説明

収差評価用パターン、収差評価方法、収差補正方法、電子線描画装置、電子顕微鏡、原盤、スタンパ、記録媒体、及び構造物

【課題】電子線を照射する照射系での非点収差を評価する。
【解決手段】基準試料WPの表面に、複数(例えば4つ)の同心円からなる図形パターンを形成し、この基準試料WPを電子線でスキャンすることによって得られる電子信号に基づいて画像(スキャン画像)を形成する。このスキャン画像では、非点収差の方向を長手方向とする領域に像のボケが生じ、また、非点収差の大きさによって、ボケが生じた領域の範囲が変化する。したがって、得られたスキャン画像に基づいて、照射装置10の照射系での非点収差の方向及び大きさを検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差評価用パターン、収差評価方法、収差補正方法、電子線描画装置、電子顕微鏡、原盤、スタンパ、記録媒体、及び構造物に係り、更に詳しくは、試料の表面を走査する照射系での収差を評価する収差評価用パターン、該収差評価用パターンを電子線で走査することにより得られる電子信号に基づいて照射系での収差を評価する収差評価方法、該収差評価方法によって得られた評価結果に基づいて、前記照射系での収差を補正する収差補正方法、該収差補正方法によって収差が補正された照射系を備える電子線描画装置、該収差補正方法によって収差が補正された照射系を備える電子顕微鏡、前記電子線描画装置を用いてパターンが描画された原盤、該原盤を用いて作製されたスタンパ、該スタンパを用いて作製された記録媒体、及び前記スタンパを用いて作製された構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
光リソグラフィ技術の分野では、従来から、g線、i線、KrFエキシマレーザなどを用いた光リソグラフィ技術の研究開発が盛んに行われており、今後は、更なる半導体デバイスの小型大容量化の観点から、試料に対して高精細なパターンを描画することが可能な電子線を用いた電子線描画装置や、微細パターンなどを高分解能で観察することが可能な走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)などを用いたリソグラフィ技術の進歩発展が予想される。
【0003】
電子線を用いた装置は、電子銃や電子線照射装置から射出される電子線のスポット形状を小さくし、かつ真円にするために、一般にフォーカス調整機能や非点収差補正機能を有している。フォーカス調整機能は、試料の表面に形成される電子線のスポット形状をできる限り小さくするための機能であり、非点収差補正機能は、電子線のスポット形状を楕円ではなくて真円にする機能である。
【0004】
非点収差を補正するには、従来、例えば、金や白金などの蒸着試料やエッチングされたホール状試料など微細構造を有する試料に電子線を照射して得られる2次電子や反射電子などに基づく画像を、電子線描画装置のSEM機能を用いて観察し、像がシャープに見えるように、非点収差補正機能を操作調整していた。しかしこの定性的判断方法では、非点収差の有無と方向、および大きさの評価が困難であり、さらに、上記した非点収差の補正は手動で行っており、時間を要し、かつ再現性が悪いという欠点があった。加えて、操作全体を通じて習熟度による個人差が出やすい点も欠点であった。従って、研究開発用途には用いられる場合もあるが、生産装置などへの適用には問題が多い。
【0005】
そのため、例えば、特許文献1に示される技術のように、ナイフエッジ法と呼ばれる方法で電子線のスポット形状を直接測定した後、非点収差を補正することが提案されている。しかしながら、高精度なナイフエッジの作製が課題であり、また、散乱電子の影響などにより、測定精度(再現性)が十分得られないという問題がある。そこで、例えば、特許文献2に示される技術のように、放射状に配置された扇形からなる基準パターンを(ここではレチクル上に)作製し、電子線を照射して得られる電子線像(ここでは規定の縮小率でウエハに投影された電子線像)のボケ方向と大きさを検出して、非点収差を判断・補正することが提案されている。しかしながら、非点収差の大きさと方向の検出については、(現像後を含む)パターンの解像度観察とあるだけで具体的な手順および定量化方法が示唆されていない。さらに、幅が連続的に変化する扇形が放射状に規則正しく配置した基準パターンの作製は、煩雑な手順と時間を要するという問題がある。
【0006】
また、例えば、特許文献3に示される技術では、ライン&スペースの格子構造を持つ基準パターンを、格子方向(ライン&スペース方向)が半径方向に一致する向きで、円周または同心円周に沿って離散的に複数配置した基準試料を用意し、電子ビームが基準パターン上を通るように円形スキャンさせて、電子信号振幅を検出し、焦点ずれと非点収差の有無を判断・補正することが提案されている。しかしながら、個々の基準パターンの格子方向がそれぞれ違い、さらに、それらを円周上の所定位置に配置する必要があるので、基準試料の作製の難易度が非常に高いという問題がある。また、電子ビームを円あるいは同心円状に正確にスキャンさせることも煩雑であり、さらに、電子ビームのスキャン半径が大きな場合は、偏向による収差が加わるという問題もある。
【0007】
【特許文献1】特開2006−080201号公報
【特許文献2】特開2004−153245号公報
【特許文献3】特許第3984019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は照射系での収差を精度よく評価することが可能な収差評価用パターンを提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、照射系での収差を精度よく評価することが可能な収差評価方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第3の目的は、照射系での収差を精度よく補正することが可能な収差補正方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の第4の目的は、精度よく試料にパターンを描画することが可能な電子線描画装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第5の目的は、精度良く試料を観察することが可能な電子顕微鏡を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第6の目的は、微細パターンが描画されたスタンパを作製することが可能な原盤を提供することにある。
【0014】
また、本発明の第7の目的は、記録媒体、及び構造物に微細パターンを形成することが可能なスタンパを提供することにある。
【0015】
また、本発明の第8の目的は、微細パターンが精度よく形成された記録媒体、及び構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は第1の観点からすると、電子線を偏向させることにより、試料の表面を走査する照射系の収差を評価する収差評価用パターンであって、同一平面内において、前記偏向前の前記電子線の照射位置を中心として、外側に向かって形成された、所定線幅と所定間隔からなる周期構造を有し、前記周期構造は、前記中心の周囲360度に渡って形成され、前記中心を共有する同心図形、もしくは、螺旋図形から形成される収差評価用パターンである。
【0017】
これによれば、収差評価パターンは、同一平面内において、偏向前の電子線の照射位置を中心として、中心を共有する同心図形、もしくは、螺旋図形により、所定線幅と所定間隔からなる周期構造が、中心から外側に向かって、中心の周囲360度に渡って形成される。
したがって、収差評価パターンの図形を電子線で走査することにより得られる電子信号から形成された画像に基づいて、収差評価パターン図形の任意の位置での非点収差を評価することが可能となる。
【0018】
また、本発明は第2の観点からすると、収差評価用パターンを電子線で走査することにより得られる電子信号に基づいて、前記電子線を照射する照射系での収差を評価する収差評価方法であって、本発明の収差評価用パターンを前記電子線で走査する工程と;前記走査によって得られる電子信号に基づいて画像を形成する工程と;前記画像に基づいて前記照射系での収差を評価する工程と;を含む収差評価方法である。
【0019】
これによれば、本発明の収差評価用パターンを電子線で走査することによって得られた画像に基づいて照射系の収差が評価される。したがって、収差評価用パターン図形の任意の位置での非点収差を評価することが可能となる。
【0020】
また、本発明は第3の観点からすると、収差評価用パターンを電子線で走査することにより得られる電子信号に基づいて、前記電子線を照射する照射系での収差を評価する収差評価方法であって、前記照射系のフォーカス位置を本発明の収差評価用パターン上に設定する工程と;前記照射系のフォーカス位置が設定された前記収差評価用パターンに対して、前記電子線を第1方向及び該第1方向と直交する第2方向へ走査することにより得られる電子信号に基づいて、前記照射系での収差を評価する工程と;を含む収差評価方法である。
【0021】
これによれば、照射系のフォーカス位置が設定された収差評価用パターンは、同一平面内において、偏向前の電子線の照射位置を中心に形成された基準図形と、この基準図形を中心に形成された相似形の複数の図形とを有し、それらが所定の線幅と所定間隔を有している。そして、電子線を相互に直交する任意の第1方向と第2方向とへ偏向させて収差評価用パターンを走査することで、各方向に応じた2種類の電子信号を検出することができる。したがって、各信号を比較することで、各方向における非点収差を評価することが可能となる。
【0022】
また、本発明は第4の観点からすると、本発明の収差評価方法によって得られた評価結果に基づいて、前記照射系での収差を補正する収差補正方法である。
【0023】
これによれば、本発明の収差評価方法によって得られた、第1方向及び第2方向に対応する2種類の電子信号の信号波形が、相互に一致するように電子線のスポット形状を成形することで、電子線の走査領域における非点収差の影響を低減することが可能となる。
【0024】
本発明は、第5の観点からすると、本発明の収差補正方法によって収差が補正された照射系を備える電子線描画装置である。これによれば、電子線描画装置が備える照射系は、本発明の収差補正方法によって収差が補正されているため、照射系の収差の影響を受けることなく、精度良く試料にパターンを描画することが可能となる。
【0025】
本発明は、第6の観点からすると、本発明の収差補正方法によって収差が補正された照射系を備える電子顕微鏡である。これによれば、電子顕微鏡が備える照射系は、本発明の収差補正方法によって収差が補正されているため、照射系の収差の影響を受けることなく、精度良く試料を観察することが可能となる。
【0026】
また、本発明は第7の観点からすると、本発明の電子線描画装置によって、所定のパターンが描画された原盤である。これによれば、原盤には微細パターンが精度よく描画されているため、記録媒体などに微細パターンを形成するスタンパを精度よく作製することができ。
【0027】
また、本発明は第8の観点からすると、本発明の原盤を用いて作製されたスタンパである。これによれば、スタンパには微細パターンが精度よく形成されているため、記録媒体などに高精細なパターンを形成(転写)することが可能となる。
【0028】
また、本発明は第9の観点からすると、本発明のスタンパを用いて作製された記録媒体である。これによれば、記録密度の向上を図ることが可能となる。
