説明

半導体装置

【課題】Inversion型トランジスタやIntrinsic型トランジスタ、及び半導体層の蓄積層電流制御型Accumulation型トランジスタでは不純物原子濃度の統計的ばらつきによってしきい値電圧のばらつきが微細化世代で大きくなってしまい、LSIの信頼性を保つことが困難であった。
【解決手段】空乏層の厚さが半導体層の膜厚よりも大きくなるように、半導体層の膜厚と不純物原子濃度を制御することによって形成されたバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。例えば、半導体層の膜厚を100nmにすると共に不純物濃度2×1017[cm−3]より高くすることによって、しきい値のばらつきの標準偏差が電源電圧のばらつきよりも小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC、LSI等の半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、IC、LSI等の半導体装置において広く使われているのは、チャネル領域に反転層を形成する形式のInversion型トランジスタである。このトランジスタにおいては、トランジスタの構造微細化に伴って影響が大きくなるショートチャンネル効果を抑制するために構造微細化に伴いチャンネル領域の不純物原子濃度を高める必要があった。一方、トランジスタのしきい値のばらつきはチャンネル領域の不純物原子濃度のばらつきに起因している。このため、構造微細化に伴い、チャンネル面積の二乗根にほぼ逆比例して増加するトランジスタのしきい値のばらつきをInversion型トランジスタでは抑制出来ず、LSIの信頼性が確保できないという問題があった。
【0003】
ここで、例えば、1兆(1012)個のトランジスタから構成されるLSIを10GHzのクロックレートで10年間誤動作を一切起こさないように動作させるためには、電源電圧としきい値電圧とは以下の数1の関係を満たす必要があることが指摘されている(非特許文献1)。
【0004】
【数1】

【0005】
ここで、VDDはLSIの電源電圧、σVthはしきい値のばらつきの標準偏差である。式(1)からも明らかなとおり、しきい値のばらつきによるLSIの誤動作を抑制するためには電源電圧を高めることが効率的であるが、トランジスタのゲート絶縁膜の信頼性を考慮すると、ゲート絶縁膜に印加出来る電界の絶対値が例えば8MV/cmなどと決まるので、結果としてゲート電極に印加する電源電圧は、構造微細化と共に膜厚が薄くなるゲート絶縁膜の微細化と併せて小さくしなければならず、しきい値のばらつきは微細化に伴い、より小さく抑えなくてはならない。
【0006】
一方、半導体に、n型半導体やp型半導体としての機能を持たせるために必要なドーピング技術や不純物の活性化技術においては、最終的に活性化する不純物原子数がある領域を規格したときに平均n個であれば、その領域が多数個ある際には、平均個数の二乗根である√n個だけの標準偏差を持つ正規分布に従った統計的ばらつきが生じることが知られている。
【0007】
バルク半導体を用いたInversion型トランジスタの場合、一般的にトランジスタのしきい値Vthは以下の数2によって与えられる。
【0008】
【数2】

【0009】
ここで、εsi [F/cm]はシリコンの誘電率、q [C]は素電荷量、NA [cm-3]はチャンネル領域のアクセプタ型不純物原子濃度、Cox[F/cm2]はゲート絶縁膜容量である。また、Vfb [V]はフラットバンド電圧、φB [V]はシリコンにおけるバンドギャップの中間のエネルギーレベルからフェルミレベルまでの電位差である。
【0010】
式(2)はnチャンネルInversion型トランジスタのしきい値の式を示しており、pチャンネルInversion型トランジスタの場合は、NAには、ドナー型不純物原子濃度であるND [cm-3]を用いる。Vfb及びφBはそれぞれ以下の数3、数4によって与えられる。
【0011】
【数3】

【数4】

【0012】
ここで、φmはゲート電極の仕事関数、χsiはシリコンの電子親和力、Egはシリコンのバンドギャップをそれぞれ[V]単位で示している。Qfはゲート絶縁膜に含まれる電荷を、シリコンとゲート絶縁膜の界面に存在すると仮定した際の電荷密度[C/cm2]である。
【0013】
式(2)〜式(4)から分かるようにInversion型トランジスタのしきい値はチャンネル領域中の不純物原子濃度の関数である。
【0014】
ここで、チャンネル領域の平均不純物原子密度がN [cm-3]であれば、チャンネル領域中に含まれる不純物原子の平均個数は以下の数5で表すことができる。
【0015】
【数5】

【0016】
ここで、nchannelはチャンネル領域中に含まれる不純物原子の平均個数[個]、Leffは実効チャンネル長[cm]、Weffは実効チャンネル幅[cm]、Wdepは最大空乏層幅[cm]である。よって、標準偏差分だけ不純物原子の個数が増減してばらついた時のチャンネル中の不純物原子濃度は以下の数6、数7で表される。
【0017】
【数6】

【数7】

【0018】
ここで、NA+は標準偏差分だけ不純物原子の個数が増加した場合の不純物原子濃度[cm-3]、NA-は標準偏差分だけ不純物原子の個数が減少した場合の不純物原子濃度[cm-3]である。チャンネル領域の不純物原子濃度がNA+、もしくはNA-であった場合のしきい値をそれぞれVth(NA+)、Vth(NA-)とすれば、しきい値のばらつきの標準偏差は以下の数8で与えられる。
【0019】
【数8】

