説明

半導体装置

【課題】半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を効率的に行うことが可能な半導体装置を提供すること。
【解決手段】ケース10内のEHD流体からなる絶縁性流体50には、半導体素子20から受けた熱を相変化に伴う潜熱として蓄熱する潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルが分散されている。そして、針状電極81と環状電極82との間への電圧印加による絶縁性流体50の強制的な対流に伴って、半導体素子20の上面20b近傍のマイクロカプセルを入れ替えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱材を用いた半導体素子の冷却構造を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば下記特許文献1に開示された半導体素子の冷却構造を備えた半導体装置がある。この半導体装置は、半導体素子と、半導体素子が搭載されるヒートシンクと、半導体素子に対してヒートシンクの反対側に位置するように半導体素子に取付けられた潜熱蓄熱材を含む蓄熱部材とを備えており、蓄熱部材はケース内に潜熱蓄熱材を充填して構成されている。このような構成により、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合には、蓄熱部材の潜熱蓄熱材が吸熱して半導体素子の温度上昇を抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−193017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術の半導体装置では、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、潜熱蓄熱材への蓄熱を効率的に行うことができないという問題がある。これは、潜熱蓄熱材は比較的熱伝導性が低いため、半導体素子の発した熱はケース内における半導体素子近傍の潜熱蓄熱材には伝わるものの、半導体素子近傍の潜熱蓄熱材が熱抵抗となって潜熱蓄熱材全体には伝わり難いためである。
【0005】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を効率的に行うことが可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
半導体素子(20)と、
半導体素子を内部に収納するケーシング(10)と、
半導体素子の一方の面である第1面(20a)側に配設され、半導体素子が発する熱をケーシングの外部に放熱するヒートシンク(40)と、
半導体素子の第1面とは反対側の第2面(20b)に接するようにケーシング内に充填され、ケーシング内で対流可能な絶縁性流体(50)と、を備え、
絶縁性流体には、半導体素子から受けた熱を相変化に伴う潜熱として蓄熱する潜熱蓄熱材(56)を封入したマイクロカプセル(55)が分散されていることを特徴としている。
【0007】
これによると、半導体素子(20)の定常的な冷却はヒートシンク(40)によって行い、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合には、絶縁性流体(50)中のマイクロカプセル(55)に封入された潜熱蓄熱材(56)が相変化して吸熱し、半導体素子の温度上昇を抑制することができる。マイクロカプセルは対流可能な絶縁性流体中に分散されているので、ケーシング内での絶縁性流体の対流に伴って、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルを半導体素子の第2面の近傍から遠ざけるとともに、未だ潜熱蓄熱を行っていない潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルを半導体素子の第2面の近傍に供給することができる。このように、半導体素子の第2面の近傍において潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルを入れ替えることにより、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルが熱抵抗となることを抑制することができる。したがって、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を効率的に行うことができる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明では、絶縁性流体をケーシング内で強制的に対流させる強制対流手段(81、82)を備えることを特徴としている。これによると、強制対流手段(81、82)によって絶縁性流体をケーシング内で強制的に対流させることにより、半導体素子の第2面の近傍において潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルを積極的に入れ替えることができる。したがって、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルが熱抵抗となることを確実に抑制することが可能であり、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を、一層効率的に行うことができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明では、絶縁性流体は、電気流体力学現象を示す流体であり、強制対流手段は、ケーシング内に設けられ、絶縁性流体に電圧を印加して電気流体力学現象により絶縁性流体を流動させる一対の電極(81、82)であることを特徴としている。これによると、一対の電極(81、82)の間に電圧を印加するだけで、電気流体力学現象により、絶縁性流体をケーシング内で容易に強制的に対流させることができる。
