説明

原子層堆積装置

【課題】原子層堆積装置による反応空間内に残存する前躯体のパージが確実に行われ、各前躯体のガスが安定的に且つ均等に基板に対して供給されるようにする。
【解決手段】ガス供給管8を、同心状の内側管81および外側管82からなる二重管構造に形成する。内側流路8Aの最大径での断面積とこの位置での外側流路8Bの断面積を同じにする。外側管82の先端を内側管81の先端より基板側とする。外側管82の先端面をなす円の直径を内側管81の先端面をなす円の直径以下とする。このガス供給管8を、ガスの流れが基板面に対して垂直になるように設置する。天板7を設けて、互いに平行な基板6と天板7の間に反応空間が形成されるようにする。基板6に対するガス供給時に、内側流路8Aを通過するガスの流量と外側流路8Bを通過するガスの流量が常に同じになるように、内側流路8Aおよび外側流路8Bへのガス導入量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜構成元素を含有する化合物からなる第1の前躯体の単分子層および第2の前駆体の単分子層を、ガスの供給により基板に交互に堆積させ、前躯体単分子層間で表面反応を生じさせることで、基板上に薄膜を形成する原子層堆積装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウエハーを含む各種基板表面に薄膜を成長させる方法としては、化学的気相成長(CVD)法が広く採用されてきたが、最近、High−k(高誘電率)ゲート絶縁膜形成の分野において、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition )法が多く採用されるようになってきた。
ALD法は、薄膜構成元素を含有する化合物からなる複数の前躯体単分子層を、基板上に交互に堆積させ、前躯体単分子層間で表面反応を生じさせる方法である。すなわち、ALD法では、化学的気相成長における吸着が各前躯体の単分子層の厚さで飽和状態になるようにすることで、単分子層となった時点で成長を自動的に停止させる。また、ALD法では、各前躯体単分子層を堆積するために、ガス状の各前躯体を交互に基板面に供給する。
【0003】
一般的なALD法では、基板表面への第1の前駆体の供給、第1の前駆体のパージ、第2の前駆体の供給、および第2の前駆体のパージからなる一連のプロセスを、高速で繰り返すことにより、原子層レベルの反応を進行させる。第1の前躯体および第2の前駆体としては、薄膜構成元素を含有する化合物であって、相互に反応する材料を使用する。
ALDの成長機構は、先ず、第1の前駆体が基板の吸着サイトに吸着して、基板上に第1の前躯体からなる単分子層が形成される。第1の前駆体の供給量が単分子層形成に必要な量より多い場合は、次のパージ工程で余分に堆積した前駆体が除去される。続いて、第2の前駆体を供給すると、供給された第2の前躯体が基板上の第1の前駆体と反応して、両前躯体の反応生成物からなる薄膜が形成される。
【0004】
ここで、第2の前駆体を基板上の全ての第1の前駆体と反応させるために、第2の前駆体を、単分子層形成に必要な量より過剰に供給する必要がある。そのため、第2の前駆体の供給後にパージを行って、過剰分を除去する。この一連のプロセスを繰り返すことにより、薄膜を所望の厚さに成長させることができる。
ALD法では、基板表面の温度を、第1の前駆体の凝縮温度より高く、第1の前駆体が未分解あるいは一部分解した状態となる(完全には熱分解されない)温度に制御する。この温度より低い温度でALDを行うと凝縮により第1の前駆体が単分子層より厚く堆積し、逆に高い温度で行うと熱分解により第1の前駆体を構成する原子同士が結合されたような状態(蒸着の様に金属原子同士が結合した状態)となる。
【0005】
また、第1及び第2の前駆体の供給量とパージ時間の関係で、供給量が多いあるいはパージ時間が短いと、それぞれの前駆体が単分子層より厚く堆積される。供給量が少ないと、単分子層が形成されない状態で反応が進むため、膜厚及び組成等が不均一となる。