【0029】
また、本発明は第10の観点からすると、本発明のスタンパを用いて作製された構造物である。これによれば、この構造物を用いた記録媒体の記録密度の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態を図1〜図9に基づいて説明する。図1には第1の実施形態に係る描画装置100の概略構成が示されている。この描画装置100は、例えば真空度が10−4Pa程度の環境下において、レジスト材がコーティングされることにより描画面が形成された試料に電子ビームを照射して、試料の描画面に微細パターンを描画する描画装置である。
【0031】
図1に示されるように、この描画装置100は、試料が載置される回転テーブルユニット30、電子ビームを試料に照射する照射装置10、回転テーブルユニット30を収容する真空チャンバ50、及びにこれらを統括的に制御する主制御装置70などを備えている。
【0032】
前記真空チャンバ50は、下方(−X側)が開放された直方体状の中空部材であり、下端が定盤51の上面に隙間なく接続されている。また、上面には照射装置10の下端部が挿入される開口が形成されている。
【0033】
前記回転テーブルユニット30は、真空チャンバ50内部の定盤51上に配置されている。この回転テーブルユニット30は、試料が載置される回転テーブル31、回転テーブル31を水平に支持するとともに、所定の回転数で軸32aを中心に回転するスピンドルモータ32、及びスピンドルモータ32を支持するとともにX軸方向に所定のストロークで駆動するスライドユニット33を備えている。
【0034】
前記照射装置10は、長手方向をZ軸方向とするケーシング10aと、該ケーシング10aの内部上方から下方に向かって順次配置された、電子源11、電界レンズ12、軸合わせコイル13、集束レンズ14、ブランキング電極15、アパーチャ16、非点補正コイル17、走査電極18、対物レンズ19、動的焦点補正レンズ20、及び電子検出器21を備えている。なお、説明の便宜上、以下では電界レンズ12、軸合わせコイル13、集束レンズ14、非点補正コイル17、対物レンズ19、及び動的焦点補正レンズ20を一括して照射系とも呼ぶものとする。
【0035】
前記ケーシング10aは、下方が開放された円筒状のケーシングであり、真空チャンバ50上面に形成された開口に、上方から隙間なく嵌合されている。また、真空チャンバ50内部に収容された−Z側端部は、その直径が−Z方向に向かって小さくなるテーパー形状となっている。
【0036】
前記電子源11は、前記ケーシング10aの内部上方に配置されている。この電子源11は、陰極から熱と電界により取り出した電子を射出する熱電界放射型の電子源であり、例えば、直径20〜50nm程度の電子ビームを下方(−Z方向)へ射出する。
【0037】
前記電界レンズ12は、電子源11の下方に上下方向に隣接して配置された1対の円筒レンズ12a,12bを有している。円筒レンズ12a,12bには相互に異なる大きさの電流が供給され、電子源11から射出された電子ビームは、円筒レンズ12a,12bを通過する際に、集束する方向の力が与えられる。
【0038】
前記集束レンズ14は、電界レンズ12の下方に軸合わせコイル13を介して配置されている。この集束レンズ14は、電界レンズ12を通過した電子ビームを集束させる。
【0039】
前記軸合わせコイル13は、電界レンズ12と集束レンズ14の間に配置されている。この軸合わせコイル13は、上下方向に隣接して配置された1対の環状コイル13a,13bを有し、電界レンズ12と集束レンズ14との間を通過する電子ビームの軸ずれを補正する。
【0040】
前記ブランキング電極15は、集束レンズ14の下方に配置されている。このブランキング電極15は、集束レンズ14の光軸の+X側及び−Y側に配置された相互に対向する1対の電極を有し、主制御装置70により印加される電圧に応じて、集束レンズ14を通過した電子ビームを+X方向又は−X方向へ偏向する。
【0041】
前記アパーチャ16は、中央に電子ビームが通過する開口が設けられた板状の部材であり、ブランキング電極15の下方で、中央の開口が集束レンズ14の光軸上に位置するように配置されている。
【0042】
前記非点補正コイル17は、アパーチャ16の下方に配置された環状のコイルであり、アパーチャ16を通過した電子ビームの非点収差を補正する。
【0043】
前記走査電極18は、非点補正コイル17の下方に配置されている。この走査電極18は、集束レンズ14の光軸の+X側及び−X側に配置された相互に対向する1対の電極と、集束レンズ14の光軸の+Y側及び−Y側に配置された相互に対向する1対の電極とを有し、主制御装置70によって印加される電圧に応じて、アパーチャ16を通過した電子ビームをX軸方向又Y軸方向へ偏向する。
【0044】
前記対物レンズ19は、走査電極18の下方に配置され、走査電極18を通過した電子ビームを、回転テーブル31に載置された試料の表面に収束する。試料の表面に収束させる電子ビームのスポット径(ビーム径)は、たとえば、10〜200nm程度の範囲で設定可能である。
【0045】
前記動的焦点補正レンズ20は、前記対物レンズ19により試料の表面に収束された電子ビームのビームスポット径の微調整を行う。
【0046】
前記電子検出器21は、回転テーブル31の近傍に配置され、回転テーブル31に載置された試料に電子ビームが照射された際、試料より発生した2次電子、または試料から反射された反射電子、あるいは試料を透過した透過電子を検出して、検出した電子の量に対応した信号(以下、電子信号という)を主制御装置70へ供給する。以下、試料より発生した2次電子信号を用いる場合について説明する。
【0047】
上述した描画装置100では、電子源11から射出された電子ビームは、電界レンズ12及び集束レンズ14を通過することにより集束され、アパーチャ16に設けられた開口の近傍(以下、クロスオーバポイントという)で一旦交差される。次に、クロスオーバポイントを通過した電子ビームは、発散しつつアパーチャ16を通過することによりそのビーム径が整形される。そして、非点補正コイル17により非点収差が補正された後対物レンズ19によって、回転テーブル31に載置された試料の表面に収束される。そして、この状態から走査電極18に印加する電圧を制御して、電子ビームをX軸方向及びY軸方向へ偏向させることで、試料の表面を電子線で走査(スキャン)することができるようになっている。
【0048】
また、上記動作と並行して、ブランキング電極15に印加する電圧を制御して、一例として図1中に破線で示されるように電子ビームを−X方向に偏向させることで、アパーチャ16で電子ビームを遮蔽し、試料に対する電子ビームのブランキング(オン/オフ)をすることができる。
【0049】
前記主制御装置70は、一例としてCPUや、上記各部を制御するプログラムやパラメータが格納されたメモリなどを含んで構成された制御用コンピュータである。この主制御装置70は、入力装置72から入力された指令に基づいて、照射装置10及び回転テーブルユニット30を制御するとともに、照射装置10及び回転テーブルユニット30に関する情報や、電子検出器21から供給される2次電子信号に基づいて形成した画像をモニタ71へ表示する。
【0050】
次に、上述のように構成された照射装置10の照射系での収差を評価する収差評価方法について説明する。この収差評価方法は、一例として図2(A)に示されるように、中心に複数の同心円からなる評価パターンが形成された試料(以下、基準試料という)WPを回転テーブル31に載置する。そして、照射装置10のフォーカスを基準試料WPの表面に調整して、基準試料WPをスキャンすることで得られる2次電子信号に基づく画像(SEM画像)を観察することによって行う。
【0051】
基準試料WPの構成を説明する。図2(A)に示される例では、基準試料WP表面には、中心201を同じくする、ハッチングで示される複数(ここでは紙面の都合上4本)の同心円202が形成されている。各同心円は、所定の幅Wを有し、それぞれが所定の間隔Sで形成されている。後述するように、電子線で基準試料WP表面をスキャンして2次電子信号に基づく画像を得るため、上記同心円の幅Wと間隔Sは、電子線のスポット径に応じて決める必要がある。概ねそれぞれを、電子線のスポット径より大きくすれば良いが、数倍〜数十倍程度にすることが多い。幅Wと間隔Sは、等しくても、異なっても良い。図2(A)では、基準試料WPの全面に渡って、幅Wと間隔Sの値はそれぞれ全て同じ場合が示されている。
【0052】
このような同心円パターンは、一例として、図2(B)に示されるように、基板210表面に凹凸パターンで形成することができ、同心円202を凸部、同心円間203を凹部にするか、あるいは反対に、同心円202を凹部、同心円間203を凸部にする。図2(A)及び図2(B)には、同心円間203と、最内同心円内部が凹部となる場合が示されている。反対に、同心円を凹部、同心円間を凸部としても良い。
【0053】
上記基準試料WPの凹凸パターンは、例えばリソグラフィ技術を用いて作製できる。スポット径20nmの電子ビームに対して、2次電子信号に基づく画像が最も良好になる条件を実験的に求め、凸部幅70nm、凹部幅30nm、凸部の高さ200nmで作製した同心円パターン基準試料WPの実例が図4(B)に示されている。最内凹部円の直径は200nmである。凹凸パターンは、シリコンウエハ基板上にレジストを塗布し、電子線描画装置により同心円パターンを描画し、現像して作製した。同心円パターンは、単純な円の組み合わせであり、電子線描画装置に複雑なパターン生成を指示することなく、簡単な手順で描画を行うことができた。
【0054】
このような基準試料WPに対し、走査電極18が停止状態で非偏向状態にある電子線が、同心円パターン中心201に照射されるように、基準試料WPの位置を回転テーブルユニット30等によりあらかじめ調整しておく。以下、非走査状態の電子線は、基準試料WPの同心円パターン中心に照射されているとして説明を進める。また、以下の図6から図9では、図2(A)で説明した幅を持つ個々の円が、単純な円として図2(C)のように省略表示されている。
【0055】
図6には、非点収差が含まれない真円形状の電子線(基準電子線)のスポットBSと、この基準電子線を用いて、基準試料WPを走査したときの2次電子信号に基づいて形成される画像PICが示されている。基準電子線で基準試料WPを走査した場合には、図6に示される画像PICのように、各円の円周全体にわたってぼけのないシャープな画像(基準画像)PICが観察される。
【0056】
図7には、一例として照射装置10の照射系にX軸方向の非点収差があることによって、長軸がX軸に平行となる楕円形状となった電子線のスポットBSと、この電子線を用いて、基準試料WPを走査したときの2次電子信号に基づいて形成された画像(以下、スキャン画像)PICが示されている。電子線がX軸方向の非点収差の影響を受ける場合には、図7に示される画像PICのように、ハッチングされたX軸を含む部分を中心としてボケが生じた画像が観察される。
【0057】
また、図8には、一例として照射装置10の照射系にX軸方向とY軸方向の非点収差があることによって、長軸がX軸及びY軸と45度の角度をなす直線を長軸とする楕円形状となった電子線のスポットBSと、この電子線を用いて基準試料WPを走査したときのスキャン画像PICが示されている。電子線がX軸方向及びY軸方向の非点収差の影響を受ける場合には、図8に示される画像PICのように、ハッチングされたX軸及びY軸と45度の角度をなす直線Lを含む部分を中心としてボケが生じた画像が観察される。
