説明

微小変位出力装置

【課題】薄板蓋部を用いる微小変位出力装置において、大気圧以外の気圧雰囲気でも使用可能とすることである。
【解決手段】微小変位出力装置10は、筐体部12と上蓋部30と下蓋部34を含んで構成され、その内部の収納空間14には、中心軸40の軸方向に沿って、複数の平板状可動子60と薄板状可動子80とが交互に整列配置される。平板状可動子60の表面と裏面には、それぞれ中央部から外周部に延びる複数の細溝が設けられる。薄板メンブレムで構成される上蓋部30と下蓋部34は、中心軸40の両端で固定される。筐体部12の底面部16には気体連通穴20が設けられ、底面部16の裏側で下蓋部34と向かい合うくぼみ18は、収納空間14と同じ気圧とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小変位出力装置に係り、特に制御気体圧を供給し、押付力と釣り合わせつつ複数の可動子の間の各隙間の間隔を調整して、微小変位を出力する微小変位出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体アクチュエータを用いる移動機構は、他の機構に較べ、コンタミネーションが少ないほか、電磁的ノイズを発生せず、温度変化による影響、振動、騒音も少ない。そこで半導体装置等の位置決めアクチュエータの用途のほか、除振装置における振動を打ち消すためのアクチュエータの用途等に期待される。そこで、気体アクチュエータを用いて、応答性のよい微小移動機構を構成することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、気体軸受機構のバネ定数が高いことに着目し、気体軸受の隙間をそこに供給する気体圧の制御により変化させ、この隙間の変化を対象物の微小移動に用い、応答性の良い微小移動機構を実現する構成が示されている。ここでは、適当な押付力が与えられている可動子を移動方向に案内する案内部があり、案内部の底面である気体受壁に設けられる開口から、可動子の気体受面へ向かって制御された気体圧を有する気体が供給され、可動子が気体受壁から浮上し、押付力と釣り合いつつ隙間を形成し、この隙間量を供給気体圧によって制御することで、可動子が微小移動される。また、可動子を複数個、軸方向に配置し、隣接する可動子の間の隙間にそれぞれ制御された気体圧を供給することで、微小移動の範囲を隙間の数に応じて拡大できることも述べられている。
【0004】
特許文献2には、そのような複数の可動子を用い、さらに押付力発生機構を内蔵して、それ自体のみで特性評価を可能とする微小変位出力装置の構成が開示されている。ここでは、微小変位出力装置を筐体部と蓋部を備えるものとし、その内部に、支持軸に整列配置される複数の平板状可動子と出力可動子とが含まれる。そして、蓋部は、筐体部の筒部と一体化できるリング部と、中央に配置される伝達部と、リング部と伝達部との間を接続するメンブレム状の薄板とを含み、この薄板は、蓋部と筐体部とが一体化したときに、伝達部を介して適当な付勢力を出力可動子に与える。このようにすることで、押付力発生機構を必要とせずに、微小変位装置自体のみで特性評価を可能としている。
【0005】
なお、この構成では、筐体部と蓋部とを組み合わせると、取入口と排気口とを除いて、内部空間が気密に保たれるので、排気口がそのまま外気に開放されている場合には、メンブレム状の薄板の両側にはほぼ同じ気圧がかけられており、したがって、メンブレム状の薄板は、薄板の両側の気圧の差による初期変位がなく、通常では中立位置にある。そこで、排気口に適当な排気弁を設けることで、メンブレム状の薄板に初期変位を与えることができる構成も述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−268293号公報
【特許文献2】国際公開第2007/077878号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される構成を発展させた特許文献2の構成によれば、全体として小型で、微小移動の移動範囲が広い気体圧微小移動機構を構成することができる。
【0008】
ところで、上記のように、特許文献2の構成によれば、筐体部と蓋部とを組み合わせると、取入口と排気口とを除いて、内部空間が気密に保たれるので、排気口の気圧と、外気圧とに相違がある場合には、メンブレム状の薄板の両側の気圧の差が生じて、メンブレム状の薄板に初期変位が生じる。そのような場合としては、微小変位出力装置を減圧雰囲気、または真空雰囲気で使用する場合、あるいは逆に、高圧雰囲気で使用する場合が考えられる。特許文献2には排気口に適当な排気弁を設ける構成も開示されているので、この排気弁を有効に用いることで、この気圧の差によるメンブレム状薄板の初期変位を抑制することができるが、排気弁が必要になり、また排気弁の制御が面倒である。
【0009】
また、特許文献2の構成によれば、外部が真空雰囲気の場合に、メンブレム状薄板で囲まれる内部空間も真空状態にする必要がある。このように、内部空間を真空状態にすると、例えば軸受部が真空雰囲気下に置かれることになって、軸受部の動作が不安定になる恐れが生じる。
【0010】