【0020】
表1には、トランジスタの微細化世代に対する実効チャンネル長、Inversion型トランジスタの電源電圧、電気的換算酸化膜厚(EOT)、平均的しきい値、式(1)で与えられるしきい値のばらつき許容値、NA-、nchannel、√nchannel、nchannel+√nchannel、nchannel-√nchannel、NA+、NA-、及び不純物原子濃度のばらつきによって生じるしきい値のばらつきの標準偏差が示されている。
【0021】
図1を参照すると、トランジスタの微細化世代に対する式(1)で与えられるしきい値のばらつき許容値(σ=(VDD/23))及び不純物原子濃度のばらつきによって生じるしきい値のばらつきの標準偏差σVthを示す。ここで、Inversion型トランジスタの電源電圧はInversion型トランジスタのゲート絶縁膜に印加される電界強度が8MV/cmになるまでの電圧とした。また、実効チャンネル幅Weffの値は微細化世代Lと等しい。
【0022】
【表1】

【0023】
表1及び図1から分かる通り、Inversion型トランジスタでは、45nm以降の世代、即ち、45nmより微細化された世代(即ち、30nm或いは20nmの微細化世代)では、標準偏差σVth(ここでは、Inversion型トランジスタであるため,σVth,invであらわす)がしきい値の許容値VDD/23(即ち、VDD,inv/23)を越えているため、チャンネル領域の不純物原子濃度のばらつきによって、1兆個のトランジスタからなるLSIが10GHzのクロックレートで10年間全く誤作動を起こさないという性能要求を満たすことが出来なかった。
【0024】
一方、チャンネル領域の平均不純物原子濃度が0[cm-3]であるIntrinsic型トランジスタにおいては、シリコンウェハの不純物制御技術の不完全性に起因してしきい値のばらつきによって性能要求を満たすことが出来なかった。
【0025】
Intrinsic型トランジスタについてより具体的に説明すると、シリコンウェハの不純物原子濃度を徹底的に抑制したとしても、トランジスタが多数個あった場合、チャンネル領域には1個不純物原子が存在するトランジスタが出現する可能性がある。この場合、チャンネル領域中に不純物原子が1個も存在しないトランジスタと、不純物原子が1個存在するトランジスタのしきい値の差ΔVth,intrinsicは、微細化世代に対して表2及び図2に示す通りとなる。いずれの世代においてもチャンネル領域中に不純物原子が1個の存在しないトランジスタと不純物原子が1個存在するトランジスタのしきい値の差ΔVth,intrinsicは、電源電圧の23分の1を大きく超え、LSIを構成するトランジスタに一つでもチャンネル領域中に不純物原子が1個存在するトランジスタが存在すると誤作動を引き起こしてしまう。
【0026】
【表2】

【0027】
ここで、チップ面積が4.0cmのLSIチップに、最密になるようにトランジスタを作りこむと、チップ中の、トランジスタのチャンネル領域の総和は0.286cmとなる。表3には、n型とp型不純物原子の総和の濃度が1013〜10cm−3のシリコンウェハを用いた際に、各微細化世代のチップ中に含まれるLSIの誤動作を誘起するチャンネル領域中に不純物原子が1個含まれるトランジスタの数を示す。ここで、Intrinsic型トランジスタではノーマリーオフを実現するためにはSOI(Silicon on Insulator)構造を用いなければならないが、ショートチャンネル効果を十分抑制するためにSOI層の膜厚は実効チャンネル長の4分の1とした。LSI中のトランジスタに誤動作を誘起するトランジスタの数が1個以下に抑えるにはシリコンウェハの不純物原子濃度を10cm−3程度に抑える必要があり、実用的に実現不可能なレベルである。
【0028】
【表3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】WO2008/007749A1
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】T. Ohmi, M. Hirayama, and A. Teramoto, “New era of silicon technologies due to radical reaction based semiconductor manufacturing,” J. Phys., D, Appl. Phys. vol.39 pp.R1-R17, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、チャンネル領域の不純物原子濃度の統計的ばらつきに対してしきい値電圧のばらつきを低く抑えることのできるトランジスタを提供することを目的とする。
【0032】
本発明はまた、ゲート電極に印加する電圧スイングを大きくとることができ、しきい値電圧のばらつきの許容値を引き上げることのできるトランジスタを提供することを目的とする。
【0033】
本発明者等は、チャンネル領域の不純物原子濃度を比較的高濃度にしつつ、その不純物原子濃度の変化に対するしきい値電圧の変化が小さくなるようにすれば、チャンネル領域の不純物原子濃度の統計的ばらつきに対してしきい値のばらつきを小さく抑えることができること、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタを使うことによってしかその実現はできないこと、を新に見出し本発明に至ったものである。
【0034】
本発明による課題を解決するための手段を記載する前に、本発明の概念を詳細に説明する。
【0035】
本発明者等は、特許文献1において、ゲート電圧を高くできるAccumulation型のトランジスタを提案した。しかしながら、このようなAccumulation型トランジスタであっても、32nm以下の微細化世代ではしきい値のばらつきに対する要求が満たせないことを見出した。
【0036】
このことを具体的に説明すると、Accumulation型トランジスタの場合、特許文献1に記載されている通り、チャンネル領域を流れる電流成分を、ゲート絶縁膜とシリコンの界面付近の蓄積層を流れる電流成分(Iacc [A])と、チャンネル領域の蓄積層以外の領域を流れる電流成分(Ibulk [A])とに分類することができる。
【0037】
グラデュアルチャンネル近似によれば、ゲート電圧(VG [V])が比較的小さい領域では、ドレイン電流(ID [A])とゲート電圧の関係は以下の数9、数10、数11によって表すことができる。ここで、Vfb [V]はフラットバンド電圧、Wdep [cm]はシリコンの空乏層幅、TSOI [cm]はSOI層の厚さ、NSOIはSOI層の不純物原子濃度である。
【0038】
【数9】

