説明

多層プリント基板の製造方法

【課題】樹脂含浸シートにおけるピンホールや気泡の形成を抑制しうる多層プリント基板の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の張力を加えられながら搬送されるキャリアフィルム30と、前記第1の張力より大きい第2の張力を加えられながら搬送されるガラスクロス24とを重ね合わせる工程と、前記第2の張力を加えた状態で搬送される前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布する塗布工程と、前記樹脂ペーストが塗布された前記ガラスクロスを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする多層プリント基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロスに樹脂を塗布して製造する多層プリント基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等において、放熱基板または回路基板等として使用される多層プリント基板の製造方法としては、ガラスクロスに樹脂を塗布して乾燥させた樹脂含浸シートを作製した後、当該シートと、金属層とを積層する方法が知られている。また、ガラスクロスを樹脂槽に浸漬させた後、乾燥炉を通過させることによって樹脂含浸シートを作製する方法(特許文献1および特許文献2等参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−114786号公報
【特許文献2】特開平7−307568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術に係る多層プリント基板の製造方法では、樹脂含浸シートに孔(ピンホール)が形成されたり、樹脂含浸シート中に気泡が形成されるという問題が発生している。樹脂含浸シートに形成されたピンホールは、樹脂含浸シート表面の平滑性を低下させる。また、樹脂含浸シート中の気泡は、シートが加熱された際に弾けることによって、樹脂含浸シート表面の平滑性を低下させる場合がある。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、樹脂含浸シートにおけるピンホールや気泡の形成を抑制しうる多層プリント基板の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る多層プリント基板の製造方法は、
第1の張力を加えられながら搬送されるキャリアフィルムと、前記第1の張力より大きい第2の張力を加えられながら搬送されるガラスクロスとを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記第2の張力を加えられた状態で搬送される前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布する塗布工程と、
前記樹脂ペーストが塗布された前記ガラスクロスを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る製造方法では、キャリアフィルムより大きな張力を加えられた状態で搬送されているガラスクロスに対して樹脂ペーストを塗布するため、樹脂ペーストが、ガラスクロスに対して容易にしみ込むことができる。したがって、本発明に係る製造方法は、樹脂ペーストが塗布されたガラスクロスに、ピンホールや気泡が形成される現象を、抑制することが可能である。
【0008】
また、例えば、前記塗布工程は、第1塗布工程と第2塗布工程とを有していてもよく、
前記樹脂ペーストは、前記第1塗布工程で塗布される第1の樹脂ペーストと、前記第2塗布工程で塗布される第2の樹脂ペーストを有していてもよく、
前記第1塗布工程では、前記重ね合わせ工程の前に前記キャリアフィルムに前記第1の樹脂ペーストを塗布し、前記第1の樹脂ペーストが塗布された前記キャリアフィルムを前記ガラスクロスに重ね合わせることによって、前記重ね合わせ工程と同時に、前記キャリアフィルムに対向する前記ガラスクロスの第1面から、前記ガラスクロスに前記第1の樹脂ペーストを塗布してもよく、
前記第2塗布工程では、前記第1塗布工程の後に、前記第1面とは反対側の第2面から、前記ガラスクロスに前記第2の樹脂ペーストを塗布してもよい。
【0009】
キャリアフィルムを介して第1面から樹脂ペーストを塗布する第1塗布工程と、第1面とは反対側の第2面から樹脂ペーストを塗布する第2塗布工程とを有する製造方法は、樹脂ペーストが塗布されたガラスクロスに、ピンホールや気泡が形成される現象を、より効果的に抑制することができる。
【0010】
