説明

平面導波路素子

【課題】出力側でのクロストークを低減し、分光された光がそれぞれ単一波長の光として、固有の出力側端面から出力することができる平面導波路素子を提供する。
【解決手段】それぞれの光導波路アレイにおける光導波路5,6においては、光導波路5,6の並ぶ方向において一方向に向かって、等価屈折率分布に勾配が形成されている。第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイの連結部は、光が第1光導波路アレイから第2光導波路アレイに伝搬する際に、mを整数として、この光が起こす光学的ブロッホ振動の位相が(2m−1)×π変化するように形成されている。それぞれの光導波路アレイの光導波路の長さの平均値は、それぞれの光導波路アレイを伝搬する光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、光導波路5,6を伝搬する長さに略一致している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面導波路素子に関し、特に、光学的ブロッホ振動を利用して、波長多重化された光を分光し、分光された光のそれぞれを所望の出力側端面から出力する平面導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
波長多重(Wavelength Division Multiplexing:以下、「WDM」と称す。)光通信においては、波長1.55μm帯または波長1.3μm帯などの波長が異なる複数の光を多重化した信号光(以下、波長多重光と称す。)が1本の光ファイバにより伝送される。このWDM光通信により、大容量かつ高速の光通信が実現される。
【0003】
WDM光は、最終的に、波長ごとに指定されたポートから出力される。このため、出力する前に、WDM光を分光する分光器が必要となる。分光器としては、光学的ブロッホ振動(Optical Bloch Oscillations:以下、「OBO」と称す。)を利用した平面導波路素子(以下、「OBO平面導波路素子」と称す。)が、非特許文献1〜3において提案されている。
【0004】
以下、従来技術の一例として、非特許文献2に記載されたOBO平面導波路素子について説明する。図22は、非特許文献2において開示されたOBO平面導波路素子を模式的に示す斜視図である。図22に示すように、従来のOBO平面導波路素子100は、SiO2(二酸化珪素)およびガラスからなる基板101と、基板101上に並べて配置され、高分子材料からなり、光が伝搬する複数の光導波路102(光導波路アレイ)と、伝搬する光が光導波路102から漏れ出すことを防止する高分子クラッド層103とを備えている。複数の光導波路102の一方端には、光が入射する入力側端面104が設けられ、入力側端面104とは反対側の他方端には、光が出射する出力側端面105が設けられている。さらに、従来のOBO平面導波路素子100は、光導波路102が並べられる方向における基板101の一方端に配置されたヒータ106と、ヒータ106とは反対側の他方端に配置されたヒートシンク107とを備えている。ヒータ106およびヒートシンク107により、基板101の温度分布(温度勾配)を制御することが可能となっている。
【0005】
ここで、図22において、点線の矢印は、OBO平面導波路素子100における複数の光導波路102中をX軸方向に振動しながら伝搬する光の道筋108を示している。なお、図22においては、複数の光導波路102が並ぶ方向をX軸方向、各光導波路102の延在方向をY軸方向、X軸方向およびY軸方向に垂直な方向をZ軸方向とする。
【0006】
次に、OBO平面導波路素子100の製造方法について説明する。まず、光導波路102となる高分子材料を基板101上に堆積させる。その高分子材料上にレジストを塗布してレジスト膜を形成した後、電子線描画またはフォトリソグラフィによって、レジスト膜に光導波路102のパターンを形成する。このパターンが形成されたレジスト膜をマスクとして、前述の高分子材料をエッチングする。これにより、基板101上に光導波路102が形成される。その後、基板101上に、基板101における光導波路102が形成された面および光導波路102を覆うように、高分子クラッド層103を堆積させる。次に、基板101のX軸方向における一方の側端部にヒータ106を装着する。さらに、基板101のX軸方向における他方の側端部にヒートシンク107を装着する。以上の工程により、OBO平面導波路素子100を製造することができる。なお、非特許文献2には、光導波路102の端部の加工などに関する記載はない。
【0007】
次に、OBO平面導波路素子100の動作について説明する。OBO平面導波路素子100においては、ヒータ106およびヒートシンク107のはたらきにより、基板101のX軸方向における単位長さあたりの温度差を制御することができる。そして、この温度差に応じて光導波路102のX軸方向における単位長さあたりの等価屈折率の差が変化する。この屈折率の差に起因してOBOが発現し、OBO平面導波路素子100を可変分光器として利用することができる。
【0008】
一般に、高分子材料からなる光導波路102を有するOBO平面導波路素子100においては、基板101が高温である位置における光導波路102の屈折率は、基板101が低温である位置における光導波路102の屈折率よりも高くなる。
【0009】
OBO平面導波路素子100の使用時には、ヒータ106およびヒートシンク107の機能によって、基板101のX軸方向の温度分布に勾配(単位長さあたりの温度差)が形成される。そして、光の強度ピークが所定の1つの入力側端面104に位置するように、異なる波長を有するWDM光がOBO平面導波路素子100中へ入力される。このとき、WDM光に含まれるそれぞれの光は、伝搬する光導波路102から漏れ出し、その光導波路102と隣接する光導波路102に結合する。その結果、WDM光は、Y軸方向へ伝搬しながら、X軸方向においてOBOを起こす。
【0010】
一般に、光の波長が長くなるにつれて、OBOの振幅が大きくなる。つまり、OBOの性質によれば、光の波長毎にOBOの振幅が異なる。また、OBOは、光導波路102のX軸方向の単位長さあたりの等価屈折率の差、すなわち光導波路102のX軸方向の等価屈折率の分布の勾配が大きくなるにつれて、その振幅が小さくなる性質を有する。
【0011】
そのため、OBO平面導波路素子100内に入力されたWDM光は、OBO平面導波路素子100内を伝搬する道筋108が異なっている。つまり、WDM光はOBO平面導波路素子10内で分光されることになる。また、分光された光それぞれは、単一波長の光として、固有の出力側端面105から出力される。
【0012】
また、ヒータ106およびヒートシンク107を用いて、基板101のX軸方向の温度分布の勾配を調整することで、光導波路102のX軸方向における等価屈折率分布の勾配が制御される。この等価屈折率分布の勾配の制御により、分光された光のOBOの振幅を調整して、個々の光の出力側端面105を自在に指定することができる。以上のように、OBO平面導波路素子100は可変分光器として利用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】R.Morandotti, U.Peschel, and J.S.Aitchison, ”Experimental Observation of Linear and Nonlinear Optical Bloch Oscillations”, Physical Review Letters, Vol.83, No.23, 4756-4759 (1999).
【非特許文献2】T.Pertsch, P.Dannberg, W.Elflein, and A.Brauer, “Optical Bloch Oscillations in Temperature Tuned Waveguide Arrays”, Physical Review letters, Vol.83, No.23, 4752-4755 (1999).
