説明

半導体基体及びこれを使用した半導体装置

【課題】反りが少なく且つ耐圧が高いSBD,HEMT,MESFET等の化合物半導体装置を提供することが困難であった。
【解決手段】 本発明に従う半導体装置は、半導体基体1とこの一方の主面に配置された少なくとも第1及び第2の電極2,3と、この他方の主面に配置された補助電極4とを有する。半導体基体1は、半導体素子の主要部を構成するための第1の3−5族化合物半導体領域7をシリコン基板6の一方の主面上に有する他に、他方の主面上に反り及び耐圧改善用の第2の3−5族化合物半導体領域8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを含む基板上に3−5族化合物半導体領域を有する半導体基体及びこれを使用した電界効果トランジスタ(FET)、ショットキーバリアダイオード(SBD)等の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板上の窒化物半導体を用いたメタル・セミコンダクタ電界効果トランジスタ即ちMESFET(Metal Semiconductor Filed Effect Transistor)や高電子移動度トランジスタ即ちHEMT(High Electron Mobility Transistor)等の半導体デバイスは例えば特開2005−158889号公報(特許文献1)等で公知である。
【0003】
シリコン基板の上に窒化物半導体を有する半導体デバイスにおいて、シリコン基板の電位を固定しない状態(フローティング状態)で使用すると、半導体デバイスに印加される直流、交流又は高周波電圧の変化に応じてシリコン基板の電位も変化し、半導体デバイスの電気的特性が不安定になる。
【0004】
この問題を解決するために、シリコン基板の窒化物半導体が形成されている一方の主面とは反対の主面に裏面電極を形成し、この裏面電極を窒化物半導体層上の電極に接続し、この裏面電極の電位を固定することがある。例えば、SBDにおいてはアノード電極に裏面電極を接続し、FETにおいては、裏面電極をソース電極に接続する。
【0005】
ところで、裏面電極を設けて電気的動作の安定性を向上させると、半導体デバイスの耐圧低下を招くことがある。例えば、SBDにおいて裏面電極を設け、これをアノード電極に接続すると、アノード電極とカソード電極との間に電圧が印加されると共に、カソード電極と裏面電極との間にも電圧が印加される。この結果、SBDのオフ動作時(逆バイアス時)に、カソード電極とアノード電極との間に横方向の漏洩電流が流れると共に、カソード電極と裏面電極との間に縦方向の漏洩電流が流れ、SBDの漏洩電流の増大を招く。SBD等の半導体デバイスの耐圧は通常漏洩電流の大きさで決定されるので、漏洩電流が大きいと必然的に耐圧が低下する。
【0006】
SBD、FET等の半導体デバイスにおいて、縦方向の漏洩電流が小さい場合には、縦方向の漏洩電流に基づく耐圧低下は少ない。シリコン基板上の窒化物半導体層を厚く形成することによって縦方向の漏洩電流を低減し、耐圧向上を図ることができる。
【0007】
しかし、シリコン基板の上に窒化物半導体層を厚く且つ良好に形成することは困難である。窒化物半導体層が例えば5μm以上のように比較的厚くなると、シリコン基板と窒化物半導体と間の格子定数の相違及び熱膨張係数の相違のために窒化物半導体にクラックが発生したり、窒化物半導体を伴なったシリコン基板即ち半導体ウエハに反りが発生する。窒化物半導体にクラックが発生すると、半導体デバイスの製造歩留りが低下する。また、半導体ウエハの反りが所定値以上になると、半導体デバイスの製造装置に半導体ウエハを正しく配置することができなくなり、半導体ウエハの使用が不可能になる。また、半導体ウエハの使用がたとえ可能であっても、反りの大きい半導体ウエハを使用すると、半導体デバイスの製造を円滑に進めることができなくなる、製造歩留りが低下する。このような問題は窒化物半導体に限らず、これに類似の3−5族化合物半導体においても生じる。
【特許文献1】特開2000−158889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする第1の課題は、シリコン基板上に3−5族化合物半導体領域が形成された半導体基体即ち半導体ウエハの反りを低減することが困難なことである。本発明の第2の課題は、電気的動作の安定性向上と耐圧向上との両方を達成することが困難なことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の課題を解決するための本発明は、
シリコンを含む基板と、
前記基板の一方の主面に形成された第1の3−5族化合物半導体領域と、
