説明

可視光下で活性な光触媒性基材

本発明は、機械的な耐性のある長持ちするコーティングを備え、且つ使用者が取り扱うのに適した基材に関する。この基材は、コーティングが、価電子帯の上位準位と伝導帯の下位準位との間に可視範囲における波長に相当するバンドギャップを有する第2化合物と均質に組み合わされた第1の光触媒性化合物を含むことを特徴とする。本発明はまた、該基材を含むガラス、本発明の基材の利用、及びその製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な成分作用物質の光触媒活性によって清浄になるセルフクリーニング性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ヨーロッパ特許出願公開第850204号明細書は、アナターゼ及び/又はルチル型の結晶化した二酸化チタンを含むコーティングを開示し、そしてそれは、十分な濃度又は厚さにて、紫外線下でフリーラジカルを生じさせそしてその結果として油、脂肪又は炭化水素の付着物のラジカル酸化を開始させるという特別な特徴を有する。
【0003】
このコーティングはまた、紫外線下で親水性である。それゆえ、脂肪汚れは太陽光の作用下でより短い分子に分解され、そして次いで雨水が一様な皮膜として広げられ、分解生成物及び無機塵埃の考えられる最良の均質化を保証する。かくして、この皮膜が除去された後に残存する微量物質は、かなり低減されているか又は消失していることもある。かかる基材は、垂直又は傾斜位置にある場合、「セルフクリーニング性」と称することができる。
【0004】
結晶化したアナターゼ型のTiO2はまた、可視スペクトルのより高エネルギーの部分において弱い光触媒活性を有し、しかして紫外線の不存在下又は実質的不存在下での使用のために、特に建物内、輸送機関の客室又は車室内等において、この活性を増加すること及びそれをより長い波長の方へシフトさせることが所望される。これは、透明板ガラスが特に太陽光の可視部を通すがしかし紫外線を通さない故である。
【0005】
更に、太陽スペクトルのエネルギーは紫外部よりも可視部に多いので、可視光照射下の光触媒活性はまた屋外で非常に有益である。
【0006】
これに関して、米国特許出願公開第2003/144140号明細書は、紫外線下で光触媒性であるTiO2のような化合物と可視光下で光触媒性であるCe2Zr28のような混合酸化物との接合部における電子−正孔対の再結合を制御するやり方を開示する。しかしながら、この文書は、皮膜コーティングへの予測的拡張の可能性を何ら指摘することなく、もっぱら粉末製造の技術を扱う。
【0007】
米国特許出願公開第2003/232186号明細書もまた、紫外線下で活性である光触媒性化合物と可視部において活性である光触媒性化合物との粉末での配合を開示する。後者の化合物は、ルチル及び/又はアナターゼTiO2からなり、その特定の原子は窒素原子で置換されている。この原理を用いて皮膜としてコーティングを形成することは、開示されていない。
【0008】
国際公開第02/92879号パンフレットは、アナターゼTiO2粒子からなる基材、特にガラス基材上の、薄膜コーティングを開示し、それの紫外線下での光触媒活性は、これらの粒子がSnO2:Fのような半導体金属酸化物を含むバインダー中にあることにより高められている。可視光による励起下の光触媒活性についての言及はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それ故、本発明の目的は、可視光のみを受け取る場合に利用可能な防汚及び/又は親水活性を示し、且つ更に、実質的に平らである、繊維状である、等の様々な基材上に高い機械的強度のコーティングを構成することが可能である物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のために、本発明の主題は、使用者による取扱いを可能にする機械的に強く且つ耐久性の皮膜で被覆された基材であって、該皮膜が、光触媒性の第1化合物と、価電子帯の上位準位と伝導帯の下位準位との間に、可視範囲における波長に相当するバンドギャップを有する第2化合物とを、均質な関係でもって含むことを特徴とする基材である。
【0011】
本発明の基材は、ガラス、セラミック、ガラス−セラミック、金属(鋼、ステンレス鋼)、建築材料(内壁(場合により被覆/下塗りされた)、等)、鉱物材料、木材又はプラスチックである。それは平面又は曲面からなることができ、あるいはバインダー中の断熱及び防音用の、又は強化用のガラス繊維、あるいは天然繊維及び合成繊維のような、様々な既知のやり方で一緒にされた繊維(布帛など)からなることができる。
