説明

双方向通信機能付車輪用軸受

【課題】 タイヤ異常検出センサを有し、かつ回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、センサに電力を供給することが可能であり、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、またタイヤ内に送信手段等を設ける必要がない双方向通信機能付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 外方部材1と内方部材2の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段21を設け、内方部材2に装着されたホイールWLのタイヤTaの異常を検出するタイヤ異常検出センサS1を設け、このタイヤ異常検出センサS1に対して双方向通信手段21を介して電源の供給およびセンサ出力の送信を行う回転側の双方向通信補助手段39を内方部材2に設け、外方部材1および内方部材2に、双方向通信手段21に接続されたコネクタ31,32を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転輪と固定輪との間で非接触で信号や電力の受け渡しを行う双方向通信機能およびタイヤ異常検出センサを備えた双方向通信機能付車輪用軸受に関する。
【0002】
近年、自動車の安定性向上のために、タイヤに異常が発生した時にその異常を検出し、必要に応じてドライバに警報を発するタイヤ異常検出装置の開発が盛んに行われている。例えば、ホイールの外周面上に、タイヤ内周面の表面温度を測定する非接触式の温度センサを設け、温度データの分布に基づいてタイヤの異常を検出するタイヤ異常検出装置(特許文献1)や、タイヤ内に、振動センサ、送信機、および電源を設け、タイヤの接地している路面の状態を推定する路面状態推定装置(特許文献2)が挙げられる。また、センサがトレッドゴム層の摩耗により変化した抵抗手段の抵抗値に応じた検出信号を送信部に送信し、その検出信号を入力した処理部でトレッドゴム層の摩耗状態を判定するタイヤ摩耗検知装置(特許文献3)なども提案されている。
【特許文献1】特開2005−212696号公報
【特許文献2】特開2005−59800号公報
【特許文献3】特開2005−28950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1〜3の装置では、タイヤ内に、電源とセンサ出力信号の送信手段とを設ける必要がある。また、タイヤの空気圧変動で形状変形する発電板により発電を行う技術も提案されているが、この技術では、発電量が少なく、この発電量を増やすには複数の発電板を設ける必要があるため、部品点数が増えて組立工数が大きくなるうえ製造コストが高くつく問題がある。また、例え複数の発電板を設けても、複数のセンサに電力を供給することは難しい。また、別途に光や無線等でセンサ出力を伝達する手段を設ける必要があり、部品点数が多くなり、設計の自由度が狭くなる。
【0004】
この発明の目的は、タイヤ異常検出センサを有し、かつ回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、センサに電力を供給することが可能であり、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、またタイヤ内に送信手段等を設ける必要がない双方向通信機能付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の双方向通信機能付車輪用軸受は、複列の転走面が形成された固定輪と、この固定輪の転走面と対向する転走面を形成した回転輪と、対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記固定輪と前記回転輪の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段を設け、前記回転輪に装着されたホイールのタイヤの異常を検出するタイヤ異常検出センサを設け、このタイヤ異常検出センサに対して前記双方向通信手段を介して電源の供給およびセンサ出力の送信を行う回転側の双方向通信補助手段を前記回転輪に設け、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、前記双方向通信手段に接続されたコネクタを設けたことを特徴とする。
【0006】