【0010】
ここで、電気流体力学(Electrohydrodynamics、略してEHD)現象とは、例えば、「社団法人電気学会、電気学会技術報告(II部)第56号(昭和52年6月)「EHD調査専門委員会報告」EHD調査専門委員会、木脇、他」に記載されているように、流体力学の法則に従って運動する流体の中に荷電粒子が含まれていて、静電界の法則に従う電界等をつくるとともに、電気力学の法則にも従うような運動をする場合の現象をいう。
【0011】
また、請求項4に記載の発明では、絶縁性流体には、更に、絶縁性を有し絶縁性流体よりも熱伝導率が高い高熱伝導フィラー(50a)が添加されていることを特徴としている。これによると、半導体素子からの熱を受けた絶縁性流体は、絶縁性流体よりも熱伝導率が高い高熱伝導フィラー(50a)を介して、絶縁性流体中に分散されたマイクロカプセル内に封入された潜熱蓄熱材へ速やかに熱を伝えることができる。したがって、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を、より一層効率的に行うことができる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明では、絶縁性流体の有する熱をケーシングの外部に放熱する放熱手段(60)を備えることを特徴としている。これによると、絶縁性流体中に分散されたマイクロカプセル内の潜熱蓄熱材の有する熱を、絶縁性流体を介して放熱手段(60)で伝達し、放熱手段によってケーシングの外部に放熱することができる。したがって、マイクロカプセル内の潜熱蓄熱材を、吸熱時とは逆方向に相変化させて、吸熱能力を容易に回復することが可能である。
【0013】
また、請求項6に記載の発明では、半導体素子の第2面から絶縁性流体の内部に突設され、半導体素子から絶縁性流体への伝熱を促進する伝熱促進手段(70)を備えることを特徴としている。これによると、伝熱促進手段(70)により伝熱面積を増大して、半導体素子から絶縁性流体中に分散されたマイクロカプセル内に封入された潜熱蓄熱材への伝熱を促進することができる。したがって、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を、更に効率的に行うことができる。
【0014】
また、請求項7に記載の発明では、絶縁性流体の半導体素子と接する側とは反対側の面を全域に亘って覆い、絶縁性流体をケーシングの内部に封止するゲル状封止部材(51)を備えることを特徴としている。これによると、ゲル状封止部材(51)により、絶縁性流体の温度変化に伴う体積変化や潜熱蓄熱材の相変化に伴う体積変化に対応しつつ、絶縁性流体をケーシング内に容易に保持することができる。
【0015】
また、請求項8に記載の発明では、ヒートシンクは第1ヒートシンク(40)であり、半導体素子の第2面側に配設され、半導体素子が発する熱を第2面からもケーシングの外部に放熱する第2ヒートシンク(41)を備えることを特徴としている。このように、半導体素子を第1、第2ヒートシンク(40、41)により両面側から冷却する半導体装置においても、絶縁性流体を対流させて、半導体素子の第2面の近傍において潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルを入れ替えることにより、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材を封入したマイクロカプセルが熱抵抗となることを抑制することができる。このようにして、半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、半導体素子が発した熱の潜熱蓄熱材への蓄熱を効率的に行うことができる。
【0016】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用した第1の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】半導体装置の要部構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明を適用した第2の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明を適用した第3の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図5】本発明を適用した第4の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図6】本発明を適用した第5の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明を適用した他の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図8】本発明を適用した他の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【図9】本発明を適用した他の実施形態における半導体装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明を適用した第1の実施形態における半導体装置1の概略構成を示す断面図であり、図2は、半導体装置1の要部である絶縁性流体50中の概略構成を模式的に示す断面図である。本実施形態の半導体装置1は、例えば車両に搭載される制御機器の制御回路を構成するものであって、例えばスイッチング回路を構成するIGBT素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ素子)やダイオード素子等の半導体素子20を備えるものである。図1に示す半導体装置1は、2つのIGBT素子を並列接続、もしくは、IGBT素子とダイオードとを並列接続した装置を例示している。
