質流体に含有される推進剤が液相から気相に変化すると、気相の推進剤は理想気体としてふるまう。理想気体の法則(PV=nRT)に従い、気相の推進剤の体積は気相の推進剤の温度に左右される。同じ圧力の場合には、気体の温度の上昇に伴い、気体の体積も上昇し、逆もまた同様である。また、バブルの内圧は、バブルの大きさとバブル間の液体の表面張力の影響を受ける。同じ周辺圧力の場合、大きなバブルの場合と比べて、小さなバブルのほうが高い内圧となる。推進剤が液相から気相に変換されて体積が増加するのに伴い、非ニュートン流体の体積も増加する。従って、図2に示す方法が、さらに、温度制御工程を含み、温度を制御することにより、液相から非ニュートン流体に変換される際の前駆物質流体の体積膨張を制御するようにしてもよい。この場合、温度制御は、前駆物質流体の化学構造を保持するように行った方がよいことに注意すべきである。
【0027】
図3Aは、本発明の一実施例において、図2の方法の処理ステップ201及び203を実施した後の図1Cの構造を示す説明図である。前述したように、液相の前駆物質流体301が、半導体ウエハ101上に供給される。前駆物質流体301は、半導体ウエハ101上の構造体間を満たすと共に、多孔性のフォトレジスト皮膜103bを透過し、バルクフォトレジスト部分103aが占有していたフォトレジスト皮膜103b下の中空領域に浸透する。図2の方法を実行する前に、半導体ウエハ101の洗浄・乾燥を行うようにしてもよい。
【0028】
図3Bは、本発明の一実施例において、図2の方法の処理ステップ205を実施した後の図3Aの構造を示す説明図である。前述したように、処理ステップ205では、変換圧力以下に減圧することにより、前駆物質流体301を非ニュートン流体303に変換させる。前駆物質流体301の非ニュートン流体303への変換に伴う流体膨張と流体移動とにより、非ニュートン流体303がフォトレジスト皮膜103bと高分子物質104とに機械的な力を加え、半導体ウエハ101からフォトレジスト皮膜103bと高分子物質104とが除去される。除去されたフォトレジスト皮膜103bと高分子物質104とは非ニュートン流体303内部に取り込まれるため、除去されたフォトレジスト皮膜103bや高分子物質104が半導体ウエハ101上に再び堆積したり再固着したりすることはない。図3Cは、本発明の一実施例において、半導体ウエハ101から除去したフォトレジスト皮膜103bと除去した高分子物質104と非ニュートン流体303とを洗い流す洗浄・乾燥工程後の半導体ウエハ101を示す説明図である。
【0029】
図2を参照して上述した半導体ウエハからフォトレジスト皮膜を除去する方法を、半導体ウエハからフォトレジスト材を除去する方法の一部として組み込むようにしてもよい。図4は、本発明の一実施例において、半導体ウエハからフォトレジストと高分子物質とを除去する方法を示すフローチャートである。この方法では、まず、処理ステップ401で、半導体ウエハ上に溶液を供給して、バルクフォトレジスト材を除去する。供給された溶液は、フォトレジスト材に浸透し、バルクフォトレジスト材を除去するとともに、フォトレジスト皮膜を残す。
【0030】
バルクフォトレジスト材の除去後、次の処理ステップ403では、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を半導体ウエハ上に供給する。この方法で用いる前駆物質流体は、先に説明した前駆物質流体と同じものである。前駆物質流体を液相で保持しつつ、半導体ウエハに供給する。供給した前駆物質流体は、フォトレジスト皮膜を透過して、フォトレジスト皮膜の下に広がる中空領域に浸透する。次の処理ステップ405では、半導体ウエハ周辺を減圧して、前駆物質流体を非ニュートン流体に変換させる。非ニュートン流体への変換の際に前駆物質流体の体積が膨張することにより、非ニュートン流体がフォトレジスト皮膜と高分子物質とに機械的な力を加え、フォトレジスト皮膜と高分子物質とが除去される。
【0031】
図5は、本発明の一実施例において、前述した半導体ウエハからの物質除去を実施可能な処理チャンバ501を示す説明図である。チャンバ501は、前駆物質流体を液相で保持する動作圧力よりも大きなチャンバ内圧を維持する。チャンバ501は内部にウエハ保持部503を備え、ウエハ保持部503は、物質除去処理の間、半導体ウエハ505を保持する。
【0032】
チャンバ501は、前駆物質流体供給源509に連結される供給口507を備える。処理の際には、矢印511で示すように、前駆物質流体は、前駆物質流体供給源509から供給口507を介して半導体ウエハ505上に供給される。チャンバ501には、さらに、加圧装置515に連結される加圧口513が設けられている。処理の際には、矢印517で示すように、加圧装置515を用いて、プロセス雰囲気ガスを供給あるいは放出することによりチャンバ501の内圧を制御する。チャンバ501は、また、温度制御部533に連結される温度制御口531も備える。処理の際には、温度制御部533が温度制御口531を介して、プロセス雰囲気ガスを調整し、チャンバ501内を所望の温度に保つ。また、温度制御部533を用いて、ウエハ保持部503の温度を制御し、それによって、半導体ウエハ505の温度を制御するようにしてもよい。
【0033】
チャンバ501には、さらに、接続部519を介して減圧装置521が接続される。処理の際には、矢印523で示すように、減圧装置521はチャンバ501内を急速に減圧して、半導体ウエハ505表面を覆う前駆物質流体を非ニュートン流体に変換させる。前駆物質流体が非ニュートン流体に変換された後、矢印529で示すように、排出部527により、接続部525を介して、変換後の非ニュートン流体とフォトレジストや高分子物質等の除去された物質とを排出する。本発明の特徴を明確に説明するために、本発明に関係のないチャンバ501構成に関する説明は省略する。当業者には自明のことであるが、半導体ウエハ処理に用いられる圧力チャンバに通常備えられている構成は、チャンバ501にも備えられている。
