説明

射出成形装置

【課題】簡単な構造で金型の型締め力の調整及び保持を可能にし、効率的に製品を製造する射出成形装置を提供する。
【解決手段】型締めユニット2は、支柱7の上部に配置されており、型締めフレーム8と、クサビ9と、保持ピン10と、上型昇降ガイド11と、上型14a及び下型14bからなる金型14とを備えている。金型14の型締め力は、外部加圧ユニット4によりクサビ9を押圧し、クサビ9を固定クサビ板18aと移動クサビ板18bとの間に挿入して型締め力を発生させ、外部加圧ユニット4の加圧力を低下させることでクサビ9を後退させ型締め力を弱くすることができる。後退させたクサビ9は、案内部12aのピン穴17に挿通された保持ピン10をクサビ9の保持穴22に挿入して、クサビ9をその位置で保持することで型締め力を保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の型締め力の調整及び保持を可能にした射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧、大電流の電力制御を行うパワー素子モジュールは、リードフレームにハンダ付された半導体素子を金型にセットし、熱硬化性樹脂でモールドすることにより製造される。このとき、リードフレームをセットした金型を10数トンの型締め力で加圧することにより、リードフレームをプレス加工(塑性変形)して寸法のばらつきを修正して金型に密着させる。その後、熱硬化性樹脂の射出圧力(10MPa以上)に対応した型締め力を保持した状態で溶融樹脂を金型のキャビティ内に射出、充填する。そして、金型内で熱硬化性樹脂を加熱硬化させた後、型開きして製品を得る。
【0003】
このため、従来のパワー素子モジュールの射出成型装置は、リードフレームをプレス加工し、また、射出成型時の型締め力を保持する加圧力を発生させるために、大出力で、かつ、加圧力を調整可能な加圧装置及び熱硬化性樹脂を射出する射出装置が金型に設けられている。なお、特許文献1には、加圧アクチュエータをフィードバック制御して型締め圧力を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−334800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のパワー素子モジュール用の射出成型装置では、次のような問題がある。
パワー素子モジュールは、上述のように1つの金型で、プレス加工、射出、充填及び硬化の工程が行われるため、製造に時間がかかり、生産性が悪い。そこで、大量生産を行うためには、大型の加圧装置を備えた複数の射出成形装置を並列に配置して製造を行うことになり、設備に多大なコストがかかる。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で金型の型締め力の調整及び保持を可能にし、効率的に製品を製造する射出成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の射出成形装置は、略リング状の型締めフレームと、該型締めフレームの内側に配置された金型と、前記型締めフレームと前記金型との間に挿入して該金型を型締めするクサビと、前記クサビの挿入位置を保持する保持手段と備え、所定の位置に順次移動可能な複数の型締めユニットと、
前記金型のキャビティに樹脂を充填する充填装置と、
所定の位置に配置された前記型締めユニットに対向して配置され、前記クサビを加圧し、金型の加圧力を制御可能な外部加圧ユニットとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な構造で金型の型締め力の調整及び保持を可能にし、効率的に製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る射出成形装置の概略正面図である。
【図2】図1に示す射出成形装置の平面図である。
【図3】図1に示す射出成型装置の型締めユニットのクサビ挿入前の状態を示す斜視図である。
【図4】図1に示す射出成型装置の型締めユニットのクサビ挿入後の状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示す射出成形装置の作動工程を示す図である。
【図6】図1に示す射出成型装置の金型の型締め力の変化を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る射出成形装置の概略正面図を示し、図2は、平面図を示している。図1及び図2に示すように、本実施形態の射出成形装置1は、高電圧、大電流の電力制御を行う半導体素子であるパワー素子モジュールを製造するためのものであって、ワークである半導体をハンダ付されたリードフレーム27をセットする金型14及び金型14のキャビティ15内に溶融樹脂28を射出する射出機構3を有する型締めユニット2と、型締めユニット2に加圧力を付与する外部加圧ユニット4と、射出機構3に加圧力を付与する外部射出加圧ユニット5とを備えている。
【0011】
型締めユニット2は、ベース板6上に立設された支柱7の周りに円周方向に沿って等間隔で複数(図示の例では6つ)配置され、支柱7によって回転可能に支持されている。外部加圧ユニット4及び外部射出加圧ユニット5は、複数の型締めユニット2の1つに対向させてベース板6上に固定されている。
【0012】
型締めユニット2は、支柱7の上部に配置されており、型締めフレーム8と、クサビ9と、保持ピン10と、上型昇降ガイド11と、上型14a及び下型14bからなる金型14とを備えている。
