変速機のシフト指示方法
【課題】ディーゼルエンジン、手動変速機及びDPFを備えた車両において、DPF再生処理中に車両の走行状態に応じて、運転者に最適なギア段を選択させる変速機のシフト指示方法を提供することである。
【解決手段】 ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、燃料噴射量、エンジン回転数及び車両の加速度に応じて前記基本ギア段を補正して目標ギア段を算出し、前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示するように構成する。
【解決手段】 ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、燃料噴射量、エンジン回転数及び車両の加速度に応じて前記基本ギア段を補正して目標ギア段を算出し、前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン及び手動変速機を備えた車両における変速機のシフト指示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機を備える自動車の走行において、運転者に自車の燃費の良否に係る情報が与えられていない場合には、一般に運転者は自己の経験による運転感覚で車速に応じて適宜に変速機の変速シフトを行い且つアクセルペダルを操作するため、運転者にとって燃費を最小にするという最適燃費の状態で走行することはなかなか困難である。
【0003】
現在自動車の経済性を高める観点及びCO2低減を図る目的で、常に良好な燃費状態による走行が要望されるが、これを実現するためには、走行中常に運転者に対しその走行状態が最適な燃費状態にあるか否かを知らせ得るようにし、且つ燃費が悪い状態にある時には変速機のギア段のシフトを行うように運転者に指示することが必要とされる。
【0004】
このようにして運転者に対し燃費の良否に係る情報及びこの情報に基づく変速シフトの指示が与えられれば、運転者は係る指示に従って良好な燃費状態を保持すべく自動車を運転することになるであろう。
【0005】
よって、従来からガソリンエンジン及び手動変速機を備える自動車において、自動車の車速、給気管負圧、エンジン回転数等に応じて予め設定値を与えて各変速段毎に燃費の良好な走行条件の領域を定め、運転者が所定の変速段を選択して走行した時にその燃費状態が上記領域より外れた場合、これを点灯表示により運転者に知らせ且つその点灯表示によって変速段のシフトアップ又はシフトダウンを促すようにした変速機のシフト指示方法が幾つか提案され、実用化されている。
【0006】
一方、ディーゼルエンジンを搭載した自動車の需要が、例えばヨーロッパ市場等において増加している。ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中には、カーボンを主成分とする粒子状物質(PM)が比較的多く含まれている。
【0007】
排気ガス中に含まれるPMは、大気汚染物質の一つとして規制されており、その低減が望まれている。そこで、従来よりディーゼルエンジンの下流側にPMの捕集及び除去を行うディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ(DPF)を設置し、このDPFを運転状況に応じて好的に制御する技術が種々提案されている。
【0008】
例えば、運転中にDPFの再生を強制的に行う技術が知られている。このDPFの再生技術では、PMがDPF内に一定以上溜まった場合に、エンジンにかかる負荷を増加させ、エンジン出力を上昇させて排気ガスの温度を高める。
【0009】
これにより、DPFの床温を粒子状物質(PM)の燃焼温度まで上昇させ、その状態を所定時間維持することでDPF内に溜まったPMを燃焼させて再生処理を完了する。
【特許文献1】特開昭63−23414号公報
【特許文献2】特開平5−27790号公報
【特許文献3】特開昭62−29254号公報
【特許文献4】特開平1−38013号公報
【特許文献5】特開平5−27788号公報
【特許文献6】特開平5−41867号公報
【特許文献7】特開2004−190641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した各特許文献で提案されている従来の変速機のシフト指示方法は、全てガソリンエンジンを搭載した車両の変速機のシフト指示方法であり、ディーゼルエンジンを搭載した車両についてのシフト指示方法は提案されていない。
【0011】
また、上述したように、DPFに捕集された粒子状物質(PM)が一定量以上溜まった場合、PMを燃焼させてDPFの再生処理を行う必要があるが、このDPFの再生処理中の変速機のシフト指示方法は提案されていない。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジン、手動変速機及びDPFを備えた車両において、DPF再生処理中の車両の運転状態を判断し、運転者へ適切なギア段を選択させる変速機のシフト指示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明によると、ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、燃料噴射量、エンジン回転数及び車両の加速度に応じて前記基本ギア段を補正して目標ギア段を算出し、前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法が提供される。
