説明

半導体装置およびその製造方法、集積基板、光モジュール、光通信装置

【課題】Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と基板のSi面とを接合させる構造において、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と基板とに剥がれが生じることを抑制すること。
【解決手段】本発明は、GaAs基板32の主面上に形成された光を発振する活性層38を含む積層半導体層46のうちの最表面の層である、Inを含まないIII−V族化合物半導体であるGaAsからなるコンタクト層44の表面に、InAsの複数の量子ドットからなる接合層22を形成する工程と、コンタクト層44の表面を、接合層22を介して、基板10に含まれるSi薄膜層16のSi面に接合させる工程と、を有する半導体装置の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、特に、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面と基板のSi面とを接合させる半導体装置およびその製造方法、並びに、その半導体装置を含む集積基板、光モジュール、光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SOI(Silicon on Insulator)基板の表面に、化合物半導体からなる発光素子を貼り合わせ、発光素子が発振した光を、SOI基板に形成された導波路内を導波させる半導体装置が知られている。例えば、非特許文献1には、SOI基板の表面にInP(インジウムリン)系発光素子が貼り合わされた構造の半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】アレクサンダー・W・ファン(Alexander W. Fang)、他5名、「エレクトリカリ・パンプド・ハイブリッド・アルミニウムガリウムインジウムヒ素−シリコン・エバネセント・レーザ(Electrically pumped hybrid AlGaInAs-silicon evanescent laser)」、オプティクス・エクスプレス(OPTICS EXPRESS)、2006年10月2日、No.20、Vol.14、p.9203−9210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光素子には、InP系発光素子の他、GaAs(ガリウムヒ素)系発光素子のような、In(インジウム)を含まないIII−V族化合物半導体からなる発光素子がある。例えば、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる発光素子をSOI基板に貼り合わせる場合、SOI基板のSi面とInを含まないIII−V族化合物半導体層面とが接合することになるが、この場合、SOI基板とInを含まないIII−V族化合物半導体層とが剥がれてしまうことがある。
【0005】
このように、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面と基板のSi面とを接合させる場合、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と基板とに剥がれが生じてしまうという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面と基板のSi面とを接合させる構造において、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と基板との剥がれを抑制することが可能な半導体装置およびその製造方法、並びにその半導体装置を含む集積基板、光モジュール、および光通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面に、Inを含む接合層を形成する工程と、前記半導体層の表面を、前記接合層を介して、基板のSi面に接合させる工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。本発明によれば、Inを含まないIII−V族化合物半導体層と基板とが剥がれることを抑制できる。
【0008】
上記構成において、前記半導体層は、III−V族化合物半導体基板の主面上に形成された光を発振する活性層を含む積層半導体層のうちの最表面の半導体層であり、前記基板は、前記活性層が発振する光を導波する導波路を有する構成とすることができる。この構成によれば、活性層が発振する光を、基板に設けられた導波路で導波することができる。
【0009】
上記構成において、前記接合層を形成する工程は、前記半導体層の表面と前記基板のSi面とを接合させた後において、前記活性層が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有するような前記接合層を形成する構成とすることができる。この構成によれば、活性層が発振する光が、接合層で吸収されることを抑制できるため、光強度の強い光が、基板に設けられた導波路を導波することができる。
