説明

半導体装置の製造方法及び基板処理装置

【課題】光CVD法を用いて、基板上に電気絶縁性の高い緻密なシリコン酸化膜を形成することのできる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】基板を処理室内へ搬入する工程と、直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを前記処理室内に供給し、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する成膜工程と、前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する改質工程と、前記処理室内の雰囲気を排気する工程と、前記基板を前記処理室から搬出する工程と、から半導体装置の製造方法を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光を用いた酸化膜形成技術に関し、例えば、半導体集積回路(半導体装置。以下、ICという。)の製造装置や製造方法において、ICが作り込まれる半導体基板(例えば、半導体ウエハ)に、酸化膜を堆積(デポジション)して成膜するうえで有効な基板処理技術や、プラスチックやレンズ等の表面に保護膜として酸化膜を堆積する保護膜形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体装置の製造に用いられる酸化膜形成技術には、(1)熱酸化法、(2)プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、(3)石英スパッタ法、(4)塗布法等が存在する。(1)熱酸化法は、高温処理を行うため高密度の酸化膜が形成されるが、高温において材料の熱拡散が懸念されるアルミ配線や、プラスチックなど熱に耐性のない物質の保護膜の形成には使用できない。(2)プラズマCVD法や(3)石英スパッタ法は、基板の帯電によるチャージングダメージ(電気的ダメージ)が避けられないため、高集積回路の基板上へ絶縁膜として酸化膜を形成する際は、チャージングダメージへの対策が必要となる。(4)塗布法は、エッチング後の段差被覆性に優れ、低温処理可能であり、電気的ダメージがないため、前述したプラスチックなどの保護膜や、高集積回路上への絶縁膜を形成するのに用いることができるが、塗布法で形成された膜は、塗布時に混入した溶剤の揮発による膜収縮率が高く、低密度という課題がある。
【0003】
一方、光をエネルギー源としてCVD膜を形成する光CVD法が研究されている。光CVD法は、50℃程度の基板温度で低温処理できるため、基板への熱ダメージが小さい。また、プラズマCVD法のようにイオンが発生せず、発生するのは中性のラジカルのみであるため、基板への電気的ダメージが問題となる高集積回路製造の工程に適している。これまで光CVD法としては、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC)等の有機シリコン材料を用いた研究例が多いが、半導体装置の製造技術としては確立していない。
【0004】
光CVD法において、プラズマCVD法等で広く使用されてきたTEOSが用いられる理由は、TEOSのSi−O(シリコン−酸素)結合を切断するために必要な光エネルギーが8.3eVであるのに対し、TEOSのC−H(炭素−水素)、C−O(炭素−酸素)等の有機結合を切断するために必要な光エネルギーが3.0〜4.0eV程度と低いため、Si−O結合を解離することなく有機分子を解離するだけで容易に酸化膜が形成できるためである。因みに、TEOSの結合エネルギーは、Si−O結合が8.3eV、C−H結合が4.3eV、C−C結合が3.6eV、Si−C結合が3.0eVである。また、TEOSの構造式を図5に示す。
しかしながら、TEOSを用いて光CVD法で形成した酸化膜は、その後の熱処理工程での膜収縮率が高く、電気絶縁性が低いという課題がある。
下記の特許文献1には、炭素及び水素を含む有機シリコンガスを処理室内へ供給し、該有機シリコンガスに紫外光を照射して、基板上にシリコン酸化膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−87475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光CVD法等を用いて、基板上に電気絶縁性の高い緻密なシリコン酸化膜を形成することのできる半導体装置の製造方法、基板処理方法及び基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための、本発明に係る半導体装置の製造方法の代表的な構成は、次のとおりである。すなわち、