【0014】
請求項2記載の発明によると、ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、実ギア段及びエンジン回転数に応じて平地走行時の燃料噴射量を算出し、実燃料噴射量を前記平地走行時の燃料噴射量で除算することにより負荷度合い係数を算出し、前記負荷度合い係数から負荷補正係数を算出し、車両の加速度に応じて加速補正係数を算出し、前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、前記基本ギア段に前記負荷補正係数及び加速補正係数を乗算することにより目標ギア段を算出し、前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によると、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生処理中は、基本ギア段のアップシフトが通常走行時から低車速側にずらされたマップを使用して車速に応じた基本ギア段を算出するため、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタの再生処理を効率よく実施しながら、運転者に最も燃費性能の良い最適なギア段を指示することが可能となる。
【0016】
請求項2記載の発明によると、基本ギア段を補正して目標ギア段を算出する複数のステップを含んでおり、請求項1記載の発明と同様な効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、本発明実施形態の目標ギア段算出方法について説明する。ディーゼル・パーティキュレイト・フィルター(DPF)再生中でない通常の走行時には、図2に示すような第1マップ2により車速に応じた基本ギア段が予め設定されている。
【0018】
一方、DPF再生中には、図3に示す第2マップ4により車速に応じた基本ギア段が予め設定されている。図3に示すDPF再生時の第2マップ4は、図2に示す通常走行時の第1マップ2に比較して変速段の切り換えを低車速側にある所定量移動したものである。
【0019】
これにより、アップシフトを早めに促し、排気ガスを高温にしてDPFに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼させ、DPFの再生を促すものである。
【0020】
図4を参照すると、ディーゼルエンジンにおける負荷の違いによる温度分布が示されている。横軸にエンジン回転数をとり、縦軸には燃料噴射量及び排気ガスの温度がとられている。
【0021】
ディーゼルエンジンにおいては、エンジンの負荷は燃料噴射量に概略比例することが知られている。よって、各変速段において燃料噴射量を増大すると、エンジン回転数が増加し、排気ガスの温度は上昇する。また、同一燃料噴射量では低速段よりも高速段の方が排気ガスの温度が高いことが理解される。
【0022】
よって、DPFに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼させてDPFを再生するためには、なるべく高い変速段で車両を運転することが望ましい。この知見に鑑みて、図3に示すDPF再生時の第2マップでは、通常走行時よりも低い車速で基本ギア段がアップシフトするように設定されている。
【0023】
再び図1を参照すると、DPFステータスに応じて、スイッチ6は第1マップ2と第2マップ4を切り換えて、車速に応じた基本ギア段を算出する。即ち、DPFが再生中でない通常走行時には、第1マップ2を選択して車速に応じた基本ギア段を算出し、DPF再生中の場合には、第2マップ4を選択して車速に応じた基本ギア段を算出する。
【0024】
一方、現在走行している実ギア段とエンジン回転数に基づいて、図5に示す第3マップ8から平地走行時負荷(R/L)での燃料噴射量、即ちR/L噴射量を算出する。そして、除算器10で現在実際噴射している実噴射量をR/L噴射量で除算することにより、負荷度合い係数を求める。この負荷度合い係数から、図6に示す第4マップ12を参照して、負荷補正係数を算出する。
【0025】
更に、車両の加速度に応じて、図7に示す第5マップ14により加速補正係数を算出する。乗算器16により負荷補正係数と加速補正係数を掛けて最終負荷補正係数を求める。最後に、乗算器18で第1マップ2又は第2マップ4により算出した基本ギア段に最終負荷補正係数を掛け、目標ギア段(補正後ギア段)を算出する。
【0026】
このようにして求めた目標ギア段が現在走行中の実ギア段よりも高ければ、インストルメントパネルに設けられた上向きのシフトインジケータランプ(SIL)を点灯してアップシフトをするように運転者に指示し、低ければ下向きのSILを点灯してダウンシフトをするように運転者に指示する。このSILの点灯指示に基づき運転者がアップシフト又はダウンシフトすることにより、燃費の向上を図ることができる。
