説明

微細パターン基材の洗浄方法

【課題】微細パターン基材にダメージを与えることなく、基材表面のゴミ、異物を除去することを可能にする。
【解決手段】微細パターンを有する微細パターン基材1の微細パターンの表面を洗浄保護膜3で被膜する工程と、洗浄保護膜の洗浄を行う工程と、洗浄保護膜を除去する工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク製造用スタンパ、パターンド磁気記録媒体製造用スタンパ、微細回路パターンを有する各種半導体ウエハ等の、微細パターン基材の基材表面に付着したゴミ、異物を除去する微細パターン基材の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク製造用スタンパ、パターンド磁気記録媒体製造用スタンパ、微細回路パターンを有する各種半導体ウエハ等の、微細パターン基材の基材表面に付着したゴミ、異物を除去する微細パターン基材の洗浄方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法は超音波洗浄により基材を洗浄した後に、最終洗浄方法としてスチーム洗浄を行うものである。
【0003】
また、特許文献2には洗浄による基材へのダメージを抑制する手法が開示されている。この方法は水酸化アンモニウム溶液中にオゾンを供給し、シリコンウエハへのエッチングダメージを抑制するものである。
【特許文献1】特開平4−205737号公報
【特許文献2】特開昭57−204132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが超音波洗浄では超音波により発生する気泡(キャビテーション)の効果による洗浄方法のため十分な異物除去能力を持たない。また洗浄槽内に存在する超音波の定在波が基材表面を叩き、ダメージを加えてしまうという問題がある。
【0005】
また、薬液洗浄へのダメージ抑制剤の添加による手法では、基材へダメージを与える洗浄剤そのものが存在しているため、抑制剤によってダメージを軽減することはできても完全にダメージを無くすことはできない。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、微細パターン基材にダメージを与えることなく、基材表面のゴミ、異物を除去することのできる微細パターン基材の洗浄方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による微細パターン基材の洗浄方法は、微細パターンを有する微細パターン基材の前記微細パターンの表面を洗浄保護膜で被膜する工程と、前記洗浄保護膜の洗浄を行う工程と、前記洗浄保護膜を除去する工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細パターン基材にダメージを与えることなく、基材表面のゴミ、異物を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による微細パターン基材の洗浄方法を、図1乃至図 を参照して説明する。本実施形態の洗浄方法は、微細パターン基材として、パターンド磁気記録媒体用ナノインプリントスタンパを例にとって説明する。
【0011】
図1に、本実施形態の洗浄方法を施す前のスタンパ1の断面を示す。スタンパ1は電子線描画法により微細パターンが描かれたシリコン原盤を元に電鋳により作製されたNiスタンパであり、シリコン原盤から剥離された際にゴミや異物が表面に付着した状態にある。なお、本実施形態の洗浄方法に先立って、純水リンス洗浄、乾燥窒素ブロー処理など基材表面にダメージを与えないレベルの事前洗浄プロセスを経てもよいが、異物を完全に除去することはできない。事前洗浄として2分間純水リンス洗浄を行った後のNiスタンパ表面の外観写真を図2に示す。図2は、ビジョンサイテック社製微細欠陥可視化検査装置マイクロマックスVMX−3100を用いて撮影した写真である。サーボパタン模様の間に異物が付着していることがわかる。図1には、この異物2が付着した状態を示している。なお、スタンパ1の微細パターンは、凹凸高さが55nm、記録トラックランド幅が65nm、グルーブ幅が55nm、ピッチが120nmであった。直径60nm以下の大きさの異物は発見できなかった。
【0012】
このように、事前洗浄を施して異物が付着したスタンパ1に本実施形態の洗浄方法を施す。図3乃至図6に本実施形態による洗浄方法の第一乃至第三の工程を示す。
【0013】
