説明

多層ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法及び得られる物品

【課題】多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法及び多孔質物品の提供。
【解決手段】多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品120の製造方法は、少なくとも1層が機能性添加剤を含み、少なくとも1層が加工助剤を含むポリテトラフルオロエチレン微粉末の2以上の層102,106でプリフォーム100を充填し、充填時に各層に構造的健全性を付与するように構成された分離層110を2以上の層の間に配置し、2以上の層を押出して多層押出物を得、加工助剤を除去し、多層押出物を膨張させて多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に多層ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法、具体的には機能性添加剤層を有する多層ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)物品は、フィルター、織物、ガスケット、電気絶縁及びヒトインプラント装置のような数多くの有用な部品に利用されている。特に、PTFE膜は、気体又は液体用フィルター、医用布及びシートのための水蒸気透過性及び水不透過性膜の調製、並びに化学、食品及び半導体産業における配管又は生産施設のためのシール又はガスケットのような様々な目的に使用されている。
【0003】
これらのPTFE物品は、通例、PTFE樹脂を滑剤とブレンドし、ブレンドした樹脂を圧縮してビレットとし、ビレットを押出して押出物とし、押出物を乾燥し、(必要に応じて)押出物をカレンダリングし、押出物を延伸又は膨張させ、延伸した押出物を焼結して最終物品を形成することによって製造される。延伸PTFE(ePTFE)物品は、シート、テープ、チューブ、ロッド又はフィラメントを始めとする任意の押出形状で製造できる。
【0004】
濾過、換気及びアパレルなどの用途に用いられるようなある種のPTFE及びePTFE物品では、PTFE膜に機械的支持を付与するための裏打ち層が必要とされる。通例、PTFE膜は裏打ち層に固定(例えば、積層)され、裏打ち層はPTFE膜の機械的支持体として機能する。さらに、裏打ち層は、耐薬品性、機械的耐久性、より高い通気性、脱臭などの機能的特性をPTFE物品に付与することもできる。裏打ち層の一例は織物生地であり、PTFEアパレル用途に使用できる。裏打ち層は、PFTEポリマーに本来備わっていない特性をPFTE膜に付与する。しかし、裏打ち層の必要性の短所として、裏打ち層と膜との層剥離のおそれ、材料費の増大、追加のプロセス段階などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7306841号明細書
【特許文献2】米国特許第6852223号明細書
【特許文献3】米国特許第6218000号明細書
【特許文献4】米国特許第5098625号明細書
【特許文献5】米国特許第5064593号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法及び多孔質物品について開示する。一実施形態では、本方法は、プリフォームにポリテトラフルオロエチレン微粉末の2以上の層(ただし、少なくとも1層は機能性添加剤を含んでおり、少なくとも1層は加工助剤を含む。)を充填し、2以上の層の間に分離層(ただし、分離層は充填時に各層に構造的健全性(structural integrity)を付与するように構成されている。)を配置し、2以上の層を押出して多層押出物を得て、加工助剤を除去し、多層押出物を膨張させて多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品を形成することを含む。
【0007】
別の実施形態では、本方法は、プリフォームの第1の部分に、第1のポリテトラフルオロエチレン微粉末混合物の総重量を基準にして約15〜約25重量%の加工助剤と混合した第1のポリテトラフルオロエチレン微粉末の層を充填し、プリフォームの第2の部分に、第2のポリテトラフルオロエチレン微粉末混合物の総重量を基準にして約0.05〜約20重量%の機能性添加剤と混合した第2のポリテトラフルオロエチレン微粉末の層を充填し、第1の部分と第2の部分の間に分離層(ただし、分離層は充填時に各層に構造的健全性を付与するように構成されている。)を配置し、これらの層を押出して多層押出物を得て、加工助剤を除去し、多層押出物を延伸して多層ポリテトラフルオロエチレン物品を形成することを含む。
【0008】
