説明

基板の処理方法

【課題】基板表面の薬液が吐出される領域への局所的なダメージを抑制する基板の処理方法を提供する。
【解決手段】基板Wの表面に薬液L2を供給して処理を行う基板の処理方法において、少なくとも薬液L2が吐出される領域Aを濡らすように、基板Wの表面に薬液L2よりも電気伝導率の低い液体L1を供給した状態で、領域Aに薬液L2を吐出し、基板Wの表面に供給された薬液L2により処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の処理方法に関し、さらに詳しくは、薬液を用いた枚葉式処理による基板の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスのWET工程(表面洗浄、酸化膜エッチング、レジスト剥離等)において、回転式の枚葉処理装置を用いた基板の表面処理が行われている。
【0003】
具体的には、枚葉処理装置の処理チャンバー内に設置された保持部材に基板(「ウェハ」とも呼ぶ。)を保持し、保持部材を回転させる。次いで、保持部材の上方若しくは斜め上方に設置された液体吐出ノズルから、希フッ酸(DHF)、硫酸(H2SO4)、SPM(H2SO4/H22)、BHF(バッファードフッ酸)或いはアンモニア過水(HN4OH/H)等の各種薬液を回転中心により近い部分に供給する。そして、遠心力によって、薬液を基板の外周方向に流動させながら、目的とする表面処理を行っている。この表面処理が終わった後には、基板表面に液体吐出ノズルから純水を供給し、洗浄処理を行うことで、薬液成分を取り除く処理が行われている。
【0004】
ここで、純水による洗浄処理の際、純水は比抵抗値が18MΩ・cmと大きいため、基板表面における純水が吐出される領域では、この領域が純水と接液する際に、基板表面と純水との摩擦による静電気が発生し、基板表面が局所的に帯電する。このため、ゲート酸化膜の破壊や、配線や電極等を構成する金属膜の溶出といった不良が発生することが知られている。この改善策として、純水中に二酸化炭素(CO2)ガスやアンモニア(NH3)ガスを添加することで、純水の比抵抗値を下げ、基板の帯電を防止することが行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−373879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、BHF(バッファードフッ酸)やSPM(H2SO4/H22)などの薬液を酸化膜のエッチング処理やレジスト剥離などに用いた場合、この薬液を吐出するときに、基板表面に設けられたフィールド酸化膜やゲート酸化膜が局所的に破壊されて、基板に局所的なダメージが発生していた。そして、基板にこのような局所的なダメージが加わることにより、製品歩留まりが低下するという問題が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基板の表面に薬液を供給して処理を行う基板の処理方法において、少なくとも前記薬液が吐出される領域を濡らすように、前記基板の表面に前記薬液よりも電気伝導率が低い液体を供給した状態で、前記領域に前記薬液を吐出し、前記基板の表面に供給された前記薬液により処理を行うことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記基板の表面全面に前記液体を供給した状態で、前記薬液を吐出することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記液体の表面が表面張力により盛り上がるように、前記基板の表面に前記液体を供給することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記液体を前記基板に供給する際に、前記基板を回転することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記薬液を前記基板に吐出する際に、前記基板を回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の基板の処理方法によれば、基板の表面が薬液と接液する際に、薬液が吐出される基板表面の局所的なダメージが抑制される。したがって、基板を用いたデバイスの歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態における基板の処理方法について図面を参照して説明する。本発明の基板の処理方法は、SiOやSiNなどの絶縁層が露出或いは積層された基板(例えば、Si支持基板、SiO絶縁層及びSi半導体層が順次積層されたSOI(Silicon On Insulator)基板)などに適用可能である。