【数10】

【数11】

【0039】
ここで、Dnbulk [cm2/s]はチャンネル領域のゲート絶縁膜とシリコンの界面付近以外の領域の電子の拡散係数、NSOI [cm-3]はSOI層の不純物原子濃度、β [V-1]は熱エネルギーの逆数、φ(x) [V]はシリコンとゲート絶縁膜から距離xの深さにおける不純物原子濃度がNSOIのバルクのシリコンのフェルミレベルからの電位の変異、VD [V]はドレイン電圧、Vtsoi [V]はWdep=TSOIとなる時のVG、Tacc [cm]は蓄積層幅、Dnacc [cm2/s]はチャンネル領域のゲート絶縁膜とシリコンの界面付近の領域の電子の拡散係数、nacc(0)とnacc(L) [cm-3]はそれぞれソース電極端及びドレイン電極端におけるチャンネル領域中の蓄積層の電子濃度である。式(9)〜(11)はnチャンネルトランジスタについて示しているが、pチャンネルトランジスタについてもDnbulk、Dnacc等のパラメータを正孔に対しての値に変更することで用いることができる。
【0040】
上式(9)及び(11)で表される領域1及び3では、ドレイン電流はゲート電圧に対して指数関数的に変化する。これは、式(9)の項exp−β(VTSOI−(Vg−Vfb))が指数関数的に変化し、また、式(11)の項(nacc(0)−nacc(L)/L)が指数関数的に変化するからである。
【0041】
一方、式(10)で表される領域2では、(TSOI−WDep)に依存して変化するドレイン電流はゲート電圧に対して二乗根で比例する。実用的には、しきい値はゲート電圧に対してドレイン電流が指数関数的に変化する領域に設定することが望ましいから、ここでは、しきい値電圧が領域2に存在するトランジスタについては検討しないものとする。
【0042】
ここで、しきい値電圧が領域1に存在するAccumulation型トランジスタをバルク電流制御型(Ibulk controlled)Accumulation型トランジスタ、他方、しきい値電圧が領域3に存在するAccumulation型トランジスタを蓄積電流制御型(Iacc controlled)Accumulation型トランジスタと、本発明においては定義する。
【0043】
いずれにしても、式(9〜11)を用いれば、SOI層の厚さTSOIと不純物原子濃度NSOIの組み合わせによって、バルク電流制御(Ibulk controlled)型デバイス、若しくは、蓄積電流制御(Iacc controlled)型デバイスになるか、若しくは、しきい値電圧が領域2に存在するデバイスになるかが明確に分かる。
【0044】
図3を参照すると、縦軸にSOI層の不純物濃度NSOI(cm−3)、横軸にSOI層の厚さTSOI(nm)をとり、TSOIとNSOIの組み合わせに対するデバイスの領域が示されている。ここで、しきい値電圧としては、ドレイン電流をチャンネル幅及びチャンネル長さで規格化した値(ID/(W/L))が一般的に回路のしきい値として定義される1μAとなる時のゲート電圧とした。
【0045】
図3では、TSOIとNSOIの組み合わせに応じて、(a)、(b)、(c)、及び(d)の4つのゾーンに区分されており、ゾーン(a)はnormally−onのデバイスに相当し、ゾーン(b)は上記式(9)で表されるデバイス(即ち、バルク電流制御型(Ibulk controlled)Accumulation型トランジスタ)の領域1に相当し、更に、ゾーン(c)は式(11)で表されるデバイス(蓄積電流制御型(Iacc controlled)Accumulation型トランジスタ)の領域3に相当する。更に、ゾーン(d)は、式(10)で表されるデバイスの領域2に相当する。
【0046】
従来よく知られていたAccumulation型トランジスタは、領域3に相当する蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタであるか、もしくは、しきい値電圧が領域2に存在する実用的には使用しづらいトランジスタであったことが、本発明者等によって明らかになった。
【0047】
ここで、本発明者等が新たに見出した蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタについてより具体的に説明すると、蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値電圧は以下の数12で示される通り、ゲート電圧がVfbになった時である。
【0048】
【数12】

【0049】
表4には、トランジスタの微細化世代に対する実効チャンネル長(Leff)、蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタの電源電圧、電気的換算酸化膜厚(EOT)、平均的しきい値、式(12)で与えられる蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値のばらつき許容値、NA-、nchannel、√nchannel、nchannel+√nchannel、nchannel-√nchannel、NA+、NA-、及び不純物原子濃度のばらつきによって生じるしきい値のばらつきの標準偏差が示されている。蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタの電源電圧は蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタトランジスタのゲート絶縁膜に印加される電界強度が8MV/cmになるまでの電圧とした。
【0050】
【表4】