【0010】
上記構成において、前記接合層を形成する工程は、Inを含むIII−V族化合物半導体である複数の量子ドットからなる前記接合層を形成する構成とすることができる。この構成によれば、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面と基板のSi面とを接合させた後において、接合層が、活性層が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有することを容易に実現できる。
【0011】
上記構成において、前記接合層を形成する工程は、InAsの複数の量子ドットからなる前記接合層を形成する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記接合層を形成する工程は、前記活性層が発振する光の波長が1.3μm帯である場合に、前記半導体層の表面と前記基板のSi面とを接合させた後において、前記接合層の厚みが5原子層厚以下となるような量のInAsを供給することで、前記接合層を形成する構成とすることができる。この構成によれば、活性層が発振する1.3μm帯の波長の光の吸収が抑制された接合層を得ることができる。
【0013】
本発明は、III−V族化合物半導体基板の主面上に設けられた光を発振する活性層を含む積層半導体層のうちの最表面の層であり、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と、前記半導体層の表面に設けられ、前記活性層が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する、Inを含む接合層と、前記活性層が発振する光を導波する導波路を有し、前記接合層を介して、前記半導体層の表面にSi面が接合した基板と、を具備することを特徴とする半導体装置である。本発明によれば、Inを含まないIII−V族化合物半導体層と基板とが剥がれることを抑制できる。また、活性層が発振する光が、接合層で吸収されることを抑制できるため、光強度の強い光が、基板に設けられた導波路を導波することができる。
【0014】
上記構成において、前記接合層はInAs薄膜層であり、前記活性層が発振する光の波長は1.3μm帯であり、前記接合層の厚みは5原子層厚以下である構成とすることができる。この構成によれば、接合層が、活性層で発振された1.3μm帯の波長の光を吸収することを抑制できる。
【0015】
本発明は、前記半導体装置を含むことを特徴とする集積基板である。また、本発明は、前記半導体装置を含むことを特徴とする光モジュールである。さらに、本発明は、前記半導体装置を含むことを特徴とする光通信装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面と基板のSi面とを接合させる構造において、Inを含まないIII−V族化合物半導体層と基板とが剥がれることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。
【図2】図2は、活性層の1層分のドット層を示す断面模式図の例である。
【図3】図3は、実施例1に係る半導体装置における、p型GaAs基板からSi層にかけてのエネルギーバンド図の例である。
【図4】図4(a)から図4(c)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を説明する断面模式図の例である。
【図5】図5(a)は、InAs薄膜層がGaAs層に挟まれた構造におけるエネルギーバンド図の例であり、図5(b)は、InAs薄膜層の厚さに対するバンドギャップエネルギーの計算結果を示す図である。
【図6】図6は、実施例2に係る集積基板の斜視模式図の例である。
【図7】図7は、実施例3に係る光モジュールのブロック図の例である。
【図8】図8(a)は、実施例4に係る光通信装置のブロック図の例であり、図8(b)は、実施例4に係る光通信装置を備えた光通信システムのブロック図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明が解決しようとする課題について詳しく説明する。非特許文献1に開示された半導体装置のように、SOI基板表面に、InP系発光素子を貼り合わせる構造の場合、SOI基板のSi面とInを含む半導体層面とが接合することになる。この場合、Si面に含まれるSi原子と、Inを含む半導体層に含まれるIn原子とが結合すると考えられる。Si原子とIn原子との結合は、結合強度が強く、例えば温度が上昇したとしても、結合は切れ難い。したがって、SOI基板とInを含む半導体層とが剥がれることは生じ難い。
【0019】
