説明

微小流動場撮影装置

【課題】装置又は部品の加工誤差又は製作誤差や、流体固有の屈折率の影響等に起因する画像データ取得の困難性を解消し、マイクロスケールの微小流動場の流体速度等を解析するために有効な画像を単一の撮像装置によって取得する。
【解決手段】微小流動場撮影装置は、微小流動場(M)の可視化流体の粒子画像を撮像する撮像装置(11)と、撮像装置に光学的に連結した顕微鏡(12)とを備える。複数の第1反射面(17,17a)と、第1反射面の各々に対面し且つ顕微鏡の光路に配置された複数の第2反射面(16,16a)とが顕微鏡と微小流動場との間に配置される。微小流動場撮影装置は、第1又は第2反射面の角度を調整する角度調整機構と、第1又は第2反射面の位置を調整する位置調整機構とを備える。微小流動場の粒子の反射光が第1及び第2反射面によって反射して顕微鏡内の光路に入射し、異なる視点から得られた同一粒子の複数の像が撮像装置の単一の結像面に結像する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小流動場撮影装置に関するものであり、より詳細には、流体を可視化して微小流動場の流体速度等を計測するための微小流動場撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体を可視化するためのトレーサ粒子をマーカとして流体の流れに混入し、流動場の流体速度等を計測する可視化計測技術が知られている。可視化計測技術として知られる直接撮影法においては、二重露光撮影又は高速度カメラ撮影や、パルスレーザ及びデジタルCCDカメラを用いたフレームまたぎ撮影等の方法によって、トレーサ粒子を短い時間間隔で連続撮影することにより、粒子の移動距離が測定される。粒子の速度は、移動距離を時間間隔で除すことによって演算される。
【0003】
PIV(Particle Image Velocimetry)技術は、流れの速度分布を調べる直接撮影法として普及している計測技法である。PIV計測技法によれば、シート光内における面内2成分の速度成分を計測することができる。
【0004】
しかしながら、実際の流動場における流れの態様は複雑であり、多くの流れは、3次元空間内の速度3成分を有する。このため、実際の速度計測においては、3次元速度の情報を得る必要が生じることが多いが、3次元計測を行うには、物理空間と像座標との対応関係を求めることが必須となる。
【0005】
物理空間と像座標との対応関係を求めるには、少なくとも2台のカメラを用い、異なる視点より流動場の画像を撮影する必要が生じる。
例えば、ステレオPIV技術は、特開2004−286733号(特許文献1)に記載される如く、ステレオ配置した2台のカメラを使用し、レーザシート光内の速度3成分を2台のカメラによって測定し、流体速度の2次元3成分を計測する計測技法である。
【0006】
他方、流体速度の3次元3成分を計測する技術として、ホログラフィックPIV技術が知られている(特開2007−298327号公報(特許文献2)、特開2005−315850号公報(特許文献3))。ステレオPIV技術が2次元計測技術であるのに対し、ホログラフィックPIV 技術は、3次元計測技術である点で優位性がある。
【0007】
特許文献2に記載されたホログラフィックPIV技術においては、2台のカメラの光軸が、計測対象の粒子に対して角度間隔を隔てた位置に配置される。粒子の干渉画像が2台のカメラによって撮像される。しかし、干渉画像を取得するためには、様々なレンズを用いて光路の調整を行う必要があり、装置構成又はシステム構成が複雑化する。
【0008】
これに対し、特許文献3に記載されたホログラフィックPIV技術によれば、2色のレーザ光を使用することにより、計測対象の3次元位置情報を1台のカメラによって取得することができる。しかし、特許文献2のホログラフィックPIV技術と同じく、特許文献3のホログラフィックPIV技術においても、干渉画像を取得するために様々なレンズを用いて光路の調整を行う必要があるので、装置構成又はシステム構成は複雑化する。しかも、2色のレーザ光を放射するレーザ装置は非常に高価であり、計測システムを構築するためのコストが増大する。
【0009】
更には、このようなホログラフィックPIV技術においては、ホログラム画像の取得及び画像データの処理に非常に多くの時間を要し、しかも、ホログラフィックで取得される画像はスペクトル画像であることから、計測によって得られた画像から直感的に移動量等を把握することができず、従って、全ての解析処理が終了するまで、計測結果の良否を判断することができないという難点がある。また、ホログラム画像はノイズに弱いという弱点があることが知られているが、ノイズのない画像を撮影することは難しく、このため、ノイズの影響によって計測結果の信頼性が損なわれることが懸念される。