このように、ALD法では、理想的な成長が行われれば、膜厚や組成の均一性の高い薄膜が形成されるが、温度が適当でない場合やパージが不充分な場合には、膜厚や組成の均一性が劣化する。すなわち、第1および第2の前躯体が反応室内に残存していると、両者の反応生成物が析出して基板に付着することがあるため、過剰に供給された前駆体は、パージ工程で十分に除去される必要がある。
【0006】
また、ALD法では、第1の前駆体の供給、パージ、第2の前駆体の供給、パージの繰り返しで膜を成長させるため、それぞれのガス供給管のバルブを頻繁に開閉する。よって、ALD法で、膜厚や組成が均一な薄膜を得るためには、バルブの開閉時にも、ガスが基板に対して安定した流れで供給されるようにする必要がある。
図7は、従来のALD装置の一例であり、この装置は下記の特許文献1に記載されている。
【0007】
この装置は、反応空間101と基板保持台103とからなる。反応空間101は、反応室100内に設置され、シャワープレート107によって上部空間108と下部空間109に区画されている。基板保持台103は、基板102を下部空間109内に保持するように設置されている。上部空間108の上流側には、反応空間101に第2の前駆体Bを供給する上部供給管105が接続されている。下部空間109の上流側には、反応空間101に第1の前駆体Aを供給する下部供給管104が接続されている。下部空間109の下流側には排気部106が設けられている。基板102は図示しない加熱手段によって加熱される。
【0008】
上部供給管105は、第1の前駆体Aおよびパージガスの供給源(いずれも図示略)に接続され、下部供給管104は、第2の前駆体Bおよびバージガス供給源(いずれも図示略)に接続されている。シャワープレート107には、基板102と対向する位置に、上部空間108と下部空間109とを連通する連通孔110が設けられている。第2の前駆体Bを基板102の全面に供給するためには、この連通孔110を相当数開口させる必要がある。
【0009】
上部供給管105から上部空間108に供給された第2の前駆体Bおよびパージガスは、この連通孔110を経て基板102へ向けて噴出する。すなわち、第2の前駆体Bのガス流れは、上部供給管105から反応空間101までの間は横方向であり、上部空間108で下方の基板102へと90度向きを変え、さらに基板102上で側方の排気部106へ90度向きを変える。これに対して、第1の前駆体Aのガス流れは、下部供給管104→下部空間109→基板102→排気部106と、常に横方向である。
【0010】
この装置を用いて、基板102にALD法で薄膜を形成するためには、先ず、上部供給管105および下部供給管104から常時パージガスを反応空間101内に供給しつつ、下部供給管104から第1の前駆体Aを所定時間供給することで、基板102に単分子層を形成する。次に、第1の前駆体Aの供給を停止してパージガスのみを供給することにより、余分に堆積した第1の前駆体Aや副生成物を取除いた後に、上部供給管105から第2の前駆体Bを所定時間供給することで、第2の前駆体Bを第1の前駆体Aと反応させて所望の薄膜を形成する。
【0011】
次に、第2の前駆体Bの供給を停止してパージガスのみを供給することにより、余分に堆積した前駆体Bや副生成物を取除く。これで一連のプロセスが終了する。以後、この一連のプロセスを繰り返して薄膜を所望の厚さに成長させる。
【特許文献1】特表2004−538374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたALD装置は、シャワープレート107に多数設けた連通孔110の内面やその周囲に、第1の前駆体Aや第2の前駆体Bが残存し易く、これらはパージガスで除去されにくい。そして、これらの残存した前駆体に新たに供給された前駆体が接触して反応物が析出し、この析出物が基板102に付着すると、基板102上の本来の薄膜の成長が妨げられて、膜厚や組成が不均一になる。
【0013】
また、このALD装置は、第1の前駆体Aのガス流れが横方向であるのに対し、第2の前駆体Bのガス流れは、途中に屈曲箇所があり、この屈曲箇所で通路抵抗が増大する。このように、第1の前駆体Aと第2の前駆体Bでガス流れの状態が大きく異なるので、ガスの供給・停止を短時間で繰り返すALD装置の特性上、それぞれの前駆体が基板102に均等な流量で安定的に供給されるように制御することは非常に困難である。このことも、膜厚や組成が不均一になる要因となる。
