説明

回路接続用フィルム状接着剤

【課題】 耐マイグレーション性に優れ、高湿環境下における回路の接続信頼性の向上を可能とする回路接続用フィルム状接着剤を提供すること。
【解決手段】 上記課題を解決する回路接続用フィルム状接着剤は、相対峙する回路電極間に介在され、相対峙する回路電極を加熱、加圧することによって加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、当該接着剤の硬化後における水に対する接触角が90°以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路接続用フィルム状接着剤に関し、詳しくは、主に液晶パネルの電極とFPC(フレキシブル印刷配線板)電極、FPC電極とPCB(プリント配線板)電極、及び、ICチップ等の電子部品の電極と液晶パネル電極又はPCB電極を電気的に接続するために用いられる回路接続用フィルム状接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルの電極とFPC電極、FPC電極とPCB電極、ICチップ等の電子部品の電極と液晶パネル電極又はPCB電極を電気的に接続する際には、絶縁性接着剤樹脂中に導電粒子を分散させた回路接続用フィルム状接着剤が用いられている。具体的には、相対峙する回路電極間に回路接続用フィルム状接着剤を配置し、相対峙する回路電極を加熱、加圧することによって加圧方向の電極間を電気的に接続させる方法が実施されている。回路接続用フィルム状接着剤としては、例えば、特開平3−16147号公報に開示されているようなエポキシ樹脂をベースとした回路接続用フィルム状接着剤が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、上記従来の回路接続用フィルム状接着剤によって接続された接続体は、高湿環境下で通電されると、電気回路や電極にマイグレーションと称する電析が生じ、接続信頼性が損なわれることがあった。このマイグレーションは、接着剤中の不純物又は電極を構成する金属が電圧印加時にイオン化されることで発生するものと考えられている。
【0004】
接着剤中のイオン濃度を低減する方法はこれまでにも検討されており、例えば、アンチモン・ビスマス系酸化物やマグネシウム・アルミニウム系酸化物などのイオン捕捉剤を回路接続用フィルム状接着剤中に含有させる技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平3−16147号公報
【特許文献2】特開平9−199207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術は次のような問題を有しており、回路の接続信頼性の点において必ずしも十分であるとは言えない。すなわち、上記の技術は、イオン捕捉剤の粒子径が導電粒子径より大きい場合、導電粒子を介した電気的接続が十分に得られなくなり、一方、イオン捕捉剤の粒子径が導電粒子径より小さい場合、捕捉剤が導電粒子と電極との間に入り込むことで電気的接続が阻害されてしまう問題を有している。そのため、上記従来技術では、相対峙する回路電極間の接続信頼性を確保しつつ耐マイグレーション性を十分向上させることが困難である。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、耐マイグレーション性に優れ、高湿環境下における回路の接続信頼性の向上を可能とする回路接続用フィルム状接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、硬化後における水に対する接触角が特定の値以上を示すフィルム状接着剤により接続された回路接続体が、所定の耐湿通電試験においてマイグレーションの発生量が十分少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、相対峙する回路電極間に介在され、相対峙する回路電極を加熱、加圧することによって加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、接着剤の硬化後における水に対する接触角が90°以上であることを特徴とする回路接続用フィルム状接着剤を提供する。
【0010】
ここで、上記の「接着剤の硬化後」とは、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定される硬化前の接着剤の発熱量をQ0(J/g)、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定される硬化後の接着剤の発熱量をQ1(J/g)としたときに、下記式(1)で定義される硬化率Cが80%以上となる状態を意味する。
C(%)=(Q0−Q1)/Q0×100 …(1)
【0011】
また、「水に対する接触角」とは、JIS R3257法に従って、温度25±5℃、湿度50±10%の条件下で測定された値を意味する。
【0012】
本発明の回路接続用フィルム状接着剤によれば、接続した回路接続体を高湿環境下で通電させる場合であってもマイグレーションの発生を十分抑制できることから、高湿環境下における回路の接続信頼性を向上させることができる。
【0013】
ところで、回路パターンの微細化に伴い回路電極間のスペースは今後更に小さくなることが予測されるが、本発明の回路接続用フィルム状接着剤によれば、耐マイグレーション性に優れることから、微細パターンを有する回路電極を接続する場合であってもマイグレーションの発生に起因する短絡を有効に防止することができる。
