説明

射出成形装置および射出成形方法

【課題】
本発明は、ボイドとして残存する可能性が高い気泡を含んだ熱硬化樹脂がキャビティ内で加圧・硬化されることを抑制することができる、単純な構成の射出成形装置および射出成形方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係る射出成形装置10は、上型20および下型30と、樹脂が流入する流入口およびエアを排出する排出口を備え、上型20および下型30によって形成される所定形状の空間であるキャビティ40と、排出口から単位時間当たりに排出されたエアの排出量を計測して、計測値として出力する計測手段50と、流入口からキャビティ40内へ樹脂を流入させ、計測値が所定の値より小さくなった時、樹脂を計測値が所定の値より小さくなった時の流入速度よりも大きい所定の流入速度で流入させる樹脂流入手段60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置および射出成形方法に関し、特に、半導体や高周波デバイス、電子デバイスを熱硬化樹脂によってモールドする射出成形装置および射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や高周波デバイス、電子デバイス等を熱硬化樹脂によってモールドする成形工程は、加熱された上下金型間のキャビティ内にモールドされる部材を配置し、加熱溶融した熱硬化樹脂をキャビティ内に充填した後、熱硬化樹脂の加圧・硬化を行う。被モールド部材を熱硬化樹脂によってモールドする技術は、例えば、特許文献1−3に開示されている。
【0003】
ここで、特許文献3には、熱硬化樹脂内に形成されるボイドを低減できるモールド装置が開示されている。特許文献3のモールド装置の断面図を図10に示す。図10は、特許文献3のモールド装置900を用いてモールドしている工程を上方から見た時の断面図である。図10(a)において、樹脂を供給するポット910の右側に複数のキャビティ930を備えた金型920が、ポット910の周囲にボイド樹脂取り込み部940が配置されている。そして、図10(b)に示すように、加圧・硬化時に消滅する気泡V1を含んだ熱硬化樹脂をキャビティ930側へ、ボイドとして残存する可能性が高い比較的大きな気泡V2を含んだ熱硬化樹脂をボイド樹脂取り込み部940側へ流入させる。ことにより、キャビティ930内の熱硬化樹脂内にボイドが形成されることを抑制する。樹脂が加圧・硬化されることにより気泡V1は消滅し、図10(c)に示すように、キャビティ930内の熱硬化樹脂内に形成されるボイドを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−100894号公報
【特許文献2】特開平9−254181号公報
【特許文献3】特開平8−156034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3のモールド装置900は、キャビティ930内の熱硬化樹脂内にボイドが形成されることを抑制することができるものの、別途、ボイド樹脂取り込み部940をポット910の周囲に配置して、熱硬化樹脂の流入方向をキャビティ930側とボイド樹脂取り込み部940側とに制御する必要があり、装置が大がかりになる。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、ボイドとして残存する可能性が高い気泡を含んだ熱硬化樹脂がキャビティ内で加圧・硬化されることを抑制することができる、単純な構成の射出成形装置および射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る射出成形装置は、上型および下型と、樹脂が流入する流入口およびエアを排出する排出口を備え、上型および下型によって形成される所定形状の空間であるキャビティと、排出口から単位時間当たりに排出されたエアの排出量を計測して、計測値として出力する計測手段と、流入口からキャビティ内へ樹脂を流入させ、計測値が所定の値より小さくなった時、樹脂を計測値が所定の値より小さくなった時の流入速度よりも大きい所定の流入速度で流入させる樹脂流入手段と、を備える。