まず、図3に示すように、異物が付着したスタンパ1の微細パターンを被服し、異物までも覆う洗浄保護膜3を形成する。この洗浄保護膜3は、次の工程で施す洗浄工程が酸、アルカリなどの薬液洗浄のみである場合は薬液耐性を持てばよい。しかし、本実施形態のようにスクラブ洗浄、研磨テープバニッシュ処理など洗浄能力に優れた物理的な洗浄方法を施すことを想定すれば、洗浄保護膜3としては、硬度や耐摩耗性に優れた材料が望ましい。また第三の工程において、基材と容易に選択除去可能となる材料が好ましい。これらの条件を満たす材料としてTa、Ti、W、Mo、Crの金属単体あるいは2種以上の金属化合物、あるいはそれらの窒素化合物が挙げられる。これらの金属は、とりわけ窒化物においては十分な硬度、耐摩耗耐性を持ち、反応性DCスパッタリングにより簡便に膜を形成できる。またCrに関してはCl系ガス材料によって、それ以外の金属はフッ素系ガス材料ドライエッチングによって簡便に除去可能である。またAl、SiO、SiNも望ましい材料として挙げられる。これらの酸化物、窒化物は、十分に硬いうえ被服性もよく、高周波スパッタリングにより膜を形成できる。フッ素系ガス材料により簡便に除去可能である。
【0014】
しかし、本実施形態の洗浄方法においては、洗浄保護膜3として、望ましい材料は炭素である。炭素はダイアモンドライクカーボン(DLC膜またはaCH膜)と呼ばれるアモルファスカーボン、テトラヘドラルアモルファスカーボン(ta−C膜)などの硬質カーボン膜に用いられ、硬度や対摩耗性能において非常に優れた性質を持つ。また、これらの硬質カーボン膜に、水素、窒素、フッ素、ホウ素のいずれか1つ以上を含有することにより更に硬度を増し、洗浄をより円滑に行えるような潤滑性をもたらすことも可能である。また、これらの硬質カーボン膜を形成する際にはスパッタリングやプラズマCVD法、アーク蒸着法、PVD(物理気相成長法)法など一般的に被覆性能に優れた形成手法を用いるため、微細パターンを十分に被服することが可能となる。また、炭素は酸素と容易に反応し、除去することが可能である。本実施形態ではキャノンアネルバ製回転マグネトロンDCスパッタ装置C−3010により窒素流量をArに対して5%〜15%添加した雰囲気中で反応性DCスパッタリングを行い、耐摩耗性、潤滑性に優れた窒化アモルファスカーボン(aCN)を形成した。
【0015】
なお、堆積する洗浄保護膜の厚さが不十分である場合、十分な保護能力を持たないため洗浄ダメージを遮断しきれず、傷、スクラッチ、微細パターン破断などの現象を引き起こす。また必要以上に厚い膜厚である場合、本来除去されるべきゴミ、異物に対しても保護膜として機能してしまい、洗浄能力が機能しなくなる。また除去する膜厚も増加することとなりコスト、手間を考えて不利である。本実施形態で用いる洗浄方法において、微細パターンに対しては洗浄ダメージを遮断する保護膜として機能し、異物の付着部分においては洗浄プロセスにおいて異物と一緒に脱離するために、洗浄保護膜の堆積膜厚は1nm〜20nmが望ましい。洗浄保護膜として硬質アモルファスカーボン膜を用いると、より膜強度、耐摩耗性に優れるため、1nm〜10nm程度がより望ましい膜厚となる。本実施形態において形成した窒化アモルファスカーボン膜の膜厚は5nmである。
【0016】
次に、上記第一の工程が終了すると、第二の工程を行う。この第二の工程は、図4に示すように、回転式ステージ(スピンドル)にスタンパ1を設置し、回転させた状態で研磨テープバニッシュ処理を施す。ここで、研磨テープ5としてセラミック砥粒研磨テープであるMipox製AWA15000(番手#15000、研磨材径0.3μm、テープ幅1/2インチ)を用いる。研磨テープ5は、押し付け面積50mm、硬度25度のウレタンスポンジからなる押し付けパッド4を用いて150gfの荷重にて押し付ける。スピンドル回転数は研磨テープ5に対して線速度が6m/sec一定になるように制御し、スタンパ1の外周端から内周端、再び外周端に0.1mm/secの速度で移動させスタンパ1の全面をバニッシュ処理する。
【0017】
このテープバニッシュ処理により、スタンパ1の表面に強固に付着したゴミ等の異物2は洗浄保護膜3と一緒に研磨洗浄され、研磨テープ5側に付着除去される。研磨テープ5に除去されなかったものは大気中に弾き飛ばされるか、スタンパ1上におだやかに再付着する。再付着する量はスタンパ1の材料と洗浄保護膜3において最適することが可能であり、研磨材料をダイヤモンド砥粒やアルミナ砥粒に、番手を#4000〜20000、押し付け荷重を5gf〜250gfに、また研磨テープ5のスタンパ1の半径方向へのシーク速度を0.01〜10mm/sec、研磨テープ5とスタンパ1の線速度を0.5m/sec〜30m/sec内で最適化することにより抑制することが可能である。本実施形態の条件では再付着はわずかしか見られなかった。また、異物が削り取られるような強い洗浄プロセスであるにも関わらずスタンパ1そのものに傷、スクラッチなどは発生しない。