【0013】
まず、従来の基板の処理方法による基板表面の局所的なダメージの発生原因について図面を参照しながら説明する。図1は従来の基板の処理方法を説明するための工程図、図2は従来の基板の処理方法による基板表面の局所的ダメージを示す図、図3は従来の基板の処理方法による基板の局所的ダメージの原因を説明するための図、図4は従来の基板の処理方法による基板の局所的ダメージ箇所の断面図、図5は従来の基板の処理方法による基板に発生する局所的ダメージと薬液の電気伝導率との関係を示す図である。
【0014】
上述したようにBHFやSPMなどの薬液を酸化膜のエッチング処理やレジスト剥離などに用いた場合、この薬液を吐出するときに、基板(「ウェハ」とも呼ぶ。)表面に設けられたフィールド酸化膜やゲート酸化膜が局所的に破壊されて、基板に局所的なダメージが発生していた。
【0015】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、この現象が薬液とこの薬液が通過する配管(ノズル)との間で発生する流動帯電(摩擦帯電現象)によって生じるものであるという知見を得た。
【0016】
すなわち、酸化膜のエッチング処理に用いるBHFやレジスト剥離に用いるSPMなどの薬液は電離度が極めて高く、液体中に含まれる各種のイオン濃度が大きいことから、電気伝導率が高い。
【0017】
そのため、図1(a)に示す回転させた状態の基板W’の表面に、図1(b)に示すように、基板W’の上方にあるフッ素樹脂で形成されたノズル21から電気伝導率が高い薬液Lを供給する場合、この薬液Lと基板W’との摩擦帯電はおきないが、薬液Lとこの薬液が通過する配管との流動帯電(摩擦帯電現象)により薬液Lが大きく帯電することになっていた。
【0018】
このように薬液Lが帯電している状態でノズル21から吐出されると、薬液Lが接液する基板の領域A’は、電荷が薬液Lから基板W’に急激に流れる。そのため、基板W’表面の薬液Lが接液する領域A’のフィールド酸化膜やゲート酸化膜が局所的に破壊されて、図2に示すように、基板W’に局所的なダメージが生じていた。そして、基板W’にこれらのダメージが加わることにより、製品歩留まりが低下することになっていた。
【0019】
ここで、電荷が薬液Lから基板W’に急激に流れたときに生じる基板W’の局所的ダメージは、次のように発生するものであると推測される。なお、以下においては基板W’としてSOI基板を用いている。
【0020】
図3(a)に示すように薬液Lとこの薬液Lが通過する配管Hとの流動帯電により帯電した薬液Lが、基板W’表面に接液すると、図3(b)に示すように、電荷がSi半導体層を介してSiO絶縁層内へ移動していく。そして、図3(c)に示すように、SiO絶縁層は局所的に電荷を帯びることになる。
【0021】
その後、図3(d)に示すように、電荷がSiO絶縁層を介してSi支持基板に流れることにより、ジュール熱が発生して局所的に高温となる。そして、図3(e)に示すように、Si支持基板が局所的に溶解し、ガスの影響で膨張してSi支持基板の一部が破裂する。このときの基板の断面構造は図4に示すようになっている。
【0022】
ここで、図5に基板W’に発生する局所的ダメージと薬液の電気伝導率との関係を示す。同図(a)に示すように、基板W’に発生する局所的ダメージは、SPMやBHFでは発生するが、HSO、DHF及びHOではほとんど発生しないことが分かった。これを電気伝導率のグラフにすると、図5(b)に示すようになる。従って、少なくとも電気伝導率が160mS・cm以下の薬液(HSO、DHF及びHO)では基板W’に上述した局所的ダメージが発生しない。
【0023】
そこで、薬液が吐出される領域に、薬液よりも電気伝導率が低い液体を予め供給した状態で、薬液を吐出したところ、局所的なダメージを抑制することができた。特に、電気伝導率が160mS・cm以下の液体を予め供給することにより、その後の薬液の吐出による局所的なダメージを大きく抑制することができた。
【0024】
これは、基板の表面が薬液と最初に接液する際に、電気伝導率が低い液体が緩衝材となって電気伝導率が高い薬液が基板の表面に接触することが防止されることによるものであり、基板表面の薬液が吐出される領域の静電摩擦現象による局所的な帯電が抑制されることになるのである。
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。ここでは、基板の処理方法として、BHFにより、基板の表面にエッチングを行う例について説明する。図6は本発明の基板の処理方法に係る実施の形態を説明するための工程図、図7は従来の基板の処理方法と本実施形態の基板の処理方法とにおいて基板ダメージ率を比較したグラフである。
