説明

大型2サイクルディーゼルエンジンのためのカム駆動型排気弁作動システム

カム軸(28)と油圧プッシュロッドとを備える排気弁作動システムを有する大型2サイクルディーゼルエンジン(1)。油圧プッシュロッドは、関連する排気弁(11)を作動するための油圧排気弁アクチュエータ(34)に導管(36)を介して接続される。油圧プッシュロッドは、カム軸によって駆動されるピストンポンプ(32)を備える。カム軸には、シリンダ毎に排気カム(29)が設けられ、排気カムは、排気弁の開放に必要なリフト量を上回るリフト量をもたらす形状(30)を有する。油圧ピストンポンプのリフト量の増大により生成される油圧油の一部は、油圧プッシュロッドから分流され、エンジンに関して加圧油圧油を使用する要素に供給される。生成された油圧油の他の部分は、排気弁リフトの増大をもたらす。排気弁を閉鎖に付勢する空気バネ(33)に保存されるエネルギーは、排気弁の戻り行程中にカム軸に戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド式大型ターボ過給型2サイクルディーゼルエンジンのカム駆動型油圧排気弁作動および燃料噴射システムに関する。
【発明の背景】
【0002】
クロスヘッド式大型ターボ過給型2サイクルディーゼルエンジンは、例えば、大型外航船の推進のために、または発電所の主機関として使用される。サイズが非常に大きいことだけが原因ではないが、これらの2サイクルディーゼルエンジンは、他のどの内燃機関とも異なって建造される。2サイクルの原理と、50℃で700cSt未満の粘度(すなわち室温では非流動性)を有する重油の使用とにより、エンジン業界において特殊な位置を占めている。
【0003】
性能改善および排出低減に対する要望により、これらの大型2サイクルディーゼルエンジンにもコモンレール式電子油圧制御型排気弁作動システムや電子制御型燃料噴射シスムが開発されている。これらのシステムの利点は、その柔軟性の向上にあり、排気弁の開放および閉鎖のタイミングや燃料の供給の仕方を自由に選択して、エンジンの動作条件に適合させることができることである。しかし、コモンレール式電子油圧システムは比較的高価であり、排気弁開放過程の開放に使用する油圧エネルギーが、排気弁閉鎖過程中に回収されずに失われてしまうため、従来のカム駆動型システムよりも多くのエネルギーを消費する。
【0004】
油圧動力源は、電気駆動型始動ポンプを備え、また容量の無段調整により得られる所定の一定出口圧力を有する高圧ポンプの組を有する。ポンプは、クランク軸に接続される単一の機械的ギアによって駆動される。
【0005】
油圧駆動型燃料噴射ポンプと高圧システムとの接続には長い管が用いられ、また多くの管接続部がある。このシステムは、ギアの損傷や、無段容量調整機能の故障、また急激な自然圧力変動により生じうる供給管もしくは管接続部の破裂の損傷に対して冗長性が低く、これらの問題が生じるとエンジンは動作不能になり、すなわちエンジンが完全に停止してしまう。
【0006】
さらに、無段調整型ポンプの効率は、動作条件によって変動し、一定の条件では、効率が高いとは言えない。これらの欠点により、電子制御型エンジンの利点の多くが相殺されてしまう。
【発明の開示】
【0007】
このような背景から、本発明の目的は、上述の問題を克服するか、または少なくとも軽減する上述の型の省エネルギーエンジンを提供することにある。
【0008】
本目的は、それぞれ少なくとも1つの排気弁および少なくとも1つの燃料噴射器が設けられる複数のシリンダと、各々、前記シリンダのいずれかのための前記少なくとも1つの排気弁および該シリンダのための油圧プッシュロッドを作動させるための複数の排気カムが搭載される少なくとも1つのカム軸とを備えるクロスヘッド式大型2サイクルディーゼルエンジンであって:
前記油圧プッシュロッドは、アクチュエータ毎に設けられる油圧ピストンポンプであって、前記カム軸上の対応するカムによって駆動される油圧ピストンポンプと、対応する排気弁を開放方向に動かすための、排気弁毎に設けられる油圧アクチュエータと、関連する前記アクチュエータの前記油圧ピストンポンプを関連する前記油圧アクチュエータに接続するための、排気弁毎に設けられる油圧導管とを備え;
前記排気カムは、前記排気弁の開放に必要なリフト量を上回るリフト量を生じる形状を有し、これによって、前記油圧ピストンポンプにより供給され、かつ前記上回るリフト量により生成される追加的な油圧油の少なくとも一部が、前記油圧プッシュロッドから分流され、前記エンジンに関して加圧油圧油を使用する要素に供給される、大型2サイクルディーゼルエンジンを提供することによって達成される。
