説明

吸音パネル

【課題】本来通気性がなく吸音性のない発泡樹脂と、本来通気性がなく吸音性のない表面板と、を積層させることによって強度や剛性を高くしたパネルに吸音性を付与する。
【解決手段】独立気泡からなる発泡樹脂20とアルミニウム合金板10(金属板)とを積層させた吸音パネル1であって、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを厚さ方向に貫通する複数の孔30が形成される。孔30は、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とに針40(孔形成手段)を貫通させることで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音性を備えた吸音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より様々な吸音材がある。吸音材には、連続気泡の発泡樹脂や繊維の集合体など、通気性があり、かつ、通気抵抗を備えた材料がある。例えば、特許文献1には、連続気泡構造からなる発泡体が記載されている。
また例えば、非特許文献1の66〜67ページには、多孔質吸音材料・構造の吸音性能について次のように記載されている。なお、下記の「図4.2.1(a)」及び「図4.2.1(b)」は、本願の図6(a)及び(b)に対応する。
「多孔質吸音材料の材質的な特徴として,材料中に多数の細隙や図4.2.1(a)に示すような連続気泡があり,通気性をもつことがあげられる.これを吸音の機構という点からとらえると,音が多孔質吸音材料に入射し細隙あるいは気泡中を透過する過程において,音のエネルギーは主として空気の粘性摩擦によって熱のエネルギーに変化し,その結果として音のエネルギーが減衰することになる.なお,同じ発泡材であっても図4.2.1(b)に示すような独立気泡をもった材料は多孔質材料ではあるが、多孔質吸音材料の分類の中には含めない。」
【0003】
また、吸音率が最大となる周波数を調整するために、または、排気ガスや紫外線からの保護などのために、通気性のある材料の表面に通気性の無い部材が設けられた技術がある。例えば、特許文献2には、連続気泡層のみからなる樹脂発泡シートの両面に樹脂シートが設けられた技術が記載されている。また例えば、特許文献3には、通気性のない平板とゲル層とを通気性のある空気室層(骨材)を介して積層させた技術が記載されている。また例えば、特許文献4には、不織布および結晶性樹脂フィルムを連続気泡発泡層の両面に積層させた技術が記載されている。
【0004】
また、特定の周波数で吸音率をさらに大きくするために、吸音特性が異なる多種類の通気性材料を積層する技術がある。例えば、特許文献5には、不浸透性の第一の層と、通気性のある第二の層と、連続気泡の第三の層とを積層した技術が記載されている。
なお、特許文献6には、金属はくや金属薄板に孔を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/101142号
【特許文献2】特開2009−161170号公報
【特許文献3】特開2010−51629号公報
【特許文献4】特開2009−120060号公報
【特許文献5】特表2008−537526号公報
【特許文献6】特開2006−116671号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本建築学会編集、「音響材料の特性と選定」、第1版第1刷、日本建築学会、1997年10月25日、p.66―67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1〜5に記載の吸音材は、連続気泡の発泡樹脂など通気性のある材料を備えているので、強度や剛性を十分に確保できない場合がある。一方で、通気性のない材料は、通気性のある材料に比べて強度や剛性を高くしやすい。しかしながら、通気性のない材料には吸音性がない。
【0008】