基板を処理室内へ搬入する工程と、
直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを前記処理室内に供給し、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する成膜工程と、
前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する改質工程と、
前記処理室内の雰囲気を排気する工程と、
前記基板を前記処理室から搬出する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【0008】
また、上記の課題を解決するための、本発明に係る基板処理装置の代表的な構成は、次のとおりである。すなわち、
基板を処理する処理室と、
直鎖状無機シリコンガスを処理室内へ供給する第1のガス供給部と、
酸素含有ガスを処理室内へ供給する第2のガス供給部と、
前記処理室内へ励起エネルギーを供給する励起部と、
前記処理室内の雰囲気を排気する排気部と、
前記第1のガス供給部、前記第2のガス供給部、前記励起部、前記排気部を制御する制御部とを備え、
該制御部は、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内へ励起エネルギーを供給してシリコン酸化膜を形成し、その後、前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内へ励起エネルギーを供給して前記シリコン酸化膜を改質するよう制御する制御部である基板処理装置。
【発明の効果】
【0009】
このように半導体装置の製造方法や基板処理装置を構成すると、基板上に電気絶縁性の高い緻密なシリコン酸化膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における基板処理装置の垂直断面図である。
【図2】本発明の実施例における膜収縮率と従来例との比較を示す図である。
【図3】本発明の実施例における電圧−電流特性と従来例との比較を示す図である。
【図4】本発明の実施例における膜密度と従来例との比較を示す図である。
【図5】TEOSの構造式を示す図である。
【図6】モノシランの構造式を示す図である。
【図7】ジシランの構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る半導体装置の製造方法を実施する基板処理装置の構成例について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態における基板処理装置の垂直断面図である。図1において、1は、その内部で基板を処理する基板処理室である。基板処理室1内は、後述する真空ポンプ10により、1Pa未満の低圧状態に減圧することができる。2は処理対象の基板であり、本実施形態では、シリコンウエハであって、1度の処理において1枚の基板が処理される。3は、基板2を処理する際に、基板2を載置する基板支持部である。基板支持部3は、基板2の温度を検出する温度検出器3aと、基板2を加熱するヒータユニット3bを内蔵し、回転機構(不図示)により、水平方向に回転するよう構成されている。4は、励起エネルギーを供給して材料ガスを分解する励起部であり、本実施形態では、紫外光を発光する発光部であり、光源ランプ4aを基板2に対向させて配置している。5は、前記発光部4から発光された紫外光を、処理室1内に透過させる透過窓であり、本実施形態では石英から構成される。透過窓5は、処理室1の内と外とを隔てる隔壁の一部として構成され、1Pa未満の低圧に耐えられる機械的強度を有する。
【0012】
本実施形態においては、発光部4は、波長域100nmから400nmの紫外光を発光する。例えば、材料ガスとして使用される直鎖状無機シリコンガスのSi−H結合を切断するためには、3.03eV以上の光エネルギーが必要であり、そのためには、光の波長は400nm以下でなければならない。
本実施形態においては、発光部4の内部には、光源ランプ4aとしてエキシマランプを備えるとともに、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)等の光源ランプ4aを冷却するガスが封入されている。また、光源ランプ4a内にはAr、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の希ガスが封入されている。これらの希ガスを光源ランプ4a内に封入することにより、紫外光の波長を設定することができる、例えば、Arを封入した場合は波長126nmの紫外光、Krを封入した場合は波長146nmの紫外光、Xeを封入した場合は波長172nmの紫外光を発生することができる。本実施例では、Xeを封入して紫外光を発生させる。なお、光源ランプ4aとして発光の中心波長が185nmの低圧水銀ランプを用いることもできる。発生した紫外光は、石英製の透過窓5を通して、基板処理室1内に供給される。