【0012】
本発明に関連して言えば、光触媒性の第1化合物は、一般に、可視光より高エネルギーの範囲において最小活性化エネルギーを有する。これは、ZrO2、KTaO3、Nb25及びSnO2について当てはまる。
【0013】
TiO2の場合には、この最小エネルギーは可視スペクトルの最も高エネルギーの部分にあるけれども、もっぱら可視光下でのTiO2の光触媒活性は非常に低く、そして防汚機能性については紫外線下においてはるかに重要でありそして使用可能である、ということが指摘されるべきである。
【0014】
とは言え、高い光学的性質が要求される透明基材上に耐久性且つ耐摩耗性のコーティングを形成するために知られた二酸化チタン、特に少なくとも部分的に結晶化したアナターゼ型のものが、無論、本発明の核心である。
【0015】
具体的には、精選された上述の第2化合物と一緒にすることにより、可視部におけるTiO2の光触媒活性は増加し、そして使用可能になる。
【0016】
更に、本発明に関連して言えば、例えばSiのように、光触媒性第1化合物が可視光よりも高エネルギーでない範囲において最小活性化エネルギーを有する状況は、除外されない。
【0017】
知られているように、ラジカル酸化を開始させる光触媒性化合物の固有の能力は、特に、電子−正孔対の寿命、発生されたこれらの対の量、及びこれらの対の拡散に関してのその特性から生じる。しかしながら、これらの特性のうちの一部が不十分であると、その結果としてより弱い防汚及び/又は親水機能性からほどんどゼロまでのものをもたらすことになり、しかして高い光触媒活性を要求する一定の用途からその化合物を排除する理由となり得る。
【0018】
第2化合物に関しては、孤立状態に置かれた第2化合物は可視光下で電子−正孔対を発生するが、しかしこれらの対の永続性、量及び拡散特性は、一般に、必ずしもそれを光触媒性化合物と称され得るようにはしない。しかしながら、光触媒性第1化合物と一緒にされると、それは、光触媒性第1化合物のそれぞれ伝導帯及び価電子帯への、第2化合物中に発生したそれぞれ電子及び正孔の移動により、可視光下で光触媒活性にすることができ、あるいは最低限でも、その光触媒活性を増加させることができる、ということを本発明者らは確証した。
【0019】
第1の場合において、第2化合物の価電子帯の上位準位と伝導帯の下位準位の間のバンドギャップが、光触媒性第1化合物の最大の活性を得るのに必要とされるその励起エネルギーより小さい場合でさえ、光触媒性第1化合物は、可視光下で、それが有さなかったか又はわずかしか有さなかった活性を獲得する。
【0020】
第2の場合においては、これとは逆に、第2化合物の価電子帯の上位準位と伝導帯の下位準位の間のバンドギャップは、光触媒性第1化合物の最大活性を得るのに必要とされる光触媒性第1化合物の励起エネルギーに等しいか又はそれより大きく、そして後者は可視光下で更に一層大きい光触媒活性を示す。
【0021】
好ましくは、第2化合物の該バンドギャップは、1.55eVと3.26eVの間にある。
【0022】
エネルギーは、式
E(eVにて)=1240/λ(nmにて)
により波長に関係づけられることが知られているので、上記の値は、可視スペクトルの両末端の波長すなわち800nm及び380nmに相当する。
【0023】
かくして、第2化合物は、GaP、CdS、KTa0.77Nb0.233、CdSe、SrTiO3、TiO2、ZnO、Fe23、WO3、Nb25、V25及びEu23から選ぶことができる。
【0024】
好ましい態様では、基材は透明であり、そしてその防汚/親水機能性は、もっぱら可視光下でその高い初期透明度及び光学的特性を維持するような性質のものである。有機汚れはその場合には、付着性がより弱く且つ脂肪性がより低い、より小さい分子に分解され、そして特にコーティングの親水性の故に皮膜の形態の水によって、より容易に除去することができる。多かれ少なかれ定期的にスプレーする手段を組み合わせることを想定することができる。
【0025】
水の不存在下では、有機汚れの分解生成物は、無機塵埃と同じくらい容易に布切れで除去することができる。洗剤のような化学的に活性な薬剤は不要である。
【0026】
