説明

半導体装置

【課題】 従来よりも電流駆動力の大きな窒化物半導体装置を提供する。
【解決手段】 半導体装置は、サファイア基板11と、サファイア基板11上に設けられたGaNからなる半導体層12と、半導体層12上に設けられた多層膜13と、多層膜13にオーミックコンタクトする電極14とを備えている。多層膜13は、ピエゾ分極量あるいは自発分極量が互いに異なり、共にn型不純物を含む2つの半導体層を交互に積層することで形成されているので、2つの半導体層の界面に電子が誘起され、電極14と多層膜13との間のコンタクト抵抗や、電流伝達経路における寄生抵抗を従来よりも低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体を用いた半導体装置およびその製造方法に関し、特に、III族窒化物半導体を用いた半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、その広いバンドギャップとそれに伴う高い破壊電圧、高い電子飽和速度、高い移動度、およびヘテロ接合における高い電子濃度などの利点を有することから、短波長発光素子、高出力高周波素子、高周波低雑音増幅素子などへの応用を目的とする研究開発が進められている。これらのIII族窒化物半導体素子において、素子特性を高めるためには、該半導体素子内でコンタクト抵抗やチャネル抵抗等の寄生抵抗成分を出来る限り低減させる必要がある。電流を電子によって搬送する場合、電子が伝導する領域(以下電子チャネルと総称する)に外部からオーミックコンタクトを形成する必要がある。
【0003】
図11(a)、(b)は、従来の半導体装置において、電子チャネルにオーミックコンタクトを形成するための方法を示す断面図である。また、図12は、オーミックコンタクトが形成された従来の半導体装置の一例を示す断面図である。これらの図を用いて一般的なオーミックコンタクトの形成方法を説明する。
【0004】
まず、図11(a)に示すように、母材基板であるサファイア基板161上に、活性層である窒化ガリウム(GaN)半導体層162を形成する。次いで、GaN半導体層(III族窒化物半導体層)162の上に、Tiを最下層とし、その上にAl、Ni、Auなどを含む多層金属薄膜163をリフトオフによって形成する。
【0005】
次に、図11(b)に示すように、高温(500℃以上900℃以下)でアニ−ルすることによって、Ti層とGaN半導体層162内のNとを反応させ、窒素空孔を形成するとともにGaN半導体層162上面近傍に金属性を増した領域164を形成する。これと同時に、Ga、AlもTiと同様にGaN中のNと反応する。これにより、GaN半導体層162と多層金属薄膜163とのコンタクト抵抗が低減される。
【0006】
また、コンタクト抵抗をより低減するため、コンタクト電極形成前に半導体層のうち金属膜と接することになるオーミックコンタクト形成領域を、n型に出来る限り高い濃度でドープするという方法が用いられる。
【0007】
また、図12に示す例では、SiC基板171上に下から順にチャネル層III族窒化物半導体層172、チャネル層を形成する半導体よりもバンドギャップの大きいIII族窒化物半導体からなるバリア層173が設けられ、バリア層173上にゲート電極177が設けられている。そして、バリア層173上に高濃度の不純物を含むIII族窒化物半導体層176が形成され、III族窒化物半導体層176上にはソース電極174及びドレイン電極175がそれぞれ設けられている。このような構成の電界効果トランジスタの寄生抵抗を低減するために、高濃度にドープされた窒化物半導体層176をゲート電極近傍まで形成したリセス構造とする方法が用いられる。チャネル層III族窒化物半導体層172より抵抗が低い窒化物半導体層176をゲート電極177付近まで延ばすことで、ソース−ドレイン間に流れる電流の抵抗が低減されている。また、バリア層173とのソース抵抗、ドレイン抵抗の低減が図られている。
【特許文献1】特開平9−172164号公報
【特許文献2】特開平7−142513号公報
【特許文献3】特開平11−121472号公報
【非特許文献1】H.Morkoc, A.D.Carlo, R.Cingolceni, "GaN-based modulation doped FETs", in "Low-Dimensional Nitride Semiconductors", chap.14,pp.353-354,ed.by B. Gil, Oxford University Press,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来のオーミックコンタクトの形成方法では、能動層を形成するIII族窒化物半導体がn型の場合、通常用いられる電極金属(Ti)の仕事関数が十分低くはなく、得られるコンタクト抵抗の下限もこれに規定されるという不具合があった。また、能動層を形成する窒化物半導体がp型の場合、充分に高い仕事関数を有する金属はなく、得られるコンタクト抵抗の下限もこれに規定されるという不具合があった。
【0009】
この不具合への対処法として、該電極とIII族窒化物半導体表面との間に高濃度にドープされた能動層よりはバンドギャップの狭いIII族窒化物半導体を該電極と能動層III族窒化物半導体層との間に形成する、あるいは、能動層III族窒化物半導体層の該コンタクト電極直下をキャリア・タイプに相当する不純物で高濃度にドープするという方法がとられる。しかし、これらの場合でも、達成される最高キャリア濃度は、不純物の活性化率(5×1018cm−3〜3×1019cm−3)で規定され、得られるコンタクト抵抗の下限もこの値で規定されてしまう。この最高キャリア密度が電極と能動層との間に形成される高濃度窒化物半導体層内のキャリア濃度で規定されるという不具合は、このコンタクト構造を電界効果トランジスタのソース・ドレイン電極に応用した場合でも同様である。特に、ゲート電極が直接能動層窒化物半導体層上に形成されるリセス構造においては、電極から、ゲート近傍およびその直下のチャネル層までの横方向寄生抵抗がIII族窒化物半導体層176(図12参照)の最高キャリア濃度によって規定されていた。
【0010】
また、このリセス構造の形成工程において、通常のドライエッチングでは、