この構成によると、固定輪と回転輪の間で双方向の通信を行う双方向通信手段を設けたため、タイヤに取付けたタイヤ異常検出センサの信号を、双方向通信手段を介して固定側に伝達することで、タイヤ異常検出センサの信号を無線で送信する手段を設けることが不要となる。多数のタイヤ異常検出センサまたは別のセンサがあっても、中継機でまとめてバスにデータを流すことも可能であるため、必要な数だけのタイヤ異常検出センサを少ない配線で接続することができる。その場合、例えば通信データをCAN(Controller Area Network)バスなどのシリアル通信プロトコルに基づくインタフェース等を使用することで、やり取りすれば良い。
【0007】
また、双方向通信手段を利用することで、固定側から回転側への電力供給を容易に行うことができる。双方向通信手段は、発電機と異なり、回転しなくても電力の供給が可能となる。そのため、タイヤなどに取り付けたタイヤ異常検出センサに必要な無線給電機能、電池、単体での発電機能、などを不要にできる。また、回転輪に回転側の双方向通信補助手段を設け、この双方向通信補助手段は、タイヤ異常検出センサに対して前記双方向通信手段を介して電源の供給およびセンサ出力の送信を行う。このような電源の供給およびセンサ出力の送信を行う双方向通信補助手段を、タイヤ本体内に設けることなく回転輪に設けた場合、配線の取り回しが容易になるうえ、例えば、汎用タイヤを適用することができ、コスト低減を図ることができる。
【0008】
また、固定輪および回転輪のいずれか一方または両方に、双方向通信手段に接続されたコネクタを設けたため、車輪用軸受と車体側の配線または車輪用軸受とタイヤやホイール側への配線が容易となる。車輪用軸受を車体やホイールに組み込んだ後でも配線できるため、組立てが容易になる。双方向通信手段は非接触で通信を行うものであるため、摩擦の増大の問題も生じない。
このように、回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、また回転中,回転停止時を問わず通信が行え、配線も容易で、通信のための摩擦の増大の問題も生じない。
【0009】
この発明において、前記双方向通信手段は、前記固定輪に設けられるコアに巻回された1次コイルと、前記回転輪に設けられるコアに巻回された2次コイルとでなり、前記1次コイルと前記2次コイルとで磁気回路を構成するものであっても良い。いわゆるロータリトランスとする。これにより、回転体である回転輪を有する車輪用軸受に適した構造となる。
【0010】
このように、1次コイルおよび2次コイルを用いた場合に、前記双方向通信手段は、データの通信と電力の伝達とを互いに異なる周波数で行うものとしても良い。例えば、電力の伝送を低周波側で行い、データの伝送を高周波側で行う。これにより、共通の1次コイルおよび2次コイルを用いて、データと電力の通信が行える。
【0011】
この発明において、タイヤ異常検出センサは、タイヤのトレッド部に設けられ、このトレッド部の路面部が路面に接地した際に変形する感圧導体ゴム体の抵抗変化により電流値が変化する検知信号を出力するセンサ(以後、感圧センサと略す)、タイヤの温度を検出する温度センサ、タイヤまたはホイールの振動を検出する振動センサであっても良い。
【0012】
前記コネクタは、前記回転輪または前記固定輪に固定しても良い。コネクタを回転輪または固定輪に固定すれば、ホイールなどの組立時に配線が邪魔にならず、タイヤ側や車体側への配線も容易に行える。
【0013】
前記コネクタとしてタイヤまたはホイール側へ配線を接続するコネクタを有し、このコネクタは前記回転輪の内径部に配置しても良い。これによりタイヤまたはホイール側への通信が容易となる。また、コネクタが回転輪の内径部に配置されることで、コネクタが周辺部品の邪魔とならず、配線も行い易い。
【0014】
前記コネクタとして、タイヤまたはホイール側へ配線を連結するコネクタを有し、このコネクタは前記回転輪に設けられたフランジに配置しても良い。この場合、コネクタが周辺部品の邪魔とならず、配線も行い易い。
【0015】
前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、これら固定輪と回転輪の対向する周面から軸受外部に配線を出すための配線孔または配線溝を有するものとしても良い。このような配線孔または配線溝を設けると、配線を外部に引き出すことが容易となり、また車輪用軸受に等速ジョイントを組み付けるときなどに、配線を断線することが防止される。
前記配線孔または前記配線溝の一部をモールドしても良い。配線孔や配線溝の一部をモールドすることで、内部へ水等の異物が侵入することが防止できる。
【0016】
