説明

封止用エポキシ樹脂成形材料及び電子部品装置

【課題】 難燃性、耐熱性、耐冷熱サイクル性に優れた封止用エポキシ樹脂成形材料、及びこの封止用エポキシ樹脂成形材料で封止した素子を備えた電子部品装置を提供する。
【解決手段】 (A)エポキシ樹脂、(B)下記一般式(I)で表される化合物を含む硬化剤、(C)無機質充填剤を含有し、(C)成分が、成形材料全体の70重量%以上88重量%以下で、かつ、少なくとも1種成分の比表面積が2.0m2/g以下である封止用エポキシ樹脂成形材料。
【化1】


(一般式(I)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用エポキシ樹脂成形材料、及びこの封止用エポキシ樹脂成形材料で封止した素子を備えた電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランジスタ、IC、LSI等の電子部品装置の素子封止の分野では生産性、コスト等の面から樹脂封止が主流となり、エポキシ樹脂成形材料が広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂が電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性などの諸特性にバランスがとれているためである。
【0003】
近年は、自動車分野においても電子機器化が進んでいる。自動車用途の電子機器には、耐冷熱サイクル性等の信頼性において、パーソナルコンピュータ、家電等のいわゆる民生用途より一段と厳しい信頼性が求められることが多い。耐冷熱サイクル性を高める為には半導体内部部材と封止用エポキシ樹脂成形材料の熱膨張係数を近づける等の手法が挙げられる。
封止用エポキシ樹脂成形材料には、従来よりデカブロムをはじめとするハロゲン化樹脂やアンチモン化合物が難燃剤として用いられていたが、近年、環境保護の観点からこれらの化合物に量規制の動きがあり、ノンハロゲン化(ノンブロム化)及びノンアンチモン化の要求が出てきている。また、プラスチック封止ICの高温放置特性にブロム化合物が悪影響を及ぼすことが知られており、この観点からもブロム化樹脂量の低減が望まれている。
ブロム化樹脂や酸化アンチモンを用いずに難燃化を達成する手法としては、有機リン系化合物を添加する方法(例えば、特許文献1参照。)、金属水酸化物を添加する方法(例えば、特許文献2参照。)等の提案がなされている。しかしながら、特に銅リードフレームパッケージにおいて耐冷熱サイクル性を高める為に封止用エポキシ樹脂成形材料の線膨張係数をリードフレームに近づけようとした場合、無機質充填材料の配合量の低下から難燃性の確保が困難となり、これら難燃剤を多量に添加する必要が生じる。難燃剤の多量の添加は耐熱性や成形性等に悪影響を及ぼす等の問題を引き起こし、未だ充分な解決をみていないのが現状である。
【特許文献1】特開平9−235449公報
【特許文献2】特開平9−241483公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブロム化樹脂や酸化アンチモンを用いない封止用エポキシ樹脂成形材料において、耐冷熱サイクル性を高める為に封止用エポキシ樹脂成形材料の線膨張係数と半導体内部部材とのそれを近づけようとすると、特に銅リードフレームを使用したパッケージでの難燃性確保が困難となる。一方、難燃性確保の為に有機リン系化合物、金属水酸化物等の難燃剤を用いると、耐熱性や成形性等に悪影響を及ぼす等の問題を抱える。
【0005】
本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、ハロゲン化樹脂やアンチモン化合物、さらには有機リン系難燃剤や金属水酸化物等の難燃剤を実質的に用いることなく高い難燃性を実現し、耐熱性や耐冷熱サイクル性等の信頼性に優れる封止用エポキシ樹脂成形材料、及びこれにより封止した素子を備えた電子部品装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、封止用エポキシ樹脂成形材料に、特定の構造を有する硬化剤、及び特定の比表面積を有する無機質充填剤とを添加することにより上記の目的を達成しうることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は
(1)(A)エポキシ樹脂、(B)下記一般式(I)で表される化合物を含む硬化剤、(C)無機質充填剤を含有し、(C)成分が、成形材料全体の70重量%以上88重量%以下で、かつ、少なくとも1種成分の比表面積が2.0m2/g以下である封止用エポキシ樹脂成形材料、
【化1】

