導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法
【課題】 金属微粒子を融合させることによって導電体を形成する導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法であって、金属微粒子を融合させる処理条件や耐ダメージ特性などの金属微粒子層の性質が、保護膜分子によって制限されない製造方法を提供すること。
【解決手段】 保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、この分散液を用いて、保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被覆微粒子層を基板上に形成する工程と、保護膜分子被覆微粒子層中の保護膜分子を置換分子で置換して、この層を置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、置換分子を除去するとともに、金属微粒子同士を融合させ、導電体を形成する工程とを行う。必要なら、置換を2回以上行ってもよい。
【解決手段】 保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、この分散液を用いて、保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被覆微粒子層を基板上に形成する工程と、保護膜分子被覆微粒子層中の保護膜分子を置換分子で置換して、この層を置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、置換分子を除去するとともに、金属微粒子同士を融合させ、導電体を形成する工程とを行う。必要なら、置換を2回以上行ってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法に関するものであり、より詳しくは、金属微粒子を融合させることによって、電極や配線などの導電体を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極や配線(導電路)を基板上に形成する技術は、電子デバイスを作製するための基本技術である。例えば、間隙部を挟んで対向する対向電極、およびこの対向電極への配線を基板上に形成し、その間隙部に種々の機能性材料を配置することによって、様々な電子デバイスを作製することができる。具体的には、抵抗体材料または誘電体材料を配置すれば抵抗素子または容量素子を作製することができる。また、半導体材料を配置して、この半導体材料によって形成される導電路の導電性を電界によって制御するように構成すれば、電界効果トランジスタを作製することができる。
【0003】
基板上に導電体をパターニングして形成し、電極や配線を作製する方法には、大きく分けて2つの方法がある。
【0004】
1つは、蒸着法やスパッタリング法やめっき法によって導電材料層を成膜し、マスクを用いてパターニングする方法である。例えば、基板の一部をマスクで覆った状態で導電材料層を成膜することにより、電極や配線をパターニングして形成することができる。あるいは、一旦基板の全面に蒸着法などで導電材料層を形成した後、リソグラフィによって導電層上にレジストマスクを形成し、これをマスクとして導電材料層をエッチングすることにより導電材料層をパターニングすることができる。また、リフトオフ法では、レジストマスクを先に基板上に形成しておき、この全面に蒸着法などで導電層を形成した後、レジストマスク上に堆積した導電層をレジストマスクとともに除去して、基板上に堆積した導電層のみを残し、電極や配線を得る。
【0005】
これらの方法はパターニングにマスクを用いるので、マスクを作製する工程や、マスクを位置合わせして配置する工程や、使い終わったマスクを除去する工程などが必要になる。この結果、工程数が多くなり、生産性が低下し、コスト高になる問題点がある。
【0006】
他の1つは、電極や配線を形成しようとする領域に導電材料からなる微粒子を配置した後、加熱処理して微粒子同士を融合させ、導電体を形成する方法である。導電性微粒子を配置するには、適当な溶媒に導電性微粒子を分散させた分散液(いわゆる導電性ペースト)を作製し、この分散液を塗布または印刷によって配置した後、溶媒を蒸発させる。
【0007】
上記の微粒子融合法では、印刷技術を用いて分散液(導電性ペースト)を配置することにより、マスクを用いることなく電極パターンや配線パターンを形成することができる。この結果、工程数が少なくなり、生産性が向上し、製造コストが著しく低下する。このため、電極や配線の製造方法として特に注目されている(例えば、石橋秀夫,化学と工業,57(2004),p.945 参照。)。
【0008】
さて、微粒子融合法によって導電体を形成する場合、導電性微粒子として微小な金属微粒子を用いるのがよい。文献(P. Buffat and J-P. Borel, Phys. Rev. A 13, 2287(1976))に示されているように、金属微粒子の融点はその大きさに依存する。例えば、金や銀の場合、通常の金属塊の融点は1000℃以上の高温であるのに対し、粒径が10nm程度の微粒子は数百℃程度の温度で融解する。このため、比較的低い加熱処理温度で金属微粒子同士を融合させ、導電性の高い導電体を形成することができる。
【0009】
この際、分散液を基板上に配置する前に、金属微粒子同士が分散液中で融合してしまうと、金属微粒子が凝集・沈殿して、塗布や印刷が難しくなったり、導電性の高い導電路を形成することが困難になったりする。これを防ぐため、通常、金属微粒子は保護膜分子あるいは安定剤で保護した状態で分散液中に保存し、基板上に配置する。その後、導電体を形成する加熱処理によって金属微粒子から保護膜分子を脱着させ、金属微粒子同士を融合させる。保護膜分子は、金属微粒子の表面を被覆し、金属微粒子同士が凝集するのを防止する立体障害として機能する。従って、保護膜分子は、ある程度の大きさをもった分子であることが好ましい。
【0010】
例えば、後述の特許文献1には、保護膜分子として、ポリエンポリカルボン酸、そのカルボキシル基における誘導体、及びそれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることによって、金属微粒子の分散性が良好な金属コロイド液が得られることが報告されている。
【0011】
また、後述の特許文献2には、保護膜分子として、金属微粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、または硫黄原子を含む官能基を有する化合物であって、250℃を超えない加熱処理によって金属微粒子表面から解離可能である化合物を用いる金属微粒子分散液が提案されている。上記官能基は、例えば、アミノ基やヒドロキシ基やスルファニル基である。さらに、特許文献2では、上記金属微粒子分散液中に、金属微粒子を加熱処理する温度において上記官能基と反応する性質を有する添加物を、添加しておくことが提案されている。このようにすると、加熱処理において金属微粒子表面から脱離した上記化合物の上記官能基は、上記添加物と反応して、金属微粒子表面に結合しにくい別の官能基に変換されるため、上記化合物の脱離が滞りなく進む利点がある。
【0012】
【特許文献1】特開2002−294307号公報(第2−7頁)
【特許文献2】特開2002−334618号公報(第4−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
理想的には、上記の保護膜分子は、分散液中では、金属微粒子が長期間にわたり安定であるように、金属微粒子同士の融合を阻止する物質であり、且つ、基板上では、金属微粒子同士の融合を妨げず、金属微粒子同士の融合ができるだけ低い温度で容易に起こる物質であることが望ましい。しかし、実際には、金属微粒子に対する結合力の強い分子を保護膜分子として用いると、金属微粒子を保護する作用は強くなるが、保護膜分子が強く結合した金属微粒子同士の融合は起こりにくくなり、融合温度が高くなる二律背反の関係がある。
【0014】
また、多くの場合、金属微粒子を用いて電極や配線(導電路)などの導電体を形成する工程は、電子デバイスなどを作製する工程の1つであり、その前後には何らかの別の部材を作製する工程が行われる。この場合、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層が別の部材の作製工程によってダメージを受けることがある。これを防止する方法として、金属微粒子層の上に保護層を一時的に形成する方法が考えられるが、この方法では、後に保護層を除去する必要が生じ、工程数が増加し、保護層の残渣が残るなどの問題がある。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属微粒子を融合させることによって導電体を形成する導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法であって、金属微粒子を融合させる処理条件や耐ダメージ特性などの金属微粒子層の性質が、保護膜分子によって制限されない製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明は、
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、導電体を形成する工程と
を有する、導電体の製造方法に係わるものである。
【0017】
また、
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上の所定の領域に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、前記所定の領域に導電体を形成する工程と、
前記基体上の前記所定の領域以外の領域に機能性部材を配置する工程と
を有する、電子デバイスの製造方法に係わるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法では、前記保護膜分子被覆微粒子層を形成した後に、前記保護膜分子を前記置換分子で置換してこの層を前記置換分子被覆微粒子層に変換する。従って、置換後は、前記基体に対して行うすべての処理において、処理が前記保護膜分子によって制約されることがない。更に、前記置換分子の性質によって前記置換分子被覆微粒子層の性質を制御することができ、適切な性質を有する前記置換分子を用いることによって、前記置換分子被覆微粒子層に好ましい性質を付与することができる。
【0019】
例えば、前記置換分子として蒸気圧の大きい分子を用いると、前記導電体の形成の際に前記金属微粒子からすみやかに脱離して、前記金属微粒子同士の融合を妨げることがない。このため、後述の実施の形態で図4を用いて説明するように、前記保護膜分子被覆微粒子層をそのまま加熱処理して導電体を形成する場合に比べて、より低い加熱処理温度で前記金属微粒子同士を融合させ、導電性の高い導電体を形成することができる。この結果、前記分散液中では前記金属微粒子同士の融合を阻止し、前記金属微粒子を安定に保つ課題と、前記導電体の形成の際には金属微粒子同士の融合を妨げず、低い融合温度で導電性の高い導電体を形成させる課題とを相反させることなく、ともに解決することができる。
【0020】
また、前記導電体を形成する工程の前後に別の部材の作製工程が行われ、前記保護膜分子被覆微粒子層がこの別部材の作製工程によってダメージを受ける可能性がある場合、前記保護膜分子被覆微粒子層をこのダメージに対する耐性の高い前記置換分子被覆微粒子層に変換してから、上記別部材の作製工程を行うことによって、別部材作製工程によるダメージの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の導電体の製造方法において、前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いるのがよい。前記置換分子の前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子の結合力に比べて強ければ、前記置換分子は前記保護膜分子を容易に置換して、前記金属微粒子に結合することができる。前記置換分子の蒸気圧が大きければ、上述したように、前記導電体の形成の際に前記金属微粒子同士の融合を妨げることがない。そして、前記置換分子の蒸気圧が大きいことが前記金属微粒子の融合温度を低下させる効果が、金属微粒子への結合力が強くなることによって融合温度が上昇する効果を上回る場合には、2つの効果の差として融合温度は低下する。このような置換分子として、前記金属微粒子への結合力の強い官能基を有し、且つ分子量の小さい分子を用いることができる。
【0022】
また、前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行うのがよい。例えば、前記保護膜分子で被覆された銀や金のナノ粒子の層をそのまま加熱処理して導電体を形成する場合、焼結温度は120〜400℃程度である。加熱処理温度をどの程度下げることができるかという点に関しては、用いる前記保護膜分子や前記置換分子によって変わるので一概に言うことは難しいが、上記の加熱処理温度は、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子の層をそのまま加熱処理して導電体を形成する場合に比べて、数十℃〜200℃程度低い温度とするのがよい。
【0023】
