説明

基板処理装置、基板処理方法および記憶媒体

【課題】処理流体による液体の除去能力の低下を抑制しつつ、基板の表面に付着した液体を除去することが可能な基板処理装置等を提供する。
【解決手段】処理容器1では基板W表面の乾燥防止用の液体に、超臨界状態または亜臨界状態である高圧状態の処理流体を接触させて、前記乾燥防止用の液体を除去する処理を行うにあたり、昇圧ポンプ2は供給ライン51を介して処理容器1に処理流体を供給して高圧状態の処理流体雰囲気とし、次いで、この昇圧ポンプ51よりも吐出流量の大きな循環ポンプ3にて、処理容器1内の流体を循環ライン53に循環させた後、処理容器1内の流体を排出ライン52から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界状態または亜臨界状態の処理流体を用いて基板の表面に付着した液体を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基板である半導体ウエハ(以下、ウエハという)などの表面に集積回路の積層構造を形成する半導体装置の製造工程などにおいては、薬液などの洗浄液によりウエハ表面の微小なごみや自然酸化膜を除去するなど、液体を利用してウエハ表面を処理する液処理工程が設けられている。
【0003】
ところが半導体装置の高集積化に伴い、こうした液処理工程にてウエハの表面に付着した液体などを除去する際に、いわゆるパターン倒れと呼ばれる現象が問題となっている。パターン倒れは、例えばウエハ表面に残った液体を乾燥させる際に、パターンを形成する凹凸の例えば凸部の左右に残っている液体が不均一に乾燥することにより、この凸部を左右に引っ張る表面張力のバランスが崩れて液体の多く残っている方向に凸部が倒れる現象である。
【0004】
こうしたパターン倒れの発生を抑えつつウエハ表面に付着した液体を除去する手法として超臨界状態や亜臨界状態(以下、これらをまとめて高圧状態という)の処理流体を用いる方法が知られている。高圧流体は、液体と比べて粘度が小さく、また液体を抽出する能力も高いことに加え、高圧流体と平衡状態にある液体や気体との間で界面が存在しない。そこで、ウエハ表面に付着した液体を処理流体と置換し、しかる後、処理流体を気体に状態変化させると、表面張力の影響を受けることなく液体を乾燥させることができる。
【0005】
発明者は、このような処理流体を利用してウエハ表面の液体を除去する技術の実用化開発を行っているが、ウエハ表面の液体と処理流体とを接触させても、処理流体中の液体濃度が飽和状態になると、液体の除去能力が低下してしまうことを見出した。
【0006】
ここで特許文献1には、基板上に形成されたパターンに付着したリンス液を液体二酸化炭素と置換し、この二酸化炭素を超臨界状態にしてから気化させることにより基板を乾燥させる方法が記載されている。この方法では、二酸化炭素を液体の状態に保ちつつ、基板が配置された反応室内の圧力を変動させ、反応室内の二酸化炭素を攪拌することによりリンス液と二酸化炭素の置換を促進している。しかしながら、一般に吐出圧力の高いポンプは流量が小さく(例えば特許文献1の圧送ポンプの吐出流量は約100ミリリットル/分)、圧力変動などを利用してもリンス液と二酸化炭素との置換を十分に短縮できないおそれが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−158591号公報:請求項1、段落0030〜0036、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような背景の下になされたものであり、比較的短い時間で、基板の表面に付着した液体を処理流体により除去することが可能な基板処理装置、基板処理方法、及びこの方法を記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る基板処理装置は、基板表面の乾燥防止用の液体に、超臨界状態または亜臨界状態である高圧状態の処理流体を接触させて、前記乾燥防止用の液体を除去する処理が行われる処理容器と、
この処理容器に処理流体を供給する供給ラインに設けられ、前記処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気とするための昇圧ポンプと、
前記処理容器内の流体を循環させるための循環ラインと、
この循環ラインに設けられ、前記昇圧ポンプよりも吐出流量の大きな循環ポンプと、
前記処理容器内の圧力を減圧するための減圧弁が設けられ、当該処理容器内の流体を排出するための排出ラインと、