【0013】
図3は、型締めユニット2のクサビ9の挿入前の状態を示し、図4は、型締めユニット2のクサビ9の挿入後の状態を示している。図3及び図4に示すように、型締めユニット2の型締めフレーム8は、略長方形のリング状のフレームであり、上部両端部に案内部12a、12bが設けられ、外周下部に、溶融前の樹脂タブレット28aをセットし、これを溶融させながらキャビティ15内に注入する射出シリンダ13(図5参照)が設けられている。また、型締めフレーム8の内周上部には、固定クサビ板18aが取付けられている。型締めフレーム8は、本実施形態では、完全に閉じたリング状であるが、必要な剛性が得られれば、一部が開いたC型(略リング状)でもよい。そして、型締めフレーム8の内周側に可動型である上型14a及び固定型である下型14bからなる金型14が配置されている。案内部12aには、ガイド穴16a及びピン穴17が上下方向に貫通され、案内部12bは、ガイド穴16bが上下方向に貫通されている。
【0014】
金型14は、上型14aと下型14bとを型締めしてキャビティ15を形成する。上型14の上面には、上型昇降ガイド11の移動取付板19が取付けられている。移動取付板19には、一対のロッド24が結合され、一対のロッド24は、上方に延ばされ、案内部12a、12bのガイド穴16a、16bに挿通され、上型昇降ガイド11の上部の支持板23に結合されている。これにより、上型昇降ガイド11によって上型14aを昇降させることができる。移動取付板19の上面には、移動取付板19の一対のロッド24を挟んで両側に移動クサビ板18bが取付けられている。下型14bは、固定取付板20を介して、型締めフレーム8の下側内周面に固定されている。金型14には、セットされた樹脂タブレット28aを溶融させるためのヒータ(図示せず)が内蔵されている。
【0015】
クサビ9は、固定クサビ板18aと移動クサビ板18bとの間に挿入される略U字形の部材であり、一端側に上型昇降ガイド11のロッド24を挿通する開口21が形成され、他端部に保持ピン10が挿入される保持穴22が上下方向に貫通されている。図5(c)に概略的に示すように、固定クサビ板18a及び移動クサビ板18bとクサビ9との対向面は、一定方向に傾斜されており、固定クサビ板18aと移動クサビ板18bとの間にクサビ9を挿入し、押圧することにより、移動クサビ板18bが傾斜に沿って下方へ移動して上型14aを下型14bに押圧するようになっている。そして、図4及び図5(d)に示すように、クサビ9を所定の位置まで挿入し、案内部12aのピン穴17に挿入された保持ピン10をクサビ9の保持穴22に挿入することにより、クサビ9をその位置で保持できるようになっている。
【0016】
射出機構3は、型締めフレーム8の下方に配置され、加圧機構25によって射出シリンダ13を加圧して、ヒータによって樹脂タブレット28aを加熱溶融して、加熱溶融された溶融樹脂28をキャビティ15内に射出する。加圧機構25は、リンク機構25aを有し、対向して配置された外部射出加圧ユニット5の加圧力をリンク機構25aを介して射出シリンダ13に伝達し、所定の射出圧力を付与して溶融樹脂28の射出を行う。
【0017】
6つの型締めユニット2は、図2に示すように、ワーク・樹脂搬入位置(A)、プレス成形・射出位置(B)、硬化位置(C)〜(E)及びワーク搬出位置(F)にそれぞれ配置され、図2において左周りに回転して、順次位置を移動可能となっている。
【0018】
外部加圧ユニット4は、プレス成形・射出位置(B)に配置された型締めユニット2のクサビ9に対向して配置され、アクチュエータによりクサビ9を押圧して固定クサビ板18aと移動クサビ板18bとの間に挿入するようになっている。アクチュエータは、サーボシステム等により加圧力を制御できるものであり、これにより、リードフレーム27がセットされた金型14の型締め力を調整し、リードフレーム27のプレス加工に適したプレス圧力(例えば10数トン程度)が得られるようになっている。
【0019】
外部射出加圧ユニット5は、プレス成形・射出位置(B)に配置された型締めユニット2の加圧機構25に対向して配置され、アクチュエータにより、リンク機構25aを押圧して、射出シリンダ13を所定の射出圧力(例えば10MPa程度)で加圧するようになっている。
【0020】
以上のように構成した射出成形装置1の作動工程について次に説明する。
ワーク・樹脂搬入位置(A)において、上型昇降ガイド11によって上型14aを上昇させて金型14を開き、ワークであるリードフレーム27及び半導体素子を金型14にセットする(図5(a)参照)。そして、上型昇降ガイド11によって上型14aを下降させて金型14を閉じる(図5(b)参照)。このときの型締め力を図6中に区間L1で示す。また、射出シリンダ13に樹脂タブレット28aをセットする。その後、型締めユニット2を回転させてプレス成形・射出位置(B)に移動させる。
【0021】
プレス成形・射出位置(B)において、外部加圧ユニット4を作動させ、型締めユニット2のクサビ9を、固定クサビ板18aと移動クサビ板18bとの間に挿入する(図5(c)参照)。そして、外部加圧ユニット4によりクサビ9を押圧して、金型14を加圧することにより、リードフレーム27をプレス加工する。このように閉じたリング状の型締めフレーム8にクサビ9を挿入して型締め力を発生させることにより、効率よく大きな型締め力を発生させることができる。このとき、外部加圧ユニット4の加圧力を制御して、型締め力(プレス圧力)を調整することにより、リードフレーム27の寸法のばらつきを修正してリードフレーム27を金型14に密着させると共に型締めを確実に行う。このときの型締め力を図6中に区間L2で示す。