【0027】
次に、図8乃至図11のフローチャートを参照して、本発明実施形態の変速機のシフト指示方法について更に説明する。まず、図8のメインルーチンのステップS10において、負荷補正係数を算出する。この負荷補正係数は図9に示すサブルーチン1を実行することにより算出される。
【0028】
図9に示すサブルーチン1のステップ20において、まずR/L噴射量を算出する。即ち、実ギア段及びエンジン回転数に応じて図5に示した第3マップからR/L噴射量を算出する。
【0029】
次いで、ステップ21で負荷度合い係数を算出する。即ち、実噴射量をR/L噴射量で割ることにより、負荷度合い係数を算出する。次いでステップ22に進んで図6に示した第4マップから負荷補正係数を算出する。
【0030】
このようにサブルーチン1を実行して負荷補正係数を算出した後、メインルーチンのステップS11で図7に示す第5マップから加速度に応じた加速補正係数を算出する。次いで、ステップS12に進んで図10に示すサブルーチン2を実行することにより基本ギア段を算出する。
【0031】
図10に示すサブルーチン2のステップS30において、DPF再生ステータス=1か否か、即ちDPFが再生中か否かを判定する。DPFは排気管中に設けられており、このDPFで捕集する粒子状物質(PM)の堆積量は図11のフローチャートにより常時算出されている。
【0032】
即ち、図11のフローチャートのステップS40において、燃料噴射量、エンジン回転数、エンジン水温等の条件によりシミュレーションして、常時DPFに堆積されるPMの量を算出する。
【0033】
ステップS41において、PM堆積量が所定値、例えば10グラム以下であればステップS42に進んでDPF再生ステータスを0にし、通常制御を実施する。一方、ステップS41でPMの堆積量が所定値、例えば10グラムよりも多ければステップS43に進んでDPF再生ステータスを1にし、DPF再生制御を実施する。
【0034】
図10のステップS30において、DPF再生ステータス=0と判定された場合には、ステップS31へ進んで図2に示す第1マップから車速に応じた通常走行時の基本ギア段を算出する。
【0035】
一方、ステップS30において、DPF再生ステータス=1と判定された場合には、ステップS32へ進んで図3に示す第2マップによりDPF再生中の車速に応じた基本ギア段を算出する。
【0036】
即ち、ステップS30でDPF再生中と判定された場合には、車速に応じた基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じた基本ギア段が低速側にずらされた第2のマップに切り換えて、この第2のマップに基づき車速に応じた基本ギア段を算出する。
【0037】
メインルーチンのステップS12でサブルーチン2を実行して通常走行時又はDPF再生時の基本ギア段を算出した後、ステップS13へ進んで基本ギア段に負荷補正係数及び加速補正係数を掛けることにより、目標ギア段(補正後ギア段)を算出する。
【0038】
図12を参照すると、通常走行時のSIL作動チャートが示されている。直線19より左側が緩加速時のSIL作動チャートであり、右側が急加速時のSIL作動チャートである。
【0039】
図12から明らかなように、矢印20で示すように補正後ギア段(目標ギア段)と実ギア段との間に偏差があると、SIL点灯ステータスがオンとなり、SILが点灯して運転者にシフトアップを促すことになる。
【0040】
緩加速の場合、補正量は少なくシフトアップタイミングもほぼ基本ギア段通りに行われる。一方、急加速の場合には、上述した負荷補正及び加速補正によりシフトアップタイミングが大幅に遅らされる。
【0041】
一方、特に図示しないがDPF再生時のSIL作動チャートでは、第2マップ4に基づき基本ギア段が低車速側でアップシフトするように設定されているため、燃費性能を多少犠牲にしてアップシフトを早めに促し、排気ガスを高温にしてDPFに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼させ、DPFの早期の再生を促すことができる。
【0042】
図13はSIL(シフトインジケータランプ)30を有するインストルメントパネル24の一例を示している。インストルメントパネル24には速度メータ26と回転数メータ28が配置されており、回転数メータ28中にSIL30が設けられている。
【0043】
SIL30は上向きランプ32と下向きランプ34とを有しており、上向きランプ32が点灯された場合には運転者にシフトアップを促し、下向きランプ34が点灯された場合には運転者にシフトダウンを促すようになっている。
【0044】
よって、運転者はSIL30の指示に従ってシフトアップ、シフトダウンをすることにより、燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明実施形態に係る変速機のシフト指示方法を説明するための図である。