【0014】
本発明の回路接続用フィルム状接着剤は、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分および潜在性硬化剤を含むものであることが好ましい。この場合、接着剤の耐マイグレーション性が更に向上し、回路の接続信頼性をより高水準で達成することが可能となる。
【0015】
上記成分を含む接着剤によって上記の効果が奏される理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下の通り推察する。すなわち、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及びゴム成分および潜在性硬化剤を含むとともに硬化後における水に対する接触角が90°以上となるものは、フェノキシ樹脂の含有による接着剤の耐熱性の向上、ゴム成分の含有による接続体に対する密着力・防湿性の向上、エポキシ樹脂の含有による潜在性硬化剤の硬化促進、等の作用が高水準でバランスよく発揮されるものであると考えられる。その結果、回路電極への水分の侵入が高度に抑制され、上記の効果が得られたものと本発明者らは推察する。また、エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤の組み合わせが含まれることによって、接着剤の保存安定性と硬化性とを両立させることが可能となり取扱い性・作業性が向上することも上記効果が得られることに寄与したものと考えられる。
【0016】
上記フェノキシ樹脂は、耐マイグレーション性を更に向上させる観点から、フルオレン環を有するものであることが好ましい。
【0017】
上記フェノキシ樹脂がフルオレン環を有するものであることにより耐マイグレーション性が更に向上する理由として、本発明者らは以下の通り推察する。すなわち、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及びゴム成分および潜在性硬化剤の組み合わせにおいてフェノキシ樹脂にフルオレン環を導入することで、接着剤の耐熱性が向上し、高温条件下においても回路接続部に緩みが生じないため、水分の侵入をより十分に防止することができ、耐マイグレーション性が向上したと考えられる。
【0018】
また、上記エポキシ樹脂は、耐マイグレーション性を更に向上させる観点から、ナフタレン骨格を有するものであることが好ましい。なお、上記エポキシ樹脂がナフタレン骨格を有するものであることにより耐マイグレーション性が更に向上する理由として、本発明者らは以下の通り推察する。すなわち、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及びゴム成分および潜在性硬化剤の組み合わせにおいてエポキシ樹脂にナフタレン骨格を導入することで、潜在性硬化剤による硬化が促進され、接着剤の硬化が強固になることから、水分の侵入をより十分に防止することができ、耐マイグレーション性が更に向上したと考えられる。
【0019】
また、上記ゴム成分の分子量が、70万以上であることが好ましい。この場合、接着剤の密着力や防湿性が更に高められ、優れた耐マイグレーション性をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐マイグレーション性に優れ、高湿環境下における回路の接続信頼性の向上を可能とする回路接続用フィルム状接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
本発明の回路接続用フィルム状接着剤は、相対峙する回路電極間に介在され、相対峙する回路電極を加熱、加圧することによって加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、当該接着剤の硬化後における水に対する接触角が90°以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明の回路接続用フィルム状接着剤は、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分及び潜在性硬化剤を含むものであることが好ましい。
【0024】
本実施形態において用いられるフェノキシ樹脂としては、例えば、2官能フェノール類とエピハロヒドリンを高分子量まで反応させるか、又は2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール類を重付加させることにより得られる樹脂が挙げられる。より具体的には、フェノキシ樹脂は、例えば2官能フェノール類とエピハロヒドリンとをアルカリ金属水酸化物等の触媒の存在下、非反応性溶媒中40〜120℃の温度で反応させることにより得ることができる。また、フェノキシ樹脂は、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール類とをアルカリ金属化合物、有機リン系化合物、環状アミン系化合物等の触媒存在下、沸点が120℃以上のアミド系、エーテル系、ケトン系、ラクトン系、アルコール系等の有機溶剤中で、反応固形分が50重量部以下の条件で50〜200℃に加熱して重付加反応させて得ることができる。フェノキシ樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
2官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0026】