本発明の目的は、本来通気性がなく吸音性のない独立気泡からなる発泡樹脂と、本来通気性がなく吸音性のない表面板と、を積層させることによって強度や剛性を高くしたパネルに吸音性を付与した吸音パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の吸音パネルは、独立気泡からなる発泡樹脂と金属板とを積層させた吸音パネルである。この吸音パネルには、前記発泡樹脂と前記金属板とを厚さ方向に貫通する複数の孔が形成されている。前記孔は、発泡させた前記発泡樹脂と前記金属板とに孔形成手段を貫通させることで形成されたものである。
【0010】
この吸音パネルは、独立気泡からなる発泡樹脂と金属板とを積層させている。よって、連続気泡の発泡樹脂と表面板とを備えた吸音材に比べ、強度や剛性を高くできる。
また、この吸音パネルには、独立気泡からなる発泡樹脂と金属板とを厚さ方向に貫通する複数の孔が形成されている。よって、本来通気性がなく吸音性のない発泡樹脂と、本来通気性がなく吸音性のない金属板と、を積層させたパネルに吸音性を付与できる。
【発明の効果】
【0011】
この吸音パネルでは、本来通気性がなく吸音性のない独立気泡からなる発泡樹脂と、本来通気性がなく吸音性のない表面板と、を積層させることによって強度や剛性を高くしたパネルに吸音性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】吸音パネルの模式的斜視図などである。
【図2】アルミニウム合金板の孔径より発泡樹脂の孔径のほうが小さいことを示す写真である。
【図3】サンプル「1−1」〜「1−14」の実験結果を示すグラフである。
【図4】サンプル「1−10」「2−10」「3−10」及び「4−10」の実験結果を示すグラフである。
【図5】サンプル「4−3」「4−5」「4−10」「4−12」及び「4−14」の実験結果を示すグラフである。
【図6】(a)連続気泡、および、(b)独立気泡からなる発泡樹脂を示す図である。
【図7】あなあき石こうボード(従来技術)の残響室法吸音率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1を参照して吸音パネル1の実施形態を説明する。なお、図1(a)は、吸音パネル1の構造を模式的に示す斜視図である。図1(b)は、図1(a)に示すF1b部分の拡大図であり、孔30bの構造を模式的に示す図である。なお、煩雑になるのを避けるため、図1(a)では複数の孔30のうち一部の孔30にのみ符号を付し、図1(b)では複数の気泡21のうち一部の気泡21にのみ符号を付している。
【0014】
吸音パネル1は、吸音性を備えた板である。吸音パネル1は、図1(a)に示すように、独立気泡からなる発泡樹脂20と、アルミニウム合金板10(金属板)と、を積層させたものである。吸音パネル1には、複数の孔30が形成される。孔30は、針40により形成される。吸音パネル1は、強度や剛性と吸音性とが要求される部品として用いるのに適している。吸音パネル1は、例えば自動車用部品や鉄道車両用部品として、例えば吸音内装パネルや吸音外装パネルとして用いられる。具体的には、吸音パネル1が自動車部品として用いられる場合は、例えば荷物室と客室との仕切り板や天井材などの吸音内装パネル、または、自動車のエンジンの下やフロアの下など車外に設置されるアンダーカバーなどの吸音外装パネルとして用いられる。吸音パネル1が鉄道車両用部品として用いられる場合は、例えば天井材、腰キセ、内妻、もしくは室内床などの内装材などの吸音内装パネル、または、鉄道車両の床下など車外に設置されるアンダーカバーなどの吸音外装パネルとして用いられる。
【0015】
アルミニウム合金板10(金属板)は、本来通気性がなく吸音性のない金属板(金属箔を含む)として用いたものである。アルミニウム合金板10は、発泡樹脂20の両面に積層される。言いかえれば、2枚のアルミニウム合金板10・10で発泡樹脂20を挟む。アルミニウム合金板10の厚さT1は、吸音パネル1に付与させる強度や剛性などに応じて設定すればよく、例えば、0.05〜1mmのものから選択される。アルミニウム合金板10の材料は、例えば、JISH0001規格にて規定される質別記号のうち、O材、H22材〜H24材、H32材〜H34材、及びT4材から選択される調質処理材などである。吸音パネル1の一部または全部に曲面を形成させる必要がない場合にはこのような調質処理材に限定されることなく、例えばH39など加工性は低下するが高強度のものを用いても良い。なお、2枚のアルミニウム合金板10・10の厚さT1・T1は一致させてもよく、一致させなくてもよい。また、アルミニウム合金板10は、例えば、鉄鋼(鉄、炭素鋼、合金鋼など)や、非鉄金属(銅、各種合金など)の金属板に変更しても良く、アルミニウム合金板10・10両面で異なる材料を用いても良い。