チャネル層窒化物半導体層172、バリア層173、III族窒化物半導体層176よりなる積層構造との間で、選択比が低く、リセス深さの正確な制御が困難であるという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、従来よりも電流駆動力の大きな化合物半導体装置を提供すること、及び該化合物半導体装置を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の半導体装置は、基板と、分極性を有する第1の半導体層と、上記第1の半導体層とは異なる分極特性を有する第2の半導体層とが交互に少なくとも一回以上積層されてなり、上記基板の上または上方に設けられた多層膜と、上記多層膜の上に設けられたオーミック電極とを備えている。
【0013】
これにより、第1の半導体層と第2の半導体層との界面において、分極性の違いによる電荷を生じさせることができるので、従来の半導体装置に比べてオーミック電極におけるコンタクト抵抗を低減することができる。その結果、半導体装置の電流駆動力を向上させることができる。
【0014】
上記第1の半導体層と上記第2の半導体層とは、ピエゾ分極量が互いに異なっている場合に、コンタクト抵抗を低減することができる。
【0015】
上記第1の半導体層と上記第2の半導体層とは、自発分極量が互いに異なっている場合にも、コンタクト抵抗を低減することができる。特に、第1の半導体層と第2の半導体層とでピエゾ分極量も異なっている場合には、より多くの電荷を生じさせることができる。
【0016】
上記第2の半導体層よりも上記第1の半導体層の方がバンドギャップが大きく、上記多層膜のうち、上記オーミック電極の下には、不純物が導入された上記第2の半導体層が設けられていることにより、オーミック電極とチャネルとの間の抵抗を低減することができる。
【0017】
上記第1の半導体層と上記第2の半導体層のうち、いずれか一方の層が不純物を含むことにより、多層膜における抵抗値をさらに低減することができる。
【0018】
特に、上記不純物層は、上記第1の半導体層に設けられていれば、コンタクト抵抗をさらに低減できるので好ましい。
【0019】
上記第2の半導体層及び上記第1の半導体層には、共に不純物が導入されていることによって、第1の半導体層と第2の半導体層との界面により多くの電荷を生じさせることが可能となる。
【0020】
上記第1の半導体層はAlGa1−xNからなり、上記第2の半導体層はGaNからなっていることにより、ピエゾ分極量と自発分極量とが共に異なる材料を組み合わせていることになるので、コンタクト抵抗を従来よりも大きく低減することが可能となる。
【0021】
上記の場合、上記第1の半導体層と上記第2の半導体層のうち一方または両方には、n型不純物が導入されていることが好ましい。
【0022】
上記多層膜は互いに分かれて設けられた第1の多層膜と第2の多層膜とで構成されており、上記オーミック電極は上記第1の多層膜の上に設けられたソース電極と上記第2の多層膜の上に設けられたドレイン電極とを含んでおり、上記基板上で上記多層膜の下方に設けられた第3の半導体層と、上記第3の半導体層の上で上記多層膜の下に設けられ、上記第3の半導体層よりもバンドギャップの広い半導体からなるバリア層と、上記第1の多層膜と上記第2の多層膜との間であって、上記バリア層の上に設けられたゲート電極とをさらに備えていることにより、ソース及びドレイン電極における抵抗が低減され、電流駆動力の大きいHFETが実現される。
【0023】
このHFETにおいて、上記第1の多層膜と上記ソース電極、及び上記第2の多層膜と上記ドレイン電極は、それぞれ上記ゲート電極に対して階段状に形成されていることにより、ゲート電極の近傍まで、キャリアが抵抗値の小さい第1及び第2の多層膜内を走行することができるので、寄生抵抗を低減することができる。
【0024】
上記第1の半導体層の厚みは、1原子層分以上且つ100原子層分以下であれば、分極の違いにより生じたキャリアが第1の半導体層を容易にトンネルすることができるので、好ましい。なお、このような厚みの第1の半導体層が不純物を含む場合には、不純物領域が狭い領域に限定され、該不純物領域のエネルギーレベルがバンドベンディングにより低下するというδ−ドープと同等の効果を発現し、コンタクト抵抗の低減にはより有効である。
【0025】
上記ソース電極及び上記ドレイン電極の材料の仕事関数は3eV以下であることが好ましい。
【0026】
上記第1の半導体層と上記第3の半導体層とは共にAlGaNからなり、上記第3の半導体層のAl含有率は、上記第1の半導体層及び上記第2の半導体層のAl含有率よりも高いことにより、第3の半導体層の酸化レートは第1の半導体層及び第2の半導体層の酸化レートより小さくなっている。そのため、リセス構造を有するHFETの製造工程において、リセス深さの制御をより正確に行なうことが可能となる。
【0027】
上記バリア層内の、上記バリア層の上面からの距離が20nm以下の領域に、少なくとも一層のδドープ層が設けられていることにより、バリア層内部の伝導体のエネルギーレベルが引き下げられ、δドープ層が設けられていない場合に比べ電子が容易にトンネルするようになる。この結果、オーミック電極と多層膜との界面でのコンタクト抵抗が効果的に低減され、従来の半導体装置に比べて駆動電流を大きくすることができる。
【0028】
上記第1の半導体層は、上記第2の半導体層よりも厚く、且つ、上記第1の半導体層には不純物が導入されていることにより、多層膜とオーミック電極とのコンタクト抵抗を大きく低減することができる。
【0029】
上記第1の半導体層あるいは上記第2の半導体層にはn型の不純物が導入されていることが好ましい。
【0030】
本発明の第2の半導体装置は、基板と、上記基板上に設けられ、駆動時にキャリアが走行する第1のIII族窒化物半導体層と、上記第1のIII族窒化物半導体層の上に設けられ、上記第1のIII族窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きいバリア層と、上記バリア層の上または上方に設けられたオーミック電極とを備えた半導体装置であって、上記バリア層のうち、上記バリア層の上面からの距離が20nm以下の領域に、不純物を含むドープ層が設けられている。
【0031】
上記バリア層の上面からの距離が20nm以下の領域にドープ層が設けられることにより、バリア層での伝導帯端エネルギーが下がるので、キャリアである電子のトンネルが生じやすくなり、コンタクト抵抗が小さくなる。そのため、本発明の半導体装置では、従来の半導体装置よりも駆動電流を大きくすることができる。
【0032】
特に、上記ドープ層がδドープ層であることにより、導入された不純物による散乱などを抑えつつコンタクト抵抗を効果的に低減することが可能となる。