2官能フェノール類は、2個のフェノール性水酸基を持つものであり、このような2官能フェノール類としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS等のビスフェノール類等が挙げられる。
【0027】
また、フェノキシ樹脂は、その分子内にベンゼン環を2個以上含む芳香族環状構造を含有すると好ましい。ベンゼン環を2個以上含む芳香族環状構造としては、多環芳香族化合物に起因する分子構造が挙げられる。多環芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、ビフェニル、アセナフテン、フルオレン、ジベンゾフラン、アントラセン、フェナンスレン等のジヒドロキシ化合物等が挙げられる。ここで、多環芳香族化合物はフルオレンであると好ましい。さらに、多環芳香族化合物は、4,4’−(9−フルオレニリデン)−ジフェニールであると特に好ましい。
【0028】
フェノキシ樹脂の接着剤中の配合量は、接着剤全量に対して10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。フェノキシ樹脂の配合量が10質量%未満では耐マイグレーション性の向上効果が得られにくくなり、40質量%を超えると接着剤の流動性が低下し電極間の導通が得られにくくなる。
【0029】
本実施形態において用いられるエポキシ樹脂としては、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールAやF、AD等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂や、主骨格にナフタレン環を有するナフタレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち、ナフタレン型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。また、これらのエポキシ樹脂は、不純物イオン(Na、Cl等)や、加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品を用いることがマイグレーション抑制のために好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂の接着剤中の配合量は、接着剤全量に対して10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。エポキシ樹脂の配合量が、10質量%未満であると、潜在性硬化剤と反応するエポキシ樹脂成分が少ないことから接着剤の硬化が不完全となり、水分が侵入しやすくなる。また、他の接着剤構成材料(フェノキシ樹脂、ゴム成分)の配合比率が多くなることから、接着剤の流動性が低下し電極間の導通が得られにくくなる。一方、配合量が50質量%を超えると、接着剤の流動性が高くなりすぎて圧着後の接続部中に気泡が多発しやすくなり、高湿条件下において水が侵入しやすくなる。
【0031】
本実施形態において用いられるゴム成分としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及びアクリルニトリルのうちの少なくとも1種をモノマー成分とした重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でも、グリシジルエーテル基を有するグリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートを含む共重合体系アクリルゴムが好適に用いられる。
【0032】
ゴム成分の分子量は、接着剤の密着力や防湿性を高める点から、重量平均分子量(Mw)で70万以上であることが好ましい。
【0033】
ゴム成分の接着剤中の配合量は、接着剤全量に対して10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。ゴム成分の配合量が10質量%未満であると、接着剤の密着力を確保することが困難となり、高湿条件下において接続部に水が侵入し易くなる。一方、配合量が50質量%を超えると、接着剤の流動性が低下し電極間の導通が得られにくくなる。
【0034】
本実施形態において用いられる潜在性硬化剤としては、例えば、イミダゾール系、ヒドラジン系、アミンイミド、ジシアニンジイミド等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、接着剤の可使時間を延長する観点から、上記の硬化剤をポリウレタン系、ポリエステル系の高分子物質等で被覆してマイクロカプセル化したものを用いることが好ましい。
【0035】
潜在性硬化剤の接着剤中の配合量は、十分な反応率を得る観点から、接着剤全量に対して0.1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。潜在性硬化剤の配合量が、0.1質量%未満であると接着剤の硬化が不十分となる傾向にあり、50質量%を超えると流動性が低下し電極間の導通が得られにくくなり、また、接着剤のポットライフが短くなる傾向にある。
【0036】
本実施形態の回路接続用フィルム状接着剤は、導電粒子を含有していることが好ましい。導電性粒子が含有されていなくとも、回路電極同士の直接接触により回路部材を接続することが可能であるが、導電粒子を含有することにより、異方導電性を積極的に付与することができ、チップのバンプや基板電極の高さばらつきを吸収できることから、より安定して接続することが可能となる。
【0037】
導電粒子としては、例えば、Ni、Au、Ag、Cuやはんだ等の金属の粒子、ポリスチレン等の高分子の球状の核材にNi、Au等の導電層を設けたものが挙げられる。さらに導電性の粒子の表面に絶縁性樹脂を被覆したものも使用することもできる。