本発明の目的は、大気圧以外の気圧雰囲気でも使用可能な微小変位出力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る微小変位出力装置は、先端側が開口し筒状の収納空間を有する筐体部であって、底面部に気体連通穴を有し、底面部の裏側には外周部のフランジ部に囲まれ気体連通穴を介して筒状の収納空間と連通する底面側くぼみが設けられる筐体部と、筐体部の先端側の開口を覆い、面弾性変形可能な薄板状の上蓋部と、筐体部の底面側くぼみを覆い、面弾性変形可能な薄板状の下蓋部と、上蓋部に上端部が接続され、下蓋部に下端部が接続される中心軸と、中央部に中心軸を通す中心穴を有し、中心軸の軸方向に沿って複数整列配置され、中心穴の外側に気体が流れることができる窓部を有し、外形が筐体部の収納空間の内形よりも小さく、収納空間内に収納される複数の平板状可動子と、中心軸の先端に一体化して設けられ、複数の平板状可動子の最先端側可動子に向かい合う気体受面を有し、外形が筐体部の収納空間の内形よりも小さく、収納空間内に収納され、出力に用いられる出力可動子と、最先端側平板状可動子と出力可動子の気体受面との間の隙間と、隣接する平板状可動子の間の各隙間と、最後端側平板状可動子と筐体部の底面との間の隙間とに、それぞれ気体を供給し、筐体部に設けられる排気穴から排出させる気体供給手段と、上蓋部において中心軸が接続される中央部に設けられ、中心軸を介する出力可動子の出力を外部に伝達すると共に、外部の負荷力によって中心軸を介して出力可動子に押付力を与える出力伝達部と、を備え、気体供給手段から制御された気体圧を供給し、押付力と釣り合わせつつ各隙間の間隔を調整して、出力伝達部から微小変位を出力することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る微小変位出力装置において、整列配置される複数の平板状可動子の隣接する平板状可動子の間にそれぞれ配置され、中央部に中心軸を通す中心穴を有し、中心軸の軸方向に沿って複数整列配置され、中心穴の外側に気体が流れることができる窓部を有し、外形が筐体部の収納空間の内形よりも小さく、収納空間内に収納され、平板状可動子よりも薄い板厚を有する複数の薄板状可動子を備え、複数の平板状可動子は、その表面と裏面のそれぞれに、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有し、窓部から流れる気体が有端有底溝と薄板状可動子との間の隙間に流れることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る微小変位出力装置において、複数の平板状可動子は、その表面と裏面のそれぞれに窓部が設けられる中心部の部分がくぼみとなっていることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る微小変位出力装置において、複数の平板状可動子は、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって曲線状に延びて、相互に交差する複数の交差型の有端有底溝を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る微小変位出力装置において、複数の平板状可動子は、その表面または裏面のいずれか一方表面にのみ、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有し、窓部から流れる気体が有端有底溝と、これに向かい合う隣接平板状可動子の他方表面との間の隙間に流れることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、微小変位出力装置は、筐体部の先端側の開口を覆う薄板状の上蓋部と、筐体部の底面側くぼみを覆う薄板状の下蓋部とで、気体の供給口と排気口を除いて内部の収納空間が気密構造とされ、その内部に複数の平板状可動子が配置される。そして、複数の平板状可動子の間の隙間の調整によって出力される微小変位を取り出す出力可動子は、中心軸を介して、上蓋部と下蓋部と接続される。薄板状の上蓋部も、薄板状の下蓋部も、内部空間の気圧である排気口の気圧と、外気圧との間に相違があると、その気圧の差によって中心軸に変位を与えるが、その変位の方向は互いに逆方向である。したがって、気圧差による変位は相殺されて、中心軸あるいは中心軸を介する出力可動子に初期変位を与えない。このようにして、微小変位出力装置を大気圧以外の気圧雰囲気でも使用可能となる。
【0017】
また、微小変位出力装置において、薄板状可動子が複数の平板状可動子の隣接する平板状可動子の間にそれぞれ配置されるので、複数の平板状可動子として、その表面と裏面のそれぞれに、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有するものを用いることができる。薄板状可動子は、流れる気体によって変形しない程度に薄くできるので、片面側にのみ窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有する平板状可動子を整列配置する構成に比べ、全体として、微小変位出力装置の軸方向に沿った小型化が容易となる。
【0018】
また、微小変位出力装置において、複数の平板状可動子は、その表面と裏面のそれぞれに窓部が設けられる中心部の部分がくぼみとなっているので、このくぼみの絞り効果によって気体の流れが安定する。
【0019】
また、微小変位出力装置において、複数の平板状可動子は、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって曲線状に延びて、相互に交差する複数の交差型の有端有底溝を有する。表面と裏面のそれぞれに複数の有端有底溝を有する平板状可動子を用いる場合、薄板状可動子を挟んで、隣接する平板状可動子の有端有底溝が向かい合うことになる。
【0020】
この向かい合う関係によっては、薄板状可動子が予期せぬ変形を生じることがある。例えば、向かい合う有端有底溝の一方側の配置と、他方側の配置の位相関係が、ちょうど180度ずれている関係となると、薄板状可動子の厚さが薄い場合に、その位相関係に応じた波打ち変形を生じる可能性がある。上記構成によれば、有端有底溝は、外周側に向かって曲線状に延びて、相互に交差する交差型であるので、これらが薄板状可動子を介して向かいあっても、上記のような規則性のある位相関係になる可能性が大幅に抑制される。したがって、薄板状可動子の厚さをより薄くでき、全体として、微小変位出力装置の軸方向に沿った小型化が容易となる。