本発明の方法で製造される多層ポリテトラフルオロエチレン物品は、加工助剤を含む第1のポリテトラフルオロエチレン微粉末混合物を含む第1の層と、機能性添加剤を含む第2のポリテトラフルオロエチレン微粉末混合物を含む第2の層とを含んでおり、機能性添加剤はポリテトラフルオロエチレンでは得られない1以上の所望の特性を物品に付与するように構成されているとともに、機能性添加剤は機械的耐久性を多層ポリテトラフルオロエチレン物品に付与し、裏打ち層は不要となる。
【0009】
上記その他の特徴を以下の図及び詳細な説明によって例証する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の多層PTFE物品の製造法で使用するプリフォームの例示的な実施形態を概略的に示す。
【図2】図2は、多層PTFE物品を製造する本方法で使用する別のプリフォームの例示的な実施形態を概略的に示し、ここで、物品の層は同心である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して例示的な実施形態について説明する。図面において、類似の要素には同様の符号を付した。
【0012】
本明細書では、材料に所望の特性を追加するように構成された機能性添加剤を含む多層ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)物品の製造方法について開示する。本明細書に記載された方法で形成される多層PTFE物品の各層は所与の用途に望まれる特定の機能を有することができる。例えば、これらの層の少なくとも1層が物品に機械的支持をもたらす。膜、テープなどの現行のPTFE物品は、積層された裏打ち層を含んでいる。裏打ち層は、機械的支持を与えるだけでなく、PTFE材料が有していない機能的特性をPTFE膜に与えることがある。本明細書に記載の多層PTFE物品の機能性添加剤は機械的構造及び機能的特性を物品に付与し、裏打ち層を不要にする。PTFE膜及びテープのような物品において裏打ち層が必要でなくなることによって、多層PTFE物品の製造時の幾つかのプロセス段階を省略でき、材料費を削減することができる。また、現行の裏打ち層とPTFE膜との層剥離の問題は本発明によって解消される。換言すれば、本方法では、機械的耐久性その他所望の特性を物品に付与するため多層PTFE物品に追加の裏打ち層を被覆、接合する必要がない。
【0013】
一実施形態では、多層延伸PTFE物品の製造方法は、プリフォームの第1の部分に、加工助剤と混合した第1のPTFE粉末の層を充填し、プリフォームの第2の部分に、機能性添加剤と混合した第2のPTFE粉末の層を充填し、充填時に各層に構造的健全性を与えるように構成された分離層を第1の部分と第2の部分の間に配置し、これらの層を押出して多層押出物を得て、加工助剤を除去し、多層押出物を膨張させて多層延伸PTFE物品を形成することを含む。
【0014】
上述の通り、多層PTFE物品の少なくとも1層は機能性添加剤と混合した第1のPTFEポリマーを含む。本明細書で用いる「機能性添加剤」という用語は、概して、PTFE粉末に添加することのできる成分であって、多層PTFE物品の既存の性質を向上(増強)させるため或いはPTFE材料単独では得られない1以上の所望の性質を物品に与えるように構成された成分をいう。機能性添加剤は無機添加剤、有機添加剤又はそれらの組合せである。有機系機能性添加剤としては、ポリマー、酵素、触媒又はこれらの1種類以上を含む組合せが挙げられる。例示的なポリマー系有機機能性添加剤としては、特に限定されないが、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニリデンジフルオライド、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリ(エチレン−alt−テトラフルオロエチレン)(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロプロピルビニルエーテル)(PFA)、ポリ(ビニリデンフルオライド−コ−ヘキサフルオロプロピレン(PVDF−コ−HFP)及びポリフッ化ビニル(PVF)が挙げられる。多層PTFE物品の性質向上に使用できるその他のポリマー有機機能性添加剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、置換ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアクリロニトリル)、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル、アクリル及びメタクリルポリマー、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、セルロース系ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド(例えば、ナイロン、ポリフェニレンテレフタルアミド)又はこれらの1種類以上のポリマーを含む組合せが挙げられる。