【0026】
まず、図6(a)に示すように、例えば酸化膜が残存した状態の基板Wを、ここでの図示を省略した枚葉処理装置の処理チャンバー内に導入し、処理チャンバー内に設置された保持部材に基板Wを保持させる。なお、ここでは一例として12インチサイズの基板Wを使用する。
【0027】
ここで、上記処理チャンバー内には、保持部材の上方に配置され、保持部材に保持された基板Wの表面に薬液L2よりも電気伝導率が低い液体L1を供給する第1のノズル11と、上記基板Wの表面に薬液L2を供給する第2のノズル12とが設けられている。そして、基板Wを水平状態に保った状態で、保持部材を回転させる。なお、第1のノズル11及び第2のノズル12はフッ素樹脂で形成される。
【0028】
次いで、図6(b)に示すように、第1のノズル11から、少なくとも薬液L2が吐出される領域Aを濡らすように、基板Wの表面に薬液L2よりも電気伝導率が低い液体L1を供給することで、プリウェット処理を行う。
【0029】
ここで、薬液L2よりも電気伝導率が低い液体L1としては、電気伝導率が0mS・cm〜160mS・cm程度に管理された液体を用いることとする。また、液体L1は基板W上のデバイスを構成する材料とは反応しない不活性液体である必要がある。なお、薬液L2よりも電気伝導率が低いとは、薬液L2よりも電離度が低い、或いは液中のイオン濃度が低いと言い換えることもできる。
【0030】
ここでは、後述するように、薬液L2にはBHFを用いることから、液体L1にはBHFよりも電気伝導率が低い不活性液体を用いることとする。このような電気伝導率が低い不活性液体としては、例えば、CO2ガスを添加した純水(CO2水)、またはNH3ガスを添加した純水が挙げられる。ここでは、例えば電気伝導率が0.67mS・cm程度に管理されたCO2水を供給することとする。
【0031】
そして、液体L1を基板Wの表面に供給する際、液体L1の供給量を、例えば25ml以上300ml以下とし、基板Wの回転数を50rpm以下、好ましくは20rpm以下とすることで、表面張力により、液体L1の表面が盛り上がった状態となるように供給する。なお、基板Wの回転数を上げることにより、薬液L2を外周方向に流動させて、基板の表面全面に液体L1を供給した状態とすることができる。
【0032】
これにより、後述する薬液L2を供給する工程において、領域A上を覆う厚みを有した液体L1中に薬液が吐出されるため、液体L1が緩衝材となり、電気伝導率が高い薬液L2が直接基板Wの表面に接触することが防止される。なお、ここでは、基板Wを回転させた状態で、液体L1を供給するが、回転させずに供給してもよい。
【0033】
次に、図6(c)に示すように、液体L1が供給された状態の領域Aに、例えばBHF(HF:NHF=1:15)からなる薬液L2を吐出し、液体L1の供給を止める。ここで、薬液L2は、252mS・cmの電気伝導率を示す電気伝導性の高い液体であることとする。
【0034】
この際、上述したように、領域A上には、液体L1が表面張力により盛り上がった状態で供給されていることから、液体L1中に薬液L2が吐出される。このとき、BHFからなる薬液L2が液体L1に接することから、領域Aの液体L1と薬液L2の接液部分の電気伝導率が抑制され、局所的かつ急激な放電が防止されることになる。
【0035】
その後、基板Wの回転数を上げることにより、薬液L2を外周方向に流動させて、基板Wの表面に供給された薬液L2により、基板W上の酸化膜を除去することで、基板Wの表面処理を行う。
【0036】
この際、基板Wの回転数を例えば300rpm以上1200rpm以下の範囲まで徐々に上げていき、基板Wの表面上を覆う液体を液体L1と薬液L2との混合状態から薬液L2に徐々に移行させることで、急激に薬液L2と基板Wとの摩擦が上がらないようにする。
【0037】
これにより、基板Wの表面全域の帯電を抑制することが可能となるとともに、基板Wの表面処理を液体L1が残存しない状態で行えるため、薬液L2の処理性能を悪化させることなく、基板Wの表面処理を行うことができる。また、上記薬液L2の供給量は、例えば500ml以上1500ml以下であることとする。
【0038】
このような基板Wの処理方法によれば、電気伝導率が高い薬液L2を供給する場合であっても、薬液L2が吐出される領域Aに、薬液L2よりも電気伝導率が低い液体L1を供給した状態で、薬液L2が供給される。基板Wの表面が薬液L2と最初に接液する際に、電気伝導率が低い液体L1が緩衝材となり、電気伝導率が高い薬液L2が基板Wの表面に接触することが防止される。
【0039】