【0014】
さらに、基板102と接触する際のガスの流れ方向が、第1の前駆体Aでは基板102に平行であるのに対して、第2の前駆体Bでは基板102に対して垂直であり、この基板に対する前駆体の接触方向の違いも、膜厚や組成が不均一になる要因の一つである。
この発明は、特許文献1に記載された原子層堆積装置の上記課題に着目してなされたものであり、反応空間内に残存する前躯体のパージが確実に行われ、各前躯体のガスが安定的に且つ均等に基板に対して供給されるようにすることで、膜厚および組成の均一な薄膜が形成できる原子層堆積装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の原子層堆積装置は、反応室内で基板を保持する台と、基板の表面に対して、第1の前躯体ガス、第2の前躯体ガス、およびパージガスを供給するガス供給管と、基板の加熱手段および回転手段と、を備えた原子層堆積装置において、ガス供給管は、同心状の内側管および外側管からなる二重管構造で内側流路と外側流路を有し、外側管の先端は内側管の先端より基板側にあり、外側管の先端面をなす円の直径が内側管の先端面をなす円の直径以下であり、内側流路の最大径での断面積とこの断面積を有する位置での外側流路の断面積が同じになるように形成され、ガスの流れが基板面に対して垂直になるように設置され、下記のガス導入制御手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
このガス導入制御手段は、基板へ第1の前躯体ガスを供給する時には、第1の前躯体ガスを含有するガスを内側流路および外側流路のうちの一方の流路に導入し、他方の流路にパージガスを導入し、基板に対する第2の前躯体ガスの供給時には、第2の前躯体ガスを含有するガスを前記他方の流路に導入し、前記一方の流路にパージガスを導入し、基板に対するパージガスの供給時には、パージガスを内側流路および外側流路に導入するとともに、基板に対する各ガスの供給時に、内側流路を通過するガスの流量と外側流路を通過するガスの流量が常に同じになるように、内側流路および外側流路へのガス導入量を制御する。
【0017】
この原子層堆積装置によれば、ガス供給管が、同心状の内側管および外側管からなる二重管構造に形成されているため、第1の前駆体ガスと第2の前駆体ガスで流れ方向が同じである。そして、二重管構造に形成されたガス供給管が、ガスの流れが基板面に対して垂直になるように設置されているため、各前躯体ガスを含有するガスとパージガスが基板に対して安定的に且つ均等に供給される。これにより、前駆体のパージが良好に行われるため、基板面に前躯体が残存しにくくなる。
【0018】
また、外側管の先端は内側管の先端より基板側にあり、外側管の先端面をなす円の直径が内側管の先端面をなす円の直径以下であることから、基板に対するガスの供給が常に外側管の先端面から行われる。これによっても、各前躯体を含有するガスとパージガスが基板に対して安定的に且つ均等に供給されるようになる。
さらに、内側流路の最大径での断面積とこの位置での外側流路の断面積が同じになるように形成され、基板に対するガス供給時に、内側流路を通過するガスの流量と外側流路を通過するガスの流量が常に同じになるように制御されるため、基板面に対するガスの流れの状態を常に一定にすることができる。
【0019】
本発明の原子層堆積装置において、反応室内で基板を保持する台より上方に、天板が基板と平行になるように配置され、この天板を貫通して外側管の先端部が前記台と対向配置されていると、互いに平行な基板と天板の間に上下端面が略平坦な反応空間が形成されるため、反応空間から排気経路へと向かうガスにおいてガスの対流や停滞が発生することが防止される。これにより、前駆体のパージをさらに良好に行うことができる。
【0020】