前記基板の他方の主面に形成された第2の3−5族化合物半導体領域と
から成る半導体基体に係わるものである。
【0010】
上記第2の課題を解決するための本発明は、
シリコンを含む基板と、
前記基板の一方の主面に形成された第1の3−5族化合物半導体領域と、
前記基板の他方の主面に形成された第2の3−5族化合物半導体領域と、
前記第1の3−5族化合物半導体領域の表面に形成された第1及び第2の電極と、
前記第2の3−5族化合物半導体領域の表面に形成された補助電極と
を有していることを特徴とする半導体装置に係わるものである。
【0011】
なお、請求項2に示すように、前記第2の3−5族化合物半導体領域は前記第1の3−5族化合物半導体領域と同一構造を有していることが望ましい。
また、請求項4に示すように、前記第1の電極と前記補助電極とを電気的に接続する導体を有していることが望ましい。
また、請求項5に示すように、前記第1の3−5族化合物半導体領域の表面にソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを有する電界効果型半導体装置に本発明を適用することができる。
また、請求項6又は7に示すように、前記ソース電極又はゲート電極と補助電極とを電気的に接続する導体を有していることが望ましい。
また、請求項8に示すように、例えばHEMTを構成するために前記第1の3−5族化合物半導体領域を、前記基板の一方の主面上に形成された第1の化合物半導体層と、前記第1の化合物半導体層の上に形成され且つ前記第1の化合物半導体層と異なる材料から成る第2の化合物半導体層とで構成することができる。
また、請求項9に示すように、例えばMESFETを構成するために前記第1の3−5族化合物半導体領域を、前記基板の上に形成され且つ所定の導電型を有している化合物半導体層で構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
各請求項の発明によれば、シリコンを含む基板の一方の主面に第1の3−5族化合物半導体領域が設けられ、他方の主面に第2の3−5族化合物半導体領域が設けられているので、基板と第1の3−5族化合物半導体領域との間の応力と基板と第2の3−5族化合物半導体領域との間の応力との打消し合いが生じ、基板の反りが低減する。
また、請求項3〜9の発明によれば、補助電極を使用して電気的動作の安定化を図ることができ、且つソース電極又はドレーン電極と補助電極との間を流れる縦方向の漏洩電流を低減させ、耐圧の向上を図ることができる。即ち、基板の一方の主面のみに3−5族化合物半導体領域を有する従来の半導体装置に比べて、基板の一方及び他方の主面に3−5族化合物半導体領域を有する本発明の半導体装置な耐圧が高くなる。更に詳しく説明すると、従来の半導体装置と本発明の半導体装置とにおいて、基板の一方の主面の3−5族化合物半導体領域の厚みが互いに同一の場合には、他方の主面に3−5族化合物半導体領域を有する本発明の半導体装置の縦方向の漏洩電流が従来の半導体装置の縦方向の漏洩電流よりも小さくなり、本発明の半導体装置の耐圧が従来の半導体装置の耐圧よりも高くなる。この場合において、もし、本発明の第1及び第2の3−5族化合物半導体領域が互いに同一の厚みに形成されている時には、本発明の半導体装置の耐圧が従来の半導体装置の耐圧の約2倍になる。
また、もし、本発明の半導体装置の耐圧が従来の半導体装置の耐圧と同一でよい場合は、本発明の半導体装置の第1の3−5族化合物半導体領域の厚みを従来の半導体装置の3−5族化合物半導体領域の厚みよりも薄くすることができ、基板の反り及び第1の3−5族化合物半導体領域のクラックを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を図1〜図8を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に示す実施例1に従うショットキーバリアダイオード即ちSBDは、半導体基体1と、第1の電極としてのアノード電極2と、第2の電極としてのカソード電極3と、補助電極4と、接続導体5とから成る。
【0015】
半導体基体1は、シリコン基板6と、このシリコン基板6の一方の主面6a上に形成された第1の3−5族化合物半導体領域7と、シリコン基板6の他方の主面6b上に形成された第2の3−5族化合物半導体領域8とから成る。
【0016】