【非特許文献3】U.Peschel, T.Pertsch, and F.Lederer “Optical Bloch oscillations in waveguide arrays”, Optics Letters, Vol.23, No.21, 1701-1703 (1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
WDM光通信において通信速度を速めるために、波長1.55μm帯または波長1.3μm帯などの限られた波長帯域内において、波長が異なるより多くの光を多重化する方策が採用され得る。ここで、多重化された光の全帯域幅は一定であるため、上記方策を実施するためには、多重化された光の波長間隔を短くする必要がある。そうすると、非特許文献2に記載されたOBO平面導波路素子100の構成においては、OBOの性質により、WDM光に含まれるそれぞれの光のOBOの振幅の差が小さくなる。
【0015】
その結果、OBO平面導波路素子100内を伝搬する複数の光の道筋108において、OBOの振動方向(図22のX軸方向)の間隔が狭くなる。そして、多重化された光のOBOの振幅の差が光導波路102の中心間距離より短くなると、複数の光が同じ出力側端面105から出力される。この場合、分光された光それぞれが、単一波長の光として固有の出力側端面105から出力されず、OBO平面導波路素子100の出力側においてクロストークが生じ、分光器として十分機能しない。
【0016】
本発明は上記の問題点に鑑みなされたものであって、平面導波路素子中に入力されるWDM光に含まれる光同士の波長間隔が狭くなっても、出力側でのクロストークを低減し、分光された光がそれぞれ単一波長の光として、固有の出力側端面から出力することができる平面導波路素子を提供することを目的とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に基づく平面導波路素子は、基板と、基板上に積層されたクラッド層と、クラッド層上に積層され、クラッド層より高い屈折率を有するガイド層とを備えている。ガイド層の上部には、略平行に並ぶように直線状に延在する複数の光導波路を含む光導波路アレイが、光の伝搬方向に連続して複数形成されている。それぞれの光導波路アレイは、光が入射する入射側端面を有する光導波路を少なくとも1つ含む。それぞれの光導波路アレイは、光が出射する出射側端面を有する光導波路を少なくとも2つ含む。それぞれの光導波路アレイにおける光導波路においては、光導波路の並ぶ方向において一方向に向かって、等価屈折率分布に勾配が形成されている。互いに隣接して形成された光導波路アレイにおいては、それぞれが含む入射側端面を有する光導波路と出射側端面を有する光導波路とが互いに所定の角度を有して連結され、光の入射側に形成された第1光導波路アレイの第1光導波路の出射側端面と、光の出射側に形成された第2光導波路アレイの第2光導波路の入射側端面とが接続されている。第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイの連結部は、光が第1光導波路アレイから第2光導波路アレイに伝搬する際に、mを整数として、この光が起こす光学的ブロッホ振動の位相が(2m−1)×π変化するように形成されている。それぞれの光導波路アレイの光導波路の長さの平均値は、それぞれの光導波路アレイを伝搬する光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、光導波路を伝搬する長さに略一致している。
【0018】
上記の平面導波路素子によれば、第1光導波路の長さが、第1光導波路に入射する光の光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に伝搬する長さにほぼ等しいため、第1光導波路を伝搬し終えた際に最も分光された後、第2光導波路に入射する。光がこの第2光導波路に入射する際に、光の光学的ブロッホ振動の位相が半波長の奇数倍変化することにより、光は第2光導波路に入射した後、さらに分光される。第2光導波路の長さが、第2光導波路に入射する光の光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に伝搬する長さにほぼ等しいため、第2光導波路を伝搬し終えた際に最も分光される。よって、波長多重光を上記の平面導波路素子に入射させることにより、出力側におけるクロストークを低減し、固有の出力側端面からそれぞれ単一波長の光を出力することができる。
【0019】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイにおいて、基板の上面において光導波路が延在する方向に直交する方向に、光導波路アレイにおける光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、光導波路が延在する方向に、入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、第1光導波路アレイにおけるY軸であるY1軸と第2光導波路アレイにおけるY軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、第2光導波路同士の間のピッチをP2、第2光導波路の等価屈折率をn、光の平均波長をλとすると、P2×tanθ2=(2m−1)×λ/(2×n)の関係を満たす。最も入射側に形成された第1光導波路アレイにおいては、第1光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の入射側端面とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸におけるX軸であるX1軸上に位置し、また、第1光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の出射側端面とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置する。第2光導波路アレイにおいては、一の第2光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の出射側端面との交点の第2光導波路アレイの座標軸におけるY2座標が、この一の第2光導波路の低屈折率側に隣接する他の第2光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の出射側端面との交点の第2光導波路アレイの座標軸におけるY2座標から−P2×tanθ2変化した座標となり、また、第2光導波路の延在方向に延びる直線と第2光導波路の出射側端面とのすべての交点が、第2光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY2座標に位置している。
【0020】
上記の平面導波路素子によれば、光が第1光導波路の出射側端面から第2光導波路の入射側端面に伝搬する際に、光の光学的ブロッホ振動の位相を半波長の奇数倍変化させることができる。
【0021】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイにおいて、基板の上面において光導波路が延在する方向に直交する方向に、光導波路アレイにおける光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、光導波路が延在する方向に、入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、第1光導波路アレイにおけるY軸であるY1軸と第2光導波路アレイにおけるY軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、第1光導波路同士の間のピッチをP1、第2光導波路同士の間のピッチをP2とすると、P2=P1×cos|θ2|の関係を満たす。
【0022】
上記の平面導波路素子によれば、第1光導波路アレイにおける第1光導波路の等価屈折率分布の形状と、第2光導波路アレイにおける第2光導波路の等価屈折率分布の形状とが似るため、第1光導波路から第2光導波路に光が伝搬する際に、光の強度分布が大きく変化することがなく、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0023】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイにおいて、基板の上面において光導波路が延在する方向に直交する方向に、光導波路アレイにおける光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、光導波路が延在する方向に、入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、第1光導波路アレイにおけるY軸であるY1軸と第2光導波路アレイにおけるY軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、第1光導波路同士の間のピッチをP1、第2光導波路の等価屈折率をn、光の平均波長をλとすると、P1×tanθ2=(2m−1)×λ/(2×n)の関係を満たす。第1光導波路アレイにおいては、第1光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の入射側端面とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸におけるX軸であるX1軸上に位置し、また、第1光導波路アレイの一の第1光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の出射側端面との交点の第1光導波路アレイの座標軸におけるY1座標が、この一の第1光導波路の低屈折率側に隣接する他の第1光導波路の延在方向に延びる直線と第1光導波路の出射側端面との交点の第1光導波路アレイの座標軸におけるY1座標からP1×tanθ2変化した座標となる。第2光導波路アレイにおいては、第2光導波路の延在方向に延びる直線と第2光導波路の入射側端面とのすべての交点が、第2光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY2座標に位置している。
【0024】
上記の平面導波路素子によれば、光が第1光導波路の出射側端面から第2光導波路の入射側端面に伝搬する際に、光の光学的ブロッホ振動の位相を半波長の奇数倍変化させることができる。