【0051】
表4のVDD,Acc−Mode及びVDD,Inversion−Modeを比較しても明らかなように、Accumulation型トランジスタではトランジスタのオン状態とオフ状態の時にゲート絶縁膜に印加される電界方向が逆になるので、電源電圧はInversion型の電源電圧よりも大きくすることができる。これは、しきい値のばらつきの許容値をわずかに大きくすることができる点で有利である。
【0052】
しかしながら、表4に示された蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタで実現する際には、微細化世代では不純物原子濃度が小さすぎて、65nm世代以降ではチャンネル領域に含まれる平均不純物原子濃度が1個以下になってしまう。これはLSI中にはチャンネル中に不純物原子が1個存在するトランジスタと、1個も存在しないトランジスタが多数存在することになるので、しきい値ばらつきとしては電源電圧の23分の1を大きく超えてしまう。
【0053】
以上説明したことをまとめると、Inversion型トランジスタでは45nm以降では不純物原子濃度のばらつきによりLSI中のトランジスタのしきい値のばらつきに対する要求が満たせず、Intrinsic型トランジスタではウェハの不純物原子濃度制御技術の不完全性によりいずれの世代でもLSI中のトランジスタのしきい値のばらつきに対する要求が満たせない。
【0054】
更に、一般的に知られているAccumulation型トランジスタである蓄積電流制御型Accumulation型トランジスタでは、しきい値電圧がトランジスタ動作領域中の望ましくない領域に入るトランジスタが出来てしまう。このため、蓄積電流制御型Accumulatin型トランジスタにおいては、65nm以下の微細化世代ではチャンネル領域に含まれる不純物原子の平均個数が1個以下となってしまい、45nm以下の微細化世代におけるLSIを実現する場合、LSI中のトランジスタのしきい値のばらつきに対する要求が満たせなかった。
【0055】
本発明では、LSIにおけるしきい値のばらつきを抑え、電源電圧の23分の1以下にすることができる半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0056】
本発明によれば、22nm以上の微細化世代において、チャンネル領域の不純物原子濃度の統計的ばらつきに対してしきい値電圧のばらつきを低く抑えることができるトランジスタが得られる。
【0057】
更に、本発明によれば、ゲート電極に印加する電圧スイングを大きくとることができ、しきい値電圧のばらつきの許容値を引き上げることのできるトランジスタが得られる。
【0058】
本発明者等は、チャンネル領域の不純物原子濃度を比較的高濃度にしつつ、その不純物原子濃度の変化に対するしきい値電圧の変化が小さくなるようにすれば、チャンネル領域の不純物原子濃度の統計的ばらつきに対してしきい値のばらつきを小さく抑えることができること、しかも、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタを使うことによって実現できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0059】
具体的には、本発明の第1の態様によれば、チャンネル領域とその両端に設けたソース、ドレイン領域とを有するトランジスタであって、前記チャンネル領域をn型半導体で構成すると共にキャリアを電子とするか、または前記チャンネル領域をp型半導体で構成すると共にキャリアをホールとするAccumulation型トランジスタであって、前記チャンネル領域中のゲート絶縁膜/シリコン界面以外の領域にのみキャリアを伝導させるトランジスタの動作領域を有することを特徴とするバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0060】
本発明の第2の態様によれば、トランジスタのドレイン電極に流れる電流がゲート電極に印加される電圧の増加に対して指数関数的に増加するサブスレショルド領域およびトランジスタのしきい値を含んだ動作領域中に、前記チャンネル領域中のゲート絶縁膜/シリコン界面以外の領域にキャリアを伝導させることを特徴とする請求項1に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0061】
本発明の第3の態様によれば、前記チャンネル領域をSOI層で構成すると共に、該SOI層の厚さを100nmより小さくし、該SOI層の不純物原子濃度を2×1017[cm−3]より高くしたことを特徴とするバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0062】
本発明の第4の態様によれば、第1の態様において前記ソース、ドレイン領域を前記チャンネル領域と同一導電型の半導体で構成したことを特徴とするバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0063】
本発明の第5の態様によれば、前記ソース、ドレイン領域を、その仕事関数が前記チャンネル領域の半導体の仕事関数との差が0.32eV以下であるような金属または金属半導体化合物で構成したことを特徴とする第1の態様に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0064】
本発明の第6の態様によれば、前記チャンネル領域をn型シリコンで構成すると共に、前記ソース、ドレイン領域を、その仕事関数が−4.37eV以上であるような金属または金属半導体化合物で構成したことを特徴とする第3の態様に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0065】
本発明の第7の態様によれば、前記チャンネル領域をp型シリコンで構成すると共に、前記ソース、ドレイン領域を、その仕事関数が−4.95eV以下であるような金属または金属半導体化合物で構成したことを特徴とする第3の態様に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0066】
本発明の第8の態様によれば、前記トランジスタをノーマリーオフ型としたことを特徴とする請求項1〜5の一つに記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0067】
本発明の第9の態様によれば、前記チャンネル領域をSOI層で構成すると共に、該SOI層の厚さを、ゲート電極に印加される電圧がソース電極に印加される電圧と等しい時に、ドレイン電極に印加される電圧が0Vから電源電圧まで変化した際に、前記チャンネル領域と前記ソース領域の接触部分において前記半導体層に形成される空乏層の厚さより小さくしたことを特徴とする第6の態様に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0068】
本発明の第10の態様によれば、ゲート電極に印加される電圧がソース電極に印加される電圧と等しい時に、ドレイン電極に印加される電圧が0Vから電源電圧まで変化した際に前記チャンネル領域と前記ソース領域の接触部分においてゲート絶縁膜上に設けられるゲート電極と前記チャンネル領域の半導体層との仕事関数差により前記半導体層に形成される空乏層が前記半導体層の深さ方向にとぎれなく形成されるように、前記SOI層の厚さ、前記SOI層の不純物原子濃度、および前記チャンネル領域上のゲート電極の仕事関数を定めたことを特徴とする第7の態様に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0069】
本発明の第11の態様によれば、前記SOI層の厚さが10nm以下であると共に、前記チャンネル領域の不純物原子濃度が5×1017[cm−3]以上であることを特徴とする請求項1〜8の態様の一つに記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタが得られる。
【0070】
本発明の第12の態様によれば、第1〜9の態様の一つに記載のトランジスタを少なくとも二つ有し、その一方をnチャンネルトランジスタ、他方をpチャンネルトランジスタとしたことを特徴とするバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置が得られる。
【0071】
本発明の第13の態様によれば、前記nチャンネルトランジスタおよびpチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(100)面または(100)面から±10°以内の面を有するようにしたことを特徴とする請求項10に記載のバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置が得られる。
【0072】
本発明の第14の態様によれば、前記nチャンネルトランジスタおよびpチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(110)面または(110)面から±10°以内の面を有するようにしたことを特徴とする請求項10に記載のバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置が得られる。
【0073】
本発明の第15の態様によれば、前記nチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(100)面または(100)面から±10°以内の面を有し、かつ前記pチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(110)面または(110)面から±10°以内の面を有するようにしたことを特徴とする第10の態様に記載のバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置が得られる。
【発明の効果】
【0074】
本発明によれば、しきい値電圧がチャンネル領域の不純物原子濃度の変化に対して影響が小さくなるので、微細化世代においても不純物原子濃度の統計的ばらつきに対してしきい値電圧のばらつきが小さくすることができ、しきい値電圧のばらつきによって決まるLSIの故障発生確率を低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】Inversion型トランジスタにおける、微細化世代Lと、電源電圧のばらつきの許容値(VDD/23)としきい値電圧のばらつきの標準偏差σVthを示す図である。
【図2】Inversion型トランジスタにおける、微細化世代Lに対する電源電圧のばらつきの許容値(VDD/23)としきい値電圧のばらつきの標準偏差σVth、及びIntrinsic型トランジスタでチャンネル領域中に不純物原子が1個の存在しないトランジスタと1個存在するトランジスタのしきい値の差ΔVthを示す図である。
【図3】半導体層(SOI層)の膜厚(TSOI)とSOI層の不純物原子濃度NSOIで領域を定義した場合、動作の異なるトランジスタが得られることを示す図であり、ゾーン(a)で示されるNormally on型になる領域、ゾーン(b)で示されるバルク電流制御型になる領域、ゾーン(c)で示される蓄積層電流制御型になる領域、及びゾーン(d)で示されるしきい値電圧領域においてドレイン電流がゲート電圧に対して指数関数的に増加しないトランジスタになる領域を示している。
【図4】Inversion型トランジスタ及びバルク電流制御型Accumulation型トランジスタにおける、微細化世代Lに対する電源電圧のばらつきの許容値(VDD/23)としきい値電圧のばらつきの標準偏差σVthの関係を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の実施例1に係るバルク電流制御型Accumulation型nチャンネルトランジスタ及びpチャンネルトランジスタを示す図である。
【図6】(a)及び(b)は、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタの特性を示す図である。
【図7】本発明の実施例2に係るバルク電流制御型CMOS半導体装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
バルク電流制御型Accumulation型トランジスタの分析:
バルク電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値は、ドレイン電流がゲート電圧に対して指数関数的に増加する領域から指数関数的に増加しなくなる領域への境である。すなわち、図3に示したゾーンbとゾーンd(即ち、領域1と領域2)との遷移点である。よって、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値電圧は、シリコン領域の空乏層の厚さがTSOIと等しくなる時のゲート電圧であり、以下の数13で与えられる。
【0077】
【数13】