【0010】
この他の3次元計測技術として、2台のカメラをステレオ配置し、或いは、3台以上のカメラを立体視配置し、3次元空間の個々のトレーサ粒子の速度3成分を測定する3次元PTV(Particle Tracking Velocimetry)技術が知られている。
【0011】
しかしながら、いずれの3次元計測システムにおいても、複数の撮像装置(カメラ)をステレオ配置し、照明装置及び各撮像装置に対して電源供給線及び制御信号線等を配線する必要があるので、システムの装置構成が複雑化するばかりでなく、撮影装置の設置スペース及び配線スペース等の確保のためにシステムの全体構成が大型化する傾向がある。しかし、マイクロスケールの微小流動場を計測する場合、計測対象が微小であるので、十分な機器設置スペース及び配線スペースや、十分な周辺機器配置空間等を確保し難い事情がある。
【0012】
また、ホログラフィックPIV(特許文献2及び3)には、システムの高額化、装置の複雑化、データ取得及びデータ処理の遅延、測定結果認識の遅延、ノイズの影響等の問題が前述の如く内在する。
【0013】
このため、本発明者等は、単一の撮像装置(カメラ)、ミラー及びプリズムによって微小流動場の流体速度等を計測する微小流動場撮影装置の研究・開発を継続的に行ってきた。このような構成の微小流動場撮影装置に関し、2つのミラー及びプリズムを用いて粒子の画像を複数の視点から1台の撮像装置によって取得する技術が、本発明者等の学術論文 「Development of Stereo Micro PTV and Its Application to a Rotating Disk Flow(8th International Symposium On Particle Image Velocimetry-PIV09)」(非特許文献1)において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−286733
【特許文献2】特開2007−298327
【特許文献3】特開2005−315850
【非特許文献1】学術論文 「Development of Stereo Micro PTV and Its Application to a Rotating Disk Flow(8th International Symposium On Particle Image Velocimetry-PIV09)」(H. J. Lee、S. Mitorida及び K. Nishino、 2009年8月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記非特許文献1に記載された技術は、微小流動場の流体速度等を計測するための粒子画像データを単一の撮像装置(カメラ)によって取得するという所期の研究目的を達成したが、計測領域を一辺約500μm程度の極めて微小な寸法に設定して顕微鏡の拡大倍率を増大すると、装置又は部品の加工誤差又は製作誤差の影響が顕在化し、速度解析等のために有効な画像データを取得し難いという問題が生じた。
【0016】
このような問題は、理論的には、加工精度及び製作精度の向上により回避し得るとも考えられる。しかし、現実には、加工精度及び製作精度をいかに向上し得たとしても、このような問題を解消するに至らないことが判明した。これは、計測領域が極めて微小寸法の領域であることに起因すると考えられる。
【0017】
また、マイクロスケールの微小流動場を測定する場合、流体固有の屈折率の影響によっても同様の問題が生じ得ることが更に判明した。
【0018】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、微小流動場の流体速度等を計測するための微小流動場撮影装置において、装置又は部品の加工誤差又は製作誤差や、流体固有の屈折率の影響等に起因する画像データ取得の困難性を解消し、マイクロスケールの微小流動場の流体速度等を解析するために有効な画像データを単一の撮像装置によって取得することができる微小流動場撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記目的を達成すべく、微小流動場の可視化流体の粒子像を撮像するための撮像装置と、該撮像装置に光学的に連結した顕微鏡と、該顕微鏡と前記微小流動場との間に配置された第1反射面及び第2反射面とを備え、前記可視化流体の流動速度を計測するための画像データを前記撮像装置によって取得する微小流動場撮影装置において、