前記処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気とし、次いで、前記処理容器内の流体を循環ラインに循環させた後、前記排出ラインより処理容器内の流体を排出するように制御信号を出力する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記基板処理装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記循環ラインには開閉弁が設けられ、前記制御部は、前記処理容器内の流体を循環ラインに循環させた後、前記開閉弁を閉じ、次いで、前記供給ラインから処理流体を供給して当該処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気に維持しながら排出ラインより流体を抜き出し、その後、当該供給ラインからの処理流体の供給を止めて排出ラインより処理容器内の流体を排出するように制御信号を出力すること。
(b)前記循環ポンプは、遠心ポンプ、軸流ポンプまたはタービンポンプであること。
(c)前記循環ポンプは、回転軸周りに回転して流体を送り出す羽根車と、前記回転軸を回転させる回転駆動部とを備えること。
(d)前記循環ポンプは、前記回転駆動部に設けられ、前記回転軸を保持する玉軸受と、これら回転軸及び玉軸受を収容し、前記羽根車を収容するポンプケーシングに連通する軸受ケーシングと、を備え、この軸受ケーシングには、前記ポンプケーシングから軸受ケーシングに流れ込んだ流体の一部を抜き出すための抜き出しラインが接続されていること。
(e)前記供給ラインから分岐して前記循環ポンプに接続された分岐ラインを備え、前記分岐ラインから循環ポンプに処理流体を供給しながら、前記抜き出しラインより流体が抜き出されること。
(f)前記供給ラインから処理容器に処理流体を供給しながら、前記抜き出しラインより流体が抜き出されること。
(g)前記昇圧ポンプはシリンジポンプまたはダイヤフラムポンプであること。
(h)前記処理容器内から排出される流体を、前記乾燥防止用の液体の沸点以上の温度に加熱する加熱部を備えたこと。
(i)前記処理容器または循環ライン内の流体の密度を測定する密度計を備え、前記制御部は、前記流体の密度が、処理容器内の乾燥防止用の液体が処理流体で置換されたことを示す予め定めた密度となった後、前記排出ラインより処理容器内の流体を排出すること。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、処理容器に処理流体を供給する昇圧ポンプよりも吐出流量の大きな循環ポンプを利用して当該処理容器内の流体を循環させるので、処理容器内の流体の流れを乱して処理流体と基板表面の液体との混合を促進することができる。この結果、処理流体が攪拌されると共に、処理流体に抽出された液体が飽和しにくくなり、比較的短い時間で基板表面の液体を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係わるウエハ処理装置の構成を示す説明図である。
【図2】前記ウエハ処理装置に設けられている処理容器の外観斜視図である。
【図3】前記ウエハ処理装置の動作の流れを示すフロー図である。
【図4】前記ウエハ処理装置の第1の作用説明図である。
【図5】前記ウエハ処理装置の第2の作用説明図である。
【図6】前記ウエハ処理装置の第3の作用説明図である。
【図7】他の実施の形態に係わるウエハ処理装置の動作の流れを示すフロー図である。
【図8】前記他の実施の形態に係わるウエハ処理装置の作用説明図である。
【図9】循環ポンプを作動させたときの処理容器内の流体の密度変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態として、ウエハW表面に付着した乾燥防止用の液体を除去するウエハ処理装置(基板処理装置)の構成について図1を参照しながら説明する。ウエハ処理装置は、高圧状態の処理流体を用いてウエハW表面に付着した乾燥防止用の液体を除去する処理が行われる処理容器1と、この処理容器1に処理流体を供給するための昇圧ポンプ2が設けられた供給ライン51と、処理容器1内の流体を抜き出して、再び処理容器1に戻すための循環ポンプ3が設けられた循環ライン53と、処理容器1内の流体を排出すると共に、処理容器1内の圧力を減圧する減圧弁521が介設された排出ライン52と、を備えている。
【0014】
図2に示すように処理容器1は、ウエハWの搬入出用の開口部12が形成された筐体状の容器本体11と、処理対象のウエハWを横向きに保持する保持板16と、この保持板16を支持すると共に、ウエハWを容器本体11内に搬入したとき前記開口部12を密閉する蓋部材15とを備えている。