【0025】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイにおいて、基板の上面において光導波路が延在する方向に直交する方向に、光導波路アレイにおける光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、光導波路が延在する方向に、入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、第1光導波路アレイにおけるY軸であるY1軸と第2光導波路アレイにおけるY軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、第1光導波路同士の間のピッチをP1、第2光導波路同士の間のピッチをP2とすると、第2光導波路は、P2=P1/cos|θ2|の関係を満たす。
【0026】
上記の平面導波路素子によれば、第1光導波路アレイにおける第1光導波路の等価屈折率分布の形状と、第2光導波路アレイにおける第2光導波路の等価屈折率分布の形状とが似るため、第1光導波路から第2光導波路に光が伝搬する際に、光の強度分布が大きく変化することがなく、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0027】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイにおいて、光導波路が並ぶ方向において一方向に向かって、光導波路の幅が広くなる。
【0028】
上記の平面導波路素子によれば、それぞれの光導波路アレイにおいて、光導波路が並ぶ方向に一方向に向かって、等価屈折率分布に勾配が形成される。
【0029】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイおいて、光導波路の幅をW、光導波路同士の間のピッチをPとすると、入射側端面において、W/P≧0.55である。
【0030】
上記の平面導波路素子によれば、結合定数の大きい光導波路において光学的ブロッホ振動が発現され、また、光導波路の結合定数が大きいことにより光導波路を伝搬する光の波長の違いによる光学的ブロッホ振動の振幅の変化量が大きくなる。よって、平面導波路素子の出力端面におけるクロストークを低減することができる。
【0031】
好ましくは、光導波路が並ぶ方向における基板の一方の側面にヒータ、および、他方の側面にヒートシンクが形成されている。
【0032】
上記の平面導波路素子によれば、それぞれの光導波路アレイにおいて、光導波路が並ぶ方向に一方向に向かって、等価屈折率分布に勾配が形成される。
【0033】
好ましくは、それぞれの光導波路アレイおいて、光導波路の幅をW、光導波路同士の間のピッチをPとすると、幅WおよびピッチPのそれぞれが、W/P≧0.55を満たしほぼ一定の値となる。
【0034】
上記の平面導波路素子によれば、結合定数の大きい光導波路において光学的ブロッホ振動が発現され、また、光導波路の結合定数が大きいことにより光導波路を伝搬する光の波長の違いによる光学的ブロッホ振動の振幅の変化量が大きくなる。よって、平面導波路素子の出力端面におけるクロストークを低減することができる。
【0035】
好ましくは、最も出射側に形成された第2光導波路アレイにおいて、第2光導波路の延在方向に延びる直線と第2光導波路の出射側端面とのすべての交点が、最も入射側に形成された第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置している。
【0036】
上記の平面導波路素子によれば、基板劈開により平面導波路素子の入力端面および出力端面を容易に製作することができる。
【0037】
好ましくは、最も出射側に形成された第2光導波路の出射側端面における光の光学的ブロッホ振動の位相をY、sを整数とすると、(2s−5/4)π≦Y≦(2s−3/4)πである。
【0038】
上記の平面導波路素子によれば、平面導波路素子の出力端面におけるクロストークを低減することができる。
【0039】
好ましくは、θ2が、−20°≦θ2≦20°である。
上記の平面導波路素子によれば、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0040】
好ましくは、第1光導波路の仮想の中心線と、この第1光導波路に対応する第2光導波路の仮想の中心線との交点が、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの界面上に位置する。
【0041】
上記の平面導波路素子によれば、第1光導波路のすべての出射側端面と第2光導波路のすべての入射側端面とが必ず接するため、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0042】
好ましくは、第1光導波路の出射側端面における第1光導波路の幅をL1、この第1光導波路に接続される第2光導波路の入射側端面における第2光導波路の幅をL2とすると、L1≦L2である。
【0043】
上記の平面導波路素子によれば、第1光導波路の出射側端面の全面が第2光導波路の入射側端面と接するため、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0044】
好ましくは、光導波路アレイが半導体材料から形成され、光導波路同士の間のピッチが2.0μm以下、および、光導波路の高さが0.05μm以下である。
【0045】
上記の平面導波路素子によれば、結合定数の大きい光導波路において光学的ブロッホ振動が発現され、また、光導波路の結合定数が大きいことにより光導波路を伝搬する光の波長の違いによる光学的ブロッホ振動の振幅の変化量が大きくなる。よって、平面導波路素子の出力端面におけるクロストークを低減することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、第1光導波路の長さが、第1光導波路に入射する光の光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に伝搬する長さにほぼ等しいため、第1光導波路を伝搬し終えた際に最も分光された後、第2光導波路に入射する。光がこの第2光導波路に入射する際に、光の光学的ブロッホ振動の位相が半波長の奇数倍変化することにより、光は第2光導波路に入射した後、さらに分光される。第2光導波路の長さが、第2光導波路に入射する光の光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に伝搬する長さにほぼ等しいため、第2光導波路を伝搬し終えた際に最も分光される。よって、波長多重光を上記の平面導波路素子に入射させることにより、出力側におけるクロストークを低減し、固有の出力側端面からそれぞれ単一波長の光を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態1に係るOBO平面導波路素子を模式的に示す平面図である。
【図2】図1のII−II線矢印方向から見た断面図である。
【図3】同実施形態に係るOBO平面導波路素子における第1光導波路アレイを模式的に示す平面図である。
【図4】同実施形態に係るOBO平面導波路素子における第2光導波路アレイを模式的に示す平面図である。
【図5】同実施形態における第1光導波路と第2光導波路との接続部を模式的に示す平面図である。
【図6】同実施形態においてガイド層の上面にレジストを塗布した状態を模式的に示す断面図である。
【図7】同実施形態において、レジスト膜をパターニングした状態を模式的に示す断面図である。
【図8】同実施形態において、ガイド層をエッチングして光導波路を形成している状態を模式的に示す断面図である。
【図9】第1光導波路アレイにおいて、X1軸方向における光の伝搬定数κ1と、Y1軸方向における光の伝搬定数β1との関係を示すグラフである。
【図10】第2光導波路アレイにおいて、X2軸方向における光の伝搬定数κ2と、Y2軸方向における光の伝搬定数β2との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施形態2に係るOBO平面導波路素子を模式的に示す平面図である。
【図12】図11のXII−XII線矢印方向から見た断面図である。
【図13】同実施形態に係るOBO平面導波路素子における第1光導波路アレイを模式的に示す平面図である。
【図14】同実施形態に係るOBO平面導波路素子における第2光導波路アレイを模式的に示す平面図である。
【図15】同実施形態における第1光導波路と第2光導波路との接続部を模式的に示す平面図である。
【図16】同実施形態において、レジスト膜をパターニングした状態を模式的に示す断面図である。
【図17】同実施形態において、ガイド層をエッチングして光導波路を形成している状態を模式的に示す断面図である。
【図18】同実施形態において、上部クラッド層を形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図19】同実施形態において、ヒータおよびヒートシンクを形成した状態を模式的に示す断面図である。
【図20】本発明の実施形態3に係るOBO平面導波路素子を模式的に示す平面図である。
【図21】図20のXXI−XXI線矢印方向から見た断面図である。
【図22】非特許文献2において開示されたOBO平面導波路素子を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態1に係るOBO平面導波路素子を詳細に説明する。
【0049】
実施形態1
図1は、本発明の実施形態1に係るOBO平面導波路素子を模式的に示す平面図である。図2は、図1のII−II線矢印方向から見た断面図である。図1,2に示すように、本実施形態に係るOBO平面導波路素子1においては、基板としてSi基板2を用いた。Si基板2上に積層された下部クラッド層として、厚さが1μm程度のSiO2層3を用いた。SiO2層3上に積層され、SiO2層3より高い屈折率を有するガイド層として、厚さが0.27μm程度のSi層4を用いた。ガイド層4の上部においては、0.04μm程度の高さを有する、複数の光導波路5,6が形成されている。
【0050】
複数の光導波路5は、光が入射する入射側端面7および出射する出射側端面8を有している。本実施形態においては、すべての光導波路5が入射側端面7を有しているが、複数の光導波路5のうち、少なくとも1つの光導波路5が、入射側端面7を有していればよい。本実施形態においては、すべての光導波路5が出射側端面8を有しているが、複数の光導波路5のうち、少なくとも2つの光導波路5が、出射側端面8を有していればよい。光導波路5は、略平行に並ぶように直線状に延在している。