複数の前記第1反射面と、該第1反射面の各々に対面し且つ前記顕微鏡の光路に配置された複数の前記第2反射面と、前記第1又は第2反射面の角度を調整する角度調整機構と、前記第1又は第2反射面の位置を調整する位置調整機構とを有し、
前記角度調整機構及び前記位置調整機構によって前記反射面の角度及び位置を調整し、前記微小流動場の同一粒子の反射光を前記第1及び第2反射面によって反射して前記顕微鏡内の光路に入射せしめ、異なる視点から得られた同一粒子の複数の像を前記撮像装置の単一の結像面に結像するようにしたことを特徴とする微小流動場撮影装置を提供する。
【0020】
本発明によれば、微小流動場撮影装置は、第1又は第2反射面の角度を調整する角度調整機構と、第1又は第2反射面の位置を調整する位置調整機構とを備えており、異なる視点より得られた同一粒子の複数の粒子像が撮像装置の結像面に結像するように粒子の反射光の光路を矯正することができる。このような光路矯正手段を備えた微小流動場撮影装置によれば、顕微鏡の拡大倍率を増大して計測領域を微小化した場合であっても、同一粒子の複数の粒子像を単一の撮像装置によって確実に取得することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の微小流動場撮影装置によれば、装置又は部品の加工誤差又は製作誤差や、流体固有の屈折率の影響等に起因する画像データ取得の困難性を解消し、マイクロスケールの微小流動場における流体速度の3次元3成分を解析するために有効な画像データを単一の撮像装置によって取得し、微小流動場の流体速度を計測することができる。また、本発明を3次元PTV計測システムのための微小流動場撮影装置に適用することにより、微小流動場における流体速度の3次元3成分のみならず、粒子位置及び粒子サイズ測定等、即ち、マイクロ物体の形状計測、マイクロ物体の変位計測及びマイクロ物体の変形計測のために有効な画像データを単一の撮像装置によって取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に係る微小流動場撮影装置を備えた3次元計測システムの構成を概略的に示すシステム構成図である。
【図2】図2は、微小流動場撮影装置の構成を概念的に示す概略縦断面図である
【図3】図3は、微小流動場撮影装置の構成を概念的に示す概略縦断面図であり、図2と直交する断面が示されている。
【図4】図4は、プリズム位置調整機構及びミラー角度調整機構を備えたステレオ光学アタッチメントの構造を示す平面図である。
【図5】図5は、図4に示すステレオ光学アタッチメントの正面図である。
【図6】図6は、図4に示すステレオ光学アタッチメントの右側面図である。
【図7】図7は、図4に示すステレオ光学アタッチメントの左側面図である。
【図8】図8は、図4のI−I線における断面図である。
【図9】図9は、図8のII−II線における断面図である。
【図10】図10は、図4のIII−III線における断面図である。
【図11】図11は、ミラー位置調整用螺子の緊締構造を示す縦断面図である。
【図12】図12は、プリズム及びミラーの調整方向を示す縦断面図である。
【図13】図13は、プリズム及びミラーの調整方向を示す横断面図である。
【図14】図14は、微小流動場撮影装置の変形例を概念的に示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好適な実施形態によれば、上記角度調整機構は第1反射面の角度を調整し、上記位置調整機構は第2反射面の位置を調整する。
【0024】
好ましくは、第1反射面の位置を調整する第2の位置調整機構が更に設けられる。更に好ましくは、角度調整機構は、顕微鏡の光軸に対して垂直な軸線を中心として第1反射面の角度を調整し、位置調整機構は、顕微鏡の光軸と平行な方向に第2反射面の位置を調整するとともに、顕微鏡の光軸に対して垂直な面内における第2反射面の位置を調整する。
【0025】
本発明の更に好適な実施形態によれば、上記第1反射面は、角度調整機構によって角度調整可能に支持されたミラーの反射面からなり、上記第2反射面は、位置調整機構によって位置調整可能に支持され且つ顕微鏡の光路に配置されたプリズム又はミラーの反射面からなる。
【0026】
好ましくは、顕微鏡の光軸上に配置されたプリズムによって複数の第2反射面が形成されるとともに、顕微鏡の光軸に対して垂直な方向にプリズムから離間した複数のミラーによって第1反射面が形成される。粒子から反射した反射光の光路は、プリズムとミラーとの間に形成される。
【0027】