シリコン基板6は、第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7,8をエピタキシャル成長させるための基板としての機能と、第1及び第2の3−5族化合物半導体領域5を機械的に支持する機能を有する。このシリコン基板6は、p型不純物(例えばボロン)を1×1012cm-3〜1×1019cm-3程度に含み、0.01〜10000Ωcm程度の抵抗値を有するp型シリコン単結晶から成る。なお、シリコン基板6をn型シリコン又はアンドープシリコンで構成することもできる。このシリコン基板6の好ましい厚みは100〜1500μmである。
【0017】
第1の3−5族化合物半導体領域7は、SBDのための主半導体領域と呼ぶこともできるものであって、シリコン基板6の一方の主面6a上に順次にエピタキシャル成長させることによって形成されたバッファ層9と第1の化合物半導体層10と第2の化合物半導体層11とから成る。
【0018】
バッファ層9はシリコン基板6の一方の主面6a上に周知のMOVPE(有機金属気相エピタキシー)法で形成されている。図1では、図示を簡略化するためにバッファ層9が1つの層で示されているが、実際には複数の層で形成されている。即ち、このバッファ層9は、AlN(窒化アルミニウム)から成る第1のサブレイヤーとGaN(窒化ガリウム)から成る第2のサブレイヤーとが交互に蓄積された多層構造バッファである。このバッファ層9は半導体装置即ちSBDの動作に直接に関係していないので、これを省くこともできる。また、バッファ層9の半導体材料をAlN、GaN以外の3−5族化合物半導体に置き換えること、又は単層構造のバッファ層にすることもできる。
【0019】
第1の化合物半導体層10は、電子走行層と呼ぶこともできるものであってバッファ層9の上に不純物が添加されていないGaN(窒化ガリウム)即ちアンドープGaNを気相成長させたものから成り、0.3〜10μmの厚さを有する。なお、この第1の化合物半導体層10をGaN以外の別の3−5族化合物半導体で形成することもできる。
【0020】
第2の化合物半導体層11は、電子供給層と呼ぶこともできるものであって、第1の化合物半導体層10の上に不純物が添加されていないAlGaN即ちアンドープAlGaNを気相成長させたものから成り、5〜50nmの厚さを有する。この実施例の第2の化合物半導体層11はアンドープAlGaNであるが、n型半導体と同様に機能するnライク半導体の特性を有する。
第2の化合物半導体層11の材料を次の化学式で示すことができる。
AlxGa1-x
ここで、xは0<x<1を満足する数値であり、好ましくは0.2〜0.4であり、より好ましくは0.3である。
AlGaNから成る第2の化合物半導体層11はこの下のGaNから成る第1の化合物半導体層10よりも広いバンドギャプを有するので、第1及び第2の化合物半導体層10,11間のヘテロ接合に基づくピエゾ分極によって点線で示すように周知の2次元電子ガス層(2DEG層)12が第1の化合物半導体層10に生じる。
なお、第2の化合物半導体層11をn型不純物をドープしたn型AlGaNに置き換えることもできる。また、第2の化合物半導体層11をAlGaN以外の別の3−5族化合物半導体で形成することもできる。
【0021】
第1の電極としてのアノード電極2は、第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面13上にショットキー接触している金属層から成る。このアノード電極2は、例えNi,Auを順次に蒸着することによって形成される。
【0022】
第2の電極としてのカソード電極3は、第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面13上にオーミック接触している金属層から成る。このカソード電極3は、例えばTiとAlとを順次に蒸着することによって形成される。カソード電極3を上側の第2の化合物半導体層11にオーミック接触させる代りに、下側の第1の化合物半導体層10にオーミック接触させることができる。なた、化合物半導体層11,10を掘り込み、カソード電極3を2DEG層12に直接にオーミック接触させることもできる。また、第1の化合物半導体層10又は第2の化合物半導体層11とカソード電極3との間に例えばn型GaNから成るオーミックコンタクト層を設け、このオーミックコンタクト層にカソード電極3をオーミック接触させることもできる。
【0023】
一方の主面13上に互いに平行に配置されたアノード電極2とカソード電極3との間隔L1は例えば20μmであって、第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面12と他方の主面14との間隔即ち第1の厚みT1(例えば2.5μm)よりも大きい。なお、アノード電極2及びカソード電極3の平面パターンを櫛歯状等に変形することもできる。
【0024】