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係る射出成形方法は、樹脂が流入する流入口およびエアを排出する排出口を備えると共に上型および下型によって形成される所定形状の空間であるキャビティに樹脂を充填する。該射出成形方法は、流入口からキャビティ内へ樹脂を流入させ、排出口から単位時間当たりに排出されたエアの排出量を計測して計測値として出力し、計測値が所定の値より小さくなった時、樹脂を計測値が所定の値より小さくなった時の流入速度よりも大きい所定の流入速度で流入させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る射出成形装置および射出成形方法は、排出口から単位時間当たりに排出されるエアの排出量を計測することによって樹脂が排出口に流入し始めた状態を検出し、樹脂の流入速度を増大させる。樹脂が完全に充填される前に流入速度を増大させることによって、樹脂内の気泡を圧縮して消滅させることができる。該射出成形装置および射出成形方法は、樹脂内にボイドが形成されることを抑制するために、エアの排出量を計測する計測手段を追加するだけでよく、従って、単純な構成の射出成形装置を用いてボイドとして残存する可能性が高い気泡を含んだ熱硬化樹脂がキャビティ内で加圧・硬化されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る射出成形装置10の断面図の一例である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る射出成形装置100の断面図の一例である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る射出成形装置100のキャビティ130周辺の上面図の一例である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る射出成形装置100のエアベント132cの正面図の一例である。
【図5】本発明の第2の実施形態の第1工程における(a)射出成形装置100および射出成形品200の断面図の一例、(b)キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入状態の一例である。
【図6】本発明の第2の実施形態の第2工程における(a)射出成形装置100および射出成形品200の断面図の一例、(b)キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入状態の一例である。
【図7】本発明の第2の実施形態の第3工程における(a)射出成形装置100および射出成形品200の断面図の一例、(b)キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入状態の一例である。
【図8】本発明の第2の実施形態の第4工程における(a)射出成形装置100および射出成形品200の断面図の一例、(b)キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入状態の一例である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る射出成形装置100の射出荷重、流量速度、プランジャ140の位置およびプランジャ140の駆動速度の推移の一例である。
【図10】特許文献3のモールド装置900のモールド工程を上方から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。本実施形態に係る射出成形装置10の断面図の一例を図1に示す。図1において、本実施形態に係る射出成形装置10は、上型20、下型30、キャビティ40、計測手段50および樹脂流入手段60を備える。
【0012】
上型20および下型30は、図示しない型締め機構によって開口状態または型締め状態に維持される。上型20および下型30はそれぞれ所定の形状に形成された凹部を備え、上型20および下型30が型締め状態に維持された時、上型20の凹部と下型30の凹部とによりキャビティ40が形成される。キャビティ40は、樹脂が流入する流入口41とキャビティ40内のエアを排出する排出口42とを備える。ここで、排出口42はキャビティ40内の流入口41から最も遠い位置に配置される。該キャビティ40内に配置された被モールド部材が、上型20および下型30によって型締めされる。
【0013】
計測手段50は、キャビティ40の排出口42から単位時間当たりに排出されるエアの排出量を計測する。そして、計測手段50は、計測結果を計測値として樹脂流入手段60へ出力する。
【0014】
樹脂流入手段60は、キャビティ40内へ樹脂を流入させる。本実施形態では、樹脂流入手段60は、樹脂を一定の流入速度V1でキャビティ40内へ流入させる。そして、樹脂流入手段60は、計測手段50から入力した計測値が所定の値より小さくなった時、流入速度をV1からV1より大きい所定のV2に増大させる。なお、樹脂流入手段60は、樹脂を所定の圧力でキャビティ40内へ流入させることもできる。この場合でも、樹脂流入手段60は、計測手段50から入力した計測値が所定の値より小さくなった時、樹脂を所定の流入速度V2でキャビティ40内へ流入させる。