この発明において、前記双方向通信手段が電力を伝達する機能を有し、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、伝達する電力の安定化を行う制御回路を有するものとしても良い。この制御回路は、例えば、整流回路、レギュレータ、インバータ等を含む回路とされる。このような制御回路を設けることで安定した電力を供給することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の双方向通信機能付車輪用軸受は、複列の転走面が形成された固定輪と、この固定輪の転走面と対向する転走面を形成した回転輪と、対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記固定輪と前記回転輪の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段を設け、前記回転輪に装着されたホイールのタイヤの異常を検出するタイヤ異常検出センサを設け、このタイヤ異常検出センサに対して前記双方向通信手段を介して電源の供給およびセンサ出力の送信を行う回転側の双方向通信補助手段を前記回転輪に設け、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、前記双方向通信手段に接続されたコネクタを設けた。
【0018】
これにより、回転側と固定側間の双方向に通信が行えて、タイヤ異常検出センサに電力を供給することが可能であり、部品点数の削減、設計の自由度向上が図れ、またタイヤ内に送信手段等を設ける必要がない双方向通信機能付車輪用軸受を実現できる。また回転中,回転停止時を問わず通信が行え、配線も容易で、通信のための摩擦増大の問題も生じないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1は、この発明の第1の実施形態にかかる双方向通信機能付車輪用軸受をナックルに固定した組立図を示す。図2は図3のI−O−I′線に沿う断面図である。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。また、図1に示す車輪用軸受装置は、内方部材2の内輪10をハブ輪9の端部の加締部9cで加締固定しているが、図2に示すような非加締タイプとしても良い。その他の構成は同一である。
【0020】
この双方向通信機能付車輪用軸受は、その固定輪である外方部材1をナックルNKにボルトBT1で連結している。回転輪である内方部材2には、等速ジョイントTJの外輪JRのステム部JRaを挿通し、ステム部JRaの基端周辺の段面と先端のナットNTとの間で内方部材2を挟み込むことで、車輪用軸受と等速ジョイントTJとを連結している。前記内方部材2には、ハブ輪9のハブフランジ9aにブレーキロータBRとホイールWLとを重ね、ハブボルトHBTで固定している。ホイールWLにはタイヤTaが取付けられている。
【0021】
この双方向通信機能付車輪用軸受における軸受は、図2に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置となるシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0022】
外方部材1は固定輪であり、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックルNKに取付ける車体取付用のフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられている。
内方部材2は回転輪であって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルトHBTの圧入孔16が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪およびブレーキロータBRを案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0023】
この車輪用軸受に、固定輪である外方部材1と回転輪である内方部材2の間で非接触で電力を伝達する双方向通信手段21が設けられている。双方向通信手段21は、複列の転走面3,3(4,4)間に配置されている。
【0024】
双方向通信手段21は、1次コイル22、ステータコア23、2次コイル24、ロータコア25、および配線26,27から構成される。1次コイル22および2次コイル24は互いに一つの磁気回路を構成するように設けられる。ステータコア23は、内径面に溝があるリング状部材からなり、その溝部内に1次コイル22が巻かれている。ロータコア25は外径面に溝があるリング状部材からなり、その溝部内に2次コイル24が巻かれている。ステータコア23およびロータコア25の一部には、配線を通すための配線孔(図示せず)が設けられている。ステータコア23および1次コイル22は、固定輪である外方部材1の内径面に、またロータコア25および2次コイル24は、回転輪である内方部材2の外径面に、お互いがラジアル方向に対向するように設置されている。ステータコア23およびロータコア25は、外方部材1および内方部材2に対して圧入または接着などの方法で固定される。なお、ステータコア23およびロータコア25のアキシャル方向の位置決めをするために、外方部材1の内径面や内方部材2の外径面に、段差や突起(図示せず)などを設けてもよい。