第2の3−5族化合物半導体領域8は、補助半導体領域とも呼ぶことができるものであって、シリコン基板6の他方の主面6b上に順次にエピタキシャル成長された第1、第2及び第3の補助化合物半導体層15,16,17から成り、反り防止機能及び耐圧向上機能を有する。
【0025】
第1の補助化合物半導体層15はバッファ層9と同一材料で形成され且つバッファ層9とほぼ同一の厚さを有する。第2の補助化合物半導体層16は第1の化合物半導体層10と同一材料で形成され且つ第1の化合物半導体層10とほぼ同一の厚さを有する。第3の補助化合物半導体層17は第2の化合物半導体層11と同一材料同一材料で形成され且つ第2の化合物半導体層11とほぼ同一の厚さを有する。従って、第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7、8は互いに同一構造を有し、且つシリコン基板6を中心にして対称に配置されている。また、第2の3−5族化合物半導体領域8の一方の主面18から他方の主面19までの第2の厚みT2は第1の3−5族化合物半導体領域7の第1の厚みT1と実質的に同一である。なお、シリコン基板6及び半導体基体1の反りを防止するために第2の3−5族化合物半導体層8の第2の厚みT2を、第1の厚みT1の0.2〜2倍にすることが好ましく、0.5〜1.5倍にすることがより好ましく、1倍(同一)にすることが最も好ましい。
【0026】
補助電極4は第2の3−5族化合物半導体領域8の他方の主面19にオーミック接触している金属層、又はショットキー接触している金属層から成る。
【0027】
接続導体5は例えばワイヤから成り、アノード電極2に接続された一端と補助電極4に接続された他端とを有する。図1では接続導体5がアノード電極2と補助電極4とに直接に接続されているが、この代りに接続導体5の一端をアノード電極2に接続される図示されていない端子導体に接続すること、接続導体5の他端を補助電極4に結合される図示されていない端子導体に接続することもできる。また、シリコン基板6、第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7,8の側面に絶縁膜を設け、この絶縁膜の上に接続導体5を配置することもできる。
【0028】
図1の半導体基体1を形成する時には、図2に示すシリコンウエハ6´を用意し、このシリコンウエハ6´の一方の主面6a´と他方の主面6b´との両方に化合物半導体を気相成長させることが可能なようにシリコンウエハ6´を保持手段20によって保持し、これをMOVPE装置に入れ、周知の気相成長法によってバッファ層9´、第1及び第2の化合物半導体層10´、11´から成る第1の3−5族化合物半導体領域7´を形成すると同時に第1、第2及び第3の補助化合物半導体層15´、16´、17´から成る第2の3−5族化合物半導体領域8´を形成し、大面積の半導体基体即ち半導体ウエハ1´を得る。図2の半導体ウエハ1´のシリコン基板6´、バッファ層9´、第1及び第2の化合物半導体層10´、11´、第1、第2及び第3の補助化合物半導体層15´、16´、17´は、図1のシリコン基板6、バッファ層6、第1及び第2の化合物半導体層10、11、第1、第2及び第3の補助化合物半導体層15、16、17と同一材料から成り且つ同一の厚みを有する。また、図2の半導体ウエハ1´は、図1の半導体基体1を複数個形成することが可能な表面積を有している。従って、図2の半導体ウエハ1´に複数のSBDのためのアノード電極2及びカソード電極3及び補助電極4を予め形成し、その後に個別のSBDに分割する。
【0029】
図2の半導体ウエハ1´において、シリコンウエハ6´と第1及び第2の化合物半導体領域7´、8´との間に格子定数及び熱膨張係数の相違がある。しかし、シリコンウエハ6´と第1の化合物半導体領域7´との間の応力の向きとシリコンウエハ6´と第2の化合物半導体領域8´との間の応力の向きとが互いに逆になり、2つの応力の打ち消し合いが生じ、シリコンウエハ6´及び半導体ウエハ1´の反りが抑制される。半導体ウエハ1´の反りが小さいと、半導体デバイスの製造装置に対する半導体ウエハ1´の装着を確実に行うことが可能になり、製造歩留りが向上し、更にアノード電極2、カソード電極3を所定パターンに周知のホトレジスト技術によって正確且つ容易に形成することが可能になる。
【0030】
図1のSBDのアノード電極2の電位がカソード電極3の電位よりも高い時には、アノード電極2、第2の化合物半導体層11、2DEG層12、第2の化合物半導体層11及びカソード電極3の経路で正方向電流が流れる。なお、第2の化合物半導体層11は極めて薄いのでその縦方向の抵抗値は小さく、その横方向の抵抗値は大きい。従って、アノード電極2とカソード電極3との間に電圧が印加された時に、第2の化合物半導体層11の横方向には電流が実質的に流れないが、縦方向には電流が流れる。