一方、SOI基板表面に、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる発光素子を貼り合わせる構造の場合、SOI基板のSi面とInを含まないIII−V族化合物半導体層面とが接合することになる。例えば、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる発光素子の例としてGaAs系発光素子を用いる場合、SOI基板のSi面とGaAs半導体層面とが接合することになる。この場合、Si面に含まれるSi原子と、GaAs半導体層に含まれるGa原子とが結合すると考えられる。しかしながら、Si原子とGa原子との結合強度は弱いため、例えば温度が上昇すると、結合が容易に切れてしまう。このように、SOI基板表面にGaAs系発光素子を貼り合わせる構造の場合は、SOI基板とGaAs半導体層とが剥がれ易いという課題がある。そこで、このような課題を解決することが可能な実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。図1のように、実施例1に係る半導体装置100は、基板10の表面に、発光素子30が貼り合わされた構造をしている。基板10は、例えばSOI(Silicon on Insulator)基板であり、Si支持基板12上に、埋め込みSiO(酸化シリコン)膜14、Si薄膜層16が順次形成された構造を有する。即ち、基板10の表面は、Si薄膜層16のSi表面が露出している。Si薄膜層16には、埋め込みSiO膜14が露出するまで除去された空洞部18が形成されていて、Si薄膜層16の一部分は、空洞部18で挟まれている。即ち、Si薄膜層16の一部分は、空洞部18と埋め込みSiO膜14とによって周囲が囲まれている。光通信に一般的に用いられる1.3μm帯や1.55μm帯の光の波長に対して、Siは、SiOや空気に比べて大きな屈折率を有する。このため、空洞部18と埋め込みSiO膜14とによって囲まれたSi薄膜層16の一部分は、光を導波する機能を有する導波路20として用いることが可能となる。
【0021】
発光素子30は、例えば1.3μm帯の波長の光を発振する量子ドット活性層を有するGaAs系発光素子である。発光素子30は、例えばp型GaAs基板32の主面上に、p型AlGaAsからなる下部クラッド層34、アンドープGaAsからなるスペーサ層36、複数の量子ドットを有する活性層38、アンドープGaAsからなるスペーサ層40、n型AlGaAsからなる上部クラッド層42、およびn型GaAsからなるコンタクト層44が、順次積層された積層半導体層46を有する構造である。即ち、積層半導体層46の最表面の層は、コンタクト層44となっている。p型GaAs基板32の主面と反対側の面には、p電極48が形成されている。コンタクト層44に接してn電極50が形成されている。
【0022】
ここで、活性層38についてより詳細に説明する。図2は、活性層38の1層分のドット層52を示す断面模式図の例である。図2のように、量子ドット54はInAsにより形成される。量子ドット54間にInGaAs層56が形成される。量子ドット54およびInGaAs層56を覆うように、アンドープGaAs層58が形成される。アンドープGaAs層58の表面にp型GaAs層60とアンドープGaAs層62とが順次形成される。アンドープGaAs層58、p型GaAs層60、およびアンドープGaAs層62は、バリア層64を構成する。
【0023】
図1に戻り、基板10と発光素子30との間には、例えばInAsの薄膜層からなり、2原子層厚の厚さを有する接合層22が介在している。即ち、接合層22は、Si薄膜層16とコンタクト層44との間に設けられている。Si薄膜層16のSi面とコンタクト層44のGaAs面とを、InAsからなる接合層22を間に介在させ接合することで、Si薄膜層16と接合層22とは、結合強度の強いSi原子とIn原子との結合構造になるため、Si薄膜層16とコンタクト層44とに剥がれは生じ難くなる。
【0024】
実施例1に係る半導体装置100は、図1のように、基板10の表面に、発光素子30が貼り合わされた構造をしている。このため、活性層38で発振された光が、基板10に伝搬し、基板10に設けられた導波路20内を導波することが可能となる。したがって、半導体装置100は、光回路として使用することができ、例えば、光の変調器、合波器、または分波器として用いることができる。
【0025】
図3は、実施例1に係る半導体装置100における、p型GaAs基板32からSi薄膜層16にかけてのエネルギーバンド図の例である。図3のように、InAsからなる接合層22のバンドギャップエネルギーEgaは、活性層38のバンドギャップエネルギーEgbよりも大きい。このため、活性層38で発振される光が、接合層22で吸収されることを抑制することができる。即ち、活性層38が発振する光は、接合層22でほとんど吸収されずに、基板10に伝搬されて、導波路20内を導波することが可能となる。
【0026】