【0051】
複数の光導波路6は、光が入射する入射側端面9および出射する出射側端面10を有している。本実施形態においては、すべての光導波路6が入射側端面9を有しているが、複数の光導波路6のうち、少なくとも2つの光導波路6が、入射側端面9を有していればよい。本実施形態においては、すべての光導波路6が出射側端面10を有しているが、複数の光導波路6のうち、少なくとも2つの光導波路6が、出射側端面10を有していればよい。光導波路6は、略平行に並ぶように直線状に延在している。
【0052】
複数の光導波路5を含む光導波路アレイと、複数の光導波路6を含む光導波路アレイとが、光の伝搬方向に連続して形成されている。本実施形態のOBO平面導波路素子1においては、光導波路アレイを2つ備えているが、3つ以上備えるようにしてもよい。それぞれの光導波路アレイにおける光導波路5,6においては、光導波路5,6の並ぶ方向において一方向に向かって、等価屈折率分布に勾配が形成されている。
【0053】
互いに隣接して形成された光導波路アレイにおいては、それぞれが含む光導波路5,6が互いに所定の角度を有して連結されている。光の入射側に形成された第1光導波路アレイの第1光導波路5の出射側端面8と、光の出射側に形成された第2光導波路アレイの第2光導波路6の入射側端面9とが接続されている。
【0054】
本実施形態のOBO平面導波路素子1においては、2つの光導波路を備えているため、最も光の入射側に形成された第1光導波路5の入射側端面7が、OBO平面導波路素子1の入力端面11となる。一方、最も光の出射側に形成された第2光導波路6の出射側端面10が、OBO平面導波路素子1の出力端面12となる。
【0055】
図3は、本実施形態に係るOBO平面導波路素子における第1光導波路アレイを模式的に示す平面図である。図4は、本実施形態に係るOBO平面導波路素子における第2光導波路アレイを模式的に示す平面図である。
【0056】
なお、座標軸は、それぞれの光導波路アレイにおいて、基板の上面において光導波路が延在する方向に直交する方向に、光導波路アレイにおける光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、光導波路が延在する方向に、入射側端面から離れる向きを正とするY軸と、X軸およびY軸のそれぞれに垂直なZ軸とからなる。第1光導波路の座標軸であるX軸、Y軸およびZ軸は、X1軸、Y1軸およびZ1軸とからなる。第2光導波路の座標軸であるX軸、Y軸およびZ軸は、X2軸、Y2軸およびZ2軸とからなる。参照した図中に示す、X1,X2,Y1,Y2,Z1,Z2のそれぞれの矢印は、それぞれの座標軸の方向を示している。
【0057】
図3に示すように、第1光導波路アレイにおける第1光導波路5の等価屈折率分布に勾配を形成するため、第1光導波路5の幅は、+X1軸方向に向かって徐々に広くなっている。言い換えると、第1光導波路アレイにおいて、第1光導波路5が並ぶ方向において一方向に向かって、第1光導波路5の幅が広くなっている。
【0058】
図4に示すように、第2光導波路アレイにおける第2光導波路6の等価屈折率分布に勾配を形成するため、第2光導波路6の幅は、+X2軸方向に向かって徐々に広くなっている。言い換えると、第2光導波路アレイにおいて、第2光導波路6が並ぶ方向において一方向に向かって、第2光導波路6の幅が広くなっている。
【0059】
本実施形態においては、第1光導波路5同士の間のピッチP1は2μmで一定であり、第1光導波路5の幅は0.2μm以上1.7μm以下の範囲で+X1軸方向に向かって広くなっている。第2光導波路6同士の間のピッチP2は1.99μmで一定であり、第2光導波路6の幅は0.3μm以上1.8μm以下の範囲に+X2軸方向に向かって広くなっている。
【0060】
第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイの連結部は、光が第1光導波路アレイから第2光導波路アレイに伝搬する際に、mを整数として、この光が起こす光学的ブロッホ振動の位相が(2m−1)×π変化するように形成されている。具体的には、本実施形態のOBO平面導波路素子1においては、第1光導波路アレイにおけるY1軸と第2光導波路アレイにおけるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、および、第2光導波路6の入射側端面9の形成位置を決定して、第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイを連結している。
【0061】
上記のθ2は、第2光導波路6同士の間のピッチをP2、第2光導波路の等価屈折率をn、光の平均波長をλとすると、P2×tanθ2=(2m−1)×λ/(2×n)・・・式(1)の関係を満たしている。式(1)において、P2が1.99μm、λが1.4μm、nが3.48、mが0のとき、θ2は−5.8°である。このとき、第1光導波路5の出力側端面8から第2光導波路6の入射側端面9に光が伝搬した際に、OBO位相が−π変化する。
【0062】
最も光の入射側に形成された第1光導波路アレイにおいては、第1光導波路5の延在方向に延びる直線と第1光導波路5の入射側端面7とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸におけるX1軸上に位置し、また、第1光導波路5の延在方向に延びる直線と第1光導波路5の出射側端面8とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置している。
【0063】
第1光導波路アレイの第1光導波路5の長さは、第1光導波路アレイを伝搬する光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、第1光導波路5を伝搬する長さに略一致している。本実施形態においては、それぞれの第1光導波路5の長さは一定である。なお、光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、光導波路を伝搬する長さをOBOの1/2周期長と称す。言い換えると、OBOの1/2周期長は、光導波路アレイを伝搬する光が起こすOBO位相がπ変化する間に、Y軸方向において光が伝搬する距離のことをいう。本実施形態においては、第1光導波路5の長さは、1000μmである。
【0064】
図5は、本実施形態における第1光導波路と第2光導波路との接続部を模式的に示す平面図である。図5に示すように、第2光導波路アレイにおいては、一の第2光導波路6の延在方向に延びる直線と第1光導波路5の出射側端面8との交点の第2光導波路アレイの座標軸におけるY2座標が、この一の第2光導波路6の低屈折率側に隣接する他の第2光導波路6の延在方向に延びる直線と第1光導波路5の出射側端面8との交点の第2光導波路アレイの座標軸におけるY2座標から−P2×tanθ2変化した座標となる。
【0065】
なお、図5においては、説明の便宜上、一の第2光導波路6の延在方向に延びる直線と第1光導波路5の出射側端面8との交点のY2座標を0としたときに、その一の第2光導波路6の+X2方向側に隣接する他の第2光導波路6の延在方向に延びる直線と第1光導波路5の出射側端面8との交点のY2座標が−P2×tanθ2となることを示している。
【0066】
また、図1,4に示すように、第2光導波路6の延在方向に延びる直線と第2光導波路6の出射側端面10とのすべての交点が、第2光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY2座標に位置している。
【0067】
したがって、第2光導波路アレイにおいては、第2光導波路6のY2軸方向の長さが、+X2軸方向に向かって、P2×tanθ2ずつ変化する。本実施形態においては、第2光導波路アレイにおける第2光導波路6のY2軸方向の長さは、+X2軸方向に向かって0.202μmずつ短くなる。
【0068】
また、第2光導波路アレイの第2光導波路6の長さの平均値は、第2光導波路アレイを伝搬する光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、第2光導波路6を伝搬する長さに略一致している。本実施形態においては、第2光導波路6の平均長さは1000μmである。
【0069】
図5に示すように、本実施形態においては、第2光導波路アレイにおける第2光導波路6同士の間のピッチP2と、第1光導波路アレイにおける第1光導波路5同士の間のピッチP1とは、P2=P1×cos|θ2|の関係を満たす。
【0070】
このように構成することにより、第1光導波路アレイにおける第1光導波路5の等価屈折率分布の形状と、第2光導波路アレイにおける第2光導波路6の等価屈折率分布の形状とが似るため、第1光導波路5から第2光導波路6に光が伝搬する際に、光の強度分布が大きく変化することがなく、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0071】
また、本実施形態においては、第1光導波路5の仮想の中心線13と、この第1光導波路5に対応する第2光導波路6の仮想の中心線14との交点15が、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの界面16上に位置している。このように構成することにより、第1光導波路5のすべての出射側端面8と第2光導波路6のすべての入射側端面9とが必ず接するため、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0072】
さらに、本実施形態においては、第1光導波路5の出射側端面8における第1光導波路5の幅をL1、この第1光導波路5に接続される第2光導波路6の入射側端面9における第2光導波路6の幅をL2とすると、L1≦L2である。このように構成することにより、第1光導波路5の出射側端面8の全面が第2光導波路6の入射側端面9と接するため、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0073】
以下、本実施形態に係るOBO平面導波路素子1の製造方法について説明する。図6は、本実施形態においてガイド層の上面にレジストを塗布した状態を模式的に示す断面図である。図6に示すように、まず、Si基板2、SiO2層3およびSi層4が順に積層されたSOI基板が準備される。次に、Si層4の上面に、0.3μmの厚さでレジストを塗布することにより、レジスト膜17が形成される。