【0020】
図1に示すように、半導体装置1は、半導体素子20を内部に収容するケーシングである例えば樹脂製のケース10を備えている。ケース10は、比較的高さが低い(図示上下方向の寸法が比較的小さい)略角筒形状をなしており、ケース10の図示下方開口部を塞ぐように、金属製で(例えば銅材もしくはアルミニウム材からなる)平板状のヒートシンク40が配設されている。
【0021】
半導体素子20は回路基板30に実装されている。回路基板30は、例えば絶縁体(例えばセラミック)からなる絶縁基板31と、絶縁基板31の図示上面に形成された例えば銅箔もしくは導電ペースト焼成体からなる導体パターン32とにより構成されている。半導体素子20は、下面20a(本発明の第1面に相当)が導体パターン32に半田付け等により電気的に接続されている。
【0022】
このように半導体素子20を実装した回路基板30は、回路基板30の非実装面が全域に亘ってヒートシンク40に接触するようにケース10内に配設されている。すなわち、ヒートシンク40は、半導体素子20の一方の面である下面20a側に配設されており、半導体素子20が発する熱を回路基板30を介して受熱し、ケース10の外部へ放熱するようになっている。
【0023】
ケース10には、電極端子を有する金属製の(例えば銅材もしくはアルミニウム材からなる)リードフレーム11がインサート成形されている。リードフレーム11のケース10内方側の端子部と半導体素子20の上面20bとの間、および、リードフレーム11のケース10内方側の端子部と回路基板30の導体パターン32との間等は、ボンディングワイヤ12で電気的に接続されて、半導体装置1内の回路が構成されている。リードフレーム11の一部はケース10の外方に突出して外部接続端子11aとなっている。
【0024】
ケース10の内部には、電気絶縁性を有する絶縁性流体50が充填されている。図1から明らかなように、絶縁性流体50は、半導体素子20が実装された回路基板30の上面を全域に亘って覆い、半導体素子20の下面20aとは反対側の上面20b(本発明の第2面に相当)に直接接するようにケース10内に充填されている。なお、絶縁性流体50は、ボンディングワイヤ12を含むケース10内の回路構成部を全て埋没するように(浸漬するように)充填されている。
【0025】
本実施形態の絶縁性流体50は、電気流体力学現象(EHD現象)を示す所謂EHD流体からなる。絶縁性流体50には、例えば、フロリナート、ドデカン2酸nブチル、キシレン、シリコーンオイル等を採用することができる。
【0026】
ケース10内の回路基板30上には、対をなす針状電極81と環状電極82とが配設されている。図1に示すように、針状電極81は、環状電極82の中心を指すような向きで、環状電極82に対して対向配置されている。
【0027】
両電極81、82は、例えば金属製であり、針状電極81は、半導体素子20の上面に電気的に接続され、環状電極82は、導体パターン32に電気的に接続されている。これにより、半導体素子20の両面に電圧が印加された場合には、針状電極81と環状電極82との間に電位差が発生するようになっている。
【0028】
針状電極81と環状電極82と間に電位差がある場合には、両電極81、82間において絶縁性流体50に電圧が印加され、EHD流体からなる絶縁性流体50はEHD現象により比較的流速が速い所謂ジェット流を形成する。これにより、ケース10内において、絶縁性流体50が強制的に対流させられるようになっている。
【0029】
図1では、両電極81、82により形成される絶縁性流体50の流れは、半導体素子20の上面20bに沿うように示しているが、半導体素子20の上面20bに接する絶縁性流体50が入れ替わるように流れるものであればよい。例えば、図示上方から下方に向かって半導体素子20の上面20bに絶縁性流体50が衝突するように流れるものであれば、半導体素子20の上面20bに接する絶縁性流体50が確実に入れ替わり好ましい。
【0030】
絶縁性流体50に電圧を印加して電気流体力学現象により絶縁性流体50を流動させる一対の電極である針状電極81および環状電極82は、本実施形態における強制対流手段に相当する。
【0031】
なお、絶縁性流体50に電圧を印加する電極は、針状電極81と環状電極82との組み合わせに限定されず、絶縁性流体50に電圧を印加できるものであれば、他の形状をなしていてもかまわない。また、絶縁性流体50に電圧を印加できるものであれば、両電極81、82の電気的接続部位も上述した位置に限定されるものではない。
【0032】
また、絶縁性流体50に電圧を印加する電極は、少なくとも一対の電極を備えていればよく、複数対の電極であってもよい。また、陽極をなす電極の数と陰極をなす電極の数が異なるものであってもかまわない。
【0033】
図1では図示を省略しているが、図2に示すように、絶縁性流体50中には、マイクロカプセル55が分散されている。マイクロカプセル55は、例えば、ポリアミド樹脂等の樹脂製であり、電気絶縁性を有するとともに、略球形をなしている。
【0034】