また、前記基体の所定の領域に前記分散液を配置し、前記所定の領域に前記導電体を形成するのがよい。印刷法などを用いれば容易に前記分散液を前記所定の領域に配置することができ、前記導電体をパターニングして形成することができる。
【0024】
また、前記保護膜分子を前記置換分子で置換する工程において、
まず、前記保護膜分子を第1の置換分子で置換する工程を行い、
次に、前記金属微粒子に結合している置換分子を別の置換分子で置換するする工程を 1回以上行い、前記金属微粒子に最後の置換分子を結合させる
のがよい。以下、この点につき説明する。
【0025】
前記金属微粒子を用いて電極や配線(導電路)などの前記導電体を形成する工程は、多くの場合、電子デバイスなどを作製する工程の1つであり、その前後には何らかの別の部材を前記基体に作製する工程が行われる。この場合、本発明に基づく前記導電体の作製工程によって形成された前記金属微粒子の層が別の部材の作製工程によってダメージを受けたり、逆に、本発明に基づく前記導電体の作製工程が別の部材の作製工程を阻害してしまったりすることが起こり得る。
【0026】
例えば、前記置換分子で置換する工程の後、前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程の前に、前記基体に対して行っておくべき処理がある場合、保護膜分子を置換分子で置換する工程を1回行うのみでは、この処理に適合した置換分子を常に選択できるとは限らない。なぜなら、この置換分子は、前記導電体を形成するために、加熱によって金属微粒子から脱着しやすく、金属微粒子同士の融合温度を低く抑えることのできる分子、具体的には、分子量が比較的小さく、蒸気圧の大きい分子に限定されるからである。
【0027】
そこで、前記金属微粒子の融合処理の前に前記基体に対して行っておくべき処理がある場合には、上記のように置換工程を複数回行い、複数種の置換分子を使い分けるのがよい。この場合、前記基体に対して行う処理に応じてそれに適した置換分子を前記金属微粒子に結合させていくことによって、前記金属微粒子の層をそれぞれの処理に適合した性質を有する層に変換していくことができる。
【0028】
一例を挙げると、前記最後の置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度T2よりも高い温度で前記基体を加熱処理する必要がある場合、前記最後の置換分子以外の、前記第1の置換分子又は必要に応じて中間工程で導入する置換分子として、この分子で被覆された金属微粒子の融合温度T1がT2よりも高い分子を用い、この分子で前記金属微粒子が被覆されている状態において、T2よりも高く、且つ、T1よりも低い温度で前記基体を加熱処理するのがよい。
【0029】
また、前記金属微粒子として、粒径がナノサイズである金属微粒子を用いるのがよい。なお、本明細書では、サブnm〜数十nm、典型的には数nm〜10数nm程度の大きさをナノサイズと呼び、ナノサイズの大きさをもつ微粒子をナノ粒子と呼ぶことにする。
【0030】
また、前記金属微粒子として、金Au、銀Ag、白金Pt、パラジウムPd、銅Cu、鉄Fe、ニッケルNi、ロジウムRh、又はこれらの合金からなる金属微粒子を用いるのがよい。
【0031】
この際、前記保護膜分子として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、及びポリアニリンなどの高分子、或いは、親水基としてアミノ基−NH2、カルボキシル基−COOH、スルホ基−SO3H、又はホスホノ基−PO(OH)2を有する界面活性剤分子を用いるのがよい。また、前記置換分子として、スルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テルリル基−TeH、又はホスフィノ基−PR1R2(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子を用いるのがよい。
【0032】
また、前記微粒子層を、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法によって形成するのがよい。
【0033】
本発明の電子デバイスの製造方法において、前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いるのがよい。また、前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行うのがよい。これらについては、本発明の導電体の製造方法に関して上述した通りである。
【0034】
また、
前記置換分子として、前記金属微粒子と結合する端部とは反対側の端部が疎水性であ る分子を用い、
機能性材料である有機物を極性の大きい溶媒に溶解させた溶液に、前記所定の領域に 前記置換分子被覆微粒子層を形成した前記基体を接触させ、前記所定の領域以外の領域 に前記溶液の層を付着させた後、
前記溶液の層から前記極性の大きい溶媒を蒸発させ、前記所定の領域以外の領域に前 記機能性部材として前記有機物の層を形成する
のがよい。
【0035】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0036】
実施の形態1
実施の形態1では、主として、請求項1〜3および請求項7〜11に記載した導電体の製造方法の例として、前記導電体として導電体層を作製する例について説明する。
【0037】
図1は、実施の形態1に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図であり、図2および図3は、この作製工程を具体的に示す断面図およびその部分拡大図である。図1中に符号(a)〜(d)で示す工程は、図2および図3に示す工程(a)〜(d)に対応している。
【0038】
まず、図2(a)に示すように、前記基体として基板1を用意する。基板1は特に限定されるものではないが、例えば、石英基板や、ガラス基板や、ポリイミド、ポリカーボネート、およびポリエチレンテレフタラート(PET)などからなるプラスチック基板等の絶縁性基板が好適である。プラスチック基板を用いると、フレキシブルな形状の導電体層を作製できる。また、基板全体が絶縁体である必要はなく、表面が絶縁性であればよい。例えば、半導体素子が形成されたシリコン基板の表面に、酸化シリコンなどの絶縁層が形成されたものであってもよい。
【0039】
他方、表面が保護膜分子3で被覆された金属微粒子2を、適当な溶媒に分散させた分散液11を用意する。金属微粒子2は、金のナノ粒子などで、その直径は50nm程度以下である。溶媒は特に限定されるものではないが、用いることができる溶媒は保護膜分子3との親和性に強く依存する。具体的には、保護膜分子3の種類に応じて、トルエンやヘキサンやシクロヘキサンなどの無極性溶媒、または、エタノールや水などの極性溶媒を適宜選択して用いるのがよい。
【0040】
次に、図2(b)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を基板1上に形成する。金属微粒子層5を形成する方法は特に限定されないが、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法(LB法)、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法などを適宜用いる。
【0041】
LB法では、静置した水面上に、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2をトルエンやクロロフォルムなどの溶媒に分散させた分散液11を展開した後、溶媒を蒸発させ、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2からなる微粒子層を水面上に形成する。次に、水面下降法などによって、水面下に配置した基板1上にこの微粒子層を転写する。LB法では、水面上に展開させる分散液11の濃度や量、表面圧などで膜厚を容易に制御できる利点があり、保護膜分子3で被覆された微粒子2の単層膜を形成することも可能である。
【0042】
スタンプ法では、まず、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を、固体表面や水面にキャスティング法やLB法によって形成する。この微粒子膜をいったんポリジメチルシロキサンなどからなる転写媒体の表面に転写し、その転写媒体をスタンプのように基板1の上に押しつけて、基板1の表面に微粒子層5を配置する。
【0043】
上記以外の方法では、分散液11を基板1の上に配置した後、溶媒を蒸発させて、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を、基板1上に直接形成する。分散液11を基板1上に配置する方法は特に限定されないが、塗布法では、キャストコーター法、スプレーコーター法、スピンコート法などを用いることができ、印刷法では、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法などを用いることができる。キャスティング法では、分散液11を基板1上に滴下し、徐々に溶媒を蒸発させる。浸漬法では、基板1を分散液11に数分間〜数時間浸漬した後、溶媒を蒸発させる。リフトオフ法では、予め基板1上にフォトレジスト層をリソグラフィなどによりパターニングして形成しておき、フォトレジスト層を含む基板1の全面に微粒子層を形成した後、上記フォトレジスト層をその上に堆積した金属微粒子層とともに除去して、基板1上に直接堆積した金属微粒子層を選択的に残すことで、パターニングされた金属微粒子層を得る。
【0044】
図2(a)および図2(b)に示す工程では、金属微粒子2の表面は保護膜分子3で覆われており、金属微粒子2同士の融合や凝集は長期にわたって起こらない。また、保護膜分子3で覆われた金属微粒子2は安定であるため、これらの段階で基板1全体を加熱しても、金属微粒子2同士が融合することはない。
【0045】
次に、図3(c)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を形成した基板1を、置換分子6を含む溶液またはガスに接触させる。この工程で保護膜分子3を置換分子6で置換し、層5を、置換分子で被覆された金属微粒子の層7に変換する。置換分子6は、金属微粒子2と結合できる官能基をもち、金属微粒子2と結合する性質を有する分子である。また、置換分子6は、低分子量で蒸気圧の高い分子であることが望ましい。
【0046】
次に、置換分子で被覆された金属微粒子の層7を形成した基板1を加熱する。この工程で置換分子6を微粒子2から脱着させ、金属微粒子2同士を融合させ、図3(d)に示すように、基板1上に導電体層8を形成する。
【0047】
本実施の形態に基づく導電体の製造方法では、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を形成した後に、保護膜分子3を置換分子6で置換して、層5を置換分子で被覆された金属微粒子の層7に変換する。従って、置換後は、基板1に対して行うすべての処理において、処理が保護膜分子3によって制約されることがない。
【0048】
例えば、置換分子6を適切に選択することによって、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5をそのまま加熱処理して導電体層を形成する場合よりも、低い加熱処理温度で導電性の優れた導電体層を形成することができる。例えば、金属微粒子が金のナノ粒子である場合、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5をそのまま加熱処理して導電体層を形成する工程は、120〜400℃の温度で行う必要がある。これに対して、置換分子で被覆された金属微粒子の層7を加熱処理して導電体層を形成する工程は、下記に図4を用いて説明するように、50〜200℃の温度で行うことができる。この結果、分散液11中で金属微粒子2同士の融合を阻止して安定に保つ課題と、導電体層8の形成の際に金属微粒子2同士の融合を妨げず融合温度の上昇を抑える課題とを相反させることなく、ともに解決することができる。
【0049】
図4は、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2、および置換分子6で被覆された金属微粒子2を加熱処理した場合の、加熱処理温度と質量の変化との関係を示すグラフである。この例では、金属微粒子2として直径5nmの金微粒子を用い、保護膜分子3として長鎖アルキルアミン(分子量200以上)を用い、置換分子6としてデカンチオールを用いた。金微粒子に対する結合力は、アミノ基よりもスルファニル基の方が強いので、デカンチオール分子は長鎖アルキルアミンを置換して、金属微粒子2に結合することができる。一方、デカンチオールの蒸気圧は25℃において3Paであり、長鎖アルキルアミンの蒸気圧は20℃において0.01Pa以下であって、デカンチオールの蒸気圧の方が長鎖アルキルアミンの蒸気圧より大きい。
【0050】
図4中、点線のグラフで示したように、加熱処理温度を上昇させたとき、保護膜分子3である長鎖アルキルアミンによって被覆された金属微粒子2の質量は、400℃付近まで徐々に減少し続ける。これは、長鎖アルキルアミン分子の脱離が400℃付近まで続いていること、すなわち、400℃付近まで加熱しないと長鎖アルキルアミン分子の脱離は完了しないことを示している。従って、保護膜分子3を除去して金属微粒子2同士を融合させ、導電体を形成する場合には、加熱処理を400℃付近の高い温度で行う必要がある。
【0051】