【0025】
固定輪である外方部材1には、1次コイル22に接続された配線26を通す配線孔28が、内径面から外径面に貫通して設けられている。回転輪である内方部材2のハブ輪9には、2次コイル24に接続された配線27を通す配線孔29が外径面から内径面に貫通して設けられ、内径面の円周方向の一部に、上記配線27を軸方向に沿って内部に這わす配線溝30が設けられている。1次コイル22およびステータコア23を組立てる場合、配線26を予め配線孔28を通した状態で、軸方向から外方部材1の内径面に嵌合すれば良い。
【0026】
各配線26,27の先端には、車体側およびタイヤTaやホイールWL側に配線26,27を接続するためのコネクタ31,32を設けている。タイヤTaやホイールWL側へ連結するコネクタ32は、内方部材2におけるハブ輪9の、パイロット部13よりも内径部でアウトボード側端面に固定されている。車体側へ連結するためのコネクタ31は、外方部材1の外径面に固定されない状態で設けられている。
【0027】
コネクタ31,32は、上記配線26,27として、固定側から回転側へ電力を供給する場合は電源線、回転側から固定側へタイヤ異常検出センサS1等の出力信号を送信する場合は信号線を接続している。電源線および信号線の両方を接続しても良い。前記タイヤ異常検出センサS1は、タイヤTaのトレッド部の感圧センサ、タイヤTaの温度を検出する温度センサ、および、タイヤTaまたはホイールWLの振動を検出する振動センサの少なくともいずれか一つである。
【0028】
前記タイヤ異常検出センサS1のうち温度センサは、温度を検出し電圧信号に変換する機器によって実現され、接触測定型、非接触測定型のいずれの機器であっても良い。
前記タイヤ異常検出センサS1のうち振動センサは、例えば、入力加速度に比例する電圧出力を発生する加速度検出器によって実現され、圧電型、ひずみゲージセンサ型等のいずれの機器であっても良い。
このタイヤ異常検出センサS1は、異常判定手段(図示せず)と組み合わせて用いられる。この異常判定手段は、前記温度センサまたは前記振動センサまたは前記感圧センサに基づく電圧値もしくは電流値を常に監視し、所定の閾値を越えたか否かを判断する。具体的には、車両側に設けられるECUに上記異常判定手段が設けられ、前記所定の閾値を越えたと異常判定手段が判断すると、ECUは、例えば、運転者等に警報を発したり注意を喚起するための信号を出力する。ただし、このような機能に限定されるものではない。前記閾値は、車両側ECUの図示外のメモリに格納しておいても良いし、車輪用軸受側の図示外のメモリに格納しておいても良い。この閾値を必要に応じて書換えるようにしてもよい。
また、車両側のECUに異常判定手段を設ける代わりに、車輪用軸受における前記回転輪または固定輪に、前記異常判定手段を、電子回路やマイクロコンピュータに格納して設けてもよい。
【0029】
コネクタ31,32は、一対のコネクタを互いに差し込み接続する差し込み接続型のコネクタ対における片方のものであり、プラグ型およびソケット型のうちのいずれであっても良い。コネクタ31,32は、多極のものであっても、同軸のものであっても良い。
図4は、ハブ輪9に固定したコネクタ32と、このコネクタ32に接続されるタイヤ側の配線34のコネクタ33の一例を、概略図で示す。
【0030】
上記固定側のコネクタ31および回転側のコネクタ32は、これら各コネクタ31,32に差し込み接続されたコネクタ35,33およびその配線37,34を介して、固定側の双方向通信補助手段38および回転側の双方向通信補助手段39に接続される。これら双方向通信補助手段38,39を介して、電源やタイヤ異常検出センサS1等に接続される。
【0031】
双方向通信補助手段38,39は、双方向通信手段21を機能させて双方向通信を行うための電気回路などであり、例えば電力を伝達するための交流電圧を発生する手段や、データを送信するための搬送波の発生および搬送波への信号の重畳等の処理を行う。
例えば、固定側から回転側へ電力を送信し、回転側からタイヤ異常検出センサS1のデータを送信する場合の例を説明する。この場合、固定側の双方向通信補助手段38は、電源(図示せず)の直流電流を、双方向通信手段21を介して伝達するための周波数の交流電流に変換する交流電流発生機能部と、受信した電流から信号成分を抽出する復調手段等を備えるものとされる。回転側の双方向通信手段39は、図1に示すように、内方部材2のハブ輪9の一部に設けられる。この双方向通信手段39は、受信した交流電流をタイヤ異常検出センサS1の電源として利用するために直流電流に変換する整流手段と、タイヤ異常検出センサS1の出力信号を搬送波に重畳させる変調手段とを有するものとされる。