マイクロカプセル55の内部には、半導体素子20から受けた熱を固相から液相への相変化に伴う潜熱として蓄熱することが可能な潜熱蓄熱材56が封入されている。潜熱蓄熱材56としては、例えば、エリスリトール、キシリトール、パラフィン等を採用することができる。
【0035】
図1に示すように、ケース10の内部には、絶縁性流体50の上面、すなわち、絶縁性流体50の半導体素子20と接する側とは反対側の面を全域に亘って覆い、絶縁性流体50をケース10の内部に封止する可撓性を有するゲル状の封止部材51(本発明のゲル状封止部材に相当)が層状に設けられている。封止部材51には、例えばシリコーンゲルを用いることができる。
【0036】
上述の構成において、半導体素子20が作動に伴って定常的な発熱をしているときには、半導体素子20が発した熱は主にヒートシンク40によりケース10外部に放熱され、半導体素子20が冷却される。半導体素子20の発熱量が短時間で急激に増大した場合には、ケース10内で強制的に対流させられている絶縁性流体50中に分散されたマイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56が固相から液相へ相変化して吸熱し、半導体素子20の温度上昇を抑制する。
【0037】
上述の構成の半導体装置1によれば、ケース10内のEHD流体からなる絶縁性流体50には、半導体素子20から受けた熱を固相から液相への相変化に伴う潜熱として蓄熱する潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55が分散されている。そして、針状電極81と環状電極82との間への電圧印加によって生じるEHD現象により絶縁性流体50は強制的に対流させられる。この絶縁性流体50の強制的な対流に伴って、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55を半導体素子20の上面20b近傍から遠ざけるとともに、未だ潜熱蓄熱を行っていない潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55を半導体素子20の上面20b近傍に供給することができる。
【0038】
このように、半導体素子20の上面20b近傍において潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55を積極的に入れ替えることにより、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル56が熱抵抗となることを抑制することができる。したがって、半導体素子20の発熱量が短時間で急激に増大した場合に、半導体素子20が発した熱の潜熱蓄熱材56への蓄熱を効率的に行うことができる。
【0039】
また、絶縁性流体50の上面の全域をゲル状の封止部材51で覆って、絶縁性流体50をケース10内に封止している。したがって、封止部材51により絶縁性流体50をケース10内に確実に保持することができる。また、封止部材51はゲル状であるので、絶縁性流体50の温度変化に伴う体積変化やマイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56の相変化に伴う体積変化があっても、撓んでこれらの体積変化に対応することが可能であり、絶縁性流体50をケース10内に安定して保持することができる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について図3に基づいて説明する。
【0041】
本第2の実施形態は、前述の第1の実施形態と比較して、絶縁性流体50の有する熱をケース10の外部へ放熱する放熱手段を追加した点が異なる。なお、第1の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。
【0042】
図3に示すように、本実施形態の半導体装置は、放熱手段である放熱器60を備えている。放熱器60は、図示上下方向に延びるヒートパイプ61とヒートパイプ61に熱的に接合されたフィン62とを有している。ヒートパイプ61は、例えば両端を閉塞された銅製のパイプ部材の内部に作動液としての水を封入して構成されている。
【0043】
図3では図示を省略しているが、第1の実施形態と同様に、絶縁性流体50中には、潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55が分散されている。
【0044】
ヒートパイプ61の図示下端部はマイクロカプセル55(図2参照)が分散された絶縁性流体50内に位置し、図示上端部は封止部材51の上面よりも上方に位置している。ヒートパイプ51の絶縁性流体50内に位置する部分および封止部材51よりも上方に突出している部分には、例えば銅製でプレート状のフィン62が接合されている。
【0045】
本実施形態の半導体装置によれば、絶縁性流体50の有する熱をケース10の外部へ放熱する放熱器60を備えているので、マイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56(図2参照)が有する熱を、絶縁性流体50およびマイクロカプセル55を介して(放熱器60に触れたマイクロカプセル55に関しては主にマイクロカプセル55を介して)放熱器60へ伝達し、ケース10の外部に放熱することができる。したがって、マイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56を、吸熱時とは逆に液相から固相に相変化させて、吸熱能力を容易に回復することができる。
【0046】