一方、図4中、実線のグラフで示したように、置換分子6であるデカンチオールによって被覆された金属微粒子2の質量は、200℃付近で急減し、それ以上加熱処理温度を上昇させてもほとんど変化しない。これは、デカンチオール分子の脱離が200℃付近まで加熱することでほぼ完了することを示している。従って、置換分子6を除去して金属微粒子2同士を融合させ、導電体を形成する場合には、加熱処理を200℃付近の低い温度で行うことができる。
【0052】
金属微粒子2に結合している保護膜分子3を置換分子6で置換するためには、置換分子6が金属微粒子2に結合する強さが、保護膜分子3が金属微粒子2に結合する強さよりも強いことが望ましい。すなわち、金属微粒子2に結合する強さは、後で結合するものほど強く、
保護膜分子3<置換分子6
の順であるのがよい。
【0053】
金属微粒子2と、金属微粒子2に結合するために置換分子6が有する官能基との組合せの例を挙げると、下記の通りである。
Au微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−COOH、−NH2、
−CN、−SeH、−TeH、−PR1R2
Ag微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−COOH、−NH2、
−SeH、−TeH
Pt微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−PR1R2
Pd微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−PR1R2
Cu微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN
Fe微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN
RhまたはNi微粒子の場合…−PR1R2
但し、−PR1R2はホスフィノ基(R1およびR2は水素原子または有機基)である。
【0054】
金属微粒子2と保護膜分子3と結合力は、上記の金属微粒子2と置換分子6との結合力に比べて弱いのがよい。このため、保護膜分子3として、ポリビニルピロリドン(PVP)などの高分子や界面活性剤のように、金属微粒子2に物理吸着される分子を用いるのがよい。あるいは、保護膜分子3が置換分子6とは異なる官能基を有し、金属微粒子2に結合する強さが
保護膜分子3<置換分子6
である条件を満たすのであれば、保護膜分子が上記の官能基を有し、金属微粒子2に化学吸着される分子であるのでもよい。
【0055】
例えば、金属微粒子2が金の微粒子である場合、金とスルファニル基−SHとの結合は強いので、アミノ基−NH2やホスフィノ基−PR1R2をもつ分子をスルファニル基をもつ分子で置換することができる(Marvin G. Warner,James E. Hutchison (2003) In:Marie-Isabelle Baratoned (ed.),Synthesis and assembly of functionalized Gold Nanoparticles,“Synthesis Functionalization and Surface Treatment of Nanoparticles”,American Scientific Publishers,USA,p.67-89 参照。)。従って、アミノ基やホスフィノ基をもつ分子を保護膜分子3として用い、スルファニル基をもつ分子を置換分子6として用いることが可能である。
【0056】
また、置換分子6が金属微粒子2に結合する強さが、保護膜分子3が金属微粒子2に結合する強さと同程度である場合、濃度差の効果を利用して、金属微粒子2に結合している保護膜分子3を置換分子6で置換することもできる。例えば、図3(c)に示した工程で基板1に接触させる溶液中において、置換分子6の濃度を高く、保護膜分子の濃度を低く保つことによって、保護膜分子3を置換分子6で置換することができる。
【0057】
保護膜分子3を置換分子6で置換する本発明の方法は、適当な溶媒を用いて保護膜分子3を溶解除去して金属微粒子同士を融合させる方法に比べて、保護膜分子3の除去をより迅速に行うことができる利点があると考えられる。また、分散液を作製する溶媒と、保護膜分子3を溶解除去する溶媒との、2種類の溶媒を使い分ける必要がないので、保護膜分子3や溶媒の選択に関して制限されることが少ない利点がある。
【0058】
実施の形態2
実施の形態2では、主として、請求項5および6に記載した導電体の製造方法の例として、前記導電体として導電体層を作製する例について説明する。
【0059】
図5は、実施の形態2に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。実施の形態2では、実施の形態1と同様にして、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層を形成する(図5(a,b))。この後の金属微粒子層に対する処理工程は実施の形態1と異なっており、まず、保護膜分子を第1の置換分子で置換して、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層を第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層に変換する(図5(c))。その後、金属微粒子に結合している置換分子を別の置換分子で置換するする工程を1回以上行い、金属微粒子に最後の置換分子を結合させる(図5(e))。図5は第1の置換分子と最後の置換分子とによって2回の置換を行う例を示しているが、必要に応じて、2回の置換工程の間に中間の置換工程を行ってもよい。そして、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層を加熱処理して導電体層を形成する(図5(f))。
【0060】
実施の形態1では保護膜分子を置換分子で置換する工程(図1(c))を1回行うのみであり、金属微粒子がこの置換分子で被覆された状態で、金属微粒子同士を融合させる加熱処理(図1(d))を行う。従って、置換分子は、加熱によって金属微粒子から脱着しやすく、金属微粒子同士の融合温度を低く抑え、導電性が良好な導電体層を形成することのできる分子、具体的には、分子量が比較的小さく、蒸気圧の大きい分子に限定される。
【0061】
このため、置換工程の後、金属微粒子の融合処理工程の前に基板に対して行っておくべき処理がある場合、この処理に適合した置換分子を常に選択できるとは限らない。例えば、置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度よりも高い温度で基板の加熱処理を行う必要がある場合、この処理を実施すると、この処理工程の間に金属微粒子同士の融合が起こってしまい、不都合である。従って、実施の形態1の製造方法では、このような基板処理工程の実施を断念するか、または、別の置換分子を選択し、この置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度が基板の加熱処理温度よりも高くなるようにするかしかないが、いずれも好ましくない。
【0062】
これに対し、実施の形態2では少なくとも2回の置換を行う。金属微粒子同士を融合させる加熱処理(図5(f))は、金属微粒子が最後の置換分子で被覆されている状態において行うので、最後の置換分子は、実施の形態1の置換分子と同様、加熱によって金属微粒子から脱着しやすく、金属微粒子同士の融合温度を低く抑え、導電性が良好な導電体層を形成することのできる分子、具体的には、分子量が比較的小さく、蒸気圧の大きい分子に限定される。
【0063】
しかし、第1の置換分子、並びに必要に応じて中間の置換工程で導入する置換分子は、金属微粒子の融合処理工程によって制限されることがない。従って、これらの置換分子は、金属微粒子の融合処理の前に基板に対して行っておくべき処理に適合するように、適宜選択することができる。
【0064】
例えば、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度T2よりも高い温度で、アニール処理など、基板の加熱処理を行う必要がある場合、第1の置換分子または中間工程で導入する置換分子として、この分子で被覆された金属微粒子の融合温度T1がT2よりも高い分子を用い、この分子で金属微粒子が被覆されている段階で上記の基板の加熱処理を行えばよい。この際、加熱処理温度がT1よりも低ければ、この処理工程の間に金属微粒子同士の融合が起こってしまうことはない。具体的には、第1の置換分子または中間工程で導入する置換分子として、分子量が大きく、蒸気圧の低い分子を用い、最後の置換分子として、分子量が小さく、蒸気圧の高い分子を用いればよい。このように、金属微粒子の融合処理の前に基板を高温下におく必要がある場合、金属微粒子層の耐熱性を一時的に向上させることができる。
【0065】
また、融合温度の制御だけでなく、金属微粒子層の他の性質を制御する目的で置換分子による置換を行うことが可能である。例えば、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層が別の部材の作製工程によってダメージを受けることがある場合、第1の置換分子または中間工程で導入する置換分子を適切に選択して、この分子で被覆された金属微粒子層を耐ダメージ特性の高い層とし、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層を耐ダメージ特性の高い層に変換してから、上記別部材の作製工程を行うことによって、この工程によるダメージの発生を防止することができる。
【0066】
例えば、液相における化学的還元法で金属微粒子2を合成する際、保護膜分子3は金属微粒子2を溶媒に均一に分散させたり、金属微粒子2の大きさを制御したりする上で重要な役割を果たす。従って、保護膜分子3は自由に選択できるわけではなく、これらの役割を最もよくはたすように選択した保護膜分子3が、基板1で行われる種々の処理に対して必ずしも必要な特性を有しているとは限らない。実施形態2の方法をとることによって、保護膜分子3および置換分子6として、それぞれ最適の分子を選択して用いることが可能になる。
【0067】
なお、上記の複数回の置換を順次行うためには、金属微粒子に結合する強さが、後に結合するものほど強く、
保護膜分子<第1の置換分子<中間の置換分子<最後の置換分子
の順であるのがよい。
【0068】
金属微粒子2と、第1の置換分子および最後の置換分子、並びに必要に応じて中間工程で導入する置換分子が有すべき官能基との組合せは、実施の形態1に示した通りである。この際、各種置換分子がそれぞれ有する官能基は、金属微粒子に結合する強さが
第1の置換分子<中間の置換分子<最後の置換分子
の順となる組合せであるのがよい。
【0069】
実施の形態1で説明したように、保護膜分子としては、ポリビニルピロリドン(PVP)などの高分子や界面活性剤のように、金属微粒子に物理吸着される分子を用いるのがよい。あるいは、保護膜分子が第1の置換分子とは異なる官能基を有し、金属微粒子に結合する強さが
保護膜分子<第1の置換分子
である条件を満たすのであれば、保護膜分子が実施の形態1に示した官能基を有し、金属微粒子に化学吸着される分子であるのでもよい。
【0070】
実施の形態3
実施の形態3では、主として、請求項12〜15に記載した電子デバイスの製造方法の例として、所定の領域に前記導電体として導電体層を形成し、所定の領域以外の領域に前記機能性部材として有機物層を配置する電子デバイスの製造方法について説明する。導電体層は、例えば電極や導電路(配線)であり、有機物層は絶縁層や誘電体層や半導体層である。
【0071】
図6は、実施の形態3に基づく電子デバイスの作製工程を示すフロー図であり、図7および図8は、この作製工程を具体的に示す断面図およびその部分拡大図である。図6中に符号(a)〜(f)で示す工程は、図7および図8に示す工程(a)〜(f)に対応している。
【0072】
まず、実施の形態1と同様、図7(a)に示すように、前記基体として基板1を用意する。基板1は特に限定されるものではないが、例えば、石英基板や、ガラス基板や、ポリイミド、ポリカーボネート、およびポリエチレンテレフタラート(PET)などからなるプラスチック基板等の絶縁性基板が好適である。プラスチック基板を用いると、フレキシブルな形状の電子デバイスを作製できる。また、基板全体が絶縁体である必要はなく、表面が絶縁性であればよい。例えば、半導体素子が形成されたシリコン基板の表面に、酸化シリコンなどの絶縁層が形成されたものであってもよい。
【0073】
他方、実施の形態1と同様、表面が保護膜分子3で被覆された金属微粒子2を、適当な溶媒に分散させた分散液11を用意する。金属微粒子2は、金のナノ粒子などで、その直径は50nm程度以下である。溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、保護膜分子3の種類に応じてトルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、エタノール、水などを適宜用いる。
【0074】
次に、分散液11を基板1の所定の領域31に配置した後、溶媒を蒸発させて、図7(b)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32を形成する。分散液11を配置する方法は、所定の領域31に分散液11を配置できる方法であればよく、特に限定されないが、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、およびグラビア印刷法などの印刷法が簡便でよい。