また、天板と基板との距離が小さいほど、反応空間が狭くなってパージに必要なガス流量を少なくできるため、パージ時間が短縮でき、サイクルタイムを短縮することができる。そのため、天板と基板との距離が20mm以下になるように、基板を保持する台と天板を配置することが好ましい。
さらに、第1の前躯体のガスおよび第2の前躯体のガスの一方が有機金属ガスで、他方が酸化性ガスである場合は、有機金属ガスが壁面に吸着しやすいため、内側流路に有機金属ガスを含有するガスを導入し、外側流路に酸化性ガスを含有するガスを導入して、有機金属ガスが接触する壁面の面積を小さくすることが好ましい。これにより、ガス供給管への有機金属の吸着量が少なくなるため、パージ時間を短縮することができ、原料の利用効率も向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の原子層堆積装置によれば、反応空間内に残存する前躯体のパージが確実に行われ、各前躯体のガスが安定的に且つ均等に基板に対して供給され、基板面に対するガスの流れの状態を常に一定にすることができるため、膜厚および組成の均一な薄膜を形成することができる。
特に、本発明の請求項4の原子層堆積装置は、第1の前躯体のガスおよび第2の前躯体のガスの一方が有機金属ガスで、他方が酸化性ガスである用途(例えばAl2 3 薄膜を形成する用途)に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1はこの実施形態の原子層堆積装置を示す断面図である。図2は図1のA−A断面である。図3は、図1の二重管構造のガス供給管を示す部分拡大図である。
この原子層堆積装置は、円筒状のステンレス製の容器1と、この容器1の蓋2と、容器1および蓋2のフランジ部1a,2a同士を挟むクランプ3を備えている。容器1内の中心部に、回転可能な石英製ペルジャー(回転手段)4が配置されている。ペルジャー4内にヒータ(加熱手段)41が配置されている。また、ペルジャー4の上に、カーボン製サセプタ(基板を保持する台)5が固定されている。このサセプタ5は基板6を水平に保持できる構造となっている。
【0023】
容器1内のサセプタ5より上方に、天板7が水平に配置されている。天板7の周縁部は鉛直上方に立ち上がった後に外側にフランジ状に延びている。このフランジ部71が容器1の内壁の上端部に設けた凹部に配置されている。サセプタ5は、この天板7と基板6との距離が20mmとなる高さに基板6を保持するように構成されている。
容器1内には、また、容器1をなす円筒より僅かに径の小さい円筒からなる内筒11が配置されている。この内筒11の上部は天板7の立ち上がり部72と容器1の内壁との間に配置されている。さらに、容器1の外側と蓋2の上部に、それぞれ冷却水流路12,21が形成されている。
【0024】
そして、二重管構造のガス供給管8が、蓋2および天板7の面の中心を貫通した状態で、これらの面に対して垂直に配置されている。ガス供給管8は、同心状の内側管81および外側管82からなり、内側管81内の内側流路2Aと、内側管81と外側管82との間の外側流路2Bを有する。内側管81は、基端側(上端)の小径部81aと、先端側(下端)の大径部81bと、両者の間で径が変化する中間部81cとからなる。
【0025】
外側管82は直径が一定の筒体からなり、その基端(上端)がフランジ部82aとなっている。外側管82は一定直径で内側管81の先端(下端)より下側(基板6側)まで延び、その先で径が小さくなっている。そして、外側管82の先端面をなす円の直径K2と、内側管81の先端面をなす円の直径K1が同じになっている。
また、内側管81の大径部81bの内面の半径r1 が1.00cm、外面の半径r2 を1.12cm、外側管82の内面の半径r3 が1.50cmとなっている。よって、ガス供給管8の内側流路8Aの最大通過断面積(内側管81の大径部81b内の断面積)は約3.14cm2 である。また、内側管81の大径部81bの位置での、外側流路8Bの断面積は、約3.13(=1.5×1.5×3.14−1.12×1.12×3.14)cm2 である。すなわち、内側管81の大径部81bの位置で、内側流路8Aと外側流路8Bの断面積がほぼ同じになっている。
【0026】