また、例えば、前記第1塗布工程において前記ガラスクロスに塗布される前記第1の樹脂ペーストの量は、前記第2塗布工程において前記ガラスクロスに塗布される前記第2の樹脂ペーストの量より多くてもよい。
【0011】
第1の樹脂ペーストの量を、第2の樹脂ペーストの量より多くすることによって、樹脂ペーストが塗布されたガラスクロスに、ピンホールや気泡が形成される現象を、より効果的に抑制することができる。
【0012】
また、例えば、前記塗布工程は、
前記第1塗布工程と前記第2塗布工程の間に、前記ガラスクロスの前記第2面側にはみ出している前記第1の樹脂ペーストを均すスムージング工程を有していても良い。
【0013】
第1塗布工程後にスムージング工程を行うことによって、第2塗布工程において樹脂ペーストが気泡を巻き込む現象を抑制することができる。
【0014】
また、例えば、前記塗布工程は、前記樹脂ペーストを前記ガラスクロスに向かって押し付けて塗布することを特徴とするものであってもよい。
【0015】
本願発明に係る製造方法において、塗布工程は、ガラスクロスを単に樹脂槽に浸漬するだけの方法ではなく、樹脂ペーストに力を加えて、樹脂ペーストをガラスクロスに向かって押し付けて塗布する方法であることが好ましい。これによって、樹脂ペーストが塗布されたガラスクロスに、ピンホールや気泡が形成される現象を、より効果的に抑制することができる。
【0016】
また、例えば、前記樹脂ペーストの粘度は、2.5Pa・s以下であってもよい。
【0017】
樹脂ペーストの粘度を2.5Pa・s以下とすることによって、樹脂ペーストがガラスクロスに対して容易にしみ込むことができるようになるため、樹脂ペーストが塗布されたガラスクロスに、ピンホールや気泡が形成される現象をさらに抑制することが可能である。
【0018】
また、例えば、前記第2の張力は、前記第1の張力の1.2〜1.5倍であってもよい。
【0019】
ガラスクロスの張力を、キャリアフィルムの張力の1.2倍以上とすることによって、樹脂ペーストがガラスクロスに対してしみ込み易くなる現象がより顕著となる。また、ガラスクロスの張力を、キャリアフィルムの張力の1.5倍以下とすることによって、搬送中のガラスクロスに皺等が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法を説明した概念図である。
【図2】図2は、図1に示すペースト塗布工程および乾燥工程を表すフローチャートである。
【図3】図3は、塗布装置、乾燥装置および巻き取り装置の概略図である。
【図4】図4は、図3に示す塗布装置の一部を拡大した拡大図である。
【図5】図5は、図4に示す塗布装置における重ねあわせ部の周辺をさらに拡大した拡大図である。
【図6】図6は、図4に示す塗布装置における第2塗工部を通過した後のガラスクロスを表す拡大図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る製造方法が行われる塗布装置の一部を表した図である。
【図8】図8は、参考例に係る樹脂含浸シートの顕微鏡写真のスケッチ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法を説明した概念図である。図1に示すように、多層プリント基板20は、樹脂ペースト準備工程S001、ペースト塗布工程S002、乾燥工程S003、切断工程S004、積層工程S005およびプレス工程S006等を経て製造される。
【0022】
樹脂ペースト準備工程S001では、ペースト塗布工程S002においてガラスクロス24に塗布する樹脂ペースト22を準備する。なお、本実施形態においては、ペースト塗布工程S002において、第1樹脂ペースト22aと、第2樹脂ペースト22bを用いるが(図4参照)、第1樹脂ペースト22aと第2樹脂ペースト22bは、同一の組成および粘度を有している。すなわち、第1樹脂ペースト22aと、第2樹脂ペースト22bは、同一の樹脂ペースト22を、製造工程の異なる段階で用いたものであるが、塗工方法によっては異なる粘度のペーストを用いても良い。
【0023】
樹脂ペースト準備工程S001では、樹脂ペースト22の原材料となる樹脂、溶媒、フィラー等を配合した配合物を、攪拌機10で攪拌したのち、必要に応じてミル分散等を行うことによって、樹脂ペースト22を得る。樹脂ペースト22の原材料となる樹脂としては、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール系エポキシ樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。樹脂ペースト準備工程S001において配合される溶媒としては、例えばMEK、トルエン、テトラヒドフラン等が挙げられるが、特に限定されない。また、樹脂ペースト準備工程S001においては、配合される樹脂および溶媒に応じて、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素等のフィラーが配合される。樹脂ペースト準備工程S001で作製される樹脂ペースト22の粘度としては、特に限定されないが、例えば、室温において0.5〜5.0Pa・sとすることができる。