所望により、光源の照明光を微小流動場に向かって反射する第3反射面が、第2反射面の支持体に取付けられる。変形例として、微小流動場のための照明光を顕微鏡の同軸落射照明によって微小流動場に照射しても良い。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、角度調整機構及び/又は位置調整機構は、反射面の支持体を弾力的に保持する弾性体と、支持体を相対変位可能に支承する支承面と、支持体を支承面に対して相対変位せしめる調整具とを有する。弾性体は支持体を支承面に対して弾力的に付勢し、支持体は支承面に面接触する。調整具は、支持体を押圧して支持体を変位させ、支承面は、支持体の変位の方向を規制する。
【0029】
好ましくは、上記反射面と、反射面の支持体と、支持体を支持する基盤とを備えた光学的アタッチメントが顕微鏡と微小流動場との間に配置される。基盤の位置は、撮像装置及び顕微鏡に対して固定される。
【実施例1】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る微小流動場撮影装置を備えた3次元計測システムの構成を概略的に示すシステム構成図である。図2及び図3は、微小流動場撮影装置の構成を概念的に示す概略断面図である。
【0032】
図1に示す3次元計測システムは、微小流動場撮影装置1、PC(パーソナルコンピュータ)2、ディレイジェネレータ3、ファンクションジェネレータ4、レーザ装置5及びファイバースコープ6を有する。微小流動場撮影装置1は、撮像装置11、顕微鏡12及びステレオ光学アタッチメント10から構成される。
【0033】
撮像装置11は、制御信号線(二点鎖線で示す)によってPC2に接続される。PC2は、制御信号線によってディレイジェネレータ3に接続される。ディレイジェネレータ3は、制御信号線によってファンクションジェネレータ4、レーザ装置5及び顕微鏡12に接続される。レーザ装置5には、ファイバースコープ6が接続され、ファイバースコープ6の出射部7は、計測領域Mの流体に対して撮影用の照明光を供給する。計測領域Mは、マイクロスケールの流動場であり、一辺が1mm以下、例えば、約500μm程度の正立方体領域である。
【0034】
計測領域Mは、ステレオ光学アタッチメント10の直下に位置する。計測対象の流体が計測領域Mを流動する。流体に含まれたトレーサ粒子P(図2及び図3)の反射光(矢印で示す)が、ステレオ光学アタッチメント10を介して顕微鏡12の対物レンズ13に入射する。顕微鏡12の対物レンズ13として、例えば、ミツトヨ製対物レンズ「M PIAN APO SL 20×, NA0.28」を好適に使用し得る。
【0035】
顕微鏡12の光軸は鉛直方向に設定されており、顕微鏡12の上端部は撮像装置11に接続される。撮像装置11は、画像データを取得可能なデジタルCCDカメラからなる。顕微鏡12によって拡大された粒子画像は、撮像装置11の結像面(図示せず)に結像する。
【0036】
流体の運動は、トレーサ粒子Pの運動として可視化され、撮像装置11によって撮影される。PC2は、撮像装置11の画像を保存するとともに、粒子画像処理アルゴリズムを用いてトレーサ粒子Pの移動速度等、即ち、流体の流速等を演算する。
【0037】
撮像装置11として、例えば、以下の高解像度デジタルCCDカメラを好適に使用し得る。
・製品名:JAI社製「jAi CV-M2CL」
・有効画素数:1600(h)×1200(v)
・CCD素子サイズ:11.8mm(h)×8.9mm(v)
・ビット数:10bit
・撮影速度:30fps/dual channel
【0038】
レーザ装置5として、ダブルパルスNd:YAGレーザ(ネオジウム・ヤグレーザ)等が使用される。例えば、以下のNd:YAGレーザをレーザ装置5として好適に使用し得る。
・製品名:Continuum社製Surelite Q-switched Nd:YAG Laser
・最高発光周波数:15Hz
・出力:170mJ/pulse@532nm
・パルス幅:4〜6ns
【0039】
所望により、顕微鏡12は、レーザ光をカットし且つ螢光を通過させるレーザ光フィルタ14を備える。レーザ光フィルタとして、例えば、ルーゲート・ノッチフィルタを好適に使用し得る。ルーゲート・ノッチフィルタは519nm〜545nmの光をカットし、95%以上の蛍光通過率を有する。
【0040】
ディレイジェネレータ3のトリガ信号を受信したレーザ装置5は、ダブルパルスレーザを照明光としてファイバースコープ6に供給する。照明光は、ファイバースコープ6の光ファイバに導かれ、出射部7から計測領域Mの流体に照射される。
【0041】