【0021】
また、微小変位出力装置において、複数の平板状可動子は、その表面または裏面のいずれか一方表面にのみ、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有する。これにより、1種類の平板状可動子のみを用いて微小変位出力装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る実施の形態の微小変位出力装置を示す図である。
【図2】図1における微小変位出力装置の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、平板状可動子を説明する3面図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、薄板状可動子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の微小変位出力装置の作用を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の微小変位出力装置において、薄板状可動子の厚さと波打ち変形の関係を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、平板状可動子の別の構成を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、片側に有端有底溝を有する平板状可動子を用いる構成を説明する図である。
【図9】図8の構成に用いられる片側に有端有底溝を有する平板状可動子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、平板状可動子として、円形の外形を有するものとして説明するが、平面寸法に比較して板厚の薄い平板であればよく、外形は円形でなくてもよい。例えば多角形の外形、楕円の外形、曲面の外形を有する平板であってもよい。また、平板状可動子の中心穴と中心軸の外形は、円形の穴と丸棒の関係として説明するが、それ以外の関係であってもよい。例えば、中央軸の外形を多角形にし、平板状可動子の中央穴をそれに対応する多角形穴としてもよい。なお、このようにすることで、支持軸周りの回転を抑制することが容易となる。もちろん、支持軸の軸断面形状を多角形以外の形状、例えば楕円形としてもよい。
【0024】
また、以下で述べる寸法、材質、個数等は、説明のための例示であり、微小変位出力装置の仕様に応じて、それ以外の条件のものを用いることができる。
【0025】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0026】
図1は、微小変位出力装置10を示す図で、(a)は平面図、(b)は断面図、(c)は正面図である。また、図2は、微小変位出力装置10の模式断面図で、特に、平板状可動子60、薄板状可動子80の様子が分かるように、軸方向の拡大率を他の方向の拡大率よりも大きくとってある。なお、軸方向とは、平板状可動子60、薄板状可動子80の表面に垂直な方向である。
【0027】
微小変位出力装置10は、制御された気体圧を入力することで、出力伝達部44から軸方向に沿った微小変位を外部に出力する機能を有する装置である。ここで、出力される微小変位とは、ナノm(nm)から数十ナノm程度の精度を有しながら、数μmから数100μmの範囲の変位である。
【0028】
微小変位出力装置10は、筐体部12と、筐体部12の上面を覆う上蓋部30と、筐体部12の底面側のくぼみ18を覆う下蓋部34を含んで構成される平円筒形の外形を有している装置である。筐体部12と上蓋部30と下蓋部34とで囲まれる内部空間には、中心軸40の軸方向に沿って、平板状可動子60と薄板状可動子80とが交互に整列配置されて収納される。中心軸40には、複数の平板状可動子60の最先端側の平板状可動子に向かい合う出力可動子42が一体化して設けられ、外部に突き出した部分に、出力伝達部44が設けられる。
【0029】
筐体部12は、先端側が開口し底面部16を有する筒状の容器状部材である。筒状壁部と底面部16とで囲まれる空間である収納空間14は、平板状可動子60、薄板状可動子80、出力可動子42等が収納される空間である。
【0030】
筐体部12の底面部16の裏側に設けられるくぼみ18は、筐体部12の外周部である筒状壁部をフランジ部として、そのフランジ部に囲まれた空間である。筐体部12の底面部16に設けられる気体連通穴20は、収納空間14とくぼみ18とを連通するための貫通穴である。この気体連通穴20は、底面部16の外周側の適当な箇所に設けられる。気体連通穴20は複数個設けるものとできる。図1、図2では、断面図の紙面上において、底面部16の左右両側に気体連通穴20が設けられている。
【0031】
この気体連通穴20は、上記のように筐体部12の収納空間14と底面側のくぼみ18とを連通するので、筐体部12に上蓋部30と下蓋部34が取り付けられるとき、くぼみ18と収納空間14とは同じ気圧状態となる。
【0032】
筐体部12の底面部16に設けられる気体供給口50は、制御気体圧PSを有する気体を受け入れる取入口である。気体供給口50は、図1、図2では図示されていないが、筐体部12の筒部の外壁内部に設けられる気体流路を介し、筒部の外壁表面の適当なところに開口する気体供給ポートに接続される。気体供給ポートには、図示されていない外部の制御気体供給源が接続される。
【0033】