【0015】
多層PTFE物品で有機機能性添加剤として使用し得る例示的な触媒としては、酵素触媒が挙げられる。酵素は有機触媒として機能し、反応の活性化エネルギーを下げせることによって作用する。触媒酵素は、反応体の化学結合を弱めることによって、触媒酵素がないときよりも速く反応を進行させることができる。例示的な有機触媒酵素としては、特に限定されないが、有機リンヒドロラーゼ(OPH)、有機亜リン酸アンヒドロラーゼ(OPAA)、ホスホトリエステラーゼ(PTE)又はこれらの1種類以上を含む組合せが挙げられる。これらの触媒酵素は汚染除去特性を有しており、有毒化学及び生物試薬から多層PTFE物品を保護することができる。さらに、これらの有機触媒は化学反応に使用することもでき、多層PTFE物品(例えば、膜)が1以上の触媒層を含む。例えば、多層PTFE物品は表面積の大きい膜として利用でき、大きな表面積は反応生成物の高い収率をもたらす。
【0016】
無機機能性添加剤としては、酸化物、ゼオライト、炭素、炭酸カルシウム、シリカ又はこれらの1種類以上を含む組合せが挙げられる。例示的な酸化物機能性添加剤としては、特に限定されないが、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化銀、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化パラジウム又はこれらの1種類以上を含む組合せが挙げられる。一実施形態では、これらの金属酸化物を含む層は多層PTFE物品中で無機触媒層として機能できる。炭素系機能性添加剤は、例えば活性炭を含んでいてもよい。例示的なゼオライト系機能性添加剤としては、特に限定されないが、アミサイト(amicite)、アナルサイム(analcime)、バレライト(barrerite)、ベルバーガイト(bellbergite)、ビキタイト(bikitaite)、ボグザイト(boggsite)、ブルーステライト(brewsterite)、チャバサイト(chabazite)、クリノプチロライト(clinoptilolite)、コウレサイト(cowlesite)、ダキアルダイト(dachiardite)、エディントナイト(edingtonite)、エピスティルバイト(epistilbite)、エリオナイト(erionite)、フォージャサイト(faujasite)、フェリエライト(ferrierite)、ガロナイト(garronite)、ギスモンディン(gismondine)、グメリナイト(gmelinite)、ゴビンサイト(gobbinsite)、ゴナルダイト(gonnardite)、グースクリーカイト(goosecreekite)、ハーモトーム(harmotome)、ヘルシェライト(herschelite)、ヒューランダイト(heulandite)、ローモンタイト(laumontite)、レビ沸石(levyne)、マリコパイト(maricopaite)、マッザイト(mazzite)、メルリノイト(merlinoite)、メソライト(mesolite)、マンテソマイト(montesommaite)、モルデナイト(mordenite)、ナトロライト(natrolite)、オフレタイト(offretite)、パラナトロライト(paranatrolite)、ポーリンガイト(paulingite)、ペンタシル(pentasil)、ペルリアライト(perlialite)、フィリップサイト(phillipsite)、ポルーサイト(pollucite)、スコレサイト(scolecite)、ソーダダキアルダイト(sodium dachiardite)、ステレライト(stellerite)、スティルバイト(stilbite)、テトラナトロライト(tetranatrolite)、トムソナイト(thomsonite)、チェルニカイト(tschernichite)、ワイラカイト(wairakite)、ウェルザイト(wellsite)、ウィルヘンダーソナイト(willhendersonite)、ユガワラライト(yugawaralite)又はこれらの1種類以上を含む組合せが挙げられる。
【0017】