【0033】
上記バリア層の上に設けられたゲート電極をさらに備え、上記オーミック電極は、上記ゲート電極を挟むように配置されたソース電極およびドレイン電極を含んでいることにより、例えば通信機器などに好ましく用いられる駆動電流の大きいHFETなどを実現することができる。
【0034】
上記ソース電極および上記ドレイン電極は、上記バリア層の上方に設けられており、上記バリア層の上で且つ上記ソース電極の下に設けられ、不純物を含む第2のIII族窒化物半導体層と、上記バリア層の上で且つ上記ドレイン電極の下に設けられ、上記第2のIII族窒化物半導体層と同導電型の不純物を含む第3のIII族窒化物半導体層とをさらに備えていることにより、コンタクト抵抗を低減することができる。
【0035】
基板上に設けられ、チャネル層となる第1の窒化物半導体層と、上記第1の窒化物半導体層上に設けられた半導体からなるバリア層とを備えた半導体基板の、上記バリア層の上に窒化物半導体を含む多層膜を形成する工程(a)と、上記多層膜の一部を選択的に酸化する工程(b)と、上記多層膜のうち酸化された部分を選択的にエッチングして上記バリア層を露出させる工程(c)と、上記工程(c)で露出させた上記バリア層上にゲート電極を形成する工程(d)と、上記多層膜の上に上記ゲート電極を挟むようにソース電極とドレイン電極とを形成する工程(e)とを含んでいる。
【0036】
この方法により、リセス構造を有し、電流駆動力の大きいHFETとして機能する半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の半導体装置においては、窒化物半導体層をチャネル層とし、該窒化物半導体層上に設けたバリア層上に、互いに分極特性が異なり、不純物を含む窒化物半導体層を交互に積層してなる多層膜を設け、多層膜上にオーミック電極を設けている。分極特性の異なる2層の界面には電荷が誘起されるため、電極と多層膜との間のコンタクト抵抗など、寄生抵抗を従来よりも低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態における半導体装置を、図1を参照しながら説明する。
【0039】
図1(a)は、第1の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、本実施形態の半導体装置のうち多層膜13の構造を示す拡大断面図、(c)は、多層膜13の、基板面に対して上下方向の断面におけるエネルギーバンド図であり、(d)は、本実施形態の半導体装置と従来の半導体装置の電流電圧特性を示す図である。
【0040】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の半導体装置は、母材基板であるサファイア基板11と、サファイア基板11上に設けられた厚さ約2μmの窒化ガリウム(GaN)からなる半導体層12と、半導体層12上にエピタキシャル成長された、厚さ1nmのAl0.15Ga0.85N層と厚さ1nmのGaN層とを交互に10層積層してなる多層膜13と、多層膜13上に形成されたTi/Alからなる電極14とを備えている。多層膜13と電極14とはオーミックコンタクトしている。
【0041】
また、多層膜13のうち、電極14直下のGaN層15は、例えば5×1019cm−3程度の高濃度のSiでドープされており、これ以外のAl0.15Ga0.85N層及びGaN層も5×1019cm−3程度のSiでドープされている。
【0042】
以上のような多層膜13において、図1(c)に示すように、Al0.15Ga0.85N層及びGaN層には、両材料の自発分極差とピエゾ分極差とによって、それぞれ正及び負の電荷が発生する。さらに、多層膜13はn型不純物(Si)でドープされているので、多層膜13ではこの分極電荷に誘起されて、電子よりなる自由電荷が多数発生し、Al0.15Ga0.85N層とGaN層との界面に約1×1013cm−2の濃度で蓄積する。これは、体積濃度に換算すると5×1019cm−3に相当し、通常のn型不純物のドーピングで達成される上限値(2〜3×1019cm−3)を上回っている。また、Al0.15Ga0.85N層は1nmと極めて薄いため、GaN層内の伝導に寄与する電子はAl0.15Ga0.85N層のポテンシャル障壁を容易にトンネルし、多層膜13内での電気抵抗は上昇しない。
【0043】
このため、図1(d)に示すように、サファイア基板11と電極14との間に電圧を印加した場合に電極14に流れる電流の値は、従来よりも大きくなっている。すなわち、本実施形態の半導体装置におけるI−V特性の方が従来の半導体装置よりも傾きが大きく、コンタクト抵抗が約20%低減されている。
【0044】
このように、本実施形態の半導体装置においては、自発分極及びピエゾ分極に差がある材料同士を積層することで、従来よりも大幅にコンタクト抵抗を低減している。
【0045】
ここで、本実施形態の多層膜では、Al0.15Ga0.85N層とGaN層とを積層したが、AlとGaとの混合比は任意でよく、AlGa1−xN(0≦x≦1)層とGaN層とを積層してもよい。
【0046】
また、AlGa1−xN(0≦x≦1)層とGaN層以外の組み合わせの他に、自発分極とピエゾ分極のいずれかにのみ差がある半導体同士の組み合わせを用いて多層膜を形成してもコンタクト抵抗を低減できる。例えば、ピエゾ分極のみが支配的となるPbTi2−x−y−z/Pbx’y’Tiz’2−x’−y−z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x'≦1、0≦y'≦1、 0≦z'≦1)の組み合わせを用いることも可能である。また、BaSr1−xTiO/BaSr1−yTiO、KTa1−xTiO/KTa1−yTiO、CaTi1−x/CaTi1−y(x≠y)などの組み合わせを用いることも可能である。
【0047】
また、本実施形態の多層膜13には、エピタキシャル成長したスードモ−フィックなAl0.15Ga0.85N/GaN結晶を用いたため、Al0.15Ga0.85N層とGaN層との間にピエゾ分極差が生じたが、リラックスした結晶を用いても、両材料の間には自発分極の差があるので、両者の界面にはこれに相当する自由電荷が誘起される。この場合でも生じる電荷量は5×1012cm−2程度となるが、多層膜を構成する各層の膜厚を例えば半分に低減することにより、本実施例と同等の効果が得られる。
【0048】