このように、気体供給口50は、制御気体圧PSを有する気体を収納空間に供給する気体供給手段である。具体的には、後述されるように、収納空間14に整列配置される複数の平板状可動子60とこれに交互に配置される複数の薄板状可動子80において、隣接する平板状可動子60と薄板状可動子80との間の隙間、最先端側の平板状可動子60と出力可動子42の気体受面との間の隙間、最後端側の平板状可動子60と筐体部12の底面部16との間の隙間とに、それぞれ気体を供給し、筐体部12に設けられる排気口52から排出させる機能を有する。
【0034】
気体供給口50あるいは気体流路に、適当な絞り部が設けられることが好ましい。絞り部は、流体抵抗を増加させて気体の流れを整流する機能を有する素子又は構造である。かかる絞り部としては、平行隙間絞りを用いることができる。平行隙間絞りは、ドーナツ状に中央穴を有する円環板と、円環板と外形が同じの円板とを狭い平行隙間で配置したもので、その平行隙間の間を気体が流れる間に整流され、その流れが乱れなく形成されるものである。また、多孔質材料をポケット開口の中に配置するものを絞り部として用いてもよい。この場合も、多孔質の微小孔の整流作用により絞り部に流れる気体を乱れなく形成することができる。もちろん、制御性の必要が少ない場合は、絞り部として、通常のオリフィス等を用いることができる。
【0035】
筐体部12の筒部の外壁部に設けられる排気口52は、筐体部12の内部に向かっては収納空間14に接続し、筐体部12の外部に向かっては、図示されていない外部排気口に接続される。したがって、排気口52は大気に開放されるものと考えてよい。勿論、排気ポンプ等を用いて、所定の減圧下で排気するものとしてもよい。以下では、排気口52は大気に開放されるものとして説明を続ける。
【0036】
上蓋部30は、筐体部12の先端側の開口を覆う面弾性変形可能な薄板状の部材である。面弾性変形可能な薄板は、メンブレムと呼ばれることがあるが、その意味では、上蓋部30は、メンブレムを用いた蓋部材である。なお、上蓋部30の中央部には、中心軸40が通る貫通穴が設けられる。
【0037】
同様に、下蓋部34は、筐体部12の底面側のくぼみ18を覆う面弾性変形可能な薄板状の部材である。下蓋部34は、上蓋部30と同様に、メンブレムを用いた蓋部材である。下蓋部34の中央部には、上蓋部30と同様に、中心軸40が通る貫通穴が設けられる。
【0038】
上蓋部30と、下蓋部34は、同じ直径、同じ厚さ、同じ材質の薄板が用いられる。勿論、場合に応じて、異なる厚さ、異なる材質としてもよい。かかる上蓋部30、下蓋部34としては、筐体部12の外側直径を50mmとすると、これと同じ直径で、板厚が約0.1mmから約0.2mmのステンレス薄板を用いて構成することができる。この構成例では、膜モデルの試算によれば、中心軸40の軸方向の出力変位=0.1mmのとき、上蓋部30、下蓋部34の薄板に生じる応力を、許容値より十分低いものとすることができる。
【0039】
上押さえリング32は、上蓋部30を筐体部12に取り付け固定する環状部材である。具体的には、筐体部12の筒部の上端面に上蓋部30の外周部を配置し、その外周部を筐体部12と上押さえリング32で挟みこむようにして、気密に固定する。固定手段としては、図1に示されるように、複数のネジ等を用いることができる。シールリングを上押さえリング32と上蓋部30との間、上蓋部30と筐体部12との間に配置してもよい。
【0040】
同様に、下押さえリング36は、下蓋部34を筐体部12の底面側に取り付け固定する環状部材である。具体的には、筐体部12の筒部の下端面のくぼみ18の外周側を取り囲むフランジ部に下蓋部34の外周部を配置し、その外周部を筐体部12と下押さえリング36で挟みこむようにして、気密に固定する。固定手段としては、上押さえリング32の場合と同様に、複数のネジ等を用いることができる。また、シールリングを下押さえリング36と下蓋部34との間、下蓋部34と筐体部12との間に配置してもよい。
【0041】
このように、上蓋部30と下蓋部34が筐体部12の両側を覆って上押さえリング32とした押さえリング36によって気密に取り付けられることで、上蓋部30と筐体部12と下蓋部34とが隙間なく一体化される。これによって、上蓋部30と下蓋部34と筐体部12の内壁で囲まれる収納空間14とくぼみ18は、気体供給口50と排気口52とを除いて、気密空間となる。
【0042】
中心軸40は、上蓋部30に上端部が固定接続され、下蓋部34に下端部が固定接続される軸体である。微小変位出力装置10における軸方向とは、平板状可動子60、薄板状可動子80の表面に垂直な方向として説明したが、後述のように、平板状可動子60、薄板状可動子80は、その表面が中心軸40に垂直となるように、中心軸40の軸方向に沿って整列配置されるので、中心軸40の長手方向が、微小変位出力装置10の軸方向である。
【0043】
なお、中心軸40は、上記のように上端部が上蓋部30に固定接続され、下端部が下蓋部34に固定接続されるので、上蓋部30、下蓋部34の変位に応じて、軸方向に移動する。したがって、中心軸40は、筐体部12の一部でもある底面部16の中央部に設けられる案内穴において、移動可能に支持される。その移動可能の支持の際に、気体供給口50の制御気体圧PSが排気口52に連通するくぼみ18側に漏れないように、適当なメカニカルシールまたはシール部材が底面部16の案内穴と中心軸40の外周部との間に設けられる。
【0044】
出力可動子42は、中心軸40と一体化された円板状部分である。出力可動子42は、中心軸40の軸方向に沿って上蓋部30の側に、その上面が、上蓋部30の底面に向かい合い、その下面が、複数の平板状可動子60の最先端側の平板状可動子に向かい合うように配置される。図1、図2では、出力可動子42の上面と、上蓋部30の底面との間の隙間空間22が示されている。この隙間空間22は、収納空間14の一部であるので、底面側のくぼみ18と同様に、収納空間14と同じ気圧状態となる。