【0038】
本実施形態においては、導電性粒子が、Ni等の遷移金属や、非導電性のガラス、セラミック、プラスチック等で形成された粒子を核として、その表面をAu等の貴金属からなる被覆層で被覆したものであることが好ましい。このような貴金属の被覆層を有する導電性粒子は、回路接続材料を加熱及び加圧したときに変形することにより回路電極との接触面積が増加して、信頼性がより向上する。
【0039】
導電粒子の粒径は、接続する基板の電極の最小の間隔よりも小さいことが必要で、電極の高さばらつきがある場合、高さばらつきよりも大きいことが好ましい。具体的には、導電粒子の粒径は、1〜10μmが好ましい。
【0040】
接着剤に分散される導電粒子の配合量は、接着剤全体の体積基準で0.1〜30体積%とするのが好ましく、0.1〜15体積%とするのがより好ましい。導電粒子の配合量が、30体積%を超えると、隣接電極間において短絡が発生しやすくなる傾向にある。
【0041】
本実施形態の回路接続用フィルム状接着剤には、耐マイグレーション性に対する特性を損なわない程度において、カップリング剤を含有させることができる。カップリング剤としては、例えば、ケチミン、ビニル基、アクリル基、アミノ基、エポキシ基及びイソシアネート基含有物が、密着力の向上の点から好ましい。
【0042】
本実施形態の回路接続用フィルム状接着剤は、上述のフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分、潜在性硬化剤及び導電粒子、並びに、必要に応じてその他の成分を含む回路接続用接着剤組成物を調製し、これをフィルム状に形成することにより作製できる。
【0043】
フィルムの形成は、例えば、上記回路接続用接着剤組成物を有機溶剤に溶解或いは分散させることにより液状の塗布液を調製し、この塗布液を剥離性フィルム上に塗布し、硬化剤の活性温度以下で溶剤を除去することにより行われる。使用する有機溶剤としては、接着剤組成物の溶解性を向上させる観点から、芳香族炭化水素系と含酸素系(トルエン、酢酸エチル等)との混合溶剤が材料の溶解性を向上させるため好ましい。
【0044】
本実施形態の回路接続用フィルム状接着剤が、硬化後における水に対する接触角が90°以上であるものか否かについては、以下の方法により確認することができる。
【0045】
(1)まず、回路接続用フィルム状接着剤をスライドガラス上に貼り付ける。このとき、加熱しながら加圧してもよいが、加熱温度は回路接続用フィルム状接着剤中の接着剤組成物が硬化しない温度とする。次に、下記式(1)で定義される硬化率Cが80%以上となる所定の加熱条件で回路接続用フィルム状接着剤を硬化させる。
C(%)=(Q0−Q1)/Q0×100 …(1)
式(1)中、Q0は、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定される硬化前の接着剤の発熱量(J/g)を示し、Q1は、所定の加熱条件で硬化させた後の接着剤の発熱量(J/g)を示す。
(2)次に、上記で得られた硬化物表面の水に対する接触角を、JIS R3275法に従って、温度25±5℃、湿度50±10%の条件下で測定する。なお、測定する際に硬化物表面に滴下する水については、純水を使用する。測定は、例えば、「CA−W150」(協和界面科学株式会社製)などの接触角計を使用することができる。
【0046】
本実施形態においては、上記で測定される接触角が90°以上となるように、上述したフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分および潜在性硬化剤の種類及びそれらの配合量を適宜決定することにより、本発明に係る回路接続用フィルム状接着剤を得ることができる。
【0047】
また、本実施形態の回路接続用フィルム状接着剤は、上記で測定される接触角が90°〜100°となるものが好ましく、95°〜98°となるものがより好ましい。
【0048】
更に、本実施形態の回路接続用フィルム状接着剤は、190℃に加熱したクリーンオーブン中で1時間硬化させた場合に、上記(1)で定義される硬化率Cが80%以上となるものであることが好ましい。
【0049】
図1は、本発明の回路接続用フィルム状接着剤の一実施形態を示す断面図である。図1に示す回路接続用フィルム状接着剤1は、上述した回路接続用接着剤組成物をフィルム状に形成してなるものである。この回路接続用フィルム状接着剤によれば、取り扱いが容易であり、被着体へ容易に設置することができ、接続作業を容易に行うことができる。
【0050】
なお、回路接続用フィルム状接着剤1は、2種以上の層からなる多層構成としてもよい。この場合、硬化後の接触角が90°以上である本発明に係る接着剤層が、マイグレーションの発生しやすい回路側に配置される。
【0051】
回路接続用フィルム状接着剤1は、例えば、上述したフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分および潜在性硬化剤を含む接着剤組成物を上記有機溶剤に溶解したものを支持体(PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等)上に塗工装置を用いて塗布し、接着剤組成物が硬化しない温度で所定時間熱風乾燥することにより作製することができる。なお、回路接続用フィルム状接着剤1の厚さは、特に限定するものではないが、接続対象の回路部材間のギャップに比べ厚い方が好ましく、一般にはギャップに対して5μm以上厚い膜厚がより好ましく、ギャップに対して7μm〜100μm厚い膜厚が更に好ましく、ギャップに対して10μm〜50μm厚い膜厚が特に好ましい。