【0022】
このように外部加圧ユニット4の加圧力を制御することにより、温度変化により型締めフレーム8に熱膨張が生じても、一定のプレス圧力を得ることができ、プレス成形の精度を高めることができる。例えば、図5(c)では、型締めフレーム8の熱膨張がB1であるとき、クサビ9の挿入位置をA1としているのに対して、図5(c’)では、型締めフレーム8の熱膨張がB2(>B1)となる、より高温下において、クサビ9の挿入位置をA2として一定のプレス圧力が得られるようにしている。
【0023】
次いで、図5(d)に示すように、外部加圧ユニット4の加圧力を低下させ、クサビ9を所定位置まで後退させる。このときの型締め力を図6中に区間L3で示す。そして、案内部12aのピン穴17に挿通された保持ピン10をクサビ9の保持穴22に挿入して、クサビ9をその位置で保持する。これにより、金型14の型締め力を射出圧力に対応した型締め力(例えば5トン程度)で保持する。このときの型締め力を図6中に区間L4で示す。なお、温度変化により、型締めフレーム8等の各部材が熱膨張することにより、型締め力が変化するので、想定される温度変化に対して、適切な範囲の型締め力(例えば5トン以上)が得られるように、保持ピン10によるクサビ9の保持位置を予め決定しておく。
【0024】
そして、ヒータにより樹脂タブレット28aを加熱溶融させ、外部射出加圧ユニット5を作動させ、加圧機構25のリンク機構25aを介して射出シリンダ13を加圧して溶融樹脂28を金型14のキャビティ15内に充填する。このとき、クサビ9の位置が保持ピン10によって保持されて型締め力が射出圧力に適した一定の範囲に保持されている。そして、金型14のキャビティ15への溶融樹脂28の充填を完了した後(図5(e)参照)、型締めユニット2を回転させて硬化位置(C)に移動させる。更に、型締めユニット2を回転させて、順次、硬化位置(D)、(E)に移動させる。
【0025】
硬化位置(C)〜(E)において、金型14を所定温度(例えば200℃程度)に加熱、保持してキャビティ15に充填された溶融樹脂(熱硬化性樹脂)28を硬化させてリードフレーム27及び半導体素子をモールドする。キャビティ15内の熱硬化性樹脂が硬化した後、型締めユニット2を回転させて硬化位置(E)からワーク搬出位置(F)に移動させる。なお、図2を例として示す、硬化工程(C)〜(E)には、3つの型締めユニット2が配置されているが、硬化時間を考慮して、型締めユニット2の数を変更することができる。
【0026】
ワーク搬出位置(F)において、保持ピン10を保持穴22から引抜き、クサビ9を後退さる。そして、上型昇降ガイド11により上型14aを上昇させ、金型14を開いてリードフレーム27及び半導体素子が熱硬化性樹脂によってモールドされた製品を取出す。
【0027】
このようにして、複数の型締めユニット2を回転させてワーク・樹脂搬入位置(A)、プレス成形・射出位置(B)、硬化位置(C)〜(E)及びワーク搬出位置(F)の各位置において、順次、上述の各工程を実行することにより、パワー素子モジュールを効率よく製造することができる。この場合、複数の型締めユニット2に対して、外部加圧ユニット4及び外部射出加圧ユニット5は、それぞれ1つのみであるから、上記従来の射出成形装置を並列に配置する場合に比して、設備を大幅に簡素化することができ、パワー素子モジュールの製造コストを大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…射出成形装置、2…型締めユニット、3…射出機構(充填装置)、4…外部加圧ユニット、5…外部射出加圧ユニット、8…型締めフレーム、9…クサビ、10…保持ピン(保持手段)、14…金型、14a…上型(金型)、14b…下型(金型)、15…キャビティ、28…溶融樹脂(樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略リング状の型締めフレームと、該型締めフレームの内側に配置された金型と、前記型締めフレームと前記金型との間に挿入して該金型を型締めするクサビと、前記クサビの挿入位置を保持する保持手段と備え、所定の位置に順次移動可能な複数の型締めユニットと、
前記金型のキャビティに樹脂を充填する充填装置と、
所定の位置に配置された前記型締めユニットに対向して配置され、前記クサビを加圧し、金型の加圧力を制御可能な外部加圧ユニットとを備えたことを特徴とする射出成形装置。
【請求項2】
前記充填装置は、前記型締めユニットに設けられた射出シリンダと、所定の位置に配置された前記型締めユニットに対向して配置され、前記射出シリンダを加圧する外部射出加圧ユニットとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形装置。
【請求項3】
複数の前記型締めユニットは回転移動することを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107248(P2013−107248A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253035(P2011−253035)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】