【0034】
以上、本発明をいくつかの実施例に基づき説明してきたが、当業者には自明のように、実施例の詳細な説明や図面は何ら本発明を限定するものではなく、様々に、変形、追加、置換等の変更が可能である。従って、本発明の要旨の範囲内における様々な変形、追加、置換等の変更も本発明に含まれることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】フォトレジストパターン層がその上部に形成された半導体ウエハを示す説明図である。
【図1B】プラズマエッチング処理後の図1Aの半導体ウエハとフォトレジストパターン層とを示す説明図である。
【図1C】従来の化学的湿式除去手法を用いてバルクフォトレジスト部を除去した後の半導体ウエハとフォトレジスト皮膜と高分子物質とを示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例において、半導体ウエハから物質を除去する方法を示すフローチャートである。
【図3A】本発明の一実施例において、図2の方法の処理ステップ201及び203を実施した後の図1Cの構造を示す説明図である。
【図3B】本発明の一実施例において、図2の方法の処理ステップ205を実施した後の図3Aの構造を示す説明図である。
【図3C】本発明の一実施例において、半導体ウエハから除去したフォトレジスト皮膜と除去した高分子物質と非ニュートン流体とを洗い流す洗浄・乾燥工程後の半導体ウエハを示す説明図である。
【図4】本発明の一実施例において、半導体ウエハからフォトレジストと高分子物質とを除去する方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例において、半導体ウエハからの物質除去を実施可能な処理チャンバを示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハから物質を除去する方法であって、
非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を液相で保持するのに充分な圧力を、半導体ウエハが存在する容積内で維持し、
前記前駆物質流体を液相で保持しつつ、前記半導体ウエハから除去するべき物質の近傍に前記前駆物質流体が位置するように、前記前駆物質流体を前記半導体ウエハ上に供給し、
前記容積内を減圧することにより前記前駆物質流体を非ニュートン流体に変換し、この変換の際の前記前駆物質流体の膨張によって、前記非ニュートン流体に前記半導体ウエハから前記物質を除去させる、半導体ウエハからの物質除去方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
前記非ニュートン流体によって前記半導体ウエハから除去すべき前記物質は、フォトレジスト皮膜と、高分子物質と、フォトレジスト皮膜及び高分子物質の両方と、のうちのいずれか一つである、方法。
【請求項3】
請求項2記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、さらに、
エッチング処理後、前記前駆物質流体を前記半導体ウエハ上に供給する前に、化学的湿式手法を用いてバルクフォトレジスト部分を除去するとともに、前記エッチング処理によって形成されたフォトレジスト皮膜を残す、方法。
【請求項4】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
前記前駆物質流体は、液相の推進剤を含有する流体であり、前記半導体ウエハ上に形成されたビアホール内及び隣接する高アスペクト比構造体間に流入可能であり、さらに、フォトレジスト皮膜を透過して、前記フォトレジスト皮膜の下に広がる領域まで侵透可能である、方法。
【請求項5】
請求項4記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
前記前駆物質流体に含有される前記推進剤の量は、前記推進剤含有後の前記前駆物質流体の量の約5重量%から約20重量%の範囲である、方法。
【請求項6】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
前記前駆物質流体は、界面活性剤と、前記前駆物質流体が非ニュートン流体に変換される際に形成されるバブルを安定させるための添加剤とを含む、方法。
【請求項7】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
前記容積の減圧が前記前駆物質流体に溶解された推進剤を膨張させ、前記推進剤の膨張が前記前駆物質流体から非ニュートン流体への変換を生じさせる、方法。
【請求項8】
請求項7記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
前記推進剤の膨張後の前記非ニュートン流体の体積は、液相の前記前駆物質流体の体積の約2倍から約100倍の範囲である、方法。
【請求項9】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、さらに、
温度制御を行って、前記前駆物質流体を液相から非ニュートン流体に変換する際の前記前駆物質流体の膨張を制御する、方法。
【請求項10】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
非ニュートン流体に変換される前記前駆物質流体を液相で保持するのに充分な圧力は、1気圧よりも高い、方法。
【請求項11】
請求項1記載の半導体ウエハからの物質除去方法であって、
非ニュートン流体に変換される前記前駆物質流体を液相で保持するのに充分な圧力は、1気圧以下である、方法。
【請求項12】
半導体ウエハからフォトレジストと高分子物質とを除去する方法であって、