【0009】
カム軸および排気弁作動システムのピストンポンプによって油圧油を生成することによって、ある量の高圧油圧油を、効率的に、かつ高冗長性で生成することが可能になる。追加的な油圧油は、燃料噴射システムやシリンダ潤滑システム等の、エンジンの他の油圧駆動型構成要素を駆動するために使用可能である。追加的な油圧油のうち、当該他の油圧駆動型構成要素では直接使用できない部分は、油圧プッシュロッドに向けられて、排気弁の開放ストロークを大きくする。排気弁を閉鎖位置に付勢する空気バネは、追加的な油圧油のうち前記部分に含まれるエネルギーを保存し、排気弁の戻り行程によってこのエネルギーをカム軸に戻す。
【0010】
前記加圧油圧油を使用する前記要素は、エンジンの燃料噴射システムであってもよい。
【0011】
前記加圧油圧油を使用する前記要素は、エンジンのシリンダ潤滑システムであってもよい。
【0012】
好ましくは、リフト量の増分は、排気ローブの高さを増すことによって生成される。
【0013】
追加的な油圧油の少なくとも一部は、油圧ピストンポンプのポートを介して油圧プッシュロッドから分流されてもよい。
【0014】
油圧ピストンポンプのピストンには、該ピストンの上面を該ピストンの側面に接続する穴が設けられてもよい。
【0015】
ピストンポンプの壁面には、ピストンポンプを、加圧油圧油を使用する要素に接続するポートが設けられてもよい。
【0016】
ポートは、圧力増幅器の入口に接続可能である。
【0017】
圧力増幅器の出口は、各シリンダの油圧油を使用する要素が接続される共通油圧導管に接続される。
【0018】
好ましくは、圧力増幅器は、共通調節圧力導管における圧力によって平衡化される。
【0019】
前記燃料噴射システムは、共通油圧導管からの高圧油圧油で動作可能である。
【0020】
前記燃料噴射システムは、各シリンダの燃料噴射弁に極めて高い圧力の燃料を供給する油圧駆動型増圧器をシリンダ毎に備えてもよい。
【0021】
前記増圧器の各々は、増圧器を高圧共通油圧導管に選択的に接続する選択弁を介して、高圧油圧導管に接続されてもよい。
【0022】
前記選択弁は、電子制御型または電子油圧制御型弁、好ましくは、比例弁であってもよい。
【0023】
前記油圧ピストンポンプにより供給され、かつ油圧プッシュロッドからは分流されない、前記上回るリフト量により生成される追加的な油圧油の少なくとも一部は、排気弁の開放ストロークを増すために使用されてもよい
【0024】
排気弁には、排気弁を閉鎖位置に付勢する空気バネが設けられ、前記空気バネは、増えた開放ストロークに対応することによって、追加的な油圧油に含まれるエネルギーを空気バネに保存し、排気弁の閉鎖行程中にこのエネルギーをカム軸に戻すように構成される。
【0025】
好ましくは、油圧プッシュロッドは、カムの形状により規定されるプロファイルより前に排気弁の開放を可能にするために、共通高圧油圧導管に選択的に接続可能に構成される。
【0026】
本発明に従う大型2サイクルディーゼルエンジンに関するさらなる目的、特徴、利点、および特性は、詳細な説明より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本説明の以下の詳細な部分において、図面に示される例示的実施形態を参照して、本発明についてより詳細に説明する。
【図1】本発明に従うエンジンの断面図である。
【図2】図1に示すエンジンの1つのシリンダ区分に関する縦断面図である。
【図3】本発明に従う排気弁作動および燃料噴射システムの第1の実施形態に関する図表示である。
【図4】本発明の動作を図示する棒グラフである。
【図5】本発明の動作を図示する棒グラフである。
【図6】本発明の動作を図示する棒グラフである。
【図7】本発明の動作を図示する棒グラフである。
【図8】本発明に従う排気弁作動および燃料噴射システムの第2の実施形態に関する図表示である。
【好適な実施形態の詳細な説明】
【0028】
図1および図2は、本発明の好適な実施形態に従うエンジン1の1つのシリンダに関する断面図および縦断面図である。エンジン1は、クロスヘッド式ユニフロー式低速2サイクルディーゼルエンジンであり、船舶の推進システムや発電所の原動機になり得る。このようなエンジンは、典型的には、4本から最大14本のシリンダを直列に有する。エンジン1は、クランク軸3の主軸受を有する台板2から組み上げられる。
【0029】
クランク軸3は、半組立型である。半組立型は、焼嵌め結合によって主ジャーナル軸に連結される鋳鋼スローまたは鍛鋼スローから製造される。
【0030】