双方向通信補助手段38,39は、この例では、データの通信と電力の伝達とを互いに異なる周波数で行うものとされる。この場合に、電力を低周波側で、データを高周波側で行うようにする。
【0032】
また、回転側に多数のタイヤ異常検出センサS1もしくは別種のセンサを設ける場合は、回転側の双方向通信補助手段39に中継機39aを設け、この中継機39aに、複数のセンサ出力等の通信データをシリアル通信で受信するためのインタフェースI/Fを設ける。このインタフェースI/Fとしては、例えば、前記CANなどのシリアル通信プロトコルを用いるものとされる。固定側の双方向通信補助手段38には、シリアル通信で送信された信号を個々のセンサの出力として抽出する手段を設ける。
なお、固定側の双方向通信補助手段38は、独立して設けられたものであっても、また自動車の電気制御ユニット(ECU)等に組み込まれたものであっても良い。また、回転側の双方向通信補助手段39は、独立して設けられたものであっても、タイヤ異常検出センサS1と一体の部品として組まれたものであっても良い。
【0033】
また、前記双方向通信手段21による通信が正常に確立されているか否かを確認する確認手段49を設けても良い。確認手段49は、例えば、固定側の双方向通信補助手段38に設けても良く、また固定側のコネクタ31や、このコネクタ31と1次コイル22との間等に設けても良い。
【0034】
上記構成の双方向通信機能付車輪用軸受によると、双方向通信手段21を設けたため、例えば、固定輪である外方部材1側から回転輪である内方部材2側に電力を供給する場合、1次コイル22に交流電圧を加えると、コア23,25に発生した磁束により、誘導電力として2次コイル24に伝達される。そのため、非接触で電力の供給を行うことができる。この場合に、双方向通信手段21は、発電機と異なり、回転しなくても電力の供給が可能となる。そのため、タイヤTaやホイールWLなどに取り付けたタイヤ異常検出センサS1に必要な無線給電機能、電池、単体での発電機能、などを不要にできる。
【0035】
また、双方向通信手段21により、例えばタイヤTa等の回転側に取付けたタイヤ異常検出センサS1の信号を、双方向通信手段21を介して固定側に伝達することで、タイヤ異常検出センサS1の信号を無線で送信する手段を設けることが不要となる。多数のタイヤ異常検出センサS1もしくは別種のセンサがあっても、上記のように中継機39aでまとめてバスにデータを流すことも可能であるため、必要な数だけのセンサを少ない配線で接続することができる。その場合、上記のように通信データをCANバスなどのシリアル通信プロトコルに基づくインタフェースI/F等を使用することで、やり取りすれば良い。本実施形態のように、このようなインタフェースI/Fを内方部材2に設けた場合、例えば、汎用タイヤを適用することができ、コスト低減を図ることができる。
【0036】
さらに、コネクタ32を介してタイヤTaやホイールWLと連結することにより、車輪用軸受をホイールWLへ設置する際に配線が邪魔にならず、車輪用軸受を設置する前でもタイヤTa内での配線を行うことが可能になる。コネクタ31,32は、嵌合状態となる差し込み接続状態で防水性を有するものを使用すると良い。そうすることで、自動車の足回りのような環境が悪い条件でも使用できる。また、ハブ輪9側の配線27は、配線溝30に固定しておくと良い。そうすれば、等速ジョイントTJを組み込む際にも、配線27が邪魔にならず、断線することなく組み込むことが可能となる。配線孔28,29や配線溝30の一部をモールド樹脂(図示せず)等でモールドしておけば、軸受内部へ水などが浸入することを防止できる。1次コイル22および2次コイル24には、保護用の隔壁となる樹脂等のカバー(図示せず)で覆っても良く、これによりコイル22,24を保護することが出来る。
【0037】
なお、この実施形態では、双方向通信手段21として1次コイル22と2次コイル24からなるロータリトランス構造を示しているが、双方向通信手段21は、非接触でデータの通信や電力の供給が可能なものであれば良く、この他に、赤外線、光、電波、超音波、容量カップリング、磁気結合、などを利用して電力を伝送するものであっても良い。ただし、車輪用軸受のような回転体の場合は、この実施形態のようなロータリトランス構造が適していると考えられる。
【0038】
次に、この発明の第2の実施形態を図5および図6と共に説明する。
図5は、この発明の第2の実施形態にかかる双方向通信機能付車輪用軸受をナックルに固定した組立図である。以下の説明においては、前記第1の実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0039】
