説明

圧力容器構造

【課題】圧力サイクル耐久性能が向上し、また従来製品と同等の圧力サイクル耐久性能を維持しつつ肉厚を薄肉にすることができる圧力容器構造を提供する。
【解決手段】内部の貯蔵空間に流体が充填されるライナー(11)と、ライナー(11)の周囲に設けられた補強層(12)と、を含む圧力容器構造である。そして補強層(11)は、少なくとも3層以上の複数層(12−1〜12−7)であって外周側の層(12−6,12−7)の引張弾性率が内周側の層(12−1〜12−5)の引張弾性率以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧力容器の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスなどが充填される圧力容器として、たとえば特許文献1に開示されたものが知られている。この圧力容器では、ライナーの周囲に複数の補強層が設けられている。そして、外側の補強層の引張破断伸びよりも内側の補強層の引張破断伸びが大きくなるように、換言すれば、内側の補強層の引張弾性率よりも、外側の補強層の引張弾性率が大きくなるように、構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−45660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧力容器のような厚肉構造では内側から外側にかけて小さくなる応力分布となり、内側ほど材料の本来の強度が有効活用されるにも関わらず、特許文献1の圧力容器のように有効活用される補強層の引張弾性率を小さくすると、補強層全体の強度が低下し、最内層のライナーの歪が大きくなる。圧力容器には、高圧流体が繰り返し充填/放出される。このとき内圧が上昇/下降し、これに伴い圧力容器は膨張/収縮する。特許文献1の圧力容器では、このような繰り返し荷重が作用するたびに発生するライナーの歪が大きくなるため、疲労寿命、すなわち圧力サイクル耐久性が低下してしまう。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、圧力サイクル耐久性能が向上する、また従来製品と同等の圧力サイクル耐久性能を維持しつつ肉厚を薄肉にすることができる圧力容器構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明は、内部の貯蔵空間に流体が充填されるライナーと、ライナーの周囲に設けられた補強層と、を含む圧力容器構造である。そして補強層は、少なくとも3層以上の複数層であって外周側の層の引張弾性率が内周側の層の引張弾性率以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、材料強度を有効活用できることとなり、材料コストを抑えつつ、ライナーに発生する歪みを低減させることができる。歪みが小さくなれば発生する力も小さくなり、疲労寿命が延び、すなわち圧力サイクル耐久性能が向上する。また従来製品と同等の圧力サイクル耐久性能を維持しつつ肉厚を薄肉にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による圧力容器構造の第1実施形態を示す図である。
【図2】補強層各層の引張弾性率の関係を示す図である。
【図3】本発明による圧力容器構造の第2実施形態の補強層各層の引張弾性率の関係を示す図である。
【図4】本発明による圧力容器構造の第3実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明による圧力容器構造の第1実施形態を示す図であり、図1(A)は縦断面図、図1(B)は図1(A)のB部拡大図である。
【0011】
圧力容器10は、ライナー11と、補強層12と、を含む。
【0012】
ライナー11は、内部が貯蔵空間である流体貯蔵体である。この貯蔵空間には燃料の流体を常圧で貯蔵することもできるし、流体燃料を常圧よりも高い圧力で貯蔵することもできる。燃料電池自動車の水素ガスを貯蔵する圧力容器であれば、貯蔵空間に水素ガスをたとえば35MPa又は70MPaの高圧で貯蔵する。なおライナー11の温度は、周囲の温度、水素ガスの充填及び放出などの影響によって変動するが、変動幅は水素ガスの圧力によっても異なる。ライナー11は、たとえばアルミニウム合金などの金属やポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂その他の樹脂を用いてガスバリア性に形成されている。樹脂は2層以上組合わせて複数層にしてもよい。ライナー11には、軸方向に2つの開口11a,11bが形成されている。開口11aには、水素ガスが供給/排出されるバルブなどが接続される。開口11bは、エンドプラグで閉塞される。なお開口11bを設けることなく、半球殻状に形成してもよい。
【0013】
補強層12は、ライナー11の外周面の全体を所定の厚さで覆うように形成される。補強層12は、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;FRP)の層である。補強層12は、樹脂含有強化繊維を巻装して形成されている。樹脂含有強化繊維とは、素材繊維にたとえばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などのマトリックス樹脂を含浸したものである。素材繊維としては、たとえば金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の合成有機繊維や天然繊維などを例示できる。これらの繊維は単独又は混合して使用することができる。補強層12は、本実施形態では7層構造である。補強層12の第1層12−1は、ライナー11の外周面に樹脂含有強化繊維をフープ巻きして形成されたフープ層である。第2層12−2は、第1層12−1に樹脂含有強化繊維をヘリカル巻きして形成されたヘリカル層である。第3層12−3は、第2層12−2に樹脂含有強化繊維をフープ巻きして形成されたフープ層である。第4層12−4は、第3層12−3に樹脂含有強化繊維をヘリカル巻きして形成されたヘリカル層である。第5層12−5は、第4層12−4に樹脂含有強化繊維をフープ巻きして形成されたフープ層である。第6層12−6は、第5層12−5に樹脂含有強化繊維をヘリカル巻きして形成されたヘリカル層である。第7層12−7は、第6層12−6に樹脂含有強化繊維をフープ巻きして形成されたフープ層である。
【0014】
なお補強層12の厚さ、層数及び巻き方は、材質、タンク形状、要求性能などに応じて設定され、特に限定されるものではない。