「透明基材」という用語は、特に、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなプラスチックや、ポリアミン−中和エチレン/(メタ)アクリル酸コポリマーのようなイオノマー樹脂や、エチレン/ノルボルネン又はエチレン/シクロペンタジエンコポリマーのようなシクロオレフィンコポリマーや、ポリカーボネート/ポリエステルコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー及び同様なコポリマー(単独で又はブレンドにて)を意味するものと理解される。
【0027】
有利な別態様によれば、透明基材はガラスで作られ、コーティングの方に向けられるその少なくとも1つの表面部分は脱アルカリされる。これは、ガラス中に含有されたアルカリが、特に加熱の影響下で、表面に移行し、そしてコーティングの光触媒活性に影響を及ぼすからである。
【0028】
コーティングの方に向けられる表面の少なくとも1つの領域における脱アルカリとは、基材が15重量%を超える合計割合のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を含有せず、そしてまた10重量%を超える割合の酸化ナトリウムを含有しないことを意味する。
【0029】
かように脱アルカリされたソーダ石灰シリカガラスは、様々な技術を用いる処理、特に、国際公開第94/07806号パンフレット及び国際公開第94/07807号パンフレットに記載されているような、コロナ放電などの電気処理により得られる。
【0030】
もう一つの有利な別態様によれば、コーティングは、(メソ)多孔質構造、特に国際公開第03/087002号パンフレットの教示によるものを有する。かかる構造は、大きい接触表面積及び互いに連通する細孔のネットワークにより、そして最終的には格別高い光触媒活性により、見分けられる。例えば、TiO2のみからなるコーティングについては、TiO2の理論密度(約3.8である)の百分率として規定される70〜90%の多孔度が好ましい。
【0031】
本発明によるコーティングの酸化チタンの光触媒効果を増強するために、第一に、コーティング中に他の粒子、特にカドミウム、スズ、タングステン、亜鉛、セリウム又はジルコニウムを基礎材料とした金属粒子を組み込むことにより、コーティングの吸収帯を増大することが可能である。
【0032】
酸化チタンの結晶格子中に次の金属元素、すなわちニオブ、タンタル、鉄、ビスマス、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、セリウム及びモリブデンの少なくとも一つを挿入することによって酸化チタンの結晶格子にドーピングすることにより、電荷担体の数を増加することも可能である。
【0033】
このドーピングはまた、まさに酸化チタンの表面又はコーティング全体にドーピングすることにより行ってもよく、表面ドーピングはコーティングの少なくとも一部を酸化物又は金属塩の層で覆うことにより行われ、金属は鉄、銅、ルテニウム、セリウム、モリブデン、バナジウム及びビスマスから選ばれる。
【0034】
最後に、光触媒効果は、酸化チタンを、又はそれが組み込まれているコーティングの少なくとも一部を、白金、ロジウム、銀又はパラジウムタイプの薄膜の形態の貴金属で覆うことによって、光触媒反応の収率及び/又は速度を増加させることにより増強することができる。
【0035】
そのような触媒、例えば真空技術により付着されたものは、実際のところ、酸化チタンによって発生される実存ラジカルの数及び/又は寿命を増加し、かくして連鎖反応に有利に働いて有機物質の分解をもたらすことを可能にする。
【0036】
本発明によるコーティングの厚さは様々でよく、それは好ましくは2nmと1μmの間にあり、特に5nmと100nmの間あって、好ましくは80nmを超えない。光触媒活性は一定の厚さと共に増加するから、この厚さは想定用途に応じて適合される。加えて、下にあるガラスからコーティング中へのアルカリ金属を制限しそしてそれらが最表面の活性部分に達するのを防ぐために、増加した厚さを選ぶことができる。
【0037】
コーティングは、多かれ少なかれ表面平滑性を有するように選ぶことができる。しかしながら、特定の粗さが有利なことがあり、すなわち、
・それはより大きい光触媒活性表面を発現させることを可能にし、従ってより高い光触媒活性をもたらすことになり、そして
・粗さは湿潤特性を高めることから、それは濡れに直接の影響を及ぼす。平滑な親水性表面は、粗くされると更に一層親水性になる。「粗さ」という用語は、ここでは、表面粗さと、皮膜の厚さの少なくとも一部における皮膜の多孔性によって引き起こされる粗さの両方を意味するものと理解される。