さらに、本明細書に記載の機能性添加剤は治療薬を含んでいてもよい。本明細書で用いる治療薬という用語は、概して、多層PTFE物品に治療又は治癒特性を付与できる機能性添加剤をいう。例えば、アセチルサリチル酸(すなわち、アスピリン)を心疾患用の治療薬として本物品の1以上の層に配合することができる。また、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、イホスファミドなど)、核酸に作用する抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシンなど)、白金化合物(例えば、シスプラチンなど)、分裂抑制剤(例えば、ビンクリスチンなど)、代謝拮抗剤(例えば、5−フルオロウラシルなど)、カンプトセシン誘導体(例えば、トポテカンなど)、生物学的応答調節物質(例えば、インターフェロンなど)、ホルモン療法剤(例えば、タモキシフェンなど)又はこれらの1種類以上の治療薬を含む組合せのような癌用の治療薬を使用することもできる。さらに、創傷治癒、骨再生などの用途の多層PTFE物品の層に治療薬を添加することもできる。例えば、1以上の治療薬を含む多層PTFE膜は医用インプラントとして使用できる。
【0018】
上述の通り、多層PTFE物品中の機能性添加剤を含有する1以上の層は特定の所望の性質を完成品に付与することができる。例えば、機能性添加剤は機械的耐久性、耐薬品性、高温性能、濾過効率、吸収、吸着、耐磨耗性、通気性、これらの組合せなどを改良するために添加することができる。さらに、機能性添加剤は帯電防止、脱臭、汚染除去、薬効、それらの組合せなどの特性を付与することができる。さらに、機能性添加剤は多層PTFE膜の表面トポグラフィーに影響を与えることができる。表面トポグラフィーの変化は疎油性、親水性、自浄性などの表面特性を付与及び/又は向上させることができる。さらに、活性炭、シリカ及びゼオライトのような機能性添加剤は多層PTFE物品の表面積を増大し、膜及び濾過用途の濾過媒体として作用・機能できる。
【0019】
機能性添加剤は、多層PTFE物品の層の押出性に影響を与えずに物品に所望の特性を付与するのに適した任意の量で層に存在することができる。一実施形態では、機能性添加剤はPTFE粉末混合物の総重量を基準にして約0.05〜約20重量%(wt%)、具体的には約0.5〜約20wt%、さらに具体的には約1〜約15wt%の範囲でPTFE粉末混合物に存在できる。同様に、機能性添加剤は、PTFE粉末と混合して添加剤の特性を多層PTFE物品に付与する層を形成するのに適した粒径を有する。一実施形態では、機能性添加剤は主軸に沿って測定して約100nm未満、具体的には約75nm未満、さらに具体的には約50nm未満の平均粒径を有する。
【0020】
機能性添加剤をPTFE粉末と混合してPTFE粉末混合物を形成し、混合物をプリフォームの一部に添加して圧縮すればよい。機能性添加剤は、押出後に添加剤が物品の層全体に均一に分布するようにPTFEポリマー粉末全体に添加剤を均一に分散させるのに適した任意の方法でPTFEと混合すればよい。機能性添加剤とPTFE粉末との混合法の例としては、特に限定されないが、乾式混合、溶液中への分散による混合、共凝集(co-coagulation)などが挙げられる。
【0021】
多層PTFE物品の別の層は加工助剤と混合した第2のPTFE粉末を含む。一実施形態では、第2のPTFE粉末は第1のPTFE粉末とは異なる。例えば、第2の層のPTFE粉末は第1のPTFE粉末とは異なる分子量及び/又は分子構造を有していてもよい。別の実施形態では、第2のPTFE粉末は第1のPTFE粉末と同一である。PTFE粉末は、約500g/lの平均嵩密度及び450〜500mmの平均凝集塊サイズを有する微細な易流動性粉末であればよい。PTFE微粉末は、PTFEの水性分散液を凝集させ、それを乾燥させることによって製造できる。PTFE微粉末混合物の層の押出のため、粉末を滑剤のような加工助剤とブレンドしてもよい。滑剤の一例は石油エーテル、ナフサ、パラフィン溶媒などの望ましい気化温度を有する炭化水素である。加工助剤は、PTFE微粉末混合物の総重量を基準にして約15〜約25wt%の割合でPTFE微粉末に添加し得る。
【0022】
加工助剤を含む第2のPTFE粉末混合物の層は、機能性添加剤を含む第1のPTFE粉末混合物層の部分とは異なるプリフォームの部分に配置できる。従って、プリフォームは、PTFE微粉末混合物を保持するための2以上の層を含む。図1に、PTFE微粉末混合物の層に初期構造を付与するように構成された層状プリフォーム100の例示的な実施形態を示す。図示した本実施形態は、広義には2つの構成層を含んでおり、これらの層は、本明細書では本発明の理解を図るため第1及び第2の層又は内側及び外側層ともいう。ただし、これらの層は逆転していてもよいし、他のいかなる所望の配置であってもよく、本発明の技術的範囲内でこれらいずれかの成分もしくは両成分又は異なる成分の2以上の層が存在していてもよい。層の数は、例えば、多層PTFE物品の最終用途に依存し得る。
【0023】