また、本実施形態で用いたAl0.15Ga0.85N層の厚さは1.0nm程度と充分薄く、GaN層内の電子がAl0.15Ga0.85N層を容易にトンネル伝導することが可能であるが、トンネル伝導が可能であるのは原子層にして約100層程度までである。従って、Al0.15Ga0.85N層の厚さは原子層にして1層分以上100層分以下(約0.3nm以上50nm以下)であることが好ましい。これに対し、GaN層の厚みは1nm以上10nm以下程度とするのが一般的である。
【0049】
なお、本実施形態の半導体装置では、Al0.15Ga0.85N/GaNを10周期分積層させて多層膜13を形成していたが、1周期以上であればコンタクト抵抗を低減できる。ただし、Al0.15Ga0.85N層とGaN層とを複数層ずつ交互に積層する方がより多くの界面電荷による電子の波動関数の重なりが増加するので、抵抗を低減することができ、好ましい。
【0050】
また、Al0.15Ga0.85N層とGaN層とが複数層ずつ交互に積層される場合、各Al0.15Ga0.85N層の厚みは互いに異なっていてもよく、各GaN層の厚みも互いに異なっていてよい。すなわち、Al0.15Ga0.85N/GaNは交互に1回以上積層されていればよい。
【0051】
また、本実施形態の半導体装置においては、多層膜13をAl0.15Ga0.85N層及びGaN層で構成したため、n型不純物を導入したが、導入すべき不純物は半導体層の組み合わせによって異なり、p型不純物を導入する場合もある。ただし、一般的にホールより電子の方が移動度が大きいので、n型不純物を用いるAlGa1−xN層とGaN層との組み合わせを用いることがより好ましい。
【0052】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態として、Tiよりも仕事関数の小さいLiを電極材料とする半導体装置について説明する。
【0053】
図2(a)は、第2の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、本実施形態の半導体装置のうち多層膜23の構造を示す拡大断面図、(c)は、多層膜23の、基板面に対して上下方向の断面におけるエネルギーバンド図である。
【0054】
図2(a)に示すように、本実施形態の半導体装置は、サファイア基板21と、サファイア基板21上に設けられた活性層であって厚さ約2μmのGaNからなる半導体層22と、半導体層22上にエピタキシャル成長された、厚さ1nmのAl0.15Ga0.85N層と厚さ1nmのGaN層とを交互に10層積層してなる多層膜23と、多層膜23上に設けられ、超高真空中で蒸着されたLiからなる電極24とを備えている。多層膜23と電極24とはオーミックコンタクトしている。
【0055】
また、多層膜23のうち、電極24直下のGaN層25は、例えば5×1019cm−3程度の高濃度のSiでドープされており、これ以外のAl0.15Ga0.85N層及びGaN層も5×1019cm−3程度のSiでドープされている。
【0056】
以上のような多層膜23において、図1(c)に示すように、Al0.15Ga0.85N層及びGaN層には、両材料の自発分極差とピエゾ分極差とによって、それぞれ正及び負の電荷が発生する。さらに、多層膜23はn型不純物(Si)でドープされているので、多層膜23ではこの分極電荷に誘起されて、電子よりなる自由電荷が多数発生し、Al0.15Ga0.85N層とGaN層との界面に約1×1013cm−2の濃度で蓄積する。これは、体積濃度に換算すると5×1019cm−3に相当し、通常のn型不純物のドーピングで達成される上限値(2〜3×1019cm−3)を上回っている。また、Al0.15Ga0.85N層は1nmと極めて薄いため、GaN層内の伝導に寄与する電子はAl0.15Ga0.85N層のポテンシャル障壁を容易にトンネルし、多層膜23内での電気抵抗は上昇しない。
【0057】
さらに、図2(c)に示すように、本実施形態の半導体装置においては、電極に仕事関数の極めて低いLiを用いているため、電極24とGaN層25との間のポテンシャル障壁高さがTi/Alからなる電極を用いた第1の実施形態と比べ約1eV程度低い。その結果、電極24とGaN層25との間のコンタクト抵抗は約20%低減される。
【0058】
なお、本実施形態の説明では、仕事関数の小さい金属の例としてLiを挙げたが、他にも仕事関数が3eV以下の金属、すなわちNa、K、Ca、Rb、Rb、Sr、Ba、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbなどを用いてもコンタクト抵抗を従来よりも小さくできる。ただし、NaやKは水分などと反応する可能性があるので、実用上使用することは少ない。
【0059】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態として、第1及び第2の実施形態で説明した多層膜を、ヘテロ接合型電解効果トランジスタ(HFET)に利用する例を説明する。
【0060】
図3(a)は、第3の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、従来の半導体装置を示す断面図、(c)は、本実施形態及び従来の半導体装置について、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示す図である。
【0061】
図3(a)に示すように、本実施形態の半導体装置は、SiC基板31と、SiC基板31上に設けられ、チャネル層として機能する厚さ3μmのGaNからなる半導体層32と、半導体層32上に設けられ、厚さ25nmのAl0.25Ga0.75Nからなるバリア層33と、バリア層33上に設けられたゲート電極34と、半導体層32上に設けられた第1の多層膜37と、半導体層32上で、第1の多層膜37とはゲート電極34を挟む位置に設けられた第2の多層膜38と、第1の多層膜37にオーミックコンタクトするように設けられたTi/Alからなるソース電極35と、第2の多層膜38にオーミックコンタクトするように設けられたTi/Alからなるドレイン電極36とを備えている。
【0062】
また、第1の多層膜37、第2の多層膜38は、いずれも互いに分極特性の異なるAl0.15Ga0.85N層とGaN層とを交互に10層程度積層した構成となっている。そして、第1の多層膜37、第2の多層膜38のうち最上層のGaN層は、5×1019cm−3程度のSiがドープされ、それ以外の第1の多層膜37及び第2の多層膜38には、4×1018cm−3程度のSiがドープされている。
【0063】