【0078】
ここで、式(13)の右辺の第4項と第5項はいずれもNSOIの関数であるが、第4項と第5項はNSOIの変化に対する増減がそれぞれ逆である。これはバルク電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値電圧がNSOIの変化に対して変化が小さいことを示している。
【0079】
表5には、トランジスタの微細化世代に対する実効チャンネル長(Leff)、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタの電源電圧、電気的換算酸化膜厚(EOT)、平均的しきい値、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値のばらつき許容値、NA-、nchannel、√nchannel、nchannel+√nchannel、nchannel-√nchannel、NA+、NA-、及び不純物原子濃度のばらつきによって生じるしきい値のばらつきの標準偏差が示されている。また、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタの電源電圧はバルク電流制御型Accumulation型トランジスタのゲート絶縁膜に印加される電界強度が8MV/cmになるまでの電圧とした。
【0080】
尚、表5には、比較のためにInversion型トランジスタの電源電圧のばらつき許容値も示されている。
【0081】
バルク電流制御型Accumulation型トランジスタではトランジスタのオン状態とオフ状態の時にゲート絶縁膜に印加される電界方向が逆になると共に、ゲート電圧がしきい値電圧の時にも電界強度を0MV/cm以下にすることができるので、電源電圧は蓄積電流制御型Accumulation型の電源電圧よりも大きくすることができる。これは、しきい値のばらつきの許容値を大きくすることができる点で有利である。
【0082】
実際、表5に示されているように、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタの電源電圧のばらつき許容値σ(=VDDIbulk/23)(mV)は90nm世代の許容値で83.9mVであり、他方、しきい値のばらつきの標準偏差σVth(mV)は21.3mVとなっている。このように、90nm微細化世代では、電源電圧のばらつき許容値σはしきい値のばらつきの標準偏差よりも大きい。同様に、22nm世代の微細化世代においても、電源電圧のばらつき許容値σ(38.7mV)は、しきい値のばらつき32.1mVよりも大きい。したがって、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタでは、22nm以上の世代においても、チャンネル領域の不純物原子濃度の統計的なばらつきで決まるしきい値電圧のばらつきがLSIの動作を制限しないことがわかる。
【0083】
【表5】