【0045】
出力可動子42は、その外径が、筐体部12の収納空間14の内径よりも小さく設定される。具体的な寸法は、出力可動子42の最外周部と、収納空間14の内壁との間に、気体が排気されるのに十分な隙間が確保されるように、設定される。
【0046】
中心軸40の先端側の端部には、上蓋部30の中央部の底面を支える座部が設けられ、その座部から支え中央部の貫通穴を通って、外部に突き出す。同様に、中心軸の底面側の端部は、下蓋部34の中央部の貫通穴を通って、外部に突き出す。
【0047】
中心軸40の上蓋部30の中央部の貫通穴から外部に突き出した突出部に設けられる出力伝達部44は、中心軸40の変位出力を外部に取り出す出力部である。出力伝達部44は、円環状部材で、中心軸40の座部と協働して上蓋部30を挟みこむように、上蓋部30の上面に固定される。このように、出力伝達部44は、中心軸40と上蓋部30とを一体化して結合する機能も有する。
【0048】
出力伝達部44は、上記のように、中心軸40の出力を取り出す出力部であるので、ここに、微小変位を与えたい対象物が負荷として載荷される。図1、図2では、この対象物の負荷を、Fとして示してある。微小変位出力装置10は、この対象物の負荷Fに抗しながら、中心軸40の変位出力を出力伝達部44に出力し、対象物を微小変位させる機能を有することになる。
【0049】
換言すれば、微小変位出力装置10の中心軸40は、対象物から負荷としてFを受けることになるので、この負荷Fが、複数の平板状可動子60、薄板状可動子80の間の隙間を広げる制御気体圧PSに対する押付力となる。例えば、軸方向を重力方向に平行とすると、対象物の自重が出力伝達部44にかけられ、これが負荷Fとなり、制御気体圧PSに対する押付力となる。
【0050】
中心軸40の下蓋部34の中央部の貫通穴から外部に突き出した突出部に設けられる環状部材45,46は、下蓋部34を上下から挟みこみ、中心軸40と下蓋部34とを一体化する機能を有する。つまり、環状部材45,46は、中心軸40と下蓋部34とを結合する結合部材である。
【0051】
中心軸40はこのように、その軸方向の両端部に、それぞれ上蓋部30と下蓋部34とが連結接続されるので、上蓋部30と下蓋部34とが弾性変形すると、それに応じて、軸方向に変位することになる。上蓋部30と下蓋部34の弾性変形は、底面部16に対する中心軸40の移動によるものと、外気圧と排気圧との間の気圧差によるものがある。
【0052】
前者は、後述する制御気体圧PSの調整によって生じる平板状可動子60、薄板状可動子80の間の隙間の変化によって生じる。これは、微小変位出力装置10の本来の機能であるが、その上蓋部30と下蓋部34の弾性変形は、軸方向に対し、共に同方向である。すなわち、上蓋部30が軸方向に沿って上側に凸の変形を行なうときは、下蓋部34も同様に上側に凸の変形を行う。また、上蓋部30が軸方向に沿って下側に凸の変形を行なうときは、下蓋部34も同様に下側に凸の変形を行う。したがって、この場合には、上蓋部30の弾性変形による力と下蓋部34の弾性変形による力は打ち消されることなく、出力伝達部44に、負荷Fに抗する変位力として出力される。
【0053】
後者は、外気圧が排気圧と相違するとき生じる。すなわち、外気圧とくぼみ18の気圧との間に差が生じ、また、外気圧と隙間空間22の気圧との間に差が生じる。これによって、上蓋部30と下蓋部34は、軸方向に対し、弾性変形をする。この場合の上蓋部30と下蓋部34の弾性変形は、軸方向に対し、互いに逆方向である。すなわち、上蓋部30が軸方向に沿って上側に凸の変形を行なうときは、下蓋部34は下側に凸の変形を行う。また、上蓋部30が軸方向に沿って下側に凸の変形を行なうときは、下蓋部34は上側に凸の変形を行う。
【0054】
例えば、外気圧が排気圧より低圧であるときは、上蓋部30が外部に向かって膨らむように、軸方向に沿って上側に凸の変形を行ない、下蓋部34も外部に向かって膨らむが、この場合には軸方向に沿って下側に凸の変形を行う。逆に、外気圧が排気圧より低圧であるときは、上蓋部30が外部から押し込まれるように、軸方向に沿って下側に凸の変形を行ない、下蓋部34も外部から押し込まれるが、この場合には、軸方向に沿って上側に凸の変形を行う。
【0055】
上記のように、外気圧と排気圧とが相違する場合には、上蓋部30の弾性変形と、下蓋部34の弾性変形は、軸方向に対し、互いに逆方向である。したがって、この場合には、上蓋部30の弾性変形による力と下蓋部34の弾性変形による力は打ち消される。すなわち、外気圧と排気圧とが相違する場合に、中心軸40に初期変位が与えられることも、初期力が与えられることもない。出力伝達部44に、負荷Fに抗する変位力として出力されることもない。このように、上蓋部30と下蓋部34とを中心軸40の両端部にそれぞれ接続することで、微小変位出力装置10は、大気圧以外の気圧雰囲気でも使用可能となる。
【0056】
収納空間14に配置される平板状可動子60は、中央部に中心軸40を通す貫通穴である中心穴を有し、中心穴の外側に軸方向に沿って気体が流れることができる窓部が配置され、その窓部からの気体が表面を流れる円板状の部材である。平板状可動子60の外径は、筐体部12の収納空間14の内径よりも小さく設定される。具体的な寸法は、中心軸40に平板状可動子60が挿入されて配置されたときに、平板状可動子60の最外周部と、収納空間14の内壁との間に、気体が排気されるのに十分な隙間が確保されるように、設定される。図3は、平板状可動子60の構成を示す3面図である。
【0057】
平板状可動子60は、その表面61と裏面63とが全く同じように構成された円板状の部材62である。したがって、表面61に代表させて、この構成を説明する。