【0024】
図1に示すペースト塗布工程S002では、塗工装置12を用いて、連続する帯状のガラスクロス24に対して、樹脂ペースト22を塗布する。ペースト塗布工程に用いられるガラスクロス24としては、特に限定されないが、例えば厚み25〜150μmのものを用いることができる。ペースト塗布工程S002については、後ほど詳述する。
【0025】
樹脂ペースト22が塗布されたガラスクロス24を、乾燥工程S003において乾燥した後、切断工程S004において切断することによって、樹脂含浸シート26を得る。樹脂含浸シート26の厚みは、特に限定されないが、例えばガラスクロス24として厚み70〜75μmのものを用いた場合、樹脂含浸シート26の厚みは100〜150μmとすることができる。乾燥工程S003で用いられる乾燥装置14としては、特に限定されないが、横型または縦型の乾燥炉を用いることができる。
【0026】
積層工程S005では、1または複数の樹脂含浸シート26と、導電性の金属材料によって構成される金属層28とを積層する。さらに、プレス工程S006では、積層工程S005で作製した積層体を、プレス装置18において加熱および加圧することによって、多層プリント基板20を得る。
【0027】
図2は、図1に示すペースト塗布工程S002および乾燥工程S003等の詳細工程を表すフローチャートである。また、図3は、図1に示すペースト塗布工程S002および乾燥工程S003が行われる塗布装置12および乾燥装置14と、これに付随する巻き取り装置19の概略図である。
【0028】
図3に示すように、塗布装置12、乾燥装置14および巻き取り装置19の内部では、連続する帯状のガラスクロス24およびキャリアフィルム30が、複数の回転ロールを用いて搬送される。ガラスクロス24は、塗布装置12におけるガラスクロス繰り出し部40から送り出され、塗布装置12、乾燥装置14、巻き取り装置19の順に各装置の内部を通過し、ガラスクロス巻き取り部68で巻き取られる。また、キャリアフィルム30は、塗布装置12におけるキャリアフィルム繰り出し部42から送り出され、ガラスクロス24と同様に、各装置12,14,19の内部を通過したのち、キャリアフィルム巻き取り部70で巻き取られる。
【0029】
本実施形態に用いられるキャリアフィルム30の材質は、特に限定されないが、例えばPETフィルムのような樹脂製のシートを、キャリアフィルム30として用いることができる。また、キャリアフィルム30におけるガラスクロス24と対向する面30a(図6参照)には、ガラスクロス24とキャリアフィルム30の分離を容易にするために、離型剤層が設けられていても良い。
【0030】
キャリアフィルム30は、第1の張力を加えられながら、塗布装置12におけるキャリアフィルム塗工部46および第2塗工部58や、乾燥装置14の内部を搬送される。キャリアフィルム30に加えられる第1の張力は、キャリアフィルム繰り出し部42の回転負荷や、第1ニップロール44および第2ニップロール66等の圧力や、キャリアフィルム巻き取り部70の巻き取り速度等によって調整される。
【0031】
キャリアフィルム30に加えられる第1の張力は、キャリアフィルム30によって搬送されるガラスクロス24に過度な緩みが発生することなく、また、ガラスクロス24に皺等が発生しないように、キャリアフィルム30の幅方向における単位長さ当たりの張力で考えて、1.0〜5.0N/cm程度とすることができるが、特に限定されない。
【0032】
また、ガラスクロス24は、第2の張力を加えられながら、塗布装置12における重ね合わせ部54および第2塗工部58や、乾燥装置14の内部を搬送される。ガラスクロス24に加えられる第2の張力は、ガラスクロス繰り出し部40等におけるロールの回転負荷や、第2ニップロール66の圧力や、ガラスクロス巻き取り部68の回転速度等によって調整される。
【0033】
ガラスクロス24に加えられる第2の張力は、キャリアフィルム30に加えられる第1の張力より大きく、第1の張力の1.2〜1.5倍であることが好ましい。これにより、塗布装置12においては、キャリアフィルム30より大きな張力を加えられた状態で搬送されているガラスクロス24に対して、樹脂ペースト22を塗布することになるため、樹脂ペースト22が、ガラスクロス24に対して容易にしみ込むことができる。また、第2の張力を、第1の張力の1.2倍以上とすることによって、樹脂ペースト22が塗布されたガラスクロス24の中に残留する気泡の数を減少させる効果や、ピンホールの発生を抑制する効果が、より顕著となる。さらに、第2の張力を、第1の張力の1.5倍以下とすることによって、搬送中のガラスクロス24に皺等が発生することを防止できる。