この第2の実施形態は、双方向通信手段21として、第1および第2の双方向通信手段部211 ,212 を備える。第1の双方向通信手段部211 は、前述した双方向通信手段21と同じである。
第2の双方向通信手段212 は、1次コイル22Bおよび2次コイル24Bを、固定輪である外方部材1の外周に位置させ、互いに軸方向に対向させている。ステータコア23Bは外方部材1の外径面に固定し、ロータコア25Bはハブフランジ9aの側面に固定している。ステータコア23Bおよびロータコア25Bは、側面に溝を有するリング状とされ、それぞれ溝内に1次コイル22Bおよび2次コイル24Bを収容している。1次コイル22Bは、そのステータコア23Bに取付けられたコネクタ31′に配線(図示せず)で接続されている。2次コイル24Bは、配線27′を介してコネクタ32′に接続されている。配線27′は、ハブフランジ9aに設けられた配線孔42内に挿通され、コネクタ32′は、ハブフランジ9aの側面に固定されている。なお、ハブフランジ9aに重ねて取付けられるホイールWLおよびブレーキロータBRには、コネクタ32′が内部に入る逃がし溝(図示せず)を成形する。コネクタ32′には、タイヤ異常検出センサS1等が、コネクタ33′を介して接続される。
【0040】
このように、双方向通信手段21として、2系統の双方向通信手段部211 ,212 を設けた場合、ホイールWL等の回転側に設けられる各種のタイヤ異常検出センサS1等に応じて、両双方向通信手段部211 ,212 を使い分けるようにしても良い。また、いずれか片方、例えば第2の双方向通信手段212 を、電力の伝達用に用い、もう片方となる第1の双方向通信手段211 を、データの送信および受信に用いても良い。この場合に、電力の伝達とデータの通信とで周波数を異ならせ、電力を低周波側で、データを高周波側で伝達するようにしても良い。このように、双方向通信手段21のコアを、2系統の双方向通信手段部211 ,212 を設け、電力伝達用の低周波用とデータ通信のための低周波用とに分割した場合、効率の良い伝達を行うことができる。
なお、双方向通信手段21として、図6の例における第2の双方向通信手段部212 のみを設けても良い。
【0041】
以上説明した第2の実施形態によると、2系統の双方向通信手段部211 ,212 を設けることにより、固定側から回転側への電力供給を容易に行うことができる。これら双方向通信手段部211 ,212は、発電機と異なり、回転しなくても電力の供給が可能となる。そのため、タイヤTaなどに取り付けたタイヤ異常検出センサS1に必要な無線給電機能、電池、単体での発電機能、などを不要にできる。また、内方部材2に双方向通信補助手段39を設け、この双方向通信補助手段39に中継機39aを設け、この中継機39aに、複数のセンサ出力等の通信データをシリアル通信等で受信するためのインタフェースI/Fを設けた。このようなインタフェースI/Fをタイヤ本体内に設けることなく内方部材2に設けた場合、配線の取り回しが容易になるうえ、例えば、汎用タイヤを適用することができ、コスト低減を図ることができる。その他第1の実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0042】
図7は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、双方向通信手段21における1次コイル22および2次コイル24を、互いがアキシャル方向に対向するように設置したものである。ステータコア23Aおよびロータコア25Aは、L字形断面となるリング状部材とし、その内部に1次コイル22および2次コイル24が巻かれている。
1次コイル22または2次コイル24に交流電圧を加えた場合の磁路つまり磁気回路は、回転輪を構成するハブ輪9の一部を含んでいる。このように磁気回路がハブ輪9の一部を含むように構成すれば、磁気回路を構成し易く、ロータコア25Aやステータコア23Aの形状を簡素化できる。その他の構成,効果については、図1,図2の実施形態と同様である。
【0043】
図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、双方向通信手段21は、回転輪を構成するハブ輪9のハブフランジ9aの基端と、固定輪となる外方部材1のアウトボード側端の内径面との間に配置されている。1次コイル22と2次コイル24は、アキシャル方向に対向するように配置されている。回転輪のハブフランジ9aと外方部材1のアウトボード側の端面との間には密封装置7Bを設けている。ハブフランジ9aの円周方向の一部には、2次コイル24の配線27を這わす配線溝36が設けられており、ハブフランジ9aの外径面から配線27に連結されたコネクタ32を外に出している。この配線27のハブフランジ9aから外に出された部分は、ブレーキロータBRの一部に配線孔41を設けて外径側へ引き出すと良い。それ以外の構成は、図7と共に前述した実施形態と同じである。