【0058】
つまり、該基準試料WPをスキャンしたときにモニタ71に映し出される画像から、例えば図7に示されるように、X軸を含む部分にボケが生じた場合には、照射装置10の照射系にはX軸方向の非点収差があり、図8に示されるように、直線Lを含む部分を中心とするボケが生じた場合には、直線Lに沿った方向の非点収差があることがわかる。
【0059】
また、図9には、図7に示されるビームスポットBSと比較して非点収差が小さい場合のスポットBSと、この電子線を用いて、基準試料WPを走査したときのスキャン画像PICが示されている。図8及び図7にそれぞれ示される画像PIC,PICを比較するとわかるように、非点収差が小さくなるにつれて、ハッチングされた画像がボケる領域は小さくなる。したがって、基準試料WPを走査したときに得られる画像のボケる領域の大きさに基づいて非点収差の大きさを評価することが可能となる。
【0060】
上記のように基準試料WPをスキャンしたときの画像にボケる領域が存在する場合には、例えば、入力装置72から非点補正に関する補正指令などを入力し、非点補正コイル17を制御することで、照射系での非点収差の補正を行うことが可能となる。具体的には、補正指令を入力した後のスキャン画像と、図6に示される基準画像PICとを比較して、スキャン画像が基準画像に近似するような非点補正を行えばよい。このとき、非点補正が進むにつれて、基準試料WPをスキャンしたときの画像のボケ領域は小さくなってゆく。そこで通常は、非点補正の進行とあわせ、適宜、画像の倍率を上げてより小さな領域に注目し、ボケ領域を拡大して観察する手順が取られる。
【0061】
上述のように、照射装置10の非点収差の評価を行い、照射装置10の非点補正を終了した後は、例えば不図示の搬送装置によって基準試料WPを搬出するとともに、試料を回転テーブル31に載置して、照射装置10及び回転テーブルユニット30を駆動することで、試料に対して同心円状又は螺旋状のパターンを形成することができる。
【0062】
以上説明したように、本第1の実施形態によると、基準試料WPの表面には、4つの同心円からなるパターンが形成されている。したがって、この基準試料WPを走査することによって得られるスキャン画像に基づいて、照射装置10の照射系での非点収差の方向及び大きさを検出することが可能となる。
【0063】
また、上記のように検出された非点収差は、非点補正コイル17を制御することで補正することができるので、試料に対して非点収差の影響を受けないパターンの描画を行うことが可能となる。
【0064】
なお、上記第1の実施形態では、基準画像とスキャン画像とを比較して、非点収差の方向及び大きさを検出した後に、入力装置72へ補正指令を入力することによって非点補正を行ったが、これに限らず、例えば主制御装置70に基準画像に関する情報を格納しておき、基準画像とスキャン画像とのマッチングを行い、自動的に非点収差の方向及び大きさを検出し、該検出結果に基づいて非点補正コイル17を制御することによって非点補正を行ってもよい。
【0065】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態を図10〜図15基づいて説明する。なお、前述した第1の実施形態と同一もしくは同等の構成部分には同一の符号を用いるとともにその説明を省略もしくは簡略するものとする。
【0066】
図10は、第2の実施形態に係る収差補正方法を実行する際に、描画装置100の主制御装置70によって実行される一連の処理に対応したフローチャートである。以下、図10に基づいて照射装置10の照射系の収差を補正する方法について説明する。前提として、描画装置100の回転テーブル31には、図11に示される基準試料WPが載置されているものとし、該基準試料WPの中心とするxy座標系及びこの座標系と45度の角度をなすx’y’座標系を定義する。また、基準試料WPは、4つの円の部分が電子線に対して2次電子発生効率が高くなっているものとする。
【0067】
主制御装置70は、入力装置72への非点補正指令の入力を確認すると収差補正を開始し、最初のステップ201では、基準試料WPに対する照射装置10のフォーカスの調整を行う。一例として図12(A)には、xy軸方向非点収差が含まれる電子線のビームスポットが示され、図12(B)には、x’y’軸方向の非点収差が含まれる電子線のビームスポットが示されている。一般に、非点収差の割合がxy軸方向及びx’y’軸方向とで同等である場合の電子線は、そのフォーカス位置でのスポットはほぼ真円となり、アンダーフォーカスになるにつれて、例えばy軸方向又はy’軸方向を長軸方向とする楕円形状となり、オーバーフォーカスになるにつれて、例えばx軸方向又はx’軸方向を長軸方向とする楕円形状となる。なお、スポットの形状の変化はこれに限らず、アンダーフォーカスになるにつれて、例えばx軸方向又はx’軸方向を長軸方向とする楕円形状となり、オーバーフォーカスになるにつれて、例えばy又はy’軸方向軸方向を長軸方向とする楕円形状となるなどの場合もあるが、ここでは、前者のように変化するものとして説明する。
【0068】
照射系がアンダーフォーカスの状態のときに、図11に示されるx軸及びy軸又はx’軸及びy’軸に沿って基準試料WPを走査すると、2次電子検出器21を介して、図13(A)に示される強度分布の2次電子信号S1x,S1y,S1x’,S1y’が観測される。2次電子信号S1x、S1x’は、x軸,x’軸に沿って基準試料WPを走査したときに得られる2次電子信号であり、2次電子信号S1y、S1y’は、y軸、y’軸に沿って基準試料WPを走査したときに得られる2次電子信号である。この図13(A)に示されるように、照射系がアンダーフォーカスで、スポット形状が図12(A)又は図12(B)に示されるようにy軸方向又はy’軸方向を長手方向とする場合には、2次電子信号のピーク値は、2次電子信号S1x、S1x’のほうが大きくなる。
【0069】
一方、照射系がオーバーフォーカスの状態のときには、基準試料WPを走査することによって図13(B)に示される強度分布の2次電子信号S2x,S2y、S2x’,S2y’が観測される。2次電子信号S2x、S2x’は、x軸、x’軸に沿って基準試料WPを走査したときに得られる2次電子信号であり、2次電子信号S2y、S2y’は、y軸、y’軸に沿って基準試料WPを走査したときに得られる2次電子信号ある。この図13(B)に示されるように、照射系がオーバーフォーカスで、スポット形状が図12(A)又は図12(B)に示されるようにx軸方向又はx’軸方向を長手方向とする場合には、2次電子信号のピーク値は、2次電子信号S2y、S2y’のほうが大きくなる。
【0070】
したがって、基準試料WPをx軸及びy軸に沿って又はx’軸及びy’軸に沿って走査したときの2次電子信号が、一例として図13(C)に示される2次電子信号S3x,S3y又はS3x’,S3y’のように、ピーク値が相互に等しくなるように、対物レンズ19の制御を行う。この場合には、図12(A)及び図12(B)に示されるように、スポットの形状はほぼ真円の最小錯乱円となっている。
【0071】
ステップ203では、xy方向の収差の補正を行う。上記のようにフォーカスが設定された状態で非点補正コイル17を駆動してxy方向の収差を補正すると、図14(A)に示されるようにスポット形状はxy方向に絞られほぼ真円となる。
【0072】
ステップ205では、基準試料WPをx軸及びy軸に沿って走査する。これによって、一例として図15(A)及び図15(B)に示されるような強度分布の2次電子信号S4x、S4yが観察できる。
【0073】
ステップ207では、ステップ205で観察した2次電子信号S4x、S4yのピーク値が所定の閾値k以上であるか判断する。ここで、閾値kは、xy方向の収差が最低限補正されたときに観察される2次電子信号のピーク値よりも、やや小さく設定されている。したがって、2次電子信号S4x、S4yのピーク値が閾値kより小さい場合には、xy方向の収差の補正が不十分であると判断し、ステップ203へ戻り、以下2次電子信号のピーク値が閾値k以上となるまで、ステップ203〜ステップ207の処理を繰り返し行う。一方、2次電子信号のピークがシャープとなり、閾値kより大きくなった場合には、xy方向の非点補正が完了したと判断し、次のステップ209へ移行する。
【0074】
ステップ209では、x’y’方向の収差の補正を行う。上記のようにxy方向の非点収差が補正された照射系において、非点補正コイル17を駆動してx’y’方向の収差の補正を行うと、スポット形状は図14(B)に示されるようにx’y’方向に絞られてほぼ真円となる。
【0075】
ステップ211では、基準試料WPをx’軸及びy’軸に沿って走査する。これによって、一例として図15(A)及び図15(B)に示されるような強度分布の2次電子信号S4x’及びS4y’が観察できる。
【0076】
次のステップ213では、ステップ211で観察した2次電子信号S4x’及びS4y’のピーク値が所定の閾値k以上であるか判断する。ここで、閾値kは、x’y’方向の収差が最低限補正されたときに観察される2次電子信号のピーク値よりも、やや小さく設定されている。したがって、2次電子信号S4x’、S4y’のピーク値が閾値kより小さい場合には、x’y’方向の収差の補正が不十分であると判断し、ステップ209へ戻り、以下2次電子信号のピーク値が閾値k以上となるまで、ステップ209〜ステップ213の処理を繰り返し行う。一方、2次電子信号のピークがシャープとなり、閾値kより大きくなった場合には、x’y’方向の非点補正が完了したと判断し処理を終了する。この状態のときには、xy方向及びx’y’方向の非点収差の補正が行われたことにより、スポット形状は、図14(B)に示されるように、図12(A)及び図12(B)に示される最小錯乱円よりも小さな真円形状となっている。
【0077】
なお、ステップ213での判断が肯定された場合(ピーク値が閾値kより大きくなった場合)であっても、複数回ステップ201〜ステップ213の処理を行うことで、最小錯乱円が順次小さくなっていくため、より精度よくxy方向及びx’y’方向の非点補正を行うことが可能となる。
【0078】
以上説明したように、本第2の実施形態では、基準試料WPは、4つの同心円からなる評価パターンが形成されている。したがって、x軸y軸及びx’軸y’軸に沿って基準試料WPを走査することで得られる2次電子信号を比較することによって、照射装置10の照射系のフォーカス位置を調整し、また2次電子信号の波形を観察することで、照射装置10の照射系での非点収差の補正を行うことができる。
【0079】
また、基準試料WPは、4つの同心円からなる評価パターンが形成されている。したがって走査方向はx軸方向y軸方向及びx’軸方向y’軸方向に限られず、これ以外の方向への走査を行っても、同様に照射系の非点補正を行うことが可能となる。また、基準試料WPを走査して得られる2次電子信号の分布では、いくつもの山があることにより多重信号が得られたり、積算的効果もあり、それゆえノイズに対するS/N比の向上も期待できる。
【0080】
なお、本第2の実施形態では、基準試料WPをx軸y軸及びx’軸y’軸に沿って走査したが、走査方向はこれに限られず、いずれの方向へ走査してもよい。また、ステップ201でx軸y軸及びx’軸y’軸に沿って走査して、ステップ205以降では、例えば照射系のアンダーフォーカス時のスポット形状とオーバーフォーカス時のスポット形状との差が大きい方向へ走査する方法も考えられる。
【0081】