また、放熱器60は、絶縁性流体50内に位置する部分および封止部材51よりも上方に突出している部分のそれぞれにフィン62を有しているので、絶縁性流体50からの吸熱および空気への放熱を効率よく行うことができる。
【0047】
また、絶縁性流体50は常時流動性を有するものであるが、放熱器60は封止部材51に支持されているので、位置が大きく変位することはない。放熱器60は、封止部材51のみに支持されているものに限定されず、ケース10に取付けられて支持されるものであってもよい。また、放熱手段の構成は、ヒートパイプ61を有する放熱器60の構成に限定されず、絶縁性流体50が有する熱(具体的には、潜熱蓄熱材56が有する熱)をケース10の外部へ放熱可能なものであればよい。
【0048】
なお、本実施形態の半導体装置では、半導体素子20の上面20bに接する絶縁性流体50が確実に入れ替わるとともに、放熱器60のフィン62に接する絶縁性流体50が確実に入れ替わるように、ケース10内において絶縁性流体50を対流させることが好ましい。
【0049】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について図4に基づいて説明する。
【0050】
本第3の実施形態は、前述の第1の実施形態と比較して、半導体素子20から潜熱蓄熱材56への伝熱を促進する伝熱促進手段を追加した点が異なる。なお、第1の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。
【0051】
図4に示すように、本実施形態の半導体装置は、伝熱促進手段である伝熱フィン70を備えている。伝熱フィン70は、例えば、銅材やアルミニウム材からなり、半導体素子20の上面20bに沿って延びる平板部から図示上方に向かって複数の壁部が立設され、断面形状が櫛歯状をなしている。伝熱フィン70は、上述の平板部が半導体素子20の上面20bの一部に、例えば半田付け等により接合されている。
【0052】
図4では図示を省略しているが、第1の実施形態と同様に、絶縁性流体50中には、潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55が分散されている。
【0053】
本実施形態の半導体装置によれば、半導体素子20の上面20bから絶縁性流体50の内部に突設された伝熱フィン70を備えており、伝熱フィン70と絶縁性流体50との接触面積は、半導体素子20の上面20bと伝熱フィン70との接合面積よりも大きくなっている。すなわち、伝熱フィン70を設けることにより半導体素子20から絶縁性流体50への伝熱面積を増大して、半導体素子20から絶縁性流体50に分散されたマイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56(図2参照)への伝熱を促進可能としている。したがって、半導体素子20が発した熱をの潜熱蓄熱材56への蓄熱を一層効率的に行うことができる。
【0054】
伝熱促進手段は、上記構成の伝熱フィン70に限定されず、絶縁性流体50よりも熱伝導率が高い高熱伝導材料で形成され、絶縁性流体50との接触面積を増大できるものであればよい。例えば、複数の針状部が絶縁性流体50の内部に突設された金属製の伝熱フィンであってもよい。
【0055】
なお、本実施形態の半導体装置では、半導体素子20の上面20bに接する絶縁性流体50が確実に入れ替わるとともに、伝熱フィン70に接する絶縁性流体50が確実に入れ替わるように、ケース10内において絶縁性流体50を対流させることが好ましい。
【0056】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について図5に基づいて説明する。
【0057】
本第4の実施形態は、前述の第1の実施形態と比較して、絶縁性流体50に絶縁性の高熱伝導フィラーが添加されている点が異なる。なお、第1の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。
【0058】
図5に示すように、本実施形態の半導体装置は、絶縁性流体50中に、電気絶縁性を有し絶縁性流体50よりも熱伝導率が高い高熱伝導フィラー50aが添加されている。高熱伝導フィラー50aは、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、シリカ等からなるセラミックフィラーであり、針状(細線状)や円盤状をなしているものが好ましい。
【0059】
図5では、高熱伝導フィラー50aを解り易い様に比較的大きく図示しているが、例えば、直径が約1μm、長さが約100μmの比較的高アスペクト比のセラミックフィラーを採用することができる。高熱伝導フィラー50aは、絶縁性流体50中にほぼ均一に分散していることが好ましい。
【0060】
図5では図示を省略しているが、第1の実施形態と同様に、絶縁性流体50中には、潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55も分散されている。
【0061】
本実施形態の半導体装置によれば、半導体素子20から受熱した絶縁性流体50は、絶縁性流体50よりも熱伝導率が高い高熱伝導フィラー50aを介して、絶縁性流体50中に分散されたマイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56へ速やかに熱を伝えることができる。したがって、半導体素子20が発した熱の潜熱蓄熱材56への蓄熱を、より効率的に行うことができる。また、高熱伝導フィラー50aは絶縁性を有しているので、高アスペクト比のフィラーを採用したとしても、半導体装置の回路が短絡することはない。