【0016】
発泡樹脂20は、独立気泡からなる、本来通気性がなく吸音性がない材料である。発泡樹脂20は板状である。発泡樹脂20の一方側の面から他方側の面に空気が通過しない(後述する孔30bの部分を除く)。「独立気泡からなる」とは、図1(b)に示すように、発泡樹脂20内の気泡21どうしが基本的にはつながっていないことをいう(孔30bの部分を除く)。図1(a)に示すように、発泡させた発泡樹脂20の厚さT2は、吸音率を最大にしたいピーク周波数や、吸音パネル1に付与させたい強度や剛性などに応じて設定する。加熱によって発泡させる発泡性樹脂を用いる場合には、発泡前の発泡樹脂20(芯材発泡樹脂)の厚さは、例えば0.5〜1.4mmである。発泡樹脂20の発泡倍率は、例えば2〜20倍であり、また例えば3〜10倍などである。発泡させた発泡樹脂20の厚さは、例えば2〜20mmであり、また例えば4〜7mmなどである。なお、発泡樹脂20は、アルミニウム合金板10と積層する際にすでに発泡した状態でも良い。
【0017】
また、発泡樹脂20を構成する樹脂は、高分子材料からなる合成樹脂である。発泡樹脂20を構成する樹脂は、例えばポリプロピレン系樹脂である。ポリプロピレン系樹脂は、他の合成樹脂と比べ、安価であり、弾性係数が高く、融点もある程度高い。なお、発泡樹脂20を構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、又は、ポリエステル系樹脂などでもよい。ポリオレフィン系樹脂には、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、EPR、EPDMなどがある。ポリスチレン系樹脂には、ポリスチレン樹脂、熱可塑性エラストマーABS樹脂、AS樹脂などがある。
【0018】
また、発泡樹脂20は、発泡前の樹脂を発泡させて製造する。樹脂の発泡は、様々な方法で行うことができる。
例えば、加熱により窒素ガスが発生する発泡剤を樹脂に添加しておき、これを加熱することで樹脂を発泡させる方法がある。具体的には例えば、0.1〜10重量部の発泡剤をポリプロピレン系樹脂に添加する(ポリプロピレン系樹脂100gに対して0.1〜10gの発泡剤を添加する)。そして、発泡剤を添加したポリプロピレン系樹脂を加熱すると、ポリプロピレン系樹脂は2〜20倍(体積比)に発泡する。
また例えば、発泡前の樹脂の中にガスを吹き込むことで樹脂を発泡させることができる。また例えば、低温かつ真空状態の発泡前の樹脂に炭酸ガス等のガスを溶かし、これを大気圧に開放させるとともに常温にすることで前記ガスが気泡になり、樹脂を発泡させることができる。また例えば、二酸化炭素等を超臨界状態にして発泡前の樹脂と混練し、これを冷却および減圧させて微細な気泡を発生させることで、樹脂を発泡させることができる。
【0019】
孔30は、吸音パネル1に複数形成され、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを厚さ方向(吸音パネル1の厚さ方向)に貫通する。孔30は、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを積層させたパネルの一方側の面から他方側の面へ空気が通ることを可能にする。複数の孔30の配置、ピッチP(間隔)、及び開口率などは、吸音率を最大にしたいピーク周波数に応じて適宜設定される。なお、孔30の孔径については後述する。
【0020】
また、孔30は、アルミニウム合金板10部分の孔30aと、発泡樹脂20部分の孔30bとに分けられる。図1(b)に示すように、孔30bは、連続気泡と同様の構造を備える。孔30bは、孔30bが形成される前に複数の気泡21どうしを隔てていた壁の主に弱い部分(薄い部分)が破れ(ちぎれ、亀裂が入り)、複数の気泡21どうしがつながった構造を備える。孔30bの内面は、いわばギザギザ状(ひだ状)である。
【0021】