【0015】
容器本体11は、例えば直径300mmのウエハWを収容可能な、200〜10000cm程度の処理空間が形成された容器であり、その壁部には、供給ライン51及び循環ライン53の再供給側(循環ポンプ3の吐出側)に接続された供給ポート13と、排出ライン52及び循環ライン53の抜き出し側(循環ポンプ3の吸い込み側)に接続された排出ポート14と、を備えている。また、処理容器1には処理空間内に供給された高圧状態の処理流体から受ける内圧に抗して、容器本体11に向けて蓋部材15を押し付け、処理空間を密閉するための不図示の押圧機構が設けられている。また、処理空間内に供給された処理流体が超臨界状態や亜臨界状態の温度を保てるように、容器本体11の表面に断熱材やテープヒータなどを設けてもよい。
【0016】
処理容器1(容器本体11)の供給ポート13に接続された供給ライン51は、図1に示すように、開閉弁511と、フィルター512と、昇圧ポンプ2とを介して処理流体供給部4に接続されている。開閉弁511は、処理容器1への処理流体の供給、停止に合わせて開閉し、フィルター512は処理容器1に供給される処理流体に含まれるパーティクルを除去する。
【0017】
昇圧ポンプ2は、処理流体供給部4から供給される処理流体がガスである場合などには、高圧状態(超臨界状態や亜臨界状態)となる圧力まで処理流体を昇圧する。また、処理流体供給部4から高圧状態の処理流体が供給される場合には、処理容器1内にて当該高圧状態が維持されるように処理流体を送り出すことができる。このような能力を備えた昇圧ポンプ2としては、一般的に吐出圧力の高いシリンジポンプやダイヤフラムポンプなどが採用されるが、その吐出流量は0.01〜1L/分の範囲の例えば0.1L/分程度であり、後述する循環ポンプ3に比べて吐出流量は小さい。
【0018】
処理流体供給部4からは、ウエハW表面の液体と接触させて、当該液体を除去するための処理流体が供給される。本例の処理流体供給部4は、例えば二酸化炭素(CO:臨界温度31℃、臨界圧力7.4MPa(絶対圧))を高圧ガスの状態または高圧状態(超臨界状態や亜臨界状態)で貯蔵するボンベやタンクなどとして構成される。そして処理流体供給部4から供給されるCOが高圧ガスである場合には、昇圧ポンプ2にてCOが断熱的に圧縮されることにより、圧力、温度が上昇し、高圧状態となって処理容器1に供給される。また、COが高圧状態である場合には、処理容器1内においてもこの圧力が保たれるように処理流体が処理容器1に供給される。
【0019】
一方、処理容器1(容器本体11)の排出ポート14に接続された排出ライン52は、不図示の処理流体回収部に接続されており、処理容器1内の流体(処理流体やウエハW表面から除去された液体)が排出される。排出ライン52には減圧弁521が設けられており、減圧弁521は処理容器1の圧力を減圧すると共に、例えば処理容器1に設けられた不図示の圧力計の検出値に基づいて開度を調整し、処理容器1内の圧力を高圧状態の圧力(処理流体の臨界圧力や亜臨界状態の圧力)に維持することができる。
【0020】
上述の構成を備えたウエハ処理装置について、供給ライン51に設けられている昇圧ポンプ2は既述のように0.01〜1L/分程度と、吐出流量が比較的値小さい。このため、排出ライン52より処理容器1内の流体を排出しながら、供給ライン51より処理容器1へと連続的に処理流体を供給したとしても、例えば直径300mm程度のウエハWの表面では処理流体の流れは層流状態となる可能性が高い。
【0021】
ウエハWの表面で処理流体の流れが層流状態となっていると、ウエハWの表面と直交する方向へ流体が流れにくいため、処理流体は殆ど攪拌されず、ウエハW表面の近傍を流れる処理流体しか液体の除去に寄与することができない。この結果、液体を抽出したウエハWの表面近傍の処理流体が飽和状態となってしまうと、液体を除去する処理流体の能力が低下してしまうものと考えられる。従ってこの場合には、処理容器1に供給される処理流体の一部しか、ウエハW表面の液体を除去する処理に関与していないことになる。
【0022】
そこで本実施の形態のウエハ処理装置は、処理容器1内の流体の流れを乱して、当該流体の混合を促進することにより、多くの処理流体をウエハW表面の液体と接触させて、液体の除去能力の低下を抑えることが可能な構成を備えている。以下、当該構成の内容について説明する。
【0023】