PC2は、撮像装置11によって撮影された画像の画像データを読み込んで記憶し且つ画像データを保存するとともに、ディレイジェネレータ3の微少時間間隔の長さを調整する。ディレイジェネレータ3は、レーザ装置5のパルス間隔を制御する。ディレイジェネレータ3としてフローテック・リサーチ社製「VSD1000」、出力チャネル数:7chを好適に使用し得る。
【0042】
ファンクションジェネレータ4は、レーザ装置5の出力周波数を任意の周波数に制御する。ファンクションジェネレータ4として、例えば、Tektronix社製FG3021Bを好適に使用し得る。
【0043】
図2及び図3には、ステレオ光学アタッチメント10の構成が概略的に示されている。
【0044】
ステレオ光学アタッチメント10は、対物レンズ13の直下に位置するプリズム16と、プリズム16の両側に配置された一対のミラー17と、プリズム16を支持する支持部材18と、支持部材18の下面に取付けられたプリズム19とを有する。
【0045】
照明光の光路が図3に矢印で示されている。ファイバースコープ6の出射部7は照明光を水平方向に出射する。プリズム19の反射面19aは、照明光を鉛直下方に反射し、計測領域Mに向かって光の進行方向を変換する。流体に混入したトレーサ粒子Pは、計測領域Mに入射した照明光を散乱光として反射する。
【0046】
トレーサ粒子Pと対物レンズ17との間における反射光の光路が図2に矢印で示されている。トレーサ粒子Pの反射光は散乱光であるが、図2には、対物レンズ13に入射する反射光の光路のみが矢印で示されている。
【0047】
左右のミラー17の反射面17aはトレーサ粒子Pの反射光をプリズム16の反射面に向かって水平方向に反射し、光の進行方向を変換する。プリズム16の左右の反射面16aは、左右のミラー17が反射した反射光を鉛直上方に反射し、対物レンズ13に向かって光の進行方向を変換する。プリズム16の左右の反射面16aが反射した反射光は、実質的に平行に対物レンズ13に入射し、顕微鏡12によって拡大され、撮像装置11の結像面(図示せず)に結像する。
【0048】
即ち、左右一対の光路が左右一対の反射面17a、16aによって形成されるので、トレーサ粒子Pの反射光(散乱光)は、異なる視点より得られたトレーサ粒子Pの反射光として顕微鏡12に入射する。この結果、撮像装置11の結像面には、異なる視点から撮像した単一トレーサ粒子Pの2つの像が結像する。かくして、上記構成の微小流動場撮影装置1によれば、異なる視点より撮像した単一トレーサ粒子Pの2つの像を含む1枚の画像データを単一の撮像装置11によって取得することができる。
【0049】
図4、図5、図6及び図7は、ステレオ光学アタッチメント10の構造を示す平面図、正面図、右側面図及び左側面図である。図8及び図9は、図4のI−I線及び図8のII−II線における断面図であり、図10は、図4のIII−III線における断面図である。
【0050】
ステレオ光学アタッチメント10は、基盤20、プリズム保持機構30及びミラー保持機構50を備える。プリズム保持機構30は、プリズム16を位置調節可能に支持する位置調整機構を構成する。ミラー保持機構50は、プリズム16の両側に対をなして配置され、各ミラー17を角度調節可能に夫々支持しており、角度調整機構を構成する。
【0051】
基盤20は、微小流動場撮影装置1の所定位置に水平に配置される。基盤20の位置は、微小流動場撮影装置1のフレーム(図示せず)等によって固定される。なお、図4〜図10には、基盤20の幅方向、奥行方向及び高さ方向がX方向、Y方向及びZ方向として示されている。
【0052】
プリズム保持機構30は、固定螺子21によって基盤20の上面に固定された支柱31と、支柱31によって上下変位可能に支持されたキャリヤ32とを備える。図8に示す如く、支柱31は、キャリヤ32のガイド部33を上下方向(鉛直方向)に案内するガイド溝34を有する。垂直な調整螺子35が支柱31の頂壁部分36を貫通してガイド部33の上端面に当接する。スプリング保持具37が支柱31の下部に形成され、圧縮コイルスプリング38が、ガイド部33の下端面とスプリング保持具37との間に介装される。調整螺子35の締付け力は、スプリング38の弾性反発力に抗してガイド部33を下方に押圧する。ガイド部33、ガイド溝34、調整螺子35及びスプリング38は、プリズム16の上下位置調整機構を構成し、調整螺子33を締付けてガイド部33を下方に変位させることにより、プリズム16を全体的に鉛直下方(Z方向下方)に変位させることができ、調整螺子33を緩めて保持具37を上方に変位させることにより、プリズム16を全体的に鉛直上方(Z方向上方)に変位させることができる。