【0058】
中心穴64は、中央部に設けられる貫通穴で、中心軸40を通すためのものである。中心穴64の内径は、中心軸40の外径よりも大きく設定される。中心穴64を含んで、中央部に設けられるくぼみ66は、平板状可動子60の板厚が薄くなっている部分である。くぼみ66において、中心穴64の外側に設けられる窓部68は、貫通穴で、ここを通って、気体供給口50から収納空間14に供給される制御気体圧PSの気体が軸方向に流れるためのものである。図3で、窓部68は、変形楕円形として4つ設けられているが、その穴形状、個数は適当に設定することができる。
【0059】
窓部68が設けられるくぼみ66から、外周側に向かって放射状に延びる複数の細溝70は、一方端が上記のようにくぼみ66に始まり、他方端が平板状可動子60の外周端の手前で行き止り、そこで少し周方向に方向を変えて終端部72となる有端有底溝である。この細溝70は、窓部68を通ってきた気体が導かれ、この有底溝の中を流れ、終端部72で溝から平板状可動子60の表面に出て、外周側から収納空間に流れ出す流路である。細溝70の溝深さは、くぼみ66より浅く設定される。
【0060】
くぼみ66及び細溝70は、平板状可動子60の表面61あるいは裏面63に沿って径方向に気体が流れるときに、絞り効果を奏する。すなわち、平板状可動子60の平板面が、他の面と対向し、2つの面の間の隙間に気体が流れて、このくぼみ66及び細溝70を流れる気体が細溝70の終端部72等で平板面にあふれるときに、流路が狭くなって絞られ、いわゆる表面絞りとなる。この表面絞りの効果により、2つの面の間の流れが安定し、2つの面の間の間隔も安定する。
【0061】
かかる平板状可動子60の寸法の一例を述べると、外径が約30mmから約40mm、中心穴64の内径が約10mmから15mm、板厚が約0.1mmから約1mm程度、くぼみ66及び細溝70の深さは約5μmから約20μmの範囲、くぼみ66の径方向の幅は約2mmから4mm程度の範囲、細溝70の幅は約0.2mm程度である。なお、図3における断面図は、細溝70等の深さを誇張して拡大してある。かかる平板状可動子60は、例えばSUS等の金属円板、セラミック板を加工して得ることができる。
【0062】
再び図2に戻り、複数の薄板状可動子80は、収納空間14内に収納され、平板状可動子60と外形が同じで、平板状可動子よりも薄い板厚を有する円板状の部材である。図4に薄板状可動子80の平面図を示すが、円板状の部材82に、中心穴84、窓部88が設けられた構造で、中心穴84、窓部88は、平板状可動子60の中心穴64、窓部68と同じ寸法、同じ形状、同じ配置位置とされる。異なるのは、細溝を有しないことと、板厚が平板状可動子60に比べ薄く設定されることである。上記の例で、平板状可動子60の板厚を約0.1mmから約1mmとするときは、薄板状可動子80の板厚を、数10μm程度とすることができる。
【0063】
複数の薄板状可動子80は、複数の平板状可動子60と、中心軸40の軸方向に沿って、交互に1枚ずつ整列配置される。すなわち、複数の薄板状可動子80と、複数の平板状可動子60は、その平面が中心軸40の軸方向に垂直となるように、中心穴64,84に中心軸40が挿入されて、収納空間14の内部に整列配置される。その様子は図2に示される。したがって、気体供給口50から供給される制御気体圧PSを有する気体は、互いに配置位置が合わせられる平板状可動子60の窓部68と薄板状可動子80の窓部88とを通って、出力可動子42の側に流れる。
【0064】
そして、その途中で、気体供給口50に関連して説明したように、筐体部12の底面部16の上面と、これに向かい合って配置される最後端側の平板状可動子60との間の隙間を通って気体が流れる。また、隣接する平板状可動子60と薄板状可動子80との間の隙間を通って気体が流れる。また、出力可動子42の下面である気体受面と、これに向かい合って配置される最先端側の平板状可動子60との間の隙間を通って気体が流れる。各隙間を通って流れた気体は、平板状可動子60、薄板状可動子80、出力可動子42の最外周端部と、収納空間14の内壁との間の隙間に流れ出し、排気口52を介して、外部に排気されることになる。
【0065】
上記構成の微小変位出力装置10の作用、特に、交互に1枚ずつ複数整列配置された平板状可動子60と薄板状可動子80の作用を、図5を用いて、以下に詳細に説明する。微小変位出力装置10を動作させるときは、図5に示すように、気体供給口50に図示されていない気体供給源を接続し、排気口52は大気に開放しておく。図示されていない気体供給源は、気体圧を任意の値に制御して出力する機能を有することが好ましい。そして、気体供給口50に制御気体圧PSを有する気体を供給する。
【0066】
上記のように、平板状可動子60と薄板状可動子80は、筐体部12の底面部16の上面と、出力可動子42の下面である気体受面との間に、中心軸40の軸方向に沿って、1枚ずつ交互に、整列配置される。その配置関係は、これらの窓部68,88の位置関係がちょうど一致するように設定される。したがって、気体供給口50から、窓部68,88を通って、出力可動子42に向かって、制御気体圧PSを有する気体が供給される。そして、気体は、最後端側平板状可動子60と筐体部12の底面部16との間の隙間、隣接する平板状可動子60と薄板状可動子80との間の各隙間、最先端側の平板状可動子60と出力可動子42の気体受面との間の隙間とに、それぞれ流れる。
【0067】
窓部68,88を通ってきた気体は、平板状可動子60、薄板状可動子80の内径側から外径側に向かって各隙間を流れる。ここで、外部の対象物からの負荷Fが出力伝達部44を介して中心軸40に与えられるときは、この負荷Fが平板状可動子60、薄板状可動子80に対する押付力Fとして働く。この押付力Fが働くときは、これらの隙間を流れる気体の流れは、いわゆる気体軸受としての作用を示す。すなわち、制御気体圧PSを制御し、押付力Fと釣り合わせつつこれらの隙間量を調整することができ、これによって、平板状可動子60、薄板状可動子80を中心軸40の軸方向に沿った方向に微小移動させることができる。