基板処理室1と発光部4とは、石英製の透過窓5により、気密に分離されている。したがって、発光部4の内部のガスは、基板処理室1に流出しないようになっている。また、光源ランプ4aが破損したとしても、光源ランプ4aを構成する部品が、処理室1内に暴露することが無く、光源ランプ4aに封入された希ガスも処理室1内に流入しないようになっている。また、基板処理室1内の材料ガス等が、発光部4内に流入することもない。
【0013】
次に、材料ガス等のガス供給部について説明する。ガス供給部は、後述する第1〜第4のガス供給部から構成される。図1に示すように、処理室1のガス導入管6には、材料ガスを供給するガス供給管6a、酸素含有ガスを供給するガス供給管6b、クリーニングガスを供給するガス供給管6c、不活性ガスを供給するガス供給管6dが接続されている。
ガス供給管6aには、ガス流れの上流から順に、材料ガスを供給する材料ガス源15a、流量制御装置としてのMFC(マスフローコントローラ)14a、及び開閉バルブ13aが設けられている。本実施形態においては、材料ガスは、炭素を含まず水素と珪素を含む直鎖状の無機シリコンガスであり、例えば、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリシラン(Si)、テトラシラン(Si10)などのうち、少なくとも1種類のガスを用いることができる。直鎖型の材料とは、材料中のSi原子が連続して繋がった状態を主鎖とした構造を有し、その主鎖から枝分かれして、水素原子が結合した分子構造を有する材料である。直鎖状でない環状の無機シリコンガスの場合は、分子量が大きく蒸気圧が低くなるので、ガス状態で供給することが困難になり、CVD法で成膜することが困難になる。なお、無機シリコンガスを処理室1内に供給する際は、必要に応じキャリアガス又は希釈ガスとして、不活性ガスをガス供給管6dから同時に供給してもよい。
ガス導入管6、ガス供給管6a、材料ガス源15a、MFC14a、開閉バルブ13a等から、材料ガス供給部である第1のガス供給部が構成される。
【0014】
ガス供給管6bには、ガス流れの上流から順に、酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス源15b、MFC14b、及び開閉バルブ13bが設けられている。本実施形態においては、酸素含有ガスは、材料ガス中のシリコンを酸化できる酸化剤として使用する酸化ガスであり、例えば、酸素(O)ガス、オゾン(O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO)ガスなどのうち、少なくとも1種類のガスを用いることができる。
ガス導入管6、ガス供給管6b、酸素含有ガス源15b、MFC14b、開閉バルブ13b等から、酸素含有ガス供給部である第2のガス供給部が構成される。
【0015】
ガス供給管6cには、ガス流れの上流から順に、フッ素を含むハロゲン系ガスである三フッ化窒素(NF)等のクリーニングガスを供給するクリーニングガス源15c、MFC14c、及び開閉バルブ13cが設けられている。
ガス導入管6、ガス供給管6c、クリーニングガス源15c、MFC14c、開閉バルブ13c等から、クリーニングガス供給部である第3のガス供給部が構成される。
ガス供給管6dには、ガス流れの上流から順に、不活性ガスを供給する不活性ガス源15d、MFC14d、及び開閉バルブ13dが設けられている。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素ガス等を用いることができる。
ガス導入管6、ガス供給管6d、不活性ガス源15d、MFC14d、開閉バルブ13d等から、不活性ガス供給部である第4のガス供給部が構成される。
【0016】
ガス供給管6bやガス供給管6cと基板処理室1との間の、ガス導入管6には、高周波印加部11が設けられている。高周波印加部11は、例えば、周波数400kHz、電力5kWで、ガス供給管6cからガス導入管6に流れるガスに高周波電力を印加し、該流れるガスをプラズマ状態にする等により、クリーニングガスを活性化する。あるいは、ガス供給管6bからガス導入管6に流れるガスに高周波電力を印加し、該流れるガスをプラズマ状態にする等により、酸素含有ガスを活性化する。
【0017】