また、孔30により、図1(a)に示す吸音パネル1に吸音性が付与される。すなわち、孔30を通る空気は抵抗を受け、この空気の振動のエネルギー(すなわち音のエネルギー)が熱エネルギーに変換される(以下、「ロスが生じる」という)。具体的には例えば、孔30の内側で振動する空気と、孔30の内壁との間に生じる摩擦によりロスが生じる。発泡樹脂20部分の孔30bの内面はギザギザ状(図1(b)参照)であるので摩擦によるロスが生じやすい。また例えば、オリフィス効果により孔30の入口に比べ出口での空気の流速が大きくなり、孔30の出口周辺に空気の渦ができることでロスが生じる。
また孔30は、針40(孔形成手段)により形成される。
【0022】
針40(孔形成手段)は、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とに貫通させることで孔30を形成する部材(ドリル、孔あけパンチ、針、釘、突起など)である。複数の針40は、例えば、ロール(円筒状部材)や板などから突出するように配列される。すなわち、複数の針40は例えば剣山の針のように配置される。なお、図1(a)では針40を1つのみ図示している。
また、軸方向から見た針40の断面(以下、単に「針40の断面」という)は円形状である。なお、針40の断面は、略円形状(例えば楕円形状や多角形状など)でもよい。
【0023】
また、針40の針径D4(断面径)は、例えば0.3〜5mmであり、好ましくは0.6〜4mmである。ここで、「断面径」を次のように定義する。針40の断面が円形状の場合、この断面の円の直径を「断面径」とする。針40の断面が円形状以外の場合、この断面と断面積が等しい円形状断面の円の直径を「断面径」とする。なお、孔形成手段がドリルの場合、ドリル径(軸方向から見たドリルの直径)を「断面径」とする。これと同様に、孔30aの孔径D1を次のように定義する。吸音パネル1の厚さ方向から見た孔30aの断面の円の直径、または、この断面と断面積が等しい円形状断面の円の直径を孔径D1とする。同様に、孔30bの孔径D2を次のように定義する。吸音パネル1の厚さ方向から見た孔30bの断面のうち、断面積が最も狭い断面の円の直径、または、この断面と断面積が等しい円形状断面の円の直径を孔径D2とする。
孔30aの孔径D1は、針40の針径D4とほぼ等しい。一方で、孔30bの孔径D2は、針40の針径D4よりも小さくなる。(詳細は後述)。
【0024】
(製造方法1)
発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを積層し、孔30が形成されていない状態のパネル(複合形成体)は例えば次のように製造される。なお、孔30が形成されていない状態の前記パネルを「パネル1’」という(図示なし)。
例えば、発泡剤を混練した発泡前の樹脂と、アルミニウム合金板10と、を接着剤等で接着して(貼り付けて)積層させる。この積層させた材料を加熱して樹脂を発泡させ、発泡樹脂20を形成する。これによりパネル1’、さらに詳しくは、発泡した状態の発泡樹脂20を備えた発泡樹脂金属積層パネル1’が製造される。
また例えば、すでに発泡した状態の発泡樹脂20に、アルミニウム合金板10を接着剤等で接着すること等により発泡樹脂金属積層パネル1’が製造される。
【0025】
孔30は、発泡させた発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを積層させた状態で、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とに針40を貫通させることで形成される。針40による孔30の形成は、具体的には例えば次のように行う。
例えば、複数の針40が表面に設けられた第1ロール(図示なし)と、複数の針40に対応する凹部が表面に設けられた第2ロール(図示なし)と、の2つのロールの間に発泡樹脂金属積層パネル1’を通して、2つのロールを回転させながら発泡樹脂金属積層パネル1’に針40を突き刺すことで、複数の孔30が発泡樹脂金属積層パネル1’に形成されるとともに吸音パネル1が送り出される。