【0053】
キャリヤ32は、水平位置調整機構40を介して支持部材18を支持する。水平位置調整機構40は、円形断面の水平軸部41と、圧縮状態の皿ばね形スプリング42と、水平軸部41の基端部に一体化した拡大基部43と、支持部材18との連接部に形成された円弧状支承面44とを有する。水平軸部41は、キャリヤ32の水平貫通孔45を貫通する。水平軸部41の先端部分に形成された螺子部46が、支持部材18の螺子孔18aに螺入する。水平軸部41と支持部材18とは、螺子部46及び螺子孔18aの締結によって一体的に連結される。支持部材18には、円弧状支承面44に面接触する円弧状支承面47が形成される。支承面44、47は、実質的に同じ鉛直方向(Z方向)の曲率中心軸線を有し、支持部材18は、この曲率中心軸線を中心として水平変位することができる。
【0054】
図9に示す如く、水平な螺子孔48が水平軸部41の両側に対称に形成される。螺子孔48は、キャリヤ32の壁体をX方向に貫通する。調整螺子49が各螺子孔48に螺入し、調整螺子49の先端部が軸部41に当接する。片側の調整螺子49を締付け且つ反対側の調整螺子49を解放して軸部41を変位させると、軸部41は、キャリヤ32に対してX方向に相対変位する。支承面44、47は、スプリング42の弾性反発力によって摺接状態を維持するので、支持部材18は、軸部41の水平変位に相応して水平変位する。支持部材18の水平変位は、支持部材18の先端部に配置されたプリズム16、19のX方向の水平変位を生じさせる。
【0055】
図4に示すように、ミラー保持機構50の筐体51を支持するための支持アーム22、23が、基盤20の上面に配置される。筐体51は、X方向の長軸を有する概ね直方体の外形を有する。ミラー保持機構50は、プリズム16の両側に対称に配置され、ミラー17を角度調整可能に支持する。
【0056】
図4において右側に位置するミラー保持機構50の筐体51は、固定螺子21によって支持アーム22に固定される。他方、図4において左側に位置するミラー保持機構50の筐体51は、支持アーム23と筐体51とをX方向に相対変位可能に支持する螺子25によって支持される。
【0057】
図11は、螺子25の緊締構造を示す断面図である。
【0058】
支持アーム23に穿設された螺子孔26は、X方向に細長い水平断面を有する。ばね座金27が、螺子25の螺子頭と筐体51の上面との間に介挿される。筐体51は、螺子25の外面と螺子孔26の内面との間に形成された間隙28により、支持アーム23に対してX方向に相対変位することができる。
【0059】
支持アーム23及び筐体51をX方向に相対変位させるX方向調整機構70の構成が、図10に示されている。X方向調整機構70は、第2の位置調整機構を構成する。
【0060】
X方向調整機構70は、筐体51の上面に一体的に形成された突出部71と、突出部71に当接する左右一対の調整螺子73とから構成される。突出部71は、支持アーム23の下面に形成された凹所74内に配置され、調整螺子73は、X方向に延びる螺子孔72内に螺入し、突出部71に当接する。筐体51は、左右の調整螺子73の螺込み位置に相応してX方向に変位する。
【0061】
図10には、左右のミラー保持機構50の構造が示されている。前述のとおり、ミラー保持機構50は、角度調整機構を構成する。
【0062】
ミラー保持機構50は、ミラー17を支持する半球形保持具52と、X方向に延びる円形断面の水平軸部53とを備える。ミラー17は、保持具52の凹所内に固定される。保持具52の中心部には、X方向に延びる貫通孔54が穿設され、水平軸部53は、貫通孔54内に水平に配置される。水平軸部53の先端部は保持具52に一体的に連結される。概ね正方形断面の外管55が水平軸部53の基端部に固定される。圧縮コイルスプリング56が、外管55の先端面55aと、貫通孔54内の段部54aとの間に介挿される。スプリング56は、水平軸部53及び外管55をX方向外方に付勢する。
【0063】
調整螺子57が筐体51の螺子孔58に螺入する。調整螺子57の先端部は、外管55の外面に当接する。調整螺子57は、図6及び図7に示すように90度の角度間隔を隔てて配置され、外管55をY方向及びZ方向から拘束する。
【0064】
水平軸部53の基端部は、各調整螺子57の螺子込み位置に相応してY方向及びZ方向に変位するので、水平軸部53は、X方向の中心軸線に対してY方向又はZ方向に傾斜する。
【0065】
図10に示すように、筐体51の先端面には、保持具52の半球形面と相補する形態の半球形凹所51aが形成され、保持具52の半球形表面は、半球形凹所51aの内面と摺接する。保持具52は、水平軸部53の傾斜に従って半球形凹所51a内で回動し、ミラー17の角度を変化させる。