【0015】
ここで、樹脂流入手段60は、計測手段50から入力された計測値がゼロ近傍の所定の値より小さくなった時に流入速度V2で樹脂をキャビティ40内へ流入させる。すなわち、樹脂流入手段60は、キャビティ40内に樹脂が完全に充填される直前の、樹脂が排出口42に流入し始めた時、樹脂の流入速度を高速のV2に設定する。樹脂がキャビティ40内に完全充填される前に、樹脂を高速で流入することにより、樹脂内の気泡を圧縮して消滅させることができる。
【0016】
ここで、キャビティ40内に樹脂が半分程度しか充填されていない状態で流入速度を高速のV2に切り換えた場合、被モールド部材が樹脂に押圧されてダメージを受ける可能性が高くなる。一方、排出口42に樹脂が完全に充填された後に流入速度を高速のV2に切り換えた場合、排出口42から流れ出た樹脂が固化してエアの押し出しを妨げるため、気泡の圧縮を効果的に行うことができない。
【0017】
なお、樹脂流入手段60は、樹脂の流入速度を高速のV2に切り替えた後、速やかに流入速度を0に切り換える。そして、射出成形装置10は、樹脂の流入速度が0に切り換わった後、充填工程から加圧工程へ移行する。
【0018】
以上のように、本実施形態に係る射出成形装置10は、排出口42から単位時間当たりに排出されるエアの排出量を計測する計測手段50を配置し、樹脂が排出口42に流入し始めた状態を検出して、樹脂流入手段60が流入速度を高速のV2に設定する。この場合、樹脂内の気泡が圧縮され、気泡を消滅させることができる。該射出成形装置10は、樹脂内にボイドが形成されることを抑制するために、エアの排出量を計測する計測手段50を追加するだけでよく、従って、ボイドの発生を容易に抑制することができる。
【0019】
なお、充填工程における樹脂の流入速度を一定の流入速度V1に設定する場合、樹脂流入手段60は、エア流量の平均値と経過時間とから排出されたエア流量の累積値を演算し、該累積値が所定の値に達した時に計測値と所定の値との比較を開始することにより、樹脂が排出口42に流入し始めた状態を効率よく検出することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る射出成形装置は、ベアチップを熱硬化樹脂でモールドする。本実施形態に係る射出成形装置および被モールド部材の正面断面図の一例を図2に示す。本実施形態では、ワイヤ230を用いてリードフレーム220と電気的に接続されたベアチップ210を図2には図示されない熱硬化樹脂240でモールドし、射出成形品200を成形する。なお、図2ではリードフレーム220の上に1つのベアチップ210を搭載した例を示したが、ベアチップ210、リードフレーム220およびワイヤ230の数や大きさは特に限定されない。
【0021】
図2において、射出成形装置100は、上型110、下型120、キャビティ130、プランジャ140、駆動源150、駆動制御部160および流量センサ170を備える。
【0022】
上型110および下型120は、熱硬化樹脂240を加熱および加圧する。キャビティ130は、上型110および下型120にそれぞれ所望の形状に形成された凹部である。該キャビティ130内に熱硬化樹脂240が充填されて所望の形に固化されることにより、射出成形品200が成形される。
【0023】
プランジャ140は、下型120内に配置され、該プランジャ140の上方に形成されている空間に熱硬化樹脂240が供給される。プランジャ140が上方へ移動することにより、熱硬化樹脂240がキャビティ130内へ流れ込む。
【0024】
駆動源150は、所定の速度でプランジャ140を上方へ駆動する。本実施形態において、駆動源150がプランジャ140を一定の駆動速度V1で上方に駆動することにより、熱硬化樹脂240が一定量づつキャビティ130内に流入する。さらに、駆動源150は、駆動制御部160から制御信号を受信した時、プランジャ140を所定の駆動速度V2で上方に駆動する。
【0025】
駆動制御部160は、流量センサ170から入力した後述の流量速度が所定の値を下回った時、駆動源150へ制御信号を出力する。
【0026】
流量センサ170は、キャビティ130内から排出される単位時間当たりのエア流量を測定する。図2において、本実施形態に係る流量センサ170は、上型110の側面に密着配置されている。なお、流量センサ170を上型110および下型120と接続された配管の内部等に配置することもできる。
【0027】