MFC14a〜14d及び開閉バルブ13a〜13dは、制御部12に電気的に接続されている。制御部12は、処理室1内に供給するガスの種類が所望のタイミングにて所望のガス種となるよう、また、供給するガスの流量が所望のタイミングにて所望の流量となるよう、MFC14a〜14d及び開閉バルブ13a〜13dを制御する。
【0018】
次に、処理室1のガス排気部について説明する。図1に示すように、処理室1内の雰囲気を排気するガス排気管7には、ガス流れの上流から順に、圧力計8、圧力調整バルブとしてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ9、真空排気装置としての真空ポンプ10が設けられている。真空ポンプ10は、大気圧からの荒引き用のポンプと高真空に排気するためのターボ分子ポンプとを備え、処理室1内の圧力が所定の圧力(真空度)となるよう、処理室1内を真空排気するように構成されている。APCバルブ9および圧力計8は、制御部12に電気的に接続されている。制御部12は、処理室1内の圧力が所望のタイミングにて所望の圧力となるように、圧力計8により検出された圧力値に基づいてAPCバルブ9の開度を制御するように構成されている。
ガス排気管7、圧力計8、APCバルブ9、真空ポンプ10等からガス排気部が構成される。
【0019】
基板処理室1に隣接して、基板搬送室(不図示)が設けられている。基板搬送室内には、基板処理室1内へ基板2を搬入し、また、基板処理室1内から基板2を搬出する基板搬送ロボット(不図示)が設けられている。基板搬送ロボットは、搬送アームと基板載置部を備え、基板搬送室内で基板2を一定時間保持しておくことができる。基板搬送室は、基板搬送室用の真空ポンプ(不図示)に接続されており、大気圧から100Pa程度まで減圧可能である。また、窒素等の不活性ガスを供給して、任意の圧力に調整できるようになっている。
【0020】
制御部12は、図示しない操作部、表示部、入出力部等を備えていて、基板処理装置の各構成部に電気的に接続されており、各構成部を制御する。制御部12は、レシピ(成膜プロセス等の制御シーケンス)に基づき、基板処理室1内の圧力制御、各処理ガス等の流量制御、および基板処理室1内への基板搬入等の機械駆動制御等を行う。また、制御部12は、ハードウェア構成として、CPU(中央演算ユニット)と、CPUの動作プログラムやレシピ等を格納するメモリとを備えるものである。
【0021】
次に、本実施形態に係る半導体装置の製造方法としての基板処理方法を説明する。
(A)基板搬入工程
まず、処理対象である1枚の基板2を、基板搬送ロボットによって基板処理装置外部から基板搬送室内へ搬入し、不活性ガスを供給して基板搬送室内を不活性ガスに置換するとともに、基板搬送室用の真空ポンプによって100Pa程度の低圧雰囲気にされる。また、窒素ガス等の不活性ガスが、不活性ガス供給源15dから処理室1内へ供給され、不活性ガスにより基板処理室1内が置換されるとともに、APCバルブ9によって基板処理室1内が100Pa程度に調圧される。それから、基板搬送ロボットによって、基板2が、図1に示す基板処理装置の基板搬入口(不図示)から、基板処理室1内の基板支持部3に載置される。なお、本実施形態では基板の加熱を行っていないが、必要に応じてヒータユニット3bにより、基板2を所定の温度(25℃〜100℃)に昇温して維持しても良い。
【0022】
(B)成膜工程
次に、成膜工程において、真空ポンプ10により、基板処理室1の内部が所定の真空度である1〜100Pa、例えば1Paに減圧される。その後、材料ガスである直鎖状無機シリコンガスが、材料ガス供給源15aからMFC14aを通って1〜300sccm、例えば200sccmの流量に調節された後、ガス導入管6を介して基板処理室1内へ供給され、並行して、酸素含有ガスが、酸素含有ガス供給源15bからMFC14bを通って1〜600sccm、例えば400sccmの流量に調節された後、ガス導入管6を介して基板処理室1内へ供給される。このとき同時に、窒素ガス等の不活性ガスが、不活性ガス供給源15dから処理室1内へ供給されるようにしてもよい。
材料ガスが、基板処理室1に供給されている状態において、APCバルブ9により基板処理室1内を所定の圧力に調整し、材料ガスに向けて、発光部4から紫外光を照射する。材料ガスである無機シリコンガスは、紫外光照射により、分解、励起されて気相中や基板表面上で反応し、基板2上にシリコン酸化膜が形成される。
なお、このとき基板2の温度は、特に加熱しないが、約30℃に保たれる。
【0023】
(C)第1改質工程