【図2】通常走行時の車速に応じた基本ギア段を算出するためのマップである。
【図3】DPF再生時の車速に応じた基本ギア段を算出するためのマップである。
【図4】変速段に応じた燃料噴射量と排気ガスの温度との関係を示す図である。
【図5】ギア段毎のエンジン回転数とR/L噴射量との関係を示すマップである。
【図6】変速段に応じた負荷度合い係数と負荷補正係数との関係を示すマップである。
【図7】加速度の程度と加速補正係数との関係を示すマップである。
【図8】メインルーチンのフローチャートである。
【図9】サブルーチン1のフローチャートである。
【図10】サブルーチン2のフローチャートである。
【図11】PM堆積量算出フローチャートである。
【図12】通常走行時のSIL作動チャートである。
【図13】SILを有するインストルメントパネルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
2 第1マップ
4 第2マップ
6 スイッチ
8 第3マップ
10 除算器
12 第4マップ
14 第5マップ
16,18 乗算器
20 偏差
30 SIL
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン及び手動変速機を備えた車両における変速機のシフト指示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機を備える自動車の走行において、運転者に自車の燃費の良否に係る情報が与えられていない場合には、一般に運転者は自己の経験による運転感覚で車速に応じて適宜に変速機の変速シフトを行い且つアクセルペダルを操作するため、運転者にとって燃費を最小にするという最適燃費の状態で走行することはなかなか困難である。
【0003】
現在自動車の経済性を高める観点及びCO2低減を図る目的で、常に良好な燃費状態による走行が要望されるが、これを実現するためには、走行中常に運転者に対しその走行状態が最適な燃費状態にあるか否かを知らせ得るようにし、且つ燃費が悪い状態にある時には変速機のギア段のシフトを行うように運転者に指示することが必要とされる。
【0004】
このようにして運転者に対し燃費の良否に係る情報及びこの情報に基づく変速シフトの指示が与えられれば、運転者は係る指示に従って良好な燃費状態を保持すべく自動車を運転することになるであろう。
【0005】
よって、従来からガソリンエンジン及び手動変速機を備える自動車において、自動車の車速、給気管負圧、エンジン回転数等に応じて予め設定値を与えて各変速段毎に燃費の良好な走行条件の領域を定め、運転者が所定の変速段を選択して走行した時にその燃費状態が上記領域より外れた場合、これを点灯表示により運転者に知らせ且つその点灯表示によって変速段のシフトアップ又はシフトダウンを促すようにした変速機のシフト指示方法が幾つか提案され、実用化されている。
【0006】
一方、ディーゼルエンジンを搭載した自動車の需要が、例えばヨーロッパ市場等において増加している。ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中には、カーボンを主成分とする粒子状物質(PM)が比較的多く含まれている。
【0007】
排気ガス中に含まれるPMは、大気汚染物質の一つとして規制されており、その低減が望まれている。そこで、従来よりディーゼルエンジンの下流側にPMの捕集及び除去を行うディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ(DPF)を設置し、このDPFを運転状況に応じて好的に制御する技術が種々提案されている。
【0008】
例えば、運転中にDPFの再生を強制的に行う技術が知られている。このDPFの再生技術では、PMがDPF内に一定以上溜まった場合に、エンジンにかかる負荷を増加させ、エンジン出力を上昇させて排気ガスの温度を高める。
【0009】
これにより、DPFの床温を粒子状物質(PM)の燃焼温度まで上昇させ、その状態を所定時間維持することでDPF内に溜まったPMを燃焼させて再生処理を完了する。
【特許文献1】特開昭63−23414号公報
【特許文献2】特開平5−27790号公報
【特許文献3】特開昭62−29254号公報
【特許文献4】特開平1−38013号公報
【特許文献5】特開平5−27788号公報
【特許文献6】特開平5−41867号公報
【特許文献7】特開2004−190641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した各特許文献で提案されている従来の変速機のシフト指示方法は、全てガソリンエンジンを搭載した車両の変速機のシフト指示方法であり、ディーゼルエンジンを搭載した車両についてのシフト指示方法は提案されていない。
【0011】