【0066】
図12及び図13は、プリズム保持機構30、水平位置調整機構40、ミラー保持機構50及びX方向調整機構70によるプリズム16及びミラー17の調整方向を示す縦断面図及び横断面図である。
【0067】
図12及び図13には、プリズム保持機構30、水平位置調整機構40、ミラー保持機構50及びX方向調整機構70によるプリズム16及びミラー17の調整方向α、β、γ、ηが示されている。このような調整機構を備えた微小流動場撮影装置1によれば、計測領域Mと撮像装置11の結像面との間の光路を微修正又は微調整することができるので、装置又は部品の加工誤差又は製作誤差や、計測対象の流体の相違による取得画像データの影響を解消し、マイクロスケールの微小流動場の流体速度を解析するために有効な画像を単一の撮像装置11によって確実に取得することができる。
【0068】
図14は、微小流動場撮影装置1の変形例を概念的に示す概略断面図である。
【0069】
図14に示す微小流動場撮影装置1は、破線で示す顕微鏡12の落射照明をプリズム16及びミラー17によって計測領域Mに照射するとともに、トレーサ粒子Pの反射光をプリズム16及びミラー17によって顕微鏡12に入射させる構成を有する。その他の構成は、前述の実施例と同一である。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0071】
例えば、上記実施例では、中央部に配置したプリズムの反射面を第2反射面として使用しているが、プリズムと同等の機能を有する複数のミラーによって第2反射面を形成しても良い。
【0072】
また、上記実施例では、各調整機構は、手動操作される構造の機構であるが、遠隔操作又は自動制御される構成を備えた調整機構を採用することも可能である。
【0073】
更には、上記実施例おいては、プリズムの両側に一対のミラーを備えた構成について説明したが、3つ以上のミラーを備えた構成を採用しても良い。この場合、3つ以上のミラーの反射光を顕微鏡の対物レンズに向けて反射する3つ以上の反射面が上記プリズムの位置に配置される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の微小流動場撮影装置は、1mm以下、例えば、約500μm程度の寸法に設定されたマイクロスケールの微小流動場を流動する可視化流体の流速の3次元3成分計測を行うための微小流動場撮影システムに好適に使用される。また、本発明を3次元PTV計測のための微小流動場撮影システムに適用することにより、微小流動場における流体速度の3次元3成分のみならず、粒子位置測定及び粒子サイズ測定等、即ち、マイクロ物体の形状計測、マイクロ物体の変位計測及びマイクロ物体の変形計測のために有効な画像データにも有効な画像データを単一の撮像装置によって取得することができる。従って、本発明の微小流動場撮影装置によれば、複数の撮像装置、複雑な制御系及び制御機構、多大な部品点数、大形の装置構成等を要することなく、しかも、部品又は機構に関する過度の加工精度又は製作精度を要することなく、既存の顕微鏡システムに改造を施すことなく、本発明を適用し、或いは、本発明に係るステレオ光学アタッチメントを装着することによって、微小流動場の3次元流速計測や、粒子位置計測、粒子サイズ計測等のマイクロ物体形状計測、マイクロ物体変位計測及びマイクロ物体変形計測を行うことが可能となるので、本発明の実用的価値には顕著なるものがある。
【符号の説明】
【0075】
1 微小流動場撮影装置
2 PC(パーソナルコンピュータ)
3 ディレイジェネレータ
4 ファンクションジェネレータ
5 レーザ装置
6 ファイバースコープ
7 出射部
10 ステレオ光学アタッチメント
11 撮像装置
12 顕微鏡
13 対物レンズ
14 レーザ光フィルタ
16 プリズム
16a 反射面(第2反射面)
17 ミラー
17a 反射面(第1反射面)
18 支持部材
20 基盤
30 プリズム保持機構(位置調整機構)
40 水平位置調整機構
50 ミラー保持機構(角度調整機構)
70 X方向調整機構(第2の位置調整機構)
M 計測領域
P トレーサ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流動場の可視化流体の粒子像を撮像するための撮像装置と、該撮像装置に光学的に連結した顕微鏡と、該顕微鏡と前記微小流動場との間に配置された第1反射面及び第2反射面とを備え、前記可視化流体の流動速度を計測するための画像データを前記撮像装置によって取得する微小流動場撮影装置において、