所定の膜厚のシリコン酸化膜を基板2上に形成した後、開閉バルブ13aを閉じて材料ガスである無機シリコンガスの供給を停止する。このとき、酸素含有ガスの供給は継続し、基板処理室1内への紫外光照射も継続する。この第1改質工程によって、シリコン酸化膜中やシリコン酸化膜表面に残った水素を酸素と結合させて、水として離脱させ除去する。この工程により、シリコン酸化膜中の水分濃度を減少させることができ、シリコン酸化膜のSi−O結合を強くすることができる。
【0024】
(D)第2改質工程
(C)第1改質工程終了後、開閉バルブ13bを閉じて酸素含有ガスの供給を停止して、材料ガスと酸素含有ガスの供給を停止した状態で、所定時間、基板2へ紫外光を照射する第2改質工程を行う。その後、紫外光照射を停止し、基板処理室1内を所定の真空度1〜100Pa、例えば1Paまで、真空ポンプ10により減圧する。
このように、酸素含有ガスの供給を停止した状態で真空排気を行いながら紫外光照射を行うと、第1改質工程で除去しきれなかったHO等の不純物を脱離(残存するSi−H結合を切断してHを除去)し、シリコン酸化膜のSi−O結合を更に強くすることができる。したがって、第1改質工程に続いて、第2改質工程を行うこと、すなわち酸素含有ガスの供給を停止した状態で紫外光照射を行うことが好ましい。
【0025】
(E)基板搬出工程
次に、窒素ガス等の不活性ガスが、不活性ガス供給源15dから処理室1内へ供給され、不活性ガスにより基板処理室1内が置換されるとともに、APCバルブ9によって基板処理室1内が100Pa程度に調圧される。それから、やはり100Pa程度に調圧されている基板搬送室内へ、基板搬送ロボットにより、基板2を搬送する。その後、基板搬送室内へ窒素ガス等の不活性ガスを供給し、基板搬送室内が大気圧に復帰した後に、基板搬送ロボットにより、処理済みの基板2が処理室1の外部に搬出される。
【0026】
(F)クリーニング工程
基板搬出工程において、処理済みの基板2が処理室1の外部に搬出された後、基板2が処理室1内に存在しない状態で、例えば、NF等のフッ素を含むクリーニングガスが、クリーニングガス源15cからガス導入管6を通り、高周波印加部11でプラズマ状態にされて、処理室1内へ供給される。また、必要に応じ、クリーニングガスの供給と同時に、窒素等の不活性ガスが、不活性ガス源15dからガス導入管6を介して処理室1に供給される。処理室1内は、所定の圧力に調整される。このとき、処理室1内の圧力を例えば数十Paとする。このようにして、クリーニングガスにより、処理室1内や透過窓5の内側に堆積した付着物を除去するクリーニング処理が行われる。この付着物は、シリコン(Si)や酸素(O)を含むシリコン酸化膜である。
クリーニング工程は、上記の(A)基板搬入工程、(B)成膜工程、(C)第1改質工程、(D)第2改質工程、(E)基板搬出工程の一連の工程を、1回又は複数回実施した後、実施する。
クリーニング処理が終了すると、クリーニングガスをガス排気管7から排気するとともに、不活性ガスを、不活性ガス源15dからガス導入管6を介して処理室1に供給し、処理室1内のクリーニングガスを不活性ガスに置換する。
【0027】
(G):プリコート工程
上記のフッ素含有ガスによるクリーニング処理を行った後、直ぐに基板搬入して、上記の(B)成膜工程を行う際には、処理室1内に残留する残留フッ素等の不純物を低減し、処理条件の再現性を高めるため、成膜工程に先立って、事前にプリコート処理を行うことが有効である。プリコート処理とは、クリーニング処理により処理室1の内壁に吸着されたフッ素成分を、シリコン酸化膜により覆い封止する処理である。
プリコート工程では、上記の(B)成膜工程と同様の処理条件(ガス種、温度、圧力)により、処理室1内に基板2が存在しない状態で行う。
【0028】
次に、本発明の実施例の効果を、実験データに基づき、図2ないし図4を用いて説明する。図2は、本発明の実施例における膜収縮率と従来例との比較を示す図である。図3は、本発明の実施例における電圧−電流特性と従来例との比較を示す図である。図4は、本発明の実施例における膜密度と従来例との比較を示す図である。この実施例では、成膜工程において、材料ガスとしてジシランを用い、酸素含有ガスとして酸素ガスを用い、処理室1内の圧力を1〜100Pa例えば50Paとし、キセノンエキシマ光源を用いて紫外光を基板へ照射し、1〜60秒間、例えば20秒間で、シリコン酸化膜を形成した。次に、第1改質工程を、ジシランガスの供給を停止し酸素ガスを供給する状態で、処理室1内の圧力を1〜100Pa例えば50Paとして、キセノンエキシマ光源から紫外光を基板へ照射して、1〜60秒間、例えば20秒間実施した。次に、第2改質工程を、ジシランガスと酸素ガスの供給を停止した状態で、処理室1内の圧力を1〜100Pa例えば1Paとして、キセノンエキシマ光源から紫外光を基板へ照射して、1〜60秒間、例えば20秒間実施した。なお、本実施例では、成膜工程と第1改質工程の圧力を一定に保ったままの状態で一連の処理を行ったが、処理室の圧力を順次下げるようにしても良い。また、第2改質工程でさらに圧力を下げても良い。