【0084】
ここで、図4を参照すると、Inversion型トランジスタ及びバルク電流制御型Accumulation型トランジスタについて、微細化世代Lに対するしきい値電圧のばらつきの許容値(VDD/23)としきい値電圧のばらつきσVthが示されている。
【0085】
具体的に説明すると、図4の縦軸及び横軸はそれぞれ電圧(mV)及び微細化世代(nm)をあらわし、曲線C1及びC2は、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値電圧のばらつきσVth及び電源電圧のばらつき許容値(VDD,Acc/23)をそれぞれ示している。他方、曲線C3及びC4はInversion型トランジスタのしきい値電圧のばらつきσVth及び電源電圧のばらつき許容値(VDD,Inv/23)をそれぞれ示している。
【0086】
曲線C1及びC2からも明らかなとおり、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタは22nm世代においても、しきい値電圧のばらつきσVthが電源電圧のばらつき許容値(VDD/23)よりも小さくなっている。このことは、チャンネル領域の不純物濃度の統計的ばらつきによって、1兆個のゲートのLSIを10GHzクロックレートで10年間動作させても不良が起こらないことを意味している。
【0087】
また、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタのしきい値電圧のばらつきはいずれの世代においてもInversion型トランジスタのしきい値電圧ばらつきより小さい。これは、同じ世代であっても、バルク電流制御型Accumulation型トランジスタでは、Inversion型トランジスタと比べて、より多くのゲートを有するLSI、より高速動作をするLSI、より長い期間動作させるLSIを、故障を起こさないで実現できることを示している。
【実施例1】
【0088】
図5(a)及び(b)を参照すると、本発明の実施例1に係るバルク電流制御型Accumulation型nチャンネルトランジスタ(以下、単に、nチャンネルトランジスタと呼ぶ)が比較例と共に示されている。
【0089】
図5(a)は比較例(蓄積層電流制御型Accumulation型トランジスタ)であり、p型シリコンによって形成された支持基板上に、100nm程度の厚さの埋込酸化膜によって分離されたn型Silicon on Insulator(SOI)層(以下、半導体層と呼ぶ)4が形成されている。ここで、半導体層4はチャンネル領域を形成しており、図示されたチャンネル領域の表面は、(100)面方位を有し、半導体層4は50nmの膜厚を有している。
【0090】
更に、チャンネル領域を形成する半導体層4の両側には、チャンネル領域と同一導電型で、チャンネル領域よりも高い不純物原子濃度を有するn+半導体によって形成されたソース・ドレイン領域2及び3が設けられている。
【0091】
半導体層4によって形成されたチャンネル領域上には、電気的等価膜厚(EOT)で7.5nmの酸化膜によって形成されたゲート絶縁膜が設けられており、当該ゲート絶縁膜上には、p+ポリシリコンのゲート電極1が設けられている。図示されたnチャンネルトランジスタのゲート長は0.6μmで、ゲート幅は20.0μmである。ここで、チャンネル領域の平均的な不純物原子濃度は、1x1016cm−3であり(したがって、このデバイスは図3のAに相当するものである)、当該チャンネル領域と接触しているソース・ドレイン領域2、3は2×1020cm−3の半導体と金属半導体化合物によって形成されている。金属半導体化合物はAlシリサイドであるが、これはnチャンネルトランジスタの場合はNiシリサイドやErシリサイド、またはYシリサイド等にして、半導体との接触抵抗を1×10−11Ωcm以下に抑え、ソース・ドレイン領域の半導体部分の直列抵抗と合わせてもトランジスタの直列抵抗としては1.0Ωμmとなるようにしてもよい。また、nチャンネルトランジスタの場合、ソース・ドレイン層を仕事関数が−4.37eV以上の金属または金属半導体化合物で形成しても良い。
【0092】
一方、図5(b)に示された本発明の実施例によるバルク電流制御型Accumulation型nチャンネルトランジスタは、図5(a)と同様に、p型シリコンによって形成された支持基板上に、100nm程度の厚さの埋込酸化膜によって分離されたn型半導体層8が形成されている。ここで、半導体層8はチャンネル領域を形成しており、図示されたチャンネル領域の表面は、(100)面方位を有し、半導体層8は50nmの膜厚を有している。n型半導体層8によって形成されたチャンネル領域の両側には、当該チャンネル領域と同一導電型で、不純物原子濃度がチャンネル領域よりも高いn+半導体によって形成されたソース・ドレイン領域6及び7を備えている。半導体層8によって形成されたチャンネル領域上には、電気的等価膜厚(EOT)で7.5nmの酸化膜によって形成されたゲート絶縁膜が設けられており、当該ゲート絶縁膜上には、p+ポリシリコンのゲート電極5が設けられている。図示されたnチャンネルトランジスタは、図5(a)のnチャンネルトランジスタと同様、ゲート長は0.6μmで、ゲート幅は20.0μmである。
【0093】
ここで、チャンネル領域の平均的な不純物原子濃度は、2×1017cm−3であり(図3のBに相当する)、当該チャンネル領域と接触しているソース・ドレイン領域6、7は2×1020cm−3の不純物濃度を有する半導体と金属半導体化合物によって形成されている。金属半導体化合物はAlシリサイドを用いることができるが、NiシリサイドやErシリサイド、またはYシリサイド等にして、半導体との接触抵抗を1×10−11Ωcm以下に抑え、ソース・ドレイン領域の半導体部分の直列抵抗と合わせてもトランジスタの直列抵抗としては1.0Ωμmとなるようにしてもよい。ソース・ドレイン層を仕事関数が−4.37eV以上の金属または金属半導体化合物で形成しても良いことは図5(a)と同様である。
【0094】
以上はnチャンネルトランジスタの例であるが、これらのトランジスタはpチャンネルトランジスタでも構わない。
【0095】
尚、pチャンネルトランジスタの場合、ソース・ドレイン電極はPdシリサイドやPtシリサイドにして半導体との接触抵抗を1x10−11Ωcm以下に抑え、ソース・ドレイン領域の半導体部分の直列抵抗と合わせてもトランジスタの直列抵抗としては1.0Ωμmとなっているものでも構わない。またpチャンネルトランジスタの場合、ソース・ドレイン領域6、7を仕事関数が−4.95eV以下の金属または金属半導体化合物で形成してもよい。
【0096】
いずれにしても、図5(b)に示されたトランジスタにおけるソース、ドレイン領域の仕事関数と、チャンネル領域の半導体層の仕事関数との差が0.32eV以下になるように、ソース、ドレイン領域の材料が選択されている。
【0097】