【0068】
例えば制御気体圧PSを+ΔP変化させると、各隙間量を+Δs変化させることができる。なお、図5では、制御気体圧PSときの各隙間量をSとしてある。このΔs/ΔPは、平板状可動子60の形状、隣り合う平板状可動子60と薄板状可動子80との間の隙間、制御気体圧PS、押付力F等を与えることで実験的に定めることができる。ここで、Δs/ΔPは、各隙間ごとに定まるものであるので、隙間の数をNとすると、複数の平板状可動子60、複数の薄板状可動子80の全体の軸方向移動量は、N×Δsとなり、移動量が、平板状可動子60、薄板状可動子80の数の増減で調整できる。
【0069】
一例を上げると、上記の平板状可動子60、薄板状可動子80の寸法で、隣り合う隙間の公称標準値を10μm程度とし、PSを約0.2MPaとすると、(隙間変化量/気体圧変化量)=(5μm/0.1Mpa)程度とすることができる。上記のように、平板状可動子60の厚さは、約0.1mmから約1mmであり、薄板状可動子80の厚さはこれよりかなり薄いので、仮にN=30としても、15個の平板状可動子60と14個の薄板状可動子80の軸方向の全長は、約1.5mmから約15mmである。そして、ΔPを0.15MPaとすれば、この15個の平板状可動子60と14個の薄板状可動子80によって、出力可動子42及び出力伝達部44に、30×7.5μm=225μmの移動量を与えることができる。すなわち約1.5mmから約15mmの全長に対し、200μmを超える移動量を与えることができる。しかも、その移動量は、Δs/ΔPで定まり、気体圧の制御性は極めてよいので、その移動量の精度は、全ストロークについてきわめて高く維持することができる。
【0070】
そして、上記で説明したように、上蓋部30と下蓋部34とを中心軸40の両端部にそれぞれ接続することで、微小変位出力装置10は、大気圧以外の気圧雰囲気でも使用可能となる。
【0071】
上記で、薄板状可動子80の板厚は、平板状可動子60の板厚に比して、かなり薄くすることができるとして説明したが、薄板状可動子80の板厚があまり薄いと、薄板状可動子が予期せぬ変形を生じることがある。その様子を図6を用いて説明する。図6は、表面61と裏面63のそれぞれに複数の有端有底溝を有する平板状可動子60を用いたときの薄板状可動子80を挟んで、隣接する平板状可動子60の有端有底溝である細溝70が向かい合う様子を示す図である。
【0072】
細溝70の周方向に沿った繰返し配置周期の1周期を360度の位相と考えて、この向かい合う関係によっては、例えば、向かい合う細溝70の一方側の配置と、他方側の配置の位相関係が、ちょうど溝間隔の1/2ずれている関係となることがあり得る。ここでは、そのような場合に、薄板状可動子80の厚さが薄い場合に、その位相関係に応じた波打ち変形を生じる可能性がある。図6では、模式的に、薄板状可動子80の波打ち変形81が示されている。波打ち変形81が薄板状可動子80に生じると、平板状可動子60と薄板状可動子80との間の隙間量が変動し、精度のよい微小変位の制御ができなくなる恐れがある。このようなことから、薄板状可動子80の板厚は、この波打ち変形81の変形量が隙間量Sに比べ十分に小さくなる程度の厚さを有する必要がある。
【0073】
図7は、薄板状可動子80の波打ち変形を抑制できる平板状可動子90の構成例を説明する図である。図7は、平板状可動子90の表面91の様子が示されているが、この裏面も同じ構成である。この平板状可動子90は、図3で説明したような直線的な細溝ではなく、外周側に向かって曲線状に延びて、相互に交差する交差型の細溝92を備える。なお、図7ではこれらの細溝92の外周側末端がそれぞれ接続されているが、それぞれの細溝92の外周側末端で相互に分離するものとしてもよい。このような曲線状に延びて相互に交差する交差型の細溝92を表面91と裏面に設けることで、これらの面が薄板状可動子80を介して向かいあっても、図6で説明したような規則性のある位相関係になる可能性が生じる可能性が大幅に抑制される。したがって、薄板状可動子80の厚さをより薄くでき、全体として、微小変位出力装置10の軸方向に沿った小型化が容易となる。
【0074】
なお、最も簡単な構成として、表面絞り溝部を等価溝深さとした円形くぼみのステップ絞りを用いることができる。この構成は、中心穴の周囲に窓部を設け、その外周側に一様深さで、中心穴から同心円状の円形くぼみを設けるものである。この場合には、平板可動子の円形くぼみに対応する部分の板厚が薄くなるので、変形が過度とならないように、円形くぼみの成形精度を管理することがよい。
【0075】
上記では、両面に有端有底溝である細溝を有する平板状可動子と、細溝を有しない薄板状可動子とを組み合わせた構成を説明したが、これを1種類の平板状可動子を用いる構成とすることもできる。その場合には、複数の平板状可動子として、その表面または裏面のいずれか一方表面にのみ、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有するものを用いる。
【0076】
図8は、そのような構成の微小変位出力装置100を示す図で、図9は、これに用いられる平板状可動子110を示す図である。図9に示されるように、この平板状可動子110は、円板状の部材112の表面111にのみ、中央部から外周部に向かって直線的に延びる細溝70が設けられる。その他の中心穴64、くぼみ66、窓部68は、図3で説明したものと同じ内容である。
【0077】