【0075】
図7(a)および図7(b)に示す工程では、金属微粒子2の表面は保護膜分子3で覆われており、金属微粒子2同士の融合や凝集は長期にわたって起こらない。また、保護膜分子3で覆われた金属微粒子2は安定であるため、これらの段階で基板1全体を加熱しても、金属微粒子2同士が融合することはない。
【0076】
次に、図7(c)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32を形成した基板1を、第1の置換分子33を含む溶液またはガスに接触させる。この工程で保護膜分子3を第1の置換分子33で置換し、層32を、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34に変換する。第1の置換分子33としては、保護膜分子3を容易に置換して、金属微粒子2に結合できるように、金属微粒子2への結合力が保護膜分子3に比べて強い分子を用いる。さらに、次に述べる有機物層の形成に備えて、金属微粒子2と結合する端部とは反対側の端部が疎水性である分子を用いる。この結果、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34の表面の性質は、疎水性になる。なお、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の表面の性質は、主として、金属微粒子2と結合する端部とは反対側の、第1の置換分子33の端部の性質によって決まるので、第1の置換分子33全体が疎水性である必要は必ずしもない。
【0077】
次に、図8(d)に示すように、機能性材料である有機物を極性の大きな溶媒に溶かした溶液に、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34を所定の領域31に形成した基板1を接触させる。このとき、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34の表面は疎水性であるため、層34がこの有機物の溶液で濡れることはない。この結果、金属微粒子の層34が形成されている領域以外の領域に有機物溶液の層が付着する。この後、有機物溶液の層から溶媒を蒸発させ、所定の領域31以外の領域に機能性部材として有機物層40を形成する。基板1に有機物溶液を付着させる方法は特に限定されないが、キャストコーター法、スプレーコーター法、スピンコート法などのコーティング法、あるいはインクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法などの印刷法、あるいはスタンプ法、あるいはラングミュアーブロジェット(LB)法、あるいはリフトオフ法、あるいは浸漬法、あるいはキャスティング法などを適宜用いる。
【0078】
次に、図8(e)に示すように、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34および有機物層40を形成した基板1を、最後の置換分子35を含む溶液またはガスに接触させ、第1の置換分子33を最後の置換分子35で置換し、層34を、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層36に変換する。最後の置換分子35としては、第1の置換分子33を容易に置換して、金属微粒子2に結合できるように、金属微粒子2への結合力が第1の置換分子33に比べて強い分子を用いる。さらに、次に述べる導電体層の形成に備えて、導電体層の形成の際に金属微粒子2からすみやかに脱着して、金属微粒子2同士の融合を妨げることがないように、分子量が小さく、蒸気圧の大きい分子を用いるのがよい。
【0079】
次に、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層36を形成した基板1を加熱する。この工程で最後の置換分子33を微粒子2から脱着させ、金属微粒子2同士を融合させ、図8(f)に示すように、基板1上の所定の領域に導電体層37を形成する。
【0080】
図6〜8には、第1の置換分子と最後の置換分子とによって2回の置換を行う例を示したが、必要に応じて、2回の置換工程の間に中間の置換工程を行ってもよい。また、第1の置換分子によって最後の置換分子の役割も果たせるのであれば、第1の置換分子による置換を1回だけ行うようにしてもよい。
【0081】
ここで、上記有機物を抵抗体材料又は誘電体材料とすれば、電子デバイスとして抵抗又はコンデンサなどの受動素子を形成することができる。また、上記有機物を半導体材料とすれば、電子デバイスとして絶縁ゲート型電界効果トランジスタや、物質を検知したり、識別したりする物質センサを形成することができる。また、上記有機物を絶縁材料とすれば、素子間分離壁を形成することができる。
【0082】
本実施の形態に基づく電子デバイスの製造方法では、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32をパターニングして形成した後に、保護膜分子3を第1の置換分子33で置換して、層32を置換分子で被覆された金属微粒子の層34に変換する。従って、置換後は、基板1に対して行うすべての処理において、処理が保護膜分子3によって制約されることがない。例えば、最後の置換分子35として、分子量が小さく、蒸気圧の大きい分子を用いることによって、有機物層40に損傷を与える可能性の小さい、比較的低い温度で金属微粒子同士を融合させることができる。
【0083】
この際、印刷法を適用することによって、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32を簡易にパターニングして形成することができるので、生産性よく、低コストで電極や配線を形成することができる。
【0084】
さらに、第1の置換分子33として、金属微粒子2と結合する端部とは反対側の端部が疎水性である分子を用いることにより、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34の表面の性質を疎水性とすることができる。これと、極性の大きな溶媒に有機物を溶かした溶液とを組み合わせることにより、既に形成されている第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34を一種のマスクとして用いて、この層が形成されている領域31以外の領域に有機物層40を形成することができる。この例のように、第1の置換分子33を適切に選択することによって微粒子層表面の濡れ性と他の領域の濡れ性とに大きな相違を生じさせ、濡れ性の違いを利用して、その上に形成する層のパターニングを行うことができる。
【0085】
同様に、電荷をもった置換分子を金属微粒子に結合させることで、静電的な反発によって金属微粒子層の表面に有機物層が形成されないようにしたり、分子の特異的な吸着を妨げるのに有効なポリエチレングリコール(PEG)鎖を有する置換分子を金属微粒子に結合させたりすることで、保護層を形成せずに金属微粒子層の表面を保護することが可能である。
【0086】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の導電体の製造方法および電子デバイスの製造方法は、電極や配線を有する電子デバイスに応用可能で、デバイスの生産性の向上や低コスト化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。
【図2】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【図3】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【図4】同、保護膜分子で被覆された金属微粒子、および置換分子で被覆された金属微粒子を加熱処理した場合の、加熱処理温度と質量の変化との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態2に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態3に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。
【図7】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【図8】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【符号の説明】
【0089】
1…基板、2…金属微粒子(金のナノ粒子など)、3…保護膜分子、
4…表面が保護膜分子で被覆された金属微粒子、
5…保護膜分子で被覆された金属微粒子の層、
6…置換分子、7…置換分子で被覆された金属微粒子の層、8…導電体層
11…表面が保護膜分子で被覆された金属微粒子を溶媒に分散させた分散液、
31…所定の領域、32…保護膜分子で被覆された金属微粒子の層、
33…第1の置換分子、34…第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層、
35…最後の置換分子、36…最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層、
37…導電体層、40…有機物の層
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法に関するものであり、より詳しくは、金属微粒子を融合させることによって、電極や配線などの導電体を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極や配線(導電路)を基板上に形成する技術は、電子デバイスを作製するための基本技術である。例えば、間隙部を挟んで対向する対向電極、およびこの対向電極への配線を基板上に形成し、その間隙部に種々の機能性材料を配置することによって、様々な電子デバイスを作製することができる。具体的には、抵抗体材料または誘電体材料を配置すれば抵抗素子または容量素子を作製することができる。また、半導体材料を配置して、この半導体材料によって形成される導電路の導電性を電界によって制御するように構成すれば、電界効果トランジスタを作製することができる。
【0003】
基板上に導電体をパターニングして形成し、電極や配線を作製する方法には、大きく分けて2つの方法がある。
【0004】
1つは、蒸着法やスパッタリング法やめっき法によって導電材料層を成膜し、マスクを用いてパターニングする方法である。例えば、基板の一部をマスクで覆った状態で導電材料層を成膜することにより、電極や配線をパターニングして形成することができる。あるいは、一旦基板の全面に蒸着法などで導電材料層を形成した後、リソグラフィによって導電層上にレジストマスクを形成し、これをマスクとして導電材料層をエッチングすることにより導電材料層をパターニングすることができる。また、リフトオフ法では、レジストマスクを先に基板上に形成しておき、この全面に蒸着法などで導電層を形成した後、レジストマスク上に堆積した導電層をレジストマスクとともに除去して、基板上に堆積した導電層のみを残し、電極や配線を得る。
【0005】
これらの方法はパターニングにマスクを用いるので、マスクを作製する工程や、マスクを位置合わせして配置する工程や、使い終わったマスクを除去する工程などが必要になる。この結果、工程数が多くなり、生産性が低下し、コスト高になる問題点がある。
【0006】
他の1つは、電極や配線を形成しようとする領域に導電材料からなる微粒子を配置した後、加熱処理して微粒子同士を融合させ、導電体を形成する方法である。導電性微粒子を配置するには、適当な溶媒に導電性微粒子を分散させた分散液(いわゆる導電性ペースト)を作製し、この分散液を塗布または印刷によって配置した後、溶媒を蒸発させる。
【0007】
上記の微粒子融合法では、印刷技術を用いて分散液(導電性ペースト)を配置することにより、マスクを用いることなく電極パターンや配線パターンを形成することができる。この結果、工程数が少なくなり、生産性が向上し、製造コストが著しく低下する。このため、電極や配線の製造方法として特に注目されている(例えば、石橋秀夫,化学と工業,57(2004),p.945 参照。)。
【0008】
さて、微粒子融合法によって導電体を形成する場合、導電性微粒子として微小な金属微粒子を用いるのがよい。文献(P. Buffat and J-P. Borel, Phys. Rev. A 13, 2287(1976))に示されているように、金属微粒子の融点はその大きさに依存する。例えば、金や銀の場合、通常の金属塊の融点は1000℃以上の高温であるのに対し、粒径が10nm程度の微粒子は数百℃程度の温度で融解する。このため、比較的低い加熱処理温度で金属微粒子同士を融合させ、導電性の高い導電体を形成することができる。
【0009】
この際、分散液を基板上に配置する前に、金属微粒子同士が分散液中で融合してしまうと、金属微粒子が凝集・沈殿して、塗布や印刷が難しくなったり、導電性の高い導電路を形成することが困難になったりする。これを防ぐため、通常、金属微粒子は保護膜分子あるいは安定剤で保護した状態で分散液中に保存し、基板上に配置する。その後、導電体を形成する加熱処理によって金属微粒子から保護膜分子を脱着させ、金属微粒子同士を融合させる。保護膜分子は、金属微粒子の表面を被覆し、金属微粒子同士が凝集するのを防止する立体障害として機能する。従って、保護膜分子は、ある程度の大きさをもった分子であることが好ましい。