【0074】
図7は、本実施形態において、レジスト膜をパターニングした状態を模式的に示す断面図である。図7に示すように、電子線直接描画またはフォトリソグラフィによってレジスト膜17を加工することにより、光導波路アレイを形成するためのレジストパターン18が作製される。
【0075】
本実施形態においては、電子線直接描画法を行なう場合には、電子線の照射電流が0.1nAであり、かつ、1ドット当りの電子線のドーズ時間が4.5μsecである。また、フォトリソグラフィ法を行なう場合には、転写時間が10secほどで、レジストパターン18が作製される。
【0076】
図8は、本実施形態において、ガイド層をエッチングして光導波路を形成している状態を模式的に示す断面図である。図8に示すように、レジストパターン18をマスクとして、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング、反応性イオンエッチング、または反応性イオンビームエッチングなどのエッチング方法を用いて、Si層4がエッチングされる。Si層4の上部が0.04μm程度の深さまでをエッチングされることにより、第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイが作製される。
【0077】
本実施形態においては、反応性イオンエッチングを行ない、エッチングガスとして塩素ガス25sccmと窒素ガス10sccmとの混合ガスを用い、エッチング圧力を0.1Pa、かつRF(Radio Frequency)パワーを200Wとした。
【0078】
次に、本実施形態に係るOBO平面導波路素子1の動作について説明する。図3に示すように、第1光導波路アレイの第1光導波路5の幅が、+X1軸方向に向かうに従って徐々に広くなるため、第1光導波路アレイの第1光導波路5の等価屈折率分布に勾配が形成される。
【0079】
そこに、光の強度分布19のピークが所定の入射側端面7に位置するように、波長多重光がOBO平面導波路素子1中に入射される。入射した光は、伝搬する第1光導波路5から漏れ出し、隣接する第1光導波路5に結合する。その結果、波長多重光は+Y1軸方向に伝搬しながら、X1軸方向にOBOを起こす。OBOの振幅は、光の波長が長くなるにつれて大きくなる。そのため、波長多重光のOBO平面導波路素子1内での道筋20は、光の波長によって異なる。その結果、波長多重光は第1光導波路アレイにより分光される。
【0080】
第1光導波路アレイにより分光された複数の光は、図4に示すように、第2光導波路アレイのそれぞれの入射側端面9から第2光導波路6に入射する。第2光導波路6の幅は、+X2方向に向かうに従って徐々に広くなるため、第2光導波路アレイにおける第2光導波路6の等価屈折率分布に勾配が形成される。入射した複数の光はそれぞれ、伝搬する第2光導波路6から漏れ出し、隣接する第2光導波路6に結合する。その結果、Y2軸方向に伝搬しながら、X2軸方向にOBOを起こす。
【0081】
次に、光導波路アレイを複数連結することによる効果を示す。図9は、第1光導波路アレイにおいて、X1軸方向における光の伝搬定数κ1と、Y1軸方向における光の伝搬定数β1との関係を示すグラフである。ここで、X1軸方向における光の群速度v1は、図9に示すグラフの傾きと一致し、v1=−∂β1/∂κ1で表される。なお、図3において、+X1軸方向の向きをv1の正方向とする。
【0082】
図3に示すように、OBO平面導波路素子1の入射側端面7に入射された光は、点aに位置している状態では、κ=0となる。この光の状態は、図9において点Aに対応し、点aに位置している光のv1は0となる。この光は、第1光導波路アレイを伝搬することで、Y1軸方向に伝搬しながらX1軸方向においてOBOを起こす。光は、+X1軸方向にシフトしながら伝搬し、図3に示す点aから出射側端面8の点bに向かう。第1光導波路5の長さは、OBOのほぼ1/2周期長であるため、点bに位置している光の状態は、図9において点Bに対応し、点bに位置している光のOBO位相は、ほぼπとなっている。
【0083】
図10は、第2光導波路アレイにおいて、X2軸方向における光の伝搬定数κ2と、Y2軸方向における光の伝搬定数β2との関係を示すグラフである。ここで、X2軸方向における光の群速度v2は、図10に示すグラフの傾きと一致し、v2=−∂β2/∂κ2で表される。なお、図4において、+X2軸方向の向きをv2の正方向とする。
【0084】
第1光導波路5の出射側端面8から出射された光は、第2光導波路6の入射側端面9に入射する。第1光導波路5の出射側端面8から第2光導波路6の入射側端面9に光が伝搬した際に、OBO位相が−π変化するように角θ2、および、第2光導波路6の入射側端面9の形成位置を決定して、第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイを連結している。その結果、第2光導波路アレイにおけるOBOの初期位相は0となる。したがって、点cに位置している光の状態は、図10に示す点Cに対応し、点cに位置している光のv2は0となる。
【0085】
この光は、第2光導波路6アレイを伝搬することで、Y2軸方向に伝搬しながらX2軸方向においてOBOを起こす。光は、+X2軸方向にシフトしながら伝搬し、図4に示す点cから出射側端面10の点dに向かう。第2光導波路5の平均の長さは、OBOのほぼ1/2周期長であるため、点dに位置している光の状態は、図10の点Dに対応し、点dに位置している光のOBO位相は、ほぼπとなっている。
【0086】
本実施形態においては、λ1の波長を有する光と、λ1より小さい波長であるλ2の波長を有する光を含む波長多重光を第1光導波路5の入射側端面7に入射させた。たとえば、λ1は1550nm、λ2は1300nmである。λ1の波長を有する光およびλ2の波長を有する光は、OBOの位相が0からπへ変化するまで、第1光導波路5を伝搬する。
【0087】
λ1の波長を有する光のOBO振幅がA1である場合、λ1の波長を有する光は、+X1軸方向において、入射側端面7の位置からA1シフトした位置の出力側端面8から出射される。λ2の波長を有する光のOBO振幅がA2である場合、λ2の波長を有する光は、+X1軸方向において、入射側端面7の位置からA2シフトした位置の出力側端面8から出射される。なお、OBOの特性より、A1>A2である。
【0088】
第1光導波路5の出射側端面8から出射したλ1の波長を有する光およびλ2の波長を有する光は、第2光導波路6の入射側端面9に入射するが、図4に示すように、光の波長によって入射する位置が異なる。λ2の波長を有する光の入射位置から+X2軸方向に、(A1−A2)cos(|θ2|)シフトした位置に、λ1の波長を有する光が入射する。
【0089】
上記のように、それぞれ異なる位置の入射側端面9に入射したλ1の波長を有する光およびλ2の波長を有する光は、OBOの位相がほぼ0からπへ変化するまで、第2光導波路6を伝搬する。
【0090】
λ1の波長を有する光のOBO振幅がB1である場合、λ1の波長を有する光は、+X2軸方向において、入射側端面9の位置からB1シフトした位置の出力側端面10から出射される。λ2の波長を有する光のOBO振幅がB2である場合、λ2の波長を有する光は、+X2軸方向において、入射側端面9の位置からB2シフトした位置の出力側端面10から出射される。したがって、X2軸方向において、λ1の波長を有する光とλ2の波長を有する光との入射側端面9の位置が(A1−A2)cos(|θ2|)異なるため、図1に示すように、X2軸方向において、λ1の波長を有する光とλ2の波長を有する光との出射側端面10の位置が(A1−A2)cos(|θ2|)+(B1−B2)異なる。
【0091】
本実施形態のように連結される光導波路アレイを複数設けることにより、OBO平面導波路素子1における光の波長の違いによる道筋20の相違が大きくなる。このため、OBO平面導波路素子1の出力端面12におけるクロストークが低減され、OBO平面導波路素子1で分光された光はそれぞれ、単一波長の光として、出力端面12の固有の出力側端面10から出力される。
【0092】
なお、θ2が、−20°≦θ2≦20°であることが好ましい。このように構成することにより、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0093】
また、それぞれの光導波路アレイおいて、光導波路の幅をW、光導波路同士の間のピッチをPとすると、入射側端面において、W/P≧0.55であることが好ましい。このように構成することにより、結合定数の大きい光導波路において光学的ブロッホ振動が発現されるようになる。数値計算によると光導波路の結合定数が高い領域においてOBO振幅は大きくなり、それに従って光の波長の違いによるOBO振幅の変化量も大きくなる。よって、平面導波路素子の出力端面12におけるクロストークを低減することができる。
【0094】
さらに、本実施形態においては、光導波路アレイが半導体材料から形成され、光導波路同士の間のピッチが2.0μm以下、および、光導波路の高さが0.05μm以下であることが好ましい。このように構成することにより、光導波路の結合定数が高くなり、光の波長の違いによる道筋20の相違を大きくすることができる。
【0095】
入射側端面に位置する光のOBO位相と、その入射側端面に接続された出射側端面に位置する光のOBO位相との差が(2m−1)×πとなるのであれば、それぞれの光導波路アレイ同士の連結部は、他の構造であってもよい。
【0096】
最も光の出射側に形成された第2光導波路アレイにおいて、第2光導波路6の延在方向に延びる直線と第2光導波路6の出射側端面10とのすべての交点が、最も光の入射側に形成された第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置しているようにしてもよい。この場合、出力端面12は、入力端面11に平行となり、入力端面11および出力端面12が、Si基板2の結晶面と平行になるように形成することにより、Si基板劈開により入力端面11と出力端面12が容易に作製される。
【0097】
さらに、最も光の出射側に形成された第2光導波路6の出射側端面10における光の光学的ブロッホ振動の位相をY、sを整数とすると、(2s−5/4)π≦Y≦(2s−3/4)πであるようにすることが好ましい。このように構成することにより、OBO平面導波路素子1の出力端面12におけるクロストークを低減することができる。