処理容器1内の流体の混合を促進するための構成として、本例のウエハ処理装置は、処理容器1内の流体を抜き出してから再び処理容器1に戻すための循環ライン53が設けられており、この循環ライン53には、既述の昇圧ポンプ2よりも吐出流量の大きな循環ポンプ3が設けられている。図1に示すように本例の循環ライン53は、抜き出し側では排出ライン52から分岐する一方、戻し側は供給ライン51と合流しており、当該循環ライン53には、抜き出し側から順に、開閉弁531、循環ポンプ3、ラインミキサ533、開閉弁532が介設されている。
【0024】
開閉弁531、532は、処理容器1に対して循環ライン53を切り離したり、接続したりする役割を果たし、接続時には処理容器1内の流体の循環が行われる一方、切り離し時には当該循環が停止される。
【0025】
循環ポンプ3は例えば遠心ポンプが用いられ、この遠心ポンプは、回転することにより循環ライン53内の流体を処理容器1へ向けて送り出す羽根車31と、この羽根車31を回転させる回転軸32と、当該回転軸32を回転駆動する回転駆動部36とを備えている。羽根車31は、ポンプケーシング33内に収容され、ポンプケーシング33の吸込口は循環ライン53の抜き出し側の配管に接続される一方、ポンプケーシング33の吐出口は循環ライン53の戻し側の配管に接続されている。
【0026】
回転軸32は、狭い隙間を介して前記ポンプケーシング33に連通する軸受ケーシング34内に収容されていると共に、当該軸受ケーシング34内で回転軸周りに回転自在となるように、玉軸受35を介して保持されている。回転駆動部36は、回転軸32を収容する空間の外側から軸受ケーシング34を回転させることが可能であり、回転軸32と回転駆動部36とによってキャンドモータを構成している。
【0027】
羽根車31を回転させて流体を送り出す遠心式のポンプは、シリンジポンプやダイヤフラムポンプからなる昇圧ポンプ2に比べて、揚程は小さいが、吐出流量が大きい。このため、供給ライン51からの供給に比べて大流量の流体を循環ライン53に循環させることが可能であり、これにより処理容器1内の流れを乱して処理流体と液体との混合を促進することができる。本例では循環ポンプ3の吐出流量は、5〜60L/分の範囲の例えば20L/分となっている。
【0028】
ここで、回転軸32を保持する玉軸受35は、回転する回転軸32と直接接触しているのでこれらの部材が擦れ合って、パーティクルが発生するおそれがある。既述のように軸受ケーシング34及びポンプケーシング33の内部空間は連通していることから、パーティクルを含んだ流体がポンプケーシング33内に流れ込むと、当該パーティクルが処理容器1へと送り出されてウエハWに付着してしまうおそれがある。
【0029】
そこで本例の軸受ケーシング34には、軸受ケーシング34内の流体をパーティクルと共に外部へ抜き出すための抜き出しライン55が接続されている。これにより、ポンプケーシング33に流れ込んだ流体の一部が軸受ケーシング34内の空間を介して抜き出しライン55へと流れるので、軸受ケーシング34内で発生したパーティクルのポンプケーシング33内への流れ込みを抑制できる。図1に示した551は、軸受ケーシング34から抜き出される流体の流量を調節する流量調節弁である。
循環ポンプ3の吐出側の分岐ライン54に介設された533は、分岐ライン54内を流れる流体(処理流体とウエハWから除去された液体)の混合を促進するためのラインミキサである。
【0030】
さらに循環ポンプ3には、昇圧ポンプ2から処理容器1へ流れる処理流体の一部を抜き出して、ポンプケーシング33内に供給することにより、パーティクルを含む軸受ケーシング34内の流体がポンプケーシング33側へと逆流しないようにするための分岐ライン54が接続されている。分岐ライン54は、ポンプケーシング33と軸受ケーシング34との連通部の近傍に供給される。図中、541は分岐ライン54を流れる処理流体の流量を調節する流量調節弁であり、例えば0.1〜1L/分の範囲の0.5L/分程度の処理流体が供給ライン51から抜き出されて循環ポンプ3に供給される。循環ポンプとしては、遠心ポンプの他、軸流ポンプ、タービンポンプなどの比較的低揚程、大流量のポンプが用いられる。
【0031】
以上に説明した構成を備えたウエハ処理装置は、制御部6を備えている。制御部6は図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、処理容器1、昇圧ポンプ2、循環ポンプ3や各種の弁511、521、531、532、541、551に接続されている。制御部6の記憶部にはウエハ処理装置の作用、つまり、表面が乾燥防止用の液体で濡れたウエハWを処理容器1に搬入してから、処理流体により前記液体を除去し、ウエハWを取り出すまでの動作に係わる制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0032】