【0010】
例えば、後述の特許文献1には、保護膜分子として、ポリエンポリカルボン酸、そのカルボキシル基における誘導体、及びそれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることによって、金属微粒子の分散性が良好な金属コロイド液が得られることが報告されている。
【0011】
また、後述の特許文献2には、保護膜分子として、金属微粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、または硫黄原子を含む官能基を有する化合物であって、250℃を超えない加熱処理によって金属微粒子表面から解離可能である化合物を用いる金属微粒子分散液が提案されている。上記官能基は、例えば、アミノ基やヒドロキシ基やスルファニル基である。さらに、特許文献2では、上記金属微粒子分散液中に、金属微粒子を加熱処理する温度において上記官能基と反応する性質を有する添加物を、添加しておくことが提案されている。このようにすると、加熱処理において金属微粒子表面から脱離した上記化合物の上記官能基は、上記添加物と反応して、金属微粒子表面に結合しにくい別の官能基に変換されるため、上記化合物の脱離が滞りなく進む利点がある。
【0012】
【特許文献1】特開2002−294307号公報(第2−7頁)
【特許文献2】特開2002−334618号公報(第4−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
理想的には、上記の保護膜分子は、分散液中では、金属微粒子が長期間にわたり安定であるように、金属微粒子同士の融合を阻止する物質であり、且つ、基板上では、金属微粒子同士の融合を妨げず、金属微粒子同士の融合ができるだけ低い温度で容易に起こる物質であることが望ましい。しかし、実際には、金属微粒子に対する結合力の強い分子を保護膜分子として用いると、金属微粒子を保護する作用は強くなるが、保護膜分子が強く結合した金属微粒子同士の融合は起こりにくくなり、融合温度が高くなる二律背反の関係がある。
【0014】
また、多くの場合、金属微粒子を用いて電極や配線(導電路)などの導電体を形成する工程は、電子デバイスなどを作製する工程の1つであり、その前後には何らかの別の部材を作製する工程が行われる。この場合、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層が別の部材の作製工程によってダメージを受けることがある。これを防止する方法として、金属微粒子層の上に保護層を一時的に形成する方法が考えられるが、この方法では、後に保護層を除去する必要が生じ、工程数が増加し、保護層の残渣が残るなどの問題がある。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属微粒子を融合させることによって導電体を形成する導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法であって、金属微粒子を融合させる処理条件や耐ダメージ特性などの金属微粒子層の性質が、保護膜分子によって制限されない製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明は、
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、導電体を形成する工程と
を有する、導電体の製造方法に係わるものである。
【0017】
また、
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上の所定の領域に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、前記所定の領域に導電体を形成する工程と、
前記基体上の前記所定の領域以外の領域に機能性部材を配置する工程と
を有する、電子デバイスの製造方法に係わるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の導電体の製造方法及び電子デバイスの製造方法では、前記保護膜分子被覆微粒子層を形成した後に、前記保護膜分子を前記置換分子で置換してこの層を前記置換分子被覆微粒子層に変換する。従って、置換後は、前記基体に対して行うすべての処理において、処理が前記保護膜分子によって制約されることがない。更に、前記置換分子の性質によって前記置換分子被覆微粒子層の性質を制御することができ、適切な性質を有する前記置換分子を用いることによって、前記置換分子被覆微粒子層に好ましい性質を付与することができる。
【0019】
例えば、前記置換分子として蒸気圧の大きい分子を用いると、前記導電体の形成の際に前記金属微粒子からすみやかに脱離して、前記金属微粒子同士の融合を妨げることがない。このため、後述の実施の形態で図4を用いて説明するように、前記保護膜分子被覆微粒子層をそのまま加熱処理して導電体を形成する場合に比べて、より低い加熱処理温度で前記金属微粒子同士を融合させ、導電性の高い導電体を形成することができる。この結果、前記分散液中では前記金属微粒子同士の融合を阻止し、前記金属微粒子を安定に保つ課題と、前記導電体の形成の際には金属微粒子同士の融合を妨げず、低い融合温度で導電性の高い導電体を形成させる課題とを相反させることなく、ともに解決することができる。
【0020】
また、前記導電体を形成する工程の前後に別の部材の作製工程が行われ、前記保護膜分子被覆微粒子層がこの別部材の作製工程によってダメージを受ける可能性がある場合、前記保護膜分子被覆微粒子層をこのダメージに対する耐性の高い前記置換分子被覆微粒子層に変換してから、上記別部材の作製工程を行うことによって、別部材作製工程によるダメージの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の導電体の製造方法において、前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いるのがよい。前記置換分子の前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子の結合力に比べて強ければ、前記置換分子は前記保護膜分子を容易に置換して、前記金属微粒子に結合することができる。前記置換分子の蒸気圧が大きければ、上述したように、前記導電体の形成の際に前記金属微粒子同士の融合を妨げることがない。そして、前記置換分子の蒸気圧が大きいことが前記金属微粒子の融合温度を低下させる効果が、金属微粒子への結合力が強くなることによって融合温度が上昇する効果を上回る場合には、2つの効果の差として融合温度は低下する。このような置換分子として、前記金属微粒子への結合力の強い官能基を有し、且つ分子量の小さい分子を用いることができる。
【0022】
また、前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行うのがよい。例えば、前記保護膜分子で被覆された銀や金のナノ粒子の層をそのまま加熱処理して導電体を形成する場合、焼結温度は120〜400℃程度である。加熱処理温度をどの程度下げることができるかという点に関しては、用いる前記保護膜分子や前記置換分子によって変わるので一概に言うことは難しいが、上記の加熱処理温度は、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子の層をそのまま加熱処理して導電体を形成する場合に比べて、数十℃〜200℃程度低い温度とするのがよい。
【0023】
また、前記基体の所定の領域に前記分散液を配置し、前記所定の領域に前記導電体を形成するのがよい。印刷法などを用いれば容易に前記分散液を前記所定の領域に配置することができ、前記導電体をパターニングして形成することができる。
【0024】
また、前記保護膜分子を前記置換分子で置換する工程において、
まず、前記保護膜分子を第1の置換分子で置換する工程を行い、
次に、前記金属微粒子に結合している置換分子を別の置換分子で置換するする工程を 1回以上行い、前記金属微粒子に最後の置換分子を結合させる
のがよい。以下、この点につき説明する。
【0025】
前記金属微粒子を用いて電極や配線(導電路)などの前記導電体を形成する工程は、多くの場合、電子デバイスなどを作製する工程の1つであり、その前後には何らかの別の部材を前記基体に作製する工程が行われる。この場合、本発明に基づく前記導電体の作製工程によって形成された前記金属微粒子の層が別の部材の作製工程によってダメージを受けたり、逆に、本発明に基づく前記導電体の作製工程が別の部材の作製工程を阻害してしまったりすることが起こり得る。
【0026】
例えば、前記置換分子で置換する工程の後、前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程の前に、前記基体に対して行っておくべき処理がある場合、保護膜分子を置換分子で置換する工程を1回行うのみでは、この処理に適合した置換分子を常に選択できるとは限らない。なぜなら、この置換分子は、前記導電体を形成するために、加熱によって金属微粒子から脱着しやすく、金属微粒子同士の融合温度を低く抑えることのできる分子、具体的には、分子量が比較的小さく、蒸気圧の大きい分子に限定されるからである。
【0027】
そこで、前記金属微粒子の融合処理の前に前記基体に対して行っておくべき処理がある場合には、上記のように置換工程を複数回行い、複数種の置換分子を使い分けるのがよい。この場合、前記基体に対して行う処理に応じてそれに適した置換分子を前記金属微粒子に結合させていくことによって、前記金属微粒子の層をそれぞれの処理に適合した性質を有する層に変換していくことができる。
【0028】
一例を挙げると、前記最後の置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度T2よりも高い温度で前記基体を加熱処理する必要がある場合、前記最後の置換分子以外の、前記第1の置換分子又は必要に応じて中間工程で導入する置換分子として、この分子で被覆された金属微粒子の融合温度T1がT2よりも高い分子を用い、この分子で前記金属微粒子が被覆されている状態において、T2よりも高く、且つ、T1よりも低い温度で前記基体を加熱処理するのがよい。
【0029】
また、前記金属微粒子として、粒径がナノサイズである金属微粒子を用いるのがよい。なお、本明細書では、サブnm〜数十nm、典型的には数nm〜10数nm程度の大きさをナノサイズと呼び、ナノサイズの大きさをもつ微粒子をナノ粒子と呼ぶことにする。
【0030】
また、前記金属微粒子として、金Au、銀Ag、白金Pt、パラジウムPd、銅Cu、鉄Fe、ニッケルNi、ロジウムRh、又はこれらの合金からなる金属微粒子を用いるのがよい。
【0031】
この際、前記保護膜分子として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、及びポリアニリンなどの高分子、或いは、親水基としてアミノ基−NH2、カルボキシル基−COOH、スルホ基−SO3H、又はホスホノ基−PO(OH)2を有する界面活性剤分子を用いるのがよい。また、前記置換分子として、スルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テルリル基−TeH、又はホスフィノ基−PR1R2(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子を用いるのがよい。
【0032】
また、前記微粒子層を、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法によって形成するのがよい。
【0033】
本発明の電子デバイスの製造方法において、前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いるのがよい。また、前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行うのがよい。これらについては、本発明の導電体の製造方法に関して上述した通りである。
【0034】
また、
前記置換分子として、前記金属微粒子と結合する端部とは反対側の端部が疎水性であ る分子を用い、
機能性材料である有機物を極性の大きい溶媒に溶解させた溶液に、前記所定の領域に 前記置換分子被覆微粒子層を形成した前記基体を接触させ、前記所定の領域以外の領域 に前記溶液の層を付着させた後、
前記溶液の層から前記極性の大きい溶媒を蒸発させ、前記所定の領域以外の領域に前 記機能性部材として前記有機物の層を形成する
のがよい。
【0035】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0036】
実施の形態1
実施の形態1では、主として、請求項1〜3および請求項7〜11に記載した導電体の製造方法の例として、前記導電体として導電体層を作製する例について説明する。
【0037】
図1は、実施の形態1に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図であり、図2および図3は、この作製工程を具体的に示す断面図およびその部分拡大図である。図1中に符号(a)〜(d)で示す工程は、図2および図3に示す工程(a)〜(d)に対応している。
【0038】