以上のような構成をとることによって、図3(b)に示した従来の半導体装置、すなわち、Ti/Alからなるオーミック電極135、138を直接、Al0.25Ga0.75N層133上に形成した従来の半導体装置に比して、ソース及びドレイン電極におけるコンタクト抵抗を低減することができる。
【0064】
図3(c)は、上述のように、ゲート電圧が0Vであるときの本実施形態及び従来の半導体装置のIds−Vds曲線を示している。同図から、本実施形態の半導体装置のオン抵抗が2Ω・mm、従来の半導体装置のオン抵抗が3Ω・mmとなっており、本実施形態の半導体装置のオン抵抗は従来よりも大幅に低減されていることが分かる。
【0065】
このように、本実施形態の半導体装置によれば、従来よりもコンタクト抵抗が低減され、駆動電流を大きくすることができる。
【0066】
なお、本実施形態の半導体装置においては、基板面に対して上下方向でのAlGa1−xN層のポテンシャル障壁を低減するためにAl濃度をバリア層33よりも低く設定している。加えて、第1の多層膜37及び第2の多層膜38内のAl0.15Ga0.85N層の厚みは、電子のトンネリングが容易になるようにバリア層33よりも薄い1nmとしているので、抵抗値の増大が抑制されている。
【0067】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態として、第3の実施形態に係る半導体装置の第1及び第2の多層膜の形状を変えた半導体装置について説明する。
【0068】
図4(a)は、第4の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、従来の半導体装置を示す断面図、(c)は、本実施形態及び従来の半導体装置について、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示す図である。
【0069】
図4(a)に示すように、本実施形態の半導体装置は、SiC基板41と、SiC基板41上に設けられ、チャネル層として機能する厚さ3μmのGaNからなる半導体層42と、半導体層42上に設けられ、厚さ25nmのAl0.25Ga0.75Nからなるバリア層43と、バリア層43上に設けられたゲート電極44と、半導体層42上に設けられた第1の多層膜47と、半導体層42上で、第1の多層膜47とはゲート電極44を挟む位置に設けられた第2の多層膜48と、第1の多層膜47にオーミックコンタクトするように設けられたTi/Alからなるソース電極45と、第2の多層膜48にオーミックコンタクトするように設けられたTi/Alからなるドレイン電極46とを備えている。
【0070】
本実施形態の半導体装置の特徴は、第1の多層膜47と第2の多層膜48が、ゲート電極44の近傍にまで設けられたリセス構造になっていることである。ここで、第1の多層膜47とゲート電極44との距離、第2の多層膜48とゲート電極との距離は、共に10nm以上500nm以下程度とする。従って、ソース電極45、第1の多層膜47及びバリア層43は、ゲート電極44に向かう階段状に形成されていることになる。これは、ドレイン電極46、第2の多層膜48及びバリア層43についても同じである。
【0071】
これに対し、図4(b)に示す従来の半導体装置は、バリア層143上に設けられ、高濃度で不純物を含むGaNからなる第1のキャップ層147と、第2のキャップ層148とを備えている。第1のキャップ層147及び第2のキャップ層148以外の部材は本実施形態の半導体装置と同じである。
【0072】
従来の半導体装置において、高濃度にドープした第1のキャップ層147及び第2のキャップ層148をゲート電極144の近傍にまで広げることにより、ソース抵抗を主体とする寄生抵抗の低減が図られていた。本実施形態の半導体装置では、第1のキャップ層147及び第2のキャップ層148を多層膜に置き換えることによって、第1の実施形態と比べてもソース抵抗が大幅に低減されている。多くのキャリアはソース電極45から第1の多層膜47内に入り、第1の多層膜47で基板面に対し平行にゲート電極方向に流れ、そこから半導体層42に流入する。従って、本実施形態の半導体装置では、オーミック電極と半導体層とのコンタクト抵抗を低減できる上、キャリアが流れる経路上の寄生抵抗を抑え、且つチャネルに高濃度のキャリアを供給することができるので、電流駆動力がさらに向上している。
【0073】
図4(c)は、上述のように、ゲート−ソース間電圧が0Vであるときの本実施形態及び従来の半導体装置のIds−Vds曲線を示している。同図から、本実施形態の半導体装置のオン抵抗が1.25Ω・mm、従来の半導体装置のオン抵抗が1.5Ω・mmとなっており、本実施形態の半導体装置のオン抵抗は従来よりも大幅に低減されていることが分かる。
【0074】
次に、本実施形態の半導体装置の製造方法を、図5を参照しながら説明する。
【0075】
図5(a)〜(d)は、本実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【0076】
まず、図5(a)に示すように、SiC基板41上に厚さ3μmのGaNからなる半導体層42を形成する。次に、半導体層42上に厚さ25nmのAl0.25Ga0.75Nからなるバリア層43を形成する。さらに、バリア層43上に、それぞれ厚さが1nmのAl0.15Ga0.85N層とGaN層とを交互に10層積層し、多層膜58を形成する。本工程は、有機金属気相結晶成長(MOCVD)法によって形成する。
【0077】
次に、図5(b)に示すように、基板のうち、ゲート形成領域以外の領域を厚さ100nmのSi膜55で被覆し、その後100%酸素雰囲気中1000℃で10分間アニールする。これにより、多層膜58の上面のうち露出部分は酸化され、主として、Al、Gaの混合酸化膜(AlGa, 0≦x≦2, 0≦y≦1, x+y=2)56となる。
【0078】
続いて、図5(c)に示すように、フッ硝酸により露出面が酸化されたSi被覆膜を除去した後、NHOH溶液で混合酸化膜56を除去して第1の多層膜47と第2の多層膜48を形成する。次いで、ソース電極45及びドレイン電極46となるTi/Al膜をこの順に堆積し、100%H雰囲気中550℃で1分間アニールする。これによって、ソース電極45及びドレイン電極46を多層膜48と良好にオーミックコンタクトさせる。
【0079】
次に、図5(d)に示すように、Pd−Si合金を真空蒸着によってバリア層43上に堆積後、リフトオフによってゲート電極44を形成する。しかる後、表面保護膜形成、配線工程(図示せず)を行なう。以上のようにして本実施形態の半導体装置が作製される。