【0052】
(回路部材の接続構造)
図2は、回路接続用フィルム状接着剤によって接続された回路部材の接続構造の一実施形態を示す概略断面図である。図2に示すように、本実施形態の回路部材の接続構造は、相互に対向する第一の回路部材20及び第二の回路部材30を備えており、第一の回路部材20と第二の回路部材30との間には、これらを接続する回路接続部材10が設けられている。
【0053】
第一の回路部材20は、回路基板(第一の回路基板)21と、回路基板21の主面21a上に形成される回路電極(第一の回路電極)22とを備えている。なお、回路基板21の主面21a上には、場合により絶縁層(図示せず)が形成されていてもよい。
【0054】
一方、第二の回路部材30は、回路基板(第二の回路基板)31と、回路基板31の主面31a上に形成される回路電極(第二の回路電極)32とを備えている。また、回路基板31の主面31a上にも、場合により絶縁層(図示せず)が形成されていてもよい。
【0055】
第一及び第二の回路部材20,30としては、電気的接続を必要とする電極が形成されているものであれば特に制限はない。具体的には、液晶ディスプレイに用いられているITO等で電極が形成されているガラス又はプラスチック基板、プリント配線板、セラミック配線板、フレキシブル配線板、半導体シリコンチップ等が挙げられ、これらは必要に応じて組み合わせて使用される。このように、本実施形態では、プリント配線板やポリイミド等の有機物からなる材質をはじめ、銅、アルミニウム等の金属やITO(indium tin oxide)、窒化ケイ素(SiN)、二酸化ケイ素(SiO)等の無機材質のように多種多様な表面状態を有する回路部材を用いることができる。
【0056】
回路接続部材10は、絶縁性物質11及び導電粒子7を含有している。導電粒子7は、対向する回路電極22と回路電極32との間のみならず、主面21a,31a同士間にも配置されている。回路部材の接続構造においては、回路電極22,32が、導電粒子7を介して電気的に接続されている。即ち、導電粒子7が回路電極22,32の双方に直接接触している。
【0057】
ここで、導電粒子7は、電気的接続を得ることができる導電性を有していればとくに制限はないが、Au、Ag、Ni、Cu、Co、はんだ等の金属粒子やカーボン等がある。また、非導電性のガラス、セラミックス、プラスチック等を上記金属等の導電物質で被覆したものも使用できる。このとき、被覆する金属層の厚さは十分な導電性を得るためには10nm以上が好ましい。
【0058】
この回路部材の接続構造においては、上述したように、対向する回路電極22と回路電極32とが導電粒子7を介して電気的に接続されている。このため、回路電極22,32間の接続抵抗が十分に低減される。従って、回路電極22,32間の電流の流れを円滑にすることができ、回路の持つ機能を十分に発揮することができる。なお、回路接続部材10が導電粒子7を含有していない場合には、回路電極22と回路電極32とが直接接触することで、電気的に接続される。
【0059】
回路接続部材10は後述するように、本発明に係る回路接続用フィルム状接着剤の硬化物により構成されていることから、高湿条件下においても十分な耐マイグレーション性を有している。したがって、高湿環境下で通電された場合でも回路電極22,32上に電析が生じることが十分に防止され、回路電極22,32間の電気特性の長期信頼性を十分に高めることが可能となる。
【0060】
(回路部材の接続構造の製造方法)
次に、上述した回路部材の接続構造の製造方法について説明する。
【0061】
先ず、上述した第一の回路部材20と、回路接続用フィルム状接着剤40を用意する(図3(a)参照)。回路接続用フィルム状接着剤40は、回路接続材料をフィルム状に成形してなるものである。回路接続材料は、接着剤組成物5と、導電粒子7とを含有する。ここで、接着剤組成物5としては、上述したフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分および潜在性硬化剤を含むものが用いられる。なお、回路接続材料が導電粒子7を含有しない場合でも、その回路接続材料は絶縁性接着剤として異方導電性接着に使用でき、特にNCP(Non−Conductive Paste)と呼ばれることもある。また、回路接続材料が導電粒子7を含有する場合には、その回路接続材料はACP(Anisotropic Conductive Paste)と呼ばれることもある。
【0062】
また、回路接続材料における導電粒子7の含有量は、回路接続材料の全量に対して、0.1〜30体積%であることが好ましく、0.1〜15体積%であることがより好ましい。含有量が0.1体積%未満であると、良好な導通を得ることが困難となる傾向がある。他方、30体積%を超えると、隣接回路の短絡(ショート)を引き起こす可能性がある。
【0063】
次に、回路接続用フィルム状接着剤40を第一の回路部材20の回路電極22が形成されている面上に載せる。なお、回路接続用フィルム状接着剤40が支持体上に付着している場合には、回路接続用フィルム状接着剤40側を第一の回路部材20に向けるようにして、第一の回路部材20上に載せる。このとき、回路接続用フィルム状接着剤40はフィルム状であり、取扱いが容易である。このため、第一の回路部材20と第二の回路部材30との間に回路接続用フィルム状接着剤40を容易に介在させることができ、第一の回路部材20と第二の回路部材30との接続作業を容易に行うことができる。