図8に示されるように、複数の平板状可動子110は、収納空間14の中に、中心軸40の軸方向に沿って整列配置される。この場合、平板状可動子110の細溝70が設けられる表面111が同じ方向を向くように配置される。例えば、各平板状可動子110の表面111がそれぞれ上蓋部30の側を向くように配置される。このようにすることで、平板状可動子110の細溝70が設けられる表面111と、これに隣接する平板状可動子110の細溝70が設けられない裏面とが向かい合い、この間の隙間に、窓部68を通ってきた気体が流れるようにすることができる。
【0078】
図8の構成においても、制御気体圧PSをΔP変化させて、隣接する平板状可動子110の間の隙間量Sを精度よくΔS変化させることができ、N個の隙間があるときは、全体の隙間量の変化量がN×ΔSとなる。また、上蓋部30と下蓋部34とを中心軸40の両端部にそれぞれ接続することで、微小変位出力装置10は、大気圧以外の気圧雰囲気でも使用可能となることも、同じである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る微小変位出力装置は、制御気体圧を供給して微小変位を出力する装置として利用できる。
【符号の説明】
【0080】
10,100 微小変位出力装置、12 筐体部、14 収納空間、16 底面部、18 くぼみ、20 気体連通穴、22 隙間空間、30 上蓋部、32 上押さえリング、34 下蓋部、36 下押さえリング、40 中心軸、42 出力可動子、44 出力伝達部、45,46 環状部材、50 気体供給口、52 排気口、60,90,110 平板状可動子、61,91,111 表面、62,82,112 (円板状の)部材、63 裏面、64,84 中心穴、68,88 窓部、70 細溝、72 終端部、80 薄板状可動子、81 波打ち変形、92 (曲線状の)細溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側が開口し筒状の収納空間を有する筐体部であって、底面部に気体連通穴を有し、底面部の裏側には外周部のフランジ部に囲まれ気体連通穴を介して筒状の収納空間と連通する底面側くぼみが設けられる筐体部と、
筐体部の先端側の開口を覆い、面弾性変形可能な薄板状の上蓋部と、
筐体部の底面側くぼみを覆い、面弾性変形可能な薄板状の下蓋部と、
上蓋部に上端部が接続され、下蓋部に下端部が接続される中心軸と、
中央部に中心軸を通す中心穴を有し、中心軸の軸方向に沿って複数整列配置され、中心穴の外側に気体が流れることができる窓部を有し、外形が筐体部の収納空間の内形よりも小さく、収納空間内に収納される複数の平板状可動子と、
中心軸の先端に一体化して設けられ、複数の平板状可動子の最先端側可動子に向かい合う気体受面を有し、外形が筐体部の収納空間の内形よりも小さく、収納空間内に収納され、出力に用いられる出力可動子と、
最先端側平板状可動子と出力可動子の気体受面との間の隙間と、隣接する平板状可動子の間の各隙間と、最後端側平板状可動子と筐体部の底面との間の隙間とに、それぞれ気体を供給し、筐体部に設けられる排気穴から排出させる気体供給手段と、
上蓋部において中心軸が接続される中央部に設けられ、中心軸を介する出力可動子の出力を外部に伝達すると共に、外部の負荷力によって中心軸を介して出力可動子に押付力を与える出力伝達部と、
を備え、気体供給手段から制御された気体圧を供給し、押付力と釣り合わせつつ各隙間の間隔を調整して、出力伝達部から微小変位を出力することを特徴とする微小変位出力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微小変位出力装置において、
整列配置される複数の平板状可動子の隣接する平板状可動子の間にそれぞれ配置され、中央部に中心軸を通す中心穴を有し、中心軸の軸方向に沿って複数整列配置され、中心穴の外側に気体が流れることができる窓部を有し、外形が筐体部の収納空間の内形よりも小さく、収納空間内に収納され、平板状可動子よりも薄い板厚を有する複数の薄板状可動子を備え、
複数の平板状可動子は、
その表面と裏面のそれぞれに、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有し、
窓部から流れる気体が有端有底溝と薄板状可動子との間の隙間に流れることを特徴とする微小変位出力装置。
【請求項3】
請求項2に記載の微小変位出力装置において、
複数の平板状可動子は、
その表面と裏面のそれぞれに窓部が設けられる中心部の部分がくぼみとなっていることを特徴とする微小変位出力装置。
【請求項4】
請求項2に記載の微小変位出力装置において、
複数の平板状可動子は、
窓部が設けられる中心部から外周側に向かって曲線状に延びて、相互に交差する複数の交差型の有端有底溝を有することを特徴とする微小変位出力装置。
【請求項5】
請求項1に記載の微小変位出力装置において、
複数の平板状可動子は、
その表面または裏面のいずれか一方表面にのみ、窓部が設けられる中心部から外周側に向かって放射状に延びる複数の有端有底溝を有し、
窓部から流れる気体が有端有底溝と、これに向かい合う隣接平板状可動子の他方表面との間の隙間に流れることを特徴とする微小変位出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−220481(P2011−220481A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92096(P2010−92096)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(503094070)ピー・エス・シー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】