(一般式(I)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
(2)(C)成分のうち、比表面積が2.0m2/g以下である成分が結晶シリカ、溶融シリカ、及び合成シリカの内の少なくとも一つを含む前記(1)に記載の封止用エポキシ樹脂成形材料、
(3)(C)成分のうち、比表面積が2.0m2/g以下である成分が、(C)成分全体の30重量%以上である前記(2)に記載の封止用エポキシ樹脂成形材料、
(4)臭素系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含有しない前記(1)〜(3)のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料、
(5)(D)硬化促進剤を含み、該硬化促進剤に有機リン系化合物を含有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料、
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料により封止された素子を備えた電子部品装置、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明になる封止用エポキシ樹脂成形材料は、難燃性や耐熱性、耐冷熱サイクル性等の信頼性に優れ、この封止用エポキシ樹脂成形材料を用いてIC、LSI等の電子部品を封止すれば、難燃性や耐熱、耐冷熱サイクル性等の信頼性に優れた電子部品装置を得ることができ、その工業的価値は大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、(A)成分として封止用エポキシ樹脂成形材料に一般に使用されているエポキシ樹脂を特に制限なく使用することが可能である。例示すれば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールA/D等のジグリシジルエーテル、アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、ビフェニル・アラルキル樹脂のエポキシ化物、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、シクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、テルペン変性エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及びこれらのエポキシ樹脂をシリコーン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン系ゴム、ポリアミド系樹脂等により変性したエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0010】
本発明の(B)硬化剤には、特に難燃性の点から、下記一般式(I)で表される化合物を単独又は併用して用いることが必要である。
【化2】

(一般式(I)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
本発明の効果である高い難燃性を実現する為には、一般式(I)で表される硬化剤を(B)成分の50重量%以上とすることが好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上が特に好ましい。一般式(I)で表される硬化剤としては、n=1〜10程度で、ベンゼン環の側鎖がすべて水素であるMEH-7851(明和化成株式会社製商品名)が市場で入手可能である。
本発明では(B)成分として、一般式(I)で表される硬化剤の他に、封止用エポキシ樹脂成形材料に一般に使用されている硬化剤を、その発明の効果を失わない範囲において併用することができる。例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型フェノール樹脂等が挙げられ、信頼性や難燃性の点からは、下記一般式(II)〜(IV)で表されるフェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂等を併用することが好ましい。
【化3】

(一般式(II)で、nは0又は1〜10の整数を表す。ベンゼン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
【化4】

(一般式(III)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環、ナフタレン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
【化5】