複数の前記第1反射面と、該第1反射面の各々に対面し且つ前記顕微鏡の光路に配置された複数の前記第2反射面と、前記第1又は第2反射面の角度を調整する角度調整機構と、前記第1又は第2反射面の位置を調整する位置調整機構とを有し、
前記角度調整機構及び前記位置調整機構によって前記反射面の角度及び位置を調整し、前記微小流動場の粒子の反射光を前記第1及び第2反射面によって反射して前記顕微鏡内の光路に入射せしめ、異なる視点から得られた同一粒子の複数の像を前記撮像装置の単一の結像面に結像するようにしたことを特徴とする微小流動場撮影装置。
【請求項2】
前記角度調整機構は、前記第1反射面の角度を調整し、前記位置調整機構は、前記第2反射面の位置を調整することを特徴とする請求項1に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項3】
前記第1反射面の位置を調整する第2の位置調整機構を更に有することを特徴とする請求項2に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項4】
前記角度調整機構は、前記顕微鏡の光軸に対して垂直な軸線を中心として前記第1反射面の角度を調整し、前記位置調整機構は、前記顕微鏡の光軸と平行な方向に前記第2反射面の位置を調整するとともに、前記顕微鏡の光軸に対して垂直な面内における前記第2反射面の位置を調整することを特徴とする請求項2に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項5】
前記第1反射面は、前記角度調整機構によって角度調整可能に支持されたミラーの反射面からなり、前記第2反射面は、前記位置調整機構によって位置調整可能に支持され且つ前記顕微鏡の光路に配置されたプリズム又はミラーの反射面からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項6】
前記顕微鏡の光軸上に配置されたプリズムによって複数の前記第2反射面が形成され、前記光軸に対して垂直な方向に前記プリズムから離間した複数のミラーによって前記第1反射面が形成され、前記プリズムと前記ミラーとの間には、前記粒子から反射した反射光の光路が形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項7】
光源の照明光を前記微小流動場に向かって反射する第3反射面が、前記第2反射面の支持体に取付けられたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項8】
前記微小流動場の照明光が、前記顕微鏡の同軸落射照明によって前記微小流動場に照射されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項9】
前記角度調整機構及び/又は前記位置調整機構は、前記反射面の支持体を弾力的に保持する弾性体と、前記支持体を支承し且つ前記支持体の変位の方向を規制する支承面と、前記支持体が前記支承面に対して相対変位するように該支持体を押圧する調整具とを有し、前記弾性体は、前記支持体が前記支承面に面接触するように該支持体を前記支承面に対して弾力的に付勢することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の微小流動場撮影装置。
【請求項10】
前記反射面と、該反射面の支持体と、該支持体を支持する基盤とを備えた光学的アタッチメントを前記顕微鏡と前記微小領域との間に配置し、前記基盤の位置を前記撮像装置及び顕微鏡に対して固定したことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の微小流動場撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−247601(P2011−247601A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117872(P2010−117872)
【出願日】平成22年5月22日(2010.5.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業「ナノミクロ材料工学と光画像計測技術による3次元マイクロシステムのラピッド製造と機能評価」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(508292604)株式会社フローテック・リサーチ (3)
【Fターム(参考)】