【0034】
図2に示すように、図3に示す塗布装置12においては、キャリアフィルム塗布工程S101が行われる。図4は、図3において点線IVで囲まれる塗布工程部分を拡大した拡大図である。図4に示すように、キャリアフィルム塗布工程S101では、ガラスクロス24に重ね合わせられる前におけるキャリアフィルム30に、第1樹脂ペースト22aを塗布する。
【0035】
塗布装置12は、キャリアフィルム30に第1樹脂ペースト22aを塗布するキャリアフィルム塗工部46を有する。キャリアフィルム塗工部46は、第1樹脂ペースト22aで満たされる第1インキパン48と、第1インキパン48の第1樹脂ペースト22aをキャリアフィルム30に塗布するための第1塗布ロール50を有する。キャリアフィルム塗工部46は、キャリアフィルム30におけるガラスクロス24と対向する面30a(図6参照)に、第1樹脂ペースト22aを塗布する。
【0036】
図2に示すように、キャリアフィルム塗布工程S101の後に、キャリアフィルム30とガラスクロス24を重ね合わせる工程S102が実施される。図4に示すように、ガラスクロス24と、キャリアフィルム30は、両方とも、一つの重ね合わせロール52の外周面に押し付けられることによって、重ね合わせ部54において重ね合わせられる。重ねあわせ工程においては、キャリアフィルム30が内周側(重ね合わせロール52側)に位置し、ガラスクロス24が外周側に位置するように、ガラスクロス24とキャリアフィルム30を重ね合わせる(図5参照)。
【0037】
また、キャリアフィルム30におけるガラスクロス24と対向する面30aには、第1樹脂ペースト22aが塗布されているため、重ね合わせ工程S102と同時に、ガラスクロス24に第1樹脂ペースト22aが塗布される(第1塗布工程)。すなわち、重ね合わせ部54において、キャリアフィルム30の面30aに塗布された第1樹脂ペースト22aは、ガラスクロス24に押し付けられる。したがって、ガラスクロス24は、キャリアフィルム30に対向するガラスクロス24の第1面24aから、第1樹脂ペースト22aを塗布される。
【0038】
図2に示すように、重ね合わせ工程S102の後には、ガラスクロス24の第2面24b側にはみ出している第1樹脂ペースト22aを均すスムージング工程S103が実施される。図4に示すように、塗布装置12には、ガラスクロス24の第2面24b側にはみ出している第1樹脂ペースト22aを均すためのスムーサー56が備えられている。
【0039】
図5は、図4において点線Vで囲まれる部分を拡大した拡大図である。図5に示すように、重ね合わせ部54において塗布された第1樹脂ペースト22aは、ガラスクロス24の第1面24aからガラスクロス24の内部にしみ込む。さらに、ガラスクロス24に塗布された第1樹脂ペースト22aの一部は、ガラスクロス24の内部の間隙24cを通って、第1面24aの反対側の面である第2面24bにはみ出す。
【0040】
スムーサー56は、ガラスクロス24の第2面24b側にはみ出した第1樹脂ペースト22aと接触して、ガラスクロス24の第2面24b側にはみ出している第1樹脂ペースト22aを均す。スムーサー56としては、図5に示すように、重ね合わせロール52と略平行に配置される棒状形状のものを用いても良いし、板状形状のものを用いてもよく、スムーサー56の形状は特に限定されない。
【0041】
図4に示すように、スムーサー56は、重ね合わせロール52の外周側であって、重ね合わせ部54と第2塗工部58の間に配置されている。したがって、スムーサー56によるスムージング工程S103は、重ね合わせ工程S102と同時に行われる第1塗布工程と、第2塗工部58で行われる第2塗布工程S104の間に行われる。
【0042】
図2に示すように、スムージング工程S103の後には、第2塗布工程S104が行われる。図4に示すように、第2塗布工程S104では、第2塗工部58において、ガラスクロス24に第2樹脂ペースト22bを塗布する。
【0043】
第2塗工部58は、第2樹脂ペースト22bで満たされる第2インキパン60と、重ね合わせロール52に隣接して配置されるコンマロール62とを有する。コンマロール62は、切り欠き部62aを有している。コンマロール62と重ね合わせロール52の間の間隙は、ガラスクロス24に対する樹脂ペースト22a,22bの塗布量を考慮して決定されている。
【0044】