(一般式(IV)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環、ナフタレン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
上記一般式(II)で示されるフェノール・アラルキル樹脂としては三井化学株式会社製商品名XLC等が、上記一般式(III)で示されるナフトール・アラルキル樹脂としては新日鐵化学株式会社製商品名SN−475等が、上記一般式(IV)で示されるナフトール・アラルキル樹脂としては新日鐵化学株式会社製商品名SN−170等が、それぞれ市場で入手可能である。
【0011】
(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の硬化剤との当量比、すなわち、エポキシ樹脂中のエポキシ基数/硬化剤中の水酸基数の比は、特に制限はないが、それぞれの未反応分を少なく抑えるために0.5〜2の範囲に設定されることが好ましく、0.6〜1.5がより好ましい。成形性や信頼性に優れる封止用エポキシ樹脂成形材料を得るためには0.8〜1.2の範囲に設定されることがさらに好ましい。
【0012】
本発明では、線膨張係数低減、吸湿性及び強度向上等の為に、(C)無機質充填剤を配合することが必要であり、特に難燃性の観点から、比表面積が2.0m2/g以下の成分(以下、(C1)成分とする。)を少なくとも1種配合することが必要である。無機質充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、又はこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。さらに、本発明の効果を失わない範囲で、難燃効果のある水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系無機質充填剤を添加してもよい。
流動性や線膨張係数、難燃性、信頼性といった総合的観点からは(C)成分の一部又は全部を結晶シリカ、溶融シリカ、又は合成シリカとすることが好ましく、特に難燃性の点から(C1)成分が結晶シリカ溶融シリカ及び合成シリカからなるシリカ群の内の少なくとも一つを含むことがより好ましい。
また、(C1)成分を(C)成分全体の30重量%以上とすることが好ましく、さらにこの(C1)成分に上記シリカ群の内の少なくとも一つを含むことがより好ましい。(C1)成分を(C)成分の30重量%以上とすることは、特に無機質充填剤量の相対的に少ない領域での難燃性確保に効果的である。比表面積の小さい無機質充填剤、特に結晶シリカ、溶融シリカ、又は合成シリカは、封止用エポキシ樹脂成形材料の燃焼時に相対的に断熱効果の大きな厚い表面膨張層を与え、それによって高い難燃性を与えると考えられる。
なお、本発明における結晶シリカ、溶融シリカ、又は合成シリカとは、天然シリカ、天然シリカを破砕後に溶射工程を経てガラス化したもの、又はシリコン単体あるいはテトラクロロシラン等を例とするシリコン化合物を出発物質として得られたシリカ(シリコンジオキサイド)を合成中又は合成後に溶射工程を経てガラス化したものを指す。流動性の観点からは、下記方法(1)により測定された球形度が0.70以上の、いわゆる球形シリカを用いることが好ましい。なお、本発明における比表面積とは、下記(2)により得られた値を指す。
(1)球形度
測定装置:FPIA‐2100
対象粒子径:45μm以上(JIS篩45μmにて篩上に残った粒子)
対象粒子数:200個
測定方法等:
1)(試料20g/純水80ml)+超音波3分間。
2)JIS篩(45μm)にて45μm以下の粒子を除く。
3)篩上の粒子1.0gにエチレングリコール50%溶液20mlを加え、超音
波にて3分間分散。
4)分析装置にかけ、以下の式に従って球形度を求める。
(球形度)=(投影面積/粒子の投影周囲長と同じ円周を持つ円の面積)
(2)比表面積
測定装置:ユアサアイオニクス株式会社製流動法BET一点法比表面積測定装置モノソーブ
キャリアガス:窒素/ヘリウム混合ガス1.5kg/cm、窒素ガス0.7kg/cm
試料脱気条件:200℃/30分
無機質充填剤の配合量は、特に銅リードフレームパッケージでの耐冷熱サイクル性の点から、成形材料全体の70〜88重量%とすることが必要で、72〜88重量%とすることがより好ましく、75〜85重量%とすることが特に好ましい。(C)成分が70重量%未満でも88重量%を超えても、ともに封止用エポキシ樹脂成形材料とリードフレームとの線膨張係数のミスマッチが顕著となり、耐冷熱サイクル性に不利となる。
【0013】
本発明では、(D)硬化促進剤をさらに含むのが好ましく、特に硬化促進剤として有機リン系化合物を用いると、難燃性や信頼性の点で効果的である。本発明における有機リン系化合物とは、分子内に、アルキル基、フェニル基、及びフェニル基の水素原子の一部又は全部をアルキル基又はアルコキシ基で置換したフェニル基誘導体の、少なくともいずれかと直接結合するリン原子を有する化合物を指し、これらに無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物やテトラフェニルボロン塩及びその誘導体等を付加してなる分子内分極を有する化合物をも含む。
例えばトリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとp−ベンゾキノンとの付加物、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィンとp−ベンゾキノンとの付加物、トリブチルホスフィンとp−ベンゾキノンとの付加物、テトラフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、等を例示することができ、これらは単独で用いても2種以上を併用して用いても構わない。