以下、図3のフロー図、及び図4〜図6の作用図を参照しながらウエハ処理装置の動作について説明する。上流プロセスの液処理装置にてウエハW表面の微小なごみや自然酸化膜を除去する液処理が終了すると、ウエハWの表面には例えばIPA(IsoPropyl Alcohol)などの乾燥防止用の液体が供給され、ウエハ搬送アームに受け渡されて、ウエハWは本ウエハ処理装置へと搬送される(スタート)。
【0033】
次いで、不図示の昇降ピンなどにウエハWを受け渡し、処理容器1の保持板16上に載置した後、開口部12を介してウエハWを容器本体11内に搬入し(ステップS101)、処理容器1を密閉する(ステップS102)。しかる後、図4に示すように供給ライン51の開閉弁511を開くと共に昇圧ポンプ2を稼動させて処理容器1に処理流体を供給し、処理容器1の内部が高圧状態(超臨界状態や亜臨界状態)の圧力となる、まで昇圧する(ステップS103)。なお、図6〜図8では各弁511、521、531、532、541、551が開いている場合に「O」、閉じている場合に「S」の符号を付してある。
【0034】
こうして処理容器1内が高圧状態の処理流体雰囲気となったら、循環ライン53の開閉弁531、532を開くと共に、循環ポンプ3を稼動させて処理容器1内の流体を循環させる(図5)。このとき、分岐ライン54の流量調整弁541を開いてポンプケーシング33に使用前の処理流体を供給すると共に、抜き出しライン55からは、供給ライン51及び分岐ライン54から供給される処理流体にバランスする量の流体を抜き出す。
【0035】
この結果、昇圧ポンプ2からの処理流体の供給を継続しながら、昇圧ポンプ2によって処理容器1内の流体を循環させる動作が実行される(ステップS105)。吐出量の大きな循環ポンプ3によって処理容器1内の流体を循環させることにより、処理容器1内の流体の流れを乱して処理流体と乾燥防止用の液体との混合を促進できる。この結果、ウエハW表面付近の処理流体が乾燥防止用の液体で飽和した状態となることを防ぎ、当該液体を除去する能力の低下を抑制できる。
【0036】
また、抜き出しライン55から所定の量の処理流体(高圧状態のCOと乾燥防止用の液体(IPA)との混合流体)を抜き出しつつ、供給ライン51及び分岐ライン54から処理流体(高圧状態のCO)を供給するので、循環ライン53を循環する処理流体中のIPAの濃度は、後述の実験結果(図9)に示すように徐々に低下していく。後述するように図9は、処理容器1に高圧状態のCOを供給しながら循環ポンプ3を稼動させて、処理容器1に接続された循環ライン53に当該COを循環させ、ここにIPAをパルス供給して循環ライン53を流れる流体の密度変化を計測した結果である。
【0037】
循環ライン53を流れる流体の密度変化は、図9に示すように初期段階で大きく変動(振幅)した後、この変動が収まり、やがて徐々に低下している。この変動が収まる時点(図9中に点Tと記してある)は、実際の処理においては、ウエハW表面の乾燥防止用の液体が処理流体に置換された時点であることを実験的に確認している。この時点にて循環ライン53を切り離し、処理容器1を減圧して流体を排出し、乾燥したウエハWを取り出す操作を実行してもよいが、この場合は処理流体中に抽出されたIPAが凝縮してウエハWに再付着するおそれがある。従って、循環ライン53を循環する処理流体に含まれるIPAの総量が十分に低い値となるまで循環を継続することが望ましい。既述のように循環ポンプ3は昇圧ポンプ2よりも吐出流量が大きいので、置換後に処理流体の循環を継続する時間を加えたとしても、循環を行わない場合に比べて処理流体の置換、排出(減圧)までに要する時間を短くできることを確認している。
【0038】
こうしてウエハW表面の乾燥防止用液体を除去するのに十分な、予め設定した時間が経過したら、昇圧ポンプ2及び循環ポンプ3を停止し、処理流体の供給並びに循環を止める(ステップS106)。そして図6に示すように供給ライン51や循環ライン53側の開閉弁511、531、532を閉じる一方、排出ライン52の減圧弁521を開いて処理容器1内の流体を排出し、大気圧まで減圧する(ステップS107)。この結果、処理流体中に抽出された液体は、処理流体と共に処理容器1の外に排出され、表面の液体が除去され、乾燥した状態のウエハWが得られる。
【0039】