【0064】
そして、回路接続用フィルム状接着剤40を、図3(a)の矢印A及びB方向に加圧し、フィルム状回路接続材料40を第一の回路部材20に仮接続する(図3(b)参照)。このとき、加熱しながら加圧してもよい。但し、加熱温度は回路接続用フィルム状接着剤40中の接着剤組成物が硬化しない温度とする。
【0065】
続いて、図3(c)に示すように、第二の回路部材30を、第二の回路電極を第一の回路部材20に向けるようにして回路接続用フィルム状接着剤40上に載せる。なお、回路接続用フィルム状接着剤40が支持体上に付着している場合には、支持体を剥離してから第二の回路部材30を回路接続用フィルム状接着剤40上に載せる。
【0066】
そして、回路接続用フィルム状接着剤40を加熱しながら、図3(c)の矢印A及びB方向に第一及び第二の回路部材20,30を介して加圧する。このときの加熱温度は、硬化剤の活性温度以上とする。こうして、回路接続用フィルム状接着剤40が硬化処理され、本接続が行われ、図2に示すような回路部材の接続構造が得られる。
【0067】
加熱温度は、例えば、170〜200℃とし、接続時間は例えば10秒〜1分とする。これらの条件は、使用する用途、接着剤組成物、回路部材によって適宜選択され、必要に応じて、後硬化を行ってもよい。
【0068】
上記のようにして、回路部材の接続構造を製造すると、得られる回路部材の接続構造において、導電粒子7を対向する回路電極22,32の双方に接触させることが可能となり、回路電極22,32間の接続抵抗を十分に低減することができる。
【0069】
また、回路接続用フィルム状接着剤40の加熱により、回路電極22と回路電極32との間の距離を十分に小さくした状態で接着剤組成物5が硬化して絶縁性物質11となり、第一の回路部材20と第二の回路部材30とが回路接続部材10を介して強固に接続される。得られる回路部材の接続構造においては、回路接続部材10は、本発明に係る回路接続用フィルム状接着剤の硬化物により構成されていることから、高湿条件下においても十分な耐マイグレーション性を有している。したがって、得られる回路部材の接続構造は、高湿環境下で通電された場合でも回路電極22,32上に電析が生じることが十分に防止され、回路電極22,32間の接続信頼性に優れる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(配合材料)
まず、下記の材料を回路接続用フィルム状接着剤の配合材料として用意した。
【0072】
[フェノキシ樹脂−1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、分子内にフルオレン環構造を有するフェノール化合物(4,4’−(9−フルオレニリデン)−ジフェニール)とからフェノキシ樹脂を合成した。得られた樹脂の重量平均分子量は、GPC法による標準ポリスチレン換算値で4万であった。この樹脂を、質量比がトルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)/酢酸エチル(沸点77.1℃、SP値9.10)=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40質量%の樹脂溶液を得た。これを、「フェノキシ樹脂−1」とした。
【0073】
[フェノキシ樹脂−2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂とエピクロルヒドリンとから、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(フェノール4−4’−(1−メチルエチリデン)ビスポリマー)を合成した。得られた樹脂の重量平均分子量は、GPC法による標準ポリスチレン換算値で3万であった。この樹脂を、質量比がトルエン/酢酸エチル=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40質量%の樹脂溶液を得た。これを、「フェノキシ樹脂−2」とした。
【0074】
[エポキシ樹脂−1]
ナフタレン型エポキシ樹脂(ナフタレンジオール系エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業株式会社製、商品名HP−4032、エポキシ当量149)を用意した。これを、「エポキシ樹脂−1」とした。
【0075】
[エポキシ樹脂−2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名エピコート828、エポキシ当量184)を用意した。これを、「エポキシ樹脂−2」とした。
【0076】
[硬化剤含有エポキシ樹脂−1]
マイクロカプセル型潜在性硬化剤(マイクロカプセル化されたアミン系硬化剤)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂と、ナフタレン型エポキシ樹脂とを、質量比34:49:17で含有する液状の硬化剤含有エポキシ樹脂(エポキシ当量:202)を用意した。これを、「硬化剤含有エポキシ樹脂−1」とした。
【0077】
[硬化剤含有エポキシ樹脂−2]
マイクロカプセル型潜在性硬化剤(マイクロカプセル化されたアミン系硬化剤)と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とを、質量比35:65で含有する液状の硬化剤含有エポキシ樹脂(エポキシ当量:213)を用意した。これを、「硬化剤含有エポキシ樹脂−2」とした。
【0078】
[アクリルゴム]