また、本発明の効果を失わない範囲において、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザ−ビシクロ(4,3,0)ノネン、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等のシクロアミジン化合物及びこれらの化合物に無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物及びこれらの誘導体、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物及びこれらの誘導体、2−エチル−4−メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N−メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体等の窒素系硬化促進剤を上記有機リン系硬化促進剤と併用して用いることもできる。
【0014】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が達成される量であれば特に制限されるものではないが、エポキシ樹脂(A)に対して0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。0.1重量%未満では短時間での硬化性に劣る傾向があり、10重量%を超えると硬化速度が速すぎて未充填等により良好な成形品を得ることが困難になる傾向がある。
【0015】
本発明では(A)〜(D)成分以外にも、必要に応じて、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等のシラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等、封止用エポキシ樹脂成形材料に従来より使用されている公知のカップリング剤を添加することができる。
カップリング剤を添加する場合、信頼性や、特に無機質充填剤が相対的に少ない領域(70重量%〜85重量%)での難燃性確保の為に、その添加量を成形材料全体の0.5重量%以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明の成形材料においては、特に耐熱性の観点から、臭素化エポキシ樹脂等のハロゲン系難燃剤の含有量と、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤の含有量とは、いずれも成形材料全体の0.1重量%以下であることが好ましい。ハロゲン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤のいずれも含まないことがより好ましい。
本発明では又、成形時の金型からの円滑な離型性を確保する為に、ステアリン酸、モンタン酸等の高級脂肪酸系ワックス、ステアリン酸エステル、モンタン酸エステル等の高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリエチレンワックス等、封止用エポキシ樹脂成形材料に用いられる従来公知の離型剤を用いることができる。
【0017】
本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料には、IC等の半導体素子の耐湿性、高温放置特性を向上させる観点から陰イオン交換体を添加することもできる。陰イオン交換体としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、例えば、ハイドロタルサイトや、ビスマス、ジルコニウム、チタン、スズ、マグネシウム、アルミニウムから選ばれる元素の含水酸化物等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、下記一般式(V)で示されるハイドロタルサイト及びビスマスの含水酸化物が好ましい。
(化6)
Mg1−XAl(OH)(COX/2・mHO ……(V)
(0<X≦0.5、mは正の整数)
陰イオン交換体の配合量は、ハロゲンイオン等のイオン性不純物を捕捉できる十分な量であれば特に制限はないが、(A)成分のエポキシ樹脂に対して0.1〜30重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましく、2〜5重量%がさらに好ましい。配合量が0.1重量%未満ではイオン性不純物の捕捉が不十分になる傾向があり、30重量%を超えた場合それ以下に比べて効果に大差がないため経済的に不利である。
【0018】
さらに、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料には、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の着色剤、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、トリアジン等及びこれらの誘導体、アントラニル酸、没食子酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アミノフェノール、キノリン等及びこれらの誘導体、脂肪族酸アミド化合物、ジチオカルバミン酸塩、チアジアゾール誘導体等の接着促進剤などを必要に応じて配合することができる。
【0019】
本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料は、各種原材料を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いても調製できるが、一般的な手法として、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。成形条件に合うような寸法及び重量でタブレット化すると使いやすい。
また、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料は、各種有機溶剤に溶かして液状封止用エポキシ樹脂成形材料として使用することもでき、この液状封止用エポキシ樹脂成形材料を板又はフィルム上に薄く塗布し、樹脂の硬化反応が余り進まないような条件で有機溶剤を飛散させることによって得られるシートあるいはフィルム状の封止用エポキシ樹脂成形材料として使用することもできる。
【0020】