このとき、例えば処理容器1にテープヒータなどの加熱部を設け、処理容器1や循環ライン52を流れる流体(処理流体と乾燥防止用の混合流体)の温度を、乾燥防止用の液体の沸点(IPAの場合は82.4℃)以上に加熱しておいてもよい。これにより、処理流体の排出時における乾燥防止用の液体の凝縮、ウエハWへの再付着を防止し、再付着に伴うパターン倒れの発生を防止できる。
処理容器1内の圧力が大気圧まで下がったら、保持板16を移動させてウエハWを搬出し(ステップS108)、外部の搬送アームにウエハWを受け渡して処理を終える(エンド)。
【0040】
本実施の形態に係わるウエハ処理装置によれば以下の効果がある。処理容器1に処理流体を供給する昇圧ポンプ2よりも吐出流量の大きな循環ポンプ3を利用して当該処理容器1内の流体を循環させるので、処理容器1内の流体の流れを乱して処理流体とウエハW表面の液体との混合を促進することができる。この結果、この結果、処理流体が攪拌されると共に、処理流体に抽出された液体が飽和しにくくなり、比較的短い時間でウエハW表面の液体を除去することが可能となる。
【0041】
図7及び図8は、図3及び図4〜図6を用いて説明したウエハ処理装置の動作の他の例を示している。この例では、循環ライン53に処理容器1内の流体を流して処理流体と液体との混合を促進する動作を実行した後、この循環を止めて循環ライン53を処理容器1から切り離し(図7のステップS106A)、次いで供給ライン51からの処理流体の供給を継続しながら、処理容器1内が高圧状態の処理雰囲気に保たれるように減圧弁521の開度を調節して処理容器1内の流体を抜き出す動作(図7のステップS106B、図8)が加わっている。
【0042】
処理容器1内の処理流体とウエハW表面の液体とを十分に混合したあとは、当該混合流体と供給ライン51から供給される処理流体とをあまり混合させず、層流の状態で処理容器1から押し出した方が、処理容器1内から前記液体を効率的に抜き出すことができる。そこで、後述の実施例に示すように、ウエハW上の乾燥防止用の液体が処理流体に置換されるタイミングを予め把握しておき、このタイミングに合わせて循環ライン53を切り離し、排出ライン52から流体を抜き出すことにより、循環ライン53を循環させながら処理容器1内の流体を抜き出す場合に比べて、比較的短時間で処理容器1内の乾燥防止用の液体の濃度を低減することができる。
【0043】
またこのように層流の状態で処理容器1内の混合流体を押し出した方が、当該混合流体を押し出すために消費される処理流体の量が少なくて済む。さらに、処理容器1から循環ライン53が切り離されているので、循環ライン53や循環ポンプ3のポンプケーシング33内の空間まで、供給ライン51から供給した処理流体で置換する必要がなく、この点でも処理流体の使用量を低減できる。但し、循環ライン53を処理容器1から切り離すことは、必須の条件ではなく、例えば循環ポンプ3の停止だけを行ってから排出ライン52の減圧弁521を開いて処理容器1内を処理流体で置換してもよい。
【0044】
こうして、図8に示した状態で予め設定された時間だけ処理容器1内を処理流体で置換する動作を行ったら、供給ライン51からの処理流体の供給を停止して(図7のステップS106C)、処理容器1内の流体を排出し大気圧まで減圧後(ステップS107)、ウエハWを搬出する動作(ステップS108)については、図3のフロー図と同じである。
【0045】
ここで、循環ライン53に処理容器1内の流体を循環させる時間は、処理容器1内の処理流体と乾燥防止用の液体とが十分に混合されるタイミングや、処理容器1内の流体が供給ライン51から供給される新たな処理流体で置換されるタイミングを予備実験などで予め把握しておくとよい。また、例えば処理容器1や循環ライン53に密度計534(図1に併記してある)を設置し、制御部6などを介してこれらの領域を流れる流体の密度変化を監視しながら上記のタイミングを把握してもよい。
【0046】
ここで、例えば循環ポンプ3のポンプケーシング33と軸受ケーシング34との間を高圧雰囲気下でも分離可能な磁性流体シールなどがあれば、抜き出しライン55を設けなくてもよい。分岐ライン54を設けることについても必須の要件ではなく、軸受ケーシング34からのパーティクルの混入量などに応じて採用すればよい。
【0047】
さらに上述の各実施の形態では、供給ライン51から継続的に処理流体を供給しながら、循環ライン53に流体を循環させたり、排出ライン52から流体を抜き出したりして、処理容器1内を処理流体で混合、置換し、ウエハWに付着していた液体を排出してから、大気圧に減圧する例を説明した。しかし、例えば処理容器1に十分量の処理流体が供給され、処理容器1を大気圧に戻しても、当該処理流体に抽出された液体がウエハW表面に再凝縮しない条件となっていれば、供給ライン51からの処理流体の供給及び抜き出しライン55や排出ライン52からの流体の抜き出し継続は必須の要件ではない。