蓋2の上方に、ガス供給源とガス供給管8とを接続するための接続部9が配置されている。この接続部9は、外側管82のフランジ82aを上下方向から挟む上板91および下板92と、これらを結合するボルト93を備えている。接続部9の上板91の中心に、内側管81とガス供給源との接続穴91aが形成され、この接続穴91aより外側に外側管82とガス供給源との接続穴91bが形成されている。そして、接続穴91aに第1の配管95の先端が接続され、接続穴91bに第2の配管96の先端が接続されている。
【0027】
第1の配管95の基端は分岐されていて、分岐管の一方が第1の前躯体ガス供給装置に、他方がパージガス供給装置に接続されている。そして、各ガス供給装置から第1の配管95へ第1の前躯体ガスおよびパージガスの導入が、マスフローコントローラ(ガス導入制御手段)により制御された流量で行われるように構成されている。
第2の配管96の基端は分岐されていて、分岐管の一方が第2の前躯体ガス供給装置に、他方がパージガス供給装置に接続されている。そして、各ガス供給装置から第2の配管96への第2の前躯体ガスおよびパージガスの導入が、マスフローコントローラ(ガス導入制御手段)により制御された流量で行われるように構成されている。
【0028】
また、蓋2およびこれに固定されたガス供給管8と、ガス供給管8に固定された接続部9および天板7が、蓋側部材として一体化されている。
この実施形態では、Al2 3 薄膜を形成するために、一般的な前駆体であるトリメチルアルミニウム(TMA)および水(H2 O)が、ガス状でガス供給管8に供給されるようにした。また、パージガスとして窒素ガスを用いた。
【0029】
具体的には、TMAガスと窒素ガスの混合ガス(第1の前躯体ガスを含有するガス)と窒素ガス(パージガス)を交互に内側流路8Aに供給するために、第1の配管95の分岐管の一方をTMAガス供給装置に接続し、第1の配管95の他方を窒素ガス供給装置に接続した。そして、各ガス供給装置から第1の配管95へのTMAガスおよび窒素ガスの導入が、マスフローコントローラにより制御された流量で行われるようにした。
【0030】
また、H2 Oガスと窒素ガスの混合ガス(第2の前躯体ガスを含有するガス)と窒素ガス(パージガス)を交互に外側流路8Bに供給するために、第2の配管96の分岐管の一方をH2 Oガス供給装置に、他方を窒素ガス供給装置に接続した。そして、各ガス供給装置から第2の配管96へのH2 Oガスおよび窒素ガスの導入が、マスフローコントローラにより制御された流量で行われるようにした。
【0031】
この実施形態の原子層堆積装置を使用する際には、先ず、蓋側部材を外した状態で、容器1内のサセプタ5上に基板6を載せて、基板面を水平に保持し、天板7との距離が20mmとなる位置に基板6を配置する。次に、蓋側部材を容器1の上部に配置し、蓋2のフランジ部2aと容器1のフランジ部1aをクランプ3で挟むことで容器1内を密封し、図1に示す状態とする。
これにより、容器1内に反応室10が形成され、二重管構造のガス供給管8が基板6の面に対して垂直に、且つ、外側管82の先端が内側管81の先端より基板6側に配置される。また、サセプタ5より上方に天板7が配置されて、天板7と基板6が平行になり、天板7と基板6との距離が20mmとなる。
【0032】
この状態で、先ず、ヒータ41を加熱して基板6の温度を所定温度に保持するとともに、反応室10内の圧力を所定圧力に保持する。次に、ペルジャー4を回転させた状態で、各ガス供給装置から第1および第2の配管95,96へのガスの導入を、マスフローコントローラで流量制御しながら行うことで、ガス供給管8の外側管82の先端面から基板6の表面に対するガス供給を行う。すなわち、基板6の表面に対する、TMA供給工程、パージ工程、H2 O供給工程、パージ工程の一連のプロセスを繰り返す。これにより、基板6上にTMA単分子層とH2 O単分子層が交互に堆積されて、両単分子層間で表面反応が生じることで、Al2 3 薄膜が形成される。
【0033】
マスフローコントローラによる各ガスの流量制御は、例えば以下のようにして行う。