本発明で得られる封止用エポキシ樹脂成形材料により素子を封止して得られる電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載し、必要な部分を本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料で封止した、電子部品装置などが挙げられる。このような電子部品装置としては、例えば、リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部をワイヤボンディングやバンプで接続した後、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料を用いてトランスファ成形などにより封止してなる、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC、テープキャリアにバンプで接続した半導体チップを、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料で封止したTCP(Tape Carrier Package)、配線板やガラス上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子及び/又はコンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子を、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料で封止したCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール、配線板接続用の端子を形成した有機基板に素子を搭載し、バンプまたはワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)などが挙げられる。また、プリント回路板にも本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料は有効に使用できる。
【0021】
本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファ成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。封止用エポキシ樹脂成形材料が常温で液状又はペースト状の場合は、ディスペンス方式、注型方式、印刷方式等が挙げられる。
また、素子を直接樹脂封止する一般的な封止方法ばかりではなく、素子に直接電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料が接触しない形態である中空パッケージの方式もあり、中空パッケージ用の封止用エポキシ樹脂成形材料としても好適に使用できる。
【実施例】
【0022】
実施例1〜9、及び比較例1〜8
(A)成分のエポキシ樹脂として、エポキシ当量200、軟化点60℃のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1、大日本インキ化学工業株式会社製商品名EPICLON N500P-1)、エポキシ当量196、融点106℃のビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名エピコートYX−4000H)、
(B)成分の硬化剤として水酸基当量200、軟化点65℃、下記一般式(I)でベンゼン環の側鎖がすべて水素であるビフェニル・アラルキル型フェノール樹脂(硬化剤1、硬化剤明和化成株式会社製商品名MEH-7851)、水酸基当量175、軟化点70℃のフェノール・アラルキル樹脂(比較硬化剤1、三井化学株式会社製商品名ミレックスXL−225)、水酸基当量185、軟化点67℃のβ−ナフトール・アラルキル樹脂(比較硬化剤2、新日鉄化学株式会社製商品名SN−170L)、
(C)成分として平均粒径25μm、比表面積1.5m2/gの溶融球状シリカ(電気化学工業株式会社製商品名FB−950)と平均粒径20μm、比表面積3.3m2/gの溶融球状シリカ(マイクロン株式会社製商品名S‐COX31)、及び平均粒径0.5μm、比表面積6.5m2/gの合成球状シリカ(株式会社アドマテックス製商品名SO−25R)の5/4/1(重量比)混合品(シリカ1)、
同じく2/7/1混合品(シリカ2)、
前記FB−950と平均粒径20μm、比表面積3.5m2/gの溶融球状シリカ(龍森株式会社製商品名MSR‐2212)、及び前記SO−25Rの5/4/1混合品(シリカ3)、
同じく2/7/1混合品(シリカ4)、
前記FB‐950と平均粒径5.0μm、比表面積6.0m2/gの破砕シリカ(福島窯業株式会社製商品名F‐205)、及び前記SO‐25Rとの7/2/1の混合品(シリカ5)、
平均粒径20μm、比表面積1.6m2/gの球状シリカ(株式会社マイクロン製商品名S‐125)、及び前記SO‐25Rとの9/1の混合品(シリカ6)、
(C)成分の比較成分として前記S‐COX31とSO‐25Rの9/1混合品(比較シリカ1)、前記MSR‐2212とSO‐25Rの9/1混合品(比較シリカ2)、
(D)成分としてトリフェニルホスフィン(硬化促進剤1)、トリフェニルホスフィンとp−ベンゾキノンの付加物(硬化促進剤2)、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU、硬化促進剤3)、
カップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、離型剤として酸化型ポリエチレンワックス、着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA−100)を、それぞれ表1及び表2に示す重量部で配合し、混練温度80℃、混練時間10分の条件でロール混練を行い、実施例及び比較例の封止用エポキシ樹脂成形材料を作製した。なお、及び(C)成分の平均粒径、比表面積はそれぞれ以下の方法により測定した。
(1)平均粒径
測定装置:(株)堀場製作所製LA-920
分散媒:ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2wt/vol%水溶液
相対屈折率:1.10
透過率:70〜90%
循環速度:7
超音波時間:3分
超音波強度:7
(2)比表面積
測定装置:ユアサアイオニクス株式会社製流動法BET一点法比表面積測定装置モノソーブ
キャリアガス:窒素/ヘリウム混合ガス1.5kg/cm、窒素ガス0.7kg/cm
試料脱気条件:200℃/30分
【化7】