【0038】
上記の効果はコーティングが多孔質で且つ粗い場合に更に一層顕著になり、従って超親水性効果の粗い光反応性表面になる。しかしながら、あまりにも顕著である場合は、粗さは、汚れの付着と蓄積にとって有利となり及び/又は光学的に容認できないレベルの曇りをもたらすことにより、有害となることがある。
【0039】
かくして、TiO2又は他の化合物を基礎材料としたコーティングを付着させる方法を、それらが約0.2〜20nmの粗さを有するように適応させることが有益であると判明し、この粗さは、原子間力顕微鏡法により、1ミクロン平方の表面に関してRMS(二乗平均平方根)値を測定することによって評価される。かかる粗さレベルの場合には、コーティングは1゜未満であり得る水接触角により明示される親水性を有する。
【0040】
基材と本発明によるコーティングの間に、基材に由来する特定の元素の移行に対するバリヤ、とりわけ基材がガラス製の場合アルカリ金属イオンそして特にナトリウムイオンに対するバリヤ、として働く本発明による皮膜に加えて、静電防止、熱的もしくは光学的機能、又はアナターゼもしくはルチル型のTiO2の結晶成長に有利に働く機能を有する1つ以上の他の皮膜を配置することができる。
【0041】
高屈折率及び低屈折率の交互の薄膜を含む「反射防止」多層スタックを想定することも可能であり、本発明によるコーティングは該スタックの最後の皮膜を構成する。この場合において、コーティングは比較的低い屈折率を有することが好ましく、これはそれがチタンとケイ素の混合酸化物からなる場合に当てはまる。
【0042】
静電防止機能及び/又は熱的機能(電流リード線を備えることによる加熱機能、低放射率機能、日射保護機能、等)を有する皮膜は、特に、銀のような金属タイプの導電性物質、あるいはスズをドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素タイプのハロゲンをドープした酸化スズ(SnO2:F)、アンチモンをドープした酸化スズ(SnO2:Sb)、又はインジウムをドープした酸化亜鉛(ZnO:In)、フッ素をドープした酸化亜鉛(ZnO:F)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(ZnO:Al)もしくはスズをドープした酸化亜鉛(ZnO:Sn)のような、ドープされた金属酸化物タイプの導電性物質を基礎材料とするように選ぶことができる。それはまた、SnO2-x又はZnO2-x(ここではx<2である)のような、酸素が化学量論量未満の金属酸化物であってもよい。
【0043】
静電防止機能を有する皮膜は、好ましくは、20〜1000オーム/□の表面抵抗を有する。それは、それにバイアスをかける(例えば5と100Vの間の供給電圧でもって)ように電流リードを備えることができる。この制御されたバイアスがけは、特に、コーティング上に付着しやすい1ミリメートル程度の大きさを有する塵埃、特に静電効果によって付着されやすい付着性の乾燥した塵埃の付着を防除することを可能にする。すなわち、皮膜のバイアスを突然逆にすることにより、この塵埃は「排除」される。
【0044】
光学的機能を有する薄膜は、光の反射を減じ及び/又は基材の反射の色をより無彩色にするように選ぶことができる。この場合において、それは好ましくはコーティングの屈折率と基材の屈折率の中間の屈折率及び適切な光学的厚さを有し、そしてそれは酸化アルミニウム(Al23)、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウム(In23)及びケイ素のオキシ炭化物又はオキシ窒化物タイプの、酸化物又は酸化物の混合物からなることができる。反射の色の最大の減衰を得るためには、この薄膜が、その両側にある二つの材料、すなわち基材及び本発明によるコーティングの屈折率の平方の積の平方根に近い屈折率を有することが好ましい。同時に、λ/4に近いその光学的厚さ(すなわち、その幾何学的厚さにその屈折率を乗じたもの)を選ぶことが有利であり、λは可視部におけるおおよその平均波長、特に約500〜500nmである。
【0045】
可視部における波長に相当するバンドギャップを有する第2化合物を組み合わせることにより、コーティングに特定の色、例えば黄色を与えることができる。この場合において、光学的機能を有する薄膜は、有利には、黄色について吸収性である。
【0046】