プリフォームは剛性であり、PTFE微粉末混合物の層はプリフォーム中に軽く押し込まれている。図1に示すように、機能性添加剤と第1のPTFE微粉末との混合物を含む第1の層102はプリフォーム100の第1の部分104に配置される。加工助剤と第2のPTFE微粉末との混合物を含む第2の層106はプリフォーム100の第2の部分108に配置される。
【0024】
分離層110は、第1の部分104と第2の部分108の間に配置され、プリフォーム100に各層を充填する際に各層に構造的健全性を与えつつ、これらの層が押出時までプリフォーム100内に留まるように構成されている。分離層110は、プリフォーム100の充填時に、層を区分するのに適した任意の材料からなる。一実施形態では、分離層はTeflon(登録商標)シートのようなフッ素化ポリマーシートである。分離層110は、プリフォーム100に所望の数の層(この例では、2層)を充填した後、PTFE層をプリフォームにプレスする前に除去される。
【0025】
プリフォーム100は、PTFE粉末の2以上の層を受け入れるように構成された任意の形状を有する。プリフォームの形状は多層PTFE物品の所望の用途に応じて決めればよい。図1の実施形態では、プリフォームは実質的に円筒形であり、第1の部分104は第2の部分108に隣接して配置される。プリフォーム層を押出し、延伸し、適宜焼結すれば、多層PTFE物品120が形成される。
【0026】
別の実施形態では、プリフォーム200は、図2に示すように、多層PTFE物品に同心の層をもたらすように構成された実質的に円筒形であってもよい。図2に示すように、機能性添加剤と第1のPTFE微粉末との混合物を含む第1の層202がプリフォーム200の第1の部分204に配置される。加工助剤と第2のPTFE微粉末との混合物を含む第2の層206がプリフォーム200の第1の部分204の回りに同心に配置された第2の部分208に配置される。分離層210が、第1の部分204と第2の部分208の間に配置され、プリフォーム200に各層を充填する際に各層に構造的健全性を付与しつつ、これらの層が押出時までプリフォーム200内に留まるように構成されている。この実施形態では、分離層210は円筒形を有する。分離層210は、例えばTeflon(登録商標)チューブからなることができる。プリフォーム層を押出し、延伸し、適宜焼結すれば、多層PTFE物品220が形成される。
【0027】
これらの同心層は、機能性添加剤の特性の第1の層が外側の第2の層の内側に存在する物品を与える。例えば、内側層は最終多層PTFE物品中のスクリム層である。別の実施形態では、これらの層は逆転させることができ、機能性添加剤の特性を完成品の外面に配置してもよい。かかる配置では、機能性添加剤を含有する多層PTFE物品の外側層は、老化防止、耐薬品性、防汚、氷結防止、塩析防止、偽装、難燃性などの表面特性を物品に付与することができる。かかる多層PTFE物品は精密濾過、ミクロ通気(microventing)、医学、ミクロ電子工学などの系に使用できる。
【0028】
各層は完成品に望まれる任意の厚さを有していればよい。プリフォームは、PTFE微粉末混合物に所望の層厚を付与するように構成された部分を有することができる。また、各層は同一又は異なる細孔径分布を有することができる。例えば、第1の層102は第2の層106よりも細孔径の小さい、狭い細孔径分布を有していてもよい。第2の層106は広い分布幅を有していてもよい。本発明で用いるPTFEは、複数のノード(節)が多数のフィブリルで相互に連結した三次元マトリックス又は格子型の構造を有する。ノード及びフィブリルの表面は、層の両側面の間でPTFEを貫通する多数の相互に連結した細孔を画成する。以下でさらに詳しく述べる通り、PTFEの気孔率は種々変更し得る。PTFEの細孔は閉じていてもよいし、細孔は連続していてもよい。一実施形態では、多層PTFE物品の層の表面は、層の両主側面に隣接する環境と流体連通する多数の相互連結細孔を画成する。特定の実施形態では、連続細孔が存在して、多層PTFE物品に透過性を与える。
【0029】
物品の層の適当な気孔率は約10体積%を超える範囲である。一実施形態では、気孔率は約10〜約20体積%、約20〜約30体積%、約30〜約40体積%、約40〜約50体積%、約50〜約60体積%、約60〜約70体積%、約70〜約80体積%、約80〜約90体積%、又は約90体積%超の範囲である。本明細書及び特許請求の範囲を通して、範囲の上下限は相互に結合及び/又は交換可能である。かかる範囲はその上下限で規定され、特記しない限り、その範囲に含まれるあらゆる部分範囲を包含する。
【0030】