【0031】
ショットキー電極から成るアノード電極2の電位がカソード電極3の電位よりも低い時には、アノード電極2と第1の3−5族化合物半導体領域7との間にショットキーバリアに逆バイアス電圧が印加され、第1の3−5族化合物半導体領域7に空乏層が生じ、この空乏層によってアノード電極2とカソード電極3との間の電流通路が遮断され、アノード電極2とカソード電極3との間がオフ状態になる。
【0032】
もし、補助電極4が設けられていない時には、アノード電極2とカソード電極3との間の電圧変化によってシリコン基板6の電位が変動し、SBDの電気的特性も変動する。しかし、図1に示すように補助電極4を設け、この電位をアノード電極2の電位に固定すると、シリコン基板6の電位変動が抑制され、SBDの電気的特性が安定化する。
【0033】
SBDのオフ動作時に、カソード電極3と補助電極4との間にカソード電極3とアノード電極2との間の電圧と同一の比較的高い電圧が印加される。もし、本発明に従う第2の3−5族化合物半導体層8が設けられておらず、シリコン基板6の他方の主面6bに補助電極4が設けられているとすれば、シリコン基板6と第1の3−5族化合物半導体領域7との積層体に対してカソード電極3とアノード電極2との間の電圧の全部が印加される。第1の3−5族化合物半導体領域7の厚みT1が大きい程この縦方向(厚み方向)の抵抗値が大きくなり、縦方向の漏洩電流が小さくなり且つSBDの耐圧が向上する。しかし、既に説明したように3−5族化合物半導体領域7のクラックやシリコン基板6の反りのために、3−5族化合物半導体領域7を例えば5μmよりも厚く形成することが困難である。従って、電気的動作の安定性を向上させるための補助電極(裏面電極)を有する従来構造のSBDの耐圧は比較的低い。これに対して、図1の本発明に従うSBDは、カソード電極3と補助電極4との間に第1の3−5族化合物半導体領域7とシリコン基板6と第2の3−5族化合物半導体領域8とが介在するので、従来構造に比べて第1の3−5族化合物半導体領域及びシリコン基板6に印加される電圧が低下し、縦方向の漏洩電流が低減し、耐圧が向上する。即ち、シリコン基板6の一方の主面6aのみに第1の3−5族化合物半導体領域7を設けたものに相当する従来の半導体装置とシリコン基板6の一方の主面6aと他方の主面6bとの両方に同一厚みの第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7,8を設けた本発明に従う半導体装置とを比較すると、本発明に従う半導体装置の縦方向の漏洩電流は従来の半導体装置の縦方向の漏洩電流のほぼ半分になり、本発明に従う半導体装置の耐圧は従来の半導体装置の耐圧のほぼ2倍になる。また、もし、本発明に従う半導体装置の耐圧が従来の半導体装置の耐圧と同一でよい場合は、本発明に従う半導体装置の第1の3−5族化合物半導体領域7の厚みを従来の半導体装置の3−5族化合物半導体領域の厚みのほぼ半分にすることができ、第1の3−5族化合物半導体領域7のクラックを低減することができる。
【0034】
図1及び図2の実施例の利点の要約を次に示す。
(1) シリコン基板6及び半導体ウエハ6´の一方の主面6a、6a´に第1の3−5族化合物半導体領域7、7´を設けるのみでなく、他方の主面6b、6b´に第2の3−5族化合物半導体領域8、8´を設けるので、反りの少ないシリコン基板1及び半導体ウエハ1´を提供することができる。
(2) 補助電極4の電位をアノード電極2の電位に固定して電気的特性の安定化を図っているにも拘らず、追加した第2の3−5族化合物半導体領域8によってSBDの耐圧を向上させることができる。
(3)シリコン基板6がp型であり、バッフアー層9及び第1の化合物半導体層10がnライク半導体であるので、両者の間にpn接合が生じ、横方向及び縦方向の漏洩電流が低減する。
【実施例2】
【0035】
次に、図3を参照して実施例2に従う電界効果トランジスタの1種であるHEMTを説明する。但し、図3及び後述する図4〜図8において図1と実質的に同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図3のHEMTは、図1のアノード電極2をソース電極2aに変形し、カソード電極3をドレイン電極3aに変形し、ゲート電極21を追加し、この他は図1と同一に構成したものである。
【0037】