【0098】
なお、基板を取り除き、クラッド層を下地基板として、OBO平面導波路素子を作製してもよい。また、光導波路として光が伝搬できるもので、クラッド層を構成する材料に比べて屈折率が高い材料であれば、ガイド層の材料としてはSiに限られず、たとえば、InGaAsP、GaAs、AlGaAs、InPなどを用いてもよい。クラッド層の材料としては、ガイド層の材料に比べて屈折率が低い材料であればSiO2に限られず、たとえば、Al23、InP、AlGaAsなどを用いてもよい。
【0099】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態2に係るOBO平面導波路素子を詳細に説明する。なお、実施形態2においては、実施形態1に係るOBO平面導波路素子の各部位と対応する部位のそれぞれには、実施形態1において説明したOBO平面導波路素子の参照符号の一桁目が同一である参照符号が付されている。したがって、一桁目の数字が同一である参照符号が付された対応する部位同士は、同一の構造及び機能を有するため、特に必要がない限り、それらの部位の説明は繰り返さない。
【0100】
実施形態2
図11は、本発明の実施形態2に係るOBO平面導波路素子を模式的に示す平面図である。図12は、図11のXII−XII線矢印方向から見た断面図である。図11,12に示すように、本発明の実施形態2に係るOBO平面導波路素子31は、実施形態1に係るOBO平面導波路素子1と比較すると、光導波路の形状および光導波路アレイの連結部の構造が異なる。
【0101】
本実施形態においては、図11に示すように、それぞれの光導波路アレイにおいて、光導波路の幅がほぼ一定である。また、図12に示すように、光導波路アレイの伝搬損失を抑制するために、それぞれの光導波路アレイ全体を覆うようにしてSiO2からなる上部クラッド層51が設けられている。なお、図11においては、上部クラッド層51の図示を省略している。
【0102】
本実施形態においては、基板であるSi基板32、下部クラッド層であるSiO2層33、ガイド層であるSi層34、上部クラッド層であるSiO2層51のX軸方向に温度勾配を形成するため、Si基板32の一方の側面にヒータ52、および、他方の側面にヒートシンク53が形成されている。ヒータ52およびヒートシンク53は、Si基板32から上部クラッド層であるSiO2層51までの側面を覆うように形成されてもよい。OBO平面導波路素子31の出力端面42は、OBO平面導波路素子31の入力端面41と、ほぼ平行に形成されている。
【0103】
図13は、本実施形態に係るOBO平面導波路素子における第1光導波路アレイを模式的に示す平面図である。図14は、本実施形態に係るOBO平面導波路素子における第2光導波路アレイを模式的に示す平面図である。
【0104】
なお、座標軸は、それぞれの光導波路アレイにおいて、基板の上面において光導波路が延在する方向に直交する方向に、光導波路アレイにおける光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、光導波路が延在する方向に、入射側端面から離れる向きを正とするY軸と、X軸およびY軸のそれぞれに垂直なZ軸とからなる。第1光導波路の座標軸であるX軸、Y軸およびZ軸は、X1軸、Y1軸およびZ1軸とからなる。第2光導波路の座標軸であるX軸、Y軸およびZ軸は、X2軸、Y2軸およびZ2軸とからなる。参照した図中に示す、X1,X2,Y1,Y2,Z1,Z2のそれぞれの矢印は、それぞれの座標軸の方向を示している。
【0105】
図13,14に示すように、第1光導波路35はほぼ平行に並ぶように直線状に延在している。第2光導波路36はほぼ平行に並ぶように直線状に延在している。第1光導波路35の幅は、第1光導波路アレイにおいて一定である。第2光導波路36の幅は、第2光導波路アレイにおいて一定である。
【0106】
第1光導波路35同士の間のピッチP1は1.99μmで一定となり、第1光導波路35の幅は1.2μmで一定である。第2光導波路36同士の間のピッチP2は2μmで一定であり、第2光導波路36の幅は1.3μmで一定である。
【0107】
第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイの連結部は、光が第1光導波路アレイから第2光導波路アレイに伝搬する際に、mを整数として、この光が起こす光学的ブロッホ振動の位相が(2m−1)×π変化するように形成されている。具体的には、本実施形態のOBO平面導波路素子1においては、第1光導波路アレイにおけるY1軸と第2光導波路アレイにおけるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、および、第1光導波路35の出射側端面38の形成位置を決定して、第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイを連結している。
【0108】
上記のθ2は、第2光導波路6同士の間のピッチをP2、第2光導波路の等価屈折率をn、光の平均波長をλとすると、P1×tanθ2=(2m−1)×λ/(2×n)・・・式(2)の関係を満たしている。式(2)において、P1が1.99μm、λが1.4μm、nが3.48、mが0のとき、θ2は−5.8°である。このとき、第1光導波路35の出力側端面38から第2光導波路36の入射側端面39に光が伝搬した際に、OBO位相が−π変化する。
【0109】
図13に示すように、第1光導波路アレイにおいては、第1光導波路35の延在方向に延びる直線と第1光導波路35の入射側端面37とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸におけるX1軸上に位置している。
【0110】
図15は、本実施形態における第1光導波路と第2光導波路との接続部を模式的に示す平面図である。図15に示すように、第1光導波路アレイの一の第1光導波路35の延在方向に延びる直線と第1光導波路35の出射側端面38との交点の第1光導波路アレイの座標軸におけるY1座標が、この一の第1光導波路35の低屈折率側に隣接する他の第1光導波路35の延在方向に延びる直線と第1光導波路35の出射側端面38との交点の第1光導波路アレイの座標軸におけるY1座標からP1×tanθ2変化した座標となる。
【0111】
なお、図15においては、説明の便宜上、一の第1光導波路35の延在方向に延びる直線と第1光導波路35の出射側端面38との交点のY1座標を0としたときに、その一の第1光導波路35の+X1方向側に隣接する他の第1光導波路35の延在方向に延びる直線と第1光導波路35の出射側端面38との交点のY1座標がP1×tanθ2となることを示している。
【0112】
したがって、第1光導波路アレイにおいては、第1光導波路35のY1軸方向の長さが、+X1軸方向に向かって、P1×tanθ2ずつ変化する。本実施形態においては、第1光導波路アレイにおける第1光導波路35のY1軸方向の長さは、+X1軸方向に向かって0.202μmずつ短くなる。
【0113】
また、第1光導波路アレイの第1光導波路35の長さの平均値は、第1光導波路アレイを伝搬する光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、第1光導波路35を伝搬する長さに略一致している。本実施形態においては、第1光導波路35の平均長さは1000μmである。
【0114】
最も光の出射側に形成された第2光導波路アレイにおいては、第2光導波路36の延在方向に延びる直線と第2光導波路36の入射側端面39とのすべての交点が、第2光導波路アレイの座標軸におけるX2軸上に位置し、また、第2光導波路36の延在方向に延びる直線と第2光導波路36の出射側端面40とのすべての交点が、第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置している。よって、OBO平面導波路素子31の入力端面41とほぼ平行になるように、出力端面42が形成されている。
【0115】
また、第2光導波路アレイの第2光導波路36の長さの平均値は、第2光導波路アレイを伝搬する光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、第2光導波路36を伝搬する長さに略一致している。本実施形態においては、第2光導波路36の平均長さは1000μmである。
【0116】
図15に示すように、本実施形態においては、第2光導波路アレイにおける第2光導波路36同士の間のピッチP2と、第1光導波路アレイにおける第1光導波路35同士の間のピッチP1とは、P2=P1/cos|θ2|の関係を満たす。
【0117】
このように構成することにより、第1光導波路アレイにおける第1光導波路35の等価屈折率分布の形状と、第2光導波路アレイにおける第2光導波路36の等価屈折率分布の形状とが似るため、第1光導波路35から第2光導波路36に光が伝搬する際に、光の強度分布が大きく変化することがなく、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイとの連結部における光の伝搬損失を低減することができる。
【0118】
以下、本実施形態に係るOBO平面導波路素子31の製造方法について説明する。図16は、本実施形態において、レジスト膜をパターニングした状態を模式的に示す断面図である。図16に示すように、SOI基板上に形成されたレジスト膜を電子線直接描画またはフォトリソグラフィによって加工することにより、光導波路アレイを形成するためのレジストパターン48が作製される。
【0119】
図17は、本実施形態において、ガイド層をエッチングして光導波路を形成している状態を模式的に示す断面図である。図17に示すように、レジストパターン48をマスクとして、ICPエッチング、反応性イオンエッチング、または反応性イオンビームエッチングなどのエッチング方法を用いて、Si層34がエッチングされる。Si層34の上部が0.04μm程度の深さまでをエッチングされることにより、第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイが作製される。
【0120】
図18は、本実施形態において、上部クラッド層を形成した状態を模式的に示す断面図である。図18に示すように、レジストパターン48を除去した後に、蒸着法、スパッタ法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、第1光導波路アレイと第2光導波路アレイを覆うように、上部クラッド層となるSiO2層51を堆積させる。