【0015】
図2は、補強層各層の引張弾性率の関係を示す図である。
【0016】
横軸は、ライナー外周面からの距離である。なお補強層の各層との関係が分かりやすいように、横軸の下に補強層の各層を示した。縦軸は各層を構成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率を示す。
【0017】
本実施形態では、補強層12の第2層12−2を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第1層12−1を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第3層12−3の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第2層12−2の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第4層12−4の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第3層12−3の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第5層12−5の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第4層12−4の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第6層12−6の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第5層12−5の樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい。第7層12−7の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第6層12−6の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。
【0018】
すなわち、補強層12の第1層12−1から第5層12−5までを形成する樹脂含有強化繊維を同一の引張弾性率にする。また補強層12の第6層12−6及び第7層12−7を形成する樹脂含有強化繊維を、第1層12−1から第5層12−5までを形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい同一の引張弾性率にする。
【0019】
樹脂含有強化繊維の引張弾性率が大きいほど材料コストが上昇する。本実施形態では、補強層12の各層によっては、引張弾性率の小さい樹脂含有強化繊維を使用するので、引張弾性率の大きな樹脂含有強化繊維だけを使用する場合に比べて、材料コストを下げることができる。
【0020】
またライナー11には、内圧の上昇/下降、換言すれば圧力容器の膨張収縮に伴い歪が発生する。そしてライナー11の外周に形成する補強層12の第1層12−1は、ライナーに発生する歪を抑制するためにライナー11を補強しなければならず、最低限必要な強度が定まる。このとき従来のように、内側の層の引張弾性率よりも、外側の層の引張弾性率が大きくなるようにしては、ライナーに発生する歪が増大するため、材料コストが上昇してしまう。
【0021】
これに対して、本実施形態では、内側の層の引張弾性率よりも、外側の層の引張弾性率が小さくなるようにしたので、材料強度を有効活用できることとなり、材料コストを抑えつつ、ライナー11に発生する歪みを低減させることができる。歪みが小さくなれば発生する力も小さくなり、疲労寿命が延び、圧力サイクル耐久性能が向上する。また従来製品と同等の圧力サイクル耐久性能を維持しつつ肉厚を薄肉にすることができるのである。
【0022】
(第2実施形態)
図3は、本発明による圧力容器構造の第2実施形態の補強層各層の引張弾性率の関係を示す図である。
【0023】
本実施形態では、補強層12の第2層12−2を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第1層12−1を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第3層12−3の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第2層12−2の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第4層12−4の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第3層12−3の樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい。第5層12−5の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第4層12−4の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第6層12−6の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第5層12−5の樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい。第7層12−7の樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第6層12−6の樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。
【0024】
すなわち、補強層12の第1層12−1から第3層12−3までを形成する樹脂含有強化繊維を同一の引張弾性率にする。また第4層12−4及び第5層12−5を形成する樹脂含有強化繊維を、第1層12−1から第3層12−3までを形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい同一の引張弾性率にする。さらに第6層12−6及び第7層12−7を形成する樹脂含有強化繊維を、第4層12−4及び第5層12−5を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい同一の引張弾性率にする。
【0025】