【0080】
本実施形態の半導体装置では、バリア層43中のAl濃度が第1の多層膜47及び第2の多層膜48中のAl0.15Ga0.85N層よりも高くなっているので、バリア層43は多層膜48よりも酸化されにくくなっている。そのため、図5(b)に示す酸化工程では、酸化をバリア層43で止めることが容易となり、リセス深さを正確に制御することが可能となる。
【0081】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態として、多層膜をいわゆるδドープ構造とした半導体装置について説明する。
【0082】
図6(a)は、第5の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、本実施形態の半導体装置のうち多層膜63の構造を示す拡大断面図、(c)は、多層膜63の、基板面に対して上下方向の断面におけるエネルギーバンド図である。
【0083】
図6(a)、(b)に示すように、本実施形態の半導体装置は、サファイア基板61と、サファイア基板61上に設けられた厚さ約2μmの窒化ガリウム(GaN)からなる半導体層62と、半導体層62上にエピタキシャル成長された、厚さ1.5nmのAl0.15Ga0.85N層と厚さ1.5nmのGaN層とを交互に10層積層してなる多層膜63と、多層膜63上に形成されたLiからなる電極64とを備えている。多層膜63と電極64とはオーミックコンタクトしている。
【0084】
本実施形態の半導体装置において、多層膜63のうち、電極64直下のGaN層65は、例えば5×1019cm−3程度の高濃度のSiでドープされており、これ以外のGaN層は1×1018cm−3程度のSiでドープされている。また、多層膜63を構成する各Al0.15Ga0.85N層の中心付近には、原子層2層分のSiがシート状にドープされている。なお、このδドープ層は、MOCVD法を用いてSiのパルスドーピングを行なうことにより形成することができる。ここで、δドープ層とは、厚さが10nm程度以下で周囲の層に比べて高濃度の不純物を含み、急峻な濃度プロファイルを有する層のことを指すものとする。
【0085】
以上の構成により、Al0.15Ga0.85N層とGaN層との界面には、第1の実施形態と同様に、両材料の自発分極差、及びピエゾ分極差に伴う分極電荷が発生する。さらに、本実施形態では、GaN層にn型不純物(Si)がドープされているので、このドープ層から電子よりなる自由電荷が多数発生し、この電子は、Al0.15Ga0.85N層とGaN層との各界面に1×1013cm−2の濃度で蓄積する。これは、体積濃度に換算すると7×1019cm−3に相当し、通常のn型不純物のドーピングで得られる上限値5×1019cm−3を上回っている。
【0086】
また、Al0.15Ga0.85N層は1.5nmと極めて薄く、且つ多層膜63の積層方向における中心部付近にはSiがドープされているため、図6(c)に示すように、Al0.15Ga0.85N層のポテンシャルは中心付近で低下し、GaN層内の伝導に寄与する電子はAl0.15Ga0.85N層のポテンシャル障壁を第2の実施形態よりもより容易にトンネルできるようになっている。
【0087】
さらに、本実施形態の半導体装置では、電極64の材料をTi/Alよりも仕事関数の小さいLiとしているため、電極64直下のGaN層65と電極64との間のポテンシャル障壁の高さは、Ti/Alを用いる場合に比べて1eV低くなっている。このため、コンタクト抵抗は約20%低減される。
【0088】
本実施形態の半導体装置においても、電極64の材料としてNa、K、Ca、Rb、Rb、Sr、Ba、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbなどを用いてもよい。
【0089】
また、ここで示したオーミックコンタクトの構成を、第3の実施形態のようなHFETや、第4の実施形態のように第1及び第2の多層膜を広げたHFETに適用することで、より駆動電流を増加させることができる。
【0090】
なお、本実施形態の半導体装置では、GaN層65を含む多層膜63内のGaN層と、各Al0.15Ga0.85N層内に不純物を導入したが、GaN層65にのみ不純物を導入してもよいし、GaN層65とAl0.15Ga0.85N層のみに不純物を導入してもよい。ただし、少なくとも、バンドギャップがより大きいAl0.15Ga0.85N層に不純物が導入されている方が、コンタクト抵抗を低減できるので好ましい。
【0091】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態として、第3の実施形態に係るHFETのうち、バリア層内にδドープ層を形成する例について説明する。
【0092】
図7(a)は、第6の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、図3(b)に示す半導体装置と同一構成である、従来の半導体装置を示す断面図である。また、図8(a)は、本実施形態の半導体装置において、バリア層付近の深さ方向の伝導帯エネルギーレベルを示す図であり、(b)は、本実施形態及び従来の半導体装置について、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示す図である。
【0093】
図7(a)に示すように、本実施形態の半導体装置は、SiC基板81と、SiC基板81上に設けられ、チャネル層として機能する厚さ3μmのGaNからなる半導体層82と、半導体層82上に設けられ、厚さ25nmのAl0.25Ga0.75Nからなるバリア層83と、バリア層83上に設けられたゲート電極84と、半導体層82上に設けられた第1の多層膜87と、半導体層82上で、第1の多層膜87とはゲート電極84を挟む位置に設けられた第2の多層膜88と、第1の多層膜87にオーミックコンタクトするように設けられたTi/Alからなるソース電極85と、第2の多層膜88にオーミックコンタクトするように設けられたTi/Alからなるドレイン電極86とを備えている。
【0094】
また、第1の多層膜87、第2の多層膜88は、いずれも互いに分極特性の異なるAl0.15Ga0.85N層とGaN層とを交互に10層程度積層した構成となっている。そして、第1の多層膜87、第2の多層膜88のうち最上層のGaN層は、5×1019cm−3程度のSiがドープされ、それ以外の第1の多層膜87及び第2の多層膜88には、4×1018cm−3程度のSiがドープされている。
【0095】