第2面24bを外周側に向けた状態でキャリアフィルム30と重ね合わせられたガラスクロス24は、スムーサー56と重ね合わせロール52の間を通って、第2塗工部58へ搬送される。第2塗工部58に搬送されたガラスクロス24は、キャリアフィルム30とともに重ね合わせロール52に押し付けられた状態で、第2樹脂ペースト22bで満たされた第2インキパン60の中を通過する。さらに、ガラスクロス24は、コンマロール62と重ね合わせロール52の間を通過する際に、第2面24b側から第2樹脂ペースト22bを押し付けられるとともに、第2樹脂ペースト22bの塗布量を調整される。
【0045】
このように、第2塗工部58では、ガラスクロス24は、第2インキパン60の中を通過する際、およびコンマロール62と重ね合わせロール52の間を通過する際に、第2面24bから、第2樹脂ペースト22bを塗布される。図6は、図4において点線VIで囲まれる部分を拡大した図であり、第2塗工部58を通過した後のガラスクロス24を表す拡大図である。
【0046】
図6に示すように、第1塗布工程S102〜第2塗布工程S104によって樹脂ペースト22a,22bを塗布されたガラスクロス24は、ピンホールや気泡が少ない。なぜなら、第1塗布工程S102〜第2塗布工程S104では、ガラスクロス24に大きい張力を加えたり、第1面24a側と第2面24b側から時間をずらして塗布することによって、樹脂ペースト22a,22bがガラスクロス24に浸透しやすく、また、ガラスクロス24の間隙24cに気泡が残留しにくいからである。また、第1塗布工程S102〜第2塗布工程S104によって樹脂ペースト22a,22bを塗布されたガラスクロス24は、厚みの均一性が高い。
【0047】
なお、第1塗布工程S102においてガラスクロス24に塗布される第1樹脂ペースト22aの量は、第2塗布工程S104においてガラスクロス24に塗布される第2樹脂ペースト22bの量より多いことが好ましい。第1樹脂ペースト22aの量を、第2樹脂ペースト22bの量より多くすることによって、ガラスクロス24の間隙24cに気泡が残留しにくくなるからである。
【0048】
図2に示すように、第2塗布工程S104の後には、乾燥工程S003が行われる。乾燥工程S003は、図3に示す乾燥装置14において行われる。乾燥工程S003における乾燥条件は、特に限定されないが、例えば50℃〜150℃、10〜30分とすることができる。
【0049】
また、乾燥工程S003の後には、図2に示すように、ガラスクロス24の巻き取り工程S105が実施される。図3に示すように、乾燥装置14を通過したガラスクロス24は、巻き取り装置19に搬送される。巻き取り装置19は、第2ニップロール66を備える分離部64を有しており、樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24は、分離部64において、キャリアフィルム30と分離される。
【0050】
樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24は、キャリアフィルム30と分離されたのち、ガラスクロス巻き取り部68で巻き取られる。また、ガラスクロス24と分離されたキャリアフィルム30は、キャリアフィルム巻き取り部70で巻き取られる。
【0051】
さらに、樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24は、図1に示すような切断装置16によって切断され、樹脂含浸シート26となる。樹脂含浸シート26から多層プリント基板20を得る工程は、先述した通りである。
【0052】
なお、図2および図3に示すように、樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24は、巻き取り工程S105において一度巻き取られた後に切断されても良いが、乾燥工程S003の直後に切断されてもよい。このような製造方法を行う場合は、図3における巻き取り装置19に代えて、切断装置16(図1)を乾燥装置14の後に配置する。
【0053】
本実施形態に係る製造方法では、キャリアフィルム30より大きな張力を加えられた状態で搬送されているガラスクロス24に対して樹脂ペースト22a,22bを塗布するため、樹脂ペースト22a,22bがガラスクロス24に対してしみ込みやすい。したがって、本実施形態に係る製造方法は、樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24にピンホールや気泡が形成される現象を、抑制することが可能である。また、本実施形態に係る製造方法によれば、平滑性の高い樹脂含浸シート26およびこれを含む多層プリント基板20を得ることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る製造方法では、第1面24aから第1樹脂ペースト22aを塗布する第1塗布工程と、第1面24aとは反対側の第2面24bから第2樹脂ペースト22bを塗布する第2塗布工程とを有する。