また例えば、複数の針40が表面に設けられた第1プレス板(図示なし)と、複数の針40に対応する凹部が表面に設けられた第2プレス板(図示なし)と、の2つのプレス板で発泡樹脂金属積層パネル1’を挟んでプレスすることで、複数の孔30が発泡樹脂金属積層パネル1’に形成されるとともに吸音パネル1が製造される。
【0026】
(製造方法2)
吸音パネル1は、次のように製造しても良い。未発泡状態の発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを積層した未発泡樹脂金属積層パネル1’’(図示なし)に、上記と同様に孔30を形成する。次に、未発泡樹脂金属積層パネル1’’を加熱することで、発泡樹脂20を発泡させる。これにより吸音パネル1が製造される。この製法では、針径D4が0.6mm以上の針を用いれば、発泡樹脂20が発泡する過程で孔30bがふさがらない。
【0027】
(曲面加工など)
吸音パネル1は、一部または全部が曲面に加工されている、または、平坦である。さらに詳しくは、上記「製造方法1」または「製造方法2」等により製造された平坦な吸音パネル1を、平坦なまま用いても良い。
また、平坦な吸音パネル1の一部または全部を曲面に加工して用いても良い。吸音パネル1を曲面に加工する場合は、上述した、吸音パネル1、発泡樹脂金属積層パネル1’’(図示なし)、または、未発泡樹脂金属積層パネル1’’’(図示なし)の一部または全部をプレス加工することにより曲面に加工する。
発泡樹脂金属積層パネル1’’、または、未発泡樹脂金属積層パネル1’’’を曲面に加工する場合は、例えば、前記第1プレス板(図示なし)と第2プレス板(図示なし)とを所望の形状の曲面として、孔30の形成と曲面の形成とを同時にしても良い。
また、プレス加工による曲面の形成は、未発泡樹脂金属積層パネル1’’’に対して行うことが好ましい。さらに詳しくは、発泡状態にある発泡樹脂20をそれぞれ備える吸音パネル1または発泡樹脂金属積層パネル1’は、未発泡樹脂金属積層パネル1’’に比べ、プレス加工性が低い。なお、孔30が形成された積層パネルは、孔30が形成されていない積層パネルに比べ、さらにプレス加工性が低い。したがって、より深い曲面加工が必要な場合には、未発泡樹脂金属積層パネル1’’に孔30をあけて未発泡樹脂金属積層多孔パネル1’’’(図示なし)とした後に、これをプレス加工により曲面に加工し(または、上述したように孔30の形成とプレス加工とを同時に行い)、その後にこれを加熱発泡させることにより吸音パネル1を得ることが好ましい。
【0028】
(実験)
吸音パネル1の垂直入射吸音率(以下、単に「吸音率」とも言う)を、21種類のサンプルについて調べた。実験は次の条件で行った。JISA1405−2規格に基づいて実験した。背後空気層の厚さは20mmである。孔30のピッチPは10mmである。孔30のピッチPとは、ある孔30の中心と、この孔30に隣接する孔30の中心との間隔である。表1に、各サンプルについて、アルミニウム合金板10の1枚の厚さ(「表面アルミ厚さ(mm)」)と、発泡樹脂20の発泡倍率(倍)と、発泡樹脂20の厚さ(mm)とを示す。表2に、各サンプルについて、針40の針径D4(mm)を示す。発泡状態の(発泡後の)発泡樹脂20と、2枚のアルミニウム合金板10・10とを積層したパネル1’に、針40を貫通させることで孔30を形成した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
周波数(Hz)と垂直入射吸音率との関係を表すグラフを図3〜図5に示す。サンプル「1−1」〜「1−14」の実験結果を図3に、サンプル「1−10」「2−10」「3−10」及び「4−10」の実験結果を図4に、サンプル「4−3」「4−5」「4−10」「4−12」及び「4−14」の実験結果を図5にそれぞれ示す(以下では、上述した各構成要素については図1参照)。
【0032】
図3にサンプル「1−1」〜「1−14」の実験結果を示す。さらに詳しくは、厚さT2が4mmで4倍発泡の発泡樹脂20の両面に、厚さT1が0.15mmのアルミニウム合金板10を積層してパネル1’を作成し、表2に示すように0.3〜4.0mmの範囲で直径(針径D4)を変化させた針40を用いて、ピッチPを10mm間隔として、パネル1’に孔30をあけることにより作成した吸音パネル1の垂直入射吸音率を測定した結果を図3に示す。