台板2は、1つの部品として製造されてもよく、または製造施設に応じた適切なサイズの部分に分けて製造されてもよい。台板は、側壁と、軸受サポートを有する溶接された横桁(cross grinder)とから成る。当技術分野において、横桁は、「横方向桁(transverse girder)」とも呼ばれる。油受け58は、台板2の底部に溶接され、強制潤滑油および冷却油システムからの戻り油を回収する。
【0031】
連接棒8は、クランク軸3をクロスヘッド軸受22に連結する。クロスヘッド軸受22は、垂直案内面23の間で案内される。
【0032】
台板2の上には溶接設計のA型箱枠4が搭載される。箱枠4は溶接設計である。箱枠4の排気側には、シリンダ毎に逃し弁が設けられており、一方、箱枠4のカムシャフト側には、シリンダ毎に大型のヒンジ式ドアが設けられている。クロスヘッド案内面23は、箱枠4と一体型である。
【0033】
箱枠4の上部にはシリンダフレーム5が搭載される。控えボルト27は、台板2、箱枠4、およびシリンダフレーム5を接続し、構造を一体的にする。控えボルト27は油圧ジャッキで締め付けられる。
【0034】
シリンダフレーム5は、最終的には一体型カム軸ハウジング25を有する1つ以上の部品に鋳造されるか、または溶接設計される。別の実施形態(図示せず)によると、カム軸28は、シリンダフレームに取り付けられる別部品のカム軸ハウジングに収容される。
【0035】
シリンダフレーム5には、掃気空間の洗浄用、ならびにカム軸側の掃気ポートおよびピストンリングの点検用の、アクセスカバーが設けられている。シリンダフレームは、シリンダライナ6とともに掃気空間を形成する。掃気受け9は、その開放側でシリンダフレーム5にボルト締結される。シリンダフレームの底部には、ピストン棒のパッキン箱があり、これには、掃気用の封止リングと、箱枠4および台板2の空間に排出産物が入り込まないようにするオイルリングとが設けられ、こうすることによって、この空間に存在する全ての軸受を保護している。
【0036】
ピストン13は、ピストンクラウンおよびピストンスカートを含む。ピストンクラウンは耐熱鋼製であり、4つのリング溝を有し、この溝部の上面および下面には硬質クロムがめっきされている。
【0037】
ピストン棒14は、4つのネジでクロスヘッド22に接続される。ピストン棒14は、2つの同軸穴(図面では見えない)を有し、冷却油管と併せてピストン13の冷却油用の入口および出口を形成する。
【0038】
シリンダライナ6は、シリンダフレーム5によって担持される。シリンダライナ6は合金鋳鉄製であり、低位置のフランジによってシリンダフレーム5に懸架される。ライナの最上部は、鋳鉄製冷却ジャケットによって囲まれる。シリンダライナ6はシリンダ潤滑用のドリル穴(図示せず)を有する。
【0039】
シリンダはユニフロー式であり、エアボックス付近に位置する掃気ポート7を有する。この排気ポートには、掃気受け9(図1)から、ターボチャージャー10(図1)で加圧された掃気が供給される。
【0040】
エンジンには、1つ以上のターボチャージャー10が装備される。このターボチャージャーは、シリンダの数が4〜9本のタイプのエンジンの場合は後部に、シリンダの数が10本以上のタイプのエンジンの場合は排気側に配置される。
【0041】
ターボチャージャー10への吸気は、ターボチャージャーの吸気消音器(図示せず)を介してエンジン室から直接発生する。ターボチャージャー10から、給気管(図示せず)、空気冷却器(図示せず)、および掃気受け9を介して、シリンダライナ6の掃気ポート7に空気が導かれる。
【0042】
エンジンには、電気駆動型掃気用ブロア(図示せず)が設けられる。ブロアの吸引側は、空気冷却後の掃気空間に接続される。空気冷却器と掃気受けとの間に逆止め弁(図示せず)が装備され、この逆止め弁は、補助ブロアが空気を供給する際に自動的に閉鎖する。補助ブロアは、低中負荷状態でターボチャージャーによる圧縮を補助する。
【0043】
燃料弁48は、シリンダカバー12に同心円状に装着される。圧縮行程の終了時に、噴射弁48は、その噴射ノズルを介して細霧状の燃料を高圧で燃焼室15に噴射する。排気弁11は、シリンダカバー12のシリンダ上部の中心に装着される。
【0044】
膨張行程の終了時に、エンジンのピストン13が掃気ポート7を越えて下降する前に、排気弁11は開放し、それによって、ピストン13上の燃焼室15内の燃焼ガスは、排気受け17に開放している排気路16を通って流出し、燃焼室15内の圧力は解放される。排気弁11は、ピストン13の上方運動中に再び閉鎖する。排気弁11は油圧作動式である。
【0045】