流量センサ170によるエア流量の測定について説明する。キャビティ130周辺の上面図の一例を図3に示す。本実施形態では、キャビティ130を方形に形成し、キャビティ130のほぼ中央にベアチップ210が位置するように、リードフレーム220を型締めする。そして、キャビティ130の一端に熱硬化樹脂240の流入口であるゲート131が、残りの3つの端部にエアを排出するためのエアベント132a、132b、132cが形成されている。図3において、エアベント132cがゲート131と対向し、エアベント132cはゲート131から最も離れた位置にある。
【0028】
エアベント132cの正面図の一例を図4に示す。図4は、図3をA−A側から見た図である。図4において、エアベント132cは、断面が方径の開口である。本実施形態では、エアベント132cの開口高さを10〜20μm程度に設定した。なお、本実施形態では、他の2つのエアベント132a、132bもエアベント132cと同様の形状に形成した。
【0029】
流量センサ170は、上型110の側面に密着配置され、エアベント132a、132b、132cから排出されるエアは、全て流量センサ170へ流れ込む。そして、熱硬化樹脂240がゲート131からキャビティ130内部に流入されるのに伴い、流量センサ170は、エアベント132a、132b、132cを介してキャビティ130から排出されたエアの単位時間当たりの流量(以下、流量速度と記載する。)を計測し、計測した流量速度を駆動制御部160へ出力する。
【0030】
駆動制御部160は、流量センサ170から入力した流量速度がF0を下回った時、駆動源150へ制御信号を出力する。本実施形態においてF0は、熱硬化樹脂240の流入口であるゲート131から最も遠い位置に配置されたエアベント、すなわち、エアベント132cの一部から単位時間当たりに排出されたエア排出量に設定されている。
【0031】
本実施形態に係る射出成形装置100を用いて射出成形品200を成形する手順について説明する。第1工程における射出成形装置100および射出成形品200の断面図の一例を図5(a)に、キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入状態を図5(b)に示す。同様に、第2および第3工程における射出成形装置100および射出成形品200の断面図の一例を図6乃至8(a)に、キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入状態を図6乃至8(b)に示す。
【0032】
また、第1乃至4工程における、射出荷重、流量速度、プランジャ140の位置およびプランジャ140の駆動速度の推移を図9に示す。ここで、射出荷重は図示しない樹脂加圧機構によりキャビティ130内の熱硬化樹脂240へ印加する荷重の大きさである。流量速度は、流量センサ170が測定した、3つのエアベント132a、132b、132cから排出される総エアの単位時間当たりの流量である。
【0033】
ベアチップ210、リードフレーム220およびワイヤ230を熱硬化樹脂240でモールドする場合、先ず、図示しない型締め機構により上型110および下型120を開いた状態に維持し、上型110および下型120を図示しない加熱源により175〜180℃程度に加熱する。この状態で、下型120に形成されたキャビティ130の上にリードフレーム220を配置する。さらに、プランジャ140上方の空間内に熱硬化樹脂240を供給すると、下型120が175〜180℃程度に加熱されていることから、熱硬化樹脂240は供給直後に溶融し始める。
【0034】
この状態で、型締め機構によって下型120を上昇させ、図5(a)に示すように、リードフレーム220を上型110と下型120とにより型締めする(第1工程)。型締め力は、型締めするリードフレーム220の材質によって異なるが、例えば、金属製のリードフレーム220の場合は100〜350Mpa程度である。
【0035】
この時、図5(b)に示すように、キャビティ130内への熱硬化樹脂240の流入はない。また、図9に示すように、射出荷重、流量速度、プランジャ140の位置およびプランジャ140の駆動速度はいずれも0である。
【0036】
リードフレーム220の型締めが完了し、粘度が最も低い状態まで熱硬化樹脂240が溶融した時(約8〜10秒後)、駆動源150はプランジャ140の駆動を開始する(第2工程)。駆動源150が、プランジャ140を一定の駆動速度V1で上方に駆動することにより、図6(a)に示すように、熱硬化樹脂240がゲート131からキャビティ130の内部へ流入し始める。
【0037】