また、本第2の実施形態では、xy方向及びx’y’方向の収差補正の際に2次電子信号の閾値kを基準に補正の適否を判断したが、これに限らず、2次電子信号のコントラストを基準に判断してもよい。具体的に図16に示されるように、例えば2次電子信号の最大値(ピーク値)をAとし、最小値をBとすると、(A−B)/(A+B)の値が一定以上となった場合に収差の補正が行われたと判断することとしてもよい。
【0082】
非点補正の過程で画像の倍率を上げることは、電子線のスキャン範囲を狭めることであるから、基準試料WPの評価パターンサイズもそれに応じて小さくする必要がある。基準試料WPでは、同心パターン中心に近いほど非点収差による画像ボケ領域が狭くなるので、画像倍率の上昇に従い、観察領域を中心付近へ移動させると都合がよい。その場合、これまで基準試料WPとして、図2(A)に示されるような、全ての幅Wと、間隔Sがそれぞれ等しい同心円パターンを使って説明してきたが、図4(A)に示されるように(ここでは紙面の都合上4本)、幅Wと間隔Sが、中心201から離れるにつれて、同じ比率で大きくなるパターンを用いることが好ましい。図4(A)では、中心から外側になるに従い、W1<W2<W3<W4、S1<S2<S3となっており、c1、c2を任意の定数としたとき、W2=c1×W1、S2=c1×S1、W3=c2×W2、S3=c2×S2、となっている。さらに、c1=c2であっても良い。このように、基準試料WPの中心には、評価パターンを密に形成し、中心から離れるにつれて評価パターンを素に配置してもよい。これにより、高倍率で2次電子信号を観察する際に、密に配置された評価パターンを用いることができ、精度よく非点補正を行うことが可能となる。
【0083】
なお、上記各実施形態では、基準試料WPに同心円からなる評価パターンが形成されている場合について説明したが、図3(A)に示されるような、同心楕円パターン(ここでは紙面の都合上4本)が形成されていても良い。同心楕円パターンでは、照射する電子線の非点収差方向によって、同じ非点収差であっても画像のボケ領域の大きさが異なる(たとえば、非点収差の方向が短軸方向に近づくほどボケ領域が広がる)。これに対して、同心円パターンでは、どの方向の非点収差に対しても一様な画像ボケ領域を示すので、同心楕円パターンによる非点収差の大きさ評価は、同心円パターンと比較するとやや難しい。あるいは、対称軸を共有(したがって中心も共有)する、同心正多角形パターンが形成されていても良い。図3(B)に、同心正八角形のパターン(ここでは紙面の都合上4本)を示す。同心正多角形パターンでは、非点収差方向と辺の交差角度によって、同じ非点収差であっても画像のボケ領域の大きさが異なる。そのため、頂点数が少ないと非点収差の大きさ評価が難しいが、頂点数が大きければ、実用上この影響を無視でき、同心円パターンと同等に扱える。さらには、同心状の図形でなく図5(A)、及び図5(B)に示されるような螺旋状の図形を形成しても良い。
【0084】
また、上記各実施形態では、基準試料WPに4つの同心図形からなる評価パターンが形成される場合について説明したが、同心図形の数は4つに限らないことは言うまでもない。
【0085】
《第3の実施形態》
次に、本発明の第3の実施形態を図17(A)〜図18に基づいて説明する。なお、前述した第1及び第2の実施形態と同一もしくは同等の構成部分には同一の符号を用いるとともにその説明を省略もしくは簡略するものとする。
【0086】
本第3の実施形態にかかる収差補正方法は、上述した第2の実施形態にかかる収差補正方法と比較して、図10におけるステップ201のフォーカス調整の手順が相違している。以下、フォーカス調整方法につい説明する。
【0087】
ここで、対物レンズ19と回転テーブル31との位置関係は一定であるため、対物レンズ19によって屈折力を受けた電子線のフォーカス位置が、回転テーブル31の上面近傍で合焦するときに、主制御装置70から対物レンズ19へ供給される電流値(以下DAC値ともいう)を基準DAC値Iと定義する。
【0088】
描画装置100では、対物レンズ19に供給されるDAC値を、基準DAC値Iを中心に、例えばアンダーフォーカス側のDAC値I(=I−α:α>0)から、オーバーフォーカス側のDAC値I(=I+α:α>0)まで、所定の間隔で変化させながら、各DAC値に応じた屈折力で合焦された電子線で基準試料WPを特定の方向(ここではX軸方向とする)へスキャンする。これにより、2次電子信号のピーク値が最大になるDAC値が得られる。以下、この行程をプレスキャンという。
【0089】
図17(A)は、前述のような基準試料WPのプレスキャンを行うことで得られた、DAC値と2次電子信号の関係図である。DAC値をアンダーフォーカス側(Io−α)からオーバーフォーカス側(Io+α)まで変化させたときの、2次電子信号ピーク値の(最大値−最小値)を、2次電子信号のダイナミックレンジと呼ぶ。図17(B)は、前述のような基準試料WPのプレスキャンを行うことで得られた2次電子信号のダイナミックレンジと、収差の発生方向に対するスキャン方向との関係を示す図である。図17(B)に示されるように、2次電子信号のダイナミックレンジは、スキャン方向が収差の発生方向と一致するとき、及び収差の発生方向に対して90度のときに最大となり、収差の発生方向に対して45度のときには、中程度となる。そして、スキャン方向が収差の発生方向に対して22.5度及び67.5度程度のときには、2次電子信号のダイナミックレンジは最低となる。たとえば、図4(B)に示される基準試料WPでは、スキャン方向が収差の発生方向と一致するとき、及び収差の発生方向に対して90度のときに200程度となり、収差の発生方向に対して45度のときには、40から80程度、そして収差の発生方向に対して22.5度及び67.5度程度のときには、20前後となる。
【0090】
したがって、本実施形態では、図10のステップ201において、上述したプレスキャンを行い、2次電子信号のピーク値を得た後に、2次電子信号のダイナミックレンジを算出する。そして、2次電子信号のダイナミックレンジの大きさから、スキャン方向に対する収差の発生方向を予測する。例えば、図17(B)に示されるように、2次電子信号のダイナミックレンジが200程度である場合には、収差の発生方向が0度又は90度方向であると予測し、40〜80程度である場合には、収差の発生方向が45度方向であると予測し、それ以外の場合には、22.5度又は67.5度の方向であると予測する。
【0091】
次に、描画装置100では、スキャン方向に対する収差の発生方向が0度程度又は90度程度と予測した場合には、さらにX軸方向に直交するY軸方向をスキャン方向とするプレスキャンを行う。図18(A)は、X軸方向のプレスキャン、及びY軸方向のプレスキャンを行った結果得られたDAC値に対する2次電子信号ピーク値を示す曲線SX、及び曲線SYがそれぞれ示されている。曲線SX及び曲線SYで示されるように、2次電子信号ピーク値は、DAC値がそれぞれI、Iのときに最大となっている。これは、DAC値をIとIの平均値であるIとすると、電子線による最小錯乱円が基準試料WPの表面に形成されることを示している。したがって、ここでは、DAC値Iの電流が供給された対物レンズ19によって電子線が収束した位置をフォーカス位置と規定する。なお、この状態では、図12(A)及び図12(B)に示されるように、基準試料WP表面に形成される電子線のスポット形状は、ほぼ真円の最小錯乱円となっている。
【0092】
また、描画装置100では、スキャン方向に対する収差の発生方向が45度程度と予測した場合には、さらにX軸方向に直交するY軸方向をスキャン方向とするプレスキャンを行う。図18(B)は、X軸方向のプレスキャン、及びY軸方向のプレスキャンを行った結果得られたDAC値に対する2次電子信号ピーク値を示す曲線SX、及び曲線SYがそれぞれ示されている。収差の発生方向が45度程度の場合には、曲線SX、及び曲線SYで示される2次電子信号ピーク値の最大値に対応するDAC値は共通しI(又はI)となる。この場合には、X軸に対して45度回転したX’軸をスキャン方向とするプレスキャンを行う。図中の曲線SX’はX’軸方向のプレスキャンによる2次電子信号ピーク値とDAC値との関係を示す曲線である。この曲線SX’からわかるように、X’軸方向のプレスキャンによって、2次電子信号ピーク値が最大となるDAC値Iを得ることができ、ここでは、DAC値Iの電流が供給された対物レンズ19によって電子線が収束した位置をフォーカス位置と規定する。
【0093】
一方、スキャン方向に対する収差の発生方向が例えば22.5度又は67.5度程度と予測された場合には、プレスキャンによって得られる、DAC値と2次電子信号ピーク値の関係を示す曲線は平坦となってしまうため、2次電子信号ピーク値が最大となるDAC値を求めることは困難である。このため、描画装置100では、スキャン方向に対する収差の発生方向が22.5度又は67.5度程度と予測された場合には、スキャン方向を例えばX軸に対して−22.5度回転させて、収差の発生方向が0度、又は45度のときと同様の処理を行って、DAC値IとIの平均値であるIを算出し、このDAC値Iの電流が供給された対物レンズ19によって電子線が収束した位置をフォーカス位置と規定する。なお、スキャン方向に対する収差の発生方向が22.5度又は67.5度程度と予測された場合には、スキャン方向をX軸に対して+22.5度回転させて、収差の発生方向が45度、又は90度のときと同様の処理を行って、DAC値IとIの平均値であるIを算出し、このDAC値Iの電流が供給された対物レンズ19によって電子線が収束した位置をフォーカス位置と規定してもよい。
【0094】
以上説明したように、本第3の実施形態では、対物レンズ19のフォーカス位置を決定する際に、描画装置100の照射系に生じた非点収差の発生方向をほぼ特定することが可能となる。したがって、図10におけるステップ201を終了した後に、基準試料WPのスキャンを行う際に、スキャン方向を収差方向又はこれに直交する方向に設定することで、精度よく収差の補正を行うことが可能となる。
【0095】
《第4の実施形態》
従来、CD(コンパクトディスク)やDVD(ディジタル・バーサタイル・ディスク)等の光ディスクの原盤の製造は、次のように行われていた。まず、0.1μm程度の膜厚の紫外線感光性フォトレジストが均一にスピンコートされた厚さ数mmの円盤を回転させながら、この円盤上に青色又は紫外域で発振するガスレーザ(Ar、Krレーザ等;波長350〜460nm)からの光を対物レンズで集光させ、レーザ光をオン・オフさせてフォトレジストをスポット露光する。その後、フォトレジストを現像することにより、ピット又はグルーブ状の微細凹凸パターンを形成して、原盤(レジスト原盤)を作製する。
【0096】
そして、このレジスト原盤から、ニッケルメッキによりレプリカを取ることにより厚さ数100μmのニッケル製スタンパ(成形用金型)を作製し、このスタンパを使用して光ディスクメディアの量産を行う。例えば再生専用のDVDを製造する場合には、再生専用のDVD情報信号ピットに対応して、スタンパ上に最短ピット長0.4μm、トラックピッチ0.74μmのピット列がスパイラル状に形成される。そして、スタンパにこのようなピット列が形成されるように、レジスト原盤を作製する際のレーザ描画(カッティング)の条件が設定される。このスタンパを金型としてプラスチック樹脂の射出成形により、直径12cmの記録層片面の光ディスクメディアを作製した場合には、光ディスクが4.7GB(ギガバイト)の情報容量を持つ。
【0097】