先ず、図4(a)に示すように、第1の配管95からガス供給管8の内側流路8Aに、TMAガスとN2 (窒素)ガスの混合ガスを導入すると同時に、第2の配管96からガス供給管8の外側流路8BにN2 ガスを導入する。内側流路8Aへの混合ガスの導入は、TMAガスを流量600sccm、N2 ガスを流量900sccmで行い、合計の流量を1500sccmとする。外側流路8BへのN2 ガスの導入は、流量1500sccmで行う。
【0034】
この状態で1秒間保持した後、内側流路8AのTMAガスの流量を0にして、N2 ガスの流量を1500sccmにし、外側流路8BのN2 ガスの流量を1500sccmのままとする。これにより、図4(b)に示すように、内側流路8Aおよび外側流路8Bに、それぞれN2 ガスが導入される。
この状態で1秒間保持した後、外側流路8BのN2 ガスの流量を900sccmにして、外側流路8BにH2 Oガスを流量600sccmで導入する。内側流路8AのN2 ガスの流量は1500sccmのままとする。これにより、図4(c)に示すように、内側流路8AにN2 ガスが導入されると同時に、外側流路8BにH2 OガスとN2 ガスの混合ガスが導入される。混合ガスの合計流量は1500sccmとなる。
【0035】
この状態で1秒間保持した後、外側流路8BのH2 Oガスの流量を0にして、N2 ガスの流量を1500sccmにし、内側流路8AのN2 ガスの流量を1500sccmのままとして、1秒間保持する。これにより、図4(b)に示すように、内側流路8Aおよび外側流路8Bに、それぞれN2 ガスが導入される。次に、図4(a)の状態にして、これら一連の制御を繰り返す。
【0036】
この実施形態の原子層堆積装置によれば、ガス供給管8が、同心状の内側管81および外側管82からなる二重管構造に形成されているため、TMAガスとH2 Oガスで流れ方向が同じである。そして、二重管構造に形成されたガス供給管8が、ガスの流れが基板6の面に対して垂直になるように設置されているため、ガス供給管8からの各ガスの供給が基板6に対して安定的に且つ均等に行われる。
【0037】
また、外側管82の先端が内側管81の先端より基板6側にあり、外側管82の先端面をなす円の直径K2が内側管81の先端面をなす円の直径K1と同じになっているため、基板6に対するガスの供給が常に外側管82の先端面から行われる。よって、ガス供給管8からの各ガスの供給が基板6に対して安定的に且つ均等に行われるようになる。また、外側管82の先端が内側管81の先端と同じ位置である場合と比較して、内側管81から供給されるTMAガスの流速変化が小さくなる。
【0038】
さらに、内側流路8Aの最大径での断面積とこの位置での外側流路8Bの断面積が同じになるように形成され、基板6に対するガス供給時に、内側流路8Aを通過するガスの流量と外側流路8Bを通過するガスの流量が、常に同じ(上述の例では1500sccm)になるように制御されるため、基板6の表面に対するガスの流れの状態を常に一定にすることができる。
【0039】
また、天板7を設けたことで、互いに平行な基板6と天板7の間に反応空間が形成されるため、反応空間内でガスの対流や停滞が発生することが防止される。これにより、前駆体ガスのパージを良好に行うことができる。また、天板と基板との距離が20mmであるため、反応空間が狭くなってパージに必要なガス流量を少なくできる。よって、パージ時間が短縮でき、サイクルタイムを短縮することができる。
また、壁面に吸着しやすいTMAガスを内側流路8Aに導入し、H2 Oガスを外側流路8Bに導入することで、TMAガスのガス供給管8への吸着量が少なくなるため、パージ時間を短縮することができ、原料の利用効率も向上する。
【0040】
なお、この実施形態では、パージガスとして窒素を用い、一般的な前駆体であるTMAおよびH2 Oを用いてAl2 3 薄膜を形成するために、第1の配管95の分岐管の一方をTMAガス供給装置に接続し、第1の配管95の他方を窒素ガス供給装置に接続し、第2の配管96の分岐管の一方をH2 Oガス供給装置に、他方を窒素ガス供給装置に接続した。しかしながら、本発明の原子層堆積装置はこれに限定されず、使用するパージガスに応じたガス供給装置、および形成する薄膜に応じた各前躯体のガス供給装置を、第1および第2の配管95,96の各分岐管に接続して、適切な流量制御を行い、圧力と温度を最適化することで、高誘電率物質の薄膜やこれ以外の様々な材質の薄膜を形成することができる。