アルカリ金属バリヤ機能を有する薄膜は、特に、ケイ素の酸化物、窒化物、オキシ窒化物もしくはオキシ炭化物、フッ素含有酸化アルミニウム(Al23:F)又は窒化アルミニウムを基礎材料とするように選ぶことができる。これは、本発明によるコーティング中へのナトリウムイオンの移行は特定の条件下でその光触媒特性を損なうことがあるので、基材がガラス製である場合に有用であると判明したからである。
【0047】
基材の又は下層皮膜の性質もまた追加の利益をもたらし、すなわち、それは特にCVDでの被着の場合において、被着される光触媒性皮膜の結晶化を促進することができる。
【0048】
例えば、CVDによるTiO2の被着中において、結晶化SnO2:Fの下層皮膜は、特に約400〜500℃の被着温度について、主としてルチル型のTiO2の成長を促進し、一方ソーダ石灰ガラスの又はオキシ炭化ケイ素の下層皮膜の表面は、特に約400〜600℃の被着温度について、その代わりにアナターゼとしてのTiO2の成長を引き起こす。
【0049】
これらの随意の薄膜は全て、スパッタリングタイプの真空技術、特にマグネトロンスパッタリングにより、又は熱分解タイプのその他の技術、例えば固相、液相もしくは気相における熱分解など、により公知のやり方で被着させることができる。上述の皮膜の各々は、いくつかの機能を併せ持つことができるが、しかしそれらを重ね合わせることも可能である。
【0050】
有利には、アルカリ金属の移行に対するバリヤを形成する下層皮膜がガラスと直接接触し、そしてそれ自身は光学的機能を有する薄膜で直接覆われ、この薄膜が次いで静電防止及び/又は熱的機能を有する皮膜を介して本発明のコーティングに接合される。
【0051】
本発明の主題はまた、
・一体式であれ、多重式(二重ガラスタイプの)であれ、あるいは合わせガラスであれ、上述の基材を組み込んでいる防汚性及び/又は親水性(防曇性)のガラス板であり、そして
・この基材を、有機及び/又は無機の汚れを除去するためのタイプの親水性及び/又は防汚性のセルフクリーニング性ガラス、特に二重ガラスタイプの建物用ガラスや、自動車のフロントガラス、後部窓ガラスもしくは側面窓ガラスタイプの輸送機関用ガラスや、列車、航空機及び水上輸送機関用ガラスや、又は水槽、ショーウインドウ、温室もしくはポーチ用ガラスなどの実用ガラスや、テーブル、棚、階段の踏み板、任意の位置の壁などの室内装備品用ガラス(このガラスは随意に表面凹凸を有し、特に印刷されており、模様付けされており、梨地化されており、サンダー仕上げされており、ラッカーがけされており、又はワニスがけされている)や、眼科用ガラスや、都市設備、鏡、テレビ、電話若しくは同様なスクリーン用のガラスや、吸収性が電子的に制御され可変であるガラスや、フラットランプもしくはトンネルランプタイプのランプ用のカバーや、又はカーテンウォール、外装もしくは屋根タイプの任意の建築材料、例えばタイル、下塗り材など、の製造に適用することである。
【0052】
本発明の他の主題は、上述の基材を得るための方法からなり、これらの方法においては、コーティングを、
・特に光触媒性第1化合物の少なくとも1種の前駆体、とりわけチタンキレート及び/又はチタンアルコラートタイプのチタン有機金属前駆体、及び第2化合物の前駆体を含む溶液からの、液体熱分解により、あるいは、
・少なくとも光触媒性第1化合物と第2化合物、及び/又は、光触媒性第1化合物の前駆体、とりわけチタンアルコラートタイプのチタン有機金属前駆体と、第2化合物の前駆体を含む溶液を用いて、浸漬コーティング、セルコーティング、スプレーコーティング又は層流コーティングタイプの被着方式での、ゾル−ゲル技術により、あるいは、
・光触媒性第1化合物の少なくとも1種の前駆体、とりわけハロゲン又は有機金属タイプのチタン前駆体と、第2化合物の前駆体とからの化学蒸着(CVD)により、あるいは、
・反応性又は非反応性スパッタリング、とりわけマグネトロンスパッタリング、などの減圧技術により、
被着させる。
【実施例】
【0053】
30cm×30cm×2.2mmの寸法のソーダ石灰フロートガラス板を、150nm厚のSiO2皮膜で被覆した。
【0054】
次の特性、すなわち、
・圧力: 2μbar、
・ガス: 15sccm Ar/12sccm O2
・電力: 2kW、
・Si/Al(8wt%)ターゲット: 50cm×15cm、
でもって、マグネトロンスパッタリングを行った。
【0055】
30cm×30cmのガラス/150nmのSiO2の試料片を10cm×15cmの寸法のより小さいものに切断し、そしてこれらを次の特性、すなわち、
・圧力: 24μbar、