【0062】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について図6に基づいて説明する。
【0063】
本第5の実施形態は、本発明を両面冷却タイプの半導体装置に適用した例である。なお、第1の実施形態と同様の部分については、同一の符号をつけ、その説明を省略する。
【0064】
図6に示すように、本実施形態の半導体装置は、半導体素子20の下面20a側に配置したヒートシンク40(第1ヒートシンクに相当)と、半導体素子20の上面20b側に配置したヒートシンク41(第2ヒートシンクに相当)とを備えている。
【0065】
ヒートシンク40、41は、いずれも例えば銅製の平板状の部材であり、ヒートシンク40は、半導体素子20の下面20aに直接接触している。また、ヒートシンク41は、例えば銅製のスペーサ42を介して半導体素子20の上面20bに接触している。スペーサ42は、半導体素子20の上面20bの一部に直接接触している。
【0066】
図6から明らかなように、本実施形態の半導体装置は、第1の実施形態で説明した回路基板30を有しておらず、ヒートシンク40、41およびスペーサ42が、導体パターンと同等の機能を有している。したがって、ヒートシンク40、41には、外部接続端子11aが電気的に接続している。
【0067】
また、本実施形態では、針状電極81はヒートシンク41に電気的に接続され、環状電極82はヒートシンク40の電気的に接続されて、絶縁性流体50の電圧を印加するようになっている。
【0068】
なお、本実施形態においても、絶縁性流体50に電圧を印加する電極は、針状電極81と環状電極82との組み合わせに限定されず、絶縁性流体50に電圧を印加できるものであれば、他の形状をなしていてもかまわない。また、絶縁性流体50に電圧を印加できるものであれば、両電極81、82の電気的接続部位も上述した位置に限定されるものではない。
【0069】
また、絶縁性流体50に電圧を印加する電極は、少なくとも一対の電極を備えていればよく、複数対の電極であってもよい。また、陽極をなす電極の数と陰極をなす電極の数が異なるものであってもかまわない。
【0070】
本実施形態では、ケース10は、半導体素子20を挟み込んだ一対のヒートシンク40、41の外周縁部の間を全周に亘ってシールするようにモールドされている。上述した外部接続端子11aは、このケース10にインサート成形されている。そして、一対のヒートシンク40、41、およびケース10によって取り囲まれた空間に、絶縁性流体50が充填されている。
【0071】
絶縁性流体50を上記内部空間に充填するために、例えば、ケース10を形成する工程は、絶縁性流体充填経路を有する状態に成形するステップと、充填経路を閉塞するステップとを含む、複数のステップを有している。
【0072】
なお、本実施形態の半導体装置は、ヒートシンク40、41を電気導通回路の一部として利用しているので、ヒートシンク40、41を外部から絶縁する必要がある。そこで、両ヒートシンク40、41の積層方向における外側面の全域を覆うように、絶縁性を有し熱伝導性に優れる、例えばセラミック材からなる絶縁板43を配設している。
【0073】
図6では図示を省略しているが、第1の実施形態と同様に、絶縁性流体50中には、潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55も分散されている。
【0074】
本実施形態の半導体装置によれば、半導体素子20の下面20aの全域に接触するヒートシンク40と、半導体素子20の上面20bの一部にスペーサ42を介して接触するヒートシンク41とで、半導体素子20の定常的な冷却を行い、半導体素子20の発熱量が短時間で急激に増大した場合には、半導体素子20の上面20bに直接触れている絶縁性流体50中に分散されたマイクロカプセル55中の潜熱蓄熱材56によって、半導体素子20から速やかに吸熱することができる。
【0075】
ケース10内で絶縁性流体50を対流させているので、半導体素子20の上面20bの近傍において潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55を積極的に入れ替えることにより、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル56が熱抵抗となることを抑制することができる。このようにして、両面冷却タイプの半導体装置においても、半導体素子20の発熱量が短時間で急激に増大した場合には、半導体素子20が発した熱の潜熱蓄熱材56への蓄熱を効率的に行うことができる。
【0076】
また、ケース10内で絶縁性流体50を対流させているので、既に潜熱蓄熱を行った潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル56をヒートシンク40、41に近づけて、あるいは衝突させて、マイクロカプセル55内の潜熱蓄熱材56の有する熱をケース10の外部に放熱し、吸熱能力を回復することが可能である。
【0077】
したがって、本実施形態の半導体装置では、半導体素子20の上面20bに接する絶縁性流体50が確実に入れ替わるとともに、ヒートシンク40、41に接する絶縁性流体50が確実に入れ替わるように、ケース10内において絶縁性流体50を対流させることが好ましい。
【0078】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0079】