【0018】
バニッシュ条件によらずスタンパ1への異物2の再付着がある場合、上記テープバーニッシ処理の後に、さらにスクラブ洗浄を行ってもよい。スクラブ洗浄は典型的には、回転ステージ上にスタンパを設置し、500rpm程度でスタンパ1を回転させた状態で超純水や表面活性剤を供給しながらベルクリンブラシ6を押し当て、こすり洗いを3分程度施し、その後メガソニックノズル流水洗浄を2分間程度施した後、2500rpmにて2分間程度スピン乾燥処理を行えばよい(図5参照)。これにより、スタンパ上に再付着したゴミ、異物は洗い流され、清浄なスタンパ表面が得られる。本実施形態ではバニッシュ洗浄によるわずかな再付着はスクラブ洗浄により除去され、清浄なスタンパ表面が得られた。異物が除去された部分は洗浄保護膜2の形成された厚さの分だけ凹状の欠陥を新たに生じる。
【0019】
また、本実施形態では、洗浄処理として、テープバーニッシ処理を行ったが、このテープバーニッシ処理の代わりにスクラブ洗浄を行ってもよい。そして、さらに、テープバーニッシ処理を行ってもよい。
【0020】
次に、洗浄保護膜2を除去する第三の工程を行う。この第三の工程では、5×10−3Pa以下の高真空中にスタンパ1を設置し、純酸素を0.1Paになるように調整して供給し、RFプラズマを発生させて30秒間曝することにより洗浄保護膜3である硬質炭素膜を完全に除去する(図6参照)。これにより、第二の工程で異物2が除去されたことによって発生した新たな凹状欠陥が除去され、完全に清浄な微細パターンを持つスタンパ1の表面が得られる。この除去工程は、上記酸素RIE処理のほかに酸素イオン処理など洗浄保護膜3を除去しうる反応子を供給できればよい。とりわけ大気あるいは酸素雰囲気化でUV(紫外線)照射を行いオゾン処理する、あるいは酸素雰囲気化で加熱処理(アニール)するなどの手法は炭素を除去するより簡便な手法として選択してよい。ただし、これらのプロセスにより新たなゴミ、異物の付着の無いよう清浄な環境で行う必要がある。また、洗浄保護膜を除去する工程は、酸素ガス、フッ素系ガス、これらの混合ガスのいずれかの雰囲気下で、プラズマ処理、UV処理、アニール処理のいずれかの処理を用いて行ってもよい。
【0021】
図7に5枚のスタンパに対して本実施形態の洗浄手法を施す前と施した後のスタンパ1の表面上の異物数を示す。異物の確認はビジョンサイテック社製微細欠陥可視化検査装置マイクロマックスVMX−3100で行う。マイクロマックスは簡便に20nm以上の異物、欠陥を可視化することが可能である。なお異物数は直径48mmのハードディスク基板用ナノインプリント用スタンパの全面にて計測した。図7からわかるように、本実施形態の洗浄方法を施すことによって、スタンパ(微細パターン基材)1にダメージを与えることなく、基材1の表面のゴミ、異物を除去することができる。
【0022】
図8に本実施形態の洗浄方法に係る第三の工程までを施したスタンパ1のマイクロマックスによる異物観察写真を記す。洗浄前である図2の写真では異物、ゴミが白点状に多数観察されているが、本実施形態の洗浄方法を用いることにより、異物が完全に除去されている様子がわかる。また、洗浄保護膜3のダメージ遮断能力を評価するために洗浄保護膜を付与せずに洗浄プロセスのみを行った後のスタンパ表面のマイクロマックス写真を図9に示す。研磨テープによるスクラッチ傷がスタンパ全面に激しく発生し、パターンそのものが消失していることがわかる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、微細パターン基材にダメージを与えることなく、基材表面のゴミ、異物を除去することができる。
【0024】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の洗浄方法を説明する。本実施形態の洗浄方法は、第1実施形態の洗浄方法において、微細パターン基材として、第1実施形態で説明したスタンパの代わりに、このスタンパを作成するためのSi原盤を用いたものである。
【0025】
微細パターン基材がSi原盤であっても、第1実施形態と同様に、微細パターン基材にダメージを与えることなく、基材表面のゴミ、異物を除去することができる。