ゴム成分としてアクリルゴム(ブチルアクリレート40重量部−エチルアクリレート30重量部−アクリロニトリル30重量部−グリシジルメタクリレート3重量部の共重合体、重量平均分子量:80万)を用意した。このアクリルゴムを、質量比がトルエン/酢酸エチル=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分15質量%の溶液とした。
【0079】
[導電粒子]
ポリスチレンを核とする粒子の表面に、厚み0.2μmのニッケル層を設け、このニッケル層の外側に厚み0.04μmの金層を更に設けてなる、平均粒径5μmの導電粒子を用意した。
【0080】
(実施例1)
フェノキシ樹脂−1、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−1を固形質量比20:30:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物をセパレータ(シリコーン処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み:50μm)上にロールコータで塗布した。続いて、これを70℃で3分間加熱乾燥することにより、厚み25μmのフィルム状接着剤を形成し、実施例1の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0081】
(実施例2)
実施例1におけるフェノキシ樹脂−1、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−1の配合割合を固形質量比20:40:40に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0082】
(実施例3)
実施例1におけるフェノキシ樹脂−1、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−1の配合割合を固形質量比20:20:60に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0083】
(実施例4)
フェノキシ樹脂−1、アクリルゴム、エポキシ樹脂−1及び硬化剤含有エポキシ樹脂−2を固形質量比20:30:5:45の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0084】
(実施例5)
フェノキシ樹脂−2、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−1を固形質量比20:30:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0085】
(実施例6)
フェノキシ樹脂−1、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−2を固形質量比20:30:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0086】
(比較例1)
フェノキシ樹脂−2、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−2を固形質量比20:30:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0087】
(比較例2)
フェノキシ樹脂−1、エポキシ樹脂−1及び硬化剤含有エポキシ樹脂−1を固形質量比30:20:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0088】
(比較例3)
フェノキシ樹脂−1、エポキシ樹脂−1及び硬化剤含有エポキシ樹脂−2を固形質量比30:20:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0089】
(比較例4)
フェノキシ樹脂−1、エポキシ樹脂−2及び硬化剤含有エポキシ樹脂−1を固形質量比30:20:50の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0090】
(比較例5)
フェノキシ樹脂−2、アクリルゴム及び硬化剤含有エポキシ樹脂−2を固形質量比20:20:60の配合割合で混合し、次いで、この混合物100質量部に導電粒子5質量部を混合分散させて接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を実施例1における接着剤組成物に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5の回路接続用フィルム状接着剤を得た。
【0091】
上記で得られた実施例1〜6及び比較例1〜5の回路接続用フィルム状接着剤について、下記の接触角測定及び耐マイグレーション性試験を実施した。得られた結果を表1及び2に示す。
【0092】
<水に対する接触角の測定>
得られた回路接続用フィルム状接着剤をスライドガラス上に転写し、クリーンオーブンを使用して190℃、1時間の条件下で加熱硬化を行った。硬化後のフィルム状接着剤表面について、接触角計(協和界面科学株式会社製CA−W150)を使用し、JIS R3275法に従って、温度25±5℃、湿度50±10%の条件で水に対する接触角を測定した。なお、測定は硬化物表面の3箇所で行い、得られた値の平均値を接触角とした。また、上記加熱硬化条件で硬化させた接着剤について下記式(2)で定義される硬化率C1を算出したところ、実施例1〜6及び比較例1〜5の回路接続用フィルム状接着剤のいずれも80%以上であることが確認された。算出された硬化率を表1及び表2に示す。