【実施例】
【0041】
上記実施形態の原子層堆積装置を用い、下記の条件で直径50mmのシリコン基板上にAl2 3 薄膜を形成した。
基板温度:500℃、反応室10内の圧力:25hPa(ヘクトパスカル)、ペルジャー4の回転速度:30rpm、図4(a)に示すTMA供給工程でのTMAの流量(TMA恒温層温度20℃での窒素のバブリング流量):20sccm(No. 1)、50sccm(No. 2)、100sccm(No. 3)、200sccm(No. 4)、図4(c)に示すH2 O供給工程でのH2 Oの流量(H2 O恒温層温度20℃で窒素のバブリング流量):200sccm、全工程での内側流路8Aおよび外側流路8Bを流れるガスの流量:常時1500sccm。
【0042】
No. 1では、先ず、図4(a)に示すTMA供給工程として、ガス供給管8の内側流路8Aに、TMAガスを流量20sccmで、N2 ガスを1480sccmで導入すると同時に、外側流路8BにN2 ガスを1500sccmで導入して、内側流路8Aを通ったTMAガスおよびN2 ガスと、外側流路8Bを通ったN2 ガスを、外側管82の先端面から基板6に向けて、1秒間供給した。
【0043】
次に、図4(b)に示すパージ工程として、内側流路8AへのTMAガスの供給を停止し、内側流路8AへのN2 ガス供給量を1500sccmとし、外側流路8BへのN2 ガス供給量は1500sccmのままとして、内側流路8Aおよび外側流路8Bを通ったN2 ガスを、外側管82の先端面から基板6に向けて、1秒間供給した。
次に、図4(c)に示すH2 O供給工程として、外側流路8BのN2 ガスの流量を1300sccmにして、外側流路8BにH2 Oガスを流量200sccmで導入し、内側流路8AへのN2 ガス供給量は1500sccmのままとして、内側流路8Aを通ったN2 ガスと、外側流路8Bを通ったH2 OガスおよびN2 ガスを、外側管82の先端面から基板6に向けて、1秒間供給した。
【0044】
次に、図4(b)に示すパージ工程として、外側流路8BへのH2 Oガスの供給を停止し、外側流路8BへのN2 ガス供給量を1500sccmとし、内側流路8AへのN2 ガス供給量は1500sccmのままとして、内側流路8Aおよび外側流路8Bを通ったN2 ガスを、外側管82の先端面から基板6に向けて、1秒間供給した。
この一連のプロセスを100回繰り返すことにより、基板6上にTMA単分子層とH2 O単分子層を交互に堆積し、両単分子層間で表面反応を生じさせて、Al2 3 薄膜を形成した。
【0045】
No. 2では、図4(a)に示すTMA供給工程で、内側流路8AのTMAガスの流量を50sccmとし、N2 ガスの流量を1450sccmとした以外はNo. 1と同じ方法で、基板6上にAl2 3 薄膜を形成した。
No. 3では、図4(a)に示すTMA供給工程で、内側流路8AのTMAガスの流量を100sccmとし、N2 ガスの流量を1400sccmとした以外はNo. 1と同じ方法で、基板6上にAl2 3 薄膜を形成した。
【0046】
No. 4では、図4(a)に示すTMA供給工程で、内側流路8AのTMAガスの流量を200sccmとし、N2 ガスの流量を1300sccmとした以外はNo. 1と同じ方法で、基板6上にAl2 3 薄膜を形成した。
No. 1〜4の各方法でAl2 3 薄膜が形成された各基板について、基板の中心と、中心から4mm、8mm、12mm、16mm、20mm、24mmの各位置で形成された薄膜の厚さを測定した。その結果を下記の表1に示す。また、この結果を、基板中心からの距離を横軸とし、膜厚を縦軸にしたグラフにまとめた。このグラフを図5に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、膜厚のバラツキの大きさを示すR(%)値はTMA流量の違いにより異なり、TMA流量が20sccmであるNo. 1で最も小さい5.5%となり、均一性の高いAl2 3 薄膜が形成された。