本実施形態のように構成しても、ライナー11に発生する歪みを低減させることができる。歪みが小さくなれば発生する力も小さくなり、疲労寿命が延び、圧力サイクル耐久性能が向上する。また従来製品と同等の圧力サイクル耐久性能を維持しつつ肉厚を薄肉にすることができる。特に本実施形態は、第1実施形態に比べてより段階的に引張弾性率が小さくなるように構成したので、第1実施形態に比べても材料コストを低く抑えることができる。
【0026】
(第3実施形態)
図4は、本発明による圧力容器構造の第3実施形態を説明する図であり、図4(A)は補強層の各層を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率の関係を示す図、図4(B)は補強層を構成する各層のうち1つの層(第3層)の拡大図である。
【0027】
補強層12を構成する各層は、樹脂含有強化繊維が一層分だけ巻装されているのではなく、複数層分だけ巻装されている。すなわち一例として図4(B)に第3層12−3を拡大したが、第3層12−3は、第1プライ12−3aから第4プライ12−3dまでの4層構造である。層数は仕様に応じて適宜設定される。
【0028】
そこで本実施形態では、補強層12の第1層12−1のすべてのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は同じである。第2層12−2のすべてのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は同じであって、第1層12−1を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第3層12−3の途中までのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第2層12−2を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第3層12−3の途中からのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第3層12−3の途中までのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい。第4層12−4のすべてのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は同じであって、第3層12−3の途中からのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第5層12−5の途中までのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第4層12−4を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第5層12−5の途中からのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は、第5層12−5の途中までのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい。第6層12−6のすべてのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は同じであって、第5層12−5の途中からのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。第7層12−7のすべてのプライの樹脂含有強化繊維の引張弾性率は同じであって、第6層12−6を形成する樹脂含有強化繊維の引張弾性率と同じである。
【0029】
すなわち補強層12の第1層12−1及び第2層12−2のすべてのプライ、並びに第3層12−3の途中までのプライで樹脂含有強化繊維を同一の引張弾性率にする。また第3層12−3の途中からのプライ、第4層12−4のすべてのプライ、及び第5層12−5の途中までのプライの樹脂含有強化繊維を、それよりも内側の樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい同一の引張弾性率にする。さらに第5層12−5の途中からのプライ、並びに第6層12−6及び第7層12−7のすべてのプライの樹脂含有強化繊維を、それよりも内側の樹脂含有強化繊維の引張弾性率よりも小さい同一の引張弾性率にする。
【0030】
本実施形態のように構成しても、ライナー11に発生する歪みを低減させることができる。歪みが小さくなれば発生する力も小さくなり、疲労寿命が延び、圧力サイクル耐久性能が向上する。また従来製品と同等の圧力サイクル耐久性能を維持しつつ肉厚を薄肉にすることができる。特に本実施形態のように構成すれば、樹脂含有強化繊維の引張弾性率を最適化でき、第2実施形態に比べても材料コストをさらに低く抑えることができる。
【0031】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0032】
たとえば、補強層の層数やプライ数は要求性能に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
また樹脂含有強化繊維の引張弾性率を、第1実施形態では2段階で変更し、第2実施形態及び第3実施形態では3段階で変更しているが、さらに段階を細分化してもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 圧力容器
11 ライナー
12 補強層
12−1 第1層
12−2 第2層
12−3 第3層
12−3a 第3層の第1プライ
12−3b 第3層の第2プライ
12−3c 第3層の第3プライ
12−3d 第3層の第4プライ
12−4 第4層
12−5 第5層
12−6 第6層
12−7 第7層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の貯蔵空間に流体が充填されるライナーと、
前記ライナーの周囲に設けられ、少なくとも3層以上の複数層であって外周側の層の引張弾性率が内周側の層の引張弾性率以下である補強層と、
を含む圧力容器構造。
【請求項2】
前記補強層は、少なくとも2つ以上のプライによって構成され、
前記プライの外周側のプライの引張弾性率が内周側のプライの引張弾性率以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−270878(P2010−270878A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125094(P2009−125094)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】