細孔径は細孔間で一定であってもよく、細孔は所定のパターンを画成し得る。或いは、細孔間で細孔径が異なっていてもよく、細孔は不規則なパターンを画成し得る。適当な細孔径は約50μm未満である。一実施形態では、平均細孔径は約50〜約40μm、約40〜約30μm、約30〜約20μm、約20〜約10μm、又は約10〜約1μmの範囲である。一実施形態では、平均細孔径は約1μm未満であり、約1〜約0.5μm、約0.5〜約0.25μm、約0.25〜約0.1μm、又は約0.1μm未満である。一実施形態では、平均細孔径は約0.1〜約0.01μmである。
【0031】
一実施形態では、層は複数のノードが複数のフィブリルで相互に連結した格子型構造を有するものでもよく、ノード及びフィブリルの表面は、物品の層の中で複数の細孔を画成する。少なくとも部分的に焼結したフィブリルの大きさは、フィブリルの長さ方向に垂直な方向に測った直径として約0.05〜約0.5μmである。多孔質膜の比表面積は、層材料1g当たり約0.5〜約110m2である。例えば、透過性物品を与えるため、ノード及びフィブリルの表面は、膜の両面の間を曲がりくねった経路で貫通する相互に連結した細孔を画成する。このような層及び構造の多層PTFE物品は、液体濾過、ミクロ通気性、大気汚染防止などの用途に用いることができる。かかる物品の層における細孔の平均有効孔径は、約0.01〜約0.1μm、約0.1〜約5μm、約5〜約10μm、又は約10μm超である。
【0032】
プリフォームの各部分に所望のPTFE微粉末混合物を充填し、分離層を除去した後、混合物をプリフォーム内で圧縮して個々の層を形成すればよい。混合物は各部分(すなわち、層)をプリフォームに加えるときに圧縮してもよいし、プリフォームにPTFE微粉末混合物を完全に充填した後で物品全体を圧縮してもよい。次いで、プリフォーム100をペースト押出用金型のシリンダーに入れ、ラムで押圧することができる。金型のノズルオリフィスを通してプリフォーム100を押し付けることによって、プリフォーム100内の各層が完全に合体して多層ペースト押出シート(押出物)が形成され、各層は一様な厚さを有する。
【0033】
多層押出物の形成後、材料から加工助剤を除去してもよい。加工助剤の除去は抽出及び/又は乾燥によって行うことができる。加工助剤は押出物の延伸前又は延伸後に除去することができる。加工助剤を熱で除去するには、温度は用いた加工助剤の種類に依存し、加工助剤を気化させるのに十分なものとする。加熱温度は概して約200〜300℃、特に250℃である。多層押出物を加熱して加工助剤を除去する場合、シートをPTFEの融点(約327℃)よりも高い温度に加熱しないように注意すべきである。
【0034】
しかる後、多層押出物を延伸して延伸PTFE多層物品を形成すればよい。押出物はPTFE材料の細孔を開口させてePTFEを形成するのに適した方法で延伸すればよい。例えば、多層PTFE押出物は、1以上の軸に沿って押出物を延伸することによって延伸すればよい。延伸は一軸又は二軸で実施し得る。多層押出物は延伸前に予熱してもよい。二軸延伸の場合、押出物は二方向に同時に延伸してもよいし、一方向ずつ延伸してもよい。多層押出物の延伸は上述の多孔質PTFE物品の製造に有効である。多層PTFE押出物は未焼結状態で延伸する。延伸は一般に、異なる速度で回転するか或いは直径の異なるロール間で実施できるし、或いは延伸オーブン内のテンターによって実施できる。一軸延伸の場合、多層押出物は押出方向と平行又は垂直方向に延伸する。二軸延伸の場合、多層押出物をまず上記と同じ方法で延伸した後、第1の延伸方向と垂直な方向に延伸する。
【0035】
この延伸によって、多層押出物内の各層は、細孔が層全体に均一に存在する多孔質構造となる。こうして、最終的に、各層が細孔を有する多孔質多層PTFE物品が得られる。多層押出物を延伸することによって、ノードを連結するフィブリルが形成されて上述の格子型構造を画成する。「延伸」とは、材料の弾性限界を超えて延伸することによってフィブリルに永久歪み又は伸びを導入することをいう。多層PTFE物品の厚さとミクロ構造は延伸パラメーターを調節することによって制御される。
【0036】
多層PTFE物品のミクロ構造は焼結工程によってさらに安定化させることができる。焼結工程では、上述の通り得られた多層PTFE物品をPTFEの結晶融点より高い温度に加熱して延伸多孔質構造を固定させればよい。一実施形態では、多孔質多層PTFE物品は、PTFEの融点(約327℃)よりも若干高いが、PTFEの分解温度よりは低い約340〜約380℃の温度で加熱処理する。物品は約5〜30秒間焼結して材料を熱硬化させればよい。多層PTFE物品を焼結すると、材料の一部が結晶質から非晶質に変化することによって材料の残留応力が低減又は最小となる。一実施形態では、想定される最終用途に応じて物品を焼結しなくてもよいし、或いは部分的に焼結してもよい。
【0037】