C1(%)=(Q2−Q3)/Q2×100 …(2)
式(2)中、Q2は、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定される硬化前の接着剤の発熱量(J/g)を示し、Q3は、上記加熱条件(190℃、1時間)で硬化させた後の接着剤の発熱量(J/g)を示す。
【0093】
<耐マイグレーション性試験>
先ず、得られた回路接続用フィルム状接着剤を用い、ITO櫛形パターン電極(ピッチ100μm、ライン85μm、スペース15μm)付きガラス基板と、2層FPC(ピッチ100μm、ライン50μm、スペース50μm、回路高さ8μm、基材:ポリイミド、回路:Cu/Snめっき)とを以下の手順で接続し、回路接続体を作製した。
【0094】
所定のサイズに裁断したフィルム状接着剤(1.5×25mm)を、ITO櫛形パターン付きガラス基板に80℃、10Kgf/cm、4秒の条件で貼り付けた後、セパレータを剥離し、続いて2層FPCの回路とガラス基板側の回路との位置合わせを行った。次いで、180℃、3MPa、15秒の条件でFPC上方から加熱、加圧を行い、本接続を行った。
【0095】
上記で得られた回路接続体を、60℃、90%RHの試験槽中に置き、相対する櫛形電極にDC20Vを印加した。この状態で96時間経過した後、金属顕微鏡を用いてフィルム状接着剤接続部(ガラス基板側ITO電極とFPC側電極との接触部、及び接着剤はみ出し部)におけるマイグレーションの発生状態を観察し、下記基準に基づいて評価した。
A:マイグレーションの発生量が微量(又は無し)である。
B:マイグレーションの発生量が少量である。
C:マイグレーションの発生量が中量である。
D:マイグレーションの発生量が大量である。
【0096】
【表1】



【0097】
【表2】



【0098】
表1及び2に示されるように、硬化後において水に対する接触角が90°未満となる比較例1〜5の回路接続用フィルム状接着剤は、接続した回路接続体でのマイグレーションの発生量が中量〜大量であったのに対して、硬化後において水に対する接触角が90°以上となる実施例1〜6の回路接続用フィルム状接着剤は、接続した回路接続体でのマイグレーションの発生量が微量(又は無し)〜少量であり、耐マイグレーション性に十分優れていることが確認された。特に、実施例2の回路接続用フィルム状接着剤は優れた耐マイグレーション性を示し、これは、アクリルゴムを多く含有させることで硬化後における水に対する接触角を増大させることができ、密着力・防湿性を更に向上させることができたためと考えられる。
【0099】
本発明の回路接続用フィルム状接着剤によれば、接続した回路接続体を高湿環境下で通電させた場合であってもマイグレーションの発生を十分抑制できることから、高湿環境下における回路の接続信頼性の向上を図ることが可能である。

【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の回路接続用フィルム状接着剤の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】回路接続用フィルム状接着剤によって接続された回路部材の接続構造の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ回路部材を接続する一連の工程図である。
【符号の説明】
【0101】
1,40…回路接続用フィルム状接着剤、5…接着剤組成物、7…導電粒子、11…絶縁性物質、20,30…回路部材、21,31…回路基板、22,32…回路電極。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対峙する回路電極間に介在され、相対峙する回路電極を加熱、加圧することによって加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、当該接着剤の硬化後における水に対する接触角が90°以上であることを特徴とする回路接続用フィルム状接着剤。
【請求項2】
フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ゴム成分および潜在性硬化剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の回路接続用フィルム状接着剤。
【請求項3】
前記フェノキシ樹脂が、フルオレン環を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の回路接続用フィルム状接着剤。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、ナフタレン骨格を有するものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の回路接続用フィルム状接着剤。
【請求項5】
前記ゴム成分の分子量が、70万以上であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の回路接続用フィルム状接着剤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−266560(P2007−266560A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167646(P2006−167646)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】