【0121】
本実施形態においては、SiO2層51の膜厚は200nmとしたが、この値に限定されず、それぞれの光導波路アレイにおける伝搬損失を抑制することが可能であれば他の値でもよい。
【0122】
図19は、本実施形態において、ヒータおよびヒートシンクを形成した状態を模式的に示す断面図である。図19に示すように、スパッタリング法または蒸着法を用いて、Si基板32、SiO2層33、Si層34、SiO2層51の+X軸方向側の側面に、ヒータ52となる窒化タンタル膜を形成する。また、スパッタリング法または蒸着法を用いて、Si基板32、SiO2層33、Si層34、SiO2層51の−X軸方向側の側面に、ヒートシンク53となる窒化アルミ膜を形成する。その後、Si基板32の結晶面に沿って基板劈開を行なうことにより、OBO平面導波路素子31の入力端面41と出力端面42が形成される。
【0123】
次に、本実施形態に係るOBO平面導波路素子31の動作について説明する。ヒータ52によって、OBO平面導波路素子31において、Si基板32、SiO2層33、Si層34、SiO2層51のX軸方向の温度分布に勾配が形成される。Si基板32の温度は、ヒータ52に近づくにつれて高くなる。一般に、半導体材料は高温になると屈折率が高くなるので、ヒータ52側にある第1光導波路35の屈折率は、ヒートシンク53側に位置する第1光導波路35の屈折率よりも高くなる。したがって、第1光導波路アレイにおける第1光導波路35の等価屈折率の分布に勾配が形成される。
【0124】
そこに、図13に示すように、光の強度分布49のピークが所定の入射側端面37に位置するように、波長多重光がOBO平面導波路素子31中に入射される。入射した光は、OBOを起こして光の波長によって異なる道筋50に進み、波長多重光は第1光導波路アレイにより分光される。
【0125】
第2光導波路アレイにおいても、第1光導波路アレイと同様に、第2光導波路36の等価屈折率の分布に勾配が形成されている。そのため、図14に示すように、第1光導波路アレイにおいて分光された複数の光は、第2光導波路アレイのそれぞれの入射側端面39から第2光導波路36に入射し、Y2軸方向に伝搬しながらX2軸方向にOBOを起こす。
【0126】
本実施形態においては、λ1の波長を有する光と、λ1より小さい波長であるλ2の波長を有する光を含む波長多重光を第1光導波路35の入射側端面37に入射させた。たとえば、λ1は1550nm、λ2は1300nmである。λ1の波長を有する光のOBO振幅がC1である場合、λ1の波長を有する光は、+X1軸方向において、入射側端面37の位置からC1シフトした位置の出力側端面38から出射される。λ2の波長を有する光のOBO振幅がC2である場合、λ2の波長を有する光は、+X1軸方向において、入射側端面37の位置からC2シフトした位置の出力側端面38から出射される。
【0127】
第1光導波路35の出射側端面38から出射したλ1の波長を有する光およびλ2の波長を有する光は、第2光導波路36の入射側端面39に入射するが、図14に示すように、光の波長によって入射する位置が異なる。λ2の波長を有する光の入射位置から+X2軸方向に、(C1−C2)/cos(|θ2|)シフトした位置に、λ1の波長を有する光が入射する。
【0128】
上記のように、それぞれ異なる位置の入射側端面39に入射したλ1の波長を有する光およびλ2の波長を有する光は、OBOの位相がほぼ0からπへ変化するまで、第2光導波路36を伝搬する。
【0129】
λ1の波長を有する光のOBO振幅がD1である場合、λ1の波長を有する光は、+X2軸方向において、入射側端面39の位置からD1シフトした位置の出力側端面40から出射される。λ2の波長を有する光のOBO振幅がD2である場合、λ2の波長を有する光は、+X2軸方向において、入射側端面39の位置からD2シフトした位置の出力側端面40から出射される。したがって、X2軸方向において、λ1の波長を有する光とλ2の波長を有する光との入射側端面9の位置が(C1−C2)/cos(|θ2|)異なるため、図11に示すように、X2軸方向において、λ1の波長を有する光とλ2の波長を有する光との出射側端面40の位置が(C1−C2)/cos(|θ2|)+(D1−D2)異なる。
【0130】
本実施形態においては、ヒータの温度を調節することによって、それぞれの光導波路アレイの光導波路の等価屈折率分布の勾配の傾きを調整することができる。OBOの振幅が光導波路の等価屈折率分布の勾配の傾きによって変化するため、ヒータの温度調節により、OBO平面導波路素子31において分光される各波長の光の出力先を変更することできる。よって、OBO平面導波路素子31は可変分光器としての機能を有する。
【0131】
また、それぞれの光導波路アレイおいて、光導波路の幅をW、光導波路同士の間のピッチをPとすると、入射側端面において、W/P≧0.55であることが好ましい。このように構成することにより、結合定数の大きい光導波路において光学的ブロッホ振動が発現されるようになる。数値計算によると光導波路の結合定数が高い領域においてOBO振幅は大きくなり、それに従って光の波長の違いによるOBO振幅の変化量も大きくなる。
【0132】
本実施形態におけるOBO平面導波路素子31によれば、第1光導波路35の長さが、第1光導波路35に入射する光の光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に伝搬する長さにほぼ等しいため、第1光導波路35を伝搬し終えた際に最も分光された後、第2光導波路36に入射する。光がこの第2光導波路36に入射する際に、光の光学的ブロッホ振動の位相が半波長の奇数倍変化することにより、光は第2光導波路36に入射した後、さらに分光される。第2光導波路36の長さが、第2光導波路36に入射する光の光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に伝搬する長さにほぼ等しいため、第2光導波路36を伝搬し終えた際に最も分光される。よって、波長多重光をOBO平面導波路素子31に入射させることにより、出力側におけるクロストークを低減し、固有の出力側端面からそれぞれ単一波長の光を出力することができる。他の構成については、実施形態1のOBO平面導波路素子1と同様であるため、説明を繰り返さない。
【0133】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態3に係るOBO平面導波路素子を詳細に説明する。なお、実施形態3においては、実施形態1に係るOBO平面導波路素子の各部位と対応する部位のそれぞれには、実施形態1において説明したOBO平面導波路素子の参照符号の一桁目が同一である参照符号が付されている。したがって、一桁目の数字が同一である参照符号が付された対応する部位同士は、同一の構造及び機能を有するため、特に必要がない限り、それらの部位の説明は繰り返さない。
【0134】
実施形態3
図20は、本発明の実施形態3に係るOBO平面導波路素子を模式的に示す平面図である。図21は、図20のXXI−XXI線矢印方向から見た断面図である。図20,21に示すように、本発明の実施形態3に係るOBO平面導波路素子61は、実施形態1に係るOBO平面導波路素子1と比較すると、それぞれの光導波路アレイ全体を覆うようにしてSiO2からなる上部クラッド層81が設けられている。なお、図21においては、上部クラッド層81の図示を省略している。
【0135】
また、基板であるSi基板62、下部クラッド層であるSiO2層63、ガイド層であるSi層64、上部クラッド層であるSiO2層81のX軸方向に温度勾配を形成するため、Si基板62の一方の側面にヒータ82、および、他方の側面にヒートシンク83が形成されている。
【0136】
さらに、OBO平面導波路素子61の出力端面72が、入力端面71とほぼ平行に形成されている。実施形態2のOBO平面導波路素子31と同様に本実施形態に係るOBO平面導波路素子61は可変分光器としての機能を有する。
【0137】
また、ヒータ82を動作させない場合においても、第1光導波路65および第2光導波路66の幅が、+X軸方向に向かうに従って徐々に広くなるように形成されているため、第1光導波路アレイおよび第2光導波路アレイの光導波路の等価屈折率分布に勾配が形成される。よって、ヒータ82を動作させない場合においても、OBO平面導波路素子61を伝搬する光がOBOを起こし、波長多重光はOBO平面導波路素子61内で分光される。このように、本実施形態に係るOBO平面導波路素子61は、ヒータ82を備えることにより可変分光器としての機能を有するとともに、ヒータ82を動作させない状態においても光を分光することができるため、消費電力の低減を図ることができる。他の構成については、実施形態1または実施形態2のOBO平面導波路素子1,31と同様であるため、説明を繰り返さない。
【0138】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0139】
1,31,61,100 平面導波路素子、2,32,62,101 基板、3,33,63 クラッド層、4,34,64 ガイド層、5,35,65 第1光導波路、6,36,66 第2光導波路、7,9,37,39 入射側端面、8,10,38,40 出力側端面、11,41,71 入力端面、12,42,72 出力端面、13 中心線、14 中心線、15 交点、16 界面、17 レジスト膜、18,48 レジストパターン、19,49 光の強度分布、20,50,108 光の道筋、51,81 上部クラッド層、52,82,106 ヒータ、53,83,107 ヒートシンク、102 光導波路、103 高分子クラッド層、104 入力側端面、105 出力側端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層されたクラッド層と、
前記クラッド層上に積層され、前記クラッド層より高い屈折率を有するガイド層と
を備え、
前記ガイド層の上部には、略平行に並ぶように直線状に延在する複数の光導波路を含む光導波路アレイが、光の伝搬方向に連続して複数形成され、
それぞれの前記光導波路アレイは、光が入射する入射側端面を有する前記光導波路を少なくとも1つ含み、
それぞれの前記光導波路アレイは、光が出射する出射側端面を有する前記光導波路を少なくとも2つ含み、
それぞれの前記光導波路アレイにおける前記光導波路においては、前記光導波路の並ぶ方向において一方向に向かって、等価屈折率分布に勾配が形成され、