図3の第1の電極としてのソース電極2a及び第2の電極としてのドレイン電極3aは第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面13にオーミック接触している金属層、即ち図1のカソード電極3と同様な金属層から成る。追加されたゲート電極21は第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面13にショットキー接触する金属層、即ち図1のアノード電極2と同様な金属層から成り、ソース電極2aとドレイン電極3aとの間に配置されている。補助電極4は接続導体5によってソース電極2aに接続されている。
【0038】
図3の半導体基体1は、図1において同一符号で示すものと同一に構成されているので、第1の化合物半導体層10に2DEG層12が生じる。従って、HEMTのオン動作時には、ソース電極2a、第2の化合物半導体層11、2DEG層12、第2の化合物半導体層11、及びドレイン電極3aの経路で電子が流れる。図3のHEMTはノーマリオン構造であるので、ゲート電極21とソース電極2aとの間にオフ制御電圧を印加すると、ゲート電極21と第1の3−5族化合物半導体領域7との間のショットキー接合に逆方向バイアス電圧が印加され、第1の3−5族化合物半導体領域7に空乏層が生じ、この空乏層によって2DEG層12が遮断され、HEMTがオフ状態になる。
【0039】
HEMTがオフ状態の時には、ドレイン電極3aとソース電極2aとの間の電圧、及びドレイン電極3aと補助電極4との間の電圧がオン時のこれ等の電圧よりも高くなり、横方向の漏洩電流と縦方向の漏洩電流とが流れる。図3のHEMTの縦方向の漏洩電流は、図1のSBDの場合と同様に第2の3−5族化合物半導体領域8の働きで小さくなる。また、補助電極4の電位がソース電極2aの電位に固定されるので、HEMTの動作が安定する。従って、図3の実施例2によっても図1の実施例1と同様な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0040】
図4のHEMTは補助電極4を接続導体5によってゲート電極21に接続し、この他は図3と同一に構成したものである。
【0041】
図4のHEMTでは補助電極4の電位がゲート電極21の電位に固定され、図3と同様に動作が安定化する。従って、図4の実施例3によっても図1及び図3の実施例1及び2と同様な効果を得ることができる。
【実施例4】
【0042】
図5は実施例4に従うMESFETを図3のHEMTと同様に示すものである。図5のMESFETは、変形された半導体基体1aを有する他は図3のHEMTと同様に構成されている。
【0043】
図5の半導体基体1aは、変形された第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7a、8aを有する他は図1及び図3の半導体基体1と同一に構成されている。図5の第1の3−5族化合物半導体領域7aは、図1及び図3と同一のバッファ層9とこの上にエピタキシャル成長されたn型GaNから成るn型化合物半導体層10aとで構成されている。第2の3−5族化合物半導体領域8aは、バッファ層9と同一材料から成る第1の補助化合物半導体層15とn型化合物半導体層10aと同一材料から成る第2の補助化合物半導体層16aとから成る。第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7a、8aは、実施例1の第1及び第2の3−5族化合物半導体層7、8と同様に同時にエピタキシャル成長されたものであり、互いに同一の構造を有し、これ等の厚みT1、T2は同一の値を有する。
【0044】
図5のMESFETの補助電極4は図3のHEMTと同様に接続導体5によってソース電極2aに接続されている。なお、補助電極4をソース電極2aに接続する代りに図5で点線で示すようにゲート電極21に接続することもできる。
【0045】
図5の実施例4のMESFETの場合には、オン動作時にソース電極2a、n型化合物半導体層10a、及びドレイン電極3aの経路で電子が流れる。ゲート電極21とソース電極2aとの間にオフ制御電圧が印加されると、ゲート電極21とn型化合物半導体層10aとの間のショットキー接合が逆バイアスされて、n型化合物半導体層10aに空乏層が生じ、この空乏層によって電子の流れが遮断される。
【0046】
図5の実施例4における第2の3−5族化合物半導体領域8aは、図1、第3、図4の第2の3−5族化合物半導体領域8と同様な機能を有するので、図5の実施例4によっても実施例1〜3と同様な効果を得ることができる。
【実施例5】
【0047】
図6及び図7に示す実施例5のSBDは、変形された半導体基体1bと変形された接続導体5aを有する他は図1と同一に構成されている。
【0048】