【0044】
図9は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、回転輪を構成する内方部材2のハブ輪9と、固定輪である外方部材1に、それぞれ制御回路53,54を設置している。制御回路53,54は、回路基板に回路素子を実装したもの、または回路チップからなり、ハブ輪9のハブフランジ9aの側面、および外方部材1の外径面に固定されている。これら制御回路53,54は、伝達する電力の安定化を行うものであり、整流回路、レギュレータ、インバータなどを含む。例えば、固定輪である外方部材1側の制御回路54にインバータ、回転輪を構成するハブ輪9側に整流回路およびレギュレータを設ける。
【0045】
これにより、車体側からの直流電圧を交流電圧に変換し、1次コイル22に交流電圧を加える。1次コイル22に交流電圧を加えると、誘導電力として2次コイル24に伝達されるため、2次コイル24で発生した交流電圧を整流回路で直流電圧に変換し、レギュレータで平滑、定電圧化して出力すれば、タイヤやホイールに設置したセンサへ安定した電力を供給できる。ハブフランジ9aに設ける配線27の案内用の溝36は、ハブフランジの内径部から、制御回路53の取付位置までとされている。この実施形態におけるその他の構成は、図8に示す実施形態と同様である。
なお、制御回路53,54は、図1,図2と共に前述した回転側の双方向通信補助手段39および固定側の双方向通信補助手段38の機能を備えるものであっても良い。この場合、制御回路53,54と双方向通信補助手段38,39とを独立して設ける構成に比べて、組立工数を低減し、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0046】
図10は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この双方向通信機能付車輪用軸受は、双方向通信手段21が、ステータコア23に設けられた送信用1次コイル22aおよび受信用1次コイル22bと、ロータコア25に設けられた送信用2次コイル24aおよび受信用2次コイル24bとでなる。
ステータコア23は、内周に2本の溝があるリング状部材であり、各溝内に送信用1次コイル22aおよび受信用1次コイル22bが収容されて、これら送信用および受信用の1次コイル22a,22bに共通のものとされている。ロータコア25は、外周に2本の溝があるリング状部材であり、各溝内に送信用2次コイル24aおよび受信用2次コイル24bが収容されて、これら送信用および受信用の2次コイル24a,24bに共通のものとされている。
【0047】
ステータコア23は、固定輪である外方部材1の内周面に取付けられ、ロータコア25は回転輪を構成するハブ輪9の外周面に取付けられている。ステータコア23の送信用1次コイル22aとロータコア25の送信用2次コイル24aとが互いに対向して磁気回路を構成し、またステータコア23の受信用1次コイル22bとロータコア25の受信用2次コイル24bとが互いに対向して磁気回路を構成する。
【0048】
固定側の配線26は電力配線およびデータ配線を有し、電力配線が送信用1次コイル22aに接続され、データ配線が受信用1次コイ22bに接続されている。回転側の配線27は、電源線および信号線を有し、電源線が送信用2次コイル24aに接続され、信号線が受信用2次コイル24bに接続されている。
【0049】
この実施形態の場合、電力が1次コイル22a,2次コイル24a間で伝達され、データが1次コイル22b,2次コイル24b間で伝送される。この実施形態におけるその他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0050】
なお、上記各実施形態では、双方向通信手段21を複列の転走面3,3間か、または車輪用軸受装置のアウトボード側端に配置したが、車輪用軸受装置のインボード側部に双方向通信手段21を設け、等速ジョイントに設置したセンサに対して電力供給および出力信号の伝達を行うようにしても良い。その場合、固定輪となる外方部材1のインボード側端面に1次コイル22を設置し、内輪10に2次コイル24を設けても良い。
また、上記各実施形態は、外方部材1が固定輪としたが、この発明は内方部材が固定輪で外方部材が回転輪となる車輪用軸受装置にも適用することができる。
さらに、この発明は、駆動輪用の車輪用軸受に限らず、従動輪用の車輪用軸受に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる双方向通信機能付車輪用軸受をナックルに取り付け、ホイールを組付けた状態を示す組立図である。