以上の構成に加え、本実施形態の半導体装置では、バリア層83のうち、バリア層83の上面からの距離が2nmの位置に厚さ1.5nmのSiを含むδドープ層90が形成されている。δドープ層90内でのSiの濃度は、約3×1019cm−3程度である。なお、このδドープ層90は、例えばSiイオンの注入によって形成することが可能である。また、δドープ層90に含まれる不純物は、第1の多層膜87および第2の多層膜88に導入される不純物と同じ導電型であることが好ましい。
【0096】
図5(c)から分かるように、δドープ層90が形成されていることによって、δドープ層90から電子が供給され、δドープ層90内に正に帯電したSiイオンが多数形成される。その結果、δドープ層90近傍のエネルギーレベルが低下し、電極側(図8(a)におけるAlGaN層の左側)から見たバリア層83(図7(a)では「Al0.25Ga0.75N層」と表記)のバリア障壁幅が、δドープ層90を形成しない場合(点線)と比べて狭くなる。そのため、本実施形態の半導体装置では、従来の半導体装置に比べてバリア障壁を透過する確率が大きくなっている。従って、本実施形態の半導体装置では、図7(b)に示す、オーミック電極185、186をバリア層182上に直接形成する従来の半導体装置や、δドープ層を形成しない第3の実施形態に係る半導体装置に比べてソース・ドレインコンタクト抵抗が低減される。
【0097】
図5(d)は、上述のように、ゲート電圧が0Vであるときの本実施形態及び従来の半導体装置のIds−Vds曲線を示している。同図から、本実施形態の半導体装置のオン抵抗が1.5Ω・mm、従来の半導体装置のオン抵抗が3Ω・mmとなっており、本実施形態の半導体装置のオン抵抗は従来よりも大幅に低減されていることが分かる。
【0098】
次に、バリア層内にδドープ層を設けた場合の、コンタクト抵抗の低減効果についての実験結果を説明する。
【0099】
図9(a)は、δドープ層を形成する効果を試験するために用いる半導体装置を示す断面図であり、(b)は、バリア層内にδドープ層を形成した場合と形成しない場合とでコンタクト抵抗及びシート抵抗をそれぞれ測定した結果を示す図である。なお、本試験で用いた半導体装置のサンプル2は、バリア層93のうちバリア層93の上面から2nmの距離にある領域にδドープ層96が設けられている点を除き本実施形態の半導体装置と同様の構成を有しているものとする。また、サンプル1は、サンプル2の半導体装置と比べてδドープ層96が設けられていない点のみが異なっている。
【0100】
この実験の結果、図9(b)に示すように、バリア層93にδドープ層96が設けられたサンプル2は、サンプル1に比べてオーミック電極95−多層膜94間の界面でのコンタクト抵抗が約1/5に低減することが分かった。さらに、δドープ層96を形成することで、シート抵抗も174Ω/□から164Ω/□へと10Ω/□低減できることも分かった。なお、このシート抵抗は、各サンプルの電極を設けない状態でのウェハ全体の抵抗である。シート抵抗が低いことは、半導体装置全体としての抵抗が小さいことを意味し、半導体装置において基板面に平行な方向(図9(a)における横方向)の電流をより大きくできることを示唆する。
【0101】
なお、この実験では、δドープ層96の位置がバリア層93内のうち上面から2nmの距離にある場合について性能を調べたが、バリア層93内のδドープ層96がバリア層93の上面から20nm以下の領域に設けられていれば、従来の半導体装置よりもコンタクト抵抗を低減できると考えられる。δドープ層96からバリア層93上面までの距離が20nmを超えると、バリア層93における伝導帯端エネルギーが従来の半導体装置と比べて大きく低減しなくなる。このため、δドープ層96からバリア層93上面までの距離を20nm以下とすることによって、電子のトンネルを容易にすることができるので、コンタクト抵抗を効果的に低減することができる。ただし、δドープ層96とバリア層93の上面との距離は小さい方がより好ましく、例えば上述のように2nm以下であればより好ましい。なお、δドープ層96はバリア層93内に少なくとも1層設けられていればコンタクト抵抗を低減できるが、複数層設けられていても構わない。
【0102】
また、δドープ層96に代えて、より緩やかな不純物プロファイルを有するドープ層を設けても、HFETなどの半導体装置の性能を従来よりは向上させることが可能である。
【0103】
−多層膜を構成する半導体層の膜厚比の検討−
以上の実施形態で説明した半導体装置では、互いに異なる分極特性を有する2種の半導体層からなる多層膜をオーミック電極とのコンタクト層として用いることで、従来の半導体装置よりもコンタクト抵抗が小さく抑えられていた。また、チャネル層の上のバリア層に縦方向の不純物プロファイルが急峻に変化するδドープ層を設けることでもコンタクト抵抗が小さく抑えられていた。
【0104】
本願発明者らは、上述の全ての実施形態に係る半導体装置において、さらなるコンタクト抵抗の低減を目指して、多層膜を構成するAl0.15Ga0.85N層とGaN層の厚さの組み合わせを変化させ、最適な膜厚の組み合わせについて検討した。
【0105】
図10は、本発明の半導体装置において、多層膜を構成する半導体層の厚さの組み合わせを変化させたときのコンタクト抵抗を測定した結果を示す図である。本測定で用いた半導体装置は、多層膜を構成するAl0.15Ga0.85N層とGaN層の厚み、およびAl0.15Ga0.85N層とGaN層中の不純物濃度を除いて第1の実施形態に係る半導体装置と同様の構成を有しているものとする。本測定で用いた半導体装置では、Al0.15Ga0.85N層にのみn型不純物がドープされ、GaN層には意識的なドーピングがなされていない。また、本測定においては、Al0.15Ga0.85N層とGaN層の比がそれぞれ1:1、2:1、および4:1の場合のコンタクト抵抗を調べた。
【0106】
その結果、図10に示すように、Al0.15Ga0.85N層とGaN層の比が1:1の場合が最もコンタクト抵抗が大きく、Al0.15Ga0.85N層とGaN層の比が4:1の場合が最もコンタクト抵抗が小さいことが分かった。この結果から、本発明の半導体装置において、Al0.15Ga0.85N層が不純物を含む場合、Al0.15Ga0.85N層をGaN層より厚くすることにより、コンタクト抵抗を低減できることが分かる。すなわち、上述の全ての実施形態に係る半導体装置において、Al0.15Ga0.85N層をGaN層より厚くすることが好ましい。
【0107】