図3は、本発明に従う排気弁作動システムの第1の実施形態を示す。排気弁作動システムは、単一のシリンダについて図示される実施形態の全てに関する。マルチシリンダエンジンでも、シリンダ毎に同じ設備が提供される。排気弁作動システムは、増加リフト量30を有する排気カム29が装着されたカム軸28を備える(シリンダが1つしか図示されていないので、1つだけ示されている)。ローラー31は、カム29の表面に追従し、容積型ポンプ32のピストンに接続される。容積型ポンプ32は、圧力管36を介して排気弁アクチュエータ34に接続される。容積型ポンプ32、圧力管36、および排気弁アクチュエータ34は、まとめて油圧プッシュロッドを形成する。排気弁アクチュエータ34は、排気弁11の開放方向に力を印加することができる容積型線形アクチュエータである。
【0046】
また、排気弁には、排気弁11を閉鎖位置に付勢する空気バネ33が設けられる。排気弁11の位置は、測定され、エンジン制御装置(engine control unit; ECU)に通信される。
【0047】
排気カム29によるリフト量の増分は斜線部分30によって示されている。排気カム29のカム輪郭は、容積型ポンプ32に十分なストロークを提供して、排気弁11の不十分な開放ストロークを得るためには、斜線部分30の下までの膨らみさえあればよい。カム29の更なる膨らみにより生成される容積型ポンプ32のストロークの増分により、容積型ポンプ32は、排気弁11の十分なる開放の必要性を上回るストロークを有することになる。
【0048】
容積型ポンプ32のピストンには、穴35が設けられ、この穴35は、ピストンの行程の所定の部分中にポート37と連通する。
【0049】
ポート37における圧力が容積型ポンプ32の圧力室の圧力より低い場合、油圧ピストンポンプ32から生成され、かつリフト量の増大により生じる、追加的な油圧油の一部が、ポート37に分流される。
【0050】
ポート37における圧力が容積型ポンプ32の圧力室の圧力より高い場合、油圧ピストンポンプ32から生成され、かつカム29のリフト増加に起因する追加的な油圧油の一部は、圧力管36を介して排気弁アクチュエータ34に供給される。これによって、排気弁11の開放ストロークの増加、すなわち、通常必要とされる開放ストロークの長さを上回る開放ストロークが引き起こされる。
【0051】
空気バネ33は、排気弁11の開放ストロークの増加に対応するように構成されており、これによって、空気バネ33は、リフト量の増大により生成される追加的な油圧油の一部に含まれたエネルギーを蓄積および保存する。ある実施形態では、空気バネ33には、空気バネが保存できるエネルギーの量を増加させるために進歩的な特徴が設けられてもよい。空気バネ33に保存されるエネルギーは、排気弁11の後続する戻り行程においてカム軸28に戻される。
【0052】
圧力ポート37は中間増圧器38と繋がっている。中間増圧器38は、ポート37の圧力を増加させ、圧力が増加した油圧油を、導管39を介して、シリンダの全てに接続される共通高圧油圧導管18に供給する。
【0053】
共通高圧油圧導管18は、エンジン運転中高圧に維持され、例えば、約200バールから600バールの間に設定されるレベルに維持される。エンジン始動時に、共通高圧油圧導管18における圧力は、電気駆動式ポンプ9によって生成される。エンジン運転中、共通高圧油圧導管18における圧力は、中間増圧器38によって供給される。
【0054】
中間増圧器38には、2つの圧力室が設けられる。第1の圧力室は、高圧油圧油を共通高圧油圧導管18に供給する。第2の圧力室は、導管41を介して、共通制御圧力導管42に接続される。共通制御圧力導管42における圧力は、約100バールから200バールの間に維持され、以下のように、エンジン制御装置(engine control unit; ECU)によって制御される。エンジン制御装置は、共通高圧油圧導管18における圧力を表わす信号を受信する。エンジン制御装置は、圧力制御導管42に接続される圧力調節弁44を制御し、これによって、エンジン制御装置は、共通高圧油圧導管18における圧力を制御する。
【0055】
エンジン制御装置が、共通高圧油圧導管18における圧力が所望よりも低いことを検出すると、エンジン制御装置は、圧力制御導管42における圧力を低下させる。これによって、中間増圧器38は、減少された量の反対圧力を受け、共通高圧油圧導管18に供給する高圧油圧油の量を増やす。
【0056】
エンジン制御装置が、共通高圧油圧ユニットにおける圧力が所望よりも高いことを検出すると、エンジン制御装置は、圧力制御ユニット42における圧力を増加させる。これによって、中間増圧器38は、増加された量の反対圧力を受け、共通高圧油圧導管18に供給する高圧油圧油の量を減らす。