また、上述したように、DPFに捕集された粒子状物質(PM)が一定量以上溜まった場合、PMを燃焼させてDPFの再生処理を行う必要があるが、このDPFの再生処理中の変速機のシフト指示方法は提案されていない。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジン、手動変速機及びDPFを備えた車両において、DPF再生処理中の車両の運転状態を判断し、運転者へ適切なギア段を選択させる変速機のシフト指示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明によると、ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、燃料噴射量、エンジン回転数及び車両の加速度に応じて前記基本ギア段を補正して目標ギア段を算出し、前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法が提供される。
【0014】
請求項2記載の発明によると、ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、実ギア段及びエンジン回転数に応じて平地走行時の燃料噴射量を算出し、実燃料噴射量を前記平地走行時の燃料噴射量で除算することにより負荷度合い係数を算出し、前記負荷度合い係数から負荷補正係数を算出し、車両の加速度に応じて加速補正係数を算出し、前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、前記基本ギア段に前記負荷補正係数及び加速補正係数を乗算することにより目標ギア段を算出し、前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によると、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生処理中は、基本ギア段のアップシフトが通常走行時から低車速側にずらされたマップを使用して車速に応じた基本ギア段を算出するため、ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタの再生処理を効率よく実施しながら、運転者に最も燃費性能の良い最適なギア段を指示することが可能となる。
【0016】
請求項2記載の発明によると、基本ギア段を補正して目標ギア段を算出する複数のステップを含んでおり、請求項1記載の発明と同様な効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、本発明実施形態の目標ギア段算出方法について説明する。ディーゼル・パーティキュレイト・フィルター(DPF)再生中でない通常の走行時には、図2に示すような第1マップ2により車速に応じた基本ギア段が予め設定されている。
【0018】
一方、DPF再生中には、図3に示す第2マップ4により車速に応じた基本ギア段が予め設定されている。図3に示すDPF再生時の第2マップ4は、図2に示す通常走行時の第1マップ2に比較して変速段の切り換えを低車速側にある所定量移動したものである。
【0019】
これにより、アップシフトを早めに促し、排気ガスを高温にしてDPFに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼させ、DPFの再生を促すものである。
【0020】
図4を参照すると、ディーゼルエンジンにおける負荷の違いによる温度分布が示されている。横軸にエンジン回転数をとり、縦軸には燃料噴射量及び排気ガスの温度がとられている。
【0021】
ディーゼルエンジンにおいては、エンジンの負荷は燃料噴射量に概略比例することが知られている。よって、各変速段において燃料噴射量を増大すると、エンジン回転数が増加し、排気ガスの温度は上昇する。また、同一燃料噴射量では低速段よりも高速段の方が排気ガスの温度が高いことが理解される。
【0022】
よって、DPFに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼させてDPFを再生するためには、なるべく高い変速段で車両を運転することが望ましい。この知見に鑑みて、図3に示すDPF再生時の第2マップでは、通常走行時よりも低い車速で基本ギア段がアップシフトするように設定されている。
【0023】
再び図1を参照すると、DPFステータスに応じて、スイッチ6は第1マップ2と第2マップ4を切り換えて、車速に応じた基本ギア段を算出する。即ち、DPFが再生中でない通常走行時には、第1マップ2を選択して車速に応じた基本ギア段を算出し、DPF再生中の場合には、第2マップ4を選択して車速に応じた基本ギア段を算出する。
【0024】
一方、現在走行している実ギア段とエンジン回転数に基づいて、図5に示す第3マップ8から平地走行時負荷(R/L)での燃料噴射量、即ちR/L噴射量を算出する。そして、除算器10で現在実際噴射している実噴射量をR/L噴射量で除算することにより、負荷度合い係数を求める。この負荷度合い係数から、図6に示す第4マップ12を参照して、負荷補正係数を算出する。
【0025】
更に、車両の加速度に応じて、図7に示す第5マップ14により加速補正係数を算出する。乗算器16により負荷補正係数と加速補正係数を掛けて最終負荷補正係数を求める。最後に、乗算器18で第1マップ2又は第2マップ4により算出した基本ギア段に最終負荷補正係数を掛け、目標ギア段(補正後ギア段)を算出する。
【0026】