次に、実施例1に係る半導体装置100の製造方法について説明する。図4(a)から図4(c)は、実施例1に係る半導体装置100の製造方法を説明する断面模式図の例である。図4(a)のように、まず、p型GaAs基板32の主面上に、例えばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用い、下部クラッド層34、スペーサ層36、複数の量子ドットを有する活性層38、スペーサ層40、上部クラッド層42、およびコンタクト層44を順次積層し、積層半導体層46を形成する。
【0027】
続いて、積層半導体層46の最表面の層であるコンタクト層44の表面に、InAsの複数の量子ドットからなる接合層22を形成する。接合層22の形成は、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi面とを接合させた後において、活性層38が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有するような接合層22を形成する。接合層22の形成は、例えば2.5分子層厚の成長に相当する量のInAsを供給することで行い、例えば高さが10nmのInAsの量子ドットからなる接合層22を形成する。
【0028】
図4(b)のように、導波路20を有する基板10を準備する。導波路20は、例えばドライエッチング法により、Si薄膜層16を選択的にエッチングすることで形成する。そして、Si薄膜層16のSi表面を、例えばフッ酸を用いて洗浄した後、例えば250℃の温度下で、10kPaの圧力を加えて、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi表面とを、接合層22を介在させて接合させる。これにより、量子ドットであった接合層22は、例えば2原子層厚のInAsの薄膜層となる。なお、図4(a)において、2.5分子層厚の成長に相当する量のInAsを供給してInAsの量子ドットからなる接合層22を形成したのに対し、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi面とを接合させた後での接合層22は、2原子層厚のInAs薄膜層になったのは、Inがコンタクト層44等に拡散したためである。
【0029】
図4(c)のように、コンタクト層44の一部が露出するよう、例えばドライエッチング法により、p型GaAs基板32、下部クラッド層34、スペーサ層36、活性層38、スペーサ層40、および上部クラッド層42を選択的にエッチングする。その後、p電極48とn電極50とを形成する。これにより、実施例1に係る半導体装置100が完成する。
【0030】
このように、実施例1によれば、図4(a)のように、n型GaAs層からなるコンタクト層44の表面に、InAsの複数の量子ドットからなる接合層22を形成する。そして、図4(b)のように、コンタクト層44の表面を、接合層22を介して、Si薄膜層16のSi表面に接合させる。コンタクト層44のGaAs面とSi薄膜層16のSi面とを直接接合させる場合は、Si原子とGa原子との結合強度が弱いことから、容易に剥がれてしまう。しかしながら、実施例1のように、コンタクト層44のGaAs面とSi薄膜層16のSi面とを、InAsの接合層22を介して接合させることで、Si原子とIn原子との結合強度は強いことから、コンタクト層44とSi薄膜層16との接合力が強まり、剥がれが生じ難くなる。つまり、結合強度の強いSi原子とIn原子との結合構造となることで、コンタクト層44と基板10とが剥がれることを抑制できる。
【0031】
また、半導体装置100は、p型GaAs基板32の主面上に形成された光を発振する活性層38を含む積層半導体層46のうちの最表面の層であるコンタクト層44が、コンタクト層44の表面に形成された接合層22を介して、光を導波する導波路20を有する基板10の表面に接合した構造をしている。これにより、活性層38で発振された光が、基板10に伝搬され、基板10に設けられた導波路20内を導波することが可能となる。このことから、図3および図4(a)で説明したように、接合層22は、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi面とが接合した後において、活性層38が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップを有するような接合層22であることが好ましい。これにより、活性層38が発振する光が、接合層22で吸収されることを抑制でき、光強度の強い光が、基板10に設けられた導波路20内を導波することが可能となる。
【0032】