【図2】同双方向通信機能付車輪用軸受の断面図である。
【図3】同双方向通信機能付車輪用軸受をインボード側から見た側面図である。
【図4】コネクタの一例を示す概略図である。
【図5】この発明の第2の実施形態にかかる双方向通信機能付車輪用軸受をナックルに取り付け、ホイールを組付けた状態を示す組立図である。
【図6】同双方向通信機能付車輪用軸受の断面図である。
【図7】この発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…外方部材(固定輪)
2…内方部材(回転輪)
3,4…転走面
5…転動体
21…双方向通信手段
22…1次コイル
23…ステータコア
24…2次コイル
25…ロータコア
26,27…配線
28,29…配線孔
30…配線溝
31,32…コネクタ
38,39…双方向通信補助手段
53,54…制御回路
S1…タイヤ異常検出センサ
I/F…インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が形成された固定輪と、この固定輪の転走面と対向する転走面を形成した回転輪と、対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
前記固定輪と前記回転輪の間で、非接触で双方向に通信する双方向通信手段を設け、前記回転輪に装着されたホイールのタイヤの異常を検出するタイヤ異常検出センサを設け、このタイヤ異常検出センサに対して前記双方向通信手段を介して電源の供給およびセンサ出力の送信を行う回転側の双方向通信補助手段を前記回転輪に設け、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、前記双方向通信手段に接続されたコネクタを設けたことを特徴とする双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記双方向通信手段は、前記固定輪に設けられるコアに巻回された1次コイルと、前記回転輪に設けられるコアに巻回された2次コイルとでなり、前記1次コイルと前記2次コイルとで磁気回路を構成することを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記双方向通信手段は、データの通信と電力の伝達とを互いに異なる周波数で行うものであることを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、タイヤ異常検出センサは、タイヤのトレッド部に設けられ、このトレッド部の路面部が路面に接地した際に変形する感圧導体ゴム体の抵抗変化により電流値が変化する検知信号を出力するセンサであることを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、タイヤ異常検出センサは、タイヤの温度を検出する温度センサであることを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、タイヤ異常検出センサは、タイヤまたはホイールの振動を検出する振動センサであることを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記コネクタは、前記回転輪または前記固定輪に固定したことを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記コネクタとして、タイヤまたはホイール側へ配線を接続するコネクタを有し、このコネクタは前記回転輪の内径部に配置したことを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記コネクタとして、タイヤまたはホイール側へ配線を連結するコネクタを有し、このコネクタは前記回転輪に設けられたフランジに配置したことを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、これら固定輪と回転輪の対向する周面から軸受外部に配線を出すための配線孔または配線溝を有することを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記双方向通信手段が電力を伝達する機能を有し、前記固定輪および前記回転輪のいずれか一方または両方に、伝達する電力の安定化を行う制御回路を有することを特徴とした双方向通信機能付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−269042(P2008−269042A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107794(P2007−107794)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】