【0029】
まず、図2の膜収縮率について説明する。図2においては、本実施例により形成したシリコン酸化膜を、本基板処理装置とは別の熱処理装置によって、400℃の窒素雰囲気で2時間の熱処理を施し、該熱処理の前後における膜厚を測定して、熱による膜の収縮率を算出した。この熱処理条件は、半導体デバイス生産工程において、製品が完成するまでに受ける熱処理時間の合計(熱履歴)が2時間程度であり、その温度が400℃程度であることに合わせて設定したものである。
図2において、縦軸は、熱処理後の膜厚の減少量を、熱処理前の膜厚で除した値をパーセンテージで表したものである。21は、本実施例の無機シリコンガスを用いて成膜したシリコン酸化膜の膜収縮率、22は、有機シリコンガスであるTEOSを用いて成膜したシリコン酸化膜の膜収縮率である。無機シリコンガスを用いた場合の膜収縮率は2%であり、TEOSを用いた場合の膜収縮率10%の1/5程度と、非常に小さくなったことが分かる。
【0030】
次に、図3の電圧−電流特性について説明する。図3は、本実施例により形成したシリコン酸化膜に対して、電圧を印加した際における、リーク電流値と、シリコン酸化膜が絶縁破壊(ハードブレイクダウン)するまでの耐電圧特性を測定したものである。
図3において、横軸は、シリコン酸化膜に対して印加した電界強度、縦軸は、リーク電流値を表す。また、31は、本実施例の無機シリコンガスを用いて成膜した場合、32は、有機シリコンガスであるTEOSを用いて成膜した場合である。
図3において、リーク電流値が急激に上昇している場所は、シリコン酸化膜が絶縁破壊したことを示す。31では、10MV/cm付近で絶縁破壊が生じ、32では、4MV/cm付近で絶縁破壊が生じているので、31では32よりも、絶縁耐圧が約6MV/cm改善されたことが分かる。また、1MV/cm時におけるリーク電流値が、31では1.0E−08であり、32では1.0E−03付近なので、31では32よりも、5桁程度減少したことが分かる。
【0031】
次に、図4の膜密度について説明する。図4は、本実施例により形成したシリコン酸化膜の膜密度を、X線反射法により測定したものである。
図4において、縦軸は、シリコン酸化膜の膜密度を表し、41は、本実施例の光CVD法により無機シリコンガスを用いて成膜した場合、42は、従来の熱酸化法により成膜した場合、43は、従来の塗布法により成膜した場合である。なお、42と43は、「神戸製鋼技報/Vol.52/No.2」からの引用データである。
図4において、本実施例により成膜した場合の膜密度41は、2.19g/cmであり、一般的に高密度の酸化膜を得ることができる熱酸化法の膜密度42に近いことが分かる。
【0032】
以上説明した本実施形態によれば、材料ガスに無機シリコンガスを用いるので、有機シリコンガスを用いる場合に比べ、有機成分に起因するシリコン酸化膜の膜密度低下を抑制でき、また、シリコン酸化膜を形成する際に発生する水分を抑制することができる。
有機シリコンガスを用いた場合は、シリコン酸化膜が形成された基板を熱処理する際に、シリコン酸化膜内から有機成分が離脱し、離脱した跡が機械的な歪となり、膜密度や膜密度の均一性を低下させる。また、有機シリコンガスを用いた場合は、シリコン酸化膜が形成される際に、無機シリコンガスを用いる場合に比べ水分が発生する量が多く、膜中に水分が多く残存する。膜中に残存した水分は、電界が印加されると膜中を移動し、電流を発生させるため、電気的絶縁性を低下させる。
【0033】
ここで、代表的な有機シリコン材料であるTEOSと、1分子中にシリコン原子を2つ含む無機シリコン材料であるジシランを比較する。TEOSの構造式を図5に、ジシランの構造式を図7に示す。各材料中のシリコンの含有量をモル質量比で計算すると、TEOS1モル中のシリコン含有量は13.5%であり、それ以外は有機成分である炭素と、水を発生する水素と酸素である。これに対し、ジシラン1モル中のシリコン含有量は90.3%であり、それ以外の水素の割合は低く、水分が発生する割合は低くなる。
【0034】
なお、無機シリコンガスとして、1分子中にシリコン原子を1つ含むモノシランを用いることもできるが、モノシラン1モル中のシリコン含有量は87.5%であるのに対し、ジシラン1モル中のシリコン含有量は90.3%であり、モノシランよりも水素の含有量が少ないため、水分の発生量がモノシランよりも少なく、ジシランを用いる方が、より膜密度が高く、電気的絶縁性に優れたシリコン酸化膜を形成することができる。図6に、モノシランの構造式を示す。