【0057】
また、圧力制御導管42からの加圧流体は、中間増圧器38の戻し/吸引行程に動力供給する。中間増圧器38は、増圧器38の圧力室を補助する導管40を介して、低圧(約3バール)供給圧力導管43に接続される。
【0058】
エンジンに関して加圧油圧油を使用する要素に分流されない、排気カム29のリフト量の増分により生成される追加的な油圧油の量は、様々なエンジン動作条件によって変動する。エンジンが、高負荷下で動作する場合、比較的多量の燃料を行程毎に注入する必要があり、追加的な油圧油のうち排気弁11のリフト量の増大に用いられる部分は僅かであるか全くない。
【0059】
エンジンが、低負荷または中間負荷下で動作する場合、行程毎に注入する燃料の量は比較的少なくて済み、追加的な油圧油の比較的多くの部分が排気弁11のリフト増大に用いられる。追加的な油圧油のこの非分流部分に含まれるエネルギーは、ガスバネ33に保存され、排気弁11の閉鎖行程中にカム軸28に戻される。
【0060】
中間増圧器38に作用する制御圧力導管42の圧力は、中間増圧器38により共通高圧導管18に供給される高圧油圧油の量を調節する。したがって、エンジン制御装置によって、共通高圧導管18において所望の圧力を得ることが可能であることを確実にすることができる。
【0061】
各シリンダには、噴射ノズルを含む2つ以上の燃料噴射弁48が設けられる。燃料噴射弁48は、増圧器46から高圧燃料を受ける。燃料は、通常、粘度が非常に低いために液体化するのに加熱する必要がある重油である。増圧器46は、共通高圧流体導管18からの高圧油圧油で駆動される。ここで増圧器46は、導管45および比例弁49を介して共通高圧油圧導管18に接続される。油圧アキュムレータ47は、圧力変動を最小化するために導管45に接続される。比例弁49は、エンジン制御装置によって電子的にまたは電子油圧的に制御され、周知の方式で動作する。
【0062】
図4は、排気カムのリフトの様子を図示するグラフ42である。斜線部分は、排気弁11の通常の開放に必要でありうるリフト量を上回る、増大した量のリフトを図示する。リフトのうちの約60%だけが、排気弁11を開放するのに必要とされる。残りのリフト(斜線部分)は、追加の量の加圧油圧油を生成するために使用される。
【0063】
図5は、中間エンジン負荷による動作条件における排気弁リフトの様子を図示するグラフである。ピストンポンプ32により生成される追加の油圧油の一部により、11の排気の開放ストローク(リフト)の追加の長さがもたらされる。排気弁11の追加の開放ストローク(リフト)は、斜線部分によって示される。
【0064】
図6は、アクチュエータポート37における開放面積を図示するグラフである。
【0065】
図7は、中間増圧器38の変位を図示するグラフである。段階Aは、供給面、段階Bは、力/圧力バランスを有する平衡面であり、段階Cは、戻し/吸引行程である。
【0066】
図8は、本発明の第2の実施形態を図示する。この実施形態は、制御圧力導管42から油圧プッシュロッドに追加の量の油圧油を追加する手段が本実施形態に設けられることを以外は、第1の実施形態と本質的に同一である。さらに、シリンダ注油器52は、共通高圧油圧導管18からの油圧油で動作する。
【0067】
追加の量の油圧油を油圧プッシュロッドに供給するための手段は、変形された比例弁49を介して、ピストンポンプ32の圧力室を共通高圧油圧導管18(または代替として、制御圧力導管42)に接続する導管50を含む。本実施形態では、比例弁49には、共通高圧油圧導管18からピストンポンプ32の圧力室への油圧油の流動を制御するための2つのさらなるポジションが設けられる。比例弁49を介して、エンジン制御装置は、油圧プッシュロッドに供給される油圧油のタイミングおよび量を制御することができる。制御された量の油圧油を適時に油圧プッシュロッドに供給することによって、エンジン制御装置は、排気弁11の開放を早めることによって、背圧(blowback pressure)を調節することができる。シリンダ圧縮圧力の制御は、排気弁11の閉鎖が開始される直前に、制御された量の油圧油を油圧プッシュロッドに供給することによって達成される。本実施形態に従う排気弁作動システムは、プロファイリング、すなわち、排気弁11の開放のタイミングの変更および排気弁11の閉鎖のタイミングの変更の可能性を提供する。
【0068】
また、エンジン制御装置は、共通高圧油圧導管18からの高圧油圧油で動作するシリンダ潤滑ユニット52も制御し、シリンダ潤滑油をシリンダに供給する。