このようにして求めた目標ギア段が現在走行中の実ギア段よりも高ければ、インストルメントパネルに設けられた上向きのシフトインジケータランプ(SIL)を点灯してアップシフトをするように運転者に指示し、低ければ下向きのSILを点灯してダウンシフトをするように運転者に指示する。このSILの点灯指示に基づき運転者がアップシフト又はダウンシフトすることにより、燃費の向上を図ることができる。
【0027】
次に、図8乃至図11のフローチャートを参照して、本発明実施形態の変速機のシフト指示方法について更に説明する。まず、図8のメインルーチンのステップS10において、負荷補正係数を算出する。この負荷補正係数は図9に示すサブルーチン1を実行することにより算出される。
【0028】
図9に示すサブルーチン1のステップ20において、まずR/L噴射量を算出する。即ち、実ギア段及びエンジン回転数に応じて図5に示した第3マップからR/L噴射量を算出する。
【0029】
次いで、ステップ21で負荷度合い係数を算出する。即ち、実噴射量をR/L噴射量で割ることにより、負荷度合い係数を算出する。次いでステップ22に進んで図6に示した第4マップから負荷補正係数を算出する。
【0030】
このようにサブルーチン1を実行して負荷補正係数を算出した後、メインルーチンのステップS11で図7に示す第5マップから加速度に応じた加速補正係数を算出する。次いで、ステップS12に進んで図10に示すサブルーチン2を実行することにより基本ギア段を算出する。
【0031】
図10に示すサブルーチン2のステップS30において、DPF再生ステータス=1か否か、即ちDPFが再生中か否かを判定する。DPFは排気管中に設けられており、このDPFで捕集する粒子状物質(PM)の堆積量は図11のフローチャートにより常時算出されている。
【0032】
即ち、図11のフローチャートのステップS40において、燃料噴射量、エンジン回転数、エンジン水温等の条件によりシミュレーションして、常時DPFに堆積されるPMの量を算出する。
【0033】
ステップS41において、PM堆積量が所定値、例えば10グラム以下であればステップS42に進んでDPF再生ステータスを0にし、通常制御を実施する。一方、ステップS41でPMの堆積量が所定値、例えば10グラムよりも多ければステップS43に進んでDPF再生ステータスを1にし、DPF再生制御を実施する。
【0034】
図10のステップS30において、DPF再生ステータス=0と判定された場合には、ステップS31へ進んで図2に示す第1マップから車速に応じた通常走行時の基本ギア段を算出する。
【0035】
一方、ステップS30において、DPF再生ステータス=1と判定された場合には、ステップS32へ進んで図3に示す第2マップによりDPF再生中の車速に応じた基本ギア段を算出する。
【0036】
即ち、ステップS30でDPF再生中と判定された場合には、車速に応じた基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じた基本ギア段が低速側にずらされた第2のマップに切り換えて、この第2のマップに基づき車速に応じた基本ギア段を算出する。
【0037】
メインルーチンのステップS12でサブルーチン2を実行して通常走行時又はDPF再生時の基本ギア段を算出した後、ステップS13へ進んで基本ギア段に負荷補正係数及び加速補正係数を掛けることにより、目標ギア段(補正後ギア段)を算出する。
【0038】
図12を参照すると、通常走行時のSIL作動チャートが示されている。直線19より左側が緩加速時のSIL作動チャートであり、右側が急加速時のSIL作動チャートである。
【0039】
図12から明らかなように、矢印20で示すように補正後ギア段(目標ギア段)と実ギア段との間に偏差があると、SIL点灯ステータスがオンとなり、SILが点灯して運転者にシフトアップを促すことになる。
【0040】
緩加速の場合、補正量は少なくシフトアップタイミングもほぼ基本ギア段通りに行われる。一方、急加速の場合には、上述した負荷補正及び加速補正によりシフトアップタイミングが大幅に遅らされる。
【0041】
一方、特に図示しないがDPF再生時のSIL作動チャートでは、第2マップ4に基づき基本ギア段が低車速側でアップシフトするように設定されているため、燃費性能を多少犠牲にしてアップシフトを早めに促し、排気ガスを高温にしてDPFに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼させ、DPFの早期の再生を促すことができる。
【0042】
図13はSIL(シフトインジケータランプ)30を有するインストルメントパネル24の一例を示している。インストルメントパネル24には速度メータ26と回転数メータ28が配置されており、回転数メータ28中にSIL30が設けられている。
【0043】
SIL30は上向きランプ32と下向きランプ34とを有しており、上向きランプ32が点灯された場合には運転者にシフトアップを促し、下向きランプ34が点灯された場合には運転者にシフトダウンを促すようになっている。
【0044】