・ガス: 47sccm Ar/5sccm O2
・電力: 1kW、
・金属(99.96%Ti)ターゲット: 20cm×9cm、
のマグネトロンスパッタリングにより、100nmのTiO2皮膜で被覆した。
【0056】
TiO2皮膜の代わりに、様々な割合のNb25を含有するTiO2皮膜を、2cm×1cm×1mmの寸法の1枚以上のNb板を金属Tiターゲットに結合させることにより形成した。マグネトロン法を行うための条件は全て同じであった。
【0057】
低残留UV線下での様々な試料片の光触媒活性を評価した。
2.5cm×2.5cmの寸法の試料片を切り取った。
10mlのエタノール中に0.1gのステアリン酸の溶液を調製し、40分間撹拌した。
試料片をUV線/オゾンでもって40分間クリーニングにした。
60μlのステアリン酸溶液を各試料片上にスピンコーティングにより被着させた。
【0058】
ステアリン酸の量を、最初にFTIR分析により、そして次に本質的に可視光を発する(1.4W/m2の低残留UVA線)蛍光灯による2時間の照射後に、測定した。
かくして、皮膜により分解されたステアリン酸の割合をそれらから推定した。
【0059】
測定された分解ステアリン酸の量は純TiO2皮膜の場合15%であったのに対して、この量は、Nb原子の量をNb及びTi原子の和で割った割合が2.6at%の場合に、18%の最大値に達した。
【0060】
この結果は、Nb25と均質に混ぜ合わせることにより、可視光下でのTiO2の光触媒活性が増加することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者による取扱いを可能にする機械的に強く且つ耐久性のコーティングを備えた基材であって、該コーティングが、光触媒性の第1化合物と、価電子帯の上位準位と伝導帯の下位準位との間に、可視範囲における波長に相当するバンドギャップを有する第2化合物とを、均質な関係でもって含むことを特徴とする基材。
【請求項2】
第2化合物のバンドキャップが1.55eVと3.26eVの間にあることを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
第2化合物が、GaP、CdS、KTa0.77Nb0.233、CdSe、SrTiO3、TiO2、ZnO、Fe23、WO3、Nb25、V25及びEu23から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の基材。
【請求項4】
基材が透明であり、そしてその防汚/親水機能性が、もっぱら可視光下でその高い初期透明度及び光学的特性を維持するような性質のものであることを特徴とする、請求項1〜3の一つに記載の基材。
【請求項5】
基材がガラス製であり、そしてコーティングの方に向けられたその少なくとも1つの表面部分が脱アルカリされていることを特徴とする、請求項4に記載の基材。
【請求項6】
コーティングがメソ多孔質構造を有することを特徴とする、請求項1〜5の一つに記載の基材。
【請求項7】
コーティング中に、粒子、特にカドミウム、スズ、タングステン、亜鉛、セリウム又はジルコニウムを基礎材料とした金属粒子が組み込まれていることを特徴とする、請求項1〜6の一つに記載の基材。
【請求項8】
光触媒性第1化合物の結晶格子中に、ニオブ、タンタル、鉄、ビスマス、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、セリウム及びモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素が挿入されていることを特徴とする、請求項1〜6の一つに記載の基材。
【請求項9】
コーティングの少なくとも一部が酸化物又は金属塩の層で覆われており、該金属は鉄、銅、ルテニウム、セリウム、モリブデン、バナジウム及びビスマスから選ばれることを特徴とする、請求項1〜6の一つに記載の基材。
【請求項10】
光触媒性第1化合物、又はコーティングの少なくとも一部が、白金、ロジウム、銀又はパラジウムタイプの薄膜の形態の貴金属で覆われていることを特徴とする、請求項1〜6の一つに記載の基材。
【請求項11】
コーティングの厚さが2nmと1μmの間にあり、特に5nmと100nmの間にあって、好ましくは80nmを超えないことを特徴とする、請求項1〜10の一つに記載の基材。
【請求項12】
コーティング(3)のRMS粗さが0.2と20nmの間にあることを特徴とする、請求項1〜11の一つに記載の基材。
【請求項13】