まず、図2(a)に示すように、前記基体として基板1を用意する。基板1は特に限定されるものではないが、例えば、石英基板や、ガラス基板や、ポリイミド、ポリカーボネート、およびポリエチレンテレフタラート(PET)などからなるプラスチック基板等の絶縁性基板が好適である。プラスチック基板を用いると、フレキシブルな形状の導電体層を作製できる。また、基板全体が絶縁体である必要はなく、表面が絶縁性であればよい。例えば、半導体素子が形成されたシリコン基板の表面に、酸化シリコンなどの絶縁層が形成されたものであってもよい。
【0039】
他方、表面が保護膜分子3で被覆された金属微粒子2を、適当な溶媒に分散させた分散液11を用意する。金属微粒子2は、金のナノ粒子などで、その直径は50nm程度以下である。溶媒は特に限定されるものではないが、用いることができる溶媒は保護膜分子3との親和性に強く依存する。具体的には、保護膜分子3の種類に応じて、トルエンやヘキサンやシクロヘキサンなどの無極性溶媒、または、エタノールや水などの極性溶媒を適宜選択して用いるのがよい。
【0040】
次に、図2(b)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を基板1上に形成する。金属微粒子層5を形成する方法は特に限定されないが、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法(LB法)、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法などを適宜用いる。
【0041】
LB法では、静置した水面上に、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2をトルエンやクロロフォルムなどの溶媒に分散させた分散液11を展開した後、溶媒を蒸発させ、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2からなる微粒子層を水面上に形成する。次に、水面下降法などによって、水面下に配置した基板1上にこの微粒子層を転写する。LB法では、水面上に展開させる分散液11の濃度や量、表面圧などで膜厚を容易に制御できる利点があり、保護膜分子3で被覆された微粒子2の単層膜を形成することも可能である。
【0042】
スタンプ法では、まず、保護膜分子3で被覆された微粒子2からなる微粒子膜を、固体表面や水面にキャスティング法やLB法によって形成する。この微粒子膜をいったんポリジメチルシロキサンなどからなる転写媒体の表面に転写し、その転写媒体をスタンプのように基板1の上に押しつけて、基板1の表面に微粒子層5を配置する。
【0043】
上記以外の方法では、分散液11を基板1の上に配置した後、溶媒を蒸発させて、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を、基板1上に直接形成する。分散液11を基板1上に配置する方法は特に限定されないが、塗布法では、キャストコーター法、スプレーコーター法、スピンコート法などを用いることができ、印刷法では、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法などを用いることができる。キャスティング法では、分散液11を基板1上に滴下し、徐々に溶媒を蒸発させる。浸漬法では、基板1を分散液11に数分間〜数時間浸漬した後、溶媒を蒸発させる。リフトオフ法では、予め基板1上にフォトレジスト層をリソグラフィなどによりパターニングして形成しておき、フォトレジスト層を含む基板1の全面に微粒子層を形成した後、上記フォトレジスト層をその上に堆積した金属微粒子層とともに除去して、基板1上に直接堆積した金属微粒子層を選択的に残すことで、パターニングされた金属微粒子層を得る。
【0044】
図2(a)および図2(b)に示す工程では、金属微粒子2の表面は保護膜分子3で覆われており、金属微粒子2同士の融合や凝集は長期にわたって起こらない。また、保護膜分子3で覆われた金属微粒子2は安定であるため、これらの段階で基板1全体を加熱しても、金属微粒子2同士が融合することはない。
【0045】
次に、図3(c)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を形成した基板1を、置換分子6を含む溶液またはガスに接触させる。この工程で保護膜分子3を置換分子6で置換し、層5を、置換分子で被覆された金属微粒子の層7に変換する。置換分子6は、金属微粒子2と結合できる官能基をもち、金属微粒子2と結合する性質を有する分子である。また、置換分子6は、低分子量で蒸気圧の高い分子であることが望ましい。
【0046】
次に、置換分子で被覆された金属微粒子の層7を形成した基板1を加熱する。この工程で置換分子6を微粒子2から脱着させ、金属微粒子2同士を融合させ、図3(d)に示すように、基板1上に導電体層8を形成する。
【0047】
本実施の形態に基づく導電体の製造方法では、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5を形成した後に、保護膜分子3を置換分子6で置換して、層5を置換分子で被覆された金属微粒子の層7に変換する。従って、置換後は、基板1に対して行うすべての処理において、処理が保護膜分子3によって制約されることがない。
【0048】
例えば、置換分子6を適切に選択することによって、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5をそのまま加熱処理して導電体層を形成する場合よりも、低い加熱処理温度で導電性の優れた導電体層を形成することができる。例えば、金属微粒子が金のナノ粒子である場合、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層5をそのまま加熱処理して導電体層を形成する工程は、120〜400℃の温度で行う必要がある。これに対して、置換分子で被覆された金属微粒子の層7を加熱処理して導電体層を形成する工程は、下記に図4を用いて説明するように、50〜200℃の温度で行うことができる。この結果、分散液11中で金属微粒子2同士の融合を阻止して安定に保つ課題と、導電体層8の形成の際に金属微粒子2同士の融合を妨げず融合温度の上昇を抑える課題とを相反させることなく、ともに解決することができる。
【0049】
図4は、保護膜分子3で被覆された金属微粒子2、および置換分子6で被覆された金属微粒子2を加熱処理した場合の、加熱処理温度と質量の変化との関係を示すグラフである。この例では、金属微粒子2として直径5nmの金微粒子を用い、保護膜分子3として長鎖アルキルアミン(分子量200以上)を用い、置換分子6としてデカンチオールを用いた。金微粒子に対する結合力は、アミノ基よりもスルファニル基の方が強いので、デカンチオール分子は長鎖アルキルアミンを置換して、金属微粒子2に結合することができる。一方、デカンチオールの蒸気圧は25℃において3Paであり、長鎖アルキルアミンの蒸気圧は20℃において0.01Pa以下であって、デカンチオールの蒸気圧の方が長鎖アルキルアミンの蒸気圧より大きい。
【0050】
図4中、点線のグラフで示したように、加熱処理温度を上昇させたとき、保護膜分子3である長鎖アルキルアミンによって被覆された金属微粒子2の質量は、400℃付近まで徐々に減少し続ける。これは、長鎖アルキルアミン分子の脱離が400℃付近まで続いていること、すなわち、400℃付近まで加熱しないと長鎖アルキルアミン分子の脱離は完了しないことを示している。従って、保護膜分子3を除去して金属微粒子2同士を融合させ、導電体を形成する場合には、加熱処理を400℃付近の高い温度で行う必要がある。
【0051】
一方、図4中、実線のグラフで示したように、置換分子6であるデカンチオールによって被覆された金属微粒子2の質量は、200℃付近で急減し、それ以上加熱処理温度を上昇させてもほとんど変化しない。これは、デカンチオール分子の脱離が200℃付近まで加熱することでほぼ完了することを示している。従って、置換分子6を除去して金属微粒子2同士を融合させ、導電体を形成する場合には、加熱処理を200℃付近の低い温度で行うことができる。
【0052】
金属微粒子2に結合している保護膜分子3を置換分子6で置換するためには、置換分子6が金属微粒子2に結合する強さが、保護膜分子3が金属微粒子2に結合する強さよりも強いことが望ましい。すなわち、金属微粒子2に結合する強さは、後で結合するものほど強く、
保護膜分子3<置換分子6
の順であるのがよい。
【0053】
金属微粒子2と、金属微粒子2に結合するために置換分子6が有する官能基との組合せの例を挙げると、下記の通りである。
Au微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−COOH、−NH2、
−CN、−SeH、−TeH、−PR1R2
Ag微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−COOH、−NH2、
−SeH、−TeH
Pt微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−PR1R2
Pd微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN、−NC、−PR1R2
Cu微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN
Fe微粒子の場合…−SH、−S-S−、−SCN
RhまたはNi微粒子の場合…−PR1R2
但し、−PR1R2はホスフィノ基(R1およびR2は水素原子または有機基)である。
【0054】
金属微粒子2と保護膜分子3と結合力は、上記の金属微粒子2と置換分子6との結合力に比べて弱いのがよい。このため、保護膜分子3として、ポリビニルピロリドン(PVP)などの高分子や界面活性剤のように、金属微粒子2に物理吸着される分子を用いるのがよい。あるいは、保護膜分子3が置換分子6とは異なる官能基を有し、金属微粒子2に結合する強さが
保護膜分子3<置換分子6
である条件を満たすのであれば、保護膜分子が上記の官能基を有し、金属微粒子2に化学吸着される分子であるのでもよい。
【0055】
例えば、金属微粒子2が金の微粒子である場合、金とスルファニル基−SHとの結合は強いので、アミノ基−NH2やホスフィノ基−PR1R2をもつ分子をスルファニル基をもつ分子で置換することができる(Marvin G. Warner,James E. Hutchison (2003) In:Marie-Isabelle Baratoned (ed.),Synthesis and assembly of functionalized Gold Nanoparticles,“Synthesis Functionalization and Surface Treatment of Nanoparticles”,American Scientific Publishers,USA,p.67-89 参照。)。従って、アミノ基やホスフィノ基をもつ分子を保護膜分子3として用い、スルファニル基をもつ分子を置換分子6として用いることが可能である。
【0056】
また、置換分子6が金属微粒子2に結合する強さが、保護膜分子3が金属微粒子2に結合する強さと同程度である場合、濃度差の効果を利用して、金属微粒子2に結合している保護膜分子3を置換分子6で置換することもできる。例えば、図3(c)に示した工程で基板1に接触させる溶液中において、置換分子6の濃度を高く、保護膜分子の濃度を低く保つことによって、保護膜分子3を置換分子6で置換することができる。
【0057】
保護膜分子3を置換分子6で置換する本発明の方法は、適当な溶媒を用いて保護膜分子3を溶解除去して金属微粒子同士を融合させる方法に比べて、保護膜分子3の除去をより迅速に行うことができる利点があると考えられる。また、分散液を作製する溶媒と、保護膜分子3を溶解除去する溶媒との、2種類の溶媒を使い分ける必要がないので、保護膜分子3や溶媒の選択に関して制限されることが少ない利点がある。
【0058】
実施の形態2
実施の形態2では、主として、請求項5および6に記載した導電体の製造方法の例として、前記導電体として導電体層を作製する例について説明する。
【0059】
図5は、実施の形態2に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。実施の形態2では、実施の形態1と同様にして、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層を形成する(図5(a,b))。この後の金属微粒子層に対する処理工程は実施の形態1と異なっており、まず、保護膜分子を第1の置換分子で置換して、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層を第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層に変換する(図5(c))。その後、金属微粒子に結合している置換分子を別の置換分子で置換するする工程を1回以上行い、金属微粒子に最後の置換分子を結合させる(図5(e))。図5は第1の置換分子と最後の置換分子とによって2回の置換を行う例を示しているが、必要に応じて、2回の置換工程の間に中間の置換工程を行ってもよい。そして、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層を加熱処理して導電体層を形成する(図5(f))。
【0060】