図6及び図7のSBDの半導体基体1bは、上側の第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面13から下側の第2の3−5族化合物半導体領域8の他方の主面19に至る溝即ち切欠部22を有する他は図1の半導体基体1と同様に構成されている。切欠部22の壁面には絶縁膜23が構成され、この絶縁膜23の上に接続導体5aが配置されている。接続導体5aの一端はアノード電極2に接続され、他端は補助電極4に接続されている。
【0049】
図6のSBDは電気回路的に図1のSBDと同一であるので、図1の実施例1と同一の効果を得ることができる。また、図6の実施例5は、接続導体5aが切欠部22の中に配置され且つ半導体基体1と一体的に形成されているので、製造が容易であり且つ機械的安定性が高いという効果も有する。
なお、溝から成る切欠部22の代わりに半導体基体1bの上側の第1の3−5族化合物半導体領域7の一方の主面13から下側の第2の3−5族化合物半導体領域8の他方の主面19に至る貫通孔を形成し、この貫通孔の中に絶縁膜23及び接続導体5aを配置することができる。また、図3、図4及び図5の実施例2,3,4の接続導体5を、図6の接続導体5aと同様なものに変形し、溝から成る切欠部22に相当するもの、又は貫通孔に配置することができる。
【実施例6】
【0050】
図8の実施例6のSBDは、変形された半導体基体1cを有する他は図1と同様に構成したものである。図8の半導体基体1cは、図1と同一のシリコン基板6と第1の3−5族化合物半導体領域7とを有し、且つ変形された第2の3−5族化合物半導体領域8bを有する。図8の第2の3−5族化合物半導体領域8bは、厚さT2´を有する1つの化合物半導体層24から成る。
【0051】
この実施例6では、第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7,8bを同時に形成せずに別の工程で形成している。即ち、シリコン基板6の上に第1の3−5族化合物半導体領域7をエピタキシャル成長させた後に、第2の3−5族化合物半導体領域8bとしてGaNをシリコン基板6の他方の主面6bに成長させている。
なお、シリコン基板6の他方の主面6bに第2の3−5族化合物半導体領域8bを先に形成し、その後にシリコン基板6の一方の主面6aに第1の3−5族化合物半導体領域7を形成することもできる。また、第2の3−5族化合物半導体領域8bの代わりに、第1、第2及び第3の補助化合物半導体層15,16,17の内の1つ又は2つを設けることができる。
【0052】
図8の半導体基体1cの第2の3−5族化合物半導体領域8bの厚さT2´は、第1の3−5族化合物半導体領域7の深さT1よりも薄くてもよいし、また厚くすてのよい。気相生長時間を短縮するために第2の3−5族化合物半導体領域8bの厚さT2´を薄くした場合には、反り及び耐圧改善効果が図1に比べて低くなる。しかし、第2の3−5族化合物半導体領域8bを有さない従来装置に比べて反り及び耐圧は改善される。なお、この実施例6は、第2の3−5族化合物半導体領域8bが1つの化合物半導体層24から成るので、製造が容易であるという利点を有する。
【0053】
図3、図4、図5、図6の実施例2,3,4,5の第2の3−5族化合物半導体領域8,8aを図8に示すように変形することもできる。
【0054】
本発明は、上述の実施例に限定されるものでなく、例えば、次の変形が可能なものである。
(1) 図1、図6、図8のカソード電極3と第1の化合物半導体層10又は第2の化合物半導体層11との間、及び図3、図4、図5のソース電極2a及びドレイン電極3aと化合物半導体層10,10aとの間にオーミック接触を助けるための半導体層(コンタクト層)を設けることができる。また、カソード電極3、ソース電極2a及びドレイン電極3aを第1の化合物半導体層10に直接に接続することもできる。また、化合物半導体層11、10を掘り込み、カソード電極3、ソース電極2a及びドレイン電極3aを2DEG層12に直接に接続することもできる。
(2) 第1及び第2の3−5族化合物半導体領域7a、8aの各層9,9a,10,10a,11,15,16,16a,17,24を、GaN,AlGaN以外のInGaN,AllnGaN,AlN,InAlN,AlP,GaP,AllnP,GalnP,AlGaP,AlGaAs,GaAs,AlAs,InAs,InP,InN,GaAsP等の別の3−5族化合物半導体で形成することができる。
(3) シリコン基板6をシリコン以外のSiC等のシリコン化合物で形成することもできる。
(4) 第2の化合物半導体層11をp型半導体の正孔供給層に置き換えることができる。この場合には、2DEG層12に対応する領域に2次元キャリアガス層として2次元正孔ガス層が生じる。