この結果から次の(1)から(11)のことがわかった。(1)針径D4の変化と共に、吸音率が最大となるピーク周波数が変化する。(2)概ね、針径D4が大きくなるほど、ピーク周波数が高くなった。(3)針径D4の変化と共に、ピーク周波数における吸音率の大きさが変化する。(4)針径D4が0.3mm(サンプル「1−1」)、及び、0.5mm(サンプル「1−2」)の場合には、全周波数にわたり吸音率は0.1程度しかない。(5)針径D4が0.6mmから4.0mmの範囲(サンプル「1−3」〜「1−14」)では、吸音率の最大値は0.4を越えた。(6)針径D4が0.8mmから3.5mmの範囲(サンプル「1−4」〜「1−13」)では、吸音率の最大値は0.5を越えた。(7)針径D4が1.0mmから3.0mmの範囲(サンプル「1−5」〜「1−12」)では、吸音率の最大値は約0.68を超えた。(8)針径D4が1.2mmから2.5mmの範囲(サンプル「1−6」〜「1−11」)では、吸音率の最大値は約0.79を超えた。(9)針径D4が1.4mmから2.5mmの範囲(サンプル「1−7」〜「1−11」)では、吸音率の最大値は約0.88を超えた。(10)吸音率が最大となるのは針径D4が1.8mm及び2mm(サンプル「1−9」及び「1−10」)のときであり、このときの吸音率の最大値は1.0と良好な値であった。(11)実験を実施していないが、針径D4が4mmを越えると吸音率の最大値が0.4未満となることが図3から予想され、良好な吸音率を得ることが出来なくなる場合がある。
なお、図7に、積層板ではなく単一材料(石膏ボード)に直径5mmの孔を開けたボードの残響室法吸音率を示す(非特許文献1の79ページ参照)。この従来技術では、吸音率の最大値が約0.4以下である。
【0033】
つぎに、図4にサンプル「1−10」「2−10」「3−10」及び「4−10」の実験結果を示す。さらに詳しくは、針径D4は2mmに、孔30のピッチPは10mmにそれぞれ固定し、アルミニウム合金板10の厚さT1と、発泡樹脂20の発泡倍率及び厚さT2とを表1に示すように変化させて吸音パネル1の垂直入射吸音率を測定した結果を図4に示す。この結果から、吸音率の最大値およびピーク周波数に各サンプル間でバラツキはあるものの、各サンプルの吸音率の最大値は0.8〜1.0と良好な値を示すことがわかった。さらに詳しくは、サンプル「2−10」の吸音率の最大値は約0.8となった。サンプル「3−10」の吸音率の最大値は約0.95となった。サンプル「1−10」及び「4−10」の吸音率の最大値は約1.0となった。
【0034】
また、図5にサンプル「4−3」「4−5」「4−10」「4−12」及び「4−14」の実験結果を示す。さらに詳しくは、発泡倍率が7倍、かつ、厚さが7mm(他のサンプルに比べて分厚い)の発泡樹脂20の両面に、厚さT1が0.3mmのアルミニウム合金板10を積層してパネル1’を作成し、表2に示すように針径D4を0.6mmから4.0mmまで変化させて吸音パネル1の垂直入射吸音率を測定した結果を図5に示す。この結果から(1)から(5)のことがわかった。(1)サンプル「4−3,5,10,12,14」は、図3に示したサンプル「1ー1」〜「1−14」と比較して吸音率の最大値およびピーク周波数は異なるものの、図3に示した結果と同様の傾向(針径D4の変化と共にピーク周波数および吸音率の最大値が変化する傾向)を示した。(2)サンプル「4−3,5,10,12,14」の吸音率の最大値は0.6以上と良好な値を示し、これらのうちでは針径D4が2mmの場合(サンプル「4−10」)に吸音率が最大(約1.0)となる。(3)針径D4が1.0mmの場合(サンプル「4−5」)は吸音率の最大値が約0.6となった。(4)針径D4が3mmの場合(サンプル「4−12」)は吸音率の最大値が約0.7を超えた。(5)針径D4が4mmの場合(サンプル「4−14」)は1400Hz以下での吸音率の最大値が約0.55を超えた。
【0035】
(効果1)
この吸音パネル1は、図1(a)に示すように、独立気泡からなる発泡樹脂20とアルミニウム合金板10(金属板)とを積層させている。よって、連続気泡の発泡樹脂と表面板とを備えた吸音材に比べ、強度や剛性を高くできる。その結果、吸音パネル1は、例えば隔壁などの構造物として利用しやすい。