本明細書に開示した機能性添加剤を含む多層PTFE物品は各種の用途に有利に使用することができる。例示的な用途としては、特に限定されないが、大気汚染及び液体の濾過、化学的/生物学的浄化設備、ミクロ通気性媒体、医学、ミクロ電子工学、これらの組合せなどが挙げられる。本明細書に記載された方法で形成された多層PTFE物品の各層は所与の用途で望まれる特定の機能を有することができる。例えば、1以上の層が物品に機械的支持をもたらす。本明細書に記載の多層PTFE物品の機能性添加剤は機械的構造及び機能的特性を物品に付与し、支持裏打ち層は不要となる。物品のPTFE膜及びテープのような裏打ち層が必要なくなることによって、多層PTFE物品の製造に際して幾つかのプロセス段階を省略でき、材料費を低減できる。さらに、本発明によって、現行の裏打ち層とPTFE膜との層剥離の問題が解消される。換言すれば、本方法では、機械的耐久性その他所望の性質を物品に付与するための追加の裏打ち層を多層PTFE物品に被覆、接合する必要がない。
【0038】
本明細書で用いた用語は特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。本明細書に開示した範囲は包括的であり、組合せ自在である(例えば、「約25wt%以下、さらに具体的には約5〜約20wt%」という範囲は「約5〜約25wt%」の範囲の上下限及びあらゆる中間値を含む。)。「組合せ」という用語には、ブレンド、混合物、アロイ、反応生成物などが包含される。さらに、本明細書において、「第一」、「第二」などの用語は、順序、量又は重要度を示すものではなく、ある要素を他の要素から区別するために用いるものである。また、本明細書において、単数形で記載された用語は数量を限定するものではなく、そのものが1以上存在することを意味する。量に関して用いる「約」という用語は標記の値を含むとともに、状況に応じて定まる意味を有する(例えば、その量の測定に付随する誤差を含む)。本明細書では、単数形は、単数と複数の両義に用いられ、そのものを1種以上含むことを意味している(例えば、着色剤は1種以上の着色剤を意味する。)。本明細書において、「一実施形態」、「別の実施形態」、「ある実施形態」などの表現は、その実施形態に関して記載した特定の要素(例えば、特徴、構造及び/又は特性)が本明細書に記載した1以上の実施形態に含まれ、他の実施形態では存在していても存在していなくてもよいことを意味する。さらに、記載された要素同士を様々な実施形態で適宜組合せてもよい。
【0039】
特記しない限り、本明細書で用いる用語(技術用語を含めて)はすべて本発明の実施形態が属する技術分野の当業者が通常理解する通りの意味を有する。さらに、一般的な辞書に定義されているような用語は、関連技術及び本発明に関してもその意味通りの意味を有するものと解釈され、本明細書で特に規定しない限り理想化された又は過度に厳格な意味に解釈すべきではない。
【0040】
例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲内で様々な変更をなすことができ、ある要素を均等なもので置き換えることができることは当業者には明らかであろう。さらに、本発明の本質的な技術的範囲内で、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるべく数多くの修正を加えることができる。従って、本発明は、本発明を実施するための最良の形態と思料される特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【符号の説明】
【0041】
100 プリフォーム
102 第1の層
104 第1の部分
106 第2の層
108 第2の部分
110 分離層
120 多層延伸PTFE物品
200 プリフォーム
202 第1の層
204 第1の部分
206 第2の層
208 第2の部分
210 分離層
220 多層延伸PTFE物品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品(120,220)の製造方法であって、
プリフォーム(100,200)に、少なくとも1層が機能性添加剤を含んでおり、少なくとも1層が加工助剤を含むポリテトラフルオロエチレン微粉末の2以上の層(102,106,202,206)を充填し、
充填時に各層に構造的健全性を付与するように構成された分離層(110,210)を2以上の層の間に配置し、
2以上の層を押出して多層押出物を得て、
加工助剤を除去し、
多層押出物を膨張させて多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品を形成する
ことを含む方法。
【請求項2】
多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品(120,220)の製造方法であって、