ここで、図5(a)および図5(b)を用いて、InAsの薄膜層である接合層22の厚さとバンドギャップエネルギーとの関係について説明する。図5(a)は、InAs薄膜層がGaAs層に挟まれたInAs量子井戸構造の場合でのエネルギーバンド図の例である。図5(b)は、図5(a)のInAs量子井戸構造において、InAs薄膜層の厚さに対する基底準位でのバンドギャップエネルギーの計算結果を示す図であり、横軸はInAs薄膜層の厚さを原子層厚で表し、縦軸はInAs薄膜層のバンドギャップエネルギーを表している。図5(a)のように、量子井戸に閉じ込められた電子は量子化され、そのエネルギーレベルが上昇して、実効的なバンドギャップエネルギーが大きくなる。図5(b)のように、InAs薄膜層の厚さが薄くなるほど、基底準位でのバンドギャップエネルギーが増大していく。バンドギャップエネルギーが大きい程、InAs薄膜層で吸収される光の波長範囲が狭くなるため、InAs薄膜層での光の吸収を抑える観点からは、InAs薄膜層の厚さは薄い方が好ましいことになる。図5(b)は、InAs薄膜層がGaAs層に挟まれたInAs量子井戸構造でのInAs薄膜層の厚さに対するバンドギャップエネルギーを示しているが、実施例1に係る半導体装置100のように、InAsの薄膜層(接合層22)がGaAs層(コンタクト層44)とSi層(Si薄膜層16)とに挟まれたInAs量子井戸構造であっても、図5(b)と同様の関係が得られると考えられる。
【0033】
したがって、実施例1に係る半導体装置100において、活性層38で発振される光が、接合層22で吸収されることを抑制するには、接合層22は、厚さの薄いInAsの薄膜層である場合が好ましい。例えば、活性層38が、一般的な光通信に用いられる1.3μm帯の波長の光を発振する場合、1.3μm帯の波長の光のエネルギーは0.97eV程度であることから、図5(b)のように、InAsの薄膜層である接合層22の厚さは、5原子層厚以下となる場合が好ましく、3原子層厚以下の場合がより好ましく、2原子層厚以下の場合がさらに好ましい。即ち、活性層38が発振する光の波長が1.3μm帯である場合に、図4(a)で説明した、接合層22の形成において、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi面とを接合させた後に、接合層22の厚みが5原子層厚以下となるような量のInAsを供給して接合層22を形成する場合が好ましく、3原子層厚以下となるような量のInAsを供給して接合層22を形成する場合がより好ましく、2原子層厚以下となるような量のInAsを供給して接合層22を形成する場合がさらに好ましい。これにより、活性層38が発振する1.3μm帯の波長の光が、接合層22で吸収されることを抑制できる。
【0034】
図4(a)のように、コンタクト層44の表面に形成する接合層22は、InAsの複数の量子ドットである場合が好ましい。これにより、図4(b)のように、コンタクト層44の表面をSi薄膜層16のSi面に接合させる際の温度および圧力の調整により、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi面とを接合させた後において、接合層22が、活性層38が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有するような、厚さの薄いInAsの薄膜層となることを容易に実現できる。
【0035】
図4(a)のように、コンタクト層44の表面に形成する接合層22は、InAsの量子ドットからなる層である場合を例に説明したが、例えばInAsの薄膜層やInGaAsの薄膜層など、Inを含むIII−V族化合物半導体の薄膜層である場合でもよい。この場合でも、コンタクト層44の表面とSi薄膜層16のSi面とを接合させた場合に、コンタクト層44とSi薄膜層16とが剥がれることを抑制できると共に、活性層38が発振する光の吸収の抑制もできる。しかしながら、コンタクト層44の表面に形成する接合層22をInAsやInGaAs等の薄膜層とすると、薄膜層の表面が凸凹してしまい、コンタクト層44とSi薄膜層16との接合が難しくなる場合がある。このため、コンタクト層44の表面に形成する接合層22は、InAsやInGaAsなどのInを含むIII−V族化合物半導体の複数の量子ドットからなる場合が好ましい。
【0036】
活性層38は1.3μm帯の波長の光を発振する場合を例に示したが、例えば1.55μm帯の波長の光を発振する場合等、Siでの吸収係数が低い波長帯であれば、他の波長帯の光を発振する場合でもよい。活性層38が1.55μm帯の波長の光を発振する場合、活性層38で発振する1.55μm帯の波長の光が接合層22で吸収されることを抑制するためには、1.55μm帯の波長の光のエネルギーは0.8eV程度であることから、図5(b)のように、接合層22の厚さは、7原子層厚以下である場合が好ましく、5原子層厚以下である場合がより好ましく、3原子層厚以下である場合がさらに好ましい。
【0037】