【0048】
例えば、供給ライン51から処理流体を供給した後、当該供給を停止し、次いで循環ポンプ3を稼動して循環ライン53による循環のみを行ってから、処理容器1を大気圧まで減圧し、液体を除去したウエハWを得てもよい。このとき、液体の再凝縮を防止するため処理容器1内の雰囲気を加熱してもよい。
【0049】
この他、処理容器1に供給される処理流体はCOなど、ガス状態や高圧状態(超臨界状態や亜臨界状態)の流体に限定されない。例えば、IPAやHFE(Hydro Fluoro Ether)のように、液体の処理流体を供給してもよい。このとき、昇圧ポンプ2によって昇圧するだけでは処理流体が高圧状態とならない場合には、処理容器1を加熱してもよい。
また、ウエハW表面の乾燥防止用の液体についてもIPAに限られるものではなく、HFEや水であってもよい。
【実施例】
【0050】
(実験)
図1に示したウエハ処理装置に、昇圧ポンプ2より0.5L/分でCOを供給しながら、循環ポンプ3を稼動させ、処理容器1内の流体を20L/分で循環ライン53に循環させた。この処理容器1内に20mLのIPAをパルス供給して循環ライン53を流れる流体の密度変化を計測した。処理容器1内の処理空間の容積は1000cmであり、処理容器1の温度は58℃、圧力は15MPa(ゲージ圧)である。
【0051】
実験の結果を図9に示す。当該図によれば、IPAを供給した当初は流体密度が大きく変動しているが、この密度変動は徐々に減衰し、1分程度で緩やかな密度変化となっている。そこで、このタイミングにて流体の循環を停止し、排出ライン52からの排出に切り替えれば、処理容器1内の流れが層流になって、IPAと混合された処理流体が押し出されることにより、排出ライン52を流れる流体の密度変化は、破線で示したように急速に低下するものと考えられる。
【符号の説明】
【0052】
W ウエハ
1 処理容器
2 昇圧ポンプ
3 循環ポンプ
31 羽根車
32 回転軸
33 ポンプケーシング
34 軸受ケーシング
35 玉軸受
36 回転駆動部
4 処理流体供給部
51 供給ライン
52 排出ライン
521 減圧弁
53 循環ライン
54 分岐ライン
55 抜き出しライン
6 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の乾燥防止用の液体に、超臨界状態または亜臨界状態である高圧状態の処理流体を接触させて、前記乾燥防止用の液体を除去する処理が行われる処理容器と、
この処理容器に処理流体を供給する供給ラインに設けられ、前記処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気とするための昇圧ポンプと、
前記処理容器内の流体を循環させるための循環ラインと、
この循環ラインに設けられ、前記昇圧ポンプよりも吐出流量の大きな循環ポンプと、
前記処理容器内の圧力を減圧するための減圧弁が設けられ、当該処理容器内の流体を排出するための排出ラインと、
前記処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気とし、次いで、前記処理容器内の流体を循環ラインに循環させた後、前記排出ラインより処理容器内の流体を排出するように制御信号を出力する制御部と、を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記循環ラインには開閉弁が設けられ、
前記制御部は、前記処理容器内の流体を循環ラインに循環させた後、前記開閉弁を閉じ、次いで、前記供給ラインから処理流体を供給して当該処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気に維持しながら排出ラインより流体を抜き出し、その後、当該供給ラインからの処理流体の供給を止めて排出ラインより処理容器内の流体を排出するように制御信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記循環ポンプは、遠心ポンプ、軸流ポンプまたはタービンポンプであることを特徴とする請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記循環ポンプは、回転軸周りに回転して流体を送り出す羽根車と、前記回転軸を回転させる回転駆動部とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記循環ポンプは、前記回転駆動部に設けられ、前記回転軸を保持する玉軸受と、これら回転軸及び玉軸受を収容し、前記羽根車を収容するポンプケーシングに連通する軸受ケーシングと、を備え、