よって、運転者はSIL30の指示に従ってシフトアップ、シフトダウンをすることにより、燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明実施形態に係る変速機のシフト指示方法を説明するための図である。
【図2】通常走行時の車速に応じた基本ギア段を算出するためのマップである。
【図3】DPF再生時の車速に応じた基本ギア段を算出するためのマップである。
【図4】変速段に応じた燃料噴射量と排気ガスの温度との関係を示す図である。
【図5】ギア段毎のエンジン回転数とR/L噴射量との関係を示すマップである。
【図6】変速段に応じた負荷度合い係数と負荷補正係数との関係を示すマップである。
【図7】加速度の程度と加速補正係数との関係を示すマップである。
【図8】メインルーチンのフローチャートである。
【図9】サブルーチン1のフローチャートである。
【図10】サブルーチン2のフローチャートである。
【図11】PM堆積量算出フローチャートである。
【図12】通常走行時のSIL作動チャートである。
【図13】SILを有するインストルメントパネルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
2 第1マップ
4 第2マップ
6 スイッチ
8 第3マップ
10 除算器
12 第4マップ
14 第5マップ
16,18 乗算器
20 偏差
30 SIL
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、
前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、
ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、
燃料噴射量、エンジン回転数及び車両の加速度に応じて前記基本ギア段を補正して目標ギア段を算出し、
前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法。
【請求項2】
ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、
実ギア段及びエンジン回転数に応じて平地走行時の燃料噴射量を算出し、
実燃料噴射量を前記平地走行時の燃料噴射量で除算することにより負荷度合い係数を算出し、
前記負荷度合い係数から負荷補正係数を算出し、
車両の加速度に応じて加速補正係数を算出し、
前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、
ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、
前記基本ギア段に前記負荷補正係数及び加速補正係数を乗算することにより目標ギア段を算出し、
前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法。
【請求項1】
ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、
前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、
ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、
燃料噴射量、エンジン回転数及び車両の加速度に応じて前記基本ギア段を補正して目標ギア段を算出し、
前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法。
【請求項2】
ディーゼルエンジン、手動変速機及びディーゼル・パーティキュレイト・フィルタを備えた車両の走行状態に応じて運転者に変速機のシフトを指示する方法であって、
実ギア段及びエンジン回転数に応じて平地走行時の燃料噴射量を算出し、
実燃料噴射量を前記平地走行時の燃料噴射量で除算することにより負荷度合い係数を算出し、
前記負荷度合い係数から負荷補正係数を算出し、
車両の加速度に応じて加速補正係数を算出し、
前記ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中か否かを判定し、
ディーゼル・パーティキュレイト・フィルタ再生中と判定された場合には、車速に応じて基本ギア段が設定された通常走行時の第1のマップから車速に応じて基本ギア段のアップシフトが低車速側にずらされた第2のマップに切り替えて、車速に応じた基本ギア段を算出し、
前記基本ギア段に前記負荷補正係数及び加速補正係数を乗算することにより目標ギア段を算出し、
前記目標ギア段が実ギア段より高ければアップシフトを指示し、低ければダウンシフトを指示することを特徴とする変速機のシフト指示方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−307877(P2006−307877A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127521(P2005−127521)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]