実施の形態1では保護膜分子を置換分子で置換する工程(図1(c))を1回行うのみであり、金属微粒子がこの置換分子で被覆された状態で、金属微粒子同士を融合させる加熱処理(図1(d))を行う。従って、置換分子は、加熱によって金属微粒子から脱着しやすく、金属微粒子同士の融合温度を低く抑え、導電性が良好な導電体層を形成することのできる分子、具体的には、分子量が比較的小さく、蒸気圧の大きい分子に限定される。
【0061】
このため、置換工程の後、金属微粒子の融合処理工程の前に基板に対して行っておくべき処理がある場合、この処理に適合した置換分子を常に選択できるとは限らない。例えば、置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度よりも高い温度で基板の加熱処理を行う必要がある場合、この処理を実施すると、この処理工程の間に金属微粒子同士の融合が起こってしまい、不都合である。従って、実施の形態1の製造方法では、このような基板処理工程の実施を断念するか、または、別の置換分子を選択し、この置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度が基板の加熱処理温度よりも高くなるようにするかしかないが、いずれも好ましくない。
【0062】
これに対し、実施の形態2では少なくとも2回の置換を行う。金属微粒子同士を融合させる加熱処理(図5(f))は、金属微粒子が最後の置換分子で被覆されている状態において行うので、最後の置換分子は、実施の形態1の置換分子と同様、加熱によって金属微粒子から脱着しやすく、金属微粒子同士の融合温度を低く抑え、導電性が良好な導電体層を形成することのできる分子、具体的には、分子量が比較的小さく、蒸気圧の大きい分子に限定される。
【0063】
しかし、第1の置換分子、並びに必要に応じて中間の置換工程で導入する置換分子は、金属微粒子の融合処理工程によって制限されることがない。従って、これらの置換分子は、金属微粒子の融合処理の前に基板に対して行っておくべき処理に適合するように、適宜選択することができる。
【0064】
例えば、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度T2よりも高い温度で、アニール処理など、基板の加熱処理を行う必要がある場合、第1の置換分子または中間工程で導入する置換分子として、この分子で被覆された金属微粒子の融合温度T1がT2よりも高い分子を用い、この分子で金属微粒子が被覆されている段階で上記の基板の加熱処理を行えばよい。この際、加熱処理温度がT1よりも低ければ、この処理工程の間に金属微粒子同士の融合が起こってしまうことはない。具体的には、第1の置換分子または中間工程で導入する置換分子として、分子量が大きく、蒸気圧の低い分子を用い、最後の置換分子として、分子量が小さく、蒸気圧の高い分子を用いればよい。このように、金属微粒子の融合処理の前に基板を高温下におく必要がある場合、金属微粒子層の耐熱性を一時的に向上させることができる。
【0065】
また、融合温度の制御だけでなく、金属微粒子層の他の性質を制御する目的で置換分子による置換を行うことが可能である。例えば、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層が別の部材の作製工程によってダメージを受けることがある場合、第1の置換分子または中間工程で導入する置換分子を適切に選択して、この分子で被覆された金属微粒子層を耐ダメージ特性の高い層とし、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層を耐ダメージ特性の高い層に変換してから、上記別部材の作製工程を行うことによって、この工程によるダメージの発生を防止することができる。
【0066】
例えば、液相における化学的還元法で金属微粒子2を合成する際、保護膜分子3は金属微粒子2を溶媒に均一に分散させたり、金属微粒子2の大きさを制御したりする上で重要な役割を果たす。従って、保護膜分子3は自由に選択できるわけではなく、これらの役割を最もよくはたすように選択した保護膜分子3が、基板1で行われる種々の処理に対して必ずしも必要な特性を有しているとは限らない。実施形態2の方法をとることによって、保護膜分子3および置換分子6として、それぞれ最適の分子を選択して用いることが可能になる。
【0067】
なお、上記の複数回の置換を順次行うためには、金属微粒子に結合する強さが、後に結合するものほど強く、
保護膜分子<第1の置換分子<中間の置換分子<最後の置換分子
の順であるのがよい。
【0068】
金属微粒子2と、第1の置換分子および最後の置換分子、並びに必要に応じて中間工程で導入する置換分子が有すべき官能基との組合せは、実施の形態1に示した通りである。この際、各種置換分子がそれぞれ有する官能基は、金属微粒子に結合する強さが
第1の置換分子<中間の置換分子<最後の置換分子
の順となる組合せであるのがよい。
【0069】
実施の形態1で説明したように、保護膜分子としては、ポリビニルピロリドン(PVP)などの高分子や界面活性剤のように、金属微粒子に物理吸着される分子を用いるのがよい。あるいは、保護膜分子が第1の置換分子とは異なる官能基を有し、金属微粒子に結合する強さが
保護膜分子<第1の置換分子
である条件を満たすのであれば、保護膜分子が実施の形態1に示した官能基を有し、金属微粒子に化学吸着される分子であるのでもよい。
【0070】
実施の形態3
実施の形態3では、主として、請求項12〜15に記載した電子デバイスの製造方法の例として、所定の領域に前記導電体として導電体層を形成し、所定の領域以外の領域に前記機能性部材として有機物層を配置する電子デバイスの製造方法について説明する。導電体層は、例えば電極や導電路(配線)であり、有機物層は絶縁層や誘電体層や半導体層である。
【0071】
図6は、実施の形態3に基づく電子デバイスの作製工程を示すフロー図であり、図7および図8は、この作製工程を具体的に示す断面図およびその部分拡大図である。図6中に符号(a)〜(f)で示す工程は、図7および図8に示す工程(a)〜(f)に対応している。
【0072】
まず、実施の形態1と同様、図7(a)に示すように、前記基体として基板1を用意する。基板1は特に限定されるものではないが、例えば、石英基板や、ガラス基板や、ポリイミド、ポリカーボネート、およびポリエチレンテレフタラート(PET)などからなるプラスチック基板等の絶縁性基板が好適である。プラスチック基板を用いると、フレキシブルな形状の電子デバイスを作製できる。また、基板全体が絶縁体である必要はなく、表面が絶縁性であればよい。例えば、半導体素子が形成されたシリコン基板の表面に、酸化シリコンなどの絶縁層が形成されたものであってもよい。
【0073】
他方、実施の形態1と同様、表面が保護膜分子3で被覆された金属微粒子2を、適当な溶媒に分散させた分散液11を用意する。金属微粒子2は、金のナノ粒子などで、その直径は50nm程度以下である。溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、保護膜分子3の種類に応じてトルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、エタノール、水などを適宜用いる。
【0074】
次に、分散液11を基板1の所定の領域31に配置した後、溶媒を蒸発させて、図7(b)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32を形成する。分散液11を配置する方法は、所定の領域31に分散液11を配置できる方法であればよく、特に限定されないが、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、およびグラビア印刷法などの印刷法が簡便でよい。
【0075】
図7(a)および図7(b)に示す工程では、金属微粒子2の表面は保護膜分子3で覆われており、金属微粒子2同士の融合や凝集は長期にわたって起こらない。また、保護膜分子3で覆われた金属微粒子2は安定であるため、これらの段階で基板1全体を加熱しても、金属微粒子2同士が融合することはない。
【0076】
次に、図7(c)に示すように、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32を形成した基板1を、第1の置換分子33を含む溶液またはガスに接触させる。この工程で保護膜分子3を第1の置換分子33で置換し、層32を、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34に変換する。第1の置換分子33としては、保護膜分子3を容易に置換して、金属微粒子2に結合できるように、金属微粒子2への結合力が保護膜分子3に比べて強い分子を用いる。さらに、次に述べる有機物層の形成に備えて、金属微粒子2と結合する端部とは反対側の端部が疎水性である分子を用いる。この結果、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34の表面の性質は、疎水性になる。なお、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の表面の性質は、主として、金属微粒子2と結合する端部とは反対側の、第1の置換分子33の端部の性質によって決まるので、第1の置換分子33全体が疎水性である必要は必ずしもない。
【0077】
次に、図8(d)に示すように、機能性材料である有機物を極性の大きな溶媒に溶かした溶液に、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34を所定の領域31に形成した基板1を接触させる。このとき、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34の表面は疎水性であるため、層34がこの有機物の溶液で濡れることはない。この結果、金属微粒子の層34が形成されている領域以外の領域に有機物溶液の層が付着する。この後、有機物溶液の層から溶媒を蒸発させ、所定の領域31以外の領域に機能性部材として有機物層40を形成する。基板1に有機物溶液を付着させる方法は特に限定されないが、キャストコーター法、スプレーコーター法、スピンコート法などのコーティング法、あるいはインクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法などの印刷法、あるいはスタンプ法、あるいはラングミュアーブロジェット(LB)法、あるいはリフトオフ法、あるいは浸漬法、あるいはキャスティング法などを適宜用いる。
【0078】
次に、図8(e)に示すように、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34および有機物層40を形成した基板1を、最後の置換分子35を含む溶液またはガスに接触させ、第1の置換分子33を最後の置換分子35で置換し、層34を、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層36に変換する。最後の置換分子35としては、第1の置換分子33を容易に置換して、金属微粒子2に結合できるように、金属微粒子2への結合力が第1の置換分子33に比べて強い分子を用いる。さらに、次に述べる導電体層の形成に備えて、導電体層の形成の際に金属微粒子2からすみやかに脱着して、金属微粒子2同士の融合を妨げることがないように、分子量が小さく、蒸気圧の大きい分子を用いるのがよい。
【0079】
次に、最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層36を形成した基板1を加熱する。この工程で最後の置換分子33を微粒子2から脱着させ、金属微粒子2同士を融合させ、図8(f)に示すように、基板1上の所定の領域に導電体層37を形成する。
【0080】
図6〜8には、第1の置換分子と最後の置換分子とによって2回の置換を行う例を示したが、必要に応じて、2回の置換工程の間に中間の置換工程を行ってもよい。また、第1の置換分子によって最後の置換分子の役割も果たせるのであれば、第1の置換分子による置換を1回だけ行うようにしてもよい。
【0081】
ここで、上記有機物を抵抗体材料又は誘電体材料とすれば、電子デバイスとして抵抗又はコンデンサなどの受動素子を形成することができる。また、上記有機物を半導体材料とすれば、電子デバイスとして絶縁ゲート型電界効果トランジスタや、物質を検知したり、識別したりする物質センサを形成することができる。また、上記有機物を絶縁材料とすれば、素子間分離壁を形成することができる。
【0082】
本実施の形態に基づく電子デバイスの製造方法では、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32をパターニングして形成した後に、保護膜分子3を第1の置換分子33で置換して、層32を置換分子で被覆された金属微粒子の層34に変換する。従って、置換後は、基板1に対して行うすべての処理において、処理が保護膜分子3によって制約されることがない。例えば、最後の置換分子35として、分子量が小さく、蒸気圧の大きい分子を用いることによって、有機物層40に損傷を与える可能性の小さい、比較的低い温度で金属微粒子同士を融合させることができる。
【0083】
この際、印刷法を適用することによって、保護膜分子で被覆された金属微粒子の層32を簡易にパターニングして形成することができるので、生産性よく、低コストで電極や配線を形成することができる。
【0084】