本実施形態に係る製造方法は、ガラスクロス24の一方の面(第1面24a)から樹脂ペースト22aを塗布した後に、ガラスクロス24の他方の面(第2面24b)から樹脂ペースト22bを塗布するので、樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24に、ピンホールや気泡が形成される現象を、より効果的に抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る製造方法は、第1塗布工程S102後にスムージング工程S103(図2参照)を行うことによって、第2塗布工程S104において樹脂ペースト22a,22bが気泡を巻き込む現象を抑制することができる。本実施形態に係る製造方法では、第1塗布工程S102および第2塗布工程S104において、樹脂ペースト22a,22bをガラスクロス24に向かって押し付けて塗布する。このため、本実施形態に係る製造方法は、ガラスクロス24を単に樹脂槽に浸漬するだけの方法よりも、樹脂ペースト22a,22bが塗布されたガラスクロス24にピンホールや気泡が形成される現象を、効果的に抑制することができる。
【0056】
第2実施形態
図7は、本発明の第2実施形態に係る製造方法が行われる塗布装置82の一部を表した図である。第2実施形態に係る塗布装置82は、第1実施形態に係る塗布装置12と比べて、キャリアフィルム塗工部46およびスムーサー56を有さない点で異なるが、その他の部分は第1実施形態に係る塗布装置12と同様である。
【0057】
すなわち、塗布装置82においても、塗布装置12と同様に、ガラスクロス24に加えられる第2の張力は、キャリアフィルム30に加えられる第1の張力より大きい。塗布装置82においても、塗布装置12と同様に、第2塗工部58で塗布される第2樹脂ペースト22bが、ガラスクロス24に対して容易にしみ込むことができる。
【0058】
第2実施形態に係る製造方法では、第2塗工部58において、ガラスクロス24の第2面24b側からのみ樹脂ペースト22(第2樹脂ペースト22b)が塗布される。第2実施形態に係る製造方法は、図2に示すキャリアフィルム塗布工程S101〜スムージング工程S103が行われないことを除き、第1実施形態に係る製造方法と同様である。
【0059】
第2実施形態に係る製造方法では、第1実施形態に係る製造方法に比べて、低い粘度の第2樹脂ペースト22bを用いることが好ましい。樹脂ペースト22bをガラスクロス24にしみ込み易くするためである。
【0060】
また、第2実施形態に係る製造方法において、第2樹脂ペースト22bがガラスクロス24に押し込まれる力は、第1実施形態に係る製造方法より大きいことが好ましい。すなわち、第2実施形態に係る製造方法では、コンマロール62と重ね合わせロール52の間をガラスクロス24が通過する際に、樹脂ペースト22bがガラスクロス24により強く押し付けられることが好ましい。樹脂ペースト22bをガラスクロス24にしみ込み易くするためである。
【0061】
第2実施形態に係る製造方法も、ガラスクロス24に加えられる張力や樹脂ペースト22bの粘度等を調整することによって、第1実施形態に係る製造方法と同様に、樹脂ペースト22bが塗布されたガラスクロス24にピンホールや気泡が形成される現象を、抑制することが可能である。
【0062】
実施例
以下にさらに詳細な実施例に基づき説明を行うが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
試料1〜試料6
試料1〜試料6として、図4に示す塗布装置12を用いて、ガラスクロス24へ樹脂ペースト22a,22bを塗布し、樹脂含浸シート26を作製した。すなわち、試料1〜試料6は、ガラスクロス24の第1面24a側と第2面24b側から、時間をずらして樹脂ペースト22a,22bを塗布する2回塗工方式(図2参照)によって作製した。
【0064】
試料1〜試料6に用いた樹脂ペースト22a,22bは、樹脂としてノボラック型エポキシ樹脂を16重量部、溶剤としてMEK(メチルエチルケトン)を28重量部、フィラーとしてシリカを54重量部加えた配合物を、攪拌およびミル分散することによって得た。試料1〜試料6に用いた樹脂ペースト22a,22bの粘度は、E型粘度計によって測定したところ、室温(20℃)において2.5Pa・sであった。
【0065】