この時、図6(b)に示すように、エアベント132a、132b、132cからエアが排出される。エアベント132a、132b、132cから排出されたエアは流量センサ170へ流出し、流量センサ170は、流量速度を計測して駆動制御部160へ出力する。すなわち、図9に示すように、流量速度は0からF1へ増大する。また、図9において、プランジャ140の位置が0から徐々に上昇し始め、プランジャ140の駆動速度は0からV1に増加する。なお、射出荷重は0のままである。
【0038】
ここで、熱硬化樹脂240の駆動速度を大きくすると、熱硬化樹脂240の流動抵抗により、リードフレーム220とベアチップ210とを接続しているワイヤ230が変形もしくは断線する危険性が高くなる。従って、駆動源150は、ワイヤ230にダメージを与えない駆動速度で熱硬化樹脂240が流入するようにプランジャ140を駆動する。本実施形態において、この時のプランジャ140の駆動速度はV1=2〜3mm/sec程度である。
【0039】
さらに、駆動速度V1でプランジャ140を上方へ駆動すると、熱硬化樹脂240がゲート131寄りのエアベント132a、132bまで流れ込む。図7(a)、(b)において、エアベント132a、132bに熱硬化樹脂240が流れ込むことにより、エアベント132a、132bからのエアの排出が停止する。エアベント132a、132bからのエア排出が停止することにより、全てのエアがエアベント132cから排出されるようになる。すなわち、エアベント132cからの流量速度が3倍になり、流量センサ170で計測される流量速度は変わらずF1となる。
【0040】
すなわち、図9において、流量センサ170から出力される値は、F1に維持される。一方、プランジャ140の駆動速度がV2からV1へ減少すると共にプランジャ140の位置の増加率が小さくなる(勾配が緩くなる)。なお、射出荷重は0のままである。
【0041】
さらに、駆動速度V1でプランジャ140を上昇させると、熱硬化樹脂240は、ゲート131から最も離れた位置にあるエアベント132cまで流れ込む。図8(a)、(b)において、熱硬化樹脂240が最終のエアベント132cまで流れ込むことにより、エアベント132cからのエアの流出が急速に減少する。そして、流量センサ170からの出力値が予め設定されたF0になった時、駆動制御部160が駆動源150へ制御信号を出力する(第3工程)。駆動源150は、制御信号が入力された時、プランジャ140の駆動速度を所定のV2まで増加させる。ここで、F0は、例えば、0近傍の所定の値や、流量速度の軌跡が予め把握できている場合はF1の80%値等に設定することができる。
【0042】
該制御信号は、キャビティ130内に熱硬化樹脂240が完全に充填される直前の、熱硬化樹脂240が最も離れた位置にあるエアベント132cに流入し始めた時に出力される。この時にプランジャ140の駆動速度を所定のV2まで増加させることにより、熱硬化樹脂240内に含まれている気泡が圧縮されて消滅する。
【0043】
ここで、流量センサ170からの出力値がF0になる前、すなわち、ワイヤ230が熱硬化樹脂240に覆われる前にプランジャ140の駆動速度を大きくした場合、熱硬化樹脂240に押圧されてワイヤ流れが起こりやすくなる。一方、流量センサ170からの出力値が0になった後で駆動速度を大きくした場合、充填工程において熱硬化樹脂240が低速のままキャビティ130内に完全に充填され、気泡の圧縮がしきれない状態で加圧されるため、熱硬化樹脂240内にボイドが形成される可能性が高くなる。
【0044】
第3工程の説明に戻る。駆動源150は、プランジャ140を所定の駆動速度V2で数ミリ秒程度駆動した後、プランジャ140の駆動速度をV2から0に変更する。射出成形装置100は、プランジャ140の駆動速度が0になった時、図示しない樹脂加圧機構を制御して熱硬化樹脂240の加圧を開始する。そして、射出荷重がPw1に達した時、充填工程から保圧工程へ切り換える。本実施形態では、樹脂加圧機構は熱硬化樹脂240を射出荷重Pw1=10〜15MPaで保圧する。樹脂加圧機構は、熱硬化樹脂240が硬化するまで(例えば、硬化時間80秒〜120秒程度の間)、射出荷重Pw1=10〜15MPaを維持する。
【0045】
図9において、第3工程では、流量速度はF1からF0を通過して0になる。さらに、プランジャ140の駆動速度がV1からV2へ増加された後、0に変更される。これにより、プランジャ140の位置は、急激に上昇した後、最高位置Ps1に保持される。また、射出荷重は駆動速度が0になった時、0からPw1に向けて増加を開始する。
【0046】