活性層38は量子ドット構造である場合を例に示したが、例えば量子井戸構造である場合でもよい。しかしながら、InAsの量子ドット構造を有する活性層38の場合は、例えば450℃の温度に曝されると特性劣化が生じてしまう。このため、活性層38がInAsの量子ドット構造である場合に、実施例1のように、Inを含む接合層22を介在させる場合がより好ましい。これにより、Inの融点が比較的低いことから、低い温度を用いても、コンタクト層44とSi薄膜層16とを強い力で接合させることが可能となり、剥がれの抑制に加えて、特性劣化の抑制も実現できる。
【0038】
発光素子30は、GaAs系発光素子である場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる発光素子であればその他の構造を有する発光素子の場合でもよい。この場合でも、実施例1の発明を適用することで、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と基板とが剥がれることを抑制できる。
【0039】
また、実施例1では、GaAs系発光素子である発光素子30がSOI基板である基板10に貼り合わされる構造の場合を例に説明したが、これに限られる訳ではない。Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面と基板のSi面とを接合させる構造であれば、実施例1に係る発明を適用することで、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と基板との剥がれを抑制できる。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、実施例1に係る半導体装置100を備える集積基板の例である。図6は、実施例2に係る集積基板の斜視模式図の例である。図6のように、実施例2に係る集積基板200には、Siによるトランジスタを含む電子回路(不図示)が集積されており、さらに、実施例1に係る半導体装置100が集積されている。これにより、半導体装置100による光回路とトランジスタなどによる電子回路との融合がなされている。
【実施例3】
【0041】
実施例3は、実施例1に係る半導体装置100を備える光モジュールの例である。図7は、実施例3に係る光モジュールのブロック図の例である。図7のように、実施例3に係る光モジュール300は、実施例1に係る半導体装置100、光導波部310、光変調部320を有する。半導体装置100から出射された光は、光導波部310を通して光変調部320に導かれる。光変調部320では、入射された光を変調する。変調された光は、光導波部310を通して、光ファイバ結合部330で光結合したシングルモードファイバに入射され、シングルモードファイバ内を伝送する。
【実施例4】
【0042】
実施例4は、実施例3に係る光モジュール300を備えた光通信装置の例である。図8(a)は、実施例4に係る光通信装置のブロック図の例である。図8(a)のように、実施例4に係る光通信装置400は、送信部として機能する実施例3に係る光モジュール300、受信部410、制御部420を有する。光モジュール300は、制御部420からの送信データ信号を光に変換して出射する。出射された光はシングルモードファイバに入射され、シングルモードファイバ内を伝送する。受信部410は、シングルモードファイバ内を伝送してきた光を受光し、受信データとして制御部420に出力する。
【0043】
図8(b)は、実施例4に係る光通信装置400を備えた光通信システムのブロック図の例である。図8(b)のように、光通信システム500は、第1の光通信装置400aと第2の光通信装置400bを有する。第1の光通信装置400aは、光モジュール300a、受信部410a、制御部420aを有する。第2の光通信装置400bは、光モジュール300b、受信部410b、制御部420bを有する。例えば、第1の光通信装置400aの光モジュール300aが、制御部420aからの送信データ信号を光に変換して出射すると、出射された光はシングルモードファイバ510内を伝送し、第2の光通信装置400bの受信部410bで受光される。受信部410bで光を受光すると、受信データが制御部420bに出力される。同様に、第2の光通信装置400bの光モジュール300bが、制御部420bからの送信データ信号を光に変換して出射すると、出射された光はシングルモードファイバ510内を伝送し、第1の光通信装置400aの受信部410aで受光される。受信部410aで光を受光すると、受信データが制御部420aに出力される。これにより、第1の光通信装置400aと第2の光通信装置400bとの間でデータ通信を行うことができる。
【0044】
図8(b)のように、第1の光通信装置400aと第2の光通信装置400bとの間でシングルモードファイバ510を用いてデータ通信を行う光通信システム500は、FTTH(Fiber To The Home)や光通信基幹網に用いられる場合が好ましい。また、シングルモードファイバ510を用いずに、第1の光通信装置400aと第2の光通信装置400bとが、空間に出射した光を受光することでデータ通信を行う場合でもよい。この場合、第1の光通信装置400aと第2の光通信装置400bとは、例えばパーソナルコンピュータとすることができ、また、第1の光通信装置400aおよび第2の光通信装置400bの一方はパーソナルコンピュータとし、他方は携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器やプロジェクタとしてもよい。