この軸受ケーシングには、前記ポンプケーシングから軸受ケーシングに流れ込んだ流体の一部を抜き出すための抜き出しラインが接続されていることを特徴とする請求項4に記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記供給ラインから分岐して前記循環ポンプに接続された分岐ラインを備え、前記分岐ラインから循環ポンプに処理流体を供給しながら、前記抜き出しラインより流体が抜き出されることを特徴とする請求項5に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記供給ラインから処理容器に処理流体を供給しながら、前記抜き出しラインより流体が抜き出されることを特徴とする請求項5または6に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記昇圧ポンプはシリンジポンプまたはダイヤフラムポンプであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記処理容器内から排出される流体を、前記乾燥防止用の液体の沸点以上の温度に加熱する加熱部を備えたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一つに記載の基板処理装置。
【請求項10】
前記処理容器または循環ライン内の流体の密度を測定する密度計を備え、
前記制御部は、前記流体の密度が、処理容器内の乾燥防止用の液体が処理流体で置換されたことを示す予め定めた密度となった後、前記排出ラインより処理容器内の流体を排出することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一つに記載の基板処理装置。
【請求項11】
処理容器内にて、基板表面の乾燥防止用の液体に、超臨界状態または亜臨界状態である高圧状態の処理流体を接触させて、前記乾燥防止用の液体を除去する基板処理方法であって、
昇圧ポンプが介設された供給ラインより処理容器に処理流体を供給して、前記処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気とする工程と、
次いで、前記昇圧ポンプよりも吐出流量の大きな循環ポンプが介設された循環ラインに前記処理容器内の流体を循環させる工程と、
次いで、前記処理容器に接続され、当該処理容器内の圧力を減圧するための減圧弁が設けられた排出ラインより当該処理容器内の流体を排出する工程と、を含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項12】
前記処理容器内の流体を循環ラインに循環させた後、この循環を停止する工程と、
次いで、前記供給ラインから処理流体を供給して当該処理容器内を高圧状態の処理流体雰囲気に維持しながら排出ラインより流体を抜き出す工程と、
その後、当該供給ラインからの処理流体の供給を止めて排出ラインより処理容器内の流体を排出する工程と、を含むことを特徴とする請求項11に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記流体を排出する工程にて処理容器から排出される流体を、前記乾燥防止用の液体の沸点以上の温度に加熱する工程を含むことを特徴とする請求項11または12に記載の基板処理方法。
【請求項14】
基板表面の乾燥防止用の液体に、超臨界状態または亜臨界状態である高圧状態の処理流体を接触させて、前記乾燥防止用の液体を除去する処理が行われる基板処理装置に用いられるコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記プログラムは請求項11ないし13のいずれか一つに記載された基板処理方法を実行するためにステップが組まれていることを特徴とする記憶媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−243776(P2012−243776A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108653(P2011−108653)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】