そして、熱硬化樹脂240が硬化した後、射出荷重を開放して、型締め荷重を開放すると共にプランジャ140を初期の位置まで下降させる(第4工程)。すなわち、図9において、射出荷重がPw1から0に向かって小さくなる。また、プランジャ140を下方に駆動させることにより、プランジャ140がPs1の位置から初期位置まで下降する。その後、下型120を下降させてベアチップ210、リードフレーム220およびワイヤ230が熱硬化樹脂240によりモールドされることにより成形された射出成形品200を取り出し、プランジャ140を0地点へ戻す。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る射出成形装置100は、流量センサ170からの出力値がF0になった時、プランジャ140の駆動速度を所定のV2まで増加させる。射出成形装置100が、キャビティ130内に熱硬化樹脂240が完全に充填される直前の、熱硬化樹脂240が最も離れた位置にあるエアベント132cに流入し始めた状態を検出してプランジャ140の駆動速度を所定のV2まで増加させることにより、熱硬化樹脂240内に含まれている気泡を圧縮して消滅させることができる。従って、本実施形態に係る射出成形装置100は、ボイドとして残存する可能性が高い気泡を含んだ熱硬化樹脂240がキャビティ130内で加圧・硬化されることを容易に抑制することができる。
【0048】
さらに、キャビティ130内に熱硬化樹脂240がほぼ充填され、ワイヤ流れが発生する確率が低い状態の時に駆動速度を高速のV2に変更することにより、モールド工程に要する時間を短縮することもできる。なお、流量速度の検出を高精度で行うために、真空源を追加して脱気成形を行うこともできる。
【符号の説明】
【0049】
10 射出成形装置
20 上型
30 下型
40 キャビティ
50 計測手段
60 樹脂流入手段
100 射出成形装置
110 上型
120 下型
130 キャビティ
140 プランジャ
150 駆動源
160 駆動制御部
170 流量センサ
200 射出成形品
210 ベアチップ
220 リードフレーム
230 ワイヤ
240 熱硬化樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型および下型と、
樹脂が流入する流入口およびエアを排出する排出口を備え、前記上型および下型によって形成される所定形状の空間であるキャビティと、
前記排出口から単位時間当たりに排出されたエアの排出量を計測して、計測値として出力する計測手段と、
前記流入口から前記キャビティ内へ樹脂を流入させ、前記計測値が所定の値より小さくなった時、前記樹脂を前記計測値が所定の値より小さくなった時の流入速度よりも大きい所定の流入速度で流入させる樹脂流入手段と、
を備える射出成形装置。
【請求項2】
前記所定の値は、前記排出口の一部から単位時間当たりに排出されたエア排出量である、請求項1記載の射出成形装置。
【請求項3】
前記樹脂流入手段は、前記流入速度を前記所定の流入速度まで増加させた後、0に変更する、請求項1または2記載の射出成形装置。
【請求項4】
前記キャビティ内の樹脂を所定の応力で加圧する加圧手段をさらに備え、
前記加圧手段は、前記流入速度が0に変更された時、前記加圧を開始する、請求項3記載の射出成形装置。
【請求項5】
前記樹脂流入手段を駆動する駆動手段をさらに備え、
前記駆動手段は、前記樹脂流入手段を一定の駆動速度で駆動し、前記計測値が所定の値より小さくなった時、前記駆動速度を所定の駆動速度まで増加させる、請求項1乃至4のいずれか1項記載の射出成形装置。
【請求項6】
前記キャビティは複数の排出口を備え、
前記計測手段は、全ての前記複数の排出口から排出されたエアの単位時間当たりの総排出量を計測し、
前記所定の値は、前記流入口から最も遠い位置に配置された排出口の一部から単位時間当たりに排出されたエア排出量である、請求項2乃至5のいずれか1項記載の射出成形装置。
【請求項7】
樹脂が流入する流入口およびエアを排出する排出口を備えると共に上型および下型によって形成される所定形状の空間であるキャビティに前記樹脂を充填させる射出成形方法であって、
前記流入口から前記キャビティ内へ樹脂を流入させ、
前記排出口から単位時間当たりに排出されたエアの排出量を計測して計測値として出力し、
前記計測値が所定の値より小さくなった時、前記樹脂を前記計測値が所定の値より小さくなった時の流入速度よりも大きい所定の流入速度で流入させる、射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−200996(P2012−200996A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67702(P2011−67702)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】