この再生専用DVDのレジスト原盤に対するレーザ描画(カッティング)には、例えば波長413nmのKrイオンレーザが用いられる。ここで、カッティング可能な最短ピット長Pは、一般にレーザ波長λ、対物レンズのNA(開口数)、及びプロセスファクターK(レジスト特性等に依存し0.8〜0.9の値をとる)から、P=K・(λ/NA)の式で近似される。この場合、上述の近似式にλ=413nm、NA=0.9、K=0.8を代入すると、P=0.37μmとなり、再生専用のDVDの最短ピット長0.4μmが解像されることがわかる。
【0098】
DVDが登場した後も、光ディスクの情報容量を増大させる要望が高まり、Blu−rayディスク(以下BD)と呼ばれる光ディスクが登場するに至っている。このBDは、片面に記録層が形成された直径12cmの光ディスクであり、25GB(ギガバイト)の情報容量を有している。BDにおいて、現在と同様の信号記録処理方式による処理を実現するには、最短ピット長を0.15μm(150nm)、トラックピッチを0.32μm(320nm)程度まで微細化する必要がある。また、ピット幅は、例えばこのトラックピッチの1/3程度、例えば0.1μm程度にする必要がある。
【0099】
このような微細なピットを形成するためには、上述の最短ピット長Pを求める近似式からわかるように、レーザ波長λの短波長化及び対物レンズNAの増大が求められる。しなしながら、対物レンズのNAの値は、レンズの設計製作精度の面から、現状の0.9程度がほぼ限界であると考えられる。従って、今後はレーザ波長λの短波長化が必要不可欠である。
【0100】
ここで、例えば波長λ=250nmの遠紫外線レーザを用いた場合には、上述の式にNA=0.9,K=0.8を代入すると、P=0.22μmになる。しかしながら、これでは上述した25GBの情報容量に対応する最短ピット長(0.15μm)やピット幅(0.1μm程度)を実現することは非常に困難である。そのため、BDや、それ以降の高密度光ディスク(たとえば超解像や、近接場記録再生を利用したものなど)のレジスト原盤を、従来の紫外線レーザを光源とするレーザカッティング装置で製造するのは非常に困難である。したがって、今後は、紫外線レーザよりも微細なレジスト感光用のビームを発生することが可能な電子ビーム描画装置を適用する必要がある。以下、光ディスクメディアの作製方法について説明する。
【0101】
〈原盤作製〉
描画装置100では、電子源11から射出される電子ビームの強度やアパーチャ16での絞りを調整することにより、スポット径が10nm程度から200nm程度の電子ビームを得ることが可能である。
【0102】
そこで、描画装置100を用いて光情報記録媒体の原盤を作製する場合には、まず最終的に製作される光記録媒体に形成されるピットサイズに応じて、あらかじめ電子ビーム径を決める必要がある。例えば、再生専用BD(Blu-ray Disc)のピットを描画するのであれば、電子ビームスポット径を約100nmに設定する。そして、基準試料WPを用いて、第1〜第3の実施形態で説明した手順で、描画装置100の非点収差を補正する。
【0103】
〈レジスト基板準備〉
図19(A)に示されるように、基板501上に、例えばスピンコート法でレジストを塗布し、その後ベークを行うことにより、膜厚(通常100nm以下で、光ディスクの記録再生波長によって決まる)が均一な電子線感光レジストから成るレジスト層502を形成する。なお、基板501としては、ガラス基板、石英基板、シリコンウエハ等を使用することができる。また、レジスト層502を構成する電子線感光レジストには、ポジ型或いはネガ型のフォトレジストを使用することができる。光ディスクの原盤としては、解像度や感度、取り扱い易さの点から、ポジ型レジスト、たとえば、ZEP−520(日本ゼオン製)が好適である。
【0104】
基板501としては、表面粗度が細かくて平坦性の良好な非磁性基体であれば良いが、描画装置によってパターン露光を行うため、導電性を有するものが好ましい。ガラスなどの非導電性材料を基板501として用いる場合には、帯電防止剤を塗布するのが好ましい。これにより、電子ビームが照射されたときに帯電することを防止することができる。また、非磁性基体の材料としては、市場に潤沢かつ安価に供給されており、かつ導電性を有するシリコンウエハを用いるのが都合よい。
【0105】
〈パターン描画〉
描画装置100を用いた基板501に対するパターンの描画は以下の手順で行う。
【0106】
レジストが塗布された基板501を、描画装置100の回転テーブル31上に搭載する。なお、基板501では、図19(B)に示されるように、レジスト層502に対して、図中の斜線が付された部分502Aに対して露光が行われる。
【0107】
回転テーブル31を回転させるとともに、回転テーブル31をスライドユニット33を介して所定の速度で送りながら、所望のパターンに対応して変調した電子ビームを基板501のレジスト層502に照射する。これにより、基板501のレジスト層502にスパイラル状の微細パターンが形成される。
【0108】
なお、BDでは、トラックはスパイラルトラックであるため、本実施形態では、基板501が1回転する間に、基板501は1トラックピッチ分だけ送られるようになっている。また、ピットパターンを描画する際には、回転スピード(線速度)に対応した速度でブランキング電極15が駆動(オン又はオフ)される。
【0109】
基板501に対するパターンの描画が終了すると、回転テーブル31から、基板501が取り出される。
【0110】
〈現像〉
上述のようにパターンが描画された基板501は、レジスト層502に対して、現像処理が行われることで、例えばポジ型のフォトレジストでは図19(C)に示されるように電子ビームが照射された部分502Aが除去され、また、ネガ型のフォトレジストでは非照射部分が除去されることで、レジスト層502の残った部分502Bから成る微細パターンが形成される。このようにして、基板501のレジスト層502に微細パターンが形成された基板501の原盤(レジスト原盤)503を得ることができる。
【0111】
あるいは、レジスト現像後、さらに図19(D)に示されるように、CFイオン506などの反応性ガスイオンを用いた反応性イオンエッチング(Arイオンなどを用いたイオンエッチングを用いてもよい)を行うことにより、基板501に凹凸形状を形成する。そして、最後に残留レジスト層502Bを有機溶剤などを用いて除去し、図19(E)に示されるように、基板501上に直接所望の微細パターンを形成してもよい。このようにしても、基板501のレジスト層502に微細パターンが形成された原盤(エッチング原盤)503を得ることができる。
【0112】
〈スタンパ作製〉
上述のように原盤503が得られたら、この原盤503(ここではレジスト原盤を用いるが、エッチング原盤であっても支障ない)を用いてスタンパを作製する。具体的には、図20(A)に示されるように、原盤503上に薄い導電層を成膜し、その上にニッケルメッキ等を施すことにより、スタンパ504を形成する。その後、原盤503を剥離する。これにより、図20(B)に示されるスタンパ504を得ることができる。スタンパ504の材料としては、NiもしくはNi合金を使用することができ、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法が適用できる。また、スタンパ504の厚みは、300μm程度である。
【0113】
なお、原盤503により、スタンパ504を転写作製する代わりに、複数のスタンパを転写複製するためのマスタースタンパを一旦転写作製し、マスタースタンパからスタンパ504を複数転写作製することも可能である。(この場合、マスタースタンパとスタンパ504の間で、凹凸が反転するので、中間にもう一段転写(スタンパ)が必要となる)
【0114】
〈メディア作製〉
射出成型或いは2P法等によって、図21(A)に示されるように、スタンパ504のパターンを、樹脂505に転写する。このようにして、図21(B)に示される微細凹凸パターンを有する光ディスクメディア505を得ることができる。より正確には、光ディスクメディア505は光ディスクメディアの基板である。光ディスクメディア基板の微細凹凸パターン上に、さらに反射膜等を付けることで、光ディスクメディアとなる。
【0115】
以上説明したように、本実施形態にかかる光ディスクメディアでは、非点収差が一定量以下に抑えられた描画装置100を使って原盤が作製されている。このため、原盤のパターン形状のばらつきを従来と比べて格段に少なくなくすることが可能となる。その結果、原盤から作製されるスタンパや媒体のばらつきも小さくすることが可能となる。特に、従来は、非点収差を定量的に取り扱うことができず、収差の有無の判断は個人の能力に依存するものであった。そのため判断主体によって補正後の非点収差残量が大きく変動し、原盤パターン形状のばらつきが目立つことがあった。しかしながら、本実施形態では、非点収差が一定量以下に抑えられるため、判断主体によって補正後の非点収差残量が大きく変動することがない。
【0116】
《第5の実施形態》
ハードディスクドライブでは、ディスクの1周、すなわち角度にして360度中に、一定の角度間隔でトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等(以下プリフォーマット信号)が記録された領域が設けられている。これにより、磁気ヘッドは、一定の間隔でこれらの信号を再生して自己の位置を確認し、磁気ディスクの径方向における変位を必要に応じて修正しながら正確にトラック上を走査することができる。
【0117】
図22にはハードディスクの構成例が示されている。ハードディスクでは、図22に示されるように、略円盤形状の基体301の表面にプリフォーマット情報信号に対応した磁性薄膜パターンが形成された領域302が、所定の角度間隔で設けられている。図23は、領域302の一部(図22に示される領域X)の拡大図である。図23において、紙面上下方向が磁気ヘッドの走査方向であり、左右方向はトラックの円周方向となっている。図23に示されるように、トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号、クロック信号、位相サーボ信号のそれぞれの領域はトラックの円周方向に順番に配列されている。図23においては、ハッチングを施した部分が磁性薄膜パターンとなっている。そして、位相サーボ信号のパターンは、複数のトラックに跨り、トラック方向に対して斜めに交差して延びている。
【0118】
例えば、現在のハードディスクドライブでは、磁気ディスク及び磁気ヘッドをドライブ内に組み込んだ後、専用のサーボトラック記録装置を用いて、ドライブ内に組み込まれた固有の磁気ヘッドにより、トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等の(磁気的な)記録が行われている。
【0119】
専用のサーボトラック記録装置を用い、ドライブ内に組み込まれた固有の磁気ヘッドによってプリフォーマット記録を行う従来の技術では、プリフォーマット記録に多くの時間を要することと、専用のサーボトラック記録装置は高価であるため、プリフォーマット記録に要するコストが高くなるという問題がある。さらに、将来的にハードディスクが高記録密度になり、また大径になると、いっそう記録時間が長くなり記録装置が高価になってしまう。
【0120】
プリフォーマット信号領域が必要なことと、必要なパターン形状が概略同一なことは、現行のハードディスクと、将来のハードディスクである後述するディスクリートラックメディア(DTM)及びビットパターンドメディア(BPM)との間で変わるところがない。ただしパターン寸法は逐次微細化されてゆくと予想され、最小寸法は、現行ハードディスクが100〜200nm程度であるのに対し、BPMなどは20nm程度になると予想されている。