プリフォーム(100,200)の第1の部分(104,204)に、第1のポリテトラフルオロエチレン微粉末混合物の総重量を基準にして約15〜約25重量%の加工助剤と混合した第1のポリテトラフルオロエチレン微粉末の層(102,202)を充填し、
プリフォーム(100,200)の第2の部分(108,208)に、第2のポリテトラフルオロエチレン微粉末混合物の総重量を基準にして約0.05〜約20重量%の機能性添加剤と混合した第2のポリテトラフルオロエチレン微粉末の層(106,206)を充填し、
充填時に各層に構造的健全性を付与するように構成された分離層(110,210)を第1の部分と第2の部分の間に配置し、
これらの層を押出して多層押出物を得、
加工助剤を除去し、
多層押出物を延伸して多層延伸ポリテトラフルオロエチレン物品を形成する
ことを含む方法。
【請求項3】
前記機能性添加剤が、所望の性質を物品に付与するように構成されており、無機添加剤、有機添加剤、治療薬又はこれらの組合せからなる、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記有機添加剤がポリマー、触媒酵素又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニリデンジフルオライド、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロピレン、ポリ(エチレン−alt−テトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロプロピルビニルエーテル)、ポリ(ビニリデンフルオライド−コ−ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル、アクリル及びメタクリルポリマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルホン、セルロース系ポリマー、ポリフェニレンオキシド又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記触媒酵素が有機リンヒドロラーゼ、有機亜リン酸アンヒドロラーゼ、ホスホトリエステラーゼ又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記治療薬が治療及び治癒特性の選択された一方又は両方を多層ポリテトラフルオロエチレン物品に付与するように構成されており、治療薬がアセチルサリチル酸、アルキル化剤、核酸、白金化合物、分裂抑制剤、代謝拮抗剤、カンプトセシン誘導体、生物学的応答調節物質、ホルモン療法剤又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項3記載の方法。
【請求項8】
前記無機添加剤が金属酸化物、ゼオライト、炭素、炭酸カルシウム、シリカ又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項3記載の方法。
【請求項9】
前記金属酸化物が酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化銀、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化パラジウム又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ゼオライトが、アミサイト、アナルサイム、バレライト、ベルバーガイト、ビキタイト、ボグザイト、ブルーステライト、チャバサイト、クリノプチロライト、コウレサイト、ダキアルダイト、エディントナイト、エピスティルバイト、エリオナイト、フォージャサイト、フェリエライト、ガロナイト、ギスモンディン、グメリナイト、ゴビンサイト、ゴナルダイト、グースクリーカイト、ハーモトーム、ヘルシェライト、ヒューランダイト、ローモンタイト、レビ沸石、マリコパイト、マッザイト、メルリノイト、メソライト、マンテソマイト、モルデナイト、ナトロライト、オフレタイト、パラナトロライト、ポーリンガイト、ペンタシル、ペルリアライト、フィリップサイト、ポルーサイト、スコレサイト、ソーダダキアルダイト、ステレライト、スティルバイト、テトラナトロライト、トムソナイト、チェルニカイト、ワイラカイト、ウェルザイト、ウィルヘンダーソナイト、ユガワラライト又はこれらの1種類以上を含む組合せからなる、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−90377(P2010−90377A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229167(P2009−229167)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】