さらに、第1の置換分子33として、金属微粒子2と結合する端部とは反対側の端部が疎水性である分子を用いることにより、第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34の表面の性質を疎水性とすることができる。これと、極性の大きな溶媒に有機物を溶かした溶液とを組み合わせることにより、既に形成されている第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層34を一種のマスクとして用いて、この層が形成されている領域31以外の領域に有機物層40を形成することができる。この例のように、第1の置換分子33を適切に選択することによって微粒子層表面の濡れ性と他の領域の濡れ性とに大きな相違を生じさせ、濡れ性の違いを利用して、その上に形成する層のパターニングを行うことができる。
【0085】
同様に、電荷をもった置換分子を金属微粒子に結合させることで、静電的な反発によって金属微粒子層の表面に有機物層が形成されないようにしたり、分子の特異的な吸着を妨げるのに有効なポリエチレングリコール(PEG)鎖を有する置換分子を金属微粒子に結合させたりすることで、保護層を形成せずに金属微粒子層の表面を保護することが可能である。
【0086】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の導電体の製造方法および電子デバイスの製造方法は、電極や配線を有する電子デバイスに応用可能で、デバイスの生産性の向上や低コスト化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。
【図2】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【図3】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【図4】同、保護膜分子で被覆された金属微粒子、および置換分子で被覆された金属微粒子を加熱処理した場合の、加熱処理温度と質量の変化との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態2に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態3に基づく導電体層の作製工程を示すフロー図である。
【図7】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【図8】同、導電体層の作製工程を示す断面図およびその部分拡大図である。
【符号の説明】
【0089】
1…基板、2…金属微粒子(金のナノ粒子など)、3…保護膜分子、
4…表面が保護膜分子で被覆された金属微粒子、
5…保護膜分子で被覆された金属微粒子の層、
6…置換分子、7…置換分子で被覆された金属微粒子の層、8…導電体層
11…表面が保護膜分子で被覆された金属微粒子を溶媒に分散させた分散液、
31…所定の領域、32…保護膜分子で被覆された金属微粒子の層、
33…第1の置換分子、34…第1の置換分子で被覆された金属微粒子の層、
35…最後の置換分子、36…最後の置換分子で被覆された金属微粒子の層、
37…導電体層、40…有機物の層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、導電体を形成する工程と
を有する、導電体の製造方法。
【請求項2】
前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いる、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項3】
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行う、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項4】
前記基体の所定の領域に前記分散液を配置し、前記所定の領域に前記導電体を形成する、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜分子を前記置換分子で置換する工程において、
まず、前記保護膜分子を第1の置換分子で置換する工程を行い、
次に、前記金属微粒子に結合している置換分子を別の置換分子で置換するする工程を 1回以上行い、前記金属微粒子に最後の置換分子を結合させる
、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項6】
前記最後の置換分子以外の、前記第1の置換分子又は必要に応じて中間工程で導入する置換分子として、この分子で被覆された金属微粒子の融合温度T1が、前記最後の置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度T2よりも高い分子を用い、この分子で前記金属微粒子が被覆されている状態において、T2よりも高く、且つ、T1よりも低い温度で前記基体を加熱処理する、請求項5に記載した導電体の製造方法。
【請求項7】
前記金属微粒子として、粒径がナノサイズである金属微粒子を用いる、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項8】
前記金属微粒子として、金Au、銀Ag、白金Pt、パラジウムPd、銅Cu、鉄Fe、ニッケルNi、ロジウムRh、又はこれらの合金からなる金属微粒子を用いる、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項9】
前記保護膜分子として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、及びポリアニリン、或いは、アミノ基−NH2、カルボキシル基−COOH、スルホ基−SO3H、又はホスホノ基−PO(OH)2を有する界面活性剤分子を用いる、請求項8に記載した導電体の製造方法。
【請求項10】
前記置換分子として、スルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テルリル基−TeH、又はホスフィノ基−PR1R2(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子を用いる、請求項8に記載した導電体の製造方法。
【請求項11】
前記微粒子層を、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法によって形成する、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項12】
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上の所定の領域に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、前記所定の領域に導電体を形成する工程と、
前記基体上の前記所定の領域以外の領域に機能性部材を配置する工程と
を有する、電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いる、請求項12に記載した電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行う、請求項12に記載した電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記置換分子として、前記金属微粒子と結合する端部とは反対側の端部が疎水性であ る分子を用い、
機能性材料である有機物を極性の大きい溶媒に溶解させた溶液に、前記所定の領域に 前記置換分子被覆微粒子層を形成した前記基体を接触させ、前記所定の領域以外の領域 に前記溶液の層を付着させた後、
前記溶液の層から前記極性の大きい溶媒を蒸発させ、前記所定の領域以外の領域に前 記機能性部材として前記有機物の層を形成する
、請求項12に記載した電子デバイスの製造方法。
【請求項1】
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、導電体を形成する工程と
を有する、導電体の製造方法。
【請求項2】
前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いる、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項3】
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行う、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項4】
前記基体の所定の領域に前記分散液を配置し、前記所定の領域に前記導電体を形成する、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜分子を前記置換分子で置換する工程において、
まず、前記保護膜分子を第1の置換分子で置換する工程を行い、
次に、前記金属微粒子に結合している置換分子を別の置換分子で置換するする工程を 1回以上行い、前記金属微粒子に最後の置換分子を結合させる
、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項6】
前記最後の置換分子以外の、前記第1の置換分子又は必要に応じて中間工程で導入する置換分子として、この分子で被覆された金属微粒子の融合温度T1が、前記最後の置換分子で被覆された金属微粒子の融合温度T2よりも高い分子を用い、この分子で前記金属微粒子が被覆されている状態において、T2よりも高く、且つ、T1よりも低い温度で前記基体を加熱処理する、請求項5に記載した導電体の製造方法。
【請求項7】
前記金属微粒子として、粒径がナノサイズである金属微粒子を用いる、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項8】
前記金属微粒子として、金Au、銀Ag、白金Pt、パラジウムPd、銅Cu、鉄Fe、ニッケルNi、ロジウムRh、又はこれらの合金からなる金属微粒子を用いる、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項9】
前記保護膜分子として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、及びポリアニリン、或いは、アミノ基−NH2、カルボキシル基−COOH、スルホ基−SO3H、又はホスホノ基−PO(OH)2を有する界面活性剤分子を用いる、請求項8に記載した導電体の製造方法。
【請求項10】
前記置換分子として、スルファニル基−SH、ジスルファニル基−S−S−、イソシアノ基−NC、チオシアナト基−SCN、カルボキシル基−COOH、アミノ基−NH2 、シアノ基−CN、セラニル基−SeH、テルリル基−TeH、又はホスフィノ基−PR1R2(R1およびR2はHまたは有機基)を有する分子を用いる、請求項8に記載した導電体の製造方法。
【請求項11】
前記微粒子層を、塗布法、印刷法、ラングミュア−ブロジェット法、スタンプ法、キャスティング法、リフトオフ法、又は浸漬法によって形成する、請求項1に記載した導電体の製造方法。
【請求項12】
保護膜分子で被覆された金属微粒子が溶媒に分散している分散液を作製する工程と、
前記分散液を用いて、前記保護膜分子で被覆された金属微粒子からなる保護膜分子被 覆微粒子層を、基体上の所定の領域に形成する工程と、
前記保護膜分子被覆微粒子層中の前記保護膜分子を置換分子で置換して、この層を前 記置換分子で被覆された金属微粒子からなる置換分子被覆微粒子層に変換する工程と、
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して、前記置換分子を除去するとともに、前記 金属微粒子同士を融合させ、前記所定の領域に導電体を形成する工程と、
前記基体上の前記所定の領域以外の領域に機能性部材を配置する工程と
を有する、電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記置換分子として、前記金属微粒子への結合力が前記保護膜分子に比べて強く、且つ蒸気圧の大きい分子を用いる、請求項12に記載した電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記置換分子被覆微粒子層を加熱処理して前記導電体を形成する工程を、50〜200℃の温度で行う、請求項12に記載した電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記置換分子として、前記金属微粒子と結合する端部とは反対側の端部が疎水性であ る分子を用い、
機能性材料である有機物を極性の大きい溶媒に溶解させた溶液に、前記所定の領域に 前記置換分子被覆微粒子層を形成した前記基体を接触させ、前記所定の領域以外の領域 に前記溶液の層を付着させた後、
前記溶液の層から前記極性の大きい溶媒を蒸発させ、前記所定の領域以外の領域に前 記機能性部材として前記有機物の層を形成する
、請求項12に記載した電子デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−135108(P2010−135108A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307601(P2008−307601)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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