【0121】
そこで、専用サーボトラック記録装置を用いる際の課題を解決するため、あらかじめプリフォーマット信号パターンに対応する微細パターンを作製し、それらを個々のハードディスク媒体(基板)上に転写する方法がある(磁気転写記録法、DTM・BPM)。
【0122】
磁気転写記録法は、サーボトラック記録装置を用いず、基体の表面にプリフォーマット情報信号に対応する磁性薄膜パターンが形成されているマスター情報担体の表面を、磁気記録媒体の表面に密接させた後に、外部磁界を印加してマスター情報担体に形成された磁性薄膜パターンを磁化させることにより、磁性薄膜パターンに対応する磁化パターンを磁気記録媒体に転写記録する技術である。
【0123】
磁気転写に使用されるマスター情報担体は、光ディスクの場合とほぼ同じく、転写すべき情報に応じたレジストによる凹凸パターンが形成された原盤から作製するか、原盤を基に作製されたスタンパから作製する方法が考えられている。
【0124】
現行ハードディスクのプリフォーマット信号パターン寸法は100〜200nm程度であり、レーザービームで対応できる領域を超えている。電子ビームは、10nm程度の寸法のパターンを描画することが可能であり、レーザービームの代わりに細く絞り込んだ電子ビームを用いて、ハードディスクのプリフォーマット信号パターンに対応する原盤を形成できる。以下、ハードディスクの作製方法について説明する。
【0125】
〈原盤作製〉
図1の描画装置では、電子源11のビーム電流量やアパーチャ16を調整することにより、10nm程度から200nm程度のスポット径を得ることが可能である。
【0126】
そこで、描画装置100を用いて現行ハードディスクのプリフォーマット信号パターンを描画するのであれば、電子ビームのスポット径を100nm程度に設定する。そして、基準試料WPを用いて、第1〜第3の実施形態で説明されている手順で、描画装置100の非点収差を補正する。
【0127】
〈レジスト基板準備〉
図24(A)に示されるように、基板501上に、例えばスピンコート法でレジストを塗布し、その後ベークを行うことにより、膜厚(好ましくは100nm以下)が均一な電子線感光レジストから成るレジスト層502を形成する。なお、基板501としては、ガラス基板、石英基板、シリコンウエハ等を使用することができる。また、レジスト層502を構成する電子線感光レジストには、ポジ型或いはネガ型のフォトレジストを使用することができる。磁気転写原盤用途としては、解像度や感度、取り扱い易さの点から、ポジ型レジスト、たとえば、ZEP−520(日本ゼオン製)が好適である。
【0128】
基板501としては、表面粗度が細かくて平坦性の良好な非磁性基体であれば良いが、描画装置によってパターン露光を行うため、導電性を有するものが好ましい。ガラスなどの非導電性材料を使用する場合には、帯電防止剤を塗布するのが好ましい。これにより、電子ビームが照射されたときに帯電することを防止することができる。非磁性基体の材料として、市場に潤沢かつ安価に供給されており、かつ導電性を有するシリコンウエハを用いるのが都合よい。
【0129】
〈パターン描画〉
描画装置100を用いた基板501に対するパターンの描画は以下の手順で行う。
【0130】
レジストが塗布された基板501を、描画装置100の回転テーブル31上に搭載する。なお、基板501では、図24(B)に示されるように、レジスト層502に対して、その図中の斜線が付された部分502Aに対して露光が行われる。
【0131】
回転テーブル31を回転させ、サーボ信号等のプリフォーマット転写情報に対応して変調した電子ビームを照射することにより、基板501のレジスト層502に、所望のパターンを1トラック毎に描画する。ハードディスクは同心円トラックであるため、1トラックの描画後に、スライドユニット33をトラックピッチ分だけ移動させる。この場合、所望の形成パターンを得るために、照射装置10のブランキング電極15、走査電極18、回転テーブルユニット30、スライドユニット33を協調して動作させる必要がある。
【0132】
基板501に対するパターンの描画が終了すると、回転テーブル31から、基板501が取り出される。
【0133】
〈現像〉
上述のようにパターンが描画された基板501は、レジスト層502に対して、現像処理が行われることで、例えばポジ型のフォトレジストでは図24(C)に示されるように電子ビームが照射された部分502Aが除去され、また、ネガ型のフォトレジストでは非照射部分が除去されることで、レジスト層502の残った部分502Bから成る微細パターンが形成される。このようにして、基板501のレジスト層502に微細パターンが形成された基板501の原盤(レジスト原盤)503を得ることができる。
【0134】
あるいは、レジスト現像後、さらに図24(D)に示されるように、CFイオン506などの反応性ガスイオンを用いた反応性イオンエッチング(Arイオンなどを用いたイオンエッチングを用いてもよい)を行うことにより、図24(E)に示されるように基板501に凹凸形状を形成する。そして、最後に残留レジスト層502Bを有機溶剤などを用いて除去し、図24(F)に示されるように、基板501上に直接所望の微細パターンを形成してもよい。このようにしても、基板501のレジスト層502に微細パターンが形成された原盤(エッチング原盤)503を得ることができる。
【0135】
〈スタンパ作製〉
上述のように原盤503が得られたら、この原盤503(ここではレジスト原盤を用いるが、エッチング原盤であっても支障はない)を用いてスタンパを作製する。具体的には、図25(A)に示されるように、原盤503上に薄い導電層を成膜し、その上にニッケルメッキ等を施すことにより、図25(B)2示されるスタンパ504を形成する。その後、原盤503を剥離する。これにより、スタンパ504を得ることができる。スタンパ504の材料としては、NiもしくはNi合金を使用することができ、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法が適用できる。また、スタンパ504の凹凸パターンの深さ(突起の高さ)は、数百nm程度である。
【0136】
なお、原盤503により、スタンパ504を転写作製する代わりに、複数のスタンパを転写複製するためのマスタースタンパを一旦転写作製し、マスタースタンパからスタンパ504を複数転写作製することも可能である。(この場合、マスタースタンパとスタンパ504の間で、凹凸が反転するので、中間にもう一段転写(スタンパ)が必要となる)
【0137】
〈マスター情報担体作製〉
スタンパ504の凹凸パターン上に、Co等からなる磁性薄膜507をスパッタリング法などの一般的な薄膜形成方法によって製膜し、CMP(ケミカルメカニカルポリッシュ)等の研磨処理を施すことにより、凸部上に形成された磁性薄膜を除去することで、図25(C)に示される所望の磁性薄膜パターンが形成されたマスター情報担体508を得ることができる。
【0138】
なお、図24(E)に示されるように、エッチングにより基板501に凹凸形状を形成した後に、図24(F’)に示されるように、残留したレジスト(残留レジスト層)502Bを除去することなく、基板501上にCo等からなる磁性薄膜507をスパッタリング法などの一般的な薄膜形成方法によって製膜する。そして、最後に残留レジスト層502Bと残留レジスト層上に堆積している磁性薄膜とを有機溶剤などを用いて除去し、図24(G)に示される所望の磁性薄膜パターンが形成されたマスター情報担体508としても良い。この手順の場合は、スタンパ作製は不要である。
【0139】
磁性薄膜507を製膜する方法は、スパッタリング法に限定されるものではなく、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、めっき法などの従来から行われている一般的な薄膜形成方法を用いることができる。また、磁性薄膜507は、マスター情報担体上に形成される磁性薄膜パターンを構成するものである。磁性薄膜507の材料はCoに限定されるものではなく、硬質磁性材料、半硬質磁性材料、軟質磁性材料を問わず、多くの種類の磁性材料を用いることができる。
【0140】
また、ここでは凹部に磁性薄膜を形成したが、凸部にのみ磁性薄膜があっても、また、凹凸部ともに磁性薄膜があっても、マスター情報担体として機能するので、種々の磁気薄膜形成方法が適用できる。
【0141】
また、エッチッング原盤あるいはスタンパどちらからマスター情報担体を作製しても良いが、原盤はシリコン等割れやすい材質であり、一方スタンパは金属であるから、ごく少量の磁気転写を行う場合は別として、一般的にスタンパからマスター情報担体を作製するのが好ましい。
【0142】
〈メディア作成〉
面内磁気記録媒体への磁気転写について図26(A)〜図26(C)に基づいて説明する。なお、図26に示される磁気記録媒体はその片面の磁気記録部のみを記載している。まず、図26(A)に示されるように、最初に(転写される側のスレーブ)磁気記録媒体509に初期静磁界Hinをトラック方向の一方向に印加して予め初期磁化(直流消磁)を行う。その後、図26(B)に示されるように、この磁気記録媒体509の磁気記録面と、マスター情報担体508の微細凹凸パターン面とを密着させ、磁気記録媒体509のトラック方向に前記初期磁界Hinとは逆方向に転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。転写用磁界Hduが凹部の磁性薄膜507に吸い込まれてこの部分の磁化は反転せず、その他の部分の磁界が反転する結果、図26(C)に示されるように、磁気記録媒体509にはマスター情報担体508の凹凸パターンに応じた磁化パターンが転写記録される。
【0143】
なお、図示しないが凸部にのみ磁性薄膜があっても、凸部、凹部ともに磁性薄膜があっても、同じようにマスター情報担体の凹凸パターンに応じた磁化パターンが転写記録転写される。また磁気記録媒体509は、実際にはガラス・アルミ等の基板上に磁性層等が何層にも構成されるが、ここでは説明の便宜ため省略した。
【0144】
垂直磁気記録媒体への磁気転写の場合には、面内磁気記録媒体用とほぼ同様のマスター情報担体508が使用される。この垂直記録の場合には、磁気記録媒体509の磁化を、予め垂直方向の一方に初期直流磁化しておき、マスター情報担体508と密着させてその初期直流磁化方向と略逆向きの垂直方向に転写用磁界を印加して磁気転写を行うことで、凹凸パターンに対応した磁化パターンを磁気記録媒体509に記録することができる。
【0145】
以上説明したように、本実施形態にかかる記録媒体(ハードディスク)では、非点収差が一定量以下に抑えられた描画装置100を使って原盤が作製されている。このため、原盤のパターン形状のばらつきを従来と比べて格段に少なくなくすることが可能となる。その結果、原盤から作製されるスタンパや媒体のばらつきも小さくすることが可能となる。特に、従来は、非点収差を定量的に取り扱うことができず、収差の有無の判断は個人の能力に依存するものであった。そのため判断主体によって補正後の非点収差残量が大きく変動し、原盤パターン形状のばらつきが目立つことがあった。しかしながら、本実施形態では、非点収差が一定量以下に抑えられるため、判断主体によって補正後の非点収差残量が大きく変動することがない。
【0146】
《第6の実施形態》