【0036】
また、この吸音パネル1には、独立気泡からなる発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを厚さ方向に貫通する複数の孔30が形成されている。よって、本来通気性がなく吸音性がない独立気泡からなる発泡樹脂20と、本来通気性がなく吸音性がないアルミニウム合金板10と、を積層させたパネル1’(図示なし)に、吸音性を付与できる。
【0037】
(効果2)
また、この吸音パネル1の孔30は、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とに針径D4(断面径)が0.6〜4mmの針40(孔形成手段)を貫通させることで形成されたものである。よって、針径D4が0.6〜4mm以外の場合に比べ、吸音性が得られやすい。
さらに詳しくは、針40の針径D4が4mmを超える場合、同4mm以下の場合に比べ、孔30を通る空気が受ける抵抗が小さく(空気の粘性が小さく)、吸音性が十分に得られない場合がある。
また、針40の針径D4が0.6mm未満の場合に吸音性が十分に得られない場合があることについて説明する。まず、特許文献6(特開2006−116671号公報)の段落0029には、金属材に形成する孔の大きさが小さいほど吸音性能に優れ、突起の先端の幅の最大長さ(針径D4)が0.3mm以下であることが好ましい、と記載されている。そこで、この文献に記載の技術に基づいて、アルミニウム合金板10と発泡樹脂20とを積層したパネル1’に、針径D4が0.3mmの針40で孔30を形成することが考えられる。しかしながら、針径D4が0.6mm未満の針40で孔30を形成してもパネル1’に十分大きな吸音性を付与することができなかった。この理由は次のように予想される。発泡樹脂20に針40を刺しこんだとき、複数の気泡21(図1(b)参照)を隔てていた壁の主に弱い部分が破れる。このとき、破れた部分の近傍は、針40が刺しこまれた向き(図1(a)では下向き)または針40の径方向外側向きに弾性変形する。そして、針40を発泡樹脂20から引き抜くと、発泡樹脂20のうち弾性変形した部分は元に戻る。すると、図1(b)に示すように、孔30bの孔径D2は、針40の針径D4よりも小さくなる。その結果、図1(a)に示す針径D4が0.6mm未満の針40で孔30を形成した場合には、孔30bでの通気性が十分に確保されない場合があり、吸音性が不十分となる。なお、図2の写真は、アルミニウム合金板10の孔径D1より発泡樹脂20の孔径D2のほうが小さいことを示している。
【0038】
また、この吸音パネル1の孔30を形成する針40の針径D4(断面径)は、0.6mm以上なので、吸音パネル1の生産性の低下や生産コストを抑制できる。さらに詳しくは、針40は、使用により磨り減って先端が丸くなる。先端が丸くなった針40は、パネル1’に刺しこむときに、曲がりやすく、折れやすい。針40が曲がった場合や折れた場合は、針40を交換する必要が生じうる。その結果、吸音パネル1の生産性が低下する、および、生産コストがかかる、という問題が生じうる。一方で、針40の針径D4が0.6mm以上の場合、同0.6mm未満の場合に比べ、針40の強度を大きくできる。すなわち、針40を曲がりにくく、折れにくくできる。よって、上記問題を抑制できる。
【0039】
(効果3)
また、この吸音パネル1では、発泡樹脂20の発泡倍率は2〜20倍である。よって、吸音パネル1は強度や剛性を備えるとともに軽量である。なお、発泡樹脂20の発泡倍率が2倍未満の場合、曲げ剛性か曲げ強度が同じアルミニウム合金板10単体と比べて軽量とはならない場合がある。また、発泡樹脂20の発泡倍率が20倍以上の場合、曲げ剛性及び曲げ強度が十分に確保できない場合がある。
【0040】
(効果4)
また、この吸音パネル1では、発泡させた発泡樹脂20の厚さT2は2〜20mmである。よって、厚さT2が2mm未満の場合よりも吸音パネル1の吸音性を高くできる。また、厚さT2が20mmを超える場合よりも、吸音パネル1が占めるスペースを削減できる。
【0041】
(効果5)
また、この吸音パネル1では、「金属板」はアルミニウム合金板10である。よって、吸音パネル1外部の熱源から出た熱線(遠赤外線)をアルミニウム合金板10で反射できる。よって、発泡樹脂20の温度が融点以上になることを抑制でき、発泡樹脂20が熱で溶けることが抑制される。その結果、吸音パネル1の耐熱性を向上できる。