なお、オーミック電極の下に設けられる多層膜がAl0.15Ga0.85N層とGaN層以外のIII族窒化物半導体から構成されている場合でも上述の結果を適用できると考えられる。つまり、互いに異なる分極特性を持つ2種類の半導体層から多層膜が構成され、バンドギャップが大きい方の半導体層に不純物が導入されている場合、バンドギャップが大きい方の半導体層の厚みを、バンドギャップが小さい方の半導体層よりも厚くすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明の半導体装置は、高速動作が要求される通信機器など、種々の機器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、第1の実施形態に係る半導体装置のうち多層膜の構造を示す拡大断面図、(c)は、多層膜の、基板面に対して上下方向の断面におけるエネルギーバンド図であり、(d)は、第1の実施形態に係る半導体装置と従来の半導体装置の電流電圧特性を示す図である。
【図2】(a)は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、第2の実施形態に係る半導体装置のうち多層膜の構造を示す拡大断面図、(c)は、多層膜の、基板面に対して上下方向の断面におけるエネルギーバンド図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、従来の半導体装置を示す断面図、(c)は、第3の実施形態及び従来の半導体装置について、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示す図である。
【図4】(a)は、本発明の第4の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、従来の半導体装置を示す断面図、(c)は、第4の実施形態及び従来の半導体装置について、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示す図である。
【図5】(a)〜(d)は、本実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【図6】(a)は、本発明の第5の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、第5の実施形態に係る半導体装置のうち多層膜の構造を示す拡大断面図、(c)は、多層膜の、基板面に対して上下方向の断面におけるエネルギーバンド図である。
【図7】(a)は、第6の実施形態に係る半導体装置を示す断面図、(b)は、図3(b)に示す半導体装置と同一構成である、従来の半導体装置を示す断面図である。
【図8】(a)は、第6の実施形態に係る半導体装置において、バリア層付近の深さ方向の伝導帯エネルギーレベルを示す図であり、(b)は、第6の実施形態及び従来の半導体装置について、ドレイン電圧とドレイン電流との関係を示す図である。
【図9】(a)は、δドープ層を形成する効果を試験するために用いる半導体装置を示す断面図であり、(b)は、バリア層内にδドープ層を形成した場合と形成しない場合とでコンタクト抵抗及びシート抵抗を測定した結果を示す図である。
【図10】本発明の半導体装置において、多層膜を構成する半導体層の厚さの組み合わせを変化させたときのコンタクト抵抗を測定した結果を示す図である。
【図11】(a)、(b)は、従来の半導体装置において、チャネルにオーミックコンタクトを形成するための方法を示す断面図である。
【図12】オーミックコンタクトが形成された従来の半導体装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0110】
11、21、61 サファイア基板
12、22、32、42、62、82 半導体層
13、23、63、94 多層膜
14、24、64 電極
15、25、65 GaN層
31、41、81 SiC基板
33、43、83、93 バリア層
34、44、84 ゲート電極
35、45、85 ソース電極
36、46、86 ドレイン電極
37、47、87 第1の多層膜
38、48、88 第2の多層膜
55 Si膜
56 混合酸化膜
90、96 δドープ層
95 オーミック電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、上記基板上に設けられ、駆動時にキャリアが走行する第1のIII族窒化物半導体層と、上記第1のIII族窒化物半導体層の上に設けられ、上記第1のIII族窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きいバリア層と、上記バリア層の上または上方に設けられたオーミック電極とを備えた半導体装置であって、
上記バリア層のうち、上記バリア層の上面からの距離が20nm以下の領域に、不純物を含むドープ層が設けられている、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
上記ドープ層は、δドープ層である、半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
上記バリア層の上に設けられたゲート電極をさらに備え、
上記オーミック電極は、上記ゲート電極を挟むように配置されたソース電極およびドレイン電極を含んでいる、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
上記ソース電極および上記ドレイン電極は、上記バリア層の上方に設けられており、
上記バリア層の上で且つ上記ソース電極の下に設けられ、不純物を含む第2のIII族窒化物半導体層と、
上記バリア層の上で且つ上記ドレイン電極の下に設けられ、上記第2のIII族窒化物半導体層と同導電型の不純物を含む第3のIII族窒化物半導体層とをさらに備えている半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−98674(P2008−98674A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332701(P2007−332701)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【分割の表示】特願2004−140251(P2004−140251)の分割
【原出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】