DTMやBPMは、現状よりはるかに高記録密度なハードディスクである。磁気ヘッド追従のためのサーボ信号パターン等が必要なことは変わらないが、これから述べるように、それらはサーボトラック記録装置を用いず、媒体製造時に形成されるプリフォーマットメディアになっている。
【0147】
ハードディスクの記録密度が高まり、たとえば100Gbit/in2以上の記録密度となると、磁気ヘッド側面からの磁界広がりが問題となる。磁界広がりはヘッドを小さくしてもある値以下には小さくならず、結果として隣接トラックへの書き込み(サイドライト)が発生し、既に記録したデータを消してしまう現象が発生する。また再生時は本来読み取るべきデータトラックの信号に加えて、隣接トラックからの余分な信号を読み込んでしまうクロストーク現象が発生する。
【0148】
サイドライトやクロストークなどの影響を低減して、更なる高密度化を達成するために、ディスクリートトラックメディア(DTM)が提案されている。DTMは図27に示されるように、それぞれのデータトラック420が溝421によって、物理的・磁気的に分離されているメディアである。DTMは記録に必要なトラック部分420にのみ磁性材料を残して、トラック間の溝421には非磁性材料が充填されている。またサーボ信号等プリフォーマット信号パターン部分422は、図22等に示されるパターンと同等のパターンが、データトラック420と同様に磁性材料部として形成されている。
【0149】
DTMのトラックピッチは50〜100nm程度であり、プリフォーマット信号パターン寸法も同程度なので、これらデータトラックとプリフォーマット信号パターンの形成には、電子ビーム描画装置が利用されている。DTMよりもさらに高記録密度(たとえば1Tbit/in2以上)の媒体では、データトラックに沿って磁気微粒子を整然と配列させ、磁気微粒子1個に1ビットを記録するというビットパターンドメディア(BPM)が提案されている。
【0150】
BPMは、図28に示されるように、それぞれの磁気微粒子431が島状に孤立して物理的・磁気的に分離されているメディアである。BPMは、磁気微粒子部のみを残して、磁気微粒子間は非磁性材料が充填されている。図示しないが、DTM同様、BPMにもプリフォーマット信号パターン部が存在している。
【0151】
BPMのトラックピッチは20〜50nm程度であり、磁気微粒子寸法やプリフォーマット信号パターン寸法も同程度なので、これらの形成には、電子ビーム描画装置が利用されている。磁気記録時にレーザースポット照射を併用した熱アシスト磁気記録(HAMR)と、BPMを組み合わせた場合、さらに高密度化が狙えると言われており、その場合、BPMの描画スケールは10nmレベルになると予想されているが、電子ビーム描画装置で対応可能な範囲にある。
【0152】
DTMやBPMでも、磁気ヘッド追従のためのサーボ信号パターン等が必要なことは変わらないが、DTMのデータトラックやBPMの磁気微粒子と同様に構成し、データトラックや磁気微粒子加工と同時にパターンを形成するプリフォーマットメディアになっている。このため、個々のメディアに対してサーボ情報書き込み作業は必要なく効率的である。
【0153】
DTMとBPMは、実際のデータ記録部形態(DTM=連続トラック、BPM=離散的な磁気微粒子の列)と、パターンの大きさが異なる(BPMが小さい)だけで、同様な工程を通じで作製できる。以下、その作製方法について説明する。
【0154】
〈原盤作製〉
描画装置100では、電子源11から射出される電子ビームの強度やアパーチャ16での絞りを調整することにより、スポット径が10nm程度から200nm程度の電子ビームを得ることが可能である。
【0155】
そこで、描画装置100を用いてDTMのプリフォーマット信号パターンを描画するのであれば、電子ビームのスポット径を50nm程度に、BPMのプリフォーマット信号パターンを描画するのであれば、電子ビームのスポット径を20nm程度に設定する。そして、基準試料WPを用いて、第1〜第3の実施形態で説明されている手順で、描画装置100の非点収差を補正する。
【0156】
〈レジスト基板準備〉
図24(A)に示されるように、基板501上に、例えばスピンコート法でレジストの塗布、その後ベークを行うことにより、膜厚(50〜100nm程度)が均一になるように電子線感光レジストから成るレジスト層502を形成する。基板501は、ガラス基板、石英基板、シリコンウエハ等を使用することができる。レジスト層502を構成する電子線感光レジストには、ポジ型或いはネガ型のフォトレジストを使用することができる。DTMやPMの原盤用途としては、解像度や感度、取り扱い易さの点から、ポジ型レジスト、たとえば、PMMA(東京応用化学製)が好適である。
【0157】
基板501としては、表面粗度が細かくて平坦性の良好な非磁性基体であれば良いが、電子ビーム描画装置によってパターン露光を行うため、導電性を有するものが好ましい。ガラスなどの非導電性材料を使用する場合には、帯電防止剤を塗布するのが好ましい。これにより、電子ビームが照射されたときに帯電することを防止することができる。非磁性基体の材料として、市場に潤沢かつ安価に供給されており、かつ導電性を有するシリコンウエハを用いるのが都合よい。
【0158】
〈パターン描画〉
描画装置100を用いた基板501に対するパターンの描画は以下の手順で行う。
【0159】
レジスト塗布済み基板501を、描画装置100の回転テーブル31上に搭載する。なお、図24(B)に示されるように、レジスト層502に対して、その図中の斜線が付された部分502Aに対して露光が行われる。
【0160】
回転テーブル31を回転させ、サーボ信号等のプリフォーマット情報に対応して変調した電子ビームを照射することにより、基板501のレジスト層502に、所望のパターンを1トラック毎に描画する。プリフォーマット情報以外に、DTMでは連続的なデータトラック、BPMでは規則的なピット列の形成を行う。これらに加え、ハードディスクは同心円トラックであるため、1トラックの描画後に、スライドユニット33を1トラックピッチ分だけ移動させる。この場合、所望の形成パターンを得るために、照射装置10のブランキング電極15、走査電極18、回転テーブルユニット30、スライドユニット33を協調して動作させる必要がある。
【0161】
基板501に対するパターンの描画が終了すると、回転テーブル31から、基板501が取り出される。
【0162】
〈現像〉
上述のようにパターンが描画された基板501は、レジスト層502に対して、現像処理が行われることで、例えばポジ型のフォトレジストでは図24(C)に示されるように電子ビームが照射された部分502Aが除去され、また、ネガ型のフォトレジストでは非照射部分が除去されることで、レジスト層502の残った部分502Bから成る微細パターンが形成される。このようにして、レジスト層502に微細パターンが形成された基板501の原盤(レジスト原盤)503を得ることができる。
【0163】
あるいは、レジスト現像後、さらに図24(D)に示されるように、CFイオン506などの反応性ガスイオンを用いた反応性イオンエッチング(Arイオンなどを用いたイオンエッチングを用いてもよい)を行うことにより、図24(E)に示されるように基板501に凹凸形状を形成する。そして、最後に残留レジスト層502Bを有機溶剤などを用いて除去し、図24(F)に示されるように、基板501上に直接所望の微細パターンを形成してもよい。このようにしても、基板501上に微細パターンが形成された原盤(エッチング原盤)503を得ることができる。
【0164】
〈スタンパ作製〉
上述のように原盤503が得られたら、この原盤503(ここではレジスト原盤を用いるが、エッチング原盤であっても支障ない)を用いてスタンパを作製する。具体的には、図25(A)に示されるように、原盤503上に薄い導電層を成膜し、その上にニッケルメッキ等を所定厚みまで施すことにより、スタンパ504を形成する。その後、原盤503を剥離する。これにより、スタンパ504を得ることができる。スタンパ504の材料としては、NiもしくはNi合金を使用することができ、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法が適用できる。また、スタンパ504の凹凸パターンの深さ(突起の高さ)は、数百nm程度である。
【0165】
なお、原盤503により、スタンパ504を転写作製する代わりに、複数のスタンパを転写複製するためのマスタースタンパを一旦転写作製し、マスタースタンパからスタンパ504を複数転写作製することも可能である。(この場合、マスタースタンパとスタンパ504の間で、凹凸が反転するので、中間にもう一段転写(スタンパ)が必要となる)
【0166】
〈メディア作製〉
スタンパ504を使用して磁気記録媒体509を製造する方法について、図29(A)〜図29(D)に基づいて説明する。
【0167】
まず、図29(A)に示されるように、樹脂層403が形成された中間体410を加熱しつつ、ナノインプリント法によってスタンパ504を中間体410に押し付ける。これにより、図29(B)に示されるように、スタンパ504の凹凸パターンP2が樹脂層403に転写されて中間体410上に凹凸パターンP3が形成される。この場合、中間体410は、磁気記録媒体509を製造するための中間体であって、円板状の基材401(ガラス、アルミ等)の表面に磁性層402が形成されて構成されている。なお、中間体410は、実際には、下地層、軟磁性層、配向層、記録層(磁性層402)および保護層等が基材401の上に積層されて構成されているが、ここでは説明および図示を省略する。
【0168】
スタンパ504の凹凸パターンP2を樹脂層403にナノインプリント法で転写する際、熱により樹脂層403を硬化させたが、UV硬化樹脂を用い、UV照射で硬化させても構わない。ただしその場合、スタンパ504の代わりに、石英等UV光を透過する基板501から作られたエッチング原盤を用いるのが好適である。
【0169】
次に、凹凸パターンP3をマスクとして用いて中間体410をエッチング(反応性イオンエッチングなど)する。この場合には、凹凸パターンP3の凹部の底面から磁性層402が露出し、さらにエッチング処理を実行することにより、図29(C)に示されるように、磁性層402に凹凸パターンP4が形成される。
【0170】
この後、図29(D)に示されるように、凹凸パターンP4の凹部に非磁性材料404を充填する。さらに、たとえば研磨処理(CMP法など)によって磁性層402(凹凸パターンP4の凸部の先端)を非磁性材料から露出させた後、磁性層402の表面に保護膜を形成するなどして、磁気記録媒体509が完成する。なお、プリフォーマット信号パターンとデータトラックパターンとを、同じ工程で一括して形成することができる。
【0171】
以上説明したように、本実施形態にかかる記録媒体(DTM、BPM)では、非点収差が一定量以下に抑えられた描画装置100を使って原盤が作製されている。このため、原盤のパターン形状のばらつきを従来と比べて格段に少なくなくすることが可能となる。その結果、原盤から作製されるスタンパや媒体のばらつきも小さくすることが可能となる。特に、従来は、非点収差を定量的に取り扱うことができず、収差の有無の判断は個人の能力に依存するものであった。そのため判断主体によって補正後の非点収差残量が大きく変動し、原盤パターン形状のばらつきが目立つことがあった。しかしながら、本実施形態では、非点収差が一定量以下に抑えられるため、判断主体によって補正後の非点収差残量が大きく変動することがない。
【0172】