図5(a)及び(b)示されたnチャンネルトランジスタは、ゲート電極1及び5に印加される電圧がソース電極Sに印加される電圧と等しい時にドレイン電極Dに印加される電圧が0Vから電源電圧まで変化した際に、チャンネル領域とソース領域の接触部分においてチャンネル領域の半導体層に形成される空乏層の厚さが50nmよりも長いのでノーマリーオフを実現している。
【0098】
図6(a)及び(b)を参照すると、それぞれ、図5(a)及び(b)に示されたnチャンネルトランジスタの特性が示されている。図6(a)及び(b)には、上から順にnチャンネルトランジスタのドレイン電圧が50mVであった時のドレイン電流とゲート電圧の関係及び、ドレイン電流のゲート電圧に対する1次微分と2次微分のゲート電圧の関係がそれぞれ示されている。更に、図6(a)及び(b)の最下段には、式(8〜10)から得られるIaccとIbulkおよびIaccとIbulkの合計からなるItotalの計算値も示してある。 ここで、しきい値電圧はW/Lで規格化したドレイン電流が1μA流れる時のゲート電圧であり、(a)では1.05 V、(b)では0.28 Vである。(a)は蓄積層電流制御型Accumulation型トランジスタであるので、しきい値電圧領域ではIaccがドレイン電流の主成分であるが、(b)の本発明によるバルク電流制御型Accumulation型トランジスタでは、しきい値電圧領域ではIbulkがドレイン電流の主成分である。
【0099】
また、図6の上段の図に示すように、ドレイン電流のゲート電圧に対する2次微分では、(a)ではIaccの増加に対応する一つのピークしか見られないが、(b)ではしきい値電圧領域付近のIbulkの増加に対応するピークとしきい値電圧よりゲート電圧が大きい領域でのIaccの増加に対応するピークの2つのピークが見られる。
【0100】
図5(b)に示されたバルク電流制御型トランジスタは、ゲート電極Gに印加される電圧がソース電極Sに印加される電圧と等しい時に、ドレイン電極Dに印加される電圧が0Vから電源電圧まで変化した際、チャンネル領域8とソース領域6の接触部分においてゲート絶縁膜上に設けられるゲート電極5とチャンネル領域の半導体層8との仕事関数差により前記半導体層8に形成される空乏層が前記半導体層の深さ方向にとぎれなく形成されるように、半導体層8の厚さTSOI、当該半導体層8の不純物原子濃度NSOI、ゲート電極5の仕事関数を定めている。
【0101】
また、図5(b)に示した実施例では、チャンネル領域を形成する半導体層8の膜厚が50nmで、且つ、不純物原子濃度がそれぞれ2×1017cm−3である例を示したが、図3のゾーンbからも明らかなとおり、半導体層8の膜厚TSOIが薄くなれば、その不純物原子濃度NSOIを高くする。例えば、半導体層8の膜厚TSOIが10nm以下である場合には、5×1017cm−3以上の不純物原子濃度NSOIにする。
【0102】
上記した説明では、半導体層(SOI)層が(100)面方位である場合について説明をしたが、いずれの面方位の場合でも上記の説明と同等の効果がある。例えば、チャンネル領域の少なくとも一部を(100)面から±10°以内の面で形成しても良いし、(110)面または(110)面から±10°以内の面で形成しても良い。
【実施例2】
【0103】
図7を参照して、本発明の実施例2に係るバルク電流制御型CMOS半導体装置を説明する。図示されたバルク電流制御型CMOS半導体装置はnチャンネル及びpチャンネルトランジスタによって構成されている。図示されたバルク電流制御型CMOS半導体装置は、支持基板20上に100nm厚さの埋め込み酸化膜21で分離された半導体層(SOI)層に形成される。
【0104】
この例の場合、半導体層は10nmの(110)面方位から8°傾いた(551)面方位のn型の半導体層であり、当該半導体層はnチャンネルトランジスタになる部分とpチャンネルトランジスタになる部分とにエッチングにより分離される。次に、不純物原子濃度調整のために、当該半導体層のnチャンネルトランジスタになる部分にはリンが注入され、pチャンネルトランジスタになる部分にはボロンが注入される。これによって、nチャンネルトランジスタ及びpチャンネルトランジスタのしきい値が調整される。この例では、各トランジスタのしきい値が図3のゾーンb内になるように、半導体層の膜厚(TSOI)及び不純物原子濃度(TSOI)が調整され、チャンネル領域の半導体層4及び8が形成される。例えば、nチャンネルトランジスタのチャンネル領域4の不純物原子濃度は3x1018cm−3であり、他方、pチャンネルトランジスタのチャンネル領域8の不純物原子濃度は3x1018cm−3である。
【0105】
次に、電気的酸化膜等価絶縁膜厚で1nmのSi3N4膜が各トランジスタのチャンネル領域4及び8表面に、マイクロ波励起のプラズマ装置で形成され、ゲート絶縁膜23が形成される。ここで、チャンネル領域の表面はPeak to Valleyが0.16nm以下となるような平坦化処理を受けており、ゲート絶縁膜23とチャンネル領域との間の界面は原子オーダーで極めて平坦である。また、ゲート絶縁膜23はSiO2膜や、HfOx,ZrOx,La2O3等の金属酸化膜、PrxSiyNz等の金属窒化物当の高誘電材料を用いても良い。
【0106】
その後、ゲート絶縁膜23上にTa膜を形成し、それぞれ所望のゲート長、ゲート幅にエッチングし、ゲート電極1及び5を形成する。このとき、nチャンネルトランジスタもpチャンネルトランジスタのチャンネル領域4、8とゲート電極1、5との仕事関数差によりおよそ厚さ18nmの空乏層が形成されるので半導体層4、8が完全に空乏化しているのでノーマリーオフになっている。
【0107】
その後、nチャンネルトランジスタ領域のソース・ドレイン層にヒ素を注入し活性化を行って、不純物原子濃度2x1020cm−3のソース領域2及びドレイン領域3を形成し、pチャンネルトランジスタ領域のソース・ドレイン層にはボロンを注入し活性化を行い、不純物原子濃度2x1020cm−3のソース領域6及びドレイン領域7を形成する。
【0108】
さらに、配線層としてゲート配線25、出力配線26、電源配線27および電源配線28を形成する。
【0109】
上記したCMOS半導体装置は(551)面方位以外の面方位、例えば(100)面方位のSOI層上に作製したものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、半導体層(SOI層)の膜厚が100nmより薄く、基板濃度が2×1017[cm−3]より高いバルク電流制御型Accumulation型nチャンネル及びpチャンネルトランジスタ、及びこれらのトランジスタによって構成されたCMOS回路について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、各種の素子並びに電子回路にも適用できる。
【符号の説明】
【0111】
1、5 ゲート電極