(5) 図1、図6及び図8のSBD、又は図3、図4のHEMT、又は図5のMESFETに別の半導体素子を一体的に形成することができる。例えば、図3、図4のHEMT及び図5のMESFETのゲート電極21とドレイン電極3aとの間又はドレイン電極3aよりも外周側にショットキー電極を設け、このショットキー電極をソース電極2aに接続することができる。
(6) 第2の3−5族化合物半導体領域8,8a,8bの一部又は全部を使用してSBD,FET等の半導体素子を形成することができる。
(7) 図3、図4、図5の実施例2,3,4において、ゲート電極21の下にゲート絶縁膜を設け、絶縁ゲート型FETとすることができる。
(8)補助電極4をアノード電極2、ソース電極2a、又はゲート電極21に接続する代わりに別の固定電位点又は電源に接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1に従うSBDを示す断面図である。
【図2】図1の半導体基体を得るための半導体ウエハとその保持手段とを示す断面図である。
【図3】実施例2に従うHEMTを示す断面図である。
【図4】実施例3に従うHEMTを示す断面図である。
【図5】実施例4に従うMESFETを示す断面図である。
【図6】実施例5に従うSBDを示す断面図である。
【図7】図6のSBDの平面図である。
【図8】実施例6に従うSBDを示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 半導体基体
1´ 半導体ウエハ
2 アノード電極
3 カソード電極
4 補助電極
5 接続導体
6 シリコン基板
7,8 第1及び第2の3−5族化合物半導体領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを含む基板と、
前記基板の一方の主面に形成された第1の3−5族化合物半導体領域と、
前記基板の他方の主面に形成された第2の3−5族化合物半導体領域と
から成る半導体基体。
【請求項2】
前記第2の3−5族化合物半導体領域は前記第1の3−5族化合物半導体領域と同一構造を有していることを特徴とする請求項1記載の半導体基体。
【請求項3】
シリコンを含む基板と、
前記基板の一方の主面に形成された第1の3−5族化合物半導体領域と、
前記基板の他方の主面に形成された第2の3−5族化合物半導体領域と、
前記第1の3−5族化合物半導体領域の表面に形成された第1及び第2の電極と、
前記第2の3−5族化合物半導体領域の表面に形成された補助電極と
を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
更に、前記第1の電極と前記補助電極とを電気的に接続する導体を有していることを特徴とする請求項3記載の半導体装置。
【請求項5】
シリコンを含む基板と、
前記基板の一方の主面に形成された第1の3−5族化合物半導体領域と、
前記基板の他方の主面に形成された第2の3−5族化合物半導体領域と、
前記第1の3−5族化合物半導体領域の表面に形成されたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、
前記第2の3−5族化合物半導体領域の表面に形成された補助電極と
を備えていることを特徴とする電界効果型半導体装置。
【請求項6】
更に、前記ソース電極と前記補助電極とを接続する導体を有していることを特徴とする請求項5記載の電界効果型半導体装置。
【請求項7】
更に、前記ゲート電極と前記補助電極とを接続する導体を有していることを特徴とする請求項5記載の電界効果型半導体装置。
【請求項8】
前記第1の3−5族化合物半導体領域は、前記基板の一方の主面上に形成された第1の化合物半導体層と、前記第1の化合物半導体層の上に形成され且つ前記第1の化合物半導体層と異なる材料から成る第2の化合物半導体層とを有していることを特徴とする請求項5又は6又は7記載の電界効果型半導体装置。
【請求項9】
前記第1の3−5族化合物半導体領域は、前記基板の上に形成され且つ所定の導電型を有している化合物半導体層から成ることを特徴とする請求項5又は6又は7記載の電界効果型半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−242853(P2007−242853A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62653(P2006−62653)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】