第5の実施形態の中で、ナノインプリント法を用いるDTM・BPMメディアの作製について説明した。DTM・BPMの例によらず、微細ないわゆるナノ構造物の作製はナノインプリント法によるところが多い。ナノインプリント法では、上記例で説明したように、スタンパ(ナノインプリント技術用語としてはテンプレートと言われることが多い)が必須で、スタンパのもとになるパターン原盤を作製するために、電子線描画装置は不可欠である。電子線描画装置によるパターン原盤作製と、パターン原盤から作られたスタンパと、ナノインプリント法の組み合わせは、一例として次のような素子・デバイス、液晶用偏光板素子、CCD/CMOSセンサー用マイクロレンズアレイ、高輝度LED用フォトニック結晶、薄膜ヘッドなどの作製にも応用が可能である。さらに、上記により作製したナノパターン構造に、ブロックコポリマー等のいわゆる自己組織化機能を導入して、LEDの反射防止構造、バイオチップ、半導体絶縁膜などの作製にも展開可能である。
【0173】
なお、上記各実施形態では、電子線を用いた描画装置100を用いて説明したが、一般に電子線を用いた描画装置と電子顕微鏡は、同等の構成を有しているため、本発明は2次電子信号に基づいて画像を形成する電子顕微鏡にも好適である。
【0174】
また、上記各実施形態では、基準試料WPから発生した2次電子を電子検出器21で検出して2次電子信号を生成したが、これに限らず、基準試料WPに反射した反射電子を検出して反射電子信号を生成、もしくは基準試料WPを透過した透過電子に基づいて透過電子信号を生成して利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0175】
以上説明したように、本発明の収差評価用パターン及び収差評価方法は、非点収差の評価に適しており、本発明の収差補正方法は、照射系の収差を補正するのに適しており、本発明の電子線描画装置は、電子線を用いたパターンの描画に適しており、本発明の、電子顕微鏡は、試料の観察に適している。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る描画装置100の概略的な構成を示す図である。
【図2】図2(A)〜図2(C)は、基準試料WPを示す図(その1〜その3)である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は、基準試料WPを示す図(その4、その5)である。
【図4】図4(A)及び図4(B)は、基準試料WPを示す図(その6、その7)である。
【図5】図5(A)及び図5(B)は、基準試料WPを示す図(その8、その9)である。
【図6】非点収差の評価方法を説明するための図(その1)である。
【図7】非点収差の評価方法を説明するための図(その2)である。
【図8】非点収差の評価方法を説明するための図(その3)である。
【図9】非点収差の評価方法を説明するための図(その4)である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る非点補正の手順を示すフローチャートである。
【図11】基準試料WPにおけるxy座標を示す図である。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、フォーカス位置に対応した電子線のスポット形状を示す図(その1、その2)である。
【図13】図13(A)〜図13(C)は、スポット形状に応じた2次電子信号を示す図(その1〜その3)である。
【図14】図14(A)及び図14(B)は、非点補正に応じた電子線のスポット形状を示す図(その1、その2)である。
【図15】図15(A)及び図15(B)は、非点補正後の2次電子信号を示す図(その1、その2)である。
【図16】2次電子信号のコントラストを説明するための図である。
【図17】図17(A)及び図17(B)は、スキャン方向に対する2次電子信号のダイナミックレンジの特性を説明するための図(その1、その2)である。
【図18】図18(A)、及び図18(B)は、フォーカス位置の決定方法を説明するための図(その1、その2)である。
【図19】図19(A)〜図19(E)は、光ディスクの原盤を製作する手順を説明するための図(その1〜その5)である。
【図20】図20(A)及び図20(B)は、光ディスクのスタンパを作製する手順を説明するための図(その1、その2)である。
【図21】図21(A)及び図21(B)は、光ディスクメディアを作製する手順を説明するための図(その1、その2)である。
【図22】ハードディスクの構成例を示す図である。
【図23】図22における領域を拡大して示す図である。
【図24】図24(A)〜図24(G)は、DTM及びBPMを含むハードディスクの原盤を製作する手順を説明するための図(その1〜その7)である。
【図25】図25(A)〜図25(C)は、DTM及びBPMを含むハードディスクのスタンパを作製する手順を説明するための図(その1〜その3)である。
【図26】図26(A)〜図26(C)は、DTM及びBPMを含むハードディスクメディアを作製する手順を説明するための図(その1〜その3)である。
【図27】DTMを説明するための図である。
【図28】BPMを説明するための図である。
【図29】図29(A)〜図29(D)は、DTM及びBPMを作製する手順を説明するための図(その1〜その4)である。
【符号の説明】
【0177】
10…照射装置、10a…ケーシング、11…電子源、12…電界レンズ、12a,12b…円筒レンズ、13…軸合わせコイル、13a,13b…環状コイル、14…集束レンズ、15…ブランキング電極、16…アパーチャ、17…非点補正コイル、18…走査電極、19…対物レンズ、20…動的焦点補正レンズ、21…電子検出器、30…回転テーブルユニット、31…回転テーブル、32…スピンドルモータ、32a…軸、33…スライドユニット、50…真空チャンバ、51…定盤、70…主制御装置、71…モニタ、72…入力装置、100…描画装置、201…中心、202…同心円、203…同心円間、210…基板、401…基材、402…磁性層、403…樹脂層、410…中間体、501…基板、502…レジスト層、503…原盤、504…スタンパ、505…樹脂、506…CFイオン、507…磁性薄膜、508…マスター情報担体、509…磁気記録媒体、WP…基準試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を偏向させることにより、試料の表面を走査する照射系の収差を評価する収差評価用パターンであって、
同一平面内において、前記偏向前の前記電子線の照射位置を中心として、外側に向かって形成された、所定線幅と所定間隔からなる周期構造を有し、
前記周期構造は、前記中心の周囲360度に渡って形成され、前記中心を共有する同心図形、もしくは、螺旋図形から形成されることを特徴とする収差評価用パターン。
【請求項2】
前記周期構造は、円又は正多角形で形成されることを特徴とする請求項1に記載の収差評価用パターン。
【請求項3】
前記周期構造の線幅、および間隔は、前記中心から離れるに従い、大きくなることを特徴とする請求項1又は2に記載の収差評価用パターン。
【請求項4】
収差評価用パターンを電子線で走査することにより得られる画像に基づいて、前記電子線を照射する照射系での収差を評価する収差評価方法であって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の収差評価用パターンを前記電子線で走査する工程と;
前記走査によって得られる電子信号に基づいて前記画像を形成する工程と;
前記画像に基づいて前記照射系での収差を評価する工程と;を含む収差評価方法。
【請求項5】
収差評価用パターンを電子線で走査することにより得られる電子信号に基づいて、前記電子線を照射する照射系での収差を評価する収差評価方法であって、
前記照射系のフォーカス位置を請求項1〜3のいずれか一項に記載の収差評価用パターン上に設定するフォーカス設定工程と;
前記照射系のフォーカス位置が設定された前記収差評価用パターンに対して、前記電子線を第1方向及び該第1方向と直交する第2方向へ走査することにより得られる電子信号に基づいて、前記照射系での収差を評価する評価工程と;を含む収差評価方法。
【請求項6】
前記フォーカス設定工程では、アンダーフォーカスされた電子線による前記収差評価用パターンの走査で得られる電子信号と、オーバーフォーカスされた電子線による前記収差評価用パターンの走査で得られる2次電子信号とに基づいて、前記フォーカス位置が前記収差評価用パターン上に設定されることを特徴とする請求項5に記載の収差評価方法。
【請求項7】
前記フォーカス設定工程は、アンダーフォーカスされた電子線及びオーバーフォーカスされた電子線で、前記収差評価用パターンを相互に異なる第3方向及び第4方向へ走査する第1副工程と;
前記第3方向への走査によって得られた電子信号の最大値と、前記第4方向への走査によって得られた電子信号の最大値とに基づいて、前記フォーカス位置を収差評価用パターン上に設定する第2副工程と;を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の収差評価方法。
【請求項8】
前記第3方向及び前記第4方向への走査結果に基づいて、前記第1方向に対する前記照射系の収差の方向を判断する判断工程を更に含む請求項7に記載の収差評価方法。
【請求項9】
前記評価工程では、前記判断工程での判断結果に基づいて、前記第1方向及び前記第2方向を決定することを特徴とする請求項8に記載の収差評価方法。
【請求項10】
前記評価工程では、前記第1方向又は前記第2方向が収差の発生方向へ設定されることを特徴とする請求項9に記載の収差評価方法。
【請求項11】
請求項4〜10に記載の収差評価方法によって得られた評価結果に基づいて、前記照射系の収差を補正する収差補正方法。
【請求項12】
請求項11に記載の収差補正方法によって収差が補正された照射系を備える電子線描画装置。
【請求項13】
請求項11に記載の収差補正方法によって収差が補正された照射系を備える電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項12に記載の電子線描画装置によって、所定のパターンが描画された光情報記録媒体の原盤。
【請求項15】
請求項14に記載の原盤を用いて作製された、光情報記録媒体のスタンパ。
【請求項16】
請求項15に記載のスタンパを用いて作製された、光情報記録媒体。
【請求項17】
請求項12に記載の電子線描画装置によって、所定のパターンが描画された磁気情報記録媒体の原盤。
【請求項18】
請求項17に記載の原盤を用いて作製された、磁気情報記録媒体のスタンパ。
【請求項19】
請求項18に記載のスタンパを用いて作製された、磁気情報記録媒体。
【請求項20】
請求項12に記載の電子線描画装置によって、所定のパターンが描画された微細パターン作製用の原盤。
【請求項21】
請求項20に記載の原盤を用いて作製された、微細パターン作成用のスタンパ。
【請求項22】
請求項21に記載のスタンパを用いて作製された、微細パターンを有する構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−181086(P2008−181086A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306627(P2007−306627)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(395006823)株式会社クレステック (12)
【Fターム(参考)】