また、モノシランの蒸気圧は−111.5℃において1.01MPaであるが、ジシランの蒸気圧は20℃において0.35MPaであり、ジシランはモノシランよりも蒸気圧が低いので、基板上に吸着したときに基板上に滞在する時間がモノシランよりも長い。そのため、ジシランを用いる場合は、モノシランを用いる場合よりも、より膜密度が高く、電気的絶縁性に優れたシリコン酸化膜を形成することができる。
【0035】
以上説明したように、材料ガスに無機シリコンガスを用いる本実施形態によれば、有機成分を含まず、また水分発生量が少ないため、膜密度が高く、電気的絶縁性に優れたシリコン酸化膜を形成することができる。
【0036】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変更が可能であることはいうまでもない。例えば、前記実施形態では、基板を1枚ずつ処理したが、複数の基板を同時に処理するようにしてもよい。また、本発明は、半導体の絶縁膜製造だけでなく、プラスチックやレンズ等の保護膜製造等にも適用できる。
【0037】
また、上述の実施形態では、励起部として紫外光による励起エネルギーを処理室内に供給する発光部を設けたが、高周波電力やマイクロ波による励起エネルギーを処理室内に供給するプラズマ生成部や、熱による励起エネルギーを処理室内に供給する加熱ランプを有する発光部により励起部を構成しても良い。
【0038】
本明細書には、少なくとも次の発明が含まれる。すなわち、第1の発明は、
基板を処理室内へ搬入する工程と、
直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを前記処理室内に供給し、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する成膜工程と、
前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する改質工程と、
前記処理室内の雰囲気を排気する工程と、
前記基板を前記処理室から搬出する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
このように半導体装置の製造方法を構成すると、直鎖状無機シリコンを含む原料ガスを用いることによって、基板上に、炭素を含まないシリコン酸化膜を作製することができる。また、成膜時に励起エネルギーを供給することによって、原料ガスを分解することができ成膜が可能となる。また、原料ガスである直鎖状無機シリコンガスの供給を停止した後に、酸素含有ガスの供給と励起エネルギーを供給を同時に行う工程を実施することによって、Si−Oの結合を強くし、強い保護膜とすることができる。
なお、励起エネルギーとして紫外光を用いる場合は、低温のまま原料ガスを分解することができ、低温での成膜が可能となる。
【0039】
第2の発明は、前記第1の発明の半導体装置の製造方法であって、
前記直鎖状無機シリコンガスの分子は、2つ以上のシリコン原子を含むものである半導体装置の製造方法。
このように半導体装置の製造方法を構成すると、原料ガス分子中の水素よりもSiの割合が多くなるので、水分の発生を抑えることができ、膜の品質を向上させることができる。
【0040】
第3の発明は、前記第1の発明及び第2の発明の半導体装置の製造方法であって、
前記直鎖状無機シリコンガスは、Si2n+2で表される無機シリコンガスのうち、nが2以上の無機シリコンガスである半導体装置の製造方法。
このように半導体装置の製造方法を構成すると、nが多くなると原料ガス分子中の水素よりもSiの割合が多くなるので、水分の発生を抑えることができ、膜の品質を向上させることができる。例えば、n=1のモノシランよりもn=2のジシランの方が、シリコンの割合が2.8%多い。
【0041】
第4の発明は、前記第1の発明ないし第3の発明の半導体装置の製造方法であって、
前記処理室内に供給される励起エネルギーとして紫外光を用い、該紫外光の波長は100nm以上400nm以下である半導体装置の製造方法。
このように半導体装置の製造方法を構成すると、直鎖状の無機シリコンガスを分解することが容易となる。
【0042】
第5の発明は、前記第1の発明ないし第4の発明の半導体装置の製造方法であって、
前記酸素含有ガスは、O、O、NO、NOの少なくとも1種のガスを含む半導体装置の製造方法。
【0043】
第6の発明は、前記第1の発明ないし第5の発明の半導体装置の製造方法であって、