上記第1〜第4の実施形態では、ゲル状の封止部材51で絶縁性流体50を封止していたが、これに限らず、例えば、図7に示すように、封止部材51を廃止してもかまわない。半導体装置が、車両に搭載して用いられる等、振動が加わったり搭載姿勢が傾斜したりするような場合にはゲル状の封止部材51で封止することが好ましいが、定置使用される場合には、封止部材51を用いないことも可能である。また、車両搭載等においても、封止部材51を用いず、ケース10の上端開口をカバー部材等で閉塞して用いることも可能である。
【0080】
また、上記各実施形態では、強制手段手段として針状電極81および環状電極82の一対の電極を設けていたが、これに限定されるものではない。例えば、図8に示すように、強制対流手段としてマイクロポンプ90等のポンプ手段を採用してもかまわない。この場合には、絶縁性流体50は、EHD現象を示す流体でなくてもよい。
【0081】
また、例えば、図9に示すように、強制対流手段を採用せず、絶縁性流体50の昇温に伴う密度低下や、潜熱蓄熱材56の固相から液相への相変化に伴う密度低下を利用して、絶縁性流体50を自然対流させるものであってもよい。この場合にも、絶縁性流体50は、EHD現象を示す流体でなくてもよい。
【0082】
なお、図7〜図9に例示した半導体装置においても、絶縁性流体50中には、図示を省略した潜熱蓄熱材56を封入したマイクロカプセル55が分散されていることはもちろんである。
【0083】
また、図7〜図9に例示したゲル状の封止部材51を用いない半導体装置のそれぞれに対して、第1の実施形態のゲル状封止部材、第2の実施形態の放熱手段、第3の実施形態の伝熱促進手段、第4の実施形態の高熱伝導フィラー、および、第5の実施形態の両面冷却構造のいずれか1つ、もしくは2つ以上を組み合わせて適用するものであってもかまわない。
【0084】
また、上記各実施形態では、マイクロカプセル55に封入された潜熱蓄熱材56は、固相から液相に相変化して蓄熱するものであったが、液相から気相に相変化して蓄熱するものであってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 半導体装置
10 ケース(ケーシング)
20 半導体素子
20a 下面(半導体素子の第1面)
20b 上面(半導体素子の第2面)
40 ヒートシンク(第1ヒートシンク)
41 ヒートシンク(第2ヒートシンク)
50 絶縁性流体
50a 高熱伝導フィラー
51 封止部材(ゲル状封止部材)
55 マイクロカプセル
56 潜熱蓄熱材
60 放熱器(放熱手段)
70 伝熱フィン(伝熱促進手段)
81 針状電極(強制対流手段の一部)
82 環状電極(強制対流手段の一部)
90 マイクロポンプ(強制対流手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子(20)と、
前記半導体素子を内部に収納するケーシング(10)と、
前記半導体素子の一方の面である第1面(20a)側に配設され、前記半導体素子が発する熱を前記ケーシングの外部に放熱するヒートシンク(40)と、
前記半導体素子の前記第1面とは反対側の第2面(20b)に接するように前記ケーシング内に充填され、前記ケーシング内で対流可能な絶縁性流体(50)と、を備え、
前記絶縁性流体には、前記半導体素子から受けた熱を相変化に伴う潜熱として蓄熱する潜熱蓄熱材(56)を封入したマイクロカプセル(55)が分散されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁性流体を前記ケーシング内で強制的に対流させる強制対流手段(81、82)を備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記絶縁性流体は、電気流体力学現象を示す流体であり、
前記強制対流手段は、前記ケーシング内に設けられ、前記絶縁性流体に電圧を印加して前記電気流体力学現象により前記絶縁性流体を流動させる一対の電極(81、82)であることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記絶縁性流体には、更に、絶縁性を有し前記絶縁性流体よりも熱伝導率が高い高熱伝導フィラー(50a)が添加されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記絶縁性流体の有する熱を前記ケーシングの外部に放熱する放熱手段(60)を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体素子の前記第2面から前記絶縁性流体の内部に突設され、前記半導体素子から前記潜熱蓄熱材への伝熱を促進する伝熱促進手段(70)を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記絶縁性流体の前記半導体素子と接する側とは反対側の面を全域に亘って覆い、前記絶縁性流体を前記ケーシングの内部に封止するゲル状封止部材(51)を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ヒートシンクは第1ヒートシンク(40)であり、
前記半導体素子の前記第2面側に配設され、前記半導体素子が発する熱を前記第2面からも前記ケーシングの外部に放熱する第2ヒートシンク(41)を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−109451(P2012−109451A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258029(P2010−258029)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】