【0026】
以上説明したように、本発明の各実施形態の洗浄方法は、洗浄すべき微細パターン基材の表面に洗浄によるダメージを遮断する洗浄保護膜を形成する第一の工程と、微細パターン基材そのものにはダメージを与えうるが十分な異物除去能力を持つ洗浄方法を施す第二の工程と、上記洗浄保護膜を除去する第三の工程を有する。
【0027】
上記洗浄方法では、第一の工程で形成した洗浄保護膜は微細パターン基材表面の微細な凹凸パターンを完全に被服し、異物を一部あるいは全部被覆するよう形成される。そして第二の工程ではゴミ、異物などを十分に除去できるようなスクラブ洗浄、研磨剤による擦り洗いを行い、異物を完全に除去する。このとき微細パターン基材そのものへの洗浄ダメージは上記洗浄保護膜により遮断され、傷、微細パターン消失などは発生しない。異物が除去された部分は洗浄保護膜も同時に脱離しており、保護膜が残っている部分との間に新たな凹凸を発生させる。しかし、第三の工程により洗浄保護膜が除去されるとこの凹凸は消失し、基材が本来持つ微細パターンのみが残る。
【0028】
以上述べたように、本発明の各実施形態によれば、微細パターン基材の表面に傷などのダメージを与えることなくゴミ、異物などの付着物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態による洗浄方法を施す前のスタンパの断面図。
【図2】第1実施形態の洗浄方法を施す前のスタンパの異物観察結果を示す写真。
【図3】第1実施形態の第一の工程を説明する断面図。
【図4】第1実施形態の第二の工程を説明する断面図。
【図5】第1実施形態の第二の工程を説明する断面図。
【図6】第1実施形態の第三の工程を施した後のスタンパの断面図。
【図7】第1実施形態の洗浄方法を施す前後のスタンパ上のゴミ、異物数を示す図。
【図8】第1実施形態の洗浄方法を施した後のスタンパの異物観察結果を示す写真。
【図9】洗浄保護膜を用いずに洗浄を施した後のスタンパの異物および傷の観察結果を示す写真。
【符号の説明】
【0030】
1 スタンパ
2 異物
3 洗浄保護膜
4 押し付けパッド
5 研磨テープ
6 ベルクリンブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細パターンを有する微細パターン基材の前記微細パターンの表面を洗浄保護膜で被膜する工程と、
前記洗浄保護膜の洗浄を行う工程と、
前記洗浄保護膜を除去する工程と、
を備えたことを特徴とする微細パターン基材の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄を行う工程は、スクラブ洗浄または研磨材による研磨洗浄の少なくともいずれか一つの洗浄処理を行うことを特徴とする請求項1記載の微細パターン基材の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄保護膜として、Ta、Ti、W、Mo、Cr、Al、Si、C元素のいずれか1種以上の単体あるいは化合物、およびそれらに窒素、水素、ホウ素、フッ素の少なくともいずれか一つ以上を添加した化合物のいずれかを用いることを特徴とする請求項1または2記載の微細パターン基材の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄保護膜を被覆する工程は、スパッタ、蒸着、PVD法(物理的気相成長法)、またはCVD法(化学的気相成長法)を用いて被覆し、前記洗浄保護膜の膜厚が1nm〜20nmであることを特徴とする請求項3記載の微細パターン基材の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄保護膜を除去する工程は、酸素ガス、フッ素系ガス、またはこれらの混合ガスのいずれかの雰囲気下で、プラズマ、UV処理、アニール処理のいずれかを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の微細パターン基材の洗浄方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−80477(P2010−80477A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243806(P2008−243806)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】