これにより、配管との間の流動帯電現象によって帯電した薬液L2が基板W表面へ吐出されたとき、この薬液L2が吐出される領域への局所的な帯電が抑制される。したがって、この局所的な帯電による基板Wへのダメージが抑制され、この基板Wを用いたデバイスの歩留まりを向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態の基板Wの処理方法によれば、表面張力により液体L1の表面が盛り上がった状態となるように、基板Wの表面に液体L1を供給することから、液体L1の緩衝効果をより顕著に奏することができる。
【0041】
また、図7のグラフには、図6を用いて説明した上記実施形態の処理方法を適用した処理後の基板Wと、未処理の基板W’の基板ダメージの発生率を測定した結果を示す。なお、基板W,W’を処理する薬液L2としてはBHFを用い、基板Wの表面に予め供給する液体L1としてはCO2水を用いた。
【0042】
このグラフに示すように、基板Wは未処理の基板W’と比較して基板ダメージが顕著に抑制されることが確認された。
【0043】
なお、上記実施形態では、薬液L2としてBHFを用いた例について説明したが、薬液L2として、SPMを用いた場合でも、上記と同様の効果を奏することができる。これは、液体L1のCO2水は薬液L2のSPMより電気伝導率が低いためであり、これにより、配管と薬液L2との帯電現象による局所的な基板ダメージが抑制される。その他、薬液L2はAPM、HPM、HCL、DHF、HF/HNO、HNO/HCL、HSO/O、HNOが挙げられる。
【0044】
また、上記実施形態では、基板Wに表面処理を行う場合を例にとり、説明したが、本発明は基板Wの裏面処理にも適用可能である。
【0045】
以上、説明したように本発明の基板の処理方法によれば、基板の表面が薬液と最初に接液する際に、基板表面の静電摩擦現象による局所的な帯電が抑制されることから、基板表面の薬液が吐出される領域への帯電によるダメージが抑制される。したがって、この基板を用いたデバイスの歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の基板の処理方法を説明するための工程図である。
【図2】従来の基板の処理方法による基板表面の局所的ダメージを示す図である。
【図3】従来の基板の処理方法による基板の局所的ダメージの原因を説明するための図である。
【図4】従来の基板の処理方法による基板の局所的ダメージ箇所の断面図である。
【図5】従来の基板の処理方法による基板に発生する局所的ダメージと薬液の電気伝導率との関係を示す図である。
【図6】本発明の基板の処理方法に係る実施の形態を説明するための工程図である。
【図7】従来の基板の処理方法と本実施形態の基板の処理方法とにおいて基板ダメージ率を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0047】
W,W’ 基板(ウェハ)
A 領域
1 液体
2 薬液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に薬液を供給して処理を行う基板の処理方法において、
少なくとも前記薬液が吐出される領域を濡らすように、前記基板の表面に前記薬液よりも電気伝導率が低い液体を供給した状態で、前記領域に前記薬液を吐出し、前記基板の表面に供給された前記薬液により処理を行う
ことを特徴とする基板の処理方法。
【請求項2】
前記基板の表面全面に前記液体を供給した状態で、前記薬液を吐出する
ことを特徴とする請求項1に記載の基板の処理方法。
【請求項3】
前記液体の表面が表面張力により盛り上がるように、前記基板の表面に前記液体を供給する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板の処理方法。
【請求項4】
前記液体を前記基板に供給する際に、前記基板を回転することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板の処理方法。
【請求項5】
前記薬液を前記基板に吐出する際に、前記基板を回転することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基板の処理方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−200365(P2009−200365A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42268(P2008−42268)
【出願日】平成20年2月23日(2008.2.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】