この吸音パネル1は、例えば、騒音を発生させる熱源と電子機器類等との間に配置できる。すなわち、吸音パネル1は、吸音性を備えたヒートインシュレータとして用いることができる。上記「騒音を発生させる熱源」は、例えば、自動車のエンジンルームや排気管などである。上記「電子機器類等」は、例えば、ハイブリッドカーのインバータ、エンジンの燃料噴射装置、その他電子機器類、または、ケーブル類などである。
【0042】
(効果6)
また、一部または全部が曲面に加工されている、または、平坦である吸音パネル1も、上記と同様の効果を奏する。
【0043】
(その他の効果)
この吸音パネル1では、発泡させた発泡樹脂20に針40を貫通させることで孔30bを形成した場合は、発泡前の樹脂に孔30bを形成した後に樹脂を発泡させた場合のように、発泡樹脂20が発泡する過程で孔30bがふさがってしまうことがない。ただし、直径が0.6mm以上の針40を用いれば、発泡樹脂20が発泡する過程でも孔30bがふさがらないので、発泡前の樹脂に針40を貫通させて孔30bを形成した後に加熱により樹脂を発泡させても吸音パネル1を得ることが出来る。
また、この吸音パネル1では、発泡させた発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを積層させた状態で孔30が形成される(孔30aと孔30bとを別個に形成するのではない)。よって、発泡樹脂20に形成された孔30bと、アルミニウム合金板10に形成された孔30aと、が連通した孔30を容易に形成できる。
【0044】
(変形例)
上記実施形態のアルミニウム合金板10は1枚でもよい。この場合、1枚のアルミニウム合金板10側を音源側に配置してもよく、発泡樹脂20側を音源側に配置してもよい。なお、発泡樹脂20側を音源側に配置すれば、吸音のピーク周波数が高くなる。
【0045】
また、発泡樹脂20とアルミニウム合金板10とを積層させない状態で孔30aと孔30bとを別個に形成してもよい。この場合、例えば、別個に形成された孔30aと孔30bとに位置決め手段(針状部材、棒状部材など)を通した状態でアルミニウム合金板10と発泡樹脂20とを接着すれば、孔30aと孔30bとが連通した孔30を形成できる。
【符号の説明】
【0046】
1 吸音パネル
10 アルミニウム合金板(金属板)
20 発泡樹脂
30、30a、30b 孔
40 針(孔形成手段)
D4 針径(断面径)
T2 発泡樹脂の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立気泡からなる発泡樹脂と金属板とを積層させた吸音パネルであって、
前記発泡樹脂と前記金属板とを厚さ方向に貫通する複数の孔が形成された、吸音パネル。
【請求項2】
前記孔は、前記発泡樹脂と前記金属板とに孔形成手段を貫通させることで形成され、
前記孔形成手段の断面径は0.6〜4mmである、請求項1に記載の吸音パネル。
【請求項3】
前記発泡樹脂の発泡倍率は2〜20倍である、請求項1または2に記載の吸音パネル。
【請求項4】
前記発泡樹脂の厚さは2〜20mmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸音パネル。
【請求項5】
前記金属板はアルミニウム合金板である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸音パネル。
【請求項6】
一部または全部が曲面に加工されている、または、平坦である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸音パネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−168415(P2012−168415A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30307(P2011−30307)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】