【0069】
したがって、第2の実施形態では、燃料噴射システムおよびシリンダ潤滑システムの両方が、排気弁カム29のリフト増大により生成された高圧油圧油で動作する。
【0070】
他の実施形態(図示せず)では、カム軸の追加のリフトにより生成される追加の量の油圧油により駆動される他の(さらなる)油圧動作型エンジン構成要素が存在し得る。このような別の油圧動作型エンジン構成要素の例として、共通高圧油圧導管18からその油圧動力を受ける油圧モータにより駆動可能である補助ブロアが挙げられる。補助ブロアは、低エンジン負荷から中エンジン負荷の間にだけ動作する。そしてその間は、通常、中間増圧器38から入手可能な余分の油圧油が存在するため、これを補助ブロアの駆動のために直接使用することができる。
【0071】
本発明は、多数の利点を有する。異なる実施形態または実装によって、以下の利点のうちの1つ以上がもたらされ得る。これが、包括的なリストではなく、本明細書に記載されない他の利点も存在し得ることに留意されたい。本発明の一利点として、柔軟性があり、かつエネルギー効率の良い排気弁作動および燃料噴射システムを大型2サイクルディーゼルエンジンに提供することが挙げられる。本発明の別の利点として、高圧ポンプステーションまたはポンプを必要としない柔軟性のある電子制御型燃料噴射システムを大型2サイクルディーゼルエンジンに提供することが挙げられる。本発明のさらなる利点として、主に効率の高い構成要素を弁作動および燃料噴射のために使用することが挙げられる。本発明のさらなる利点として、信頼性の立証された動力供給の優れた冗長性を提供することが挙げられる。本発明の別の利点として、カム軸動作型排気弁を備える既存のエンジンを、本発明に従うシステムにより改造して使用することが可能となることが挙げられる。
【0072】
用語の「備える」は、請求項において使用する際、他の要素を除外しない。請求項における単数形の用語は、複数形を除外しない。
【0073】
例示目的のために本発明について詳述したが、このような詳細が単にその目的のためのものであること、ならびに本発明の範囲を逸脱することなく、当業者によって変更を加えることが可能であることを理解されたい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ少なくとも1つの排気弁および少なくとも1つの燃料噴射器が設けられる複数のシリンダと、
各々、前記シリンダのいずれかのための前記少なくとも1つの排気弁および該シリンダのための油圧プッシュロッドを作動させるための複数の排気カムが搭載される少なくとも1つのカム軸と、
を備える、クロスヘッド式大型2サイクルディーゼルエンジンであって、
前記油圧プッシュロッドは、
アクチュエータ毎に設けられ、前記カム軸上の対応するカムによって駆動される油圧ピストンポンプと、
排気弁毎に設けられ、対応する排気弁を開放方向に動かす油圧アクチュエータと、
排気弁毎に設けられ、前記油圧ピストンポンプを対応する前記油圧アクチュエータに接続する油圧導管と、
を備え、前記排気カムは、前記排気弁の開放に必要なリフト量を上回るリフト量を生じる形状を有し、これによって、前記油圧ピストンポンプにより供給され、かつ前記上回るリフト量により生成される追加的な油圧油の少なくとも一部が、前記油圧プッシュロッドから分流され、前記エンジンに関して加圧油圧油を使用する要素に供給されることを特徴とする、大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記加圧油圧油を使用する要素は、前記エンジンの燃料噴射システムである、請求項1に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記加圧油圧油を使用する要素は、前記エンジンのシリンダ潤滑システムである、請求項1または2に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記リフト量の増分は、排気ローブの高さを増加させることによって生成される、請求項1に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記追加的な油圧油の前記少なくとも一部は、前記油圧ピストンポンプのポートを介して前記油圧プッシュロッドから分流される、請求項1に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項6】
前記油圧ピストンポンプのピストンには、該ピストンの上面を該ピストンの側面に接続する穴が設けられる、請求項5に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項7】