2、3、6、7 ソース・ドレイン領域
4、8 半導体層(SOI層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンネル領域とその両端に設けたソース、ドレイン領域とを有するトランジスタであって、前記チャンネル領域をn型半導体で構成すると共にキャリアを電子とするか、または前記チャンネル領域をp型半導体で構成すると共にキャリアをホールとするAccumulation型トランジスタであって、前記チャンネル領域中のゲート絶縁膜/シリコン界面以外の領域にのみキャリアを伝導させるとともに、ドレイン電極に流れる電流をゲート電極に印加される電圧によって2桁以上制御できる動作領域を有することを特徴としたバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項2】
トランジスタのドレイン電極に流れる電流がゲート電極に印加される電圧の増加に対して指数関数的に増加するサブスレショルド領域及びトランジスタのしきい値を含んだ動作領域中に、前記チャンネル領域中のゲート絶縁膜/シリコン界面以外の領域にキャリアを伝導させることを特徴とする請求項1に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項3】
前記チャンネル領域をSOI層で構成すると共に、該SOI層の厚さを100nmより小さくし、該SOI層の不純物原子濃度を2×1017[cm−3]より高くしたことを特徴とする請求項2に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項4】
前記ソース、ドレイン領域を前記チャンネル領域と同一導電型の半導体で構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項5】
前記ソース、ドレイン領域を、その仕事関数が前記チャンネル領域の半導体の仕事関数との差が0.32eV以下であるような金属または金属半導体化合物で構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項6】
前記チャンネル領域をn型シリコンで構成すると共に、前記ソース、ドレイン領域を、その仕事関数が−4.37eV以上であるような金属または金属半導体化合物で構成したことを特徴とする請求項5に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項7】
前記チャンネル領域をp型シリコンで構成すると共に、前記ソース、ドレイン領域を、その仕事関数が−4.95eV以下であるような金属または金属半導体化合物で構成したことを特徴とする請求項5に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項8】
前記トランジスタをノーマリーオフ型としたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項9】
前記チャンネル領域をSOI層で構成すると共に、該SOI層の厚さを、ゲート電極に印加される電圧がソース電極に印加される電圧と等しい時に、ドレイン電極に印加される電圧が0Vから電源電圧まで変化した際に、前記チャンネル領域と前記ソース領域の接触部分において前記半導体層に形成される空乏層の厚さより小さくしたことを特徴とする請求項8に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項10】
ゲート電極に印加される電圧がソース電極に印加される電圧と等しい時に、ドレイン電極に印加される電圧が0Vから電源電圧まで変化した際に、前記チャンネル領域と前記ソース領域の接触部分においてゲート絶縁膜上に設けられるゲート電極と前記チャンネル領域の半導体層との仕事関数差により前記半導体層に形成される空乏層が前記半導体層の深さ方向にとぎれなく形成されるように、前記SOI層の厚さ、前記SOI層の不純物原子濃度、および前記チャンネル領域上のゲート電極の仕事関数を定めたことを特徴とする請求項9に記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項11】
前記SOI層の厚さが10nm以下であると共に、前記チャンネル領域の不純物原子濃度が5×1017[cm−3]以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載のバルク電流制御型Accumulation型トランジスタ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つに記載のトランジスタを少なくとも二つ有し、その一方をnチャンネルトランジスタ、他方をpチャンネルトランジスタとしたことを特徴とするバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置。
【請求項13】
前記nチャンネルトランジスタおよびpチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(100)面または(100)面から±10°以内の面を有するようにしたことを特徴とする請求項12に記載のバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置。
【請求項14】
前記nチャンネルトランジスタおよびpチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(110)面または(110)面から±10°以内の面を有するようにしたことを特徴とする請求項12に記載のバルク電流制御型Accumulation型CMOS半導体装置。
【請求項15】
前記nチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(100)面または(100)面から±10°以内の面を有し、かつ前記pチャンネルトランジスタのチャンネル領域の少なくとも一部が(110)面または(110)面から±10°以内の面を有するようにしたことを特徴とする請求項12に記載のバルク電流制御型Accumulation
型CMOS半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−12768(P2013−12768A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194693(P2012−194693)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【分割の表示】特願2008−116701(P2008−116701)の分割
【原出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000173658)公益財団法人国際科学振興財団 (31)
【Fターム(参考)】