互いに隣接して形成された前記光導波路アレイにおいては、それぞれが含む前記入射側端面を有する前記光導波路と前記出射側端面を有する前記光導波路とが互いに所定の角度を有して連結され、光の入射側に形成された第1光導波路アレイの第1光導波路の前記出射側端面と、光の出射側に形成された第2光導波路アレイの第2光導波路の前記入射側端面とが接続され、
前記第1光導波路アレイおよび前記第2光導波路アレイの連結部は、光が前記第1光導波路アレイから前記第2光導波路アレイに伝搬する際に、mを整数として、該光が起こす光学的ブロッホ振動の位相が(2m−1)×π変化するように形成され、
それぞれの前記光導波路アレイの前記光導波路の長さの平均値は、それぞれの前記光導波路アレイを伝搬する前記光が、光学的ブロッホ振動において1/2周期の振動する間に、前記光導波路を伝搬する長さに略一致する、平面導波路素子。
【請求項2】
それぞれの前記光導波路アレイにおいて、前記基板の上面において前記光導波路が延在する方向に直交する方向に、前記光導波路アレイにおける前記光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、前記光導波路が延在する方向に、前記入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、前記第1光導波路アレイにおける前記Y軸であるY1軸と前記第2光導波路アレイにおける前記Y軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、前記第2光導波路同士の間のピッチをP2、前記第2光導波路の等価屈折率をn、前記光の平均波長をλとすると、P2×tanθ2=(2m−1)×λ/(2×n)の関係を満たし、
最も前記入射側に形成された前記第1光導波路アレイにおいては、前記第1光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記入射側端面とのすべての交点が、前記第1光導波路アレイの座標軸における前記X軸であるX1軸上に位置し、また、前記第1光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記出射側端面とのすべての交点が、前記第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置し、
前記第2光導波路アレイにおいては、一の前記第2光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記出射側端面との交点の前記第2光導波路アレイの座標軸におけるY2座標が、該一の第2光導波路の低屈折率側に隣接する他の前記第2光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記出射側端面との交点の前記第2光導波路アレイの座標軸におけるY座標から−P2×tanθ2変化した座標となり、また、前記第2光導波路の延在方向に延びる直線と前記第2光導波路の前記出射側端面とのすべての交点が、前記第2光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY2座標に位置している、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項3】
それぞれの前記光導波路アレイにおいて、前記基板の上面において前記光導波路が延在する方向に直交する方向に、前記光導波路アレイにおける前記光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、前記光導波路が延在する方向に、前記入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、前記第1光導波路アレイにおける前記Y軸であるY1軸と前記第2光導波路アレイにおける前記Y軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、前記第1光導波路同士の間のピッチをP1、前記第2光導波路同士の間のピッチをP2とすると、P2=P1×cos|θ2|の関係を満たす、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項4】
それぞれの前記光導波路アレイにおいて、前記基板の上面において前記光導波路が延在する方向に直交する方向に、前記光導波路アレイにおける前記光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、前記光導波路が延在する方向に、前記入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、前記第1光導波路アレイにおける前記Y軸であるY1軸と前記第2光導波路アレイにおける前記Y軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、前記第1光導波路同士の間のピッチをP1、前記第2光導波路の等価屈折率をn、前記光の平均波長をλとすると、P1×tanθ2=(2m−1)×λ/(2×n)の関係を満たし、
前記第1光導波路アレイにおいては、前記第1光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記入射側端面とのすべての交点が、前記第1光導波路アレイの座標軸における前記X軸であるX1軸上に位置し、また、前記第1光導波路アレイの一の前記第1光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記出射側端面との交点の前記第1光導波路アレイの座標軸におけるY1座標が、該一の第1光導波路の低屈折率側に隣接する他の前記第1光導波路の延在方向に延びる直線と前記第1光導波路の前記出射側端面との交点の前記第1光導波路アレイの座標軸におけるY1座標からP1×tanθ2変化した座標となり、
前記第2光導波路アレイにおいては、前記第2光導波路の延在方向に延びる直線と前記第2光導波路の前記入射側端面とのすべての交点が、前記第2光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY2座標に位置している、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項5】
それぞれの前記光導波路アレイにおいて、前記基板の上面において前記光導波路が延在する方向に直交する方向に、前記光導波路アレイにおける前記光導波路の等価屈折率分布の低屈折率側から高屈折率側への向きを正とするX軸と、前記光導波路が延在する方向に、前記入射側端面から離れる向きを正とするY軸とからなる座標軸をおいた場合に、前記第1光導波路アレイにおける前記Y軸であるY1軸と前記第2光導波路アレイにおける前記Y軸であるY2軸との成す角でY2軸のY1軸に対して左回りを正とするθ2、前記第1光導波路同士の間のピッチをP1、前記第2光導波路同士の間のピッチをP2とすると、前記第2光導波路は、P2=P1/cos|θ2|の関係を満たす、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項6】
それぞれの前記光導波路アレイにおいて、前記光導波路が並ぶ方向において一方向に向かって、前記光導波路の幅が広くなる、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項7】
それぞれの前記光導波路アレイおいて、前記光導波路の幅をW、前記光導波路同士の間のピッチをPとすると、前記入射側端面において、W/P≧0.55である、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項8】
前記光導波路が並ぶ方向における前記基板の一方の側面にヒータ、および、他方の側面にヒートシンクが形成されている、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項9】
それぞれの前記光導波路アレイおいて、前記光導波路の幅をW、前記光導波路同士の間のピッチをPとすると、前記幅および前記ピッチのそれぞれが、W/P≧0.55を満たしほぼ一定の値となる、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項10】
最も前記出射側に形成された前記第2光導波路アレイにおいて、前記第2光導波路の延在方向に延びる直線と前記第2光導波路の前記出射側端面とのすべての交点が、最も前記入射側に形成された前記第1光導波路アレイの座標軸における座標において同一のY1座標に位置している、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項11】
最も前記出射側に形成された前記第2光導波路の前記出射側端面における前記光の光学的ブロッホ振動の位相をY、sを整数とすると、(2s−5/4)π≦Y≦(2s−3/4)πである、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項12】
前記θ2が、−20°≦θ2≦20°である、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項13】
前記第1光導波路の仮想の中心線と、該第1光導波路に対応する前記第2光導波路の仮想の中心線との交点が、前記第1光導波路アレイと前記第2光導波路アレイとの界面上に位置する、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項14】
前記第1光導波路の前記出射側端面における前記第1光導波路の幅をL1、該第1光導波路に接続される前記第2光導波路の前記入射側端面における前記第2光導波路の幅をL2とすると、L1≦L2である、請求項1に記載の平面導波路素子。
【請求項15】
前記光導波路アレイが半導体材料から形成され、前記光導波路同士の間のピッチが2.0μm以下、および、前記光導波路の高さが0.05μm以下である、請求項1に記載の平面導波路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−100054(P2011−100054A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256003(P2009−256003)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】