前記ピストンポンプの壁面には、前記ピストンポンプを、前記加圧油圧油を使用する要素に接続するポートが設けられる、請求項6に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項8】
前記ポートは圧力増幅器の入口に接続される、請求項7に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項9】
前記圧力増幅器の出口は、各前記シリンダの前記加圧油圧油を使用する要素が接続される共通油圧導管に接続される、請求項8に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項10】
前記圧力増幅器は、共通調節圧力導管における圧力によって平衡化される、請求項9に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項11】
前記燃料噴射システムは、前記共通油圧導管からの高圧油圧油で動作する、請求項9または10に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項12】
前記燃料噴射システムは、前記シリンダの前記燃料噴射弁に極めて高い圧力の燃料を供給する油圧駆動型の増圧器を前記シリンダ毎に備える、請求項11に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項13】
前記増圧器の各々は、前記増圧器を前記高圧共通油圧導管に選択的に接続する選択弁を介して、前記高圧油圧導管に接続される、請求項11に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項14】
前記選択弁は、電子制御型または電子油圧制御型弁、好ましくは、比例弁である、請求項13に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項15】
前記油圧ピストンポンプにより供給され、かつ前記油圧プッシュロッドから分流されない、前記上回るリフト量により生成された前記追加的な油圧油の少なくとも一部は、前記排気弁の開放ストロークを増すために使用される、請求項1から14のいずれかに記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項16】
前記排気弁の各々には、前記排気弁を閉鎖位置に付勢する空気バネが設けられ、前記空気バネは、前記増えた開放ストロークに対応することによって、前記追加的な油圧油の前記一部に含まれる前記エネルギーを前記空気バネに保存し、前記排気弁の閉鎖行程中にこのエネルギーを前記カム軸に戻すように構成される、請求項15に記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項17】
前記油圧プッシュロッドは、前記カムの前記形状により規定されるプロファイルより前に前記排気弁の開放を可能にするために、前記共通高圧油圧導管に選択的に接続可能に構成される、請求項1から16のいずれかに記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。
【請求項18】
前記油圧プッシュロッドは、前記カムの前記形状により規定されるプロファイルより遅れて前記排気弁の閉鎖を可能にするために、前記共通高圧油圧導管に選択的に接続可能に構成される、請求項1から17のいずれかに記載の大型2サイクルディーゼルエンジン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4.5.6.7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−522162(P2011−522162A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511974(P2011−511974)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【国際出願番号】PCT/DK2008/000266
【国際公開番号】WO2010/006599
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(597061332)エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド (98)
【Fターム(参考)】