フォトレジスト材に浸透する溶液を半導体ウエハ上に供給してバルクフォトレジスト材を除去すると共に、フォトレジスト皮膜を残し、
前記バルクフォトレジスト材の除去後、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を液相で保持した状態で前記半導体ウエハ上に供給し、この際、前記前駆物質流体が、前記フォトレジスト皮膜を透過して前記フォトレジスト皮膜の下に広がる中空領域に浸透し、前記半導体ウエハ上に存在する高分子物質の近傍に位置するように、前記半導体ウエハ上に前記前駆物質流体を供給し、
前記半導体ウエハ周囲を減圧して前記前駆物質流体を非ニュートン流体に変換させ、この変換の際の前記前駆物質流体の膨張によって、前記非ニュートン流体に前記フォトレジスト皮膜と前記高分子物質とを除去させる、半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法。
【請求項13】
請求項12記載の半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法であって、
前記非ニュートン流体による前記フォトレジスト皮膜と前記高分子物質の除去は、前記非ニュートン流体から前記フォトレジスト皮膜と前記高分子物質とに加えられる機械的力の結果として生じる、方法。
【請求項14】
請求項12記載の半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法であって、
前記非ニュートン流体によって除去された前記フォトレジスト皮膜と前記高分子物質とが前記半導体ウエハ上に再び堆積することがないように、前記フォトレジスト皮膜と前記高分子物質とが前記非ニュートン流体に取り込まれる、方法。
【請求項15】
請求項12記載の半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法であって、
前記半導体ウエハ周囲の減圧は、約0.01秒から約2秒の時間内に前記前駆物質流体が液相から非ニュートン流体に変換されるように行われる、方法。
【請求項16】
請求項12記載の半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法であって、
前記前駆物質流体は、前記バルクフォトレジスト材の除去に用いられる前記溶液を含む、方法。
【請求項17】
請求項12記載の半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法であって、
前記半導体ウエハ周囲の減圧によって、前記前駆物質流体内に含まれる推進剤が膨張し、前記推進剤の膨張が前記前駆物質流体を液相から非ニュートン流体に変換させる、方法。
【請求項18】
請求項17記載の半導体ウエハからのフォトレジスト及び高分子物質除去方法であって、
前記推進剤の膨張後の前記非ニュートン流体の体積は、液相の前記前駆物質流体の体積の約2倍から約100倍の範囲である、方法。
【請求項19】
半導体ウエハから物質を除去する装置であって、
チャンバと、
前記チャンバに連結され、前記チャンバ内に保持される半導体ウエハ上に、非ニュートン流体に変換される前駆物質流体を供給する流体供給口と、
前記チャンバ内の圧力を制御して、前記半導体ウエハ上で前記前駆物質流体を液相に保持する加圧装置と、
前記前駆物質流体を液相から非ニュートン流体に変換させるのに充分なだけ前記チャンバ内を減圧することにより低圧力環境を形成して、前記変換の際に前記前駆物質流体を充分膨張させることにより、変換後の非ニュートン流体に前記半導体ウエハから物質を除去させる減圧装置と、
を備える半導体ウエハからの物質除去装置。
【請求項20】
請求項19記載の半導体ウエハからの物質除去装置であって、さらに、
前記チャンバ内の温度を制御して、前記前駆物質流体を液相から非ニュートン流体に変換する際に、前記前駆物質流体の膨張を調節する温度制御部を備える、装置。
【請求項21】
請求項19記載の半導体ウエハからの物質除去装置であって、さらに、
前記減圧装置は、約0.01秒から約2秒の時間内に前記前駆物質流体が液相から非ニュートン流体に変換されるように、前記チャンバ内を減圧して低圧力環境を形成する、装置。
【請求項22】
請求項19記載の半導体ウエハからの物質除去装置であって、
前記チャンバは、前記半導体ウエハ上に前記前駆物質流体を供給する前に、前記半導体ウエハ上で湿式除去処理を行うように構成されており、前記湿式除去処理は、前記半導体ウエハからフォトレジスト材のバルク部分を除去すると共に前記半導体ウエハ上にフォトレジスト皮膜を残すように行われる、装置。
【請求項23】
請求項19記載の半導体ウエハからの物質除去装置であって、
前記前駆物質流体は、推進剤を含有する流体である、装置。
【請求項24】
請求項19記載の半導体ウエハからの物質除去装置であって、
前記半導体ウエハから除去される物質は、フォトレジスト皮膜と、高分子物質と、フォトレジスト皮膜及び高分子物質の両方と、のうちのいずれか一つである、装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−545272(P2008−545272A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519348(P2008−519348)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/023354
【国際公開番号】WO2007/005230
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(592010081)ラム リサーチ コーポレーション (467)
【氏名又は名称原語表記】LAM RESEARCH CORPORATION
【Fターム(参考)】