試料1〜試料6は、ガラスクロス24として厚み50μmのガラスクロスを用い、キャリアフィルム30として厚み75μmのPETフィルムを用いて作製した。試料1〜試料6は、塗布装置12においてガラスクロス24に加えられる第2の張力とキャリアフィルム30に加えられる第1の張力との比(第2の張力/第1の張力)を、それぞれ1.0,1.1,1.2,1.4,1.5,1.6として作製した。なお、乾燥工程S003(図2参照)における乾燥条件は、100℃、15分とした。
【0066】
また、上述の条件で得られた試料1〜試料6を、顕微鏡下(20〜50倍)で観察し、樹脂含浸シート26の単位面積(1cm)当たりに観察されるピンポールの数と、気泡の数を計測した。図8は、参考例に係る樹脂含浸シート126の顕微鏡写真のスケッチ図である。図8において丸印128で示す位置に、気泡の影が見える。試料1〜試料6について、図8に示すような気泡の影やピンポールを、樹脂含浸シート26の両面から観察した。計測の結果、単位面積当たりの気泡数が3個以下であって、ピンポールの数が1個以下であるものを良品と判断した。試料1〜試料6の作製条件および評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、第2の張力と第1の張力との比が1.0である試料1は、単位面積当たり24個の気泡と、16個のピンホールが観察され、不良品であった。第2の張力が第1の張力より大きい試料2〜試料5は、単位面積当たりの気泡数およびピンホール数が、試料1より減少していた。これにより、ガラスクロス24にキャリアフィルム30より大きな張力を加えることによって、樹脂含浸シート26にピンホールや気泡が形成される現象を、抑制できることが確認された。
【0069】
特に、第2の張力と第1の張力との比が1.2〜1.5である試料3〜試料5は、単位面積当たりの気泡数が3個以下であって、ピンポールの数が1個以下であり、良品であった。ただし、第2の張力と第1の張力との比が1.6である試料6は、搬送中のガラスクロス24に皺が発生し、樹脂ペースト22a,22bを塗布できなかった。これにより、ガラスクロス24に加えられる第2の張力とキャリアフィルム30に加えられる第1の張力との比は、1.2〜1.5とすることが好ましいことが解る。
【0070】
試料7〜試料9
試料7〜試料9は、塗布工程に用いる樹脂ペースト22a,22bの粘度を変更した以外は、試料3と同様の製造方法で作製した。具体的には、試料7〜試料9は、樹脂ペースト22a,22bの原材料である配合物に加える溶剤の配合量を、それぞれ25重量部、30重量部、40重量部とし、その他の配合量は試料3と同様とした。試料7〜試料9に用いた樹脂ペースト22a,22bの粘度は、E型粘度計によって測定したところ、室温においてそれぞれ3.0Pa・s,1.5Pa・s,1.0Pa・sであった。
【0071】
また、試料7〜試料9についても、試料3と同様にして、樹脂含浸シート26の単位面積(1cm)当たりに観察されるピンポールの数と、気泡の数を計測した。試料7〜試料9および試料3の作製条件および評価結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、樹脂ペースト22a,22bの粘度が3.0Pa・sである試料7は、単位面積当たり29個の気泡と、14個のピンホールが観察され、不良品であった。しかし、樹脂ペースト22a,22bの粘度が2.5Pa・s以下である試料3、試料8および試料9は、単位面積当たりの気泡数が3個以下であって、ピンポールの数が1個以下であり、良品であった。これにより、樹脂ペースト22a,22bの粘度は、2.5Pa・s以下とすることが好ましいことが解る。
【0074】
試料10〜試料15
試料10〜試料15として、図7に示す塗布装置82を用いて、ガラスクロス24へ第2樹脂ペースト22bを塗布し、樹脂含浸シート26を作製した。すなわち、試料10〜試料16は、ガラスクロス24の第2面24b側からのみ第2樹脂ペースト22bを塗布する1回塗工方式によって作製した。
【0075】
試料10〜試料15に用いた第2樹脂ペースト22bは、樹脂として(ノボラック型エポキシ樹脂)を20重量部、溶剤として(MEK(メチルエチルケトン))を40重量部、フィラーとしてシリカを55重量部加えた配合物を、攪拌およびミル分散することによって得た。試料10〜試料15に用いた第2樹脂ペースト22bの粘度は、E型粘度計によって測定したところ、室温において1.0Pa・sであった。
【0076】