【0045】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 基板
12 Si支持基板
14 埋め込みSiO2膜
16 Si薄膜層
18 空洞部
20 導波路
22 接合層
30 発光素子
32 p型GaAs基板
34 下部クラッド層
36 スペーサ層
38 活性層
40 スペーサ層
42 上部クラッド層
44 コンタクト層
46 積層半導体層
48 p電極
50 n電極
52 ドット層
54 量子ドット
56 InGaAs層
58 アンドープGaAs層
60 p型GaAs層
62 アンドープGaAs層
64 バリア層
100 半導体装置
200 集積基板
300 光モジュール
310 光導波部
320 光変調部
330 光ファイバ結合部
400 光通信装置
410 受信部
420 制御部
500 光通信システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層の表面に、Inを含む接合層を形成する工程と、
前記半導体層の表面を、前記接合層を介して、基板のSi面に接合させる工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体層は、III−V族化合物半導体基板の主面上に形成された光を発振する活性層を含む積層半導体層のうちの最表面の半導体層であり、
前記基板は、前記活性層が発振する光を導波する導波路を有することを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記接合層を形成する工程は、前記半導体層の表面と前記基板のSi面とを接合させた後において、前記活性層が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有するような前記接合層を形成することを特徴とする請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記接合層を形成する工程は、Inを含むIII−V族化合物半導体の複数の量子ドットからなる前記接合層を形成することを特徴とする請求項2または3記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記接合層を形成する工程は、InAsの複数の量子ドットからなる前記接合層を形成することを特徴とする請求項4記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記接合層を形成する工程は、前記活性層が発振する光の波長が1.3μm帯である場合に、前記半導体層の表面と前記基板のSi面とを接合させた後において、前記接合層の厚みが5原子層厚以下となるような量のInAsを供給することで、前記接合層を形成することを特徴とする請求項5記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
III−V族化合物半導体基板の主面上に設けられた光を発振する活性層を含む積層半導体層のうちの最表面の層であり、Inを含まないIII−V族化合物半導体からなる半導体層と、
前記半導体層の表面に設けられ、前記活性層が発振する光のエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する、Inを含む接合層と、
前記活性層が発振する光を導波する導波路を有し、前記接合層を介して、前記半導体層の表面にSi面が接合した基板と、を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
前記接合層はInAs薄膜層であり、前記活性層が発振する光の波長は1.3μm帯であり、前記接合層の厚みは5原子層厚以下であることを特徴とする請求項7記載の半導体装置。
【請求項9】
請求項7または8記載の半導体装置を含むことを特徴とする集積基板。
【請求項10】
請求項7または8記載の半導体装置を含むことを特徴とする光モジュール。
【請求項11】
請求項7または8記載の半導体装置を含むことを特徴とする光通信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−14002(P2012−14002A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151244(P2010−151244)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(506423051)株式会社QDレーザ (26)
【Fターム(参考)】