また、No. 1の方法で形成されたAl2 3 薄膜の組成を、基板の中心と、中心から4mm、8mm、12mm、16mm、20mm、24mmの各位置で測定した。その結果を、図6にグラフで示す。この結果から、この方法で形成されたAl2 3 薄膜は、基板の面内全体でストイキオメトリー(化学量論的組成)が得られていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態の原子層堆積装置を示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面である。
【図3】図1の二重管構造のガス供給管を示す部分拡大図である。
【図4】各工程における内側流路および外側流路に対するガス導入状態を説明する図である。
【図5】TMAの流量を変化させて形成したAl2 3 薄膜の基板面内での膜厚分布を示すグラフである。
【図6】実施例で得られたAl2 3 薄膜の基板面内での組成分布を示すグラフである。
【図7】従来例の原子層堆積装置装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 容器
10 反応室
11 内筒
12 冷却水流路
21 冷却水流路
2 蓋
3 クランプ
4 石英製ペルジャー(回転手段)
41 ヒータ(加熱手段)
5 カーボン製サセプタ(基板を保持する台)
6 基板
7 天板
8 二重管構造のガス供給管
8A 内側流路
8B 外側流路
81 内側管
82 外側管
91a 内側管とガス供給源との接続穴
91b 外側管とガス供給源との接続穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室内で基板を保持する台と、基板の表面に対して、第1の前躯体ガス、第2の前躯体ガス、およびパージガスを供給するガス供給管と、基板の加熱手段および回転手段と、を備えた原子層堆積装置において、
ガス供給管は、同心状の内側管および外側管からなる二重管構造で内側流路と外側流路を有し、外側管の先端は内側管の先端より基板側にあり、外側管の先端面をなす円の直径が内側管の先端面をなす円の直径以下であり、内側流路の最大径での断面積とこの断面積を有する位置での外側流路の断面積が同じになるように形成され、ガスの流れが基板面に対して垂直になるように設置され、
基板へ第1の前躯体ガスを供給する時には、第1の前躯体ガスを含有するガスを内側流路および外側流路のうちの一方の流路に導入し、他方の流路にパージガスを導入し、
基板に対する第2の前躯体ガスの供給時には、第2の前躯体ガスを含有するガスを前記他方の流路に導入し、前記一方の流路にパージガスを導入し、
基板に対するパージガスの供給時には、パージガスを内側流路および外側流路に導入するとともに、
基板に対するガス供給時に、内側流路を通過するガスの流量と外側流路を通過するガスの流量が常に同じになるように、内側流路および外側流路へのガス導入量を制御するガス導入制御手段を備えたことを特徴とする原子層堆積装置。
【請求項2】
反応室内で基板を保持する台より上方に、天板が基板と平行になるように配置され、この天板を貫通して外側管の先端部が前記台と対向配置されていること特徴とする請求項1記載の原子層堆積装置。
【請求項3】
天板および台は、天板と基板との距離が20mm以下になるように配置されていることを特徴とする請求項2記載の原子層堆積装置。
【請求項4】
内側流路に有機金属ガスを含有するガスを導入し、外側流路に酸化性ガスを含有するガスを導入するように構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子層堆積装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−39750(P2007−39750A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225899(P2005−225899)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】