試料10〜試料15の作製条件は、1回塗工方式である点と、第2樹脂ペースト22bの粘度が1.0Pa・sである点を除き、試料1〜試料6の作製条件と同様である。また、試料10〜試料15についても、試料1〜試料6と同様にして、樹脂含浸シート26の単位面積(1cm)当たりに観察されるピンポールの数と、気泡の数を計測した。試料10〜試料15の作製条件および評価結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示すように、第2の張力と第1の張力との比が1.0である試料10は、単位面積当たり12個の気泡と、7個のピンホールが観察され、不良品であった。第2の張力が第1の張力より大きい試料11〜試料14は、単位面積当たりの気泡数およびピンホール数が、試料10より減少していた。これにより、ガラスクロス24にキャリアフィルム30より大きな張力を加えることによって、樹脂含浸シート26に形成されるピンホールや気泡の数を減少させることができることを確認できた。
【0079】
特に、第2の張力と第1の張力との比が1.2〜1.5である試料12〜試料14は、単位面積当たりの気泡数が3個以下であって、ピンポールの数が1個以下であり、良品であった。ただし、第2の張力と第1の張力との比が1.6である試料15は、搬送中のガラスクロス24に皺が発生し、第2樹脂ペースト22bを塗布できなかった。これにより、ガラスクロス24に加えられる第2の張力とキャリアフィルム30に加えられる第1の張力との比は、1.2〜1.5とすることが好ましいことが解る。
【符号の説明】
【0080】
12,82… 塗布装置
14… 乾燥装置
20… 多層プリント基板
22… 樹脂ペースト
22a… 第1樹脂ペースト
22b… 第2樹脂ペースト
24… ガラスクロス
24a… 第1面
24b… 第2面
26… 樹脂含浸シート
28… 金属層
30… キャリアフィルム
46… キャリアフィルム塗工部
48,60… インキパン
50… 第1塗布ロール
52… 重ね合わせロール
54… 重ね合わせ部
56… スムーサー
58… 第2塗工部
62… コンマロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の張力を加えられながら搬送されるキャリアフィルムと、前記第1の張力より大きい第2の張力を加えられながら搬送されるガラスクロスとを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記第2の張力を加えた状態で搬送される前記ガラスクロスに樹脂ペーストを塗布する塗布工程と、
前記樹脂ペーストが塗布された前記ガラスクロスを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする多層プリント基板の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程は、第1塗布工程と第2塗布工程とを有しており、
前記樹脂ペーストは、前記第1塗布工程で塗布される第1の樹脂ペーストと、前記第2塗布工程で塗布される第2の樹脂ペーストを有しており、
前記第1塗布工程では、前記重ね合わせ工程の前に前記キャリアフィルムに前記第1の樹脂ペーストを塗布し、前記第1の樹脂ペーストが塗布された前記キャリアフィルムを前記ガラスクロスに重ね合わせることによって、前記重ね合わせ工程と同時に、前記キャリアフィルムに対向する前記ガラスクロスの第1面から、前記ガラスクロスに前記第1の樹脂ペーストを塗布し、
前記第2塗布工程では、前記第1塗布工程の後に、前記第1面とは反対側の第2面から、前記ガラスクロスに前記第2の樹脂ペーストを塗布することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1塗布工程において前記ガラスクロスに塗布される前記第1の樹脂ペーストの量は、前記第2塗布工程において前記ガラスクロスに塗布される前記第2の樹脂ペーストの量より多いことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程は、
前記第1塗布工程と前記第2塗布工程の間に、前記ガラスクロスの前記第2面側にはみ出している前記第1の樹脂ペーストを均すスムージング工程を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程は、前記樹脂ペーストを前記ガラスクロスに向かって押し付けて塗布することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂ペーストの粘度は、2.5Pa・s以下であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記第2の張力は、前記第1の張力の1.2〜1.5倍であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−201202(P2011−201202A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71922(P2010−71922)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】