静電防止、熱的もしくは光学的機能を有する、又は基材に由来するアルカリの移行に対するバリヤを形成する、少なくとも1つの薄膜が、コーティングの下に被着されていることを特徴とする、請求項1〜12の一つに記載の基材。
【請求項14】
静電防止機能を、場合により制御された偏光とともに有する、及び/又は熱的及び/又は光学的機能を有する薄膜が、金属タイプのもしくはドープされた金属酸化物タイプの導電性物質、例えばITO、SnO2:F、ZnO:In、ZnO:F、ZnO:Al、ZnO:Snなど、あるいは酸素が化学量論量未満の金属酸化物、例えばSnO2-x又はZnO2-x(ここではx<2である)など、を基礎材料としていることを特徴とする、請求項13に記載の基材。
【請求項15】
光学的機能を有する薄膜が、コーティングの屈折率と基材の屈折率の中間にある屈折率の酸化物又は酸化物の混合物を基礎材料としており、該酸化物が特に次の酸化物、すなわちAl23、SnO2、In23、及びケイ素のオキシ炭化物又はオキシ窒化物から選ばれることを特徴とする、請求項13に記載の基材。
【請求項16】
アルカリ金属バリヤ機能を有する薄膜が、ケイ素の酸化物、窒化物、オキシ窒化物もしくはオキシ炭化物、Al23:F、又は窒化アルミニウムを基礎材料としていることを特徴とする、請求項13に記載の基材。
【請求項17】
コーティングが反射防止多層スタックの最後の層を構成することを特徴とする、請求項13に記載の基材。
【請求項18】
請求項1〜17の一つに記載の基材が組み込まれている、防汚性及び/又は親水性の一体式、多重式(二重ガラスタイプの)又は合わせガラス。
【請求項19】
有機及び/又は無機の汚れを除去するためのタイプの親水性及び/又は防汚性のセルフクリーニング性ガラス、特に二重ガラスタイプの建物用ガラス、自動車のフロントガラス、後部窓ガラスもしくは側面窓ガラスタイプの輸送機関用ガラス、列車、航空機及び水上輸送機関用ガラス又は水槽、ショーウインドウ、温室もしくはポーチ用ガラスなどの実用ガラス、テーブル、棚、階段の踏み板、任意の位置の壁などの、随意に表面凹凸を有し、特に印刷されており、模様付けされており、梨地化されており、サンダー仕上げされており、ラッカーがけされており、又はワニスがけされている、室内装備品用のガラス、眼科用ガラス、都市設備、鏡、テレビ、電話若しくは同様なスクリーン用のガラス、吸収性が電子的に制御され可変であるガラス、フラットランプもしくはトンネルランプタイプのランプ用のカバー、又はカーテンウォール、外装もしくは屋根タイプの任意の建築材料、例えばタイル、下塗り材など、の製造への、請求項1〜17の一つに記載の基材の利用。
【請求項20】
液体熱分解により、特に、光触媒性第1化合物の少なくとも1種の前駆体、とりわけチタンキレート及び/又はチタンアルコラートタイプのチタン有機金属前駆体と、第2化合物の前駆体とを含む溶液からの液体熱分解により、コーティングを被着させることを特徴とする、請求項1〜17の一つに記載の基材を得るための方法。
【請求項21】
少なくとも光触媒性第1化合物と第2化合物、及び/又は、光触媒性第1化合物の前駆体、特にチタンアルコラートタイプのチタン有機金属前駆体と第2化合物の前駆体、を含む溶液を用いて、浸漬コーティング、セルコーティング、スプレーコーティング又は層流コーティングタイプの被着方式でもって、ゾル−ゲル技術により、コーティングを被着させることを特徴とする、請求項1〜17の一つに記載の基材を得るための方法。
【請求項22】
光触媒性第1化合物の少なくとも1種の前駆体、特にハロゲン又は有機金属タイプのチタン前駆体と、第2化合物の前駆体からの化学蒸着(CVD)により、コーティングを被着させることを特徴とする、請求項1〜17の一つに記載の基材を得るための方法。
【請求項23】
反応性又は非反応性スパッタリング、特にマグネトロンスパッタリングのような、減圧技術により、コーティングを被着させることを特徴とする、請求項1〜17の一つに記載の基材を得るための方法。

【公表番号】特表2007−532462(P2007−532462A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507824(P2007−507824)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050229
【国際公開番号】WO2005/102952
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】