(一般式(I)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
【0023】
配合組成
【表1】

【0024】
配合組成
【表2】

【0025】
作製した実施例及び比較例の封止用エポキシ樹脂成形材料を、次の各試験により評価した。評価結果を表3及び表4に示す。
なお、封止用エポキシ樹脂成形材料の成形は、トランスファ成形機により、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で行った。また、後硬化は175℃で6時間行った。
(1)燃焼性
94UL規格に従い、後硬化後の試験片厚み1/8inchでの試験を行い、燃焼性の判定を行った。
(2)耐熱性
SOP-28p(42Alloy リードフレーム)にTEG-ML1020チップ(Line/Space=20μm/20μm領域2ヶ所:1.90×4.20mm、Line/Space=10μm/10μm領域2ヶ所:1.90×4.20mm)を搭載し、リードフレームとチップとをφ20μmの金線により接続した。その後、作製した成形材料による封止を行い、後硬化の後、195℃環境中に1000時間放置した。各成形材料による作製パッケージN=10のうち、放置後の電気導通の有無を測定し、計4配線のうち、1配線でも導通不具合のあるパッケージをNGパッケージとしてカウントした。
(3)耐冷熱サイクル性
QFP1420×2.0mmt(EFTEC-64Tリードフレーム/フラットアイランド)にシリコンチップ(8×10mm/窒化珪素保護膜)を搭載した。ダイボンド材には日立化成工業(株)社製EN-4065Dを用いた。ダイボンド材の硬化条件は210℃/2分とした。成形材料による封止を行い、後硬化させた後、パッケージを液体窒素(−196℃)とシリコーンオイル(150℃)とに各2分間ずつ交互に浸す形での冷熱サイクル試験を行った。50サイクル後のパッケージを株式会社日立製作所製SATを用いて観察し、チップ剥離、リードフレーム剥離、パッケージクラックの有無を判定した。各成形材料による作製パッケージN=10のうち、剥離やクラック等の不具合の発生したパッケージをNGパッケージとしてカウントした。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
(B)成分として硬化剤1を含まない比較例1〜4は難燃性に劣り、(C)成分が規定より外れる比較例5〜8は難燃性、又は耐冷熱サイクル性のいずれかに劣る。
これに対し、(B)成分として硬化剤1及び(C1)成分を含む実施例1〜9は難燃性や耐熱性、耐冷熱サイクル性等に優れ、(C1)成分を(C)成分の30重量%以上含む実施例1、3、5、6の難燃性、(D)成分として有機リン系硬化促進剤を用いた実施例1〜8の耐熱性等の信頼性は特に優れることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)下記一般式(I)で表される化合物を含む硬化剤、(C)無機質充填剤を含有し、該(C)成分が、成形材料全体の70重量%以上88重量%以下で、かつ、少なくとも1種成分の比表面積が2.0m2/g以下である封止用エポキシ樹脂成形材料。
【化1】

(一般式(I)で、nは0又は正の整数を表す。ベンゼン環の水素は炭化水素基で置換されていても良い。)
【請求項2】
(C)成分のうち、比表面積が2.0m2/g以下である成分が結晶シリカ、溶融シリカ及び合成シリカの内の少なくとも一つを含む請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。
【請求項3】
(C)成分のうち、比表面積が2.0m2/g以下である成分が、(C)成分全体の30重量%以上である請求項2に記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。
【請求項4】
ハロゲン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含有しない請求項1〜3のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。
【請求項5】
(D)硬化促進剤を含み、該硬化促進剤に有機リン系化合物を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料により封止された素子を備えた電子部品装置。


【公開番号】特開2006−2041(P2006−2041A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180032(P2004−180032)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】