前記改質工程の後、前記直鎖状無機シリコンガスと前記酸素含有ガスの供給を停止している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する工程を有する半導体装置の製造方法。
このように半導体装置の製造方法を構成すると、直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスの供給を停止している状態で、処理室内に励起エネルギーを供給することによって、Si−Oの結合をさらに強くすることができる。
【0044】
第7の発明は、
基板を処理する処理室と、
直鎖状無機シリコンガスを処理室内へ供給する第1のガス供給部と、
酸素含有ガスを処理室内へ供給する第2のガス供給部と、
前記処理室内へ励起エネルギーを供給する励起部と、
前記処理室内の雰囲気を排気する排気部と、
前記第1のガス供給部、前記第2のガス供給部、前記励起部、前記排気部を制御する制御部とを備え、
該制御部は、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内へ励起エネルギーを供給してシリコン酸化膜を形成し、その後、前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内へ励起エネルギーを供給して前記シリコン酸化膜を改質するよう制御する制御部である基板処理装置。
このように基板処理装置を構成すると、直鎖状無機シリコンを含む原料ガスを用いることによって、基板上に、炭素を含まないシリコン酸化膜を作製することができる。また、成膜時に励起エネルギーを供給することによって、原料ガスを分解することができ成膜が可能となる。また、原料ガスである直鎖状無機シリコンガスの供給を停止した後に、酸素含有ガスの供給と励起エネルギーの供給を同時に行う工程を実施することによって、Si−Oの結合を強くし、強い保護膜とすることができる。なお、励起部が供給する励起エネルギーとして紫外光を用いる場合は、低温のまま原料ガスを分解することができ、低温での成膜が可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1…基板処理室、2…基板、3…基板支持部、4…励起部、5…透過窓、6…ガス導入管、6a〜6d…ガス供給管、7…ガス排気管、8…圧力計、9…APCバルブ、10…真空ポンプ、11…高周波印加部、12…制御部、13a〜13d…開閉バルブ、14a〜14d…MFC、15a…材料ガス源、15b…酸素含有ガス源、15c…クリーニングガス源、15d…不活性ガス源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理室内へ搬入する工程と、
直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを前記処理室内に供給し、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する成膜工程と、
前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内に励起エネルギーを供給する改質工程と、
前記処理室内の雰囲気を排気する工程と、
前記基板を前記処理室から搬出する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記直鎖状無機シリコンガスは、Si2n+2で表される無機シリコンガスのうち、nが2以上の無機シリコンガスである半導体装置の製造方法。
【請求項3】
基板を処理する処理室と、
直鎖状無機シリコンガスを処理室内へ供給する第1のガス供給部と、
酸素含有ガスを処理室内へ供給する第2のガス供給部と、
前記処理室内へ励起エネルギーを供給する励起部と、
前記処理室内の雰囲気を排気する排気部と、
前記第1のガス供給部、前記第2のガス供給部、前記励起部、前記排気部を制御する制御部とを備え、
該制御部は、前記直鎖状無機シリコンガスと酸素含有ガスとを供給している状態で、前記処理室内へ励起エネルギーを供給してシリコン酸化膜を形成し、その後、前記直鎖状無機シリコンガスの供給を停止し、前記酸素含有ガスを前記処理室内に供給している状態で、前記処理室内へ励起エネルギーを供給して前記シリコン酸化膜を改質するよう制御する制御部である基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−204694(P2012−204694A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68938(P2011−68938)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】